(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】熱応動弁
(51)【国際特許分類】
F16T 1/10 20060101AFI20220908BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16T1/10
F16K31/68 B
(21)【出願番号】P 2022547070
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022012004
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021126746
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智行
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/225974(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16T 1/10
F16K 31/64-31/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載の熱応動弁において、
前記第1ダイヤフラムのうち前記弁体に対向する部分に貫通孔が形成され、前記膨張媒体が前記貫通孔を介して前記弁体に接触する熱応動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、熱応動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周囲の温度に応じて弁孔を開閉する熱応動弁が知られている。例えば、特許文献1には、温度に応じて膨張及び収縮する膨張媒体と、膨張媒体の膨張及び収縮によって変形させられるダイヤフラムと、ダイヤフラムに設けられた弁体とを備えた熱応動弁が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された熱応動弁は、2枚のダイヤフラム、並びに2枚のダイヤフラムの外周縁部を挟み込んで互いに固着される上壁部材及び下壁部材を備えている。2枚のダイヤフラムのうち上壁部材に対向する一方のダイヤフラムは、上壁部材との間に膨張媒体を収容する収容室を形成する。2枚のダイヤフラムのうち下壁部材に対向する他方のダイヤフラムには、弁体が設けられている。この熱応動弁においては、膨張媒体が温度に応じて膨張及び収縮することで、2枚のダイヤフラムが変形して弁体が動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された熱応動弁は、膨張媒体と弁体との間に2枚のダイヤフラムがあり、弁体を動作させるには膨張媒体の膨張収縮によって2枚のダイヤフラムを変形させる必要がある。このため、膨張媒体の膨張及び収縮に伴う弁体の動作の応答性を向上させることは困難である。この点を改善するには、膨張媒体と弁体との間に厚みの薄いダイヤフラムを1枚又は2枚設けることが考えられる。しかし、この場合は、ダイヤフラムの強度が低下するため、膨張媒体の膨張及び収縮に伴ってダイヤフラムが繰り返し変形した場合に、ダイヤフラムが劣化する虞がある。
【0006】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、弁体の動作の応答性を高めつつ、ダイヤフラムの劣化を軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示された熱応動弁は、ベースと、前記ベースとの間に収容空間を形成する第1ダイヤフラムと、前記第1ダイヤフラムにおける前記収容空間とは反対側の面に設けられた弁体と、前記収容空間に収容され、温度に応じて膨張及び収縮することで、前記第1ダイヤフラムを変形させる膨張媒体と、前記収容空間において、前記第1ダイヤフラムと対向するように配置された第2ダイヤフラムとを備え、前記第1ダイヤフラムの外周縁部と前記第2ダイヤフラムの外周縁部とは、互いに重なり合った状態で前記ベースに固定され、前記第2ダイヤフラムには、前記第2ダイヤフラムの厚み方向に貫通する連通孔が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
前記熱応動弁によれば、弁体の動作の応答性を高めつつ、ダイヤフラムの劣化を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、閉弁状態における熱応動弁の断面図である。
【
図3】
図3は、開弁状態における熱応動弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。熱応動弁100は、例えば、ドレントラップ1に含まれる。
【0011】
図1は、ドレントラップ1の断面図である。ドレントラップ1は、熱応動弁100に加えて、弁ケーシング10を含んでいる。弁ケーシング10には、ドレンが流通する流路18が形成されている。熱応動弁100は、流路18に設けられ、流路18の開通及び遮断を切り替える。熱応動弁100は、周囲の温度が比較的高温のときに閉弁する一方、周囲の温度が比較的低温のときに開弁する。これにより、ドレントラップ1は、所定の温度未満の流体(例えば、ドレン)を排出する一方、所定の温度以上の流体(例えば、蒸気)の排出を停止する。
【0012】
弁ケーシング10には、流入口12と、流出口13と、流入口12及び流出口13のそれぞれと連通する弁室14とが形成されている。弁ケーシング10は、本体10aと、蓋10bとを有している。
【0013】
本体10aには、流入口12と流出口13とが同一の軸線上に形成されている。本体10aには、開口部15が形成されている。開口部15は、例えば、流入口12及び流出口13を通過する軸線が水平になるようにドレントラップ1が設置された状態において本体10aの上面となる部分に形成される。蓋10bは、開口部15を覆うように本体10aに取り付けられている。開口部15と蓋10bとで弁室14が区画されている。
【0014】
本体10aには、流入口12と連通する第1連通路16と、第1連通路16と開口部15とを連通させる第2連通路17とが形成されている。流入口12は、第1連通路16と第2連通路17とを介して弁室14と連通している。第1連通路16には、ストレーナ16aが設けられている。流路18は、流入口12、第1連通路16、第2連通路17、弁室14及び流出口13によって形成されている。弁室14にはホルダ19が設けられている。ホルダ19には熱応動弁100が収容されている。
【0015】
図2は、閉弁状態における熱応動弁100の断面図である。
図3は、開弁状態における熱応動弁100の断面図である。
【0016】
熱応動弁100は、ベース81、第1ダイヤフラム41、弁体6、膨張媒体3及び第2ダイヤフラム42を備えている。第1ダイヤフラム41は、ベース81との間に収容空間83を形成している。弁体6は、第1ダイヤフラム41における収容空間83とは反対側の面に設けられている。膨張媒体3は、収容空間83に収容され、温度に応じて膨張及び収縮することで、第1ダイヤフラム41を変形させる。第2ダイヤフラム42は、収容空間83において、第1ダイヤフラム41と対向するように配置されている。第1ダイヤフラム41の外周縁部と第2ダイヤフラム42の外周縁部とは、互いに重なり合った状態でベース81に固定されている。
【0017】
熱応動弁100は、サポート部材82を更に備えてもよい。サポート部材82は、第1ダイヤフラム41の外周縁部及び第2ダイヤフラム42の外周縁部を、ベース81との間に挟んだ状態でベース81に固定される。
【0018】
このように第1ダイヤフラム41及び第2ダイヤフラム42がベース81及びサポート部材82の間に挟まれて固定されることにより、ベース81、第1ダイヤフラム41、第2ダイヤフラム42、膨張媒体3及びサポート部材82を有する弁ユニット5が形成される。
【0019】
弁ユニット5は、
図1に示すように、弁室14に設けられたホルダ19に収容されている。弁ユニット5(詳しくは、ベース81)は、ホルダ19に設けられた弾性部材11によって、ホルダ19に押し付けられた状態で保持される。弾性部材11は、例えば、ばね又はスナップリング等である。
【0020】
熱応動弁100は、弁座7を更に備えてもよい。弁座7は、弁室14において流出口13に連通する開口を覆うように弁ケーシング10に設けられている。弁座7の一部は、ホルダ19に収容されている。
【0021】
弁座7は、
図2に示すように、弁体6における第1ダイヤフラム41とは反対側の面に対向している。弁座7には、弁室14と流出口13とを連通させる弁孔71が形成されている。弁孔71は、弁体6によって開閉される。即ち、膨張媒体3の膨張時には、第1ダイヤフラム41の変形によって弁体6が弁座7に近づく方向に変位して弁座7に接触し、弁体6が弁孔71を閉じる。一方、膨張媒体3の収縮時には、第1ダイヤフラム41の変形によって弁体6が弁座7から離れる方向に変位し、弁孔71が開く。
【0022】
第1ダイヤフラム41は、略円盤状に形成されている。第1ダイヤフラム41は、例えば、平板ではなく、波形に形成されている。具体的には、第1ダイヤフラム41は、第1ダイヤフラム41の中央部を囲む同心円状に位置する複数の環状領域が第1ダイヤフラム41の厚み方向に突出するように湾曲している。このため、第1ダイヤフラム41の中央部は、第1ダイヤフラム41の中心軸の方向に変位しやすい。
【0023】
第1ダイヤフラム41には、弁体6が固定されている。この例では、第1ダイヤフラム41には、弁体6に加えて、スペーサ9が固定されている。弁体6及びスペーサ9の各々は、第1ダイヤフラム41の中央部に位置している。弁体6及びスペーサ9は、例えば、第1ダイヤフラム41を挟み込んだ状態で溶接されることで、第1ダイヤフラム41に対して固定される。
【0024】
弁体6は、第1ダイヤフラム41における弁座7側(即ち収容空間83とは反対側)の面に設けられている。弁体6は収容空間83の外に位置している。スペーサ9は、第1ダイヤフラム41における弁体6とは反対側の面に設けられている。スペーサ9は収容空間83に位置している。スペーサ9は、環状(詳しくは、円環状)に形成されている。スペーサ9の外径は、弁体6の外径よりも小さい。スペーサ9の中央部には、スペーサ9の厚み方向に貫通した孔90が形成されている。
【0025】
第2ダイヤフラム42は、収容空間83に位置し、第1ダイヤフラム41と対向している。第2ダイヤフラム42は、略円盤状に形成されている。第1ダイヤフラム41の外径と第2ダイヤフラム42の外径とは、略同じである。第2ダイヤフラム42は、平板ではなく、波形に形成されている。具体的に第2ダイヤフラム42は、第1ダイヤフラム41に沿った波形に形成されている。即ち、第2ダイヤフラムの中央部を囲む複数の環状領域は、第2ダイヤフラム42の厚み方向に突出するように湾曲している。このため、第2ダイヤフラム42は、第1ダイヤフラム41と同じ態様で変形しやすい。
【0026】
ベース81及びサポート部材82の各々は、板状に形成されている。具体的には、ベース81及びサポート部材82の各々は、略円盤状に形成されている。ベース81及びサポート部材82の各々の外径は、第1ダイヤフラム41及び第2ダイヤフラム42の各々の外径と略同じである。
【0027】
ベース81の外周縁部及びサポート部材82の外周縁部は、第1ダイヤフラム41の外周縁部と第2ダイヤフラム42の外周縁部とを挟んだ状態で、溶接によって固着されている。この場合、第1ダイヤフラム41及び第2ダイヤフラム42の各々の外周縁部は、ベース81及びサポート部材82に溶接された溶接部分に加えて、溶接部分の内側に位置して第1ダイヤフラム41及び第2ダイヤフラム42で挟まれた非溶接部分を有してもよい。非溶接部分では、ベース81、第2ダイヤフラム42、第1ダイヤフラム41及びサポート部材82が、この順序で隙間なく重なっている。
【0028】
ベース81の中央部は、サポート部材82とは反対側(即ち、弁座7とは反対側)に向かって膨出している。サポート部材82の中央部は、ベース81とは反対側(即ち、弁座7側)に向かって膨出している。このため、ベース81とサポート部材82との間隔は、ベース81の中央部に対向する部分がその周囲部分よりも大きい。
【0029】
サポート部材82の中央部には、開口部87が形成されている。弁体6は、開口部87から弁座7に向かって突出し得る。サポート部材82には、開口部87を囲むように複数の開口部88が形成されている。熱応動弁100周囲の流体の一部は、開口部87,88を通って、サポート部材82と第1ダイヤフラム41との間に流入する。
【0030】
サポート部材82の内面(ベース81側の面)は、平面ではなく、波形に形成されている。具体的には、サポート部材82の内面は、第1ダイヤフラム41に沿う波形に形成されている。即ち、サポート部材82の内面は、サポート部材82の中央部を囲む同心円状に位置する複数の環状領域が第1ダイヤフラム41に向かって突出するように湾曲している。
【0031】
膨張媒体3は、例えば、水より沸点が低い液体である。尚、膨張媒体3は、水であってもよく、水より沸点が低い液体と水との混合物であってもよい。膨張媒体3は、例えば、ベース81に形成された注入口85から収容空間83に注入される。注入口85は、栓86によって封止される。栓86は、例えば、溶接によって注入口85に固着される。注入口85が栓86によって封止されることで、収容空間83は密閉空間になる。
【0032】
膨張媒体3が膨張すると、第1ダイヤフラム41は、
図2に示すように、第1ダイヤフラム41の中央部がベース81から離れるように変形する。このように第1ダイヤフラム41がベース81から離れる方向に変形することで、弁体6は、第1ダイヤフラム41の中央部と共に弁座7に向かって変位し、弁孔71を閉じる。
【0033】
膨張媒体3が膨張したとき、第1ダイヤフラム41はサポート部材82の内面に接触して、サポート部材82に支持される。この場合、前述したようにサポート部材82の内面は第1ダイヤフラム41に沿った波形に形成されているため、第1ダイヤフラム41はサポート部材82の内面に沿って接触しやすい。このため、第1ダイヤフラム41は、サポート部材82との接触時において折れ曲がり難い。
【0034】
膨張媒体3が収縮すると、第1ダイヤフラム41は、
図3に示すように、第1ダイヤフラム41の中央部がベース81に近づくように変形する。このように第1ダイヤフラム41がベース81に向かって変形することで、弁体6は、第1ダイヤフラム41の中央部と共に弁座7から離れる方向に変位し、弁孔71を開く。
【0035】
収容空間83には、第1ダイヤフラム41がベース81の方へ大きく移動することを制限するストッパ84が設けられている。ストッパ84は、ベース81に取り付けられており、スペーサ9に対向している。
【0036】
図3に示すように、膨張媒体3の収縮に伴って第1ダイヤフラム41がベース81に向かって変形したとき、スペーサ9がストッパ84に接触する。これにより、第1ダイヤフラム41がベース81に向かって大きく変形することが制限される。
【0037】
図2に示すように、第2ダイヤフラム42には、連通孔44が形成されている。連通孔44は第2ダイヤフラム42に一つだけ形成されている。連通孔44は第2ダイヤフラム42の中央部に形成されている。即ち、連通孔44は、第2ダイヤフラム42のうち第1ダイヤフラム41における弁体6が設けられた部分に対向する部分に形成されている。この例では、第1ダイヤフラム41における弁体6が設けられた部分にスペーサ9が設けられており、スペーサ9は連通孔44に配置されている。連通孔44の直径は、スペーサ9の外径よりも大きい。スペーサ9の外周面と第2ダイヤフラム42の内周縁との間には隙間53が形成される。連通孔44は、第1ダイヤフラム41と第2ダイヤフラム42との間に形成された第1空間51と、第2ダイヤフラム42とベース81との間に形成された第2空間52とを連通させる。具体的には、第1空間51と第2空間52とは、隙間53を介して連通する。隙間53は、第2ダイヤフラム42とスペーサ9との接触を回避する役割も果たしている。尚、隙間53が設けられることによって、組立時にスペーサ9(即ち、第1ダイヤフラム41)と第2ダイヤフラム42との心出しを行いやすくなる。
【0038】
第2ダイヤフラム42は、熱応動弁100の開弁時及び閉弁時のいずれの状態においても、第2空間52が第1空間51よりも大きくなるように設けられている。また、第2ダイヤフラム42のうち中央部を除く他の部分は、熱応動弁100の開弁時及び閉弁時のいずれの状態においても、第1ダイヤフラム41と重なる。一方、第2ダイヤフラム42の中央部は、第1ダイヤフラム41から離れて、第1ダイヤフラム41との間に第1空間51を形成する。
【0039】
第1ダイヤフラム41には、
図2に示すように、第1ダイヤフラム41を厚み方向に貫通する貫通孔43が形成されている。貫通孔43は、第1ダイヤフラム41のうち弁体6に対向する部分(即ち、中央部)に形成されている。貫通孔43は、スペーサ9の孔90に連通している。貫通孔43は、弁体6を収容空間83に露出させる。弁体6のうち貫通孔43に対向する部分である中央部には、貫通孔43に連通する孔60が形成されている。孔60は、有底の孔であり、弁体6を貫通していない。収容空間83に存在する膨張媒体3は、スペーサ9の孔90及び第1ダイヤフラム41の貫通孔43に進入する。これにより、膨張媒体3は弁体6に接触して弁体6に直接作用する。
【0040】
続いて、熱応動弁100の動作をドレントラップ1の動作と併せて説明する。
図1に示すように熱応動弁100が開弁状態にあるとき、ドレン又は蒸気等の流体は流入口12からドレントラップ1に流入する。流入口12から流入した流体は、第1連通路16に流入し、ストレーナ16aを通過することによってゴミ等が除去される。ストレーナ16aを通過した流体は、第2連通路17を介して弁室14に流入する。
【0041】
弁室14に流入した流体は、熱応動弁100の周囲を流通する。このとき、流体は、サポート部材82の開口部87,88を介して、第1ダイヤフラム41とサポート部材82との間の空間に流入し得る。膨張媒体3は、熱応動弁100の周囲を流通する流体によって加熱又は冷却される。
【0042】
弁室14内の流体が低温の場合、
図3に示すように、膨張媒体3の体積(即ち、膨張の度合い)は小さくなり、第1ダイヤフラム41はベース81に向かって変形する。この場合、第2ダイヤフラム42は、外周縁部等が第1ダイヤフラム41と重なっているので、第1ダイヤフラム41と共に変形する。また、第1ダイヤフラム41の変形は、スペーサ9がストッパ84に接触することによって制限される。第1ダイヤフラム41がベース81に向かって変形すると、弁体6は、弁座7から離座し、弁孔71が開放される。このため、弁室14に流入した流体は、弁孔71を介して流出口13から排出される。ドレントラップ1に流入する流体がドレン又は空気等の比較的低温の流体の場合には、弁体6が開弁した状態が維持され、流出口13からの流体の排出が継続される。
【0043】
一方、ドレントラップ1に流入する流体が蒸気等の比較的高温の流体である場合、
図2に示すように膨張媒体3が膨張する。膨張媒体3の膨張によって、第1ダイヤフラム41がベース81とは反対側(弁座7側)に向かって変形する。この場合も、第2ダイヤフラム42は、第1ダイヤフラム41と共に変形する。第1ダイヤフラム41がベース81とは反対側に向かって変形すると、弁体6が弁座7の方へ変位し、弁体6が弁座7に着座することによって弁孔71が閉鎖される。こうして、流出口13からの蒸気の排出が阻止される。
【0044】
膨張媒体3の温度が放熱等によって低下すると、膨張媒体3は収縮する。この場合、第1ダイヤフラム41はベース81に向かって変形する。これにより、弁体6が弁座7から離座し、弁孔71が開放される。このように膨張媒体3の温度が低下するときには、弁室14内の蒸気は凝縮してドレンとなっている。つまり、流出口13から流体が排出されるようになるが、その流体は、蒸気ではなく、ドレンである。
【0045】
ところで、膨張媒体3の膨張及び収縮に伴って第1ダイヤフラム41が繰り返し変形すると、第1ダイヤフラム41のうちベース81に固定された外周縁部及びその近傍部分が変形しやすく、これら部分に応力が集中して第1ダイヤフラム41が劣化する虞がある。しかし、この例の熱応動弁100では、第2ダイヤフラム42の外周縁部が第1ダイヤフラム41の外周縁部と共にベース81に固着されており、第1ダイヤフラム41の外周縁部及びこの近傍部分と重なっている。このように第1ダイヤフラム41と第2ダイヤフラム42とが重なった部分は、実質的に厚みが大きく強度が高い部分となる。このため、第1ダイヤフラム41の外周縁部及びその近傍部分の劣化を軽減できる。また、膨張媒体3は、第2ダイヤフラム42の連通孔44を通って第1ダイヤフラム41と第2ダイヤフラム42との間の第1空間51に入り込む。このため、第1ダイヤフラム41には、第1空間51に入り込んだ膨張媒体3が直接作用する。つまり、膨張媒体3は、実質的に一枚の第1ダイヤフラム41だけを変形させる。従って、膨張媒体3の膨張及び収縮に伴って第1ダイヤフラム41を応答性良く変形させることができ、弁体6の動作の応答性を良くすることができる。つまり、第1ダイヤフラム41と第2ダイヤフラム42とが重なり、且つ、第2ダイヤフラム42に連通孔44が形成されることにより、第1ダイヤフラム41の劣化が軽減され、且つ、弁体6の動作の応答性が高まる。
【0046】
また、収容空間83を区画し且つ弁体6が設けられているのは、第2ダイヤフラム42ではなく第1ダイヤフラム41である。このため、仮に第2ダイヤフラム42に劣化が生じたとしても、第1ダイヤフラム41によって収容空間83の密閉状態が維持されると共に弁体6を動作させることができる。
【0047】
また、連通孔44は、第2ダイヤフラム42のうち第1ダイヤフラム41における弁体6が設けられた部分に対向する部分に形成されている。このため、膨張媒体3は、第2ダイヤフラム42の連通孔44を通って、第1ダイヤフラム41における弁体6が設けられた部分に直接作用する。したがって、弁体6の動作の応答性が一層高まる。
【0048】
また、第1ダイヤフラム41において、弁体6に対向する部分には貫通孔43が形成されており、膨張媒体3は貫通孔43を介して弁体6に接触する。このため、熱応動弁100の周囲の流体の温度が膨張媒体3の温度よりも高い場合には、流体から弁体6に伝わった熱の一部が、第1ダイヤフラム41を介さずに膨張媒体3に直接伝わる。逆に、膨張媒体3の温度が熱応動弁100の周囲の流体の温度よりも高い場合には、膨張媒体3の熱の一部は、第1ダイヤフラム41を介さずに弁体6に直接伝わった後に流体に伝わる。つまり、熱応動弁100の周囲の流体と膨張媒体3との間では、熱が第1ダイヤフラム41を介さずに弁体6だけを介して移動し得る。
【0049】
以上のように、熱応動弁100は、ベース81と、ベース81との間に収容空間83を形成する第1ダイヤフラム41と、第1ダイヤフラム41における収容空間83とは反対側の面に設けられた弁体6と、収容空間83に収容され、温度に応じて膨張及び収縮することで、第1ダイヤフラム41を変形させる膨張媒体3と、収容空間83において、第1ダイヤフラム41と対向するように配置された第2ダイヤフラム42とを備え、第1ダイヤフラム41の外周縁部と第2ダイヤフラム42の外周縁部とは、互いに重なり合った状態でベース81に固定され、第2ダイヤフラム42には、第2ダイヤフラム42の厚み方向に貫通する連通孔44が形成される。
【0050】
この構成によれば、第1ダイヤフラム41及び第2ダイヤフラム42が、第1ダイヤフラム41の外周縁部及びこの近傍部分において重なって実質的に厚くなるため、この重なった部分の強度が高まる。このため、膨張媒体3の膨張及び収縮に伴って繰り返し変形する第1ダイヤフラム41の劣化、特に第1ダイヤフラム41のうち大きく変形しやすい外周縁部及びその近傍部分の劣化を軽減できる。また、膨張媒体3は、第2ダイヤフラム42の連通孔44を通って第1ダイヤフラム41と第2ダイヤフラム42との間に入り込む。このため、膨張媒体3は、第1ダイヤフラム41のうち連通孔44の近傍に位置する部分に直接作用する。したがって、第1ダイヤフラム41は膨張媒体3の膨張及び収縮に伴って応答性良く変形し、弁体6の動作の応答性が良くなる。
【0051】
また、連通孔44は、第2ダイヤフラム42のうち第1ダイヤフラム41における弁体6が設けられた部分に対向する部分に形成されている。
【0052】
この構成によれば、連通孔44から第1ダイヤフラム41と第2ダイヤフラム42との間に入り込んだ膨張媒体3が、第1ダイヤフラム41のうち弁体6が設けられた部分に直接作用する。このため、第1ダイヤフラム41は弁体6が大きく変位するように変形しやすくなり、弁体6の動作の応答性が一層高まる。
【0053】
また、熱応動弁100は、第1ダイヤフラム41の外周縁部及び第2ダイヤフラム42の外周縁部を、ベース81との間に挟んだ状態でベース81に固定されるサポート部材82を更に備える。
【0054】
この構成によれば、第1ダイヤフラム41の外周縁部と第2ダイヤフラム42の外周縁部とを、ベース81及びサポート部材82に強固に固定できる。
【0055】
また、第1ダイヤフラム41のうち弁体6に対向する部分に貫通孔43が形成され、膨張媒体3が貫通孔43を介して弁体6に接触する。
【0056】
この構成によれば、熱応動弁100近傍の流体と膨張媒体3との弁体6を介した熱の移動が、第2ダイヤフラム42を介さずに行われ得る。
【0057】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0058】
例えば、熱応動弁100は、ドレントラップ1に組み込まれているが、これに限定されない。例えば、熱応動弁100は、単にケーシング内に配置され、低温流体を通過させ、高温流体の通過を阻止する弁装置として用いられてもよい。
【0059】
第1ダイヤフラム41の形状、大きさ及び材質等は限定されない。例えば、第1ダイヤフラム41には貫通孔43が形成されなくてもよい。また、第1ダイヤフラム41は、1枚のダイヤフラムではなく、複数のダイヤフラムで構成されていてもよい。
【0060】
第2ダイヤフラム42の形状、大きさ及び材質等は限定されない。第2ダイヤフラム42に形成される連通孔44の形状、大きさ、数及び形成位置等は限定されない。例えば、連通孔44は、第2ダイヤフラム42のうち中央部以外の部分に形成されてもよいし、第2ダイヤフラム42に複数形成されてもよい。また、第2ダイヤフラム42は、1枚のダイヤフラムではなく、複数のダイヤフラムで構成されていてもよい。
【0061】
その他、熱応動弁100が備える、ベース81、サポート部材82、弁体6、スペーサ9及び弁座7等の形状、大きさ及び数等も限定されない。例えば、弁体6には孔60が形成されなくてもよい。また、スペーサ9には孔90が形成されなくてもよい。また、サポート部材82、スペーサ9及びストッパ84の各々は、省略可能である。
【符号の説明】
【0062】
100 熱応動弁
3 膨張媒体
41 第1ダイヤフラム
42 第2ダイヤフラム
43 貫通孔
44 連通孔
6 弁体
81 ベース
82 サポート部材
83 収容空間
【要約】
本発明は、弁体の動作の応答性を高めつつ、ダイヤフラムの劣化を軽減する。
熱応動弁(100)は、ベース(81)、第1ダイヤフラム(41)、弁体(6)、膨張媒体(3)及び第2ダイヤフラム(42)を備える。第1ダイヤフラム(41)は、ベース(81)との間に収容空間(83)を形成する。弁体(6)は、第1ダイヤフラム(41)における収容空間(83)とは反対側の面に設けられる。膨張媒体(3)は、収容空間(83)に収容され、温度に応じて膨張及び収縮することで、第1ダイヤフラム(41)を変形させる。第2ダイヤフラム(42)は、収容空間(83)において、第1ダイヤフラム(41)に対向するように配置される。第1ダイヤフラム(41)の外周縁部と第2ダイヤフラム(42)の外周縁部とは、互いに重なり合った状態でベース(81)に固定される。第2ダイヤフラム(42)に、第2ダイヤフラム(42)の厚み方向に貫通する連通孔(44)が形成される。