IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NECマグナスコミュニケーションズ株式会社の特許一覧

特許7138272PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム
<>
  • 特許-PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム 図1
  • 特許-PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム 図2
  • 特許-PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム 図3
  • 特許-PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム 図4
  • 特許-PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム 図5
  • 特許-PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】PLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/56 20060101AFI20220909BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
H04B3/56
H04Q9/00 311S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018124376
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020005164
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390010386
【氏名又は名称】NECマグナスコミュニケーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】張野 健二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博之
(72)【発明者】
【氏名】長濱 将一郎
(72)【発明者】
【氏名】毛尾 拓也
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-056633(JP,A)
【文献】特開2008-236291(JP,A)
【文献】特開2007-081915(JP,A)
【文献】特開2008-124552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/76-3/44
H04B 3/50-3/60
H04B 7/00-7/015
H03J 9/00-9/06
H04Q 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分電盤から延びる第1の電力線上に設けられた第1のコンセントに設置した第1のPLCモデムと前記分電盤から延びる第2の電力線上に設けられた第2のコンセントに設置した第2のPLCモデムとの間の電力線通信に用いるPLCアダプタであって、
前記第1の PLCモデムの電源プラグに接続可能な第1電源端子と、
前記第1の コンセントに接続可能な第2電源端子と、
前記第1電源端子と前記第2電源端子とを電気的に接続する一対の電源ライン上に設けられ、前記第1のPLCモデムから送出されたPLC信号を電源電力から分離すると共に、前記PLC信号の前記第1の電力線上への送出を阻止する信号分離回路と、
前記信号分離回路によって分離された前記PLC信号を出力する信号端子と、
前記信号端子に接続された通信線と、
前記通信線を前記第2の電力線と磁気結合するためのカプラ部 とを備えることを特徴とするPLCアダプタ。
【請求項2】
前記信号分離回路は、
前記第1電源端子及び前記信号端子の一方から他方に向かう前記PLC信号の流れ及び前記第2電源端子から前記第1電源端子に向かう電源電力の流れを許容し、
前記第1電源端子又は前記信号端子から前記第2電源端子に向かうPLC信号の流れ及び前記第2電源端子から前記信号端子に向かう電源電力の流れを阻止する、請求項1に記載のPLCアダプタ。
【請求項3】
前記信号分離回路は、
前記一対の電源ライン上にそれぞれ設けられた第1及び第2のコイルと、
前記第1及び第2のコイルよりも前記第1電源端子側の前記一対の電源ラインの途中からそれぞれ引き出された一対の信号ラインと、
前記一対の信号ライン上にそれぞれ設けられた第1及び第2のコンデンサと、
前記第1及び第2のコイルよりも前記第2電源端子側の前記一対の電源ライン間を接続する第3のコンデンサとを含み、
前記第1及び第2のコイルは、商用周波数に対するインピーダンスが相対的に低く、前記PLC信号の周波数帯に対するインピーダンスが相対的に高く、
前記第1乃至第3のコンデンサは、商用周波数に対するインピーダンスが相対的に高く、前記PLC信号の周波数帯に対するインピーダンスが相対的に低い、請求項1又は2に記載のPLCアダプタ。
【請求項4】
前記一対の電源ライン上の少なくとも一方に設けられたヒューズをさらに備える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のPLCアダプタ。
【請求項5】
前記信号分離回路と前記信号端子との間に設けられた絶縁トランスをさらに備える、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のPLCアダプタ。
【請求項6】
分電盤と、
前記分電盤からそれぞれ延びる第1及び第2の電力線と、
前記第1の電力線上に設けられた第1のコンセントから電力供給を受けると共に、前記第1の電力線に向けてPLC信号を送出する第1のPLCモデムと、
前記第2の電力線上に設けられた第2のコンセントから電力供給を受けると共に、前記第2の電力線に向けてPLC信号を送出する第2のPLCモデムと、
前記第1のPLCモデムと前記第1のコンセントとの間に設けられた請求項1乃至5のいずれか一項に記載のPLCアダプタとを備えることを特徴とする電力線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLC(Power Line Communication:電力線通信)モデムに取り付けられるPLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
PLCモデムが広く普及している。PLCモデムは電源供給を目的とした電力線を通信媒体として用いるため、通信線を別途設けることなく宅内ネットワークを容易に構築することが可能である。
【0003】
電力線通信技術に関し、例えば特許文献1には、電力会社のブレーカー及び需要家の電力量計による高周波信号の信号損失を低減し、且つ設置工事の安全性の確保及び作業効率の向上を図るため、ブレーカーの手前から電力線に信号線を磁気結合する一方のインジェクション部と、ブレーカーを複数配置する分電盤と、需要家の電力量を積算する電力量計と、電力量計を通過した電力線に磁気結合する他方のインジェクション部と、一方のインジェクション部と他方のインジェクション部とを接続し、サージ電圧を除去する分配部とを備えた電力線通信システムが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、分電盤により分電された各電力線にそれぞれ磁気結合する複数のインジェクション部と、ループ状に形成した信号線を介して複数のインジェクション部に高周波信号を分配する分配器と、高周波信号を送信するモデムとを備え、各電力線に高調波信号を重畳する場合に同位相の電力線のいずれか一方に配線する信号線の配線方法を変えることにより通信効率を高めた電力線通信システムが記載されている。
【0005】
特許文献3には、ACプラグをコンセントに差し込み、DCコネクタをノートパソコンなどの端末装置に接続することにより、端末装置に直流電力を供給し、さらにコンセントと端末装置との間で電力線通信信号の送受信を可能にした電源アダプタが記載されている。
【0006】
特許文献4には、電力線に流れる電力を照明機器等の電気機器に供給するためのコンセントプラグにおいて、電気機器からのノイズがPLC信号に悪影響を与えることを防止するため、電気機器から電力線に伝達されるノイズを遮断するLCフィルタを電力線と照明機器との間に配設することが記載されている。また特許文献4には、端末装置に情報信号を供給する供給するコネクタ部と、各種信号処理を行うインターフェース部とを備え、電力線を流れるPLC信号を電力信号と情報信号に分離して端末装置に供給するアダプタプラグが記載されている。
【0007】
特許文献5には、電力線通信装置と接続されるべきルータ側を設計変更することなく電力線通信機能をアドオンするため、ルータ(ルータ基板)に設けられたPCIバスコネクタに占有容積が小さいPLC基板のみを装着し、電力線通信用カップリングトランスを搭載した外部ユニットをPLC基板から分離してルータのケースの外部に設け、PLC基板がケーブル及び外部ユニットを介してAC100Vの屋内配線に接続されるように構成されたアドオン型電力線通信装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-282397号公報
【文献】特開2006-295248号公報
【文献】特開2008-219073号公報
【文献】特開2009-100039号公報
【文献】特開2008-187636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
広く普及しているPLCモデムは、PLC信号が必ず電源電力に重畳されて出力され、PLC信号を電源電力から分離する機能を持たない一体型機器である。電力線通信は電源供給を目的とした電力線を通信媒体として用いるため、電力線があれば手軽にネットワークを構築できるが、PLC信号の注入・抽出はコンセントからに限定されている。
【0010】
他方、PLC信号の減衰の原因となる電力線の分岐位置やノイズ発生個所を避けるため、コンセントのない電力線の途中にPLC信号を注入・抽出したいというニーズもある。
【0011】
しかし、PLCモデムを使用して分電盤付近の電力線上にPLC信号を注入する場合、PLC信号と電源電力との分離機能を持つ専用のPLCモデム(以下、分離型機器又は分離タイプという)を別途準備する必要があった。またそのような特別なPLCモデムの設置作業には停電を伴うため、作業者の危険やユーザに対する影響が大きい。
【0012】
したがって、本発明の目的は、専用の装置を用いることなく広く普及している市販PLCモデム(一体型機器)を利用して、コンセントのない電力線の途中へのPLC信号の注入・抽出をより簡単・安全に実現することが可能なPLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明によるPLCアダプタは、PLCモデムの電源プラグに接続可能な第1電源端子と、コンセントに接続可能な第2電源端子と、前記第1電源端子と前記第2電源端子とを電気的に接続する一対の電源ライン上に設けられ、前記PLCモデムから送出されたPLC信号を電源電力から分離する信号分離回路と、前記信号分離回路によって分離された前記PLC信号を出力する信号端子とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、市販PLCモデムのように電源プラグに電力線通信のための高周波信号(以下、PLC信号)を重畳させた機器(以下、一体型機器)からPLC信号のみを取り出し、クランプ式カプラ(以下、カプラ)を通して再注入もしくはカプラで抽出したPLC信号を一体型機器へ伝達することができる。本発明によるPLCアダプタを用いた場合、PLC信号の注入・抽出箇所がコンセントの設置箇所に縛られないため、電力線通信に求められる、PLC信号を必要な箇所へ効率的に注入できるシステムの構築が容易となり、電力線通信の安定化を実現することができる。
【0015】
本発明において、前記信号分離回路は、前記第1電源端子及び前記信号端子の一方から他方に向かう前記PLC信号の流れ及び前記第2電源端子から前記第1電源端子に向かう電源電力の流れを許容し、前記第1電源端子又は前記信号端子から前記第2電源端子に向かうPLC信号の流れ及び前記第2電源端子から前記信号端子に向かう電源電力の流れを阻止することが好ましい。
【0016】
本発明において、前記信号分離回路は、前記一対の電源ライン上にそれぞれ設けられた第1及び第2のコイルと、前記第1及び第2のコイルよりも前記第1電源端子側の前記一対の電源ラインの途中からそれぞれ引き出された一対の信号ラインと、前記一対の信号ライン上にそれぞれ設けられた第1及び第2のコンデンサと、前記第1及び第2のコイルよりも前記第2電源端子側の前記一対の電源ライン間を接続する第3のコンデンサとを含み、前記第1及び第2のコイルは、商用周波数に対するインピーダンスが相対的に低く、前記PLC信号の周波数帯に対するインピーダンスが相対的に高く、前記第1乃至第3のコンデンサは、商用周波数に対するインピーダンスが相対的に高く、前記PLC信号の周波数帯に対するインピーダンスが相対的に低いことが好ましい。
【0017】
本発明によるPLCアダプタは、前記一対の電源ライン上の少なくとも一方に設けられたヒューズをさらに備えることが好ましく、前記ヒューズは前記第2電源端子と前記第3のコンデンサとの間に設けられることが好ましい。これにより、PLCモデムとPLCアダプタとを短絡電流から保護することができる。
【0018】
本発明によるPLCアダプタは、前記信号分離回路と前記信号端子との間に設けられた絶縁トランスをさらに備えることが好ましい。これにより、通信線に対するPLCアダプタの絶縁性を確保して通信システムの安全性を高めることができる。
【0019】
本発明によるPLCアダプタは、前記信号端子に接続された通信線と、前記通信線を電力線と磁気結合するためのカプラ部とをさらに備えることが好ましい。これにより、PLCモデムが電力供給を受ける電力線とは異なる遠方の電力線上にPLC信号を送出することができ、設置作業の安全性及び通信の信頼性を確保することができる。
【0020】
また、本発明による電力線通信システムは、分電盤と、前記分電盤からそれぞれ延びる第1及び第2の電力線と、前記第1の電力線上に設けられた第1のコンセントから電力供給を受けると共に、前記第1の電力線に向けてPLC信号を送出する第1のPLCモデムと、前記第2の電力線上に設けられた第2のコンセントから電力供給を受けると共に、前記第2の電力線に向けてPLC信号を送出する第2のPLCモデムと、前記第1のPLCモデムと前記第1のコンセントとの間に設けられ、前記PLC信号を電源電力から分離すると共に、前記PLC信号の前記第1の電力線上への送出を阻止する上述した本発明によるPLCアダプタと、前記PLCアダプタの前記信号端子に接続された通信線と、前記通信線を第2の電力線と磁気結合するためのカプラ部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分離型機器として構成された専用のPLCモデムを準備することなく、一体型機器としてのPLCモデムを用いて同一の機能を容易に実現することが可能なPLCアダプタ及びこれを用いた電力線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態による電力線通信システムの概略図である。
図2図2は、本実施形態によるPLCアダプタの構成を概略的に示す回路図である。
図3図3は、カプラ部の構造の一例を示す略斜視図である。
図4図4は、本実施形態によるPLCアダプタの動作を説明するための図である。
図5図5(a)及び(b)は、本実施形態による電力線通信システムの動作を説明するための図である。
図6図6は、本発明の第2の実施の形態による電力線通信システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施の形態による電力線通信システムの概略図である。
【0025】
図1に示すように、電力線通信システム1Aは、PLCモデム2AとPLCモデム2Bとの間で電力線4を伝送媒体としたデータ通信を行うシステムである。分電盤3から延びる複数の電力線4(宅内配線)は宅内ネットワークを構成しており、PLCモデム2Aは電力線4Aのコンセント5Aに接続されており、PLCモデム2Bは別の電力線4Bのコンセント5Bに接続されている。分電盤3は単相三線式の低圧配電線の終端において電力を複数の宅内配線に分配する装置である。PLCモデム2Aには例えば光回線終端装置などの通信機器が接続され、PLCモデム2Bには例えばパソコンが接続され、パソコンは電力線ネットワークを介して光回線に接続することができる。
【0026】
PLCモデム2A、2Bは、PLC信号が必ず電源電力に重畳されて出力されるいわゆる一体型機器であり、PLC信号は電源プラグ7から出力される。PLCモデム2Aの電源プラグ7は、PLCアダプタ10を介してコンセント5Aに接続されている。そのため、PLCモデム2Aは、電力線4AからPLCアダプタ10を介して電力供給を受けると共に、PLCアダプタ10を介して電力線4B上にPLC信号を送出するように構成されている。一方、PLCモデム2Bの電源プラグはコンセント5Bに直接接続されている。そのため、PLCモデム2Bは電力線4Bから電力供給を受けると共に、電力線4B上にPLC信号を送出するように構成されている。
【0027】
PLCアダプタ10は、PLCモデム2Aの電源プラグから電源電力に重畳して出力されるPLC信号を取り出す装置である。PLCアダプタ10の通信線12は、カプラ部13を介して電力線4Bに接続されている。
【0028】
PLCアダプタ10を介してPLCモデム2Aが接続されるコンセント5Aは、分電盤3に最も近いコンセントであることが好ましい。また通信線12を極力短くするため、電力線4B上のカプラ部13の取り付け位置は、分電盤3のできるだけ近くであることが好ましい。この場合、カプラ部13はPLCモデム2Bが接続されるコンセント5Bよりも分電盤3の近くに設置されることになる。
【0029】
図2は、本実施形態によるPLCアダプタ10の構成を概略的に示す回路図である。
【0030】
図2に示すように、PLCアダプタ10は、PLCモデム2Aとコンセント5Aとの間に設けられる追加装置であって、PLCアダプタ本体11と、PLCアダプタ本体11に接続された通信線12と、通信線12に取り付けられたカプラ部13とを備えている。
【0031】
PLCアダプタ本体11は、PLCモデム2Aの電源プラグ7が接続される第1電源端子14と、コンセント5Aに接続される第2電源端子15と、第1電源端子14と第2電源端子15とを接続する一対の電源ライン18a,18b上に設けられた信号分離回路16と、信号分離回路16によって電源電力から分離されたPLC信号が出力される信号端子17とを備えている。信号分離回路16は筐体11a内に収容されており、第1電源端子14、第2電源端子15、信号端子17は筐体11aの表面に設けられている。第1電源端子14は、略直方体の筐体11aの一方の主面に設けられ、第2電源端子15は、筐体11aの反対側の主面に設けられることが好ましい。第1電源端子14は電源プラグ7に直接接続可能な端子形状を有し、第2電源端子15はコンセント5Aに直接接続可能な端子形状を有する。
【0032】
信号分離回路16は、PLCモデム2Aから送出されたPLC信号を電源電力から分離すると共に、通信線12から流れてきたPLC信号を電源電力に重畳する役割を果たす。また、コンセント5A側から流入するPLC信号と同一周波数帯のノイズを低減すると共に、コンセント5A側のインピーダンス変動によるPLCモデム2Aへの影響を低減する役割も果たす。すなわち、信号分離回路16は、第1電源端子14及び信号端子17の一方から他方に向かうPLC信号の流れ及び第2電源端子15から第1電源端子14に向かう電源電力の流れを許容しつつ、第1電源端子14又は信号端子17から第2電源端子15に向かうPLC信号の流れ及び第2電源端子15から信号端子17に向かう電源電力の流れを阻止する。
【0033】
通信線12は例えばツイストペアケーブルであって、信号分離回路16とカプラ部13との間のPLC信号の受け渡しを行う。カプラ部13は、PLCアダプタ本体11から流れてきたPLC信号を電力線4Bに注入すると共に、相手方のPLCモデム2BからのPLC信号を電力線4Bから抽出する役割を果たす。カプラ部13によるPLC信号の注入及び抽出は、電力線4Bの導体に対して非接触で実施される。
【0034】
図3は、カプラ部13の構造の一例を示す略斜視図である。
【0035】
図3に示すように、カプラ部13は、一対の電力線4Bを構成する一方の電力線4Bに取り付けられた第1の磁性コア30Aと、他方の電力線4Bに取り付けられた第2の磁性コア30Bとを有している。第1及び第2の磁性コア30A、30Bの各々は、二分割型のトロイダルコアで構成されたいわゆるクランプ式カプラあり、円筒形状(円環形状)の中心軸(Y軸)を含む平面で半割りしてなる第1コア部31と第2コア部32とで構成され、円筒軸方向に電力線(ケーブル)を挿通可能な貫通孔を有している。第1及び第2の磁性コア30A,30Bの材料は特に限定されないが、フェライト等の磁性体からなることが好ましい。第1コア部31と第2コア部32は例えば不図示の樹脂ケース等に収容されて円筒形状に固定される。そして第1の磁性コア30Aの貫通孔には一方の電力線4Bが挿通されており、第2の磁性コア30Bの貫通孔には他方の電力線4Bが挿通されている。さらに第1及び第2の磁性コア30A,30Bには通信線12の終端から延びる一本のループ信号線33が巻回又は挿通される。こうして、通信線12は第1及び第2の磁性コア30A,30Bを介して電力線4Bに磁気結合される。
【0036】
次に、図2と共に図4を参照しながら本実施形態によるPLCアダプタ10の動作について説明する。
【0037】
PLCモデム2Aの電源プラグ7にはAC100Vの商用電力(50Hz/60Hz)の他にPLC信号が重畳されている。PLCモデム2Aの電源プラグ7はコンセント5Aに接続可能なオス型ACプラグであり、一対の端子を有している。PLCアダプタ本体11の第1電源端子14はコンセント5Aと同じ形状を有するメス型端子であり、PLCモデム2Aの電源プラグ7が挿入され、その先は信号分離回路16に接続されている。第2電源端子15はPLCモデム2Aの電源プラグ7と同じ形状を有するオス型端子である。
【0038】
信号分離回路16は、PLC信号のみを第1電源端子14から信号端子17へ送り、電源電力のみを第2電源端子15から第1電源端子14へ送るよう工夫されている。具体的に説明すると、信号分離回路16の内部の一対の電源ライン18a,18b上にはコイルL,Lが直列挿入されている。コイルL,Lはチョークコイルであり、商用周波数(50Hz/60Hz)に対しては低インピーダンスであるが、PLC信号の周波数帯(2MHz~30MHz、又は10kHz~450kHz)に対しては高インピーダンスとなる定数を選定している。
【0039】
また、一対の電源ライン18a,18bの途中からそれぞれ引き出された一対の信号ライン19a,19b上にはコンデンサC,Cが設けられている。コンデンサC,Cはカップリングコンデンサであり、商用周波数に対しては高インピーダンスであるが、PLC信号の周波数帯に対しては低インピーダンスとなる定数を選定している。そのため、コイルL,LとコンデンサC,Cとを組み合わせることで、図4の矢印Dに示すようにPLC信号が信号端子17のみから出力し、第2電源端子15から出力しないように電源電力から分離することが可能となる。また、電源電力は矢印Dに示すように第2電源端子15から第1電源端子14に向かって流れ、信号端子17から出力しないようにすることができる。
【0040】
また、一対のコイルL,Lと第2電源端子15との間には、一方の電源ライン18aと他方の電源ライン18bとを接続するコンデンサCが設けられている。コンデンサCは一対の電源ライン18a,18b間を交流的に短絡するバイパスコンデンサであり、商用周波数に対しては高インピーダンスであるが、PLC信号の周波数帯に対しては低インピーダンスとなる定数を選定している。そのため、コンデンサCとコイルL,Lとを組み合わせることで、図4の矢印Dに示すように第2電源端子15から信号分離回路16へ流入するPLC信号の周波数帯のノイズを低減させ、PLCモデム2Aへの影響を排除することができる。さらには、インバータ機器等の接続により電力線のインピーダンスがPLC信号の周波数帯で変動する事象についても、PLC信号の周波数帯ではコイルL,Lのインピーダンスが高く見えるため、PLCモデム2Aへの影響を排除することが可能である。
【0041】
なお、短絡電流による保護を目的として電源ライン18a,18b上の少なくとも一方にヒューズFを追加してもよく、絶縁性を確保するため信号端子17と信号分離回路16との間に絶縁トランスTを設置してもよいが、あくまで安全上の配慮であり、必須の構成要素ではない。ヒューズFは第2電源端子15と第3のコンデンサCとの間に設けられることが好ましい。これにより、PLCモデムとPLCアダプタとを短絡電流から保護することができる。
【0042】
信号端子17から送出されたPLC信号は、通信線12を通ってカプラ部13へ至る。上記のように、カプラ部13は、磁性コア30A,30Bで構成されており(図3参照)、通信線12と電力線4B,4Bを磁性コア30A,30Bに挿通させることで電力線4Bの導体に接触することなくPLC信号を重畳させることができる。重畳されたPLC信号は、電力線4Bの先に設置された対向するPLCモデム2Bへ至る。
【0043】
一方、対向PLCモデム2Bから電力線4B上に送出されたPLC信号はカプラ部13に至る。カプラ部13では、磁性コア30A,30Bの内部で発生する磁界を利用して電力線4Bから通信線12へPLC信号を重畳させる。このPLC信号は、通信線12を通過した後、信号端子17から信号分離回路16に入る。前述の通り、コイルL,LのインピーダンスはPLC信号の周波数帯に対して大きいため、PLC信号は第1電源端子14側にのみ流れ、PLCモデム2Aの電源プラグ7から機器内部に至る。
【0044】
次に、図5(a)及び(b)を参照しながら電力線通信システム1Aの動作について説明する。
【0045】
図5(a)に示すようにPLCモデム2AにPLCアダプタが接続されない場合、PLCモデム2Aから送出されるPLC信号は電力線4を通るため、電力線4に接続された様々な電力機器や家電機器40からのノイズ(矢印D参照)や分電盤3等での減衰によりPLC信号が劣化する(矢印D参照)。
【0046】
一方、図5(b)に示すように、本実施形態によるPLCアダプタ10を用いることにより、いわゆる一体型機器のPLCモデム2Aであってもカプラ部13を用いることができるため、上述の影響を受けにくい場所にPLC信号を注入・抽出できるようになる。これにより、PLC信号の劣化を抑えることができ(矢印D参照)、安定した通信環境を構築することが可能となる。
【0047】
図6は、本発明の第2の実施の形態による電力線通信システムの概略図である。
【0048】
図6に示すように、本実施形態による電力線通信システム1Bは、PLCアダプタ10から延びる通信線12Aがその途中で二分岐し、一方の分岐線12Bがカプラ部13Bを介して電力線4Bに接続され、他方の分岐線12Cがカプラ部13Cを介して電力線4Cに接続されている。また電力線4Cのコンセント5CにはPLCモデム2Cが接続されている。
【0049】
以上の構成において、PLCモデム2Aは、PLCアダプタ10を介してPLCモデム2Bと通信可能であるだけでなく、PLCアダプタ10を介してPLCモデム2Cと通信可能であり、分電盤3から延びる複数系統の電力線を跨いで一対多の通信を実現することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によるPLCアダプタ10は、一体型機器としてのPLCモデム2Aをカプラが使える分離タイプに容易に変更することができる。したがって、最初から分離型機器として構成された専用のPLCモデムを準備する必要がなく、市販PLCモデムで対応できるため、コストダウンが可能となる。
【0051】
またPLCモデム2Aを分離タイプに変更することにより、電力線4B上のコンセントのない位置にもPLC信号を注入・抽出することができる。さらに、PLCモデム2Aの分離タイプへの変更により、電力機器等のノイズ源や分岐損が発生する分電盤をバイパスしてPLC信号を注入・抽出できるため、安定した通信システムを構築することができる。カプラ部13は電力線の導体に対して非接触でPLC信号の受け渡しができるため、カプラ設置工事時の作業者の安全も確保される他、停電も伴わないため客先への影響もない。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、一対の電力線4B,4Bの両方にカプラ部13及び通信線12を介してPLCアダプタ10を接続しているが、一対の電力線4B,4Bのどちらか一方にPLCアダプタ10を接続してもよい。上記実施形態においては、第2電源端子15に接続する電源は商用交流電源のほかに、直流電源でも同様の効果を持つ。
【符号の説明】
【0054】
1A,1B 電力線通信システム
2A,2B,2C PLCモデム
3 分電盤
4,4A,4B,4C 電力線
4B,4B 電力線
5A,5B,5C コンセント
7 電源プラグ
10 PLCアダプタ
11 PLCアダプタ本体
11a 筐体
12,12A 通信線
12B,12C 通信線(分岐線)
13,13B,13C カプラ部
14 第1電源端子(メス型端子)
15 第2電源端子(オス型端子)
16 信号分離回路
17 信号端子
18a,18b 電源ライン
19a,19b 信号ライン
30A 第1の磁性コア
30B 第2の磁性コア
31 第1コア部
32 第2コア部
33 ループ信号線
40 家電機器
,C コンデンサ
コンデンサ
ヒューズ
,L コイル
絶縁トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6