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  • 特許-ミネラルウール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】ミネラルウール
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/148 20060101AFI20220909BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220909BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20220909BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20220909BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220909BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20220909BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
D06M13/148
C08K3/00
C08K5/053
C08K7/04
C08L29/04 Z
C08L101/02
D06M15/333
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019011067
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020117836
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】窪田 厚史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智広
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044253(JP,A)
【文献】特開2020-059955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
C03C 25/00 - 25/70
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C09J 1/00 - 5/10
C09J 9/00 - 201/10
D04H 1/00 - 18/04
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と、前記無機繊維に付着したバインダーと、を含み、
前記バインダーが、
水溶性樹脂と、
下記式(1):
【化1】

で表され、Rが水素原子又はアルキル基である、ジオール化合物と、を含有し、
前記水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂である、
ミネラルウール。
【請求項2】
前記ジオール化合物の含有量が、前記バインダーの質量に対して45.0質量%以下である、請求項1に記載のミネラルウール。
【請求項3】
前記ジオール化合物の含有量が、前記バインダーの質量に対して1.5~20.0質量%である、請求項1に記載のミネラルウール。
【請求項4】
前記ジオール化合物が、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール及び1,2-ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のミネラルウール。
【請求項5】
前記ジオール化合物が、1,2-ブタンジオールである、請求項1~3のいずれか一項に記載のミネラルウール。
【請求項6】
前記バインダーの付着量が、当該ミネラルウール100質量部に対して、1.0~15.0質量部である、請求項1~のいずれか一項に記載のミネラルウール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラルウールに関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウール、又は、ロックウール等のミネラルウールにおいて、繊維間を接着させるためにバインダー(ミネラルウール用バインダー)が使用されている。例えば、特許文献1は、カルボキシル基を有する重合体、ポリオール、硬化触媒、及び水を含有する鉱物繊維用水性バインダーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-136864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ミネラルウールには、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物(例えば、フェノール樹脂)を主成分とするバインダーが用いられてきた。しかし、上記重縮合物から放散されるホルムアルデヒドへの懸念等から、用途によっては他の樹脂の使用が望まれる場合がある。ところが、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物以外の樹脂を主成分とするバインダーを用いたミネラルウールは、切断したときに切れ残りが生じやすく、加工性に改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明の主な目的は、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物以外の樹脂を含有しながら、加工性に優れるミネラルウールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、無機繊維と、前記無機繊維に付着したバインダーと、を含むミネラルウールに関する。前記バインダーが、水溶性樹脂と、下記式(1):
【化1】

で表されるジオール化合物と、を含有する。式(1)中のRは水素原子又はアルキル基である。前記水溶性樹脂が、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物以外の樹脂である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物以外の樹脂を含有しながら、加工性に優れるミネラルウールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ミネラルウールの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、ミネラルウールの一実施形態を示す断面図である。図1に示すミネラルウール1は、無機繊維と、無機繊維に付着したバインダーとを含むマット状の材料である。ただし、ミネラルウールの形状はこれに限られない。バインダーは、水溶性樹脂と、1位及び2位にヒドロキシ基を有するジオール化合物とを含有する。本実施形態に係るミネラルウール1は、加工性に優れることから、建築材料用断熱材(特に、壁内又は天井内といった建築材料内部に配置される断熱材)等として利用することが可能である。
【0011】
ミネラルウール1は、無機繊維を含むウール状の繊維集合体を含む。繊維集合体を構成する無機繊維同士がバインダーを介して結着している。無機繊維は、ガラス繊維、又は、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維であってよい。無機繊維としてガラス繊維を含むミネラルウールは、一般にグラスウールと称される。無機繊維として、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維を含むミネラルウールは、一般にロックウールと称される。ミネラルウールは、断熱性及び吸音性がより優れたものとなる観点から、ガラス繊維を含むグラスウールであってもよい。
【0012】
ミネラルウール1の密度は10~250kg/mであってよい。ミネラルウール1の厚さは、例えば、10~300mmであってよい。ミネラルウール1の密度及び厚さは、JIS A 9521:2014に準拠して測定することができる。ここでの密度は、空隙体積を含む体積を基準とする見かけ密度である。
【0013】
ミネラルウール1を構成する無機繊維の繊維径(バインダーの厚さを含む。)は、3.0~10.0μm、3.5~8.0μm、又は4.0~7.0μmであってよい。ここでの繊維径は、マイクロネア法で測定される値である。ミネラルウールを構成する無機繊維の繊維長は、2.0~500.0mmであってもよい。
【0014】
ミネラルウール1のバインダーは、水溶性樹脂と、1位及び2位にヒドロキシ基を有するジオール化合物と、水性媒体とを含有するバインダー組成物を加熱することにより形成される。
【0015】
水溶性樹脂は、水に対して溶解する樹脂である。水溶性樹脂は、通常、25℃の水100gに対して0.1g以上溶解する樹脂である。水溶性樹脂は、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物以外の樹脂であるため、ホルムアルデヒドに由来する構成単位を実質的に含まない。ここでの「その他の単量体」としては、例えば、フェノール化合物、並びに尿素、メラミン及びジシアンジアミド等のアミン化合物が挙げられる。ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物の例としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、及びメラミン樹脂(メラミン-ホルムアルデヒド樹脂)が挙げられ、水溶性樹脂がこれら以外の樹脂であってもよい。
【0016】
水溶性樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及び多糖類からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又はそれに対応する「メタクリル」を意味する。水溶性樹脂は、加工性がより一層優れたものとなる観点から、ポリビニルアルコール樹脂又は(メタ)アクリル樹脂であってよい。加工性がより一層優れたものとなり、かつ、乾燥工程における臭気の発生がより抑制され、乾燥作業性がより一層優れたものとなる観点から、水溶性樹脂がポリビニルアルコール樹脂であってよい。
【0017】
水溶性樹脂のうち少なくとも一部が、架橋されていてもよい。本明細書において、架橋体を形成しているポリビニルアルコール樹脂のことを、架橋ポリビニルアルコール樹脂ということがある。架橋ポリビニルアルコール樹脂は、架橋剤により化学的に架橋されたポリビニルアルコール樹脂であっても、架橋剤によらずに樹脂中の結晶構造等により物理的に架橋されたポリビニルアルコール樹脂であってもよい。バインダーが架橋剤を含有しない場合、バインダーは、通常、後述の結晶化促進剤のような、ポリビニルアルコール樹脂の物理的な架橋を促進するための成分を含む。架橋ポリビニルアルコール樹脂は、少なくとも一部が化学的又は物理的に架橋されたポリビニルアルコール樹脂を意味し、本実施形態に係るバインダーが付着した無機繊維を含むミネラルウールの取扱性に優れることから、少なくとも一部が化学的に架橋されたポリビニルアルコール樹脂であってもよい。
【0018】
ポリビニルアルコール樹脂は、ポリ酢酸ビニルのけん化物である。ポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルに由来するエステル基を有する構成単位を含んでいてもよい。ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、例えば、150~3000、200~1500、220~1000、250~800、又は280~500であってもよい。ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、例えば、JIS K 6726:1994に規定されている方法で求められる平均重合度の値である。ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、例えば、60~100モル%、又は75~99モル%であってもよい。ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、例えば、JIS K 6726:1994で規定されている方法で求めることができる。ポリビニルアルコール樹脂の市販品としては、例えば、日本酢ビ・ポバール社製の「JL-05E」(重合度:500、けん化度:80~84モル%)が挙げられる。
【0019】
架橋ポリビニルアルコール樹脂が架橋剤により化学的に架橋されたポリビニルアルコール樹脂である場合、架橋剤は、ポリビニルアルコール樹脂の水酸基と共有結合又は非共有結合を形成することで、ポリビニルアルコール樹脂の分子鎖同士を架橋する1種以上の化合物から構成される。架橋剤は、水酸基と反応して共有結合を形成し得る官能基を2個以上有する化合物を含んでいてもよい。水酸基と反応して共有結合を形成し得る官能基の例としては、カルボキシル基がある。
【0020】
ポリビニルアルコール樹脂の架橋剤は、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸を単量体単位として含む単独重合体若しくは共重合体、ホウ素化合物、イソシアネート基及びブロックイソシアネート基から選ばれる反応性基を2個以上有するイソシアネート化合物(以下、単に「イソシアネート化合物」ともいう。)、又はこれらから選ばれる2種以上の化合物の組合せを含むことができる。
【0021】
脂肪族カルボン酸を単量体単位として含む重合体又は共重合体としては、例えば、マレイン酸単独重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸単独重合体又は共重合体、及びフマル酸単独重合体又は共重合体が挙げられる。架橋剤が、マレイン酸に由来する単量体単位を含む共重合体であってよい。架橋剤の市販品としては、例えば、五協産業社製「ガントレンツAN-119」(マレイン酸系共重合体)が挙げられる。
【0022】
ホウ素化合物の例としては、ホウ砂、ホウ酸、及びホウ酸錯体が挙げられる。ホウ素化合物は、これを含むバインダー組成物を調製する段階でポリビニルアルコール樹脂の架橋反応を進行させ得る。したがって、バインダー組成物の過度な粘度増加を抑制する観点から、ホウ素化合物は、低濃度の水溶液の状態でバインダー組成物の調製に用いられてよい。例えば、市販のホウ砂を水に溶解して調製された濃度4.0%の水溶液が用いられる。
【0023】
イソシアネート化合物は、イソシアネート基及びブロックイソシアネート基から選ばれる反応性基を2個以上有する。ブロックイソシアネート基は、イソシアネート基をブロック剤によりブロック化することにより形成される基である。ブロック剤としては、例えば、メチルケトオキシム、及びカプロラクタムが挙げられる。イソシアネート化合物は、ブロックイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物であってもよい。
【0024】
イソシアネート化合物の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系イソシアネート化合物、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系イソシアネート化合物、トルエンジイソシアネート(TDI)系イソシアネート化合物、ブロック化されたHDI系イソシアネート化合物、ブロック化されたMDI系イソシアネート化合物、及び、ブロック化されたTDI系イソシアネート化合物を挙げられる。イソシアネート化合物が、HDI系イソシアネート化合物、MDI系イソシアネート化合物、ブロック化されたHDI系イソシアネート化合物、又は、ブロック化されたMDI系イソシアネート化合物であってもよく、HDI系イソシアネート化合物、又は、ブロック化されたHDI系イソシアネート化合物であってもよい。ここで、HDI系イソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネート、又は、ヘキサメチレンジイソシアネートのオリゴマー(例えば、2~10量体)を意味する。MDI系イソシアネート化合物は、ジフェニルメタンジイソシアネート、又は、ジフェニルメタンジイソシアネートのオリゴマー(例えば、2~10量体)を意味する。TDI系イソシアネート化合物は、トルエンジイソシアネート、又は、トルエンジイソシアネートのオリゴマー(例えば、2~10量体)を意味する。
【0025】
市販のイソシアネート化合物の例としては、第一工業製薬株式会社製の「エラストロンBN11」、「エラストロンBN77」、及び「F2462D1」、並びに、明成化学工業株式会社の「メイカネートTP10」及び「SU268A」が挙げられる。
【0026】
架橋剤の含有量は、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上であってよい。架橋剤の含有量が4.0質量部以上であると、バインダーの耐水性がより向上する傾向がある。同様の観点から、架橋剤の含有量は、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、2.0質量部以上、6.0質量部以上、又は7.0質量部以上であってもよい。架橋剤の含有量の上限は、特に限定されないが、経済性の観点から、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、100質量部以下、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は10質量部以下であってもよい。
【0027】
架橋剤がイソシアネート化合物を含む場合、イソシアネート化合物の含有量は、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、12~90質量部であってもよい。イソシアネート化合物の含有量が、12質量部以上であると、臭気の発生がより一層抑制されることとなる。イソシアネート化合物の含有量が90質量部以下であると、加熱時の硬さがより一層向上する。イソシアネート化合物の含有量は、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、14~70質量部、16~50質量部、18~40質量部、又は20~30質量部であってもよい。
【0028】
ポリビニルアルコール樹脂を含むバインダーが架橋剤を含有する場合、架橋ポリビニルアルコール樹脂の含有量は、ポリビニルアルコール樹脂の質量と架橋剤の質量との合計を意味する。バインダーは、ポリビニルアルコール樹脂の水酸基と共有結合又は非共有結合を形成していない架橋剤を含み得る。
【0029】
ポリビニルアルコール樹脂を含むバインダーは、結晶化促進剤を更に含有していてもよい。樹脂中の結晶構造により物理的に架橋されたポリビニルアルコール樹脂は、結晶化促進剤により、ポリビニルアルコール樹脂の結晶化度を高めることにより得ることができる。結晶化促進剤としては、粒子径が1μm以下の無機粒子(例えば、タルク等)、結晶性有機物(例えば、カルボン酸アミド等)等を用いることができる。結晶化促進剤の含有量は、架橋ポリビニルアルコール樹脂(又はポリビニルアルコール樹脂)100質量部に対して、0.1~10質量部であってもよい。
【0030】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる(メタ)アクリルモノマーを主な単量体単位として含む重合体である。(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリルモノマー以外の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよいが、通常、(メタ)アクリルモノマーの割合は、重合体の全体質量に対して50~100質量%である。
【0031】
(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシル基を有していてもよい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂は、通常、カルボキシル基を有する単量体に由来する単量体単位を含む。カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸(アクリル酸又はメタクリル酸)が挙げられる。
【0032】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシル基を有する単量体以外の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂において、カルボキシル基を有する単量体以外の単量体に由来する構成単位数の割合は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構成単位数に対して、50モル%未満、30モル%未満、10モル%未満、又は1モル%未満であってもよい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシル基を有する単量体に由来する構成単位のみからなっていてよく、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位のみからなるポリ(メタ)アクリル酸であっていてよい。
【0033】
バインダーがカルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂と、(メタ)アクリル樹脂を架橋する金属イオンとを含んでいてもよい。金属イオンの価数は、2以上であってもよく、4以下であってもよい。金属イオンとしては、例えば、亜鉛イオン、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、ベリリウムイオン、ビスマスイオン、コバルトイオンが挙げられる。金属イオンは、亜鉛イオン(Zn2+)及びジルコニウムイオン(Zr4+)からなる群より選択される少なくとも1種であってよく、亜鉛イオン(Zn2+)又はジルコニウムイオン(Zr4+)であってよく、亜鉛イオン(Zn2+)であってよい。
【0034】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂と、金属イオンとを含むバインダーにおいて、少なくとも一部のカルボキシル基が金属イオンとイオン結合を形成し、それにより(メタ)アクリル樹脂が架橋されている。金属イオンを介して架橋されている(メタ)アクリル樹脂は、金属架橋(メタ)アクリル樹脂ということもできる。
【0035】
金属イオンの含有量は、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.03化学当量(カルボキシル基に対する金属イオンのモル比/金属イオンの価数)以上であってよく、ミネラルウールの硬さがより向上する観点から、0.07化学当量以上、0.20化学当量以上、又は0.30化学当量以上であってよく、1.00化学当量以下、0.90化学当量以下、0.80化学当量以下、0.70化学当量以下、又は0.60化学当量以下であってよい。金属イオンの含有量は、ミネラルウールの硬さがより向上する観点から、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.03~0.80化学当量、0.07~0.70化学当量、0.20~0.60化学当量、又は、0.30~0.50化学当量であってもよい。金属イオンの含有量が、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.80化学当量以下である場合、ミネラルウール製造時に使用される分散助剤(例えばアンモニア水溶液)の量が低減されるため、ミネラルウールの製造がより容易になる。
【0036】
水溶性樹脂としての多糖類は、例えば、デキストリン、化学修飾デンプン(例えば、ヒドロキシプロピル化デンプン、カルボキシメチル化デンプン、リン酸エステル化デンプン)、又はセルロース類(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルプロピルセルロース等)であってもよい。
【0037】
水溶性樹脂の数平均分子量は、1000超、1100以上、3000以上、5000以上、7000以上又は9000以上であってよく、100000以下、50000以下、30000以下又は20000以下であってよい。水溶性樹脂の数平均分子量が、上記範囲内である場合、バインダーが適度な流動性を有し易い。本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定され、標準ポリエチレングリコールに換算した値を意味する。
【0038】
水溶性樹脂を含む濃度20質量%の水溶液(濃度は、水溶液の全量を100質量%とする値である。)が、25℃において100mPa・s以上50000mPa・s以下、又は500mPa・s以上10000mPa・s以下の粘度を有していてもよい。
【0039】
水溶性樹脂の含有量は、バインダーの質量に対して、40質量%以上、50質量%以上、60質量%、70質量%、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってよく、100質量%以下であってよい。水溶性樹脂の含有量は、バインダーの質量に対して、40~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は100質量%であってよい。
【0040】
バインダーに含まれるジオール化合物のうち少なくとも一部は、1位及び2位の炭素原子にそれぞれ結合したヒドロキシ基を有する。このジオール化合物は、下記式(1)で表される。
【化2】
【0041】
式(1)中のRは水素原子、又は無置換のアルキル基である。Rが炭素数1~4のアルキル基であってもよい。式(1)で表されるジオール化合物が、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、エチレングルコール又は1,2-ブタンジオールのうち少なくとも一方を含んでいてもよく、1,2-ブタンジオールを含んでいてもよい。バインダーは、式(1)で表されるジオール化合物以外のジオール化合物を更に含んでいてもよい。
【0042】
式(1)のジオール化合物の含有量がバインダーの質量に対して45.0質量%以下であってもよく、これによりミネラルウールの加工性がより一層向上する傾向がある。同様の観点から、式(1)のジオール化合物の含有量が、バインダーの質量に対して20.0質量%以下、又は15.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上、1.5質量%以上、又は2.0質量%以上であってもよい。
【0043】
バインダーは、防塵剤を更に含有してもよい。防塵剤としては、オイルエマルション等が挙げられる。防塵剤の市販品の例としては、出光興産株式会社製の重質オイルエマルション「ダフニープロソルブルPF」が挙げられる。防塵剤の含有量は、水溶性樹脂100質量部に対して、1~30質量部であってよい。
【0044】
バインダーは、撥水剤を更に含有していてよい。撥水剤としては、例えば、シリコーンオイルエマルション等のシリコーン系添加剤、及び、フッ素系添加剤が挙げられる。撥水剤の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のシリコーンオイルエマルション「Polon MR」が挙げられる。撥水剤の含有量は、水溶性樹脂100質量部に対して、0.05~20質量部であってよい。
【0045】
バインダーは、シランカップリング剤を更に含有してもよい。シランカップリング剤は、水溶性樹脂と無機繊維との界面接着に寄与する。シランカップリング剤の例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のアミノプロピルトリメトキシシラン「KBE903」が挙げられる。シランカップリング剤は、1種類単独で用いてもよく、又は、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0046】
シランカップリング剤の含有量は、水溶性樹脂の水溶性及び反応性並びに製造コストの観点から、水溶性樹脂100質量部に対して、0.1~3.0質量部であってもよい。シランカップリング剤の含有量が0.1質量部以上であると、水溶性樹脂と無機繊維との十分な界面接着が得られ易い。シランカップリング剤は、シリコーン系添加剤の無機繊維表面への定着にも寄与する。そのため、シランカップリング剤とシリコーン系添加剤等の撥水剤との組み合わせは、ミネラルウールの耐水性をより向上させ得る。
【0047】
一実施形態に係るバインダー組成物は、以上例示した成分に加えて、必要に応じてその他の成分を更に含有していてよい。その他の成分の例としては、粘着抑制剤、離型剤、着色剤、ミネラルウールの形状保持に寄与するジヒドラジド類が挙げられる。
【0048】
バインダーの付着量が、ミネラルウール100質量部に対して、0.5~15.0質量部、1.0~15.0質量部又は1.0~6.0質量部であってよい。バインダーの付着量は、ミネラルウール100質量部に対して、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上又は2.5質量部以上であってよく、15.0質量部以下、10.0質量部以下、6.0質量部以下又は5.0質量部以下であってよい。バインダーの付着量は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0049】
バインダー組成物は、水溶性樹脂と、ジオール化合物と、必要に応じて加えられるその他の成分とを、水性媒体とともに混合及び撹拌することによって得られる。水溶性樹脂の架橋反応は、バインダー組成物の調製中及び/又は、バインダー組成物を加熱することにより進行する。水性溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。経済性及び取扱性の観点から、水性溶媒が水を含んでいてもよい。水性溶媒中の水の割合が、水性溶媒の質量を基準として50~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は90~100質量%であってもよい。
【0050】
バインダー組成物における固形分濃度、すなわち水性溶媒以外の成分の含有量が、バインダー組成物全量に対して、2.0~20質量%であってよい。水性溶媒以外の成分の含有量が、2.0質量%以上である場合、ミネラルウールを乾燥させるための加熱処理に要する時間が短くなる傾向がある。水性溶媒以外の成分の含有量が、20.0質量%以下であると、バインダー組成物がウール状の無機繊維に浸透し易い傾向がある。同様の観点から、水性溶媒以外の成分の含有量が2.0~10.0質量%であってよい。
【0051】
一実施形態に係るミネラルウールは、例えば、上記バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程と、無機繊維及びこれに付着したバインダー組成物を含むウール状の中間繊維基材を形成させる工程と、中間繊維基材を加熱する工程とを含む方法によって製造することができる。
【0052】
バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程では、例えば、熱溶融されたガラス、又は岩石等の鉱物のような無機質原料を繊維化して無機繊維を形成させながら、形成された無機繊維にバインダー組成物を付着させてもよい。無機繊維を繊維化する方法としては、例えば、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法とも言う)が挙げられる。無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等により、霧状のバインダー組成物を吹き付ける方法が挙げられる。
【0053】
バインダー組成物を無機繊維に付着させながら、バインダー組成物が付着した無機繊維を堆積させることによって、ウール状の中間繊維基材を形成させることができる。堆積した無機繊維同士が徐々に絡み合い、それらがウール状の形態を形成する。無機繊維にバインダー組成物を付着させる時期は、無機繊維が形成された後であればいつでもよいが、中間繊維基材の内部におけるバインダー組成物の付着が容易であることから、形成された直後の無機繊維にバインダー組成物を付着させ、その後、ウール状の中間繊維基材を形成させてもよい。
【0054】
中間繊維基材を加熱することにより、無機繊維に付着したバインダー組成物が加熱硬化することでバインダーが形成されて、無機繊維と無機繊維に付着したバインダーとを含むミネラルウールが得られる。中間繊維基材を加熱する方法は、特に制限されない。例えば、所定の加熱温度に設定された1つ又は複数の加熱ゾーンを通過させることにより、中間繊維基材を加熱することができる。複数の加熱ゾーンは中間繊維基材の搬送方向に沿って直列的に設置されていてもよい。加熱温度は、バインダー組成物から水性溶媒を除去するように設定すればよく、例えば平均加熱温度が200℃以上であってもよく、200℃以上250℃以下、又は210℃以上240℃以下であってもよい。平均加熱温度が、これら範囲内であることで、ミネラルウールにおける未乾燥部分の発生(水の残留)を防止又は抑制することができ、結果としてミネラルウールの復元性が確保される。
【0055】
それぞれ所定の加熱温度に設定可能なn個の加熱ゾーンを通過させることによって中間繊維基材を加熱する場合、平均加熱温度Taveは、下記式(1)によって算出される値である。式(1)において、Lは各加熱ゾーン内で中間繊維基材が搬送される距離を示し、Tは各加熱ゾーンの設定温度を示す。iは加熱ゾーンの数を示し、これは1以上の整数である。
【数1】
【0056】
中間繊維基材の加熱時間は、バインダー組成物が付着した無機繊維の密度、厚さにより、適宜調整される。加熱時間は、例えば、30秒~10分、又は、2分~10分であってよい。
【0057】
加熱工程後の中間繊維基材、すなわちミネラルウールは、必要により例えばマット状に成形され、さらに所望の幅、長さに切断してもよい。
【0058】
ミネラルウールは、そのままの形態で用いてもよく、また、ミネラルウールの表面を表皮材で被覆して、ミネラルウール及び表皮材を有するパネル等の部材を作製してもよい。表皮材としては、特に制限されないが、例えば、紙(特に耐熱紙、例えば、ガラスペーパー)、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布(例えば、ガラスチョップドストランドマット)、織布(例えば、ガラス繊維織物)又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0059】
本実施形態に係るミネラルウールは、例えば、断熱・吸音機能を持つ素材として用いることができる。本実施形態に係るミネラルウールを、建築材料用断熱材(特に、壁内や天井内といった建築材料内部に配置される断熱材)として用いてもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
1.グラスウールの製造
実施例1
ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール社製「JL-05E」、重合度:300、数平均分子量:13200、ケン化度:88%)の水溶液92.5質量部(固形分換算)、架橋剤(マレイン酸を単量体単位として含むマレイン酸系共重合体(五協産業社製「ガントレンツAN-119」)の水溶液)7.5質量部(固形分換算)、エチレングリコール10.0質量部、防塵剤(重質オイルエマルション、出光興産社製「ダフニープロソルブルPF」)15.0質量部(固形分換算)、及び、シランカップリング剤(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)0.5質量部を混合及び撹拌し、得られた混合液に水を加えて、固形分濃度が4.0質量%のバインダー組成物を得た。ここで「固形分換算」は水以外の成分の量を意味し、「固形分濃度」は水以外の成分の濃度を意味する。
【0062】
熱溶融した原料ガラスを繊維化装置に導入し、遠心法により、熱溶融した原料ガラスを繊維状に噴出させることで、ガラス繊維を形成した。形成されたガラス繊維が空冷される間に、霧状のバインダー組成物をガラス繊維に吹きつけることで、バインダー組成物をガラス繊維に付着させた。バインダー組成物が付着したガラス繊維を堆積させ、それによりウール状の中間繊維基材を形成させた。
【0063】
得られた中間繊維基材を、加熱温度220℃、加熱時間3分間の条件で乾燥した。これにより、バインダーが付着したガラス繊維を含むマット状の実施例1のグラスウールを得た。加熱処理後のバインダーは、架橋剤であるマレイン酸系共重合体によって架橋されたポリビニルアルコール樹脂を含む。また、加熱処理によってバインダー組成物中のエチレングリコールの一部が揮発した。
【0064】
得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して3.1質量部で、エチレングリコールの含有量が、バインダーの質量に対して、5.2質量%であった。下記式で計算されるアルコール化合物(ここではエチレングリコール)の残存割合は、0.65であった。以下の実施例及び比較例でも、アルコール化合物の残存割合は下記式により計算された。なお、式中「バインダーにおけるアルコール化合物の含有量(質量%)」は、後述の測定方法により測定される値である。
アルコール化合物の残存割合=(バインダーにおけるアルコール化合物の含有量(質量%))/(バインダー組成物中の水以外の全成分の質量に対するアルコール化合物の含有量(質量%))
【0065】
実施例2
エチレングリコールの量を30.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.8質量部で、エチレングリコールの含有量がバインダーの質量に対して19.0質量%であった。
【0066】
実施例3
エチレングリコールの量を5.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.6質量部で、エチレングリコールの含有量が、バインダーの質量に対して2.3質量%であった。
【0067】
実施例4
エチレングリコールの量を15.0質量部に変更し、加熱温度を240℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.8質量部で、エチレングリコールの含有量が、バインダーの質量に対して、0.8質量%であった。
【0068】
実施例5
エチレングリコールの量を40.0質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して3.3質量部で、エチレングリコールの含有量が、バインダーの質量に対して30.6質量%であった。
【0069】
実施例6
エチレングリコールを1,2-ブタンジオールに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例6のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.7質量部で、1,2-ブタンジオールの含有量が、バインダーの質量に対して5.7質量%であった。アルコール化合物(ここでは1,2-ブタンジオール)の残存割合は0.72であった。
【0070】
実施例7
脱イオン水中で、重合開始剤として過硫酸カリウムを用いてメタクリル酸をラジカル重合させることにより、ポリメタクリル酸水溶液を調整した。特許第3950996号公報の段落0040に記載の調製方法にしたがって、亜鉛含有アンモニア水溶液を調製した。この亜鉛含有アンモニア水溶液を、金属イオン(Zn2+)の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.4化学当量となるように、ポリメタクリル酸水溶液に添加し、亜鉛含有ポリメタクリル酸水溶液を得た。この亜鉛含有ポリメタクリル水溶液の粘度は、25℃において、24mPa・sであった。亜鉛含有ポリメタクリル水溶液の粘度は、JIS K6833-1:2008に準拠して、B型粘度計を用いて測定した。
【0071】
次いで、亜鉛含有ポリメタクリル酸100質量部(固形分換算)、エチレングリコール40.0質量部、重質オイルエマルション(出光興産社製「ダフニープロソルブルPF」)15.0質量部(固形分換算)、及び、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.5質量部を混合及び撹拌し、得られた混合液に水を加えて、固形分濃度が4.0質量%のバインダー組成物を得た。
【0072】
このバインダー組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して3.5質量部で、エチレングリコールの含有量が、バインダーの質量に対して18.7質量%であった。加熱処理後のバインダーは、亜鉛イオンによって架橋されたポリメタクリル樹脂を含む。
【0073】
比較例1
エチレングリコールの量を1.0質量部に変更したこと以外は実施例4と同様にして比較例1のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.7質量部で、エチレングリコールの含有量が、HPLCで検出不可、すなわち、バインダーの質量に対して0.0質量%であった。
【0074】
比較例2
エチレングリコールを1,4-ブタンジオールに変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例2のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して3.1質量部で、1,4-ブタンジオールの含有量は、バインダーの質量に対して4.9質量%であった。アルコール化合物(ここでは1,4-ブタンジオール)の残存割合は0.61であった。
【0075】
比較例3
エチレングリコールをジエチレングリコールに変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例3のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して3.0質量部で、ジエチレングリコールの含有量が、バインダーの質量に対して4.4質量%であった。アルコール化合物(ここではジエチレングリコール)の残存割合は0.55であった。
【0076】
比較例4
エチレングリコールを2-プロパノールに変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例4のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.9質量部で、2-プロパノールの含有量が、バインダーの質量に対して3.9質量%であった。アルコール化合物(ここでは2-プロパノール)の残存割合は0.49であった。
【0077】
比較例5
エチレングリコールをグリセロールに変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例5のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して2.7質量部で、グリセロールの含有量が、バインダーの質量に対して6.5質量%であった。アルコール化合物(ここではグリセロール)の残存割合は0.82であった。
【0078】
比較例6
(C)エチレングリコールの量を1.0質量部に変更したこと以外は実施例7と同様にして比較例6のグラスウールを得た。得られたグラスウールにおいて、バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して3.0質量部で、エチレングリコールの含有量が、HPLCで検出不可、すなわち、バインダーの質量に対して、0.0質量%であった。
【0079】
2.評価
(繊維径、密度、幅、長さ、厚さ及び熱性能λ)
グラスウールの密度、幅、長さ、厚さ及び熱性能λをJIS A 9521:2014に準拠して測定した。実施例及び比較例のグラスウールは、10kg/mの密度、430mmの幅、2350mmの長さ、100mmの厚さ、及び0.0446W/m・Kの熱性能λを有していた。ここでの密度は、空隙体積を含む体積を基準とする見かけの密度である。
【0080】
(バインダーの付着量)
バインダーの付着したグラスウールの重量(焼却前質量)を測定した。次いで、グラスウールを空気雰囲気下、500℃の条件で60分間加熱して、バインダーを焼却した。残ったグラスウールの質量(焼却後質量)を測定し、下記式によりバインダーの付着量を算出した。
バインダーの付着量(質量%)={(焼却前質量-焼却後質量)/焼却前質量}×100
【0081】
(アルコール化合物の含有量)
アルコール化合物(ここではエチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、2-プロパノール及びグリセロールを意味する)の標準品0.2144gを秤量した。秤量したアルコール化合物をメスフラスコ中で超純水100mLに溶解し、次いで、超純水で10倍希釈して、標準液1を調製した。次いで、標準液1を、それぞれ超純水で、2倍希釈、10倍希釈、20倍希釈、50倍希釈又は100倍希釈して、標準液2~6を調整した。得られた標準液1~6をHPLC(ThermoFisher SCIENTIFIC製 UltiMate3000型)で分析し、アルコール化合物のピーク面積を測定した。測定結果から、アルコール化合物の濃度に関する検量線を作成した。
【0082】
次いで、ビーカー中に、バインダーが付着したグラスウール7g及び超純水500mlを加え、30分間、超音波(40kHz)による分散処理を行った。次いで、スパーテルを用いてビーカー内をよく撹拌した。ビーカー中の溶液を0.45μmのフィルターにて濾過し、試料溶液を得た。得られた試料溶液を、検量線を作成した際と同条件のHPLC(ThermoFisher SCIENTIFIC製 UltiMate3000型)で分析した。得られたクロマトグラム及び検量線より、試料溶液におけるアルコール化合物の含有量(単位:質量%)を求めた。試料溶液中のアルコール類の含有量が極めて低く、検量線により定量が困難な場合、ロータリーエバポレーターで試料溶液を10倍まで濃縮し、濃縮後の試料溶液を用いてアルコール化合物の含有量を測定した。試料溶液におけるアルコール化合物の含有量、グラスウールの質量及びバインダーの付着量から、ガラス繊維に付着したバインダーにおけるアルコール化合物の含有量を下記式により算出した。
試料溶液中のアルコール化合物の質量(g)=(試料溶液におけるアルコール化合物の含有量(質量%)/100)×試料溶液の質量(g)
バインダーにおけるアルコール化合物の含有量(質量%)=(試料溶液中のアルコール化合物の質量(g))/{(グラスウールの質量(g)×バインダーの付着量(質量%)/100)}×100
【0083】
(グラスウールの加工性)
連続的に製造されたグラスウールを、スリッター(直径405mmの円盤の縁についた刃(チップソー)でグラスウールを切断する設備)を用いて10時間連続で切断した。スリッターは、切断後のグラスウールの幅が430mmとなる位置に配置した。グラスウールの加工性を以下の基準で評価した。
A:グラスウールの下面に間欠的に切れ残りを生じることなく、グラスウールの連続的な切断を10時間にわたって実施できた。
B:グラスウールの下面に間欠的に切れ残り(グラスウール製品の規定の切断幅430mmを超える部分)が生じるが、グラスウールの連続的な切断を10時間にわたって実施できた。
C:グラスウールの連続的な切断が不可。
【0084】
表1及び表2に示すとおり、バインダーがポリビニルアルコール樹脂又はメタクリル樹脂と、式(1)で表されるジオール化合物とを含有する場合に、バインダーがその他のアルコール化合物を含有する場合と比較して優れた加工性を有するグラスウールが得られることが確認された。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【符号の説明】
【0087】
1…ミネラルウール。
図1