IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 佐藤 良明の特許一覧

特許7138296エンジンとモータの原動機を備えたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車
<>
  • 特許-エンジンとモータの原動機を備えたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車 図1
  • 特許-エンジンとモータの原動機を備えたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車 図2
  • 特許-エンジンとモータの原動機を備えたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車 図3
  • 特許-エンジンとモータの原動機を備えたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】エンジンとモータの原動機を備えたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車
(51)【国際特許分類】
   B62M 23/02 20100101AFI20220909BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20220909BHJP
   B62J 45/41 20200101ALI20220909BHJP
   B62M 7/12 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
B62M23/02 150
B60K6/40
B62J45/41
B62M7/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018053431
(22)【出願日】2018-02-13
(65)【公開番号】P2019137379
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-08
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】511229341
【氏名又は名称】佐藤 良明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良明
【審査官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067252(JP,A)
【文献】特開平05-016872(JP,A)
【文献】特開2017-087827(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173672(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/016609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 7/00- 7/14,23/00-23/02
B62J 27/00-27/30,45/00-45/423,99/00
B60K 6/00- 6/547
B60W 10/00-10/30,20/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪にマニュアル変速機を介してエンジンの原動力を伝え、前輪にモータの原動力を伝える自動二輪車において、
アクセル開度によってエンジンまたはモータを電気的に制御する手段と、クラッチレバーを握ることにより変更されるクラッチの接続状態を電気的に検出する手段を具備し、停止時にクラッチレバーを握ることによりクラッチを切った状態でアクセルを開けた場合、前輪のモータのみを駆動して前進または後進することを特徴とする自動二輪車
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速時の転倒防止を目的としたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車のモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車は、ある程度スピードが出ていれば、車輪のジャイロ効果によって転倒することはない。しかし、二輪車で有る限り、転倒は原理的に避けられない。自動二輪車の転倒は、運転者の生命・怪我につながることから、これまでに様々な安全対策が考えられてきた。
【0003】
自動二輪車は、急制動をかけると、タイヤがロックしてしまい、運転者は車体の操作が不能になり、転倒する可能性がある。この対策には前後輪の回転数差からタイヤロックを検知した場合、タイヤロックを起こさないようにブレーキを制御するアンチロックブレーキが実用化されている。アンチロックブレーキの具備した自動二輪車では、緊急時には強くブレーキをかけても転倒することなく進路を制御可能である。
【0004】
自動二輪車が滑りやすい路面を走行する際には、スリップによる転倒の可能性がある。この対策には、アンチロックブレーキ同様に前後輪の回転からスリップを検知し、アクセルをコンピュータが制御することで、地面とタイヤの摩擦を回復させるトランクションコントロールシステムが実用化されている。トランクションコントロールシステムの具備した自動二輪車では、滑りやすい路面においても発進や走行を可能としている。
【0005】
一方、自動二輪車の転倒は、発進してすぐにUターンする低速走行時にも起きている。Uターンは、低速であり、車体を傾けているため、車輪によるジャイロ効果もなく、転倒しやすい。特に重量の大きい中型・大型の自動二輪車は、Uターン時の転倒が発生しやすい。
【0006】
日本は左側通行なので、右へのUターンをする低速旋回時に転倒する可能性がある。この状況を以下に説明する。運転者は発進直後、ハンドルを右に切りながら、Uターン開始する。このとき、半クラッチとリアブレーキで速度調節を行う。左足はシフトペダルを上からしっかり踏みつけたまま、体はリーンアウトにするため、シートの左角に体が乗るようにする。視線は、旋回する円の中心点付近を見ながら、旋回を継続する。旋回が終わったら、半クラッチを解除し、直線運動に戻りながら速度をあげる。
【0007】
上記Uターンで転倒する主な理由は、半クラッチによる速度調整を失敗したことによるエンジンストールである。低速であるため、アクセルは大きく開けておらず、エンジン回転数は3000回転以下程度で一定である。この状態で半クラッチのつなぎ方で速度を調整している。このため、クラッチをつなぎすぎると、エンジン回転数が下がり過ぎ、エンジンストールが発生してしまう。Uターン時には、車体を傾けているため、エンジンストールが発生すると、急停止するため、転倒してしまう。
【0008】
自動二輪車の免許取得時に試験課題となっている一本橋も半クラッチによる速度調整を失敗すると、転倒する可能性がある。一本橋とは、幅30cm、長さ15m、段差5cmの直線路を規定時間以上(大型自動二輪車の場合は10秒以上)で、ゆっくりと走行する技能試験である。一本橋のようなゆっくりとした走行状態においても、クラッチをつなぎすぎ、エンジンストールを発生させてしまうと、急停止するため、転倒してしまう可能性がある。
【0009】
運転者のアクセル操作以上のアクセル制御をコンピュータが行い、エンジンストールを回避させる技術が知られている。商用化されている事例として、スズキ株式会社が販売する自動二輪車に搭載された「ローRPM アシスト」がある(非特許文献1)。名前のとおり、エンジン回転数が低いとき、運転者のアクセルをアシストする。具体的には、発進時や低回転走行時に、エンジン回転数、ギアポジション、スロットル開度、クラッチスイッチの情報を用いて、運転者のアクセル操作以上に、アクセルを開ける制御を行うことで、エンジンストールを防ぐ。
【0010】
Uターンや低速走行時に、「ローRPMアシスト」のようなエンジン制御を行うことは、エンジンストールの可能性を低くし、転倒の可能性を小さくすることができる。一方、クラッチを介してエンジンの原動力を後輪に伝える機構である限り、エンジンストールの可能性はゼロとはならない。極端な操作として、半クラッチで微速前進している最中に、運転者が誤って一気にクラッチをつなげば、どんなエンジン制御を駆使しても、エンジンストールは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平5-168872
【文献】特開2017-87827
【非特許文献】
【文献】スズキ株式会社 SV650製品紹介のHP
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
究極的には、自動二輪車にマニュアル変速機に替えて、自動変速機を導入すれば良い。しかしながら、快適な移動空間をめざす四輪の自動車は自動変速機が主流となっているが、趣味性が強い自動二輪車は、操作する楽しみが求められるため、マニュアル変速機が根強く残っている。とくに、スクータをのぞく、大型排気量の自動二輪車ではマニュアル変速機が主流である。このため、エンジンを原動力とするマニュアル変速機を具備した自動二輪車において、Uターンや低速走行時の半クラッチミスによるエンジンストールを起因とした転倒対策が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
課題を解決するため、四輪自動車で一般的となってきたエンジンとモータの二つの原動力を利用するハイブリッド型自動車の仕組みを利用すれば良い。マニュアル変速機を介してエンジンで後輪を駆動し、変速機の不要な補助モータで前輪を駆動する構成が考えられる(図1)。この自動二輪車において、転倒の危険性のあるUターンや低速走行時に、前輪をモータのみで駆動すれば、エンジンストールによる転倒はなくなる。前輪をモータで駆動するハイブリッド型の自動二輪車は過去に事例がある(特許文献1、2)。
【0014】
しかしながら、このハイブリッド型の自動二輪車に置いて、前輪をモータのみで駆動するためには、従来にない走行モードを新設しなければならない。補助モータを具備したハイブリッド型の四輪の車両は、燃費向上のために、発進時にエンジンの出力をモータが補助することが一般的である。ハイブリッド型の自動二輪車も燃費を考慮すれば、発進時にアクセルを開け、徐々にクラッチをつなぎ始める時、モータもエンジンを補助するために駆動することが望ましい。その後、ある一定速度を超えればモータ駆動をやめ、エンジンのみで速度を上げていくことになる。つまり、通常の発進では、エンジンとモータを利用し、転倒の危険性のあるUターンや低速走行ではモータのみを利用する必要があり、2つの走行モードを運転者が選択する手段を備えなければならない。走行モードを変更するスイッチを新設することが考えられるが、転倒の危険性のあるUターンや低速走行のまえに、そのスイッチを操作して走行モードを設定し、モータ駆動によるUターンや低速走行が無事終了したら、再度スイッチを操作して走行モードを変更しなければならない。左手でクラッチレバー、右手でアクセルと前輪ブレーキ、左足でシフトチェンジ、右足で後輪ブレーキと四肢全部使って操作を行う自動二輪車の走行中に、新たな操作を必要とするボタンを設置するのは、望ましくない。
【0015】
本発明では、転倒の危険性のあるUターンや低速走行において、モータのみを使用する走行モードであることを、追加の専用ボタンを用意することなく、実現する。具体的には、運転者が停止時にクラッチレバーを握ることによりクラッチを切った状態でアクセルを開けた場合、モータのみを駆動する。このため、アクセル開度によってエンジンまたはモータを電気的に制御する手段と、クラッチレバーを握ることにより変更されるクラッチの接続状態を電気的に検出する手段とを具備する。自動二輪車の操作に置いて、クラッチを完全に切った状態でアクセルを開ける操作はなく、新たなモータのみによる走行モードとして利用する(表1)。
【0016】
旧来のエンジンでは、アクセルの開度に合わせてケーブルでエンジンのスロットルバルブを機械的に開き、エンジンの回転数を上昇させる。本発明では、アクセルの開度を電気的に読み取り、その値に応じて車載コンピュータがエンジンのスロットルバルブについているモータに電気的に指示するドライブバイワイヤ(この場合のワイヤは電気信号の線を意味する)を前提とする。本発明では、車速センサ、ギヤポジションセンサ、アクセルセンサ、クラッチセンサから各状態を車載コンピュータに入力し、エンジンとモータを制御する(図2)。
【0017】
クラッチレバーを握り、クラッチを切ったまま、アクセルを開けることにより、モータのみによる走行モードとし、モータ駆動のみで転倒の危険性のあるUターンや低速走行を行う。その後、一旦停止することなく、ギヤを一速か二速に入れて、クラッチレバーを離して、クラッチをつなぎ始めれば、通常の走行モードに自動的に変更し、アクセル操作に合わせてエンジンの回転数をあげる。本発明によれば、走行モードの変更を行う操作ボタンを具備することなく、通常の操作系であるクラッチレバーとアクセルの組み合わせのみで、走行モードを切り替えることが可能となる。
【0018】
一般的な電気自動車は、前進と後進の切り替えスイッチを有し、前進または後進することができる。本発明のハイブリッド型自動二輪車が有する前輪モータも、電圧の極性を反転させることにより、前進または後進に利用することが可能である。狭い道でのUターンでは切り返し行う場合があり、その際の後進に利用できる。また、自動二輪車は、運転者が車体に跨らず、横に立った状態で車体を押しながら位置を変更することがある。重量のある大型の自動二輪車を押して移動させることは大変であるが、前進も後進もできる本発明のモータによる走行モードをアシスト機能に使えば、力のない運転者でも重量のある自動二輪車の移動を容易に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上、本発明によれば、エンジンとモータの二つの原動力を利用するハイブリッド型自動二輪車において、一般的な自動二輪車の操作であるクラッチとアクセルの操作によって、モータのみで走行する走行モードを選択することができる。この走行モードの選択により、Uターンや低速走行にはモータのみで走行し、運転者のクラッチ操作ミスによるエンジンストールを起因とする転倒を防ぐことができる。
【0020】
Uターンで曲がりきれない時、大型の自動二輪車はバックができないので切り返しが難しい。また、重量のある自動二輪車を押しながら位置を変更するのは、大変である。本発明は切り替えスイッチにより、モータによる走行を前進と後進のいずれも選択できるため、上記のような事象に役立つ。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、低速時の転倒防止を目的としたマニュアル変速機のハイブリッド型自動二輪車に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による自動二輪車の構成を示す図
図2】本発明によるエンジン及びモータの制御構成を示す図
図3】本発明による実施例1のフローチャート
図4】本発明によるアクセルとクラッチの組み合わせを示す表
【符号の説明】
【0023】
1a 前輪 1b 前輪による駆動力
2a 後輪 2b 後輪による駆動力
3 前輪駆動モータ
4 後輪駆動エンジン
5 アクセルセンサ
6 クラッチセンサ
7 信号線
8 車速センサ
9 ギヤポジションセンサ
10 車載コンピュータ(ECU)
11 前進後進切り替えスイッチ
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
本発明による実施例1を説明する。本発明の自動二輪車は、図1のように前輪にインホイールモータを具備し、発進時にエンジンを補助し、Uターン等の低速走行時にモータのみによる駆動を行うことができる。まず、この自動二輪車を通常通り発進させる場合を説明する。運転者は、停止状態でギヤを一速に入れ、クラッチレバーを握り、クラッチを切っている。この状態では、クラッチレバーに組み込まれたクラッチセンサからクラッチ断であること、車速センサから停止状態であることを認識したコンピュータは、[モータのみによる走行モード]に設定している。運転者が通常通り、クラッチレバーを離して、クラッチを繋いで発進しようとすると、クラッチ断が解除され、そのことを検出したコンピュータは、[通常の走行モード]に設定変更する。アクセル操作に合わせて、エンジンの回転数が上昇し、クラッチが徐々に繋がり始め、後輪が駆動される。このとき、前輪のモータも駆動し、エンジンを補助することにより、燃費向上が期待できる。アクセル操作により、更にエンジンの回転数は上がり、速度が向上すると、前輪モータは、駆動を停止し、フリー状態となる。ある一定の車速(Y)になったら、前輪モータの補助を解除してもよいし、発進後に一定のモータ駆動時間(Z)だけ補助を行うことでも良い。
【0025】
次に、Uターンをする場合を説明する。運転者は、停止状態でギヤを一速に入れ、クラッチレバーを握り、クラッチを切っている。この状態では、クラッチレバーに組み込まれたクラッチセンサからクラッチ断であること、車速センサから停止状態であることを認識したコンピュータは、[モータのみによる走行モード]に設定している。運転者は、Uターンをモータのみで行いたいので、クラッチレバーを握り、クラッチを切ったまま、アクセルを徐々に開ける。コンピュータは、[モータのみによる走行モード]として、アクセル操作に合わせて前輪のモータのみを駆動する。運転者はUターンを終了する間際に、クラッチレバーを離して、クラッチを徐々に繋いで発進しようとすると、クラッチ断が解除されたことを検出したコンピュータは、[通常の走行モード]に設定変更する。その後、運転者は自動二輪車を一旦停止することなしに、通常通りの走行に移行することができる。以上、実施例1のフローチャートを図4に示す。
【実施例2】
【0026】
本発明による実施例2を説明する。道幅が狭く、一回では曲がりきれず、切り返しを行う事例を説明する。運転者は、停止状態でギヤを一速に入れ、クラッチレバーを握り、クラッチを切っている。この状態では、クラッチレバーに組み込まれたクラッチセンサからクラッチ断であること、車速センサから停止状態であることを認識したコンピュータは、[モータのみによる走行モード]に設定している。運転者は、Uターンをモータのみで行いたいので、クラッチレバーを握り、クラッチを切ったまま、アクセルを徐々に開ける。コンピュータは、[モータのみによる走行モード]として、アクセル操作に合わせて前輪のモータのみを駆動する。運転者はUターンを行うものの、曲がり切れず、一旦停止する。この時、運転者は、前後進切り替えスイッチを押し、前輪モータの極性を反転させる。この状態は、特殊な状態であるため、警告音や警告表示を行う。運転者は、周囲の安全を確認したのち、クラッチレバーを握ったまま、アクセルを開け、切り返しのため後進する。切り返しに必要な距離を後進し、停止した際には、コンピュータが停止状態を把握し、前輪モータの極性を戻し、警告音や警告表示を消灯させる。運転者は、再度、[モータのみによる走行モード]でクラッチを切ったまま、アクセルを徐々に開けてUターンを完了させ、その後通常の走行モードに移行する。
【実施例3】
【0027】
本発明による実施例3を説明する。停止している自動二輪車を、運転者が車体の横に立って押したり、引いたりしながら位置を変化させる説明する。運転者は、車体の横に立ち、両手でハンドルを握っている。一般には、右手で前ブレーキを操作できるようにしながら、車体を押し引きしながら、位置変更を行う。本発明の自動二輪車の場合、運転者は左手でクラッチレバーを握り、右手でブレーキとアクセルを操作する。前に出すときは、わずかにアクセルをひらけば、車体を押す力は少なくてすむ。同様に、車体を引くときは、前後進切り替えスイッチを押し、前輪モータの極性を反転させる。この状態で、車体を引く力は少なくてすむ。大型で重量のある自動二輪車でも、本発明によれば位置変更が容易に行うことができる。
図1
図2
図3
図4