IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シヤチハタ株式会社の特許一覧

特許7138337スタンプ台用、朱肉用又は浸透印用油性インキ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】スタンプ台用、朱肉用又は浸透印用油性インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20220909BHJP
【FI】
C09D11/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018146107
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020019911
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古谷 眞
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-106308(JP,A)
【文献】特開昭60-023463(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107778968(CN,A)
【文献】特開2001-329192(JP,A)
【文献】特開2006-028388(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204018(WO,A1)
【文献】特開2006-270070(JP,A)
【文献】特開2008-127521(JP,A)
【文献】特開平11-43633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0003134(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾性油及び/又は半乾性油からなる溶剤と、着色剤と、前記溶剤に可溶な樹脂と、酸化防止剤と、を配合し、前記乾性油及び/又は前記半乾性油に対する前記酸化防止剤の配合比率が0.0015~0.0045であることを特徴とするスタンプ台用、朱肉用又は浸透印用油性インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続気泡を有する多孔質印字体を用いた浸透印に含浸させて使用される浸透印用油性インキや、フェルト等のインキパッドに含浸させて使用されるスタンプ台用油性インキや、フェルト等のインキパッドに含浸させて使用される朱肉用油性インキ(朱油)などの油性インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヒマシ油脂肪酸誘導体等の不揮発性溶剤を主溶剤とした浸透印用油性インキが知られている(例えば、特許文献1、2)。このタイプの油性インキは、押印後、インキが蒸発乾燥することが無い為、紙等にインキを浸透させる事で、表面上乾燥させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-127521号公報
【文献】特許4223125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2記載の油性インキは、不乾性油のヒマシ油脂肪酸誘導体を使用している為、浸透したインキは、表面上は乾燥してみえるが、紙等の内部では液体として存在している。その為、浸透インキと相溶性のある溶剤が印影に接触した場合、浸透インキが前記溶剤に溶解することで、印影に滲みが生じる可能性があった。ここで、不乾性油とは、空気中の酸素と重合反応しない為、固形化せず、液体の状態を維持する事ができる油のことである。
【0005】
本発明は、紙等の浸透面に捺印した印影に、浸透インキの溶剤と相溶性のある溶剤が接触したとしても印影に滲みが発生しない強固な印影を形成することができる油性インキを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために完成された第1の発明は、乾性油及び/又は半乾性油からなる溶剤と、着色剤と、前記溶剤に可溶な樹脂と、酸化防止剤と、を配合し、前記乾性油及び/又は前記半乾性油に対する前記酸化防止剤の配合比率が0.0015~0.0045であることを特徴とするスタンプ台用、朱肉用又は浸透印用油性インキである。
【発明の効果】
【0007】
上記の課題を解決するために完成された第1の発明は、乾性油及び/又は半乾性油からなる溶剤と、着色剤と、前記溶剤に可溶な樹脂と、酸化防止剤と、を配合し、前記乾性油及び/又は前記半乾性油に対する前記酸化防止剤の配合比率が0.0015~0.0045であることを特徴とするスタンプ台用、朱肉用又は浸透印用油性インキである為、紙等の浸透面に捺印したインキは、紙内部に浸透し、経時的に酸素と重合反応することで固形化する。これは溶剤の揮発によって樹脂分が析出する固形化とは異なり、乾性油・半乾性油そのものが化学反応により変性したものである為、浸透インキと相溶性のある溶剤が接触しても前記溶剤により固形印影が溶解されることが無く、印影に滲みが発生しない強固な印影を得ることができる。
更に、インキパッドやスタンプパッド等に含浸したインキが消費され、残量が極僅かになると、インキの酸化重合が急速に進み、前記パッド表面が乾燥し、印判へのインキ付着量が急激に減少する。その為、前記パッドの交換時期が明白になると同時に、パッド表面が乾燥している為、パッド交換時にインキで指が汚れる心配もない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる溶剤は、乾性油・半乾性油である。ここで、乾性油・半乾性油とは、空気中の酸素と重合反応により固化する性質がある油である。乾性油・半乾性油は成分中の不飽和脂肪酸の量を示す指標であるヨウ素価によって分類する事ができ、ヨウ素価が130以上のものを「乾性油」、ヨウ素価が100~130のものを「半乾性油」という。ヨウ素価は値が大きい程、反応性が高く、酸化重合されやすい。
乾性油として、例えば、大豆油、再生大豆油、ケシ油、くるみ油、菜種油、ヤシ油、麻実油、アマニ油、カヤ油、キリ油、ゴマ油、サフラワー油、ヒマワリ油、ニガウリ油、チアシードオイル等を用いることができる。また、不乾性油を化学反応により乾性油にしたものも使用可能であり、具体的には、伊藤製油(株)製の脱水ヒマシ油(DCO)、重合脱水ヒマシ油(DCO Z-3)等が挙げられる。
また、半乾性油としては、例えば、米糠油、綿実油、コーン油、柚子油、ピスタチオイル、オレンジシードオイル、アルガンオイル、ペカンナッツオイル、トマトシードオイル等を用いることができる。
これらの乾性油・半乾性油は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができ、その配合量はインキ全量に対して30~99重量%が使用され、インキ全量に対して40~95重量%を用いるのが好ましい。
【0009】
本発明に用いる着色剤としては顔料を用いる。顔料としては、特に制限されることなく従来公知の有機顔料及び無機顔料を単独又は混合して使用することができる。例えば、アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、チタン白、パール顔料、酸化鉄・アルミニウム粉・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。
これらの顔料は通常、ニトロセルロース、エチルセルロース、テルペンフェノール、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどの公知の樹脂などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。
また、着色剤として染料を配合することを許容する。染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の油溶性染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
【0010】
樹脂としては、前記溶剤に溶解する樹脂を選択し、インキ全量に対して0.5~40重量%の範囲にて使用できる。具体的にはアルキッド樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ロジン樹脂、ロジンマレイン酸樹脂、エチルセルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体等である。
【0011】
他に必須構成要素として酸化防止剤を用いる。本発明の油性インキは乾性油・半乾性油を溶剤として用いる為、インキパッド、スタンプパッド等に含浸させた本インキの酸化重合によるパッド表面の乾燥を防止する必要がある。この酸化防止剤はインキの酸化重合を抑制する為に配合するものである。
本発明に用いる酸化防止剤の具体例として、ハイドロキノン、カテコール、グアヤコール、オイゲノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(B.H.T.)、ブチルヒドロキシアニソール(B.H.A.)、2,6-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-チオビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチルデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス-〔メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタントコフェロール等が挙げられる。本発明では、前記酸化防止剤を単独、あるいは複数混合して使用することができ、特に2,2′-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-チオビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチルデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)が好ましく用いられる。
酸化防止剤の配合量が多いと、インキパッド、スタンプパッド等の乾燥は防止できるが、紙等に浸透したインキが酸化重合しない、或いは、反応速度が著しく低下する。一方、配合量が少ないと、インキパッド表面の乾燥時間が早くなり、製品寿命が短くなる。
以上を考慮し、酸化防止剤がインキ全量に対して0.05~1.0重量%が使用され、0.1~0.3重量%が特に好ましい。
【0012】
本発明では、他の各種物質を添加することもできる。例えば、防腐剤として、安息香酸ナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンナトリウム塩、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンアルキルアミン塩、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール-4‘-N-ドデシルベンゾールスルフォン、酸顔料沈降防止剤・にじみ防止剤として沈降性硫酸バリウム、クレー、親水性シリカ、疎水性シリカ、超微粒子状無水シリカ、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウムなどの体質顔料や、顔料分散剤としてソルビタントリオレエート、ソルビタンモノステアレートなどや、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビタミンC、ビタミンEなどを添加してもよい。
【0013】
本発明のインキは、上記物質を適量選択して、撹拌機にて常温以上100℃以下で約10時間混合分散して製造する。本発明では、粘度を自由に設定する事ができるが、特に、500~700mPa・s(25℃)に調整する事が好ましい。この範囲以上ではインキ浸透するまでに時間がかかりすぎ、これ以下では滲みを防止する事が困難だからである。
【0014】
実施例及び比較例のインキ配合を表1に示す。
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
印影滲み耐性試験
(試験方法)
シヤチハタ株式会社製塗布用スタンプ台(品番:HGU-1EU)に各インキを含浸させ、PPC用紙に押印した後、室温で24時間放置した。その後、印影表面に、各インキに使用している溶剤を数滴滴下した際の印影を観察し、滲みが見られない場合は「○」、滲みが見られる場合を「×」として評価した。
摩擦耐性試験
(試験方法)
印影滲み耐性試験と同様に、PPC用紙に捺印した印影を24時間放置した。その後、印影表面にキムワイプ(日本製紙クレシア製)を被せ、更にその上から1kgの分銅を乗せた状態で前記キムワイプを前後に3往復させ、印影の耐摩擦性を確認した。印影に文字ズレが見られない場合は「○」として評価した。
【0015】
表1の実施例1~4、比較例1から明らかなように、主溶剤を不乾性油のヒマシ油脂肪酸誘導体から、乾性油のアマニ油、胡麻油、サフラワー油、半乾性油の綿実油に変更することで印影滲み耐性が飛躍的に向上している。
乾性油・半乾性油を主溶剤として配合したインキは、紙等の中に浸透した後、経時的に酸素と重合反応することで固形化する。これは溶剤の揮発によって樹脂分が析出する固形化とは異なり、乾性油・半乾性油そのものが化学反応により変性したものである為、同系統の溶剤が接触しても前記溶剤により固形印影が溶解されることが無い為、強固な印影を得ることができる。
【0016】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う油性インキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。