(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】高分子化合物の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C08G 61/10 20060101AFI20220909BHJP
【FI】
C08G61/10
(21)【出願番号】P 2018148883
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】神原 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 純平
(72)【発明者】
【氏名】市毛 明斗
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-237828(JP,A)
【文献】特開2002-161130(JP,A)
【文献】特開2003-155476(JP,A)
【文献】特開2015-40254(JP,A)
【文献】特開2016-199658(JP,A)
【文献】Akito Ichige, et al.,Facile Synthesis of Thienopyrroledione-Based π-Conjugated Polymers via Direct Arylation Polycondensation under Aerobic Conditions,Macromolecules,2018年,Vol. 51, No.17,Pages 6782-6788,https://doi.org/10.1021/acs.macromol.8b01289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00- 61/12
CAPlus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物との直接アリール化反応によって下記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物の製造方法であって、
有機溶媒、前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物、触媒、および前記触媒に配位可能な添加物を含有する組成物を、
大気雰囲気と連通している反応槽内で加熱
して前記有機溶媒を沸騰させる加熱工程と、
前記加熱工程による前記有機溶媒の蒸気を冷却装置によって冷却して有機溶媒を前記組成物に還流させる冷却工程と、
を含む高分子化合物の製造方法。
【化1】
(式中、Ar1およびAr2は、それぞれアリーレン基を表し、Hは水素原子を表し、Xは独立してハロゲン原子を表し、前記アリーレン基は、置換基を有していてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい)
【請求項2】
前記有機溶媒に、脱水処理が施されていない有機溶媒を用いる、請求項
1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
前記反応槽内の気相部と前記外部とを連通する連通部中の気体が通気可能な吸湿部によって除湿される、請求項1
または2に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
前記組成物は、塩基をさらに含有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
前記塩基に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩を用いる、請求項
4に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
前記反応槽は、大気圧の雰囲気と連通している、請求項1~
5のいずれか一項に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物との直接アリール化反応によって下記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物を製造するための製造装置であって、
有機溶媒、前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物、触媒および前記触媒に配位可能な添加物を含有する組成物、製造される高分子化合物を収容している反応槽と、
前記反応槽中の前記組成物を加熱
して前記有機溶媒を沸騰させるための加熱装置と、
前記反応槽で発生した前記有機溶媒を含む蒸気を冷却して前記反応槽に還流させるための冷却装置と、
前記反応槽内の気相部と前記反応槽の
大気雰囲気とを連通する連通部と、
を備えている高分子化合物の製造装置。
【化2】
(式中、Ar1およびAr2は、それぞれアリーレン基を表し、Hは水素原子を表し、Xは独立してハロゲン原子を表し、前記アリーレン基は、置換基を有していてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい)
【請求項8】
前記連通部に配置され、前記連通部中の気体を除湿するための吸湿部をさらに有する、請求項
7に記載の高分子化合物の製造装置。
【請求項9】
前記連通部は、前記反応槽内の気相部と大気圧の雰囲気とを連通している、請求項
7または
8に記載の高分子化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の一態様として、有機EL素子の材料、あるいは有機太陽光電池の材料として利用可能な高分子化合物が知られている。このような高分子化合物の製造方法の一態様として、二種類の芳香族化合物を縮合重合させることによって高分子化合物を得る、直接アリール化反応による製造方法が知られている。二種類の芳香族化合物の一方には、芳香族環に水素原子が結合している芳香族化合物が用いられ、他方には、芳香族環にはハロゲン原子が結合している芳香族化合物が用いられる。
【0003】
上記の直接アリール化反応による製造方法の例としては、モノマーである上記の二種類の芳香族化合物、触媒、および前記触媒に配位可能な添加物を含有する組成物を加熱して縮合重合を行う方法が知られている。この方法では、触媒の失活を予防する目的で、窒素雰囲気で反応を行い、有機溶媒には脱水、脱気処理を施した有機溶媒を用いる。また、反応系は、窒素雰囲気を厳密に維持するために大気との接触が遮断されており、反応温度は、有機溶媒の沸点近傍であり、沸点を超える温度であり得る(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Junpei Kuwabara et. al.,The effect of a solvent on direct arylation polycondensation of substituted thiophenes, Polym. Chem., 2015, 6, p.891-895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の製造方法においては、窒素雰囲気で反応を行うための設備を要する。また、有機溶媒に脱水、脱気処理を施す必要がある。さらに、沸点を超える温度で反応させる場合は、耐圧容器を用いる必要がある。したがって、上記の直接アリール化反応による製造方法には、より簡便な製造方法が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、直接アリール化反応による高分子化合物の製造において、簡便な製造を可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高分子化合物の製造方法は、下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物との直接アリール化反応によって下記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物の製造方法であって、有機溶媒、前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物、触媒、および前記触媒に配位可能な添加物を含有する組成物を、外部と連通している反応槽内で加熱する加熱工程と、前記加熱工程による前記有機溶媒の蒸気を冷却装置によって冷却して有機溶媒を前記組成物に還流させる冷却工程と、を含む。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高分子化合物の製造装置は、下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物との直接アリール化反応によって下記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物を製造するための装置であって、有機溶媒、前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物、触媒および前記触媒に配位可能な添加物を含有する組成物を収容している反応槽と、前記反応槽中の前記組成物を加熱するための加熱装置と、前記反応槽で発生した前記有機溶媒の蒸気を冷却して有機溶媒を前記組成物に還流させるための冷却装置と、前記反応槽内の気相部と前記反応槽の外部とを連通する連通部と、を備えている。
【0009】
【0010】
上記の式中、Ar1およびAr2は、それぞれアリーレン基を表し、Hは水素原子を表し、Xは独立してハロゲン原子を表す。換言すれば、Ar2に結合している2つのXの各々は、同じハロゲン原子であってもよいし、互いに異なるハロゲン原子でもよい。前記アリーレン基は、置換基を有していてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、直接アリール化反応による高分子化合物を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示した製造方法において用いる製造装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
[直接アリール化反応]
本実施形態に係る高分子化合物の製造方法は、下記式(1)で表される化合物(「第一モノマー」とも言う)と下記式(2)で表される化合物(「第二モノマー」とも言う)との直接アリール化反応によって下記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物を製造する方法である。本実施形態では、直接アリール化反応について説明したうえで、本実施形態に係る製造方法および当該製造方法において用いる製造装置について説明する。
【0015】
第一モノマーおよび第二モノマーには、例えば特開2012-251121号公報に記載されているような、直接アリール化反応に適用可能な化合物を適用することが可能である。
【0016】
【0017】
式中、Ar1およびAr2は、それぞれアリーレン基を表し、Hは水素原子を表し、Xは独立してハロゲン原子を表す。
【0018】
アリーレン基は、二価の環状芳香族基である。アリーレン基は、Ar1とAr2とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、式(3)で表される高分子化合物において、Ar1のアリーレン基は、同じであってもよいし異なっていてもよく、また、Ar2のアリーレン基も、同じであってもよいし異なっていてもよい。アリーレン基は、置換基を有していてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい。当該ヘテロ原子は、アリーレン基の環構造中に含まれていてもよい。また、アリーレン基は、芳香族環を含む複数の環構造を含んでいてよく、複合環(縮合多環)構造を有していてもよいし、芳香族環基を含む複数の環構造の連結によって構成されていてもよい。
【0019】
アリーレン基を構成する環の数は、例えば、得られる高分子化合物の用途に応じて決めることができるが、多すぎると製造時におけるモノマーの溶解性が不十分となることがある観点から、好ましくは、例えば1以上5以下である。
【0020】
アリーレン基が有してよい置換基は、第一モノマーおよび第二モノマーが直接アリール化反応に適用可能な範囲において、適宜に決めることが可能である。置換基は、ヘテロ原子を含んでいてもよい。当該置換基の例には、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基、および、フッ素原子で置換されていてもよいアルキルチオ基、が含まれる。
【0021】
上記の置換基中に含まれる飽和炭化水素基は、直鎖構造の炭化水素基であってもよいし、分枝構造の炭化水素基であってもよい。飽和炭化水素基における炭素数は、限定されず、式(3)の高分子化合物に対する所期の機能に応じて適宜に決めることができる。当該炭素数が多すぎると、直接アリール化反応における第一モノマーおよび第二モノマーの取り扱い性が低くなることがある。当該炭素数は、1以上20以下であることが好ましく、1以上10以下であることがより好ましい。
【0022】
ハロゲン原子は、第二モノマーにおいて同じでも異なっていてもよい。ハロゲン原子は、直接アリール化反応を実施可能な範囲において適宜に選ぶことができ、その例には、塩素、臭素およびヨウ素が含まれる。好ましくは、臭素またはヨウ素であり、第二モノマーにおいて同一であることが好ましい。
【0023】
第一モノマーおよび第二モノマーは、直接アリール化反応に使用可能な組み合わせで用いられる。このような使用可能性は、触媒と第一モノマーの炭素-水素単結合の間における、Concerted metallation-deprotonation(CMD)機構によるメタル化反応のギブスの自由エネルギーによって推定することができ、実験によって確認することができる。当該自由エネルギーは、公知の方法によって求めることができ、例えば電子計算機で算出することができる。
【0024】
第一モノマーの例には、下記式(1-1)で表される化合物、および、下記式(1-2)で表される化合物、が含まれる。下記式(1-1)および式(1-2)中、Rは、前述したものと同じである。なお、式(1-1)および式(1-2)において、2個のRは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。第一モノマーのより具体的な例には、下記式(1-2-1)で表される化合物、および、下記式、(1-2-2)で表される化合物、が含まれる。
【0025】
【0026】
第二モノマーの例には、下記式(2-1)で表される化合物が含まれる。式(2-1)中、Xは、前述と同じ意味を表す。環Aおよび環Bは、それぞれ、置換基を有していてもよい芳香族炭素環を表す。置換基は、前述した式(1-1)および式(1-2)のそれと同じである。また、式(2-1)中のZは、下記式(Z-1)~式(Z-3)で表される2価の基を表す。式(Z-1)~式(Z-3)中、Rは、前述と同じ意味を表す。第二モノマーのより具体的な例には、下記式(2-1-1)で表される化合物、および、下記式、(2-1-2)で表される化合物、が含まれる。
【0027】
【0028】
本実施形態で製造される高分子化合物は、式(3)で表される構成単位を含む。当該高分子化合物の分子量は、用途に応じて適宜に決めることが可能である。当該高分子化合物の分子量は、例えば有機電界発光(EL)の発光層材料などの機能性高分子の用途では、数平均分子量で500以上500,000以下であることが好ましい。また、当該高分子化合物における分子量分布(数平均分子量に対する重量平均分子量の割合)は、上記の用途では、1以上5以下であることが好ましい。式(3)の高分子化合物の分子量は、ポリスチレンの標準品を使用するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などの公知の方法によって求めることが可能である。高分子化合物の分子量および分子量分布は、直接アリール化反応における反応温度または反応時間によって調整することが可能である。
【0029】
本実施形態で製造される高分子化合物は、本実施形態の効果を奏する範囲において、前述の構成単位以外の他の構成を含んでいてもよい。他の構成は、高分子化合物における一部の構成単位に含まれていてもよいし、全部の構成単位に含まれていてもよい。当該他の構成の例には、後述する第一添加物の残基、が含まれる。
【0030】
式(3)の高分子化合物における分子構造は、核磁気共鳴分光法(NMR)およびマトリックス支援レーザ脱離イオン化法による飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)などの公知の機器分析によって特定することが可能である。
【0031】
[製造方法]
本実施形態の製造方法M1について、
図1を参照して説明する。
図1は、製造方法M1の流れを示すフローチャートである。
図1に示すように、製造方法M1は、収容工程であるステップS11と、加熱工程であるステップS12と、冷却工程であるステップS13とを含む。冷却工程は、通常、加熱工程と実質的に同時に行われる。
【0032】
(収容工程)
収容工程であるステップS11は、有機溶媒、第一モノマー、第二モノマー、触媒および添加物を含有する組成物をフラスコ槽(反応槽)に収容する工程である。本実施形態においては、有機溶媒として、市販品を購入した状態の有機溶媒をそのまま使用する。また、本実施形態においては、組成物を含むフラスコ槽の内部は、冷却装置を介してフラスコ槽の外部と連通している。このため、本実施形態においては、フラスコ槽内の気圧は、概ね大気圧に保つことができる。
【0033】
有機溶媒は、第一モノマーおよび第二モノマーに対して実質的な反応性を有さず、外部に連通する反応系内で直接アリール化反応を進行させるのに十分に高い温度の沸点を有する範囲において、適宜に選ぶことができる。有機溶媒の沸点は、低すぎると直接アリール化反応の進行が不十分となることがあり、高すぎると組成物中の成分または反応生成物の熱劣化が生じることがある。このような観点から、有機溶媒の沸点は、大気圧下で60℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
【0034】
有機溶媒は、一種でもよいし二種以上の混合溶媒であってもよい。有機溶媒の例には、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランおよびシクロペンチルメチルエーテルが含まれる。
【0035】
有機溶媒は、当該溶媒中の水分を除去する脱水処理、および、当該溶媒中のガス(特に酸素)を除去する脱気処理などの処理が施されていてもよいが、本実施形態では、後述するが、有機溶媒は、脱水処理が施されていなくてもよい。その理由については後に詳述する。有機溶媒についてのこのような前処理を要さないことは、直接アリール化反応をより一層簡便に行う観点から好ましい。なお、処置されていない有機溶媒の例には、市販品および回収溶媒が含まれる。また、当該有機溶媒の含水量は、触媒の失活を抑制する観点から少ないことが好ましく、例えば、1000質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましい。
【0036】
触媒は、その存在下で第一モノマーと第二モノマーの直接アリール化反応を生じさせる成分であり、例えば特開2012-251121号公報に記載の遷移金属化合物である。当該遷移金属化合物は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、パラジウム化合物、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、ニッケル化合物、鉄化合物および銅化合物が含まれる。たとえば、パラジウム化合物の具体的な例には、パラジウム[テトラキス(トリフェニルホスフィン)]、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウムアセテート、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、および、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、が含まれる。
【0037】
組成物中における触媒の含有量は、直接アリール化反応を十分に進行させることができる量であればよく、例えば前述のパラジウム化合物の量は、第一モノマーの量に対して0.1モル%以上50モル%以下の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0038】
添加物は、触媒に対して配位子として作用する。添加剤は、有機溶媒中で触媒に適度に配位する。添加剤は、触媒へ配位することにより触媒の失活を抑制し、第一モノマーおよび第二モノマーに対しては触媒を有効に作用させる。添加物は、一種でも二種以上でもよいが、互いに異なる作用を呈する以下の第一添加物および第二添加物を含むことが好ましい。
【0039】
第一添加物は、第一モノマーと第二モノマーの直接アリール化反応を促進させる観点から好ましい。第一添加物の例には、ホスフィン化合物、アミン化合物およびピリジン類が含まれる。
【0040】
ホスフィン化合物の例には、トリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアリールモノアルキルホスフィンおよびモノアリールジアルキルホスフィンが含まれる。トリアリールホスフィンの例には、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィンおよびトリ(o-メトキシフェニル)ホスフィンが含まれる。トリアルキルホスフィンの例には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィンおよびビス(tert-ブチル)メチルホスフィンが含まれる。モノアリールジアルキルホスフィンの例には、ビス(シクロヘキシル)ビフェニルホスフィンおよびビス(tert-ブチル)ビフェニルホスフィンが含まれる。アミン化合物の例には、トリアリールアミン、トリアルキルアミン、ジアリールモノアルキルホスフィンおよびモノアリールジアルキルホスフィンが含まれる。ピリジン類の例には、ピリジンおよびビピリジンが含まれる。
【0041】
第一添加物は、好ましくはホスフィン化合物であり、より好ましくは、トリアルキルホスフィンであり、さらに好ましくは、トリシクロヘキシルホスフィンである。
【0042】
組成物中における第一添加物の含有量は、上記の反応を十分に促進させる観点から、触媒と等モル量であることが好ましい。また、組成物中における第一添加物の含有量は、多すぎても効果が頭打ちになることから、触媒の2倍モル量以下であることが好ましい。
【0043】
第二添加物は、有機酸であり、式(3)の高分子化合物の分子量をより大きくする観点から好ましい。第二添加物の例には、カルボン酸およびスルホン酸が含まれる。第二添加物は、好ましくは炭素原子数が1以上20以下の有機酸であり、さらに好ましくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ピバル酸、安息香酸であり、特に好ましくはピバル酸である。
【0044】
組成物中における第二添加剤の含有量は、後述する塩基を組成物に添加する場合には、塩基に対して0.01モル%以上90モル%以下であることが好ましく、0.1モル%以上70モル%以下であることがより好ましく、2モル%以上30モル%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
組成物は、本実施形態の効果を奏する範囲において、前述した各種成分以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。このような他の成分の例には、塩基および銀塩が含まれる。
【0046】
直接アリール化反応では、第一モノマーと第二モノマーとの縮合によりハロゲン化水素が発生する。塩基は、発生したハロゲン化水素を中和する。よって、組成物が塩基を含有することは、ハロゲン化水素の処理施設が不要となることから、製造装置をより簡素にすることが可能となる。また、組成物が塩基を含有することは、ハロゲン化水素(酸)による直接アリール化反応への影響を抑える観点から好ましい。さらに、組成物が塩基を含有することは、ハロゲン化水素の排出が防止されることから、周辺環境への負荷を軽減する観点から好ましい。
【0047】
塩基は一種でもそれ以上でもよい。塩基の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウムおよびtert-ブトキシカリウムが含まれる。
【0048】
塩基にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩を用いると、ハロゲン化水素の中和によって塩基がハロゲン化塩、二酸化炭素および水に分解される。よって、塩基にアルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩を用いることは、周辺環境への負荷をより一層軽減する観点から好ましい。
【0049】
また、銀塩は、第一モノマーまたは第二モノマーの種類に応じて、直接アリール化反応を促進することがある。銀塩は一種でもそれ以上でもよい。銀塩の例には、炭酸銀、酢酸銀、ピバル酸銀および酸化銀が含まれる。銀塩は、本実施形態の効果に加えて、銀塩を添加することによる効果が得られる量で適宜に用いられ得る。
【0050】
(加熱工程)
加熱工程であるステップS12は、組成物を、外部と連通している反応槽内で加熱する工程である。この加熱工程により、組成物中の有機溶媒は、沸騰する。加熱工程での加熱は、有機溶媒の沸点に応じて適宜に制御される。たとえば、加熱工程は、有機溶媒の沸点よりも十分に高い温度の熱媒を用いて実行される。有機溶媒の沸点は、直接アリール化反応を進行させるのに十分に高い温度であればよい。
【0051】
反応槽内と連通する「外部」とは、反応槽内と連通することによって、還流による内圧の上昇が調整される部分であればよい。このような「外部」の例には、大気雰囲気、および、反応系内の雰囲気を不活性ガスの雰囲気に維持するように不活性ガスを供給するための不活性ガス供給装置、が含まれる。ただし、「外部」として不活性ガス供給装置を採用し、反応槽内と不活性ガス供給装置とを連通させる場合であっても、各々を接続する接続部は、気密性をもたなくてもよい。換言すれば、製造方法M1においては、反応槽内に不活性ガスを充満させた状態で、反応槽内を気密に保つ必要はない。
【0052】
従来から直接アリール化反応は、窒素およびアルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行われる。不活性ガス雰囲気で加熱工程を実施することは、触媒の失活を抑制し、収率を高める観点から好ましい。しかしながら、後述する理由により、本実施形態では、加熱工程を、外部、例えば大気雰囲気、と連通した状態で行うことが可能である。加熱工程を外部と連通大気雰囲気で行うことは、反応系内の雰囲気の置き換えが不要であることから、直接アリール化反応をより一層簡便に行う観点から好ましい。
【0053】
加熱工程(ステップS12)では、直接アリール化反応において、有機溶媒が外部と連通している反応系内で還流している(沸騰と凝縮とを繰り返している)ことにより、収容工程(ステップS11)においてフラスコ内に充填した有機溶媒中に、仮に溶存酸素が存在する場合であっても、有機溶媒中の酸素は、反応槽内の溶媒蒸気雰囲気中に放出される。すなわち、有機溶媒中の酸素の含有量は、還流を十分な時間に亘って実施することにより十分に低減される。
【0054】
また、有機溶媒の蒸気は一般に空気よりも重い。したがって、有機溶媒が還流していることにより、加熱されている組成物中の有機溶媒から放出された酸素は、組成物の表面上に滞留する有機溶媒の蒸気に阻まれて組成物中に戻りにくい。したがって、有機溶媒は、酸素の含有量が十分に低い状態に保たれる。
【0055】
このため、本実施形態の製造方法では、有機溶媒の前処理(脱水処理、脱酸素処理など)を実施しなくても、また不活性ガスへの雰囲気の置換を実施しなくても、上記組成物中の触媒の失活が十分に抑制される。よって、本製造方法では、有機溶媒の前処理および不活性ガスへの雰囲気の置換を伴う従来の直接アリール化反応による製造方法と同様の式(3)で表される高分子化合物が得られる。
【0056】
(冷却工程)
冷却工程であるステップS13は、加熱工程による有機溶媒の蒸気を冷却装置によって冷却して有機溶媒を組成物に還流させる工程である。冷却装置には、蒸気の凝集液を組成物(反応槽)に戻す通常の冷却機器を用いることができる。
【0057】
(その他の工程)
本実施形態の製造方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した加熱工程および冷却工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。このような他の工程の例には、前述した収容工程のほか、粗生成物を洗浄する洗浄工程、および、粗生成物を精製する精製工程、が含まれる。これらの工程は、公知の技術を利用して行うことが可能である。
【0058】
本実施形態の製造方法は、以下に説明する製造装置によって実施することが可能である。
【0059】
[製造装置]
上述した製造方法M1において用いる製造装置の一例である製造装置1について、
図2を参照して説明する。
図2は、製造装置1の構成を示す模式図である。
【0060】
製造装置1は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との直接アリール化反応によって式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物を製造するための装置である。
【0061】
図2に示すように、製造装置1は、フラスコ11、オイルバス12、ジムロート冷却管13、塩化カルシウム管133、充填相134、チューブ135、136および冷媒循環部137を有する。
【0062】
フラスコ11は、前述した収容工程(ステップS11)において説明した組成物である組成物Sを収容している。組成物Sを収容しているフラスコ11は、反応槽の一例である。
【0063】
オイルバス12は、組成物Sを加熱して有機溶媒を沸騰させるための装置である。オイルバス12は、本体121とそれに収容されているオイル122とを有する。本体121は、不図示の温度調整装置(ヒータ)を有している。オイル122は、熱媒に該当する。このようにオイルバス12は、所望の温度にオイル122の温度を調整することが可能である。オイルバス12は、加熱工程(ステップS12)を実施する加熱装置の一例である。
【0064】
ジムロート冷却管13は、フラスコ11内で発生した有機溶媒の蒸気を冷却して有機溶媒を組成物Sに還流させるための装置である。ジムロート冷却管13は、フラスコ11の開口部に気密に嵌合している外筒部131と、その内部にらせん状に密に配置されている冷却管部132と、冷却管部132の両端に接続されて外部に延出する接続管部132a、132bと、接続管部132a、132bに接続されるチューブ135、136と、チューブ135、136のそれぞれに接続されている冷媒循環部137とを有する。外筒部131の頂部の開口部には、塩化カルシウム管133の開放された一端が気密に嵌合している。ジムロート冷却管13は、冷却工程(ステップS13)を実施する冷却装置の一例である。
【0065】
塩化カルシウム管133は、その両端が開放されたガラス管であり、通過するガス中の水分を除去するための器具である。塩化カルシウム管133の内部には、通気性の充填相134を充填されている。充填相134は、塩化カルシウムの顆粒で主に構成されており、その両端は例えば脱脂綿で通気自在に塞がれている。この構成によれば、互いに連通しているフラスコ11内の空間(反応槽内の気相部)及び外筒部131内の空間は、塩化カルシウム管133を介して、フラスコ11およびジムロート冷却管外の空間と通気自在に繋がる。本実施形態において、外部であるフラスコ11およびジムロート冷却管外の空間は、大気圧である空気である。すなわち、フラスコ11内はフラスコ11外の大気と圧力差なく連通しており、この場合フラスコ11内の空間及び外筒部131内の空間の気圧は、大気圧に保たれる。このように、塩化カルシウム管133は、連通部に該当する。また、塩化カルシウム管133における充填相134は、連通部に配置され、連通部中の気体を除湿するための吸湿部に該当する。
【0066】
本実施形態においては、塩化カルシウム管133の末端部(すなわち、ジムロート冷却管13と逆側の端部)は、開放されている(
図2参照)。しかし、塩化カルシウム管133の末端部には、例えばゴム栓や弁などのガスの流量を制限する部材が配置されていてもよい。
【0067】
なお、本実施形態では、連通部中の気体の水分を除去するために塩化カルシウムを用いているが、充填相134を構成する充填剤は、吸湿部として機能するものであれば塩化カルシウムに限定されない。
【0068】
冷媒循環部137は、不図示の冷媒送液部と冷媒収容部と温度調整部とを含む。たとえば、冷媒送液部は、チューブ136に冷媒を送液し、冷媒収容部は、チューブ135から送られる冷媒を収容する。温度調整部は、冷媒収容部が収容した冷媒を冷却して所期の温度に調整して冷媒送液部へ供給する。このように、冷媒循環部137は、チューブ136からジムロート冷却管13に冷媒を供給し、冷却管部132で蒸気の冷却に供されて加熱された冷媒を、チューブ135を介して受け取る。受け取られた冷媒は、温度調整部で冷却されて所望の温度に調整される。温度が調整された冷媒は、チューブ136からジムロート冷却管13に再び供給される。このようにして冷媒は循環している。
【0069】
本実施形態の製造装置は、本実施形態の効果を奏する範囲において、前述した構成要素以外の他の構成要素をさらに含んでいてもよい。このような他の構成要素の例には、オイルバス12が載置される昇降台14が含まれる。
【0070】
製造装置は、不図示のクランプによって支持されている。昇降台14によってオイルバス12の位置を上げると、フラスコ11がより深くオイル122に浸かり、フラスコ11内部がより一層加熱される。昇降台14によってオイルバス12の位置を下げると、フラスコ11はオイル122の液面上に位置し、フラスコ11の内部の加熱が停止される。オイルバス12の上げ下げによって組成物(有機溶媒)の温度が調整される。
【0071】
(製造装置の変形例)
本実施形態の製造装置は、反応系内の圧力を調整するための圧力調整部をさらに有していてもよい。圧力調整部は、たとえば、連通部に接続され、反応槽内が正圧の時に連通部の連通路を開く圧力調整弁であってもよい。このような圧力調整弁を製造装置が有すると、反応系への外気の混入をより一層抑制することが可能となる。
【0072】
また、冷媒循環部は、冷媒供給部であってもよい。たとえば、冷媒に水を用いる場合では、冷媒を供給する部分(例えば水栓)に一方のチューブを接続し、他方のチューブを洗面器内に配置することにより、一定の温度の冷媒を連続してジムロート冷却管へ供給することが可能となる。このような構成では、製造装置をより簡便に構成することが可能である。
【0073】
また、本発明を小スケールで実施する場合には溶媒として高沸点溶媒を使用してもよく、この場合には、冷却器は空冷の冷却器であってもよい。
【0074】
なお、前述の実施形態において、反応系内は外部と連通しており、反応系内の圧力は概ね大気圧となっているが、直接アリール化反応が進行する範囲において、反応系内の圧力を調整してもよい。たとえば、前述した圧力調整部として減圧装置を用い、上記の直接アリール化反応による高分子化合物の製造を減圧条件下で行ってもよい。この場合、原料および生成物に対してより高い溶解性を有する溶媒を使用できるなど、より多くの種類の有機溶媒を適用することが可能となることが期待される。また、有機溶媒中の溶存酸素が有機溶媒から放出されるだけでなく、反応系内の雰囲気からも除去されることが期待され、触媒の失活を抑制する効果の向上およびそれによる収率の向上が期待される。
【0075】
[まとめ]
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る高分子化合物の製造方法は、下記式(1)で表される化合物(第一モノマー)と下記式(2)で表される化合物(第二モノマー)との直接アリール化反応によって下記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物の製造方法である。当該製造方法は、有機溶媒、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、触媒、および触媒に配位可能な添加物を含有する組成物を、外部と連通している反応槽内で加熱する加熱工程と、当該加熱工程による有機溶媒の蒸気を冷却装置によって冷却して有機溶媒を組成物に還流させる冷却工程と、を含む。なお、下記式中、Ar1およびAr2は、それぞれアリーレン基を表し、Hは水素原子を表し、Xは独立してハロゲン原子を表す。アリーレン基は、置換基を有していてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0076】
【0077】
本実施形態の製造方法によれば、反応槽内を外部と連通させた状態で組成物を還流させる冷却工程を含んでいるため、不活性ガスを充満させた反応槽内を気密に保つことなく、直接アリール化反応によって上記式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物を製造することができる。したがって、窒素雰囲気下で行い、脱水、脱気処理を施した有機溶媒を用いる従来の直接アリール化反応による高分子化合物の製造方法に比べて、直接アリール化反応による高分子化合物を簡便に製造することができる。
【0078】
また、本実施形態において、加熱工程では反応槽は大気雰囲気と連通していることは、通常、反応系内の雰囲気の置き換えが不要であり気密に保つ必要がないことから、直接アリール化反応による高分子化合物の製造を簡便に行う観点からより一層効果的である。
【0079】
また、本実施形態において、有機溶媒に、脱水処理が施されていない有機溶媒(例えば、購入した状態のままの有機溶媒、いわゆる缶出しの有機溶媒)を用いることは、有機溶媒の前処理が不要となることから、直接アリール化反応をより一層簡便に行う観点からより一層効果的である。
【0080】
また、本実施形態において、反応槽内の気相部と外部とを連通する連通部中の気体が通気可能な吸湿部によって除湿されることは、反応槽内への水分の侵入を抑制し、触媒の失活を抑制する観点からより一層効果的である。
【0081】
本実施形態において、組成物が塩基をさらに含有すると、直接アリール化反応で副生するハロゲン化水素が塩基によって中和され、ハロゲン化水素の処理が不要となる。よって、組成物が塩基をさらに含有することは、式(3)で表される化合物をより一層簡便に製造する観点からより一層効果的である。
【0082】
また、組成物が塩基をさらに含有することは、ハロゲン化水素による直接アリール化反応への影響を抑制することが可能であるので、式(3)で表される高分子化合物を十分に高い収率で製造する観点からより一層効果的である。さらに、組成物が塩基をさらに含有することは、高分子化合物の製造装置からハロゲン化水素が外部に排出されることを防止することが可能となる。よって、直接アリール化反応による周辺環境への負荷をより軽減する観点からより効果的である。
【0083】
また、本実施形態において、塩基に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩を用いると、直接アリール化反応で副生するハロゲン化水素が、中和によって、塩、二酸化炭素および水に分解される。よって、上記の塩基を用いることは、直接アリール化反応による周辺環境への負荷をより一層軽減する観点からより一層効果的である。
【0084】
また、本実施形態において、反応槽が大気圧の雰囲気と連通していることは、通常、反応系内の圧力調整を実質的に行わなくてもよいなど、圧力調整が容易になるため、直接アリール化反応による高分子化合物の製造を簡便に行う観点からより一層効果的である。
【0085】
また、本実施形態における高分子化合物の製造装置は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との直接アリール化反応によって式(3)で表される構成単位を含む高分子化合物を製造するための装置である。当該製造装置は、有機溶媒、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、触媒および触媒に配位可能な添加物を含有する組成物を収容している反応槽と、反応槽中の組成物を加熱するための加熱装置と、反応槽で発生した有機溶媒の蒸気を冷却して有機溶媒を組成物に還流させるための冷却装置と、反応槽内の気相部と前記反応槽外の外部とを連通する連通部と、を備える。
【0086】
本実施形態の製造装置によれば、前述の製造方法と同様に、窒素雰囲気下で行い、脱水、脱気処理を施した有機溶媒を用いる従来の直接アリール化反応による高分子化合物の製造方法に比べて、直接アリール化反応による高分子化合物を簡便に製造することができる。
【0087】
本実施形態における高分子化合物の製造装置が、連通部に配置され、連通部中の気体を除湿するための吸湿部をさらに有することは、反応槽内への水分の侵入を抑制し、触媒の失活を抑制する観点からより一層効果的である。
【0088】
また、本実施形態において、連通部が反応槽内の気相部と大気圧の雰囲気とを連通していることは、反応系内の圧力調整を容易にし、直接アリール化反応による高分子化合物の製造を簡便に行う観点からより一層効果的である。
【0089】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0090】
[製造装置の準備]
図2に示すように、ナス型のフラスコ11にジムロート冷却管13を接続し、またフラスコ11に対して相対的に進退自在にオイルバス12を配置することにより、製造装置1を構成した。
【0091】
[実験例1]
フラスコ11に、下記の成分からなる組成物Sを下記の量で投入した。
【0092】
触媒 1.1mg(0.0050mmol)
第一添加物 1.8mg(0.0050mmol)
第二添加物 8.6μL(0.075mmol)
塩基 163mg(0.50mmol)
第一モノマー 66.3mg(0.25mmol)
第二モノマー 137mg(0.25mmol)
脱水トルエン 1.25mL
触媒は、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc)2)である。第一添加物(A)は、トリシクロヘキシルフォスフォニウムテトラフルオロボレート(PCy3・HBF4(A1))である。第二添加物は、ピバル酸(PivOH)である。塩基は、炭酸セシウム(Cs2CO3)である。第一モノマーは、5-(2-エチルヘキシル)チエノ-[3,4,c]-ピロール-4,6-ジオン(TPD)であり、式(1-2-1)で表される化合物に該当する。第二モノマーは、2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン(Br2-DOF)であり、式(2-1-1)で表される化合物に該当する。脱水トルエンは、市販のトルエン(1級)を蒸留したものである。脱水トルエン中の水の濃度は、検出限界(3質量ppm)以下である。
【0093】
次いで、ジムロート冷却管13の先端に窒素ガス供給装置を接続し、フラスコ11内の雰囲気を空気から窒素に置換した。次いで、フラスコ11中の液面近傍までオイルで浸かるようにオイルバス12をフラスコ11に向けて進出させ、オイルバス12によってフラスコ11中の組成物Sを100℃に24時間加熱した。次いで、フラスコ11内の組成物Sの温度を室温まで下げ、当該組成物S中の反応生成物をトルエンで抽出した。次いで、抽出した液をエチレンジアミン酢酸・2ナトリウム塩の水溶液(pH8)、1規定の塩酸水溶液、および蒸留水のそれぞれでこの順で洗浄した。次いで、洗浄した抽出液をろ過して不溶分を除去し、ろ過後の抽出液からトルエンを減圧留去した。次いで、得られた粗生成物を、クロロホルムに溶解し、メタノールにより再沈殿させて精製してポリマー1-1を得た。
【0094】
ポリマー1-1は、輝黄色の紛体であり、Br2-DOFとTPDとの直接アリール化反応によって重縮合した分子構造を有している。ポリマー1-1の収率は97%であり、数平均分子量Mnは54,800であり、分子量分布Mw/Mnは2.2であった。
【0095】
【0096】
なお、ポリマー1-1の分子構造は、Bruker社のAVANCE-600およびAVANCE-400 NMRスぺクトロメータを用いて、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)およびカーボン13核磁気共鳴(13C-NMR)により確認した。また、ポリマー1-1のMnは、島津製作所社製のProminence GPCシステムを用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。当該測定は、ポリスチレンゲルのカラムを用い、40℃にて標準ポリスチレンで更正した後に、溶離液としてクロロホルムを用いて行った。
【0097】
[実験例2]
ジムロート冷却管13の先端に窒素ガス供給装置を接続せずに開放したままとしてフラスコ11およびジムロート冷却管13内の雰囲気を大気雰囲気とし、トルエンに市販のトルエン(1級)をそのまま用い、オイルバス12の温度を120℃に設定して、反応系内が外気と連通している状態でトルエンをその還流温度まで加熱し、ジムロート冷却管13によってトルエンを還流させる以外は、実験例1と同様にしてポリマー1-2を得た。ポリマー1-2の収率は91%であり、数平均分子量Mnは176,800であり、分子量分布Mw/Mnは2.4であった。
【0098】
[実験例3]
ジムロート冷却管13の先端に窒素ガス供給装置を接続して反応系内を窒素雰囲気と連通させ、フラスコ11およびジムロート冷却管13内の雰囲気を窒素雰囲気に置換する以外は、実験例2と同様にしてポリマー1-3を得た。ポリマー1-3の収率は93%であり、数平均分子量Mnは195,400であり、分子量分布Mw/Mnは2.6であった。
【0099】
[実験例4]
PCy3・HBF4の量を4モル%に変更する以外は実験例2と同様にしてポリマー1-4を得た。ポリマー1-4の収率は91%であり、数平均分子量Mnは68,300であり、分子量分布Mw/Mnは2.6であった。
【0100】
[実験例5]
トルエンに代えてo-キシレンを用い、オイルバス12の温度を160℃に設定してo-キシレンをその還流温度まで加熱する以外は実験例2と同様にしてポリマー1-5を得た。ポリマー1-5の収率は91%であり、数平均分子量Mnは112,00であり、分子量分布Mw/Mnは2.3であった。
【0101】
[実験例6]
実験例3と同様にしてフラスコ11およびジムロート冷却管13内の雰囲気を窒素雰囲気に置換する以外は、実験例5と同様にしてポリマー1-6を得た。ポリマー1-6の収率は90%であり、数平均分子量Mnは123,900であり、分子量分布Mw/Mnは2.6であった。
【0102】
[実験例7]
PCy3・HBF4に代えてトリス(2-メトキシフェニルフォスフィン)(P(o-MeOPh)3(A2))を4モル%の量で用いる以外は実験例2と同様にしてポリマー1-7を得た。ポリマー1-7の収率は87%であり、数平均分子量Mnは32,000であり、分子量分布Mw/Mnは2.0であった。
【0103】
[実験例8]
オイルバス12の温度を100℃に変更する以外は実験例2と同様にしてポリマー1-8の製造を試みた。しかしながら、ポリマー1-8の収率は0%であった。
【0104】
[実験例9]
PCy3・HBF4の量を4モル%に変更する以外は実験例8と同様にしてポリマー1-9の製造を試みた。しかしながら、ポリマー1-9の収率は0%であった。
【0105】
[実験例10]
ジムロート冷却管13を外してフラスコ11を密閉し、オイルバス12の設定温度を調整して反応温度を120℃に変更する以外は実験例2と同様にしてポリマー1-10の製造を試みた。しかしながら、ポリマー1-10の収率は0%であった。
【0106】
[実験例11]
トルエンに代えてo-キシレンを用い、オイルバス12の設定温度を調整して反応温度を120℃に変更する以外は実験例2と同様にしてポリマー1-11の製造を試みた。しかしながら、ポリマー1-11の収率は0%であった。
【0107】
[実験例12]
トルエンに代えてo-キシレンを用い、オイルバス12の設定温度を調整して反応温度を120℃に変更する以外は実験例1と同様にしてポリマー1-12を得た。ポリマー1-12の収率は92%であり、数平均分子量Mnは35,700であり、分子量分布Mw/Mnは2.0であった。
【0108】
[実験例13]
第一モノマーに5-オクチル-チエノ-[3,4,c]-ピロール-4,6-ジオンを用い、第二モノマーに2,6-ジブロモ-4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b:3,4-b’]ジチオフェンを用いる以外は実験例2と同様にして、第一モノマーと第二モノマーとが縮合重合した分子構造を有するポリマー2を製造した。ポリマー2は、深青色の固体であり、ポリマー2の収率は88%であり、数平均分子量Mnは31,500であり、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0109】
[実験例14]
第一モノマーに5-(2-エチルヘキシル)チエノ-[3,4,c]-ピロール-4,6-ジオンを用いる以外は実験例13と同様にして、ポリマー3を製造した。ポリマー3の収率は69%であり、数平均分子量Mnは19,300であり、分子量分布Mw/Mnは1.6であった。
【0110】
【0111】
[ポリマー1についての考察]
ポリマー1-1~1-12の製造における反応条件と結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
表1から明らかなように、ポリマー1-1~1-7および1-12は、いずれも、十分に高い収率で製造される。ポリマー1-1および1-12は、窒素雰囲気中で行われ、かつ脱水処理トルエンを使用する従来の直接アリール化反応の条件によって製造されている。
【0114】
ポリマー1-2は、ポリマー1-1との対比から明らかなように、大気雰囲気中で行われ、また市販のトルエンを使用しているにも関わらず、従来の製造方法と同程度の収率で製造される。これは、ポリマー1-2の製造では、大気雰囲気と連通した反応系内において、大気圧下でトルエンを還流させていることから、以下の二点によると考えられる。すなわち、(1)トルエン中の溶存酸素のような触媒に悪影響を及ぼす成分がトルエンの沸騰によりトルエン溶媒から放出されるため、と考えられる。また、(2)トルエンの蒸気は、空気よりも重いため、反応容器内においてトルエン溶媒の液面上に滞留し、トルエン溶媒から放出された、より軽い成分がトルエン溶媒に戻ることを抑制しているため、と考えられる。
【0115】
また、ポリマー1-2とポリマー1-3との対比から、反応容器内の雰囲気が大気雰囲気であっても、窒素雰囲気の場合と同等の収率でポリマーが製造され得ることが分かる。
【0116】
また、ポリマー1-2とポリマー1-4との対比から、第一添加剤の含有量は、一方ではポリマーの収率には実質的に影響を及ぼさないことが分かり、他方ではポリマーの分子量に影響を及ぼすことが示唆される。より具体的には、第一添加剤がより多いと、製造されるポリマーの分子量がより小さくなることが示唆される。
【0117】
ポリマー1-2、1-3とポリマー1-5、1-6との対比から、大気雰囲気と連通した状態での還流による上記の効果は、有機溶媒の種類に関わらずに得られることが分かる。また、ポリマー1-4とポリマー1-7との対比から、大気雰囲気と連通した状態での還流による上記の効果は、第一添加剤の種類に関わらず得られることが分かる。
【0118】
一方、実験例8~11では、いずれも、目的のポリマーが製造されなかった。実験例8、9および11は、反応溶媒が還流しないため、反応溶媒中の溶存酸素が反応溶媒から十分に放出されず、当該溶存酸素のために触媒が失活したため、と考えられる。また、実験例10では、反応溶媒の揮発により反応系内が加圧され、反応溶媒中の溶存酸素が溶存酸素から十分に放出されず、当該溶存酸素のために触媒が失活したため、と考えられる。
【0119】
[評価]
ポリマー1-1~1-7および1-12について、クロロホルム溶液の状態で光ルミネセンススペクトルを測定したところ、いずれも良好な発光特性を発現した。
【0120】
ただし、上記の特性について、ポリマー1-7のそれは、他のポリマー1のそれらに比べて半分程度である。これは、ポリマー1-7の製造時における副反応によって、ポリマー1-7のポリマー主鎖の末端にo-メトキシフェニル構造がわずかながらに導入されているが、他のポリマー1はこのような末端構造を有さないため、と考えられる。このような末端構造は、第一添加剤の熱安定性に応じて生成すると考えられ、第一添加剤の熱安定性が高いと上記末端構造は生成されないと考えられる。なお、ポリマー1の主鎖における末端の構造は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法による飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)によって検出可能である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、直接アリール化反応による高分子化合物の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
11 フラスコ
12 オイルバス
13 ジムロート冷却管
14 昇降台
121 本体
122 オイル
131 外筒部
132 冷却管部
132a、132b 接続管部
133 塩化カルシウム管
134 充填相
135、136 チューブ
137 冷媒循環部