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特許7138339耐熱合金部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】耐熱合金部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20220909BHJP
   C23C 4/073 20160101ALI20220909BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20220909BHJP
   C23C 10/48 20060101ALI20220909BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C23C4/073
C23C4/11
C23C10/48
F02C7/00 C
F02C7/00 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018159846
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020033589
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509326809
【氏名又は名称】株式会社ディ・ビー・シー・システム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】成田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰道
(72)【発明者】
【氏名】成田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】荒 真由美
(72)【発明者】
【氏名】大塚 元博
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253472(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02559806(GB,A)
【文献】特開2013-249487(JP,A)
【文献】特開2014-015666(JP,A)
【文献】特開2014-015667(JP,A)
【文献】国際公開第2005/068685(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/061945(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/059971(WO,A1)
【文献】特開2013-234378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C23C 4/00-6/00
C23C 8/00-12/02
F02C 1/00-9/58
F23R 3/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr含有量が20原子%以上のNi基合金、Ni基超合金、Ni-Cr合金またはNi-Cr基合金からなる耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材において、
上記耐熱合金基材と上記ボンド層との間に、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層が設けられていることを特徴とする耐熱合金部材。
【請求項2】
Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金またはCo基合金からなる耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材において、
上記耐熱合金基材と上記ボンド層との間に、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層が設けられていることを特徴とする耐熱合金部材。
【請求項3】
上記拡散バリア層の上記内層の厚さが3μm以上である請求項1または2記載の耐熱合金部材。
【請求項4】
上記拡散バリア層の上記外層のAl含有量が15原子%以上である請求項1~3のいずれか一項記載の耐熱合金部材
【請求項5】
上記ボンド層の厚さは50μm以上150μm以下、上記トップ層の厚さは200μm以上500μm以下である請求項1~4のいずれか一項記載の耐熱合金部材。
【請求項6】
Cr含有量が20原子%以上のNi基合金、Ni基超合金、Ni-Cr合金またはNi-Cr基合金からなる耐熱合金基材の表面に750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、Crを含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、
1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、上記耐熱合金基材と上記Al-Ni基合金層との反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを有する耐熱合金部材の製造方法。
【請求項7】
Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金またはCo基合金からなる耐熱合金基材の表面にCr含有量が20原子%以上かつNi含有量が50原子%以上のNi-Cr基合金層を形成する工程と、
上記Ni-Cr基合金層の表面に750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、Crを含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、
1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、上記耐熱合金基材と上記Al-Ni基合金層との反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを有する耐熱合金部材の製造方法。
【請求項8】
Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金またはCo基合金からなる耐熱合金基材の表面にα-Cr相を含有するCr含有層を形成する工程と、
上記Cr含有層の表面に750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、α-Cr相を含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、
1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、上記耐熱合金基材と上記Al-Ni基合金層との反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを有する耐熱合金部材の製造方法。
【請求項9】
上記ボンド層および上記トップ層を溶射法または電子ビーム蒸着法により形成することを特徴とする請求項6~8のいずれか一項記載の耐熱合金部材の製造方法。
【請求項10】
耐熱合金部材を有する高温装置であって、
上記耐熱合金部材が、
Cr含有量が20原子%以上のNi基合金、Ni基超合金、Ni-Cr合金またはNi-Cr基合金からなる耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材において、
上記耐熱合金基材と上記ボンド層との間に、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層が設けられていることを特徴とする耐熱合金部材である
ことを特徴とする高温装置。
【請求項11】
耐熱合金部材を有する高温装置であって、
上記耐熱合金部材が、
Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金またはCo基合金からなる耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材において、
上記耐熱合金基材と上記ボンド層との間に、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層が設けられていることを特徴とする耐熱合金部材である
ことを特徴とする高温装置。
【請求項12】
Cr含有量が20原子%以上のNi基合金、Ni基超合金、Ni-Cr合金またはNi-Cr基合金からなる耐熱合金基材の表面に750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、Crを含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、
1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、上記耐熱合金基材と上記Al-Ni基合金層との反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを実行することにより耐熱合金部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法。
【請求項13】
Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金またはCo基合金からなる耐熱合金基材の表面にCr含有量が20原子%以上かつNi含有量が50原子%以上のNi-Cr基合金層を形成する工程と、
上記Ni-Cr基合金層の表面に750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、Crを含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、
1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、上記耐熱合金基材と上記Al-Ni基合金層との反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを実行することにより耐熱合金部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法。
【請求項14】
Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金またはCo基合金からなる耐熱合金基材の表面にα-Cr相を含有するCr含有層を形成する工程と、
上記Cr含有層の表面に750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、α-Cr相を含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、
1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、上記耐熱合金基材と上記Al-Ni基合金層との反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを実行することにより耐熱合金部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱合金部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法ならびに耐熱合金部材製造用部材に関し、特に、高温腐食雰囲気において加熱・冷却が繰り返される環境下で使用される、ガスタービン、ジェットエンジン、排ガス系部材、等に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱合金基材が曝される高温雰囲気は、酸素、水蒸気、亜硫酸ガス、等の酸化性・腐食性成分および未燃ガスによる還元・浸炭性雰囲気となる。これら腐食性・浸炭性の高温雰囲気に耐熱材料が曝されると雰囲気中の腐食成分によって高温腐食、内部腐食、浸炭、等が発生し、材料が減肉して材料強度が低下する場合がある。高温酸化や高温腐食は環境遮断特性に優れた保護皮膜によって耐熱合金基材の表面を被覆することによって、防止できる。代表的な保護皮膜はAl2 3 であり、酸化雰囲気中で基材から表層に拡散したAlを酸化させてAl2 3 皮膜を形成する方法、化学気相成長(CVD)、溶射、電子ビーム蒸着、等によってAl2 3 皮膜を耐熱合金基材表面に積層形成する方法が採用されている。
【0003】
ガスタービン、ジェットエンジン、排ガス系部材では、燃焼ガス温度が大きく変動することがあり、この高温の雰囲気から耐熱合金基材を保護するため、遮熱層(TBC; Thermal Barrier Coating)が形成されている。一般的には、図14に模式的に示すように、遮熱層は遮熱性に優れた酸化物系トップ層700と基材100との密着性を確保するためのボンド層500との複層構造を有し、ボンド層500とトップ層700との間に熱酸化物(TGO:Thermal Grown Oxide)と言われる、Al2 3 主体の熱酸化物層600が形成されている。典型的には、トップ層はイットリア安定化ジルコニア(YSZ;Yttria Stabilized Zirconia)層であり、ボンド層はAlを15~25原子%含有するMCrAlY(M=Ni,Co)層である。
【0004】
耐熱合金基材の表面に形成した遮熱層のトップ層であるYSZ層は、雰囲気の急速な加熱・冷却による熱歪により、亀裂が発生し、さらには剥離に至り、遮熱層の遮熱特性を喪失することによって基材の機械的性質の低下を招くことから、耐剥離性の改善が求められている。
【0005】
遮熱層では、ボンド層500のMCrAlY(M=Ni,Co)層とトップ層700のYSZ層との界面に形成される熱酸化物層600のTGO-Al2 3 層によってYSZ層はMCrAlY(M=Ni,Co)層に結合し、加熱・冷却時の熱ショックに耐えてYSZ層の剥離等を抑制している。しかし、高温雰囲気では、TGO-Al2 3 層が成長するにつれてMCrAlY(M=Ni,Co)層とYSZ層との熱歪が増大し、熱酸化物層600のTGO-Al2 3 層の厚さが臨界値(一例として、8~10μm)を超えるとYSZ層に亀裂が生じ、剥離に至る。
【0006】
ボンド層500のMCrAlY(M=Ni,Co)層とトップ層700のYSZ層との間にTGO-Al2 3 層主体の熱酸化物層600が形成されると、MCrAlY(M=Ni,Co)層の表面にはAl濃度の低下した層(Al欠乏層) が形成され、さらに、MCrAlY(M=Ni,Co)層と耐熱合金基材との間の元素の相互拡散によりMCrAlY(M=Ni,Co)層のAl濃度は低下する。このようにMCrAlY(M=Ni,Co)層のAl濃度が低下すると、TGOとして、Al2 3 のほかにCr2 3 、NiO-Al2 3 等の非保護的酸化物の形成が顕在化し、TGO層全体の厚さが増大することによって、YSZ層の亀裂と剥離が加速される。
【0007】
トップ層700のYSZ層とボンド層500のMCrAlY(M=Ni,Co)層との密着性を長時間に亘って維持するために、MCrAlY(M=Ni,Co)層のAl含有量を予め高く設定してAl2 3 主体のTGOを形成する、ことが考えられる。しかし、Al含有量の増加に伴い、MCrAlY(M=Ni,Co)層が脆弱となり、さらに基材側へのAlの拡散は基材組織の変化と強度の著しい低下を招く。
【0008】
なお、本発明者らは、Ni合金基材表面に、拡散障壁機能を有するα-Cr相を含有する内層およびAl濃度の高い外層(β-NiAl相およびγ’-Ni3 Al相) を形成することにより、基材表面に保護性に優れたAl2 3 皮膜を長期間に亘って維持できることを示し、この技術を拡散バリアコーティング(DBC;Diffusion Barrier Coating)と命名した(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3916484号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、これまで、耐高温腐食性と遮熱層のトップ層の耐剥離性とに優れた耐熱合金部材は得られていなかった。
【0011】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、高温腐食雰囲気において加熱・冷却サイクルが付加された環境下で使用されても、優れた耐高温腐食性と遮熱層のトップ層の耐剥離性とを得ることができ、耐熱合金基材の有する高温特性を長期に亘って維持することができる耐熱合金部材およびその製造方法ならびにそのような耐熱合金部材を含む高温装置およびその製造方法ならびにそのような耐熱合金部材の製造に用いて好適な耐熱合金部材製造用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、独自に行った実験により、耐熱合金基材と遮熱層のボンド層を構成するMCrAlY(M=Co,Ni)層との間に、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を設け、ボンド層上にトップ層としてYSZ層を設けた場合には、高温腐食雰囲気において加熱・冷却サイクルが付加された環境下で使用されても、耐高温腐食性を得ることができるだけでなく、トップ層のYSZ層の剥離を効果的に抑制することができ、耐剥離性を顕著に改善することができることを見出した。これは、従来のように耐熱合金基材の表面に上記のボンド層およびトップ層からなる遮熱層を形成しただけでは到底得られない効果であり、予期し得ない効果であった。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材の表面に設けられた、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層と、
上記拡散バリア層上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材である。
【0014】
この耐熱合金部材においては、使用前または使用時に、ボンド層のMCrAlY(M=Co,Ni)層とトップ層のイットリア安定化ジルコニア(YSZ)層との間に、熱酸化により形成されたアルミナ(Al2 3 )皮膜(TGO-Al2 3 層)を有する。
【0015】
耐熱合金基材の材料としては、従来公知の各種の材料を用いることができ、必要に応じて選ばれる。この耐熱合金基材の材料としては、具体的には、例えば、Cr含有量が20原子%以上のNi基合金、Ni基超合金、さらには電熱線素材等に用いられるNi-Cr合金、Ni-Cr基合金等が用いられる。Ni-Cr基合金は、例えば、Ni-25Cr-20Fe-10Mo合金(特に明記しない限り数字は重量%あるいは質量%を示す。以下同様。)、Ni-23Cr-5Fe-8Mo-4Nb合金等である。耐熱合金基材の材料としては、Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金等を用いることもできる。耐熱合金基材の形状は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、平板状、棒状(角棒、丸棒、等)、管状、箱状、等である。
【0016】
拡散バリア層のα-Cr相を含有する内層は、低Al固溶度であり、かつAlの拡散係数が小さいことからAlの拡散障壁機能を有する。このため、耐熱合金部材の使用時に、ボンド層のMCrAlY(M=Co,Ni)層から耐熱合金基材にAlが拡散するのを防止することができ、ボンド層のAl濃度の低下を防止することができる。また、拡散バリア層のβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層はAl濃度が高く、耐熱合金部材の使用時に、ボンド層のMCrAlY(M=Co,Ni)層に継続的にAlを供給することができるため、ボンド層のAl濃度を十分に高く維持することができ、それによってMCrAlY(M=Co,Ni)層とトップ層のYSZ層との間に熱酸化により保護性に優れたTGO-Al2 3 層を長期間に亘って維持することができ、TGO-Al2 3 層以外の非保護的酸化物の形成も抑えることができる。これらの内層および外層の厚さは特に制限はなく、必要に応じて選ばれる。拡散障壁能力は内層の厚さの2乗に比例するので、内層の厚さは大きいほど有利である。また、内層を連続層とするには、3μm以上の厚さが望ましい。外層は、保護的TGO-Al2 3 を形成するために必要なAl濃度として15原子%以上が望ましい。なお、耐熱合金部材を高温で使用する環境では、外層のβ-NiAl相およびγ’-Ni3 Al相はボンド層のMCrAlY(M=Ni,Co)層と一体化するので、外層の厚さについては特に制限はないが、遮熱層を溶射で形成する場合には、初期のブラスト処理、等による減肉を考慮して決定するのが望ましい。
【0017】
MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層は、YSZからなるトップ層と耐熱合金基材との密着性を確保するためのものである。MCrAlY(M=Co,Ni)は、典型的には、Al含有量が15原子%以上25原子%以下である。
【0018】
耐熱合金部材は、特に限定されないが、具体的には、例えば、ガスタービンの部材、ジェットエンジンの部材、排ガス系部材、等が挙げられる。
【0019】
また、この発明は、
耐熱合金基材の表面にα-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを有する耐熱合金部材の製造方法である。
【0020】
この耐熱合金部材の製造方法においては、高温酸化性雰囲気での処理時、例えば遮熱層のトップ層の形成時等に、ボンド層とトップ層との間に熱酸化によりTGO-Al2 3 層が形成される。
【0021】
耐熱合金基材の材料としては、従来公知の各種の材料を用いることができ、必要に応じて選ばれる。例えば、耐熱合金基材がCr含有量が20原子%以上のNi基合金からなる場合には、拡散バリア層は次のようにして形成する。すなわち、耐熱合金基材の表面に例えば750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、Crを含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、このAl-Ni基合金層を例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理する工程とを順次実行することにより上記の内層および外層からなる拡散バリア層を形成する。
【0022】
あるいは、耐熱合金部材の製造方法は、耐熱合金基材の表面に、Cr含有量が20原子%以上かつNi含有量が50原子%以上のNi-Cr基合金層を形成する工程をさらに有することもある。このようなNi-Cr基合金層を耐熱合金基材の表面に形成する場合、拡散障壁層としてのα-Cr相を含有する内層を形成する上で、耐熱合金基材の材料は特に制限はなく、Cr含有量が20原子%以上のNi基合金等であっても、Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金、等であってもよい。この場合、拡散バリア層は次のようにして形成する。すなわち、Ni-Cr基合金層の表面に例えば750℃以上850℃以下の温度でAl拡散処理を施すことにより、Crを含有し、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層を形成する工程と、このAl-Ni基合金層を例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理する工程とを順次実行することにより上記の内層および外層からなる拡散バリア層を形成する。
【0023】
さらには、耐熱合金部材の製造方法は、耐熱合金基材の表面にα-Cr相を含むCr含有層を形成する工程をさらに有することもある。このCr含有層は拡散バリア層の内層に相当する。この場合も、耐熱合金基材の材料は特に制限はなく、Cr含有量が20原子%以上のNi基合金等であっても、Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金、等であってもよい。この場合、拡散バリア層は次のようにして形成する。すなわち、Cr含有層、言い換えると内層上に上記の外層を形成することにより、上記の内層および外層からなる拡散バリア層を形成する。この場合の外層の形成には、スラリー塗布法、電気めっき法、溶射法、物理気相成長(PVD)法、CVD法、スパッタリング法等を用いることができる。
【0024】
ボンド層のMCrAlY(M=Co,Ni)層およびトップ層のYSZ層の形成には、例えば、溶射法、電子ビーム蒸着法、等を用いることができる。また、Ni-Cr基合金層の形成には、例えば、スラリー塗布法、電気めっき法、溶射法、物理気相成長(PVD)法、CVD法、スパッタリング法等を用いることができる。さらに、α-Cr相を含むCr含有層の形成には、例えば、Cr蒸気拡散処理法、溶射法、電子ビーム蒸着法、スパッタ蒸着法、電気めっき法、等を用いることができる。
【0025】
この耐熱合金部材の製造方法の発明においては、上記以外のことは、特にその性質に反しない限り、上記の耐熱合金部材の発明に関連して説明したことが成立する。
【0026】
また、この発明は、
耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材の表面に設けられた、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層と、
上記拡散バリア層上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材
を有する高温装置である。
【0027】
また、この発明は、
耐熱合金基材の表面にα-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層を形成する工程と、
上記拡散バリア層上にMCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層およびイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層を順次形成することにより遮熱層を形成する工程とを実行することにより耐熱合金部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法である。
【0028】
高温装置は、上記の耐熱合金部材を一部または全部に含む各種のものであってよいが、具体的には、例えば、ガスタービン、ジェットエンジン、排ガス装置、等である。
【0029】
また、この発明は、
耐熱合金基材と、
上記耐熱合金基材の表面に設けられた、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とするAl-Ni基合金層と、
上記Al-Ni基合金層上に設けられた、MCrAlY(M=Co,Ni)からなるボンド層および上記ボンド層上に設けられたイットリア安定化ジルコニアからなるトップ層からなる遮熱層とを有する耐熱合金部材製造用部材である。
【0030】
この耐熱合金部材製造用部材は、例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理することにより、耐熱合金基材の表面に設けられたAl-Ni基合金層と耐熱合金基材との間の反応により、α-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層が形成される。このようにして耐熱合金基材と遮熱層との間に拡散バリア層が形成されることにより耐熱合金部材が製造される。この熱処理は、意図的に行うものであっても、耐熱合金部材が使用される高温環境で自然に行われるものであってもよい。この熱処理時の雰囲気が酸化雰囲気である場合、この熱処理時にボンド層のMCrAlY(M=Co,Ni)層とトップ層のYSZ層との間にTGO-Al2 3 層が形成される。
【0031】
この耐熱合金部材製造用部材の発明においては、上記以外のことは、特にその性質に反しない限り、上記の耐熱合金部材の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、耐熱合金基材とボンド層のMCrAlY(M=Co,Ni)層およびトップ層のYSZ層からなる遮熱層との間にα-Cr相を含有する内層およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層からなる拡散バリア層が形成されていることにより、高温腐食雰囲気において加熱・冷却が繰り返される環境下で使用しても、MCrAlY(M=Co,Ni)層とYSZ層との間に保護的TGO-Al2 3 層を長期に亘って維持することができるとともに、YSZ層の剥離を効果的に抑制することができ、優れた耐高温腐食性と耐剥離性とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】この発明の第1の実施の形態による耐熱合金部材を示す断面図である。
図2】この発明の第1の実施の形態による耐熱合金部材においてボンド層とトップ層との間にTGO-Al2 3 層が形成された状態を示す断面図である。
図3】この発明の第1の実施の形態による耐熱合金部材の製造方法を示す断面図である。
図4】この発明の第2の実施の形態による耐熱合金部材の製造方法を示す断面図である。
図5】この発明の第3の実施の形態による耐熱合金部材の製造方法を示す断面図である。
図6】この発明の第4の実施の形態による耐熱合金部材製造用部材を示す断面図である。
図7】この発明の第4の実施の形態による耐熱合金部材製造用部材の製造方法を示す断面図である。
図8】実施例1により作製された耐熱合金部材を示す断面図である。
図9】実施例3による耐熱合金部材の製造方法を示す断面図である。
図10】加熱・冷却サイクル酸化を行った実施例1~3および比較例1、2の試験片の酸化量のサイクル数依存性を示す略線図である。
図11】実施例1の耐熱合金部材の断面組織を示す図面代用写真である。
図12】比較例1の耐熱合金部材の断面組織を示す図面代用写真である。
図13】加熱・冷却サイクル酸化を行った実施例1~3および比較例1、2の試験片のボンド層のAl濃度のサイクル数依存性を示す略線図である。
図14】従来の、遮熱層を用いた耐熱合金部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」と言う。)について説明する。
【0035】
〈第1の実施の形態〉
[耐熱合金部材]
図1は第1の実施の形態による耐熱合金部材を示す。図1に示すように、この耐熱合金部材においては、耐熱合金基材10の表面に、α-Cr相を含有する内層210およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22からなる拡散バリア層20と、ボンド層を構成するMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびトップ層を構成するYSZ層32からなる遮熱層30とが順次積層されている。図2に示すように、この耐熱合金部材においては、使用開始前または使用開始後の状態で、MCrAlY層(M=Ni,Co)層31とYSZ層32との間にTGO-Al2 3 層33が形成される。このTGO-Al2 3 層33の厚さは例えば数μm程度である。
【0036】
耐熱合金基材10の材料は、必要に応じて選ばれ、例えば、既に挙げたものの中から選ばれるが、具体的には、例えば、Cr含有量が20原子%以上のNi基合金等あるいはCr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金等である。
【0037】
拡散バリア層20の内層21は、α-Cr相を含有し、典型的には、α-Cr相を主体とし、一般的には耐熱合金基材10の構成元素やAl等を含有する。内層21は好適には連続層であり、そのために好適には3μm以上の厚さを有する。拡散バリア層20の外層22は、β-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有し、典型的には、β-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを主体とし、一般的には耐熱合金基材10の構成元素やCr等を含有する。
【0038】
MCrAlY(M=Ni,Co)層31の厚さは、例えば50μm以上150μm以下である。YSZ層32の厚さは、例えば、200μm以上500μm以下である。
【0039】
[耐熱合金部材の製造方法]
この耐熱合金部材の製造方法について説明する。
【0040】
耐熱合金基材10がCr含有量が20原子%以上のNi基合金からなる場合を考える。まず、図3Aに示すように、耐熱合金基材10を用意する。
【0041】
次に、耐熱合金基材10の表面に750℃以上850℃以下の比較的低温で高Al活量のAl拡散処理を施す。これによって、図3Bに示すように、耐熱合金基材10の表面にCr等を含有する、NiAl3 とNi2 Al3 とからなる高Al-Ni基合金層50が形成される。
【0042】
次に、高温、例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理を行う。これによって、図3Cに示すように、耐熱合金基材10と高Al-Ni基合金層50との反応により、α-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22が形成され、拡散バリア層20が形成される。
【0043】
次に、図3Dに示すように、外層22の上にMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32を順次形成する。これらのMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32の形成には、例えば既に挙げた方法を用いることができ、必要に応じて選ばれる。TGO-Al2 3 層33は、一般的には耐熱合金部材を高温酸化性雰囲気で使用する際に形成されるが、予め形成しておく場合は、例えば、MCrAlY(M=Ni,Co)層31を形成した後、低酸素分圧雰囲気で酸化処理する。
【0044】
以上により、目的とする耐熱合金部材が製造される。
【0045】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、耐熱合金基材10とMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32からなる遮熱層30との間に、α-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22からなる拡散バリア層20が設けられていることにより、この耐熱合金部材を高温腐食雰囲気において加熱・冷却が繰り返される環境下で使用した場合、拡散バリア層20のα-Cr相を含有する内層21によりAlの拡散を防止することができることに加えてβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する高Al濃度の外層22からAlが継続的に供給されることにより、MCrAlY(M=Ni,Co)層31のAl濃度を例えば15原子%以上に維持することができ、MCrAlY層(M=Ni,Co)層31とYSZ層32との間に長期間に亘ってTGO-Al2 3 層33を維持することができ、それによって優れた耐高温腐食性を得ることができるだけでなく、TGO-Al2 3 層33以外の非保護的酸化物の形成を抑えることができることによりトップ層のYSZ層32の剥離を効果的に防止することができ、それによって優れた耐剥離性を得ることができる。この耐熱合金部材は、例えば、近年、高出力化を狙って動作温度が上昇する傾向にあるガスタービン、ジェットエンジン、排ガス系部材、等の高温用部材としての要求特性を十分に満足するものである。
【0046】
〈第2の実施の形態〉
[耐熱合金部材]
第2の実施の形態による耐熱合金部材は、耐熱合金基材10が、Cr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金等であることを除いて、第1の実施の形態による耐熱合金部材と同様な構成を有する。
【0047】
[耐熱合金部材の製造方法]
この耐熱合金部材の製造方法について説明する。
【0048】
耐熱合金基材10がCr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金等からなる場合を考える。まず、図4Aに示すように、耐熱合金基材10を用意する。
【0049】
次に、図4Bに示すように、耐熱合金基材10上に、Cr含有量が20原子%以上かつNi含有量が50原子%以上のNi-Cr基合金層60を形成する。Ni-Cr基合金層60の形成方法としては、既に挙げたものの中から選択することができる。
【0050】
次に、Ni-Cr基合金層60の表面に750℃以上850℃以下の比較的低温で高Al活量のAl拡散処理を施す。これによって、図4Cに示すように、耐熱合金基材10の表面にCr等を含有する、NiAl3 とNi2 Al3 とからなる高Al-Ni基合金層50が形成される。
【0051】
次に、高温、例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理を行う。これによって、図4Dに示すように、耐熱合金基材10と高Al-Ni基合金層50との反応により、α-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22が形成され、拡散バリア層20が形成される。
【0052】
次に、図4Eに示すように、外層22の上にMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32を順次形成する。TGO-Al2 3 層33の形成方法は既に述べた通りである。
【0053】
以上により、目的とする耐熱合金部材が製造される。
【0054】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0055】
〈第3の実施の形態〉
[耐熱合金部材]
第3の実施の形態による耐熱合金部材は、耐熱合金基材10がCr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金等からなることを除いて、第1の実施の形態による耐熱合金部材と同様な構成を有する。
【0056】
[耐熱合金部材の製造方法]
この耐熱合金部材の製造方法について説明する。
【0057】
耐熱合金基材10がCr含有量が20原子%以下のNi基合金、Fe基合金、Co基合金等からなる場合を考える。まず、図5Aに示すように、耐熱合金基材10を用意する。
【0058】
次に、図5Bに示すように、耐熱合金基材10の表面に、α-Cr相を含有するCr含有層70を形成する。Cr含有層70の形成方法は、既に挙げたものの中から選択することができる。
【0059】
次に、Cr含有層70の表面に750℃以上850℃以下の比較的低温で高Al活量のAl拡散処理を施す。これによって、図5Cに示すように、耐熱合金基材10の表面に、α-Cr相を含有する、NiAl3 とNi2 Al3 とからなる高Al-Ni基合金層50が形成される。
【0060】
次に、高温、例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理を行う。これによって、図5Dに示すように、耐熱合金基材10と高Al-Ni基合金層50との反応により、α-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22が形成され、拡散バリア層20が形成される。
【0061】
次に、図5Eに示すように、外層22の上にMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32を順次形成する。TGO-Al2 3 層33の形成方法は既に述べた通りである。
【0062】
以上により、目的とする耐熱合金部材が製造される。
【0063】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0064】
〈第4の実施の形態〉
[耐熱合金部材製造用部材]
図6は第4の実施の形態による耐熱合金部材製造用部材を示す。図6に示すように、この耐熱合金部材製造用部材においては、耐熱合金基材10の表面に、NiAl3 とNi2 Al3 とを主体とし、典型的にはCrを含有するAl-Ni基合金層80と、ボンド層を構成するMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびトップ層を構成するYSZ層32からなる遮熱層30とが順次積層されている。MCrAlY(M=Ni,Co)層31とYSZ層32との間にはTGO-Al2 3 層33が形成されている。
【0065】
耐熱合金基材10、MCrAlY層(M=Ni,Co)層31、YSZ層32、TGO-Al2 3 層33等については第1の実施の形態と同様である。
【0066】
[耐熱合金部材製造用部材の製造方法]
この耐熱合金部材製造用部材の製造方法について説明する。
【0067】
まず、図7Aに示すように、耐熱合金基材10を用意する。
【0068】
次に、耐熱合金基材10の表面に750℃以上850℃以下の比較的低温で高Al活量のAl拡散処理を施す。これによって、図7Bに示すように、耐熱合金基材10の表面にCr等を含有する、NiAl3 とNi2 Al3 とからなる高Al-Ni基合金層50が形成される。
【0069】
次に、図7Cに示すように、高Al-Ni基合金層50の上にMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32を順次形成する。これらのMCrAlY(M=Ni,Co)層31およびYSZ層32の形成には、例えば既に挙げた方法を用いることができ、必要に応じて選ばれる。TGO-Al2 3 層33の形成方法は既に述べた通りである。
【0070】
以上により、目的とする耐熱合金部材製造用部材が製造される。
【0071】
[耐熱合金部材製造用部材の使用方法]
この耐熱合金部材製造用部材の使用方法、言い換えるとこの耐熱合金部材製造用部材を使用して耐熱合金部材を製造する方法について説明する。
【0072】
この耐熱合金部材製造用部材に対し、高温、例えば1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理を施す。これによって、耐熱合金基材10と高Al-Ni基合金層50との反応により、図8に示すように、耐熱合金基材10の表面にα-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22が形成され、拡散バリア層20が形成される。こうして、耐熱合金基材10と遮熱層30との間に拡散バリア層20が形成され、第1の実施の形態と同様な耐熱合金部材が製造される。
【0073】
この耐熱合金部材製造用部材は次のように使用することもできる。すなわち、この耐熱合金部材製造用部材を耐熱合金部材が使用される部分にそのまま使用し、その後、この耐熱合金部材が使用される高温環境(例えば、1000℃以上1200℃以下の温度)に置くことにより、耐熱合金基材10と高Al-Ni基合金層50との反応により、α-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22が形成され、拡散バリア層20が形成される。
【0074】
この第4の実施の形態によれば、耐熱合金部材製造用部材を用いることにより、第1の実施の形態と同様な耐熱合金部材を容易に製造することができる。
【実施例
【0075】
耐熱合金基材10として、Ni-25原子%Cr-20原子%Fe-10原子%Mo合金およびFe-25Cr-20Ni合金からなる丸棒を使用した。
【0076】
遮熱層30のボンド層のMCrAlY(M=Ni,Co)層31としてCoNiCrAlY層を用いた。CoNiCrAlY層はHVOF(High Velocity Oxy-Fuel)の溶射プロセス(高速フレーム溶射法)で製膜し、トップ層のYSZ層は大気プラズマ溶射で製膜した。CoNiCrAlY層の厚さは100μm、YSZ層の厚さは300μmである。
【0077】
(実施例1)
実施例1は第4の実施の形態に対応するものであり、耐熱合金部材製造用部材に関するものである。
【0078】
図7Aに示すように、耐熱合金基材10の表面に高Al活量拡散処理を施した。すなわち、耐熱合金基材10をAl:NH4 Cl:Al2 3 =15:2:83(質量比)の混合粉末に埋没させ、不活性ガス(アルゴン)雰囲気中において800℃で30分間加熱することによりAl拡散処理を施した。その結果、図7Bに示すように、耐熱合金基材10の表面にNiAl3 とNi2 Al3 とからなる高Al-Ni基合金層50が形成された。
【0079】
次に、図7Cに示すように、丸棒の耐熱合金基材10の端面にHVOF溶射によりボンド層のCoNiCrAlY層34を形成した後、その上に大気プラズマ溶射でトップ層のYSZ層32を形成し、このYSZ層32の形成時にCoNiCrAlY層34とYSZ層32との間にTGO-Al2 3 層33を形成した。
【0080】
こうして、耐熱合金部材製造用部材の試験片を作製した。
【0081】
(実施例2)
実施例2は第1の実施の形態に対応するものであり、耐熱合金部材に関するものである。
【0082】
まず、実施例1と同様にして、耐熱合金基材10の表面にNiAl3 とNi2 Al3 とからなる高Al-Ni基合金層50を形成した。
【0083】
次に、1100℃、10時間の加熱処理を施した。これによって、図8に示すように、高Al-Ni基合金層50は、α-Cr相を含有する内層21およびβ-NiAl相とγ’-Ni3 Al相とを含有する外層22に変化し、拡散バリア層20が形成された。
【0084】
次に、実施例1と同様にして、CoNiCrAlY層34およびYSZ層32を形成し、耐熱合金部材の試験片を作製した。
【0085】
(実施例3)
実施例3は第2の実施の形態に対応するものであり、耐熱合金部材に関するものである。
【0086】
まず、Ni基自溶合金(公称組成(wt%); Ni-15Cr-3Si-2B-5Fe)に25重量%Crを添加したスラリーを作製し、耐熱合金基材10の表面に単位面積当たり100~150mg/cm2 塗布した後、1150~1200℃で2時間、真空中で加熱処理を施し、図9Aに示すように、Ni-35原子%Cr基合金層90を形成した。
【0087】
次に、実施例2と同様にしてAl拡散処理とその後の加熱処理(1100℃で10時間) を施し、図9Bに示すように、内層31および外層32を形成し、拡散バリア層30を形成した。
【0088】
次に、実施例1と同様にして、図9Cに示すように、CoNiCrAlY層34およびYSZ層32を形成し、耐熱合金部材の試験片を作製した。
【0089】
比較例について説明する。
【0090】
(比較例1)
耐熱合金基材上に、拡散バリア層を介することなく、実施例1と同様にしてCoNiCrAlY層およびYSZ層を直接形成し、耐熱合金部材の試験片を作製した。
【0091】
(比較例2)
比較例2では、酸化量のサイクル数依存性の調査のために、耐熱合金基材そのものを用い、試験片とした。
【0092】
[高温酸化試験]
高温酸化試験は、加熱・冷却繰り返しの条件下で、大気中で行った。具体的には、水平移動式試料台(アルミナ棒) に試験片を載せ、1100℃に制御した電気炉内に挿入し、45分経過後、大気中で15分間冷却した後、再び電気炉に挿入する、いわゆるサイクル酸化試験である。
【0093】
[酸化量とYSZ層の剥離と断面組織・濃度分析]
(1)酸化量(酸化重量)
所定のサイクル数経過後、試験片の重量変化を室温で測定した。なお、実施例1~3の拡散バリア層20/遮熱層30あるいは比較例1の遮熱層は、図8および図9に模式的に示すように、丸棒試験片の端面にのみ形成している。したがって、サイクル酸化では、拡散バリア層20/遮熱層30施工面(丸棒の端面)とその他の面とでは酸化挙動は異なるが、本試験では、試験片全体の面積で除した値として測定した。その結果は、測定された酸化量はその他の面の結果を強く反映したものとなっている。
【0094】
(2)断面組織と濃度分布
所定の時間サイクル酸化した後、拡散バリア層20/遮熱層30施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散分光装置)で行った。拡散バリア層20の外層22と遮熱層30のボンド層とはサイクル酸化の過程で一体化していることから、これら一体化した層のAl濃度およびTGO等の酸化物の形態と組成を測定した。
【0095】
(3)YSZ層の亀裂・剥離の観察
電気炉から引出し冷却する際の試験片の表面を写真撮影によって、観察した。その結果、YSZ層の破壊は、試験片の周辺角部から層間剥離として開始し、中心部に向かって進展している様子が観察された(層間剥離の個所はより早期に暗黒化することで判別できる)。
【0096】
図10は、実施例1~3および比較例1、2の各試験片の酸化量のサイクル数依存性を示す。図10より、耐熱合金基材(比較例2)自体の酸化は、100サイクル前後から重量減少に転じ、その後、酸化物皮膜の剥離等のため、重量減少は急激に進行していることが分かる。
【0097】
比較例1の遮熱層施工試験片でも、酸化量は基材と同様に重量減少を示す。すなわち、比較例1の重量減少は未コーティング面の酸化が支配的であることによる。
【0098】
一方、実施例1~3の試験片では、いずれも、酸化量の減少は500サイクル数前後で観察されるが、1500サイクル数でも20mg/cm2 以下と、大変優れた耐酸化性を示している。これは、拡散バリア層30を形成する際の高Al拡散処理により、拡散バリア層30/遮熱層30施工面以外の面にも拡散バリア層30が形成され、保護的なAl2 3 皮膜(TGO-Al2 3 層)が形成されたことによる。
【0099】
加熱・冷却サイクル酸化で、電気炉から取り出した時の試験片の冷却過程を写真撮影することによって、トップ層のYSZ層の亀裂・破壊等の発生と伝播挙動を観察した。その結果、耐熱合金基材10上に拡散バリア層20および遮熱層30を形成した実施例1~3の場合、YSZ層の亀裂が周辺部で開始し、亀裂が細かく破壊・剥離しながら、中心部に向かって進行し、最終的には層間剥離として全体が剥離することが分かった。
【0100】
耐熱合金基材上に遮熱層を直接形成した比較例1の試験片では、トップ層のYSZ層の剥離は周辺部より、亀裂等は明瞭には観察されず、層間剥離して始まり、中心部に進行して、最終的には、YSZ層全体が層間剥離する。
【0101】
所定のサイクル数経過後の実施例1~3の各試験片の断面組織を観察した。その結果、拡散バリア層の外層のβ-NiAl相+γ’-Ni3 Al相とボンド層のCoCrAlY層とは一体化していることが確認された。一例として、図11に実施例2の試験片の断面組織を示す。図12に比較例1の試験片の断面組織を示す。
【0102】
図13は断面組織の濃度分析で得られた一体化した(外層+ボンド層) に含まれるAl濃度のサイクル数依存性を示す。図13から分かるように、耐熱合金基材10の表面に直接、遮熱層を形成した比較例1の試験片では、Al濃度は、サイクル数の増加に従って初期のAl濃度(約18原子%Al)から低下し、100サイクル後には数原子%Alに低下し、その後徐々に1原子%Al以下に減少する。一方、実施例1~3の各試験片では、Al濃度は徐々に低下し、600サイクル前後で数原子%Alに達した後、徐々に1原子%Al以下に低下する。
【0103】
加熱後の冷却過程で観察されるYSZ層の表面状態と室温における剥離の有無の観察から、実施例1~3および比較例1、2においてYSZ層が全面に亘って剥離するまでのサイクル数を決定した。各試験片のYSZ層の剥離までのサイクル数、ボンド層のAl濃度が1原子%となるまでのサイクル数および酸化減量10mg/cm2 までのサイクル数をまとめて表1に示す。
【0104】
表1
サイクル数
YSZ層の剥離 1原子%Al 酸化減量が10mg/cm2
実施例1 1278 1300
実施例2 1278 600 1200
実施例3 1533 1230
比較例1 305 100 350
比較例2 ------- ------ 340
【0105】
表1より、従来技術の比較例1を基準にすると、以下のように結論される。すなわち、YSZ層の完全剥離までのサイクル数は、実施例1と実施例2とでは4 倍、実施例3では5 倍、ボンド層のAl濃度1原子%までのサイクル数は6倍、酸化減量10mg/cm2 までのサイクル数は4倍となっている。
【0106】
トップ層のYSZ層が剥離した後の試験片の断面組織観察から、TGOとして、Al2 3 のほかにCr2 3 、NiO-Al2 3 が厚く形成され、YSZ層の剥離はこれらTGOとの界面近くのYSZ層内で生じていることが明らかとなった。すなわち、トップ層のYSZ層の剥離はTGOがAl2 3 からAl2 3 +Cr2 3 +NiAl2 4 に変化する過程で生じていると考えられる。
【0107】
ボンド層のCoNiCrAlY層のAl濃度が数原子%以下になると、TGOには、Al2 3 のほかにCr2 3 、NiAl2 4 の酸化物が観察されるようになり、TGOの厚さは急激に増大する。このTGOの組織・組成等の変化に対応して、トップ層のYSZ層の界面剥離が進行し、最終的にYSZ層全体が剥離することになる。
【0108】
実施例1~3の試験片の拡散バリア層20/遮熱層30のトップ層のYSZ層の剥離が、従来技術である比較例1の遮熱層のトップ層のYSZ層の剥離に比較して大幅に延長されたのは、拡散バリア層20の内層21(α-Cr相含有層)がAl等の拡散バリアとして機能し、ボンド層のAl濃度の低下を遅延させた結果である、と結論される。
【0109】
したがって、実施例1~3の試験片の拡散バリア層20/遮熱層30は、高温酸化を抑制し、同時に、遮熱層30のトップ層のYSZ層の剥離をも大幅に遅延させたもので、耐熱合金基材が有する本来の優れた高温特性が長期間に亘って維持されることが分かる。実施例1~3の耐熱合金部材は、ガスタービン、ジェツトエンジン、排ガス系部材等の高温用途に適した部材として有効なものである。
【0110】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0111】
10…耐熱合金基材、20…拡散バリア層、21…内層、22…外層、30…遮熱層、31…MCrAlY(M=Ni,Co)層、32…YSZ層、33…TGO-Al2 3 層、50…高Al-Ni基合金層、60…Ni-Cr基合金層、70…Cr含有層、80…Al-Ni基合金層80
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