(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】水性顔料スタンプインキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/00 20140101AFI20220909BHJP
【FI】
C09D11/00
(21)【出願番号】P 2018215960
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】足立 昌也
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-192588(JP,A)
【文献】特開平08-302259(JP,A)
【文献】特開2016-44239(JP,A)
【文献】特開2001-19879(JP,A)
【文献】特開2003-335995(JP,A)
【文献】特開平2-38474(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198704(WO,A1)
【文献】米国特許第6312510(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0073826(KR,A)
【文献】特開平10-319607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、顔料、水、
HLBが7~17であり、下記一般式で表されるポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸系重合物からな
り、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが5~30%添加されたことを特徴とする手形用水性顔料スタンプインキ。
【化1】
(式中、nは2~10の整数を表し、Rは水素原子、又は炭素原子数12~18脂肪酸を表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にフェルト等のインキパッドに含浸させて使用される水性顔料スタンプインキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェルトやスポンジなどからなるインキ吸蔵体を基台に設け、前記インキ吸蔵体にスタンプインキを含浸させたスタンプ台がある。
前記スタンプ台に、顔料又は水溶性の染料を含有する水性スタンプインキを用いたスタンプ台は、ゴム印を用いて紙などに捺印した場合、鮮明な印影が得られるため、広範囲の用途に用いられている。
近年では、前記水性スタンプインキは、ホビークラフト、幼児の手にスタンプ台インキを付着させ、紙などに手を押し付けて転写し、手形スタンプを楽しむ用途でも使用されている。
【0003】
特許文献1には、スタンプ台インキをゴム印に付着させる際のゴム印へのインキの延展性や、捺印時の紙への浸透性改善などを目的として、水性顔料スタンプインキ中に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の水性顔料インキは、樹脂や分散剤添加されていない為、長期保管後のインキ中の顔料の分散安定性が良好でなかった。
また、増粘剤として糊料(デキストリン)などを併用させた場合であっても、前記長期保管後の分散安定性が十分でなく、前記インキが含浸されたスタンプ台を長時間放置することでインキ顔料が凝集し、捺印印影に擦れが生じる結果となっていた。
また、従来公知の糊料や高分子樹脂等からなる増粘剤を用いたスタンプインキでは、インキを塗布した手を、紙に押し付けて捺印した後、手を紙から離した際に、前記手と紙との間にベタツキ感が生じ、うまく手が紙から離れない問題があった。
【0006】
本発明は、スタンプ台インキの長期保管における、前記インキ顔料の分散安定性が良好であると同時に、インキが塗布された手を紙へ押し付けてインキを紙へと転写させた後、紙から手を離す際に、ベタツキ感の無いインキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために完成された発明は、少なくとも、顔料、水、
HLBが7~17であり、下記一般式で表されるポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸系重合物からな
り、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが5~30%添加されたことを特徴とする手形用水性顔料スタンプインキである。
【化1】
(式中、nは2~10の整数を表し、Rは水素原子、又は炭素原子数12~18脂肪酸を表す)
【発明の効果】
【0009】
上記の課題を解決するために完成された発明は、少なくとも、顔料、水、
HLBが7~17であり、下記一般式で表されるポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸系重合物からな
り、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが5~30%添加されたことを特徴とする手形用水性顔料スタンプインキである。
【化1】
(式中、nは2~10の整数を表し、Rは水素原子、又は炭素原子数12~18脂肪酸を表す)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、界面活性剤として機能すると共に、増粘剤として機能し、従来の糊料や、高分子樹脂からなる増粘剤を添加する場合と比較して、紙に手形を押印する際の手へのベタツキが低減される。また、アクリル酸系重合物の添加によりインキ中の均一な顔料分散を長期に保つことが出来る為、インキを長期保管してもインキ中の顔料が凝集し、転写した捺印印影が、擦れたり、薄くなったりすることが無い。
また、ポリグリセリンの添加量が5%より少ない場合、増粘効果が小さい為、適度なインキ粘度とならず、初期印影に滲みが生じる。30%より多く添加すると、インキの初期粘度が著しく上昇し、スタンプ中のフェルトやスポンジに速やかに含浸しないなど製品の製造に影響が生じる。また、インキ含浸組立て後のスタンプ台で捺印を行うと、印影に著しい擦れが生じる等の問題が生じる。即ち、アクリル酸系重合物の添加と、ポリグリセリン脂肪酸エステルを5%~30%の範囲での添加により、生産性やスタンプ台の初期捺印品質を確保しながら、紙に手形を押印する際の手へのベタツキの低減を発現させることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる溶剤は、水であるが、水と湿潤剤を併用しても良い。
水は、イオンを除いたイオン交換水、天然水中に種々の不純物を除いた純水、水道水などが含まれる。
湿潤剤は、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリンや、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の各種グリコール類からなるものがあり、それらを併用しても良い。
上記湿潤剤は、単独或いは混合して任意に使用することが出来、その配合量は、1~80重量%が望ましい。
【0012】
本発明に用いる着色剤としては顔料を用いる。顔料としては、特に制限されることなく従来公知の有機顔料及び無機顔料を単独又は混合して使用することができる。例えば、アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、チタン白、パール顔料、酸化鉄・アルミニウム粉・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。
これらの顔料は通常、ニトロセルロース、エチルセルロース、テルペンフェノール、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの公知の樹脂などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。
上記顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、下記の一般式(1)で表されるポリグリセリンの水酸基に炭素原子数8~20の脂肪酸が結合しているものであればよく、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられ、その一例としては、下記一般式(3)で表されるポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが挙げられる。
本発明に用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、特に限定されず、デカグリセリンとステアリン酸のモノエステル(商品名:SYグリスターMSW-7S/HLB13.4/阪本薬品工業株式会社製)、デカグリセリンとステアリン酸のトリエステル(商品名:SYグリスターTS-7S/HLB10.0/阪本薬品工業株式会社製)、ヘキサグリセリンとステアリン酸のトリエステル(商品名:SYグリスターMS-5S/HLB11.6/阪本薬品工業株式会社製)、ヘキサグリセリンとステアリン酸のトリエステル(商品名:SYグリスターTS-5S/HLB7.4/阪本薬品工業株式会社製)、テトラグリセリンとステアリン酸のモノエステル(商品名:SYグリスターMS-3S/HLB8.4/阪本薬品工業株式会社製)、デカグリセリンとオレイン酸のモノエステル(SYグリスターMO‐7S/HLB12.9/阪本薬品工業株式会社製)、ヘキサグリセリンとオレイン酸のモノエステル(SYグリスターMO‐5S/HLB11.6/阪本薬品工業株式会社製)、テトラグリセリンとオレイン酸のモノエステル(SYグリスターMO‐3S/HLB8.8/阪本薬品工業製)、デカグリセリンとカプリル酸のモノエステル(SYグリスターMCA‐750/HLB16.1/阪本薬品工業株式会社製)、ジグリセリンとカプリル酸のモノエステル(SYグリスターMCA‐150/HLB8.7/阪本薬品工業株式会社製)、デカグリセリンとラウリン酸のモノエステル(SYグリスターML‐750/HLB14.7/阪本薬品工業株式会社製)、ヘキサグリセリンとラウリン酸のモノエステル(SYグリスターML‐500/HLB13.4/阪本薬品工業株式会社製)、テトラグリセリンとラウリン酸のモノエステル(商品名:SYグリスターML‐310/HLB10.4/阪本薬品工業株式会社製)、デカグリセリンとミスチリン酸のモノエステル(商品名:SYグリスターMM-750/HLB15.7/阪本薬品工業株式会社製)などが挙げられ、上記のポリグリセリン脂肪酸エステルは単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
一般式(1)
一般式(2)
一般式(3)
上記の一般式(1)で表されるポリグリセリンにおいて、nは2~10の整数を示し、好ましくは2~6である。nが2未満ではエステル結合する脂肪酸の影響が大きくなって、水またはグリセリンに不溶となり、インキ中にチキソ性が発現しにくく、手形捺印する際、紙にインキが速やかに浸透せず、捺印後に紙から手又はゴム印を離す際にベタツキが発生する為、好ましくない。
また、n=10を超えると、水またはグリセリンとの溶解度が高くなりすぎて、適度な増粘効果が得られず、インキが低粘度となって、組立て後の初期印影に滲みが発生するなど、影響が出るために好ましくない。
【0014】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、脂肪酸の炭素数としては12~18程度のものが好ましく、具体的にはラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸などが挙げられる。炭素数が12より小さいと、水への溶解度が高くなって、適度な増粘効果が得られず、インキが低粘度となって、組立て後の初期印影に滲みが発生しやすくなる。また、炭素数が18より大きいと、エステル結合するポリグリセリンの重合度によっては、水またはグリセリンに不溶となりインキ中にチキソ性が発現しにくく、手形捺印する際、紙にインキが速やかに浸透せず、捺印後に紙から手又はゴム印を離す際に、ベタツキが発生する為、好ましくない。
【0015】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、水中油型エマルジョンの調達に適したHLB7~17までのものが用いられ、より好ましくは、溶剤である水に対して安定乳状分散若しくは透明分散し、かつインキ中に適度なチキソ性が発現するHLB8~12のものが用いられる。HLBが7より小さいと、水や併用するグリセリンに溶解せず、インキ中にチキソ性が発生しにくくなる為、手形捺印する際、紙にインキが速やかに浸透せず、捺印後に紙から手又はゴム印を離す際に、ベタツキが発生する。また、適度な増粘効果が出ないなどの問題が生じる。
また、HLBが17より大きいと、水又はグリセリンへの溶解度が高すぎて、適度な増粘効果が得られず、インキが低粘度となって、組立て後の初期印影に滲みが発生しやすくなる。
【0016】
ここで、HLBとは界面活性剤の親水基と親油基とのバランスを意味し、前記HLBは0~20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。前記HLBは、以下の式(グリフィン法)により定義されるものである。
HLB=20×(親水部の式量の総和/分子量)
【0017】
アクリル酸系重合物は、ポリアクリル酸ソーダ(商品名アロン:A-210/平均分子量3,000/東亞合成株式会社製)、ポリアクリル酸アンモニウム(商品名:アロンA-30SL/平均分子量6,000/東亞合成株式会社製)、アクリル酸アンモニウム共重合体(商品名:アロンA-6114/平均分子量10,000/東亞合成株式会社製)、ポリアクリル酸(商品名:アロンA‐10SL/平均分子量6,000/東亞合成株式会社製)、ポリカルボン酸系共重合体のアンモニウム塩(商品名:アロンA―7255/平均分子量500,000/東亞合成株式会社製)、スルホン酸系共重合体(商品名:アロンA-12SL/平均分子量10,000/東亞合成株式会社製)、カルボン酸系共重合体のNa塩(商品名:アロンA-7185/平均分子量500,000/東亞合成株式会社製)などが挙げられる。携帯としては、粉末として用いてもよいし、これらを水に溶解させて水溶液として用いても良い。さらに、エマルションとして分散させたものを用いても良い。
上記のアクリル酸系重合物は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~80重量%が好ましい。
上記のアクリル酸系重合物の中でも、特に重量平均分子量が500,000以上のもの(商品名:「アロンA-20L」、「アロンA-7100」、「アロンA-7255」、「アロンA-7185」、「アロンA-7195」/東亞合成株式会社製)は、分子鎖が顔料粒子間に入り込み、インキの長期保管時の顔料分散安定性が高くなる為、適している。
なお、ここで重量平均分子量とは、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算のものである。
【0018】
また、本発明のインキには、ロジン、ロジンエステル、ロジン誘導体、フェノール樹脂、エチルセルロース、ニトロセルロース、ケトン樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン等の顔料分散剤などを任意に配合することができる。
【0019】
また、本発明のインキには、必要に応じて、公知の防腐・防カビ剤を用いることが出来る。
防腐防・カビ剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン3-オン、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルスルフォニル)、ピリジン、安息香酸ナトリウムなど、安息香酸やソルビン酸やデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物、1,3-ジメチロール5,5‐ジメチルヒダントイン、1又は3-モノメチロール5,5ジメチルヒダントイン、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメイト、1,3-ブチレングリコール等公知の防腐カビ剤を単独或いは混合して任意に使用することが出来る。
【0020】
従来公知の増粘剤としては、天然多糖類で種子多糖類のデキストリン、グァーガム、ローカストビンガム、ガラクトマンナン、ペクチン及びその誘導体、サイリュウムシュードガム、タマリンドウガム;微生物系のキサンタンガム、レオザンガム、ラムザンガム、ウエランガム、ジュランガム等;海藻多糖類のカラギーナン、アルギン酸及びその誘導体;樹脂多糖類のタラガントガム;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルなどセルロース及びその誘導体;合成高分子系では、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド及びその誘導体、ポリビニルメチルエーテル及びその誘導体、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。
【0021】
実施例及び比較例のインキ配合を表1に示す。
<実施例1~7>
表1に示す組成の水性スタンプインキ組成物を調整した。
具体的には、常温で、ポリグリセリン脂肪酸エステルとアクリル酸系重合物、湿潤剤としてジグリセリン、水を入れ、ディスパーで混合攪拌し、これに着色材として白色顔料分散体(加工顔料)と、マゼンタ顔料分散体(加工顔料)を添加し、攪拌して混合を行った後、脱泡して水性顔料スタンプインキ組成物を調整した。
ポリグリセリン脂肪酸エステル及びアクリル酸系重合物のグレード及び配合量については、実施例により、異なる為、以下組み合わせを示す。
<実施例1>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(ヘキサグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 15.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 5.0重量%
<実施例2>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(ヘキサグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 10.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 10.0重量%
<実施例3>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(ヘキサグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 5.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 15.0重量%
<実施例4>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(テトラグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 30.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 10.0重量%
<実施例5>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-3S」 HLB8.8
(テトラグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 10.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 10.0重量%
<実施例6>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(ヘキサグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 10.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-30」 平均分子量100,000
(ポリアクリル酸アンモニウムの30%水溶液) 10.0重量%
<実施例7>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMCA」 HLB16.1
(デカグリセリンとカプリル酸とのモノエステル結合) 10.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 10.0重量%
【0022】
<比較例1~3>
実施例1と同様にして、表1に示す比較例1~3の水性顔料スタンプインキ組成物を調整した。なお、比較例1では、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いていない。また、比較例2では、アクリル酸系重合物を用いていない。
また、比較例3では、アクリル酸系重合物(商品名:アロンA-7185/東亜合成株式会社製)を10重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスターMO-5S/阪本薬品工業株式会社製)を35重量%添加している。
ポリグリセリン脂肪酸エステル及びアクリル酸系重合物のグレード及び配合量については、実施例により、異なる為、以下組み合わせを示す。
<比較例1>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル 添加なし
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 20.0重量%
<比較例2>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(ヘキサグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 20.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 添加なし
<比較例3>
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
商品名「SYグリスターMO-5S」 HLB11.6
(ヘキサグリセリンとオレイン酸とのモノエステル) 35.0重量%
・アクリル酸系重合物
商品名「アロンA-7185」 平均分子量500,000
(カルボン酸共重合体のアンモニウム塩の17%水溶液) 10.0重量%
【0023】
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
組立て後初期捺印印影
(試験方法)
・組立て後初期捺印印影
各インキを含浸させたシヤチハタ株式会社製手形用スタンプ台を用いて、手のひらにインキを塗布する。次いで、PPC用紙にインキが塗布された手のひらを押し付け、インキを紙に転写させる。転写された手形が擦れず、鮮明に転写されているかを、官能評価で行った。
転写した手形印影が著しく擦れたり、滲んだりした場合は「×」、手形印影が著しく擦れたりすることなく、製品品質として耐えうる程度に捺印された場合は「△」、手形通りに鮮明に捺印された場合は「○」として評価した。
・手と紙とのベタツキ
(試験方法)
各インキを含浸させたシヤチハタ株式会社製手形用スタンプ台を用いて、手のひらにインキを塗布する。次いで、PPC用紙にインキが塗布された手のひらを押し付け、インキをPPC用紙に転写させる。手をPPC用紙から離した際の、ベタツキを官能評価で行った。
著しくベタツキが生じた場合は「×」、若干であるがベタツキが生じる場合は「△」、ベタツキがほとんど生じなかった場合は「○」として評価した。
・ゴム印と紙とのベタツキ
(試験方法)
同様に、各インキを含浸させたシヤチハタ株式会社製手形用スタンプ台を用いてゴム印にインキを塗布する。次いで、PPC用紙にインキが塗布されたゴム印でPPC用紙に捺印を行って、インキを紙に転写させる。ゴム印をPPC用紙から離した際のベタツキについて、官能評価を行った。
著しくベタツキが生じた場合は「×」、若干であるがベタツキが生じる場合は「△」、ベタツキがほとんど生じなかった場合は「○」として評価した。
・50℃・1ヶ月経時保管後の捺印印影
(試験方法)
各インキを含浸させたシヤチハタ株式会社製手形用スタンプ台を、定温機で50℃×1ヶ月間保管する。前記期間保管後に、前記スタンプ台を取り出す。常温で1昼夜放置後に、前記スタンプ台を用いて、手のひらにインキを塗布する。次いで、PPC用紙にインキが塗布された手のひらを押し付け、インキを紙に転写させる。転写された手形が擦れず、鮮明に転写されているかを、官能評価で行った。
転写した手形印影が擦れた場合は「×」、手形印影が著しく擦れたりすることなく、製品品質として耐えうる程度に捺印された場合は「△」、手形通りに鮮明に捺印された場合は「○」として評価した。
・インキ初期粘度
(試験方法)
前記実施例及び比較例に記載した手順で作成したインキをサンプル管瓶に収容し、インキ粘度を測定した。インキ粘度は、インキを液温25℃に調整し、インキをB型粘度計にて6rpm及び60rpmで測定した。なお、測定ローターは、ローターの測定上限値を考慮し、適切なローターを選択した。
インキ初期粘度は、6rpmで90,000(mPa/s)、60rpmで20,000(mPa/s)を超えると、粘度が高すぎてスポンジ体にインキが含浸されず、製品組立てが出来ない為、「×」と評価し、前記値より小さい場合は、「○」と評価した。
・チキソ比
前記した方法で測定した6rpm・60rpmのインキ初期粘度値比を数値化して表した値であり、以下の式で表される。
チキソ比 =初期粘度(6rpm)/初期粘度(60rpm)
チキソ比の値が 2.1以下のサンプルは「×」、2.1より大きく2.4より小さいサンプルは「△」、2以下のサンプルは「×」、2.1より大聞く2.4より小さいサンプルは「△」、2.4以上のサンプルは「○」と評価した。
・50℃・1ヶ月経時保管後のインキ粘度
(試験方法)
前記実施例及び比較例に記載した手順で作成したインキを収容したサンプル管瓶を、50度定温機に1ヶ月放置したあと、取り出して室温まで除熱した後、インキをB型粘度計にて60rpmで測定した。
インキ初期粘度は、60rpmで20,000(mPa・s)を超えると、粘度が高すぎてスポンジ体にインキが含浸されず、製品組立てが出来ない等の不具合が生じる為、「×」と評価し、前記値より小さい場合は、「○」と評価した。
・インキ増粘率
インキ増粘率を算出した。なお、測定ローターは、ローターの測定上限値を考慮し、適切なローターを選択した。
インキ増粘率とは、前記50℃・1ヶ月経時保管後のインキ粘度の値が、前記インキ初期粘度値から何%増加したかを表した値であり、以下の式で表される。
・増粘率(%)
〔(1ヶ月後インキ粘度(60rpm)/インキ初期粘度(60rpm))-1〕
×100
インキ増粘率は、70%以上のサンプルは「×」、40~69%のサンプルは「△」、39%以下のサンプルは「○」と評価した。
・チキソ比
前記した方法で測定した6rpm、60rpmのインキ初期粘度値比を数値化して表した値であり、以下の式で表される。
チキソ比
=初期粘度(6rpm)/初期粘度(60rpm)
チキソ比の値が、2.1以下のサンプルは「×」、2.1より大きく2.4より小さいサンプルは「△」、2.4以上のサンプルは「○」と評価した。
【0024】
前記の各種試験の結果、実施例1~7のものは、いずれも満足出来る性能であることが確認出来た。
【0025】
表1の実施例1~4、比較例1、2から明らかなように、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスターMO-5S/阪本薬品工業株式会社製)とアクリル酸系重合物(商品名:アロンA-7185/東亞合成株式会社製)とを併用することにより、手と紙とのベタツキを抑えながら、50℃・1ヶ月経時保管後の初期捺印が良好なスタンプ台インキの作成が可能となる。なお、比較例1より、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加せず、アクリル酸系重合物のみを添加した場合であっても、紙とゴムとのベタツキはなく、良好な結果が得られることから、ポリグリセリン脂肪酸エステルとアクリル酸系重合物とを併用することにより、特に手と紙とのベタツキの低減という効果に寄与していることが判る。これは、手は体温熱を有している為、ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加によりインキにチキソ性が付与された際の紙への浸透力が、ゴムの場合と比較してより速い為であると考えられる。また、手は指紋やしわによる微細な凹凸を有している為、ゴムと比較し単位面積あたりの表面積が大きいことから、紙に対し密着しやすい。従ってゴム印で紙へ捺印する場合よりも、手で紙へ捺印する場合の方が、よりベタツキの小さいインキが求められるものと考えられる。
アクリル酸系共重合物を添加していない比較例2は、他の実施例等と比較し、増粘率が高いことから、インキの長期経時保存により、分散安定性が失われてインキ顔料が凝集し、インキがゲル化し始めていることが予測される。この結果から、アクリル酸系共重合体の添加は、インキ増粘率を抑え、インキの経時保管によるインキのゲル化を抑える効果があることが示唆される。
【0026】
実施例1~4、比較例3から明らかなように、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスターMO-5S/阪本薬品工業株式会社製)を35%添加することにより、インキ粘度が著しく上昇していることが判る.ポリグリセリンの添加量は、インキ配合全体に対し5~30%とすることが好ましいことが判る。
【0027】
実施例2、6から明らかなように、用いるアクリル酸系重合物を平均分子量500,000(商品名:アロンA-7185/東亞合成株式会社)のものから平均分子量100,000(商品名・SYグリスターMCA-750/坂本薬品工業株式会社製)のものとすることにより、50℃・1ヶ月経時保存後の初期捺印結果が「○」から「△」となっている。また、増粘率に着目すると、実施例6は、実施例2と比較し増粘率が大きく、インキの長期経時保管により、分散安定性が失われてインキ顔料が凝集し、インキが若干ゲル化し始めていることが予測される。
このことから、用いるアクリル酸系重合物を、平均分子量500,000のもの(商品名:「アロンA-20L」、「アロンA-7100」、「アロンA-7255」、「アロンA-7185」、「アロンA-7195」/東亞合成株式会社製)とすることで、インキの長期経時保管による分散安定性が改善され、50℃・1ヶ月経時保管後の初期捺印が良好となるものと考えられる。
【0028】
実施例2、5、7から明らかなように、用いるポリグリセリン脂肪酸エステルをHLB11.6(商品名:SYグリスターMO-5S/坂本薬品工業株式会社製)、HLB8.8(商品名:SYグリスターMO-3S/坂本薬品工業株式会社製)のものとした場合と比較し、HLB16.0(商品名:SYグリスターMCA-750坂本薬品工業株式会社製)とした場合は手と紙のベタツキが大きい結果となっている。チキソ比に注目すると、比較例7は比較例2、5のものと比較し、チキソトロピー性が低いことから、手形捺印する際、紙にインキが速やかに浸透せず、捺印後に紙から手又はゴム印を離す際に、ベタツキが発生したものと思われる。溶剤である水に対して安定乳状分散若しくは透明分散するHLB8~12のポリグリセリン脂肪酸エステルは、特に手と紙のベタツキの低減の効果が高いことが判る。
【0029】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスタンプインキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。