IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ユニバーシティー オブ メルボルンの特許一覧

<>
  • 特許-過敏症を治療するための複合体 図1
  • 特許-過敏症を治療するための複合体 図2
  • 特許-過敏症を治療するための複合体 図3
  • 特許-過敏症を治療するための複合体 図4
  • 特許-過敏症を治療するための複合体 図5
  • 特許-過敏症を治療するための複合体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】過敏症を治療するための複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20220909BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20220909BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
A61K8/64
A61Q11/00
A61K8/19
A61K8/24
A61P1/02
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019550158
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 AU2018050230
(87)【国際公開番号】W WO2018165707
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】2017900892
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】504348389
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ メルボルン
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MELBOURNE
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイノルズ エリック チャールズ
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-145952(JP,A)
【文献】特表2017-505760(JP,A)
【文献】特開2011-032250(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050144(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K38/00-38/58
A61K41/00-45/08
A61K 6/00- 6/90
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体であって、1モルのPP当たり1.4モルの第一スズから、1モルのPP当たり1.8モルの第一スズの間である第一スズイオン含有量を有する、複合体。
【請求項2】
前記第一スズイオン含有量が、1モルのPP当たり約1.6モルの第一スズである、請求項に記載の複合体。
【請求項3】
前記ホスホペプチドがカゼインホスホペプチドである、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の複合体と、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の複合体を含む、口腔ケア組成物。
【請求項6】
配合物が、練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨きなどの歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、及びその他の食品から選択される、請求項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項7】
象牙質過敏症の治療又は予防を露出した象牙質を有する個体に対して行うために用いられる医薬の製造のための、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、複合体、又は前記複合体を含む組成物の使用。
【請求項8】
前記ホスホペプチドがカゼインホスホペプチドである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記露出した象牙質が、1.0μmを超える直径の開口部を有する象牙細管を含む、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物が、口腔ケア組成物である、請求項7~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記口腔ケア組成物が、練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨きなどの歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、及びその他の食品から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
治療が必要な前記個体が象牙質過敏症である、請求項7~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記象牙質過敏症が知覚過敏である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記象牙質過敏症が、前記個体の露出した象牙細管により引き起こされる、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記象牙細管が、1.0、1.2、1.4、1.6、又は1.8μmを超える直径の開口部を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記象牙細管が、2.0、2.2、2.4、又は2.5μmを超える直径を有する開口部を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
歯の知覚過敏の治療又は予防のためのキットであって:
(a)請求項4~6のいずれか一項に記載の組成物、及び/又は
(b)請求項1~のいずれか一項に記載の複合体、
を含む、キット。
【請求項18】
請求項1~のいずれか一項に記載の第一スズが会合したPP安定化ACPを形成するための方法又はプロセスであって:
(i)少なくとも1つのホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを7.3以下に維持しながら、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む;又は
(i)ホスホペプチド安定化ACPの溶液を提供するステップと;
(ii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む、方法又はプロセス。
【請求項19】
請求項1~のいずれか一項に記載の第一スズが会合したPP安定化ACFPを形成するための方法又はプロセスであって:
(i)少なくとも1つのホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを7.3以下に維持しながら、カルシウムイオン、リン酸イオン、及びフッ化物イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む;又は
(i)ホスホペプチド安定化ACFPの溶液を提供するステップと;
(ii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む、方法又はプロセス。
【請求項20】
塩基又は酸を加えることを含まない、請求項18又は19に記載の方法又はプロセス。
【請求項21】
カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、又は第一スズ化合物を含む前記溶液に、別個に水酸化物イオンが加えられることがない、請求項18又は19に記載の方法又はプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体の全内容が参照により本明細書に援用されるオーストラリア仮特許出願第2017900892号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、改善されたホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム複合体、及びそれらの複合体を含む組成物に関する。本発明の複合体の製造方法、並びに歯の過敏症の治療又は予防方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
歯の3つの石灰化された構成要素は、エナメル質、セメント質、及び象牙質である。ヒトの歯においては、エナメル質は歯冠象牙質を覆い、一方、セメント質は歯根象牙質を覆う。象牙質は歯髄を取り囲み、歯髄は象牙質に血管及び神経の支持体を提供する。エナメル質及びセメント質とは異なり、象牙質には、象牙細管と呼ばれる管状構造の網目構造が横断している。これらの細管は、エナメル質(歯冠)及びセメント質(歯根)で覆われており、これらは、温度変化及び酸などの外部の物理的及び化学的影響に対する歯髄の保護層を形成し、神経の突出及び象牙質知覚過敏(dentin hypersensitivity)の障害を防止する。象牙質層の中に突出し、歯の表面に向けて開いている象牙細管の直径は、1~2.5μmの間で変動する。
【0004】
象牙質中の細管壁は、象牙質の石灰化したマトリックスから構成され、細管空間には、歯髄組織液と血清とから得られる流体(歯液)が満たされている。それらの硬質の壁のため、細い象牙細管を満たす流体は、低温、触覚、気化、及び浸透の刺激を、流体移動の形態で象牙質を通って歯髄まで伝達することができる。この歯液の移動は、短時間の鋭い痛みとして知覚される。この痛みは、細管の歯髄末端中に突出する象牙芽細胞に障害が発生するときに誘発され、結果として、それらに結合する歯髄神経線維の機械受容器が刺激される。この神経応答は、象牙質痛と呼ばれ、これに関与する象牙質は知覚過敏象牙質と呼ばれる。
【0005】
象牙質知覚過敏は、象牙質を覆う保護的なエナメル質又はセメント質が失われる場合に生じる。セメント質は、典型的にはエナメル質よりも破壊されやすく、その理由はセメント質はより薄く、より酸によって腐食されやすいからである。しかし、歯肉退縮が存在し、歯根表面が口腔環境に露出するまでは、セメント質の破壊は起こりえない。破壊されたセメント質を有し象牙質知覚過敏になった個体は、歯の露出領域が、冷気、高温及び低温の液体、甘い若しくは酸っぱい食品に接触するとき、又は金属物体に触れるときに、痛みを感じることが多い。歯の知覚過敏の患者は、通常よりも多い数の開放された象牙細管及び/又は通常よりも大きい直径の細管を有する。
【0006】
国際公開第2015/095932号パンフレットには、ある種の有益な性質を有する複合体が記載されている。本発明は、これらの複合体に対して顕著な利点を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
象牙質過敏症(dentinal sensitivity)を治療及び/又は予防するために象牙細管の露出を最小限にするための組成物及び方法が必要とされている。
【0008】
本明細書におけるあらゆる従来技術に対する言及は、この従来技術が、あらゆる管轄区における共通の一般知識の一部を構成するものであり、この従来技術が当業者によって関連する及び/又は従来技術の他の要素と組み合わされるものとして理解され、見なされるものと合理的に予想されうるとの承認でも示唆でもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様においては、本発明は、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが、1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を提供する。
【0010】
好ましくは、複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズから、1モルのPP当たり約2モルの第一スズの間である。複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズ、又は1モルのPP当たり約2モルの第一スズであってよい。最も好ましくは、複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.6モルの第一スズである。
【0011】
他の態様においては、本発明は、本発明の第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を含む組成物を提供する。
【0012】
別の一態様においては、本発明は、ホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体と、第一スズ化合物とを含む組成物であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが、1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、組成物を提供する。
【0013】
好ましくは、組成物の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズから、1モルのPP当たり約2モルの第一スズの間である。組成物の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズ、又は1モルのPP当たり約2モルの第一スズであってよい。最も好ましくは、組成物の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.6モルの第一スズである。
【0014】
好ましくは、組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤をさらに含む。
【0015】
別の一態様においては、本発明は、象牙質過敏症の治療又は予防をそれが必要な個体に対して行う方法であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を投与し、それによって個体の象牙質知覚過敏の治療又は予防を行うステップを含む方法も提供する。
【0016】
別の一態様においては、本発明は、象牙質過敏症の治療又は予防をそれが必要な個体に対して行う方法であって、ホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体と、第一スズ化合物とを含む組成物であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する組成物を投与し、それによって個体の象牙質知覚過敏の治療又は予防を行うステップを含む方法も提供する。
【0017】
好ましくは、象牙質過敏症は象牙質知覚過敏である。
【0018】
好ましくは、本方法は、治療を必要とする個体を特定するステップをさらに含む。たとえば、本発明は、本明細書に記載のいずれかの方法のステップに加えて、象牙質過敏症、特に知覚過敏である被験者を特定するステップを含む。
【0019】
別の一態様においては、本発明は、個体の露出した象牙細管を塞ぐ方法であって:
1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体;又は
ホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体と、第一スズ化合物とを含む組成物であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する組成物を投与し、
それによって個体の露出した象牙細管を塞ぐステップを含む、方法を提供する。
【0020】
別の一態様においては、本発明は、個体の露出した象牙細管の上に層を形成する方法であって:
1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体;又は
ホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体と、第一スズ化合物とを含む組成物であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する組成物を投与し、
それによって個体の露出した象牙細管の上に層を形成するステップを含む、方法を提供する。
【0021】
好ましくは、露出した象牙細管を塞ぐ方法、又は露出した象牙細管の上に層を形成する方法は、個体の露出した象牙細管を特定するステップをさらに含む。
【0022】
別の一態様においては、本発明は:
1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体;又は
ホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体と、第一スズ化合物とを含む組成物であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する組成物の、
象牙質過敏症の治療又は予防のための医薬品の製造における使用を提供する。好ましくは、象牙質過敏症は象牙質知覚過敏である。
【0023】
別の一態様においては、本発明は、象牙質過敏症の治療又は予防において使用するための、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体;又は
ホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体と、第一スズ化合物とを含む組成物であって、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する組成物の、
象牙質過敏症の治療又は予防における使用を提供する。好ましくは、象牙質過敏症は象牙質知覚過敏である。
【0024】
本明細書に記載の本発明のいずれかの態様においては、第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズから、1モルのPP当たり約2モルの第一スズの間である。第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズ、又は1モルのPP当たり約2モルの第一スズであってよい。最も好ましくは、第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.6モルの第一スズである。
【0025】
本発明のいずれかの態様においては、本発明の複合体、又は本発明の組成物は、口腔に投与される。或いは、投与は、治療を必要とする口腔部位、たとえば露出した象牙質を有する部位に直接行うことができる。いずれの場合も、投与によって、露出した象牙質などの治療を必要とする口腔部位に複合体又は組成物が接触する。
【0026】
本発明のいずれかの態様においては、ホスホペプチドはカゼインホスホペプチドである。
【0027】
一実施形態においては、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)複合体は、ホスホペプチド、第一スズイオン、カルシウムイオン、リン酸イオン、及び水酸化物イオン、並びに水から本質的になる、又はからなる。
【0028】
一実施形態においては、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、ホスホペプチド、第一スズイオン、カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、及び水酸化物イオン、並びに水から本質的になる、又はからなる。
【0029】
本明細書に記載のいずれかの態様又は実施形態においては、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化ACP又はACFP複合体は、さらなるリン酸カルシウムを含む配合物中に存在することができる。典型的には、この配合物は、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化ACP又はACFP複合体とともに、少なくとも同じ重量のリン酸カルシウムを含む。
【0030】
本明細書に記載の本発明のいずれかの態様又は実施形態においては、本発明の組成物、又は本発明の第一スズが会合したPP安定化ACP若しくはACFP複合体は、治療を必要とする被験者によって、又は歯科医療の専門家によって、口、歯、又は露出した象牙質に使用することができる。
【0031】
本発明の第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体、又は本発明の組成物は、歯の表面に、約1~60分間、約1~30分間、約10~60分間、約10~30分間、約20~60分間、又は約20~30分間接触させることができる。好ましくは、複合体又は組成物を歯の表面に約20分間接触させる。
【0032】
別の一態様においては、本発明は、歯の表面又は表面下を石灰化する方法であって、歯の表面又は表面下を、本発明の第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体、又は本発明の組成物に接触させ、それによって歯の表面又は表面下を石灰化するステップを含む方法を提供する。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態において、組成物中の第一スズが会合したホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、強く結合したカルシウム及び緩く結合したカルシウムを有し、複合体中の結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACP又はACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少ない。任意選択により、ACP又はACFPは主として塩基形態である。
【0034】
本発明の別の好ましい一実施形態においては、安定化ACP若しくはACFP複合体、又は組成物中の複合体のカルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり30モルを超えるカルシウムである。好ましくは、安定化ACP又はACFP複合体のカルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~約50モルの範囲内のカルシウムである。
【0035】
本発明は:
(a)本発明の組成物、又は
(b)本発明の第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP若しくはACFP複合体
を含む、象牙質知覚過敏の治療又は予防のためのキットにも関する。
【0036】
好ましくは、第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP又はACFP複合体は、薬学的に許容される担体中に存在する。望ましくは、キットは、そのような治療を必要とする個体の象牙質知覚過敏の治療又は予防するための使用説明書をさらに含む。一実施形態において、組成物及び複合体は、個体の治療に好適な量で存在する。
【0037】
本発明の組成物又はキットは、フッ化物イオン源をさらに含むことができる。フッ化物イオンは、あらゆる好適な供給源から得ることができる。フッ化物イオン源としては、遊離のフッ化物イオン又はフッ化物塩を挙げることができる。フッ化物イオン源の例としては、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、ケイフッ化ナトリウム、及びアミンフッ化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは溶液(典型的には水溶液)中、又は懸濁液中に供給することができる。
【0038】
文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、用語「含む」(comprise)、並びにその用語の変形、たとえば「含むこと」(comprising)、「含む」(comprises)、及び「含んだ」(comprised)は、さらなる添加剤、構成要素、整数、又はステップを排除することを意図するものではない。
【0039】
本発明のさらなる態様、及び上記の段落に記載した態様のさらなる実施形態は、添付の図面を参照しながら例として示される以下の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】蒸留脱イオン水(DDW)で治療した患者の象牙質細管の走査型電子顕微鏡法(SEM)。倍率は15,000倍であり、10μMのスケールを示している。露出した象牙質細管が塞がれていないことがはっきりと見える。
図2】象牙質の表面上の自己組織化ナノフィラメントが細管を塞いでいることを示す、Sn/CPPのモル比1.6:1で治療した患者の象牙質細管のSEM。倍率は15,000倍であり、10μMのスケールが示されている。
図3】象牙質の表面上の自己組織化ナノフィラメントが細管を塞いでいることを示す、Sn/CPPのモル比1.6:1で治療した患者の象牙質細管のSEM。1つの象牙質細管が示されている。倍率は60,000倍であり、2.0μMのスケールが示されている。
図4】象牙質の表面上の自己組織化ナノフィラメントが細管を塞いでいることを示す、Sn/CPPのモル比1.6:1で治療した患者の象牙質細管のSEM。1つの象牙質細管が示されている(図3中に示されているものとは異なる細管)。倍率は60,000倍であり、2.0μMのスケールが示されている。
図5】象牙質の表面上に自己組織化ナノフィラメントが部分的に形成され、細管が部分的に塞がれていることを示す、Sn/CPPのモル比4:1で治療した患者の象牙質細管のSEM。倍率は15,000倍であり、10μMのスケールが示されている。
図6】象牙質の表面上に部分的に自己組織化したナノフィラメントを示し、いずれの細管も部分的に塞がれていることを示す、Sn/CPPのモル比8.6:1で治療した患者の象牙質細管のSEM。倍率は15,000倍であり、10μMのスケールが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書に開示され規定される本発明は、本文又は図面に記載される、又はそれらより明らかとなる個別の特徴の2つ以上のすべての別の組合せまで拡張されると理解されたい。これらの異なる組合せのすべては、本発明の種々の別の態様を構成している。
【0042】
本発明のさらなる態様、及び上記の段落に記載した態様のさらなる実施形態は、添付の図面を参照しながら例として示される以下の説明から明らかとなるであろう。
【0043】
これより本発明の特定の実施形態の詳細に言及する。実施形態とともに本発明が説明されるが、それらの実施形態に本発明が限定されることを意図したものではないことを理解されたい。逆に、本発明は、請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれうるすべての代案、修正、及び同等物を含むことが意図される。
【0044】
当業者であれば、本発明の実施に使用可能となる、本明細書に記載のものと類似又は同等の多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は、記載の方法及び材料に限定されるものでは決してない。
【0045】
本明細書に引用されるすべての特許及び刊行物は、それら全体が参照により援用される。
【0046】
本明細書を説明するために、単数形で使用される用語は複数形をも含み、逆の場合も同様である。
【0047】
文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、用語「含む」(comprise)、並びにその用語の変形、たとえば「含むこと」(comprising)、「含む」(comprises)、及び「含んだ」(comprised)は、さらなる添加剤、構成要素、整数、及びステップを排除することを意図するものではない。文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、「含む」(comprise)及び「含める」(include)は同義で使用することができる。
【0048】
本発明は、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである第一スズイオン含有量を有する、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体が、象牙細管を塞ぐことが可能な自己組織化ナノフィラメントを形成できるという驚くべき発見に基づいている。特に、自己組織化ナノフィラメントは、象牙細管の開口部全体に及び、同時に象牙質表面にわたるナノフィラメントの網目構造を形成するような程度で形成される。このことは、1モルのホスホペプチド当たり4モルを超える第一スズイオン含有量では起こらない。
【0049】
なんらかの理論又は作用機序によって束縛されるものではないが、第一スズイオン及びホスホペプチドは象牙質表面と相互作用することで、象牙質表面にわたってナノフィラメントの自己組織化網目構造を示して細管を塞ぐ、独特の表面被覆パターンが形成されると考えられる。これらのナノフィラメントは、ナノフィラメントが上に形成される表面にカルシウムイオン、リン酸イオン、及びフッ化物イオンの積み荷を下ろした、第一スズが架橋したホスホペプチドであると考えられる。本明細書に示される結果は、第一スズのホスホペプチドに対するモル比が1モル以上であるが4モル未満であることが、架橋ナノフィラメントの形成、したがって象牙質知覚過敏の大きな軽減に重要であることを示している。
【0050】
第一スズ含有化合物、又は第一スズ化合物は、口腔使用に適したあらゆる可溶性第一スズ含有化合物であってよい。好ましくは、第一スズ含有化合物は第一スズ塩である。第一スズ塩はフッ化物を含むことができる。第一スズ塩としては、フッ化第一スズ、塩化第一スズ、フッ化第一スズカリウム、フルオロジルコン酸第一スズナトリウム、塩化フッ化第一スズ、酢酸第一スズ、フッ化第一スズナトリウム、ヘキサフルオロジルコン酸第一スズ、硫酸第一スズ、酒石酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、クエン酸一第一スズ二ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい第一スズ塩としては、フッ化第一スズ及び塩化第一スズが挙げられる。
【0051】
実施例2における実験プロトコルを用いて測定されるように、第一スズは、ホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)に結合することができる。一実施形態においては、第一スズが会合したPP安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、限定するものではないが実施例1に記載の方法などの本明細書に記載の方法によって製造される。
【0052】
本発明のいずれかの態様においては、本発明の複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが、1モルのPP当たり4モル未満の第一スズであってよい。たとえば、第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、又は4.0モル以上の第一スズであってよい。1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、又は4.0のいずれか2つの値の間の第一スズイオン含有量の範囲も考慮される。
【0053】
本発明のいずれかの態様においては、本発明の複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズから、1モルのPP当たり約3モルの第一スズの間であってよい。
【0054】
いずれかの態様においては、複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズから、1モルのPP当たり約2モルの第一スズの間である。この範囲は、1モルのPP当たり1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、又は2.0モルの第一スズを含む。複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1モルの第一スズ、又は1モルのPP当たり約2モルの第一スズであってよい。
【0055】
本発明のいずれかの態様においては、本発明の複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.2モルの第一スズから、1モルのPP当たり約1.8モルの第一スズの間であってよい。好ましくは、第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.4モルの第一スズから、1モルのPP当たり約1.8モルの第一スズの間であり;又は1モルのPP当たり約1.3モルの第一スズから、1モルのPP当たり約1.5モルの第一スズである。最も好ましくは、複合体の第一スズイオン含有量は、1モルのPP当たり約1.6モルの第一スズである。
【0056】
本発明の組成物も、本発明の複合体と同等の第一スズイオン含有量を有することができる。たとえば、本発明の組成物は、1モルのPP当たり1.6モルの第一スズの第一スズイオン含有量を有することができる。したがって、本明細書において使用される複合体の第一スズイオン含有量への言及は、組成物の第一スズイオン含有量をも意味することができる。
【0057】
複合体又は組成物中の第一スズの量は、本明細書に記載又は当技術分野において周知のいずれかの方法によって求めることができる。
【0058】
いずれかの態様においては、本発明は、歯のエナメル質又は象牙質であってよい口腔部位の歯の表面に適用される。典型的には、この表面は露出した象牙質であり、これはエナメル質又はセメント質が失われた結果として露出されうる。露出した象牙質は、好ましくは象牙質知覚過敏の原因となる。セメント質の破壊によって生じる露出した象牙質は、歯肉退縮と、歯根表面の口腔環境への露出とによって特定されうる。典型的には、口腔部位は大臼歯上に存在する。
【0059】
典型的には、露出した象牙質は、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、又は2.5μmを超える直径の開口部を有する象牙細管を含む。
【0060】
象牙質過敏症、好ましくは知覚過敏である個体は、歯のある領域が熱又は触覚の刺激に曝露するときに痛みを感じる個体であってよい。特に、個体は、歯のある領域が冷気、高温及び低温の液体、甘い若しくは酸っぱい食品に接触するとき、又は金属物体に触れるときに、痛みを感じることがある。いずれかの態様においては、痛みを感じるかどうかを調べるために、治療前にこれらの刺激のいずれか1つに曝露することによって、治療のための個体を特定することができる。歯の知覚過敏を有する個体は、通常よりも大きい直径の開放された象牙細管及び/又は細管をより多い数で有するとして特定することができ、たとえば、個体は、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、又は2.5μmを超える直径の開口部を有する象牙細管をより多い数で有することができる、又は有する。
【0061】
「治療する」又は「治療」という単語は、望ましくない生理学的変化又は不調を鈍化させる(軽減する)ことが目的である治療的処置を意味する。本発明の目的では、有益又は望ましい臨床結果としては、検出可能若しくは検出不可能のいずれかの、症状の緩和、疾患の程度の軽減、症状の安定した(すなわち、悪化していない)状態、症状の進行の遅延若しくは減速、疾患/症状の回復若しくは一時的緩和、及び寛解(部分的若しくは完全のいずれか)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。治療は、必ずしも疾患の検出可能な症状が完全にはなくならない場合があるが、疾患の合併症及び副作用を軽減したり、又は最小限にしたりすることができる。治療の成功又はその他は、個体の理学的検査、又は本明細書に記載のあらゆる熱的、触覚的、若しくは化学的治療に対する応答によって監視することができる。好ましくは、個体が、時間が経つにつれて、痛みの重症度の軽減、又は痛みの発生数の減少を感じる。異なる程度の象牙質過敏症を有する個体を特定する方法、及び治療又は予防の成功を判定する方法は、本明細書に記載されており、Med Oral Patol Oral Cir Bucal.2008 Mar 1;13(3):E201-6に概要が示されるものも挙げられる。個体の治療は、本明細書で前述したいずれかの刺激に曝露した場合に感じる痛みのレベルを治療前及び治療後で比較することによって決定することができ、これによる治療後の痛みの軽減が過敏症の軽減を示している。
【0062】
「予防する」及び「予防」という単語は、一般に、過敏症を有しない個体の過敏症への進行から守るため、又は進行しないようにするための、予防的又は防止的手段を意味する。予防が必要となり得る個体は、歯科処置、特に象牙質を露出させる歯科処置が行われる個体である。
【0063】
本発明のいずれかの態様においては、上記の第一スズイオン含有量は、(本明細書に記載されるように)複合体に強く結合した第一スズイオン含有量であってよい。第一スズイオン含有量の評価では、強く結合した第一スズイオン含有量は、本明細書、特に実施例2に記載の方法によって測定される。
【0064】
本発明は、1000の分子量カットオフフィルター中で約3000gで室温において1時間遠心分離した後に複合体と会合したままである第一スズイオンを含む、第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP及び/又はACFP複合体も提供し、複合体と会合したままの第一スズイオンの含有量は、1モルのPP当たり1モル以上の第一スズであるが、1モルのPP当たり4モル未満の第一スズである。
【0065】
本発明は、実施例2の方法によって測定して、強い結合として複合体に会合した第一スズを少なくとも50、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%有する、第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP又はACFPも提供する。
【0066】
本発明のいずれかの組成物においては、ホスホペプチド安定化ACP又はACFP、好ましくはCPP-ACP又はACFPの量は、約2%~5%の間であってよく、第一スズ化合物、好ましくはSnFの量は、500ppmのFであってよい。ホスホペプチド安定化ACP又はACFPは2%又は5%であってよい。
【0067】
本発明のいずれかの組成物においては、ホスホペプチド安定化ACP又はACFP、好ましくは CPP-ACP又はACFPの量は、約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、又は10重量%以上であってよい。 典型的には、第一スズ化合物、好ましくはSnFの量は、約100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、2000、3000、4000、又は5000ppm以上のFであってよい。
【0068】
一態様においては、本発明は、歯の表面又は表面下を石灰化する方法であって、歯の表面又は表面下を、本発明の第一スズが会合したホスホペプチド(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)若しくは非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体、又は本発明の組成物に接触させ、それによって歯の表面又は表面下を石灰化するステップを含む方法を提供する。
【0069】
好ましい一実施形態においては、第一スズが会合したホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、強く結合したカルシウム及び緩く結合したカルシウムを有し、この複合体中の結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACP又はACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少ない。場合により、ACP又はACFPは主として塩基形態である。
【0070】
別の一態様においては、本発明は、第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP又はACFPを含み、フッ化物をさらに含む組成物も提供し、このフッ化物はフッ化第一スズ及び/又はフッ化ナトリウムとして提供される。好ましくは、1モルの第一スズごとに2モルのフッ化物が存在する。好ましくは、この組成物は、練り歯磨き又は本明細書に記載のあらゆる他の口腔ケア組成物である。
【0071】
好ましい一実施形態においては、第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP又はACFP複合体のカルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~約50モルの範囲内のカルシウムである。
【0072】
好ましい一実施形態においては、第一スズが会合したホスホペプチドACP及び/又はACFP複合体は、カゼインホスホペプチド安定化ACP及び/又はACFP複合体の形態である。
【0073】
本発明のいずれかの態様においては、ホスホペプチド又はリンタンパク質は、カゼインホスホペプチド若しくはリンタンパク質又はそれらのトリプシン消化物である。
【0074】
好ましくは、ACPの相は、主として(すなわち>50%)塩基性相であり、ACPは、主としてCa2+、PO 3-、及びOHの化学種を含む。ACPの塩基性相は、一般式[Ca(PO[Ca(PO)(OH)]で表すことができ、式中、x≧1である。好ましくはx=1~5である。より好ましくは、x=1であり、すなわち式の2つの成分が同じ比率で存在する。したがって、一実施形態においては、ACPの塩基性相は式Ca(POCa(PO)(OH)で表される。
【0075】
好ましくは、ACFPの相は、主として(すなわち>50%)塩基性相であり、ACFPは、主としてCa2+、PO 3-、及びFの化学種を含む。ACFPの塩基性相は、一般式[Ca(PO[Ca(PO)F]で表すことができ、式中、y=1の場合x≧1、又はx=1の場合y≧1である。好ましくは、y=1及びx=1~3である。より好ましくは、y=1及びx=1であり、すなわち式の2つの成分が同じ比率で存在する。したがって、一実施形態においては、ACFPの塩基性相は式Ca(POCa(PO)Fで表される。
【0076】
本明細書に言及されるような第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体としては、7.3の又は7.3未満のpHで形成された第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体が挙げられる。好ましくは複合体は、約5.0~7.3未満の範囲内のpHで形成される。より好ましくは複合体は、約4.0~7.3、又は5.0~約6.0のpH範囲で形成される。一実施形態において、形成中のpHはpH7.3以下に維持される。好ましい一実施形態において、複合体は約5.5のpHで形成される。好ましくは、複合体中のACP又はACFPは主として塩基形態である。工業規模で製造される場合、第一スズが会合した安定化ACP又はACFP複合体は、約7.3を超え、好ましくは約9.0のpHを有し得るバルク溶液中で製造され得るが、複合体の形成における局所的なpHは、約7.3未満、好ましくは約4.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0077】
第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP、又は安定化ACP若しくはACFPが、商業規模より少ない量で実験室で製造される場合、溶液全体のpHを特定のpHに維持することができ、すなわちCPP-ACPがpH5.5で調製される場合は、CPP-ACPの形成中の溶液全体がpH5.5に維持される。しかし、バルク溶液の一部のみが酸性pHを有する必要があるのは、複合体が形成される場合であるので、商業的製造でのバルク溶液全体のpHを5.5まで低下させる必要もなく望ましくもない場合があり、バルク溶液はpHの局所的ゆらぎを有することがあり、実際に有する。pHのゆらぎは、特に、ホスフェート化合物、たとえばリン酸二水素が加えられたときに生じるプロトン、及び酸性ホスフェートイオンがその塩基形態PO 3-に変換されるときに遊離するプロトンによって生じる。したがって、バルク溶液の全体のpHは7.3を超え、たとえば約pH9であってよいが、CPP-ACPが形成されるときの局所的なpHはより低く、典型的には7.3未満又は6.5未満であり、好ましくは約4.0~7.3であり、より好ましくは約5.5である。これらのゆらぎは、バルク溶液の規模のために局所化される。
【0078】
本発明は、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACPの形成方法又はプロセスを提供し、方法は:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.3以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、及び水酸化物イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法;
又は
(i)ホスホペプチド安定化ACPの溶液を提供するステップと;
(ii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法である。
【0079】
本発明は、第一スズが会合したPP安定化ACFPの形成方法又はプロセスも提供し、方法は:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.3以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、水酸化物イオン、及びフッ化物イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法;
又は
(i)ホスホペプチド安定化ACFPの溶液を提供するステップと;
(ii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法である。
【0080】
水酸化物イオン、ホスホペプチド溶液を実質的に一定のpHに維持するために溶液中に滴定することができる。カルシウムイオン及びホスフェートイオンは、一定速度で混合しながらホスホペプチド溶液中でのリン酸カルシウム沈殿物の形成が回避される速度で、ホスホペプチド溶液中に滴定することができる。
【0081】
本発明は、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACPを形成するための方法又はプロセスも提供し:
(i)少なくとも1つのホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.3以下に維持しながら、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む;又は
(iv)ホスホペプチド安定化ACPの溶液を提供するステップと;
(v)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法である。
【0082】
好ましくは、この方法又はプロセスは、塩基又は酸を加えることを含まない。たとえば、カルシウムイオン、リン酸イオン、又は第一スズ化合物を含む溶液に別個に水酸化物イオンが加えられることはない。
【0083】
本発明は、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACFPを形成するための方法又はプロセスも提供し:
(i)少なくとも1つのホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.3以下に維持しながら、カルシウムイオン、リン酸イオン、及びフッ化物イオンを含む溶液を混合するステップと;
(vi)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む、又は
(iii)ホスホペプチド安定化ACFPの溶液を提供するステップと;
第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法である。
【0084】
好ましくは、この方法又はプロセスは、塩基又は酸を加えることを含まない。たとえば、カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、又は第一スズ化合物を含む溶液に別個に水酸化物イオンが加えられることはない。
【0085】
本発明の第一スズが会合したPP安定化ACPは、pHを約7.3以下に維持しながら、CPP-ACP及び第一スズ化合物を水溶液中で混合するステップを含む方法によって製造することができる。
【0086】
本発明の第一スズが会合したPP安定化ACFPは、pHを約7.3以下に維持しながら、CPP-ACFPと第一スズ化合物とを水溶液中で混合するステップによって製造することができる。
【0087】
本発明の第一スズが会合したPP安定化ACPは:
(i)CPP-ACPを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.3以下に維持しながら第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0088】
本発明の第一スズ安定化ACFPは:
(i)CPP-ACFPを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.3以下に維持しながら第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0089】
好ましくは、第一スズ化合物はフッ化第一スズである。任意選択により、第一スズが会合したPP安定化ACP又は第一スズが会合したPP安定化ACFPの製造方法は、ステップ(ii)でフッ化ナトリウムを混合するステップをさらに含む。
【0090】
必要な場合は、pHはHClなどの酸を用いて維持することができる。
【0091】
好ましくは、CPP-ACP又はCPP-ACFPを含む溶液は、CPP-ACP又はCPP-ACFPを蒸留水又は脱イオン水に加えることによって調製される。2%以上、好ましくは5%のCPP-ACP又はCPP-ACFPを含む溶液が使用される場合、この方法又はプロセス中に塩基又は酸を加える必要はない。
【0092】
本発明の第一スズが会合したPP安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、安定化PP非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体をフッ化第一スズと混合することによって形成することができる。
【0093】
第一スズが会合したPP安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を製造するための本明細書に記載のいずれかの方法においては、ホスホペプチド安定化ACP又はACFP、好ましくはCPP-ACP又はACFPの量は2%以上又は5%以上であってよく、第一スズ化合物、好ましくはSnFの量は500ppm以上のFであってよい。
【0094】
本明細書に記載の第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体は、Cross et al.,2007.Current Pharmaceutical Design,13,793-800の図2に示される「閉じた」(closed)複合体の形態であってよい。
【0095】
第一スズが会合したPP安定化ACP及び/又はACFP複合体を含む組成物は、少なくとも同重量のリン酸カルシウムをさらに含むことができる。好ましくはリン酸カルシウムはCaHPOである。好ましくは、リン酸カルシウム(たとえばCaHPO)をPP安定化ACP及び/又はACFP複合体と乾式ブレンドする。好ましい一実施形態において、PP-ACP及び/又はPP-ACFP複合体:リン酸カルシウムの比は約1:1~50であり、より好ましくは約1:1~25、より好ましくは約1:5~15である。一実施形態において、PP-ACP及び/又はPP-ACFP複合体:リン酸カルシウムの比は約1:10である。
【0096】
好ましくは、乾式ブレンドのためのリン酸カルシウムの形態は、限定するものではないがCaHPO、CaHPO、及び乳酸カルシウムなどの任意の可溶性リン酸カルシウムである。
【0097】
本明細書に記載の組成物は、遊離のフッ化物イオンをさらに含むことができる。フッ化物イオンは、あらゆる好適な供給源に由来してよい。フッ化物イオン源としては、遊離のフッ化物イオン又はフッ化物塩を挙げることができる。フッ化物イオン源の例としては、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、ケイフッ化ナトリウム、及びアミンフッ化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは溶液(典型的には水溶液)中、又は懸濁液中に供給することができる。
【0098】
フッ化物イオンは好ましくは1ppmを超える量で組成物中に存在する。より好ましくは、その量は3ppmを超える。別の一実施形態において、好ましくは10ppmを超える。後述の典型的な実施形態においては、その量は100ppm~5,000ppm、好ましくは、400ppm~3000ppm、好ましくは1000~300ppmとなりうる。フッ化物含有量は典型的には、当技術分野において一般に使用される方法で口腔用組成物中のppmとして測定される。フッ化物が安定化ACPを有する供給源から得られる場合、ppmは、典型的には生物学的に利用可能なフッ化物の溶液又は懸濁液であるその供給源中のフッ化物濃度を意味する。
【0099】
本発明の説明の文脈における「ホスホペプチド」は、少なくとも1つのアミノ酸がリン酸化されているアミノ酸配列を意味する。好ましくは、ホスホペプチドは、1つ以上のアミノ酸配列-A-B-C-を含み、式中、Aはホスホアミノ残基であり、Bはホスホアミノ残基を含めた任意のアミノアシル残基であり、Cはグルタミル残基、アスパルチル残基、又はホスホアミノ残基から選択される。任意のホスホアミノ残基は、独立して、ホスホセリル残基であってよい。Bは望ましくは、側鎖が比較的大きくなく疎水性でもない残基である。これは、Gly、Ala、Val、Met、Leu、Ile、Ser、Thr、Cys、Asp、Glu、Asn、Gln、又はLysであってよい。
【0100】
別の一実施形態において、配列中のホスホアミノ酸の少なくとも2つが好ましくは隣接する。好ましくは、ホスホペプチドは、配列A-B-C-D-Eを含み、式中、A、B、C、D、及びEは独立して、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホスホチロシン、ホスホヒスチジン、グルタミン酸、又はアスパラギン酸であり、A、B、C、D、及びEの少なくとも2つ、好ましくは3つはホスホアミノ酸である。好ましい一実施形態において、ホスホアミノ酸残基はホスホセリンであり、最も好ましくは3つの隣接するホスホセリン残基である。D及びEが、独立してグルタミン酸又はアスパラギン酸であることも好ましい。
【0101】
一実施形態において、ACP又はACFPは、無傷のカゼイン又はカゼインのフラグメントの形態であるカゼインホスホペプチド(CPP)によって安定化され、形成される複合体は、好ましくは、式[CPP(ACP)又は[(CPP)(ACFP)で表され、式中のnは1以上であり、たとえば6である。形成される複合体は、コロイド状複合体であってよく、そのコア粒子は凝集し、水中で懸濁して大型(たとえば100nm)のコロイド粒子を形成する。したがって、PPはカゼインタンパク質又はホスホペプチドであってよい。
【0102】
PPは、あらゆる供給源から得られてよく、全長カゼインポリペプチドを含めたより大きなポリペプチドの状況で存在することができるし、カゼイン、若しくはホスフィチン(phosphitin)などの別のホスホアミノ酸に富むタンパク質のトリプシン消化若しくはその他の酵素消化若しくは化学的消化によって、又は化学合成若しくは組替え合成によって単離されてよく、但し、前述の配列-A-B-C-又はA-B-C-D-Eを含むことが条件である。このコア配列を隣に有する配列は、あらゆる配列であってよい。しかし、αs1(59-79)、β(1-25)、αs2(46-70)、及びαs2(1-21)中の隣接配列が好ましい。隣接配列は、任意選択により、1つ以上の残基の欠失、付加、又は保存的置換によって改変されてよい。隣接領域のアミノ酸組成及び配列は重要ではない。
【0103】
保存的置換の例を以下の表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
隣接配列は、非天然アミノ酸の残基を含むこともできる。遺伝暗号によってコードされない一般的に遭遇するアミノ酸としては以下のものが挙げられる:
Glu及びAspの場合の2-アミノアジピン酸(Aad);
Glu及びAspの場合の2-アミノピメリン酸(Apm);
Met、Leu、及び別の脂肪族アミノ酸の場合の2-アミノ酪(Abu)酸;
Met、Leu、及び別の脂肪族アミノ酸の場合の2-アミノヘプタン酸(Ahe);
Glyの場合の2-アミノイソ酪酸(Aib);
Val及びLeu及びIleの場合のシクロヘキシルアラニン(Cha);
Arg及びLysの場合のホモアルギニン(Har);
Lys、Arg及びHisの場合の2,3-ジアミノプロピオン酸(Dpr);
Gly、Pro,及びAlaの場合のN-エチルグリシン(EtGly);
Asn、及びGlnの場合のN-エチルアスパリギン(N-ethylasparigine)(EtAsn);
Lysの場合のヒドロキシルリシン(Hyl);
Lysの場合のアロヒドロキシルリシン(AHyl);
Pro、Ser、及びThrの場合の3-(及び4)ヒドロキシプロリン(3Hyp、4Hyp);
Ile、Leu,及びValの場合のアロイソロイシン(Alle);
Alaの場合のρ-アミジノフェニルアラニン;
Gly、Pro、Alaの場合のN-メチルグリシン(MeGly、サルコシン)。
Ileの場合のN-メチルイソロイシン(MeIle);
Met及び別の脂肪族アミノ酸の場合のノルバリン(Nva);
Met及び別の脂肪族アミノ酸の場合のノルロイシン(Nle);
Lys、Arg及びHisの場合のオルニチン(Orn);
Thr、Asn及びGlnの場合のシトルリン(Cit)及びメチオニンスルホキシド(MSO);
Pheの場合のN-メチルフェニルアラニン(MePhe)、トリメチルフェニルアラニン、ハロ(F、Cl、Br及びI)フェニルアラニン、トリフロウリルフェニルアラニン(triflourylphenylalanine)。
【0106】
一実施形態において、PPは、αs1(59-79)[1]、β(1-25)[2]、αs2(46-70)[3]及びαs2(1-21)[4]からなる群から選択される1種類以上のポリペプチドである:
[1]Gln59-Met-Glu-Ala-Glu-Ser(P)-Ile-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ile-Val-Pro-Asn-Ser(P)-Val-Glu-Gln-Lys79 αs1(59-79)
[2]Arg-Glu-Leu-Glu-Glu-Leu-Asn-Val-Pro-Gly-Glu-Ile-Val-Glu-Ser(P)-Leu-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ser-Ile-Thr-Arg25 β(1-25)
[3]Asn46-Ala-Asn-Glu-Glu-Glu-Tyr-Ser-Ile-Gly-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ser(P)-Ala-Glu-Val-Ala-Thr-Glu-Glu-Val-Lys70 αs2(46-70)
[4]Lys-Asn-Thr-Met-Glu-His-Val-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ser-Ile-Ile-Ser(P)-Gln-Glu-Thr-Tyr-Lys21 αs2(1-21)。
【0107】
本発明の別の一実施形態において、第一スズが会合したPP安定化ACP及び/又は第一スズが会合したPP安定化ACFP複合体は、象牙質知覚過敏の予防及び/又は治療を促進するための練り歯磨き、マウスウォッシュ、又は口用配合物などの口腔用組成物中に混入される。露出した象牙細管を塞ぐのに又は露出した象牙細管の上に層を形成するのに十分な量の第一スズが会合したPP安定化ACP及び/又はACFPを含む口腔用組成物。第一スズが会合した安定化ACP及び/又はACFP複合体は、組成物の0.01~50重量%、好ましくは1.0~50重量%、好ましくは組成物の1.0~30重量%、好ましくは1.0~20重量%、好ましくは1.0~10重量%、好ましくは2~10重量%を構成することができる。特に好ましい一実施形態において、本発明の口腔用組成物は、約2%の安定化ACP若しくはACFP複合体、又はそれら両方の混合物を含有する。
【0108】
本発明の複合体を含有する本発明の口腔用組成物は、練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨きなどの歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、及びヨーグルトを含むその他の食品などの口に使用可能な種々の形態で調製し使用することができる。本発明による口腔用組成物は、個別の口腔用組成物の種類及び形態によって、さらなる周知の成分を含むことができる。練り歯磨き、歯磨き粉及び液体歯磨き、マウスウォッシュ、マウスリンス、及びマウススプレーなどの本発明の特定の組成物は、比較的低い粘度を有する。
【0109】
口腔に露出した歯根表面の破壊されたセメント質などの敏感な歯の部位に局所的に塗布するための歯磨き剤又はペーストは、柔らかい塗布具を用いて塗布されるものであってよい。このような歯磨き剤又はペーストは、従来の研磨剤、起泡剤、及び着香料を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0110】
本発明の特定の好ましい形態において、口腔用組成物は、マウスウォッシュ、リンス、又はスプレーなどの実質的に液体の性質であってよい。このような調製物においては、ビヒクルは、典型的には、後述のような湿潤剤を望ましくは含む水-アルコール混合物である。一般に、水対アルコールの重量比は約1:1~約20:1の範囲内である。この種類の調製物中の水-アルコール混合物の総量は、典型的には調製物の約70~約99.9重量%の範囲内である。アルコールは典型的にはエタノール又はイソプロパノールである。エタノールが好ましい。
【0111】
本発明の別の望ましい形態においては、組成物は、歯磨き粉、デンタルタブレット、又は練り歯磨き(歯磨きクリーム)、又はゲル歯磨き剤などの実質的に固体又はペースト状の性質であってよい。このような固体又はペースト状の口腔用調製物のビヒクルは、一般に、歯科的に許容される研磨材料を含有する。研磨材料の例は、水不溶性メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、二水和リン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ水和物、焼成アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、シリカ、ベントナイト、及びそれらの混合物である。別の好適な研磨材料としては、メラミン-ホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、及び尿素-ホルムアルデヒドなどの粒子状熱硬化性樹脂、並びに架橋ポリエポキシド及びポリエステルが挙げられる。好ましい研磨材料としては、粒度が最大約5ミクロンであり、平均粒度が最大約1.1ミクロンであり、表面積が最大約50,000cm/gである結晶シリカ、シリカゲル又はコロイダルシリカ、並びに複合非晶質アルカリ金属アルミノケイ酸塩が挙げられる。
【0112】
視覚的に透明のゲルが使用される場合、SYLOIDの商標でSyloid 72及びSyloid 74として、又はSANTOCELの商標でSantocel 100として販売されるものなどのコロイダルシリカの研磨剤、アルカリ金属アルミノケイ酸塩複合材料が、歯磨き剤中に一般に使用されるゲル化剤-液体(水及び/又は湿潤剤を含む)系の屈折率に近い屈折率を有するので、特に有用である。
【0113】
いわゆる「水不溶性」研磨材料の多くはアニオン性であり、少量の可溶性材料も含む。たとえば、不溶性メタリン酸ナトリウムは、たとえばThorpe’s Dictionary of Applied Chemistry,Volume 9,4th Edition,pp.510-511に示されるようなあらゆる好適な方法で形成することができる。Madrell塩及びKurrol塩として知られる不溶性メタリン酸ナトリウムの形態は、好適な材料のさらなる例となる。これらのメタリン酸塩は、水に対する溶解性がごくわずかであり、したがって一般に不溶性メタリン酸塩(IMP)と呼ばれる。これらの中には、不純物として少量の可溶性ホスフェート材料が存在し、通常は最大4重量%などの数パーセントで存在する。希望するなら、可溶性ホスフェート材料(不溶性メタリン酸塩の場合には可溶性トリメタリン酸ナトリウムを含むと考えられる)の量は、水で洗浄することによって減少させたり除去したりすることができる。不溶性アルカリ金属メタリン酸塩は、典型的には、1%以下の材料が37ミクロンを超えるような粒度の粉末形態で使用される。
【0114】
一般に研磨材料は、固体又はペースト状の組成物中に約10%~約99%の重量濃度で存在する。好ましくは、練り歯磨き中に約10%~約75%の量で存在し、歯磨き粉中に約70%~約99%の量で存在する。練り歯磨き中、研磨材料がケイ質である場合、その研磨材料は一般に約10~30重量%の量で存在する。別の研磨材料は典型的には約30~75重量%の量で存在する。
【0115】
練り歯磨き中、液体ビヒクルは、典型的には調製物の約10重量%~約80重量%の範囲の量の水及び湿潤剤を含むことができる。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、及びポリプロピレングリコールが好適な湿潤剤/担体の例である。水、グリセリン、及びソルビトールの液体混合物も好都合となる。屈折率が重要な問題となる透明ゲルでは、約2.5~30%w/wの水、0~約70%w/wのグリセリン、及び約20~80%w/wのソルビトールが好ましくは使用される。
【0116】
練り歯磨き、クリーム、及びゲルは、典型的には、天然又は合成の増粘剤又はゲル化剤を約0.1~約10、好ましくは約0.5~約5%w/wの比率で含有する。好適な増粘剤は、合成ヘクトライトであり、たとえばLaporte Industries Limitedより販売されるLaponite(たとえばCP、SP 2002、D)として入手可能な合成コロイド状マグネシウムアルカリ金属ケイ酸塩複合クレイである。Laponite Dは、おおよその重量基準で58.00%のSiO、25.40%のMgO、3.05%のNaO、0.98%のLiO、及びある程度の水、及び微量の金属である。この真比重は2.53であり、8%の水分において1.0g/mlの見掛けのかさ密度を有する。
【0117】
別の好適な増粘剤としては、アイルランドゴケ、イオタカラギーナン、トラガカントゴム、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(たとえばNatrosolとして入手可能)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び微粉砕Syloid(たとえば244)などのコロイダルシリカが挙げられる。保湿性ポリオール、たとえばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びヘキシレングリコール、セロソルブ、たとえばメチルセロソルブ及びエチルセロソルブ、直鎖中に少なくとも約12個の炭素を含有する植物油及び蝋、たとえばオリーブ油、ヒマシ油、及びペテロラタム、並びにエステル、たとえば酢酸アミル、酢酸エチル、及び安息香酸ベンジルなどの可溶化剤も含むことができる。
【0118】
従来通り、口腔用調製物は、通常、好適な表示付き包装材料で販売又はその他の方法で配布されることは理解されよう。したがって、マウスリンスの瓶は、実質的にそれがマウスリンス又はマウスウォッシュであることが記載され、その使用法が記載された表示を有し、練り歯磨き、クリーム、又はゲルは、通常、実質的にそれが練り歯磨き、ゲル又は歯磨きクリームであることが記載された表示を有する、典型的にはアルミニウム、ライニングされた鉛、若しくはプラスチックの折りたたみ可能なチューブ中、又はその他の内容物を計量供給するための圧搾式、圧送式、若しくは加圧式のディスペンサー中に存在する。
【0119】
予防作用を増加させ、口腔全体への有効物質の徹底的で完全な分散を促進し、本発明の組成物をより化粧品的に許容されるようにするために、有機界面活性物質を本発明の組成物中に使用することができる。有機界面活性材料は、好ましくはアニオン性、非イオン性、又は両性であり、好ましくは有効物質と相互作用しない。組成物に洗浄性及び発泡性を付与する洗浄材料を界面活性物質として使用することが好ましい。アニオン性界面活性剤の好適な例は、高級脂肪酸モノグリセリドモノサルフェートの水溶性塩、たとえば水素化ヤシ油脂肪酸の一硫酸化モノグリセリドのナトリウム塩、高級アルキルサルフェート、たとえばラウリル硫酸ナトリウム、アルキルアリールサルフェート、たとえばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、高級アルキルスルホアセテート、1,2-ジヒドロキシプロパンスルホネートの高級脂肪酸エステル、並びに脂肪酸、アルキル基、又はアシル基中に12~16個の炭素を有するものなどの低級脂肪族アミノカルボン酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミドなどである。最後に記載のアミドの例は、N-ラウロイルサルコシン、並びにN-ラウロイル、N-ミリストイル、又はN-パルミトイルサルコシンのナトリウム塩、カリウム塩、及びエタノールアミン塩であり、これらはセッケン及び類似の高級脂肪酸材料を実質的に有するべきではない。本発明の口腔用組成物中でのこれらのサルコナイト(sarconite)化合物の使用は、酸溶液に対する歯のエナメル質の溶解性をある程度低下させることに加えて炭水化物を分解するために、これらの材料が口腔内の酸形成の阻害において長期間顕著な効果を示すので、特に好都合である。使用に好適な水溶性非イオン性界面活性剤の例は、エチレンオキシドと、エチレンオキシドに対して反応性であり長い疎水性鎖(たとえば約12~20個の炭素原子の脂肪族鎖)を有する種々の反応性水素含有化合物との縮合生成物であり、これらの縮合生成物(「エトキサマー」(ethoxamers))は親水性ポリオキシエチレン部分を含有し、たとえば、ポリ(エチレンオキシド)と、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪アミド、多価アルコール(たとえばソルビタンモノステアレート)、及びポリプロピレンオキシド(たとえばPluronic材料)との縮合生成物である。
【0120】
界面活性剤は、典型的には約0.1~5重量%の量で存在する。界面活性剤は、本発明の有効物質の溶解を促進し、それによって必要な可溶化湿潤剤の量を減少させることができることに注目すべきである。
【0121】
ホワイトニング剤、保存剤、シリコーン類、クロロフィル化合物、及び/又はアンモニア化材料、たとえば尿素、リン酸二アンモニウム、及びそれらの混合物などの種々の他の材料を本発明の口腔用調製物中に混入することができる。これらの補助剤が存在する場合は、望ましい性質及び特性に実質的に悪影響を与えない量で調製物中に混入される。
【0122】
任意の好適な着香又は甘味材料を使用することもできる。好適な着香成分の例は、香味油、たとえばスペアミント油、ペパーミント油、ウインターグリーン油、サッサフラス油、丁子油、セージ油、ユーカリ油、マヨラナ油、桂皮油、レモン油、及びオレンジ油、並びにサリチル酸メチルである。好適な甘味剤としては、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、シクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン、AMP(アスパルチルフェニルアラニンメチルエステル)、サッカリンなどが挙げられる。好適には、着香剤及び甘味剤は、それぞれ又は合わせたものが、調製物の約0.1%~5%超を構成しうる。
【0123】
本発明の組成物は、たとえば温かいガムベース中で撹拌することによって、又はガムベースの外面にコーティングすることによって、ロゼンジ中、又はチューインガム若しくは他の製品中に混入することもでき、ガムベースの例は、ジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂などであり、望ましくは従来の可塑剤又は軟化剤、糖又は別の甘味料、又はグルコース、ソルビトールなどを有する。本発明の組成物は、各相が異なる時間にわたって成分を放出することができる二重相組成物であってよい。たとえば、使用中、二重相組成物は、第1の相から第一スズが会合した安定化ACP及び/又は第一スズが会合した安定化ACFP、好ましくはCPP-ACP/SnF及び/又はCPP-ACFP/SnFを、第2の相から溶液のpHの上昇又は維持が可能な化合物を放出するよりも、速い速度で放出することができる。好ましくは、二重相組成物は二重相チューインガムである。
【0124】
別の組成物は、ホスホペプチド安定化ACP又はACFPと第一スズ化合物とを提供する組成物であって、口腔などのその場で、本発明の第一スズが会合したホスホペプチド安定化ACP又はACFP複合体を形成する組成物であってよい。代表的な組成物は、ペレット中に安定化ACP又はACFPを含有し、中央のガム中に第一スズ化合物を含有するチューインガムであってよい。
【0125】
本発明の組成物は、ゲル、液体、固体、粉末、クリーム、又はロゼンジの形態であってよい。治療用組成物は錠剤又はカプセルの形態であってもよい。一実施形態において、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体は、そのような組成物の実質的に唯一の有効成分である。たとえば、水、グリセロール、本発明の複合体、D-ソルビトール、二酸化ケイ素、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、プロピレングリコール、二酸化チタン、キシリトール、リン酸、グアーガム、酸化亜鉛、サッカリンナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、酸化マグネシウム、pヒドロキシ安息香酸ブチル、及びp-ヒドロキシ安息香酸プロピルを含有するクリーム配合物を使用することができる。
【0126】
本発明は、提供された前述の配合物とともに、象牙質知覚過敏の治療又は予防使用にするためのその使用説明書をさらに含む。
【0127】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、リン酸緩衝液及び/又はカルシウムキレーターを含まない。たとえば、本明細書に記載のいずれかの歯磨き剤は、リン酸緩衝液及び/又はカルシウムキレーターを含まなくてよい。
【0128】
本発明の一実施形態においては、象牙質知覚過敏の治療又は予防のための組成物であって、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACP及び/又はACFP複合体を含み、リン酸緩衝液及び/又はカルシウムキレーターは含まない、組成物が提供される。
【0129】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、粘度調節剤を含まない、又は0.5~50%の粘度調節剤を含まない。
【0130】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを含まない、又は0.7~1.0のエステル化度を有する0.01~10%のナトリウムカルボキシメチルセルロースを含まない。
【0131】
一実施形態において、組成物の有効成分は、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体から本質的になる。
【0132】
さらなる一態様において、象牙質知覚過敏のそれぞれの1つ以上の治療方法又は予防方法であって、組成物第一スズが会合したPP安定ACP及び/又はACFP複合体を、被験者の歯に投与するステップを含む方法が提供される。複合体の局所投与が好ましい。この方法は、好ましくは、前述の配合物中の複合体の投与を含む。
【0133】
さらなる一態様においては、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体の、歯の知覚過敏の治療及び/又は予防のための組成物の製造における使用が提供される。
【0134】
さらなる一態様においては、本発明の第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体の、表面下の歯の表面の石灰化のための組成物の製造における使用が提供される。
【0135】
本発明のさらなる一態様によると、(a)第一スズが会合したPP安定ACP又はACFP複合体とを含む組成物が加えられた歯科修復材料を含む歯科修復用組成物が提供される。歯科修復材料の基材は、グラスアイオノマーセメント、複合材料、又は適合性であるあらゆる他の修復材料であってよい。グラスアイオノマーセメントが好ましい。歯科修復材料中に含まれる第一スズが会合したPP安定化ACP又はACFP複合体の量は0.01~80重量%が好ましく、好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは1~5重量%である。上記物質を含有する本発明の歯科修復材料は、歯科診療に適切な種々の形態で調製し使用することができる。この実施形態による歯科修復材料は、個別の歯科修復材料の種類及び形態により、別のイオン、たとえば抗菌イオンのZn2+、Agなど、又は別の追加の成分をさらに含むことができる。好ましくは、この実施形態による歯科修復材料のpHは2~10の間、より好ましくは5~9の間、さらにより好ましくは5~7の間である。好ましくは、第一スズが会合した安定化ACP又はACFP複合体を含有する歯科修復材料のpHは約2~10の範囲内、より好ましくは約5~9の範囲内、さらにより好ましくは約5~7の範囲内である。
【0136】
本明細書は、特に人間に対する用途に言及しているが、本発明は獣医学的目的にも有用であることは明らかに理解されよう。したがってすべての態様において、本発明は、ウシ、ヒツジ、ウマ、及び家禽などの家畜、ネコ及びイヌなどのコンパニオンアニマル、並びに動物園の動物に有用である。
【0137】
石灰化組成物の一例は、(比率が小さくなる順序で)以下のものを含む:

グリセロール
CPP-ACP/SnF
D-ソルビトール
二酸化ケイ素
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)
プロピレングリコール
二酸化チタン
キシリトール
リン酸
グアーガム
酸化亜鉛
サッカリンナトリウム
p-ヒドロキシ安息香酸エチル
酸化マグネシウム
p-ヒドロキシ安息香酸ブチル
p-ヒドロキシ安息香酸プロピル
【0138】
これより以下の非限定的な実施例を参照しながら、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0139】
実施例1
カゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム(CPP-ACP)を、商標名Recaldent(商標)でCadbury Enterprises Pte Ltdより入手した。以下の第一スズが会合したPP安定化ACP複合体のそれぞれを製造するために、CPP-ACP及びSnFを用いて溶液を調製した:
-0.4%のCPP-ACP+SnF2としての220ppmのF(Sn:CPPのモル比8.6:1);
-2%のCPP-ACP+SnF2としての500ppmのF(Sn:CPPのモル比4:1);及び
-5%のCPP-ACP+SnF2としての500ppmのF(Sn:CPPのモル比1.6:1)。
【0140】
特に、CPP-ACP/SnF複合体は、最初にCPP-ACPを蒸留/脱イオン水に加え、次にSnF(固体又は濃厚溶液)をゆっくり加えることによって調製した。pH調整が必要な場合は、pHを4.0~7.3の間に維持するために1MのHCl又は1MのNaOHを加えることによって調整した。pHが7.3を超えないようにした。5%のCPP-ACPが使用される場合は、pH調整は不要であった。加えた酸/塩基の総体積は、CPP-ACP/SnF溶液の体積の1%未満であった。最終溶液は、第一スズが会合したPP安定化ACP複合体を含んだ。
【0141】
実施例2
以下は、CPP安定化ACP/SnF溶液のイオン分析のためのプロトコルである。全体(強く結合及び緩く結合)及び緩く結合した試料を以下のように調製した:
全体(強く及び緩く結合):実施例3に示す2)~4)いずれかの処理溶液の溶液1mlを採取し、19mlの1MのHNO3中に入れ、一定低速で24時間回転混合(20rpm)しながら室温でインキュベートした。この混合物を約1000gにおいて室温で15分間遠心分離する。上澄みのカルシウム、第一スズ、ホスフェート、及びフッ化物を分析する。
【0142】
緩く結合:直前の「合計」分析と同じ溶液の試料を採取し、1000MWCOフィルターを有するセントリコン中に入れ、約3000gにおいて、好ましくは室温で1時間遠心分離して、原子吸光分光測光法(AAS)及びイオンクロマトグラフィー(IC)による分析に十分な濾液(平衡に影響を与えないため全試料の<10%)を得た。次に、緩く結合したイオンを得るために、濾液の測定を行う。
【0143】
溶液中の全体及び緩く結合したカルシウム、第一スズ、ホスフェート、及びフッ化物は、イオンクロマトグラフィー(フッ化物及びホスフェートの場合)及び原子吸光分析(カルシウム及び第一スズの場合)によって求める。
【0144】
CPPに強く結合した(コロイド状保持液)イオンは、(前述の説明のように)全体及び緩く結合の間の差から計算する。
【0145】
実施例3
1.6のSn/CPPのモル比におけるSnF/CPP-ACPによる象牙質上のナノフィラメント網目構造の自己組織化は、開存性の象牙質細管の閉鎖において優れており、したがって象牙質知覚過敏の軽減において優れている。
【0146】
歯の知覚過敏の流体力学理論は、象牙質細管を通過する流体移動を制限することによって、知覚過敏を臨床的に軽減できることを示している。ここで本発明者は、走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いて、1.6のSn(II)/CPPのモル比においてCPP-ACP及びSnFを併用することによる、表面象牙質の細管の閉鎖に対する相乗効果を示している。
【0147】
抜歯したヒトの第三大臼歯を切断して、厚さ約1mmの歯冠のディスクを作製した。これらのディスクを耐酸性マニキュア液で覆い、中央の象牙質の窓を露出させ、次に15%のEDTA中に2分間浸漬して、スミア層を除去した。ディスクを4つの群の1つに無作為に割り当て、20分間の以下の治療を行った:
1)再蒸留水(DDW)治療;
2)0.4%のCPP-ACP+SnFとしての220ppmのF(Sn:CPPのモル比8.6:1);
3)2%のCPP-ACP+SnFとしての500ppmのF(Sn:CPPのモル比4:1);及び
4)5%のCPP-ACP+SnFとしての500ppmのF(Sn:CPPのモル比1.6:1)。
【0148】
次にこれらのディスクを乾燥させ、SEM下の検査のため金をスパッタリングした。
【0149】
図2~6中のSEM画像から、治療2~4を行った象牙質のすべては、種々の程度で表面沈殿及び象牙質細管の閉鎖を示したことが分かる。ネガティブコントロールのDDW治療は、開存性(開放された)細管を有する平滑な象牙質表面を示した(図1)。500ppmのFのSnF及び5%のCPP-ACP溶液(Sn/CPPのモル比1.6)の組合せは、象牙質表面と相互作用することで、細管を塞ぎ象牙質表面にわたってナノフィラメントの自己組織化網目構造を示す表面被覆の独自のパターンが得られた(図2~4)。これらのナノフィラメントは、ナノフィラメント形成によって表面にカルシウムイオン、リン酸イオン、及びフッ化物イオンの積み荷を下ろした、Snが架橋したCPPであると考えられる。Sn/CPPのモルレーション(molar ration)が1.6の溶液のみが、CPPに対してSn(II)が1モル以上だが4モル未満であるモル比が架橋ナノフィラメントの形成、及び象牙質知覚過敏の大きな軽減に重要であることを示す架橋ナノフィラメントが得られた。Sn:CPPのモル比が8.6:1である溶液を用いた露出した象牙質の治療では、象牙細管が部分的に閉鎖される結果が得られるだけであった(図6)。同様に、Sn:CPPのモル比が4:1である溶液を用いた露出した象牙質の治療によって、部分的な閉鎖が得られた(図5)。
【0150】
本明細書において開示され規定される本発明は、本文又は図面に記載される、又はそれらより明らかとなる個別の特徴の2つ以上のすべての別の組合せまで拡張されると理解されたい。これらすべての異なる組合せは、本発明の種々の別の態様を構成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6