(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のカソード用としての金属および酸素のレドックスの組合せによる高容量のリチウム金属オキシフッ化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20220909BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220909BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220909BHJP
C01G 53/08 20060101ALI20220909BHJP
C01G 51/08 20060101ALI20220909BHJP
C01G 49/10 20060101ALI20220909BHJP
C01G 45/06 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
C01G53/08
C01G51/08
C01G49/10
C01G45/06
(21)【出願番号】P 2019568284
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 US2018036517
(87)【国際公開番号】W WO2018231630
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-14
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512249180
【氏名又は名称】カリフォルニア大学
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
【住所又は居所原語表記】1111, Franklin Street, 12th Floor, Oakland, CA, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】シダー, ジェルブランド
(72)【発明者】
【氏名】イ, ジンヒュク
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
C01G 53/08
C01G 51/08
C01G 49/10
C01G 45/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池におけるカソード材料としての使用に適したリチウム金属酸化物であって、前記リチウム金属酸化物は、一般式:Li
xM
zM’
z’O
uF
yを有しており、前記一般式中、1.80≦x≦2.20、1.80≦u≦2.20、0.80≦y≦1.20であり、前記リチウム金属酸化物は、カチオン不規則岩塩構造を有し、
前記一般式は、Li
xM
zTi
z’O
uF
yまたはLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fとして表され、
ここで、Mは、Ni、Mn、Co、Fe、およびそれらの組合せからなる第1の群から選択される遷移金属であり、M’は、Ti、Nbからなる第2の群から選択される遷移金属であり、
ここで、Mは第1の酸化状態qを有し、M’は第2の酸化状態q’を有しており、(q/z)+(q’/z’)=+3であることを特徴とするリチウム金属酸化物。
【請求項2】
結晶学的空間群Fm-3mによって特徴付けられるカチオン不規則岩塩構造を有する請求項1に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項3】
MがMnである請求項1または2に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項4】
Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fの式を有する請求項3に記載のリチウム金属酸化物。
【請求項5】
二次電池におけるカソード材料としての使用に適したリチウム金属酸化物であって、前記リチウム金属酸化物は、一般式:Li
xM
zM’
z’O
uF
yを有しており、前記一般式中、1.80≦x≦2.20、1.80≦u≦2.20、0.80≦y≦1.20であり、前記リチウム金属酸化物は、カチオン不規則岩塩構造を有し、
前記一般式は、Li
xM
zTi
z’O
uF
yまたはLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fとして表され、
ここで、Mは、Mn、Co、Fe、およびそれらの組合せからなる第1の群から選択される遷移金属であり、M’は、Ti、Nbからなる第2の群から選択される遷移金属であり、
ここで、Mは第1の酸化状態qを有し、M’は第2の酸化状態q’を有しており、(q/z)+(q’/z’)=+3であることを特徴とするリチウム金属酸化物。
【請求項6】
二次電池におけるカソード材料としての使用に適したリチウム金属酸化物であって、前記リチウム金属酸化物は、一般式:Li
xM
zM’
z’O
uF
yを有しており、前記一般式中、1.80≦x≦2.20、1.80≦u≦2.20、0.80≦y≦1.20であり、前記リチウム金属酸化物は、カチオン不規則岩塩構造を有し、
前記一般式は、Li
xM
zTi
z’O
uF
yまたはLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fとして表され、
ここで、M’はTiまたはNbであり、Mは第1の酸化状態qを有し、M’は第2の酸化状態q’を有しており、(q/z)+(q’/z’)=+3であることを特徴とするリチウム金属酸化物。
【請求項7】
Liと前記遷移金属との間のモル比が、x/(z+z’)=2.00±0.20である請求項1ないし5のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項8】
Fと前記酸素とのモル比が0.50±0.10に等しい請求項1ないし7のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項9】
(z+z’)=1である請求項1ないし8のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項10】
x=2.0である請求項1ないし9のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項11】
y=1.0である請求項1ないし10のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項12】
u=2.0である請求項1ないし11のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項13】
理論的な金属レドックス容量がリチウム容量よりも小さい請求項1ないし12のいずれかに記載のリチウム金属酸化物。
【請求項14】
リチウム系前駆体を提供するステップと、
第1の遷移金属(M)系前駆体を提供するステップと、
第2の遷移金属(M’)系前駆体を提供するステップと、
フッ素系前駆体を提供するステップと、
前記(M)系前駆体、前記(M’)系前駆体および前記フッ素系前駆体を化学量論的に混合して、固相混合物を得るステップと、
0.5±0.15のLi/(M+M’+F+O)モル比を達成するように、前記リチウム系前駆体を前記固相混合物に追加するステップと、
前記固相混合物をボールミリングするステップと、含むことを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のリチウム金属酸化物の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし13のいずれかに記載のリチウム金属酸化物を含む正極材料。
【請求項16】
負極材料と、
電解質と、
請求項15に記載の前記正極材料と、を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項17】
請求項16に記載の前記リチウムイオン電池を含むポータブル電子機器、自動車、またはエネルギー貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年6月12日に出願された米国仮出願第62/518,453号の優先権および利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
高性能電池は一般に高いエネルギー密度を有する。通常、エネルギー密度は、所与のシステムまたは単位体積あたりの空間領域に保存されているエネルギー量を示す。充電式のリチウムイオン(Liイオン)電池は、負極と正極とで構成され、これらの間をリチウムイオンが放電と再充電中に移動する。通常、それらには、非充電式のリチウム電池セルで使用される金属リチウムとは対照的に、1つの電極材料としてインターカレートリチウム化合物(intercalated lithium compound)が使用される。WO2015140264A1(「リチウムセルおよびリチウム電池用のオキシフッ化物化合物」、出願日:2015年3月19日、優先日:2014年3月20日)を参照。
【0003】
(背景技術)
高性能のリチウムイオン電池に対する需要が増え続けるにつれて、いくつかの異なる化学システムから、高いエネルギー密度かつ低コストのいくつかの異なるカソード材料が求められている(例えば、B. Kang, G. Ceder, Nature 458, 190-193 (2009)、P. Barpanda, M. Ati, B. C. Melot, G. Rousse, J-N. Chotard, M-L. Double, M. T. Sougrati, S. A. Corr, J-C. Jumas, J-M. Tarascon, Nature materials 10, 772-779 (2011)、およびK. Kang, Y. S. Meng, J. Breger, C. P. Grey, G. Ceder, Science 311, 977-980 (2006)を参照)。
【0004】
近年、不規則岩塩型リチウム金属オキシフッ化物(Li2MO2F、M=V、Cr)が300mAh/gを超える高容量を供給することができ、高性能カソード材料としてのポテンシャルを示すことが実証された(例えば、R. Chen, S. Ren, M Knapp, D. Wang, R Witter, M. Fichtner, H. Hahn, Adv. Energy Mater. 5, 1401814 (2015)、S. Ren, R. Chen, E. Maawad, O. Dolotko, A. A. Guda, V. Shapovalov, D. Wang, H. Hahn, M. Fichtner, Adv. Sci. 2, 1500128 (2015)、およびR. Chen, S. Ren, S. Indris, M. Fichtner, H. Hahn, EP2921455 A1, Patent Application (2015/9/24)を参照)。
【0005】
岩塩材料において、リチウム原子および金属原子は、酸素原子およびフッ素原子からなるFCC(面心立方)アニオン格子でランダムに分布し、不規則岩塩構造(disordered rocksalt structure)を形成する。リチウムと金属の比率が2:1(Li:M=2:1)である構造におけるリチウムの高い含有量は、リチウム拡散チャネルの浸透ネットワーク(percolating network)を介した容易な巨視的リチウム拡散(macroscopic lithium diffusion)を可能にする。
【0006】
さらに、上記の参考文献に示されるように、金属種は、V3+またはCr3+(場合によりMo3+またはW3+を含む)から求められており、それらの複数のレドックス対(redox couples)(例えば、V3+/V4+/V5+、Cr3+/Cr4+/Cr5+、Mo3+/Mo4+/Mo5+)は、次の反応でリチウムイオンを抽出するために必要な充電容量のすべてを補うことができる。
Li2MO2F[M3+]=>2Li++2e-+MO2F[M5+]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
残念ながら、複数のレドックス対を有する以前に提案された金属種は、3ボルト未満の低電圧を生成する傾向がある。したがって、現在入手可能な不規則岩塩Li2MO2F化合物(Li2VO2F等)は、低電圧で動作し、2.8V未満の低い平均放電電圧を供給する。このため、それらの化合物は、実用的な電池セルにおいて魅力的ではないものになっている。さらに、Li2MO2Fにおける金属種MがそれらのM3+(例えば、V3+、Cr3+)状態にあることが必要であるという以前に仮定された条件は、高容量カソード材料の検索スペースを大幅に制限する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A~
図1Bは、いくつかの実施形態のX線回折パターンおよび精密化結果(refinement results)を示す図である。
【0009】
【
図2】
図2A~
図2Dは、いくつかの実施形態の初期5サイクルの電圧プロファイルを示す図である。
【0010】
【
図3】
図3は、一実施形態の第1サイクルのサイクリックボルタンメトリープロファイル(cyclic voltammetry profile)を示す図である。
【0011】
【
図4】
図4は、一実施形態の異なるレートについての第1サイクルの電圧プロファイルを示す図である。
【0012】
【
図5】
図5A~
図5Cは、一実施形態の初期5サイクルの電圧プロファイルを示す図である。
【0013】
【
図6】
図6は、一実施形態の第1サイクルのサイクリックボルタンメトリープロファイルを示す図である。
【0014】
【
図7】
図7は、一実施形態の異なるレートについての第1サイクルの電圧プロファイルを示す図である。
【発明を解決するための手段】
【0015】
本明細書の実施形態は、二次電池(rechargeable battery)におけるカソード材料としての使用に適したリチウム金属酸化物を開示する。リチウム金属酸化物は、一般式:LixMzM’z’OuFyを有しており、一般式中、1.80≦x≦2.20、y=1、より具体的には1.90≦x≦2.10、1.80≦u≦2.20である。好ましくは1.90≦u≦2.10および0.80≦y≦1.20であり、より具体的には0.90≦y≦1.10である。リチウム金属酸化物は、カチオン不規則岩塩構造を有する。ここで、Mは、Ni、Mn、Co、Fe、およびそれらの組合せからなる第1の群から選択される遷移金属であり、M’は、Ti、Zr、Nb、Mo、Sn、Hf、Te、Sb、およびそれらの組合せからなる第2の群から選択される遷移金属である。また、Mは第1の酸化状態qを有し、M’は第2の酸化状態q’を有しており、(q/z)+(q’/z’)=+3、好ましくは+2.7≦(q/z)+(q’/z’)≦+3.3である。
【0016】
高電圧をもたらすレドックス活性金属種(例えば、Ni、Co、Mn、Fe)および高原子価電荷平衡金属種(high-valent charge balancing metal species)(例えば、Ti、Zr、Nb)を伴うオキシフッ化物化合物を作ることにより、金属レドックス(metal redox)だけでなく酸素レドックス(oxygen redox)も使用して、化合物の平均電圧を上げることができる。それにより、改善されたエネルギー密度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書の実施形態は、上記の高い平均電圧で高容量を供給し、非常に高いエネルギー密度をもたらす、新規な不規則岩塩型リチウム金属オキシフッ化物(disordered rocksalt-type lithium metal oxyfluorides)を示す。一実施形態では、高容量は300ミリアンペア/グラム(mA/g)より大きい。一実施形態は、3ボルトを超える高い平均電圧を有する。同一実施形態または別の実施形態は、1000Wh/kg(ワット時/kg)を超えるエネルギー密度を有する。本明細書の実施形態は、従来の金属レドックスだけでなく、高電圧を与えることが知られている酸素レドックスプロセスを利用することによって、これを達成する。さらに、本明細書の実施形態は、金属がそれらの3+状態にあることを必要としない。したがって、様々な組成(compositions)を備える多くの異なる化合物を開発およびテストできる。
【0018】
任意で、Mは、Mn、Co、Fe、およびそれらの組合せからなる第1の群から選択される遷移金属である。
【0019】
好ましくは、M’は、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Te、Sb、およびそれらの組合せからなる第2の群から選択される遷移金属である。
【0020】
任意に、上述のリチウム金属酸化物は、結晶学的空間群(crystallographic space group)Fm-3mによって特徴付けられるカチオン不規則岩塩構造を有する。さらに、カチオン不規則岩塩構造を有するものを含む上記のリチウム金属構造において、MがMnであってもよい。上記実施形態のいずれにおいても、M’はTiまたはNbであってもよい。M’がTiまたはNbのいずれかである実施形態において、式は、Li2Mn1/2Ti1/2O2FまたはLi2Mn2/3Nb1/3O2Fであってもよい。特定の実施形態は、二次電池におけるカソード材料としての使用に適したリチウム金属酸化物を含む。リチウム金属酸化物は、一般式:LixMzM’z’OuFyを有しており、一般式中、1.80≦x≦2.20、1.90≦y≦2.10、および1.80≦u≦2.20である。別の実施形態では、1.90≦u≦2.10および0.80≦y≦1.20、またはより具体的には0.90≦y≦1.10である。リチウム金属酸化物は、カチオン不規則岩塩構造を有し、ここで、M’は、TiまたはNbである。また、Mは第1の酸化状態qを有し、M’は第2の酸化状態q’を有しており、(q/z)+(q’/z’)=+3、好ましくは+2.7≦(q/z)+(q’/z’)≦+3.3である。
【0021】
上記実施形態のいずれにおいても、リチウムと遷移金属との間のモル比は、x/(z+z’)=2.00±0.20であり、より具体的な実施形態では、x/(z+z’)=2.00±0.10である。上記実施形態のいずれにおいても、Fと酸素との間のモル比は0.50±0.10である。本明細書において、実施形態の理解を助けるために、2つの特定の材料、Li2Mn2/3Nb1/3O2FおよびLi2Mn1/2Ti1/2O2Fの結果を示す。これらの材料は、新規であり、金属種がそれらの3+状態でなければならないという以前の仮定から得られたものではない。上述の単一金属リチウム化合物と同様に、金属が化合物内で2つの金属からなる場合のリチウムと金属との比率は、2:1である。
【0022】
比率の変動(Variations)が存在し、リチウムと複数の金属の組合せとには、非化学量論(off-stoichiometry)に起因する10%の偏差を伴い得る1:1の比率、非化学量論に起因する10%の偏差を伴い得る2:1の比率、および、非化学量論に起因する10%の偏差を伴い得る3:1の比率が含まれる。酸素とフッ素の比率には、同様の変動が存在し、非化学量論に起因する10%の偏差を伴い得る、酸素とフッ素との2:1の比率、非化学量論に起因する10%の偏差を伴い得る、リチウムと複数の金属の組合せとの1:1の比率および酸素とフッ素との2:1の比率が含まれる。
【0023】
さらに、物質の組成は、リチウム容量よりも小さい理論的な金属レドックス容量(metal-redox capacity)を有し得る。これに関し、理論的な容量は、化合物におけるLi含有量によって期待される容量よりも小さい。ここで、Li容量とは、化合物におけるLi含有量に基づく容量を指し、レドックスのリザーバー量(redox reservoir amount)は考慮されていない。他の変形例では、組成は、カチオン不規則性(cation disorder)を同時に導入することによってフッ素を組み込む方法、またはカチオン不規則性を同時に導入することによってフッ素を組み込むボールミリングから生じ得る。
【0024】
理論的な金属レドックス容量は、リチウム抽出/挿入時の酸化状態の変化を介して電子を交換する化合物中の金属によって保存される、活物質の質量あたりの単位電荷(活物質のmAh/g)として定義される。リチウム容量は、1リチウムあたり1電子が除去されることによる化合物中のリチウムの完全な抽出に基づいた、活物質の質量あたりの単位電荷(活物質のmAh/g)として定義される。リチウム容量が理論的な金属レドックス容量よりも高い場合、化合物中の酸素も酸化状態の変化を介して電子を交換し、追加のレドックス容量を与えることができる。この現象を酸素レドックス(oxygen redox)という。
【0025】
一般に、酸素に対するフッ素置換は、カチオン規則最密酸化物構造(cation-ordered close-packed oxide structure)内で達成するのが困難である。我々の化合物では、フッ素の組み込みが促進される。これは、我々の合成方法により、カチオン不規則岩塩相(cation-disordered rocksalt phase)が得られ、カチオン不規則岩塩相のランダムなカチオン分布が、フッ素の取り込みを促進するからである。
【0026】
一般に、プロセスは、室温または低温の機械的プロセスにおいて前駆体を使用して、化合物をメカノケミカル(mechanochemically)に形成するステップを要件とする。酸化リチウムを除き、化学量論量(Stochiometric amounts)の前駆体が使用された。合成中の酸化リチウムの予定されるロスを補うために、プロセスでは過剰量の酸化リチウムが使用された。
【0027】
特に、本発明は、請求項15に記載のプロセスを提供する。
【0028】
本発明は、請求項1から15のいずれかに記載のリチウム金属酸化物を含む正極材料も含む。
【0029】
本発明は、電池、特に、負極材料、電解質、および請求項15に記載の正極材料を含むLiイオン電池も含む。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
プロセスでは、前駆体として以下の材料を使用した。
Li2O(アルファ・エイサー社、ACS、99%min)
MnO(アルファ・エイサー社、99%)
Nb2O5(アルファ・エイサー社、99.9%)
LiF(アルファ・エイサー社、99.99%)
Li2Oを除く化学量論量の前駆体、および10%過剰量のLi2Oを、ステンレス鋼の瓶に分散させた。10%過剰量とは、リチウムのロス無しで目的の化合物を取得するのに必要な量よりも10%多いことを意味する。次に、前駆体を、450rpmの速度で40時間、遊星ボールミルで処理し、その間にLi2Mn2/3Nb1/3O2Fがメカノケミカルに形成された。
【0031】
相同定は、5~85°の2θ範囲における銅源を備えるRigaku MiniFlex回折装置で収集されたX線回折(XRD)を使用して行われた。リーベルト精密化(Rietveld refinement)は、PANalytical X’pert HighScore Plusソフトウェアを使用して完了させた。
【0032】
(実施例2)
この実施例では、同一プロセスを使用するが、以下の材料を前駆体として使用した。
Li2O(アルファ・エイサー社、ACS、99%min)
MnO(アルファ・エイサー社、99%)
TiO2(アルファ・エイサー社、99.9%)
LiF(アルファ・エイサー社、99.99%)
次に、これらの前駆体を、450rpmの速度で40時間、遊星ボールミルで処理し、その間にLi2Mn1/2Ti1/2O2Fがメカノケミカルに形成された。
【0033】
(実施例3)
Li2Mn1/2Ti1/2O2FまたはLi2Mn2/3Nb1/3O2Fからカソードフィルムを準備するために、活性化合物およびカーボンブラック(Timcal、SUPER C65)の粉末を、重量比6:3で、SPEX 8000M Mixer/Millを用いて1時間、シェーカーで最初に粉砕した。次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、DuPont、Teflon 8C)をバインダーとして混合物に後添加した。その結果、カソードフィルムが、活性化合物、カーボンブラック、およびPTFE(重量比60:30:10)で構成された。
【0034】
次に、それらの成分を、乳棒と乳鉢を使用して手動で混合し、アルゴンで充填されたグローブボックス内で薄いフィルムに巻いた。in situX線回折を除くすべてのサイクルテスト用にセルを組み立てるために、炭酸エチレン(EC)および炭酸ジメチル(DMC)溶液(1:1、BASF)における1MのLiPF6、ガラスマイクロファイバーフィルター(Whatman)およびLi金属箔(FMC)を、それぞれ、電解質、セパレータおよび対電極として使用した。コインセル(CR2032)を、アルゴンで充填されたグローブボックス内で組み立て、Maccor2200またはArbinバッテリーサイクラーにて、特に指定されない定電流モード(galvanostatic mode otherwise specified)における室温でテストした。カソードフィルムの充填密度(loading density)は、~7mgcm-2であった。比容量(specific capacity)は、カソードフィルムにおける活性化合物の量(60wt%)で計算された。
【0035】
(結果)
図1Aおよび
図1BのXRDパターンは、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2FおよびLi
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fの両方が、空間群Fm-3mの不規則岩塩構造をなしていることを示す。Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2FおよびLi
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fのターゲット組成を用いて、パターンのXRD精密化を実行することができる。(a-)格子定数は、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fの場合は4.261オングストロームであり、Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fの場合は4.209オングストロームであることがわかった。
【0036】
それらの電気化学的性能をテストするために、デバイスは定電流サイクル試験を受けた。
図2A~
図2Dは、(a)20mA/gで1.5~4.6V、(b)20mA/gで1.5~4.8V、(c)20mA/gで1.5~5.0Vおよび(d)10mA/gで1.5~5.0Vの間で室温にてサイクルする時のLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fの初期5サイクル電圧プロファイルを示す。
【0037】
20mA/gで1.5~4.6Vの間でサイクルすると、Li2Mn2/3Nb1/3O2Fは、3Vの平均放電電圧で最大238mAh/gの可逆容量を供給し、最大708Wh/kg(2683Wh/l)の放電エネルギー密度をもたらす。
【0038】
20mA/gで1.5~4.8Vの間でサイクルすると、3.06Vの平均放電電圧で最大277mAh/gの可逆容量を供給し、最大849Wh/kg(3220Wh/l)の放電エネルギー密度をもたらす。
【0039】
20mA/g(10mA/g)で1.5~5.0Vの間でサイクルすると、3.06Vの平均放電電圧で最大304mAh/g(319mAh/g)の可逆容量を供給し、最大1000Wh/kg(3770Wh/l)の放電エネルギー密度をもたらす。
【0040】
そのような1000Wh/kgの高エネルギー密度は、Liイオンカソード材料によって極稀にしか達成されず、リチウムイオン電池研究会によってこれまでに達成された最高値の一つである。このような高いエネルギー密度は、材料が高容量(>300mAh/g)と高い平均放電電圧(>3V)とを同時に供給するという理由によってのみ達成できることに注意すべきである。以前に報告された不規則岩塩リチウム金属オキシフッ化物は、3V未満の低い平均放電電圧でのみ高容量を供給することができた。平均放電電圧は~3.1Vであるが、Li2Mn2/3Nb1/3O2Fの平均電圧[=(平均充電電圧+平均放電電圧)÷2]は実際には~3.5Vにもなることに注意すべきである。これは、分極を除去することによる材料のさらなる改善が、平均放電電圧をさらに改善する可能性があることを示している。
【0041】
Li2Mn2/3Nb1/3O2Fは、375mAh/gまで充電され、300mAh/g超で可逆的にサイクルできる。これは、理論的なMn2+/Mn4+のレドックス容量(270 mAh/g)を超えている。マンガンのレドックスだけでなく、酸素のレドックスも材料内で可逆的に起こっており、これにより、追加容量を与え、高電圧をもたらすことが予想される。
【0042】
レドックスプロセスが発生する電位を推定するために、
図3に示すように、プロセスはLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fでサイクリックボルタンメトリー(CV)テストを実行した。5.0Vへのセルの充電に対応するアノード掃引から、~2.6V、~3.6V、~4.1Vおよび4.9Vで約4つのピークが観察された。セルの放電に対応するカソード掃引から、~2.3V、~3.3Vおよび~4.0Vで約3つのピークが観察された。アノードピークとカソードピークとを組み合わせると、~2.45V、~3.45V、~4.05V、それと4.1V~4.9Vの間のもう1つ(なお、アノード掃引中の4.9Vピークは、カソード掃引中に明確に観察されない)にレドックスプロセスが存在することがわかる。
【0043】
ほとんどのレドックスプロセスは3Vを超える高電圧で起こるため、Li2Mn2/3Nb1/3O2Fの平均電圧は3Vを超えることができる。これは、低電圧(<3V)で容量を供給する以前に報告されたリチウム金属オキシフッ化物よりも魅力的である。Mn2+/Mn4+のレドックスプロセスは、岩塩型酸化物材料における酸素レドックスの前に発生することがわかっている。さらに、Li2Mn2/3Nb1/3O2Fの理論的なMn2+/Mn4+のレドックス容量は、270mAh/gであり、定電流サイクル中に4.5V未満で供給される。したがって、Mn2+/Mn4+の酸化プロセスが~2.6V、~3.6V、~4.1Vのアノードピークの要因である可能性が最も高く、酸素レドックスが4.5V以上、最大で~4.9Vで発生する可能性が最も高い。
【0044】
Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fのレート特性(rate capability)も有益な結果である。
図4は、10、20、40、100、200、400および1000mA/gのレート、室温で、1.5~5.0Vの間でサイクルした時の、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。レートが10mA/gから、20、40、100、200、400および1000mA/gへ増加すると、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fの放電容量(エネルギー密度)が、319mAh/g(995Wh/kg)から、304mAh/g(945Wh/kg)、288mAh/g(889Wh/kg)、250mAh/g(767Wh/kg)、226mAh/g(695Wh/kg)、207mAh/g(625Wh/kg)および140mAh/g(410Wh/kg)へ、それぞれ減少する。100mA/gの適度に高いレートで900Wh/kgに近い放電エネルギー密度を達成でき、さらにその材料が、1000mA/gの非常に高いレートで410Wh/kgのエネルギー密度を供給できることが特徴的である。これは、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fがリチウムイオン電池の非常に有望なカソード材料になり得ることを示している。
【0045】
Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fだけでなく、Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fも有望な電池性能を示す。
図5A~
図5Cは、(a)20mA/gで1.6~4.8V、(b)20mA/gで1.6~5.0Vおよび(c)20mA/gで1.5~5.0Vの間において室温でサイクルした時の、Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fの初期5サイクルの電圧プロファイルを示す。
【0046】
20mA/gで1.6~4.8Vの間でサイクルすると、Li2Mn1/2Ti1/2O2Fは、3.03Vの平均放電電圧で最大259mAh/gの可逆容量を供給し、最大783Wh/kg(2693Wh/l)の放電エネルギー密度をもたらす。
【0047】
20mA/gで1.6~5.0Vの間でサイクルすると、2.98Vの平均放電電圧で最大305mAh/gの可逆容量を供給し、最大907Wh/kg(3120Wh/l)の放電エネルギー密度をもたらす。
【0048】
20mA/gで1.5~5.0Vの間でサイクルすると、最大321mAh/g(932Wh/kg)の可逆容量を供給する。したがって、Li2Mn2/3Ti1/3O2Fもまた、非常に高い容量(>300mAh/g)と900Wh/kgを超える非常に高いエネルギー密度とを供給することがわかる。
【0049】
Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fのサイクリックボルタンメトリーは、
図6に示すように、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fと類似のアノードプロセスおよびカソードプロセスを示唆する。~2.8V、~3.6V、~3.9V、~4.1V、および4.9Vで約5つのアノードピークが観察され、~3.3Vおよび~4.0Vで約2つのカソードピークが観察された。カソードピークはLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fで観察されたものよりも明確に示されていないが、観察されたアノードピークおよびカソードピークはLi
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fと類似の電圧である。それにも関わらず、2つの材料間のCVプロファイルの類似性と、
図5で示されたLi
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fの理論的なMn
2+/Mn
4+容量(240mAh/g)を超える、定電流サイクルで観察された可逆容量(>300mAh/g)とから、Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fもまた、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fのように、マンガンレドックスプロセス(<4.5V)および酸素レドックスプロセス(>4.5V)の組合せを利用することを予期することができる。
【0050】
Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fも適切なレート特性を有する。
図7は、20、40、100、200、400および1000mA/gのレート、室温で、1.5~4.6Vの間においてサイクルした時の、Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fの第1サイクルの電圧プロファイルを示す。レートが20mA/gから、40、100、200、400および1000mA/gへ増加すると、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fの放電容量すなわちエネルギー密度が、321mAh/g(932Wh/kg)から、268mAh/g(791Wh/kg)、240mAh/g(717Wh/kg)、210mAh/g(629Wh/kg)、159mAh/g(461Wh/kg)および98mAh/g(254Wh/kg)へ、それぞれ減少する。200mA/gの高いレートで、630Wh/kgに近い放電エネルギー密度を達成可能なことも特徴的である。これは、Li
2Mn
1/2Ti
1/2O
2Fが、Li
2Mn
2/3Nb
1/3O
2Fと同様に、リチウムイオン電池の非常に有望なカソード材料になり得ることを示している。
【0051】
不規則Li2Mn2/3Nb1/3O2FおよびLi2Mn1/2Ti1/2O2Fの結果は、不規則リチウム金属オキシフッ化物材料において金属および酸素の両方のレドックスプロセスを利用する利点を明確に示している。以前は、不規則リチウム金属オキシフッ化物に関する研究の焦点は、3+状態であって脱リチウム化で5+に酸化可能な金属種(V、Cr等)を選択することであった。そのため、高容量を達成するために酸素レドックスは必要なかった。それにも関わらず、3+状態であって5+に酸化される特性を有する金属種の制約は、オキシフッ化物カソードのような電位化学(potential chemistries)を制限し、電池の低電圧をもたらす。本明細書では、そのような制約が必要ないという結果が示された。事実、3+状態にある必要はなく、5+状態に酸化される特性を必要としない金属の組合せの賢明な選択によって、金属レドックスとともに酸素レドックスを利用することは、電池の高電圧化のみならず、より多様な化学の探求につながる。
【0052】
上記で開示された特徴および機能ならびに他の特徴および機能の変形、またはそれらの代替物を、他の多くの異なるシステムまたは用途に組み合わせることができることが理解されよう。種々の現在予見できないまたは予想外の代替、修正、変形、または改良が当業者により後に行われ、これらもまた添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。