IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国▲農▼▲業▼大学の特許一覧

特許7138359未成熟卵母細胞の体外成熟培養液、及びその応用
<>
  • 特許-未成熟卵母細胞の体外成熟培養液、及びその応用 図1
  • 特許-未成熟卵母細胞の体外成熟培養液、及びその応用 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】未成熟卵母細胞の体外成熟培養液、及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/075 20100101AFI20220909BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20220909BHJP
   C07K 14/58 20060101ALN20220909BHJP
【FI】
C12N5/075
C12N9/99
C07K14/58
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020517106
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 CN2017106067
(87)【国際公開番号】W WO2019061560
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-03-23
(31)【優先権主張番号】201710920296.2
(32)【優先日】2017-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506284418
【氏名又は名称】中国▲農▼▲業▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏国良
(72)【発明者】
【氏名】王超
(72)【発明者】
【氏名】王華栄
(72)【発明者】
【氏名】蔡▲ハン▼
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102899286(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103468639(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104342400(CN,A)
【文献】Journal of Agricultural Biotechnology,2016年,Vol.24, No.9,pp.1450-1456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵胞顆粒膜細胞、及び当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液を含む培地において、当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、30~120ng/mL CNP、及び1~10μM HDAC3阻害剤を含む、培地。
【請求項2】
前記培地は、当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液により卵胞顆粒膜細胞を4~6h培養して得られる、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
前記HDAC3阻害剤は、HDACi 4b、Entinostat(MS-275)、BG45、RG2833(RGFP109)、RGFP966から選ばれる1種以上である請求項2に記載の培地。
【請求項4】
当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、40~80ng/mL CNP、及び3~7μM HDAC3阻害剤を含む請求項1に記載の培地。
【請求項5】
当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、さらに、5~15% FBS、0.01~0.5mg/m グルタミン、10~200IU/mL ペニシリン、10~200IU/mL ストレプトマイシンを含む請求項1に記載の培地。
【請求項6】
未成熟卵母細胞の体外成熟培養液であって、30~120ng/mL CNP、及び1~10μM HDAC3阻害剤を含む、体外成熟培養液。
【請求項7】
前記HDAC3阻害剤は、HDACi 4b、Entinostat(MS-275)、BG45、RG2833 (RGFP109)、RGFP966から選ばれる1種以上である請求項6に記載の体外成熟培養液。
【請求項8】
前記培養液は、40~80ng/mL CNP、及び3~7μM HDAC阻害剤を含む請求項6に記載の体外成熟培養液。
【請求項9】
前記培養液は、さらに、5~15% FBS、0.01~0.5mg/mL グルタミン、10~200IU/mL ペニシリン、10~200IU/mL ストレプトマイシンの1種以上を含む請求項6に記載の体外成熟培養液。
【請求項10】
未成熟卵母細胞の体外成熟培養に使用する組成物であって、30~120ng/mL CNP、及び1~10μM HDAC3阻害剤からなり、培地に添加することにより未成熟卵母細胞の体外成熟培養に使用し、該培地がTCM-119である、組成物。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載の培地により対象から単離した未成熟卵母細胞を培養するステップを含む卵母細胞の体外成熟を促進する培養方法。
【請求項12】
請求項11に記載の卵母細胞の体外成熟を促進する培養方法であって、対象の卵胞中の卵胞顆粒膜細胞を卵丘・卵母細胞複合体からインビトロで単離し、フィーダー細胞として用いるように、前記卵胞顆粒膜細胞を培養するための培地により前記卵胞顆粒膜細胞の微小滴培養を行い、単離した未成熟卵母細胞をフィーダー細胞を含む成熟液に20h~25h培養する、培養方法。
【請求項13】
前記単離した未成熟卵母細胞は、ヒト、牛、豚、羊又はげっ歯類動物に由来する、請求項11に記載の卵母細胞の体外成熟を促進する培養方法。
【請求項14】
未成熟卵母細胞の体外成熟を促進のために使用される、請求項6~9の何れかに記載の体外成熟培養液。
【請求項15】
インビトロにおける、成熟女性の過剰排卵後の未成熟卵母細胞の減数分裂の再開を促進し、潜在的な胚発生能力を向上させるために使用される、請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2017年9月30日に中国特許庁へ提出された、出願番号が201710920296.2、発明の名称が「未成熟卵母細胞の体外成熟培養液、及びその応用」である中国特許出願に基づき優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、未成熟卵母細胞の体外成熟培養液、関連組成物、及び培養方法に関し、医薬・生物分野に属する。
【背景技術】
【0003】
ヒト生殖補助医療の臨床応用において、性腺刺激ホルモンを広く用いて女性患者に対して過剰排卵処置を行い、その後、得られた成熟卵母細胞を用いて体外受精または卵細胞質内精子注入を施行し、子どもを生み育てる目標を達成する。しかしながら、環境、精神的ストレス、及び性腺刺激ホルモンに対する反応性の違いなどの原因により、患者の一部は、過剰排卵処置を行った後で、得られた卵母細胞のかなりの部分が未成熟であることが多く、当該患者に実施した生殖補助医療の成功率を大きく低下させ、採取した卵母細胞の利用率を低減させる。残念ながら、現在では、臨床的に用いられる卵母細胞の成熟培養方法及び使用する培養液は、ある程度上記の問題を解決できない。従って、その部分の未成熟卵母細胞は、一定期間の体外培養後で成熟しながら対応する発生能を持つことができるために、ヒト未成熟卵母細胞を体外で培養する新たな方法を開発できれば、生殖補助医療技術の進歩を大幅に促進し、生殖補助医療の成功率を向上させ、患者に福音をもたらす。
現在、我国の家畜繁殖産業の発展を制限する重要な要因は、高品質の種畜の数が少なく、繁殖速度が遅いことであり、生産能力が落伍する状況になる。生殖工学技術の発展は、繁殖技術の進歩を大きく促進する。そのため、生殖工学技術を利用して体外受精により得られた胚を移植するのは、畜産業の発展を促進する技術基盤・方向となる。一般的に用いられる方法は、ホルモン無刺激下の卵巣から未成熟卵母細胞を採取し、体外培養系で培養して成熟させた後、胚生産及び動物繁殖などに適用する。しかし残念ながら、現在、体外生産した胚の数は生体内によるものよりも有意に低く、卵母細胞の体外培養系は理想的ではないことを反映する。同時に、体外受精由来胚の品質は、胚移植後の妊娠率、および移植後の胚の生存率などにも影響を及ぼす。従って、卵母細胞の体外成熟培養系の最適化及び改良するのは、体外受精により胚を生産するための卵母細胞の数を増加させ、胚品質の向上を促進するのに役立つ。従って、家畜生殖工学システムでは、体外培養下の未成熟卵母細胞の培養液及び培養方法を改良するのは、卵母細胞の体外成熟率の増加を促進し、胚工学の効率を高め、家畜繁殖を促進するのに役立つ。
【0004】
近年、哺乳動物卵母細胞の体外成熟培養(IVM)の方法には多くの改良を行い、大きな進歩を遂げた。基本的な方法は、体内環境を模擬して卵母細胞の2段階成熟の体外培養方法を開発し、即ち、体外で減数分裂阻害剤を使用して卵母細胞の減数分裂の再開を可逆的に一時停止するとともに、卵母細胞の発育及び細胞質の成熟を促進し、そして、卵母細胞を減数分裂の阻害環境から移出し、体外成熟培養を行う。その方法は、顆粒膜細胞と卵母細胞がギャップ結合を介して物質及び情報を交換する時間を延長させ、卵母細胞におけるmRNAおよびタンパク質の蓄積を促進する目的とする。
例えば、中国特許CN102140435Aは、インスリン、トランスフェリン、及びセレンを添加することにより水牛卵母細胞の成熟率を改善する水牛卵母細胞の体外成熟培養液を開示している。CN101591637Aは、IVM培地内に羊膜上皮細胞及びその培養上清液を添加し、上皮細胞の特性により、それより牛卵母細胞の体外成熟生物活性物質を分泌、合成することにより牛卵母細胞の成熟率を向上させる牛卵母細胞の体外成熟培養液を開示している。CN100432219Cは、主に茶ポリフェノールを酸化防止剤とし、それがフリーラジカルを消去し、細胞内抗酸化防御システムを活性化する特徴を利用することにより、牛卵母細胞の体外成熟を促進できる培地を取得する、牛卵母細胞の体外成熟培養液を開示している。CN102899286Aは、TCM199培地に核成熟と細胞質成熟の同期化を促進できるCNPを添加することにより、体外発生能力を向上させる牛卵母細胞の体外成熟培養液を開示している。
それらの方法は、卵母細胞の減数分裂の再開及び体外成熟を促進するのに寄与したり、卵母細胞減数分裂の早すぎる開始を停止することにより、卵母細胞の体外発生能力を向上させる目的に達成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、先行技術に存在する問題を解決するために、未成熟卵母細胞の成熟率、及び潜在的な胚発生能力を促進する体外成熟培養を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を実現するために、本発明の技術案は、以下の通りである。
一側面において、本発明は、未成熟卵母細胞の体外成熟を促進できる培地を提供し、具体的には、それは、卵胞顆粒膜細胞、及び当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液を含み、前記の当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、CNP又はその変異体又はその類似体、及びHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤を含む。
一つの実施形態において、前記培地は、当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液により卵胞顆粒膜細胞を4~6h培養して得られる。
他の実施形態において、前記HDAC阻害剤は、HDAC1阻害剤、HDAC2阻害剤、及びHDAC3阻害剤から選ばれる。
さらに、前記HDAC阻害剤は、HDAC3阻害剤であり、前記HDAC3阻害剤は、HDACi 4b、Entinostat (MS-275)、BG45、RG2833 (RGFP109)、RGFP966から選ばれる1種以上である。
他の実施形態において、前記CNPは、C型ナトリウム利尿ペプチドである。
更に他の実施形態において、前記の当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、30~120ng/mLのCNP又はその変異体又はその類似体、及び1~10μM HDAC阻害剤を含む。
更に他の実施形態において、前記の当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、40~80ng/mLのCNP又はその変異体又はその類似体、及び3~7μM HDAC阻害剤を含む。
更に他の実施形態において、前記の当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、さらに、5~15% FBS、0.01~0.5mg/mL グルタミン、10~200IU/mL ペニシリン、10~200IU/mL ストレプトマイシンを含む。
好ましい実施形態において、前記の当該卵胞顆粒膜細胞を培養する培養液は、60ng/mLのCNP又はその変異体又はその類似体、5μM HDAC阻害剤、10% FBS、0.1mg/mL グルタミン、100IU/mL ペニシリン、及び100IU/mL ストレプトマイシンを含むTCM199 培養液である。
【0007】
別の一側面において、本発明は、さらに、未成熟卵母細胞の体外成熟培養に使用可能な体外成熟培養液を提供し、前記培養液は、CNP又はその変異体又はその類似体、及びHDAC阻害剤を含む。それは、卵胞顆粒膜細胞と接触することにより未成熟卵母細胞の体外成熟培養に使用する培地を形成する。
一つの実施形態において、前記HDAC阻害剤は、HDAC1阻害剤、HDAC2阻害剤、及びHDAC3阻害剤から選ばれる。
さらに好ましくは、前記HDAC阻害剤は、HDAC3阻害剤であり、前記HDAC3阻害剤は、HDACi 4b、Entinostat(MS―275)、BG45、RG2833 (RGFP109)、RGFP966から選ばれる1種以上である。
他の実施形態において、前記CNPは、C型ナトリウム利尿ペプチドである。
更に他の実施形態において、前記培養液は、30~120ng/mL CNP又はその変異体又はその類似体、及び1~10μM HDAC阻害剤を含む。
好ましい実施形態において、前記培養液は、40~80ng/mL CNP又はその変異体又はその類似体、及び3~7μM HDAC阻害剤を含む。
更に他の実施形態において、前記培養液は、さらに、5~15% FBS、0.01~0.5mg/mL グルタミン、10~200IU/mL ペニシリン、10~200IU/mL ストレプトマイシンの1種以上を含む。
好ましい実施形態において、前記培養液は、さらに、5~10% FBS、0.05~0.2mg/mL グルタミン、50~150IU/mL ペニシリン、50~150IU/mL ストレプトマイシンの1種以上を含む。好ましくは、前記培養液は、さらに、10% FBS、0.1mg/mL グルタミン、100IU/mL ペニシリン、100IU/mL ストレプトマイシンの1種以上を含む。
一つの具体的な実施形態において、前記培養液は、60ng/mL CNP又はその変異体又はその類似体、5μM HDAC阻害剤、10% FBS、0.1mg/mL グルタミン、100IU/mL ペニシリン、及び100IU/mL ストレプトマイシンを含むTCM199 培養液である。
【0008】
さらに別の一側面において、本発明は、さらに、未成熟卵母細胞の体外成熟培養に用いられる成物を提供し、前記組成物は、CNP又はその変異体又はその類似体、及びHDAC阻害剤からなる。前記組成物は、当該分野で一般的な培地に添加することにより未成熟卵母細胞の体外成熟培養に使用することができる。
一つの実施形態において、未成熟卵母細胞の体外成熟培養に使用する場合には、前記組成物の培地中の濃度は、30~120ng/mL CNP又はその変異体又はその類似体、及び1~10μM HDAC阻害剤である。
【0009】
さらに別の一側面、本発明は、卵母細胞の体外成熟を促進する培養方法であって、前記培地を用いて対象から単離した未成熟卵母細胞を培養するステップを含む培養方法を提供する。
好ましい実施形態において、前記培養方法は、具体的は、対象の卵胞内の顆粒膜細胞を採取し、フィーダー細胞として用いるように、前記体外成熟培養液により細胞の単層・接着培養を行い、その後、卵核胞期(GV期)にある卵母細胞を回収し、そのままフィーダー細胞含有成熟液に20h~25h培養する。
一つの実施形態において、前記対象は、ヒト、牛、豚、羊、及びげっ歯類動物などを含む。
他の実施形態において、成熟後の卵母細胞は、単為発生誘起、体外受精、又は卵細胞質内精子注入に用いられ、その後、胚培養を行い、さらに、胚移植を行い、生殖補助医療又は畜産生産に用いられることができる。
好ましい実施形態において、前記対象がヒトである場合には、前記方法は、具体的には、
1)ヒアルロニダーゼ消化後の顆粒膜細胞及び卵母細胞を分類し採取するステップと、
2)顆粒膜細胞を前記体外成熟培養液に入れ、接着培養を行うステップと、
3)消化後で4~6h体外培養してからまた卵核胞期にある卵母細胞を、ステップ2)で処理されたフィーダー細胞を含む成熟培養液に入れ、培養するステップと、を含む。
【0010】
さらに別の一側面、本発明は、さらに、前記体外成熟培養液の、未成熟卵母細胞の体外成熟を促進することにおける応用を提供する。
また、本発明は、さらに、CNP又はその変異体又はその類似体、及びHDAC阻害剤を含む組成物の、臨床的女性の過剰排卵後の未成熟卵母細胞の減数分裂の再開を促進し、潜在的な胚発生能力を向上させるための培地を製造することにおける応用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。即ち、
ヒト患者にとっては、本発明は、臨床的には、初めて性腺刺激ホルモンで処理された後まだ成熟できない卵母細胞により成熟培養を行い、卵母細胞の成熟率及び後期の潜在的な胚発生能力を向上させる。過剰排卵後の卵母細胞資源を十分に活用するだけでなく、受精後の初期胚発生能力を向上させ、生殖補助患者の妊娠成功率を高める。動物(げっ歯類マウスを例として)未成熟卵母細胞の培養については、同様の効果もある。
本発明は、フィーダー細胞として顆粒膜細胞を用いて卵母細胞成熟を誘導する培養方法により、CNP又はその変異体又はその類似体、及びHDAC阻害剤を使用して卵巣中の卵胞由来の顆粒膜細胞を処理し、顆粒膜細胞の卵母細胞の発育促進因子の発現・分泌を促進することにより、卵母細胞の体外発生能力を向上させる。従って、その方法は、新規の卵母細胞成熟促進医薬を作製し、臨床的にヒト生殖補助医療に応用することができる。
本発明に係るCNPは、卵胞内活性ペプチド類物質であり、卵母細胞に対する毒性が低く、また、HDAC阻害剤は、生物体及び卵母細胞に対する毒性も非常に低いことが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、HDAC3阻害剤であるHDACi 4bがヒト卵母細胞の成熟及び発育を促進する效果を示す。
図1A図1Aは、HDACi 4bがヒトGV期卵母細胞の第二減数分裂中期(MII)への発育及び成熟を促進する効果を示す。
図1B図1Bは、MII期卵母細胞のICSI受精施行後の2前核(2PN)受精卵数は対照群と処理群との受精率がほぼ同様であることを示す。
図1C図1Cは、HDACi 4b処理を経た卵母細胞受精後の卵割能力が有意に向上することを示す。
図1D図1Dは、対照群、及びHDACi 4bで誘導されて成熟した卵母細胞が受精後、体外培養により胚盤胞を得ることを示す。
図1E図1Eは、胚盤胞の計数結果により、HDACi 4bで誘導されて成熟した卵母細胞の受精後の胚発生能力が有意に向上することを示す。
図1F図1Fは、ヒト卵巣顆粒膜細胞の阻害によりAREGの発現を顕著に促進できることを示す。
図1G図1Gは、胚盤胞の内部細胞塊特異的タンパク質OCT4及び栄養外胚葉特異的タンパク質CDX2の免疫蛍光染色の結果により、HDACi 4bで誘導されて成熟した卵母細胞が胚盤胞まで発育した品質が有意に向上することを示す。
図2図2は、HDAC3阻害剤であるHDACi 4bがマウス卵母細胞の成熟及び発育能力を有意に促進できることを示す。
図2A図2Aは、体外卵胞モデル培養下、HDACi 4bがマウス卵胞中の卵母細胞の減数分裂の再開を有意に促進できることを示す。
図2B図2Bは、体外成熟培地において、HDACi 4b処理後の卵母細胞の減数分裂を再開する能力が対照群と同様であることを示す。
図2C図2Cは、HDACi 4bは卵母細胞が第一減数分裂中期を経て第二減数分裂中期(MII)で停止することを有意に促進することを示す。
図2D図2Dは、HDACi 4bで誘導されて成熟した卵母細胞群と対照群との卵母細胞の受精後の卵割能力がほぼ同じであることを示す。
図2E図2Eは、マウスGV期卵母細胞のHDACi 4bによる誘導後、受精し胚まで発育した能力が有意に向上することを示す。
図2F図2Fは、HDACi 4b処理後の卵母細胞の受精後、胚盤胞まで発育した能力が有意に向上することを示す。
図2G図2Gは、対照群及びHDACi 4b処理群の胚盤胞培養結果を示す。
図2H図2Hは、胚盤胞の計数結果により、GV期卵母細胞のHDACi 4b処理後、受精し胚盤胞まで発育した能力が有意に向上することを示す。
図2I図2Iは、内部細胞塊特異的タンパク質OCT4の免疫蛍光染色結果は、HDACi 4b処理後の卵母細胞の胚盤胞の品質が有意に向上することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
また、実施例により本発明を理解してもよく、ここで、上記実施例は、幾つかの調製又は使用方法を説明した。しかしながら、本発明はそれらの実施例に限られないことを理解すべきである。現在では知られているか、またはさらに開発された本発明の変更は、本明細書に述べた、以下に保護請求する本発明の範囲内にある。
【0014】
用語定義
本明細書で用いられる様々な用語は、当業者に周知の意味を持つ。しかしながら、以下、参照を容易にするために、これらの用語のいくつかを定義する。
「培地」という用語とは、卵母細胞又は胚を、維持及び/又は増殖する液体環境を意味することを理解すべきである。
「単離された」という用語とは、卵母細胞をその自然環境から取り出し又は精製する(少なくとも一部)ことがあることを理解すべきである。卵母細胞が単離される例は、卵胞、卵丘・卵母細胞複合体(cumulus oocyte complex)の一部として対象から単離された卵母細胞又は裸化卵母細胞(denuded oocyte)である。
「変異体」という用語とは、1つ又は複数のアミノ酸が変化したアミノ酸配列を理解すべきである。変異体は、「保存的」な変化を持ってもよく、この変化は、置換したアミノ酸は、置換されたアミノ酸と類似する構造又は化学的性質を持つ(例えば、ロイシンをイソロイシンで置き換える)。変異体は、さらに、1つ又は複数のアミノ酸の「非保存的」な変化(例えば、グリシンをトリプトファンで置き換える)、あるいは、欠失及び/又は挿入を持ってもよい。
【0015】
「類似体」という用語とは、参照分子と類似する構造、調節又は生化学的機能を持つ分子であり、その参照分子の生物学的活性断片を含むことを理解すべきである。
「対象」という用語とは、女性、雌性哺乳動物であり、霊長類、家畜(例えば、馬、牛、綿羊、豚、ヤギ)、ペット動物(例えば、犬、猫)、実験室試験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット)又は獣医学的に意味のある動物を含むことを理解すべきである。
「生殖補助」という用語とは、移植可能な胚の発生の任意技術に関し、体外培養の卵母細胞又は胚を利用する技術(例えば、卵母細胞の体外成熟)、体外受精(IVF、卵母細胞を吸引し、実験室で受精して胚を被験体に移植)、配偶子卵管内移植(GIFT、卵母細胞と精子とを卵管内に移植)、接合子卵管内移植(ZIFT、受精卵を卵管内に移植)、卵管受精卵移植(tubal embryo transfer)(TET、卵管内に分割期胚を移植)、卵母細胞・精子腹腔内移植(POST、卵母細胞と精子を骨盤腔に移植)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、精巣内精子採取術(TESE)、顕微鏡下精巣上体精子吸引法(MESA)、核移植、多能性幹細胞増幅、及び単為生殖活性化(parthenogenic activation)などの当分野での公知の生殖補助方法を含むことを理解すべきである。
【0016】
最近の研究により、LHは、体細胞で誘導された卵母細胞の細胞質成熟により卵母細胞発育能力の向上において重要な役割を果たす(Chen J, Torcia S, Xie F, Lin CJ, Cakmak H, Franciosi F, Horner K, OnoderaC, Song JS, Cedars MI, Ramalho-Santos M, Conti M.Nat Cell Biol. 2013 Dec; 15(12): 1415-23.doi: 10.1038/ncb2873. Epub 2013 Nov 24)。
それに対応して、本発明者の実験方法は、卵母細胞の成熟を促進するとともに、その潜在的な胚発生能力を向上させる目的を達成するために、体外培養環境下、生体内でLHが顆粒膜細胞に作用して卵母細胞の成熟を促進する效果を模擬したところ、CNP存在下、短時間で卵母細胞の核成熟を抑制し、同時に顆粒膜細胞のフィーダー細胞層を含む培養液にHDAC3阻害剤を添加することにより、LHと類似する效果を奏し、即ち、顆粒膜細胞によるEGF様成長因子(例えば、AREG、EREGなど)の分泌を促進し、並びに卵母細胞の成熟を促進することが示された。
【0017】
本発明者らの研究結果により、LHを用いずに、本発明に係る培地又は培養液の効能により、卵母細胞の細胞質内におけるタンパク質の蓄積を促進することができ、体外で卵核胞期における卵母細胞の成熟及び潜在的な胚発生能力の向上を顕著に促進する。
本発明に係る種々の組み合わせ製品中の培地、培養液、及び組成物を多用途又は単位形態で、アンプル、瓶またはバイアルのような適切な容器(通常は、無菌)中に独立に包装することができる。充填後でこれらの容器を密閉することができる。タンパク質の安定性及び/又は応用については、他の添加剤を含むことができる。各種成分を包装する方法は当該分野で公知である。
【0018】
卵母細胞を上記培地と共培養するのは、移植及び生殖補助技術の結果を改善するだけでなく、移植失敗、自然流産を含む流産、子癇前症、子宮内発育制限、早産及び胎盤早期剥離を減少させることが期待される。さらに、胎盤の発達を改善させ、及び/或いは、妊娠合併症のリスク及び/又は可能性を低減させることにより、移植を促進して分娩後の結果を改善することができる。
【0019】
一つの実施形態において、本発明に係る各種形態の卵母細胞は、ヒト卵母細胞又は哺乳動物の卵母細胞である。適合な哺乳動物の例としては、霊長類、家畜(例えば、馬、牛、綿羊、豚、ヤギ)、ペット動物(例えば、犬、猫)、実験室試験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット)を含む。一つの実施形態において、上記卵母細胞は、ヒト卵母細胞である。
この点において、卵母細胞は、例えば、卵胞の一部、卵丘・卵母細胞複合体(COC)の一部、又は裸化卵母細胞であってもよい。
【0020】
本発明に係る培地は、ヒトに適用するだけでなく、動物の卵母細胞及び胚を培養するためにも適用する。従って、本発明は、ヒトの生殖補助技術だけでなく、非ヒト動物の生殖補助技術、並びに非ヒト動物に胚を生産させるための他の技術にも適用し、例えば、単為生殖活性化、核移植、及び多能性幹細胞を採用してもよい。
当該分野で、適合な女性ドナーに由来する卵母細胞を採取し、その卵母細胞を体外で受精させる方法は、知られている。例えば、「生殖補助教材:実験室及び臨床展望」、(2003)、 Gardner, D.K.、Weissman、A.、Howies, CM.、Shoham、 Z.編、Martin Dunits社、ロンドン、イギリス(Textbook of Assisted Reproduction: Laboratoryand Clinical Perspectives (2003) Editors Gardner, D.K., Weissman, A., Howies, CM" Shoham、 Z. Martin Dunits Ltd, London, UK)に記載のヒトの体外受精は知られている。例えば、Gordon, I.、(2003)、「ウシ胚の実験室調製」、第二版、CABI出版社、オックスフォードシャー、イギリス(Gordon, I.(2003) Laboratory Production of Cattle Embryos 2nd Edition CABI Publishing, Oxon, UK)に記載のウシの体外受精は知られている。
【0021】
CNPの変異体は、アミノ酸配列に1つ又は複数の天然アミノ酸が変化したCNP分子形態である。一つの実施形態において、アミノ酸レベルで、変異体と天然CNPとの同一性は75%を超える。他の実施形態において、変異体と天然CNPとの同一性は90%を超える。更に他の実施形態において、変異体は、天然CNPとの同一性が95%を超える。
CNPの類似体は、構造(即ち、構造類似体)、調節機能(即ち、調節類似体)又は生物学的・化学的機能(即ち、機能類似体)がCNPと類似する分子であり、CNPの生物学的活性断片を含む。
【0022】
本発明では、上記CNP又はその変異体又はその類似体は、上記培地、培養液又は組成物中の濃度が30~120ng/mLであり、具体的な実施形態では、上記CNP又はその変異体又はその類似体は、上記培地、培養液又は組成物中の濃度が30、40、50、60、70、80、90、100、110又は120ng/mlである。
上記HDAC阻害剤は、上記培地、培養液又は組成物中の濃度が1~10μMであり、具体的な実施形態では、上記HDAC阻害剤は、上記培地、培養液又は組成物中の濃度が1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10μMである。
【実施例
【0023】
実施例1 体外成熟培養液の調製
FBS、HDACi 4b、CNP、グルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシンをTCM-199に溶解させ、10% FBS、5μM HDACi 4b、60ng/mL CNP、0.1mg/mL グルタミン、100IU/mL ペニシリン、及び100IU/mL ストレプトマイシンを含むTCM-199培養液を調製し、体外成熟培養液とした。
【0024】
実施例2 体外成熟培養液の調製
FBS、HDACi 4b、CNP、グルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシンをTCM-199に溶解させ、5% FBS、3μM HDACi 4b、80ng/mL CNP、0.05mg/mL グルタミン、100IU/mL ペニシリン、及び100IU/mL ストレプトマイシンを含むTCM-199培養液を調製し、体外成熟培養液とした。
【0025】
実施例3 体外成熟培養液の調製
FBS、HDACi 4b、CNP、グルタミン、ペニシリン及びストレプトマイシンをTCM-199に溶解させ、15% FBS、7μM HDACi 4b、40ng/mL CNP、0.2mg/mL グルタミン、100IU/mL ペニシリン、及び100IU/mL ストレプトマイシンを含むTCM-199培養液を調製し、体外成熟培養液とした。
【0026】
実施例4 体外成熟培養液の調製
HDACi 4bとCNPをTCM-199に溶解させ、5μM DACi 4b、60ng/mL CNPを含むTCM-199培養液を調製し、体外成熟培養液とした。
【0027】
実施例5 体外成熟培養液の調製
HDACi 4bとCNPをTCM-199に溶解させ、1μM HDACi 4b、100ng/mL CNPを含むTCM-199培養液を調製し、体外成熟培養液とした。
【0028】
実施例6 体外成熟培養液の調製
HDACi 4b及びCNPをTCM-199に溶解させ、10μM HDACi 4b、30ng/mL CNP的TCM-199培養液を調製し、体外成熟培養液とした。
【0029】
実施例7 体外成熟培地の調製
病院の生殖補助治療センターから異なる患者の顆粒膜細胞及び卵母細胞を採取した。ドナー精液は、精子センターに由来した。
顆粒膜細胞の微小滴培養:患者の過剰排卵による卵丘・卵母細胞複合体からヒアルロニダーゼによる消化によって得られた顆粒膜細胞を遠心した後、それぞれ実施例1~6の体外成熟培養液に入れて微小滴の接着培養を行った。微小滴上にパラフィン油を覆った。顆粒膜細胞が培養器壁に付着した後、未成熟卵母細胞の体外成熟培地1~6として用いられることができる。
【0030】
実施例8 卵母細胞の体外成熟培養
患者の過剰排卵後で得られた卵母細胞は、未成熟卵母細胞と同定されたものを、フィーダー細胞が含まれた体外成熟培地1(実施例1で調製された体外成熟培養液により得られた培地)に入れて微小滴培養を行った。各微小滴当たり1~2個の卵母細胞を移植し、培養時間は、20h~25hである。培養条件は、37℃、5% CO及び6% Oを含む空气、湿度100%であり、未成熟卵母細胞の体外成熟培地1による微小滴培養後の発育效果は、図1を参照する。
成熟卵母細胞は、卵細胞質内精子注入(ICSI)を行い、未成熟卵母細胞は、体外で20h~25h培養した後、その成熟状況を観察した。第二減数分裂中期(MII期)に達した卵母細胞をマイクロマニピュレータにセットし、ICSIを行った。
【0031】
卵母細胞の受精後の胚培養:G-1 PLUS(Vitrolife、Sweden)胚培養液を35mmの培養皿において複数の50 μL 微小滴を作製した。液滴表面を鉱物油を覆った。その培養液は、受精(0日目)から8細胞期の前までの胚を培養するために適する。
G-2 PLUS(Vitrolife、Sweden)胚培養液を35mmの培養皿において複数の50μL 微小滴を作製した。液滴表面を鉱物油で覆った。その培養液は、8細胞期の後まで発育した胚を胚盤胞期まで培養するために適する。
本方法で得られたヒト未成熟卵母細胞の成熟率及び早期胚胎発育率と、対照群で一般的な方法との比較は、表1に示された。実験結果により、この実験においてHDACi 4b+CNPにより体外成熟培養処理を20h行い、ICSI後の卵割率及び胚盤胞率はいずれも対照群より有意に高いことが明らかになった(P<0.01)。
【0032】
【表1】
【0033】
結論:以上の結果により、HDACi 4b+CNPの組み合わせ医薬を一般的な培養液に加えるのは、未成熟卵母細胞の成熟率の向上を有意に促進し、その卵母細胞の受精後の卵割率及び胚盤胞発生率が対照群の2倍~3倍に向上できることが明らかになった。
【0034】
さらに、本発明で調製された体外成熟培地2~6(即ち、実施例2~6で調製された体外成熟培養液により得られた培地)は、同様に実施例8と類似する技術的効果を奏し、即ち、HDACi 4b+CNPの組み合わせ医薬を一般的な培養液に加えるのは、未成熟卵母細胞の成熟率の向上を有意に促進し、その卵母細胞の受精後の卵割率及び胚盤胞発生率も対照群の2倍~3倍まで向上できる。しかも、この効果は、HDAC3阻害剤のタイプを替えた後でも效果を奏した。本発明に係る培養液及び培養方法によれば、未成熟卵母細胞の成熟率及び体外発生能力の向上を促進するのに寄与する。その方法は、潜在的な臨床及び畜産生産への利用価値があること証明される。
【0035】
実施例9マウス未成熟卵母細胞の体外成熟
具体的な培養方法は、実施例8を参照し、相違点は、患者に由来する顆粒膜細胞をC57/BL6Jマウスの顆粒膜細胞で置き換え、患者に由来する卵母細胞を同マウスに由来する卵丘・卵母細胞複合体で置き換えることにあり、マウス卵母細胞の体外発育結果は、図2を参照する。
【0036】
本発明は、保護を請求する幾つかの具体的な実施形態を単に例示し、それらのうちの一つ又は複数の技術案に記載の技術的特徴を任意の一つ又は複数の技術案と組み合わせることができ、これらの組み合わせて得られた技術案が、これらの組み合わせて得られた技術案も本発明の開示に具体的に記載されているように、本明細書の保護範囲に含まれている。
図1
図2