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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】乗り物用クランク
(51)【国際特許分類】
   B62M 3/00 20060101AFI20220909BHJP
【FI】
B62M3/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021063701
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】304049189
【氏名又は名称】アベテクノシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】一関 利弘
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第201520389(CN,U)
【文献】米国特許第06640662(US,B1)
【文献】特開2000-142534(JP,A)
【文献】特開2019-142397(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112009612(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な棒形状のブラケットに一方の端部が連結されると共に、前記一方の端部から前記ブラケットの軸線方向と直交する方向に沿って延在されたクランクアームと、
前記クランクアームの長手方向に沿ってスライド可能に配置されると共に、乗員の手又は足を載置可能なペダルが連結されるスライダと、
前記スライダを付勢する付勢手段と、
前記スライダのスライド範囲を調節可能な規制要素と、
を備えた乗り物用クランク。
【請求項2】
前記スライダは、前記クランクアームの内部に配置されており、
前記付勢手段は、前記クランクアームの内部において、前記クランクアームの他方の端部と前記スライダとの間に配置されており、前記スライダを前記クランクアームの前記一方の端部の側へ向けて付勢する、ことを特徴とする請求項1に記載の乗り物用クランク。
【請求項3】
前記付勢手段は、バネとされている、請求項1又は請求項2に記載の乗り物用クランク。
【請求項4】
前記乗り物用クランクは、自転車に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の乗り物用クランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物用クランクに関する。
【背景技術】
【0002】
クランクを備えた自転車の乗員は、一方のペダルを踏みこむために、自転車の下方側へ向けて一方の脚を伸ばし、これに伴ってクランクと共に回転する他方のペダルが自転車の上方側へ引き上げられるため、他方の脚の膝関節を曲げる。しかしながら、例えば、関節の病気や怪我等によって膝関節を大きく曲げることが困難な人にとっては、生活やリハビリのために、自転車を使用することが困難となる場合がある。そこで、例えば、クランクアームの長さを予め短く形成した自転車を製造することが考えられるが、この場合のクランクアームの長さは、乗車する人の膝関節の可動域に応じて決まってしまうため、リハビリ用の自転車のように、膝関節の可動域が異なる複数の人が使用するような自転車では、毎回クランクアームを取り換える又は作り替える必要性が生じ得る。
【0003】
また、特許文献1には、クランクに形成された矩形状の貫通口と、クランクの長手方向に沿ってスライド可能となるように貫通口に嵌め込まれると共に、ペダルが取り付けられるプランジャーと、プランジャー及びペダルをクランクに対して固定するための固定金具と、を有するペダル固定金具付きクランクが開示されている。しかしながら、このようなクランクであっても、複数の人が使用する場合には、使用する人の膝関節の可動域に応じてクランクアームの位置合わせが必要になる。また、ペダルを移動できる範囲は、固定金具の取付位置並び貫通口の位置及び大きさ等によって限定されるため、膝関節の可動域によっては、自転車を使用できない場合が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-096444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、関節の可動域に合わせて調整することなく、ペダル位置を自動的に変えることができる乗り物用クランクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、回転可能な棒形状のブラケットに一方の端部が連結されると共に、一方の端部からブラケットの軸線方向と直交する方向に沿って延在されたクランクアームと、クランクアームの長手方向に沿ってスライド可能に配置されると共に、乗員の手又は足を載置可能なペダルが連結されるスライダと、スライダを付勢する付勢手段と、を備えた乗り物用クランクが提供される。
【0007】
さらに、本発明の別の態様によれば、スライダは、クランクアームの内部に配置されており、付勢手段は、クランクアームの内部において、クランクアームの他方の端部とスライダとの間に配置されており、スライダをクランクアームの一方の端部の側へ向けて付勢することを特徴としてもよい。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、クランクアームの端部の側へのスライダのスライドを規制する規制要素を備えてもよい。
【0009】
さらに、本発明の別の態様によれば、付勢手段は、バネとされてもよい。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、乗り物用クランクは、自転車に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る乗り物用クランクによれば、クランクアームの長手方向に沿ってスライド可能に形成されたスライダが配置されている。このため、例えば、乗り物用クランクを備えた自転車を漕いでいる乗員が、一方のペダルを踏みこむと、クランクアームに連結された他方のペダルが自転車の上方側へ向けて引き上げられる。このとき、スライダと連結されたペダルは、ペダルに載置された乗員の脚の自重によって、下方側、すなわち、クランクアームの回転中心となるブラケット側へ自動的にスライドする。このため、ペダルとブラケットとの距離を短くすることができ、乗員の膝が曲がることを抑制することができる。また、引き上げられたペダルが、最も高い位置(上死点)へ到達したときに、クランクアームの長手方向と鉛直方向とが一致するため、脚によってクランクアームを回転させる回転力が発生しない一方で、ペダルをブラケット側へ向けて押し下げる力が最も大きくなる。このため、通常の自転車では乗員の膝関節を最も大きく曲げる必要が生じるペダル位置において、ペダルとブラケットとの距離を最も短くすることができるため、乗員の後部側に大腿部と下腿部とによって形成される角度(屈曲角度)が小さくなることを抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る乗り物用クランクによれば、踏み込んだペダルは、自転車の下方側へ向けて回転移動する。このとき、スライダと連結されたペダルは、付勢手段とペダルに載置された乗員の脚の自重とによって、下方側、すなわち、クランクアームの回転中心となるブラケットから離れる方向へ自動的にスライドする。このため、下方側へ回転移動したペダルが、最も低い位置(下死点)へ向かうにつれて、踏み込んだペダルとブラケットとの距離を長くすることができ、ペダルを踏みこむ力によってブラケットに加えられるトルクを増加することができる。
【0013】
以上のことから、本発明に係る乗り物用クランクは、関節の可動域に合わせて調整することなく、ペダル位置を自動的に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態に係る乗り物用クランクの斜視図を示す。
図2図2は、第1実施形態に係る乗り物用クランクの分解斜視図を示す。
図3図3は、第1実施形態に係る乗り物用クランクの中立状態の斜視図を示す。
図4図4は、図3に示すペダルが、乗員が踏み込むことによってスライドした状態の斜視図を示す。
図5図5は、第2実施形態に係る乗り物用クランクの中立状態の斜視図を示す。
図6図6は、図5に示すペダルが、乗員が踏み込むことによってスライドした状態の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、第1実施形態に係る乗り物用クランクを説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。また、添付の図面に示された乗り物用クランクは、一例とされており、これに限らず、異なる寸法の乗り物用クランクが形成されてもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係る乗り物用クランク10の斜視図を示す。本実施形態に係る乗り物用クランク10は、例えば、脚漕ぎ自転車(図示省略)に適用されており、乗員の足FTを載置するためのペダル12が連結されると共に、乗員の脚LGによる漕ぐ力をトルクに変換するためのクランクアーム14を備える。また、クランクアーム14は、ブラケットとしての棒状のボトムブラケット16(図3参照)と連結されており、ボトムブラケット16は、クランクアーム14が生じさせるトルクによって回転すると共に、スプロケット及びローラチェーン(どちらも図示省略)等を介して自転車の車輪を回転させる。ボトムブラケット16は、その長手方向が、自転車の進行方向(自転車長手方向)と直交する方向(自転車幅方向)と同一となるように自転車に配置されている。図中には、乗り物用クランク10を有する自転車の自転車上下方向及び自転車幅方向を矢印で示す。図中のUPは、自転車の上方側を示しており、図中のWは、自転車の幅方向を示す。
【0017】
クランクアーム14は、外周形状が直方体状に形成されており、長手方向の一方の端部に、ボトムブラケット16と連結されるブラケット連結部18を有する。クランクアーム14は、ボトムブラケット16の長手方向(自転車幅方向)と直交する方向(径方向)に沿って配置されると共に、ブラケット連結部18に連結されたボトムブラケット16を回転中心として、回転可能とされている。
【0018】
図2に示されるように、クランクアーム14の内部には、その長手方向に沿って中空の収容部20が形成されている。また、クランクアーム14の自転車幅方向外側の端部には、その長手方向に沿ってスライド溝22が貫通形成されている。また、クランクアーム14の自転車幅方向内側の端部には、開口24が設けられている。開口24は、クランクアーム14の使用時には、板状に形成されたカバー26(図1参照)によって塞がれている。
【0019】
図2に示されるように、収容部20の内側には、クランクアーム14の長手方向に沿ってスライド可能に形成されたスライダ28が配置されている。スライダ28は、クランクアーム14の長手方向(スライダ28のスライド方向)に沿って延在する柱状の中央部28Aと、中央部28Aの短手方向の両側部に各々形成された側部28Bと、を有しており、自転車を側方から見て十字状に形成されている。ペダル12は、スライド溝22を通じてスライダ28と連結されている。
【0020】
スライダ28の各側部28Bの内部には、スライダ28の長手方向に沿って取付穴30が貫通形成されており、取付穴30の内部には、円筒状に形成されたブッシュ32が挿入されている。スライダ28には、取付穴30に挿入されたブッシュ32の脱落防止のために、取付穴30を自転車上方側及び自転車下方側から塞ぐための蓋部材34を備えたブッシュ押さえ部材36が取り付けられている。蓋部材34には、その内径がブッシュ32の外径と比べて小さく、かつ、ブッシュの内径と比べて同一又は大きい、部材穴部38が貫通形成されている。
【0021】
スライダ28の各側部28Bとクランクアーム14の他方の端部(ブラケット連結部18側とは反対側の端部)となるペダル12側端部との間には、スライダ28のスライド方向に沿って付勢手段としてのバネ42が配置されている。バネ42は、スライダ28をクランクアーム14のブラケット連結部18側(ボトムブラケット16側)へ付勢するために配置されている。
【0022】
スライダ28の各側部28Bには、スライダ28のスライド方向に沿って配置された棒形状のシャフト44が挿通されている。具体的には、シャフト44は、蓋部材34の部材穴部38と円筒状に形成されたブッシュ32の内側に挿通されている。このため、シャフト44の外径は、部材穴部38及びブッシュ32の内径と同一又はこれらよりも小さくなるように形成されている。また、シャフト44は、スライダ28の各側部28Bとクランクアーム14のペダル12側端部との間に配置されたバネ42の内側にも挿通されている。これによって、スライダ28とバネ42とが、シャフト44に沿って配置されている。
【0023】
シャフト44のボトムブラケット16側端部は、自転車幅方向内側に配置されたシャフト押さえ部材46をクランクアーム14にボルト締結することによって、クランクアーム14に固定されている。また、シャフト44のペダル12側端部には、シャフト44の軸方向(クランクアーム14の長手方向)に沿ってねじ穴(図示省略)が形成されている。このため、シャフト44のペダル12側端部は、クランクアーム14の外側から外側ねじ穴48を通じて挿通されたシャフト固定ねじ50によってクランクアーム14に固定されている。
【0024】
ペダル12は、自転車幅方向に沿って配置された固定軸54と、固定軸54を回転中心として回転可能に形成されており、乗員の足FTを載置する載置部56と、を有する。スライダ28の中央部28Aのペダル12側端部には、内周形状が固定軸54の外周形状と同一とされた嵌入部52が自転車幅方向に沿って形成されている。ペダル12は、固定軸54が、スライド溝22を通じて嵌入部52に嵌入された状態で固定されている。
【0025】
スライダ28の中央部28Aのボトムブラケット16側端部には、スライダ28のスライド方向に沿って中央部ねじ穴28A1が形成されており、中央部ねじ穴28A1には、規制要素としての上死点側規制ねじ58が螺入されている。上死点側規制ねじ58は、スライダ28の中央部28Aからボトムブラケット16側へ突き出るように配置されている。このため、スライダ28が収容部20内をボトムブラケット16側へ向けてスライドした際に、スライダ28よりも先に収容部20のボトムブラケット16側端部に到達し、スライダ28のボトムブラケット16側への過度のスライドを規制することができる。また、上死点側規制ねじ58は、スライダ28の中央部28Aから突き出した長さを調節することができるため、スライダ28のボトムブラケット16側の規制範囲を調整することができる。
【0026】
クランクアーム14の収容部20のペダル12側端部には、スライダ28のスライド方向に沿って規制要素としての下死点側規制ねじ60が配置されている。下死点側規制ねじ60は、クランクアーム14の外側から螺入されており、収容部20側へ突き出す長さを調整することができる。下死点側規制ねじ60の先端部60Aは、スライダ28の中央部28Aとスライド方向の同じ軸線上に配置されており、ペダル12側へスライドしたスライダ28と衝突するように配置されている。これによって、下死点側規制ねじ60は、スライダ28が、過度にペダル12側へスライドすることを規制することができる。
【0027】
なお、ここでは、スライダ28は、シャフト44に沿ってクランクアーム14の長手方向にスライド可能であるとして説明したが、これに限らず、例えば、スライダの側部を収容部に形成した溝にスライド可能に嵌め込むことによって、スライダが、クランクアームに対してスライド可能とされてもよい。
【0028】
さらに、ここでは、シャフト44は、スライダ28の側部28Bに1本ずつ合計2本配置されているとして説明したが、これに限らず、例えば、シャフトが1本だけ配置されてもよく、さらに、スライダのシャフト回りの回動を抑制するためにペダルの固定軸にベアリングが設けられる等他の態様によってスライダがクランクアームに配置されてもよい。
【0029】
本実施形態の作用及び効果について、以下に説明する。
【0030】
図3には、乗員がペダル12に足FTを載置していない状態の乗り物用クランク10を示す。乗員がペダル12に足FTを載置していない状態では、スライダ28は、ペダル12(図4参照)及びスライダ28の重量とバネ42によるバネ力とが釣り合った中立状態にある、又は、図3に示すように、バネ42によって付勢された状態にある。図4には、乗員がペダル12に脚LG(足FT)を載置した状態の乗り物用クランク10を示す。ペダルが高い位置(上死点TD側)にあるときには、脚LG(足FT)の自重によってペダル12がボトムブラケット16側へ自動的にスライドするように、又は、図3に示すように、バネ42だけでボトムブラケット16側へ付勢された状態となるように、バネ42の強さ(バネ定数)が設定されている。また、ペダルが低い位置(下死点BD側)にあるときには、乗員が踏み込んだ力に応じてバネ42が圧縮されるため、ペダル12をボトムブラケット16から離れる方向へ自動的にスライドさせることができる。
【0031】
本実施形態に係る乗り物用クランク10によれば、乗り物用クランク10を備えた自転車を漕いでいる乗員が、一方のペダル12を踏みこむと、クランクアーム14に連結された他方のペダル12が自転車の上方側へ向けて引き上げられる。このとき、スライダ28と連結されたペダル12は、ペダル12に載置された乗員の脚LGの自重によって、自転車下方側、すなわち、クランクアーム14の回転中心となるボトムブラケット16側へ自動的にスライドする。このため、ペダル12とボトムブラケット16との距離を短くすることができ、乗員の膝が曲がることを抑制することができる。また、引き上げられたペダル12が、最も高い位置(上死点TD)へ到達したときに、クランクアーム14の長手方向と鉛直方向とが一致するため、脚LGによってクランクアーム14を回転させる回転力が発生しない一方で、ペダル12をボトムブラケット側へ向けて押し下げる力が最も大きくなる。このため、通常の自転車では乗員の膝関節を最も大きく曲げる必要が生じるペダル位置(上死点TD)において、ペダル12とボトムブラケット16との距離を最も短くすることができるため、乗員の後部側に大腿部と下腿部とによって形成される屈曲角度が小さくなることを抑制することができる。
【0032】
さらに、本実施形態に係る乗り物用クランク10によれば、踏み込んだペダル12は、自転車の下方側へ向けて回転移動する。このとき、スライダ28と連結されたペダル12は、バネ42とペダル12に載置された乗員の脚LGの自重とによって、自転車下方側、すなわち、クランクアーム14の回転中心となるボトムブラケット16から離れる方向へ自動的にスライドする。このため、下方側へ回転移動したペダルが、最も低い位置(下死点BD)へ向かうにつれて、踏み込んだペダル12とボトムブラケット16との距離(トルクレバー)を長くすることができ、ペダル12を踏みこむ力によってボトムブラケット16に加えられるトルクを増加することができる。これによって、漕ぐ力を変えずにトルクを増加させることができるため、例えば、坂道や強い向かい風に遭遇した場合や急加速したい場合といったトルクを増加させたい場合において、通常の自転車よりも容易にトルクを増加させることができる。
【0033】
また、本実施形態に係る乗り物用クランク10を乗り物に適用する場合には、クランクアーム14周辺の構造を変更する必要はなく、クランクアーム14だけを取り付ける(取り換える)だけでよいため、簡便に適用することができる。
【0034】
以上のことから、本実施形態に係る乗り物用クランク10は、関節の可動域に合わせて調整することなく、ペダル12の位置を自動的に変えることができる。
【0035】
さらに、本実施形態に係る乗り物用クランク10によれば、スライダ28の中央部28Aには、上死点側規制ねじ58が螺入されている。上死点側規制ねじ58は、スライダ28の中央部28Aよりもボトムブラケット16側へ突き出るように配置されている。このため、スライダ28が収容部20内をボトムブラケット16側へスライドした際に、スライダ28よりも先に収容部20のボトムブラケット16側端部に到達し、スライダ28のボトムブラケット16側への過度のスライドを規制することができる。また、上死点側規制ねじ58は、スライダ28の中央部28Aから突き出した長さを調節することができるため、スライダ28のボトムブラケット16側の規制範囲を簡単に調整することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る乗り物用クランク10によれば、クランクアーム14の収容部20のペダル12側端部には、スライダ28のスライド方向に沿って下死点側規制ねじ60が配置されている。下死点側規制ねじ60の先端部60Aは、スライダ28の中央部28Aとスライド方向の同じ軸線上に配置されており、ペダル12側へスライドしたスライダ28と衝突するように配置されている。このため、下死点側規制ねじ60は、スライダ28が、過度にペダル12側へスライドすることを規制することができる。さらに、下死点側規制ねじ60は、クランクアーム14の外側から螺入されており、収容部20側へ突き出す長さを調整することができるため、スライダ28のペダル12側の規制範囲を簡単に調整することができる。
【0037】
さらに、スライダ28は、挿通された2本のシャフト44に支持されているため、スライダ28がシャフト44の軸線方向回りに回動することを抑制することができる。これによって、乗員の脚LGがペダル12を踏み込む力を安定してボトムブラケット16のトルクに変換することができる。
【0038】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る乗り物用クランク70について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
図5には、乗員がペダル12に足FTを載置していない状態の乗り物用クランク70を示す。本実施形態に係る乗り物用クランク70によれば、スライダ28の側部28Bとクランクアーム14の収容部20のブラケット連結部18側(ボトムブラケット16側)端部との間には、スライダ28のスライド方向に沿ってブラケット側バネ72が配置されている。ブラケット側バネ72は、スライダ28をボトムブラケット16から離れる方向(ペダル12側)へ付勢するために配置されている。ブラケット側バネ72の内側にはシャフト44が挿通されており、スライダ28の側部28Bのブラケット連結部18側とペダル12側には、ブラケット側バネ72とバネ42とがそれぞれ配置されている。ブラケット側バネ72は、バネ42よりもバネ定数が小さく(バネが弱く)設定されている。乗員がペダル12に足FTを載置していない状態では、ペダル12及びスライダ28の重量とブラケット側バネ72及びバネ42によるバネ力とが釣り合った中立状態にある。
【0040】
図6には、乗員がペダル12に脚LG(足FT)を載置した状態の乗り物用クランク70を示す。ペダルが高い位置(上死点TD側)にあるときには、脚LG(足FT)の自重によって、ペダル12がボトムブラケット16側へ自動的にスライドするようにバネ42が設定されている。このため、通常の自転車では乗員の膝関節を最も大きく曲げる必要が生じるペダル位置(上死点TD)において、ペダル12とボトムブラケット16との距離を最も短くすることができるため、乗員の膝の屈曲角度が小さくなることを抑制することができる。また、ペダルが低い位置(下死点BD側)にあるときには、乗員が踏み込んだ力に応じてバネ42が圧縮されるため、ペダル12をボトムブラケット16から離れる方向へ自動的にスライドさせることができる。このため、下方側へ回転移動したペダルが、最も低い位置(下死点BD)へ向かうにつれて、踏み込んだペダル12とボトムブラケット16との距離(トルクレバー)を長くすることができ、ペダル12を踏みこむ力によってボトムブラケット16に加えられるトルクを増加することができる。さらに、スライダ28のスライド方向の両側にブラケット側バネ72とバネ42とが配置されているため、下死点BD側だけでなく上死点TD側においてもペダル12を踏み込んだ乗員の踏み心地を向上させることができる。
【0041】
なお、ここでは、乗り物用クランク10、70は、脚漕ぎ自転車に適用されるとして説明したが、これに限らず、ペダルに載置した手によって漕ぐハンドサイクルに適用されてもよい。
【0042】
さらに、ここでは、乗り物用クランク10、70は、自転車に適用されるとして説明したが、これに限らず、例えば、脚漕ぎボートのようなクランクペダル付きの自転車以外の乗り物に適用されてもよい。
【0043】
また、ここでは、付勢手段にはバネ42が用いられているとして説明したが、これに限らず、例えば、ゴム、空気バネ等の他の付勢手段が用いられてもよい。
【0044】
さらに、ここでは、シャフト44に沿ってスライド可能なスライダ28が収容部20内に配置された乗り物用クランク10、70の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が想到する範囲において、上記の実施形態の様々な変形が本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10 乗り物用クランク
12 ペダル
14 クランクアーム
16 ボトムブラケット(ブラケット)
28 スライダ
42 バネ(付勢手段)
58 上死点側規制ねじ(規制要素)
60 下死点側規制ねじ(規制要素)
70 乗り物用クランク
FT 足
【要約】
【課題】関節の可動域に合わせて調整することなく、ペダル位置を自動的に変えることができる乗り物用クランクを提供する。
【解決手段】乗り物用クランク10は、回転可能な棒形状のボトムブラケット16に一方の端部が連結されると共に、一方の端部からボトムブラケット16の軸線方向と直交する方向に沿って延在されたクランクアーム14と、クランクアーム14の長手方向に沿ってスライド可能に配置されると共に、乗員の手又は足FTを載置可能なペダル12が連結されるスライダ28と、スライダ28を付勢するバネ42と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6