(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】ひげぜんまい用固着部品
(51)【国際特許分類】
G04B 17/32 20060101AFI20220909BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20220909BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20220909BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
G04B17/32
G04B17/06 Z
C22C27/02 103
C22C14/00 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017103454
(22)【出願日】2017-05-25
【審査請求日】2020-04-28
(32)【優先日】2016-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バラーグ, オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】グリッティ, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ガイガー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】パープ, オンドレ
(72)【発明者】
【氏名】リーム, アントワン
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-71625(JP,A)
【文献】スイス国特許出願公開第706846(CH,A3)
【文献】特開2016-99345(JP,A)
【文献】実開昭47-21663(JP,U)
【文献】スイス国特許出願公開第705464(CH,A3)
【文献】スイス国特許発明第468662(CH,A)
【文献】国際公開第2015/189278(WO,A2)
【文献】スイス国特許発明第357023(CH,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常磁性合金製のひげぜんまい(2)、及び
前記ひげぜんまい(2)の一端(2a;2b)用の少なくとも1つの固着部品(1;1’)であって、前記ひげぜんまい(2)と接触するよう設計されチタン製またはチタン合金製またはタンタル製またはタンタル合金製の第1部分(10;10’)を有する、前記少なくとも1つの固着部品(1;1’)
を具備し、
前記第1部分(10;10’)は、スロット(10a;10a’)により分離される第1支持表面(10b、10b’)と第2支持表面(10c、10c’)とを有し、前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々は、前記ひげぜんまいの同じ側の面に接触するように設計される
組立品(300)。
【請求項2】
前記スロットは前記ひげぜんまいの高さ(h)方向に延びる、
請求項1に記載の組立品。
【請求項3】
前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々は、前記ひげぜんまいの前記高さ(h)方向における端部(101b、102b、101c、102c)の少なくとも1つにおいて、前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々に垂直に延びる位置決め形状(103b、104b、103c、104c)を有する、
請求項2に記載の組立品。
【請求項4】
前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々は、前記ひげぜんまいの前記高さ(h)方向における端部(101b、102b、101c、102c)の少なくとも2つにおいて、前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々に垂直に延びる第1位置決め形状(103b、103c)と第2位置決め形状(104b、104c)とをそれぞれ有する、
請求項2に記載の組立品。
【請求項5】
前記少なくとも1つの固着部品は、ひげ持受(3)または天真(5)と接触するよう設計される第2部分(100;100’)を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の組立品。
【請求項6】
前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々は、前記ひげぜんまい(2)の平面(P1)に垂直に配置され、前記第1支持表面(10b、10b’)と前記第2支持表面(10c、10c’)とは前記ひげぜんまい(2)の軸(A1)に沿う方向にみて150°から179°の範囲の角度を形成する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の組立品。
【請求項7】
前記第1支持表面(10b、10b’)および前記第2支持表面(10c、10c’)の各々は、前記ひげぜんまいの平面(P1)に垂直に配置され、及び/または、単一の回転円柱の部分を形成するよう湾曲し、または単一の回転円柱に正接するように形成される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の組立品。
【請求項8】
前記少なくとも1つの固着部品はひげ玉(1’)を含み、前記回転円柱は前記ひげ玉の軸(CB)に中心を有する、
請求項7に記載の組立品。
【請求項9】
前記少なくとも1つの固着部品はひげ玉を含み、前記ひげ玉は、前記ひげ玉の外周周りに等間隔または不等間隔で配置される、2つ、3つ、4つ、または5つの止め部を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の組立品。
【請求項10】
少なくとも1つの前記固着部品は、スタッドを含み、
前記スタッドの提供、
前記ひげぜんまいの提供、
前記スタッドと前記ひげぜんまいとの溶接、
の各ステップを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組立品(300)の製造方法。
【請求項11】
少なくとも1つの前記固着部品は、ひげ玉を含み、
前記ひげ玉の提供、
前記ひげぜんまいの提供、
前記ひげ玉と前記ひげぜんまいとの溶接、
の各ステップを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組立品(300)の製造方法。
【請求項12】
少なくとも1つの前記固着部品は、スタッドと、ひげ玉とを含み、
前記スタッドの提供、
前記ひげぜんまいの提供、
前記ひげ玉の提供、
前記スタッドと前記ひげぜんまいとの溶接、及び前記ひげ玉と前記ひげぜんまいとの溶接、
の各ステップを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組立品(300)の製造方
法。
【請求項13】
前記溶接ステップはレーザー溶接により行われる、
請求項10から12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか一項に記載の組立品(300)、及び/または
請求項10から13のいずれか一項に記載の方法を実施して得られる組立品(300)を含む、時計発振器(400)または時計ムーブメント(500)または時計(600)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひげぜんまいの一端を固着する部品、とりわけスタッドまたはひげ玉に関する。本発明はまた、ひげぜんまい及び当該スタッド及び/または当該ひげ玉を含む、組立品に関する。本発明はまた、当該組立品を含む発振器または時計ムーブメントまたは時計に関する。最後に、本発明は、当該組立品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ひげぜんまいを包含する時計の機械式発振器機構は、通常はひげぜんまいの内端を固着するためのひげ玉、及び/またはひげぜんまいの外端を固着するためのスタッドを有する。Nb、V、Ta、Ti、ZrまたはHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製のひげぜんまいの場合、ひげぜんまいの固着部品、すなわちひげ玉またはスタッドは、ひげぜんまいに対して溶接により、特にレーザー溶接により取り付けられる。一般的に、当該固着部品は鋼製で、特にステンレス鋼製である。このような組立構造は、特許文献1により保護されるような、Nb-Zr-O常磁性合金製のひげぜんまいの溶接には満足できるものである。
【0003】
特許文献2は、特にチタン基素材製の分割ひげ玉に関する。ひげ玉を包含する発振器の等時性を向上する目的等で、低質量密度のひげ玉を提供するため低密度のチタンが用いられる。特許文献2は、第1及び第2平部を含む、完全に従来の構造を有するひげ玉を開示する。ひげ玉は、ひげぜんまいの内端のブレードを受け入れるよう設計される側方開口を有する。ひげぜんまいは、ピン留めまたは溶接、特にレーザー溶接等の、従来の方法で固着することができる。しかしながら、ひげ玉の溝へひげぜんまいを溶接することを可能とするまたは溶接を最適化する、受け面の形状適合についてはなんら提案されていない。更に、当該ひげ玉に取付けられるよう設計されるひげぜんまいを製造するために使用される素材の性質について、なんら詳細が示されていない。
【0004】
ひげぜんまいをひげ玉またはスタッドに対しレーザー溶接で固着することが知られている。例えば特許文献3は、ひげぜんまいをひげ玉に対して正確に位置決めするための、ひげぜんまいの事前固着段階を含む、ひげ玉のレーザー溶接方法を開示する。
【0005】
特許文献4は、ひげぜんまいの内端を、ひげぜんまいの回転軸に中心を有する半円形ひげ玉部に対して、レーザー溶接することに関する。当該デバイスを製造するために使用される素材の性質について、なんら詳細な記載はない。この場合のひげぜんまいの内端のブレード部は、ひげ玉部に対して連続的に配置される。単一のスポット溶接が、ひげぜんまいとひげ玉の間の接触線沿いに行われる。溶接裂けの危険性を防ぐため、スポット溶接がブレード高さの半分以上浸透しないように、またスポット溶接が少なくとも当該ブレードの高さと同じ長さであるように、レーザーの強度を調整することが推奨される。しかしながら、当該デザインは、溶接の弱体化につながる脆弱な金属間化合物の出現を防止することができない。更に当該デザインは、ひげぜんまいのブレードを過熱し、これによりその機械的性質を潜在的に変更する危険があると共に、美観を損ねる可能性を有する。
【0006】
特許文献5は、ひげぜんまいの内端のブレードを支持し案内することを意図する環状スロットを含むという特性を有する特定のひげ玉形状を開示する。当該デザインは、板ばねがひげ玉に対して、特にレーザー溶接で溶接されるときに、2つの溶接区域間の熱伝導の遮断することができない。
【0007】
特許文献6は、その上にひげぜんまいの外端のブレード部分が溶接される平坦表面を有する、弾性スタッドを開示する。明細書に、スタッドが複数の点で、とりわけ2点より多い点で溶接可能なことが記載されている。明細書には、当該解決策はスタッドに対するひげぜんまいの固定を向上すると特定されているものの、当該デバイスを製造するのに利用する素材についての言及はない。いずれにせよ、当該デザインは、スポット溶接のいずれかの弱体化、且つひげぜんまいの固定の弱体化につながり、当該デバイスを組み込む発振器の計時性、特に等時曲線を変更する、脆弱な金属間化合物の出現を防止できない。更に、当該スタッドの形状は、2つのスポット溶接間の熱伝導の遮断をすることができない。
【0008】
Nb、V、Ta、Ti、ZrまたはHfの元素を少なくとも1つ含むひげぜんまいの使用もまた先行技術から既知である。例えば、特許文献1は、Zrを5質量%から25質量%の範囲含み、少なくとも部分的に酸素からなる侵入型ドーピング剤を含む、Nb-Zr常磁性合金製のひげぜんまいを開示する。
【0009】
特許文献7はまた、Hfを2質量%から30質量%の範囲含むNb-Hf常磁性合金製のひげぜんまいを開示する。
【0010】
特許文献8は、チタン合金、とりわけ10原子%から40原子%のNb、Ta、またはVの元素のうち1つ、0原子%から6原子%のZr、及び0原子%から5原子%のHfを含むチタン基を含むチタン合金を用いて製造されたひげぜんまいを含むテンプを開示する。当該文献には、ひげぜんまいを発振器内に組付けるために、ひげ玉とスタッドを設けても良いことが特定されているものの、それ以上の詳細な記述はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許第0886195号明細書
【文献】スイス国特許出願公開第706846号明細書
【文献】スイス国特許出願公開第561921号明細書
【文献】フランス国特許出願公開第2017027号明細書
【文献】スイス国特許出願公開第468662号明細書
【文献】米国特許第3016688号明細書
【文献】欧州特許第1258786号明細書
【文献】国際公開第WO2015/189278号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上述の問題に対処し、従来から知られている固着部品を改良する、ひげぜんまいの端部用の固着部品を提供することである。特に、本発明は、ひげぜんまいの固着を向上させる、とりわけひげぜんまいの付着強度を向上させる、固着部材を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、固着部品は、以下の提案により定義される。
a. Nb、V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製のひげぜんまいの端部の固着部品、特にスタッドまたはひげ玉であって、前記固着部品は、前記ひげぜんまいと接触するよう設計される第1部品であり、チタン製またはチタン合金製またはタンタル製またはタンタル合金製、とりわけグレード2チタン製またはグレード5チタン製の、第1部分を有する。
【0014】
b. 前記第1部分は、スロットにより分離される2つの支持表面を有し、各支持表面はひげぜんまいと接触するよう設計され、前記スロットはとりわけ前記ひげぜんまいの高さ方向に、好ましくは前記ひげぜんまいの前記高さを超える高さにわたって延びる、提案(a)に係る固着部品。
【0015】
c. 各表面は、前記ひげぜんまいの前記高さ方向の前記端部の少なくとも1つにおいて、前記表面に対して垂直にまたは実質的に垂直に延びる位置決め形状を有する、提案(b)に係る固着部品。
【0016】
d. 各表面は、前記ひげぜんまいの前記高さ方向の前記端部の少なくとも2つにおいて、第1位置決め形状と第2位置決め形状を有し、前記形状は前記表面に垂直にまたは実質的に垂直に延びる、提案(b)に係る固着部品。
【0017】
e. 前記固着部品は、ひげ持受または天真と接触するよう設計される第2部分を含む、提案(a)から(d)のいずれか1つに係る固着部品。
【0018】
f. 前記表面は、前記ひげぜんまいの平面に実質的に垂直に配置され、互いに角度、とりわけ、前記ひげぜんまいの軸からみて150°から179°の範囲の角度を形成する、提案(a)から(e)のいずれか1つに係る固着部品。
【0019】
g. 前記表面は、前記ひげぜんまいの平面に対して実質的に垂直に配置され、及び/または単一の回転円柱の部分を形成するよう湾曲し、または単一の回転円柱に正接するように設けられる、提案(a)から(e)のいずれか1つに係る固着部品。
【0020】
h. 前記固着部品はひげ玉であり、前記回転円柱は前記ひげ玉の軸に中心を有する、提案(g)に係る固着部品。
【0021】
i. 前記固着部品はひげ玉であり、前記ひげ玉は少なくとも1つの止め部を含み、とりわけ前記ひげ玉の外周周りに角度的に配置され、とりわけ等角度的に配置される、2つ、3つ、4つ、または5つの止め部を含む、提案(a)から(h)のいずれか1つに係る固着部品。
【0022】
本発明の第1の態様によれば、製造方法は、以下の提案により定義される。
j. 提案(a)から(g)のいずれか1つに係るスタッドと、Nb、 V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製のひげぜんまいとを含む組立品の製造方法であって、
スタッドの提供、
ひげぜんまいの提供、
前記スタッドと前記ひげぜんまいとの固着、
の各ステップを含む、製造方法。
【0023】
k. 提案(a)から(i)のいずれか1つに係るひげ玉と、Nb、 V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製のひげぜんまいとを含む組立品の製造方法であって、
ひげ玉の提供、
ひげぜんまいの提供、
前記ひげ玉と前記ひげぜんまいとの固着、
の各ステップを含む、製造方法。
【0024】
l. 提案(a)から(g)のいずれか1つに係るスタッドと、提案(a)から(i)のいずれか1つに係るひげ玉と、Nb、 V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製のひげぜんまいとを含む組立品の製造方法であって、
スタッドの提供、
ひげぜんまいの提供、
ひげ玉の提供、
前記スタッドと前記ひげぜんまいとの固着、及び、前記ひげ玉と前記ひげぜんまいとの固着、
の各ステップを含む、製造方法。
【0025】
m. 前記固着ステップはレーザー溶接で行われる、提案(k)から(l)のいずれか1つに係る製造方法。
【0026】
本発明の第1の態様によれば、組立品は以下の提案により定義される。
n. ひげぜんまい、とりわけ常磁性合金製のひげぜんまい、特にNb、 V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製のひげぜんまい、とりわけ、Nb元素とZr元素とを含み、Zrを5質量%から25質量%の範囲で含み、且つ、酸素を含む侵入型ドーピング剤を含む合金製のひげぜんまいと、
提案(a)から(g)のいずれか1つに係るスタッドと、及び/または
提案(a)から(i)のいずれか1つに係るひげ玉と、
を含む、組立品。
【0027】
本発明の第1の態様によれば、時計発振器または時計ムーブメントまたは時計は、以下の提案により定義される。
o. 提案(n)に係る組立品、及び/または
提案(j)から(m)のいずれか1つに係る方法を実施して得られる組立品、及び/または
提案(a)から(g)のいずれか1つに係るスタッド、及び/または
提案(a)から(i)のいずれか1つに係るひげ玉
を含む、時計発振器または時計ムーブメントまたは時計。
【0028】
本発明の第2の態様によれば、固着スタッドは以下の提案により定義される。
aa. ひげぜんまいの一端用の固着スタッドであって、前記スタッドは前記ひげぜんまいと接触するよう設計される第1部分を有し、前記第1部分は、ひげぜんまいと接触する第1表面と少なくとも1つの第2支持表面とを有するよう形成される固着スタッド。
bb. 前記第1及び第2表面は連続、特に前記第1表面と第2表面間に縁を有さないよう連続する、提案(aa)に係るスタッド。
cc. 前記第1及び第2表面は不連続である、提案(aa)に係るスタッド。
dd. 前記第1及び第2支持表面はスロットにより分離され、前記スロットはとりわけ前記ひげぜんまいの高さ方向に、好ましくは前記ひげぜんまいの前記高さを超える高さにわたって延びる、提案(cc)に係るスタッド。
ee. 各表面は、前記ひげぜんまいの前記高さ方向の前記端部の1つにおいて、前記表面に垂直にまたは実質的に垂直に延びる位置決め形状を有する、提案(aa)から(dd)のいずれか1つに係るスタッド。
ff. 各表面は、前記ひげぜんまいの前記高さ方向の前記端部のうちの2つにおいて、前記ひげぜんまいの前記高さ方向に、それぞれ第1位置決め形状と第2位置決め形状を有し、前記形状は前記表面に垂直にまたは実質的に垂直に延びる、提案(aa)から(dd)のいずれか1つに係るスタッド。
gg. 前記スタッドは、ひげ持受と接触するよう設計される第2部分を含む、提案(aa)から(ff)のいずれか1つに係るスタッド。
hh. 前記第1及び第2表面は、平らまたは円筒形、特に回転円柱形である、提案(aa)から(gg)のいずれか1つに係るスタッド。
ii. 前記第1及び第2表面は、前記ひげぜんまいの平面に実質的に垂直に配置され、及び/または、互いに角度を、とりわけ、ひげぜんまいの軸からみて150°から179°の範囲の角度を形成する、提案(aa)から(hh)のいずれか1つに係るスタッド。
jj. 前記第1及び第2表面は、前記ひげぜんまいの平面に実質的に垂直に配置され、及び/または、単一の回転円柱の部分を形成するよう湾曲し、または単一の回転円柱に対して正接であるように構成される、提案(aa)から(ii)のいずれか1つに係るスタッド。
kk. 前記第1及び第2表面のいずれか1つは、前記ひげぜんまいの前記軸に平行且つオーソラジアルな平面に対して非ゼロの角度を形成する、提案(aa)から(jj)のいずれか1つに係るスタッド。
ll. 前記第1表面及び前記少なくとも1つの第2表面は、互いに角度を、とりわけひげぜんまいの軸からみて150°から179°の範囲の角度を形成する、提案(aa)から(kk)のいずれか1つに係るスタッド。
mm. 前記第1表面と前記少なくとも1つの第2表面は、単一のひげぜんまい面の2つの区域を受けるよう設計され、前記2つの区域はひげぜんまいが延びる方向において互いに分離される、提案(aa)から(ll)のいずれか1つに係るスタッド。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、方法は以下の提案により定義される。
nn. スタッドの提供、
ひげぜんまいの提供、
前記スタッドの固着、前記第1及び第2表面への前記ひげぜんまいの固着、
の各ステップを含む、提案(aa)から(mm)のいずれか1つに係るスタッドとひげぜんまいとを含む組立品の製造方法。
oo. 前記固着ステップはレーザー溶接で行われる、提案(nn)に係る製造方法。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、組立品は以下の提案により定義される。
pp. ひげぜんまいと、
提案(aa)から(mm)のいずれか1つに係るスタッドと、
を含む、組立品。
【0031】
本発明の第2の態様によれば、時計発振器または時計ムーブメントまたは時計は、以下の提案により定義される。
qq. 提案(pp)に係る組立品、及び/または
提案(nn)及び(oo)のいずれか1つに係る方法を実施して得られる組立品、及び/または
提案(aa)から(mm)のいずれか1つに係るスタッド
を含む、時計発振器または時計ムーブメントまたは時計。
【0032】
本発明の第3態様によれば、ひげぜんまいの一端の固着部品、とりわけスタッドまたはひげ玉は、前記ひげぜんまいと接触するよう設計される第1部分を有する。第1部分は、スロットにより分離される2つの支持表面を有し、各支持表面はひげぜんまいと接触するよう設計される。前記スロットはとりわけ前記ひげぜんまいの高さ方向に、好ましくは前記ひげぜんまいの前記高さを超える高さにわたって延びる。
【0033】
本発明の第4態様によれば、本発明に係る組立品は請求項1により定義される。
【0034】
組立品の異なる実施態様は、従属請求項2から9により定義される。
【0035】
本発明の第4態様によれば、本発明に係る方法は請求項10から13により定義される。
【0036】
本発明の第4態様によれば、本発明に係る時計発振器または時計ムーブメントまたは時計は請求項14により定義される。
【0037】
技術的にまたは論理的に不可能な場合を除き、本発明の第1、第2、第3、及び第4態様の全ての特徴及び/または特定の詳細を組み合わせることができる。
【0038】
添付の図面は、本発明に係るスタッドの実施形態と本発明に係るひげ玉の実施形態とを含む時計の一実施形態を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明に係るスタッドの実施形態の正面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るスタッドの実施形態の斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るスタッドの実施形態を組み込んだ発振器の部分斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るスタッドの実施形態の詳細図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るスタッドの実施形態の詳細図である。
【
図6】
図6は、本発明に係るスタッドの実施形態の詳細図である。
【
図7】
図7は、本発明に係るひげ玉の実施形態を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明に係るひげ玉の実施形態を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明に係るひげ玉の実施形態を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明に係るひげ玉の実施形態を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明に係るひげ玉の実施形態を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明に係るスタッドと本発明に係るひげ玉を含む、本発明に係る時計の実施形態を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明に係るスタッドへのひげぜんまいの付着力の改善を示すグラフである。
【
図14】
図14は、自由等時性でのテンプの振幅(A)の関数として、時計の異なる位置について平均化された、時計の平均歩度(M)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図12を参照して、時計600の一実施例を説明する。時計は例えば小型時計、特に腕時計である。時計は、時計ムーブメント500、特に機械式ムーブメントを含み、ムーブメントは発振器400、例えば軸A1周りを旋回するてん輪と主として軸A1に垂直な平面P1に配置されるヒゲゼンマイとを有するテンプ発振器のような発振器を有する。軸A1は、ひげぜんまいの軸でもある。
【0041】
発振器400は、
図3に示すように、ひげぜんまい2、ひげぜんまいの内端2bを天真に固着するための第1部分1’、すなわちひげ玉1’、及びひげぜんまいの外端2aをできる限りひげ持受3経由でムーブメントの枠に固着するための第2部分1、とりわけテンプ受4とを含む
ひげぜんまいアセンブリ300を有する。第2固着部は、スタッドである。
【0042】
有利には、ひげぜんまいは、Nb、V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち少なくとも1つの元素を含む常磁性合金製である。特に、ひげぜんまいは、Nb、V、Ta、Ti、ZrとHfの元素のうち1つを少なくとも2質量%、または少なくとも5質量%含む。好ましくは、ひげぜんまいは、NbとZrとをZrを5質量%から25質量%の範囲で含み、酸素を含む侵入型ドーピング剤を含む合金製である。好ましくはひげぜんまいは、Nbを85質量%、Zrを14.95質量%、酸素を0.05質量%含む合金製である。合金は例えば以下の範囲で他の不純物を含んでもよい。Hf<7000ppm、Ta<1000ppm、W<300ppm、Mo<100ppm、その他<60ppm。
【0043】
好ましくはスタッド1は、ひげぜんまい2と接触するよう設計される部分10を含む。有利には、スタッドは以下の素材製である。
- チタン、または
- チタン合金、とりわけグレード2チタンまたはグレード5チタン、または
- タンタル、または
- タンタル合金。
【0044】
同様に好ましくは、ひげ玉1’は、ひげぜんまい2と接触するよう設計される部分10’を含む。有利には、ひげ玉は以下の素材製である。
- チタン、または
- チタン合金、とりわけグレード2チタンまたはグレード5チタン、または
- タンタル、または
- タンタル合金。
【0045】
「チタン」は好ましくは、チタンの質量パーセントが99%超、または99.5%超の素材を意味する。
【0046】
「チタン合金」は好ましくは、グレード5チタン(Ti6Al4V)のように、質量で主要なまたは優勢な元素がチタンである、その他の素材である。
【0047】
「タンタル」は好ましくは、タンタルの質量パーセントが99%超、または99.5%超の素材を意味する。
【0048】
「タンタル合金」は好ましくは、Wを2.5質量%から10質量%の範囲含むタンタルTaWまたはNbを約40質量%含むタンタルTaNbのように、質量で主要なまたは優勢な元素がタンタルである、その他の素材である。
【0049】
ひげ玉及び/またはスタッドをチタンまたはチタン合金から製造することは、Zrを5質量%から25質量%の範囲含むニオブ基合金製の、特にNbとZrとをZrを5質量%から25質量%の範囲で含み、酸素を含む侵入型ドーピング剤を含む合金製のひげぜんまいを溶接するために特に適している。実際、NbとZrは、Tiに完全に溶解可能である。
【0050】
ひげ玉及び/またはスタッドをタンタルまたはタンタル合金から製造することは、17質量%から62質量%の範囲でNbまたはTa元素のどちらかを含むチタン基製の、例えばNbを少なくとも17質量%そして例えばTaを最大62質量%含むチタン基製の、ひげぜんまいを溶接するために特に適している。ひげ玉及び/またはスタッドをタンタルまたはタンタル合金から製造することは、Hfを2質量%から30質量%の範囲で含むNb-Hfひげぜんまいを溶接するために特に適している。
【0051】
本発明に係るスタッドの一実施形態を、
図1から6を参照して以下に詳細に説明する。
【0052】
スタッドは、ここで説明する実施例のように、例えば一部品から製造される。スタッドはとりわけ、実質的に同一寸法の2つの分岐により形成される、全体的に四角の形状を有する。2つの分岐は、スポークにより互いに接続されていてもよい。
【0053】
スタッド1は、
図2に示すように、ひげぜんまいの外端2aにおいて、ひげぜんまい2に溶接、特にレーザー溶接されるよう設計された第1部分10を有する。スタッドはまた、
図3に示すように、通常はテンプ受4に取付けられたひげ持受3の溝に、とりわけ挿入により固着されるよう設計された第2部分100を有する。第1及び第2部分は、異なる素材で製造され、重ねて組付けられてもよい。
【0054】
第1部分10は、スロット10aで分離される第1支持表面10bと第2支持表面10cとを有する。各支持表面は、ひげぜんまいと接触するよう設計される。図示の実施形態において、スロットは、ひげぜんまいの高さh方向に、好ましくはひげぜんまいの高さよりも大きい高さH10にわたって、延びる。スロット10aは、第1及び第2支持表面10b、10cを互いに分離または区別可能にする。スロット10aは有利には、スタッド1の部分10の高さH10の方向に実質的に方向づけられる。このような配置は、ひげぜんまいのブレードを第1及び第2支持表面10b、10cのそれぞれに溶接するときに熱伝導を完全に遮断可能にし、また溶接中に熱的影響を受けるひげぜんまいの2つの区域間で干渉が生じることを予防可能にする。当該配置は、溶接に必要なエネルギーが加えられることを可能とし、ひげぜんまいの合金の機械的特性の維持を最適化する。
【0055】
スロットは、スタッドの厚みの一部にわたり、すなわちスタッドを貫通することなく形成されてもよい。代替的に、スロットはスタッドの全厚みを貫通してもよい。
【0056】
前述の代替として、スロットは、ひげぜんまいの高さhに垂直に方向づけられてもよい。スロットはまた、他の方向に方向づけられてもよい。
【0057】
第1表面と第2表面は、単一のひげぜんまい面の2つの区域を受けるよう設計される。好ましくは、2つの区域は、ひげぜんまいの方向において、即ちその区域においてひげぜんまいが主として延びる方向において、互いに分離される。このため、区域間には空間(区域においてひげぜんまいが主として延びる方向で測定される空間)が存在する。このため、区域においてひげぜんまいが主として延びる方向に一定距離を進まない限り、一方の区域の一点から他方の区域の一点まで移動することはできない。
【0058】
第1支持表面10bは、その端部101bまたは102bの一方に、第1レリーフ103bまたは104bを有する。第1レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を、とりわけひげぜんまいの軸方向の位置決め止め部を提供する。実際、第1表面と支持接触するひげぜんまいのブレードは、スタッドの高さH10の方向に、スタッドに関してひげぜんまいを正確に位置決めするため、第1レリーフに接触するよう移動されてもよい。第1レリーフは、例えば、止め部を形成するよう、第1表面10bに例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。有利には、第1支持表面10bは、その端部101bまたは102bの他方に、第2レリーフ103bまたは104bを有する。第2レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。第2レリーフは、例えば止め部を形成するよう、第1表面10bに例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。
【0059】
同様に、第2支持表面10cは、その端部101cまたは102cの一方に、第3レリーフ103cまたは104cを有してもよい。第3レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。実際、第2表面と接触するひげぜんまいのブレードは、スタッドの高さH10の方向に、スタッドに関してひげぜんまいを正確に位置するため、第3レリーフに接触するよう移動されてもよい。第3レリーフは、例えば止め部を形成するよう、第2表面10cに例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。有利には、第2支持表面10cは、その端部101cまたは102cの他方に、第4レリーフ103cまたは104cを有する。第4レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。第4レリーフは、例えば、止め部を形成するよう、第2表面10cに例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。
【0060】
上述の位置決めレリーフは、スタッドに関してひげぜんまいのブレードを正確に位置決めすることを可能にし、これによりひげぜんまいがスタッド上に溶接された後に、ひげぜんまいが正確に配置されることを可能にする。溶接は、支持表面10b、10cのそれぞれにおいて、または支持表面10b、10cのそれぞれの端部において行われる、2つのスポット溶接s1、s2を含んでもよい。好ましくは、
図2に示すように、スポット溶接s1、s2に加えて、支持表面10b、10cのそれぞれにおいて、または支持表面10b、10cのそれぞれの端部において、第3及び第4スポット溶接s3、s4が行われる。この正確な位置決めを保証するため、支持表面の1つまたは2つがそれぞれ2つの位置決めレリーフを有する場合、当該レリーフは、ぜんまいブレードの高さhよりも大きな距離で離されている。有利にはこの高さクリアランスは、0.04mmより小さく、または0.03mmより小さい。上述の位置決めレリーフは、
図1に示すように、ひげぜんまいのブレードを支持及び/または案内するために、第1スロット10aに実質的に垂直に方向づけられた第2スロット10dを形成する。
【0061】
有利には、第1及び第2支持表面10b、10cは、ひげぜんまいのブレード端のカーブに完全に適合するように設計される。そのため、第1及び第2支持表面10b、10cは、スロット10aの底により定義される表面に関して、または
図1で見ることができるスタッドの表面に関して、傾斜している。好ましくは、第1及び第2支持表面10b、10cは、2つの異なる角度で、例えば5°から15°の範囲で、傾斜する。
図5、6で示すように、その結果、第1及び第2支持表面10b、10cは、互いに、テンプのまたはひげぜんまいの軸A1からみて角度α(すなわち非ゼロの角度)を、とりわけ150°から179°の範囲の角度を形成する。換言すれば、軸A1は第1及び第2表面をそれぞれ通過する2つの半平面により形成される鈍角の二面角内にある。第1及び第2表面は、
ひげぜんまいの平面P1に垂直または実質的に垂直に配置されてもよい。第1及び第2表面は、平らな表面であってもよい。表面は単一表面に対して正接、とりわけ単一の回転円柱または回転体の円柱状曲面またはひげぜんまいのカーブ端の一部で形成されるより複雑な表面に対して正接であってよい。第1及び第2支持表面10b、10cの少なくとも1つは、軸A1に平行且つオーソラジアル(orthoradial)な平面に対して非ゼロの角度を形成してもよい。
【0062】
代替的に、第1及び第2表面は、そこに着座されるひげぜんまいのブレードに最適に適合するように設計される曲面であってもよい。例えば、第1及び第2表面はそれぞれ、単一の回転円柱または回転体の円柱状曲面の一部またはひげぜんまいの湾曲端の一部によって形成されるより複雑な表面の一部であってもよい。
【0063】
図示するスタッドの実施形態において、第1及び第2表面は不連続である。しかしながら、代替的に、第1及び第2表面は連続であってもよく、すなわち単一表面を形成してもよい。当該単一表面は、「連続する接線」、即ち縁を有していなくてもよい。
【0064】
理想的には、これらの第1及び第2表面は、必ずしも円筒形ではない、ひげぜんまいの外端2aの表面と同一である。
【0065】
このようなスタッドの設計は、有利にはスタッドとひげぜんまいのブレード端部との間に、少なくとも2つの接点を提供する。このようなスタッドへのひげぜんまいの組み付けの精密性、とりわけ溶接の精密性は、このように最適化され、もはや組立手段によって保証されるだけではない。従来技術から既知の技術において、組立手段は、スタッドへのひげぜんまいのブレードの固着の前に、ばねの曲線とスタッドの単一且つ固有の支持表面とにより独占的に定義されるひげぜんまいの理論上の接点周りのひげぜんまいのブレードの運動を最低限にするよう形成される。ブレードを、ひげぜんまいの理論上の接点周りに約4°または8°の角度範囲で振動することを可能にするこの自由度は、ブレードがスタッドに固着されると、ひげぜんまいの外側取付け具におけるブレードに、トルクが存在することを可能にする。この現象は、ひげぜんまいの非同心配置を起こしかねず、これにより計時性の問題、特に等時曲線の問題と「水平-吊り下げ差(plat-pendu)」、をもたらす。
【0066】
図14は、自由等時性でのテンプの角度の振幅Aの関数として、時計の異なる位置で平均化された、時計の一日あたりの秒数で表す平均歩度Mを示す。点線は、ひげぜんまいの端部曲線の端部が、ひげぜんまいのスタッドとの理論的な接点周りに±4°の角度で移動された、従来例の典型としてのテンプ組立品の等時曲線を示すものであり、時計の平均歩度が、スタッドに関するひげぜんまいのブレードの名目上の位置の関数として変化する包絡線を示す。
【0067】
連続線Nは、ひげぜんまいの端部曲線の端部がスタッドの第1及び第2支持表面により正確に位置決めされたひげぜんまいを有する、本発明に係るスタッドが設けられたテンプ組立品の動作を示す、最適化された等時曲線の関数を示す。実際に当該配置を用いることは、テンプを含む時計の等時曲線と「水平-吊り下げ差(plat-pendu)」を減少させる。
【0068】
本発明に係るひげ玉の一実施形態を、
図7から
図11を参照して詳細に説明する。
【0069】
図8に示すように、ひげ玉は、ひげぜんまいの内端2bにおいて、ひげぜんまい2に溶接、特にレーザー溶接されるよう設計される第1部分10’を含む。
図8から
図11に示すように、ひげ玉はまた、例えば天真5に対して押圧されるよう設計される、中央開口100’の形状を有する第2部分100’を含む。第1及び第2部分は、単一部品から製造されてもいい。代替的に、第1及び第2部分は、異なる素材から製造され互いに組み付けられてもよい。
【0070】
スタッド1と同様、部分10’は、ひげぜんまい2の内端のブレード部分の2つの支持表面10b’、10c’を定義する第1スロット10a’を有する。このため第1部分10’ は、スロット10a’により分離される第1支持表面10b’と第2支持表面10c’とを有する。各支持表面は、ひげぜんまいと接触するよう設計される。図示の実施形態において、スロットは、ひげぜんまいの高さhの方向に、好ましくはひげぜんまいの高さよりも大きな高さH10’にわたって延びる。スロット10a’は、第1及び第2支持表面10b’、10c’を互いに分離または区別可能にする。スロット10a’は有利には、スタッド1の部分10の高さH10’の方向に実質的に方向づけられる。このような配置は、ひげぜんまいのブレードを第1及び第2支持表面10b’、10c’のそれぞれに溶接するときに、熱伝導を完全に遮断可能にし、また溶接中に熱的影響を受けるひげぜんまいの2つの区域間で干渉が生じることを予防可能にする。当該配置は、溶接に必要なエネルギーの導入を可能とし、ひげぜんまいの合金の機械的特性の維持を最適化する。スロットはまた、ひげ玉の周囲のスポット溶接を正確に位置決めするための視覚マーカーとしても用いることができる。
【0071】
前述の代替として、スロットは、ひげぜんまいの高さhに垂直に方向づけられてもよい。スロットはまた、他の方向に方向づけられてもよい。
【0072】
図示しない実施形態において、第1支持表面は、その端部の一方に第1レリーフを有してもよい。当該第1レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。実際、第1表面と接触するひげぜんまいのブレードは、ひげ玉の高さの方向に、ひげ玉に関してひげぜんまいを正確に位置させるため、第1レリーフに接触するよう移動されてもよい。第1レリーフは、例えば止め部を形成するよう、第1表面10b’に例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。有利には、第1支持表面10b’は、その他方の端部に第2レリーフを有してもよい。第2レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。第2レリーフは、例えば止め部を形成するよう、第1表面10b’に例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。
【0073】
同様に、第2支持表面10c’は、その端部の一方に第3レリーフを有してもよい。第3レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。実際、第2表面と接触するひげぜんまいのブレードは、ひげ玉の高さ方向に、ひげ玉に関してひげぜんまいを正確に位置させるため、第3レリーフに接触するよう移動されてもよい。第3レリーフは、例えば止め部を形成するよう、第2表面10c’に例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。有利には、第2支持表面10c’は、その他方の端部に第4レリーフを有する。第4レリーフは、ひげぜんまいの位置決め止め部を提供する。第4レリーフは、例えば止め部を形成するよう、第2表面10c’に例えば垂直に、または実質的に垂直に、延びる。
【0074】
上述の位置決めレリーフは、スタッドに関してひげぜんまいのブレードを正確に位置決めすることを可能にし、これによりひげぜんまいがひげ玉上に溶接された後にひげぜんまいが正確に適合されることを可能にする。溶接は、支持表面10b’、10c’のそれぞれにおいて、または支持表面10b’、10c’のそれぞれの端部においてなされる、2つのスポット溶接s1’、s2’を含んでもよい。好ましくは、
図9に示すように、スポット溶接s1’、s2’に加えて、支持表面10b’、10c’のそれぞれにおいて、または支持表面10b’、10c’のそれぞれの端部において、第3及び第4スポット溶接s3’、s4’がなされる。この正確な位置決めを保証するため、支持表面の1つまたは2つがそれぞれ2つの位置決めレリーフを有する場合、当該レリーフは、ぜんまいブレードの高さhよりも大きな距離で離されている。有利には高さのクリアランスは、0.04mmより小さく、または0.03mmより小さい。上述の位置決めレリーフは、ひげぜんまいのブレードを支持及び/または案内するために、第1スロットに実質的に垂直に方向づけられた第2スロットを形成してもよい。
【0075】
有利には、第1及び第2支持表面10b’、10c’は、ひげぜんまいのブレードの湾曲に完全に適合するように設計される。このために、第1及び第2支持表面10b’、10c’は、互いに、テンプのまたはひげぜんまいの軸A1からみて角度α’を、とりわけ150°から179°の範囲の角度α’を形成してもよい。換言すれば、軸A1は第1及び第2表面をそれぞれ通過する2つの半平面により形成される鈍角の二面角内にある。第1及び第2表面は、ひげぜんまいの平面P1に垂直または実質的に垂直に配置されてもよい。第1及び第2表面は、平らな表面であってもよい。平らな表面は単一表面に対して正接、とりわけ単一の回転円柱に対して正接であってよい。ひげ玉に対するひげぜんまいの精密な位置決めは、スタッドに関するひげぜんまいの精密な位置決めにより得られる計時性の改善と同様の改善を達成するのにも役立つ。
【0076】
有利には、表面10b’、10c’は、準線が中心CAの円Aである、単一の回転円柱の部分である。ここで、中心CAはテンプの軸A1に中心をとってもとらなくても良い。
図10に示す実施形態において、ひげ玉1’を天真5に対して押圧するときにひげぜんまいが溶接された表面10b’、10c’の移動を最低限にするかまたは除去するか等のため、中心CAは軸A1上にはない。
【0077】
ひげ玉1’は、アーム1A’、1B’、1C、’1D’を含んでいてもよく、当該アームは、ひげ玉を天真へ押圧するために必要な力、及び/または天真へのひげ玉の保持トルクを最適化する等のため、変形可能または変形不可能であってもよく、また、可変の断面を有していても有していなくてもよい。好ましくは、ひげ玉と天真との間の接触は、円筒対円筒である。中央開口100’は、ひげ玉を天真へ押圧するときにひげ玉内のストレスを最低限にする等のため、天真5の円柱外周に適合するように設計される円形の孔100’であってもよい。
【0078】
好ましくは、ひげ玉は、ひげぜんまいの製造に利用される素材が弾性限度を超える前に、衝撃を受ける際にひげぜんまいの内周面が支持される相手として、少なくとも1つの周囲部分または止め部1E’、1F’、1G’を有する。これら止め部は、
図11に示すように、ひげ玉の外周周りに、等間隔または不等間隔で、角度的に分配される。好ましくは、これら止め部は、中心CE、CF、CGの円E、F、Gにそれぞれ正接の半円部分である。図示の実施形態において、円E、F、Gは、ひげぜんまいの内周の形状に最適に適合するよう、異なる直径を有する。中心CE、CF、CGは、ここでは同一であり、軸A1または天真5の中心CBと一致し、中心CAとは異なる。止め部1E’、1F’、1G’は、軸A1からそれぞれ距離RE、RF、RGに位置し、それぞれの距離はひげぜんまいがひげ玉に結合される点から
ひげぜんまいが外部に向かう方向に増加する。
【0079】
- ひげぜんまいと、
- スタッド1、及び/または
- ひげ玉1’
を含む、組立品300の製造方法の実施形態を、以下に説明する。
【0080】
製造方法は、以下のステップを含む。
- 上述のひげぜんまいの提供、
- 上述のスタッドの提供、及び/または上述のひげ玉の提供、及び
- スタッドとひげぜんまいとの固着、及び/または、ひげ玉とひげぜんまいとの固着。
【0081】
有利には、固着ステップまたは複数の固着ステップは、以下のサブステップを含む。
- スタッドのひげぜんまいに関する位置決め、及び/または、ひげ玉のひげぜんまいに関する位置決め、
- スタッドのひげぜんまいへの溶接、とりわけレーザー溶接、及び/または、ひげ玉のひげぜんまいに対する溶接、とりわけレーザー溶接。
【0082】
有利には、溶接のサブステップは、少なくとも1つのスポット溶接、特に2つのスポット溶接を、ひげぜんまいを受け入れるよう設計されるスタッドの第1及び第2表面上のそれぞれに作成すること、及び/または、少なくとも1つのスポット溶接、特に2つのスポット溶接を、ひげぜんまいを受け入れるよう設計されるひげ玉の第1及び第2表面上のそれぞれに作成すること、を含む。
【0083】
図13は、上述の製造方法に基づき行われた組立の利益を強調した比較グラフである。グラフは、X軸に異なる状態を示し、Y軸に引張り力の強度を示す。鋼鉄製のスタッドからZrを約15質量%含むNb-Zrひげぜんまいを引っ張るのに必要な基準力FAを考えると、出願人が行った研究によれば、グレード5チタン製の所定のスタッドから、所定のNb-Zrひげぜんまいを引っ張るのに必要な力FBは、基準力FAの約3倍であることを示し、ここで力FAとFBは、
ひげぜんまいの平面内において、
ひげぜんまいの中心に実質的に向かう方向に、スタッド近辺の
ひげぜんまいのブレードに直接付与されたものである。
【0084】
鋼鉄製のひげ玉からZrを約15質量%含むNb-Zrひげぜんまいを引っ張るのに必要な基準力FCを考えると、出願人が行った研究によれば、グレード5チタン製の所定のひげ玉から、所定のNb-Zrひげぜんまいを引っ張るのに必要な力FDは、基準力FCの約1.1倍であることを示し、ここで力FCとFDは、ひげぜんまいの平面内において、ひげぜんまいを受けるひげ玉の半円部分に実質的に正接の方向に、ひげ玉におけるひげぜんまいのブレードの端部に直接付与されたものである。
【0085】
本発明は、ひげぜんまいと接触するよう設計される部分がチタン製またはチタン合金製またはタンタル製またはタンタル合金製である固着部品を選択することで、常磁性合金製のひげぜんまいの溶接の強度を、とりわけ衝撃を受けた場合に、最適化することを可能にする。このような素材の組み合わせは、固相の完全な溶解性により優れた溶接を得ることを可能とし、これにより脆弱な金属間化合物の外観を保護し、また凝固割れの危険性を制限する低い凝固範囲を得ることを可能とする。
【符号の説明】
【0086】
1 スタッド
1’ ひげ玉
2 ひげぜんまい
3 ひげ持受
5 天真