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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】免震建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220909BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017211429
(22)【出願日】2017-11-01
(65)【公開番号】P2019082092
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-09-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 佑美
(72)【発明者】
【氏名】新田 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 治男
(72)【発明者】
【氏名】青野 英志
(72)【発明者】
【氏名】御所園 奈歩
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】土屋 真理子
【審判官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-295494(JP,A)
【文献】特開平11-293945(JP,A)
【文献】第60回新宿区景観まちづくり審議会[報告1]資料 西新宿6丁目計画(仮称),[online],2017年8月5日,[2020年10月19日検索],<URL:https://web.archive.org/web/20170805042620/https://www.city.shinuku.lg.jp/content/00200608.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置を介して下部構造体と、上部構造体を有し、前記上部構造体を構成する一部の出隅部、または全ての出隅部に上部柱が設けられていない免震建物であって、
前記上部構造体を形成する少なくとも1つ以上の上部柱が設けられていない出隅部は、壁または外装材で構成され、
前記上部構造体は、建物外周面に設けられる前記上部柱と、前記上部柱から建物内部側に2スパン以内にはなく、少なくとも3スパン以上離れた位置に設けられる建物内部柱と、を備え、
当該上部柱が設けられていない出隅部を挟んで近接する2本の上部柱は、前記上部構造体の最下層部に位置する上部構造体支持層において、V字形状を形成するように下方側が出隅部の方向へと拡がるように設けられた2本で1組をなす出隅部傾斜柱で支持されるとともに、
前記出隅部傾斜柱は、下端部が前記出隅部の鉛直下方の位置に設けられ、当該出隅部傾斜柱の下端部の鉛直下方で、かつ前記下部構造体の下部柱の上方に前記免震装置が設けられ、前記下部構造体に連結されており、
前記建物内部柱は、前記免震装置を挟んで前記下部構造体の上方に設けられ、
前記下部構造体の水平断面積は、前記上部構造体を構成する前記上部柱で囲まれた多角形領域の水平断面積より大きいことを特徴とする免震建物。
【請求項2】
前記上部構造体を構成する前記建物外周面には、前記出隅部傾斜柱、及び鉛直柱と前記鉛直柱に沿って当該鉛直柱の柱脚部から柱頭側にレ型形状を形成するように設けられた内方傾斜柱が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下階と地上階との間、または地上中間階に免震装置が設置された免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の建物において、地震等によって地盤から建物に入力される振動を減衰させる免震構造が用いられることがある。
例えば、特許文献1には、建物の最下部に、逆V字状の2本1組の斜め柱を設け、各斜め柱の下端部と基礎構造との間に、免震装置を備える構成が開示されている。この構成において、2本1組の斜め柱と免震装置とは、建物の出隅部と、互いに隣り合う出隅部の中間部との下側に設けられている。
また、特許文献2には、構造物において互いに隣り合う複数本の外周柱の下端部を、1つの免震装置に集約させて支持する構成が開示されている。
また、特許文献3には、複数階を有するラーメン構造体を、外方に向けて末広がりに傾斜した一対の傾斜柱で支持する構成が開示されている。
【0003】
特許文献1~3に開示された建物は、出隅部に設けられた柱を免震装置や傾斜柱で支持するものである。したがって、出隅部に柱が設けられていない建物において、如何にして、様々な水平方向からの地震力を負担し、地震時に建物基部に作用する転倒モーメントに対して、高い抵抗力を有する免震建物を実現するのか、建物の構成や示唆等は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-60334号公報
【文献】特開2016-216900号公報
【文献】特開平11-36651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、地震時に建物基部に作用する転倒モーメントに対して、高い抵抗力を備えた免震建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、地下階と地上階との間、または地上中間階に免震装置が設けられた免震建物として、免震装置により支持される上部構造体が、壁または外装材で構成される出隅部を備える場合に、当該出隅部に近接する上部柱を、下方側が外方へと拡がるように設けられた出隅部傾斜柱で支持させ、その出隅部傾斜柱の下部に免震装置を設置することで、上部構造体の常時荷重、または地震荷重が傾斜柱で集められて、免震装置に高い圧縮軸力が加えられるために、地震時に免震装置に作用する上向きの引き抜き力に対して、高い抵抗力(引き抜き抵抗)を確保することができる点に着眼し、本発明に至った。特に、上部構造体を下方側に拡がる出隅部傾斜柱で支持させることで、下部構造体の水平断面積を上部構造体の柱を頂点とした多角形領域の面積より大きくすることができるために、高い構造安全性を備えた免震建物が実現できる。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の免震建物は、免震装置を介して下部構造体と、上部構造体を有し、前記上部構造体を構成する一部の出隅部、または全ての出隅部に上部柱が設けられていない免震建物であって、前記上部構造体を形成する少なくとも1つ以上の上部柱が設けられていない出隅部は、壁または外装材で構成され、前記上部構造体は、建物外周面に設けられる前記上部柱と、前記上部柱から建物内部側に2スパン以内にはなく、少なくとも3スパン以上離れた位置に設けられる建物内部柱と、を備え、当該上部柱が設けられていない出隅部を挟んで近接する2本の上部柱は、前記上部構造体の最下層部に位置する上部構造体支持層において、V字形状を形成するように下方側が出隅部の方向へと拡がるように設けられた2本で1組をなす出隅部傾斜柱で支持されるとともに、前記出隅部傾斜柱は、下端部が前記出隅部の鉛直下方の位置に設けられ、当該出隅部傾斜柱の下端部の鉛直下方で、かつ前記下部構造体の下部柱の上方に前記免震装置が設けられ、前記下部構造体に連結されており、前記建物内部柱は、前記免震装置を挟んで前記下部構造体の上方に設けられており、前記建物内部柱は、前記免震装置を挟んで前記下部構造体の上方に設けられ、前記下部構造体の水平断面積は、前記上部構造体を構成する前記上部柱で囲まれた多角形領域の水平断面積より大きいことを特徴とする。
このような構成によれば、地震荷重が複雑に加わる上部構造体の出隅部には上部柱を設けずに、出隅部と近接する上部柱の下端部が下方に向かって外方に拡がる出隅部傾斜柱で支持される。これにより、上部構造体の脚部が拡がるので、出隅部に上部柱のない建物においても、地震時に作用する建物基部の転倒モーメントに対して、抵抗力が高められる。
また、上部構造体の少なくとも1つの出隅部は柱を備えておらず壁または外装材で構成されており、なおかつ、上部構造体の最下層部分には外側へと拡がるように出隅部傾斜柱が設けられている。よって、上部構造体の常時荷重や地震荷重が出隅部傾斜柱により集められることにより、建物の隅部(例えば、4隅)に配置された免震装置に加わる圧縮軸力が高められるために、免震装置の引き抜き抵抗力が増大され、構造安全性の高い免震建物を実現できる。また、建物の各層における、隣接する柱間を結ぶ直線により形成された多角形領域の水平断面積は、上部構造体の最下層部分が出隅部傾斜柱の上方側の上部構造体の建物層部分よりも大きく、水平剛性や保有耐力が増大される。よって、上部構造体の最下層部分が上層部分より水平剛性や保有耐力が大きいために、構造安全性に優れた免震建物を実現できる。また、上部構造体の最下層、または上部柱の最下層とは、上部構造体の最下部において複数階に亘って出隅部傾斜柱が配置された上部構造体支持層に相当する。
【0007】
本発明の一態様においては、本発明の免震建物は、前記出隅部傾斜柱は2本で1組をなす柱材からなる複合柱であり、当該出隅部傾斜柱の柱脚部では、2本をなす各柱材が1本に集約されており、当該出隅部傾斜柱の柱頭部は、前記上部構造体の前記出隅部を挟んでV字形状を形成するように延伸している構成をさらに備える。
このような構成によれば、上部構造体において、出隅部と近接する上部柱の下端部を、2本で1組をなす柱材のそれぞれで支持することができる。また、2本で1組をなす柱材は、出隅部傾斜柱の柱脚部で1本に集約されているので、出隅部傾斜柱を構成する2本で1組をなす柱材を1つの免震装置で支持することができる。これにより、上部構造体において出隅部と近接する上部柱の最下層脚部に大きな屈曲部を設けることなく、上部柱を、出隅部傾斜柱を介して免震装置と連結できる。
また、上部構造体の出隅部と近接する其々の上部柱が、柱脚側が外方に拡がる2本で1組をなしてV字形状をなす出隅部傾斜柱と連結されることで、バランスよく建物脚部が拡がる安定性に優れた免震建物が実現できる。
【0008】
本発明の一態様では、本発明の免震建物は、前記上部構造体を構成する外周部には、前記出隅部傾斜柱、及び鉛直柱と前記鉛直柱に沿って当該鉛直柱の柱脚部から柱頭側にレ型形状を形成するように設けられた内方傾斜柱が設けられている構成をさらに備える。
このような構成によれば、上部構造体の外周部において、上部構造体の出隅部に近接する上部柱以外の上部柱、つまり、上部構造体を構成する上部梁の中間部から立設されている複数の上部柱を、鉛直柱と内方傾斜柱とで支持することができる。これにより、上部構造体の外周部において、上部梁の中間部から立設されて互いに隣り合う上部柱のうち、一方の上部柱を鉛直柱で支持し、他方の上部柱を内方傾斜柱で支持する。すると、鉛直柱と内方傾斜柱とは、柱脚部において1本に集約され、1つの免震装置で支持することができる。したがって、上部構造体において、出隅部と近接する上部柱以外の上部柱においても、全ての上部柱の直下に免震装置を設置する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上部構造体の少なくとも出隅部の一部、または全ての出隅部に出隅部傾斜柱を配置することで、上部構造体の最下層部分における建物水平断面積が他の上層部分より拡大されるために、地震時に建物基部に作用する転倒モーメントに対して、高い抵抗力が確保できる。また、免震装置の引き抜き抵抗力を増大されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態における免震建物の全体構成を示す正面図である。
図2】上記免震建物の上部構造体の上層階部分の構成を示す図であり、図1のI-I矢視断面図である。
図3】上記免震建物の最下層部を形成する上部構造体支持層を示す正面図である。
図4】上記上部構造体支持層の一部の構成を示す斜視図である。
図5】上記上部構造体支持層に設けられた鉛直柱と内方傾斜柱との柱脚部を示す正面図である。
図6】上記免震建物の上部構造体支持層の構成を示す図であり、図1のII-II矢視断面図である。
図7】上記免震建物に設けた免震装置の配置を示す図であり、図1のIII-III矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、地下階と地上階との間、または地上中間階に免震装置が設置される免震建物であって、免震装置により支持される上部構造体が、壁または外装材で構成される出隅部を備える場合に、当該出隅部に近接する上部柱を、下方側が外方へと拡がるように設けられた出隅部傾斜柱で支持させ、その出隅部傾斜柱の下部に免震装置を設置することで、免震装置の引き抜き抵抗力を増大させるとともに、地震時に作用する建物基部の転倒モーメントに対して、抵抗力が高められる免震建物である。
本発明の実施形態では、免震装置が支える上部構造体の最下部に出隅部傾斜柱を設けることで、上部構造体支持層が下方側に向って拡大しており、その上部構造体支持層に免震装置が配置されることを特徴とする(図1図3図4)。また、免震建物では、免震装置が下部構造体の全ての下部柱上に設置されていない点を特徴とする(図6図7)。
以下、添付図面を参照して、本発明による免震建物を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態における免震建物の全体構成を示す正面図を図1に示す。免震建物の上部構造体の構成を示す図であり、図1のI-I矢視断面図を図2に示す。
図1に示されるように、免震建物1は、下部構造体10と、上部構造体20と、を備えている。
下部構造体10は、地盤G中に構築された基礎杭(図示無し)上に支持されている。下部構造体10は、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造からなる複数本の下部柱11と、互いに隣接する下部柱11どうしの間に架設された下部梁12と、を備えている。
【0013】
上部構造体20は、上下方向に複数階を有している。
図1図2に示されるように、上部構造体20は、建物外周部に、強固な外周架構21を有している。外周架構21は、鉛直方向の上下に延びる上部柱22と、建物外周部において互いに隣り合う上部柱22間に架設された上部梁23と、を備えている。この外周架構21は、上部構造体20の建物外周部に沿って設けられ、平面視矩形で上下方向に連続する筒状をなしている。
外周架構21において、各上部柱22は、例えば鉄筋コンクリート(RC)造で、水平断面形状が、上部構造体20の建物外周面に沿った方向を長辺22aとし、建物外周面に直交する方向を短辺22bとした、扁平矩形状の壁柱となっている。
上部柱22は、上部構造体20の建物外周面の各側面25において、それぞれ水平方向に間隔をあけて複数本が配置されている。上部構造体20の出隅部Cには、上部柱22は、配置されていない。出隅部Cに最も近い上部柱22Cは、出隅部Cを挟んで互いに隣り合う2つの側面25のそれぞれにおいて、出隅部Cから側面25の幅方向中央部25cに向かって所定寸法離間した位置に配置されている。これにより、上部柱22が設けられていない出隅部Cは、建物外周面の側面25を形成する壁または外装材24により構成されている。
具体的には、上部構造体20では、図2に示すように出隅部Cを除く建物外周面に複数の壁柱22が並設されているとともに、建物内部柱は建物外周面の壁柱から少なくとも3スパン以上離れた建物内部の位置に配置されている。
【0014】
免震建物の最下層部を形成する上部構造体支持層を示す正面図を図3に示す。上部構造体支持層の一部の構成を示す斜視図を図4に示す。上部構造体支持層に設けられた鉛直柱と内方傾斜柱との柱脚部を示す正面図を図5に示す。免震建物の上部構造体支持層の構成を示す図であり、図1のII-II矢視断面図を図6に示す。
図3図4に示されるように、上部構造体20の下部に位置する上部梁23Bの下側には、上部構造体20の最下層部を形成する上部構造体支持層30が設けられている。上部構造体支持層30は、上下方向に複数階に跨がって形成されている。この上部構造体支持層30には、出隅部傾斜柱31と、鉛直柱35と、内方傾斜柱36とが設けられている。これらの出隅部傾斜柱31、鉛直柱35、内方傾斜柱36は、例えばSRC造とされる。
出隅部傾斜柱31は、2本で1組をなす柱材32からなる複合柱である。出隅部傾斜柱31の柱頭部において、2本で1組をなす各柱材32の上端部32tは、出隅部Cを挟んで両側に位置する2本の上部柱22Cの下端部に接合されている。出隅部傾斜柱31の柱脚部31bでは、2本で1組をなす各柱材32の下端部32bが1本に集約されている。このようにして、2本で1組をなす柱材32は、下方から上方に向かってV字形状に広がるよう設けられており、出隅部傾斜柱31は、上部構造体20の出隅部Cを挟んでV字形状を形成するように延伸している。
2本の柱材32が1本に集約される出隅部傾斜柱31の柱脚部31bは、上部構造体20の出隅部Cに位置している。出隅部傾斜柱31は、出隅部Cに近接する上部柱22Cを支持し、下方側が外方へと拡がるように設けられている。
【0015】
鉛直柱35および内方傾斜柱36は、上部構造体20の各側面25において、出隅部Cに近接する上部柱22C以外の上部柱22を支持する。この、出隅部Cに近接する上部柱22C以外の上部柱22は、上部構造体20を構成する上部梁23Bの中間部23cから立設されている。
鉛直柱35は、各側面25に設けられた複数本の上部柱22のうち、一部の上部柱22A1の下端部に接合されて、鉛直方向に延びるよう設けられている。
また、内方傾斜柱36は、各側面25に設けられた複数本の上部柱22のうち、鉛直柱35に支持された上部柱22A1に隣り合う他の上部柱22A2の下端部に接合されている。図3図6に示されるように、内方傾斜柱36は、上端部から下端部に向かって、側面25において隣り合う鉛直柱35に漸次接近するよう傾斜しており、その下端部は、鉛直柱35の下端部に接合されている。これにより、上部構造体20の外周部の側面25において、鉛直柱35と内方傾斜柱36は、柱脚部から柱頭側にレ型形状を形成している。このようにして、1本の上部柱22A1を支持する鉛直柱35と、鉛直柱35に支持された上部柱22A1に隣り合う他の上部柱22A2を支持する内方傾斜柱36とは、柱脚部において1本に集約されている。
このように、上部構造体20の出隅部Cと近接する上部柱22C以外の上部柱22、つまり、上部構造体20を構成する上部梁23Bの中間部23cから立設されている複数の上部柱22A1、22A2は、鉛直柱35と内方傾斜柱36とで支持されている。
【0016】
また、上部構造体支持層30の最下部には、水平方向で互いに隣り合う出隅部傾斜柱31の下端部と、鉛直柱35および内方傾斜柱36の下端部との間に架設された最下部梁33が設けられている。
具体的には、上部構造体支持層30では、図3図5に示すように上部構造体20を構成する建物外周面に並設された複数の壁柱22と、出隅部傾斜柱31、鉛直柱35、及び内方傾斜柱36が連結される。よって、上部構造体20の壁柱22は、上部構造体支持層30を形成する出隅部傾斜柱31、鉛直柱35、及び内方傾斜柱36によって集約され、削減された後、次に説明する免震装置に連絡されている。よって、上部構造体支持層30に設けられる免震装置は、上部構造体20の上部柱22の本数より少ない数となっている。
【0017】
免震建物に設けた免震装置の配置を示す図であり、図1のIII-III矢視断面図を図7に示す。
図3図5図7に示されるように、各出隅部傾斜柱31の下端部と、その鉛直下方に位置する下部柱11との間には、免震装置50が設けられている。また、上記の鉛直柱35および内方傾斜柱36の下端部と、その鉛直下方に位置する下部柱11との間には、免震装置50が設けられている。また、本実施例においては、免震装置50は、図1図3、及び図6、7に示すように、上部構造体20を構成する上部柱22を出隅部傾斜柱31、鉛直柱35、及び内方傾斜柱36による上部複合柱として集約することで、免震装置50と連結する上部柱22の柱本数を削減して免震装置50の数を削減するとともに、個々の免震装置50の荷重負担能力等を高めることで下部構造体10を構成する全ての下部柱11上に免震装置50は設置されていない。このような構成により、上部構造体20を少ない免震装置50の数で支えることで、免震層(免震装置50が設置されている階)に設ける設備配管用スペース、または免震装置50の交換、点検のための作業空間などを比較的容易に確保することが可能となった。
また、上部構造体20の最下層階に相当する上部構造体支持層30を鉛直柱35と、出隅部傾斜柱31、及び内方傾斜柱36で支持させることで、上部構造体支持層30に大開口部を確保できるために、例えば、建物入口や店舗などの建物計画上の自由度を高めることができる。
各免震装置50は、板状の下部取付フランジ51と、下部取付フランジ51の鉛直上方に間隔をあけて配置された板状の上部取付フランジ52と、これら下部取付フランジ51と上部取付フランジ52との間に設けられた積層ゴム部53と、を有している。積層ゴム部53は、金属板と板状のゴム部とを上下方向に交互に積層して形成されている。
各免震装置50の上端面に設けられた上部取付フランジ52は、出隅部傾斜柱31の下端部、鉛直柱35および内方傾斜柱36の下端部にボルト接合される。
また、各免震装置50の下端面に設けられた下部取付フランジ51は、下部構造体10の下部柱11の上端に、ボルト接合される。
【0018】
上述したような免震建物1によれば、免震装置50を介して、下部構造体10と上部構造体20とを有する免震建物1であって、上部構造体20を形成する少なくとも1つの出隅部Cは、壁または外装材24で構成され、出隅部Cに近接する上部柱22Cは、下方側が外方へと拡がるように設けられた出隅部傾斜柱31で支持されるとともに下部構造体10に連結されている。
このような構成によれば、地震荷重が複雑に加わる上部構造体20の出隅部Cには上部柱22を設けずに、出隅部Cと近接する上部柱22Cの下端部が、下方に向かって外方拡がりの出隅部傾斜柱31で支持される。これにより、上部構造体20の外周架構21の脚部が拡がるので、出隅部Cに上部柱22のない免震建物1においても、地震時に作用する建物基部の転倒モーメントに対して、抵抗力が高められる。
また、上部構造体20の少なくとも1つの出隅部Cは柱を備えておらず壁または外装材24で構成されており、なおかつ、上部構造体20の最下層部分には外側へと拡がるように出隅部傾斜柱31が設けられている。したがって、建物1の各層における、隣接する柱間を結ぶ直線により形成された多角形領域の水平断面積は、上部構造体20の最下層部分が出隅部傾斜柱31の上方側の上部構造体20の建物層部分よりも大きく、水平剛性や保有耐力が増大される。よって、上部構造体20の最下層部分が上層部分より水平剛性や保有耐力が大きいために、構造安全性に優れた免震建物1を実現できる。
したがって、地震時に作用する建物基部の転倒モーメントに対して、抵抗力が高く安定した免震建物1を提供することが可能となる。
【0019】
また、出隅部傾斜柱31は、2本で1組をなす柱材32からなる複合柱であり、出隅部傾斜柱31の柱脚部31bでは、2本をなす各柱材32が1本に集約されており、出隅部傾斜柱31は、上部構造体20の出隅部Cを挟んでV字形状を形成するように延伸している。
このような構成によれば、2本で1組をなす柱材32が、出隅部傾斜柱31の柱頭部で、上部構造体20の出隅部Cを挟んでV字形状を形成するように、上方に向かって広がっている。これにより、上部構造体20において、出隅部Cと近接する上部柱22Cの下端部を、2本で1組をなす柱材32のそれぞれで支持することができる。また、2本で1組をなす柱材32は、出隅部傾斜柱31の柱脚部で1本に集約されているので、2本で1組をなす柱材32を1つの免震装置50で支持することができる。これにより、上部構造体20を構成する上部柱22の最下層脚部に大きな屈曲部を設けることなく、上部構造体20を構成する上部柱22を、出隅部傾斜柱31を介して免震装置50と連結できる。また、全ての上部柱22の直下に免震装置50を設置する必要もなくなる。
また、上部構造体20の出隅部Cと近接する上部柱22Cが、柱脚部31b側が外方に拡がる出隅部傾斜柱31と連結されることで、バランスよく建物脚部が拡がり、安定性に優れた免震建物1が実現できる。
【0020】
免震建物1は、上部構造体20を構成する外周部には、出隅部傾斜柱31と、鉛直柱35と、この鉛直柱35に沿って鉛直柱35の柱脚部から柱頭側にレ型形状またはV型形状を形成するように設けられた内方傾斜柱36が設けられている。
このような構成によれば、上部構造体20の外周部において、上部構造体20の出隅部Cと近接する上部柱22C以外の上部柱22、つまり、上部構造体20を構成する上部梁23Bの中間部23cから立設されている複数の上部柱22A1、22A2を、鉛直柱35と内方傾斜柱36とで支持することができる。これにより、上部構造体20の外周部において、上部梁23Bの中間部23cから立設され、互いに隣り合う上部柱22のうち、一方の上部柱22A1を鉛直柱35で支持し、他の上部柱22A2を内方傾斜柱36で支持する。すると、鉛直柱35と内方傾斜柱36は柱脚部において1本に集約されているので、1つの免震装置50で支持することができる。したがって、上部構造体20において、出隅部Cと近接する上部柱22C以外の上部柱22においても、全ての上部柱22の直下に免震装置50を設置する必要がなくなる。
【0021】
また、本実施形態によれば、免震層上部の上部構造体20の水平剛性は、主に建物外周面に配置される壁柱22と梁による外周柱梁架構が負担可能である。また、建物内部は、建物外周面の壁柱22同士の間より外周柱22と内部柱との間に架設される梁部材長は長く、広い居室空間を実現できる。さらに、下部構造体10と上部構造体20との間に免震装置50を配置することで、上部構造体20を建物外周面に設ける壁柱22と、少ない内部柱で支持することを可能とした。
【0022】
(その他の変形例)
なお、上記実施形態において、上部構造体20、下部構造体10の構成について説明したが、少なくとも出隅部Cと近接する上部柱22Cを出隅部傾斜柱31で支持するのであれば、他の構成については適宜変更することが可能である。
例えば、免震建物1の全ての出隅部Cが、下方側が外方へと拡がるように設けられた出隅部傾斜柱31を備えてもよいし、一部の出隅部Cのみが備えてもよい。
また、内方傾斜柱36は、1本の鉛直柱35を挟んだ両側の柱が中央の鉛直柱35の柱脚部分で1本に集約されてもよい。この場合には、両側の内方傾斜柱36がV字状に形成されることとなる。
また、上記実施形態では、地下階と地上階との間に免震装置50が設置される免震建物1であったが、地上中間階に免震装置を設置し、免震装置の上方側の建物の柱本数を少なくして、免震装置の数を削減した免震建物であってもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0023】
(関連技術)
次に、本発明の関連技術について説明する。
上記実施形態と同様な、免震装置を介して下部構造体と、上部構造体を有する免震建物に関して、次のような特徴を備えた免震建物が考えられる。
すなわち、当該免震建物においては、上部構造体の建物外周面に並設される上部柱は、上部構造体が免震装置と連結される上部構造体支持層において、少なくとも一部が下方側が外方へと拡がるように設けられた出隅部傾斜柱、または鉛直柱に沿って当該鉛直柱の柱脚部から柱頭側に傾斜する内方傾斜柱と連結されるとともに、出隅部傾斜柱、または内方傾斜柱が免震装置に接合されていることを特徴とする。
このような構成によれば、上部構造体を構成する上部柱は、免震装置と連結される上部構造体支持層において、複数の上部柱が柱脚部分にて出隅部傾斜柱、または内方傾斜柱に集約されることで、上部柱の柱本数が低減されるために、下部構造体と上部構造体の間に設置する免震装置の数を削減できる。よって、建設費用が縮減された免震建物を実現することが可能である。
また、建物外周面に並設される上部柱の一部は、出隅部傾斜柱、または内方傾斜柱で支持されることで、其々の傾斜柱に作用する長期軸力が高められるために、地震発生時に各傾斜柱下に設ける免震装置に作用する上向きの引き抜き力に対して、高い抵抗力を確保することができる。
また、上部構造体支持層では、上部構造体を構成する上部柱の一部は柱脚部分において集約される出隅部傾斜柱、又は内方傾斜柱で形成されているために、上部構造体の下層階では、上層階に比べて広い開口面積が確保可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 免震建物 31b 柱脚部
10 下部構造体 32 柱材
20 上部構造体 33 最下部梁
22 上部柱 35 鉛直柱
22C 出隅部に近接する上部柱 36 内方傾斜柱
24 壁または外装材 50 免震装置
30 上部構造体支持層 C 出隅部
31 出隅部傾斜柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7