(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】二次電池の正極活物質コーティング用溶媒、それを含む正極活物質スラリー、およびそれから製造された二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220909BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20220909BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220909BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220909BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220909BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220909BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220909BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20220909BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/131
H01M4/139
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2018038536
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】10-2017-0027406
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0021771
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518075185
【氏名又は名称】イーエヌエフ テクノロジー シーオー., エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】ENF TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジン ベ
(72)【発明者】
【氏名】シン ヒョ ソプ
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-048892(JP,A)
【文献】特開2008-060060(JP,A)
【文献】国際公開第2009/147989(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/02
H01M 4/131
H01M 4/13
H01M 10/052
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、バインダー、およびN‐エチルホルムアミドを含
み、23℃でブルックフィールド回転型粘度計を用いて20rpmで測定した粘度が5,000~30,000g/cm・sである正極活物質スラリー。
【請求項2】
前記正極活物質が下記化学式1で表される、請求項
1に記載の正極活物質スラリー。
[化学式1]
Li
1+x[Ni
aCo
bMn
c]O
2
(前記化学式1中、-0.5≦x≦0.6、0≦a、b、c≦1、x+a+b+c=1である。)
【請求項3】
前記バインダーは、フッ素系バインダーおよびゴム系バインダーから選択される、請求項
1又は2に記載の正極活物質スラリー。
【請求項4】
正極活物質スラリーの総重量を基準として、固形分含量が30~80重量%である、請求項
1乃至
3の何れか一項に記載の正極活物質スラリー。
【請求項5】
正極活物質スラリーの総固形分含量を基準として、前記正極活物質の含量が55~99重量%である、請求項
1乃至
4の何れか一項に記載の正極活物質スラリー。
【請求項6】
導電材をさらに含む、請求項
1乃至
5の何れか一項に記載の正極活物質スラリー。
【請求項7】
前記導電材が炭素系物質である、請求項
6に記載の正極活物質スラリー。
【請求項8】
請求項
1乃至
7の何れか一項に記載の正極活物質スラリーから形成された正極活物質層を含む正極。
【請求項9】
請求項
8に記載の正極と、負極と、前記正極と前記負極との間のセパレータと、を含む二次電池であって、
前記正極は、正極集電体の一面に正極活物質層が10~100μmの厚さで形成されたものである、
初期放電容量が200mAh/g以上であり、50サイクルでの容量維持率が90%以上である、二次電池。
【請求項10】
下記式1で表されるC‐rate効率が90%以上である、請求項
9に記載の二次電池。
[式1]
C‐rate(%)=[(2C放電容量)/(0.1C放電容量)]×100
【請求項11】
正極活物質、バインダーおよびN-エチルホルムアミドを含み、23℃でブルックフィールド回転型粘度計を用いて20rpmで測定した粘度が5,000~30,000g/cm・sである正極活物質スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥する工程を含む二次電池正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極活物質コーティング用溶媒、それを含む正極活物質スラリー、およびそれから製造された二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業、移動通信を含む各種情報通信などのコミュニケーション産業の急速な発展とともに、電子機器の軽薄短小化の要求に応えるべく、ノート型パソコン、ネットブック、タブレットPC、携帯電話、スマートフォン、PDA、デジタルカメラ、カムコーダなどのような携帯用電子製品および通信端末機器が広く普及されている。これに伴い、これらの機器の駆動電源である電池の開発に関する関心も高まっている。
【0003】
また、水素電気自動車やハイブリッド自動車、燃料電池自動車などの電気自動車の開発に伴い、高性能、大容量、高密度、高出力、および高安定性を有する電池の開発に大きい関心が集中されており、速い充放電速度特性を有する電池の開発も大きいイッシュとなっている。
【0004】
このような傾向に伴い、現在、高いエネルギー密度および電圧を有し、長いサイクル寿命および低い自己放電率を有するリチウム二次電池が商用化されて広く用いられており、上述の効果を極大化するために、リチウム二次電池に関する研究が活発に行われている。
【0005】
二次電池は、正極(positive electrode)、負極(negative electrode)、セパレータ(separator)、および電解質(electrolyte)を基本的構成要素とする。前記正極および負極は、酸化・還元などのエネルギーの変換と貯蔵が起こる電極であって、それぞれ正と負の電位を有する。前記セパレータは、正極と負極との間に位置し、電気的な絶縁を保持し、且つ電荷の移動通路を提供する。また、前記電解質は電荷伝達の媒介体の役割を果たす。
【0006】
二次電池の一例であるリチウム二次電池において、電池の性能(例えば、容量など)は、用いられる正極活物質に最も大きく影響される。かかるリチウム二次電池の性能を向上させるためには、正極活物質が適切に高い数値でローディング可能でありながらも、集電体上に均一且つ安定した厚さの層として形成されなければならない。このような課題を解決するためには、前記正極活物質スラリーの固形分含量、粘度などを調節することが容易ではなければならない。
【0007】
この際、前記リチウム二次電池の正極は、正極活物質を含む正極活物質スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥することで製造することができる。前記正極活物質スラリーは、正極活物質にバインダーおよび有機溶媒を添加して混合した、流動性を有する混合物であることができる。
【0008】
通常の正極活物質は、粒子サイズが小さく、炭素コーティングされた比表面積が広いため、それを含む正極活物質スラリー中に低い固形分濃度(固形分45%水準)を有するように多量の有機溶媒(例えば、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)など)を添加して粘度を適切に調節することで、上記の課題を解決している。しかし、多量の有機溶媒を用いる場合、乾燥後にも未乾燥の部分が生じ得るため、高い含量のローディング(high‐loading)が不可能であり、乾燥速度などの工程速度が増加することとなって生産性が低下するという問題を誘発する。また、低い固形分濃度を有する正極活物質スラリーは、分散安定性の低下により、正極活物質層の形成時に層の厚さおよびローディングのばらつきを引き起こす恐れがあるという問題がある。特に、前記有機溶媒の有害性によって、環境にやさしくないという問題がある。
【0009】
上記のような背景下で、本発明者らは上述の問題を改善するために鋭意研究した結果、N‐エチルホルムアミド(N‐ethylformamide)を含むコーティング溶媒を用いることで、正極活物質を含むスラリーの分散性を著しく向上させることができるだけでなく、均一な厚さで正極活物質層を安定して形成することで、向上した容量特性および寿命特性を有する正極、およびそれを含む二次電池を提供することができることを確認し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】KR10‐0436708B1
【文献】KR10‐1764470B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高い固形分の濃度にもかかわらず、低い粘度を有するとともに、正極活物質に対して優れた分散安定性を示す二次電池の正極活物質コーティング用溶媒、およびそれを含む正極活物質スラリーを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、前記正極活物質スラリーから形成された正極活物質層を含む正極、およびそれを含む二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、N‐エチルホルムアミドを含む二次電池の正極活物質コーティング用溶媒を提供する。
【0014】
また、本発明は、正極活物質、バインダー、およびN‐エチルホルムアミドを含む正極活物質スラリーを提供する。
【0015】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーにおいて、前記正極活物質は下記化学式1で表されるものであってもよい。
【0016】
[化学式1]
Li1+x[NiaCobMnc]O2
(前記化学式1中、-0.5≦x≦0.6、0≦a、b、c≦1、x+a+b+c=1である。)
【0017】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーにおいて、前記バインダーは、フッ素系バインダーおよびゴム系バインダーから選択されるものであってもよい。
【0018】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、正極活物質スラリーの総重量を基準として、固形分含量が30~80重量%であってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、正極活物質スラリーの総固形分含量を基準として、前記正極活物質の含量が55~99重量%であってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、導電材をさらに含んでもよい。
【0021】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーにおいて、前記導電材は炭素系物質から選択されてもよい。
【0022】
また、本発明は、前記正極活物質スラリーから形成された正極活物質層を含む正極を提供する。
【0023】
また、本発明は、前記正極と、負極と、前記正極と前記負極との間のセパレータと、を含む二次電池であって、前記正極は、正極集電体の一面に正極活物質層が10~100μmの厚さで形成されたものである、二次電池を提供する。
【0024】
本発明の一実施形態による二次電池は、初期放電容量が200mAh/g以上であり、50サイクルでの容量維持率が90%以上であってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態による二次電池は、下記式1で表されるC‐rate効率が90%以上であってもよい。
【0026】
[式1]
C‐rate(%)=[(2C放電容量)/(0.1C放電容量)]×100
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、高い固形分の濃度でも低い粘度特性を有し、正極活物質に対する高いローディング含量を容易に実現することができ、正極活物質との混和時に優れた分散性を示すため、長期間の使用または保管中にも非常に安定した相を維持することができる。
【0028】
また、本発明によると、従来のように環境有害性の高い有機溶媒(例えば、NMPなど)を用いないため、正極活物質およびそれを含む正極を環境にやさしく提供することができる。
【0029】
また、本発明によると、向上した容量特性および寿命特性を有する二次電池を提供することができる。特に、本発明によると、高い初期放電容量だけでなく、50サイクル後にも高い放電容量を示し、著しく改善された容量維持率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを果たす方法は、添付図面とともに詳細に後述される実施形態を参照すると明確になるであろう。しかし、本発明は以下で開示される実施形態に限定されず、相異なる多様な形態で具現されることができる。但し、本実施形態は、本発明の開示が完全になるようにするとともに、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に伝達するために提供されるものであって、本発明は請求範囲によってのみ定義される。以下、本発明による二次電池の正極活物質コーティング用溶媒、それを含む正極活物質スラリー、およびそれから製造された二次電池について詳細に説明する。
【0031】
本発明は、N‐エチルホルムアミドを含む二次電池の正極活物質コーティング用溶媒を提供する。本発明によるコーティング用溶媒は、正極活物質との混和時に向上した分散性を示すことを特徴とする。正確な理由は明らかではないが、本発明によるN‐エチルホルムアミドと正極活物質との相互作用によることであると予想される。前記相互作用は、水素結合、疎水性相互作用を始めとする共有、および非共有相互作用に起因する物理的な絡み合いの特性などが一時的または長期的に影響を与えることであると判断される。
【0032】
このような現象は、N‐エチルホルムアミドを含むことによる驚くべき相乗効果であり、前記N‐エチルホルムアミドと類似の構造的特徴を有するホルムアミド系化合物(例えば、ホルムアミド、N‐メチルホルムアミドなど)では全く確認されないという点から、大きい意味を有する。
【0033】
また、本発明による二次電池の正極活物質コーティング用溶媒は、通常用いられるN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)などのような有害な有機溶媒を用いないため、より環境にやさしい方法で正極活物質層およびそれを含む電極を提供することができる。
【0034】
また、本発明は、N‐エチルホルムアミドを含む正極活物質スラリーを提供する。
【0035】
具体的に、前記正極活物質スラリーは、正極活物質、バインダー、およびN‐エチルホルムアミドなどを含んでもよい。
【0036】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、下記化学式1で表される正極活物質を含んでもよい。
【0037】
[化学式1]
Li1+x[NiaCobMnc]O2
(前記化学式1中、-0.5≦x≦0.6、0≦a、b、c≦1、x+a+b+c=1である。)
【0038】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、前記正極活物質の容量減少を効果的に抑えることができるだけでなく、残留リチウムの含量の上昇によるガスの発生などに起因する電池の膨れなどのような問題を防止することができるという点から、LiCoO2、LiNiO2、およびLiMnO2などから選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0039】
また、本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、追加の正極活物質をさらに含んでもよい。例えば、追加の正極活物質は、LiFePO4、LiFeMnPO4、LiFeMgPO4、LiFeNiPO4、LiFeAlPO4、およびLiFeCoNiMnPO4などから選択される1つまたは2つ以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーにおいて、前記バインダーは、正極活物質の表面に形成される金属酸化物コーティング層の結合を助けるか、追加される導電材などとの結合を助ける成分であって、当業界で通常用いられる物質であれば制限されないが、具体的には、フッ素系バインダーおよびゴム系バインダーなどから選択される1つまたは2つ以上であってもよい。
【0041】
例えば、前記フッ素系バインダーとしては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ビニリデンフルオリド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HEP)、クロロトリフルオロエチレン(CFTF)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。
【0042】
例えば、前記ゴム系バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、およびイソプレンゴム(IR)などが挙げられる。
【0043】
また、本発明の一実施形態による正極活物質スラリーにおいて、前記バインダーは、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸などのアクリル系バインダー;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系バインダー;およびカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース系バインダー;から選択される1つまたは2つ以上をさらに含んでもよい。
【0044】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、正極活物質スラリーの総重量を基準として、固形分含量が30~80重量%であってもよい。この際、残部はN‐エチルホルムアミドである。
【0045】
上述のように、本発明による正極活物質スラリーは、N‐エチルホルムアミドを分散媒、すなわち、正極活物質コーティング用溶媒として採用することで、高い固形分含量にもかかわらず低い粘度を実現することができるだけでなく、その分散安定性を著しく高めることができる。
【0046】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、正極活物質スラリーの総重量を基準として、固形分含量が具体的には30~70重量%であり、より具体的には40~60重量%であってもよい。
【0047】
また、本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、5,000~30,000g/cm・s(23℃でブルックフィールド回転型粘度計を用いて20rpmで測定)の粘度を有してもよく、具体的には8,000~30,000g/cm・s、より具体的には10,000~25,000g/cm・sの粘度を有してもよい。上述の粘度の範囲は、通常のNMPなどを溶媒として用いる場合に比べて30~60%水準の低い粘度に相当する。
【0048】
例えば、45重量%の固形分含量を有する正極活物質スラリー(正極活物質:バインダー=98:2(wt:wt))は、11,000~20,000g/cm・sの粘度を有することができる。この際、前記正極活物質スラリーの粘度変化率(1日高温保管後の粘度/初期粘度×100、高温保管の条件は45℃である)は1~5%の範囲を有する。
【0049】
例えば、50重量%の固形分含量を有する正極活物質スラリー(正極活物質:バインダー=98:2(wt:wt))は、15,000~23,000g/cm・sの粘度を有することができる。この際、前記正極活物質スラリーの粘度変化率(1日高温保管後の粘度/初期粘度×100)は1~5%の範囲を有する。
【0050】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーにおいて、前記正極活物質スラリーの総固形分含量を基準として、前記正極活物質は55~99重量%で含まれてもよく、具体的には60~99重量%、より具体的には65~99重量%で含まれてもよい。この際、残部はバインダーである。
【0051】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは、上述のような高い固形分含量でも安定した分散相を形成することができるため、比較的低い粘度にもかかわらず、物性変化(例えば、粘度)の恐れがない。このように、安定した分散相を形成する前記正極活物質スラリーは、長期使用または保管中にも非常に安定した相を維持することができ、工程上利点を提供することができる。
【0052】
本発明の一実施形態による正極活物質スラリーは導電材をさらに含んでもよい。前記導電材は、具体的に炭素系物質であって、正極活物質層の表面粗さを実現し、導電性を提供するものである。前記導電材としては、該電池に化学的変化を誘発することなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;および炭素繊維;などが挙げられる。
【0053】
また、前記導電材は、上述の炭素系物質に追加の導電性物質をさらに含んでもよい。例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、亜鉛、チタンなどの金属系物質;前記金属の繊維系物質;ポリアニリン(polyaniline)、ポリアセチレン(poly acetylene)、ポリピロール(polypyrrole)、ポリチオフェノン(polythiophenone)などの導電性ポリマー;などが挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
この際、前記導電材の使容量は制限されないが、正極活物質スラリーの総固形分含量を基準として0.01~10重量%で含まれてもよい。この際、向上した容量特性を実現するという点から、具体的には0.1~8重量%、より具体的には0.5~5重量%で含まれてもよいが、これに限定されない。
【0055】
本発明は、上述の正極活物質スラリーから形成された正極活物質層を含む正極を提供する。
【0056】
本発明の一実施形態による正極は、前記正極活物質スラリーから均一な組成で形成された正極活物質層を含む。また、前記正極活物質層は高密度で形成されることができる。すなわち、本発明による正極活物質層を含む正極を採用した二次電池は、向上したイオン伝導度によって電解液中におけるリチウムイオンの移動性を著しく向上させることができる。これにより、追加の導電材の量を減らしながらも、向上した電池特性を実現することができる。
【0057】
本発明の一実施形態による正極は、下記方法により製造されることができる。
【0058】
具体的に、N‐エチルホルムアミドにバインダーおよび正極活物質を投入して正極活物質スラリーを製造するステップと、前記正極活物質スラリーを正極集電体に塗布して乾燥するステップと、を含んでもよい。
【0059】
前記正極集電体としては、該二次電池に化学的変化を誘発することなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタンまたは銀などで表面処理を施したものが使用可能である。この際、前記正極集電体は、3~500μmの厚さを有するものが使用できる。
【0060】
前記塗布は、特に制限されず、当業界において通常の公知方法により行うことができる。
【0061】
例えば、前記塗布は、前記正極活物質スラリーを前記正極集電体の少なくとも一面上に噴射または分配させた後、ドクターブレード(doctor blade)などを用いて均一に分散させて行ってもよい。
【0062】
例えば、前記塗布は、ダイキャスティング(die casting)、コンマコーティング(comma coating)、スクリーン印刷(screen printing)などの方法により行ってもよい。
【0063】
前記乾燥は、正極活物質層を形成し、工程中に残留している水分を除去する工程である。この際、前記乾燥は、残留水分が除去される程度の温度範囲で行い、具体的には50~200℃で行ってもよく、より具体的には80~200℃で行ってもよい。
【0064】
この際、前記乾燥の時間は、温度によって異なって適用されるため、一律的に決定することはできないが、1時間以上行ってもよく、好ましくは5~24時間、より好ましくは5~12時間であってもよい。
【0065】
上述の方法により製造された正極活物質層は、前記正極集電体の少なくとも一面に10~100μmの厚さで形成されてもよい。具体的には10~80μm、より具体的には10~50μmの厚さで形成されてもよい。
【0066】
本発明の一実施形態によると、ローディングばらつきが著しく減少されるため、均一性が確保された正極活物質層を含む正極を非常に簡単な工程で提供することができるだけでなく、高密度の正極活物質層を提供する。これにより、本発明による正極を採用した二次電池は、向上したイオン伝導度によって電解液中におけるリチウムイオンの移動性を著しく向上させ、優れた充・放電特性および寿命特性を示すことができる。
【0067】
また、本発明は、前記正極を含む二次電池を提供する。
【0068】
具体的に、前記二次電池は、本発明の一実施形態による正極と、負極と、前記正極と前記負極との間のセパレータと、を含み、前記正極が、正極集電体の一面に正極活物質層が10~100μmの厚さで形成されたものである、リチウム二次電池である。
【0069】
前記リチウム二次電池は、本発明による正極を採用することで、電解液中において向上したリチウムイオンの移動性を付与し、優れた充・放電特性および寿命特性を示す。
【0070】
本発明の一実施形態による二次電池は初期放電容量が200mAh/g以上であることができる。具体的に、初期放電容量が200~300mAh/g、より具体的には200~250mAh/gであることができる。
【0071】
特に、本発明の一実施形態による二次電池は、50サイクル(50th cycle)使用後にも放電容量の変化が最小化される。具体的に、前記二次電池は、50サイクルでの容量維持率が90%以上であることができる。
【0072】
例えば、前記二次電池は、初期放電容量が200mAh/g以上であり、50サイクルでの容量維持率が90~99%であることができる。
【0073】
例えば、前記二次電池は、初期放電容量が200mAh/g以上であり、50サイクルでの容量維持率が95~99%であることができる。
【0074】
また、本発明の一実施形態による二次電池は、下記式1で表されるC‐rate効率が90%以上であることができる。
【0075】
[式1]
C‐rate(%)=[(2C放電容量)/(0.1C放電容量)]×100
【0076】
例えば、前記二次電池は、初期放電容量が200mAh/g以上であり、50サイクルでの容量維持率が90~99%であり、C‐rate効率が90%~99%であることができる。
【0077】
例えば、前記二次電池は、初期放電容量が200mAh/g以上であり、50サイクルでの容量維持率が95~99%であり、C‐rate効率が90%~95%であることができる。
【0078】
以下、本発明の一実施形態によるリチウム二次電池について説明する。
【0079】
本発明によるリチウム二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、を含む。
【0080】
前記正極は、上述の正極活物質スラリーから正極集電体の少なくとも一面に形成された正極活物質層を含むものであってもよい。この際、本発明によるリチウム二次電池は、前記正極活物質層を含むことで、上述のような優れた充・放電特性および寿命特性を示すことができる。
【0081】
前記負極は、負極活物質を含む負極活物質スラリー溶液を負極集電体上に塗布した後、乾燥することで製造されることができる。この際、前記負極活物質スラリー溶液は、必要に応じて、以下の成分を含んでもよい。前記負極活物質としては、通常用いられる物質であれば制限されず、例えば、難黒鉛化炭素、黒鉛系炭素などの炭素;LixFe2O3(0≦x≦1)、LixWO2(0≦x≦1)、SnxMe1-xMe´yOz(Me:Mn、Fe、Pb、Ge;Me´:Al、B、P、Si、周期律表の1族、2族、3族の元素、ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;ケイ素系合金;スズ系合金;SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5、GeO、GeO2、Bi2O3、Bi2O4、およびBi2O5などの金属酸化物;ポリアセチレンなどの導電性高分子;Li‐Co‐Ni系金属複合物;などが挙げられる。また、前記負極集電体としては、該二次電池に化学的変化を誘発することなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが挙げられる。前記負極集電体は、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成することで負極活物質の結合力を強化させてもよく、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態に形成されてもよいことはいうまでもない。この際、前記負極集電体としては、3~500μmの厚さを有するものが使用できる。
【0082】
前記セパレータは正極と負極との間に介在されるものであって、高いイオン透過度および機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が使用可能である。例えば、前記セパレータは、その気孔径が0.01~10μmであり、厚さが5~300μmであってもよい。このようなセパレータとしては、通常用いられる物質であれば制限されず、例えば、耐薬品性および疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー;ガラス繊維またはポリエチレンなどからなるシートや不織布;などが挙げられる。また、前記電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレータの役割を兼ねることもできる。
【0083】
また、前記リチウム二次電池は電解液をさらに含んでもよい。
【0084】
前記電解液は、リチウム塩含有非水系電解液であってもよい。例えば、前記リチウム塩含有非水系電解液は、非水系有機溶媒およびリチウム塩を含んでもよい。前記非水系有機溶媒としては、例えば、N‐メチル‐2‐ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ‐ブチロラクトン、1,2‐ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(franc)、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3‐ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3‐ジメチル‐2‐イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒が挙げられる。この際、前記非水系有機溶媒は、上述の非プロトン性有機溶媒から選択される1つまたは2つ以上の混合溶媒であってもよい。
【0085】
前記リチウム塩としては、前記非水系有機溶媒に溶解されやすい物質であれば制限されない。例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4‐フェニルホウ酸リチウムなどが挙げられ、LiPF6が最も好ましい。
【0086】
また、前記電解液は有機固体電解質であってもよい。例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン(agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデンなどから選択される1つまたは2つ以上のイオン性解離基を含むポリマーであってもよい。
【0087】
また、前記電解液は無機固体電解質であってもよい。例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N‐LiI‐LiOH、LiSiO4、LiSiO4‐LiI‐LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4‐LiI‐LiOH、Li3PO4‐Li2S‐SiS2などのLiの窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などが挙げられる。
【0088】
また、前記リチウム二次電池は追加の添加剤をさらに含んでもよい。
【0089】
例えば、充・放電特性、難燃性などの改善を目的で、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどから選択される1つまたは2つ以上をさらに含んでもよい。
【0090】
例えば、不燃性を付与する目的で、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒から選択される1つまたは2つ以上をさらに含んでもよい。
【0091】
例えば、高温保存特性を向上させる目的で、二酸化炭素ガスなどをさらに含んでもよい。
【0092】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに用いられることができるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく用いられることができる。
【0093】
また、本発明による前記電池モジュールは、中大型デバイスの電源として含む電池パックを提供し、前記中大型デバイスは、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)などを含む電気自動車および電力貯蔵装置などを提供することができるが、これに限定されるものではない。
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲が下記の実施例によって限定されるものではない。下記の実施例は、本発明の範囲内で当業者により適切に修正、変更可能であることはいうまでもない。
【0095】
また、本発明で特に言及しない限り、温度の単位は何れも℃であり、他の単位の定義がない限り、各成分の使用量の単位はgである。
【0096】
(評価方法)
1.充・放電容量の評価
下記実施例および比較例で製造された二次電池モノセル(電池容量4.3mAh)を用いて、25℃で3~4.5Vの電圧区間で充・放電(0.5Cで充電し、1Cで放電)を行った。
【0097】
2.C‐rate効率の評価
下記実施例および比較例で製造された二次電池モノセル(電池容量4.3mAh)を用いて、高温環境(45℃)でC‐rate効率を測定した。この際、C‐rate効率は、下記式1のように、0.5Cで充電された二次電池を0.1Cで放電した時の容量と、2Cで放電した時の容量との割合として定義した。
【0098】
[式1]
C‐rate(%)=[(2C放電容量)/(0.1C放電容量)]×100
【0099】
3.寿命特性の評価
前記充・放電容量の評価で測定した充・放電50サイクル(50th放電容量)後の放電容量と初期放電容量(1st放電容量)との割合として定義した(下記式2参照)。
【0100】
[式2]
容量維持率(%)=[(50サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)]×100
【実施例1】
【0101】
表面コーティングされたLiCoO2正極活物質、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(ポリビニリデンフルオリド、PVdF)を95:3:2の重量比で混合して20gを製造し、N‐エチルホルムアミド20gに投入して正極活物質スラリー(粘度:20,000g/cm・s、粘度変化率:1%)を製造した。厚さ20μm程度の正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に前記正極活物質スラリーを塗布し、130℃で2時間乾燥した後、ロールプレス(roll press)を施すことで正極を製造した。負極としては、リチウム金属箔(foil)を使用した。電解質として、エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)を1:2の体積比で混合して製造した非水系有機溶媒にLiPF6を添加することで、1MのLiPF6非水系電解液を製造した。前記正極と負極との間にポリエチレンセパレータ(東燃社製、F2OBHE、厚さ=20μm)を含ませ、前記非水系電解液を注入することで、ポリマーセルタイプの試験用二次電池モノセルを製作した。
【0102】
前記方法により製造された二次電池モノセルの初期充・放電容量、C‐rate効率、および寿命特性(容量維持率)を評価し、下記表1に示した。
【0103】
(比較例1)
正極活物質スラリーの製造において、N‐エチルホルムアミドの代わりにN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)を溶媒として使用して正極活物質スラリー(粘度:50,000g/cm・s、粘度変化率:15%)を製造した。その後、実施例1の方法と同様の方法によりポリマーセルタイプの試験用二次電池モノセルを製作した。
【0104】
前記方法により製造された二次電池モノセルの初期充・放電容量、C‐rate効率、および寿命特性(容量維持率)を評価し、下記表1に示した。
【0105】
【0106】
本発明による二次電池は、著しい充電容量を示すだけでなく、初期放電容量も200mAh/g以上であり、容量維持率にも優れていた。
【0107】
具体的に、本発明による二次電池は、高い初期放電容量(203.9mAh/g)を示すとともに、C‐rate効率が91%であることが確認された。特に、本発明による二次電池は容量維持率が97%であることが確認された。このような本発明による二次電池の高い容量維持率は、比較例に比べて114%以上に達する著しい効果である。
【0108】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲と発明の詳細な説明および添付図面の範囲内で多様な変形実施が可能であり、これも本発明の範囲に属するということはいうまでもない。