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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】汚れ防止フィルム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/02 20060101AFI20220909BHJP
【FI】
G06F3/02 490
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018135763
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020013370
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390017949
【氏名又は名称】旭化成ホームプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】諏江 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】入矢 偉
【審査官】三吉 翔子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060275(JP,A)
【文献】特開2000-160117(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187064(WO,A1)
【文献】特開2009-280128(JP,A)
【文献】特開平11-302605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、該基材フィルム上に部分的に配された粘着層と、を有する汚れ防止フィルムであって、
前記基材フィルムが延伸フィルムであり、
該汚れ防止フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み引張荷重が、各々独立して、0.8~1.6N/cm・100mmであり、
前記部分的に配された粘着層の粘着力(JISZ0237準拠180度剥離力)が、0.01~0.5N/25mmである、
汚れ防止フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率が、5~90面積%である、
請求項1に記載の汚れ防止フィルム。
【請求項3】
前記汚れ防止フィルムを任意に5cm×5cm角に切り出してきたときの前記基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率が、5~90面積%である、
請求項1又は2に記載の汚れ防止フィルム。
【請求項4】
前記基材フィルムのHazeが、0.1~25%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の汚れ防止フィルム。
【請求項5】
押しボタンを有する入力部の表面をカバーするためのフィルムである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の汚れ防止フィルム。
【請求項6】
芯管と、該芯管に巻き取られた請求項1~5のいずれか1項に記載の汚れ防止フィルムと、を備える、
汚れ防止フィルム巻回体。
【請求項7】
巾全体としての引出力が、10~300cN/220mmである、
請求項6に記載の汚れ防止フィルム巻回体。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の汚れ防止フィルム巻回体と、該汚れ防止フィルム巻回体を収納する箱と、を有し、
該箱が、汚れ防止フィルムを切断するための切断具を備える、
汚れ防止フィルム収納箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れ防止フィルム、その巻回体、及び該巻回体の収納箱に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのキーボードを水やホコリなどから守り故障を防ぐためのキーボードの専用カバーが提案されている。例えば特許文献1にはキーボードと接触する部位に粘着性エラストマー膜を有するキーボードカバーが提案されている。このキーボードカバーは粘着性能によりキーボードからのズレを防止し、またズレによるカバーの変形を防ぐことができる。また、例えば、特許文献2では特定の表面粗さ、厚み、ゴム硬度を有するシリコーンエラストマーシートが提案されており、粘着剤無しでズレを防止し、キータッチ時の指の感触がよくタイプ感が向上する上、簡単に剥がすことができる。
【0003】
また、医療現場では電子カルテ等のパソコンを複数の医療関係者で共有するため交差感染が懸念されており、衛生性を保つことが要求されている。これに対して例えば特許文献3では、抗菌剤入り樹脂で成形したキーボードカバーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】登録実用新案第3032087号公報
【文献】特開2007-058297号公報
【文献】特開2006-330954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら先行技術においては、キーボードカバーがキーボードからズレることは防止できるものの、粘着力が適正でない場合に、忙しい医療現場では端部から剥がれてしまうことがあった。万が一医療現場でカバーが剥離すると、感染予防の目的が達成されない。一方で、剥離を防止するために両面テープなどで強固にキーボードへ貼りつけた場合には、キーボードのボタンを押す荷重抵抗(以下、「打鍵抵抗」ともいう。)が大きくなるという問題が生じる。打鍵抵抗が大きくなると、キーボードの使用性を低下させることになる他、ボタンが押しこまれないことによる未入力エラーが生じたり、タッチしたキーの周辺のキーが追従して押され、誤入力エラーが生じるたりする懸念がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、フィルムを貼り付けることによって生じる、押しボタンを有する入力部の操作性低下を生じさせにくくすることのできる汚れ防止フィルム、汚れ防止フィルムの巻回体、及び該巻回体の収納箱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、打鍵抵抗を小さくすることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
〔1〕
基材フィルムと、該基材フィルム上に部分的に配された粘着層と、を有する汚れ防止フィルムであって、
該汚れ防止フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み引張荷重が、各々独立して、0.8~1.6N/cm・100mmであり、
前記部分的に配された粘着層の粘着力(JIS0237準拠180度剥離力)が、0.01~0.5N/25mmである、
汚れ防止フィルム。
〔2〕
前記基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率が、5~90面積%である、
〔1〕に記載の汚れ防止フィルム。
〔3〕
前記汚れ防止フィルムを任意に5cm×5cm角に切り出してきたときの前記基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率が、5~90面積%である、
〔1〕又は〔2〕に記載の汚れ防止フィルム。
〔4〕
前記基材フィルムのHazeが、0.1~25%である、
〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の汚れ防止フィルム。
〔5〕
押しボタンを有する入力部の表面をカバーするためのフィルムである、
〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の汚れ防止フィルム。
〔6〕
芯管と、該芯管に巻き取られた〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の汚れ防止フィルムと、を備える、
汚れ防止フィルム巻回体。
〔7〕
巾全体としての引出力が、10~300cN/220mmである、
〔6〕に記載の汚れ防止フィルム巻回体。
〔8〕
〔6〕又は〔7〕に記載の汚れ防止フィルム巻回体と、該汚れ防止フィルム巻回体を収納する箱と、を有し、
該箱が、汚れ防止フィルムを切断するための切断具を備える、
汚れ防止フィルム収納箱。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルムを貼り付けることによって生じる、押しボタンを有する入力部の操作性低下を生じさせにくくすることのできる汚れ防止フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ノートパソコンで用いられるパンタグラフ型キーの断面図。
図2】ストロークの増加と荷重の関係を示すグラフ。
図3】本実施形態の汚れ防止フィルムにおける粘着層のパターンを示す図である。
図4】実施例における粘着層のパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの本実施形態にのみ限定する趣旨ではない。そして、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、特に断りのない限り、本実施形態における各物理パラメータの測定は、常温常圧下にて行う。
【0012】
〔汚れ防止フィルム〕
本実施形態の汚れ防止フィルムは、基材フィルムと、該基材フィルム上に部分的に配された粘着層と、を有し、汚れ防止フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み引張荷重が、各々独立して、0.8~1.6N/cm・100mmであり、前記部分的に配された粘着層の粘着力(JIS0237準拠180度剥離力)が、0.01~0.5N/25mmである。
【0013】
本実施形態において「汚れ防止フィルム」とは、例えば、押しボタンを有する入力部の表面をカバーするためのフィルムであり、パソコンや操作盤を有する各種機器の入力部に貼りつけて用いられるものである。汚れ防止フィルムは、押しボタンを有する入力部の表面に一時的に貼りつけられた状態で使用され、その後ある程度使用したら清潔性の観点から剥がして捨てる態様で用いられる。より具体的には、病院内で複数の医療関係者が接触する電子カルテキーボードや操作盤を有する各種検査機器などに対して汚れ防止フィルムを貼り付けて用いることにより、菌やウイルスの付着、血液や嘔吐物、その他体液が直接付着することを防止し、使用のたびに、古い汚れ防止フィルムをはがして捨て、新しいものを貼り付けて使用することにより、各作業における清潔性を保ち、医療関係者間の交差感染を防止することができる。もちろん、使用は医療現場に限られるものではなく、例えば、工場等の汚れが付着しやすい環境下に置かれた操作盤やパソコンに対して用いることにより、汚れの付着を防止することができ、不良や故障の発生を抑制することもできる。
【0014】
また、本実施形態の汚れ防止フィルムは、凹凸を有しないフィルムであって、例えば、キーボードのボタンの凹凸に対応する凹凸を有するカバーとは、異なるものである。このような形状を有することにより、本実施形態の汚れ防止フィルムは後述する巻回体の形態をとることができ、収納箱に収容して流通させることが可能となる。
【0015】
次いで、押しボタンの動作について例を用いて説明するが、本実施形態の汚れ防止フィルムの使用対象は当該例に限定されない。図1に、ノートパソコンで用いられるパンタグラフ型キーの断面を示す。パンタグラフ型キー10は、パンタグラフ構造1を介して、キートップ2とスイッチ入力部3が対向する構造を有する。キートップ2とスイッチ入力部3の間には、キートップ2に対してスイッチ入力部3と離れる方向である上向きの付勢力を与える弾性部材4が配されている。弾性部材4の下側の内部は空洞であり、この空洞内に下向きの押圧凸部4aが一体に形成されている。
【0016】
使用者がキートップ2を押し込むと、ストロークの増加に従って弾性部材4がキートップ2で押し潰されるとともに、押圧凸部4aでスイッチ入力部3が押され、これによりキー入力信号が得られる。図2に示すように、これをストロークの増加と荷重の関係からみると、ストロークの増加に従って弾性部材4が弾性変形し荷重は増加し(矢印1)、荷重がピーク荷重(FP)に達すると弾性部材4が座屈し荷重が低下することで(矢印2)、使用者はクリック感を感じ、ストロークがオンストローク(SO)に達すると、押圧凸部4aがスイッチ入力部3に接触し、信号が伝わる。オンストローク後も使用者がキートップ2をさらに押し込むと荷重は増加する(矢印3)。
【0017】
これに対して、押しボタンの表面上に汚れ防止フィルムを貼った状態で、使用者がキートップ2を押し込むと、汚れ防止フィルムがつっぱり、抵抗が生じる。これが、打鍵抵抗となり、オンストローク(SO)時の荷重を増加させる。それにより、キーボードの使用性が低下することになる他、ボタンが押しこまれないことによる未入力エラーが生じる。また、キートップ2を押し込んだ部分の汚れ防止フィルムに、近接したボタンに接触する汚れ防止フィルムが引っ張られることで、近接するボタンも追従して押されることがあり、誤入力エラーが生じる原因ともなる。
【0018】
汚れ防止フィルムを用いた場合に、このような打鍵抵抗が生じる理由としては、汚れ防止フィルムは伸びにくいという理由の他に、汚れ防止フィルムがボタン表面に貼りついていることが挙げられる。入力部からのズレ及び剥がれが生じることにより、入力部を汚染から保護するという目的が達成されない結果とならないよう、汚れ防止フィルムの押しボタン接触面には、粘着層が設けられる。しかし、この粘着層が、汚れ防止フィルムの前面に配され、隣接する押しボタンの間で汚れ防止フィルムがボタン表面に固定されていることにより、打鍵抵抗が増大するものと考えられる。これに対して、本実施形態の汚れ防止フィルムにおいては、基材フィルム上に部分的に配された粘着層を有することにより、キーボードの使用性の低下を抑制し、汚れ防止フィルムを貼り付けることにより生じる未入力エラーや誤入力エラーを抑制することができる。また、一方で、キートップを押し込んでいく際の勢いを緩和し、各部材の接触及び摩擦により生じるタイプ音を抑制することができる。
【0019】
なお、押しボタンを有する入力部は、キースイッチ(押しボタン)を有する電子機器の入力部であれば特に制限されないが、例えば、デスクトップ及びノートパソコンのキーボード、固定及び携帯電話機が有する押しボタン、医療機器などの電子機器が有する押しボタン、テレビ等のリモコンの押しボタンなどが挙げられる。押しボタンとしては、特に制限されないが、例えば、その機構の相違によって、メカニカルスイッチ、メンブレンスイッチ、パンタグラフスイッチ、静電容量無接点型スイッチが挙げられる。
【0020】
本実施形態の汚れ防止フィルムの流れ方向(MD方向)の2%歪み引張荷重及び幅方向(TD方向)の2%歪み引張荷重は、各々独立して、0.8~1.6N/cm・100mmであり、好ましくは0.8~1.5N/cm・100mmであり、より好ましくは0.8~1.4N/cm・100mmである。2%歪み引張荷重が上記範囲内であることにより、操作性がより向上する傾向にある。なお、2%歪み引張荷重は、基材フィルムの厚み、粘着層の厚み、及び粘着剤の塗工面積割合により調整することができる。なお、汚れ防止フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み引張荷重は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
〔基材フィルム〕
基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み弾性率は、各々独立して、好ましくは190~550MPaであり、より好ましくは200~500MPaであり、さらに好ましくは200~400MPaである。流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み弾性率が上記範囲内であることにより、操作性がより向上する傾向にある。さらに、汚れ防止フィルムが部分的に伸びてしまうことが抑制される傾向にある。
【0022】
基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み弾性率は、用いる樹脂の種類とグレード、添加剤の処方の選定、それに応じた加工時の条件調整により制御することができる。なお、基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の2%歪み弾性率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
また、基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の引張伸びは、各々独立して、好ましくは60~200%であり、より好ましくは70~180%であり、さらに好ましくは90~160%である。基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の引張伸びが上記範囲内であることにより、操作性低下を生じさせにくくされる傾向にある。
【0024】
基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の引張伸びは、用いる樹脂の種類とグレード、添加剤の処方の選定、それに応じた加工時の条件調整により制御することができる。なお、基材フィルムの流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の引張伸びは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
基材フィルムを構成する成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニリデン;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類;エチレン/ビニルアルコール共重合体;エチレン/酢酸ビニル共重合体;ポリアミド;ポリウレタン等が挙げられる。この中でも、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィン類が好ましく、ポリ塩化ビニリデンがより好ましい。なお、基材フィルムを構成する成分は1種単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0026】
(ポリ塩化ビニリデン)
ポリ塩化ビニリデンとしては、塩化ビニリデン単独重合体、及び、塩化ビニリデン単量体とそれと共重合可能な単量体との塩化ビニリデン共重合体が含まれる。塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体(以下、「コモノマー」ということもある。)としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル;アクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル;メタクリル酸;メチルアクリロニトリル;酢酸ビニル等が挙げられる。これらの共重合可能な単量体は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリ塩化ビニリデン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5×104~1.5×105であり、より好ましくは6×104~1.3×105であり、さらに好ましくは7×104~1×105である。重量平均分子量(Mw)が5×104以上であることにより、押出時の溶融特性がより向上する傾向にある。また、重量平均分子量(Mw)が1.5×105以下であることにより、熱安定性を維持した溶融押出が可能となる傾向にある。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0028】
基材フィルムは、延伸フィルムであっても未延伸フィルムであってもよいが、延伸フィルムであることが好ましい。延伸フィルムは、未延伸フィルムと比較して、応力に対する高い復元性を有し、ヒステリシスロスが小さい傾向にある。通常、応力に対する復元力が小さいフィルムの場合、一定以上の応力を付加すると、その部分が伸びて元に戻らない。例えば、汚れ防止フィルムをキーボードに貼りつけて打鍵する場合でいえば、キーを打鍵することで打鍵されたキー付近の汚れ防止フィルムには一時的に応力がかかるが、高復元性を有する延伸フィルムの場合は、打鍵されたキー付近の汚れ防止フィルムは元どおり復元しやすく、汚れ防止フィルムが伸びきってしまうことを抑制することができる。
【0029】
なお、基材フィルムが延伸フィルムであるか否かは、高温時における熱収縮率で判断をすることができる。本実施形態においては、定性的に、120℃で10分静置したときの収縮率が20%以上であるものを延伸フィルムとする。このような延伸フィルムは、繰り返し使用した時のヒステリシスロスが少なく、復元性が高いものとなる。このように、復元性が高いほど、使用時の操作感が向上する。一方で、復元せずにフィルムが伸びきった状態になることにより、かえってタイプミスなどの要因となったり、伸びた部分が押しボタンに引っかかり破膜するなどの問題が生じる可能性がある。
【0030】
(その他の添加剤)
基材フィルムは、主成分となる上記樹脂の他、必要に応じて、公知の可塑剤、熱安定剤、着色剤、有機系滑剤、無機系滑剤、界面活性剤、加工助剤等その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0031】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチルトリブチルサイトレート、アセチル化モノグリセライド、ジブチルセバケート等が挙げられる。
【0032】
熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化植物油や、エポキシ系樹脂、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0033】
(Haze)
基材フィルムのHazeは、好ましくは0.1~25%であり、より好ましくは0.1~20%であり、さらに好ましくは0.1~10%である。基材フィルムのHazeが上記範囲内であることにより、キーの視認性がより向上し、誤入力を防止できる傾向にある。基材フィルムのHazeは、用いる樹脂種や基材フィルムの厚みにより調製することができる。また、Hazeは、ASTM D-1003に準拠して測定することができる。
【0034】
(厚み)
基材フィルムの厚みは、好ましくは5~60μmであり、より好ましくは7~50μmであり、さらに好ましくは10~40μmである。基材フィルムの厚みが上記範囲内であることにより、操作性及び耐破れ性がより向上する傾向にある。
【0035】
〔粘着層〕
本実施形態の汚れ防止フィルムは、基材フィルム上に部分的に配された粘着層を有する。図3に、本実施形態の汚れ防止フィルムにおける粘着層のパターンの一例を示す。
【0036】
部分的に配された粘着層の粘着力(JISZ0237準拠180度剥離力)は、0.01~0.5N/25mmであり、好ましくは0.02~0.3N/25mmであり、より好ましくは0.03~0.2N/25mmであり、さらに好ましくは0.03~0.1N/25mmである。ここで、「部分的に配された粘着層の粘着力」とは、基材フィルム上に全面に配された粘着層ではなく、粘着層が配された部分と配されていない部分を含めた汚れ防止フィルムの粘着力を意味するものである。その意味においては、基材フィルム上に粘着層を全面に配した場合の粘着力よりも、「部分的に配された粘着層の粘着力」は低くなる。部分的に配された粘着層であれば、キートップに貼りつかない部分が遊びとなり、使用者がキートップを押し込んだ際の抵抗が緩和され、オンストローク時の荷重の増加が抑制されるとともに、未入力エラーや誤入力エラーを抑制することができる。したがって、仮に、「部分的に配された粘着層の粘着力」と、全面に配された粘着層の粘着力が同等であったとしても、キートップに貼りつかない遊び部分が生じない全面に配された粘着層では、上記のような効果は期待することができない。本実施形態においては、基材フィルム上に粘着層を全面に配さず、部分的に配された粘着層の粘着力が所定の範囲となることにより、被粘着物に対する貼り付き性と、剥がれ性のバランスに優れ、その上、押しボタンを有する入力部の操作性低下を生じさせにくくすることが可能となる。粘着層の粘着力を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、粘着層の被覆面積率を調整する方法の他、粘着剤の硬さや粘着層の厚みを調整する方法が挙げられる。なお、本実施形態において、粘着層の粘着力はJIS0237準拠した測定方法により得られる180度剥離力の最大値とする。(粘着層が部分的に配された粘着フィルムの180度剥離力を測定した場合の最小値は、粘着層が横方向に存在しないときで0となり、そのような数値を含めた平均値は、本実施形態において技術的意味を有しない。)
【0037】
一方で、本実施形態の粘着層を仮に全面に配した場合の粘着力(以下、「粘着層自体の粘着力」ともいう。(JIS0237準拠180度剥離力))は、0.05~1.0N/25mmであり、好ましくは0.08~0.8N/25mmであり、より好ましくは0.1~0.5N/25mmである。粘着層自体の粘着力が、上記範囲内であることにより、部分的に粘着層を配した場合でも、被粘着物に対する貼り付き性と、剥がれ性のバランスにより優れ、押しボタンを有する入力部の操作性低下をより抑制できる傾向にある。
【0038】
基材フィルム上に部分的に配された粘着層の態様として、粘着層の形成範囲を、基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率で表すことができる。粘着層の被覆面積率は、1つの基材フィルムの総面積に対して、好ましくは5~90面積%であり、より好ましくは10~80面積%であり、さらに好ましくは15~70面積%である。基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率が上記範囲内であることにより、部分的に粘着層を配した場合でも、被粘着物に対する貼り付き性と、剥がれ性のバランスにより優れ、押しボタンを有する入力部の操作性低下をより抑制できる傾向にある。
【0039】
また、汚れ防止フィルムを任意に5cm×5cm角に切り出してきたときの基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率は、好ましくは5~90面積%であり、より好ましくは10~80面積%であり、さらに好ましくは15~70面積%である。任意に5cm×5cm角に切り出してきたときの基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率は、基材フィルム上に分散して被覆層が形成されたことを示す指標である。任意に5cm×5cm角に切り出してきたときの基材フィルムを覆う粘着層の被覆面積率が上記範囲内であることにより、部分的に粘着層を配した場合でも、被粘着物に対する貼り付き性と、剥がれ性のバランスにより優れ、押しボタンを有する入力部の操作性低下をより抑制できる傾向にある。
【0040】
また、図3(a)のように基材フィルム上に粘着層を点状に配する場合には、基材フィルムの単位面積(5cm×5cm)あたりに点状に存在する粘着層の個数は、好ましくは2個以上であり、より好ましくは4個以上であり、さらに好ましくは10個以上である。個数が多いほど、粘着層が存在しない領域と粘着層が存在する領域とが分散して存在し、各押しボタンごとの操作性のバラつきがより抑制される傾向にある。また、このことから、粘着層の個数の上限については、特に制限されないが、製造上の観点から言えば、好ましくは1000個以下であり、より好ましくは700個以下である。なお、点状とは、一つの点状粘着層が大きくとも2cm×2cmの範囲内に収まることを言い、その形状は、特に制限されず、例えば、円形、略円形、半円形、略半円形、楕円形、略楕円形、半楕円形、略半楕円形、多角形が挙げられる。
【0041】
さらに、図3(b)のように基材フィルム上に粘着層を格子状に配する場合には、基材フィルム上に粘着層が存在しない領域が点状に存在することとなる。この場合には、基材フィルムの単位面積(5cm×5cm)あたりに点状に存在する粘着層が存在しない領域の個数は、好ましくは1個以上であり、より好ましくは5個以上であり、さらに好ましくは10個以上である。個数が多いほど、粘着層が存在しない領域と粘着層が存在する領域とが分散して存在し、各押しボタンごとの操作性のバラつきがより抑制される傾向にある。また、このことから、粘着層が存在しない領域の個数の上限については、特に制限されないが、製造上の観点から言えば、好ましくは1000個以下であり、より好ましくは700個以下である。なお、この場合の点状とは、一つが大きくとも5cm×5cmの範囲内に収まることを言い、その形状は、特に制限されず、例えば、円形、略円形、半円形、略半円形、楕円形、略楕円形、半楕円形、略半楕円形、多角形が挙げられる。
【0042】
また、図3(c)のように基材フィルム上に粘着層を線状に配する場合には、基材フィルム上に粘着層が存在する領域と粘着層が存在しない領域とが交互に存在することとなる。この場合には、粘着層が存在する領域の幅(2つの粘着層が存在しない領域の間の距離)と、粘着層が存在しない領域の幅(2つの粘着層が存在する領域の間の距離)の比率は、好ましくは1:0.05~1:20であり、より好ましくは1:0.1~1:10である。
【0043】
粘着層を形成する粘着剤としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エチレン/酢酸ビニル粘着剤が挙げられる。押しボタンを有する入力部の表面をカバーするために、一時的に貼りつけられ、その後ある程度使用したら清潔性の観点から剥がして捨てる用途からすれば、強固な粘着性よりも、人が手で貼って剥がせる程度の粘着力でかつ、粘着させた面に対して糊のこりしない剥離性に優れることが好ましい。また、そのような粘着性を有するものは、汚れ防止フィルムが粘着層面同士でくっ付いてしまっても、絡まりをほどきやすくなるため一層取扱いやすくなる。このような観点から、上記粘着剤の中でも、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤が好ましく、ウレタン系粘着剤がより好ましい。
【0044】
ウレタン系粘着剤は、イソシアネート基とヒドロキシ基をもつ化合物同士を縮合し得られるポリウレタンからなる粘着剤であり、貼り作業時の空気抜け性に優れ、糊のこりすることなく剥がせる再剥離性に優れる傾向にある。ウレタン系粘着剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン等が挙げられる。
【0045】
シリコーン系粘着剤は、シロキサン結合を主骨格にもつポリマーからなる粘着剤であり、使用可能温度の範囲が広く、貼り作業時の空気抜け性に優れる傾向にある。
【0046】
アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル重合体からなる粘着剤であり、主モノマーに対してコモノマーを添加して凝集力を調整したり、官能基含有モノマーを添加して架橋点を設けて粘着剤の硬さを調整し目的の粘着力を発現させたりすることができる。アクリル系粘着剤に用いられる主モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の各種(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられ、これらを単独もしくは組合せて使用できる。コモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレンが挙げられる。官能基含有モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0047】
さらに、粘着層には、ロジンやテルペン類、脂肪族及び芳香族合成樹脂等の粘着付与樹脂を添加し、粘着力を調整することができる。粘着層には他に、安定剤、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、などを添加してもよい。
【0048】
粘着層の厚みは、粘着層の粘着力の観点から、好ましくは1~30μmであり、より好ましくは3~25μmであり、さらに好ましくは5~25μmである。粘着層の厚みが上記範囲であることにより、キーボードにしっかり貼りつき、剥がす際には簡単に剥がれるという効果がより一層発現する傾向にある。
【0049】
〔離型層〕
本実施形態の汚れ防止フィルムは、基材フィルムの背面(粘着層が形成されていない面)に離型層をさらに含んでいてもよい。離型層を含むことにより、巻回体としたときに汚れ防止フィルムを引き出しやすくなる傾向にある。離形層を形成する成分としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン系樹脂や長鎖アルキルペンダントポリマー系樹脂が挙げられる。
【0050】
長鎖アルキルペンダントポリマー系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、炭素数12以上の長鎖アルキルアクリレートの重合物、長鎖アルキルアクリレートと他のビニルモノマーとの共重合物、ポリビニルアルコールに長鎖アルキルイソシアネート等の長鎖アルキル成分を反応させて得られる長鎖アルキル変性高分子が挙げられる。このような離型層を設けることにより、キーボード等に対する汚れ防止フィルムの固定性を維持しつつ、巻回体としたときの引出性がより向上する傾向にある。
【0051】
離型層の厚みは、好ましくは0.1~1.0μmであり、より好ましくは0.15~0.9μmであり、さらに好ましくは0.2~0.7μmである。離型層の塗工厚みを上記範囲内とすることにより、巻回体としたときの引出性がより向上する傾向にある。
【0052】
〔その他の層〕
またさらに、本実施形態の汚れ防止フィルムは、印刷層やプライマー層を設けてもよい。また粘着層の保護や被粘着物への貼付け時の利便性のために本発明の効果を阻害しない範囲で剥離紙や剥離樹脂フィルムを粘着層に貼り合わせてあってもよい。
【0053】
〔厚み〕
本実施形態の汚れ防止フィルムの総厚みは、10~80μmであり、好ましくは15~70μmであり、より好ましくは20~60μmである。厚みが上記範囲内であることにより、柔軟性がより向上する。また厚すぎると例えばキーボードカバーとして使用した際にはキー入力がしにくく、また薄いと表面粘着力でフィルム同士がくっついた場合に剥がしつらく扱いづらいものになるほか、キー入力時に破れやすくなる。
【0054】
〔汚れ防止フィルムの製造方法〕
本実施形態の汚れ防止フィルムの製造方法は、基材フィルム上に、粘着層を形成することができる方法であれば特に限定されない。
【0055】
基材フィルムを得る方法としては、例えば、樹脂を環状ダイより単層または多層原反として押し出す工程と、押し出された原反を冷却固化する工程とにより構成する方法を挙げることができる。また、必要に応じて樹脂と共に可塑剤や酸化防止剤、安定剤など公知の添加剤を配合して用いてもよい。
【0056】
基材フィルムが延伸フィルムである場合、ダイから押し出された基材フィルムをMD方向及びTD方向に延伸する延伸工程を有する。延伸方法は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。二軸延伸の具体的な方法としては、逐次又は同時二軸延伸法、又はインフレーション二軸延伸法を採用することができる。具体的には、TD方向への延伸は、バブルインフレーション法等により、未延伸チューブ内に注入された空気の内圧により行い、MD方向への延伸は、TD方向延伸部の上流に設けられた未延伸チューブを送り出すロールと下流に設けられた延伸積層チューブを巻き取るロールの速度比を調整することにより行うことができる。また、他の方法として、未延伸フィルムを用いる場合におけるTD方向への延伸は、テンター法等により、ピンチクリップを用いて未延伸フィルムの幅方向に張力をかけることにより行い、MD方向への延伸は、TD方向延伸部の上流に設けられた未延伸フィルムを送り出すロールと下流に設けられた延伸フィルムを巻き取るロールの速度比を調整することにより行うことができる。
【0057】
この際の延伸倍率は、好ましくはMD方向、TD方向それぞれ2.5~7.5である。
【0058】
本実施形態の汚れ防止フィルムは、例えば、上記のように得られた基材フィルムに、コンマコーター若しくはグラビアコーターで粘着剤を塗布し乾燥後巻取り、2日間40℃でエージングして得ることができる。粘着剤を塗布する前にあらかじめ粘着層と基材層とに親和性のあるプライマーを塗布したり、基材フィルムの表面張力の調整のためにコロナ処理、プラズマ処理等を施してもよい。また、粘着剤塗工の前後の工程で、基材フィルムの背面に離型層を形成してもよい。
【0059】
〔汚れ防止フィルム巻回体〕
本実施形態の汚れ防止フィルム巻回体は、芯管と、該芯管に巻き取られた上述の汚れ防止フィルムとを備える。
【0060】
(芯管)
芯管は、その材料に限定はなく、例えば紙製、プラスチック製、金属製等のものを用いることができる。芯管は内部が中空の円筒状物でも、中空でない円柱状物でも構わない。また、芯管の直径に限定はなく、例えば10mm~50mmとすることができる。
【0061】
汚れ防止フィルム巻回体から汚れ防止フィルムを引き出す引出力は、好ましくは10~300cN/220mm巾であり、より好ましくは15~200cN/220mm巾であり、さらに好ましくは20~100cN/220mm巾である。引出力が上記範囲内であることにより、軽い力で必要な量の汚れ防止フィルムを引き出すことができる。
【0062】
芯管から汚れ防止フィルムを引き出す引出力を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、汚れ防止フィルムの粘着力の設定のほかに、汚れ防止フィルムの背面へ離型層を設けることが挙げられる。
【0063】
なお、本実施形態において、芯管から汚れ防止フィルムを引き出す引出力は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0064】
〔汚れ防止フィルム収納箱〕
本実施形態の汚れ防止フィルム収納箱は、上述の汚れ防止フィルム巻回体と、該汚れ防止フィルム巻回体を収納する箱を有し、箱は、汚れ防止フィルムを切断するための切断具を備える。汚れ防止フィルム巻回体を箱へ収納することにより、必要量の汚れ防止フィルムを容易に引き出してカットすることができる。
【0065】
切断具としては、特に制限されないが、例えば、金属製、紙製、プラスチック製の鋸刃の他に、スライドカッターが挙げられる。
【実施例
【0066】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、本実施形態における各物理パラメータの測定は、常温常圧下にて行う。
【0067】
〔粘着力〕
部分的に配された粘着層の粘着力は、JISZ0237に準拠して以下のとおり測定した。すなわち、汚れ防止フィルムをMD方向に沿って幅25mm、長さ300mmに切り出してサンプルとし、SUS304鏡面仕上げ板に、2kg錘ローラーを用いて10mm/秒で2往復させて貼りつけた。300mm/分の速度にて、SUS鏡面仕上げ板から180度の方向に引張り測定を行い、剥離力の最大値について5回の測定の平均値を粘着力の値とした。測定には、島津製作所社製テクスチャーアナライザー EZ-Sを用いた。このようにして得られた180度剥離力を粘着層の粘着力とした。
【0068】
〔厚み〕
ミクロトームを用いてフィルムを切断し、その切断面を光学顕微鏡(キーエンス社VHX-900)で観察してフィルムの厚みを測定した。これをさらにフィルムのMD方向(巻出方向)に1mおきに同じく測定して、最終的には10点の平均値をフィルムの厚みとした。なお、粘着層の厚みはフィルムの厚みの測定法と同じく光学顕微鏡(キーエンス社VHX-900)で観察して測定し、さらにフィルムのMD方向(巻出方向)に1mおきに同じく測定して、最終的には10点の平均値を粘着層の厚みとした。
【0069】
〔使用時の固定性〕
実施例及び比較例で得られた汚れ防止フィルムをキーボードカバーとして使用した際、反復してキータッチしランダムな日本語の文章をタイプして、キーボードに対する汚れ防止フィルムの固定性を下記評価基準で評価した。
(評価基準)
○:2000文字分タイプした時点で、キーボードからの汚れ防止フィルムのズレや剥がれは認められなかった。
△:1500文字分タイプした時点で、キーボードからの汚れ防止フィルムのズレや剥がれが認められた。
×:1000文字分タイプした時点で、キーボードからの汚れ防止フィルムのズレや剥がれが認められた。
【0070】
〔視認性:Haze〕
汚れ防止フィルムのHazeをJISK7136に準拠して測定した。具体的には、拡散透過率及び全光線透過率を測定し、下記式にてHazeを算出した。5回の測定の平均値をフィルムのHazeの値とした。測定には、日本電色工業社製ヘーズメーターを用いた。
Haze(%)=拡散透過率/全光線透過率×100
【0071】
〔汚れ防止フィルムの2%歪み引張荷重〕
2%歪み引張荷重は、以下のとおり測定した。すなわち、各例の汚れ防止フィルムをMD、TD方向に沿うように、それぞれ任意の位置で幅10mm、長さ100mmに切り出してサンプルとし、5mm/分の引張速度にて2%伸長(すなわち2mm伸長)させたときの荷重を測定した。5回の測定の平均値をMD方向とTD方向それぞれの2%歪み引張荷重の値とした。測定装置には、島津製作所社製テクスチャーアナライザー EZ-Sを用いた。
【0072】
〔引出力〕
220mm巾の汚れ防止フィルムを紙管に10m巻き取ったサンプルを28℃で1週間エージングした。アクリル製円筒と直径12mmのスチール棒とをベアリングを介して連結させた回転可能な固定具にはめ込み、スチール棒を引張試験機に固定し、アクリル円筒部及び紙管巻き汚れ防止フィルムは自由に回転できる状態にした。汚れ防止フィルムの端を引張試験機のロードセルに直結する幅250mmのプレートに固定し、1000mm/分の速度で汚れ防止フィルムを引き出した際に発生する荷重を引出力とし、5回の測定の平均値を測定値とした。測定には、島津製作所社製テクスチャーアナライザー EZ-Sを用いた。
【0073】
〔巻姿〕
実施例及び比較例で得られた汚れ防止フィルムの巻回体の巻姿を、以下のように評価した。
〇:巻回体を目視及び触感で表面を観察し、巾方向にほぼ均等である。
△:巻回体を目視及び触感で表面を観察し、巾方向にやや表面凹凸がある。
×:巻回体を目視及び触感で表面を観察し、巾方向で表面凹凸が大きい。
【0074】
〔操作性〕
実施例及び比較例で得られた汚れ防止フィルムをキーボードカバーとして使用した際、反復してキータッチしランダムな日本語の文章2万文字分をタイプして、未入力または誤入力が生じるか評価した。(評価基準)
○:未入力及び誤入力による入力ミス100文字以下。
△:未入力及び誤入力による入力ミス101文字~150文字。
×:未入力及び誤入力による入力ミス151文字以上。
【0075】
[実施例1]
〔基材フィルムの製造〕
塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体(塩化ビニリデン単量体単位含有量/塩化ビニル単量体単位含有量=80質量%/20質量%、重量平均分子量120000、以下、「PVDC」と表記)100質量部に対し、脂肪酸エステル類としてジブチルセバケートを3質量部、アセチルトリブチルシトレートを3質量部、エポキシ化化合物としてエポキシ化大豆油を2質量部、添加してヘンシェルミキサーで5分間混合した。得られた混合物を溶融押出機で管状に押出し、約10℃の冷水槽で過冷却後、35℃の水中に通し、延伸温度30℃、長手(MD)方向に3.9倍、幅(TD)方向に4.4倍のインフレーション2軸延伸を行って得た管状フィルムをピンチロールで折りたたみ、厚み42μmの平坦長尺状のフィルムを作製した。その後スリッターを用いてシングルフィルムに剥離させ21μmの基材フィルムとした。
【0076】
〔汚れ防止フィルムの製造〕
セパレーター(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレート(PET)シート)にウレタン系粘着剤(主剤:サイアバインSH-101(100質量部)、硬化剤:(5質量部)、トーヨーケム化学(株)製)をセル深さ250μmでグラビアコーターを用いて点状(φ1mmの円形状の粘着剤を2mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=9%)にパターン塗工し、上記製造した基材フィルムをラミネートして巻き取り、40℃で2日間エージング後、基材フィルムのもう一方の面に背面処理剤(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、ピーロイル1050)を塗工し、セパレーターをデラミネートすることにより汚れ防止フィルムを製造した。デラミネート後の粘着層の厚みは22μmであった。
【0077】
〔汚れ防止フィルム巻回体の製造〕
上記のようにして製造した汚れ防止フィルム(幅:500mm、長さ:300m)を、220mm巾へスリットし、円筒状の芯管に汚れ防止フィルムを流れ方向に長さ10m分、巻き取ることにより汚れ防止フィルム巻回体(巾=220mm)を製造した。得られた汚れ防止フィルム巻回体において、フィルムの引出力は17cN/220mm巾であった。
【0078】
上記のようにして得られた基材フィルム、粘着層、汚れ防止フィルム、汚れ防止フィルム巻回体の物性を表1に示す。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性に優れた結果であった。
【0079】
[実施例2]
粘着剤の塗工パターンを点状(φ1.2mmの円形状の粘着剤を2mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=11%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性に優れた結果であった。
【0080】
[実施例3]
粘着層の塗工パターンを点状(φ1mmの円形状の粘着剤を1mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=20%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性、貼り付け時の固定性に優れた結果であった。
【0081】
[実施例4]
粘着層の塗工パターンを点状(φ2mmの円形状の粘着剤を1mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=35%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性、貼り付け時の固定性に優れた結果であった。
【0082】
[実施例5]
粘着層の塗工パターンを点状(φ5mmの円形状の粘着剤を1mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=55%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性、貼り付け時の固定性に優れた結果であった。
【0083】
[実施例6]
粘着層の塗工パターンを点状(φ10mmの円形状の粘着剤を1mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=65%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性、貼り付け時の固定性に優れた結果であった。
【0084】
[実施例7]
粘着層の塗工パターンを線状(巻回体の両端に巾20mmの線状粘着剤を連続して塗工、塗工面積割合=18%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。巻回体の巻姿は悪かったが、視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性に優れた結果であった。
【0085】
[実施例8]
粘着層の塗工パターンを線状+点状(巻回体の両端に巾20mmの線状粘着剤を連続塗工+前記線状粘着剤の間にφ1mmの円形状の粘着剤を1mm間隔で縦・横に規則的に塗工、塗工面積割合=34%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性、貼り付け時の固定性に優れた結果であった。
【0086】
[実施例9]
粘着層の塗工パターンを斜線状(MD方向に対して角度45度に傾けた巾20mmの斜線状粘着剤を50mm間隔で塗工、塗工面積割合=28%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。巻回体の巻姿は悪かったが、視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性に優れた結果であった。
【0087】
[実施例10]
粘着層の塗工パターンを線状+斜線状(巻回体の両端に巾20mmの線状粘着剤を連続塗工+前記線状粘着剤の間にMD方向に対して角度45度に傾けた巾20mmの斜線状粘着剤を50mm間隔で塗工、塗工面積割合=45%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性、貼り付け時の固定性に優れた結果であった。
【0088】
[実施例11]
粘着層の塗工パターンを格子状(巾5mmの粘着剤を30mm間隔で格子状に塗工、塗工面積割合=47%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。巻回体の巻姿は悪かったが、視認性、巻回体の引出性、キーボード操作性に優れた結果であった。
【0089】
[実施例12]
背面処理をしない以外は実施例5と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、貼り付け時の固定性、キーボード操作性は良好であったが、引出性が不適であった。
【0090】
[比較例1]
粘着層の塗工パターンを点穴状(全面に対して、粘着剤が無い部分(点穴)が部分的に配置され、前記点穴がφ1mmの円形状で且つ1mm間隔で縦・横に規則的に配置されて塗工、塗工面積割合=91%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、貼り付け時の固定性は良好であったが、キーボード操作性が不適であった。
【0091】
[比較例2]
粘着層が基材フィルムに対して全面に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして汚れ防止フィルムを製造し、汚れ防止フィルム巻回体を製造した。視認性、巻回体の引出性、貼り付け時の固定性は良好であったが、キーボード操作性が不適であった。
【0092】
実施例における粘着層のパターンを図4に示す。
【0093】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の汚れ防止フィルムは、例えばキーボードカバーなどのインターフェース保護材として、特に医療現場において、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4