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特許7138508アクリル系樹脂積層フィルム、その製造方法、及びそれを含む積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】アクリル系樹脂積層フィルム、その製造方法、及びそれを含む積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20220909BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220909BHJP
   B29C 48/18 20190101ALI20220909BHJP
   B29C 48/35 20190101ALI20220909BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/20 Z
B29C48/18
B29C48/35
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018148192
(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公開番号】P2020023083
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】信夫 正英
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109660(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136346(WO,A1)
【文献】特開2012-173487(JP,A)
【文献】特開2016-060910(JP,A)
【文献】特開2017-052921(JP,A)
【文献】特開2012-173486(JP,A)
【文献】特開平04-232049(JP,A)
【文献】特開2010-234738(JP,A)
【文献】デルペットTM(光学グレード)の物性,旭化成,https://www.akchem.com/pmma/products/pdf/be1866519c0c3470bcccbb25128385af_3.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 48/00-48/96
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低メルトフローレート層と、低メルトフローレート層に接するように配置された高メルトフローレート層を含むアクリル系樹脂積層フィルムであって
低メルトフローレート層は、アクリル系樹脂及びゴム弾性体粒子を含むアクリル系樹脂組成物で構成され、
高メルトフローレート層は、アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物で構成され、
低メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物のメルトフローレートは、高メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物のメルトフローレートより低く、
低メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物において、アクリル系樹脂は、230℃、37.3N荷重下におけるメルトフローレートが0.05g/10分以上0.95g/10分以下であり、
高メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物において、アクリル系樹脂は、230℃、37.3N荷重下におけるメルトフローレートが1.5g/10分以上25.0g/10分以下であり、
低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層が配置されており、
前記高メルトフローレート層の厚みが5μm以上100μm以下であり、
前記アクリル系樹脂積層フィルムの厚みが15μm以上300μm以下であることを特徴とするアクリル系樹脂積層フィルム。
【請求項2】
前記低メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物は、230℃、37.3N荷重下におけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.0g/10分未満である請求項1に記載のアクリル系樹脂積層フィルム。
【請求項3】
前記高メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物は、230℃、37.3N荷重下におけるメルトフローレートが1.0g/10分以上30.0g/10分以下である請求項1又は2に記載のアクリル系樹脂積層フィルム。
【請求項4】
前記低メルトフローレート層の厚みが5μm以上100μm以下である請求項1~のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層フィルム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層フィルムの製造方法であって、
低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物と、高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物を、低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層が配置されるように、ダイより共押出してフィルム状溶融物とし、
前記フィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込むことで積層フィルムを形成しており、
前記低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートは、前記高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートより低く、
前記積層フィルムは、厚みが15μm以上300μm以下であるであることを特徴とするアクリル系樹脂積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層フィルムと、前記アクリル系樹脂積層フィルムの少なくとも一方の主面上に配置されている機能層を含む積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂及びゴム弾性体粒子を含むアクリル系樹脂組成物で構成された低メルトフローレート層を含むアクリル系樹脂積層フィルム、その製造方法、及びそれを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂フィルムは、長期耐候性や透明性に優れることから、建材用途、自動車内装用途、光学用途等の様々な分野に幅広く使用されている。しかし、アクリル系樹脂フィルムは、耐衝撃性が低いという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1等では、エラストマー成分である架橋弾性体を含むアクリル系多層構造重合体を配合して耐衝撃性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-338792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、架橋弾性体を含むアクリル系多層構造重合体等のゴム弾性体粒子を含むアクリル系樹脂組成物のメルトフローレート(以下において、「MFR」とも記す。)を低くすると、該アクリル系組成物で構成されたアクリル系樹脂フィルムは表面硬度が向上し、キズが付きにくい。一方、アクリル系樹脂フィルムは、生産性及び作業環境性等に優れることから、溶融押出法で製造されることが多く、透明性を良好にすることから、ダイから押し出したフィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込み、薄いフィルムに成形することが好ましく用いられている。本発明者らは、架橋弾性体を含むアクリル系多層構造重合体等のゴム弾性体粒子を含むアクリル系樹脂組成物のメルトフローレートが低いと、挟み込み成形で薄いフィルムを作製する際の成形性が低下し、生産性が低下することを見出した。具体的には、低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物は、溶融後の粘度が高くて押出し難くいため、フィルムが分厚いほどラインスピードを上げ難く、生産性が悪かった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、表面硬度及び透明性が良好であるとともに、生産性が向上したアクリル系樹脂積層フィルム、その製造方法、及びそれを含む積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、低メルトフローレート層と、低メルトフローレート層に接するように配置された高メルトフローレート層を含むアクリル系樹脂積層フィルムであり、低メルトフローレート層は、アクリル系樹脂及びゴム弾性体粒子を含むアクリル系樹脂組成物で構成され、高メルトフローレート層は、アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物で構成され、前記低メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物のメルトフローレートは、前記高メルトフローレート層を構成するアクリル系樹脂組成物のメルトフローレートより低く、低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層が配置されているか、或いは、高メルトフローレート層の両側に低メルトフローレート層が配置されており、厚みが15μm以上300μm以下であることを特徴とするアクリル系樹脂積層フィルムに関する。
【0008】
また、本発明は、前記のアクリル系樹脂積層フィルムの製造方法であって、低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物と、高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物を、低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層が配置されるか、或いは、高メルトフローレート層の両側に低メルトフローレート層が配置されるように、ダイより共押出してフィルム状溶融物とし、前記フィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込むことで積層フィルムを形成しており、前記低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートは、前記高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートより低く、前記積層フィルムは厚みが15μm以上300μm以下であることを特徴とするアクリル系樹脂積層フィルムの製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、前記のアクリル系樹脂積層フィルムと、前記アクリル系樹脂積層フィルムの少なくとも一方の主面上に配置されている機能層を含む積層体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面硬度及び透明性が良好であるとともに、生産性が向上したアクリル系樹脂積層フィルム及びそれを含む積層体を提供することができる。また、本発明によれば、高い生産性で、表面硬度及び透明性が良好なアクリル系樹脂積層フィルムを作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した。その結果、ゴム弾性体粒子を含み、流動性が低い低メルトフローレートのアクリル系樹脂組成物を溶融押出法で挟み込み成形して薄いフィルムを作製する際、低メルトフローレート層に接するように、アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物で構成された高メルトフローレート層を配置することで、得られたアクリル系樹脂積層フィルムが良好な表面硬度及び透明性を保持しつつ、生産性が良好になることを見出した。
【0012】
(アクリル系樹脂積層フィルム)
アクリル系樹脂積層フィルムは、低メルトフローレート層と、低メルトフローレート層に接するように配置された高メルトフローレート層を含む多層フィルムであり、低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層が配置されていてもよく、高メルトフローレート層の両側に低メルトフローレート層が配置されていてもよい。アクリル系樹脂積層フィルムは、3層であってもよく、3層以上であってもよいが、コスト及び生産性の観点から、3層であることが好ましい。このように、低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層を配置した3層構造、或いは、高メルトフローレート層の両側に低メルトフローレート層が配置された3層構造にすると、2種3層のサンドイッチ構造であることから、反りも発生しない。また、3層ともアクリル系樹脂組成物で構成されていることから、互いの相溶性が高く、層同士が容易に剥離せず、互いの接着性が高い。
【0013】
<低メルトフローレート層>
低メルトフローレート層は、アクリル系樹脂及びゴム弾性体粒子を含むアクリル系樹脂組成物で構成されている。該低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートは、後述する高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートより低い。以下において、単に「MFR」とした場合、特に指摘がない限り、230℃、37.3N荷重下におけるメルトフローレートを意味する。
【0014】
アクリル系樹脂としては、特に限定されず、例えば、単量体成分としてメタクリル酸メチルを含有するアクリル系樹脂を使用できる。アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル由来の構成単位を30重量%以上100重量%以下、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマー由来の構成単位を0重量%以上70重量%以下含有することが好ましく、より好ましくはメタクリル酸メチル由来の構成単位を50重量%以上100重量%以下、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマー由来の構成単位を0重量%以上50重量%以下含有する。メタクリル酸メチル由来の構成単位の含有量が30重量%以上であれば、アクリル系樹脂特有の良好な光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が得られる。
【0015】
メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、芳香族ビニル誘導体、シアン化ビニル誘導体、及びハロゲン化ビニリデン等が挙げられる。これらは、1種であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0016】
アクリル系樹脂の耐熱性、剛性や表面硬度等を改善するため、アクリル系樹脂に対して特定の構造を有する構成単位を共重合、官能基修飾及び変性等により導入してもよい。このような耐熱性が良好なアクリル系樹脂としては、例えば、下記のようなものを挙げることができる。
1)共重合成分としてN-置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、
2)無水グルタル酸アクリル系樹脂、
3)ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、
4)グルタルイミドアクリル系樹脂、
5)水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、
6)芳香族ビニル単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体)、
7)上記6)の芳香族環を部分的に又は全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体)、及び
8)環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体。
【0017】
特に、耐熱性及び光学特性の観点から、メタクリル酸メチル由来の構成単位97重量%以上100重量%以下及びアクリル酸メチル由来の構成単位0重量%以上3重量%以下を含むアクリル系重合体や、4)グルタルイミドアクリル系樹脂をより好ましく用いることができる。
【0018】
アクリル系樹脂のガラス転移温度Tgは、使用する条件、用途に応じて設定することができる。好ましくはガラス転移温度Tgが100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらにより好ましくは120℃以上である。
【0019】
低MFR層に用いるアクリル系樹脂組成物は、成形性及び表面硬度の観点から、MFRが0.01g/10分以上1.0g/10分未満であることが好ましい。低MFR層に用いるアクリル系樹脂組成物のMFRは、成形性をより高める観点から、より好ましくは0.05g/10分以上であり、さらに好ましくは0.10g/10分以上である。また、表面硬度をより高める観点から、低MFR層に用いるアクリル系樹脂組成物のMFRは0.95g/10分以下であることがより好ましく、0.90g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0020】
低MFR層に用いるアクリル系樹脂のMFRは、例えば、成形性の観点から、0.05g/10分以上であってもよく、0.10g/10分以上であってもよい。また、低MFR層に用いるアクリル系樹脂のMFRは、表面硬度の観点から、0.95g/10分以下であってもよく、0.90g/10分以下であってもよい。
【0021】
低MFR層に用いるアクリル系樹脂は、特に限定されないが、MFRが低い観点から、重量平均分子量(Mw)が20万以上であることが好ましく、30万以上であることがより好ましい。前記アクリル系樹脂は、特に限定されないが、成形性の観点から、重量平均分子量(Mw)が200万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。本願において、アクリル系樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて測定したものである。
【0022】
ゴム弾性体粒子は、体積平均粒子径が80nm以上450nm以下であることが好ましく、100nm以上350nm以下がより好ましく、200nm以上300nm以下が特に好ましい。ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が80nm以上である場合、アクリル系樹脂組成物を用いて、十分に強度が高いフィルムを得やすい。ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が450nm以下である場合、透明性に優れるフィルムを得やすい。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0023】
ゴム弾性体粒子は、ゴム成分を有する重合体粒子であればよく、その組成は特に限定されない。例えば、ガラス転移温度Tgが20℃未満である重合体が挙げられ、具体的には、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体等のゴム状重合体が挙げられる。中でも、フィルムの耐候性や透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体が特に好ましい。ここで、(メタ)アクリル系架橋重合体は、アクリル系架橋重合体及びメタクリル系架橋重合体の両方を包含する意味である。
【0024】
(メタ)アクリル系架橋重合体としては、例えばアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂とも称される。)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル系ゴム(ASA樹脂とも称される。)等が挙げられる。透明性等の観点から、(メタ)アクリル系架橋重合体としては、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」ということがある。)を好ましく用いることができる。アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を少なくとも1段以上重合して得ることができる。
【0025】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体である。具体的には、アクリル酸エステル50重量%以上100重量%以下、及びアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体0重量%以上50重量%以下からなる単量体混合物(a-1)100重量部に対して、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体0.05重量部以上10重量部以下を重合させてなる、アクリル酸エステル系ゴム状重合体が好ましい。アクリル酸エステル、他のビニル系単量体、及び多官能性単量体を全部混合して1段で重合してもよく、或いは、アクリル酸エステル、他のビニル系単量体、及び多官能性単量体の組成を変化させて、又は同一の組成のまま、アクリル酸エステルと、ビニル系単量体と、多官能性単量体とが、2段階以上の多段階に分けて重合されてもよい。
【0026】
アクリル酸エステルが、アクリル酸と、R-OH(Rは炭化水素基)で表されるアルコールとのエステルである場合、Rとしての炭化水素基の炭素数は、重合性やコストの点より、1以上12以下が好ましい。このようなアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸n-オクチル等が挙げられる。これらのアクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
アクリル酸エステルの量は、単量体混合物(a-1)において、50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。アクリル酸エステルの量が50重量%以上であれば、アクリル系樹脂積層フィルムの耐衝撃性が良好になる。
【0028】
アクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、特に限定されず、例えば、メタクリル酸エステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、シアン化ビニル誘導体、ビニルエステル、芳香族ビニル誘導体、アクリル酸及びその塩、アクリル酸誘導体、メタクリル酸及びその塩、メタクリル酸誘導体、マレイン酸誘導体等を用いることができる。
【0029】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル等が挙げられる。
【0030】
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等が挙げられ、ハロゲン化ビニリデンとしては、例えば、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等が挙げられ、シアン化ビニル誘導体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられ、芳香族ビニル誘導体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等が挙げられ、アクリル酸誘導体としては、例えば、アクリル酸β-ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N-メチロ-ルアクリルアミド等が挙げられ、メタクリル酸誘導体としては、例えば、メタクリルアミド、メタクリル酸β-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられ、マレイン酸誘導体としては、例えば無水マレイン酸、N-アルキルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられ、アクリル酸の塩としては、例えばアクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等が挙げられ、メタクリル酸の塩としては、例えばメタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等が挙げられる。
【0031】
上述したアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐候性や透明性の点より、メタクリル酸エステル類、シアン化ビニル誘導体及び芳香族ビニル誘導体からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、メタクリル酸エステル類がより好ましい。
【0032】
アクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体の量は、単量体混合物(a-1)において、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。他のビニル系単量体の量が50重量%を超えると、アクリル系樹脂フィルムの耐衝撃性が低下しやすくなるおそれがある。
【0033】
多官能性単量体は、架橋剤及び/又はグラフト交叉剤として通常使用されるものでよい。多官能性単量としては、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート及びこれらのアクリレート類等を使用することができる。これらの多官能性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
多官能性単量体の量は、単量体混合物(a-1)100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下が好ましく、0.1重量部以上5重量部以下がより好ましい。多官能性単量体の配合量がかかる範囲内であれば、成形時における樹脂の流動性の観点から好ましい。
【0035】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体とグラフト共重合するメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(a-2)は、アクリル系樹脂との相溶性の観点より、メタクリル酸エステル50重量%以上100重量%以下と、メタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体0重量%以上50重量%以下を含むことが好ましい。単量体混合物(a-2)中のメタクリル酸エステルの量は、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。単量体混合物(a-2)中の他のビニル系単量体の量は、30重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0036】
単量体混合物(a-2)中のメタクリル酸エステルとしては、上述した単量体混合物(a-1)に用いるメタクリル酸エステルを適宜に選択して用いることができる。中でも、Rとしての炭化水素基の炭素数は、重合性やコストの点より、1以上4以下が好ましい。
【0037】
単量体混合物(a-2)中のメタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、上述した単量体混合物(a-1)に用いるアクリル酸エステルや他のビニル系単量体を適宜に選択して用いることができる。ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸n-ブチルからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0038】
アクリル系グラフト共重合体は、好ましくは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体5重量部以上90重量部以下の存在下に、単量体混合物(a-2)10重量部以上95重量部以下を、少なくとも1段階以上でグラフト共重合させることにより得られるものである。ただし、アクリル酸エステル系ゴム状重合体と、単量体混合物(a-2)との合計量が100重量部を満たすものとする。
【0039】
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には
、重合開始剤の存在下、乳化剤を用いて単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0040】
乳化重合法においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば有機系過酸化物、無機系過酸化物、及びアゾ化合物等の公知の開始剤を使用することができる。具体的には、t-ブチルハイドロパ-オキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパ-オキサイド、スクシン酸パ-オキサイド、パ-オキシマレイン酸t-ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機系過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機系過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を使用できる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
これらの開始剤は、熱分解型のラジカル重合開始剤として使用されてもよく、或いは、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせた、レドックス型重合開始剤系として使用されてもよい。なお、硫酸第一鉄はエチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム等の錯体と併用してもよい。
【0042】
また、重合開始剤と連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤は、通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いられる。連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、及びt-ドデシルメルカプタン等の炭素原子数2以上20以下の単官能或いは多官能のメルカプタン化合物、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
乳化重合に用いる乳化剤については、特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤を適宜に用いることができる。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤等を含むアニオン系界面活性剤が挙げられる。なお、上述した硫酸エステル塩系界面活性剤、スルホン酸塩系界面活性剤及びリン酸塩系界面活性剤において、ナトリウム塩は、カリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩であってもよい。また、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレン類の末端水酸基のアルキル置換体、ポリオキシアルキレン類の末端水酸基のアリール置換体等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤及び/又はリン酸塩系界面活性剤等が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等をより好ましく用いることができる。
【0044】
低MFR層用アクリル系樹脂組成物は、アクリル系樹脂を80重量%以上95重量%以下含み、ゴム弾性体粒子を5重量%以上20重量%以下含むことが好ましく、アクリル系樹脂を82重量%以上92重量%以下含み、ゴム弾性体粒子を8重量%以上18重量%以下含むことがより好ましい。低MFR層用アクリル系樹脂組成物中のゴム弾性体粒子の含有量が5重量%以上であると、耐衝撃性が良好なフィルムが得られやすい。低MFR層用アクリル系樹脂組成物中のゴム弾性体粒子の含有量が20重量%以下であると、透明性が良好なフィルムが得られやすい。
【0045】
低MFR層用アクリル系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、アクリル系樹脂フィルムに使用される従来公知の添加剤を含んでも良い。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、光拡散剤、艶消し剤、滑剤、顔料及び染料等の着色料、繊維状充填材、有機粒子や無機粒子からなるアンチブロッキング剤、金属や金属酸化物からなる赤外線反射剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
<高メルトフローレート層>
高メルトフローレート層は、アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物で構成されている。該高メルトフローレート層アクリル系樹脂組成物のMFRは、上述した低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物のメルトフローレートより高い。高メルトフローレート層は、ゴム弾性体粒子を含まない。このように、アクリル系樹脂及びゴム弾性体粒子を含む低メルトフローレート層と、アクリル系樹脂を含み、ゴム弾性体粒子を含まない高メルトフローレート層を積層することで、表面硬度を良好に保ちつつ、挟み込み成形で薄いフィルムを成形する際の生産性が向上する。ここで言う生産性の向上とは、低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物は、溶融後の粘度が高いので押出し難くいため、フィルムが分厚いほどラインスピードを上げ難い。しかし、本発明の積層フィルムは、高メルトフローレート層アクリル系樹脂組成物との積層によって低メルトフローレート層を薄くしたことで、フィルムの物性を下げることなく、ラインスピードを上げられることである。また、挟み込み成形時に、MFRが高いアクリル系樹脂組成物を用いると、ネックインが発生しやすくなるが、アクリル系樹脂及びゴム弾性体粒子を含む低メルトフローレート層と、アクリル系樹脂を含み、ゴム弾性体粒子を含まない高メルトフローレート層を積層することで、ネックインの発生も抑制される。また、高メルトフローレート層の両側に低メルトフローレート層が配置されている場合、すなわち、高メルトフローレート層が中間層の場合は、外層となる低メルトフローレート層がゴム弾性体粒子を含むことにより、滑り性が向上し、フィルム同士の貼り付けを抑制するとともに、搬送性も良好になる。
【0047】
高MFR層用アクリル系樹脂組成物のMFRは、成形性及び生産性の観点から、1.0g/10分以上30.0g/10分以下であることが好ましい。高MFR層用アクリル系樹脂組成物のMFRが1.0g/10分以上であることにより、流動性が高くなりアクリル系樹脂積層フィルムの成形性が良好になる。高MFR層用アクリル系樹脂組成物のMFRは、1.5g/10分以上であることがより好ましく、2.0g/10分以上であることがさらに好ましく、3.0g/10分以上であることがさらにより好ましく、4.0g/10分以上であることがさらにより好ましく、5.0g/10分以上であることがさらにより好ましい。高MFR層用アクリル系樹脂組成物のMFRが30.0g/10分以下であることにより、後述する低MFR層と併用した際の生産性が高まる。高MFR層用アクリル系樹脂組成物は、MFRが25.0g/10分以下であることがより好ましく、20.0g/10分以下であることがさらに好ましく、15.0g/10分以下であることがさらにより好ましい。
【0048】
高MFR層に用いるアクリル系樹脂は、例えば、MFRが1.5g/10分以上であることが好ましく、2.0g/10分以上であることがさらに好ましく、3.0g/10分以上であることがさらにより好ましく、4.0g/10分以上であることがさらにより好ましく、5.0g/10分以上であることがさらにより好ましい。高MFR層に用いるアクリル系樹脂は、例えば、MFRが1.5g/10分以上であることが好ましく、2.0g/10分以上であることがさらに好ましく、3.0g/10分以上であることがさらにより好ましく、4.0g/10分以上であることがさらにより好ましく、5.0g/10分以上であることがさらにより好ましい。また、高MFR層に用いるアクリル系樹脂は、例えば、MFRが25.0g/10分以下であることがより好ましく、20.0g/10分以下であることがさらに好ましく、15.0g/10分以下であることがさらにより好ましい。
【0049】
高MFR層用アクリル系樹脂は、特に限定されないが、MFRが高い観点から、重量平均分子量(Mw)が20万以下であることが好ましく、15万以下であることがより好ましい。MFR層に用いるアクリル系樹脂は、特に限定されないが、成形性の観点から、重量平均分子量(Mw)が5万以上であることが好ましい。
【0050】
高MFR層用アクリル系樹脂としては、高MFR層用アクリル系樹脂組成物のMFRが低MFR層用アクリル系樹脂組成物のMFRより低い限り、低メルトフローレート層に関する説明で列挙したアクリル系樹脂を適宜に選択して用いることができる。
【0051】
高メルトフローレート層アクリル系樹脂組成物は、必要に応じて、低メルトフローレート層に関する説明で列挙した添加剤を適宜に含んでもよい。
【0052】
アクリル系樹脂積層フィルムは、透明性に優れる観点から、ヘイズ値が1.3%以下であることが好ましく、1.1%以下であることがより好ましく、1.0%未満であることがさらに好ましい。本発明において、「ヘイズ」は、JIS K 7105に準じて測定するものである。
【0053】
フィルム系樹脂積層フィルムは、厚みが15μm以上300μm以下であればよく、30μm以上280μm以下であることが好ましい。フィルム系樹脂積層フィルムは、厚みが15μm以上300μm以下であると、生産性及び透明性が良好になる。高メルトフローレート層及び低メルトフローレート層は、成形性及び透明性を高める観点から、それぞれ、厚みが5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上80μm以下であることがより好ましい。反りを抑制する観点から、3層構造の場合、二つの外層の厚みは同じであることが好ましい。
【0054】
(アクリル系樹脂積層フィルムの製造方法)
アクリル系樹脂積層フィルムは、特に限定されないが、例えば、高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物と、低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物を、高メルトフローレート層の両側に低メルトフローレート層が配置されるか、或いは、低メルトフローレート層の両側に高メルトフローレート層が配置されるように、ダイより共押出してフィルム状溶融物とし、得られたフィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込むことで作製することができる。
【0055】
低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物及び高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物は、それぞれ、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより、ペレット状にすることができる。前記混練機の例としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられる。具体的には、スクリュー径が40mm以上200mm以下のベント式二軸押出機を用いて、バレル設定温度を180℃以上280℃以下として溶融混練し、ダイスよりストランドを引取り、水冷した後に、ペレタイザーを用いて切断して、ペレット状のアクリル系樹脂組成物を得ることができる。なお、高MFR層用アクリル系樹脂組成物がアクリル系樹脂からなる場合は、アクリル系樹脂ペレットをそのまま用いればよい。
【0056】
次に、低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物及び高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物を、それぞれ、好ましくは、Tダイを備えた押出機にて加熱溶融する。加熱溶融温度は、例えば、170℃以上270℃以下であることが好ましい。低メルトフローレート層が中間層であり、高メルトフローレート層が低メルトフローレート層の両側に配置される外層1、2である場合、低メルトフローレート層アクリル系樹脂組成物を中間層用押出機、高メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物を外層1用押出機及び外層2用押出機にて、それぞれ、加熱溶融する。或いは、高メルトフローレート層が中間層であり、低メルトフローレート層が高メルトフローレート層の両側に配置される外層1、2である場合、高メルトフローレート層アクリル系樹脂組成物を中間層用押出機、低メルトフローレート層用アクリル系樹脂組成物を外層1用押出機及び外層2用押出機にて、それぞれ、加熱溶融する。
【0057】
Tダイを備えた押出機としては、Tダイを備えた単軸押出機がより好適に使用できる。前記単軸押出機は、供給部、圧縮部及び計量部から構成されるもの、或いは、供給部、圧縮部、計量部及び混練部から構成されるものが使用できる。前記単軸押出機のスクリュー径は、40mm以上200mm以下が好ましく、70mm以上130mm以下がより好ましい。前記単軸押出機のL(スクリュー長)/D(スクリュー径)は、20以上40以下が好ましく、25以上35以下がより好ましい。また、押出機のスクリューの回転数を調整することで、高メルトフローレート層及び低メルトフローレート層の厚みを所望の値にすることができる。
【0058】
上述したアクリル系樹脂組成物は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂組成物の発泡を防ぐことができる。予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、ペレット状のアクリル系樹脂組成物を熱風乾燥機等で乾燥することが挙げられる。
【0059】
次に、押出機内で加熱溶融された樹脂組成物を、直前にフィードブロックを設けた共押出Tダイ、又はマルチマニホールド方式の共押出Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、アクリル系樹脂組成物の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。また、フィードブロック方式で三層フィルムを成形する際、厚みムラを低減させる観点から、加熱溶融させた高MFR層用アクリル系樹脂組成物及び低MFR層用アクリル系樹脂組成物の溶融粘度を、押出機の設定温度等で合わせることが好ましい。
【0060】
共押出Tダイより吐出されるアクリル系樹脂組成物は、ダイ出口のフィルム状溶融物の温度がTg-20℃以上Tg+180℃以下になるようにすることが好ましい。具体的には、ダイ出口のフィルム状溶融物の温度は、100℃以上300℃以下であることが好ましく、160℃以上280℃であることがより好ましい。ダイ出口のフィルム状溶融物の温度が上述した範囲内であることで、アクリル系樹脂組成物の溶融粘度が高過ぎず、フィルムに厚みムラが生じることがなく、樹脂の熱劣化が発生することもない。また、アクリル系樹脂組成物の溶融粘度が低過ぎず成形が容易になりやすい。
【0061】
次に、ダイから共押出されたフィルム状溶融物を、タッチロールとキャストロールで挟み込むことで、フィルム状溶融物に力が加わり、積層フィルムが形成される。この時、フィルム全幅を均一に押圧する観点から、押付荷重(kgf)をフィルム幅(cm)で除した値である線圧(kgf/cm)は、3kgf/cm以上であることが好ましい。また、幅方向で配向ムラ(例えば、微細な位相差ムラ)が生じないように、線圧(kgf/cm)は、30kgf/cm以下の範囲であることが好ましい。
【0062】
また、フィルム全幅を均一に押圧する観点から、タッチロールにはその用途で設計されたロールを用いることが好ましい。例えば、ゴムやシリコン等の比較的柔らかい材質のロールや、ロールの幅方向中央から両端部にかけてロール径が小さくなる構造のロール(クラウンロール)や、金属等の薄膜スリーブ(例えば、外側に配置)とゴム等の弾性ロール(例えば、内側に配置)の二重構造の弾性ロールを用いることができる。キャストロールは、タッチロールと同じロールを用いることも可能であり、異なるロールを用いることも可能である。例えば、タッチロール及びキャストロールとして異なるロールを用いる場合には、タッチロールとして弾性ロールを用い、キャストロールとして剛性ロールを用いることが好ましい。
【0063】
また、フィルム全幅を均一に押圧する観点から、キャストロールの温度は、アクリル系樹脂組成物のTg-40℃以上であることが好ましい。また、光学的に歪を生じさせない観点から、キャストロールの温度は、アクリル系樹脂組成物のTg以下であることが好ましい。タッチロールの温度は、キャストロールの温度と同じであってもよい。
【0064】
タッチロールとキャストロールにより挟み込まれて形成された積層フィルムは、次いで冷却ロールにより冷却されてもよい。冷却ロールとしては特に限定されず、適宜、公知のロールを用いることが可能である。例えば、前記タッチロール及びキャストロールと、同じロールを用いることも可能であり、異なるロールを用いることも可能である。冷却ロールの本数は特に限定されない。前記キャストロールで十分に冷却可能であれば冷却ロールを設けない構成としてもよい。また、冷却ロールの温度は、キャストロールの温度と同じであってもよい。
【0065】
タッチロールとキャストロールにより挟み込まれて形成された積層フィルムは、或いは挟み込み成形後に必要に応じて冷却ロールにより冷却された積層フィルムは、各種方法で引き取ることが可能である。ニップロールにより引き取り、その後、巻き取りコアに巻きつける方法で行うことができる。前記積層フィルムは、必要に応じて、延伸機により延伸してもよい。
【0066】
(積層体)
積層体は、上述したアクリル系樹脂積層フィルムと、該アクリル系樹脂積層フィルムの少なくとも一方の主面上に配置されている機能層を含む。機能層は1層でもよく、2層以上でもよい。また、機能層はアクリル系樹脂積層フィルムの一方の主面上に配置されてもよく、両方の主面上に配置されてもよい。
【0067】
機能層としては、特に限定されず、例えば、従来公知の種々の機能層を採用することができる。機能層の具体例としては、ハードコート層、反射防止層、防眩層、防汚層、耐指紋層、耐傷付き層、帯電防止層、紫外線遮蔽層、赤外線遮蔽層、表面凹凸層、光拡散層、艶消層、偏光層、着色層、意匠層、エンボス層、導電層、ガスバリア層、ガス吸収層等が挙げられる。積層体は、これらの機能層を、2種以上組み合わせて備えていてもよい。また一つの機能層が、二つ以上の複数の機能を兼ね備えても良い。反射防止層は、低屈折率層で構成されてもよく、高屈折率層及び低屈折率層の両方で構成されてもよい。
【0068】
各機能層の厚みは特に限定されず、積層体の使用目的や、機能に応じて適宜設定される。機能層の厚みは、例えば、0.1μm以上20μm以下であってもよく、1μm以上10μm以下であってもよい。
【0069】
機能層は、ラミネート等の方法によりアクリル系樹脂積層フィルムの一方又は両方の主面上に積層されてもよく、機能層形成用の塗布液を用いてアクリル系樹脂積層フィルムの一方又は両方の主面上に形成してもよい。また、機能層は、プライマーや粘着剤や、粘着性のフィルム等を介して、アクリル系樹脂積層フィルムの一方又は両方の主面上に積層されてもよい。機能層の形成方法としては、大面積のアクリル系樹脂積層フィルムの上でも均一な加工が容易であることや、アクリル系樹脂積層フィルムに対する密着性に優れる機能層を形成できることから、有機溶剤を含む機能層形成用の塗布液を用いる方法が好ましい。
【0070】
典型的な積層体の製造方法としては、アクリル系樹脂積層フィルムの少なくとも一方の主面に、有機溶剤を含む機能層形成用の塗布液を塗布して塗布膜を形成することと、塗布膜を、乾燥させるか、或いは乾燥及び硬化させて機能層を形成することと、を含む方法が挙げられる。
【0071】
塗布液を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、キスコート法、ワイヤーバーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0072】
塗布膜の乾燥温度は、有機溶剤を塗布膜から除去できる限りにおいて特に限定されない。乾燥温度は、アクリル系樹脂積層フィルムに変形が生じない程度の範囲の温度に適宜設定される。硬化方法は、所望する機能層を形成できる限りにおいて特に限定されない。硬化方法は、塗布液の組成に応じて適宜選択される。典型的には、塗布膜の硬化は、加熱、又は紫外線等のエネルギー線を露光するにより行われる。また、塗布液が水分硬化型の組成物である場合には、加熱や露光を行うことなく、塗布膜を静置することにより硬化を進行させられる場合がある。
【実施例
【0073】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0074】
(製造例1:ゴム弾性体粒子(アクリル系グラフト共重合体)の作製)
撹拌機付き8L重合装置に、脱イオン水を180重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(乳化剤)を0.031重量部、ホウ酸を0.4725重量部、炭酸ナトリウムを0.04725重量部、及び水酸化ナトリウムを0.0098重量部仕込んだ。次いで、重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、重合開始剤である過硫酸カリウム0.027重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物27重量部(メタクリル酸メチル93.2重量%、アクリル酸ブチル6重量%、スチレン0.8重量%)、多官能性単量体であるメタクリル酸アリル0.135重量部、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタン0.3重量部、及び乳化剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.0934重量部を81分かけて連続的に添加した。さらに60分重合を継続することにより、重合物(I)を得た。
その後、重合物(I)に、水酸化ナトリウム0.0267重量部を2重量%水溶液の形態で添加し、過硫酸カリウム0.08重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物27重量部(アクリル酸ブチル82重量%、スチレン18重量%)、メタクリル酸アリル0.75重量部、及びポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.2328重量部を150分かけて連続的に添加した。添加終了後、開始剤である過硫酸カリウム0.015重量部を2%水溶液の形態で添加し、120分重合を継続し、重合物(II)を得た。
その後、重合物(II)に、過硫酸カリウム0.023重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物15重量部(メタクリル酸メチル95重量%、アクリル酸ブチル5重量%)を45分かけて連続的に添加し、さらに30分間重合を継続した。次いで、単量体混合物8重量部(メタクリル酸メチル52重量%、アクリル酸ブチル48重量%)を25分かけて連続的に添加し、さらに60分重合を継続することにより、多段重合グラフト共重合体ラテックスを得た。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多段重合のアクリル系グラフト重合体を得た。得られたアクリル系グラフト共重合体の平均粒子径は221nmであった。
【0075】
(製造例2:アクリル系樹脂組成物の作製)
製造例1で得られたゴム弾性体粒子(アクリル系グラフト共重合体)と、ポリメタクリル酸メチル構造単位100重量%のアクリル系樹脂a(Mw:35万、230℃かつ37.3N荷重下のMFR:0.8g/10分)とを15:85の重量比にて混合した。続いて、得られた混合物を、スクリュー径が58mmのベント式二軸押出機(バレル温度:
270℃)にて、溶融押出を行い、押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂組成物を水槽で冷却し、ペレタイザーで切断してペレット状の中間層形成用アクリル系樹脂組成物を得た。得られたペレット状のアクリル系樹脂組成物の230℃かつ37.3N荷重下のMFRは0.3g/10分であり、ガラス転移温度Tgは120℃であった。
【0076】
ポリメタクリル酸メチル構造単位100重量%のアクリル系樹脂b(Mw:5万、230℃、かつ37.3N荷重下のMFR:11.0g/10分)を外層1、及び2形成用として使用した。
【0077】
(実施例1)
製造例2で得られたアクリル系樹脂組成物(Mw:35万、230℃、かつ37.3N荷重下のMFR:0.3g/10分)を中間層形成用押出機にて、アクリル系樹脂bを外層1形成用押出機及び外層2形成用押出機にてそれぞれ270℃で加熱溶融した。押出機としては、スクリュー径が90mmベント式単軸押出機(L/D=38)を用いた。次いで、ギアポンプを介して、溶融したアクリル系樹脂組成物を、フィードブロックを設けた共押出Tダイに供給し、Tダイより共押出してフィルム状溶融物を得た。押出機のスクリューの回転数(rpm)は、外層1/中間層/外層2=20/28/20であった。ダイ出口のフィルム状溶融物の温度を250℃とした。得られたフィルム状溶融物に対して、表面温度が95℃のキャストロールと表面温度が85℃のタッチロールにて挟み込み(線圧16kgf/cm)、外層1及び2の厚みが20μmであり、中間層の厚みが40μmであるアクリル系積層フィルムを得た。
【0078】
(比較例1)
製造例2で得られたアクリル系樹脂組成物(Mw:35万、230℃、かつ37.3N荷重下のMFR:0.3g/10分)のみを中間層形成用押出機に供給してダイより押出してフィルム状溶融物となるように溶融押出し、中間層形成用押出機の回転数(rpm)を60とすることでフィルムの厚みが80μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして厚みが80μmである単層のアクリル系樹脂フィルムを得た。
【0079】
実施例及び比較例で用いたアクリル系樹脂及びアクリル系樹脂組成物のMFR、ガラス転移温度は下記のとおりに測定した。実施例及び比較例で得られたフィルムの表面硬度、及び、ヘイズを下記のとおりに測定・評価した。これらの結果を下記表1に示した。下記表1において、PMMAはポリメタクリル酸メチル構造単位100重量%のアクリル系樹脂を意味する。
【0080】
(MFR)
JIS K 7210-1999 B法に準拠して求めた。具体的には、メルトインデクサー(MI)を用い、周囲にヒータを二重に装備した加熱筒に一定量の試料を挿入し、230℃、37.3N荷重下で底部の細孔(オリフィス形状;直径2.095mm、長さ8.00mm)から押し出し、10分間あたりの試料の押出量に基づいて、MFR(g/10分)を算出した。
【0081】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC-5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
【0082】
(表面硬度)
鉛筆硬度試験機(株式会社マイズ試験機社製、No.601-BI)により、JIS
K 5600に準拠して、フィルムの鉛筆硬度を測定した。測定条件は、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。
【0083】
(ヘイズ)
ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH2000)により、JIS K 7105に準拠して、フィルムの全ヘイズを測定した。測定条件は、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。
【0084】
【表1】
【0085】
上記表1のデータから分かるように、実施例1の低メルトフローレート層と、低メルトフローレート層の両側に配置された高メルトフローレート層を含むアクリル系積層フィルムは、比較例1の低メルトフローレート層のみで構成された同じ厚みのアクリル系フィルムに比べて、生産性が向上していた。
また、実施例1のアクリル系積層フィルムは、同じ厚みの比較例1のアクリル系フィルムに比べて、透明性がより高かった。これは、比較例1のゴム弾性体粒子を含む低メルトフローレート層のみで構成されたアクリル系フィルムでは、フィルムの表面からゴム弾性体粒が部分的に突出することでフィルムの表面にゴム弾性体粒子の凹凸挙動が発生するため、凸凹によってヘイズ(主に外部ヘイズ)が高くなり、透明性が低下するのに対し、実施例1では、ゴム弾性体粒子を含まない高メルトフローレート層を、ゴム弾性体粒子を含む低メルトフローレート層の両側に配置することで、低メルトフローレート層のゴム弾性体粒子による凹凸がキャンセルされる(平滑性が向上される)ため、ヘイズが低下し、透明性が向上したと推測される。
また、実施例1のアクリル系積層フィルムは、同じ厚みの比較例1のアクリル系フィルムに比べて、表面硬度がより高かった。これは、比較例1のゴム弾性体粒子を含む低メルトフローレート層のみで構成されたアクリル系フィルムでは、フィルムの表面からゴム弾性体粒が部分的に突出することでフィルムの表面にゴム弾性体粒子の凹凸挙動が発生するため、表面硬度が低下する(具体的には、鉛筆硬度試験時に柔らかい部分であるゴム弾性体粒子が当たってしまい、アクリル系樹脂より硬度が低下する)のに対し、実施例1では、ゴム弾性体粒子を含まない高メルトフローレート層を、ゴム弾性体粒子を含む低メルトフローレート層の両側に配置することで、低メルトフローレート層のゴム弾性体粒子による凹凸がキャンセルされることで、表面硬度が向上したと推測される。