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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】金属の連続鋳造法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/049 20060101AFI20220909BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20220909BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20220909BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
B22D11/049
B22D11/00 E
B22D11/124 Q
B22D11/22 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018149139
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020022984
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】諸崎 友人
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-143471(JP,A)
【文献】特開2011-016149(JP,A)
【文献】特開平01-233051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22,27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の溶湯ないし半凝固状態の鋳塊からなる被冷却物を鋳型の内側から引き抜きながら、冷却水を前記被冷却物に直接接触させて前記被冷却物を冷却する金属の連続鋳造法であって、
冷却水として、水よりも高い熱伝導率を有する高熱伝導粒子が添加された冷却水を用い
前記高熱伝導粒子として、金属酸化物粒子、金属炭化物粒子、金属窒化物粒子、金属複合酸化物粒子、金属複合炭化物粒子、金属複合窒化物粒子及びセラミック粒子からなる群より選択される少なくとも一種が用いられる金属の連続鋳造法。
【請求項2】
前記高熱伝導粒子の平均粒径が10nm~100μmの範囲である請求項記載の金属の連続鋳造法。
【請求項3】
前記冷却水に対する前記高熱伝導粒子の濃度が0.001~50質量%の範囲である請求項1又は2記載の金属の連続鋳造法。
【請求項4】
前記冷却水の粘度が前記冷却水の使用時の温度において1Pa・s以下である請求項1~のいずれに記載の金属の連続鋳造法。
【請求項5】
前記冷却水は界面活性剤を含む請求項1~のいずれかに記載の金属の連続鋳造法。
【請求項6】
金属がアルミニウム又はアルミニウム合金である請求項1~のいずれかに記載の金属の連続鋳造法。
【請求項7】
前記冷却水のpHが4~9の範囲である請求項記載の金属の連続鋳造法。
【請求項8】
前記冷却水のpHが6~8の範囲である請求項記載の金属の連続鋳造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム等の金属の連続鋳造法に関する。
【0002】
なお、本明細書及び特許請求の範囲では、文中に特に明示した場合を除き、「連続鋳造」の語は半連続鋳造を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム合金からなる部品への需要が高まる中、その素材である連続鋳造棒の生産性と機械的特性を上げることが望まれている。なかでも、鋳造用を主として、共晶、過共晶組成のAl-Si系合金の用途が拡大され、その耐摩耗性等の特性を生かして工業材料として使用されるようになっている。
【0004】
また、自動車の燃費規制強化にともない、その部品の材料となるアルミニウム合金の軽量化と更なる高強度化が求められているため、微細な結晶粒子を有するアルミニウム合金が求められている。
【0005】
そのようなアルミニウム合金を得るためには、機械的特性を決定する重要な因子である晶出温度の制御及び凝固温度近傍での急冷凝固の制御が重要である。急速冷却によって機械的特性を向上させた連続鋳造棒を得る鋳造法として、冷却水を金属の溶湯ないしその半凝固物に直接衝突させて冷却する直接冷却鋳造法(ダイレクトチル鋳造法)がある。
【0006】
金属の連続鋳造法において、冷却水が沸騰する領域での使用について、鋳塊の割れ、そり、くびれを抑制するために冷却速度を低下させる提案は行われていた(例えば、特開平05-057400号公報(特許文献1)、特開平06-142847号公報(特許文献2))。
【0007】
また、熱伝導性が改良された媒体については、以下の3件の文献をはじめ、さまざまに提案されているが、金属の連続鋳造法において冷却速度向上を目的とした先行文献はなかった。
【0008】
特開昭54-94481号公報(特許文献3)には、熱媒体の伝熱性状を改質する方法において熱媒体中にAlのような金属の微粉を分散せしめた組成物が提案されている。
【0009】
特開昭61-291388号公報(特許文献4)には、熱伝導促進手段として媒体中に分散せしめた熱伝導率の大きいセラミック粉末及び三次元網目状構造により形成される空洞中に媒体を充填した発泡金属又は発泡セラミックが提案されている。
【0010】
特開昭62-129378号公報(特許文献5)には、多価アルコール系材料の熱伝導率を改良するために多価アルコール中に金属及び/又はグラファイトを均一に分散せしめた組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平05-057400号公報
【文献】特開平06-142847号公報
【文献】特開昭54-94481号公報
【文献】特開昭61-261388号公報
【文献】特開昭62-129378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
金属の連続鋳造棒の機械的特性を向上させるという課題の解決のため、冷却速度を上げる方策が採られているが、現在、冷却水として水のみが使用されており、その向上には限界がある。この限界を超えるために、さらなる冷却速度向上が求められている。
【0013】
また、ダイレクトチル鋳造法では、冷却速度を決定する重要な因子の一つとして、冷媒の熱伝導率があり、冷媒の熱伝導率が高いほど冷却速度は向上するが、冷媒の熱伝導率の改良による冷却速度向上は行われてこなかった。また、実用化されている金属の殆どは、冷媒つまり水の沸点よりも高い温度から冷却されるため、機械的特性を決定するのに重要な晶出温度及び凝固温度近傍において、ライデンフロスト現象により十分が冷却速度を得られないという問題がある。
【0014】
本発明は、金属の連続鋳造時の冷却速度向上における課題を解決しようとするものであって、鋳造時に用いる冷却用媒体に、熱伝導改良材として金属微粒子などを添加することで、冷却用媒体の熱伝導率が改良され、且つ、被冷却物である金属を、酸や塩基により腐食しにくいように改良した冷却用媒体を提供することを目的の一つとするものである。特に、ポットトップ鋳造法のように、表層が凝固し内部が液体の状態という半凝固状態のアルミニウム又はアルミニウム合金の鋳造時に所定の冷却水を使用することで、金属組織の微細化に重要な温度領域の冷却速度が向上し、組織が微細化しやすくなるため、今後のアルミニウム合金のさらなる高強度化に対する課題の解決手段の一つとなると期待できる。
【0015】
また、本発明は、冷媒に対し、冷媒より熱伝導率が高い固体を添加することにより、冷媒による冷却に加え、固体による冷却によって、冷媒の沸点温度以上である金属の晶出温度及び凝固温度近傍における冷却速度を向上させることも目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は以下の手段を提供する。
【0017】
1) 金属の溶湯ないし半凝固状態の鋳塊からなる被冷却物を鋳型の内側から引き抜きながら、冷却水を前記被冷却物に直接接触させて前記被冷却物を冷却する金属の連続鋳造法であって、
冷却水として、水よりも高い熱伝導率を有する高熱伝導粒子が添加された冷却水を用いる金属の連続鋳造法。
【0018】
2) 前記高熱伝導粒子として、金属酸化物粒子、金属炭化物粒子、金属窒化物粒子、金属複合酸化物粒子、金属複合炭化物粒子、金属複合窒化物粒子及びセラミック粒子からなる群より選択される少なくとも一種が用いられる前項1記載の金属の連続鋳造法。
【0019】
3) 前記高熱伝導粒子の平均粒径が10nm~100μmの範囲である前項1又は2記載の金属の連続鋳造法。
【0020】
4) 前記冷却水に対する前記高熱伝導粒子の濃度が0.001~50質量%の範囲である前項1~3のいずれかに記載の金属の連続鋳造法。
【0021】
5) 前記冷却水の粘度が前記冷却水の使用時の温度において1Pa・s以下である前項1~4のいずれに記載の金属の連続鋳造法。
【0022】
6) 前記冷却水は界面活性剤を含む前項1~5のいずれかに記載の金属の連続鋳造法。
【0023】
7) 金属がアルミニウム又はアルミニウム合金である前項1~6のいずれかに記載の金属の連続鋳造法。
【0024】
8) 前記冷却水のpHが4~9の範囲である前項7記載の金属の連続鋳造法。
【0025】
9) 前記冷却水のpHが6~8の範囲である前項7記載の金属の連続鋳造法。
【発明の効果】
【0026】
本発明は以下の効果を奏する。
【0027】
前項1では、冷却水の熱伝導率が水そのものよりも高くなるため、被冷却物を効率よく冷却することができる。また、冷却水の沸騰により発生した蒸気膜によって冷却水と被冷却物との間の熱伝達が不十分な場合(例:ライデンフロスト現象が発生した場合)であっても、冷却水中の高熱伝導粒子が被冷却物を冷却することで、被冷却物を効率よく冷却することができる。
【0028】
前項2では、被冷却物を確実に効率よく冷却することができる。
【0029】
前項3では、高熱伝導粒子の平均粒径が10nm以上であることにより、高熱伝導粒子を冷却水中に分散しやすい。高熱伝導粒子の平均粒径が100μm以下であることにより、冷却水中での高熱伝導粒子の沈殿を抑制しやすくなるし、高熱伝導粒子の被冷却物との接触面積が小さいことによる冷却効果の減少を抑制することができる。
【0030】
前項4では、高熱伝導率粒子の濃度が0.001質量%以上であることにより、冷却効果の向上が大きい。高熱伝導率粒子の濃度が50質量%以下であることにより、冷却水として扱いやすい。
【0031】
前項5では、冷却水の粘度が1Pa・s以下であることにより、冷却水として扱いやすい。
【0032】
前項6では、高熱伝導粒子が例えば凝集しやすい粒子である場合であっても、冷却水が界面活性剤を含むことにより、高熱伝導粒子を冷却水中により分散させやすくすることができ、高熱伝導粒子の凝集による冷却能力低下を抑制できる。
【0033】
前項7では、金属としてのアルミニウム又はアルミニウム合金の連続鋳造法に適用することにより、冷却速度が向上する。
【0034】
前項8及び9では、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる連続鋳造棒の腐食を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る金属の連続鋳造法に用いられる連続鋳造装置としてのホットトップ鋳造装置の概略断面図である。
図2図2は、実施例に用いたアルミニウム合金試料の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0037】
本発明の一実施形態に係る金属の連続鋳造法は、例えば、図1に示すように、連続鋳造装置としてホットトップ鋳造装置1を用いたホットトップ鋳造法により金属を連続鋳造して金属鋳造棒を製造するものである。
【0038】
ホットトップ鋳造装置1は、鋳型(モールド)2、溶湯受槽3などを具備している。鋳型2はその内部に充填された一次冷却水としての冷却水5により冷却されている。また、鋳型2には鋳型2内の冷却水5を二次冷却水として噴射する噴射口4が設けられている。溶湯受槽3は鋳型2の上側に設置されている。
【0039】
溶湯受槽3内に供給された金属の溶湯7は、冷却された鋳型2の内側に受槽3から下方向に注入される。すると、溶湯7は、鋳型2との接触により一次的に冷却されて半凝固状態の鋳塊8になる。この状態の鋳塊8は一般的にその外周部に凝固殻が形成されている。そして、この状態の鋳塊8を鋳型2の内側から下方向に連続的に引き抜きながら、鋳型2の内側から引き抜かれた直後の当該鋳塊8に鋳型2の噴射口4から冷却水5を噴射して当該鋳塊8の表面に冷却水5を直接接触させる。これにより、当該鋳塊8が所定の冷却速度で二次的に冷却されてその大部分が凝固する。
【0040】
上述した金属の連続鋳造法では、冷却水5として、水よりも高い熱伝導率を有する高熱伝導粒子(図示せず)が水に添加分散されたものが用いられる。
【0041】
高熱伝導粒子としては、金属酸化物粒子、金属炭化物粒子、金属窒化物粒子、金属複合酸化物粒子、金属複合炭化物粒子、金属複合窒化物粒子及びセラミック粒子からなる群より選択される少なくとも一種が用いられる。
【0042】
ここで、本実施形態では、一次冷却水及び二次冷却水として共通の冷却水5が用いられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明では冷却水5は二次冷却水としてだけに用いられても良い。
【0043】
本実施形態における金属の連続鋳造法についてその作用・効果と併せて以下に説明をする。
【0044】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、例えば水のようなベース流体の熱伝導率をベース流体そのものよりも高くするため、鋳造時における被冷却物(即ち金属の溶湯ないし半凝固状態の鋳塊)を効率よく冷却することができる。また、流体(即ち冷却水)の沸騰により発生した蒸気膜によって流体と被冷却物との間の熱伝達が不十分な場合であっても、流体中の粒子が被冷却物を冷却することで、被冷却物を効率よく冷却することが期待できる。
【0045】
ベース流体は、水の他に既知の任意の熱伝達液体を含むことが可能である。
【0046】
もちろん、水を含んでいれば、油を分散剤とした熱媒体としても使用できるが、有機溶剤を加えても良い。有機溶剤を用いる場合は、酸化力や還元力のある溶剤でなければ、そのまま使用できる。本実施形態では、特に金属の鋳造時の冷却効率(冷却速度)を大きくするためであるから、熱媒体としても大きな温度差の加熱/冷却に使用するのが効果的である。すなわちベース流体には広い温度範囲で安定した液体であるものが好ましく用いられる。高熱伝導の特性を生かすために、沸点が100℃以上の溶剤を用い、広い温度範囲に適用するのが良いが、難燃性となるように、含有量を減らすか、引火点や発火点以下で使用することが好ましい。さらに好ましくは凝固点が0℃以下のものを選ぶと良い。
【0047】
ナノ粒子およびミクロン粒子は、相対的に大きな比表面積を持っているので、ベース流体の熱伝達能力を改善することが期待される。使用する金属やセラミックは、ベース流体より熱伝導率が高ければ構わないが、好ましくは熱伝導率が大きいCu、AgやSiC、Al(アルミナ)およびその合金や複合物およびそれらの組合せから選択するのが良い。
【0048】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、高熱伝導粒子の平均粒径が10nm~100μmの範囲であることが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0049】
粒子の平均粒径(直径)が大きい場合、例えば100μmより大きい場合では、ベース流体中に沈殿しやすくなり、後述する機械的輸送時に用いるポンプやスクリューへの負荷が大きくなる場合や、非使用時での粒子の沈殿または凝集により、流体が搬送できない状態や機械の破損が起きやすくなるため、好ましくない。また、例えば平均粒径10mmの固体を用いる場合では、配管を閉塞させることが考えられるため、使用は好ましくない。また、粒子の平均粒径が大きすぎる場合では、高熱伝導粒子の被冷却物との接触面積が小さく、冷却効果が減少する。一方で、粒子の平均粒径が小さい場合、例えば10nm未満では、気液界面や固液界面での凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる場合が考えられる。
【0050】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、冷却水に対する高熱伝導粒子の濃度が0.001~50質量%の範囲であることが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0051】
熱媒体(即ち冷却水)に対する高熱伝導粒子の濃度は、流動性を必要とする観点からは低い方が好ましいが、冷却効率を必要する観点からは高い方が好ましく、使用時の状況に応じて判断される。高熱伝導粒子の濃度は、好ましくは熱媒体全体の質量に対して0.001質量%以上50質量%以下である。0.001質量%未満では、熱媒体中に存在する高熱伝導粒子の比率が低く、熱媒体として高熱伝導粒子を添加した効果に乏しい。50質量%を超えると充填率が大きすぎ、液体としての流動性が低下する場合がある。
【0052】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、冷却水の粘度が冷却水の使用時の温度において1Pa・s以下であることが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0053】
熱媒体(即ち冷却水)の粘度は、機械的に熱媒体を移動させる場合に重要になる。もちろん自然対流を用いた状況でも使用は可能であるが、効率的に好ましいものではない。特に、ホットトップ鋳造法やフロート鋳造法などが提案されているアルミニウムやその合金を含む金属の一般に普及している鋳造工程においては、ポンプやスクリューによって熱媒体の圧力や流量を上げ、熱媒体を鋳造対象の金属に衝突させる際に、流速を上げることで冷却速度を向上させている。ここで熱媒体の粘度が大きいと、金属への衝突時に熱媒体が十分な流速を持たず、熱伝達の抵抗となる。また、層流状態または層流状態に近くなる場合もあるため、熱伝達の抵抗となる、粘度が低ければ、十分な流速を保つことができ、熱伝達の抵抗が大幅に減少する。したがって、使用時における熱媒体の粘度は小さいほど好ましいことになる。本実施形態では、使用温度で1Pa・s以下となるような使用状況を推奨する。好ましくは、ホットトップ鋳造法における冷却水の水量として、鋳造棒の直径1インチ当たり1L/min以上の流量を維持できる程度の粘度が好ましい。なお、冷却水の粘度を使用時の温度で規定したのは、冷却水の粘度が温度により大幅に変化する場合があるからである。
【0054】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、冷却水は界面活性剤を含むことが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0055】
凝集が起こりやすい高熱伝導粒子を用いる場合には、界面活性剤を用いることで、界面張力の低下と濡れ性の向上により、分散を促進し、凝集による冷却能力低下や配管閉塞といった問題を起こりにくくすることとができる。
【0056】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0057】
特にダイレクトチル鋳造法で、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造する際に、冷却水を本実施形態の上述した冷却水5に代替すると、冷却速度の向上が期待できる。さらに、既存設備をそのまま使用することができるため、新規設備導入の投資額が少ない。
【0058】
本実施形態における金属の連続鋳造法では、金属がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合において、冷却水のpHが4~9の範囲であることが望ましい。その理由は次のとおりである。
【0059】
これは、アルミニウムまたはアルミニウム合金の性質として、pH4~9の範囲外では、酸化や還元といった反応により、腐食が起こりやすくなるためである。pH4~9の範囲であっても、緩やかに腐食が進行する場合があるが、冷却用媒体が触れる時間は、鋳造時の時間のみである上、アルミニウム表面の酸化皮膜によって、腐食が殆ど進行しないため、問題はない。
【0060】
さらに、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造する際に、特に腐食しやすい2000系や7000系合金を鋳造する場合や、配管内に腐食しやすい金属を使用している場合には、pHが6~8の範囲内である冷却用媒体を用いることが望ましい。
【0061】
以上で本発明の実施形態を説明したが本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。
【0062】
本発明では、冷却水は、特別な設備を使用せず、金属(合金を含む)の鋳塊の製造に用いても良いが、既存のホットトップ鋳造法やフロート鋳造法などのダイレクトチル鋳造法の設備を使用し、金属の鋳塊を製造することに用いても良く、その方法および設備においては限定をしない。
【0063】
また本発明に係る金属の連続鋳造法は、金属の水平連続鋳造法であっても良い。
【実施例
【0064】
本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に示す。ただし本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0065】
図2に示すように、熱電対11を鋳込んだ、Siを14質量%、Cuを4質量%、Mgを0.5質量%含有したアルミニウム合金の逆円錐台状の試料10を加熱した後、冷却して、その際の冷却速度を測定した。条件は次に示すとおりである。
【0066】
また、水に添加する高熱伝導粒子として、水よりも高い熱伝導率を有するSiC粒子(270W/(m・K))を選択し、その効果を検証した。
【0067】
1)試料寸法:上面φ105mm×下面φ62mm×高さ125mm
2)測温部分:鋳塊内部(上面から35mm、中心から10mm)
3)測温範囲:450~300℃
4)昇温条件:500℃の電気炉内で試料10を2時間保持し、試料温度を480℃まで上昇させる。
【0068】
5)冷却水量:10L
6)冷却水容器内寸法:上面φ269.66mm×下面φ245mm×高さ205.5mm-試料体積mm
7)冷却水温:開始10℃
8)冷却条件:試料温度が450℃まで上昇した後、火ばさみで取り出してから、即座に冷却水中に試料全面を浸漬する。この時、試料10と冷却水容器は非接触状態で、300℃未満に試料10が冷却されるまで、火ばさみで冷却水中に浮遊した状態に試料10を保持する。この時、450℃~300℃までの時間を冷却時間として定義した。
【0069】
9)高熱伝導粒子:SiC粒子、平均粒径4μm(#3000)、1質量%、媒体はSiC粒子のみを含み、10Lとする。
【0070】
10)測温条件
・熱電対11:K熱電対クラス2
・測定頻度:100ms。
【0071】
さらに、シミュレーション条件を以下に示す。
【0072】
1)計算ソフト:ANSYS fluent18.0
2)計算手法:有限要素法、倍精度、圧力ベースソルバ、混相流モデル:VOF法、乱流モデル:k-ωSST、非定常計算
3)物性値:表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1において、水の粘度および熱伝導率は、熱物性ハンドブック、日本熱物性学会、養賢堂、2008年表を参考に計算した。
【0075】
4)混合物物性値計算法(Tc:混合物の熱伝導率、_c:混合物、_s:溶質、_l:溶媒、a:体積分率、k:熱伝導率、ρ:密度)
・ρ_c=ρ_s×a+ρ_l(1-a)
・Cp_c=(ρ_s×a×Cp_s+ρ_l(1-a)Cp_l)/ρ_c
・Tc_c=k_l{k_l(1-a(2/3))+k_s×a(2/3)}/{k_l(1-a(2/3)+a)+k_s(a(2/3)-a)}
・体積分率を立方体で置換し一次元熱伝導で計算
・μ_c:スラリーについては、不明なため、水で計算
5)試料寸法:上面φ105mm×下面φ62×高さ125mm
6)冷媒体積:上面φ269.66mm×下面φ245mm×高さ205.5mm-試料体積mm
7)試料位置:冷媒中心
8)初期温度:冷媒18℃、試料500℃
9)測温位置:上面から35mm、中心から10、20、30mm
10)冷却時間:10mm地点が450℃に到達してから300℃に到達するまでの時間。
【0076】
以上の結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2から明らかなように、実験例2では、実験例1よりも冷却速度が7%、2.3℃/s向上していた。また、実験例2とシミュレーション例2を比較すると、両者は冷却速度が異なるが、相対冷却速度が一致していた。このため、水よりも高い熱伝導率を有する粒子を冷却水に添加することで、冷却速度が向上することが裏付けられた。
【0079】
さらに、シミュレーション例2と3から、SiC粒子の添加量を増加させることで、さらに冷却速度が向上することがわかった。また、シミュレーション例4と5から、SiC粒子だけでなくアルミナ粒子を添加することで、冷却能力が向上している。したがって、水よりも高い熱伝導率を有する粒子を冷却水に添加することで、冷却水の冷却能力が向上することが分かった。
【0080】
先行特許(特表2014-534273号公報)の結果から、SiC粒子、アルミナ粒子に限らず、水よりも熱伝導率が高く、水と反応せず、同程度の粒径を持つ金属酸化物粒子、金属窒化物粒子、セラミック粒子を水に添加することでも、冷却能力を向上させた冷却水が得られると考えられる。
【0081】
したがって、金属の連続鋳造法において、冷却水(例:一次冷却水及び二次冷却水のうち少なくとも二次冷却水)として、水よりも高い熱伝導率を有する高熱伝導粒子が添加された冷却水を用いることにより、金属の晶出温度及び凝固温度近傍における被冷却物の冷却速度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明はアルミニウム等の金属の連続鋳造法に利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1:ホットトップ鋳造装置
2:鋳型
5:冷却水
6:被冷却物
7:金属の溶湯
8:鋳塊
図1
図2