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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】耐水素性評価試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20220909BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20220909BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20220909BHJP
【FI】
G01N17/00
G01M13/04
G01N33/2045 100
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018154094
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2019035756
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017158415
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 良典
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112834(JP,A)
【文献】特開2014-085153(JP,A)
【文献】特開2012-176434(JP,A)
【文献】特開2010-014473(JP,A)
【文献】特開2011-225936(JP,A)
【文献】特開2009-243974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-17/04
G01N 33/20
G01M 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状かつ鋼製の第1試験片を中心軸周りに回転させる工程と、円筒状かつ鋼製の第2試験片を、中心軸周りに前記第1試験片に対して相対的に回転させる工程と、前記第1試験片及び前記第2試験片の外周面に潤滑油を供給し、油膜を形成する工程とを有する転がりすべり試験を実施する工程と、
前記第1試験片を切断することなく前記第1試験片中の拡散性水素量を測定する工程とを備え、
前記第1試験片及び前記第2試験片が中心軸周りに回転している際、前記第1試験片の外周面と前記第2試験片の外周面とは、前記油膜を介して接触し、
前記第1試験片の外径は、20mm以下であ
前記油膜の油膜パラメータは、0.34以下であり、
前記第1試験片及び前記第2試験片が中心軸周りに回転している際、前記第1試験片及び前記第2試験片の温度は40℃以下であり、
前記第1試験片の中心軸周りの回転による周速をu とし、前記第2試験片の中心軸周りの回転による周速をu とした場合、(u -u )/{(u +u )/2}×100の絶対値は、1以上であり、
前記第1試験片の中心軸周りの回転速度は、100回転/min以下であり、
前記第1試験片と前記第2試験片との最大接触応力は、2.5GPa以上である、耐水素性評価試験方法。
【請求項2】
前記油膜の油膜パラメータは、0.15以下である、請求項に記載の耐水素性評価試験方法。
【請求項3】
前記潤滑油は、前記潤滑油を含浸させた布部材を前記第1試験片の外周面及び前記第2試験片の外周面の少なくとも一方に接触させることにより供給される、請求項1又は請求項に記載の耐水素性評価試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水素性評価試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受がすべりを伴う条件下において使用された場合、潤滑剤や潤滑剤に混入した水の分解(以下においては、このような反応を、水素発生反応という)により発生した水素が、転動面及び軌道面から転動体及び軌道輪の内部に侵入することがある。特に、転動体と軌道輪との金属接触により金属新生面が露出すると、水素発生反応及び水素発生反応により発生した水素の転動体及び軌道輪の内部への侵入がより促進される。このような水素の侵入は、水素脆性起因の早期剥離につながる場合がある。転動体及び軌道輪に侵入した水素の中でも、拡散性水素は、水素脆性起因の早期剥離に対する影響が大きい。これは、拡散性水素が、転動体及び軌道輪を構成する鋼中で比較的自由に移動することができるためである。
【0003】
金属新生面を積極的に露出させることによって材料に侵入した拡散性水素を測定し、材料の耐水素性を評価する手法として、特許文献1(特開2013-234833号公報)に記載されている方法及び非特許文献1(木南俊哉、水素脆性型の転動疲労強度に及ぼす侵入水素の影響、大同特殊鋼技報 Vol.84、No.1、第55頁~第60頁、2013年)に記載されている方法が知られている。
【0004】
特許文献1に記載の方法においては、試験片の表面に摺動部材を押し付けるとともに、摺動部材を試験片の表面で摺動させる。これにより、試験片の表面で水素を発生させるとともに、水素を試験片の内部に侵入させる。そして、試験片を透過した水素を検出することにより、材料の耐水素性を評価している。
【0005】
非特許文献1に記載の方法においては、ローラチッピング試験(すべりを与えた2円筒転動疲労試験)が行われている。非特許文献1に記載の方法においては、当該試験で水素脆性起因の早期剥離を再現するとともに、当該試験中に試験片に侵入した拡散性水素を検出することにより、材料の耐水素性を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-234833号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】木南俊哉、水素脆性型の転動疲労強度に及ぼす侵入水素の影響、大同特殊鋼技報 Vol.84、No.1、第55頁~第60頁、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法においては、試験片と摺動部材との直接的な接触で発生し、試験片に侵入し、かつ試験片を透過した水素を検知対象としている。そのため、特許文献1に記載の方法によると、例えば潤滑剤の影響を考慮することができない。また、特許文献1に記載の方法は、摺動モードにおける分析方法であり、転がり軸受に対する耐水素性の評価方法としては、必ずしも現実に即しているとはいえない。
【0009】
非特許文献1に記載の方法に用いられる試験片の外径は、大きい(より具体的には、26mmである)。通常、水素分析装置が測定可能な試験片の大きさは、外径20mm以下である。そのため、非特許文献1に記載の方法によると、拡散性水素の測定にあたり、試験片を切断する必要がある。
【0010】
なお、非特許文献1に記載の方法においては、試験片の回転数が高く(より具体的には750~1500回転/min程度である)。試験温度が高い(より具体的には90℃である)。そのため、試験片の焼き付きを防止するため、温度を管理した潤滑油を大量に供給する付帯設備が必要となる。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、拡散性水素の測定にあたって試験片を切断する必要がない耐水素性評価試験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る耐水素性評価試験方法は、第1試験片を中心軸周りに回転させる工程と、第2試験片を中心軸周りに第1試験片に対して相対的に回転させる工程と、第1試験片及び第2試験片の外周面に潤滑油を供給して油膜を形成する工程とを有する転がりすべり試験を実施する工程と、第1試験片中の拡散性水素量を測定する工程とを備える。第1試験片及び第2試験片は、円筒状かつ鋼製である。第1試験片及び第2試験片が中心軸周りに回転している際、第1試験片の外周面と第2試験片の外周面とは、油膜を介して接触する。第1試験片の外径は、20mm以下である。
【0013】
上記の耐水素性評価試験方法においては、第1試験片及び第2試験片が中心軸周りに回転している際、第1試験片及び第2試験片の温度は、40℃以下であってもよい。
【0014】
上記の耐水素性評価試験方法においては、第1試験片の中心軸周りの回転による周速をuとし、第2試験片の中心軸周りの回転による周速をuとした場合に、(u-u)/{(u+u)/2}×100の絶対値は、1以上であってもよい。
【0015】
上記の耐水素性評価試験方法においては、油膜の油膜パラメータは、0.15以下であってもよい。
【0016】
上記の耐水素性評価試験方法においては、第1試験片の中心軸周りの回転速度は、100回転/min以下であってもよい。
【0017】
上記の耐水素性評価試験方法においては、第1試験片と第2試験片との最大接触応力は2.5GPa以上であってもよい。
【0018】
上記の耐水素性評価試験方法においては、潤滑油は、潤滑油を含浸させた布部材を第1試験片の外周面及び第2試験片の外周面の少なくとも一方に接触させることにより供給されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様に係る耐水素性評価試験方法によると、試験片を切断することなく、拡散性水素の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1試験片1の斜視図である。
図2】第2試験片2の斜視図である。
図3】転がりすべり試験装置3の模式図である。
図4】第1試験の試験結果を示すグラフである。
図5】第2試験の試験結果を示すグラフである。
図6】第3試験の試験結果を示すグラフである。
図7】第4試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して、本発明の実施形態の詳細を説明する。以下の図面において、同一又は相当する部分に同一符号を付し、その説明は繰り返さないものとする。
【0022】
(試験片)
以下に、実施形態に係る転がりすべり試験方法において用いられる試験片を説明する。
【0023】
図1は、第1試験片1の斜視図である。図1に示すように、第1試験片1は、円筒状である。第1試験片1は、外径D1を有している。外径D1は、20mm以下である。第1試験片1は、転がりすべり試験方法が実施された後に拡散性水素の測定に供される試験片である。
【0024】
第1試験片1は、鋼により構成されている。第1試験片1を構成する鋼は、例えばJIS規格(JIS4805:2008)に定める高炭素クロム軸受鋼である。第1試験片1を構成する鋼は、JIS規格(JIS4805:2008)に定めるSUJ2又はSUJ3であってもよい。
【0025】
図2は、第2試験片2の斜視図である。図2に示すように、第2試験片2は、円筒状である。第2試験片2は、外径D2を有している。外径D2は、外径D1よりも大きいことが好ましい。外径D2は、例えば80mmである。
【0026】
第2試験片2は、鋼により構成されている。第2試験片2を構成する鋼は、例えばJIS規格(JIS4805:2008)に定める高炭素クロム軸受鋼である。第2試験片2を構成する鋼は、JIS規格(JIS4805:2008)に定めるSUJ2又はSUJ3であってもよい。
【0027】
(試験装置)
以下に、実施形態に係る転がりすべり試験方法に用いられる転がりすべり試験装置3を説明する。
【0028】
図3は、転がりすべり試験装置3の模式図である。図3に示すように、転がりすべり試験装置3は、第1サーボモータ31と、第1ベルト32と、第1スピンドル33と、第2サーボモータ34と、第2ベルト35と、第2スピンドル36とを有している。
【0029】
第1サーボモータ31の回転軸は、第1ベルト32に連結されている。第1スピンドル33の一方端は、第1ベルト32に連結されている。これにより、第1サーボモータ31は、第1スピンドル33を中心軸周りに回転させる。
【0030】
第1スピンドル33の他方端には、第1試験片1が取り付けられている。したがって、第1サーボモータ31は、第1試験片1を中心軸周りに回転させる。
【0031】
第2サーボモータ34の回転軸は、第2ベルト35に連結されている。第2スピンドル36の一方端は、第2ベルト35に連結されている。これにより、第2サーボモータ34は、第2スピンドル36を中心軸周りに回転させる。
【0032】
第2スピンドル36の他方端には、第2試験片2が取り付けられている。したがって、第2サーボモータ34は、第2試験片2を中心軸周りに回転させる。
【0033】
第1試験片1及び第2試験片2は、各々の外周面が、後述の油膜を介して接触するように配置されている。すなわち、第1試験片1及び第2試験片2は、各々の外周面が油膜を介して接触した状態で中心軸周りに回転する。第1試験片1及び第2試験片2の周速は、互いに異なるように設定される。すなわち、第2試験片2は、中心軸周りに第1試験片1に対して相対的に回転する。これにより、第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との間に、すべりが生じる。
【0034】
図3中には図示されていないが、第1試験片1の外周面及び第2試験片2の外周面には潤滑油が供給される。潤滑油の供給は、例えば潤滑油を含浸させた布部材を第1試験片1の外周面及び第2試験片2の外周面の少なくとも一方に接触させることにより行われる。この布部材は、例えばフェルトパッドである。潤滑油の供給により、第1試験片1の外周面及び第2試験片2の外周面には、油膜が形成される。潤滑油には、例えば軸受油が用いられる。
【0035】
(試験条件)
以下に、実施形態に係る転がりすべり試験方法における試験条件を説明する。
【0036】
すべり率は、第1試験片1の中心軸周りの回転による周速をu、第2試験片2の中心軸周りの回転による周速をuとした場合に、(u-u)/{(u+u)/2}×100により算出される。すべり率の絶対値は、30パーセント以上であることが好ましい。
【0037】
周速uは、第1試験片1の中心軸周りの回転速度と外径D1の積により算出される。周速uは、第2試験片2の中心軸周りの回転速度と外径D2の積により算出される。そのため、すべり率は、第1サーボモータ31の回転数、第2サーボモータ34の回転数、外径D1及び外径D2を適宜変更することにより、調整することができる。
【0038】
第1試験片1の外周面及び第2試験片2の外周面に形成される油膜の油膜パラメータΛは、h/(σ +σ 1/2により算出される。hは最小油膜厚さである。σは、第1試験片1の外周面における表面の算術平均粗さの標準偏差である。σは、第2試験片2の外周面における表面の算術平均粗さの標準偏差である。σ及びσは、表面粗さ測定器により測定される。
【0039】
は、Chittendenらの式により算出される。より具体的には、hはR×0.368×U0.68×G0.49×W-0.073×[1-exp{-1.23×(R/R2/3}]により算出される。
【0040】
は、流れの方向の等価曲率半径であり、Rは、流れに直交する方向の等価曲率半径である。Rは、1/R=(1/Rx1)+(1/Rx2)により算出され、Rは、1/R=(1/Ry1)+(1/Ry2)により算出される。Rx1は、第1試験片1の流れ方向の曲率半径であり、Rx2は、第2試験片2の流れ方向の曲率半径であり、Ry1は、第1試験片1の流れに直交する方向の曲率半径であり、Ry2は、第2試験片2の流れに直交する方向の曲率半径である。Uは速度パラメータであり、(η×u)/(E’×R)により算出される。ηは、常圧粘度である。ηは、ρ×νにより算出される。ρは潤滑油の密度であり、νは潤滑油の動粘度である。uは、周速u及び周速uの平均値である。E’は等価ヤング率である。E’は、2/E’={(1-ν )/E}+{(1-ν )/E}により算出される。Eは第1試験片1のヤング率であり、Eは第2試験片2のヤング率である。νは、第1試験片1のポワソン比であり、νは、第2試験片2のポワソン比である。
【0041】
Gは材料パラメータであり、α×E’により算出される。αは、粘度圧力係数である。αは、Wu-Klaus-Dudaの式により算出される。より具体的には、αは、(0.1657+0.2332×log10ν)×m×10-8により算出される。νは潤滑油の動粘度である。mは、潤滑油によって定まる定数であり、Walther-ASTMの式により算出される。より具体的には、mは、log10{log10(ν+0.7)}=-m×log10T+Kにより算出される。Tは、温度であり、Kは潤滑油により定める定数である。2つの温度及び当該2つの温度における動粘度をWalther-ASTMの式に代入し、連立方程式を解くことにより、m及びKの値を算出することができる。Wは、荷重パラメータであり、w/(E’×R )により算出される。wは荷重である。
【0042】
油膜パラメータΛは、0.34以下であることが好ましい。油膜パラメータΛは、0.15以下であることがさらに好ましい。
【0043】
第1試験片1の中心軸周りの回転速度は、100回転/min以下であることが好ましい。第1試験片1の中心軸周りの回転速度は、50回転/min以上であることが好ましい。第2試験片2の中心軸周りの回転速度は、6.5回転/min以上25回転/min以下であることが好ましい。
【0044】
第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力は、2.5GPa以上であることが好ましい。第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力は、ヘルツの式にしたがって算出される。
【0045】
試験時間は、例えば200分以下である。試験時間は、140分以下であってもよい。試験時間は、中心軸周りに回転している第1試験片1及び第2試験片2の外周面が油膜を介して互いに接触している時間により算出される。なお、試験は、第1試験片1の中心軸周りの回転数の合計が所定の値に達するまで行われてもよい。この所定の値は、例えば20000回である。
【0046】
(拡散性水素の測定方法)
以下に、拡散性水素の測定方法を説明する。
【0047】
第1試験片1中の拡散性水素の量は、転がりすべり試験を行った後に測定される。第1試験片1中の拡散性水素の量は、昇温脱離分析を行うことにより測定される。この昇温脱離分析においては、第1試験片1の温度は、室温から200℃に達するまで昇温される。昇温脱離試験における昇温速度は、100℃/hである。この昇温過程において第1試験片1から放出される水素量の積分値に基づいて、第1試験片1中の拡散性水素の量が測定される。
【0048】
(実験結果)
以下に、各試験条件を変化させて転がりすべり試験を行った後における第1試験片1中の拡散性水素量の測定結果を示す。
【0049】
<第1試験>
第1試験における試験条件を表1に示す。表1に示すように、第1試験において、第1試験片1及び第2試験片2に用いられる鋼は、SUJ2である。外径D1は、20mmであり、外径D2は、80mmである。第1試験片1及び第2試験片2の外周面における算術平均粗さは、0.02μmである。第1試験片1の外周面は、中心軸に沿う断面視において、直線状である。第2試験片2の外周面は、中心軸に沿う断面視において、10mmの曲率半径を有する曲線状である。
【0050】
第1試験において、第1試験片1の中心軸周りの回転速度は、100回転/minである。第2試験片2の中心軸周りの回転速度は、13.5回転/minである。第1試験において、すべり率は、60パーセントである。第1試験において、第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力は、3.0GPaである。試験時間は、200分である。油膜パラメータΛは、0.13、0.15、0.34、0.64又は0.76である。
【0051】
【表1】
【0052】
図4は、第1試験の試験結果を示すグラフである。図4中において、横軸は油膜パラメータΛとされ、縦軸は拡散性水素量とされた。図4に示すように、油膜パラメータΛが0.34以上の範囲内においては、拡散性水素が検出されなかった。他方、油膜パラメータΛが0.34未満の範囲内においては、拡散性水素が検出された。この比較から、油膜パラメータΛが0.34未満の範囲内においては、実施形態に係る転がりすべり試験を行うことにより、第1試験片1中に拡散性水素を導入できることが実験的に明らかにされた。
【0053】
<第2試験>
第2試験における試験条件を表2に示す。表2に示すように、第2試験の試験条件は、第1試験片1、第2試験片2、回転速度及び試験時間に関して、第1試験の試験条件と共通している。
【0054】
第2試験において、第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力は2.0GPa、2.3GPa、2.5GPa、3.0GPa又は3.5GPaである。第2試験において、すべり率は、60パーセントである。第2試験において、潤滑油としてJIS K 2001:1993に定めるVG5に準拠したものが用いられた。第2試験における油膜パラメータは、0.14以下である。
【0055】
【表2】
【0056】
図5は、第2試験の試験結果を示すグラフである。図5中において、横軸は第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力とされ、縦軸は拡散性水素量とされた。図5に示すように、第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力が2.5GPa以上の範囲内においては、拡散性水素が検出された。このことから、第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力が少なくとも2.5GPa以上の範囲内においては、実施形態に係る転がりすべり試験を行うことにより、第1試験片1中に拡散性水素を導入できることが実験的に明らかにされた。
【0057】
<第3試験>
第3試験における試験条件を表3に示す。表3に示すように、第3試験の試験条件は、第1試験片1、第1試験片1の回転速度及び第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力に関して、第1試験の試験条件と共通している。
【0058】
第3試験において、第2試験片2の外周面における表面の算術平均粗さは、0.6μmである。第3試験において、第2試験片2の中心軸周りの回転速度は、13.5回転/min、18.5回転/min、22.6回転/min、23.8回転/min、24.7回転/min、25回転/min又は25.3回転/minである。第3試験において、すべり率は、-1パーセント、0パーセント、1パーセント、5パーセント、10パーセント、30パーセント又は60パーセントである。第3試験において、潤滑油としてJIS K 2001:1993に定めるVG5に準拠したものが用いられた。第3試験における油膜パラメータは、0.007以下である。第2試験において、試験時間は、60分である。
【0059】
【表3】
【0060】
図6は、第3試験の試験結果を示すグラフである。図6中において、横軸はすべり率であり、縦軸は拡散性水素量である。図6に示すように、すべり率が-1パーセントの場合及びすべり率が1パーセント以上の場合に、拡散性水素が検出された。このことから、すべり率の絶対値が1パーセント以上の範囲内においては、実施形態に係る転がりすべり試験を行うことにより、第1試験片1中に拡散性水素を導入できることが実験的に明らかにされた。
【0061】
<第4試験>
第4試験における試験条件を表4に示す。表4に示すように、第4試験の試験条件は、第1試験片1、第2試験片2及び第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との最大接触応力に関しては、第1試験の試験条件と共通している。
【0062】
第4試験において、第1試験片1の中心軸周りの回転速度は、50回転/min又は100回転/minである。第4試験において、第2試験片2の中心軸周りの回転速度は、第1試験片1の中心軸周りの回転速度が50回転/minである場合、6.8回転/minであり、第1試験片1の中心軸周りの回転速度が100回転/minである場合、13.5回転/minである。すなわち、第2試験片2の回転速度は、すべり率が一定となるように、第1試験片1の中心軸周りの回転速度に応じて調整されている。
【0063】
第4試験において、すべり率は60パーセントである。第4試験において、潤滑油として、JIS K 2001:1993に定めるVG5に準拠したものが用いられた。第4試験における油膜パラメータは、0.12以下である。第4試験は、第1試験片1の中心軸周りの回転数の合計が20000回転に達するまで行われた。
【0064】
【表4】
【0065】
図7は、第4試験の試験結果を示すグラフである。図7中において、横軸は第1試験片1の中心軸周りの回転速度であり、縦軸は拡散性水素量である。図7に示すように、第1試験片1の中心軸周りの回転速度が50回転/min以上100回転/min以下の範囲内においては、拡散性水素が検出された。このことから、少なくとも第1試験片1の中心軸周りの回転速度が50回転/min以上100回転/min以下の範囲内においては、実施形態に係る転がりすべり試験を行うことにより、第1試験片1中に拡散性水素を導入できることが実験的に明らかにされた。
【0066】
(転がりすべり試験方法の効果)
以下に、実施形態に係る転がりすべり試験の効果を説明する。
【0067】
上記のとおり、第1試験片1の外径D1は、20mm以下である。通常、水素分析装置に投入できる試験片の寸法は、外径20mm以下である。そのため、実施形態に係る転がりすべり試験によると、第1試験片1を切断することなく、転がりすべり試験により導入された拡散性水素の測定を行うことができる。
【0068】
実施形態に係る転がりすべり試験においては、第1試験片1の中心軸周りの回転速度が遅い場合(例えば100回転/min以下)であっても、転がりすべり試験を行うことにより、拡散性水素を第1試験片1に導入することができる。その結果、実施形態に係る転がりすべり試験においては、試験時における第1試験片1及び第2試験片2の温度を、40℃以下とすることができる。そのため、実施形態に係る転がりすべり試験においては、第1試験片1の外周面と第2試験片2の外周面との間の焼き付きを防止するための付帯設備(例えば油温管理の設備や潤滑油の循環設備)を不要とすることができる。
【0069】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
上記の実施形態は、転がりすべり試験方法に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0071】
1 第1試験片、2 第2試験片、3 転がりすべり試験装置、31 第1サーボモータ、32 第1ベルト、33 第1スピンドル、34 第2サーボモータ、35 第2ベルト、36 第2スピンドル、Λ 油膜パラメータ、D1,D2 外径、u,u 周速。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7