(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】駆動装置及び作業機械
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20220909BHJP
F16J 15/34 20060101ALN20220909BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/34 A
(21)【出願番号】P 2018163940
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 倫章
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-346205(JP,A)
【文献】特開2010-052596(JP,A)
【文献】特開2019-190619(JP,A)
【文献】特開2013-145018(JP,A)
【文献】特開2017-223257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/40-15/453
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側シール面を有する固定ケースと、
前記固定ケースに対して軸線周りに回転可能であり、前記軸線方向に沿って前記固定側シール面と互いに対面する回転側シール面を有する回転ケースと、を備え、
前記固定側シール面及び前記回転側シール面の少なくとも一方が凸部を有
し、
前記凸部は、前記軸線を中心とした径方向の内側に配置された第1凸部と、前記径方向の外側に配置された第2凸部とを含み、
前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記軸線方向にずれて配置されている、駆動装置。
【請求項2】
前記凸部が異物排出用である、請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記固定側シール面及び前記回転側シール面は、前記軸線方向と直交している、請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記凸部は、前記軸線を中心とした周方向に対向する一対の側面を有し、
前記一対の側面の少なくとも一方の側面は、前記軸線を中心とした径方向に沿って前記軸線から離間するにつれて他方の側面に近接するように前記周方向及び前記径方向の両方に対して傾斜している、請求項1~3のいずれかに記載の駆動装置。
【請求項5】
前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記軸線を中心とした周方向にずれて配置されている、請求項1~4のいずれかに記載の駆動装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の駆動装置を備える、作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定ケースと、この固定ケースに対して回転可能に構成された回転ケースとを備えた駆動装置、及び、該駆動装置を備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベル等の作業機械として、不整地を走行するための無限軌道(クローラ)を備えた作業機械が使用されている。クローラを駆動するための駆動装置としては、例えば減速機付き油圧駆動装置が使用される。減速機付き油圧駆動装置は、一例として、固定ケースに収容された斜板式油圧モータ等の油圧モータと、この固定ケースに対して回転可能に構成された回転ケースに収容された遊星歯車機構を用いた減速機構とを有する。回転ケースの外側面にはフランジ部が設けられており、このフランジ部を介してクローラに係合するスプロケットが回転ケースに連結されている。
【0003】
このような減速機付き油圧駆動装置では、油圧モータに導入された圧油により、油圧モータに連結されたシャフトが回転される。シャフトの回転は、減速機構により減速されて回転ケースに伝達され、これにより回転ケースが固定ケースに対して回転する。この回転ケースの回転にともなって、回転ケースに連結されたスプロケットが回転し、これによりスプロケットに係合されたクローラが循環駆動される。
【0004】
駆動装置の固定ケースと回転ケースとの間には、回転ケースの回転中に固定ケースと回転ケースとが接触することがないよう、一例として0.5mm~2mm程度の隙間を有したシール部が形成されている。ここで、作業機械の走行等の際にこのシール部における隙間から土砂等の異物が駆動装置内に侵入した場合、固定ケース及び回転ケースの内部に収容された油圧モータや減速機構に不具合を生じる虞がある。したがって、土砂等の異物がシール部における隙間から駆動装置内に侵入することを防止すること、及び、異物がシール部における隙間に侵入した場合に、この異物を迅速に駆動装置外へ排出すること、が望まれる。
【0005】
特許文献1には、パワーショベル等の建設機械の終減速装置における土砂侵入防止用ラビリンスシールが開示されている。ラビリンスシールは、回転部であるハブと固定部であるハウジングケースとの相対向する壁面で構成され、ハブの軸線に対して垂直な2つの垂直部と、軸線に対して傾斜した傾斜部又は軸線と平行をなす平行面とで構成されている。特許文献1の
図3~
図6には、回転側又は固定側の傾斜面又は平行面に、対向する傾斜面又は平行面に向かって突出する突出部を形成したものも開示されている。これにより、回転部であるハブの回転にともなって、突出部が侵入した土砂に衝突して土砂が外側に押し出されるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
駆動装置のシール部に入り込んだ土砂等の異物は、回転部(回転ケース、ハブ)の軸線周りの回転にともなって当該軸線周りに回転する。このとき、異物には当該軸線と直交する方向に遠心力が作用する。特許文献1の技術では、ラビリンスシールにおける傾斜面又は平行面に突出部が形成されているため、ハブの回転にともなう突出部による土砂の押出しの際に、ハブの軸線と直交する方向に作用する遠心力を有効に利用することができなかった。これにより特許文献1の技術では、シール部に侵入した土砂等の異物を十分に排出することができないものと考えられる。
【0008】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであって、固定ケースと回転ケースとの間のシール部に入り込んだ土砂等の異物を効果的に排出し得る駆動装置及び作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による駆動装置は、
固定側シール面を有する固定ケースと、
前記固定ケースに対して軸線周りに回転可能であり、前記軸線方向に沿って前記固定側シール面と互いに対面する回転側シール面を有する回転ケースと、を備え、
前記固定側シール面及び前記回転側シール面の少なくとも一方が凸部を有する。
【0010】
本発明による駆動装置において、
前記凸部が異物排出用であってもよい。
【0011】
本発明による駆動装置において、
前記固定側シール面及び前記回転側シール面は、前記軸線方向と直交していてもよい。
【0012】
本発明による駆動装置において、
前記凸部は、前記軸線を中心とした周方向に対向する一対の側面を有し、
前記一対の側面の少なくとも一方の側面は、前記軸線を中心とした径方向に沿って前記軸線から離間するにつれて他方の側面に近接するように前記周方向及び前記径方向の両方に対して傾斜していてもよい。
【0013】
本発明による駆動装置において、
前記凸部は、前記軸線を中心とした径方向の内側に配置された第1凸部と、前記径方向の外側に配置された第2凸部とを含み、
前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記軸線を中心とした周方向にずれて配置されていてもよい。
【0014】
本発明による作業機械は、
上述の駆動装置を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固定ケースと回転ケースとの間のシール部に入り込んだ土砂等の異物を効果的に排出し得る駆動装置及び作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、駆動装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、駆動装置のシール部を拡大して示す図である。
【
図3】
図3は、駆動装置の回転側シール面を軸線方向に沿って見た図である。
【
図4】
図4は、回転側シール面の凸部を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、凸部のさらに他の変形例を示す図である。
【
図8】
図8は、駆動装置のシール部の一変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態の駆動装置について説明する。本実施の形態の駆動装置は、油圧ショベル等の作業機械のクローラを駆動するための駆動装置として利用され得るが、これに限られず、駆動装置は他の機械のクローラを駆動するために用いられてもよいし、クローラ以外の装置を駆動するために用いられてもよい。とりわけ本発明の駆動装置は、その周囲に、当該駆動装置内への侵入が望まれない、液体、固体及びこれらの混合物等の異物が存在する環境において利用され得る。
図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、駆動装置の一例を示す図である。
図1では、駆動装置は、その一部のみが断面で示され、他の部分は外観で示されている。
図2は、駆動装置のシール部を示す図であって、
図1の符号IIが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大して示す断面図である。
【0018】
駆動装置10は、固定ケース20と、固定ケース20に対して軸線(回転軸線)A周りに回転可能に構成された回転ケース30と、を備えている。なお、本明細書において、軸線Aが延びる方向(
図1では左右方向)を「軸線方向(da)」と呼び、軸線Aと直交する方向を「径方向(dr)」と呼び、軸線Aを中心とした軸線A周りの回転方向を「周方向(dc)」と呼ぶ。また、径方向において、軸線Aに近接する側を径方向の「内側」と呼び、軸線Aから離間する側を径方向の「外側」と呼ぶ。
【0019】
固定ケース20は、作業機械のフレームに対してボルト等により固定される。本実施の形態の固定ケース20は、その内部に図示しない油圧モータを収容している。油圧モータとしては、例えば斜板式の油圧モータを用いることができる。回転ケース30は、ベアリング16を介して固定ケース20に支持されている。本実施の形態の回転ケース30は、その内部に図示しない減速機を収容している。減速機としては、例えば遊星歯車機構を有する減速機を用いることができる。油圧モータ及び減速機を備えた駆動装置は公知であるので、ここでは駆動装置10の内部の詳細な説明を省略する。一例として、駆動装置10の油圧モータ及び減速機としては、特開2002-213568号公報に開示されているような油圧モータ及び減速機を用いることが可能である。
【0020】
回転ケース30は、その外壁部から軸線Aを中心とする径方向drに突出するフランジ部35を有している。とりわけ
図1に示された例では、フランジ部35は、回転ケース30の外壁部から軸線Aと直交する方向に延びるように突出している。フランジ部35は、クローラを循環駆動するための図示しないスプロケットと連結される部材である。フランジ部35には、周方向dcに沿って複数のボルト孔36が設けられている。ボルト孔36は、フランジ部35とスプロケットとを連結するためのボルトが通される孔である。
【0021】
駆動装置10が作業機械のクローラを駆動するための駆動装置として利用される場合、図示しない油圧ポンプで生成され油圧モータに導入された圧油により、油圧モータに連結されたシャフトが回転される。シャフトの回転は、シャフトに連結された減速機に伝達され、この減速機により減速されて回転ケース30に伝達される。この回転ケース30の回転にともなって、回転ケース30のフランジ部35に連結された図示しないスプロケットが回転し、これによりスプロケットに係合されたクローラが循環駆動される。
【0022】
固定ケース20と回転ケース30との間には、シール部12が形成されている。シール部12には、回転ケース30の回転中に固定ケース20と回転ケース30とが接触することがないよう、隙間14が設けられている。隙間14の軸線方向daに沿った寸法は、一例として0.5mm以上2mm以下とすることができる。駆動装置10外の土砂等の異物が隙間14を介して駆動装置10内に侵入することを抑制するために、隙間14は、軸線Aを通る断面、すなわち
図1及び
図2で示した断面、において屈曲した形状に形成されており、これにより、いわゆるラビリンスシールが構成されている。隙間14の径方向drの内側には、フローティングシール18が設けられている。フローティングシール18は、駆動装置10内に充填された油が駆動装置10外へ流出することを防止するとともに、隙間14を通過した駆動装置10外の土砂等の異物が、駆動装置10内に侵入することを防止する。
【0023】
固定ケース20は、回転ケース30と対面する固定側シール面21,22を有している。とりわけ
図2に示された例では、固定ケース20は、第1固定側シール面21と、第1固定側シール面21よりも径方向drの外側に配置された第2固定側シール面22と、第1固定側シール面21及び第2固定側シール面22を接続する接続面23と、を有している。固定側シール面21,22は、軸線方向daの回転ケース30側を向いている。固定側シール面21,22は、軸線方向daと直交し、接続面23は、径方向drと直交している。換言すると、固定側シール面21,22は、径方向dr及び周方向dcに沿って延び、接続面23は、軸線方向da及び周方向dcに沿って延びている。第1固定側シール面21と第2固定側シール面22とは、軸線方向daにずれて配置されている。とりわけ図示された例では、第1固定側シール面21は、第2固定側シール面22よりも軸線方向daにおいて回転ケース30側にずれて位置している。すなわち、第1固定側シール面21は、第2固定側シール面22よりも軸線方向daに突出している。これにより、接続面23は、径方向drの外側を向いている。
【0024】
回転ケース30は、固定ケース20と対面する回転側シール面31,32を有している。とりわけ図示された例では、回転ケース30は、第1回転側シール面31と、第1回転側シール面31よりも径方向drの外側に配置された第2回転側シール面32と、第1回転側シール面31及び第2回転側シール面32を接続する接続面33と、を有している。回転側シール面31,32は、軸線方向daの固定ケース20側を向いている。回転側シール面31,32は、軸線方向daと直交し、接続面33は、径方向drと直交している。換言すると、回転側シール面31,32は、径方向dr及び周方向dcに沿って延び、接続面33は、軸線方向da及び周方向dcに沿って延びている。第1回転側シール面31と第2回転側シール面32とは、軸線方向daにずれて配置されている。とりわけ図示された例では、第2回転側シール面32は、第1回転側シール面31よりも軸線方向daにおいて固定ケース20側にずれて位置している。すなわち、第2回転側シール面32は、第1回転側シール面31よりも軸線方向daに突出している。これにより、接続面23は、径方向drの内側を向いている。
【0025】
固定側シール面21,22と回転側シール面31,32とは、軸線方向daに沿って互いに対面している。とりわけ図示された例では、第1固定側シール面21と第1回転側シール面31とが軸線方向daに沿って互いに対面し、第2固定側シール面22と第2回転側シール面32とが軸線方向daに沿って互いに対面している。また、接続面23と接続面33とは、径方向drに沿って互いに対面している。
【0026】
固定側シール面21,22又は回転側シール面31,32には、異物排出用凸部(凸部)40が設けられている。
図3は、駆動装置10の回転側シール面31,32を軸線方向daに沿って見た図であり、とりわけ回転側シール面31,32を
図2のIIIが付された矢印に沿って見た図である。
図4は、異物排出用凸部40の一例としての第2凸部42を示す斜視図である。なお、
図3及び
図4では、異物排出用凸部40における固定ケース20に対面する面にハッチングを付している。
【0027】
異物排出用凸部40は、第1凸部41及び第2凸部42を含んでいる。第1凸部41は、第1回転側シール面31から軸線方向daの固定ケース20側に突出して形成され、第2凸部42は、第2回転側シール面32から軸線方向daの固定ケース20側に突出して形成されている。固定側シール面21,22と回転側シール面31,32との間には隙間14が形成されており、第1凸部41及び第2凸部42は、いずれも隙間14内に突出して形成されている。径方向drの内側に位置する第1回転側シール面31に第1凸部41が形成され、径方向drの外側に位置する第2回転側シール面32に第2凸部42が形成されている。したがって、異物排出用凸部40は、径方向drの内側に配置された第1凸部41と、径方向drの外側に配置された第2凸部42とを含む。異物排出用凸部40は、回転側シール面31,32と当該回転側シール面31,32と対向する固定側シール面21,22との間隔が狭くなるように、回転側シール面31,32に設けられていればよい。また、異物排出用凸部40が固定側シール面21,22に設けられる場合には、異物排出用凸部40は、固定側シール面21,22と当該固定側シール面21,22と対向する回転側シール面31,32との間隔が狭くなるように、固定側シール面21,22に設けられていればよい。なお、異物排出用凸部40は、固定側シール面21,22及び回転側シール面31,32の両方に設けられてもよい。
【0028】
第1回転側シール面31には、周方向dcに沿って複数の第1凸部41が軸線Aに対して等角度間隔を有して配列され、第2回転側シール面32には、周方向dcに沿って複数の第2凸部42が軸線Aに対して等角度間隔を有して配列されている。とりわけ図示された例では、周方向dcに隣り合う二つの第1凸部41の軸線Aに対する角度間隔と、周方向dcに隣り合う二つの第2凸部42の軸線Aに対する角度間隔とは、同一になっている。
【0029】
第1凸部41は、径方向drの内側を向く内側面41aと、径方向drの外側を向く外側面41bと、内側面41a及び外側面41bを接続する一対の側面41c,41dを有している。一対の側面41c,41dのうち第1側面41cは、周方向dcの一方側に位置し、第2側面41dは、周方向dcの他方側に位置している。また、第2凸部42は、径方向drの内側を向く内側面42aと、径方向drの外側を向く外側面42bと、内側面42a及び外側面42bを接続する一対の側面42c,42dを有している。一対の側面42c,42dのうち第1側面42cは、周方向dcの一方側に位置し、第2側面42dは、周方向dcの他方側に位置している。
【0030】
第1凸部41の一対の側面41c,41dの少なくとも一方の側面は、径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて他方の側面に近接するように周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜している。また、第2凸部42の一対の側面42c,42dの少なくとも一方の側面は、径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて他方の側面に近接するように周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜している。とりわけ図示された例では、第1側面41c,42cは、径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて第2側面41d,42dに近接するように、すなわち周方向dcの他方側へ向かうように、周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜し、第2側面41d,42dは、径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて第1側面41c,42cに近接するように、すなわち周方向dcの一方側へ向かうように、周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜している。
【0031】
凸部41,42の周方向dcに沿った幅は、径方向drの内側から外側に向かうにつれて狭くなるように変化している。とりわけ図示された例では、凸部41,42の周方向dcに沿った幅は、径方向drの内側から外側に向かうにつれて常に狭くなるように変化している。換言すると、凸部41,42の周方向dcに沿った幅は、径方向drの内側から外側に向かうにつれて狭くなるようにのみ変化している。
図3及び
図4に示された例では、凸部41,42は、軸線方向daから見て、径方向drに沿って延びる直線を対称軸とする線対称の形状をなす輪郭を有する。とりわけ図示された例では、凸部41,42は、軸線方向daから見て、第1側面41c,42cを下底とし、第2側面41d,42dを上底とする、略台形形状とりわけ略等脚台形形状をなす輪郭を有している。
【0032】
作業機械の走行の際等、駆動装置10が、土砂等の異物が存在する環境において使用される際、駆動装置10のシール部12における隙間14に異物が侵入し得る。この異物が隙間14を介して駆動装置10内に侵入した場合、固定ケース20及び回転ケース30の内部に収容された油圧モータや減速機構等に不具合を生じる虞がある。本実施形態の駆動装置10では、回転ケース30が固定ケース20に対して軸線A周りに回転すると、これにともなって回転側シール面31,32から隙間14内に突出するようにして設けられた異物排出用凸部40(第1凸部41,第2凸部42)も、軸線A周りに回転する。このとき、隙間14内に存在する異物は、周方向dcに沿って移動する異物排出用凸部40の第1側面41c,42c又は第2側面41d,42dにより、径方向drの外側に押し出され、隙間14の外に排出される。
【0033】
より詳細には、異物排出用凸部40が、周方向dcにおける一方側(
図3参照)へ向かって移動する場合、隙間14内に存在する異物は、周方向dcにおける一方側へ向かって移動する第1側面41c,42cにより、径方向drの外側に押し出される。また、異物排出用凸部40が、周方向dcにおける他方側へ向かって移動する場合、隙間14内に存在する異物は、周方向dcにおける他方側へ向かって移動する第2側面41d,42dにより、径方向drの外側に押し出される。
【0034】
このとき、隙間14内に存在する異物は、回転ケース30(回転側シール面31,32)の軸線A周りの回転にともなって軸線A周りに回転する。これにより、異物には径方向drの外側に向かう遠心力が作用する。したがって、周方向dcに沿って移動する異物排出用凸部40による異物の押出し方向と、回転ケース30の回転にともなって異物に作用する遠心力の向きとが一致する。これにより、異物に作用する遠心力を有効に利用しながら、異物排出用凸部40による異物の押出しを行うことができる。したがって、隙間14内に侵入した異物を効率的に排出することができる。
【0035】
また、本実施の形態では、異物排出用凸部40が、径方向drの内側に配置された第1凸部41と、第1凸部41に対して径方向drの外側に配置された第2凸部42とを含んでいるので、隙間14における径方向drの内側まで入り込んだ異物を、まず第1凸部41により隙間14における径方向drの外側へ排出し、次に第2凸部42によりこの異物を隙間14の外部へ排出することができる。したがって、異物が隙間14の奥まで入り込んだとしても、この異物を効率的に駆動装置10外へ排出することができる。
【0036】
図3に示された例では、第1凸部41と第2凸部42とは、周方向dcにずれて配置されている。すなわち、第1凸部41の軸線Aに対する角度位置と、第2凸部42の軸線Aに対する角度位置とは、異なっている。これにより、周方向dcに移動する第1凸部41により、軸線Aに対する特定の角度位置において隙間14における径方向drの外側へ排出された異物を、当該第1凸部41に続いて当該特定の角度位置に到達する第2凸部42により、隙間14の外部へ排出することができる。したがって、隙間14の奥まで入り込んだ異物を、迅速に駆動装置10外へ排出することができる。
【0037】
とりわけ図示された例では、周方向dcに隣り合う二つの第1凸部41の軸線Aに対する角度間隔における周方向dcの中心に第2凸部42が配置されている。また、周方向dcに隣り合う二つの第2凸部42の軸線Aに対する角度間隔における周方向dcの中心に第1凸部41が配置されている。この場合、固定ケース20に対して、回転ケース30が周方向dcの一方側に回転した場合にも他方側に回転した場合にも、異物をバランスよく且つ迅速に駆動装置10外へ排出することができる。
【0038】
なお、上記の説明においては、異物排出用凸部40の第1側面41c,42c及び第2側面41d,42dが、いずれも径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて他方の側面に近接するように周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜している例について説明したが、第1側面41c,42c及び第2側面41d,42dの形状はこれに限られない。回転ケース30が周方向dcにおける一方向にのみ回転する場合、一対の側面のうち当該一方向に面する一方の側面のみが、径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて他方の側面に近接するように周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜していてもよい。
【0039】
また、上記の説明においては、第1回転側シール面31及び第2回転側シール面32の両方に異物排出用凸部40が設けられた例について説明したが、これに限られず、第1回転側シール面31又は第2回転側シール面32にのみ異物排出用凸部40が設けられていてもよい。さらに、固定ケース20の第1固定側シール面21及び第2固定側シール面22に異物排出用凸部40が設けられてもよいし、第1固定側シール面21又は第2固定側シール面22にのみ異物排出用凸部40が設けられていてもよい。第1固定側シール面21及び/又は第2固定側シール面22に異物排出用凸部40が設けられた場合においても、回転ケース30の回転にともなって隙間14内の異物が周方向dcに沿って移動するので、この異物は、異物排出用凸部40における周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜した側面にぶつかり、径方向drの外側に押し出される。すなわち、この場合も上記で説明した例と同様の効果を発揮し得る。
【0040】
本実施の形態の駆動装置10は、固定側シール面21,22を有する固定ケース20と、固定ケース20に対して軸線A周りに回転可能であり、軸線方向daに沿って固定側シール面21,22と互いに対面する回転側シール面31,32を有する回転ケース30と、を備え、固定側シール面21,22及び回転側シール面31,32の少なくとも一方が凸部40を有する。
【0041】
本実施の形態の駆動装置10では、凸部40が異物排出用である。
【0042】
本実施の形態の作業機械は、上述の駆動装置10を備える。
【0043】
このような駆動装置10及び作業機械によれば、回転ケース30の回転にともなって凸部40を軸線A周りに回転させ、この凸部40により、固定ケース20と回転ケース30との間の隙間14内に存在する土砂等の異物を径方向drの外側に押し出して隙間14の外に排出することができる。また、周方向dcに沿って移動する凸部40による異物の押出し方向と、回転ケース30の回転にともなって異物に作用する遠心力の向きとが一致することにより、異物に作用する遠心力を有効に利用しながら、凸部40による異物の押出しを行うことができる。したがって、隙間14内に侵入した異物を効率的に駆動装置10外へ排出することができる。その結果、異物が隙間14を介して駆動装置10内に侵入することによる、固定ケース20及び回転ケース30の内部に収容された油圧モータや減速機構等の不具合の発生を効果的に防止することができる。
【0044】
本実施の形態の駆動装置10は、固定側シール面21,22及び回転側シール面31,32は、軸線方向daと直交している。
【0045】
このような駆動装置10によれば、異物に対して軸線Aと直交する方向に作用する遠心力の向きと、周方向dcに沿って移動する凸部40による異物の押出し方向とを、より正確に一致させることができるので、隙間14内に侵入した異物をさらに効率的に駆動装置10外へ排出することができる。
【0046】
本実施の形態の駆動装置10では、凸部40は、軸線Aを中心とした周方向dcに対向する一対の側面(41c,42c),(41d,42d)を有し、一対の側面(41c,42c),(41d,42d)の少なくとも一方の側面は、軸線Aを中心とした径方向drに沿って軸線Aから離間するにつれて他方の側面に近接するように周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜している。
【0047】
このような駆動装置10によれば、回転ケース30の回転にともなって、周方向dc及び径方向drの両方に対して傾斜した側面41c,41d,42c,42dに沿って、隙間14内に存在する異物を径方向drの外側に押し出して隙間14の外に排出することができる。したがって、隙間14内に侵入した異物をさらに効率的に駆動装置10外へ排出することができる。
【0048】
本実施の形態の駆動装置10では、凸部40は、軸線Aを中心とした径方向drの内側に配置された第1凸部41と、径方向drの外側に配置された第2凸部42とを含み、第1凸部41と第2凸部42とは、軸線Aを中心とした周方向dcにずれて配置されている。
【0049】
このような駆動装置10によれば、周方向dcに移動する第1凸部41により、軸線Aに対する特定の角度位置において隙間14における径方向drの外側へ排出された異物を、当該第1凸部41に続いて当該特定の角度位置に到達する第2凸部42により、隙間14の外部へ排出することができる。したがって、隙間14の奥まで入り込んだ異物を、迅速に駆動装置10外へ排出することができる。
【0050】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、図面を適宜参照しながら、変形例について説明する。以下の説明及び以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
【0051】
図5~
図7に、異物排出用凸部(凸部)40の各変形例を示す。
図5~
図7は、各変形例における異物排出用凸部40の形状の代表例として、各変形例における第1凸部41の一つを軸線方向daから見て示す図である。なお、各変形例において第2凸部42も、
図5~
図7に示された凸部の形状と同様の形状を有するように構成することが可能である。
【0052】
図5に示された変形例に係る第1凸部41は、径方向drの内側を向く内側面41aと、一対の側面41c,41dを有している。第1側面41cと第2側面41dとは、内側面41aと接続する側の端部と反対側の端部において、互いに接続されている。また、第1側面41c及び第2側面41dは、それぞれ軸線方向daから見て直線状に形成されている。そして、本変形例に係る第1凸部41は、軸線方向daから見て、内側面41aを底辺とする略三角形形状とりわけ略二等辺三角形形状をなす輪郭を有している。
【0053】
図6に示された変形例に係る第1凸部41は、径方向drの外側を向く外側面41bと、内側面41a及び外側面41bを接続する一対の側面41c,41dを有している。第1側面41c及び第2側面41dは、それぞれ軸線方向daから見て第1凸部41の内部に向かって凸となる、換言すると第1凸部41の外部に向かって凹となる、曲線状の形状を有している。
【0054】
図7に示された変形例に係る第1凸部41は、径方向drの内側を向く内側面41aと、一対の側面41c,41dを有している。第1側面41cと第2側面41dとは、内側面41aと接続する側の端部と反対側の端部において、互いに接続されている。また、第1側面41c及び第2側面41dは、それぞれ軸線方向daから見て第1凸部41の内部に向かって凸となる、換言すると第1凸部41の外部に向かって凹となる、曲線状の形状を有している。
【0055】
図5~
図7に示された形状を有する異物排出用凸部40(第1凸部41)によっても、回転ケース30の回転にともなって異物排出用凸部40を軸線A周りに回転させ、この異物排出用凸部40により、固定ケース20と回転ケース30との間の隙間14内に存在する土砂等の異物を径方向drの外側に押し出して隙間14の外に排出することができる。
【0056】
図8は、駆動装置10の他の変形例について説明するための図である。
図8は、
図2に対応する図であって、本変形例に係る駆動装置10のシール部12及びその近傍を拡大して示す断面図である。
【0057】
図8に示された例では、第2固定側シール面22は、第1固定側シール面21よりも軸線方向daにおいて回転ケース30側にずれて位置している。すなわち、第2固定側シール面22は、第1固定側シール面21よりも軸線方向daに突出している。これにより、接続面23は、径方向drの内側を向いている。
【0058】
また、第1回転側シール面31は、第2回転側シール面32よりも軸線方向daにおいて固定ケース20側にずれて位置している。すなわち、第1回転側シール面31は、第2回転側シール面32よりも軸線方向daに突出している。これにより、接続面23は、径方向drの外側を向いている。
【0059】
このような駆動装置10によっても、回転ケース30の回転にともなって異物排出用凸部40を軸線A周りに回転させ、この異物排出用凸部40により、固定ケース20と回転ケース30との間の隙間14内に存在する土砂等の異物を径方向drの外側に押し出して隙間14の外に排出することができる。
【0060】
さらに他の変形例として、上述の実施の形態では、第1凸部41と第2凸部42とは、軸線方向daから見て、互いに類似の形状を有していたが、これに限られず、第1凸部41と第2凸部42とは、軸線方向daから見て、互いに異なる形状を有していてもよい。
【0061】
なお、以上において前述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 駆動装置
12 シール部
14 隙間
20 固定ケース
21 第1固定側シール面
22 第2固定側シール面
23 接続面
30 回転ケース
31 第1回転側シール面
32 第2回転側シール面
33 接続面
40 異物排出用凸部
41 第1凸部
41a 内側面
41b 外側面
41c 第1側面
41d 第2側面
42 第2凸部
42a 内側面
42b 外側面
42c 第1側面
42d 第2側面
A 軸線