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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】スイベルジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/087 20060101AFI20220909BHJP
   F16L 27/08 20060101ALI20220909BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
F16L27/087
F16L27/08 Z
F16J15/18 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018173441
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020045940
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】南 暢
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 哲也
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-139783(JP,U)
【文献】特開2001-355735(JP,A)
【文献】登録実用新案第3058667(JP,U)
【文献】特開2000-266259(JP,A)
【文献】特開2012-154387(JP,A)
【文献】実開昭53-062922(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 27/087
F16L 27/08
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸周りに回転可能であるとともに、前記中心軸に沿って流体を流すためのシャフト流路を有するシャフトと、
前記シャフトが前記中心軸周りに回転するのを許容するように前記シャフトを保持するするとともに、前記シャフト流路につながるハウジング流路を有するハウジングと、
円環状に形成されており、前記シャフトの外周面と前記ハウジングとの間に設けられるシール材とを備え、
前記ハウジングは、前記シール材を保持する保持溝を有し、
前記シール材は、弾性材料からなるとともに前記シール材の径方向に前記保持溝に接する外側シール部と、前記シール材の径方向について前記外側シール部の内側に設けられており、前記シャフトの外周面に対して摺動しながら接する内側シール部とを有し、
前記内側シール部は、前記外側シール部の摩擦係数よりも小さな摩擦係数を有する材料からなり、
前記シャフトは、大径部と、前記大径部の外径よりも小さな外径を有する小径部とを有し、
前記小径部には、前記シャフト流路と前記ハウジング流路とを連通させる貫通孔が形成されており、
前記ハウジングは、前記大径部を保持する大径部保持部と、前記小径部を保持する小径部保持部とを有し、
前記シール材は、前記大径部の外周面と前記大径部保持部との間に設けられる大径シール部材と、前記小径部の外周面と前記小径部保持部との間に設けられる小径シール部材とを有し、
前記保持溝は、前記大径部保持部に設けられており前記大径シール部材を保持する大径溝と、前記小径部保持部に設けられており前記小径シール部材を保持する小径溝とを有し、
前記ハウジングは、前記大径溝および前記小径溝を有するとともに前記シャフトを保持するハウジング本体と、前記ハウジング本体のうち前記大径溝と前記小径溝との間の部位から分岐するとともに、前記ハウジング本体の軸方向と交差する方向に延びる形状を有する分岐部とを有し、
前記ハウジング本体のうち前記大径溝および前記小径溝間の部位の内側と前記分岐部の内側とが前記ハウジング流路を構成し、
前記ハウジング本体に形成された前記ハウジング流路のうち前記小径部における前記貫通孔が形成されている部位を取り囲む領域の径は、前記大径部の外径よりも小さくかつ前記小径部の外径よりも大きい、スイベルジョイント。
【請求項2】
前記外側シール部は、前記シール材の周方向および径方向の双方に直交する直交方向における端部に設けられた外側側部を有し、
前記内側シール部は、前記直交方向における端部に設けられた内側側部を有し、
前記保持溝は、前記シャフトの中心軸方向に前記シール材と対向する対向壁を有し、
前記シャフトの径方向における前記シャフトの外周面と前記対向壁との間には、開口が形成されており、
前記シール材が前記保持溝および前記シャフト間に位置する状態での、前記シール材の径方向における前記内側側部の寸法は、前記シャフトの径方向における前記開口の幅よりも大きく、
前記開口の幅は、0.5mm以下に設定されている、請求項1に記載のスイベルジョイント。
【請求項3】
前記大径部保持部と前記小径部保持部との同軸度は、0.06mm以下である、請求項1又は2に記載のスイベルジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイベルジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特開2012-154387号公報(以下、「特許文献1」という。)には、弾性材料からなる弾性部材と、弾性部材よりも低摩擦性の材料からなるシール部材とを備えるシール材が開示されている。このシール材は、シール材を装着するためのシール溝を有する装着体と、装着体に対して回転はまた摺動する相手側部材との間のシールに用いられる。シール材がシール溝に装着された状態において、弾性部材は、シール溝の底面と当接し、シール部材は、相手側部材のシール面と当接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-154387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転や摺動する部材間をシールするシール材が知られている。
【0005】
たとえば、スイベルジョイントは、可撓性を有するホースの端部などに連結される。一般に、スイベルジョイントは、シャフトと、シャフトを回転可能に保持するハウジングと、シャフトおよびハウジング間を封止するためのシール材としてのOリングとを有している。このようなスイベルジョイントにおいて、シャフトの回転トルク(回転抵抗)が大きい場合、ホースの端部に加わる負荷が大きくなる。このことは、ホースの破断を招く。また、Oリングの摩耗が進行することにより、スイベルジョイントから流体が漏洩する恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、シャフトの回転トルクの低減と、シール材の長寿命化との双方を達成可能なスイベルジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従ったスイベルジョイントは、中心軸周りに回転可能であるとともに、中心軸に沿って流体を流すためのシャフト流路を有するシャフトと、シャフトが中心軸周りに回転するのを許容するようにシャフトを保持するするとともに、シャフト流路につながるハウジング流路を有するハウジングと、円環状に形成されており、シャフトの外周面とハウジングとの間に設けられるシール材とを備える。ハウジングは、シール材を保持する保持溝を有する。シール材は、弾性材料からなるとともにシール材の径方向に保持溝に接する外側シール部と、シール材の径方向について外側シール部の内側に設けられており、シャフトの外周面に対して摺動しながら接する内側シール部とを有する。内側シール部は、外側シール部の摩擦係数よりも小さな摩擦係数を有する材料からなる。
【0008】
本スイベルジョイントでは、保持溝にシール材が配置されることにより、外側シール部の弾性復元力によって有効にシャフトおよびハウジング間をシールできる。さらに、シャフトの外周面は、外側シール部の摩擦係数よりも小さな摩擦係数を有する内側シール部に接しながらハウジングに対して相対回転するため、シャフトの回転抵抗(トルク)が低減されるとともに、シール材の摩耗も抑制される。よって、本スイベルジョイントでは、シャフトの回転抵抗の低減と、シール材の長寿命化との双方を達成することができる。
【0009】
また好ましくは、外側シール部は、シール材の周方向および径方向の双方に直交する直交方向における端部に設けられた外側側部を有する。内側シール部は、直交方向における端部に設けられた内側側部を有する。保持溝は、シャフトの中心軸方向にシール材と対向する対向壁を有する。シャフトの径方向におけるシャフトの外周面と対向壁との間には、開口が形成されている。シール材が保持溝およびシャフト間に位置する状態での、シール材の径方向における内側側部の寸法は、シャフトの径方向における開口の幅よりも大きい。開口の幅は、0.5mm以下、望ましくは0.3mm以下に設定されている。
【0010】
このようにすれば、シャフトとハウジングとの間に形成される空間であってシール材により隔てられた2つの空間の間に圧力差が生じることにより、シール材が対向壁に押し付けられた状態においても、シャフトの外周面と対向壁との間の開口から内側側部が保持溝の外側へはみ出すことを抑制できる。
【0011】
また好ましくは、シャフトは、大径部と、大径部の外径よりも小さな外径を有する小径部とを有する。ハウジングは、大径部を保持する大径部保持部と、小径部を保持する小径部保持部とを有する。
【0012】
この態様では、シャフトの小径部を先頭にしてシャフトをハウジングの大径部保持部側からハウジング内に挿入することにより、シャフトの小径部が大径部保持部に接触することおよびそれに伴う小径部の損傷を抑制することができる。
【0013】
また好ましくは、大径部保持部と小径部保持部との同軸度は、0.06mm以下である。
【0014】
この態様では、シャフトがハウジングに保持された状態においてシャフトが湾曲することや、シャフトの回転抵抗(トルク)が増大することを抑制できる。
【0015】
また好ましくは、シール材は、大径部の外周面と大径部保持部との間に設けられる大径シール部材と、小径部の外周面と小径部保持部との間に設けられる小径シール部材とを有する。保持溝は、大径部保持部に設けられており大径シール部材を保持する大径溝と、小径部保持部に設けられており小径シール部材を保持する小径溝とを有する。ハウジングは、大径溝および小径溝を有するとともにシャフトを保持するハウジング本体と、ハウジング本体のうち大径溝と小径溝との間の部位から分岐するとともに、ハウジング本体の軸方向と交差する方向に延びる形状を有する分岐部とを有する。ハウジング本体のうち大径溝および前記小径溝間の部位の内側と分岐部の内側とがハウジング流路を構成する。
【0016】
この態様では、2つシール部材(大径シール部材および小径シール部材)でハウジング流路からの流体の漏洩を抑制しつつ、シャフト流路とハウジング流路とを屈曲させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上に説明したように、この発明によれば、シャフトの回転トルクの低減と、シール材の長寿命化との双方を達成可能なスイベルジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態のスイベルジョイントを含む装置を概略的に示す図である。
図2図1に示されるスイベルジョイントの断面図である。
図3図2に示されるスイベルジョイントのシール材の平面図である。
図4図3におけるIV-IV線での断面図である。
図5図2中の実線Vで囲まれた範囲の拡大図である。
図6】シール材に一方側から圧力が作用している状態を示す断面図である。
図7図6中の実線VIIで囲まれた範囲の拡大図である。
図8図1に示されるスイベルジョイントの変形例を示す断面図である。
図9】本発明の第2実施形態のスイベルジョイントの断面図である。
図10】実施例1および比較例1における圧力と回転トルクとの関係を示すグラフである。
図11】実施例1および比較例1の試験結果を示す表である。
図12】実施例2(開口幅0.3mm)のシミュレーション結果を示す図である。
図13】実施例3(開口幅0.4mm)のシミュレーション結果を示す図である。
図14】実施例4(開口幅0.5mm)のシミュレーション結果を示す図である。
図15】比較例2(開口幅0.6mm)のシミュレーション結果を示す図である。
図16】実施例2~4と比較例2とのシミュレーション結果を示す表である。
図17】同軸度と回転トルクとの関係を調べるためのハウジングの側面図である。
図18】実施例5~7および比較例3における同軸度と回転トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のスイベルジョイントを含む装置を概略的に示す図である。図1に示されるように、スイベルジョイント1は、たとえば、流体を供給するためのホース2とローラー3の回転軸(図示略)とを接続する。これにより、ローラー3の回転中に、スイベルジョイント1を通じてホース2からローラー3の回転軸内に流体が供給される。
【0021】
図2は、図1に示されるスイベルジョイントの断面図である。このスイベルジョイント1は、シャフト100と、ハウジング200と、シール材300と、第1軸受410と、第2軸受420とを有している。
【0022】
シャフト100は、中心軸A周りに回転可能である。たとえば、シャフト100は、中心軸A周りに、360度以下の回転角度範囲で正回転と逆回転とを繰り返す。このシャフト100に、ローラー3の回転軸が接続される。シャフト100は、中心軸Aに沿って流体が流れるシャフト流路100aを有している。シャフト100は、円筒状の外周面を有している。シャフト100には、シャフト流路100aとシャフト100外とを連通させるようにシャフト100を貫通する貫通孔100hが設けられている。貫通孔100hは、中心軸Aと直交する方向にシャフト100を貫通している。シャフト100は、大径部110と、小径部120とを有している。
【0023】
小径部120は、大径部110の外径よりも小さな外径を有している。小径部120は、大径部110の一端部(図2の左側の端部)に接続されている。本実施形態では、小径部120は、第1小径部121と、第2小径部122とを有している。
【0024】
第1小径部121は、大径部110の一端部に接続されている。この第1小径部121に、貫通孔100hが設けられている。シャフト流路100aは、大径部110から第1小径部121の途中に至る領域に設けられている。
【0025】
第2小径部122は、第1小径部121に接続されており、第1小径部121の外径よりも小さな外径を有している。第2小径部122は、中実に形成されている。
【0026】
ハウジング200は、シャフト100が中心軸A周りに回転するのを許容するようにシャフト100を保持する。ハウジング200は、シャフト流路100aにつながるハウジング流路200aを有している。具体的に、ハウジング流路200aは、ハウジング200にシャフト100が保持された状態において、シャフト100の貫通孔100hを通じてシャフト流路100aとつながる。このハウジング流路200aは、シャフト100のうち貫通孔100hが形成されている部位を取り囲んでいる。このため、ハウジング200に対してシャフト100が中心軸A周りに相対回転した場合においても、ハウジング流路200aとシャフト流路100aとが貫通孔100hを通じて連通した状態が常に維持される。本実施形態では、ハウジング200は、ハウジング本体202と、分岐部230とを有している。
【0027】
ハウジング本体202は、シャフト100を回転可能に保持する。ハウジング本体202は、大径部保持部210と、小径部保持部220とを有する。
【0028】
大径部保持部210は、シャフト100の大径部110を回転可能に保持する。大径部保持部210は、第1軸受410を保持する第1軸受保持部212を有している。第1軸受保持部212は、大径部保持部210の軸方向における外側(図2の右側)の端部に設けられている。大径部保持部210は、第1軸受保持部212に保持された第1軸受410を介して大径部110を保持している。第1軸受410は、たとえば深溝玉軸受である。
【0029】
図5は、図2中の実線Vで囲まれた範囲の拡大図である。図5に示されるように、大径部保持部210は、大径部110の外周面111と対向する大径対向面211を有している。大径対向面211は、円筒状に形成されてる。大径対向面211の径は、第1軸受保持部212の径よりも小さい。大径対向面211は、大径部保持部210の軸方向について第1軸受保持部212よりも内側(図2の左側)に設けられている。
【0030】
小径部保持部220は、シャフト100の小径部120を回転可能に保持する。小径部保持部220は、第2軸受420を保持する第2軸受保持部222を有している。第2軸受保持部222は、小径部保持部220の軸方向における外側(図2の左側)の端部に設けられている。小径部保持部220は、第2軸受保持部222に保持された第2軸受420を介して小径部120の第2小径部122を保持している。第2軸受420は、たとえば深溝玉軸受である。
【0031】
小径部保持部220は、第1小径部121の外周面と対向する小径対向面を有している。小径対向面は、円筒状に形成されている。小径対向面の径は、第2軸受保持部222の径よりも小さい。小径対向面は、小径部保持部220の軸方向について第2軸受保持部222よりも内側(図2の右側)に設けられている。
【0032】
大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度(より適切には、第1軸受保持部212と第2軸受保持部222との同軸度)は、0.06mm以下に設定されることが好ましく、0.04mm以下に設定されることがより好ましい。
【0033】
シャフト100がハウジング200に保持された状態において、第2小径部122のうちハウジング200の外側に位置する部位に、止め輪130が設けられている。止め輪130は、第2軸受420の外側面に接している。止め輪130は、C形に形成されている。
【0034】
シャフト100がハウジング200に保持された状態において、シャフト100のうち貫通孔100hが形成されている部位を取り囲む領域(ハウジング流路200aの一部)が、大径対向面211と小径対向面との間に形成される。
【0035】
分岐部230は、ハウジング本体202のうち大径部保持部210と小径部保持部220との間の部位から分岐している。分岐部230は、ハウジング本体202の軸方向と交差する方向に延びる形状を有している。分岐部230は、ハウジング本体202の軸方向と直交する方向(図2の上下方向)に延びる形状を有している。分岐部230内に、ハウジング本体202のうちの上記の領域(ハウジング流路200aの一部)につながる領域(ハウジング流路200aの残部)が形成されている。この分岐部230に、ホース2が接続される。
【0036】
図3は、図2に示されるスイベルジョイントのシール材の平面図である。図3に示されるように、シール材300は、円環状に形成されている。シール材300は、シャフト100の外周面111とハウジング200との間に設けられる。本実施形態では、シール材300は、大径シール部材310と、小径シール部材320とを有している。
【0037】
図2に示されるように、大径シール部材310は、大径部110の外周面111と大径部保持部210との間に設けられる。小径シール部材320は、小径部120の外周面と小径部保持部220との間に設けられる。
【0038】
ここで、シール材300の保持構造について説明する。ハウジング200は、シール材300を保持する保持溝204を有している。本実施形態では、図2に示されるように、保持溝204は、大径シール部材310を保持する大径溝214と、小径シール部材320を保持する小径溝224とを有している。大径部保持部210は、大径溝214を有している。小径部保持部220は、小径溝224を有している。
【0039】
大径溝214は、大径部保持部210の大径対向面211から大径部保持部210の径方向の外向きに窪むとともに、大径部保持部210の周方向に沿って連続的につながる形状を有している。図2に示されるように、大径溝214は、大径部保持部210の軸方向について第1軸受保持部212と小径部保持部220との間に設けられている。
【0040】
図2および図5に示されるように、大径溝214は、底壁216と、対向壁218とを有している。
【0041】
底壁216は、大径部保持部210の径方向に大径シール部材310と接する部位である。底壁216は、大径部保持部210の径方向と直交する形状を有している。
【0042】
対向壁218は、シャフト100の中心軸方向(図5の左右方向)に大径シール部材310と対向している。対向壁218は、大径部保持部210の軸方向と直交する形状を有している。対向壁218間の長さは、大径シール部材310の周方向および径方向の双方に直交する直交方向(図4および図5の左右方向)における大径シール部材310の寸法よりも大きい。図5に示されるように、対向壁218と大径対向面211との境界部は、面取りされている。
【0043】
シャフト100の大径部110の外周面111と対向壁218との間には、開口Cが形成されている。この開口Cの幅(大径部110の径方向についての長さ)h1は、0.5mm以下、望ましくは0.3mm以下に設定される。大径対向面211と大径部110の外周面111との隙間は、0.3mm以下、望ましくは0.1mm以下に設定される。
【0044】
小径溝224は、小径部保持部220の内周面から小径部保持部220の径方向の外向きに窪むとともに、小径部保持部220の周方向に沿って連続的につながる形状を有している。図2に示されるように、小径溝224は、小径部保持部220の軸方向について第2軸受保持部222と大径溝214との間に設けられている。小径溝224は、その径が大径溝214の径と異なるのみであり、その他の構成は大径溝214の構成と同様である。このため、小径溝224の形状の説明は省略する。
【0045】
次に、大径シール部材310および小径シール部材320について説明する。大径シール部材310と小径シール部材320とは、その径が互いに異なるのみであるため、以下、大径シール部材310を例に説明する。
【0046】
図4は、図3におけるIV-IV線での断面図である。図4に示されるように、大径シール部材310は、大径シール部材310の径方向と平行で、かつ、大径シール部材310の周方向および径方向の双方に直交する直交方向(図4の左右方向)の中心を通る中心面CLを基準として、直交方向に対称な形状を有している。図3図5に示されるように、大径シール部材310は、外側シール部312と、内側シール部314とを有している。
【0047】
外側シール部312は、弾性材料からなる。弾性材料として、NBR(ニトリルゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、FKM(フッ素ゴム)、FFKM(四フッ化エチレン―パーフルオロメチルビニルエーテルゴム)などのエラストマーが好ましく用いられる。外側シール部312は、大径シール部材310の径方向に大径溝214に接する。図4に示されるように、外側シール部312は、外周部312Aと、外側側部312Bと、内側部312Cとを有している。
【0048】
外周部312Aは、外側シール部312のうち大径シール部材310の径方向の外側(図4の上側)に端部に設けられている。外周部312Aは、大径シール部材310の径方向に大径溝214の底壁216に接する。図4に示されるように、外周部312Aは、大径シール部材310に外力が作用していない状態において、大径シール部材310の径方向の外向きに凸となるように湾曲する形状を有している。
【0049】
外側側部312Bは、直交方向(図4の左右方向)における外側シール部312の端部に設けられている。外側側部312Bは、大径シール部材310の径方向の外側に向かうにしたがって次第に直交方向の内側に向かうように傾斜する形状を有している。外側側部312Bの傾斜角θは、3度~20度の範囲で設定されることが好ましい。
【0050】
内側部312Cは、外側シール部312のうち大径シール部材310の径方向の内側(図4の下側)に端部に設けられている。図4に示されるように、内側部312Cは、大径シール部材310の径方向の内向きに凸となる形状を有している。
【0051】
内側シール部314は、大径シール部材310の径方向について外側シール部312の内側に設けられている。具体的に、内側シール部314は、外側シール部312に接着されている。内側シール部314は、シャフト100の大径部110の外周面111に対して摺動しながら接する。内側シール部314は、外側シール部312の摩擦係数よりも小さな摩擦係数を有する材料からなる。このような材料として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂や、ポリアミド、ポリアセタールなどの高機能樹脂などが好ましく用いられる。図4に示されるように、内側シール部314は、内周部314Aと、内側側部314Bとを有している。
【0052】
内周部314Aは、内側シール部314のうち大径シール部材310の径方向の内側(図4の下側)に端部に設けられている。内周部314Aは、大径シール部材310の径方向に大径部110の外周面111に接する。
【0053】
内側側部314Bは、直交方向(図4の左右方向)における内側シール部314の端部に設けられている。図5に示されるように、大径シール部材310が大径溝214および大径部110間に位置する状態での、大径シール部材310の径方向における内側側部314Bの寸法h2は、開口Cの幅h1よりも大きい。
【0054】
図5に示されるように、大径シール部材310が大径溝214および大径部110間に位置する状態では、大径シール部材310に対して大径部110から押圧力Fが作用している。このため、大径シール部材310は、圧縮変形している。この圧縮変形の弾性復元力Rにより、外側シール部312が底壁216に押し付けられるとともに、内側シール部314が大径部110の外周面111に押し付けられる。このため、有効にシャフト100およびハウジング200間がシールされる。
【0055】
次に、シャフト流路100aおよびハウジング流路200aに流体が流れたときのシール材300の挙動について説明する。各流路100a,200aに流体が流れることによって、大径シール部材310で隔てられた2つの空間のうち、ハウジング流路200aを含む空間の圧力が高くなる。図6は、シール材に一方側から圧力が作用している状態を示す断面図である。図7は、図6中の実線VIIで囲まれた範囲の拡大図である。各流路100a,200aに流体が流れることにより、図6に矢印で示されるように、大径シール部材310には、回転力Mpが作用するとともに、外側側部312Bおよび内側側部314Bは、一対の対向壁218のうちハウジング流路200aから遠い側の対向壁218に押し付けられる。これにより、内側シール部314と大径部110の外周面111との接触面積が小さくなる。この状態において、シャフト100は、中心軸A周りに360度以下の回転角度範囲において、ハウジング200に対して相対的に正回転と逆回転とを繰り返す。
【0056】
以上に説明したように、本実施形態のスイベルジョイント1では、保持溝204にシール材300が配置されることにより、主に外側シール部312の弾性復元力によって有効にシャフト100およびハウジング200間をシールできる。さらに、シャフト100の外周面は、外側シール部312の摩擦係数よりも小さな摩擦係数を有する内側シール部314に接しながらハウジング200に対して相対回転するため、シャフト100の回転抵抗(トルク)が低減されるとともに、シール材300の摩耗も抑制される。加えて、シール材300が一方の対向壁218に押し付けられた状態では、内側シール部314とシャフトの外周面との接触面積が小さくなるため、シャフト100の回転抵抗(トルク)が一層低減される。よって、本スイベルジョイント1では、シャフト100の回転抵抗の低減と、シール材300の長寿命化との双方を達成することができる。
【0057】
以上のことは、シャフト100が中心軸A周りにハウジング200に対して正回転と逆回転とを繰り返す態様、つまり、シャフト100の外周面とシール材300との間に静止摩擦力の生じる局面が多い態様において特に顕著となる。
【0058】
また、本実施形態では、開口Cの幅が0.5mm以下、望ましくは0.1mm以下に設定されているため、シール材300が対向壁218に押し付けられた状態においても、開口Cからシール材300の内側側部314Bが保持溝204の外側へはみ出すことを抑制できる。
【0059】
また、本実施形態では、シャフト100は、大径部110と小径部120とを有している。このため、小径部120を先頭にしてシャフト100を大径部保持部210側からハウジング200内に挿入することにより、小径部120が大径部保持部210に接触することおよびそれに伴う小径部120の損傷を抑制することができる。
【0060】
また、大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度は、0.06mm以下であるため、シャフト100がハウジング200に保持された状態においてシャフト100が湾曲することや、シャフト100の回転抵抗(トルク)が増大することを抑制できる。
【0061】
図8は、図1に示されるスイベルジョイントの変形例を示す断面図である。図8に示されるように、スイベルジョイント1は、保持溝204(大径溝214および小径溝224)内に設けられたバックアップリング510,520をさらに有していてもよい。バックアップリング510,520は、保持溝204内のうちのシール材300の低圧側に設けられる。この態様では、開口Cからのシール材300のはみ出しをより確実に抑制することができる。
【0062】
(第2実施形態)
次に、図9を参照しながら、本発明の第2実施形態のスイベルジョイント1について説明する。図9は、本発明の第2実施形態のスイベルジョイントの断面図である。第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0063】
本実施形態では、シャフト流路100aとハウジング流路200aとが直線状につながるように構成されている。
【0064】
ハウジング200は、第1ハウジング体205と、第2ハウジング体208とを有している。
【0065】
第1ハウジング体205は、第1軸受保持部212を有する大径部保持部210と、第1延設部206とを有している。
【0066】
第1延設部206は、大径部保持部210の軸方向に沿って大径部保持部210から延びる形状を有している。第1延設部206は、円筒状に形成されている。第1延設部206の内径は、第2ハウジング体208の外径よりも大きく設定されている。
【0067】
第2ハウジング体208は、第2軸受保持部222を保持する小径部保持部220と、第2延設部209とを有している。
【0068】
本実施形態では、小径部保持部220にのみ単一の保持溝204が設けられている。すなわち、本実施形態のスイベルジョイント1は、単一のシール材300を有している。このシール材300は、シャフト100の小径部120の外周面に接している。小径部保持部220の外径は、第1延設部206の内径よりも小さく設定されている。小径部保持部220が第1延設部206の内側に位置した状態(図9に示される状態)において、第1延設部206と小径部保持部220とが固定部材(たとえばネジ)で固定される。
【0069】
第2延設部209は、小径部保持部220の軸方向に沿って小径部保持部220から延びる形状を有している。
【0070】
本実施形態では、止め輪130は、シャフト100の大径部110に設けられている。止め輪130は、第1軸受410の外側面に接している。
【0071】
本実施形態においても、シャフト100の回転抵抗の低減と、シール材300の長寿命化との双方を達成することができる。
【実施例
【0072】
次に、上記の実施形態の実施例について説明する。以下、シャフト100の回転トルク、シール材300の寿命、開口Cの幅h1の大きさと内側シール部314のはみ出し量との関係、および、同軸度とシャフト100のトルクとの関係の順に説明する。
【0073】
<シャフト100の回転トルク>
まず、図10を参照しながら、実施例1および比較例1の各々のシャフト100の回転トルクについて説明する。図10は、実施例1および比較例1における圧力と回転トルクとの関係を示すグラフである。
【0074】
実施例1では、第2実施形態のスイベルジョイント1を用いた。具体的に、継手サイズを32Aとし、保持溝204は、JIS B 2401 P35に規定のものとした。シール材300として、JIS B 2401 P35のサイズに適合し、NBRからなる外側シール部と、PTFEからなる内側シール部とを有するものを用いた。
【0075】
比較例では、シール材として、NBRからなるOリングで、かつ、JIS B 2401 P35のサイズのものを用いた。継手のサイズ、保持溝の構成は、実施例1のそれと同じである。
【0076】
この試験では、流体として一般作動油を用い、最大油圧は14MPaとし、シャフト100は、中心軸A周りに180度の回転角範囲で揺動させ(正回転と逆回転とを繰り返し)、常温で試験を行った。
【0077】
図10に示されるように、いずれの圧力においても、実施例1の回転トルクが比較例1の回転トルクに比べて大幅に低減されていた。また、流体の圧力(油圧)が増大するにしたがって、シャフト100の回転トルクの低減幅が大きくなった。
【0078】
<シール材300の寿命>
続いて、図11を参照しながら、実施例1および比較例1のシール材300の寿命について説明する。図11は、実施例1および比較例1の試験結果を示す表である。なお、実施例1および比較例1のスイベルジョイントの構成は、上記と同じである。
【0079】
この試験では、流体として空気を用い、最大圧力は0.7MPaとし、シャフト100は、中心軸A周りに180度の回転角範囲で揺動させた。加速評価のため、環境温度を上げて120度で試験を行った。
【0080】
図11に示されるように、実施例1では、比較例1の略2倍の揺動を行っても、空気の漏洩は発生していなかった。すなわち、実施例1のシール材300の寿命は、比較例のそれの略2倍以上であった。
【0081】
<開口Cの幅h1と内側シール部のはみ出し量との関係>
次に、図12図16を参照しながら、開口Cの幅h1と内側シール部314のはみ出し量との関係のシミュレーション結果について説明する。図12は、実施例2(開口幅0.3mm)のシミュレーション結果を示す図である。図13は、実施例3(開口幅0.4mm)のシミュレーション結果を示す図である。図14は、実施例4(開口幅0.5mm)のシミュレーション結果を示す図である。図15は、比較例2(開口幅0.6mm)のシミュレーション結果を示す図である。図16は、実施例2~4と比較例2とのシミュレーション結果を示す表である。
【0082】
この試験では、FEA(有限要素法)により、開口Cの幅h1の大きさと、内側シール部314の内側側部314Bの開口Cからのはみ出し量の大きさとの関係を解析した。この解析では、解析ソフトとして、Marc Menta2007を用い、解析モデルを軸対称モデルとし、圧力を14MPaとした。そして、FEA上のはみ出し状態に基づいて、内側側部314Bの開口Cからのはみ出し量を評価した。
【0083】
実施例2~4(図12図15)のように開口Cの幅h1が0.5mm以下の範囲では、内側シール部314の内側側部314Bの開口Cからのはみ出し量が0.05mm以下となった。一方、比較例2(図16)のように、開口Cの幅h1が0.6mmでは、内側シール部314の内側側部314Bの開口Cからのはみ出し量が0.15mmとなった。
【0084】
内側側部314Bの開口Cからのはみ出し量が0.15mm以上になると、シャフト100の回転(揺動)時に、そのはみ出した部分(ハウジング200とシャフト100との間に挟み込まれた部分)の摩耗が大きくなる。すなわち、実施例2~4のように、内側側部314Bの開口Cからのはみ出し量を0.05mm以下に抑えることにより、内側側部314Bの摩耗を抑制できる。
【0085】
<同軸度とシャフト100のトルクとの関係>
最後に、図17および図18を参照しながら、大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度と、シャフト100の回転トルクとの関係について説明する。図17は、同軸度と回転トルクとの関係を調べるためのハウジングの側面図である。図18は、実施例5~7および比較例3における同軸度と回転トルクとの関係を示すグラフである。
【0086】
この試験では、図8に示される、第1実施形態の変形例のスイベルジョイント1を用いた。具体的に、図17に示されるハウジング200として、継手サイズが25Aのものを用いた。大径溝214は、JIS B 2401 P35に規定のものであり、小径溝224は、JIS B 2401 P30に規定のものである。大径シール部材310として、JIS B 2401 P35のサイズに適合し、NBRからなる外側シール部と、PTFEからなる内側シール部とを有するものを用いた。小径シール部材320として、JIS B 2401 P30のサイズに適合し、NBRからなる外側シール部と、PTFEからなる内側シール部とを有するものを用いた。大径溝214に配置されるバックアップリング510として、JIS B 2401 P35に規定のものを用いた。小径溝224に配置されるバックアップリング520として、JIS B 2401 P30に規定のものを用いた。第1軸受410として、NTN株式会社製の6807LLBを用いた。第2軸受420として、NTN株式会社製の6805LLBを用いた。
【0087】
実施例5では、大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度は、0.04mmに設定され、実施例6では、大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度は、0.05mmに設定され、実施例6では、大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度は、0.06mmに設定され、比較例3では、大径部保持部210と小径部保持部220との同軸度は、0.08mmに設定された。同軸度の設定は、大径部保持部210の径φ1と小径部保持部220のφ2との調整により行われた。
【0088】
図18に示されるように、同軸度が0.06mm以下では、シャフト100の回転トルクが低い値に維持され、同軸度が0.08mmでは、シャフト100の回転トルクが急激に大きくなった。これより、同軸度が0.06mm以下に設定されることにより、シャフト100の回転トルクを低くすることができることが分かった。
【0089】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1 スイベルジョイント、100 シャフト、100a シャフト流路、110 大径部、111 外周面、120 小径部、200 ハウジング、200a ハウジング流路、202 ハウジング本体、204 保持溝、210 大径部保持部、214 大径溝、216 底壁、218 対向壁、220 小径部保持部、224 小径溝、230 分岐部、300 シール材、310 大径シール部材、312 外側シール部、312A 外周部、312B 外側側部、314 内側シール部、314A 内周部、314B 内側側部、320 小径シール部材、410 第1軸受、420 第2軸受、C 開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18