(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】傷防止用紙及び段ボール紙
(51)【国際特許分類】
D21H 13/10 20060101AFI20220909BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20220909BHJP
D21H 21/56 20060101ALI20220909BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
D21H13/10
B32B29/00
D21H21/56
D21H27/00 E
(21)【出願番号】P 2018187442
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】橘 博徳
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132231(JP,A)
【文献】特開2008-075206(JP,A)
【文献】特開2011-207162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B32B 1/00 - 43/00
B65D 57/00 - 59/08
B65D 65/00 - 81/30
B65D 81/38
B65D 85/88
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の紙層を備え、
上記2層以上の紙層のうちの表面に位置する表層が、天然パルプ、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子を含む傷防止用紙。
【請求項2】
上記表層における上記熱溶融性繊維の含有量が、上記天然パルプの含有量100質量部に対して5質量部以上10質量部以下であり、
上記表層における上記熱発泡性粒子の含有量が、上記天然パルプの含有量100質量部に対して8質量部以上15質量部以下である請求項1に記載の傷防止用紙。
【請求項3】
上記表層の密度が0.1~0.5g/cm
3、かつ平均厚みが100~300μmである請求項1又は請求項2に記載の傷防止用紙。
【請求項4】
圧縮指数(縦)が180~250N・m
2/gであり、
表面の表面強度(ワックスピック)が12A以上であり、
裏面のコッブサイズ度(2分)が10~50g/m
2である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の傷防止用紙。
【請求項5】
上記表層が、カチオン性の定着剤をさらに含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の傷防止用紙。
【請求項6】
段ボール紙用のライナーである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の傷防止用紙。
【請求項7】
請求項6に記載の傷防止用紙を有する段ボール紙。
【請求項8】
包装材又は緩衝材として用いられる請求項7に記載の段ボール紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷防止用紙及び段ボール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
各種商品を包装する際には、商品を保護するために、発泡スチロール等の各種緩衝材が用いられることがある。緩衝材に求められる性能としては、(1)外部からの圧力を吸収し、商品の変形等を防止できること(クッション性)、(2)商品の傷付きを防止できること(傷付き防止性)、及び(3)緩衝材自らが発生する塵、粉塵を低減し、微少な浮遊塵の極めて少ない環境を維持できること(低発塵性)が挙げられる。
【0003】
従来、包装用緩衝材としては、発泡スチロール、発泡ポリエチレン等のポリマー発泡体が用いられているが、廃棄物処理、リサイクル等の観点から、生分解性に優れ、燃焼しても汚染物質や煤煙等が出にくい紙等への転換が進められている。紙基材であってクッション性に富むものとしては段ボール紙、特に片面段ボール紙が挙げられる。しかしながら、一般に用いられている段ボール紙のような天然パルプを抄紙した紙は、紙粉が発生しやすいので、商品の表面に微細な傷を防ぐことが出来ず鏡面仕上げされた部品の緩衝材等としては使用することが出来ない。
【0004】
特許文献1には、耐衝撃性、クッション性等に優れた混抄紙として、パルプ繊維層に均一に分散保持された発泡体粒子を含有することを特徴とする発泡体粒子混抄紙が提案されている。しかし、このような混抄紙においても、発泡性粒子の脱離などによる紙粉が生じやすい。また、損傷防止性も十分なものでは無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生が抑制された傷防止用紙、及びこのような傷防止用紙を有する段ボール紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、2層以上の紙層を備え、上記2層以上の紙層のうちの表面に位置する表層が、天然パルプ、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子を含む傷防止用紙である。
【0008】
当該傷防止用紙は、表層に、天然パルプ、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子を含有させているため、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生が抑制されている。すなわち、表層に熱発泡性粒子が存在することにより、表面に柔軟な凹凸が形成され、傷付き防止性が高まる。また、製紙における乾燥工程等で、熱溶融性繊維が溶融し、天然パルプ、熱発泡性粒子等と接着するため、天然パルプや熱発泡性粒子等の脱離を抑制し、紙粉の発生が抑制される。
【0009】
上記表層における上記熱溶融性繊維の含有量が、上記天然パルプの含有量100質量部に対して5質量部以上10質量部以下であり、上記表層における上記熱発泡性粒子の含有量が、上記天然パルプの含有量100質量部に対して8質量部以上15質量部以下であることが好ましい。表層における熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子の含有量を上記範囲とすることで、天然パルプ、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子の含有比率が好適化され、傷付き防止性をより高め、紙粉の発生をより抑えることができる。
【0010】
上記表層の密度が0.1~0.5g/cm3、かつ平均厚みが100~300μmであることが好ましい。表層をこのように比較的低密度で且つ厚みのある層とすることで、良好なクッション性が発現されることなどにより、傷付き防止性をより高めることができる。
【0011】
当該傷防止用紙の圧縮指数(縦)が180~250N・m2/gであり、表面の表面強度(ワックスピック)が12A以上であり、裏面のコッブサイズ度(2分)が10~50g/m2であることが好ましい。圧縮指数及び表面の表面強度を上記範囲とすることで、十分な強度となり、紙粉の発生がより抑制され、また、傷付き防止性も高めることができる。また、裏面のコッブサイズ度を比較的低くすることで、例えば段ボール紙に加工するとき、コルゲーター等を用いて裏面に貼合剤を塗布した際において、貼合剤が表層側に浸透することが抑制される。このため、良好な貼合性が発揮され、また、優れた傷付き防止性も貼合剤に影響されることなく発揮される。
【0012】
上記表層が、カチオン性の定着剤をさらに含むことが好ましい。カチオン性の定着剤を用いることで熱発泡性粒子の凝集状態が良好となることにより、熱発泡性粒子の定着性が高まり、その結果、傷付き防止性が高まり、紙粉の発生もより低減する。
【0013】
当該傷防止用紙は、段ボール紙用のライナーであることが好ましい。当該傷防止用紙は、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生も抑制されているため、緩衝材、包装材等として使用される段ボール紙のライナーに好適に用いることができる。
【0014】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、当該傷防止用紙を有する段ボール紙である。当該段ボール紙は、上記傷防止用紙が用いられているため、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生も抑制される。
【0015】
当該段ボール紙は、包装材又は緩衝材として用いられることが好ましい。当該段ボール紙は、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生も抑制されているため、包装材や緩衝材として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生が抑制された傷防止用紙、及びこのような傷防止用紙を有する段ボール紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る傷防止用紙及び段ボール紙について詳説する。
【0018】
<傷防止用紙>
本発明の一実施形態に係る傷防止用紙は、2層以上の紙層を備える。各紙層は、天然パルプを主成分とする層である。なお、主成分とは、質量基準で最も含有量が多い成分をいう。
【0019】
(表層)
表層は、2層以上の紙層のうちの、表面に位置する1つの層である。表層は、天然パルプ、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子を含む。
【0020】
表層の主成分となる天然パルプとしては、特に限定されず、例えば、古紙パルプ(DIP)、化学パルプ(例えば広葉樹クラフトパルプ:LBKP、針葉樹クラフトパルプ:NBKPなど)、機械パルプ(例えばサーモメカニカルパルプ:TMP、プレッシャライズトドクラフトパルプ:PGW、リファイナーグランドパルプ:RGP、グランドパルプ等)やケナフ、バガス、麻、コットンなどの非木材パルプなどから得られるパルプ繊維を挙げることができる。
【0021】
これらの天然パルプの中でも、表層に用いるパルプ繊維としてはLBKPが好ましい。LBKPを用いることで、傷付き防止性等をより高めることができる。表層の天然パルプに占めるLBKPの含有割合の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%が好ましく、90質量%がさらに好ましく、99質量%がよりさらに好ましい。このLBKPの含有割合の上限としては、100質量%が好ましい。
【0022】
表層における天然パルプの含有割合の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。一方、この含有割合の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。表層における天然パルプの含有割合が上記範囲であることで、表層に好ましい量の熱溶融繊維及び熱発泡性粒子を含ませることができ、傷付き防止性、紙粉発生抑制性等の効果をより十分に発揮させることができる。
【0023】
表層に用いる天然パルプのフリーネスの下限としては、250ccが好ましく、350ccがより好ましい。一方、このフリーネスの上限としては、450ccが好ましく、400ccがより好ましい。上記範囲のフリーネスを有する天然パルプを表層に用いることで、傷付き防止性等の効果をより高めることができる。なお、フリーネスは、JIS-P-8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0024】
熱溶融性繊維とは、加熱により溶融する繊維であり、熱可塑性樹脂製の繊維などが用いられる。熱溶融性繊維の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)系繊維、ポリエチレン(PE)系繊維、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系繊維、ビニロン系繊維、ポリビニルアルコール(PVA)系繊維、レーヨン系繊維等が挙げられる。
【0025】
熱溶融性繊維としては、PET系繊維、PE系繊維、EVA系繊維、ビニロン系繊維、及びPVA系繊維が好ましく、PET系繊維及びPVA系繊維がより好ましく、PET系繊維がさらに好ましい。このような繊維は、天然パルプや熱発泡性粒子との溶融後の接着性が良好であり、原料パルプ中に混合して好適に抄紙することができ、また、熱発泡性粒子の発泡を阻害し難いため、好ましい。熱溶融性繊維としては、芯鞘構造の繊維を用いることも好ましい。
【0026】
熱溶融性繊維の溶融温度(繊維表面の溶融温度)の下限としては、90℃が好ましく、100℃がより好ましい。一方、この溶融温度の上限としては、130℃が好ましく、120℃がより好ましい。一般的に製紙の際の乾燥工程の温度は130℃程度である。そのため、熱溶融性繊維の溶融温度を上記範囲とすることで、製造工程中の乾燥工程において天然パルプや熱発泡性粒子を十分に接着させつつ、熱発泡性粒子を十分に発泡させることができる。
【0027】
熱溶融性繊維の市販品としては、クラレ社の「ソフィットN720」、帝人社の「TJ04CN」、ユニチカ社の「ビニロンバインダーSML」、「エステル4080」、チッソ社の「EA-CHOP」、ダイワボウ社の「NBF」等などが好適に使用できる。
【0028】
表層における熱溶融性繊維の含有量の下限としては、天然パルプの含有量100質量部に対して、1質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。熱溶融性繊維の含有量を上記下限以上とすることで、熱発泡性粒子等をより十分に接着させることができ、紙粉の発生をより抑制することができる。一方、熱溶融性繊維の含有量の上限としては、天然パルプの含有量100質量部に対して、20質量部が好ましく、10質量部がより好ましい。熱溶融性繊維の含有量を上記上限以下とすることで、熱発泡性粒子を十分に発泡させ、傷付き防止性を高めることができる。
【0029】
熱発泡性粒子とは、加熱により発泡(膨張)する粒子であり、熱発泡性粒子としては、熱可塑性樹脂で構成された微細粒子外殻内に低沸点溶剤を封入した熱発泡性マイクロカプセル等を用いることができる。外殻を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の重合体を挙げることができる。また、かかる外殻内に封入される低沸点溶剤としては、例えばイソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシラン等を挙げることができる。
【0030】
熱発泡性粒子の市販品としては、例えば松本油脂製薬社の「マツモトマイクロスフェアーF-20シリーズ」、「同F-30シリーズ」、「同F-36シリーズ」、「同F-46シリーズ」や、日本フィライト社の「エクスパンセルWU」、「同DU」などを挙げることができる。
【0031】
熱発泡性粒子は、加熱により例えば体積が50~130倍に膨張するものを用いることができる。熱発泡性粒子の発泡前の体積平均粒径の下限としては、5μmが好ましく、8μmがより好ましい。一方、この上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。このようなサイズの熱発泡性粒子を用いることで、より良好な傷付き防止性を発揮させることができる。
【0032】
当該傷防止用紙に用いられる熱発泡性粒子の膨張開始温度の下限としては、70℃が好ましく、90℃がより好ましい。一方、この膨張開始温度の上限としては、130℃が好ましく、110℃がより好ましい。熱発泡性粒子は、外殻を構成する熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱され、同時に封入されている低沸点溶剤が気化し蒸気圧が上昇し、外殻が膨張して粒子が膨張し、膨張時は内圧と殻の張力・外圧が釣り合って膨張状態が保持される。熱発泡性粒子は、一般的にはこの状態まで膨張させ、クッション剤などとして利用されている。しかしながら、この膨張状態の熱発泡性粒子にさらに熱が加えられた場合、すなわち過剰に熱が加えられた場合には、膨張して薄くなった殻からガスが透過拡散し、内圧よりも殻の張力・外力が大きくなってしまい、発泡した粒子が収縮してしまう。当該傷防止用紙は、通常、製紙工程中の乾燥工程でのドライヤにより熱発泡性粒子を発泡させるところ、一般的に製紙の際の乾燥工程の温度は130℃程度であるため、上記のように膨張開始温度が比較的低温なものを用いることで、過剰に熱が加えられ、発泡した粒子が収縮することを抑制することができる。また、膨張開始温度が上記下限以上であることで、乾燥工程において十分に膨張させることができる。
【0033】
表層における熱発泡性粒子の含有量の下限としては、天然パルプの含有量100質量部に対して、3質量部が好ましく、8質量部がより好ましい。熱発泡性粒子の含有量を上記下限以上とすることで、膨張した熱発泡性粒子により、より十分に傷付き防止性を発揮することができる。一方、熱発泡性粒子の含有量の上限としては、天然パルプの含有量100質量部に対して、20質量部が好ましく、15質量部がより好ましい。熱発泡性粒子の含有量を上記上限以下とすることで、十分に接着していない熱発泡性粒子の存在が少なくなり、紙粉の発生をより低減することができる。
【0034】
表層は、さらに定着剤を含むことが好ましく、カチオン性の定着剤を含むことがより好ましい。これにより熱発泡性粒子が良好な凝集状態で定着するため、熱発泡性粒子の定着性が高まり、その結果、傷付き防止性が高まり、紙粉の発生もより低減する。また、定着剤を含むことで、加熱の際に熱発泡性粒子の移動が制限されるため、熱発泡性粒子が偏在化せず、均一な膨張が可能となり、このような理由により、表層のクッション性、傷付き防止性、紙粉発生抑制性等が高まっているとも推測される。
【0035】
カチオン性の定着剤としては、例えばポリアクリルアミド系定着剤、ポリアミドエピクロロヒドリン系定着剤、ポリエチレンイミン系定着剤、カチオン性スチレン系定着剤、カチオン化澱粉等を挙げることができ、これらの中でも、カチオン性ステンレス系定着剤が好ましい。
【0036】
カチオン性の定着剤の市販品としては、明成化学工業社の「セラフィックスST」、伯東社の「ハクトロンKC-100」等を挙げることができる。
【0037】
なお、当該傷防止用紙の製造における表層用のパルプスラリーの調製においては、先ず、熱発泡性粒子と定着剤と水とを混合して、熱発泡性粒子の凝集体のスラリーを得て、このスラリーを、天然パルプ等を含むスラリーに添加することにより効果的に行うことができる。ここで、熱発泡性粒子の凝集体のスラリーの濃度を5~30質量%とすることが好ましく、10~20質量%とすることがより好ましい。熱発泡性粒子の凝集体のスラリーの濃度が5%未満であるとスラリーの粘性が低く、熱発泡性粒子の凝集が不十分で、歩留りが低下する。一方、熱発泡性粒子の凝集体のスラリー濃度が30質量%を超えると、スラリーの粘性が高くなりすぎて分散状態が悪くなり、粒状で配合されるため、抄紙した際に定着が阻害され、脱落されてしまう場合がある。
【0038】
表層における定着剤の添加量の下限としては、天然パルプ1tに対して、固形分換算で1kgが好ましく、3kgがより好ましい。定着剤の添加量を上記下限以上とすることで、定着剤による凝集効果・定着効果を十分に発揮させることができる。一方、この添加量の上限としては、天然パルプ1tに対して、固形分換算で20kgが好ましく、10kgがより好ましい。定着剤の添加量を上記上限以下とすることで、凝集効果が高くなってパルプがフロックとなってしまうことを抑制し、良好な地合を有する傷防止用紙を得ることができる。
【0039】
表層は、さらに紙力増強剤を含むことが好ましい。表層に紙力増強剤を含有させることで、表層の強度が高まり、紙粉の発生がより低減するなどといった効果が得られる。紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性付与PAM等が挙げられる。これらのうち、歩留りの優れるPAMが好ましい。表層における紙力増強剤の添加量の下限としては、天然パルプ1tに対して、固形分換算で10kgが好ましく、20kgがより好ましい。紙力増強剤の添加量を上記下限以上とすることで、紙力増強剤による効果を十分に発揮させることができる。一方、この添加量の上限としては、天然パルプ1tに対して、固形分換算で50kgが好ましく、40kgがより好ましい。紙力増強剤の添加量を上記上限以下とすることで、効果が頭打ちすることを抑制することができる。
【0040】
表層には、その他、顔料、染料、硫酸バンド、内添サイズ剤等の従来公知の添加剤が含有されていてもよい。但し、表層においては、内添サイズ剤が添加されていないことが好ましい場合もある。
【0041】
表層表面には、表面処理液が塗工されていてもよい。表面処理液に含まれる成分としては、例えば離型剤、表面サイズ剤等が挙げられる。離型剤としては、例えばポリエチレンワックスエマルジョン等のワックス系エマルジョン;ポリアミド、ポリアミン等の含窒素樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリメチル水素シロキサン、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂;アルミナ粒子等の無機粒子等を挙げることができる。
【0042】
表層の密度の下限としては、0.1g/cm3が好ましく、0.2g/cm3がより好ましい。一方、表層の密度の上限としては、0.5g/cm3が好ましく、0.4g/cm3がより好ましい。表層がこのような低密度であることにより、柔軟な表層となり、より良好な傷付き防止性を発揮することができる。
【0043】
表層の平均厚みの下限としては、50μmが好ましく、100μmがより好ましい。表層の平均厚みを上記下限以上とすることで、より良好な傷付き防止性を発揮することができる。一方、表層の平均厚みの上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、260μmがさらに好ましい。表層の平均厚みを上記上限以下とすることで、脱落しやすい熱発泡性粒子の数が抑えられ、紙粉の発生がより生じ難くなる。
【0044】
(他の紙層)
当該傷防止用紙は、上記表層以外の他の紙層を有する。表層以外の紙層の層数の下限は1であるが、2であることが好ましい。すなわち、傷防止用紙の全紙層が3層以上であることで、良好なクッション性が発現することなどにより、傷付き防止性をより高めることができる。一方、表層以外の紙層の層数の上限としては、例えば5であり、3が好ましい。表層以外の紙層の層数を上記上限以下とすることで、傷防止用紙の軽量化を図ることなどができる。
【0045】
表層以外の他の紙層の主成分となる天然パルプとしては、表層で例示したものと同じものを挙げることができる。これらの中でも、古紙パルプを用いることが好ましい。表層以外の他の紙層には、通常、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子は含有されないが、これらが含有されていてもよい。但し、表層以外の他の紙層、特に裏層に熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子が含有されていないことで、コルゲーター等により裏面に貼合剤を良好に塗布することができ、貼合性等を高めることができる。また、表層以外の他の紙層に熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子を含有しないことで、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子の使用量を減らし、生産コストの上昇を抑えることができる。
【0046】
また、表層以外の他の紙層には、表層と同様の各種添加剤が含有されていてもよい。表層以外の他の紙層に好適に添加される添加剤としては、内添サイズ剤及び紙力増強剤を挙げることができる。内添サイズ剤としては、ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、アクリル系サイズ剤等が挙げられる。表層以外の他の紙層における内添サイズ剤の添加量としては、天然パルプ1tに対して、固形分換算で5kg以上20kg以下が好ましい。また、内添サイズ剤を添加しないことが好ましいこともある。表層以外の他の紙層における紙力増強剤の添加量としては、天然パルプ1tに対して、固形分換算で10kg以上35kg以下が好ましい。
【0047】
表層以外の他の紙層の密度の下限としては、0.5g/cm3が好ましく、0.57g/cm3がより好ましい。裏層等の密度を比較的高くすることで、裏面に塗布した貼合剤が表層にまで浸透することによって貼合性が低下することを抑制することができる。一方、表層の以外の他の層の密度の上限としては、0.7g/cm3が好ましく、0.62g/cm3がより好ましい。
【0048】
表層以外の他の紙層の合計の平均厚みの下限としては、30μmが好ましく、100μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。表層以外の他の紙層の合計の平均厚みを上記下限以上とすることで、貼合性を高めることができる。一方、表層以外の他の層の合計の平均厚みの上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、230μmがさらに好ましい。表層以外の他の層の合計の平均厚みを上記上限以下とすることで、軽量化を図ることなどができる。
【0049】
(製造方法)
当該傷防止用紙の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の工程により、公知の多層抄き抄紙機を用いて製造することができる。
(1)天然パルプを水に分散させて得たスラリーに、各紙層に対応した添加剤等を必要に応じ添加して混合し、各紙層の紙料を調製する。
(2)それぞれの紙料をワイヤー上で抄紙し、抄き合わせる。
(3)加圧ロールによりプレスし、水分を除去する。
(4)ドライヤにて乾燥し、必要に応じ表面処理液を塗工する。
(5)リールに巻き取り、傷防止用紙を得る。
【0050】
(品質等)
当該傷防止用紙の坪量の下限としては、例えば150g/m2が好ましく、165g/m2がより好ましい。坪量を上記下限以上とすることで、傷付き防止性がより高まる傾向にある。一方、この坪量の上限としては、200g/m2が好ましく、185g/m2がより好ましい。坪量を上記上限以下とすることで、軽量化を図ることができ、加工性等も良好になる。
【0051】
当該傷防止用紙の密度の下限としては、0.3g/cm3が好ましく、0.35g/cm3がより好ましい。一方、当該傷防止用紙の密度の上限としては、0.7g/cm3が好ましく、0.6g/cm3がより好ましい。当該傷防止用紙の密度が上記範囲であることで、十分な傷付き防止性と強度とを発揮することなどができる。
【0052】
当該傷防止用紙の紙厚の下限としては、200μmが好ましく、290μmがより好ましい。紙厚を上記下限以上とすることで、十分なクッション性を発揮することなどができる。一方、この紙厚の上限としては、600μmが好ましく、500μmがより好ましい。紙厚を上記上限以下とすることで、軽量化等を図ることなどができる。
【0053】
当該傷防止用紙の表面の表面強度(ワックスピック)の下限としては、12Aが好ましく、13Aがより好ましく、14Aがさらに好ましい。表面の表面強度(ワックスピック)が上記下限以上であることで、傷付き防止性や紙粉抑制性をより高めることができる。この表面強度(ワックスピック)の上限は、例えば20Aであってよく、18Aであってもよい。なお、表面強度(ワックスピック)は、JAPAN TAPPI No.1(2000)に準拠して測定される値を言う。
【0054】
当該傷防止用紙のリングクラッシュ法による比圧縮強さ(縦)の下限としては、180N・m2/gが好ましく、200N・m2/gがより好ましい。当該傷防止用紙の比圧縮強さ(縦)が上記下限以上であることで、傷付き防止性や紙粉抑制性をより高めることができる。一方、比圧縮強さ数(縦)の上限としては、250N・m2/gとすることができる。当該傷防止用紙のリングクラッシュ法による比圧縮強さ(横)の下限としては、110N・m2/gが好ましく、130N・m2/gがより好ましい。当該傷防止用紙の比圧縮強さ(横)が上記下限以上であることで、傷付き防止性や紙粉抑制性をより高めることができる。一方、比圧縮強さ(横)の上限としては、200N・m2/gとすることができる。なお、リングクラッシュ法による比圧縮強さは、JIS-P-8126(2005)に準拠して測定された値をいう。
【0055】
当該傷防止用紙の裏面のコッブサイズ度(2分)の下限としては、10g/m2が好ましく、18g/m2がより好ましい。当該傷防止用紙の裏面のコッブサイズ度(2分)の上限としては、50g/m2が好ましく、32g/m2がより好ましい。このように裏面のコッブサイズ度を比較的低くすることで、コルゲーター等を用いて裏面に貼合剤を塗布した際において貼合剤が深く表層にまで浸透することが抑制され、良好な貼合性が発揮される。なお、当該傷防止用紙の表面のコッブサイズ度(2分)の下限としては、50g/m2が好ましく、80g/m2がより好ましい。当該傷防止用紙の表面のコッブサイズ度(2分)の上限としては、200g/m2が好ましく、160g/m2がより好ましい。なお、コッブサイズ度(2分)は、JIS-P-8140(1998)に準拠して測定した値をいう。
【0056】
当該傷防止用紙の破裂強さの下限としては、1.8kPa・m2/gが好ましく、4kPa・m2/gがより好ましい。破裂強さが上記下限以上であることで、包装材や緩衝材として十分な強度を発揮することができる。一方、この破裂強さの上限としては、例えば10kPa・m2/gとすることができる。なお、破裂強さは、JIS-P-8131「板紙-破裂強さ試験方法」に準拠して測定した値をいう。
【0057】
当該傷防止用紙の層間強度の下限としては、50mJが好ましく、65mJがより好ましい。層間強度が上記下限以上であることで、包装材や緩衝材として十分な強度を発揮することができる。一方、この層間強度の上限としては、例えば100mJとすることができる。なお、層間強度は、Japan TAPPI No.18-2に準拠して測定した値をいう。
【0058】
当該傷防止用紙の表層(第1層)と表層に隣接する第2層との間のT型剥離強度としては、210g以上が好ましい。また、当該傷防止用紙が、3層以上の紙層を備える場合、第2層と第3層との間のT型剥離強度としては、280g以上が好ましい。なお、表面から順に表層(第1層)、第2層及び第3層とする。T型剥離強度が上記下限以上であることで、包装材や緩衝材として十分な強度を発揮することができる。これらのT型剥離強度の上限としては、例えば500gであってよい。なお、T型剥離強度は、JIS-Z-0234に準拠して測定した値である。具体的には、傷防止用紙に対して、手作業で表層(第1層)と第2層との間及び第2層及び第3層との間のそれぞれを剥離し、23℃50%RH環境下で引張速度10m/分の条件で表層(第1層)と第2層との間、及び第2層及び第3層との間をT型剥離した際の剥離強度である。
【0059】
当該傷防止用紙の表面の十点平均粗さ(Rz)の下限としては、20μmが好ましく、23μmがより好ましく、25μmがさらに好ましい。表面の十点平均粗さ(Rz)を上記下限以上とすることで、熱発泡性粒子による十分な凹凸が表面に形成され、傷付き防止性がより高まる。一方、この十点平均粗さ(Rz)の上限としては、50μmが好ましく、40μmがさらに好ましく、35μmがよりさらに好ましい。表面の十点平均粗さ(Rz)を上記上限以下とすることで、表面の熱発泡性粒子の脱落を抑制し、紙粉の発生を抑制することができる。なお、十点平均粗さ(Rz)は、JIS-B-0601:1994「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して測定される値である。
【0060】
当該傷防止用紙の表面のベック平滑度としては、3秒以上10秒以下であることが好ましい。表面のベック平滑度を上記範囲とすることで、傷付き防止性や紙粉発生抑制性等をより高めることができる。なお、ベック平滑度は、JIS-P-8119(1998)に準じて測定される値である。
【0061】
当該傷防止用紙の表面の縦方向の静摩擦係数の下限としては、0.40が好ましく、0.45がより好ましい。このように表面の静摩擦係数が大きいと、被包装物等との密着性が高まることなどにより、傷付きがより生じ難くなる。一方、この静摩擦係数の上限としては、例えば0.60であり、0.55であってよい。なお、静摩擦係数は、JIS-P-8147(2010)に準拠して測定される値である。
【0062】
当該傷防止用紙は、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生も抑制されているため、緩衝材、包装材等として使用される段ボール紙のライナー等に好適に用いることができる。また、段ボール紙等に加工しなくとも、当該傷防止用紙をそのまま包装紙等として用いることもできる。
【0063】
<段ボール紙>
本発明の一実施形態に係る段ボール紙は、上述した本発明の一実施形態に係る傷防止用紙を有する。なお、傷防止用紙の表層は段ボール紙の外面側(中芯が貼り付けられた面とは反対の面側)に配置される。
【0064】
段ボール紙は、ライナーとしての当該傷防止用紙の裏面に、波型に加工した中芯を貼り付けた板状の紙をいう。段ボール紙は、通常、中芯の、表ライナーとは反対側に裏ライナーを貼り付けるが、上記裏ライナーの貼り付けは任意である。段ボール紙の製造方法は、特に限定されず、例えばコルゲーターを用いて中芯とライナー(当該傷防止用紙)の裏面とを貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0065】
当該段ボール紙は、当該傷防止用紙を用いていることから、傷付き防止性に優れ、紙粉の発生も抑制されているため、包装材や緩衝材として好適に用いることができる。当該段ボール紙は、箱等に加工し、被包装材を包装することができる。当該段ボール紙は、例えば電子材料、半導体商品などの精密部品、バンパー等の自動車部品、食品等の包装材又は緩衝材として用いることができる。
【実施例】
【0066】
本発明について以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
各種測定及び評価は、以下の方法により行った。
【0067】
(a)フリーネス
原料の天然パルプのフリーネスは、JIS-P-8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定した。
【0068】
(b)坪量
傷防止用紙及び各層の坪量は、JIS-P-8124に記載の「坪量測定方法」に準拠して測定した。なお、各紙層の坪量は、手作業で紙層を剥離して測定した。各紙層の測定値について、以下同様である。
【0069】
(c)紙厚及び各紙層の厚み
紙厚(紙全体の厚み)及び各紙層の厚みは、JIS-P-8118(1998)「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0070】
(d)密度
傷防止用紙及び各紙層の密度は、JIS-P-8118(1998)「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0071】
(e)表面強度
傷防止用紙表面の表面強度(ワックスピック)は、JAPAN TAPPI No.1(2000)に準拠して測定した。
【0072】
(f)比圧縮強さ
傷防止用紙の比圧縮強さ(縦及び横)は、JIS-P-8126(2005)に準拠したリングクラッシュ法により測定した。
【0073】
(g)コッブサイズ度(2分)
傷防止用紙の表面及び裏面のコッブサイズ度(2分)は、JIS-P-8140(1998)に準拠して測定した。
【0074】
(h)破裂強さ
傷防止用紙の破裂強さは、JIS-P-8131「板紙-破裂強さ試験方法」に準拠して測定した。
【0075】
(i)層間強度
傷防止用紙の層間強度は、Japan TAPPI No.18-2に準拠して測定した。
【0076】
(j)T型剥離強度
T型剥離強度は、JIS-Z-0234に準拠して測定した。具体的には、傷防止用紙に対して、手作業で表層(第1層)と第2層との間及び第2層及び第3層との間のそれぞれを剥離し、23℃50%RH環境下で引張速度10m/分の条件で表層(第1層)と第2層との間、及び第2層及び第3層との間をT型剥離した際の剥離強度を測定した。
【0077】
(k)ベック平滑度
傷防止用紙表面のベック平滑度は、JIS-P-8119(1998)に準じて測定した。
【0078】
(l)十点平均粗さ(Rz)
傷防止用紙の表面の十点平均粗さ(Rz)は、JIS-B-0601(1994)「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、表面粗さ測定器(ミツトヨ社製、製品名SJ-201P)を用いて10の試料を測定し、それらの平均値を値とした。
【0079】
(m)静摩擦係数
傷防止用紙の表面の縦方向の静摩擦係数は、JIS-P-8147(2010)に準拠して測定した。
【0080】
(n)紙粉
JIS-P-8136「板紙の耐摩耗強さ試験方法」に準拠し、傷防止用紙の表面同士を接触させて紙粉が発生するまでの回数を測定した。評価基準を以下に示す。
◎:回数50,000で紙紛の発生が認められなかった。
○:回数10,000以上50,000回未満で紙紛の発生が認められた。
△:回数1,000以上10,000未満で紙紛の発生が認められた。実使用できる下限レベルである。
×:回数1,000未満で紙紛の発生が認められ、実使用できない。
【0081】
(o)傷付き
傷防止用紙表面に水性墨インキを5g/m2塗布した試験片を準備し、JIS-P-8136「板紙の耐摩耗強さ試験方法」に準拠し、500gの荷重をかけ試験片表面同士を接触させて往復500回の耐摩耗強さ試験を実施した。試験片の傷入りの状態を以下の評価基準にて目視で評価した。この評価が優れる、すなわち傷付きが少ない場合、商品等に対する傷付き防止性に優れると判断できる。
◎:傷の発生が認められなかった。
○:傷が若干発生した。
△:傷が多少発生したが、実試用できる下限レベルであった。
×:傷が多く発生し、紙剥けが多量に見られ実使用不可能であった。
【0082】
実施例及び比較例で用いた各薬品を以下に示す。
・熱溶融性繊維
クラレ社の「ソフィットN720」 芯鞘構造(芯鞘比5:5)、熱溶融温度110℃、繊度2.2dtex、直径14μm
・熱発泡性粒子A
松本油脂製薬社の「マツモトマイクロスフェアーF-48」発泡開始温度90~100℃、粒子径(発泡前)9~15μm
・熱発泡性粒子B
松本油脂製薬社の「マツモトマイクロスフェアーF-36LV」発泡開始温度75~85℃、粒子径(発泡前)13~19μm
・定着剤
明成化学工業社の「セラフィックスST」カチオン性スチレン系定着剤
【0083】
[実施例1]
表層の原料パルプとしてフリーネスが350ccのLBKPを用い、原料パルプ100質量部に対して、熱溶融性繊維を5質量部、熱発泡性粒子Aを8質量部含み、原料パルプ1tに対して、定着剤を5kg、紙力増強剤(PAM)を35kg含む、表層用の原料パルプスラリーを調製した。なお、熱発泡性粒子Aと定着剤とは水中で予め混合することで、熱発泡性粒子Aを凝集させ、得られた熱発泡性粒子Aの凝集体のスラリーを原料パルプに添加した。
他の層の原料パルプとして、段ボール裁落古紙を用い、原料パルプ1tに対して固形分換算でロジン系の内添サイズ剤を10kg、原料パルプ1tに対して紙力増強剤を23kg含む、他の層用の原料パルプスラリーを調製した。
これらの原料パルプスラリーを用い、抄紙機により4層(表層1層及び他の紙層3層)の紙層からなる、実施例1の傷防止用紙を得た。なお、乾燥の際の温度は、130℃に設定して行った。
【0084】
[実施例2~11、比較例1~2]
各紙層の成分の種類及び量を表1の通りとし、表1、2に記載の坪量、密度、各紙層の厚みとなるように調整して抄紙したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~11及び比較例1~2の各傷防止用紙を得た。
【0085】
[評価]
上記した方法にて、得られた各傷防止用紙について、紙全体及び各層の坪量、紙全体及び各層の厚み、紙全体及び各層の密度、表面の表面強度、比圧縮強さ(縦及び横)、表面及び裏面のコッブサイズ度(2分)、破裂強さ、層間強度、T型剥離強度、表面のベック平滑度、表面の十点平均粗さ(Rz)、及び表面の静摩擦係数を測定し、紙粉及び傷付きについて評価した。測定結果及び評価結果を表1又は表2に示す。表2中の「-」は、測定を行っていないことを示す。
【0086】
【0087】
【0088】
表1、2に示されるように、表層が天然パルプ、熱溶融性繊維及び熱発泡性粒子を含む実施例1~11の各傷防止用紙は、傷付き及び紙粉の発生が少ないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の傷防止用紙は、段ボール紙のライナー、その他の包装材や緩衝材などに好適に用いることができる。