(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】コンクリート造の梁構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/21 20060101AFI20220909BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
E04B1/21 D
E04B1/58 503E
(21)【出願番号】P 2018198823
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 敦志
(72)【発明者】
【氏名】森田 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 知宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英義
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-322273(JP,A)
【文献】特開2008-169672(JP,A)
【文献】特開平03-087455(JP,A)
【文献】特開2015-021273(JP,A)
【文献】特開2000-319985(JP,A)
【文献】特開2017-025680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/16
E04B 1/20
E04B 1/21
E04B 1/38-1/61
E04C 5/18
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート造の梁材ユニット同士の間に、現場打設コンクリート造の梁材接続部が設けられたコンクリート造の梁構造であって、
前記梁材接続部は、前記梁材ユニットを形成するコンクリートより低強度コンクリートで形成されているとともに、
前記梁材接続部のせん断補強筋は、
前記梁材ユニットに対する前記梁材接続部のコンクリート強度差によるせん断強度の低下分をせん断補強筋で負担させるために、前記梁材ユニットに配筋されるせん断補強筋に比べて
、高強度鉄筋が
略同一の間隔をあけて高密度に配筋されていることを特徴とするコンクリート造の梁構造。
【請求項2】
前記梁材接続部の材端部、
及び中間部には、せん断補強筋を2本または3本を密着させ、梁主筋を囲むように巻き立てられた密着せん断補強筋部
と、1本のせん断補強筋が交互に設けられており、
前記梁材接続部に接する前記梁材ユニットの内部側の最材端には、密着せん断補強筋部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート造の梁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の骨組みを構成する建築構造の梁部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高層建物を建設する場合、建設現場に、予め工場で製作されたプレキャストコンクリート(以後、「PCa」という)製の柱部材や梁部材、または外装板などを搬入し、其々のPCa材を所定位置に設置した後、接合させるプレキャスト化工法が数多く採用されている。プレキャスト化工法のなかでは、PCa柱部材やPCa梁部材に関する技術開発が活発に行われてきた。
従来のPCa造の梁部材では、工場で製作されたPCa造の梁材ユニット同士の間に、後打ち部として前記梁材ユニットと同強度のコンクリートを現場打設して、一体化されていた。従って、高強度コンクリートを用いて製造されたPCa造の梁材ユニットの場合、建設現場で、後打ち部に高強度コンクリートが打設されていた。その後打ち部に高強度コンクリートを現場打設する作業工程では、粘性の高い高強度コンクリートで平滑面を形成するには作業難易度が高いために作業効率が悪く、かつ強度管理が難しい為に現場での取り扱いが容易でない、という課題があった。また、後打ち部に高強度コンクリートを現場打設することで、普通強度コンクリートに比べて、材料費コストが高く、建築コストが高くなる、という課題があった。
また、梁構造の後打ち部に高強度コンクリートを現場打設し、かつ床スラブに普通強度コンクリートを打設するには、後打ち部と床スラブとのコンクリート打ち分け箇所では型枠の設置・脱型作業に手間がかかる、という課題があった。
以下に、PCa梁部材を対象とするプレキャスト化工法について、その特徴を述べる。
【0003】
例えば、特許文献1(実開平4-42502号公報)には、梁部材の端部、及び柱梁接合部を高強度コンクリートで構築し、梁部材の中間部を低強度コンクリートで構築するRC柱梁部材が示されている。
特許文献2(特開平7-305443号公報)には、梁下半部のみを高強度コンクリートを用いてハーフPCa梁部を製作し、梁上半部については建設現場で普通強度コンクリートを現場打設して、接合させるプレキャストRC梁構造が示されている。
特許文献3(特許第4137037号公報)には、梁下半部のみのハーフPCa梁部の上部側、梁上半部、及び床スラブに低強度コンクリートを打設して接合させた床スラブ付きのRC梁の設計方法が示されている。
特許文献4(特開2008-169672号公報)には、梁端部にPCa梁部を配置し、梁中央部に低強度コンクリートを打設して接合させたコンクリート梁構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-42502号公報
【文献】特開平7-305443号公報
【文献】特許第4137037号公報
【文献】特開2008-169672号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本建築学会:鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針(案)・同解説、1997年7月10日、第1版第1刷
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、PCa材と現場打設コンクリート材を接合させるプレキャスト化工法に使用する梁構造として、梁全体をPCa材で構築する場合と同程度の構造性能を有するとともに、建築コストを低く抑えることが可能なコンクリート造の梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、プレキャスト化工法に使用する梁構造として、PCa造の梁材ユニット同士の間に、せん断補強筋を高密度配筋する、或いは高強度せん断補強筋を配筋した状態で、低強度コンクリートを現場打設して梁材接続部を構築し、当該梁材接続部と梁材ユニットを接合させた。本梁構造によって、高い構造性能を有しながら、低コスト化を可能とした。
【0008】
第1の発明のコンクリート造の梁構造は、プレキャストコンクリート造の梁材ユニット(例えば、後述の梁材ユニット3、3a3b)同士の間に、現場打設コンクリート造の梁材接続部(例えば、後述の梁材接続部4)が設けられたコンクリート造の梁構造(例えば、後述の梁構造1)であって、前記梁材接続部は、前記梁材ユニットを形成するコンクリートより低強度コンクリートで形成されているとともに、前記梁材接続部のせん断補強筋(例えば、後述のせん断補強筋6、64a、64b、65a~65d)は、前記梁材ユニットに対する前記梁材接続部のコンクリート強度差によるせん断強度の低下分をせん断補強筋で負担させるために、前記梁材ユニットに配筋されるせん断補強筋に比べて、高強度鉄筋が略同一の間隔をあけて高密度に配筋されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、梁材接続部のせん断補強筋を、梁材ユニットのせん断補強筋に比べて、高密度配筋し、かつ高強度鉄筋を配筋することで、せん断補強筋が負担出来るせん断強度分を増大させることができる。よって、PCa造の梁材ユニット同士の間に、前記梁材接続部が設けられた本発明の梁構造では、せん断補強筋の配筋量や鉄筋強度を高めることで、せん断補強筋のせん断抵抗力が増大されるために、梁全体をPCa材で構築する場合と同程度の構造性能を確保することができる。
また、現場打設コンクリート造の梁材接続部は、梁材ユニットの製造時のコンクリートより低強度コンクリートで形成されるために、梁全体をPCa材で構築する場合に比べて、建築コストを低減することが可能である。
本発明の梁構造は、PCa造の梁材ユニット同士の間に、現場打設コンクリート造の梁材接続部を設けて其々を接合させたものであり、梁全体をPCa材で構築する場合に比べて、PCa造の梁材ユニットが小型サイズとなるために、建設現場にて梁材ユニットの揚重や建て方などを効率的に行うことができる。
【0010】
第2の発明によるコンクリート造の梁構造では、前記梁材接続部の材端部(例えば、後述の梁材接続部の材端部4a)、及び中間部(例えば、後述の梁材接続部の中間部4b)には、せん断補強筋を2本または3本を密着させ、梁主筋を囲むように巻き立てられた密着せん断補強筋部(例えば、後述の密着せん断補強筋部64a、64b)と、1本のせん断補強筋が交互に設けられており、前記梁材接続部に接する前記梁材ユニットの内部側の最材端には、密着せん断補強筋部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明によれば、上述の作用効果に加えて、梁材接続部の材端部、及び/または中間部に、せん断補強筋を2本または3本を密着させて密着せん断補強筋部を設けることで、梁材接続部のせん断補強筋量を増やすことができ、高密度に配筋することができる。梁材接続部にせん断補強筋を高密度配筋することで、せん断補強筋が負担可能なせん断強度を増大させることができる。
また、梁材接続部の密着せん断補強筋部は、複数本のせん断補強筋を2重、3重に重ね巻きするのではなく、横方向に密着させつつ、梁主筋を囲むように横一列に束ねられたものであり、せん断補強筋の表面からコンクリート外面までの最短距離を表す鉄筋のかぶり厚さが低減されることはなく、耐久性、及び構造性能に優れた梁構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、梁全体をPCa材で構築するのではなく、PC造の梁材ユニット同士の間に、せん断補強筋の応力負担能力を高めた現場打設コンクリート造の梁材接続部を設けて、其々を接合させて梁構造を実現した。よって、プレキャスト化工法に使用する梁構造として、梁全体をPCa材で構築する場合と同程度の構造性能を確保しつつ、低コスト化を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る梁構造の立面図、及び見下げ平面図である。
【
図2】
図1の梁材接続部の配筋状況を示す部分拡大図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る梁構造を構成する梁材接続部の部分拡大図である。
【
図4】第1実施形態に係る梁構造の構築手順のフローチャートである。
【
図6】変形例の梁材接続部の配筋状況を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、PCa造の梁材ユニット同士の間に、現場打設コンクリート造の梁材接続部が設けられたコンクリート造の梁構造である。コンクリート造の梁構造は、現場打設コンクリート造の梁材接続部が梁材ユニットを形成するコンクリートより低強度コンクリートで形成されているとともに、梁材接続部のせん断補強筋が、梁材ユニットに配筋されるせん断補強筋に比べて、高密度に配筋されている、及び/または高強度鉄筋が配筋されている点が特徴である。
第一実施形態は、全ての梁せい断面がPCa造の梁材ユニット同士の間に、前記梁材ユニットと同様に、全ての梁せい断面が現場打設コンクリート造の梁材接続部を接合させたコンクリート造の梁構造である(
図1、
図2)。
第二実施形態は、梁断面を梁上部分と梁下部分に区分けした場合、梁下部分のみがプレキャストコンクリート製のハーフPCa造の梁材ユニットと、当該梁材ユニットの梁上部分、及び当該梁材ユニットに接して設ける梁材接続部を現場打設コンクリートで形成したコンクリート造の梁構造である(
図3)。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明では、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0015】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係るPCa造の梁材ユニット3、3a、3bと、現場打設コンクリート造の梁材接続部4を接合させたコンクリート造の梁構造1である。
図1(a)は、コンクリート造の梁構造の立面図である。
図1(b)は、コンクリート造の梁構造の見下げ平面図である。梁構造1は、隣接する柱部材2間の中央付近において、全ての梁せい断面がPCa造の梁材ユニット3、3a、3bと、全ての梁せい断面が現場打設コンクリート造の梁材接続部4を接合させたコンクリート造の梁構造である。
PCa造の梁材ユニット3、3a、3bは、柱部材2の上部に設置される。PCa造の梁材ユニット3、3a、3bは、柱部材2の側面から3方向に延びる直方体形状であり、梁主筋7が直方体形状の材端面から突出して設けられている。現場打設コンクリート造の梁材接続部4は、柱部材間のほぼ中央に位置するPCa造の梁材ユニット3a、3b同士の間に設けられる。梁材接続部4では、対向する各梁材ユニットから突出している梁主筋7、7a、7b同士が鉄筋継手部を介して連結されている。
鉄筋継手部4では、
図2に示すように、対向する各PCa造の梁材ユニットの梁端面から突出する梁上端筋同士、及び梁下端筋7b1、7b2同士に重ね継手添え筋8と割裂補強筋9を添えて、重ね継手で連結される。
PCa造の梁材ユニット3、3a、3bには、
図1及び
図2に示すように、梁材接続部と接合される材端面(鉛直接合面)には梁せいの中間高さ付近に凹形状を有するシャーコッター5が複数設けられている。また、PCa造の梁材ユニット3、3a、3bは、圧縮強度が48N/mm2の高強度コンクリートで形成されている。
梁材接続部4は、梁材ユニット3、3a、3b同士の間の底面、及び側面に型枠材を設置し、梁材ユニット3a、3bを形成するコンクリートより低強度コンクリートを型枠材内に現場打設を行い、形成される。よって、コンクリート造の梁構造1では、現場打設コンクリート造の梁材接続部4が梁材ユニット3、3a、3bを形成するコンクリートより低強度コンクリートで形成されているとともに、梁材接続部のせん断補強筋6、64a、64b、65a~65dが、梁材ユニットに配筋されるせん断補強筋61に比べて、高密度に配筋されている、及び/または高強度鉄筋が配筋されている。梁材接続部4の下端面、及び上端面は、梁材ユニット3a、3bの上端面、及び下端面と面一に形成されている。
【0016】
ここでは、
図1と
図2に示すPCa造の梁材ユニット、及び現場打設コンクリート造の梁材接続部に配筋されるせん断補強筋について、配筋方法とその配筋位置に関して述べる。
PCa造の梁材ユニットの材端部には、せん断補強筋を2本密着させて、密着せん断補強筋部63a、63bを設けた。
梁材接続部の材端部4aには、せん断補強筋を2本密着させて密着せん断補強筋部64a、64bを設け、梁材接続部の中間部4bには所定のあばら筋間隔をあけて、せん断補強筋65a~65dが1本づつ配筋される。なお、密着せん断補強筋部63a、63b、64a、64bは、せん断補強筋を3本密着させて巻き立てる場合であってもよい。または、梁材接続部の一部または全てのせん断補強筋6には、梁材ユニットのせん断補強筋より高強度鉄筋である。
具体的には、梁材接続部4は、PCa造の梁材ユニット3のコンクリート強度より低強度コンクリート(例えば、圧縮強度が27N/mm2、30N/mm2、36/mm2)を使用し、現場打設コンクリートで形成する。
【0017】
(梁構造の構築方法)
以下、本実施形態の梁構造の構築手順について、
図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、
図1に示すように柱部材2の上部にPCa造の梁材ユニット3、3a、3bを配置し、柱部材と接合させる。ここでいうPCa造の梁材ユニットは、PC工場において、梁材ユニットを形成する型枠材の中に、梁主筋とせん断補強筋を配筋した地組み梁鉄筋を設置した後、コンクリートを打設してプレキャストコンクリート造の梁材ユニットを構築する。そのPCa造の梁材ユニットは、建設現場までトラックで運搬する。
ステップS2では、
図2に示すように柱部材上に設置された各PCa造の梁材ユニット同士の間において、梁材ユニット3a、3bの材端面から梁主筋7b、7b1、7b2を梁材接続部の水平長さの半分程度突出させておき、前記梁主筋同士を連結するとともに、梁材ユニット同士の間の梁材接合部内にせん断補強筋を配筋する。次に、梁材ユニット用に、底面型枠材と側面型枠材を設置する。
以下に、梁材接続部での梁主筋の連結方法を示す。各PCa造の梁材ユニット4の梁端面から突出する梁上端筋同士、及び梁下端筋7b1、7b2同士は、僅かな隙間(15mm程度)をあけて突合せて配置し、その対向する梁主筋同士(梁上端筋、梁下端筋)に重ね継手添え筋8を添わせた後、その梁主筋7と重ね継手添え筋8を覆うように半円弧状に加工した割裂補強筋9を設置して、重ね継手で連結する。
重ね継手添え筋8は、梁上端筋、または梁下端筋より細径の異形鉄筋を複数用いて、梁上端筋の下面側、及び梁下端筋の上面側に配置する。梁主筋がD41径の場合、重ね継手添え筋8にはD25径を2本添わせ、梁主筋がD35~D38径の場合、重ね継手添え筋にはD22径を2本添わせる。
ステップS3は、
図1、
図2に示すように梁材接続部の型枠材の内部に、梁材ユニットを形成するコンクリートより低強度コンクリートを現場打設して梁材接続部を形成する。その梁材接続部とPCa造の梁材ユニットとを接合することで、コンクリート造の梁構造を実現する。
梁材接続部4に現場打設されたコンクリートは、梁材ユニット3、3a、3bの材端面に設けられた凹形状のシャーコッター5に入り込み、梁材ユニット3、3a、3bと
梁材接続部4との一体性を高める。
【0018】
(梁構造のせん断抵抗機構)
以下、本実施形態の梁構造のせん断抵抗機能について、
図5に示す梁材を対象とするせん断抵抗機構の模式図を参照しながら説明する。
図5(a)は、梁せい中央部の斜めコンクート体Cの応力伝達機構(アーチ機構)の模式図である。
図5(b)は、梁主筋Tとせん断補強筋Tと梁断面内での斜めコンクリート体Cによる応力伝達機構(トラス機構)の模式図である。
RC梁部材は、コンクリートと、上下の梁主筋と、梁主筋同士を囲むように巻き立てられるせん断補強筋とで構成される。RC梁部材のせん断強度は、非特許文献1に記載されている
図5に示されるように、梁せい中央部の斜めコンクート体Cが負担するせん断強度分(アーチ機構)、及び梁主筋Tとせん断補強筋T、梁断面内の斜めコンクリート体Cが負担するせん断強度分(トラス機構)の累加として設計されている
具体的には、日本建築学会の設計施工規準類に倣うと、RC梁のせん断強度は、梁せい中央部の斜めコンクート体Cに斜め圧縮力が生じ、これによりせん断力が伝達されるというコンクリートのアーチ機構によるせん断強度抵抗分と、梁主筋Tの付着力、せん断補強筋Tの引張力、及びコンクリートの斜め圧縮力Cで形成されるトラス体によるせん断強度抵抗分の和として評価される(非特許文献1、pp.142~pp.162)。
そこで、本発明によるコンクリート造の梁構造では、梁材接続部を他の梁部位(梁材ユニット)より低強度コンクリートで形成するものであり、梁せい中央部の斜めコンクート体のせん断強度抵抗分(アーチ機構)が低下する一方で、梁材接続部のせん断補強筋量やせん断補強筋強度を高めることによって、せん断補強筋が負担するせん断強度抵抗分(トラス機構)を増加させるものである。よって、本発明では、PCa材と現場打設コンクリート材を接合させるプレキャスト化工法に使用する梁構造として、梁全体をPCa材で構築する場合と同程度の構造性能を確保するものである。
【0019】
第一実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)本実施形態の梁構造は、PCa造の梁材ユニット同士の間に、複数のせん断補強筋を密着させて密着せん断補強筋部を設ける、及び/または高強度せん断補強筋を用いる。また、梁材接続部は、梁材ユニットよりも鉄筋量や鉄筋強度を高めたせん断補強筋を配筋し、かつ低強度コンクリートを現場打設して構築される。
梁構造では、梁材接続部が低強度コンクリートであっても、梁材接続部のせん断補強筋を密着させて高密度、または高強度鉄筋を配筋することで、梁材接続部のコンクリート強度差によるせん断強度の低下分を補うようにせん断補強筋が割増しで負担する。よって、本実施形態の梁構造では、梁全体が同一のコンクリート強度で形成された梁部材と同等の構造性能を確保することができる。
(2)梁材接続部のせん断補強筋は、梁材ユニットのせん断補強筋に比べて、高密度に配筋する、または高強度鉄筋を配筋する、或いは高強度鉄筋を高密度に配筋することで、梁主筋の付着力、せん断補強筋の引張力、及びコンクリートの斜め圧縮力で構成されるトラス機構によるせん断補強筋が負担するせん断強度を増大させることができる。
(3)梁構造は、PCa造の梁材ユニットと、低強度コンクリートを用いた現場打設コンクリート造の梁材接続部とを一体化させたコンクリート造の梁構造である。その梁材接続部を形成する低強度コンクリートは、全国殆どの建設場所であっても容易に入手可能な圧縮強度が36/mm2を下回る市場流通コンクリートであるために、建設場所の影響を殆ど受けることなく、コンクリート造の梁構造を容易に構築することができる。
【0020】
(第二実施形態)
第二実施形態は、PCa造の梁材ユニットの形状が第一実施形態と異なるものであり、梁断面の梁下部分のみがプレキャストコンクリート製のハーフPCa造の梁材ユニット3a、3bと、当該梁材ユニットの梁上部分、及び当該梁材ユニットに接して設ける梁材接続部4を現場打設コンクリートで形成させたコンクリート造の梁構造1である。
図3は、第二実施形態に係る梁構造を構成する梁材接続部の部分拡大図である。ハーフPCa造の梁材ユニット3a、3bには、梁上端筋は埋設されておらず、梁断面の梁下部側に複数の梁下端筋7b1、7b2が埋設され、その梁下端筋を覆うように、複数のせん断補強筋64a、64bが配筋されている。梁幅650mmで、梁せい500mmの梁断面を有するハーフPCa造の梁材ユニットの場合、梁断面内に横幅400mm、高さ200mmで、深さ25mmの凹部形状のシャーコッター5が1段形成されている。梁材接続部の梁下端筋7b1、7b2は、第一実施形態と同様に、各梁材ユニットの材端面から突出させた梁下端筋同士が重ね継手添え筋8と割裂補強筋9を介して連結される。また、梁材接続部の梁上端筋は、各梁材ユニットから突出させた梁上端筋同士が機械式継ぎ手で連結される。
ハーフPCa造の梁材ユニット3a、3bの材端部には、第1実施形態と同様に、せん断補強筋を密着させた密着せん断補強筋部64a、64bを1巻きのみ配置し、他はせん断補強筋を1本ごとに配置した。梁材接続部の材端部4a、4bには、第1実施形態と同様に、せん断補強筋を密着させ、横一列に1巻き形式で束ねて密着せん断補強筋部64a、64bを配置し、他はせん断補強筋65a~65dを1本ごとに配置した。梁材接続部4の底面位置は、
図2中に示す点線部分であり、梁材ユニット3a、3bの下面と同一である。
また、本実施形態では、ハーフPCa造の梁材ユニットの梁上部分、及び当該梁材ユニット同士の間の梁材接続部4に、低強度コンクリートを現場打設してコンクリート造の梁構造1を形成したが、さらに、低強度コンクリートを梁材ユニットの梁上部分と、梁材接続部4に加えて、床スラブ部分にも同時に低強度コンクリートを現場打設して、床スラブ付きのコンクリート造の梁構造としてもよい。
【0021】
本第二実施形態によれば、上述の第一実施形態による効果に加えて、以下のような効果がある。
(4)本実施形態では、ハーフPCa造の梁材ユニットと、当該ハーフPCa造の梁断面の梁上部分、及び梁材ユニット間の梁材接続部に低強度コンクリートを現場打設することで、コンクリート造の梁構造を実現する。ハーフPCa造の梁材ユニットと、現場打設コンクリート造の当該ハーフPCa造の梁上部分、及び梁材接続部との接合面積は、第一実施形態より増加するために、PCa造の梁材ユニットと梁材接続部との一体性が高められた梁構造を実現できる。
(5)床スラブ付きの梁構造は、PCa造の梁材ユニットと、低強度コンクリートを用いた現場打設コンクリート造の梁材ユニットの梁上部分、梁材接続部、及び床スラブを同時に一体化できるために、床スラブを含むコンクリート造の梁構造を実現できる。
(6)ハーフPCa造の梁材ユニットは、第一実施形態の全ての梁せい断面がフルPCa造の梁材ユニットに比べて、重量が軽いことで、小型の楊重装置であってもハーフPCa造の梁材ユニットを容易に所定位置に設置できる。
【0022】
(変形例)
図6は、梁材接続部4の配筋形式の変形例を示す部分拡大図である。PCa造の梁材ユニットの材端部には、第1、第2実施形態と同様に、密着せん断補強筋部63a、63bが設けられている。また、梁材接続部の材端部4aには、第1、第2実施形態と同様に、密着せん断補強筋部64a、64bが設けられている。
また、梁材接続部での梁主筋同士の継手方法、及び梁材接続部に接する梁材ユニットの材端面のシャーコッター5は、第1、第2実施形態と同様である。しかし、梁材接続部の中間部には、1本のみ巻き立てられたせん断補強筋65a、65bを挟んで左右に密着せん断補強筋部64a~64dが設けられている。また、梁材接続部のせん断補強筋65a、65b、及び密着せん断補強筋部64a~64dには、一部本数または全本数をPCa造の梁材ユニット3a、3bのせん断補強筋61より高強度鉄筋を配置する。
本変形例によれば、上述の各実施形態による効果に加えて、以下のような効果がある。
(7)梁材接続部の材端部、及び中間部に、複数本のせん断補強筋を密着させた密着せん断補強筋部を設けることで、梁材接続部のせん断補強筋量が増加されるために、梁材接続部のせん断補強筋が負担するせん断強度分(トラス機構)を高めることができる。また、梁材接続部に高強度せん断補強筋を配筋することで、せん断補強筋量を増加させた場合と同様に、せん断補強筋が負担するせん断強度分(トラス機構)を高めることができる。
【0023】
また、上述の各実施形態では、梁材接続部の梁上端筋や梁下端筋は、重ね継手添え筋と割裂補強筋を用いた重ね継ぎ手方式、または機械式継ぎ手によって連結したが、これに限らず、ねじ節鉄筋継手や端部ねじ加工継手、或いはねじ節鉄筋継手とモルタル充填式継手の併用継手などで連結させてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 梁構造
2 柱部材
3、3a、3b 梁材ユニット
4 梁材接続部(4a:梁材接続部の材端部、4b:梁材接続部の中間部)
5 シャーコッター
6、65a~65d せん断補強筋
63a、63b、64a~64d 密着せん断補強筋部
7 梁主筋(7a:梁上端筋、7b、7b1、7b2:梁下端筋)
8 重ね継手添え筋
9 割裂補強筋
10 機械式継ぎ手