(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】床版吊上装置
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20220909BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20220909BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220909BHJP
E01D 24/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
E01D21/00 A
E01D19/12
E01D22/00 A
E01D24/00
E01D21/00 B
(21)【出願番号】P 2019027107
(22)【出願日】2019-02-19
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】395013212
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラ建設
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】特許業務法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲
(72)【発明者】
【氏名】中村 善彦
(72)【発明者】
【氏名】宇野 名右衛門
(72)【発明者】
【氏名】関根 肇
(72)【発明者】
【氏名】赤松 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 辰幸
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-232426(JP,A)
【文献】特開2018-100564(JP,A)
【文献】特開平11-131427(JP,A)
【文献】特開2001-020227(JP,A)
【文献】特開2016-098489(JP,A)
【文献】特開平11-303023(JP,A)
【文献】特開2004-149236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
B66C 9/00-11/26
B66C 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向の長さが橋軸直角方向の長さよりも短い床版を装置本体の一端側及び他端側の一方で吊り上げるとともに、水平方向に90゜回転させて装置本体の一端側及び他端側の他方で吊り降ろす床版吊上装置において、
互いに床版の長手方向に間隔をおいて配置され、それぞれ床版の長手方向一端側と他端側を吊り下げる第1及び第2の吊り下げ部と、
第1及び第2の吊り下げ部を装置本体の一端側と他端側との間を移動可能に支持する支持レールとを備え、
支持レールは、床版を吊り下げた第1及び第2の吊り下げ部が装置本体の一端側と他端側との間を移動しながら床版の向きを水平方向に90゜回転させる軌跡を辿るように形成され
るとともに、第1の吊り下げ部を支持する第1のレール部と、第2の吊り下げ部を支持する第2のレール部とを備え、
第1のレール部は、その一端側が装置本体の一端側で橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体の他端側で橋軸直角方向一方に向かって延びるように少なくとも一部が曲線状に形成され、
第2のレール部は、その一端側が装置本体の一端側で橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体の他端側で橋軸直角方向他方に向かって延びるように少なくとも一部が曲線状に形成されている
ことを特徴とする床版吊上装置。
【請求項2】
前記第1のレール部の一端側と第2のレール部の一端側は、それぞれの端部の位置が互いに橋軸方向にずれるとともに橋軸直角方向同一位置に配置されるように形成されている
ことを特徴とする請求項
1記載の床版吊上装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の吊り下げ部をそれぞれ駆動することにより、第1及び第2の吊り下げ部を支持レールに沿って移動させる駆動手段と、
第1及び第2の吊り下げ部が互いに等しい直線距離を保ちながら支持レールに沿って移動するように駆動手段を制御する制御手段とを備えた
ことを特徴とする請求項
1または2記載の床版吊上装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の吊り下げ部のうち第1の吊り下げ部のみを駆動する駆動手段と、
第1及び第2の吊り下げ部を互いに等しい直線距離を保つように連結する連結手段とを備え、
第2の吊り下げ部が第1の吊り下げ部に追従しながら支持レールに沿って移動するように構成した
ことを特徴とする請求項
1または2記載の床版吊上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば既設の床版を撤去して新たな床版を架設する床版取替施工に用いられる床版吊上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般道や高速道路等の橋梁において、床版が老朽化した場合は、既設床版を主桁上から撤去して新たな床版を架設する床版取替施工が行われる。この場合、新たな床版は、工場で製作されたコンクリート製のプレキャスト床版を橋軸方向に複数枚配列して設置することにより形成される。
【0003】
ところで、既設床版の撤去及び新設床版の架設にクレーン車を用いる施工方法では、施工現場の上方に位置する交差道路や高圧電線によって上空制約がある場合や、供用中の隣接道路や近隣構造物により桁上でのクレーンの旋回や地上からのクレーン作業に制約がある場合、或いは既設橋梁の耐荷力が大型重機に対応していない場合には、大型のクレーン車を使用することができないという問題点がある。
【0004】
そこで、クレーン車を用いずに床版の取替施工を行う工法として、橋軸方向に移動可能な門型の吊り装置を用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この工法では、床版取替区間の既設床版を解体し、吊り装置によって床版を吊り上げるとともに、床版を長手方向が橋軸方向となるように90゜回転し、吊り装置によって運搬車両まで移動して運搬車両の荷台に載置した後、吊り装置を橋軸方向の次の床版撤去位置に移動し、既設床版の撤去作業を橋軸方向に順次行うことにより、床版取替区間の既設床版を主桁上から撤去するようにしている。この後、新設用のプレキャスト床版を運搬車両によって吊り装置まで搬送し、プレキャスト床版を長手方向が橋軸方向となる向きで吊り装置によって吊り上げて床版設置位置まで移動するとともに、床版を長手方向が橋軸直角方向となるように90゜回転し、主桁上に吊り降ろして設置した後、吊り装置を橋軸方向の次の床版設置位置に移動し、床版設置作業を橋軸方向に順次行うことにより、床版取替区間に新たなプレキャスト床版を設置するようにしている。
【0006】
また、前述の工法では、床版撤去位置または床版設置位置まで運搬車両が乗り入れることはできないため、前記吊り装置は、橋軸方向に延びるレールに支持されたチェーンブロックで床版を吊り上げるとともに、チェーンブロックをレールに沿って橋軸方向に移動し、チェーンブロックによって床版を吊り降ろすことにより、床版撤去位置または床版設置位置と運搬車両との間の床版の移動を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記吊り装置では、床版吊り上げ位置と吊り降ろし位置との間の床版移動作業と、床版を水平方向に90゜回転させる方向転換作業がそれぞれ独立した作業となるため、これらの作業を効率よく行うことができないという問題点があった。また、床版の方向転換作業は複数の作業者が床版を人手によって回転させることにより行っているため、作業者の手間と多くの人員を必要としていた。更に、人手により方向転換を行うために床版を一点で吊り下げるようにしているため、荷振れ防止のための工費が必要となるという問題点もあった。
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、床版吊り上げ位置と吊り降ろし位置との間における床版の移動作業及び方向転換作業を効率よく行うことのできる床版吊上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記目的を達成するために、橋軸方向の長さが橋軸直角方向の長さよりも短い床版を装置本体の一端側及び他端側の一方で吊り上げるとともに、水平方向に90゜回転させて装置本体の一端側及び他端側の他方で吊り降ろす床版吊上装置において、互いに床版の長手方向に間隔をおいて配置され、それぞれ床版の長手方向一端側と他端側を吊り下げる第1及び第2の吊り下げ部と、第1及び第2の吊り下げ部を装置本体の一端側と他端側との間を移動可能に支持する支持レールとを備え、支持レールは、床版を吊り下げた第1及び第2の吊り下げ部が装置本体の一端側と他端側との間を移動しながら床版の向きを水平方向に90゜回転させる軌跡を辿るように形成されるとともに、第1の吊り下げ部を支持する第1のレール部と、第2の吊り下げ部を支持する第2のレール部とを備え、第1のレール部は、その一端側が装置本体の一端側で橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体の他端側で橋軸直角方向一方に向かって延びるように少なくとも一部が曲線状に形成され、第2のレール部は、その一端側が装置本体の一端側で橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体の他端側で橋軸直角方向他方に向かって延びるように少なくとも一部が曲線状に形成されている。
【0011】
これにより、第1及び第2の吊り下げ部を支持レールに沿って移動させることにより、床版の向きが水平方向に90゜回転することから、床版の移動作業及び方向転換作業が連続的に行われる。また、第1及び第2の吊り下げ部が装置本体の他端側に向かって移動しながら床版の長手方向両端側が互いに橋軸直角方向反対側に移動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、床版の移動作業及び方向転換作業を連続的に行うことができるので、従来のように床版の方向転換作業を複数の作業者の人手によって行う必要がなく、作業の効率化及び人員の削減を図ることができる。また、床版の長手方向一端側と他端側を第1及び第2の吊り下げ部によって二点吊りにしているので、一点吊りに比べ、床版を常に安定して吊り下げることができるとともに、吊り高さを小さくすることができる。更に、二点吊りにより装置本体への荷重を分散させることができるので、一点吊りの集中荷重が加わる場合に比べ、部材の設計強度を小さくすることができるとともに、第1及び第2の吊り下げ部にもそれぞれ吊り上げ荷重の小さい電動チェーンブロックを用いることができ、装置全体の低コスト化を図ることができる。また、第1及び第2の吊り下げ部を装置本体の他端側に向かって移動させながら床版の長手方向両端側を互いに橋軸直角方向反対側に移動させることができるので、床版の方向転換に要する橋軸直角方向のスペースを小さくすることができ、道路幅方向に制約がある場合に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す床版吊上装置の側面図
【
図19】本発明の第2の実施形態を示す床版吊上装置の側面図
【
図20】本発明の第3の実施形態を示す床版吊上装置の側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図17は本発明の第1の実施形態を示すもので、床版新設施工または床版撤去施工に用いられる床版吊上装置を示すものである。尚、本実施形態ではプレキャスト床版を架設する床版新設工程を示す。また、
図1、
図7乃至
図10、
図12は、床版吊上装置を
図2のA-A線矢視方向から見た側面図である。
【0015】
本実施形態の床版吊上装置は、門型に形成された装置本体10と、主桁1上に架設されるプレキャスト床版2を吊り下げる第1及び第2の吊り下げ部20,30と、第1及び第2の吊り下げ部20,30を装置本体10の一端側(
図1における図中左方向)と他端側(
図1における図中右方向)との間を移動可能に支持する支持レール40とを備え、装置本体10は軌条50に沿って橋軸方向に移動するようになっている。
【0016】
装置本体10は、橋軸方向に延びる左右一対の第1のフレーム11と、各第1のフレーム11の橋軸方向一端側及び他端側から互いに前後方向に間隔をおいてそれぞれ下方に延びる複数の第2のフレーム12と、軌条50に係合して走行する複数の自走式の走行ユニット13とから構成されている。各第1のフレーム11は、一端側と他端側を各第2のフレーム12の上端に連結され、その他端側は第2のフレーム12よりも橋軸方向に長く延出した片持ち梁状に形成されている。また、各第1のフレーム11は橋軸直角方向に延びる複数の横梁11aによって互いに連結されている。各第2のフレーム12は、それぞれ上端を各第1のフレーム11に連結され、下端側を橋軸方向に延びる横梁12aによって互いに連結されている。各走行ユニット13は、それぞれ各第2のフレーム12の下端に設けられている。走行ユニット13には前後一対の車輪13aが設けられ、各車輪13aは図示しないモータによって駆動されるようになっている。
【0017】
第1及び第2の吊り下げ部20,30は、それぞれ周知の電動トロリ及び電動チェーンブロックからなる。即ち、各吊り下げ部20,30は、
図5及び
図6に示すようにチェーン21,31の下端に取り付けられたフック22,32を昇降用モータ23,33によって昇降させるとともに、支持レール40に係合する車輪24,34を駆動手段としての走行用モータ25,35によって駆動することにより支持レール40に沿って走行するようになっている。また、第1及び第2の吊り下げ部20,30は連結手段としての吊り天秤26を介して床版2を吊り下げるようになっている。吊り天秤26は各吊り下げ部20,30に亘って延びる鋼材からなり、その両端側をそれぞれ各吊り下げ部20,30のフック22,32に連結されている。
【0018】
支持レール40は、第1の吊り下げ部20を支持する第1のレール部41と、第2の吊り下げ部を支持する第2のレール部42とを備え、第1のレール部41は橋軸直角方向一方(
図2における図中上方向)に配置され、第2のレール部42は橋軸直角方向他方(
図2における図中下方向)に配置されている。
【0019】
第1及び第2のレール部41,42はそれぞれ水平方向に延びるH型鋼によって形成されている。各レール部41,42は装置本体10の上部に配置され、各横梁11aの下面に固定されている。第1のレール部41は、その一端側が装置本体10の一端側に向かって橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体10の他端側で橋軸直角方向一方に向かって延びるように一部が曲線状に形成されている。また、第2のレール部42は、その一端側が装置本体10の一端側に向かって橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体10の他端側で橋軸直角方向他方に向かって延びるように一部が曲線状に形成されている。
【0020】
第1のレール部41の一端側は第2のレール部42の一端側よりも橋軸方向に長く形成され、それぞれの端部の位置が互いに橋軸方向にずれるように形成されている。この場合、第1のレール部41の一端側はその端部が第2のレール部42の端部と橋軸直角方向同一位置に配置されるように橋軸直角方向他方に向かって曲線状に形成されている。これにより、
図4に示すように、第1のレール部41の一端側の端部に位置する第1の吊り下げ部20の吊り点T1 と、第2のレール部42の一端側に位置する第2の吊り下げ部30の吊り点T2 とが橋軸方向に平行な一直線上に位置するようになっている。
【0021】
また、第1のレール部41は、一端側から他端側に亘って第1の曲線部41a、第1の直線部41b、第2の曲線部41c及び第2の直線部41dによって形成され、第2のレール部42は、一端側から他端側に亘って第1の直線部42a、曲線部42b及び第2の直線部42cによって形成されている。この場合、第1のレール部41の第1の直線部41bと第2のレール部42の第1の直線部42aは互いに橋軸直角方向に近接して平行に配置されている。また、第1のレール部41の第2の直線部41dと第2のレール部42の第2の直線部42cは互いに橋軸直角方向に延びる同一直線上に位置するように形成され、第2のレール部42の第2の直線部42cは第1のレール部41の第1の直線部41bよりも橋軸直角方向に長く形成されている。
【0022】
軌条50は、互いに橋軸直角方向に間隔をおいて配置されるレール51と、上端にレール51が固定された固定部材52とを有し、レール51及び固定部材52は主桁1上に架設された床版2上に橋軸直角方向に間隔をおいて配置される。左右のレール51及び固定部材52は橋軸直角方向両端の主桁1の上方に配置され、左右の固定部材52は互いに複数の補強部材53を介して連結されている。
【0023】
次に、本実施形態の床版吊上装置を用いた床版新設施工について、
図7乃至
図17を参照して説明する。ここでは、既設床版が全て撤去された主桁1上に新たなプレキャスト床版2を設置する工程について説明する。プレキャスト床版2は、主桁1上に設置された際の橋軸方向の長さが橋軸直角方向の長さよりも短い長さに形成されている。
まず、主桁1上に既に設置されているプレキャスト床版2上に軌条50を敷設し、軌条50に床版吊上装置の装置本体10を配置する。この場合、第1及び第2の吊り下げ部20,30は支持レール40の一端側(装置本体10の一端側)に位置している。
【0024】
次に、
図7に示すように、装置本体10の内側にプレキャスト床版2を積載した運搬車両60を乗り入れ、第1及び第2の吊り下げ部20,30から吊り下げられた吊り天秤26をプレキャスト床版2に連結する。この場合、例えばプレキャスト床版2に埋設された締結部材に吊り天秤26を締結することにより、吊り天秤26とプレキャスト床版2とを連結することができる。また、運搬車両60に積載されたプレキャスト床版2は長手方向が橋軸方向となる向きで搬入される。
【0025】
続いて、
図8に示すように第1及び第2の吊り下げ部20,30によってプレキャスト床版2を吊り上げるとともに、装置本体10から運搬車両60を退去させた後、
図9に示すようにプレキャスト床版2を吊り下げた第1及び第2の吊り下げ部20,30を支持レール40の他端側(装置本体10の他端側)に向かって移動させる。
【0026】
その際、第1及び第2の吊り下げ部20,30は、装置本体10の一端側から他端側に移動しながら支持レール40に沿ってプレキャスト床版2の向きを水平方向に90゜回転させる軌跡を辿り、
図10に示すようにプレキャスト床版2の方向転換が行われる。即ち、第1及び第2の吊り下げ部20,30によってプレキャスト床版2を運搬車両60から吊り上げた時点では、
図13に示すように第1の吊り下げ部20が第1のレール部41の第1の曲線部41aの端部に位置し、第2の吊り下げ部30が第2のレール部42の第1の直線部42aに位置している。これにより、プレキャスト床版2は長手方向が橋軸方向と平行になる向きになっている。次に、装置本体10の他端側に向かって第1及び第2の吊り下げ部20,30の移動を開始し、
図14に示すように第1の吊り下げ部20を第1のレール部41の第1の直線部41bに移動させ、第2の吊り下げ部30を第2のレール部42の曲線部42bに移動させる。これにより、プレキャスト床版2が進行方向前端側を橋軸直角方向に向かって傾けながら水平方向への回転を開始する。この後、
図15に示すように第1の吊り下げ部20を第1のレール部41の第2の曲線部41cに移動させ、第2の吊り下げ部30を第2のレール部42の第2の直線部42cに移動させる。その際、
図16に示すように第1の吊り下げ部20が第1のレール部41の第2の曲線部41cに沿って橋軸直角方向一方に向かって移動するため、これに追従するように第2の吊り下げ部30を反転(走行用モータ35を逆転)させ、第2のレール部42の第2の直線部42cを橋軸直角方向一方に向かって移動する。この後、
図17に示すように第1の吊り下げ部20を第1のレール部41の第2の直線部41dに移動させると、プレキャスト床版2が水平方向に90゜まで回転し、その長手方向が橋軸直角方向と平行な向きとなり、第1及び第2の吊り下げ部20,30の移動を停止することにより、プレキャスト床版2の装置本体10の他端側への移動と方向転換が完了する。
【0027】
そして、
図11及び
図12に示すように第1及び第2の吊り下げ部20,30によってプレキャスト床版2を吊り降ろすとともに、吊り天秤26とプレキャスト床版2との連結を解除することにより、床版2を主桁1上に設置する。この後、第1及び第2の吊り下げ部20,30を装置本体10の一端側に戻すとともに、装置本体10をプレキャスト床版2の一つ分だけ前進させ、前述の作業を繰り返すことにより新たなプレキャスト床版2を主桁1上に順次設置する。
【0028】
このように、本実施形態によれば、プレキャスト床版2の長手方向一端側と他端側を吊り下げる第1及び第2の吊り下げ部20,30と、第1及び第2の吊り下げ部20,30を装置本体10の一端側と他端側との間を移動可能に支持する支持レール40とを備え、支持レール40を、プレキャスト床版2を吊り下げた第1及び第2の吊り下げ部20,30が装置本体10の一端側と他端側との間を移動しながらプレキャスト床版2の向きを水平方向に90゜回転させる軌跡を辿るように形成したので、第1及び第2の吊り下げ部20,30を支持レール40に沿って移動させることにより、プレキャスト床版2の移動作業及び方向転換作業を連続的に行うことができる。これにより、従来のように床版の方向転換作業を複数の作業者の人手によって行う必要がなく、作業の効率化及び人員の削減を図ることができる。
【0029】
また、プレキャスト床版2の長手方向一端側と他端側を第1及び第2の吊り下げ部20,30によって二点吊りにしているので、一点吊りに比べ、プレキャスト床版2を常に安定して吊り下げることができる。この場合、従来のような一点吊りでは、
図18(a) に示すように一つの吊り下げ部3からワイヤ4を二股状に二本吊りにしてプレキャスト床版2に連結する必要があるため、その分だけ吊り高さH1 が大きくなるが、本実施形態のような第1及び第2の吊り下げ部20,30による二点吊りでは二股状の二本吊りを必要としないため、
図18(b) に示すように吊り高さH2 を小さくすることができる。これにより、装置本体10の高さ寸法を小さくすることができるので、施工現場に上空制約がある場合に有利である。また、二点吊りにより装置本体10の梁状の各第1のフレーム11への荷重を分散させることができるので、一点吊りの集中荷重が加わる場合に比べ、部材の設計強度を小さくすることができるとともに、第1及び第2の吊り下げ部20,30にもそれぞれ吊り上げ荷重の小さい電動チェーンブロックを用いることができ、装置全体の低コスト化を図ることができる。
【0030】
更に、支持レール40を、第1の吊り下げ部20を支持する第1のレール部41と、第2の吊り下げ部30を支持する第2のレール部42とから構成し、第1のレール部41は、その一端側が装置本体10の一端側で橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体10の他端側で橋軸直角方向一方に向かって延びるように一部が曲線状に形成され、第2のレール部42は、その一端側が装置本体10の一端側で橋軸方向に延びるとともに、その他端側が装置本体10の他端側で橋軸直角方向他方に向かって延びるように一部が曲線状に形成されているので、第1及び第2の吊り下げ部20,30を装置本体10の他端側に向かって移動させながらプレキャスト床版2の長手方向両端側を互いに橋軸直角方向反対側に移動させることができる。これにより、プレキャスト床版2の方向転換に要する橋軸直角方向のスペースを小さくすることができ、道路幅方向に制約がある場合に有利である。
【0031】
この場合、第1のレール部41の一端側と第2のレール部42の一端側を、それぞれの端部の位置が互いに橋軸方向にずれるとともに橋軸直角方向同一位置に配置されるように形成したので、装置本体10の一端側における第1及び第2の吊り下げ部20,30の位置を橋軸方向に平行な同一直線上に配置することができる。これにより、プレキャスト床版2を運搬車両60から長手方向が橋軸方向となる向きのまま吊り上げることができ、プレキャスト床版2の吊り上げ作業を支障なく行うことができる。
【0032】
尚、前記実施形態では、床版吊上装置によって主桁1上に新たなプレキャスト床版2を架設する床版新設施工を示したが、本発明の床版吊上装置は既設床版を主桁上から撤去する床版撤去施工にも用いることができる。この場合、主桁上の既設床版を長手方向が橋軸直角方向となるように橋軸直角方向に切断し、床版吊上装置に前記実施形態とは逆方向の動作を行わせることにより既設床版を撤去することができる。即ち、装置本体10の他端側に移動させた第1及び第2の吊り下げ部20,30によって既設床版を吊り上げ、第1及び第2の吊り下げ部20,30を装置本体10の一端側に移動させながら既設床版を水平方向に90゜回転させて運搬車両に吊り降ろす工程を繰り返すことにより、床版撤去作業が行われる。
【0033】
また、前記実施形態の支持レール40は一例であり、第1及び第2の吊り下げ部が装置本体の一端側と他端側との間を移動しながら床版の向きを水平方向に90゜回転させる軌跡を辿るように形成されていれば、スイッチバックのように方向の異なるレール上を折り返すことにより方向転換させるなど、前記実施形態とは異なる形状の支持レールを用いることもできる。
【0034】
更に、前記実施形態では、トラック等の運搬車両60によってプレキャスト床版2を搬入するようにしたものを示したが、例えば軌条を走行する搬送台車を用いてプレキャスト床版2を搬入するようにしてもよい。
【0035】
また、前記実施形態では、主桁1上に既に設置されているプレキャスト床版2上に軌条50を敷設するようにしたものを示したが、予め工場等でプレキャスト床版2上に軌条となるレールを取り付けておくようにしてもよい。
【0036】
図19は本発明の第2の実施形態を示すもので、第1及び第2の吊り下げ部20,30の走行動作を制御する制御部70を備えたものである。
【0037】
前記第1の実施形態では、第1及び第2の吊り下げ部20,30の動作(電動チェーンブロックの吊り動作及び電動トロリの走行動作)に対する操作は図示しないリモートコントローラによって人為的に行われるが、本実施形態では第1及び第2の吊り下げ部20,30の走行動作を制御する制御部60を備えることにより、第1及び第2の吊り下げ部20,30を自動走行させるようにしている。
【0038】
即ち、制御部70は、第1及び第2の吊り下げ部20,30の走行用モータ25,35を制御するマイクロコンピュータによって構成され、例えば第1の吊り下げ部20を装置本体10の一端側の始点(
図13の位置)から装置本体10の他端側の終点(
図17の位置)まで等速度で走行させるとともに、第1及び第2の吊り下げ部20,30の間隔Lが常に等しい距離になるように第2の吊り下げ部30の速度(走行用モータ35の回転数)を制御する。この場合、第2の吊り下げ部30は第2の直線部42cを移動中に反転するため、制御部70は走行用モータ35の回転数と正転及び逆転を制御する。第2の吊り下げ部30の速度は、例えば第1及び第2のレール部41,42の形状、寸法及び配置から求まる速度変化の数式により制御する方法、実測した速度変化の近似式に基づいて制御する方法、第1及び第2の吊り下げ部20,30の間隔Lを距離センサで検出しながらフィードバック制御する方法など、各種の制御方法により制御することができる。
【0039】
実施形態によれば、第1及び第2の吊り下げ部20,30の間隔Lが常に等しい距離になるように第1及び第2の吊り下げ部20,30の速度を制御するようにしているので、第1及び第2の吊り下げ部20,30をリモートコントローラによる人為的な操作により走行させる必要がなく、プレキャスト床版2の移動作業及び方向転換作業の自動化を図ることができる。
【0040】
尚、前記第2の実施形態では、第1の吊り下げ部20を等速度にして第2の吊り下げ部30の速度を制御するようにしたものを示したが、第2の吊り下げ部10を等速度にして第1の吊り下げ部20の速度を制御するようにしたり、或いは第1及び第2の吊り下げ部20,30の両方の速度を制御するようにしてもよい。
【0041】
図20は本発明の第3の実施形態を示すもので、第1及び第2の吊り下げ部20,30のうち第1の吊り下げ部20のみを駆動するようにしたものである。
【0042】
即ち、本実施形態の第1の吊り下げ部20は前記第1の実施形態と同様、駆動手段としての走行用モータ25の動力により走行する電動トロリによって第1のレール部41を走行するようになっており、本実施形態の第2の吊り下げ部30は走行用モータを有しない従動式のトロリによって第2のレール部42を走行するようになっている。この場合、第1及び第2の吊り下げ部20,30は互いに連結手段としての吊り天秤26を介して連結されているので、第1及び第2の吊り下げ部20,30の間隔Lは常に等しい距離に保たれる。
【0043】
本実施形態では、第1の吊り下げ部20を走行させると、第1の吊り下げ部20の押圧力Fが吊り天秤26を介して第2の吊り下げ部30に伝達され、第2の吊り下げ部30が第1の吊り下げ部20に従動しながら走行する。
【0044】
本実施形態によれば、第1及び第2の吊り下げ部20,30を自動走行させることができるので、プレキャスト床版2の移動作業及び方向転換作業の自動化を図ることができるとともに、第1及び第2の吊り下げ部20,30のうち第1の吊り下げ部20のみを駆動するようにしているので、第2の吊り下げ部30の速度制御を必要としないという利点がある。
【0045】
この場合、第2の吊り下げ部30は走行経路の途中で反転するが、駆動側である第1の吊り下げ部20は走行経路の始点から終点まで前進のみの走行になるので、走行経路の途中で走行用モータを逆転させる必要がないという利点がある。
【符号の説明】
【0046】
1…主桁、2…床版、10…装置本体、20…第1の吊り下げ部、25…走行用モータ、26…吊り天秤、30…第2の吊り下げ部、35…走行用モータ、40…支持レール、41…第1のレール部、42…第2のレール部、50…軌条、60…運搬車両、70…制御部。