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特許7138637改善されたパルス状液体ピペッティングのためのピペット装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】改善されたパルス状液体ピペッティングのためのピペット装置
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20220909BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019532141
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2017082249
(87)【国際公開番号】W WO2018108825
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】102016225209.7
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501401397
【氏名又は名称】ハミルトン・ボナドゥーツ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハンスペーター・ローマー
(72)【発明者】
【氏名】レト・エッティンガー
(72)【発明者】
【氏名】フリードリーン・ギゼル
(72)【発明者】
【氏名】ユルク・ラスト
(72)【発明者】
【氏名】ヨナス・ヒルティ
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-214244(JP,A)
【文献】特開2004-251820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0071973(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0214172(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01344565(EP,A1)
【文献】国際公開第03/078066(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00-99/00
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μlを超えない少ない調量液体の量(36)を、ピペット装置(10)内に供給されている、より多くの量の調量液体(32)から、圧力可変の作動ガス(34)を介して、パルス状に分注するためのピペット装置(10)であって、前記ピペット装置(10)は、
-少なくとも部分的に、前記作動ガス(34)が充填されたピペット管(11)と、
-前記作動ガス(34)の圧力を変更するための圧力変更装置(14、22)であって、前記圧力変更装置(14、22)が、ピストン(14)を含む、圧力変更装置(14、22)と、
-前記圧力変更装置(14、22)を作動するための制御装置(24)と、
を含んでおり、前記制御装置(24)は、前記調量液体(32)を静止して保持するために必要である前記ピペット管(11)内での保持基準圧力に関して、前記ピペット管(11)内に、40msを超えないパルス幅を有する陽圧パルスを形成するために、前記圧力変更装置(14、22)を作動するように構成されているピペット装置(10)において、
前記制御装置(24)が、さらに、前記保持基準圧力に関して、前記ピペット管(11)内に陽圧パルスを形成する前に、陰圧を形成するために、前記圧力変更装置(14、22)を作動するように構成されており、それによって、陽圧パルスを形成する前に、前記ピペット装置(10)に受容された前記調量液体(32)が、わずかにピペット開口部(30)から離れて、前記ピペット装置(10)内へ動かされ、1μlを超えない少ない調量液体の量(36)を放出している、ピペット開口部により近いメニスカス(32b)が、前記ピペット装置(10)の受容空間(28)へのパルス状分注の際に、前記ピペット開口部(30)から距離を置いて配置されており、前記ピストン(14)と、前記ピペット管(11)内に供給された前記調量液体(32)と、の間には、前記作動ガス(34)のみが存在することを特徴とするピペット装置(10)。
【請求項2】
前記制御装置(24)が、それぞれ2つの直に連続するパルス状分注プロセスの内の他方に割り当てられている2つの陽圧パルスを形成する間に、前記圧力変更装置(14、22)を、前記保持基準圧力を形成し、その後で陰圧を形成するために作動するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のピペット装置(10)。
【請求項3】
陰圧の形成が、第1の陰圧の形成と、その後で、前記第1の陰圧よりも高い値の圧力の形成と、その後で、第2の陰圧の形成と、を含んでいることを特徴とする、請求項2に記載のピペット装置(10)。
【請求項4】
前記制御装置(24)が、陰圧の形成後かつ陽圧パルスの形成前に、前記保持基準圧力を形成するために、前記圧力変更装置(14、22)を作動するように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項5】
前記作動ガス(34)の圧力を検出するための圧力センサ(38)が設けられており、前記圧力センサ(38)は、前記圧力センサの検出情報を伝達するために、前記制御装置(24)と信号を伝達できるように接続されており、前記制御装置は、前記圧力センサ(38)の検出情報に従って、前記圧力変更装置(14、22)を作動することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項6】
ピペット先端(26)の一時的な連結のために、前記ピペット管(11)が貫通する連結構造を有していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項7】
ピペット先端(26)が設けられており、前記ピペット先端は、前記連結構造と解除可能な連結係合を行うための連結対応構造と、吸引プロセス及び分注プロセスの間における調量液体(32)の通過開口部としてのピペット開口部(30)と、を備えていることを特徴とする、請求項6に記載のピペット装置(10)。
【請求項8】
前記圧力変更装置(14、22)が、電気でエネルギー供給され得るコイル(22)を含み、前記ピストン(14)は、磁気ピストン(14)であり、前記制御装置(24)は、前記コイル(22)のエネルギー供給を制御するように構成されており、陰圧の形成は、前記ピストン(14)の第1の方向への変位を含んでおり、陽圧パルスの形成は、前記ピストン(14)の、前記第1の方向とは逆の第2の方向への変位と、その直後の前記第1の方向への変位と、を含んでいるか、又は、
前記圧力変更装置(14、22)が、2つの異なる作動ガス圧力タンクであって、1つは基準圧力に対して陽圧の、1つは陰圧の作動ガス圧力タンクを含んでおり、前記作動ガス圧力タンクのそれぞれは、弁を介して、前記ピペット管(11)と圧力を伝達するように接続可能であり、前記制御装置は、前記弁の開閉を制御するように構成されており、陰圧の形成は、陰圧弁の開閉を含んでおり、陽圧パルスの形成は、前記陰圧弁の開閉と、陽圧弁の開閉と、を含んでいることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項9】
ピペット先端(26)に受容された調量液体(32)を、ピペット先端(26)から、各分注プロセスに関して1μlを超えない分注体積で、パルス状に分注するための方法であって、作動ガス(34)内に陽圧パルスを形成するステップを含んでおり、前記作動ガスは、ピペット開口部(30)に背向する側において、受容された前記調量液体(32)に、圧力を伝達するように接触しており、それによって、液滴(36)が、前記調量液体(32)の前記ピペット開口部(30)に対向する側において、前記調量液体から分離し、前記調量液体(32)から離れるように加速する方法において、
前記方法は、陽圧パルスを形成する前に、以下の、
-前記調量液体(32)を静止して保持するために必要であるピペット管(11)内の保持基準圧力に関して、前記作動ガス(34)内に陰圧を形成し、それによって、受容された前記調量液体(32)を前記ピペット開口部(30)から離れる方向に移動させ、それによって、前記調量液体(32)と前記ピペット開口部(30)との間にガス体積(35)を形成又は拡大し、それによって、1μlを超えない少ない調量液体の量(36)を放出している、ピペット開口部により近いメニスカス(32b)が、ピペット装置(10)の受容空間(28)へのパルス状分注の際に、前記ピペット開口部(30)から距離を置いて配置されており、前記作動ガス(34)の圧力を変更するための前記作動ガス(34)の圧力を変更するための圧力変更装置(14、22)のピストン(14)と、前記ピペット管(11)内に供給された前記調量液体(32)と、の間には、前記作動ガス(34)のみが存在するステップ、を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項10】
陰圧を形成した後、かつ、陽圧パルスを形成する前に、以下の、
-前記作動ガス(34)内の圧力を上昇させ、それによって、受容された前記調量液体(32)を前記ピペット開口部(30)の方向へ移動させるステップを含んでいることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記作動ガス(34)内の圧力を上昇させた後、かつ、陽圧パルスを形成する前に、以下の、
-前記保持基準圧力に関して、前記作動ガス(34)内に陰圧を形成し、それによって、受容された前記調量液体(32)を前記ピペット開口部(30)から離れるように移動させ、それによって、前記調量液体(32)と前記ピペット開口部(30)との間にガス体積(35)を形成するステップを含んでいることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、1μlを超えない少ない調量液体の量(36)を、ピペット装置(10)内に供給されている、より多くの量の調量液体(32)から、圧力可変の作動ガス(34)を介して、パルス状に分注するためのピペット装置(10)を動作させるための方法であり、前記ピペット装置(10)は、
-少なくとも部分的に前記作動ガス(34)が充填されたピペット管(11)と、
-前記作動ガス(34)の圧力を変更するための圧力変更装置(14、22)と、
-前記圧力変更装置(14、22)を作動するための制御装置(24)と、
を含んでおり、
前記制御装置(24)は、前記調量液体(32)を静止して保持するために必要である前記ピペット管(11)内での保持基準圧力に関して、前記ピペット管(11)内に、40msを超えないパルス幅を有する陽圧パルスを形成するために、前記圧力変更装置(14、22)を作動するように構成されており、
前記制御装置(24)は、さらに、前記保持基準圧力に関して、前記ピペット管(11)内に陽圧パルスを形成する前に、陰圧を形成するために、前記圧力変更装置(14、22)を作動するように構成されており、
前記ピペット装置は、ピペット先端(26)を有しており、前記ピペット先端は、連結構造と解除可能な連結係合を行うための連結対応構造と、吸引プロセス及び分注プロセスの間における前記調量液体(32)の通過開口部としてのピペット開口部(30)と、を備えていることを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1μlを超えない少量の調量液体を、ピペット装置内に供給されている、より多くの量の調量液体から、圧力可変の作動ガスを介して、パルス状に分注するためのピペット装置に関するものであり、当該ピペット装置は、
-少なくとも部分的に作動ガスが充填されたピペット管と、
-作動ガスの圧力を変更するための圧力変更装置と、
-圧力変更装置を作動するための制御装置と、
を含んでおり、当該制御装置は、圧力変更装置を(調量液体を静止して保持するために必要であるピペット管内での保持基準圧力に関して)、ピペット管内に、40msを超えないパルス幅を有する陽圧パルスを形成するために作動するように構成されている。
【0002】
本発明は、さらに、ピペット先端に受容された調量液体を、ピペット先端から、各分注プロセスに関して1μlを超えない分注体積で、パルス状に分注するための方法に関するものであり、当該方法は、作動ガス内に陽圧パルスを形成するステップを含んでおり、当該作動ガスは、ピペット開口部に背向する側において、受容された調量液体に、圧力を伝達するように接触しており、それによって、液滴が、調量液体のピペット開口部に対向する側において、調量液体から分離し、調量液体から離れるように加速する。
【背景技術】
【0003】
その際、「陽圧パルス」又は「パルス状」分注によって、全体のパルス幅が40msを超えない陽圧パルスが表されている。その際、陽圧パルスの持続時間は、保持基準圧力の離脱と、保持基準圧力への再度の復帰と、の間の時間である。その際、一般的に、陽圧パルスに、数値的にはより小さい陰圧パルスが従うので、作動ガスの圧力の、保持基準圧力のレベルへの第1の復帰は、保持基準圧力のレベルの通過である。現実において、最も頻繁に予想される、陽圧パルスの形成後の作動ガスにおける圧力変動の場合、上述の保持基準圧力への「再度の復帰」という表現は、場合によっては複数である復帰の内の第1の復帰を意味している。好ましくは、陽圧パルスも、後続の陰圧パルスも、指定された40msの時間枠の内にある。陽圧パルスに続く陰圧パルスの持続時間も、陰圧側への保持基準圧力レベルの第1の通過と、保持基準圧力レベルへの第1の復帰と、の間で測定される。
【0004】
「パルス状」の分注は、従来の知られたピペッティングとは異なる分注を表しており、当該分注においては、作動ガスの陽圧パルスによって、作動ガスの圧力サージが、ピペット装置に受容された調量液体の、調量開口部に背向する側に及ぶので、非圧縮性の調量液体による当該圧力サージは、受容された調量液体の、ピペット開口部のより近くに位置するメニスカスまで伝わり、当該メニスカスにおいて、調量液体の液滴の放出につながる。
【0005】
このような方法で、1μlよりも少ない、又は、好ましくは600nlよりも少ない、非常に少量の液体が、高い再現精度をもって調量され、さらに等分される。
【0006】
それとは異なり、従来の分注の場合、ピペット装置に受容された調量液体は、作動ガスにおける圧力の上昇によって、液滴がピペット開口部から分離するか、又は、ピペット開口部を通って、調量液体が、調量液体で湿らされた基板若しくはすでに存在する液体に調量されるまで押し出され、当該基板若しくは当該液体からは、ピペット開口部が、調量の所定の量を放出した後で引き上げられる。
【0007】
つまり、従来の分注の場合、作動ガスの圧力変更と、従ってピペットピストンの移動と、は、ピペット装置のピペット開口部を通じた調量液体の放出と同期して、又は、準同期式に行われるが、本発明に係るパルス状の分注は、これに関して非同期式である。すなわち、作動ガスにおける陽圧パルスのパルス状の、突発的な形成に継いで、陽圧パルスが減衰したか、又は、少なくとも減衰しつつある後で、調量液体の液滴が、一般的に、ようやく受容された調量液体から放出される。従って、調量液体の液滴の放出は、ピペットピストンの移動と同期しては行われない。
【0008】
パルス状分注の場合、調量されるべき量の液体は、一般的に、液滴として、ピペット装置内に受容された調量液体の加速度で放出され、この加速度は、地球の重力場によって形成される重力加速度を上回っている。これは、ピペット装置によるパルス状分注の際に、受容された調量液体から分離した調量液滴が、重力の作用方向における分注の場合には、ピペット装置から単に自由に落下する場合よりも速く移動することを意味している。
【0009】
大量の調量液体、すなわち1μlより多い量の調量液体は、一般的に、ピペット装置の同期式動作モードにおいてピペッティングされ、当該同期式動作モードでは、ピペット先端における調量液体、より正確には、そのピストンに面したメニスカスは、ピストンの調量側端面に、同期して従っている。これは、当該メニスカスが、ピストンがピペッティング方向として分注方向に動かされる場合、ピストンの調量側端面と共に、ピペット装置のピペット開口部に向けて移動し、ピストンがピペッティング方向として吸引方向に動かされる場合、ピストンの調量側端面と共に、ピペット装置のピペット開口部から離れる方向に移動するということを意味している。ピストンの調量側端面の移動と、調量液体のメニスカスの移動と、の間には、わずかに時間的なずれが生じ得る。なぜなら、ピストンと調量液体との間に存在する作動ガスは、まず、ピストンの移動によって、所望のピペッティングプロセスが行われる圧力レベルに到達しなければならないからである。これは、吸引の場合、周囲圧力に対する陰圧であるので、調量液体は、作動ガスの圧力と周囲圧力との圧力差に促されて、ピペット先端のピペット開口部が浸漬した調量液体容器から、ピペット先端に流入する。これは、分注の場合、周囲圧力に対する陽圧であるので、ピペット先端に受容された調量液体は、作動ガスの圧力と周囲圧力との圧力差に促されて、ピペット先端のピペット開口部を通って流出する。従って、圧縮性の作動ガスは、ガススプリングのように作用する。ピストンの移動とピペット先端における調量液体のメニスカスの移動との間に、わずかではあるが存在する時間的なずれに基づいて、従来の調量液体のピペッティングを、以下において準同期式動作モードと表現する。
【0010】
ピストン及び調量液体の準同期式移動に際する従来の分注の場合、ピペット先端からの、分注されるべき調量液体の滴下は、慣性力を用いてもたらされる。ピストンは、所定の時間、分注方向に動かされ、ピペット先端から押し出された調量液体の滴下が所望される場合には、可能な限り急激に停止される。すでに押し出された調量液体であって、すでに行われたピストンの移動ゆえに、依然として分注運動中である調量液体の慣性は、ピペット開口部における調量液体の遮断と、最終的には当該調量液体の滴下と、につながる。ピストンの移動と、作動ガスを介して押し出された調量液体と、の関連は、一般的には、様々な液体クラスに関して、経験的に検出され、ピペット装置のデータ記憶装置に保存されている。この準同期式動作モードにおいて、調量側のピストン面によって、ピストンがピペッティング方向に移動する間に押しのけられる体積(一般的なピペッティング体積、又は、ピストンの移動方向に応じて、吸引体積若しくは分注体積)は、実際にピペッティングされた調量液体の体積を、一般的に5%より多くは超過しない。従って、ピペッティング体積の、実際にピペッティングされた調量液体体積に対する比は、一般的に、1.05よりも大きくはない。
【0011】
ピペット開口部における、慣性に誘導された液体の滴下によって、調量液体は時折、望ましくないことに、ピペット開口部の領域において、ピペット先端の外側に付着したままである。この付着した液体が、全て、又は、部分的に、制御されずに落下することを回避するために、ピストンは、液体の滴下の後、吸引方向にわずかに動かされ、それによって、外側に付着した調量液体は、ピペット開口部を通って、ピペット先端に吸い戻される。
【0012】
この、慣性力を用いた調量液体の分注は、それぞれの調量液体に応じては、3μlから5μlよりも少ない1回分調量体積に関して、もはや確実には機能していない。なぜなら、質量が小さいので、得られる慣性力は、他の力、特に表面張力からの影響を、このような少量の調量液体の確実で繰り返し可能な滴下を保証するために十分確実には、もはや克服することができないからである。
【0013】
上述のピペット装置から区別されるべきであるのは、いわゆる「ディスペンサ」であり、ディスペンサは、一般的に、調量液体を専ら分注するものであり、吸入することはできない。ディスペンサは、分注されるべき調量液体を、一般的に、供給導管を通じて、ピストンによって変化し得るディスペンサの調量空間と流体接続された容器から得ている。
【0014】
上述のピペット装置から、さらに区別されるべきであるのは、ピストンの調量側端面が、ピペッティングされるべき調量液体に直接接触しているピペット装置である。この場合、ピストンと調量液体との間には、作動ガスは存在しない。
【0015】
このようなピペット装置では、ピストン及び調量液体の移動が直接連結しているので、そのピペッティングの種類を、当業者は、英語の「ポジティブディスプレイスメント」式という概念で表している。作動ガスから圧縮性のものを除去すると、理論的に得られるピペッティングの精度は高まるが、実際には、他の箇所で問題が生じる。一方では、吸引の際のピペッティング体積における気泡が、100%確実には排除されないので、ポジティブディスプレイスメント式ピペッティングの場合でも、気泡又は空気の泡が、吸引された調量液体中に生じる可能性があり、得られるピペッティングの精度に、不利な影響が及ぼされる。他方では、ポジティブディスプレイスメント式ピペッティングの場合に得られるピペッティングの精度は、調量液体が泡を形成する傾向を有する場合、極めて低い。加えて、調量液体によってピペットピストンが湿らされるので、ピペッティングされるべき調量液体を交換すべき場合には、ピペット先端だけではなく、ピペット先端と共にピペットピストンも交換しなければならない。これは、組み立てが著しく複雑になり、それによって著しい費用も必要になるということを意味している。
【0016】
これとは違って、ピストンと調量液体との間に作動ガスを有する種類のピペット装置のピペッティング種類は、作動ガスが必ずしも空気である必要はなく、窒素等の不活性ガス又は準不活性ガスでもあり得るにも関わらず、当業者に「空気置換式」と呼ばれている。当該ピペッティング種類では、ピペットピストンは、調量液体から、気柱、特に空気柱によって持続的かつ完全に分離している。
【0017】
本発明に係るピペット装置は、システム液の柱をピストンとして用いるピペット装置とも区別されるべきである。このようなシステム液からは、ある程度の汚染リスクが生じる。なぜなら、システム液、すなわちいわば液体のピストンの一部が、ピペッティングされるべき調量液体に到達することが時折排除され得ないからである。本発明に係るピペット装置のピストンは、汚染リスクを回避するために、少なくとも部分的に、好ましくは完全に固体として構成されている。部分的にのみ固体として構成されている場合、液体から液体への伝達を防止するために、少なくとも調量液体に面したピストンの調量側端面が、固体として構成されている。
【0018】
本発明に係るパルス状分注は、特許文献1から知られている。しかしながら、特許文献1では、陽圧パルスは作動ガスを介しておらず、圧電アクチュエータによって、物理的衝撃が、ピペット装置内に供給された調量液体の、ピペット開口部からより離れて位置するメニスカスに直接放出され、それによって、供給された調量液体の柱の、反対側の長手方向端部において、ピペット開口部のより近くに位置するメニスカスから、液滴が放出される。
【0019】
この既知の方法の欠点は明白である。圧電アクチュエータによって、調量液体と接触することで、汚染のリスクが増大する。
【0020】
当該分野に係るピペット装置及び方法は、本発明の出願時点では公開されていない特許文献2に記載されている。
【0021】
少量の調量液体のパルス状分注に際して、選択された調量液体に依存して、例えばその粘性、密度及び/又は表面張力に依存して、かつ、さらに陽圧パルスと、必要に応じて後続の陰圧パルスと、のパラメータに依存して、望ましくない随伴現象が生じる可能性がある。例えば、放出しているピペット開口部により近いメニスカスにおいて、唯一の望ましい調量液滴の代わりに、調量液体の霧化又は調量液体の放出が、望ましくない衛星液滴に伴われた調量液滴によって生じる可能性があり、これは、得られる調量精度の、望ましくない低下に結びついている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】米国特許出願公開第2001/0016358号明細書
【文献】独国特許出願公開第102015214566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明の課題は、少量の液体のパルス状の分注を、高い再現精度をもって可能にする技術的教示について記載することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によると、本課題は、冒頭に挙げた種類のピペット装置によって解決される。当該ピペット装置においては、制御装置が、さらに、保持基準圧力に関して、ピペット管内に陽圧パルスを形成する前に、陰圧を形成するために、圧力変更装置を作動するように構成されている。
【0025】
記載された制御装置の構成によって、ピペット装置は、基本的に、陽圧パルスを形成する前に、一般的には調量液体柱として存在する、ピペット装置に受容された調量液体を、わずかにピペット開口部から離れて、ピペット装置内へ動かすことが可能である。それによって、ピペット装置のピペット開口部と、ピペット装置内に供給された調量液体の、ピペット開口部のより近くに位置するメニスカスと、の間には、ガス体積が供給され得る。
【0026】
ピペット開口部をどのようにピペット装置に設けるかとは関係なく、記載された制御装置の構成によって、所望のガス体積がつねに生成され得る。
【0027】
実験で明らかになっていることに、ピペット装置の受容体積内部において、ピペット開口部から距離を置いて配置された、ピペット開口部により近い調量液体のメニスカスからの、所望の調量液体体積の液滴のパルス状の分注は、境界が明確な調量液滴を形成するために有利である。
【0028】
ピペット装置内に供給された調量液体の、ピペット開口部から、ピペット開口部の受容空間内への引き込みの効果は、技術的に完全には解明されていないが、現象学的には再現可能である。
【0029】
可能であれば、調量液体、又は、少なくともピペット装置内に供給された調量液体柱の、放出しているピペット開口部により近いメニスカスが、液滴形成及び液滴放出の間、側壁によって案内されていると有利である。従って、作動ガス内の陽圧パルスに基づく、調量液体柱全体の最小限の移動でさえ、流体力学的に決定された環境で行われる。
【0030】
それに対して、放出しているメニスカスが、直接、ピペット開口部に位置している場合、例えばメニスカスの屈曲又は湾曲といった形状は、決定されておらず、その陽圧パルスに起因し得る変形は、本発明に係るピペット装置の場合よりも、明確には決定されていない。
【0031】
基本的に、調量液体のパルス状分注は、放出しているメニスカスがピペット開口部に直接接しており、例えばピペット開口部の縁部を湿らせている場合に可能ではあるが、ピペット装置において、供給された調量液体に関して設定される動作パラメータは、望ましい少量の調量液体の放出を実現するために、概ね狭い範囲内で選択されるべきである。言い換えると、ピペット装置内に供給された調量液体の、放出しているメニスカスを、ピペット開口部から距離を置いて、ピペット装置の受容空間に配置することによって、パルス状の分注プロセスは、外部の影響及び動作パラメータの変化に対して、放出しているメニスカスがピペット開口部に直接接している場合よりも敏感ではなくなる。
【0032】
あり得る、さらなるポジティブな影響は、陰圧を形成するために圧力変更装置を作動し、それに伴って、放出しているピペット開口部により近いメニスカスがピペット開口部から離れるように変位することによって、下側のメニスカスが、事前に調量液体によって湿らされていたピペット装置の領域に引き込まれるが、これは、下側のメニスカスが、予測不可能な形状で、ピペット開口部に直接接している場合、調量液体をピペット装置に供給するために吸引した直後には、必ずしも当てはまらないことにある。下側のメニスカス又は供給された量の調量液体が、さらにピペット装置内に引き込まれることによって、放出しているメニスカスは、一般的に、予測可能な、明確な形状を有して存在しており、それによって、パルス状分注の再現性及びその分注結果が著しく改善される。
【0033】
同様に、冒頭に挙げた課題は、冒頭に挙げた種類の方法によって解決される。当該方法は、陽圧パルスを形成する前に、以下のステップを有している:
-調量液体を静止して保持するために必要である、ピペット管内の保持基準圧力に関して、作動ガス内に陰圧を形成し、それによって、受容された調量液体をピペット開口部から離れる方向に移動させ、この移動によって、調量液体とピペット開口部との間にガス体積を形成又は拡大するステップ。
【0034】
本発明に係る方法の利点及び効果については、本発明に係るピペット装置を用いて実施可能である、調量液体のパルス状分注方法について説明している、本発明に係るピペット装置に関する記載が参照される。
【0035】
本発明の利点は、特に、液体を高い再現精度をもって等分する可能性にある。例えば、ピペット装置に30μlから80μlの調量液体が受容可能である場合、例えば約40μlの場合、その内、各陽圧パルスによって、約500nlが調量液滴として放出される。その際、実験では、調量液体として受容された40μlのグリセリンから、室温において、20の調量液体液滴が、それぞれ448nlを目標の調量体積として、連続してパルス状に分注されたが、20の分注を超えた、調量液滴体積の不正確性は、3%よりも低かった。
【0036】
従って、等分の場合においても、本発明の利点を保証するために、本発明のさらなる発展形態では、制御装置が、それぞれ2つの直接連続するパルス状分注プロセスの内の他方に割り当てられている2つの陽圧パルスを形成する間に、圧力変更装置を、保持基準圧力を形成し、その後で陰圧を形成するために作動するように構成されていることが規定され得る。対応することは、本発明に係るピペッティング方法に当てはまる。当該ピペッティング方法は、2つの異なる、しかしながら直接連続するパルス状分注プロセスに割り当てられた陽圧パルスを形成する間に、それぞれステップを含むことができる。つまり、まず、ピペット装置内に受容された調量液体を、静止してピペット装置内に保持するために必要である保持基準圧力を形成するステップ、次に、保持基準圧力に関して、作動ガス内に陰圧を形成し、それによって、供給された調量液体の、ピペット開口部により近いメニスカスを、ピペット開口部から離れて、ピペット装置内へ変位させ、それによって、調量液体とピペット開口部との間にガス体積を形成するステップ、である。
【0037】
補足すべきことに、ピペット開口部から引き込まれた、ピペット開口部により近いメニスカスを用いた、調量液体のパルス状分注の際の上述の利点は、ピペット開口部に向かって円錐形に先細になるピペット管の場合でも、ピペット開口部に向かってシリンダ形に一定の横断面を有して延在するピペット管の場合でも得られる。従って、ピペット開口部の領域におけるピペット管の形状は、重要ではないか、又は、特に重要ではない。
【0038】
放出しているメニスカスの、可能な限り境界が明確な形状を得るためにはさらに、上述の陰圧の形成が、第1の陰圧の形成と、その後で、第1の陰圧よりも高い値の圧力の形成と、その後で、第2の陰圧の形成と、を含んでいると有利である。好ましくは、第1の陰圧と第2の陰圧との間の比較的高い圧力は、保持基準圧力よりも高いので、上述の作動ガス圧力の交互の変化によって、ピペット装置内に供給された調量液体は、ピペット管の部分に沿って往復運動することができる。それによって、ピペット管の少なくとも一部を、調量液体で複数回湿らせることができる。
【0039】
それに応じて、本発明の有利なさらなる発展形態に係る方法は、陰圧を形成した後、しかし、陽圧パルスを形成する前に、以下のさらなるステップを含んでいる:
-作動ガス内の圧力を上昇させ、それによって、受容された調量液体をピペット開口部の方向へ移動させるステップ。
【0040】
同様に、当該方法は、作動ガス内の圧力を上昇させた後、しかし、陽圧パルスを形成する前に、以下のさらなるステップを含んでいる:
-作動ガス内に第2の陰圧を形成し、それによって、受容された調量液体を、ピペット開口部から離れる方向に移動させ、この移動によって、調量液体とピペット開口部との間にガス体積を形成、又は、拡大するステップ。
【0041】
上述の第2の陰圧の形成によって、陽圧パルスが形成される場合に、放出しているピペット開口部により近いメニスカスが、ピペット開口部から間隔を有して、ピペット装置の内部に配置されていることが保証される。
【0042】
第2の陰圧を形成することは、必ずしも必要ではないが、放出しているメニスカスの、ピペット開口部から間隔を有した所望の位置を保証するためには有利である。しかしながら、第1の陰圧を、唯一の陰圧として、後続の上昇した圧力よりも長く形成すること、及び/又は、第1の陰圧を、後続の上昇した圧力よりも、保持基準圧力から大きな値の間隔を有するように形成することでも十分である。それによっても、作動ガスの事前の圧力操作の終わりに、パルス状に分注する陽圧パルスの形成前に、放出しているメニスカスが、ピペット開口部から間隔を有して、ピペット装置の内部に位置していることが保証され得る。
【0043】
第1の陰圧を形成した直後、より高い圧力を形成した後、又は、第2の陰圧を形成した後で、パルス状に分注する陽圧パルスが形成され得るとしても、ピペット装置内に供給された調量液体を、パルス状分注の前にまず静止させることが有利であり得る。従って、本発明に係るピペット装置の制御装置は、陰圧の形成後かつ陽圧パルスの形成前に、保持基準圧力を形成するために、圧力変更装置を作動するように構成され得る。本発明に係る方法に関しては、対応するさらなる発展形態が有効である。
【0044】
作動ガスの圧力は、一般的に、ピペット装置内に供給された調量液体の重さを補償しなければならないので、場合によっては、湿らされたピペット管壁における摩擦効果及び/又は毛管効果を除いて、まさにピペット装置内に供給された調量液体が、各パルス状分注プロセスによって取り去られる等分の際に、ピペット装置内で放出しているメニスカスの可能な限り正確な位置決めにとって、ピペット装置が、作動ガスの圧力を検出するための圧力センサを有していると有利であり、圧力センサは、その検出情報を伝達するために、制御装置と信号を伝達できるように接続されており、制御装置は、圧力センサの検出情報に従って、圧力変更装置を作動する。
【0045】
従って、対応するさらなる発展形態に係る方法は、作動ガスの圧力の検出を含むことが可能であり、少なくとも、陰圧、上昇した圧力、保持基準圧力及び陽圧パルス、及び、場合によっては後続の陰圧パルスからの圧力の形成は、作動ガスの検出された圧力、及び/又は、供給されたと仮定される調量液体の量に応じて行われる。供給されたと仮定される調量液体の量は、例えば、既知の当初の調量液体の量を基に、例えば制御装置によって、当初の量の調量液体を供給して以来行われたパルス状分注プロセスの数で乗じた、各パルス状分注プロセスで調量される量の減法を通じて決定され得る。
【0046】
基本的に、ピペット装置は、ピペット開口部を備えた、固定して取り付けられたピペット管を有しており、当該ピペット管を通って、ピペット装置内に供給された調量液体が分注される。しかしながら、これは、衛生面を考えると、さほど有利ではない。好ましくは、ピペット装置は、交換可能なピペット先端を、ピペット管の一部として受容するように構成されている。それに対応して、本発明の有利なさらなる発展形態によると、ピペット装置は、ピペット先端の一時的な連結のために、ピペット管が貫通する連結構造を有している。ピペット先端が連結構造に連結されている場合、ピペット先端は、装置側のピペット管を延長し、一時的に、すなわちその連結の間、ピペット装置のピペット管の一部となる。ピペット先端は、好ましくはいわゆる「ディスポーザブル」であり、すなわち、ワンウェイの、又は、使い捨てのピペット先端であり、分注又は等分が一回行われた後に廃棄処分される。
【0047】
好ましくは、当該ピペット装置は、パルス状分注のためにだけに構成されているのではなく、従来の吸引のためにも構成されているので、ピペット装置内、特にピペット装置に受容されたピペット先端内への調量液体の供給は、調量液体が、ピペット装置のピペット開口部を通り、ピペット装置の受容空間に準同期式に吸引されることを通じて行われ得る。好ましくは、ピペット装置は、非同期式動作におけるパルス状分注も、準同期式動作における従来型分注も行えるように構成されているので、本発明に係るピペット装置を用いて、1μl未満から、数10nlに至るまでの少量の調量液体を、数100μlといった多量の液体と同じように、再現精度をもって分注することができる。非同期式動作と準同期式動作との間の切り替えは、制御装置によるピペットピストン速度の調整を通じて、非常に容易に行われる。ピストンの加速とピストンの移動とが十分に遅い場合は、分注が、吸引と同じく、準同期式的に行われる。ピストンの加速及び/又はピストン速度に関して調整されるべき値は、異なる液体クラスに関して大きな負担を生じることなく、実験によって算定可能である。
【0048】
例えば、準同期式のピペッティングを実現するための制御装置は、1μlを超えない所定の1回分調量体積をピペッティングするためのピストンを、1000μl/sを超えない最高速度で移動させるように構成されていてもよい。上述の1000μl/sを超えないピストンの最高速度では、調量液体は、場合によってはわずかな時間的ずれを有して、同じ移動方向においてピストンに従っている。ピストンによって押しのけられたピペッティング体積は、実際にピペッティングされた調量液体体積に概ね一致する。やはり、好ましくは上に挙げた、ピストン面積で記載されたピストン寸法が有効である。
【0049】
本発明に係るピペット装置を、同期式又は準同期式ピペッティングにおいても、非同期式ピペッティングにおいてにも、動作させる可能性によって、本発明に係るピペット装置は、100nlから100μl、好ましくは100nlから1000μlの調量体積範囲において選択可能な1回分調量体積を、呼び体積としての所定の1回分調量体積に対して2%を超えない差異で、再現可能にピペッティングするように構成されていてよい。従って、本発明に係るピペット装置は、最大のピペッティング体積として、最小のピペッティング体積の1万倍をピペッティングすることができる。その際、自明のことながら、例えば挙げられた100nlの下限を、さらに下回る可能性があることを排除すべきではない。上述のピペッティング体積範囲に関しては、いずれにしても、ピペット装置の機能性が保証されている。
【0050】
上述の理由から、ピペット装置がピペット先端を有しており、ピペット先端は、連結構造と解除可能な連結係合を行うための連結対応構造と、吸引プロセス及び分注プロセスの間における調量液体の通過開口部としてのピペット開口部と、を備えていると有利である。この場合、調量液体は、場合によっては吸引プロセスの後で、ピペット先端に供給されている。吸引プロセスは、パルス状には行われず、準同期式吸引プロセスとして行われる。すなわち、作動ガスにおける吸引する陰圧の形成と、それによって引き起こされる調量液体のピペット開口部を通じたピペット装置又はピペット先端への流入と、は、時間的に大部分が重なり合う。
【0051】
本発明に係るピペット装置の大きな利点の内の1つは、本発明に係る分注方法の場合と同じように、呼びピペット空間体積を有する標準的なピペット先端を用いることができることにあり、この呼び体積は、唯一のパルス状分注プロセスにおいて放出される調量液体の量よりもはるかに大きい。好ましくは、ピペット先端の呼び受容体積又は呼びピペット空間体積は、唯一のパルス状に分注された、又は、分注可能な液体量の可能な限り最小の体積の80倍より、特に好ましくは300倍より、極めて好ましくは500倍より大きい。それによって、多数の連続するパルス状分注を伴う等分プロセスは、同時に、調量体積の高い再現精度をもって実現し得る。
【0052】
例えば、実験において、300μlの呼び受容体積を有する標準的なピペット先端が、ピペット装置に一時的に連結された。当該ピペット先端には、40μlの、グリセリン等の調量液体が吸引された。本発明に係るピペット装置の構成によって、又は、本発明に係る方法の使用によって、放出しているメニスカスとピペット開口部との間には、4μlから5μlのガス体積が設けられた。このような状況において、調量液体としてグリセリンが、448nlの1回分調量体積で、連続して20回等分された。それぞれ放出された調量体積は、2.96%より大きくは異ならなかった。
【0053】
比較的粘性の大きい液体としてグリセリンを、ピペット装置に供給された40μlの容器から、450nlよりも少ない再現可能な調量体積で、複数回放出することは、極めて異例である。
【0054】
この精度は、陽圧パルスの形成の前に、調量液体の放出しているメニスカスとピペット開口部との間に供給されたガス体積によって決定的に得られた。なぜなら、実験は、ガス体積無しに、すなわちピペット開口部に直接接する、放出しているメニスカスでは、450nlよりも少ないグリセリンの、再現精度を有するパルス状の分注を許容しないからである。ピペット開口部と放出しているメニスカスとの間にガス体積を有さない場合、グリセリンの再現可能な最小分注体積は、2μlの大きさになり、すなわちガス体積によって得られる値の4倍より大きくなった。これまでに行われた実験が示唆するところによると、まさにグリセリン等の比較的粘性の大きい調量液体において、本発明を用いることによって、ピペット装置内の比較的大きな容器から等分する場合に、再現精度を有して、少ない調量の量を得る際の、著しい進歩が得られている。
【0055】
ピペット開口部と放出しているメニスカスとの間におけるガス体積は、好ましくは、少なくともパルス状に分注されるべき調量液体体積の約2倍から4倍である。他方で、当該ガス体積は、可能であれば、パルス状分注のために設けられた調量液体体積の25倍、好ましくは20倍よりも大きくない方がよい。
【0056】
ピペット開口部に向かって円錐形に先細になるピペット管及びピペット先端の場合、放出しているメニスカスのピペット開口部からの距離が増大すると、その面積も大きくなる。ピペット開口部により近いメニスカスの表面拡大の境界例は、下側のメニスカスを通って、気泡が、ピペット管内に供給された調量液体に入り込む場合に生じる。このような事例は、自明のことながら回避した方がよい。
【0057】
構造的に、100μl、200μl、300μl又は300μlより大きい呼び受容体積を有する、従来の大型のピペット先端の使用は、圧力変更装置が、磁気ピストンと、ピペット管に沿った移動のために磁気ピストンと協働する、電気でエネルギー供給可能なコイルと、を有し得ることによって可能である。磁気ピストンは、好ましくは、少なくとも1つ又は好ましくは複数の固体永久磁石を有する固体のピストンであり、これらの固体永久磁石は、好ましくはその長手方向端部において、ピストンを可動に受容するピペット管に対して、例えば対応するキャップによって、十分に密封されている。電磁場によって駆動可能である磁気ピストンの供給は、ピストンのピペット管内での極めて動的な移動プロセスを可能にし、それによって、時間的に短い、鞭による打撃の様な陽圧パルスの形成を可能にし、当該陽圧パルスは、同様に時間的に短い陰圧パルスによって、その作用において、急激に停止され得る。
【0058】
磁気ピストンを用いて、従来のピペットピストンの機械的な移動駆動部を用いては得られないような、ピペット管内におけるピストンの加速が得られる。
【0059】
圧力変更装置が、好まれているように、磁気ピペットピストン及び電気でエネルギー供給可能なコイルを含んでいる場合、制御装置は、好ましくは、コイルへのエネルギー供給を制御するように構成されている。上述の陰圧の形成は、磁気ピストンの第1の方向への変位、一般的にはピペット装置内に供給された調量液体から離れる方向への変位を含んでいる。
【0060】
同様に、陽圧パルスの形成は、第1の方向とは反対の第2の方向への、及び、その直後における第1の方向へのピストンの変位を含んでいる。
【0061】
ピペットピストンと、ピペット管内に供給された調量液体と、の間には、作動ガスのみが存在し、別のシステム流体又は調量流体が存在しないことが好ましい。
【0062】
しかしながら、代替的又は付加的に、圧力変更装置は、様々な作動ガス圧力容器によっても実現可能であり、当該作動ガス圧力容器のそれぞれは、少なくとも1つの弁を介して、ピペット管に、圧力を伝達できるように接続され得る。その際、作動ガス圧力タンクは、陽圧タンクであり、それぞれ他方は、陰圧タンクである。陽圧及び陰圧は、例えば予想される保持基準圧力範囲における圧力等の基準圧力に関して理解されるべき圧力であり、当該基準圧力は、一般的にピペット管内に供給される調量液体の量によって決定されている。
【0063】
最後に挙げた適用例では、制御装置は、各弁の開閉を制御するように構成されており、陰圧の形成は、陰圧弁の開閉を含んでおり、陽圧パルスの形成は、陰圧弁の開閉と、陽圧弁の開閉と、を含んでいる。
【0064】
ピペットピストンを有する圧力変更装置の好ましい使用において、ピストンの鞭状の可動性は、好ましくは、制御装置が、1μlよりも少ない所定の1回分調量体積の分注のために、移動駆動部を動作させるように構成されていることによって実現するものであり、移動駆動部の動作によって、ピストンは、分注方向に動かされ、その際、その調量側端面は、1回分調量体積の1.4倍以上大きい分注体積を押しのけ、引き続いてピストンは、分注方向とは反対の吸引方向に動かされ、その際、その調量側端面は、吸引体積を押しのけ、ピストンを分注方向において駆動するための制御装置の制御信号の開始と、ピストンを吸引方向において駆動するための制御信号の終了と、の間には、40ms、好ましくは30msよりも多くの時間は経過していない。
【0065】
この態様は、ピストン移動を制御する制御信号に合わせたものであり、当該制御信号には、ピストンが、慣性、摩擦等の外的影響に基づいて、一般的に、時間的なずれと、制御信号によって設定された目標の移動からのピストンの実際の移動のある程度の逸脱と、を伴って、従っている。目標の移動に十分正確に従っているピストンの作動は、すでに、以下において詳細に記載する本発明による成功につながっており、本発明が目指すところの効果を実現している。
【0066】
実際のピストン移動に合わせて、ピストンの鞭状の運動は、制御装置が、1μlよりも少ない所定の1回分調量体積の分注のために、移動駆動部を動作させるように構成されていることによって実現可能であり、移動駆動部の動作によって、ピストンは、スタート位置から分注方向に動かされ、その際、その調量側端面は、1回分調量体積の1.4倍以上大きい分注体積を押しのけ、引き続いてピストンは、移動方向の反転点から、分注方向とは反対の吸引方向に動かされ、その際、その調量側端面は、吸引体積を押しのけ、ピストンが分注方向と吸引方向とにおいてそれぞれ、ピストンスタート位置とピストン反転点との間の中間に相当する位置に到達する時点の間には、40ms、好ましくは30msよりも多くの時間は経過していない(「中間時間」又は「中間距離」)。
【0067】
中間距離の第2の態様は、ピストンの作動のために所定の時間において用いられる制御信号の第1の態様とは、基本的に無関係である。第1の態様と第2の態様とは、共に組み合わせて、ピペット装置において実現されていてもよい。
【0068】
ピストンが、「中間距離」の位置から、すなわちピストンのスタート位置と、分注方向から吸引方向への移動方向の反転を伴う死点(移動方向の反転点)と、の間の区間の中間点から、死点に到達し、中間距離の位置へ戻るために要する時間を考慮することによって、分注プロセスにとって重要ではない、例えばピストン移動の終わり近くに停止位置に戻る際にオーバーシュートの形で生じ得る、ピストンの実際の移動の目標の移動からの逸脱が除外される。場合によって生じ得るオーバーシュートによって、パルス状分注プロセスの終わりに、実際のピストンの停止を確認することが困難になり得る。しかしながら、オーバーシュートは、これまでに行われた実験によると、分注された調量液体の量には何ら影響を与えていないので、移動終了時のピストンの移動挙動に関する深い議論は行われないままであり得る。鞭状のピストン運動によって得られる分注の成功にとって決定的に重要なのは、上述の、ピストンが、その分注方向における移動の間に、中間距離の位置から出発して、その移動の死点まで到達した後、その吸引方向における移動の間に、再び中間距離の位置に到達するために要する時間である。
【0069】
ピストンの移動は、ピストンにおける任意の基準点を基に、例えば調量側のピストン面を基に、検出され得る。
【0070】
本発明によって提案された、ピストンの調量液体上の移動の作用は、未だ完全には解明されていない。しかしながら、説明モデルは、ピストンがピペッティング方向において、ピペッティングされるべき所定の1回分調量体積よりも多い分だけ移動することによって、調量液体の慣性、表面張力、付着及び凝集力に反して、所望の分注方向にその移動を誘導するために必要である励起又は破壊エネルギー(Losbrech-Energie)が、ピペッティングされるべき調量液体に伝達されることから出発している。
【0071】
ピストンが、分注方向とは反対の吸引方向であって、ピストンが再び、一般的に、別の、好ましくは本来ピペッティングされるべき1回分調量体積よりも大きい体積を押しのける吸引方向に移動することによって、事前に励起していた調量液体の分注運動は、再び「脱励起」される。
【0072】
従って、非常に短く鋭い圧力パルスが、ピストンから、作動ガスを介して、調量液体に伝達される。
【0073】
驚くべきことに、ピストンによって、その移動の際に押しのけられる体積である分注体積と、吸引体積と、は、同じ大きさであり得る。それゆえ、ピストンは、分注プロセスの終わりには、再びスタート位置に存在し得る。それにも関わらず、1回分調量体積がピペッティングされる。
【0074】
従って、本発明では、ピストンの「変位の収支」は重要ではない。むしろ、実験が示すところによると、実際に分注された調量液体体積は、時間に応じて積分されたピストンの目標移動に依存する。このピストンの目標移動は、例えば各設定時点における、導管軌道に沿ったピストンの目標の位置の形で、すなわち目標の位置時間曲線によって示され得る。ピストンの目標移動は、制御装置の制御信号に依存するので、実際にピペッティングされる調量液体体積は、時間に応じて積分された制御信号の経時的推移に依存し得る。同様に、実際にピペッティングされた調量体積も、時間に応じて積分されたピストンの実際の移動に依存し得る。やはり、ピストンの実際の移動は、各現在時点における、導管軌道に沿ったピストンの実際の位置の形で、すなわち実際の位置時間曲線によって示され得る。ピストンの実際の移動を用いた場合の積分限界は、ピストンの、中間距離の位置の両方の通過である。
【0075】
つまり、上述の、経時的に変化する変数であるピストンの目標の移動、制御信号、ピストンの実際の移動の内の1つを、経時的なグラフで示す場合、移動の開始と移動の終了との間で、グラフの下側に位置する面は、実際に分注された調量体積の大きさである。ピストンの実際の移動を、分注された調量液体体積に関する評価パラメータとして用いる場合、関連する移動の開始は、中間距離の位置の第1の通過であり、関連する移動の終了は、当該位置の第2の通過である。
【0076】
その際、ピストン又はピストンの調量側端面によって押しのけられた体積は、ピペッティングの間に端面の形状が変化しないという理にかなった仮定において、ピストン行程と乗じた、調量側端面の、導管軌道に対して直交する投影面への投影の面積である。好ましくは、少なくともピストンの調量側端面は固体として形成されているので、この仮定は現実的である。
【0077】
「分注方向」は、ピペット装置の調量液体受容空間から、例えばピペット先端からの調量液体の押し出しをもたらすピストンの移動方向を表している。「吸引方向」は、ピペット装置の調量液体受容空間への調量液体の吸い込みをもたらすピストンの移動方向を表している。
【0078】
本出願では、1回分調量体積は、分注プロセスが、既知の具体的な分注体積を分注するという目標をもって行われる場合、つねに予め設定されている。1回分調量体積は、ピペット装置への手動入力によって、又は、ピペット装置へのデータ伝送によって、又は、手動で入力された、かつ/若しくは、記憶装置に保存されたピペット装置に関するデータからの算定によって、事前に決定可能である。
【0079】
ピストンの調量側端面によってまず押しのけられた分注体積は、所定の1回分調量体積だけではなく、それぞれピペッティングされるべき調量液体のパラメータ、及び/又は、調量側ピストン面と調量液体との間における作動ガスの体積にも依存し得る。基本的に有効なことに、調量液体の粘性(20℃の室温で、1013.25hPaの大気圧において、回転粘度計を用いて計測)が大きければ大きいほど、分注体積の1回分調量体積に対する比は大きい。同様に有効なことに、作動ガスの体積が大きければ大きいほど、分注体積の1回分調量体積に対する比は大きい。好ましい交換可能なピペット先端においては、一般的に、ピストンと調量体積との間の、構造に左右される作業ガス体積は、100μlを下回らず、3000μlを上回らない。好ましくは、当該作業ガス体積は、180μlと1000μlとの間、特に好ましくは200μlと800μlとの間である。
【0080】
例えば、分注体積は、1回分調量体積の1.5倍以上であり得る。しかしながら、分注体積は、1回分調量体積より明らかに大きくてもよい。例えば、低い励起エネルギーが、調量液体を、一般的に狭いピペット開口部を通って流れるように加速させるために十分である場合には、分注体積は、1回分調量体積の5倍であってよい。移動のために励起させにくい調量液体は、分注方向におけるピストンの移動と、その際に調量側端面によって押しのけられる、1回分調量体積の10倍以上である分注体積と、によって、移動のために励起され得る。ピストン移動は、好ましくは、時間単位あたりに調量側端面によって押しのけられた体積よりも高い体積速度で実施されるので、分注体積の増大と共に、1μlより少ないという、非常に小さい1回分調量体積のピペッティングの再現精度が上昇する。従って、分注体積は、好ましくは1回分調量体積の25倍以上であってもよい。
【0081】
実験が示すところによると、特に、頻繁にピペッティングされるべき水性液体のクラスに関して(本出願では、これは、20℃の室温で、1013.25hPaの大気圧において、回転粘度計を用いて計測して、0.8mPasから10mPasの範囲の粘性を有する液体である)、1回分調量体積の10倍から60倍の間、好ましくは10倍から25倍の間の分注体積が、優れた調量結果につながる。1回分調量体積の10倍と25倍との間の分注体積は、上述の粘性範囲の範囲外にある調量液体に関しても、優れた調量結果をもたらす。
【0082】
分注体積の上限は、ピストンが、その調量側端面で、分注体積を押しのけるために要する長い期間ゆえに、1回分調量体積よりも多くが、ピペット開口部を通って動かされる分注体積である。試験が示すところによると、100倍より大きい分注体積は、1μlより小さい調量体積の有意義な分注を、もはや許容しない。
【0083】
ここで明確にすべきことに、本発明に基づいて構成されたピペット装置は、分注の際の、すでに記載した大きなピストン移動にも関わらず、所定の調量液体の1回分調量体積のみ、ピペット開口部を通るように移動させる。吸引方向における修正を伴う過剰調量又は過剰分注は生じない。本発明によると、調量液体は、分注プロセスの間、所望の分注方向にのみ動かされる。本出願に係る分注プロセスは、吸引方向におけるピストン移動が終了すると、完了する。
【0084】
ピストンによって、その移動の間に押しのけられる吸引体積は、等分の場合でも、分注体積と同じであり得る。とはいえ、等分動作における分注プロセス数の増加と共に、ピペット開口部により近いメニスカスは、ますますピペット装置の調量液体受容空間内に移動し、それによって、さらなる分注プロセスの精度が損なわれる可能性がある。
【0085】
従って、吸引体積は、分注体積よりも、1回分調量体積の分だけ小さくてよい。それによって、受容された調量液体のピペット開口部により近いメニスカスが、実施された複数の分注プロセスにも関わらず、可能な限り一定の位置に留まることが保証され得る。従って、上述のように、吸引体積も、1回分調量体積よりはるかに大きくてよい。
【0086】
しかしながら、まず、ピストンが、吸引方向における陽圧パルスの形成の終わり近くに、分注プロセス開始時のピストンスタート位置に戻され、その後で再び、分注方向において、1回分調量体積の分だけ修正されてもよい。この修正移動は、パルス状分注プロセスの間におけるピストン移動よりも著しく遅く進行してもよく、もはや分注プロセスには含まれない。
【0087】
少量の調量液体を分注するための分注プロセスに関して、ピストンによって押しのけられるべき正確な分注体積及び吸引体積は、所定の1回分調量体積の場合、実験を通じて容易に検出され得る。
【0088】
従って、本発明に基づいて、先行技術に関連してすでに述べた準同期式ピペッティングとは対照的に、非同期式ピペッティングが用いられ、非同期式ピペッティングにおいては、ピストン移動の重要な部分が、調量液体の移動とは相関しない。上述の準同期式ピペッティングの場合、同方向におけるピストンの移動と調量液体の移動との間に、わずかな時間的なずれのみが存在するが、ここに記載された非同期式ピペッティングの場合、1つかつ同一の時点において、若しくは、1つかつ同一の時期において、ピストンと調量液体との互いに反する方向での移動が生じる可能性があるか、又は、ピストンが吸引方向における移動を完了し、再び静止した後で、調量液体のピペット開口部を通る移動がようやく開始し得る。
【0089】
従来のように、比較的遅いピストン移動によって調量液体を吸引及び/又は放出する代わりに、本発明に係るピペット装置の場合、速いピストン移動によって、圧縮性の作動ガス内に圧力パルスが形成され、圧力パルスは、非圧縮性の調量液体に伝達され、非圧縮性の調量液体において、より多い量の調量液体からの、小さい1回分調量体積の分離をもたらすことが可能である。分注方向及び吸引方向におけるピストン移動に基づいて、上述の圧力パルスは、周囲の雰囲気と比較して、立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジを含んでいる。吸引の場合、一般的に、パルスの立ち下がりエッジは、時間的に、パルスの立ち上がりエッジに先行するが、分注の場合は、ちょうど逆になる。
【0090】
分注プロセスにおいて、調量液体の1回分調量体積が、いつピペット開口部の通過を開始するかとは関係なく、大部分の分注プロセスに共通しているのは、所定の液体体積がピペット開口部から分離する前に、分注の際に、ピストンが移動方向の反転のために作動し、一般的に、ピストンの移動方向が実際に反転するということである。それによって、1μlよりも少ない所定の1回分調量体積の、ジェットモードにおける分注が実現し得る。
【0091】
1μlより少ない1回分調量体積をジェットモードで分注するために構成された、有利な実施形態によると、制御装置は、ピストンの移動方向を分注方向から吸引方向に反転させるために、所定の液体体積がピペット開口部から分離する前に、移動駆動部を作動するように構成されていてよい。その後、所定の液体体積が、ピペット開口部から振り落とされる。これもまた、鞭状のピストン運動の表現である。
【0092】
ピストン移動が十分に速い場合、分注方向及び吸引方向におけるピストン移動が、調量液体の所望の1回分調量体積が、完全にピペット開口部を通過する前に、完全に終了していることさえ生じ得る。従って、ピストン速度は、同様に、重要な影響変数であり得る。
【0093】
従って、本発明に係るピペット装置における、ピストンの鞭状の可動性は、移動駆動部がリニアモータを含んでいること、並びに、制御装置及び移動駆動部が、1μlよりも少ない所定の1回分調量体積をピペッティングするために、ピストンを、少なくとも5000μl/s、好ましくは少なくとも10000μl/s、かつ、25000μl/sより大きくない最高速度で動かすように構成されていることによってもたらされ得る。
【0094】
ピストンの移動速度は、同様に、鞭状のピストン運動に関して特徴的である。その際、ピストンの体積速度、すなわちピストンの調量側端面によって時間単位当たりに押しのけられた体積は、ピストン又はピストンロッドの直線的移動速度よりも重要である。より大きなピストン面を有するピストンの場合、より小さいピストン面を有するピストンが、そのためにより大きな行程を要するのと同じだけの体積を押しのけるためには、より小さい行程で十分ではある。従って、体積速度の増大を実現するためには、単純に、より小さなピストン面を有するピストンよりも、より大きなピストン面を有するピストンを、導管軌道に沿って動かせばよい。とはいえ、ピストンの移動の開始に必要な破壊力は、例えば付着摩擦を克服するために、ピストンの大きさと共に著しく増大するので、1μlより少ない1回分調量体積の分注のために、ピストン面が大きくなっていくと、ピストンは、ますます制御しにくくなる。
【0095】
本発明は、好ましくは、そのピストンが3mmから80mmのピストン面を有するピペット装置に関するものであり、つまり、当該ピペット装置は、ピストン面が円形である場合、2mmから約10mmの直径を有している。複数のピペット管を、行及び列の形のラスタにおいて、可能な限り小さいラスタ幅で配置することを可能にするために、本発明は、特に好ましくは、そのピストンが3mmから20mmのピストン面を有するピペット装置に関するものであり、これは、ピストン面が円形である場合、2mmから約5mmの直径に相当する。
【0096】
例えば25000μl/sより大きい、高いピストン最大速度で分注する場合、依然として調量液体受容空間から出る液体移動が生じるが、1回分調量体積は、通常、複数の部分体積に分散されるか、又は、噴霧されて、放出される。これは、ここで議論されている1μlよりも少ない、小さい1回分調量体積の高精度の分注にとっては、容認できない。基本的に、ピストン速度の増加と共に、所定の量の調量液体を、望ましくないことに、複数の部分量に分けてピペッティングする傾向が強まることが認識され得る。現在の既知知識によると、少なくとも上で定義したような水性調量液体に関しては、約10000μl/sの最大ピストン速度において、ピペッティングされる液体の量の精度及び再現性に関して、極めて優れた結果が得られる。
【0097】
ピストン速度の印象を与えるために、好ましくは、ピストンは、その分注方向、及び、後続の吸引方向における、中間距離の位置から、当該中間距離に再び到達するまでの移動のために、30msより少ない、好ましくは20msより少ない、極めて好ましくは16msより少ない時間を必要とする。1桁のミリ秒の移動時間すらも考えられる。対応することは、ピストンを分注方向に駆動する制御信号の開始から、ピストンを吸引方向に駆動する制御信号の終了までの、制御信号の長さに当てはまる。特に小さい1回分調量体積をピペッティングするために、制御信号に関しては、1msまでの信号継続時間が可能である。
【0098】
分注方向及び吸引方向における完全なピストン移動は、円形のピストン面及び4.3mmの直径を有するピストンを用いて、問題なく、約15msの内に行われ得る。当該ピストン移動によって、950nlの水性調量液体の1回分調量体積が、調量側端面によって押しのけられる30μlのピペッティング体積及び29.05μlの押しのけられた逆ピペッティング体積(Gegenpipettiervolumen)において調量される。
【0099】
しかしながら、鞭状のピストン運動の運動学的側面は、得られる最高のピストン速度だけではなく、移動駆動部が、ピストンを所望のピストン速度まで加速するため、かつ/又は、所望のピストン速度から速度を落とすために必要とする時間にも基づいている。従って、好ましくは、制御装置及び移動駆動部は、ピストンを、少なくとも2×10μl/s、好ましくは少なくとも6×10μl/s、特に好ましくは少なくとも8×10μl/sかつ5×10μl/sより大きくない加速度で、導管軌道に沿って移動するために加速する、かつ/又は、減速するように構成されている。ピストン面として挙げられた、好ましいピストン寸法に関する上述の記載が有効である。
【0100】
完全に驚くべきことに、さらに、ここで提案されている本発明に係るピペット装置を用いた調量液体、特に水性の調量液体のピペッティングは、それぞれ用いられるピペット先端に左右されないことが明らかになっている。同じピペッティングパラメータでは、異なるピペット先端を有する1つかつ同一のピペット装置において、1つかつ同一の調量液体に関して、つねに同じピペッティング結果が再現可能に得られる。特に、ピペッティング結果は、それぞれピペット装置に連結されたピペット先端の呼びピペット空間体積に依存していない。
【0101】
以下において、添付の図面を用いて、本発明を詳細に説明する。示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1】所定の量の調量液体を吸引した直後の、本発明に係るパルス状分注方法が行われる、本発明に係るピペット装置の図である。
図2a】ピペット開口部と吸引された調量液体との間にガス体積を形成するために、図1の保持基準圧力に関して、作動ガス内に第1の陰圧を形成した後の、図1に係るピペット装置の図である。
図2b】ピペット開口部により近いメニスカスをピペット開口部に向けて変位させるために、ピペットピストンと吸引された調量液体との間の作動ガスの圧力を高めた後の、図2aに係るピペット装置の図である。
図2c】ピペット開口部と吸引された調量液体との間にガス体積を形成するために、図1の保持基準圧力に関して、作動ガス内に第2の陰圧を形成した後の、図2bに係るピペット装置の図である。
図3a】見やすさのためだけに、第3の図面に再び図示された、図2cに係るピペット装置の図である。
図3b】陽圧パルスを急激に形成している間の、図3aに係るピペット装置の図である。
図3c】450nlの1回分調量体積を分注するための、鞭状のピストン運動が完了した後の、図3bに係るピペット装置の図である。
図4】制御信号の経時的推移と、図3aから図3cの、制御信号によってもたらされるピペッティングプロセスのピストン移動の経時的推移と、を示す概略的なグラフである。
図5図4の描写を、制御信号のみを伴って示した図である。
図6図4の描写を、ピストンの位置時間曲線のみを伴って示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0103】
図1から図3cには、本発明に係るピペット装置が、全体として参照符号10で示されている。当該ピペット装置は、ピペット管11を含んでおり、ピペット管11は、直線状の導管軸として構成された導管軌道Kに沿って延在するシリンダ12を含んでいる。このピペット管11内には、ピストン14が、導管軌道Kに沿って移動できるように受容されている。
【0104】
ピストン14は、2つの末端キャップ16(見やすさのために、図1から図3cでは、下側の末端キャップのみに参照符号を付している)を含んでおり、これらの末端キャップの間には、複数の永久磁石18(当該例では3つの永久磁石18)が受容されている。永久磁石18は、導管軌道Kに沿って選択的な磁場を得るために、導管軸Kに沿って分極しており、対を成して、同種の極が連続するように配分された状態で配置されている。この配置からは、ピストン14を始点とする磁場が生じており、当該磁場は、導管軸Kの周りに可能な限り同形で、すなわち導管軸Kに関して略回転対称であり、当該磁場は、導管軸Kに沿って、磁場強度の高勾配を有しているので、種類の異なる分極ゾーンが、選択的に、導管軌道Kに沿って交互に現れる。それによって、例えばホールセンサ(図示せず)を通じて、導管軸Kに沿ったピストン14の位置検出の際に、高い位置解像度が得られ、外側の磁場のピストン14への非常に効果的な連結が得られる。
【0105】
末端キャップ16は、好ましくは、低摩擦の、グラファイトを含む材料から形成されており、例えばアメリカ、コネチカット、ノーウォークのAirpot Corporationの、市販されているキャップが知られている。当該材料によってもたらされるわずかな摩擦を、可能な限り完全に排除するために、ピペット管11は、好ましくはガラス製のシリンダ12を含んでいるので、ピストン14が導管軸Kに沿って移動する際、グラファイトを含む材料は、極めて低い摩擦で、ガラス表面上を摺動する。
【0106】
従って、ピストン14は、リニアモータ20のロータを形成しており、リニアモータ20のステータは、ピペット管11を包囲するコイル22(ここでは例として4つのコイルのみを示した)によって形成されている。
【0107】
明確に指摘しておくべきことに、図1から図3cは、本発明に係るピペット装置10の概略的な縦断面を示しているのに過ぎず、原寸に比例していると理解されるべきではない。さらに、複数ある部材は、例えば3つの永久磁石18及び4つのコイル22というように、任意の部材数で示されている。実際には、永久磁石18の数も、コイル22の数も、図示された数より多くても少なくてもよい。
【0108】
リニアモータ20、より正確には、そのコイル22は、コイル22に信号を伝達できるように接続された制御装置24によって作動する。コイルにエネルギーを供給するため、かつ、コイルによって磁場を形成するための電流の伝導も、信号と見なされる。
【0109】
シリンダ12の調量側端部12aには、知られている方法で、ピペット先端26が解除可能に取り付けられている。ピペット先端26の、シリンダ12の調量側長手方向端部12aとの接続も同様に、概略的にのみ示されている。
【0110】
ピペット先端26は、ピペット空間28を、その内部において画定しており、ピペット空間28は、連結部から離れた長手方向端部26aにおいて、専らピペット開口部30を通じてアクセス可能である。ピペット先端26は、シリンダ12に連結されている間は、ピペット管11をピペット開口部30まで延長する。
【0111】
図1に示されたピペット装置10の例では、ピペット装置10による従来の準同期式ピペッティングにおける吸引プロセスの終了直後に、ピペット空間28内、及び、それに伴ってピペット装置10内に、調量液体32が受容されている。
【0112】
ピストン14と調量液体32との間には、作動ガス34が持続的に存在しており、作動ガス34は、ピストン14と調量液体32との間で、力の媒体として用いられる。好ましくは、ピストン14と調量液体32との間には、作動ガス34のみが存在しており、場合によっては、その化学組成において、考慮せずにすむ程度で、調量液体32からの揮発性成分の吸収によって変化している。
【0113】
作動ガス34は、ピペット先端26が完全に空の場合でも、ピストン14と調量液体32との間に配置されている。なぜなら、ピペット先端26は、調量液体32の吸引のために、対応する調量液体容器に浸漬されるので、この状態では、少なくともピペット開口部30において、調量液体32のメニスカスが存在しているからである。従って、作動ガス34は、ピペット装置10のピペッティングプロセスにとって重要なあらゆる状態において、完全に、ピストン14と調量液体32との間に持続的に存在しており、これらを互いに分離している。
【0114】
より正確に言うと、作動ガス34は、当該例では、導管軌道Kに関して軸方向において調量開口部30の方向に向いた末端キャップ16の端面によって形成されているピストン14の調量側端面14aと、ピペット空間28内に液体柱として受容された調量液体32の、ピペット開口部から離れたメニスカス32aと、の間に存在している。
【0115】
以下において、図1に示された状態を起点として、本発明に係るピペット装置10のパルス状分注プロセスの準備及びパルス状分注プロセスについて記載する。
【0116】
図2aから図2cを参照して、ピペット装置10の準備について記載する。この準備によって、図3b及び図3cに示されたパルス状分注プロセスの精度が、著しく上昇し得る。これは主に、より少ない分注最小量が、対応する準備を行わない場合よりも高い再現精度で放出され得ることを意味している。
【0117】
所定の量の調量液体32をピペット先端26に吸引した直後におけるピペット装置10の状態(図1を参照)から出発して、制御装置24は、コイル22に、ピペットピストン14が(第1の)陰圧を作動ガス34内で形成するために動かされるようにエネルギーを供給する。これは、ピペット開口部30から離れることを意味している。
【0118】
それによって、ピペット装置10内、より正確にはピペット先端26のピペット受容空間28内に供給された調量液体32は、導管軸Kに沿って、ピペット開口部30から離れて、ピペット装置10内、より正確にはピペット先端26内に変位する。供給された調量液体32は、ピペットピストン14に向かっては、ピペット開口部30から遠く離れたメニスカス32aによって画定されており、ピペット開口部30に向かっては、ピペット開口部により近いメニスカス32bによって画定されている。調量液体32がピペット開口部30から離れる方向に変位することによって、ピペット開口部30と、ピペット開口部により近いメニスカス32bと、の間には、ガス体積35が形成される。
【0119】
例示的に受容された40μlの調量液体32の場合、ガス体積35は、パルス状に分注する陽圧パルスの作動直前には、好ましくは4μlから10μl、特に好ましくは4μlから6μlである。
【0120】
ピペット開口部により近い、従って後に調量液滴を放出するメニスカス32bを、ピペット開口部30から離れる方向に変位させることによって、吸引の後、不明確な形状で、特に不明確に屈曲して、ピペット開口部30に存在しているメニスカス32bは、より明確に画定された形状を得る。図2aに従ってガス体積35を形成した後で、ピペット開口部により近いメニスカス32bの形状は、完全には画定されていないものの、その形状は、一般的に予想される形状からわずかに変わる程度である。
【0121】
ピペット開口部により近いメニスカス32bの形状は、例えば調量液体32の表面張力、調量液体32の密度、調量液体32の粘性、及び、ピペット先端26の壁面の湿潤性に依存する。
【0122】
図2bによると、制御装置24は、次に、作動ガス34内での圧力上昇のためにピペットピストン14を移動させるように、コイル22を駆動することが可能であり、すなわち、ピペットピストン14を、ピペット開口部30の方向に変位させることができる。それによって、ピペット先端26内に供給された調量液体32は、再びピペット開口部30の方向に戻るが、ピペット開口部30を越えることはない。それによって、ピペット開口部30とピペット開口部により近いメニスカス32bとの間のガス体積35は、小さくなり、完全に消えることさえある。
【0123】
さらに、制御装置24は、作動ガス34の圧力を低下させるように、すなわち、ピペット開口部30から離れる吸引方向に、ピペットピストン14を移動させるために、コイル22を新たに駆動することが可能であり、それによって、新たに、ピペット開口部30とピペット開口部により近い調量液体32のメニスカス32bとの間に、ガス体積35が形成され、かつ/又は、拡大される。図2aから図2cに示されているように、ピペット先端26において、調量液体32が、往復運動を行うことによって、1つかつ同一の調量液体32に関して、図2cに係る第2の陰圧の形成の終わりに、つねに同じ形のメニスカス32bが形成される。これは、図3aから図3cに示され、記載されたように、後続のパルス状分注プロセスにとっては有利である。この利点は、分注可能な液体の最小量が減少すること、及び、等分の際に、その最小量の再現性が得られることにある。
【0124】
図3aは、陽圧パルスの形成直前及び形成の間におけるピペット装置10の異なる状態を良好に比較するために、図2cのピペット装置10を別個の図面に示している。
【0125】
本発明の思想の中心点は、ピストン14の鞭状の運動である。この鞭状の運動は、様々な形で現れる。
【0126】
供給された好ましいリニアモータ20に基づいて、ピストン14は、巨大な運動力学で、導管軸Kに沿って移動し得る。約0.5μlの調量液体32という、少量の液体を分注するために、ピストン14は、まず、作動ガス34内で圧力を上昇させるために(ここでは分注方向)、調量開口部30の方向に速く移動する。制御装置24は、リニアモータ20のコイル22を作動し、それによって、ピストン14は、ピストン14の調量側端面14aが、ストロークPに沿って、所定の1回分調量体積36の数倍、例えば40倍(図3cを参照)を押しのける大きさのストロークPを実施する。ピストンは、図3bに示された位置において、分注方向における移動の下死点に位置しており、その後すぐに、ピストン14は、逆の吸引方向へ移動するように、すなわち作動ガス34の圧力を減少させる(矢印Gを参照)ために駆動される。
【0127】
ピストン14の分注方向における移動は、10msより短い時間で行われる。ピストン14が、その下死点に到達するとき、調量液体32はピペット先端26から全く分離していない。ピペット開口部により近いメニスカス32bは、液滴の放出に備えた形状で示されている。メニスカス32bの形状は、調量液体の液滴36の放出(図3cを参照)が目前に迫っていることを明確にするために、単に図解の目的で選ばれたものである。ピペット開口部からより遠いメニスカス32aは、陽圧パルスが調量液体32に及ぼす作用を示すために、凹状に屈曲した形で示されている。
【0128】
ピストンは、分注方向において、約10000μl/sの最大速度で動かされ、さらに、8×10μl/sまでの加速で加速し、再び減速する。もっとも、当該最大速度は、短時間のみ生じる。これは、ピストンが、上述の場合、すなわちピストンの調量側端面14aが分注運動の間に、1回分調量体積36の約40倍の体積、すなわち約20μlを押しのける場合に、この分注運動のために、約6msから8msを必要とすることを意味している。
【0129】
調量液体32は、ここでは、このピストン移動に従うには不活性すぎる。その代わりに、ピストン14によって、圧力上昇パルスが、作動ガス34を越えて、ピペット先端26内の調量液体32に伝達される。図3bの描写から出発して、ピストン14は今や、可能な限り即座に、吸引方向に戻るように加速し、この場合、吸引方向における移動のストロークGは、端部側のピストン面14aが吸引方向における移動の間に、押しのけられた分注体積よりも1回分調量体積36の分だけ小さい吸引体積を押しのける限りにおいて、分注方向における移動のストロークPよりも小さい。
【0130】
とはいえ、これは、必ずしもそうでなくてもよい。吸引体積は、分注体積と同じ大きさであってもよい。しかしながら、1回分調量体積36の分だけ減少させた吸引体積は、ピペット開口部により近いメニスカスの位置が、ピペッティングの後でも変化しないという利点を有しており、これは、特に等分動作の際に有利である。
【0131】
図3cに示された、パルス状分注プロセス終了後のピペット装置10の最終位置において、調量側端面14aは、結果として生じたストロークHの分だけ、図3aの出発位置から離れており、図示された例では、ピストン14のピストン面は、結果として生じたストロークHと乗じて、1回分調量体積36に相当している。
【0132】
吸引方向の移動も、上述の最大速度で行われるので、当該移動も、約6msから8msの時間を必要とする。付着摩擦境界の克服によって生じ得る、付加的な下死点での滞留時間と、ピストン14の目標位置の周囲における、生じ得る移動のオーバーシュートと、を考慮すると、最終位置に到達するまでのピストン移動全体は、図3cに示したように、約14msから30msの時間内に行われる。
【0133】
ピストン移動が、吸引方向から分注方向に反転した後で初めて、決められた1回分調量体積36が、液滴の形で、ピペット開口部30から放出される。この液滴は、延長されたと考えられる導管軌道Kに沿って、例えば容器又はウェル等の、ピペット開口部30の下に配置された調量目標まで移動する。ピペット開口部により近いメニスカス32bは、調量液体の液滴36が放出された後も、短時間にわたり振動し得る。
【0134】
ピペット先端26は、1回分調量体積を大幅に超過する呼びピペット空間体積、例えば200μlから400μl、好ましくは300μlの呼びピペット空間体積を有し得る。
【0135】
吸引方向におけるピストン14の移動は、やはり速く行われるので、調量側端面14aから、ピペット空間28内の調量液体32に、圧力減少パルスが伝達される。
【0136】
分注方向におけるピストン運動の圧力上昇パルスは、陽圧パルスの勾配の大きい立ち上がりエッジを形成しており、陽圧パルスの勾配の大きい立ち下がりエッジは、吸引方向におけるピストン移動の圧力減少パルスを形成している。各ピストン移動の時間が短ければ短いほど、割り当てられた圧力変更パルスのエッジの勾配は大きくなる。反対の目的で作用する両方の圧力変更パルスは、勾配の大きいエッジを有する「ハードな」陽圧パルスを決定し得る。
【0137】
このようにして形成された「ハードな」陽圧パルスの衝突は、極めて正確に再現可能である分注結果をもたらす。
【0138】
驚くべきことに、ここで示されている分注プロセスは、選択されたピペット先端26の大きさに左右されない。同じ上述のピストン移動は、同じ作動ガスと同じ調量液体とが、引き続き変わらない分注パラメータで用いられるという前提で、例えば呼びピペット空間体積が50μlと、明らかにピペット先端がより小さい場合でも、正確に同じ結果をもたらすであろう。
【0139】
従って、本発明に係るピペット装置と、本発明に係るパルス状分注方法と、は、ピペット先端26に受容された調量液体32の大きな容器から、液体を等分するために極めて適している。多くの等分サイクルにわたっても、ピペット装置10の分注挙動は、他の条件が同じであれば変化しない。従って、本発明に係るピペット装置10の分注挙動は、ピペット先端26が、パルス状分注のために十分に充填されている限りにおいて、シリンダ12に連結されたピペット先端26の充填度にも左右されない。
【0140】
図3cにおいて示唆されていることに、圧力センサ38は、ピペット管11内部の圧力、すなわち調量液体32とピストン14の調量側端面14aとの間における作動ガス34の圧力を検出することが可能であり、信号線を通じて、制御装置24に伝達することが可能である。従って、対応して高速の圧力センサ38を使用する場合、上述の鞭状のピストン運動を行うために、作動ガス34の圧力に依存するピストン移動の制御さえも可能である。
【0141】
当該ピストン移動は、慣性ゆえに、当該移動を基礎づける制御信号に、完全には正確に従うことができないこともあり得る。大きな動力の代わりに、特に、移動方向を分注方向から吸引方向に反転させる際、しかしまた、ピストンを保持する際に、ピストンは、オーバーシュートする傾向を有し得る。それゆえ、決定的に、当該移動を基礎づける、目標の移動のイメージである制御信号は、不確かであると言われている。
【0142】
図4は、制御信号の経時的推移40(実線)と、ピストン14の移動の経時的推移42(破線)と、を、図3aから図3cの分注プロセスにおいて、どのように存在し得るかを、極めて概略的に、例示的にのみ示している。
【0143】
分注プロセス開始時のピストン位置、すなわち図3aに示されたピストン位置は、図4において、ゼロ点の線として選択されている。
【0144】
図4のグラフのx座標は、時間をミリ秒で示しており、各10msのラスタが選択されている。
【0145】
y座標は、体積をマイクロリットルで示しており、ピストン14の位置時間曲線42に関連して、y軸の体積は、ピストン14の調量側端面14aによって押しのけられた体積を表している。
【0146】
グラフ40の制御信号は、電気信号ではあるが、ピストン14の目標の位置時間曲線として理解されることが可能であり、従って、同様に、ピストン14の調量側端面14aによって押しのけられる目標体積という意味で、マイクロリットルで表され得る。
【0147】
制御信号40は、矩形信号であり、t=0msの時点で、0μlから-20μlに、すなわち1回分調量体積36の40倍に急激に変化する。マイナスの符号は、移動の方向から生じている。つまり、ピストン14の調量側端面14aがピペット開口部30の方向に移動する際に押しのけられる体積(分注体積)はマイナスであり、ピペット開口部から離れるように移動する際に押しのけられる体積(吸引体積)はプラスである。この符号に関する決まりは、制御信号40にも、ピストン14の実際の移動42にも有効である。
【0148】
5msの後、矩形制御信号40は、-0.5μlまで戻るので、制御信号40は、すでに図3aから図3cに関連して記載したように、20μlの目標分注体積と、19.5μlの目標吸引体積と、を指示しており、これらの体積は、5ms以内に押し出されるべきである。
【0149】
ピストン14は、必然的に、矩形制御信号40に正確には従うことができない。なぜなら、矩形制御信号は、制御信号40の立ち下がりエッジ(分注体積を示す)及び立ち上がりエッジ(吸引体積を示す)に従うためには、略無限の高速移動を必要とするからである。
【0150】
克服されるべき摩擦力と、同様に克服されるべき慣性と、例えば作動ガスにおいて行われるべき仕事等のその他の付加的な影響と、に基づいて、ピストン14は、0msにおける制御信号の開始後約1msで移動を始めるが、ピストン14がその移動方向を即座に反転させる下死点に到達するためには、さらに約4msを必要とする。
【0151】
これは、ピストン14は、制御信号40が-0.5μlの最終値に変化した場合に、その下死点に到達するということを意味している。
【0152】
慣性に基づいて、ピペッティング方向におけるピストン移動は、わずかにオーバーシュートし得るので、調量側端面14aは、移動方向の反転が行われるまでに、制御信号40によって実際に指示された-20μlだけではなく、実際に約-22.5μlを押しのける可能性がある。
【0153】
図4の曲線42から認識されるように、ピストン14は、約8msにおいて、その目標位置に到達するが、著しくオーバーシュートしており、実際には、制御信号の開始後約29msでようやく、その目標最終位置において停止に達する。
【0154】
しかしながら、吸引方向におけるピストン移動の終わり近くの、図示されたオーバーシュートは、実際に分注される調量液体体積には何ら影響を与えない。
【0155】
図5には、制御信号曲線40のみが、改めて示されている。分注方向におけるピストン移動をもたらす制御信号(部分)の開始から、吸引方向におけるピストン移動をもたらす制御信号(部分)の終了までの時間にわたる制御信号40の積分は、このように作動したパルス状分注プロセスにおいて実際に分注された調量液体体積の大きさである。このように記載された積分は、制御信号40によって上述の時間的境界内に囲まれた面に相当する。当該面は、図5において、面44として斜線で示されている。当該面は、制御信号40の始点である体積のゼロ線まで達している。それゆえ、制御信号が実際にゼロ線まで戻るのか、又は、分注方向において、1回分調量体積36の分だけずれて終了するかどうかは些細なことである。
【0156】
制御信号40によって囲まれた面44と、実際に分注された調量液体体積と、の間の正確な関連は、様々な液体クラスに関して、非常に容易に経験的に検出され、データ記憶装置に保存される。
【0157】
図6には、制御曲線40無しに、ピストン14の位置時間曲線42のみが示されている。参照符号46及び48によって、ピストン14の0μlにあるスタート位置と、約-22.5μlにある移動方向の反転点と、の間における「中間距離」の位置が示されている。従って、中間距離は、約-11.25μlに位置する。
【0158】
分注方向に移動する際の中間距離の位置の通過と、吸引方向における移動の間の当該位置の再度の通過と、の間におけるピストン14の位置時間曲線の時間的積分(例えばピストン14の基準点としての調量側のピストン面14aの位置時間曲線によって表される)も、ピストン移動によって実際にパルス状に分注された1回分調量体積36の大きさである。この積分によって形成される面は、面50として、図6において斜線で示されている。面50の面積は、図5の面44の面積と同様に、実際にピペッティングされた1回分調量体積36の大きさである。しかしながら、面50の面積と、実際にピペッティングされた1回分調量体積36と、の間の関連は、面44の面積と1回分調量体積36との間の関連とは異なり得る。この関連もまた、様々な液体クラスに関して、容易に経験的に検出され、ピペット装置のデータ記憶装置に保存される。
【0159】
従って、1μl以下の非常に小さい1回分調量体積36が、極めて高い再現精度で同じピペット装置10を用いて、パルス状に分注され、当該ピペット装置を用いては、数100μlという大きなピペッティング体積も、従来の準同期式ピペッティングにおいてピペッティングされ得る。
【符号の説明】
【0160】
10 ピペット装置
11 ピペット管
12 シリンダ
12a 調量側端部
14 ピストン、圧力変更装置
14a 調量側端面、ピストン面
16 末端キャップ
18 永久磁石
20 リニアモータ
22 コイル、圧力変更装置
24 制御装置
26 ピペット先端
26a 長手方向端部
28 ピペット空間
30 ピペット開口部
32 調量液体
32a、32b メニスカス
34 作動ガス
35 ガス体積
36 1回分調量体積
38 圧力センサ
40 制御信号
42 位置時間曲線
44 面
46、48 中間距離の位置
50 面
K 導管軌道、導管軸
G、H、P ストローク
図1
図2a)】
図2b)】
図2c)】
図3
図4
図5
図6