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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】水溶性フォルスコリンの新規製造法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20220909BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220909BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20220909BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K47/40
A61K47/69
A61P43/00 111
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019537301
(86)(22)【出願日】2018-01-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2018050447
(87)【国際公開番号】W WO2018127600
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】17150644.7
(32)【優先日】2017-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512031482
【氏名又は名称】サイファーム ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ
【氏名又は名称原語表記】SciPharm S.a r.l.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】クービン,アンドレアス
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-505040(JP,A)
【文献】特開平05-051375(JP,A)
【文献】特表2001-510810(JP,A)
【文献】特開昭62-103077(JP,A)
【文献】特開2010-270100(JP,A)
【文献】国際公開第2004/103380(WO,A1)
【文献】A. Laurenza, et al.,Stimulation of adenylate cyclase by water-soluble analogues of forskolin,Molecular Pharmacology,The American Society for Pharmacology and Experimental Therapeutics (ASPET),1987年,Vol.32, No.1,133-139
【文献】Marco F. Saettone, et al.,Preparation and evaluation in rabbits of topical solutions containing forskolin ,Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics,Mary Ann Liebert ,1989年,Vol.5, No.2,111-118,https://doi.org/10.1089/jop.1989.5.111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/352
A61K 47/40
A61K 47/69
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォルスコリンシクロデキストリン包接錯体の製造法であって、
a)フォルスコリン及びシクロデキストリンを1:0.5~1:4の重量比で混合し、
b)水及び溶媒を添加して混合物を形成させ、
c)前記混合物を180℃~230℃の範囲の温度で加熱し、それによって粉末を得て、
d)前記粉末に水を添加した後、混合し、そして混合物を沈殿させ、
e)ろ過により沈殿物を混合物から取り除き、そして
f)ろ液を乾燥させる
工程を含み、該シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン及びRAMEB-CDからなる群から選ばれる、方法。
【請求項2】
加熱温度が200~230℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱温度が210~220℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
加熱温度が210℃又は220℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フォルスコリン及びHP-γ-シクロデキストリンの粉末包接錯体を製造するための請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶媒がアルコールである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アルコールが2-プロパノールである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
加熱乾燥が1~30分間実施される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
沈殿物が膜ろ過によって取り除かれる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ろ液が室温で乾燥される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
γ-シクロデキストリン及びフォルスコリンを含む包接錯体であって、該包接錯体におけるフォルスコリンの占有率が1.32~9%(w/w)である、上記包接錯体。
【請求項12】
γ-シクロデキストリンがヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンである、請求項11に記載の包接錯体。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の包接錯体を含有する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォルスコリンとシクロデキストリンの錯体及び重量比1:0.2~1:4(w/w)を有するフォルスコリンとγ-シクロデキストリンの包接錯体の新規製造法に関する。前記錯体を含む医薬組成物及びそれらの使用についても提供する。
【背景技術】
【0002】
フォルスコリンは、インド産コレウス・フォルスコリ(Indian Coleus forskolii)植物(プレクトランサス・バルバーツス(Plectranthus barbatus))によって産生されるラブダン型ジテルペンである。フォルスコリンは、サイクリックAMP(cAMP)の濃度を上昇させるための生化学ツールとして細胞生理学の調査研究で一般的に使用されている。フォルスコリンは、酵素アデニリルシクラーゼを活性化し、cAMPの細胞内濃度を増大する(Metzger H.ら,1981,Arzneimittelforschung,1248-50)。cAMPは、細胞がホルモン及びその他の細胞外シグナルに対して正しい生物学的応答をするために必要な、重要な第二メッセンジャーである。それは、視床下部/下垂体軸における細胞コミュニケーション及びホルモンのフィードバック制御に必要である。サイクリックAMPは、プロテインキナーゼA及びEpacなどのcAMP感受性経路の活性化により作用する。
【0003】
フォルスコリンは、2個のα-ヒドロキシル基を1及び9位に、β-ヒドロキシル基を6位に、そしてβ-アセトキシ基を7位に含有する水に難溶性のジテルペンであるため、フォルスコリン活性化曲線を分析し、それを薬物開発に使用することが困難である。有機溶媒はフォルスコリンを可溶化することが示されているが、前記溶媒はフォルスコリンのアデニル酸シクラーゼ活性化能力も阻害しうる(Huang R.D.ら,1982,J.Cyclic.Nucleotide Res.,385-394)。
【0004】
フォルスコリンをヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンの溶液に溶解することにより、フォルスコリンの水溶液も製造されている。フォルスコリンの最大溶解度は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及びヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンの40%(w/v)水溶液中、それぞれ2.5mM及び9.8mMであった(Laurenza A.ら,1987,Molecular Pharmacology,32:133-139)。それにより、およそ16倍及びおよそ65倍の溶解度の増大が得られた。
【0005】
シクロデキストリンは、親水性の外面と親油性の中心空洞を持つ環状オリゴ糖のファミリーである。それらは、(α-1,4)-結合α-D-グルコピラノース単位からなり、親油性の中心空洞を持つ。グルコピラノース単位のいす型配座のために、シクロデキストリン分子は、広い方の端から伸びる第2級ヒドロキシル基と、狭い方の端から伸びる第1級ヒドロキシル基を有する錐体(コーン)のような形状をしている。シクロデキストリンは比較的大きくて、いくつかの水素供与体及び受容体を有し、親油性膜を通過しない。
【0006】
製薬業界では、シクロデキストリンは、難溶性薬物の水溶解度を増大し、それらのバイオアベイラビリティ及び安定性を増大させるための錯化剤として主に使用されている(Loftsson T.,ら,2005,Expert.Opin.Drug Deliv.,335-351)。
【0007】
最も一般的な天然シクロデキストリンは、6個(α-シクロデキストリン)、7個(β-シクロデキストリン)及び8個(γ-シクロデキストリン)のグルコピラノース単位からなる。更なる公知の天然シクロデキストリンはδ-シクロデキストリンである。ヒドロキシル基のランダム置換は溶解度の増大をもたらしうる。溶解度増大の主な理由は、ランダム置換によって結晶性シクロデキストリンが非晶質の異性体誘導体の混合物に変換されることである。シクロデキストリン誘導体は、β-及びγ-シクロデキストリンのヒドロキシプロピル誘導体、ランダムにメチル化されたβ-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、及びグルコシル-β-シクロデキストリンなどの分岐シクロデキストリンなどである(Loftsson T.,ら,2005)。シクロデキストリンをアルカリ性溶液中でプロピレンオキシドと反応させると、2-ヒドロキシプロピル基がシクロデキストリンの1個又は複数個のヒドロキシルと結合する(HP-シクロデキストリン)。ヒドロキシルが2-ヒドロキシプロピルでさらに置換されると、オリゴマー性ヒドロキシプロピレンオキシド側鎖の形成ももたらされる。
【0008】
薬物-シクロデキストリン錯体を製造するための様々な方法は既に知られており、例えば、共沈、スラリー化、混練又は磨砕などが挙げられる。米国特許出願公開第20050051483号では、フォルスコリン β-シクロデキストリン錯体が、溶解ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含有する水にフォルスコリンを添加し、該混合物を撹拌し、そしてそれをろ過することによって製造されている。
【0009】
Saettone M.F.らは、フォルスコリンを含有する局所溶液について記載している。それには、β-及びγ-シクロデキストリンはフォルスコリンの効果的な可溶化剤ではなかったことが具体的に記載されている(Journal of Ocular Pharmacol,vol.5,no.2,1989,pp.111-118)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2005/0051483号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】Metzger H.ら, 1981, Arzneimittelforschung, 1248-50
【文献】Huang R.D.ら, 1982, J.Cyclic.Nucleotide Res., 385-394)
【文献】Laurenza A.ら, 1987, Molecular Pharmacology, 32:133-139)
【文献】Loftsson T.ら, 2005, Expert.Opin.Drug Deliv., 335-351)
【文献】Saettone M. F.ら, Journal of Ocular Pharmacol, vol. 5, no. 2, 1989, pp. 111-118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、フォルスコリンをシクロデキストリンと錯体化して、フォルスコリン含量の高いシクロデキストリン錯体をもたらすための改良された方法の提供が依然として求められている。
【0013】
本発明の目的は、シクロデキストリンとフォルスコリンの改良された錯体化のための方法を提供し、構造はそのまま保存されるが改良された溶解度を有するフォルスコリン錯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
目的は本発明の態様によって解決される。
本発明に従って、フォルスコリンとγ-シクロデキストリンを1:0.2~1:4(w/w)の重量比で含む包接錯体を提供する。ここで、フォルスコリンとγ-シクロデキストリンは水溶性錯体として構成される。
【0015】
特定の態様によれば、γ-シクロデキストリンはヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンである。
本発明の態様によれば、フォルスコリンとヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンの重量比は約1:0.5~1:3.3(w/w)の範囲である。
【0016】
代替の態様において、約2.5~4.5mg、具体的には約3~4mgのフォルスコリンが100mgのフォルスコリン-シクロデキストリン錯体中に存在する。具体的には約2.5%、具体的には約3%、具体的には約3.5%、具体的には約3.7%、具体的には約4%、具体的には約4.5%(w/w)、さらに具体的には5%(w/w)を超えるフォルスコリンが本発明の包接錯体中に存在する。
【0017】
驚くべきことに、シクロデキストリンを用いてフォルスコリンを錯体化すると、水中での溶解度が非常に改良されることが示された。フォルスコリンシクロデキストリン錯体は、天然フォルスコリンのおよそ約100倍、具体的には約120倍の溶解度を有する。また、驚くべきことに、フォルスコリンの天然構造はシクロデキストリンと錯体化された場合も保存され、アデニリルシクラーゼに対するフォルスコリンの活性化能力も保存されるので、シクロデキストリンとの錯体化が活性化を減退しないことも示された。
【0018】
別の態様において、本発明は、本発明の包接錯体と共に適切な医薬助剤も含む投与用製剤を提供する。
更なる態様において、発明的フォルスコリンシクロデキストリン包接錯体と、任意に更なる賦形剤も共に含む医薬組成物を提供する。
【0019】
態様において、本発明はさらに、フォルスコリンで治療可能又は予防可能な状態の治療又は予防法も提供し、該方法は、そのような治療又は予防を必要とする対象に、薬学的に許容可能な有効量のフォルスコリンとシクロデキストリン、具体的にはヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンを含む安定な包接錯体を投与することを含む。
【0020】
本発明は、フォルスコリンシクロデキストリン包接錯体の製造法も提供し、該方法は、
a)フォルスコリンとシクロデキストリンを1:0.5~1:4の重量比で混合し、
b)水及び溶媒を添加してペースト状混合物を形成させ、
c)前記混合物を200℃~230℃の範囲の温度、具体的には約220℃に加熱し、
d)前記混合物に水を添加した後、混合し、そして混合物を沈殿させ、
e)沈殿物を混合物から単離し、場合により沈殿物を乾燥させる
工程を含む。
【0021】
特定の態様において、方法で使用されるシクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HP-α-CD)、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HP-γ-CD)、デルタ(δ)-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-δ-シクロデキストリン(HP-δ-CD)及びランダムメチル化-β-シクロデキストリン(RAMEB-CD)からなる群から選ばれる。
【0022】
HP-β-CD、RAMEB-CD、及びHP-γ-CDは、著しく増大した占有率(occupancy rate)を提供するので、本明細書中に記載の方法において特に使用される。
具体的には、方法で使用される加熱温度は約220℃である。
【0023】
本発明の態様によれば、方法は、フォルスコリンとHP-γ-シクロデキストリンの粉末包接錯体を製造するために使用される。
具体的な態様において、本発明で使用される溶媒はアルコールであり、具体的には2-プロパノールである。
【0024】
態様によれば、沈殿物は加熱乾燥される。具体的には乾燥工程は約1~30分間実施される。
更なる態様に従って、沈殿物は、具体的には膜ろ過によってろ過され、任意に沈殿物は乾燥される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、フォルスコリンの構造とアデニリルシクラーゼのC1及びC2ドメインへの結合部位を示す。2個のOH基(赤でマーク)は結合のために必須であるので、これらの用途では誘導体化されてはならない。
図2図2は、フォルスコリンの検量を示す:y=9431x-84(近似)。
図3図3は、Hussainら,2013に従って、DMSO中に溶解されたフォルスコリンとフォルスコリン-CD錯体のcAMPアッセイを示す。
図4図4は、DMSO中に溶解されたフォルスコリンとフォルスコリン-CD錯体のcAMPアッセイを示す。γ-CDとβ-CDが比較されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書全体を通じて使用されている特定の用語は以下の意味を有する。
本明細書中で使用されている用語“含む(comprise)”、“含有する”、“有する”及び“含む(include)”は、同義的に使用でき、更なる部材又は部品又は構成要素を可能にする非限定的定義(open definition)と理解されるものとする。“からなる(consisting)”は、“からなる”定義の特徴に更なる構成要素を含まない閉鎖された定義と見なされる。従って、“含む”の方がより広く、“からなる”定義を含有する。
【0027】
本明細書中で使用されている用語“約”は、所与の値と同じ値又は所与の値より+/-5%異なる値のことを言う。
本発明によれば、用語“錯体”は、封入体錯体(inclusion body complex)、非封入体錯体(non-inclusion body complex)、共沈物又は凍結乾燥錯体を意味する。好ましくは、それは凍結乾燥錯体又は包接錯体(inclusion complex)である。
【0028】
フォルスコリン(コルホルシン;7-ベータ-アセトキシ-8,13-エポキシ-1-アルファ,6-ベータ,9-アルファ-トリヒドロキシラブダ-14-エン-11-オン;コレオノール)は、分子式C2234を有し、図1に示された構造のものである。
【0029】
本明細書中で言及されている用語“フォルスコリン”は、天然又は合成由来のフォルスコリンの任意の同族体、類似体又は誘導体も包含する。それらは、これらに限定されないが、イソフォルスコリン、7-デアセチルフォルスコリン、コルホルシンダロパート塩酸塩、NKH477(Ito S.ら,1993,Br.J.Pharmacol.110(3),1117-25)、FSK88(Zhonghai L.ら,2006,Cell Biol.Intern.,30(11),940-946)でありうる。
【0030】
本明細書中で使用されている用語“シクロデキストリン”は、デンプンの酵素的変換によって形成される環状デキストリン分子のことを言う。シクロデキストリンは環状オリゴ糖である。シクロデキストリンは、6個のグルコース残基の環で構成されるα-シクロデキストリン;7個のグルコース残基の環で構成されるβ-シクロデキストリン;8個のグルコース単位の環で構成されるγ-シクロデキストリン及びδ-シクロデキストリンでありうる。シクロデキストリンの内部空洞は親油性であるが、シクロデキストリンの外側は親水性である。β-シクロデキストリンは、何の毒作用も持たないことが知られており、世界的GRASであり(すなわち一般に安全と認められる)、天然のものであり、そしてFDA認可されている。α-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンも天然産物と見なされており、米国及び欧州GRASである。デンプンの酵素的変換によって製造されたα-、β-又はγ-シクロデキストリンは、それらの疎水性空洞の直径が異なっており、一般的にいくつかの親油性物質の封入に適切である。賦形剤としてのシクロデキストリンの使用は、欧州医薬品庁によっても許可されている(賦形剤として使用されるシクロデキストリンに関する背景資料、2014年11月、EMA/CHMP/333892/2013)。
【0031】
フォルスコリンシクロデキストリン包接錯体の製造法も本明細書に包含され、
a)フォルスコリンとシクロデキストリンを1:1~1:1.5の重量比で混合し、
b)水を添加してペースト状混合物を形成させ、
c)前記混合物に溶媒を添加し、
d)前記混合物を200℃~230℃の範囲の温度、具体的には210℃~225℃の範囲、具体的には215℃~225℃の範囲、さらに具体的には約220℃で加熱し、
e)前記混合物に水を添加した後、混合し、そして混合物を沈殿させ、
f)沈殿物を混合物から単離し、任意に沈殿物を乾燥させる
連続工程を含む。
【0032】
他の態様において、溶媒と水はシクロデキストリンとフォルスコリンに同時に添加されるか、又は溶媒は、水をフォルスコリンとシクロデキストリンに加える前に添加することもできる。
【0033】
溶媒は、これらに限定されないが、アルコール、アセトン、ジクロロメタンなどのような任意の有機又は無機溶媒でありうる。アルコール、特にイソプロピルアルコール(2-プロパノール)、シクロヘキサノールなどの第二級アルコールは、有用な溶媒であることが知られている。代替として、例えばメタノール、エタノール、及びブタノールなどの第一級アルコールも溶媒として使用できる。
【0034】
混合物の加熱は、200℃~230℃の範囲の温度、具体的には210℃~225℃の範囲、具体的には215℃~225℃の範囲、さらに具体的には約220℃の温度で実施される。
【0035】
好適な態様によれば、加熱は、焼結法(半融法)、すなわち、フォルスコリンとシクロデキストリンを前記成分を融解することなく液化点にまで加熱する方法である。適用可能な焼結温度は、当業者であれば過度の負担なしに決定することができる。
【0036】
フォルスコリンは230~232℃の範囲の融点を有する。従って、加熱操作の上限は約230℃である。
シクロデキストリンは、シクロデキストリンの種類により、250~290℃の範囲の融点を有する。例を挙げると、γ-シクロデキストリンの融点は約267℃、β-シクロデキストリンの融点は約260℃、HP-β-シクロデキストリンの融点は約250℃、及びHP-γ-シクロデキストリンの融点は約267℃である。
【0037】
本発明の包接錯体は医薬組成物の製造に使用できる。前記包接錯体は、現在入手できるフォルスコリンシクロデキストリン錯体が約2%以下の最大占有率を有するのに対し、本発明の錯体はフォルスコリン占有率≧2.5%、好ましくは≧3%、好ましくは≧3.5%、さらに好ましくは≧4%であり、医療グレードの製剤として提供できるので、非常に有益である。
【0038】
本発明に従って、フォルスコリンとγ-シクロデキストリンを1:0.2~1:4(w/w)の重量比で含む包接錯体を提供する。ここで、フォルスコリンとγ-シクロデキストリンは水溶性錯体として構成される。
【0039】
本発明の態様において、フォルスコリンとγ-シクロデキストリンを1:0.3、1:0.4、1:0.5、1:0.6、1:0.7、1:0.8、1:0.9、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9、1:2、1:2.1、1:2.2、1:2.3、1:2.4、1:2.5、1:2.6、1:2.7、1:2.8、1:2.9、1:3、1:3.1、1:3.2、1:3.3、1:3.4、1:3.5、1:3.6、1:3.7、1:3.8、1:3.9、又は1:4(w/w)の重量比で含む包接錯体を提供する。
【0040】
本発明の特定の態様において、フォルスコリンとHP-γ-シクロデキストリンを1:0.3、1:0.4、1:0.5、1:0.6、1:0.7、1:0.8、1:0.9、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9、1:2、1:2.1、1:2.2、1:2.3、1:2.4、1:2.5、1:2.6、1:2.7、1:2.8、1:2.9、1:3、1:3.1、1:3.2、1:3.3、1:3.4、1:3.5、1:3.6、1:3.7、1:3.8、1:3.9、又は1:4の重量比で含む包接錯体を提供する。
【0041】
フォルスコリンシクロデキストリン錯体は、可溶性フォルスコリンが適用可能な任意の食事又は医療目的のために使用できる。
治療又は予防効果を得るために本発明に従って投与される錯体の具体的用量は、当然ながら、その事例を取り巻く特定の状況によって決定される。例えば、投与経路、個別の患者の年齢、体重及び応答、治療される状態、及び患者の症状の重症度などである。
【0042】
一般に、本発明の活性薬として化合物フォルスコリンを含有する錯体は、最も望ましくは、一般的に何らかの深刻な副作用を引き起こすことなく有効な結果が得られる濃度で投与され、単回の単位用量として投与されても、又は所望であれば、用量は一日を通じて適切な時間に投与される便利なサブユニットに分割されてもよい。
【0043】
本明細書中で使用されている用語“組成物”は、具体的には本発明のフォルスコリンシクロデキストリン包接錯体と共に、任意にその他の賦形剤又は薬剤を含む。
組成物は、様々な全身用及び局所用製剤中に提供できる。本発明の包接錯体を含有する全身用又は局所用製剤は、経口、口内、肺内、直腸、子宮内、皮内、局所、皮膚、非経口、腫瘍内、頭蓋内、肺内、口腔、舌下、鼻腔、皮下、血管内、髄腔内、吸入用、呼吸用、関節内、腔内、移植用、経皮、イオン導入用、眼内、眼科用、膣用、光学用、静脈内、筋肉内、腺内、臓器内、リンパ管内、徐放性及び腸溶コーティング製剤からなる群から選ばれる。これらの様々な製剤の実際の製造及び配合については当該技術分野で公知であり、本明細書中で詳述する必要はない。組成物は、一日に1回又は数回投与できる。
【0044】
呼吸、鼻腔、肺内、及び吸入投与に適切な製剤は、局所、経口及び非経口製剤と同様、好適である。一般に、製剤は、包接錯体として提供されるフォルスコリンを、液体担体、微粉化された固体担体、又はその両方と均一に及び緊密に会合させ、次いで、必要であれば生成物を所望の製剤に成形することによって製造される。
【0045】
経口投与に適切な組成物は、カプセル、カシェ、ロゼンジ、又は錠剤などの別個の単位中に提供でき、それぞれ組成物を、粉末又は顆粒として;水性又は非水性液体中の溶液又は懸濁液として;又は水中油もしくは油中水エマルションとして含有する。
【0046】
非経口投与に適切な組成物は、活性化合物の無菌の水性及び非水性注射用溶液を含み、その製剤は好ましくはレシピエントの血液と等張である。これらの製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び組成物をレシピエントの血液と等張にする溶質を含有していてもよい。水性及び非水性の無菌懸濁液は、懸濁化剤及び増粘剤を含みうる。組成物は、単位用量又は複数用量の容器、例えば、密封されたアンプル及びバイアル中に提供でき、使用直前に無菌の液体担体、例えば、生理食塩水又は注射用水の添加だけを必要とする凍結乾燥(freeze-dried又はlyophilized)状態で保存できる。
【0047】
鼻腔及び点滴用製剤は、保存剤及び等張剤と共に組成物の精製水溶液を含む。そのような製剤は、好ましくは、鼻粘膜と適合可能なpH及び等張状態に調整される。
本発明に従って開示される組成物は、対象の呼吸器系に、吸入、呼吸、鼻腔投与又は肺内点滴(肺への)のいずれかにより、任意の適切な手段によって投与でき、好ましくは、粉末化された又は液体の、鼻腔、肺内、呼吸又は吸入用粒子を含むエアゾール又はスプレーを発生させることにより投与される。活性化合物を含む呼吸用又は吸入用粒子は、例えば、吸入によって又は鼻腔投与によって又は気道もしくは肺自体への点滴によって、対象に吸入される。製剤は、活性化合物の呼吸可能又は吸入可能な液体又は固体粒子を含みうる。それは、本発明によれば、吸入すると口腔及び喉頭を通過し、続いて気管支及び肺の肺胞へと進入するのに十分小さいサイズの呼吸可能又は吸入可能な粒子を含む。一般に、粒子は、直径約0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9及び2から、約4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10ミクロンの範囲である。さらに詳しくは、約0.5から約5μm未満の直径が呼吸可能又は吸入可能である。エアゾール又はスプレーに含まれる呼吸可能でないサイズの粒子は、喉に付着し、飲み込まれやすい。従って、エアゾール中の呼吸可能でない粒子の量は、最小限に抑えるのが好ましい。鼻腔投与又は肺内点滴の場合、鼻腔での保持を確実にするため又は肺への点滴及び直接付着のために、直径約8、約10、約20、約25、約35、約50、約100、約150、約250、約500μmの範囲の粒径が好適である。液体製剤は、特に新生児及び幼児に投与される場合、気道又は鼻及び肺に噴出されてもよい。
【0048】
活性化合物を含む液体粒子のエアゾールは、ネブライザなど任意の適切な手段によって製造できる。ネブライザは、活性成分の液体又は懸濁液を、圧縮ガス、典型的には空気又は酸素の加速によって、治療用のエアゾールミストに変換する市販の装置である。ネブライザに使用するための適切な組成物は、液体担体中の活性成分からなり、活性成分は組成物の40%w/wまで、好ましくは20%w/w未満を構成し、担体は典型的には水又は希釈アルコール水溶液で、好ましくは例えば塩化ナトリウムの添加によって体液と等張にされている。任意の添加剤は、組成物が無菌的に製造されていない場合、保存剤、例えばヒドロキシ安息香酸メチル、抗酸化剤、フレーバー、揮発性油(精油)、緩衝剤及び界面活性剤などである。活性化合物を含む固体粒子のエアゾールも、任意の固体粒子医薬エアゾール生成器を用いて同様に製造できる。固体粒子医薬を投与するためのエアゾール生成器は、上で説明したような呼吸可能な粒子を製造し、所定の計量された用量の医薬を含有する容量のエアゾールをヒトの投与に適切な速度で生成する。そのようなエアゾール生成器の例は、計量用量吸入器及び吹送器(insufflator)などである。
【0049】
一態様において、送達装置は、単回又は複数回の用量の組成物を送達する乾燥粉末吸入器(DPI)を含む。単回用量吸入器は、1回用の十分な製剤が予め無菌的に装填された使い捨てキットとして提供されうる。吸入器は加圧吸入器として提供でき、製剤は穿孔可能(piercable)又は開封可能なカプセル又はカートリッジ中に提供できる。
【0050】
用語“薬学的に許容可能な”とは、連邦政府又は州政府の規制機関によって認可されている又は米国において一覧表に掲載されていることを意味する。
用語“担体”とは、医薬組成物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルのことである。生理食塩水ならびにデキストロース及びグリセロールの水溶液も、特に注射用溶液の場合、液体担体として使用できる。適切な賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどである。適切な医薬用担体の例は、E.W.Martinによる“Remington’s Pharmaceutical Sciences”に記載されている。製剤の配合は、投与の様式に応じて選択されるべきである。
【0051】
発明的組成物中の活性薬物の量は、任意の当業者によって選択できる。
用語“有効量”とは、疾患、障害、及び/又は状態を治療するため、又は記載の効果をもたらすために有効な量のことである。例えば、有効量は、治療される状態又は症状の進行又は重症度を軽減するために有効な量でありうる。治療上有効量の決定は、特に本明細書中に提供されている詳細な開示に照らせば、十分当業者の能力の範囲内である。用語“有効量”は、例えば、宿主の疾患又は障害を治療又は予防するため、又は該疾患又は障害の症状を治療するために有効な、本明細書中に記載の化合物の量、又は本明細書中に記載の化合物の組合せの量を含むものとする。従って、“有効量”は、一般的に、所望の効果を提供する量を意味する。
【0052】
用語“治療すること(treating)”、“治療する(treat)”及び“治療(treatment)”は、(i)疾患、病的状態又は医学的状態が発生するのを防止する(例えば予防);(ii)疾患、病的状態又は医学的状態を抑制する又はその進行を停止させる;(iii)疾患、病的状態又は医学的状態を緩和する;及び/又は(iv)疾患、病的状態又は医学的状態に伴う症状を軽減することを含む。従って、用語“治療する”、“治療”、及び“治療すること”は予防にまで広げることができ、治療される状態又は症状の進行又は重症度を予防する、予防、予防すること、低下させること、停止させること又は逆転することを含みうる。従って、“治療”という用語は、必要に応じて、医学的、治療的、及び/又は予防的投与を含みうる。
【0053】
フォルスコリンは、非特異的cAMP活性化薬であることがよく知られている。本発明の錯体は、フォルスコリンで治療できる任意の疾患又は障害の治療に使用できる。そのような障害は、神経変性疾患、アルツハイマー病、運動機能障害、急性及び慢性心疾患、肺疾患、例えば、喘息、嚢胞性線維症、嚢胞性線維症に伴う血管疾患、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肥満症、線維性変化、例えば、特発性肺線維症、外傷後肺線維症及び早期産児及び正期産児における気管支肺異形成症、中毒後肝疾患(post toxic liver diseases)、例えばVOD又は肝硬変、レイノー病及び強皮症(sklerodermia)を含む末梢循環障害でありうるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、本発明がそれらに限定されることはない。
【実施例
【0055】
実施例1:フォルスコリン/シクロデキストリン錯体の合成
概要
ジテルペン化合物群の代表であるフォルスコリンは、プレクトランサス・バルバーツス(コレウス・フォルスコリ)の主に水不溶性の植物成分である。フォルスコリンはアデニリルシクラーゼ活性化薬として作用し、50%効果濃度約10μmol/lを有する。この物質は主に水不溶性であるので、フォルスコリンはアッセイで使用される場合DMSO中に溶解される。本研究では、溶媒の副作用を避けるために、フォルスコリンをシクロデキストリンと錯体化し、それによって得られた水中溶解度などの新規特性について定義する。最後に、アデニリルシクラーゼ活性をチェックする。
【0056】
錯体化は水中溶解度を非常に改良する。すなわち、100mgのフォルスコリンシクロデキストリン錯体(フォルスコリンCD)は2mlの水に容易に溶解する。これはリットルあたり50gに相当する。その結果、およそ1.2g/L(以上)のフォルスコリンを水に溶解できる(0.12%)。これは天然フォルスコリンの溶解度(わずか0.001%)のおよそ120倍である。
【0057】
従来の包接法では、フォルスコリンは主に水性媒体中で錯体化されている(Majeed M,Kumar A,Nagabuhushanam K,Prakash S.Process for preparing water soluble diterpenes and their applications(水溶性ジテルペン類の製造法及びそれらの用途):米国特許第6,960,300号 B2,2005)。本明細書中に記載の方法は、最大0.7重量%(w/w)の可溶性HP-y-CD中フォルスコリンをもたらす。本発明において開発された新規フォルスコリン焼結法により、4%(w/w)までの占有レベルが達成された。
【0058】
新規に開発されたフォルスコリン-CD錯体をアデニリルシクラーゼの刺激のために使用すると、DMSO中に予め溶解された遊離フォルスコリンと同等の能力を示す。一つの必須因子は反応溶液中のフォルスコリンの総濃度であって、溶媒又は(フォルスコリンの錯化剤としての)シクロデキストリンの選択ではない。DMSO中に溶解されたフォルスコリンと、シクロデキストリンを用いた水溶性フォルスコリンとの間で、アデニリルシクラーゼの活性化に有意の差はなかった。
【0059】
フォルスコリンCD錯体は水に非常に可溶性であり、アデニリルシクラーゼに対する同等の活性化能力が測定できた。すなわち、フォルスコリン-CD錯体は、DMSO中に溶解されたフォルスコリンと同じ程度に酵素を活性化する。
【0060】
ここでは、CD分子の占有率が最適化され、それに対応する製造法が開発された。従来法はシクロデキストリンの0.5~1.5%の錯体化しか示さないが、我々は、4%(w/w、最大4.7%まで)の占有率に到達できるフォルスコリンとヒドロキシプロピル-y-シクロデキストリンの方法を開発できた。これは、15%を超える分子占有率に相当するので、2/3のシクロデキストリンを“節約”する。方法において、シクロデキストリンはフォルスコリンと約210~220℃で焼結された。
【0061】
図1に、フォルスコリンの構造とアデニリルシクラーゼのC1及びC2ドメインへの結合部位を示す。2個のOH基(赤でマーク)は結合のために必須であるので、これらの用途では誘導体化されてはならない。
【0062】
材料及び方法
シクロデキストリン(CD):ヒドロキシプロピル-γ-CD(Fluka 56334)。ヒドロキシプロピル誘導体も製薬分野で許可されているので、これらの誘導体も使用した。さらに、HP-γ-CDはAshland社(Wacker Chemie社)より購入した:商品名“Cavasol”、バッチ:A1603A0012。RAMEB-CDはハンガリーのCyclolab R&D Ltd社製、バッチ:CYL-4152である。
【0063】
フォルスコリン:95%のフォルスコリン含量を有するSabinsa社(www.sabinsaeuroope.com)製の濃縮抽出物(おそらくCO2抽出)、ロットC30698を使用した。これは本プロジェクトの過程で98.5%を上回るまでに精製された。以後、GMP品質のフォルスコリン、MercaChem社製(バッチ:MAMA07-024-5,>99.7% HPLC)を使用した。
【0064】
フォルスコリンの検量
様々な媒体中のフォルスコリンの初回評価のために、HPLCにより検量を実施した。
HPLCに対して下記パラメーターが設定された:
移動相:アセトニトリル:水=65:35(v/v)
固定相:polygosil 10C18、250×4mm
検出:UV/VIS、208nm
流量:0.6mL/分
移動相中フォルスコリンの秤量部分:0.05mg/mL、0.1mg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mL。
【0065】
検量線を図2に示す:フォルスコリンの検量:y=9431x-84。フォルスコリン原料が、例えばより高純度にすることにより、又はMercaChem社の新品質により改良されたため、検量線は絶えず補正及び近似された。
【0066】
フォルスコリンとシクロデキストリンの錯体化-焼結法
焼結中、粉末又は微粒子材料は、主成分のフォルスコリンとシクロデキストリンの融解温度より低い温度で加熱された。フォルスコリンの融点は約230℃であり、シクロデキストリンの融点又は分解点は約260℃である。混合物のフォルスコリン-CDが220℃より高く加熱されなければ、成分は保持された。230℃より高温ではマトリックスは褐色を帯び、材料の変化を示した。
【0067】
一連の予備実験で、誘導体化されていないアルファ-及びベータ-CD錯体は少量のフォルスコリン(<0.1%)を示したが、ガンマ-CDとはより多くの量のフォルスコリン(>2%)が錯体化できたことが示された。フォルスコリンの溶解度はHP-γ-CDを用いて最適化された。
【0068】
・80mgのHP-γ-CD+60mgのフォルスコリンを乾燥段階で混合し、
・100μlの水を添加し、ペースト状混合物が得られるまで混合し、
・次に50μlの2-プロパノールを添加し、
・次いで混合物をおよそ210~220℃で約20分間、磁製シール内で焼結し、
・3mlの水を粉末に添加して約10分間撹拌し、そして約2時間放置し、
・その後、混合物をろ過し(0.45μm、テフロンフィルター)、
・ろ液をロータリーエバポレーター中で乾燥させ、CD-フォルスコリン(錯体)の量をHPLCによって決定した。
【0069】
検量によれば、100mgのフォルスコリン-CD錯体あたり3~4mgというフォルスコリンの含量は次のように示される。すなわちフォルスコリンシクロデキストリン錯体(フォルスコリンCD)の3~4%(重量/重量)。
【0070】
100mgのフォルスコリンCDは、2mlの水に容易に可溶である。これはリットルあたり50gに相当する。最大溶解度はさらに高い可能性さえある。
フォルスコリンに換算すると、これは1.2g/L(0.12%)に相当する。これは天然フォルスコリンのおよそ120倍の溶解度に相当する(天然フォルスコリンの水中溶解度:0.001%)。
【0071】
分析
フォルスコリンCD錯体は水に非常に易溶であった。フォルスコリンの含量はHPLCによって決定された(そのパラメーターは上記の通り)。
【0072】
外側が親水性であるCD分子は、注入ピーク後の溶出プロフィールにすぐに存在した(カラムはオクタデシル相、C18逆相がドープされている)。フォルスコリンは8分間の保持時間を示した。
【0073】
18mgのフォルスコリン-CD錯体を1.8mlの移動溶媒中に溶解した=10mg/ml。20μLをHPLCカラムに適用した。
結果
焼結法によるフォルスコリンとCDの錯体化
検量によれば、フォルスコリンの含量は、100mgのフォルスコリン-CD錯体あたり最大4.7mgと示されるはずである。
【0074】
フォルスコリン-CD錯体の最大溶解度は、大量の材料が必要になるため、まだ決定されていない。最終生成物が得られたら最大溶解度が決定されるであろう。しかしながら、水1mLあたり100mg(500mgまで)のフォルスコリン-CDは易溶性であり、リットルあたり100g(500g)に相当する。
【0075】
フォルスコリンに換算すると、これは4.7g/L(>0.47%)に相当し、フォルスコリン(0.001%)のおよそ500倍の溶解度に相当する。以下の方法パラメーターが重要であることが示されている:
焼結のための温度範囲は210℃~220℃が非常に効果的であることが示された。温度が205℃を下回るか220℃を超えると、占有率の度合が低くなるほか、より不安定な錯体になった。
【0076】
フォルスコリンとCDは、ペーストを形成させるために焼結の前に水と撹拌し、少量のアルコール、例えば2-プロパノールを添加せねばならない(表3)。
焼結-新規包接法
シクロデキストリンの錯体化は、シクロデキストリンをフォルスコリンと約210℃で焼結することにより、著しく増大した。液体溶媒中での従来法は平均重量占有率(MW)が平均1.7%±0.3(SD)であるが、我々は新規焼結法を用いて3.7%±0.8(SD)に達することができた。最大占有率は、焼結法HP-CDによって達成され、4.7%(w/w)及び18%(等モル)をそれぞれもたらした。
【0077】
細胞培養試験-cAMPアッセイ
この方法は、ウィーン医科大学の薬理学研究所(Institute of Pharmacology, Medical University of Vienna)で、Michael Freissmuth教授により実施された。フォルスコリン-CD錯体を、確立された方法(フォルスコリンがDMSO中に溶解され希釈される方法)と比較した。この方法は以前に記載されており(Hussain F,ら,BMC Pharmacology 11(2013),Suppl 2,A6)、幹細胞の化学誘導を評価するための試験プラットフォームである。
【0078】
図3に、Hussainら,2013に従って、DMSO中に溶解されたフォルスコリンとフォルスコリン-CD錯体のcAMPアッセイを示す。
HP-ガンマ-CDと錯体化されたフォルスコリンは、フォルスコリンの観点から見ればDMSO中に溶解されたフォルスコリンと同じ濃度で存在していたが(媒体中濃度=30μmol/l)、同等の細胞質cAMPの増大を示した(図3)。また、PDE阻害薬(上記参照)と考えられているDMSOの欠如は、予備的、理論的及び実践的側面に基づいて、結果に何の影響ももたらさなかった。以下のバッチは、アデニリルシクラーゼの活性化薬として、分割モル濃度で試験された。
【0079】
【表1】
【0080】
表1:様々なフォルスコリン-CD錯体のアデニリルシクラーゼに対する活性化能力の検証とDMSO中に溶解された天然フォルスコリンとの比較。F-CD 116(400mg HP-y-CD,32mgフォルスコリン,45℃1時間+72時間室温);F-CD 118(500mg HP-y-CD,105mgフォルスコリン,40℃3時間+72時間室温),F-CD 119(500mg HP-β-CD,105mgフォルスコリン,40℃3時間+72時間室温),F-CD 130(80mg HP-γ-CD,60mgフォルスコリン,165-210℃,100μL HO,50μL プロパノール),F-CD 138(80mg HP-γ-CD,60mgフォルスコリン,140-220℃,100μL HO,50μL プロパノール,citr.),F-CD 140(240mg HP-γ-CD,180mgフォルスコリン,200-228℃,300μL H2O,150μL プロパノール,LYO)。
【0081】
図4に、Husainら(BMC Pharmacol.11(2013),Suppl 2:A6)の方法に従って、DMSO中に溶解されたフォルスコリンとフォルスコリン-CD錯体のcAMPアッセイを示す。ここでは、γ-CDとβ-CDが比較されている。DMSO中に溶解されたフォルスコリンとフォルスコリンγ-CD錯体との間に有意の差はないことが示されており、CDに結合されたフォルスコリン錯体の活性は、DMSO中に溶解されたフォルスコリンと比較して減退していないことを証明している。フォルスコリン-β-CDは、アデニリルシクラーゼの活性化がわずかに弱い。アデニリルシクラーゼに関して不活性なのは、フォルスコリンなしの純シクロデキストリンの対照サンプルのほか、代替ジテルペンのサルビノリンA及びサルビノリンBである。
【0082】
結論
アデニリルシクラーゼの刺激に対するフォルスコリン-CD包接錯体の使用は、予備結果によれば、DMSO中に予め溶解された遊離フォルスコリンと比較して、アデニリルシクラーゼの活性化に関して同等の能力を示した。
【0083】
γ-CDの内径は9.5Å(表2参照)、天然フォルスコリン分子の幅は約8Åである(“リガンドスカウト(ligand scout)”プログラム(Inte:ligand GmbH社)による独自計算;長さおよそ10.5Å、最大幅点約8Å)。
【0084】
フォルスコリンに比べて(シクロデキストリンの)筒(channel)の寸法が狭いことと、フォルスコリン分子内の不均一な電荷分布が、おそらくはCDの占有率の低さ及び占有反応の怠慢の原因である。
【0085】
表2:天然シクロデキストリン(CD)の特性(8)
【0086】
【表2】
【0087】
実施例2
占有率の比較:
本方法の装填能力(loading capacity)の比較のため、米国特許出願公開第20050051483A1号に記載されている方法を上記の方法と比較した。
【0088】
それぞれの値は、米国特許出願公開第20050051483A1号に示されているデータに基づいて計算した。
米国特許公開第20050051483A1号に従って、フォルスコリンを、HP-β-CD、HP-γ-CD又はRAMEB-CDを溶解状態で含有する水に加えた。懸濁液を等温シェーカー中75rpmで60時間、-30℃の温度で撹拌した。得られた溶液を0.45μmナイロンフィルターを通してろ過し、HPLCによりフォルスコリンの含量を分析した(米国特許出願公開第20050051483A号、実施例2、3、7)。
【0089】
【表3】
【0090】
表3:占有率の比較
このように、HP-β-CD、RAMEB-CD、及びHP-γ-CDは著しく増大した占有率を示すことが本発明者らによって具体的に示された。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]フォルスコリンシクロデキストリン包接錯体の製造法であって、
a)フォルスコリン及びシクロデキストリンを1:0.5~1:4の重量比で混合し、
b)水及び溶媒を添加して混合物を形成させ、
c)前記混合物を180℃~230℃の範囲の温度、具体的には200~230℃の範囲、210~220℃の範囲、具体的には約220℃で加熱し、
d)前記混合物に水を添加した後、混合し、そして混合物を沈殿させ、
e)沈殿物を混合物から単離し、場合により沈殿物を乾燥させる
工程を含む方法。
[態様2]シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンからなる群から選ばれる、態様1に記載の方法。
[態様3]シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン及びRAMEB-CDからなる群から選ばれる、態様1又は2に記載の方法。
[態様4]加熱温度が210℃又は220℃である、態様1~3のいずれか1に記載の方法。
[態様5]フォルスコリン及びHP-γ-シクロデキストリンの粉末包接錯体を製造するための態様1~4のいずれか1に記載の方法。
[態様6]溶媒がアルコール、具体的に2-プロパノールである、態様1~5のいずれか1に記載の方法。
[態様7]加熱乾燥が約1~30分間実施される、態様1~6のいずれか1に記載の方法。
[態様8]沈殿物が具体的には膜ろ過によってろ過される、態様1~7のいずれか1に記載の方法。
[態様9]沈殿物が室温で乾燥される、態様1~8のいずれか1に記載の方法。
[態様10]γ-シクロデキストリン及びフォルスコリンを重量比1:0.2~1:4(w/w)で含む包接錯体。
[態様11]γ-シクロデキストリンがヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンである、態様10に記載の包接錯体。
[態様12]フォルスコリン及びヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンの重量比が1:0.5~1:3.3(w/w)の範囲である、態様10又は11に記載の包接錯体。
[態様13]態様10~12のいずれか1に記載の包接錯体を含有する、医薬組成物。
図1
図2
図3
図4