(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
C07C 233/18 20060101AFI20220909BHJP
C07C 235/06 20060101ALI20220909BHJP
C07D 333/16 20060101ALI20220909BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20220909BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20220909BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C07C233/18 CSP
C07C235/06
C07D333/16
C10M107/38
G11B5/725
G11B5/84 B
(21)【出願番号】P 2019538051
(86)(22)【出願日】2018-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2018029568
(87)【国際公開番号】W WO2019039265
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017158651
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087615(WO,A1)
【文献】特開平08-259882(JP,A)
【文献】米国特許第06187954(US,B1)
【文献】特開平09-255608(JP,A)
【文献】特開平05-247200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 235/06
C07C 233/18
C10M 107/38
C07D 333/16
G11B 5/725
G11B 5/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R
1-R
2-CH
2-R
3-CH
2-R
4-R
5 (1)
(式(1)中、R
3はパーフルオロポリエーテル鎖である。R
2およびR
4は
下記式(2-1)で表される2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い。R
1およびR
5は、炭素原子数1~8の有機基からなる末端基であり、同じであっても異なっていても良い。R
1およびR
5のうち
一方または両方は、
炭素原子数1~4のアルキル基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された基である。
R
1
およびR
5
のうち一方の末端基のみが、前記アミド結合を有する基で置換された基である場合、他方の末端基は、1以上の水素がヒドロキシ基およびシアノ基から選択される極性基で置換されたアルキル基、または、二重結合または三重結合を少なくとも一つ有し、芳香族環を含む基、複素環を含む基、アルケニル基を含む基、アルキニル基を含む基から選択される有機基である。)
-(O-CH
2
CH(OH)CH
2
)
a
-O- (2-1)
(式(2-1)中のaは1~3の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)におけるR
1が、
炭素原子数1~4のアルキル基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された基であり、
R
5が、1以上の水素が
ヒドロキシ基およびシアノ基から選択される極性基で置換されたアルキル基である
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項3】
前記式(1)におけるR
3が、下記式(3)~(5)のいずれかである請求項1
または2に記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF
2O-(CF
2CF
2O)
c-(CF
2O)
d-CF
2- (3)
(式(3)中のc、dは平均重合度を示し、それぞれ0~20を表す。但し、cまたはdが0.1以上である。)
-CF(CF
3)-(OCF(CF
3)CF
2)
e-OCF(CF
3)- (4)
(式(4)中のeは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF
2CF
2-(OCF
2CF
2CF
2)
f-OCF
2CF
2- (5)
(式(5)中のfは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
【請求項4】
数平均分子量が500~10000の範囲内にある請求項1~
3のいずれか一項に記載に含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項6】
基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層は、請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~2nmである請求項
6の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の潤滑剤用途に好適な含フッ素エーテル化合物、それを含む磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体に関する。
本願は、2017年8月21日に、日本に出願された特願2017-158651号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体では、磁気記録媒体の耐久性および信頼性を確保するために、基板上に形成された磁気記録層の上に保護層と潤滑層とを設けている。特に最表面に用いられる潤滑層には、長期安定性、化学物質耐性(シロキサンなどのコンタミネーションを防ぐ)、耐摩耗性等の様々な特性が要求されている。
【0003】
従来、磁気記録媒体用の潤滑剤として、分子末端に極性基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤が多く用いられてきた。
パーフルオロポリエーテル系潤滑剤としては、例えば、複数のヒドロキシ基を有する末端基をもつパーフロロポリエーテル化合物が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、芳香族基と水酸基を有するフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4632144号公報
【文献】特開2013-163667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、磁気ディスクの急速な情報記録密度向上に伴い、磁気ヘッドと磁気ディスクの記録層との間の磁気スペーシングの低減が求められている。このため、磁気ヘッドと磁気ディスクの記録層との間に存在する潤滑層においては、より一層の薄膜化が必要となってきている。潤滑層に用いられる潤滑剤は、磁気ディスクの信頼性に大きな影響を及ぼす。したがって、磁気ディスクにとって不可欠な耐摩耗性等の信頼性を確保しつつ、潤滑層を薄膜化する必要がある。
【0006】
また、磁気ディスクの用途の多様化などにより、磁気ディスクに求められる環境耐性は非常に厳しいものになってきている。このため、従来にも増して、潤滑層の耐摩耗性および化学物質耐性を向上させることが求められている。
しかし、一般的に潤滑層の厚みを薄くすると被覆性が悪化し、化学物質耐性および耐摩耗性が悪化する傾向があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、厚みが薄くても、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を形成でき、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適に用いることが出来る含フッ素エーテル化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層を有する磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、パーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、極性基を有する2価の連結基を連結し、その少なくとも一方に、炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された末端基が結合している含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0009】
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R1-R2-CH2-R3-CH2-R4-R5 (1)
(式(1)中、R3はパーフルオロポリエーテル鎖である。R2およびR4は極性基を有する2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い。R1およびR5は、R2またはR4の有する炭素原子以外の原子の結合手に結合されている。R1およびR5は、炭素原子数1~8の有機基からなる末端基であり、同じであっても異なっていても良い。R1およびR5のうち少なくとも一方は、炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された基である。)
【0010】
[2] 前記鎖状有機基が、炭素原子数1~4のアルキル基である[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[3] 前記極性基がヒドロキシ基である[1]または[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[4] 前記式(1)におけるR2およびR4が、下記式(2-1)である[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
-(O-CH2CH(OH)CH2)a-O- (2-1)
(式(2-1)中のaは1~3の整数を表す。)
【0011】
[5] 前記式(1)におけるR1が、炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された基であり、
R5が、1以上の水素が極性基で置換されたアルキル基である[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[6] 前記式(1)におけるR3が、下記式(3)~(5)のいずれかである[1]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF2O-(CF2CF2O)c-(CF2O)d-CF2- (3)
(式(3)中のc、dは平均重合度を示し、それぞれ0~20を表す。但し、cまたはdが0.1以上である。)
-CF(CF3)-(OCF(CF3)CF2)e-OCF(CF3)- (4)
(式(4)中のeは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2-(OCF2CF2CF2)f-OCF2CF2- (5)
(式(5)中のfは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
【0012】
[7] 数平均分子量が500~10000の範囲内にある[1]~[6]のいずれかに記載に含フッ素エーテル化合物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
[9] 基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層は、[1]~[7]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[10] 前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~2nmである[9]の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みが薄くても、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を有するため、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤(以下、「潤滑剤」と略記する場合がある。)および磁気記録媒体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0016】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
R1-R2-CH2-R3-CH2-R4-R5 (1)
(式(1)中、R3はパーフルオロポリエーテル鎖である。R2およびR4は極性基を有する2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い。R1およびR5は、R2またはR4の有する炭素原子以外の原子の結合手に結合されている。R1およびR5は、炭素原子数1~8の有機基からなる末端基であり、同じであっても異なっていても良い。R1およびR5のうち少なくとも一方は、炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された基である。)
【0017】
上記式(1)で表される本実施形態の含フッ素エーテル化合物において、R1およびR5は、R2またはR4の有する炭素原子以外の原子の結合手に結合されている。R1およびR5は、炭素原子数1~8の有機基からなる末端基であり、同じであっても異なっていても良い。末端基を形成している有機基は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などを含むものであってもよい。
【0018】
R1およびR5のうち少なくとも一方は、炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素が、アミド結合(-NHC(=O)-)を有する基で置換された基(以下、「アミド結合を有する有機基」という場合がある。)である。アミド結合の向きは、-NH-(C=O)-であってもよいし、-(C=O)-NH-であってもよい。
【0019】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物では、R1中および/またはR5中のアミド結合と、R2中およびR4中の極性基が、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において保護層との良好な相互作用を示す。
なお、アミド結合を有する有機基において、アミド結合を形成している炭素は、自由回転が難しい。したがって、含フッ素エーテル化合物分子内におけるアミド結合の相互作用(親和性)は比較的低い。そのため、R1およびR5のうち少なくとも一方であるアミド結合を有する有機基と、R2およびR4の有する極性基(例えばヒドロキシ基)とは、保護層表面に多数存在する官能基との相互作用がそれぞれ独立であり、保護層との親和性を増大させると推定される。
【0020】
これに対し、例えば、本実施形態におけるアミド結合を有する有機基に代えて、ヒドロキシ基で置換された有機基を有するフッ素エーテル化合物では、本実施形態のフッ素エーテル化合物と比較して、保護層との親和性が弱くなる。それは、ヒドロキシ基の回転の自由度がアミド結合と比べて高いため、ヒドロキシ基で置換された有機基と、R2および/またはR4の有する極性基(例えばヒドロキシ基)とが相互作用を起こしやすいためであると推定される。
【0021】
また、例えば、アミド結合を有する有機基が、炭素原子数1~8の環状有機基である場合(例えばCH3-C(=O)-NH-C6H4-など)、アミド結合を有する有機基が嵩高いものとなる。このため、アミド結合を有する有機基と、R2およびR4の有する極性基とが、それぞれ独立して保護層表面に作用しにくくなる。したがって、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層におけるアミド結合と保護層との親和性が充分に得られない。
また、アミド結合を有する有機基が、炭素原子数1~8の鎖状有機基ではなく、炭素原子数1~8の環状有機基である場合、アミド結合を有する有機基が嵩高いものとなる。このような含フッ素エーテル化合物を用いて厚みの薄い潤滑層を形成すると、被覆性が不足して化学物質耐性および耐摩耗性が充分に得られない。
【0022】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物において、アミド結合を有する有機基の種類は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能等に応じて適宜選択できる。
R1およびR5のうち少なくとも一方であるアミド結合を有する有機基の有するアミド結合(-NHC(=O)-)の数は、特に限定されるものではなく、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。上記のアミド結合の数が1つであると、含フッ素エーテル化合物の極性が高くなりすぎて、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着するピックアップが発生することを防止でき、好ましい。
【0023】
炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合(-NHC(=O)-)を有する基で置換された基(アミド結合を有する有機基)における鎖状有機基の炭素原子数は1~8である。上記炭素原子数が1~8であると、この含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層と保護層との親和性がより一層良好となる。上記炭素原子数1~8の鎖状有機基は、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1または2のアルキル基であることがより好ましい。上記炭素原子数1~8の鎖状有機基が炭素原子数1~4のアルキル基であると、含フッ素エーテル化合物中の立体障害が抑えられるため、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層におけるアミド結合と保護層との親和性がより良好となる。
【0024】
また、炭素原子数1~8の鎖状有機基は、鎖状であり、分岐を有していてもよい。炭素原子数1~8の鎖状有機基は、含フッ素エーテル化合物中の立体障害が抑えられるため、分岐のない直鎖状であることが好ましい。
【0025】
炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合(-NHC(=O)-)を有する基で置換された基(アミド結合を有する有機基)において、炭素原子数1~8の鎖状有機基の炭素原子は、アミド結合の炭素原子と結合していてもよいし、アミド結合の窒素原子と結合していてもよい。
【0026】
アミド結合を有する有機基において、炭素原子数1~8の鎖状有機基の炭素原子と結合していない側(末端側)のアミド結合(-NHC(=O)-)の結合手には、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基などが結合していることが好ましく、水素原子またはメチル基が結合していることが好ましい。
【0027】
炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合(-NHC(=O)-)を有する基で置換された基としては、具体的には、下記式(6)または下記式(7)で示されるアミド結合を有する有機基などが挙げられる。これらのアミド結合を有する有機基の中でも、磁気記録媒体の保護層との良好な親和性を示す点から、特に式(6)で示されるアミド結合を有する有機基が好ましい。
-CH2CH2C(=O)NH2 (6)
-CH2CH2NHC(=O)CH3 (7)
【0028】
R1およびR5のうち一方の末端基(例えば、R5)のみがアミド結合を有する有機基である場合、アミド結合を有する有機基でない他方の末端基(例えば、R1)は、如何なる基であってもよく、特に限定されない。他方の末端基は、二重結合または三重結合を少なくとも一つ有する有機基であることが好ましく、例えば、芳香族環を含む基、複素環を含む基、アルケニル基を含む基、アルキニル基を含む基などが挙げられる。また、他方の末端基が、炭素原子数1~8の置換基を有しても良いアルキル基であることも好ましい。
【0029】
具体的には、上記他方の末端基は、フェニル基、メトキシフェニル基、フッ化フェニル基、ナフチル基、フェネチル基、メトキシフェネチル基、フッ化フェネチル基、ベンジル基、メトキシベンジル基、ナフチルメチル基、メトキシナフチル基、ピロリル基、ピラゾリル基、メチルピラゾリルメチル基、イミダゾリル基、フリル基、フルフリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チエニル基、チエニルエチル基、チアゾリル基、メチルチアゾリルエチル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、インドリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾピラゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フタラジニル基、シンノリニル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、メチルブチニル基、ペンチニル基、メチルペンチニル基、ヘキシニル基、ニトリルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、トリフロロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、オクタフルオロペンチル基、トリデカフロオロオクチル基とすることができる。
【0030】
上記他方の末端基は、上記の中でも、フェニル基、メトキシフェニル基、チエニルエチル基、ブテニル基、アリル基、プロパルギル基、フェネチル基、メトキシフェネチル基、フッ化フェネチル基のいずれかであることが好ましく、特に、フェニル基、チエニルエチル基、アリル基のいずれかであることが好ましい。この場合、より優れた耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となる。
上記の他方の末端基は、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基などの置換基を有していても良い。
【0031】
R1およびR5のうち一方の末端基(例えば、R1)のみがアミド結合を有する有機基である場合、アミド結合を有する有機基でない他方の末端基(例えば、R5)は、極性基を少なくとも一つ有する炭素原子数1~8の有機基であってもよい。このような有機基としては、1以上の水素が極性基で置換されたアルキル基であることが好ましい。この場合、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層と保護層との親和性がより一層良好となる。
【0032】
一方の末端基(例えば、R1)がアミド結合を有する有機基であり、他方の末端基(例えば、R5)が極性基を少なくとも一つ有する炭素原子数1~8の有機基である場合、他方の末端基の有する極性基としては、例えば、ヒドロキシ基(-OH)、シアノ基(-CN)などが挙げられ、ヒドロキシ基であることが好ましい。
【0033】
極性基を少なくとも一つ有する炭素原子数1~8の有機基は、下記式(21)で示される基であることが好ましい。式(21)で示される基は、末端に配置された1つの水素がヒドロキシ基で置換された炭素原子数1~6のアルキル基である。上記の有機基が、式(21)で示される基であると、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層と保護層との親和性がより一層良好となり、好ましい。
【0034】
【化1】
(式(21)中、pは0~5の整数を表す。)
【0035】
式(21)中、pは0~5の整数を表し、0~2の整数であることが好ましい。すなわち、上記の有機基は、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基から選ばれるいずれかであることが好ましい。pが5以下であると、分子中におけるフッ素原子の割合が低いことによって分子全体の表面自由エネルギーが低くなりすぎることがなく、好ましい。
【0036】
式(1)におけるR2およびR4は、極性基を有する2価の連結基である。R2およびR4は、同じであっても異なっていても良い。式(1)におけるR2およびR4が極性基を有するため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて、保護層上に潤滑層を形成した場合、潤滑層と保護層との間に好適な相互作用が発生する。極性基を有する2価の連結基は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0037】
極性基を有する2価の連結基の有する極性基としては、例えば、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、カルボキシ基(-COOH)、ホルミル基(-COH)、カルボニル基(-CO-)、スルホン酸基(-SO3H)などが挙げられる。これら中でも特に、極性基がヒドロキシ基であることが好ましい。ヒドロキシ基は、保護層、とりわけ炭素系の材料で形成された保護層との相互作用が大きい。したがって、極性基がヒドロキシ基であると、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が、保護層との付着性が高いものとなる。
【0038】
式(1)におけるR2およびR4は、下記式(2-1)であることが好ましい。
-(O-CH2CH(OH)CH2)a-O- (2-1)
(式(2-1)中のaは1~3の整数を表す。)
【0039】
式(2-1)におけるaが1以上であると、R2およびR4の有する極性基と保護層との相互作用が、より一層強いものとなる。その結果、より保護層との付着性が高い潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。また、上記のaが3以下であると、含フッ素エーテル化合物の極性が高くなりすぎることにより、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着するピックアップが発生することを防止できる。
【0040】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R2およびR4が上記式(2-1)である場合、R1および/またはR5の有するアミド結合と、R2およびR4の有する極性基の結合した炭素との間に、鎖状に結合した炭素原子および酸素原子(少なくとも-O-CH2-)が配置される。このため、例えば、R1および/またはR5の有するアミド結合と、R2およびR4の有する極性基とが、同じ炭素に結合(-C(極性基)-NHC(=O)-、または-C(極性基)-C(=O)NH-)している場合と比較して、アミド結合と極性基との相互作用が弱いものとなる。一方、アミド結合および極性基と、保護層表面に多数存在する官能基との相互作用は、アミド結合と極性基とが同じ炭素に結合している場合と比較して、相対的に強いものとなる。その結果、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて、保護層上に潤滑層を形成した場合における潤滑層と保護層との親和性が増大する。
【0041】
したがって、R2およびR4が上記式(2-1)である場合、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて形成した潤滑層は、より優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有するものとなる。なお、潤滑層と保護層との親和性の観点から、R1および/またはR5のアミド結合に結合している炭素と、R2および/またはR4の有する最も末端側の極性基が結合している炭素との間には、鎖状に結合した炭素原子と酸素原子とが合計で2~5個存在していることが望ましい。
【0042】
式(1)におけるR3は、パーフルオロポリエーテル鎖(以下「PFPE鎖」と略記する場合がある。)である。PFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、保護層の表面を被覆するとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。PFPE鎖は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0043】
PFPE鎖としては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ-n-プロピレンオキシド重合体、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体、これらの共重合体からなるものなどが挙げられる。
具体的には、式(1)におけるR3は、下記式(3)~(5)のいずれかであることが好ましい。R3が式(3)~(5)のいずれかである場合、良好な潤滑性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。
なお、式(3)における繰り返し単位である(CF2CF2O)および(CF2O)は、ブロック的に結合していてもよいし、一部または全部がランダムに結合していてもよい。
【0044】
-CF2O-(CF2CF2O)c-(CF2O)d-CF2- (3)
(式(3)中のc、dは平均重合度を示し、それぞれ0~20を表す。但し、cまたはdが0.1以上である。)
-CF(CF3)-(OCF(CF3)CF2)e-OCF(CF3)- (4)
(式(4)中のeは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2-(OCF2CF2CF2)f-OCF2CF2- (5)
(式(5)中のfは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
【0045】
式(4)~(5)におけるe、fがそれぞれ0.1~20である(または式(3)におけるc、dがそれぞれ0~20であって、かつcまたはdが0.1以上である)と、良好な潤滑性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。しかし、c、d、e、fが20を超えると、含フッ素エーテル化合物の粘度が高くなり、これを含む潤滑剤が塗布しにくいものとなる場合がある。したがって、c、d、e、fは20以下であることが好ましい。
【0046】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R1およびR5は同じであっても異なっていても良い。R1とR5が同じであると、容易に製造できるため好ましい。
また、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R2およびR4は同じであっても異なっていても良い。R2とR4が同じであると、容易に製造できるため好ましい。
したがって、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物のR1とR5が同じで、かつR2とR4が同じあると、より容易に製造でき、好ましい。
【0047】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、具体的には、下記式(A)~(M)で表されるいずれかの化合物であることが好ましい。なお、式(A)~(M)中の繰り返し数m、nは、平均値を示す値であるため、必ずしも整数とはならない。
式(A)で表される化合物は、R1およびR5がそれぞれ式(6)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R2およびR4がそれぞれ式(2-1)であり、R1とR5が同じで、かつR2とR4が同じあり、R3が式(3)である。
式(B)で表される化合物は、R1およびR5がそれぞれ式(7)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R2およびR4がそれぞれ式(2-1)であり、R1とR5が同じで、かつR2とR4が同じあり、R3が式(3)である。
【0048】
式(C)~(E)、(G)~(I)で表される化合物は、R1とR5が異なり、R5が式(6)または式(7)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R1がフェニル基、チエニルエチル基、アリル基のいずれかであり、R2とR4が同じでR2およびR4がそれぞれ式(2-1)であり、R3が式(3)である。
式(F)、(J)で表される化合物は、R1とR5が異なり、R5が式(6)または式(7)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R1がアリル基であり、R2は式(2-1)であってaが2であり、R4は式(2-1)であってaが1であり、R3が式(3)である。
【0049】
式(K)で表される化合物は、R1とR5が異なり、R5が式(7)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R1がアリル基であり、R2とR4が同じでR2およびR4がそれぞれ式(2-1)であり、R3が式(5)である。
式(L)で表される化合物は、R1とR5が異なり、R5が式(7)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R1が式(21)で示される基であってpが1である。また、R2とR4が同じでR2およびR4がそれぞれ式(2-1)であり、R3が式(3)である。
式(M)で表される化合物は、R1とR5が異なり、R5が式(7)で示されるアミド結合を有する有機基であり、R1が式(21)で示される基であってpが1である。また、R2とR4が同じでR2およびR4が式(2-1)であってa=2であり、R3が式(3)である。
【0050】
【化2】
(式(A)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0051】
【化3】
(式(B)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0052】
【化4】
(式(C)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0053】
【化5】
(式(D)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0054】
【化6】
(式(E)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0055】
【化7】
(式(F)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0056】
【化8】
(式(G)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0057】
【化9】
(式(H)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0058】
【化10】
(式(I)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0059】
【化11】
(式(J)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
(式(K)中、mは平均重合度を示し、1~20である。)
【0060】
【化12】
(式(L)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
(式(M)中、m、nは平均重合度を示し、それぞれ0.1~20である。)
【0061】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量(Mn)が500~10000の範囲内であることが好ましく、1000~5000であることが特に好ましい。数平均分子量が500以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が優れた耐熱性を有するものとなる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が10000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に厚みの薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、潤滑剤に適用した場合に扱いやすい粘度となるため、5000以下であることが好ましい。
【0062】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、ブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400による1H-NMRおよび19F-NMRによって測定された値である。具体的には、19F-NMRによって測定された積分値よりPFPE鎖の繰り返し単位数を算出し、数平均分子量を求めた。NMR(核磁気共鳴)の測定において、試料をd-アセトンまたはヘキサフルオロベンゼン/d-アセトン(1/4(v/v))溶媒へ希釈し、測定に使用した。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、1H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとした。
【0063】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、分子量分画することにより、分子量分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比)を1.3以下とすることが好ましい。
分子量分画する方法としては、特に制限を設ける必要は無いが、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法などによる分子量分画、超臨界抽出法による分子量分画などを用いることができる。
【0064】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
例えば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、両末端にヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル化合物に対して、一端にエポキシ基を有し、他端にアミド結合を有する有機基を有する化合物を、反応させる方法が挙げられる。一端にエポキシ基を有し、他端にアミド結合を有する有機基を有する化合物としては、例えば、下記式(8)~(11)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【0066】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)に示すように、R3で表されるPFPE鎖の両末端に、R2およびR4で表される極性基を有する2価の連結基を連結し、その少なくとも一方(R1および/またはR5)に、アミド結合を有する有機基が結合している。
PFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、保護層の表面を被覆するとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。そして、PFPE鎖の両端に配置された上記R2およびR4と、その少なくとも一方に結合されたアミド結合を有する有機基との組み合わせが、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層と保護層との親和性を向上させる。その結果、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて、磁気記録媒体の保護層上に潤滑層を形成した場合、膜厚を薄くしても、高い被覆性が得られ、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる。
【0067】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0068】
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上、Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)などが挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0069】
本実施形態の潤滑剤が、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0070】
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる。
【0071】
[磁気記録媒体]
本実施形態の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも磁性層と保護層と潤滑層が順次設けられたものである。
本実施形態の磁気記録媒体では、基板と磁性層との間に、必要に応じて1層または2層以上の下地層を設けることができる。また、下地層と基板との間に付着層および/または軟磁性層を設けることもできる。
【0072】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0073】
「基板」
基板11としては、例えば、AlもしくはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された非磁性基板等を用いることができる。
また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
ガラス基板は剛性があり、平滑性に優れるので、高記録密度化に好適である。ガラス基板としては、例えばアルミノシリケートガラス基板が挙げられ、特に化学強化されたアルミノシリケートガラス基板が好適である。
【0074】
基板11の主表面の粗さは、Rmaxが6nm以下、Raが0.6nm以下の超平滑であることが好ましい。なお、ここでいう表面粗さRmax、Raは、JIS B0601の規定に基づくものである。
【0075】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを接して配置した場合に生じる、基板11の腐食の進行を防止する。
付着層12の材料は、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金、CrTi、NiAl,AlRu合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0076】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。
【0077】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の材料としては、CoZrTa合金、CoFe合金などが挙げられる。
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、第1下地層(シード層)の配向性を向上できるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減できる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0078】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向および結晶サイズを制御する。
第1下地層14としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo合金層、CoW合金層、CrW合金層、CrV合金層、CrTi合金層などが挙げられる。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0079】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも一層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0080】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、CoとPtを含む層であり、さらにSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO2、SiO、Cr2O3、CoO、Ta2O3、TiO2等が挙げられる。
【0081】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、下から順に積層された第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。その中でも、特に、TiO2、Cr2O3、SiO2等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも、特に、Cr2O3-SiO2、Cr2O3-TiO2、SiO2-TiO2等を好適に用いることができる。
【0082】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
【0083】
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
【0084】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
【0085】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re,Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Bの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0086】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO2、Al2O3、Ta2O5、Cr2O3、MgO、Y2O3、TiO2等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si3N4、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0087】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層16は、面内磁気記録であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層16は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0088】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護する。保護層17は、一層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17としては、炭素系保護層を好ましく用いることができ、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層17が炭素系保護層であると、潤滑層18中の含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基(特にヒドロキシ基)との相互作用が一層高まるため、好ましい。
【0089】
炭素系保護層と潤滑層18との付着力は、炭素系保護層を水素化炭素および/または窒素化炭素とし、炭素系保護層中の水素含有量および/または窒素含有量を調節することにより制御可能である。炭素系保護層中の水素含有量は、水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3~20原子%であることが好ましい。また、炭素系保護層中の窒素含有量はX線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4~15原子%であることが好ましい。
【0090】
炭素系保護層に含まれる水素および/または窒素は、炭素系保護層全体に均一に含有される必要はない。炭素系保護層は、例えば、保護層17の潤滑層18側に窒素を含有させ、保護層17の磁性層16側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。この場合、磁性層16および潤滑層18と、炭素系保護層との付着力が、より一層向上する。
【0091】
保護層17の膜厚は、1nm~7nmとするのがよい。保護層17の膜厚が1nm以上であると、保護層17としての性能が充分に得られる。保護層17の膜厚が7nm以下であると、保護層17の薄膜化の観点から好ましい。
【0092】
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
保護層17として炭素系保護層を形成する場合、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜できる。特に、保護層17として炭素系保護層を形成する場合、プラズマCVD法により、アモルファス炭素保護層を成膜することが好ましい。プラズマCVD法により成膜したアモルファス炭素保護層は、表面が均一で、粗さが小さいものとなる。
【0093】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、
図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、上述の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0094】
潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素系保護層である場合、特に、潤滑層18に含まれる含フッ素エーテル化合物と保護層17とが高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすくなり、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0095】
潤滑層18の平均膜厚は、0.5nm(5Å)~2nm(20Å)であることが好ましい。潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに、均一の膜厚で形成される。このため、潤滑層18によって、保護層17の表面を高い被覆率で被覆できる。また、潤滑層18の平均膜厚を2nm以下にすることで、潤滑層18を充分に薄膜化でき、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくできる。
【0096】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成する方法としては、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0097】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて、溶媒に分散溶解させ、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0098】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法、ディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0099】
本実施形態においては、潤滑層18を形成した基板11に熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、潤滑層18と保護層17との密着性が向上し、潤滑層18と保護層17との付着力が向上する。
熱処理温度は100~180℃とすることが好ましい。熱処理温度が100℃以上であると、潤滑層18と保護層17との密着性を向上させる効果が十分に得られる。また、熱処理温度を180℃以下にすることで、潤滑層18の熱分解を防止できる。熱処理時間は、10~120分が好ましい。
【0100】
本実施形態においては、潤滑層18の保護層17に対する付着力をより一層向上させるために、熱処理前もしくは熱処理後の基板11の潤滑層18に、紫外線(UV)を照射する処理を行ってもよい。
【0101】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して上述の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、厚みが薄くても、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する。よって、本実施形態の磁気記録媒体10は、信頼性、特にシリコンコンタミネーションの抑制、耐摩耗性に優れる。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、磁気ヘッド浮上量が低く(例えば10nm以下)、用途の多様化に伴う厳しい環境下であっても、長期に亘って安定して動作する高い信頼性が得られる。このため、本実施形態の磁気記録媒体10は、特にLUL方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適である。
【実施例】
【0102】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0103】
「実施例1」
以下に示す方法により、上記式(A)で表される化合物(式(A)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(A)で表される化合物を、化合物(A)と言う。
【0104】
まず、3-ヒドロキシプロパミドとアリルブロマイドとを、塩基存在下で、テトラヒドロフラン中で反応させて化合物を得た。次いで、得られた化合物をジクロロメタン中で、メタクロロ過安息香酸を用いて酸化させ、上記式(8)で表される化合物を合成した。
次に、窒素雰囲気下で200mLのナスフラスコに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)h(CF2O)iCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すhは4.5であり、平均重合度を示すiは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)20gと、上記式(8)で表される化合物6.38gと、t-ブタノール20mLとを投入して、室温で均一になるまで撹拌した。
【0105】
この均一の液にカリウムtert-ブトキシド0.90gを加え、70℃で14時間撹拌して反応させた。得られた反応生成物を25℃に冷却し、1mol/L塩酸で中和し、三井デュポンフロロケミカル社製バートレルXF(以下、「バートレルXF」と略記する場合がある。)で抽出し、水洗を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物(A)を得た。
【0106】
得られた化合物(A)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.20-2.30(4H)、3.60-4.30(18H)、7.00-7.10(4H)
【0107】
「実施例2」
以下に示す方法により、上記式(B)で表される化合物(式(B)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(B)で表される化合物を、化合物(B)と言う。
【0108】
3-ヒドロキシプロパミドに代えて、2-アセタミドエタノールを用いたこと以外は、化合物(8)と同様にして上記式(10)で表される化合物を合成した。
そして、実施例1における上記式(8)で表される化合物の代わりに、上記式(10)で表される化合物を7.00g用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、化合物(B)を得た。
【0109】
得られた化合物(B)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(6H)、3.35-3.45(4H)、3.60-4.20(18H)、7.50(2H)
【0110】
「実施例3」
以下に示す方法により、上記式(C)で表される化合物(式(C)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(C)で表される化合物を、化合物(C)と言う。
【0111】
窒素雰囲気下で200mLのナスフラスコに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)h(CF2O)iCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すhは4.5であり、平均重合度を示すiは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)20gと、グリシジルフェニルエーテル1.50gと、t-ブタノール10mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。
【0112】
この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを0.90g加え、70℃で8時間撹拌して反応させた。得られた反応生成物を25℃に冷却し、0.5mol/Lの塩酸で中和後、バートレルXFで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、中間体として下記式(12)で示される化合物7.25gを得た。
【0113】
【化14】
(式(12)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0114】
窒素ガス雰囲気下で200mLナスフラスコに、上記式(12)で示される化合物7.10gと、上記式(8)で示される化合物0.870gと、t-ブタノール50mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。
この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを0.187g加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。得られた反応生成物を25℃に冷却し、0.1mol/Lの塩酸で中和後、バートレルXFで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(C)を4.59g得た。
【0115】
得られた化合物(C)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(CD3COCD3);δ[ppm]=2.20-2.30(2H)、3.60-4.20(16H)、6.90(5H)、7.20(2H)
【0116】
「実施例4」
以下に示す方法により、上記式(D)で表される化合物(式(D)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(D)で表される化合物を、化合物(D)と言う。
チオフェンエタノールとエピブロモヒドリンとを反応させて、下記式(13)で表されるエポキシ化合物を合成した。そして、実施例3におけるグリシジルフェニルエーテルの代わりに、式(13)で表されるエポキシ化合物を用いて、中間体として下記式(14)で表される化合物を合成したこと以外は、実施例3と同様の操作を行い、化合物(D)を4.95g得た。
【0117】
【0118】
【化16】
(式(14)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0119】
得られた化合物(D)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(CD3COCD3):δ[ppm]=2.20-2.30(2H)、3.10(2H)、3.60-4.20(18H)、6.80-7.00(2H)、7.20(3H)
【0120】
「実施例5」
以下に示す方法により、上記式(E)で表される化合物(式(E)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(E)で表される化合物を、化合物(E)と言う。
グリシジルフェニルエーテルの代わりに、アリルグリシジルエーテルを1.14g用い、中間体として下記式(15)で表される化合物を合成したこと以外は、実施例3と同様の操作を行い、化合物(E)を4.85g得た。
【0121】
【化17】
(式(15)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0122】
得られた化合物(E)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(CD3COCD3):δ[ppm]=2.20-2.30(2H)、3.60-4.20(18H)、5.10-5.30(2H)、5.90(1H)、7.20(2H)
【0123】
「実施例6」
以下に示す方法により、上記式(F)で表される化合物(式(F)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(F)で表される化合物を、化合物(F)と言う。
グリセロールジアリルエーテルを酸化させて、下記式(16)で表されるエポキシ化合物を合成した。そして、実施例3におけるグリシジルフェニルエーテルの代わりに、式(16)で表されるエポキシ化合物を用いて、中間体として下記式(17)で表される化合物を合成したこと以外は、実施例3と同様の操作を行い、化合物(F)を得た。
【0124】
【0125】
【化19】
(式(17)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0126】
得られた化合物(F)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.20-2.30(2H)、3.60-4.20(23H)、5.10-5.30(2H)、5.90(1H)、7.20(2H)
【0127】
「実施例7」
以下に示す方法により、上記式(G)で表される化合物(式(G)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(G)で表される化合物を、化合物(G)と言う。
実施例3における上記式(8)で表される化合物の代わりに、上記式(10)で表される化合物を0.954g用いたこと以外は、実施例3と同様の操作を行い、化合物(G)を得た。
【0128】
得られた化合物(G)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(3H)、3.30-3.40(2H)、3.60-4.20(16H)、5.90(5H)、7.50(1H)
【0129】
「実施例8」
以下に示す方法により、上記式(H)で表される化合物(式(H)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(H)で表される化合物を、化合物(H)と言う。
実施例4における上記式(8)で表される化合物の代わりに、上記式(10)で表される化合物を0.954g用いたこと以外は、実施例4と同様の操作を行い、化合物(H)を得た。
【0130】
得られた化合物(H)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(3H)、3.10-3.40(4H)、3.60-4.20(18H)、6.80-7.00(2H)、7.20(1H)、7.50(1H)
【0131】
「実施例9」
以下に示す方法により、上記式(I)で表される化合物(式(I)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(I)で表される化合物を、化合物(I)と言う。
実施例5における上記式(8)で表される化合物の代わりに、上記式(10)で表される化合物を0.954g用いたこと以外は、実施例5と同様の操作を行い、化合物(I)を得た。
【0132】
得られた化合物(I)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(3H)、3.30-3.40(2H)、3.60-4.20(18H)、5.10-5.30(2H)、5.90(1H)、7.50(1H)
【0133】
「実施例10」
以下に示す方法により、上記式(J)で表される化合物(式(J)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(J)で表される化合物を、化合物(J)と言う。
実施例6における上記式(8)で表される化合物の代わりに、上記式(10)で表される化合物を0.954g用いたこと以外は、実施例6と同様の操作を行い、化合物(J)を得た。
【0134】
得られた化合物(J)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(3H)、3.30-3.40(2H)、3.60-4.20(23H)、5.10-5.30(2H)、5.90(1H)、7.50(1H)
【0135】
「実施例11」
以下に示す方法により、上記式(K)で表される化合物(式(K)中、平均重合度を示すmは4.5である。)を得た。以下、上記式(K)で表される化合物を、化合物(K)と言う。
実施例9におけるHOCH2CF2O(CF2CF2O)h(CF2O)iCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すhは4.5であり、平均重合度を示すiは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)の代わりに、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)hCF2CF2CH2OH(式中、平均重合度を示すhは4.5である)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1025、分子量分布1.1)で表される化合物を20.5g用いたこと以外は、実施例9と同様の操作を行い、化合物(K)を得た。
【0136】
得られた化合物(K)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(3H)、3.30-3.40(2H)、3.60-4.20(18H)、5.10-5.30(2H)、5.90(1H)、7.50(1H)
【0137】
「実施例12」
以下に示す方法により、上記式(L)で表される化合物(式(L)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)を得た。以下、上記式(L)で表される化合物を、化合物(L)と言う。
エチレングリコールモノアリルエーテル、3,4-ジヒドロ-2H-ピランおよびp-トルエンスルホン酸を用いて下記式(18)で表される化合物を合成した。さらに、式(18)で表される化合物を、メタクロロ過安息香酸を用いて酸化することにより、下記式(19)で表されるエポキシ化合物を合成した。
【0138】
【0139】
そして、窒素雰囲気下で200mLのナスフラスコに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)h(CF2O)iCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すhは4.5であり、平均重合度を示すiは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)20gと、上記式(10)で表される化合物1.59gと、t-ブタノール20mLとを投入して、室温で均一になるまで撹拌した。
【0140】
この均一の液にカリウムtert-ブトキシド0.67gを加え、70℃で14時間撹拌して反応させた。得られた反応生成物を25℃に冷却し、30mLの水が入れられた分液漏斗へ移した。これをバートレルXF 100mLで抽出し、有機層を水で洗浄し、さらに飽和食塩水で洗浄した。洗浄した有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、式(20)で示される化合物を得た。
【0141】
【化21】
(式(20)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0142】
窒素ガス雰囲気下で200mLナスフラスコに、上記式(20)で示される化合物5.80gと、上記式(19)で示される化合物1.21gと、t-ブタノール50mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。
この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを0.112g加え、70℃で20時間撹拌して反応させた。得られた反応生成物を25℃に冷却し、メタノール中に塩酸を1mol/L含む塩酸メタノール溶液を5mL加え、室温で1時間撹拌した。反応液を60mLの水が入れられた分液漏斗へ移し、バートレルXF 100mLで抽出し、有機層を水で洗浄し、さらに飽和食塩水で洗浄した。有機洗浄した有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(L)を3.82g得た。
【0143】
得られた化合物(L)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.00(3H)、3.35-3.45(2H)、3.60-4.20(20H)、7.50(1H)
【0144】
「比較例1」
下記式(N)で表される化合物を、特許文献1に記載の方法で合成した。
【0145】
【化23】
(式(N)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0146】
「比較例2」
アミド結合を有し、鎖状でない有機基を有する下記式(O)で表される化合物を、特許文献2に記載の方法で合成した。
【0147】
【化24】
(式(O)中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)
【0148】
このようにして得られた実施例1~実施例12、比較例1および比較例2の化合物の数平均分子量を、上述した1H-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表1に示す。
【0149】
【0150】
次に、以下に示す方法により、実施例1~実施例12、比較例1および比較例2で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~実施例12、比較例1および比較例2の磁気記録媒体を得た。
【0151】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~実施例12、比較例1および比較例2で得られた化合物を、それぞれフッ素系溶媒であるバートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が9Å~10Åになるようにバートレルで希釈し、0.001~0.01質量%の潤滑層形成用溶液とした。
【0152】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~実施例12、比較例1および比較例2の潤滑層形成用溶液を、ディップ法により塗布した。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を、120℃の恒温槽に入れ、10分間加熱する熱処理を行った。このことにより、保護層上に潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0153】
得られた実施例1~実施例12、比較例1および比較例2の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、FT-IR(商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
また、実施例1~実施例12、比較例1および比較例2の磁気記録媒体に対して、以下に示す方法により耐摩耗性試験および化学物質耐性試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0154】
(耐摩耗性試験)
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、接触子としての直径2mmのアルミナの球を、荷重40gf、摺動速度0.25m/secで、磁気記録媒体の潤滑層上で摺動させ、潤滑層の表面の摩擦係数を測定した。そして、潤滑層の表面の摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間を測定した。摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間は、各磁気記録媒体の潤滑層について4回ずつ測定し、その平均値(時間)を潤滑剤塗膜の耐摩耗性の指標とした。
【0155】
なお、摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、以下に示す理由により、潤滑層の耐摩耗性の指標として用いることができる。磁気記録媒体の潤滑層は、磁気記録媒体を使用することにより摩耗が進行し、摩耗により潤滑層が無くなると、接触子と保護層とが直接接触して、摩擦係数が急激に増大するためである。
【0156】
表1に示すように、実施例1~実施例12の磁気記録媒体は、比較例1および比較例2の磁気記録媒体と比較して、摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間が長く、耐摩耗性が良好であった。
これは、実施例1~実施例12の磁気記録媒体では、潤滑層を形成している式(1)で表される化合物中のR1およびR5のうち少なくとも一方が、炭素原子数1~8の鎖状有機基の1以上の水素がアミド結合を有する基で置換された基であり、R2およびR4が極性基を有する2価の連結基であることによるものであると推定される。
【0157】
(化学物質耐性試験)
以下に示す評価手法により、高温環境下において汚染物質を生成させる環境物質による磁気記録媒体の汚染を調べた。なお、以下に示す評価手法では、環境物質としてSiイオンを用い、環境物質によって生成された磁気記録媒体を汚染する汚染物質の量としてSi吸着量を測定した。
【0158】
具体的には、評価対象である磁気記録媒体を、温度85℃、湿度0%の高温環境下で、シロキサン系Siゴムの存在下に240時間保持した。次に、磁気記録媒体の表面に存在するSi吸着量を、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて分析測定し、Siイオンによる汚染の程度をSi吸着量として評価した。Si吸着量の評価は、比較例1の結果を1.00としたときの数値を用いて評価した。
【0159】
表1より、実施例1~実施例12の磁気記録媒体では、比較例1および比較例2の磁気記録媒体と比較して、Si吸着量が少なく、高温環境下において環境物質によって汚染されにくいことが明らかになった。
【符号の説明】
【0160】
10・・・磁気記録媒体、11・・・基板、12・・・付着層、13・・・軟磁性層、14・・・第1下地層、15・・・第2下地層、16・・・磁性層、17・・・保護層、18・・・潤滑層。