(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】リアガラス
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/32 20060101AFI20220909BHJP
【FI】
H01Q1/32 A
(21)【出願番号】P 2019558273
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044889
(87)【国際公開番号】W WO2019111996
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017234717
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】徳田 健己
(72)【発明者】
【氏名】大島 英明
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩輔
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-175290(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190064(WO,A1)
【文献】特開2008-005474(JP,A)
【文献】特開2000-013121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後部の樹脂製の跳ね上げ式バックドアに取り付けられるリアガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラス板の上下方向の中央付近に配置されるデフォッガと、
前記ガラス板において、前記デフォッガの上方に配置されるAMアンテナと、
を備え、
前記AMアンテナは、給電部と、前記給電部から延びるアンテナエレメントと、を有
し、
前記デフォッガの最上部と、前記バックドアに取付けられた前記ガラス板の上縁との距離が40~100mmである、リアガラス。
【請求項2】
車両後部の樹脂製の跳ね上げ式バックドアに取り付けられるリアガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラス板の上下方向の中央付近に配置されるデフォッガと、
前記ガラス板において、前記デフォッガの上方に配置されるAMアンテナと、
前記AM放送波以外の放送波を受信する少なくとも1つの追加アンテナと、
を備え、
前記AMアンテナは、給電部と、前記給電部から延びるアンテナエレメントと、を有し、
前記追加アンテナは、メインアンテナとサブアンテナとを備え、
水平方向において、前記AMアンテナは、前記メインアンテナと前記サブアンテナとの間に配置されている、リアガラス。
【請求項3】
前記ガラス板は、前記バックドアが閉じられた状態で、水平方向から45度以上の角度で設置される、請求項1
または2に記載のリアガラス。
【請求項4】
前記デフォッガの
最上部から前記AMアンテナまでの距離は、前記AMアンテナの上下方向の最大幅以下である、請求項
1に記載のリアガラス。
【請求項5】
前記AM放送波以外の放送波を受信する少なくとも1つの追加アンテナをさらに備えている、請求項1
または4に記載のリアガラス。
【請求項6】
前記追加アンテナは前記デフォッガの上方に配置されている、請求項5に記載のリアガラス。
【請求項7】
前記追加アンテナは、メインアンテナとサブアンテナとを備え、
水平方向において、前記AMアンテナは、前記メインアンテナと前記サブアンテナとの間に配置されている、請求項5または6に記載のリアガラス。
【請求項8】
前記追加アンテナは、FMアンテナである、請求項5から7のいずれかに記載のリアガラス。
【請求項9】
前記追加アンテナは、デジタルテレビ用アンテナである、請求項5から7のいずれかに記載のリアガラス。
【請求項10】
前記ガラス板において、前記デフォッガの下方に配置される、デジタルテレビアンテナ及びDABアンテナの少なくとも一方をさらに備えている、請求項1から9のいずれかに記載のリアガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後部の樹脂製のバックドアに取り付けられるリアガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の中には、バックドアと称するドアが取り付けられているものがある。このバックドアは、車両の後部の開口を閉じる跳ね上げ式のドアであり、ドアとリアガラスとが一体となっている。このようなバックドアは、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたバックドアにおいては、リアガラスに曇りを除去するためのデフォッガが取り付けられている。そして、リアガラスには、デフォッガを囲むようにAMアンテナが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、AM放送波は周波数が比較的低いため、受信感度を高めるには、設置面積を広くする必要がある。しかしながら、上記リアガラスには、デフォッガが配置されるため、設置面積を大きくすることができず、AMアンテナの受信感度を向上することは容易ではなかった。特に、跳ね上げ式のバックドアは、水平からの設置角度が大きく、垂直に近い状態で設置される。そのため、リアガラスの面積は小さく、アンテナの設置がより困難になっていた。
【0005】
また、本発明者らは、特に受信感度が下がると、指向性が問題となることを見出した。すなわち、十分に受信感度が高いと、ある程度指向性に偏りがあっても、全方向に対して一定以上の受信感度を得られるので、自動車の乗員は問題なくAM放送を聞くことができる。しかし、十分な感度を確保できない状態になると、指向性の偏りにより、自動車の向きによっては乗員がAM放送を聞きづらくなってしまうという問題があることが分かった。そして、自動車を運転する際には、自動車の向きは経時的に変化するので、常にAM放送を安定して聞くことができるようにするには、AMアンテナの指向性を全方位に対してできるだけ均一にする必要があることが分かった。
【0006】
このように、デフォッガが配置されているリアガラスにAMアンテナを配置することには種々の課題があり、AMアンテナでの受信性能の向上が要望されていた。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、AMアンテナの受信性能を向上することができ、特にAMアンテナの指向性を全方位に対して略均一にできるリアガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両後部の樹脂製の跳ね上げ式バックドアに取り付けられるリアガラスであって、ガラス板と、前記ガラス板の上下方向の中央付近に配置されるデフォッガと、前記ガラス板において、前記デフォッガの上方に配置されるAMアンテナと、を備え、前記AMアンテナは、給電部と、前記給電部から延びるアンテナエレメントと、を有する。
【0008】
上記リアガラスにおいて、前記ガラス板は、前記バックドアが閉じられた状態で、水平方向から45度以上の角度で設置されるように構成することができる。
【0009】
上記リアガラスにおいては、前記デフォッガの最上部と、前記バックドアに取付けられた前記ガラス板の上縁との距離を40~100mmとすることができる。
【0010】
上記リアガラスにおいては、前記デフォッガの上端から前記AMアンテナまでの距離を、前記AMアンテナの上下方向の最大幅以下にすることができる。
【0011】
上記リアガラスにおいては、前記AM放送波以外の放送波を受信する少なくとも1つの追加アンテナをさらに備えることができる。
【0012】
上記リアガラスにおいて、前記追加アンテナは前記デフォッガの上方に配置することができる。
【0013】
上記リアガラスにおいて、前記追加アンテナは、メインアンテナとサブアンテナとを備えることができ、水平方向において、前記AMアンテナは、前記メインアンテナと前記サブアンテナとの間に配置することができる。
【0014】
上記リアガラスにおいて、前記追加アンテナは、FMアンテナとすることができる。
【0015】
上記リアガラスにおいて、前記追加アンテナは、デジタルテレビ用アンテナとすることができる。
【0016】
上記各リアガラスでは、前記ガラス板において、前記デフォッガの下方に配置される、デジタルテレビアンテナ及びDABアンテナの少なくとも一方をさらに備えることができる。
【0017】
上記各リアガラスにおいては、前記AMアンテナの設置面積を0.005~0.05m2とし、前記AMアンテナに接続されるアンプの容量を10~30pFとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るリアガラスによれば、AMアンテナの受信性能を向上することができ、特にAMアンテナの指向性を全方位に対して略均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】
図1のバックドアのリアガラスの正面図である。
【
図7】実施例及び比較例の評価で用いる自動車のAMアンテナ測定サイトの平面図である。
【
図8】実施例に係るリアガラスのAMアンテナの受信感度を示すグラフである。
【
図9】比較例に係るリアガラスのAMアンテナの受信感度を示すグラフである。
【
図10】実施例及び比較例に係るAMアンテナの最高受信感度と最低受信感度との差を示すグラフである。
【
図11】実施例2~4に係るリアガラスを示す正面図である。
【
図12】実施例2~4に係るリアガラスにおける受信性能を示すグラフである。
【
図13】実施例5~10に係るリアガラスを示す正面図である。
【
図15】実施例におけるアンプの容量とAMアンテナの受信感度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るリアガラスが取付けられたバックドアの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係るバックドアの正面図、
図2は
図1のA-A線断面図、
図3は
図1のバックドアの分解斜視図である。なお、以下では、説明の便宜のため、各図の向きを基準に、例えば、
図1の上下方向を、上下方向または垂直方向、
図1の左右方向を、左右方向または水平方向と称することがある。但し、この向きは、本発明を限定するものではない。
【0021】
<1.バックドアの概要>
図1に示すように、本実施形態に係るバックドアは、例えば、ハッチバック式の車両後部の開口(図示省略)を閉じるものであり、この開口の上縁を構成する車両のルーフパネル(図示省略)の端部にヒンジ(図示省略)を介して取り付けられている。すなわち、跳ね上げ式のドアを構成している。具体的には、次のように構成されている。なお、以下の説明において、バックドアの各部位の方向を示すときには、特に断りのない限りは、開口を閉じた状態での方向を示すものとする。
【0022】
図1~
図3に示すように、このバックドアは、車内側に配置されるインナーパネル1と、このインナーパネルの車外側に取り付けられるアウターパネル21,22と、リアガラス3と、インナーパネル1の上部に配置される一対の強化フレーム4と、を有している。
【0023】
図3に示すように、インナーパネル1は、矩形状の本体部11と、この本体部11の上端部に取り付けられる一対の側縁部12と、両側縁部12の上端同士を連結する上縁部13と、を備えており、これらが一体的に形成されている。本体部11は、車両開口の下部を閉じる部分であり、車両開口を閉じたときには、概ね垂直方向に延びるように形成されている。一対の側縁部12は、本体部11の上縁の両側から斜め上方に向かって延びている。すなわち、上方にいくにしたがって、車両の前方に向かうように斜め方向に延びている。そして、上縁部13は、両側縁部12の上端同士を連結するため、本体部11の上縁、両側縁部12、及び上縁部13によって、矩形状の窓用開口部14が形成される。そして、この窓用開口部14を閉じるようにリアガラス3が取り付けられる。
【0024】
アウターパネルは、2つの部材、つまりアッパーパネル21とロアパネル22とで構成されている。アッパーパネル21は、インナーパネル1の上縁部13を覆う矩形状の部材である。また、ロアパネル22は、インナーパネル1の本体部11を覆う部材である。したがって、このアッパーパネル21とロアパネル22との間にリアガラス3が取り付けられる。
【0025】
両強化フレーム4は、左右対称の形状を有しているため、ここでは、左側の強化フレーム4についてのみ説明する。この強化フレーム4は、上下方向に延びる第1部位41と、この第1部位41の上端に連結され、右側へ水平に延びる第2部位42とを有し、これらが一体的に形成されたL字型の部材である。そして、この強化フレーム4は、インナーパネル1とアウターパネル21,22との間に配置される。すなわち、強化フレーム4の第1部位41は、インナーパネル1の側縁部12、及びこれに続く本体部11の上端付近と対応する領域に取り付けられる。一方、第2部位42は、インナーパネル1の上縁部13の左端部から中央付近に対応する領域に取り付けられる。したがって、2つの強化フレーム4により、インナーパネル1の本体部11の上端付近、両側縁部12、及び上縁部13が補強される。
【0026】
インナーパネル1、アッパーパネル21、ロアパネル22、強化フレーム4は、樹脂材料で形成されている。例えば、炭素繊維強化樹脂(CFRP)を採用することができる。但し、ロアパネル22はバックドアの剛性にあまり寄与しないため、ポリプロピレンなど樹脂材料で形成することができる。
【0027】
なお、上記開口部に嵌め込まれたリアガラス3の取付け角度は、特には限定されないが、例えば、水平方向から45度以上の角度で取付けられることが好ましく、特に、45~70度であることが好ましい。
【0028】
<2.リアガラスの概要>
次に、リアガラス3について、
図4を参照しつつ説明する。
図4はリアガラスの正面図である。
図4に示すように、このリアガラス3は、矩形状に形成され、上下方向に配置されるアッパーパネル21とロアパネル22との間で、インナーパネル1及び強化フレーム4に締結材(図示省略)などによって固定される。そして、リアガラス3上に、デフォッガ5、デジタルテレビ(DTV)アンテナ6、及びAMアンテナ7が、実装されている。
以下、各部材について、順に説明する。
【0029】
<2-1.ガラス板>
リアガラス3は、自動車用の公知のガラス板を利用することができる。例えば、ガラス板として、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラス若しくはグリーンガラス、又はUVグリーンガラスが利用されてもよい。ただし、このようなガラス板は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、日射吸収率、可視光線透過率などが安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0030】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0031】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2及びTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0032】
なお、ガラス板の種類は、クリアガラス又は熱線吸収ガラスに限られず、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、ガラス板は、アクリル系、ポリカーボネート系等の樹脂窓であってもよい。
【0033】
また、このリアガラス3は、インナーパネル1の形状に沿うように、適宜、湾曲した形状に形成される。そして、このようなリアガラス3は、単一のガラス板で構成するほか、複数のガラスにより樹脂などの中間膜を挟持した合わせガラスであってもよい。
【0034】
リアガラス3が取付けられるバックドアの上側ボディフランジ(リアガラス3の上辺と接する部分)から下側ボディフランジ(リアガラス3の下辺と接する部分)までの長さ、つまりリアガラス3の上下方向の長さは特には限定されないが、例えば、300mm~500mm程度とすることができる。
【0035】
<2-2.デフォッガ>
次に、デフォッガ5について説明する。
図4に示すように、デフォッガ5は、リアガラス3における上下方向の中央付近に配置されており、リアガラス3の左右方向全体に亘って延びるように形成されている。具体的には、このデフォッガ5は、リアガラス3の両側縁に沿って上下方向に延びる一対の給電用のバスバー51a,51bを備えている。両バスバー51a,51bの間には、水平方向に延びる複数の加熱線52が所定間隔をおいて平行に配置されており、バスバー51a,51bからの給電により、防曇用の熱が発生するようになっている。なお、このデフォッガ5には、複数の加熱線52と交差し、上下方向に延びる少なくとも1つの垂直線を設けることもできる。
【0036】
また、デフォッガ5の上下方向の長さは特には限定されないが、例えば、200mm~400mmとすることができる。また、デフォッガ5の上下方向の長さを、リアガラス3の上下方向の長さの65~85%の長さとすることもできる。さらに、上側ボディフランジとデフォッガ5の最上部(最も上方に配置されている加熱線52)との間の距離は、例えば、40mm~100mmとすることができる。
【0037】
<2-3.DTVアンテナ>
続いて、DTVアンテナ(デジタルテレビアンテナ)6について説明する。
図4に示すように、DTVアンテナ6は、デフォッガ5の下方に配置されており、芯線側エレメント(導電性線状エレメント)61と、アース側エレメント(導電性線状エレメント)62とで構成されている。芯線側エレメント61は、デフォッガ5の下方に配置された矩形状の芯線側給電部611と、この給電部611から右側へ延びる水平部612とを有している。一方、アース側エレメント62は、芯線側給電部611より左側に配置された矩形状のアース側給電部621と、この給電部621に接続されたアース本体622と、を備えている。アース本体622は、アース側給電部621の上端から左側へ延びる上側水平部、この上側水平部の左端から下方へ延びる垂直部、及びこの垂直部の下端から右側へ延び、アース側給電部621の下端に接続される第2水平部と、で構成されている。
【0038】
また、自動車には、デジタルテレビ用の受信機(図示省略)と、これに接続されたアンプ(図示省略)が設けられており、アンプに接続された同軸ケーブル(図示省略)の内部導体に、芯線側給電部611が接続されている。一方、同軸ケーブルの外部導体には、アース側給電部621が電気的に接続されている。
【0039】
<2-4.AMアンテナ>
続いて、AMアンテナ7について説明する。AMアンテナ7は、デフォッガ5の上方に配置されており、ガラス板3の左側に配置された給電部71と、この給電部71から延びるアンテナエレメント72と、を有している。アンテナエレメント72は、線状に形成され、水平方向が長手方向となる矩形状の領域を囲むように配置されている。そして、アンテナエレメント72の左側に給電部71が配置されている。
【0040】
AMアンテナ7の設置面積は、特には限定されないが、例えば、0.005~0.05m2であることが好ましく、0.01~0.03m2であることがさらに好ましい。バックドアにおいて、リアガラス3は、比較的鉛直方向に近い角度で設置されるため、上下方向の長さが比較的短くなっている。そのため、AMアンテナ7の設置面積は、上記のように小さくなっている。なお、設置面積とは、給電部71及びアンテナエレメント72の最外縁を構成する部分によって囲まれる面積である。例えば、本実施形態においては、給電部71及びアンテナエレメント72によって囲まれる矩形状の領域の面積である。
【0041】
また、デフォッガ5とAMアンテナ7との距離が近いとAM放送波にノイズがのるおそれがあるため、デフォッガ5の最上部とAMアンテナ7の最下部との間の距離は、20mm以上であることが好ましく、40mm以上とすることがさらに好ましい。また、上側フランジとAMアンテナ7の最上部との間の距離は、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがさらに好ましい。
【0042】
その一方で、受信感度の向上のためには、AMアンテナ7の設置面積は広いことが好ましい。そこで、AMアンテナ7の上下方向の最大長さを長くできるのであれば、多少のノイズの影響はあるものの、デフォッガ5とAMアンテナ7との距離を小さくすることができる(例えば、100mm以下)。この場合、例えば、デフォッガ5とAMアンテナ7との距離よりも、AMアンテナ7の上下方向の最大長さを長くすることが好ましい。
【0043】
また、AMアンテナ7の給電部71には、AMアンテナ用の受信機(図示省略)とこれに接続されたアンプ(図示省略)が接続されている。アンプの容量は、特には限定されないが、例えば、30pF以下とすることが好ましく、5~25pFとすることがさらに好ましい。これは、アンプの容量が小さい方が、受信電圧が高くなる、すなわち、受信感度が高くなるからである。但し、アンプの容量は、アンプを挟んでAMアンテナ7と反対側の電気回線にも影響があるため、その制約を受ける。このため、アンプの容量は、5pF以上で使われることが好ましい。
【0044】
<2-5.材料>
上記のようなデフォッガ5、DTVアンテナ6、及びAMアンテナ7は、線材を組み合わせることで構成されているが、これらは導電性を有する導電性材料をリアガラス3の表面に所定のパターンを有するように積層することで形成することができる。そのような材料としては、導電性を有していればよく、実施形態に適宜選択可能であり、一例として、銀、金、白金等を挙げることができる。具体的には、例えば、銀粉末、ガラスフリット等を含む導電性の銀ペーストをリアガラス3の表面に印刷し焼成することによって形成することができる。
【0045】
<3.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)電波受信の障害となる金属ではなく、樹脂材料によってバックドアが形成されているため、AMアンテナ7及びDTVアンテナ6の電波の受信感度を向上することができる。
【0046】
(2)跳ね上げ式バックドアは、上記のように水平から45度以上の角度で設置されることが多く、起立した状態に近いため、視界確保のためには、リアガラスの上部まで曇りを除去する必要がある。そのため、デフォッガ5を上方に広げる必要があり、これによって、デフォッガ5の上方の領域は狭くなる傾向にある。その一方で、AMアンテナ7は、周波数域が低いため、良好な受信感度を得るには、大きい設置面積が必要である。したがって、このようなバックドアにAMアンテナを設ける場合には、デフォッガ5の下方に設けるのが適切であると考えられる。これに対して、本実施形態では、AMアンテナ7の指向性を向上することを優先し、そのために、本発明者は、後述するように、AMアンテナ7をデフォッガ5の上方に配置することにより、指向性を向上できることを見出した。すなわち、本実施形態のように、AMアンテナ7をデフォッガ5の上方に配置することで、車両の向きによる受信感度のバラツキを低減することができる。
【0047】
(3)本発明者は、AMアンテナ7用のアンプ容量を小さくすることで、受信感度が向上することを見出した。上述したように、例えば、アンプ容量を30pF以下となるように小さくすることで、AMアンテナ7の設置面積が小さくても、受信感度を向上することができる。
【0048】
(4)リアガラス3は、下方にいくにしたがって後方に向かうように傾斜しているため、デフォッガ5よりも後方には金属が配置されていない。したがって、上記DTVアンテナ6は、デフォッガ5の下方に配置されているため、DTVアンテナ6よりも後方には金属、つまり電波を受信するに当たって障害となるものが配置されていない。したがって、車両後方からの電波を受信しやすくすることができ、受信感度を向上することができる。特に、DTVアンテナ6は、例えば、AM放送波やFM放送波に比べて高周波であるため、金属の影響を受けやすい。したがって、上記のような構成は、特にDTVアンテナ6の受信性能の向上に有利である。
【0049】
(5)デフォッガ5がDTVアンテナ6の後方に配置されると、アンテナの放射が上方へ打ち上げられる為、水平方向の感度は低下し、さらに感度はリアガラス3の取り付け角の影響を受ける。しかし、デフォッガ5がDTVアンテナ6の前方に配置されるので、リアガラス3の取り付け角に依らずアンテナ感度が確保できる。そのため、様々なリアガラスの取り付け角の自動車に同じ形状のDTVアンテナを適用することができるので汎用性が高い。
【0050】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0051】
<4-1>
上記AMアンテナ7の形態は、一例であり、エレメントの数、長さ、形状、方向などは、特には限定されず、種々の形態にすることができる。また、上記実施形態では、AMアンテナ7の全体がデフォッガ5よりも上方に配置されているが、AMアンテナ7のすべてがデフォッガ5の上方になくてもよく、例えば、AMアンテナ7の設置面積の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上がデフォッガ5の上方に配置されていればよい。したがって、AMアンテナ7の一部がデフォッガ5の側方や下方に配置されていてもよい。例えば、AMアンテナ7の主たる部分をデフォッガ5の上方に設置し、それ以外の部分をデフォッガ5の側方や下方に配置することができる。
【0052】
<4-2>
デフォッガ5の上方にAMアンテナ7以外の追加アンテナを配置することもできる。例えば、FMアンテナ、DTVアンテナ、DABアンテナ等の少なくとも1つを配置することができる。これらのアンテナは、一のアンテナで構成するほか、例えば、メインアンテナとサブアンテナとで構成することができる。この場合、水平方向において、メインアンテナとサブアンテナとの間に、AMアンテナ7を配置することができる。このようにすると、メインアンテナとサブアンテナとの間の距離を保つことができるため、受信性能を向上することができる。また、AMアンテナ7とFMアンテナとを一体化したAM/FM兼用アンテナを設けることもできる。
【0053】
<4-3>
上記DTVアンテナ6の形態は一例であり、エレメントの数、長さ、形状、方向などは、特には限定されない。また、DTVアンテナのほか、DABアンテナをデフォッガ5の下方に配置することもできる。その他、FMアンテナを配置することもできる。但し、本発明に係るリアガラスでは、少なくとも上述したAMアンテナ7が配置されていればよく、DTVアンテナ、DABアンテナ、FMアンテナは設けなくてもよい。
【0054】
<4-4>
デフォッガ5の形態も特には限定されず、少なくとも両側にバスバー51a,51bが配置され、これらバスバー51a,51bを結ぶ水平方向の複数の加熱線52が設けられていればよい。また、水平加熱線52と交差する少なくとも1つの垂直線が設けられていてもよい。
【0055】
<4-5>
バックドアの形態は、特には限定されず、樹脂製パネルを有し、この樹脂製パネルがリアガラス3が嵌め込まれる開口部が形成されていればよい。したがって、例えば、アッパーパネルとロアパネルとを一体化した1枚の樹脂製パネル、またはさらに複数のパネルを有するバックドアとすることもできる。
【0056】
また、バックドアを構成するパネルは、アンテナの受信感度の観点からは、すべて樹脂材料で形成されることが好ましいが、少なくとも一部の部位が金属で形成されてもよい。例えば、強化フレームを金属で形成したり、他のパネルの少なくとも一部を金属で形成することもできる。
【0057】
<4-6>
アンプは、車内に設ける以外に、ガラス板3上に配置されるものであってもよい。また、アンプを省略し、給電部と受信機を直接接続してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0059】
<1.AMアンテナの位置に関する考察1>
実施例1及び比較例1として、
図5及び
図6に示すパターンを有するリアガラスを準備した(単位はmm)。実施例1は、
図5に示すように、上記実施形態と対応している。
図6に示す比較例1が実施例1と相違するには、AMアンテナの位置であり、デフォッガの下方に配置されている。
【0060】
次に、上記のような実施例1及び比較例1に係るリアガラスを
図1及び
図2に示すバックドアを有する自動車に装着した上で、この自動車を
図7に示すAMアンテナ測定サイトに配置した。このAMアンテナ測定サイトでは、自動車の向きを4通りに変える4つのポイントを有している。そして、一般に放送されている530~1710kHzのAM放送波の7つの周波数(594、693、810、954、1134、1242、及び1458kHz)において、AMアンテナ測定サイトの4つのポイントにおける受信感度をそれぞれ測定した。すなわち、AMアンテナ測定サイト上で、90度毎の、4ポイントにおける受信電圧(受信感度)をそれぞれ測定した。
【0061】
結果は、
図8~
図10に示すとおりである。
図8は、実施例1に係る周波数毎のAM放送波の受信電圧(受信感度)、
図9は、比較例1に係る周波数毎のAM放送波の受信電圧(受信感度)である。また、
図10は、実施例1及び比較例1における、4つのポイントの最高受信電圧と最低受信電圧の差を、周波数毎に示している。
図10に示すように、比較例1は、実施例1に比べ、すべての周波数域で最高受信電圧と最低受信電圧の差が大きくなっている。すなわち、実施例1では、比較例1と比べて指向性に優れ、自動車の向きが変わっても、受信感度のバラツキを低減できることが分かった。
【0062】
<2.AMアンテナの位置に関する考察2>
次に、AMアンテナの設置面積と、デフォッガとの距離の関係について検討する。以下では、実施例2~4に係るリアガラスを準備した。実施例2~4は、
図11に示すA,Bの長さを以下通り変えたものである。AはAMアンテナの上下方向の距離、Bはデフォッガの最上部とAMアンテナの最下部との距離である。
【0063】
【0064】
上記実施例2~4について、上記と同様の方法で周波数が500,800,1100,1400,1700MHzにおける、上記4つのポイントの平均の受信電圧を算出した。結果は、
図12に示すとおりである。同図に示すように、AMアンテナの設置面積が大きければ、デフォッガとの距離が小さくても受信性能が高いことが分かった。特に、実施例4のように、AMアンテナの上下方向の長さを、AMアンテナとデフォッガとの距離よりも長くすると、受信性能がより高くなることが分かった。
【0065】
<3.AMアンテナの位置に関する考察3>
AMアンテナの位置について、実施例5~10について、ノイズの測定を行った。
図13は、実施例5~10に係るAMアンテナの位置を示している。リアガラスの水平方向の中線Lに対し、実施例6,9では、アンテナが左右対称に延びるように配置した。実施例5,8は中線Lから左側に450mm離れた位置から中央側に延びるように配置した。同様に、実施例7,10は中線Lから右側に450mm離れた位置から中央側に延びるように配置した。また、実施例5~7は、デフォッガから80mm離れた位置に配置し、実施例8~10は、デフォッガから40mm離れた位置に配置した。各AMアンテナの上下方向の長さは40mm、水平方向の長さは実施例5~7で100mm、実施例8~10で80mmとした。実施例5~7と、実施例8~10で長さを変えたのは、AMアンテナとして同等の受信ができるようにするための調整のためである。
【0066】
また、ノイズの測定は、以下のように行った。まず、実施例5~10のリアガラスを装着した自動車の位置を固定した状態で、ノイズ源となるリアワイパーのモータを作動させる。この状態で、AMの周波数帯全体(510KHz~1710KHz)において、約2KHz間隔で550点の周波数でノイズを測定し、その全測定値の平均を「ノイズ」とした。結果は、以下の通りである。
【0067】
【0068】
表2に示すように、AMアンテナは、デフォッガから離れている方がノイズが小さい。また、水平方向の中央よりも左右の端部に配置される方がノイズが小さいことが分かった。これは、車内から発生するノイズが、デフォッガを通じAMアンテナに影響を与えるからであると考えられる。また、バックドアは金属ではなく、樹脂材料で形成されているため、ドアの上端にAMアンテナが近づいても、受信の障害にはなりにくい。
【0069】
なお、追加アンテナとしてDTVを設ける場合には、指向性の観点から、水平方向の両端に配置することが好ましい。そこで、特にDTVアンテナとAMアンテナの両方をデフォッガよりも上方に配置する場合には、DTVアンテナの指向性の制約から、AMアンテナをデフォッガから離れた位置に配置し、かつ水平方向の中央付近に配置し、さらにDTVアンテナを水平方向の端部側に配置する事が好ましい。これにより、AM及びDTVの両方の放送波の受信性能を確保することができる。
【0070】
<4.AMアンテナの受信感度とアンプの容量との関係に関する考察>
実施例に係るリアガラスを用い、ダミー容量が異なる3種類のアンプ(容量が5pF,30pF,50pF)での受信レベルを測定し、容量が50pFのアンプを用いたときの受信レベルに基づいて、正規化を行った。より詳細には、530~1710kHzのAM放送波の594、693、810、954、1134、1242、1458kHzの7点において、受信感度を測定する。そして、各周波数について、
図7のAMアンテナ測定サイトの4つのポイントで測定する。4つのポイントでの測定値を平均した値を各周波数の受信感度とする。さらに、各周波数の受信感度については、アンテナ設置高相当である地上から約1.3mの高さに略直立した略600mmの正方形のループアンテナ(
図14参照)にて電界レベルを測定し、60dBμV/m中での誘起電圧値に換算した。
【0071】
結果は、
図15に示すとおりである。
図15では、容量の異なるアンプ仕様の放送波の受信電圧値を測定した結果である。同図に示すように、アンプの容量が小さくなるにしたがって、受信感度が向上していることが分かった。したがって、AMアンテナの設置領域が小さい場合でも、アンプの容量を小さくすることで、受信感度を向上できることが分かった。
【符号の説明】
【0072】
3 :リアガラス
5 :デフォッガ
6 :DTVアンテナ
7 :AMアンテナ