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特許7138704分散したナノ色素ミセルを含むインク及びそれから得られる印刷織物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】分散したナノ色素ミセルを含むインク及びそれから得られる印刷織物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/037 20140101AFI20220909BHJP
   D06P 1/44 20060101ALI20220909BHJP
   D06P 3/00 20060101ALI20220909BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20220909BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20220909BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220909BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C09D11/037
D06P1/44 Z
D06P3/00 E
C09B67/20 F
C09B67/46 B
B05D7/00 B
B05D7/24 301M
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020521333
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2018078388
(87)【国際公開番号】W WO2019076976
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】BE2017/5745
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520139583
【氏名又は名称】ファルベンプンクト,アイエヌシー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】シュテヴェニンク,エチエンヌ
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-210877(JP,A)
【文献】特開平11-236502(JP,A)
【文献】特開2006-328119(JP,A)
【文献】特開2010-059368(JP,A)
【文献】特開平04-227668(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073068(WO,A1)
【文献】特開2011-122160(JP,A)
【文献】特開2009-173805(JP,A)
【文献】特開2018-145366(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168486(WO,A1)
【文献】特開2007-161846(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101659808(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/037
D06P 1/44
D06P 3/00
C09B 67/20
C09B 67/46
B05D 7/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ色素ミセル(1)と、結合剤ポリマー(2)と、を含む水性インクであり、
前記ナノ色素ミセル(1)は、色素粒子(1a)と、前記色素粒子(1a)を覆うようにミセルを形成するポリマー分散剤(1b)と、を含み、
前記色素粒子(1a)は、ISO13320:2009によって決定されるように、150nmより大きく170nm未満である平均粒径を有し、
前記ポリマー分散剤(1b)は、少なくとも1つの親水性セグメントおよび少なくとも1つの疎水性セグメントを有する、ポリオキサゾリンのブロックコポリマーであり、
前記結合剤ポリマー(2)は、アクリル結合剤ポリマーであり、
前記結合剤ポリマー(2)は、少なくとも1つの親水性セグメントおよび少なくとも1つの疎水性セグメントを有する、前記ポリオキサゾリンのブロックコポリマーを含まず、
前記水性インクにおける前記結合剤ポリマー(2)の含有割合が、2.5重量%未満である、水性インク。
【請求項2】
前記水性インクにおける有機溶媒の含有割合が、前記水性インクの総重量を基準として0重量%以上15重量%未満、若しくは0重量%以上10重量%未満である、請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記水性インクの総重量に基づいて80~98重量%の量の水を含む、請求項1または2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記ポリマー分散剤(1b)が、4,000~50万g/mol若しくは6,000~30万g/molの数平均分子量を有する、請求項1~3のいずれかに記載の水性インク。
【請求項5】
前記ナノ色素ミセル(1a)が、前記水性インクの総重量に対して1.0~25.0重量%の量で若しくは3.0~10.0重量%の量で含まれる、請求項1~4のいずれかに記載の水性インク。
【請求項6】
前記水性インクがシランカップリング剤を実質的に含まない、請求項1~5のいずれかに記載の水性インク。
【請求項7】
前記水性インクがシリカ粒子を実質的に含まない、請求項1~6のいずれかに記載の水性インク。
【請求項8】
前記請求項1~7のいずれか一に記載の前記水性インクと織物(3)を接触させ、続いて前記水性インクを前記織物上に固定することによって得られる着色織物(3)。
【請求項9】
前記織物(3)が、羊毛、綿、絹、ポリプロピレン、ポリエステルまたはナイロンを含む群から選択される、請求項8に記載の色素入り織物(3)。
【請求項10】
i.ISO13320:2009により測定され、150nmより大きく170nm未満である平均粒径を有する前記色素粒子(1a)と、水中の前記ポリマー分散剤(1b)との高剪断混合により、前記ナノ色素ミセル(1)を得、
ii.前記ナノ色素ミセル(1)に前記結合剤ポリマー(2)および水を添加し、それによって前記水性インクを得ること、を含む、請求項1~7のいずれかに記載の水性インキの製造方法。
【請求項11】
高剪断混合の前に水の存在下で色素を前記色素粒子(1a)に湿式粉砕する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
織物材料(3)を印刷するための方法であって、以下の工程を含む、方法
i.請求項1~7のいずれか一に記載の前記水性インクを前記織物材料(3)上に塗布し、そして、
ii.乾燥によって前記水性インクを前記織物材料(3)上に固定する。
【請求項13】
前記織物材料(3)が工程iの前に前処理されない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程iの後に、前記織物材料(3)をすすぐ工程を実施しない、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素ナノ粒子およびそれから得られる印刷織物を含むインクの分野に関する。また、本発明は、前記インクを調製するための方法、および前記インクで織物を着色するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織物上の着色インクの色強度および堅牢度は一般に、インク混合物に添加されるポリマー結合剤の量によって制御される。しかしながら、布地の柔らかさを有害に変化させることなく、結合剤の添加を増加させることによって、印刷またはコーティングされた布地上に色素インクの良好な堅牢性を達成することは非常に困難である。ポリマー結合剤の量が良好な耐久性(または堅牢性)を示すのに十分に多い場合、布地の手触りは、硬くなるか、またはざらざらとしたものになる。布地の手触りを一定に保つために結合剤の量を減らすと、良好な堅牢度、特にクロッキングに対する堅牢度を達成することができない。
【0003】
織布または不織布のいずれかの織物は、衣類、ワイパーおよびおむつから自動車カバーまでの広範な用途に使用されている。これらの用途は、多様な特性および属性を有する材料を必要とする。
いくつかの用途は高度に湿潤性である布地、例えば、おむつおよび女性用衛生製品のための裏地を必要とし、衣類のように柔らかく、または拭くものおよびタオルのように吸収性であるが、他の用途は強度、例えば、自動車およびボートカバーのような保護布地を必要とし、さらに他の用途は例えば、滅菌ラップおよび外科用ガウンのような医学的に志向された布地のような忌避性およびバリア特性を必要とする。
【0004】
改良された織物印刷システムが文献に報告されている。国際公開第2006/130144号パンフレットは、色素および比較的少量の結合剤に加えてシリカナノ粒子およびシランカップリング剤を有する水性混合物を含む印刷組成物を記載している。シリカナノ粒子およびシランカップリング剤を含む少量のポリマー結合剤を使用することによって、インクの良好な耐色堅牢性および強い色強度を達成することができ、0.5~20重量パーセントのシランカップリング剤を含む約0.1~10重量パーセントのシリカナノ粒子が、アクリルまたはポリウレタンポリマー結合剤を含む着色インク系におけるクロッキングに対する堅牢性および色強度を改善することができることが見出された。この配合物はスクリーン印刷、ディジタル印刷、浸漬コーティング、スピンコーティング、またはポリエステル、ポリオレフィン、綿、ナイロン、絹などの疎水性および親水性布地上への噴霧のような当該技術分野で公知の無数の手段のいずれかによって適用することができ、布地は織布または不織布であってもよい。シランカップリング剤は有機ポリマーと無機シリカナノ粒子との間で架橋されると考えられ、カップリング剤の添加はコーティングされた布地の耐久性を高めることができ、一方、従来のインク配合物はアクリルおよびポリウレタン結合剤などのポリマー結合剤を添加することによって堅牢性を改善することに依存すると言われている。結合剤特性を改善するために、WO 2016/064810などの文献において、架橋性ポリウレタン結合剤が提案されている。
【0005】
残念ながら、多くの布地が使用される状態のために、完全に成功したインク組成物は開発されていない。また、このようなシステムは、米国特許出願公開第2014/0068877号明細書に記載されているような広範囲の前処理手順を必要とする。上述の方法はブリードを制御するために、ポリ(アクリル)酸、ポリ(アクリル)酸の親水性コポリマー、またはそれらの混合物を含有する前処理溶液を使用することを含む、織物上のインクジェット印刷に関する。さらに、現在の手順はエネルギー消費型の仕上げ手順(すなわち、乾燥工程を含む)を含む。
この点に関して、欧州特許第2 643 159号は第1のリールから布地を巻き戻すステップと、速度を補償し、デジタル印刷ステップが行われる支持手段を備えたコンベヤベルト上に布地を配置するために布地を広げるステップと、布地を乾燥させるステップと、第2のリール上に布地を巻き付けるステップとを含み、これらのステップは互いに対して順番に配置された対応するステーションで実行され、布地がコンベヤベルトに対して横方向に連続的に通過し、電子的に制御され、コンベヤベルトの動きと同期する印刷ヘッドを備えた複数のバーがある、布地等のためのデジタル印刷および仕上げ法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2006/130144号公報
【文献】国際公開第2016/064810号公報
【文献】米国特許出願公開第2014/0068877号公報
【文献】欧州特許第2 643 159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、適用が容易であり、室温で硬化し、最も一般的なクリーニング及び使用条件に曝されたときに布地上に残る、即ち、高い色強度及びクロック堅牢度を有するインク組成物を提供することが本発明の目的である。提供されるインク組成物で印刷される織物を提供すること、および該組成物で織物を印刷する方法を提供することが、別の目的である。本発明のさらなる目的は網羅的な前処理工程および後処理工程を必要としない、織物のための印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明がナノ色素ミセルを含む水性インクを提供し、前記ナノ色素ミセルは色素粒子と、前記色素粒子の周囲のポリマー分散剤とを含み、前記色素粒子はISO 13320:2009によって決定されるように、100nm~250nmの平均粒径を有する。
【0009】
第2の態様では、本発明が織物を本発明の第1の態様による水性インクと接触させ、続いて前記水性インクを前記織物上に定着させることによって得ることができる着色織物を提供する。
【0010】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを調製するための方法を提供し、以下の工程を含む:
i. ISO 13320:2009によって決定されるように、100nm~250nmの平均粒径を有する色素粒子と、水中のポリマー分散剤との高剪断混合によって、ナノ色素ミセルを得、それによって、前記ナノ色素ミセルに水を添加し、それによって、水ベースのインクを得る。
【0011】
第4の態様において、本発明は、織物材料を印刷するための方法を提供し、以下の工程を含む:
i. 本発明の第1の態様による水性インクを織物材料上に塗布し、
ii.前記水性インクを前記織物材料上に固定する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
さらなる指針により、図面は、本発明の教示をより良く理解するために含まれる。これらの図は本発明の説明を助けることを意図したものであり、本開示の発明を限定することを意図したものではない。
【0013】
ここに含まれる図面および記号は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0014】
図1図1は、ナノ色素ミセルの織物繊維への結合の概略図を示す。
図2図2は本発明によるナノ色素ミセルベースのインクを使用する、資源の多い、エネルギー効率のよい織物印刷プロセスの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
別段の定義がない限り、技術用語および科学用語を含む、本発明を開示する際に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。さらなる指針により、用語の定義は、本発明の教示をより良く理解するために含まれる。
【0016】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、以下の意味を有する:
本明細書で使用される「A」、「an」、および「the」は文脈が明確に別段の指示をしない限り、単数および複数の指示対象の両方を指し、例として、「コンパートメント」は、1つまたは複数のコンパートメントを指す。
【0017】
パラメータ、量、時間的持続時間などの測定可能な値を指す本明細書で使用される「約」は開示される発明で実行するのに適切である限り、特定の値の+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは+/-5%以下、さらにより好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下、および特定の値からの変動を包含することを意味する。しかし、修飾語句「約」が言及する値は、それ自体もまた、特に開示されることが理解されるべきである。
【0018】
本明細書で使用される「comprise含む」、「comprising含む」、「comprises含む」、および「comprised of含む」は、「include含む」、「including含む」、「includes含む」、「contain含む」、「containing含む」、または「contains含む」と同義であり、例えば、構成要素に続くものの存在を指定し、当技術分野で知られているか、または開示されている追加の非列挙構成要素、特徴、要素、部材、ステップの存在を排除または排除しない、包括的または限定されない用語である。
【0019】
終点による数値範囲の列挙は列挙された終点と同様に、その範囲内に包含されるすべての数および分数を含む。全てのパーセンテージは重量パーセンテージとして理解されるべきであり、特に定義されない限り、または異なる意味がその使用およびそれが使用される文脈から当業者に明らかでない限り、「重量%」と略される。
【0020】
高分子分散剤
本発明において使用されるポリマー分散剤は、少なくとも1つの親水性セグメント(A)および疎水性セグメント(B)をそれぞれ有するコポリマーである。
【0021】
親水性セグメントおよび疎水性セグメントを有する構造のポリマー分散剤は疎水性セグメントが水不溶性着色剤と相互作用し、一方親水性セグメントが親水性媒体中に溶解することにつながる強力な力を有し、着色剤を親水性媒体中に安定に分散させるために、その内部に水不溶性着色剤、好ましくはナノサイズ色素を含むことができる。この効果は比重の高い粒子に有用であるため、着色材と無機微粒子とを組み合わせたナノ色素や複合粒子により、粒子間に凝集のない安定した分散体を形成することができる。その結果、画像堅牢性、着色性、分散安定性、保存安定性に優れた水性インクを得ることができる。
【0022】
高分子分散剤における各セグメントの構成は、特に限定されない。しかしながら、着色剤の分散性を高める観点から、親水性セグメントはポリマー鎖の末端に位置することが好ましい。ブロック形態の実施例としてはAB、ABA'(AおよびA'は互いに同じであっても異なっていてもよい)、AA'BおよびBB'A型が挙げられる。A、A'、BおよびB'は、ホモポリマーまたはコポリマーのセグメントである。
【0023】
本発明に用いられる高分子分散剤は、ビニルエーテル型モノマーのホモポリマーまたはコポリマーからなる親水性セグメントと、ビニルエーテル型モノマーのホモポリマーまたはコポリマーからなる疎水性セグメントとを含むブロックコポリマーであってもよい。
【0024】
これらのポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位構造を有することが好ましい:
(1)
【化1】
【0025】
一般式(1)において、R1はアルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはシクロアルケニル基などの脂肪族または脂環式炭化水素基、または芳香族炭化水素基であり、その炭素原子は、フェニル、ピリジル、ベンジル、トルイル、キシリル、アルキルフェニル、フェニルアルキレン、ビフェニルまたはフェニルピリジル基などの窒素原子で置換されていてもよい。芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。R1は、好ましくは1~18個の炭素原子を有する。
【0026】
R1は、-(CH(R2)-CH(R3)-O)p-R4または&#8760;(CH2)m-(O)n-R4で表される基であってもよい。この場合、R2及びR3は互いに独立して、水素又はメチルであり、R4はアルキル、アルケニル、シクロアルケニル又はシクロアルケニル基のような脂肪族又は脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、その炭素原子は、窒素原子で置換されることができ、ここで、芳香環における水素原子は炭化水素基によって置換されえ、例えばフェニル、ピリジル、トリル、キシリル、アルキルフェニル、アルキルアルキレン、ビフェニル又はフェニルピリジル基、-CHO、-CH2CHO、-CO-CH=CH2、-CO-C(CH3)=CH2、-CH2-CH=CH2 -CH2=C(CH3)=CH2又は-CH2-COOR5であり、ただし、各基の水素原子は化学的に許容される範囲内で、フッ素、塩素、臭素のようなハロゲン原子で置換されていてもよい。そして、R4は好ましくは3~18個の炭素原子を有し、R5は水素またはアルキル基であり、pは好ましくは1~18であり、mは好ましくは1~36である。 nは、好ましくは0または1である。
【0027】
R1およびR5において、アルキル基およびアルケニル基の例としてはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、オレイルおよびリノレイル基が挙げられ、シクロアルキルおよびシクロアルケニル基の例としてはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチルおよびシクロヘキセニル基が挙げられる。
【0028】
あるいは、本発明において使用される前記ポリマー分散剤が、ホモまたはコポリエーテルブロックアミド、ポリオキサゾリンおよび/またはコポリアミドからなる親水性セグメントと、ホモまたはコポリエーテルブロックアミド、ポリオキサゾリンおよび/またはコポリアミドからなる疎水性セグメントとを含有するブロックコポリマーであってもよい。ポリエーテルブロックアミドまたはPEBAは、熱可塑性エラストマー(TPE)である。これは、カルボン酸ポリアミド(PA6、PA11、PA12)とアルコール末端ポリエーテル(ポリテトラメチレングリコールPTMG、PEG)との重縮合によって得られるブロックコポリマーである。好ましくは、本発明において使用される前記ポリマー分散剤が、ポリエーテルブロックアミドおよび/またはポリオキサゾリンの少なくとも親水性セグメントと、ポリエーテルブロックアミドおよび/またはポリオキサゾリンの少なくとも疎水性セグメントとを含有するブロックコポリマーを含む。
【0029】
本発明者らは驚くべきことに、本発明において使用される前記ポリマー分散剤が好ましくは、コポリアミドから構成される親水性セグメントと、コポリアミドから構成される疎水性セグメントとを含有するブロックコポリマーであることを見出した。コポリアミドはそれらの優れた融解温度、種々の異なる基材に対する非常に良好な接着特性、加工が容易であり、環境に優しく、水蒸気および酵素洗浄のような洗浄および(化学)洗浄処理、ストーンウォッシュおよび染色後処理、ならびに高い耐熱性に対して高い耐性を示すので、熱可塑性材料として特に好ましい。そのようなものとして、コポリアミドが特に好ましい材料である。より好ましい実施形態では、前記コポリアミドがVICAT方法ASTM-D1525に従って測定して、90℃~140℃、より好ましくは100℃~130℃、さらにより好ましくは105℃~125℃の軟化点を有する。最も好ましい実施形態では、前記コポリアミドが110℃~120℃、例えば、110℃、112℃、114℃、116℃、118℃もしくは120℃、またはそれらの間の任意の値の軟化点を有する。これは、コポリアミドが約80℃のより高い微気候温度に対して十分に耐性であり、約130℃~150℃の処理温度で十分に溶融されることを確実にする。
【0030】
本発明者らは、代わりに、本発明において使用される前記ポリマー分散剤が好ましくは、ポリオキサゾリンから構成される親水性セグメントと、ポリオキサゾリンから構成される疎水性セグメントとを含有するブロックコポリマーであることを見出した。ポリオキサゾリンは良好なクロック堅牢度および良好な昇華堅牢度、種々の異なる基材に対する非常に良好な接着特性のために特に好ましく、加工が容易であり、環境に優しく、洗浄および染色後処理に対して高い耐性を示す。そのようなものとして、ポリオキサゾリンが特に好ましい材料である。より好ましい実施形態では、前記ポリオキサゾリンがVICAT方法ASTM-D1525に従って測定して、90℃~140℃、より好ましくは100℃~130℃、さらにより好ましくは105℃~125℃の軟化点を有する。最も好ましい実施形態では、前記ポリオキサゾリンが110℃~120℃、例えば110℃、112℃、114℃、116℃、118℃もしくは120℃またはそれらの間の任意の値の軟化点を有する。これは、ポリオキサゾリンが約80℃のより高い微気候温度に対して十分に耐性であり、約130℃~150℃の処理温度で十分に溶融されることを確実にする。
【0031】
本発明におけるブロック共重合体に含まれる親水性セグメントおよび疎水性セグメントの割合は、それぞれ10~90モル%および90~10モル%であることが好ましい。
【0032】
ブロックコポリマーの数平均分子量は、好ましくは500~2,000万g/mol、より好ましくは1,000~2,000万g/mol、最も好ましくは2,000~500,000g/molである。さらにより好ましくは、ブロックコポリマーの前記数平均分子量が3,000~10万g/mol、より好ましくは3,500~5万g/mol、最も好ましくは4,000~3万g/molである。特に好ましい実施形態では、前記ブロックコポリマーが500g/mol、1,000g/mol、2,000g/mol、4,000g/mol、6,000g/mol、8,000g/mol、1万g/mol、12,000g/mol、14,000g/mol、16,000g/mol、18,000g/molまたは2万g/molの数平均分子量を有する。さらにより好ましい実施形態では、前記ブロックコポリマーが500g/mol、750g/mol、1,000g/mol、2,000g/mol、3,000g/mol、4,000g/molまたは5,000g/molの数平均分子量を有する。
【0033】
これらのブロックコポリマーは、別のポリマーにグラフト結合されてもよく、または別の繰り返し単位構造と共重合されてもよい。
【0034】
ビニルエーテル系ポリマーブロックを有する共重合体の合成方法は、特に限定されない。ただし、青島等によるカチオン性リビング重合(特開平11-322942号公報、特開平11-322866号公報)等を用いることが好ましい。カチオン性リビング重合法を用いることにより、ホモポリマー、2種以上のモノマーからなるコポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー、メスポリマー等の種々のポリマーを、鎖長(分子量)を正確に均一にして合成することができる。また、ポリビニルエーテルは、その側鎖に種々の官能基を導入することができる。ポリエーテルブロックアミド、ポリオキサゾリンおよびコポリアミドからなるブロックコポリマーの合成方法は、最新技術に十分に記載されている。
【0035】
本発明におけるインクに含まれるブロック共重合体の割合は、インクの総重量に対して、0.001~40重量%であることが好ましく、0.01~20重量%であることがより好ましい。ブロック共重合体の量が0.001~40重量%であると、良好な耐擦り落ち性を有する画像を得ることができ、インクの粘度が高くなりすぎないため、良好な吐出安定性を示す。
【0036】
色素粒子
本発明で使用される着色剤は天然および/または合成起源の色素粒子であり、有機および/または無機粒子から構成されてもよく、好ましくは水または水性媒体に不溶性である。
【0037】
無機色素粒子は、これらに限定されるものではないが、以下から選択することができる:
紫色色素: 硫黄を含有するナトリウムおよびアルミニウムのウルトラマリンバイオレット(PV15)シリケート、Han Purple BaCuSi2O6、コバルトバイオレット(PV14)オルトリン酸コバルト、マンガンバイオレットNH4MnP2O7(PV16)ピロリン酸マンガンアンモニウム;
青色色素: ウルトラマリン(PB29)、ペルシャンブルー、コバルトブルー(PB28)及びセルシャンブルー(PB35)コバルト(II)スタンネート、エジプトブルー ケイ酸カルシウム銅の合成色素(CaCuSi4O10)、ハンブルーBaCuSi4O10、アズライ石炭酸銅水酸化物(Cu3(CO3)2(OH)2)、プルシアンブルー(PB27) ヘキサシアノ鉄酸第二鉄(Fe7(CN)18)の合成色素、YInMnブルー(YIn1-xMnxO3)、選択したフタロシアニン銅;
緑色色素: クロムグリーン(PG17)酸化クロム(Cr2O3)、ビリディアン(PG18) 水和クロム酸化物の暗緑色色素(Cr2O3-H2O)、リンマングリーンまたは亜鉛グリーンとしても知られるコバルトグリーン(CoZnO2)、マラカイト炭酸銅水酸化物(Cu2CO3(OH)2)、パリグリーン銅アセトアルセナイト(Cu(C2H3O2)2・3Cu(AsO2)2)、シエルグリーン(シュロスグリーンとも呼ばれる):亜ヒ酸銅(CuHAsO3)、ベルディグリス 様々な難溶性銅塩、特に酢酸銅(Cu(CH3CO2)2)およびマラカイト(Cu2CO3(OH)2)、選択された銅フタロシアニン、テルバートおよびベロナグリーンとしても知られる緑土類(K[(Al, FeIII),FeII,Mg](AlSi3,Si4)O10(OH)2);
黄色色素: オーレオリン(コバルトイエローとも呼ばれる)(PY40)亜硝酸コバルトカリウム(K3Co(NO2)6)、黄色オクレ(PY43)一水和酸化第二鉄(Fe2O3・H2O)、チタンイエロー(PY53)、モザイク金:硫化第二錫(SnS2);
赤色色素: Sanguine、Caput Mortuum、Indian Red、Venetian Red、Oxide Red(PR102)、Red Ochre(PR102)、無水Fe2O3、Burnt Sienna(PBr7);
褐色色素: 未処理ウンバー(PBr7)酸化鉄、酸化マンガンおよび酸化アルミニウムからなる天然粘土色素: Fe2O3 + MnO2 + nH2O+Si + AlO3、未処理Sienna(PBr7)褐鉄鉱粘土;
黒色色素: カーボンブラック(PBk7)、アイボリーブラックIvory black(PBk9)、ブドウブラックVine black(PBk8)、ランプブラックLamp black(PBk6)、マーズブラックMars black(鉄黒IronBlack)(PBk11)(C.I.No.77499)Fe3O4、二酸化マンガン(MnO2)、酸化チタン(III)(Ti2O3);
白色色素: 酸化スティボウス(Sb2O3)、硫酸バリウム(BaSO4)、リトポン(BaSO4*ZnS)、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)。
【0038】
本発明で使用される前記無機色素は、酸化物、窒化物、塩化物、硫酸塩、炭酸塩などを適用することができる。色素の使用は特に複数回の洗浄サイクルが必要とされる場合に、耐色性が改善され、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムまたは酸化鉄支持体のような支持体材料への着色材料の結合を結合または強化するために、アルコキシシラン、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤が必要とされないという点で、本発明に追加される。前記無機色素の具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0039】
同様に、アゾ色素、フタロシアニン、キアクリドン、ジアリールピロロピロール、リトール、トルイジン誘導体、ピラゾロン、ジニトロアニリン、ハンサイエロー、インダンスレン、ジオキサジンおよびベンズイミダゾロンなどの、当業者に知られている有機色素粒子を選択することができるが、これらに限定されない。
【0040】
色素粒子の形態は特に限定されない。色素粒子の大きさに関しては、平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.25μm以下であることがより好ましい。好ましい平均粒径を有する前記色素粒子は、市販の色素粒子を粉砕することによって、すなわちボールグラインダーを使用して、所定のサイズにすることによって得ることができる。
【0041】
インクに含まれる色素粒子の割合は、インクの総重量に対して、0.1~20重量%であることが好ましく、1~15重量%であることがより好ましく、1~10重量%であることが最も好ましい。より好ましくは前記色素粒子が1~5重量%、さらにより好ましくは1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、または5重量%の量、またはそれらの間の任意の量でインク中に含まれ、複合粒子の量が0.1~20重量%である場合、得られるインクは好ましい画像濃度を有する印刷物を提供することができる。
【0042】
結合剤ポリマー
好ましい実施形態では、本発明が前記水性インクの総重量に対して20重量%未満、好ましくは10重量%未満の量の結合剤をさらに含む、本発明の第1の態様による水性インクを提供する。より好ましくは、前記結合剤が前記水性インクの総量に対して5重量%未満、好ましくは3重量%未満の量で含まれる。より好ましくは、前記結合剤が2.5重量%未満、2.0重量%未満、1.5重量%未満、1.0重量%未満、またはさらに0.5重量%未満の量で含まれる。最も好ましくは、結合剤は前記水性インク中に含まれない。前記結合剤は非限定的に、アクリル酸、アルキド、セルロース誘導体、ゴム樹脂、ケトン、マレイン酸、ホルムアルデヒド、(イソシアネートを含まない)ポリウレタン、エポキシド、フマル酸、炭化水素、ポリビニルブチラール、ポリアミド、シェラックおよびフェノール酸から選択される1つ以上の結合樹脂を含んでもよい。当業者は光沢および耐熱性、化学薬品および耐水性などの所望の特性を得るために、適切な結合剤または結合剤の組み合わせをどのように選択するかを知っているのであろう。
【0043】
一実施形態では前記結合剤が組成物の全重量に対して0.5~2.5重量%の量で含まれ、前記ポリマー分散剤は4,000~3万g/mol、好ましくは4,000g/mol、6,000g/mol、8,000g/mol、1万g/mol、12,000g/mol、14,000g/mol、16,000g/mol、18,000g/molまたは2万g/molの数平均分子量を有する。好ましくは、前記結合剤が1.0~2.0重量%の量、より好ましくは1.1、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9または2.0重量%の量、またはその間の任意の量で含まれる。このようなインクを使用すると、従来技術のインクと比較して、より良好なクロック堅牢度が得られることが見出された。
【0044】
別の実施形態では前記結合剤が組成物の全重量に対して0.5重量%未満の量で含まれ、前記ポリマー分散剤は4,000g/mol、6,000g/mol、8,000g/mol、1万g/mol、12,000g/mol、14,000g/mol、16,000g/mol、18,000g/mol、またはさらに2万g/molを超える数平均分子量を有する。好ましくは、前記結合剤が0.25重量%未満、0.10重量%未満、0.05重量%未満、またはさらに0.01重量%未満の量で含まれる。最も好ましくは、前記結合剤が前記インク中に含まれない。好ましくは、前記ポリマー分散剤が2万g/mol、25,000g/mol、3万g/mol、4万g/mol、45,000g/mol、または5万g/molを超える数平均分子量を有する。このようなインクを使用すると、従来技術のインクと比較して、より良好なクロック堅牢度が得られることが見出された。
【0045】
液体媒体
本発明の水性インクの主な溶媒は水である。水としては、蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。インク中の水の割合は、インクの総重量に対して、好ましくは60~98重量%、より好ましくは70~98重量%、さらにより好ましくは80~98重量%、最も好ましくは80~96重量%である。特に好ましくは、前記インクが少なくとも81重量%、少なくとも83重量%、少なくとも85重量%、少なくとも87重量%、少なくとも89重量%または少なくとも91重量%、および最大98重量%、最大97重量%、最大96重量%または最大95重量%の含水率を有する。
【0046】
本発明の水性インクの溶媒は、水以外の水溶性有機物を含んでいてもよい。本発明のインクをインクジェットプリンターに用いる場合、有機物は、オリフィスでの乾燥によるインクの固化防止に作用する。その具体例としては、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール;エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、チオジグリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオールおよびポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル;グリセロール、1,2,4-ブタントリオールなどのポリオールが挙げられる。1,2,5-ペンタネトリオール、1,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール;テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール、グリセロールモノアリルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、ガンマ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、尿素、βジヒドロキシエチル尿素、アセトニルアセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドとフェノキシエタノール。これらの有機物質は水に溶解するものであれば、固体でも液体でもよい。有機物は水よりも沸点が高いことが望ましく、120℃以上の沸点を有することがより望ましく、その理由は水が蒸発するような状態であってもインク中に留まることが必要であるからである。ただし、高分子分散剤との相互作用により、単独で存在する場合に比べて蒸発しにくくなるため、高沸点物質に限定されない。これらの有機物は単独で用いてもよいし、任意の組み合わせで用いてもよい。インク中のこれらの有機物質の割合は、インクの総重量を基準にして50重量%未満、好ましくは25重量%未満、好ましくは20重量%未満、好ましくは15重量%未満、好ましくは12重量%未満、好ましくは10重量%未満、好ましくは7重量%未満、より好ましくは5重量%未満、さらには3重量%未満、さらには1重量%未満である。最も好ましくは、水性インクは前記有機物質を含まない。有機溶剤の量を減らすことにより、より環境にやさしいインクを得ることができる。
【0047】
水性インキ
本発明は上述のように、色素ナノ粒子およびそれから得られる印刷された織物を含む水性インクを提供することによって、上述の問題の少なくとも1つに対する解決策を提供する。
【0048】
第1の態様では、本発明がナノ色素ミセルを含む水性インクを提供し、前記ナノ色素ミセルは色素粒子と、前記色素粒子の周囲のポリマー分散剤とを含み、前記色素粒子はISO 13320:2009によって決定されるように、100nm~250nmの平均粒径を有する。
【0049】
本発明者らは独自に開発されたポリマー分散剤が水性媒体中で色素粒子の高い安定性を提供し、さらに、記録媒体、より具体的には印刷された織物への色素粒子の接着性を高めることを見出した。また、本発明者らは前記色素粒子の平均粒径が好ましくは可能な限り小さく、すなわち250nm未満であるが、前記色素粒子は十分に高い、すなわち100nmより大きい平均粒径を有するべきであることを見出した。機械論に拘束されるものではないが、十分に小さな色素粒子が織物により良く浸透し、一方、十分に大きな色素粒子が記録媒体、すなわち織物、微細構造内により良く封入されることが合理化される。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、それによって、前記色素粒子は110nmを超える、好ましくは120nmを超える、130nmを超える、140nmを超える、さらには150nmを超える平均粒子サイズを有する。より高い平均粒径は、インク上に印刷または染色される印刷された織物からの色素粒子のより少ない浸出を示すことが見出された。これは、色素粒子の記録材料への、より具体的には織物繊維への改善された浸透によって理解することができる。その結果、複数回の洗浄サイクルの後に、より良好な色堅牢度が得られる。図1はテキスタイル基材(3)への結合を改善するために、色素粒子(1a)およびポリマー分散剤(1b)の層からなるナノ色素ミセル(1)を概略的に示す。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記色素粒子は200nm未満、好ましくは190nm未満、180nm未満、さらには170nm未満の平均粒径を有する。より低い平均粒径は、印刷または着色工程の間に色素粒子のより良好な浸透を示すことが見出された。その結果、より多くの色素粒子を記録材料、より具体的には織物に吸着させることができる。
【0052】
最も好ましくは、前記色素粒子が約150nm、152nm、154nm、156nm、158nm、160nm、162nm、164nm、166nm、168nmもしくは170nm、またはそれらの間の任意の値の平均粒子サイズを有する。前記寸法を有する色素粒子は、記録媒体、すなわち印刷された織物に対して最適化された浸透および保持特性を提供することが示されている。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、それによって、前記ナノ色素ミセルは前記色素粒子と前記ポリマー分散剤との高剪断混合によって得られる。前記ポリマー分散剤の存在下での前記色素粒子の高剪断混合は前記色素粒子へのポリマー分散剤の非常に高い接着を可能にし、したがって、非常に安定なナノ色素ミセルを形成する。
【0054】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ナノ色素ミセルは1000nm未満、好ましくは750nm未満、500nm未満、さらには400nm未満の平均粒径を有する。ナノ色素ミセルの平均粒径および粒度分布は、Mastersizer 3000レーザー回折粒度分析器を用いて測定する。低い平均粒径は、良好な印刷適性および印刷品質にとって重要であることが見出された。また、より多くの色素粒子を記録材料、より具体的には織物に吸着させることができる。
【0055】
最も好ましくは、前記ナノ色素ミセルが約150nm、160nm、170nm、180nm、190nm、200nm、210nm、220nm、230nm、240nmもしくは250nm、またはそれらの間の任意の値の平均粒子サイズを有する。前記寸法を有するナノ色素ミセルは、記録媒体、すなわち印刷された織物に対して最適化された浸透および保持特性を提供することが示されている。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記水性インクは25℃でブルックフィールド粘度計で測定して1 mPa.s~15mPa.sの粘度を有する。より好ましくは、前記粘度が2 mPa.s~14mPa.sの間に含まれる。最も好ましくは、前記粘度が2 mPa.s、4 mPa.s、6 mPa.s、8 mPa.s、10 mPa.s、12 mPa.s、14 mPa.sまたはそれらの間の任意の値である。最も好ましくは、前記水性インクが4 mPa.s~6mPa.sの粘度を有する。このような粘度は、印刷目的に特に適していることが見出された。最適な粘度は、当業者に知られているように粘度調整剤を適用することによって、および/または結合ポリマー剤の分子量を減少させることによって達成することができる。
【0057】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記水性インクは25℃で7~10のpHを有する。より好ましくは、前記粘度は7~9である。最も好ましくは、前記粘度が7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8もしくは9.0、またはそれらの間の任意の値に等しい。
【0058】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ポリマー分散剤は少なくとも1つの親水性セグメントおよび少なくとも1つの疎水性セグメントを有する、ポリビニルエーテル、ポリエーテルブロックアミド、ポリオキサゾリンおよび/またはコポリアミドのブロックコポリマーである。
【0059】
より好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ポリマー分散剤はポリオキサゾリンおよび/またはコポリアミドを含むABAブロックコポリマーである。
【0060】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ポリマー分散剤は4,000~50万g/mol、好ましくは6,000~30万g/molの数平均分子量を有する。好ましくは、前記インクが前記水性インクの総量に対して5重量%未満、好ましくは3重量%未満、より好ましくは2重量%未満、さらにより好ましくは1重量%未満の量の結合剤ポリマーをさらに含む。最も好ましくは、前記水性インクは結合剤ポリマーを含まない。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ポリマー分散剤は、少なくとも1つの親水性セグメントおよび少なくとも1つの疎水性セグメントを有するポリビニルエーテルのブロックコポリマーである。
【0062】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ポリマー分散剤はポリプロピレンオキシドBセグメントおよびポリエチレンオキシドAセグメントを含むABAブロックコポリマーである。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、前記ポリマー分散剤は少なくとも4,000g/mol、好ましくは少なくとも6,000g/molの数平均分子量を有する。Bセグメント重量の十分に高い数平均分子は、色素粒子に対するBセグメントの十分に高い接着性を保証し、一方、Bセグメント重量の十分に高い数平均分子は、水性媒体中のミセルの十分に高い安定性を保証する。
【0064】
分散安定性および包接性を向上させるためには、ブロック共重合体の分子運動が、水不溶性色素粒子の表面と物理的に絡み合いやすくなり、色素粒子との親和性を有するため、より柔軟であることが好ましい。ブロックコポリマーは、また、記録媒体上の疎水性セグメントの絡み合いおよび/または融合の観点から、好ましくは可撓性である。したがって、ISO 11357-2:プラスチック-示差走査熱量測定-第2部:ガラス転移温度の測定(1999)に従って測定される、ブロック共重合体の主鎖のガラス転移温度Tgは、好ましくは20℃以下、より好ましくは0℃以下、さらにより好ましくは-20℃以下である。この点で、ポリビニルエーテル構造を有するポリマーは、一般にガラス転移点が低く、柔軟性があるため、好ましく用いられる。
【0065】
また、包含状態を実現するために、本発明に用いられるブロック共重合体の好ましい形態は、数平均分子量の観点から、比較的高分子量、すなわち6,000以上、好ましくは9,000以上、より好ましくは15,000以上のポリマーである。疎水性セグメントの数平均分子量は、4,000以上、好ましくは6,000以上である。このような形態とすることにより、ブロック共重合体は安定なナノ色素ミセル構造を形成しやすく、ナノ色素ミセルのコア部に色素粒子を含有させることにより、色素粒子を良好に分散させることができる。含有状態の確認は、種々の電子顕微鏡やX線回折等の機器分析により行うことができる。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、それによって、前記ナノ色素ミセルは、10重量%~90重量%の前記色素粒子と90重量%~10重量%の前記ポリマー分散剤とから、好ましくは40重量%~60重量%の前記色素粒子と60重量%~40重量%の前記ポリマー分散剤とから構成される。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、それによって、前記ナノ色素ミセルは前記水性インクの総重量に対して1.0~25.0重量%の量で、好ましくは1.0~10.0重量%の量で、より好ましくは1.0~5.0重量%の量で、例えば、1.0重量%、2.0重量%、3.0重量%、4.0重量%または5.0重量%の量で含まれる。本発明によるインク中の十分に多量のナノ色素ミセルは、印刷または染色時に十分に高い色強度を可能にする。同時に、本発明によるインク中のナノ色素ミセルの量が多すぎる場合、水性インクは、記録媒体上に適切に印刷するには粘性が高くなりすぎることがある。
【0068】
本発明のインクには、上記成分の他に、可塑剤、ワックス、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤、防カビ剤、乾燥剤、キレート剤、アルカリ剤、消泡剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、それによって、前記水性インクはシランカップリング剤を実質的に含まない。また、好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを提供し、それによって、前記水性インクはシリカ粒子を実質的に含まない。
【0070】
本発明のインクは、インクにエネルギーを与えて吐出させて記録を行うインクジェット記録方式に好適に用いることができる。エネルギーとしては、熱エネルギーや機械エネルギーを用いることができる。しかしながら、熱エネルギーを用いる方法が特に好ましい。インクジェット記録用プリンタは、主にA4サイズの用紙が使用される家庭用プリンタ、名刺・カード用プリンタ、業務用大型プリンタ等に適用することができる。しかし、特に高い画像堅牢性が要求され、多量のインクを使用する大規模プリンタに好適に使用される。本発明のインクを用いて記録を行う記録媒体としては、例えば、特別なコーティングが施されていない普通紙、少なくとも一面にインク受容層がコーティングされた、いわゆるインクジェット用紙、はがき、名刺用紙、ラベル用紙、段ボール、インクジェット用フィルム等が挙げられる。
【0071】
第2の態様では、本発明は、織物を本発明の第1の態様による水性インクと接触させ、続いて前記水性インクを前記織物上に定着させることによって得ることができる着色織物を提供する。接触工程は、印刷または含浸工程であってもよい。定着工程は本質的に、織物基材上に塗布された水性インクの乾燥からなる。
あるいは、本発明は、物品を本発明の第1の態様による水性インクと接触させ、続いて前記水性インクを前記物品上に定着させることによって得ることができる着色物品を提供する。前記物品は、紙、プラスチック、木材、木材ベニヤ等であってもよい。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第2の態様による着色織物を提供し、前記織物は羊毛、綿、絹、ポリプロピレン、((超)高分子量)ポリエチレン、脂肪族ポリアミド(すなわち、ナイロン-6、ナイロン-6,6)などのポリアミド、および芳香族ポリアミド(すなわち、Kevlar(登録商標)、Nomex(登録商標))、ビスコース、セルロース、またはポリエステルを含む群から選択される。本発明者らは、様々な織物基材材料が本発明による水性インクを使用して効率的に印刷または染色されたことを見出した。これは、単なる接着ではなく、ポリマー分散剤と織物基材との絡み合いによる物理的結合に基づくナノ色素ミセルの普遍的な結合メカニズムによって合理化することができる。
【0073】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第2の態様による着色テキスタイルを提供し、それによって、前記テキスタイルは前記テキスタイルを前記水性インクと接触させる前に前処理されない。ナノ色素ミセルの織物基材への結合の様式に起因して、本発明者らは、織物基材のさらなる前処理が必要とされないことを見出した。さらに、前処理ステップがないことにより、1つの印刷または染色プロセスラインが印刷または染色プロセスを中断する必要なしに、異なる基材材料を印刷または染色することが可能になる。これは、図2に示されており、図2は各々が異なる織物材料(すなわち、ポリエステル、ポリアミドおよび綿)を有する複数のロール11、12、13を示している。特定の繊維材料はフィーダロール20に供給され、フィーダロール20とプリンタ30との間の追加の前処理ステップなしにデジタルプリンタ30に供給される。印刷工程の後、材料は直ちに定着ユニット40に供給され、最後に受容ロール50に導かれる。
【0074】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第2の態様による着色テキスタイルを提供し、それによって、前記テキスタイルは前記テキスタイルを前記水性インクと接触させた後にすすがれない。本発明者らは、本発明による水性インクの高度の定量的な結合も見出した。その結果、ナノ色素ミセルを基材に固定する前にリンス工程を必要としなかった。織物材料が洗浄される前記すすぎ工程を回避することは、プロセスがインク組成物中に存在する水以外の水を必要としないという点で有利である。また、すすぎ工程を回避することは、基材または織物基材が追加の乾燥工程を必要としないという点で有利である。
【0075】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを調製するための方法を提供する:
i. ISO 13320:2009によって測定されるように、100nm~250nmの平均粒径を有する色素粒子と、水中のポリマー分散剤との高剪断混合によって、ナノ色素ミセルを得、そして、
ii. 前記ナノ色素ミセルに水を添加し、それによって、水ベースのインクを得る。
【0076】
高剪断混合の第1の工程は、色素粒子の周りにポリマー分散剤の層を形成することを可能にする。この工程は、乾燥条件下または湿潤条件下、すなわちある量の水の存在下で行うことができる。水を添加する第2のステップは、印刷目的のための所望の濃度および/または粘度を有する水性インクを得ることを可能にする。
【0077】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による水性インクを調製するための方法を提供し、それによって、色素は高剪断混合の前に、水の存在下で前記色素粒子に湿式粉砕される。これは、ナノ粒子の安全な取り扱いを可能にするために有利である。具体的には、ナノ粒子を取り扱うための追加の手段は必要とされない。
【0078】
第4の態様において、本発明は、織物材料を印刷するための次の工程を含む方法を提供する:
i. 本発明の第1の態様による水性インクを織物材料上に塗布し、
ii.前記水性インクを前記織物材料上に固定する。
【0079】
好ましい実施形態において、本発明は織物材料を印刷するための方法を提供し、それによって、前記織物材料は、工程iの前に前処理されない。また、好ましい実施形態では、本発明が織物材料を印刷するための方法を提供し、それによって、前記織物材料はステップiの後にすすがれない。ポリマー分散剤の特定の性質のために、驚くべきことに、満足に印刷された又は染色された生成物を得るためには、これらの工程もはや必須ではないことが見出された。
【実施例
【0080】
以下の実施例は本発明をさらに明確にすることを意図したものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0081】
実施例1
1.0重量%の160nmナノ色素を、2.0重量%の親水性/疎水性ポリビニルエーテルブロックコポリマーおよび2.0重量%のアクリル結合剤ポリマーと水中で混合することによって、インク組成物を調製する。インク組成物中の有機溶媒の量は10重量%未満であった。600×300dpiの解像度および100%の被覆率でインクを印刷し、その結果を市場標準インクと比較した。結果を表1にまとめる。
表1:従来技術によるインクと比較した、本発明によるインクの挙動
【表1】
【0082】
実施例2
1.0重量%の160nmナノ色素を、約110℃の溶融温度を有する2.0重量%の親水性/疎水性コポリアミドブロックコポリマーおよび2.0重量%のアクリル結合剤ポリマーと水中で混合することによって、インク組成物を調製する。インク組成物中の有機溶媒の量は10重量%未満であった。600×300dpiの解像度および100%の被覆率でインクを印刷し、その結果を市場標準インクと比較した。
【0083】
非常に良好な結果が洗浄堅牢度、クロック堅牢度および昇華堅牢度に関して得られ;優れた融着温度、種々の異なる基材(すなわち、エラスタンまたはスパンデックス、ナイロン、ポリエステル、綿など)に対する非常に良好な接着特性は加工が容易であり、環境に優しく、洗浄および(化学)洗浄処理(例えば、水蒸気および酵素洗浄、石綿洗浄および染色後処理)に対して高い耐性を示し、高い耐熱性を示した。
【0084】
実施例3
1.0重量%の160nmナノ色素を、約110℃の溶融温度を有する2.5重量%の親水性/疎水性ポリオキサゾリンブロックコポリマーおよび2.0重量%のアクリル結合剤ポリマーと水中で混合することによって、インク組成物を調製する。インク組成物中の有機溶媒の量は10重量%未満であった。600×300dpiの解像度および100%の被覆率でインクを印刷し、その結果を市場標準インクと比較した。
【0085】
洗浄堅牢度、クロック堅牢度および昇華堅牢度に関して非常に良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0086】
1a:色素粒子
1b:ポリマー分散剤
1:ナノ色素ミセル
3:テキスタイル基材
11、12、13:複数のロール
20:フィーダロール
30:プリンタ
40:定着ユニット
50受容ロール
図1
図2