(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】ヒトHER2に結合する抗体、その製造方法および治療薬
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220909BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220909BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220909BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220909BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220909BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220909BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220909BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220909BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/30 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P43/00 121
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021504522
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 CN2019098793
(87)【国際公開番号】W WO2020025013
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】201810861135.5
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510277073
【氏名又は名称】三生国健薬業(上海)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUNSHINE GUOJIAN PHARMACEUT ICAL(SHANGHAI)CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】陳建鶴
(72)【発明者】
【氏名】張学賽
(72)【発明者】
【氏名】趙楽
(72)【発明者】
【氏名】徐菲
(72)【発明者】
【氏名】李晴柔
(72)【発明者】
【氏名】黄浩旻
(72)【発明者】
【氏名】朱禎平
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】mAbs,2014年,Vol.6, No.4,P.978-990
【文献】J.Mol.Biol.,2010年,Vol.402,P.217-229
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/30
C12N 15/63
C12N 5/10
C12P 21/08
C07K 16/46
A61K 39/395
A61P 43/00
A61P 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトHER2における結合エピトープがヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIII内に位置し、かつ配列番号1のD502、V505、E507およびL509から選ばれる1個又は2個以上のアミノ酸残基を含
み、
前記結合エピトープは、
k)配列番号1のD502、V505とE507、及び、
n)配列番号1のD502、V505、E507とL509
から選ばれるアミノ酸残基を含み、
前記ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIIIは、配列番号1の第343位~第510位に示すアミノ酸配列を有する、
ことを特徴とする、ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
ヒトHER2における結合エピトープがヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIII内に位置し、
前記結合エピトープは、ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIII内に位置し、かつ配列番号1の第499位~第510位に示すアミノ酸配列を有し、
前記ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIIIは、配列番号1の第343位~第510位に示すアミノ酸配列を有する、
ことを特徴とする、ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
a)重鎖相補性決定領域としてアミノ酸配列が配列番号11で表されるHCDR1、アミノ酸配列が配列番号12で表されるHCDR2、およびアミノ酸配列が配列番号13で表されるHCDR3と、
b)軽鎖相補性決定領域としてアミノ酸配列が配列番号14で表されるLCDR1、アミノ酸配列が配列番号15で表されるLCDR2、およびアミノ酸配列が配列番号16で表されるLCDR3と
を含むことを特徴とする、ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体は、モノクローナル抗体
、ポリクローナル抗体
、マウス由来抗体、キメラ抗体又はヒト化抗体である、請求項1~
3の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗原結合断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、一本鎖抗体(scF
v)及びシングルドメイン抗体(sdAb)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~
3の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、HER2過剰発現が確認された腫瘍細胞の増殖を阻害することができる、請求項1~
3の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記腫瘍細胞は、乳がん細胞BT474、乳がん細胞SKBR3、胃がん細胞NCI-N87又は乳がん細胞HCC1954である、請求項
6に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号3で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号5で表され、又は重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号17で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号19で表され、又は重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号21で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号23で表される、請求項1~
3の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号7で表され、軽鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号9で表される、請求項
8に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~
9の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片をコードすることを特徴とする、単離されたヌクレオチド。
【請求項11】
前記ヌクレオチドは、重鎖可変領域をコードし且つ配列番号4で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖可変領域をコードし且つ配列番号6で表されるヌクレオチド配列とを有し、または重鎖可変領域をコードし且つ配列番号18で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖可変領域をコードし且つ配列番号20で表されるヌクレオチド配列とを有し、または重鎖可変領域をコードし且つ配列番号22で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖可変領域をコードし且つ配列番号24で表されるヌクレオチド配列とを有する、請求項
10に記載のヌクレオチド。
【請求項12】
前記ヌクレオチドは、重鎖定常領域をコードし且つ配列番号8で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖定常領域をコードし且つ配列番号10で表されるヌクレオチド配列とを有する、請求項
10又は請求項
11に記載のヌクレオチド。
【請求項13】
請求項
10~12の何れか1項に記載のヌクレオチドを含んでなることを特徴とする、発現ベクター。
【請求項14】
請求項
13に記載の発現ベクターを含んでなることを特徴とする、ホスト細胞。
【請求項15】
請求項1~
9の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を製造する方法であって、
発現条件下で請求項
14に記載のホスト細胞を培養することにより、ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を発現するステップaと、ステップaで発現したヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離、精製するステップbとを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項16】
請求項1~
9の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体とを含んでなることを特徴とする、薬物組成物。
【請求項17】
ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を含んでなる、請求項
16に記載の薬物組成物。
【請求項18】
前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2細胞外領域の第4機能ドメインDIVに結合し、前記第4機能ドメインDIVは、配列番号1の第511位~第582位に示すアミノ酸配列を有する、請求項
17に記載の薬物組成物。
【請求項19】
前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号25で表され、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号26で表される、請求項
17に記載の薬物組成物。
【請求項20】
前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、トラスツズマブである、請求項
17~19の何れか1項に記載の薬物組成物。
【請求項21】
請求項1~
9の何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片又は請求項
16~20の何れか1項に記載の薬物組成物の、HER2過剰発現が確認された疾患を治療するための
治療薬。
【請求項22】
前記HER2過剰発現が確認された疾患は、癌である、請求項
21に記載の
治療薬。
【請求項23】
前記癌は、乳がん、胃がん又は卵巣がんである、請求項
22に記載の
治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体工学に関し、より具体的には、ヒトHER2に結合する抗体、その製造方法および治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
HER2/neu(ヒト上皮成長因子受容体2、以下では「erbB2」とも称する)は、チロシンプロテインキナーゼ活性を持ち、ヒト上皮成長因子受容体ファミリーメンバーの1つであり、成人の幾つかの正常組織に限って低レベルで発現する。一方、研究により複数の腫瘍でHER2が過剰発現していることが発見され、例えば約30%の乳がん患者および16%の胃がん患者でHER2が過剰発現する現象があり、腫瘍におけるHER2の過剰発現は、腫瘍血管の新生や腫瘍成長を著しく加速化し、腫瘍の浸潤や転移能を亢進させることができるため、不良予後の可能性を示す重要な指標である。そのため、早くから1998年にHER2を標的とした最初のモノクローナル抗体薬品としてトラスツズマブ(Genentech/Roche社製、商品名:ハーセプチン)がFDAより販売許可が認められ、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号25および配列番号26(米国特許US5821337では、配列番号41および配列番号42)で表され、HER2過剰発現が確認された乳がんおよび胃がんの治療に用いられる。臨床で長期に渡って治療経験を積み重ねた結果、ハーセプチンを乳がんの第一選択薬とし且つ化学療法薬を併用した場合、患者の生存期間を著しく伸ばし、同時に腫瘍の再発を低減することが確認されたが、治療後期に患者の約70%がハーセプチン治療に対して応答を示さず、若しくは薬物耐性を示すことも確認されている。2012年、HER2を標的としたもう1つのモノクローナル抗体薬品としてペルツズマブ(Genentech/Roche社製、商品名:パージェタ)がFDAによって販売許可が認められ、ペルツズマブとトラスツズマブの作用機構が異なり、例えばトラスツズマブは、主にHER2下流のシグナル伝達を遮断することで細胞増殖を抑止し、ペルツズマブは、主にHER2とHER3のヘテロダイマー形成を阻害する。それ故、ペルツズマブとトラスツズマブの併用は、トラスツズマブ単独投与に比較して患者に対する治療効果が顕著に向上するが、臨床現場の需要に十分対応できている訳ではない。したがって、HER2を標的とした新規治療薬に対する需要が依然高く、HER2過剰発現の患者へより広い選択肢を与えることができ且つ優れた治療効果を示す新規薬品の開発が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の技術課題を解決するため、本発明者は抗原免疫からハイブリドーマ選別、抗体の発現と精製、生体活性評価まで鋭意検討を重ねた結果、ヒトHER2に特異的に結合するマウス由来のモノクローナル抗体19H6を取得し、さらに、該モノクローナル抗体19H6に基づきキメラ抗体19H6-ch及びヒト化抗体19H6-Huを構築した。ハーセプチンやパージェタの結合エピトープと異なり、ヒトHER2における上記モノクローナル抗体19H6の結合エピトープはヒトHER2細胞外領域(HER2-ECD)の機能ドメインDIII内に存在する。つまり、本発明に係るマウス由来のモノクローナル抗体19H6は、ヒトHER2-ECDの機能ドメインDIIIに特異的に結合するモノクローナル抗体として前例がなく、これ以前にヒトHER2-ECDの機能ドメインDIIIに結合するモノクローナル抗体の構造や特性は何れも不明であり、本発明において標的抗原であるヒトHER2-ECDにおける19H6の結合サイトを更に解明した。細胞レベルの実験では、19H6とハーセプチンの併用が乳がん細胞BT474、SKBR3および胃がん細胞NCI-N87の体外増殖を著しく阻害し、その效果がパージェタとハーセプチンを併用する場合に比べて遥かに優位であることが実証され、さらに、キメラ抗体19H6-ch及びヒト化抗体19H6-Huが19H6と同等レベルの抗腫瘍活性を示すことも実証された。また、動物レベルの実験では、ハーセプチン単独投与に比較して19H6-Huとハーセプチンの併用がハーセプチン投与に応答を示す細胞NCI-N87と薬物耐性を示す細胞HCC1954を移植した腫瘍モデルにおいてより高い抗腫瘍活性を示し、かつHCC1954を移植した腫瘍モデルにおいて19H6-Huとハーセプチンの併用がパージェタとハーセプチンを併用する場合に比較して薬効が遥かに上回ることが実証された。したがって、本発明に係る斬新なHER2結合エピトープを有するヒトHER2に結合する抗体は、HER2過剰発現が確認された患者を治療するための薬物として有望である。
【0004】
以上の点に鑑み、本発明の第1側面では、ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0005】
本発明の第2側面では、ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0006】
本発明の第3側面では、ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0007】
本発明の第4側面では、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片をコードするヌクレオチドを提供する。
【0008】
本発明の第5側面では、前記ヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0009】
本発明の第6側面では、前記発現ベクターを含むホスト細胞を提供する。
【0010】
本発明の第7側面では、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を製造するための製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第8側面では、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む薬物組成物を提供する。
【0012】
本発明の第9側面では、前記ヒトHER2に結合する抗体、その抗原結合断片又は前記薬物組成物の用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明は、以下の技術案により構成される。
【0014】
本発明の第1側面において、ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、該抗体又はその抗原結合断片が結合するヒトHER2エピトープは、ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIII内に位置し、かつ配列番号1のD502、V505、E507およびL509から選ばれる1個又は2個以上のアミノ酸残基を含む。
【0015】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2エピトープは、下記a~nから選ばれるアミノ酸残基を含む。
a)配列番号1のD502
b)配列番号1のV505
c)配列番号1のE507
d)配列番号1のL509
e)配列番号1のD502とV505
f)配列番号1のD502とE507
g)配列番号1のD502とL509
h)配列番号1のV505とE507
i)配列番号1のV505とL509
j)配列番号1のE507とL509
k)配列番号1のD502、V505とE507
l)配列番号1のD502、V505とL509
m)配列番号1のV505、E507とL509
n)配列番号1のD502、V505、E507とL509
【0016】
本発明の第2側面では、ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を提供し、該抗体又はその抗原結合断片が結合するヒトHER2エピトープは、ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIII内に位置し、かつ配列番号1の第499位~第510位に示すアミノ酸配列を有する。
【0017】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIIIは、配列番号1の第343位~第510位に示すアミノ酸配列を有する。
【0018】
本発明の第3側面では、ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を提供し、該抗体又はその抗原結合断片は、
a)重鎖相補性決定領域としてアミノ酸配列が配列番号11で表されるHCDR1、アミノ酸配列が配列番号12で表されるHCDR2、およびアミノ酸配列が配列番号13で表されるHCDR3と、
b)軽鎖相補性決定領域としてアミノ酸配列が配列番号14で表されるLCDR1、アミノ酸配列が配列番号15で表されるLCDR2、およびアミノ酸配列が配列番号16で表されるLCDR3と、を含む。
【0019】
本発明の一好適な実施形態において、前記抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であり、モノクローナル抗体であることがより好ましい。
【0020】
本発明の一好適な実施形態において、前記抗体は、マウス由来抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体などである。
【0021】
本発明の一好適な実施形態において、前記抗原結合断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、一本鎖抗体(scFV)及びシングルドメイン抗体(sdAb)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0022】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、HER2過剰発現が確認された腫瘍細胞の増殖を阻害することができ、そのうち前記腫瘍細胞は、乳がん細胞BT474、乳がん細胞SKBR3、胃がん細胞NCI-N87、乳がん細胞HCC1954である。
【0023】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号3で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号5で表され、又は重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号17で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号19で表され、又は重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号21で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号23で表される。
【0024】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号7で表され、軽鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号9で表される。
【0025】
本発明の第4側面では、単離されたヌクレオチドを提供し、前記ヌクレオチドは、上記何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片をコードする。
【0026】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヌクレオチドは、重鎖可変領域をコードし且つ配列番号4で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖可変領域をコードし且つ配列番号6で表されるヌクレオチド配列とを有し、または重鎖可変領域をコードし且つ配列番号18で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖可変領域をコードし且つ配列番号20で表されるヌクレオチド配列とを有し、または重鎖可変領域をコードし且つ配列番号22で表されるヌクレオチド配列と、軽鎖可変領域をコードし且つ配列番号24で表されるヌクレオチド配列とを有する。
【0027】
本発明の一好適な実施形態において、前記重鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8で表され、前記軽鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10で表される。
【0028】
本発明の第5側面では、上記何れか1項に記載のヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0029】
本発明の第6側面では、上記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0030】
本発明の第7側面では、前記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を製造するための製造方法を提供し、前記製造方法は、発現条件下で上記ホスト細胞を培養することにより、上記ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を発現するステップaと、ステップaで発現したヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離、精製するステップbと、を含む。
【0031】
本発明の第8側面では、上記何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体とを含む薬物組成物を提供する。
【0032】
本発明の一好適な実施形態において、前記薬物組成物は、ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を含む。
【0033】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIIIに結合せず、前記第3機能ドメインDIIIは、配列番号1の第343位~第510位に示すアミノ酸配列を有する。
【0034】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2細胞外領域の第4機能ドメインDIVに結合し、前記第4機能ドメインDIVは、配列番号1の第511位~第582位に示すアミノ酸配列を有する。
【0035】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号25で表され、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号26で表される。さらに、本発明の一好適な実施形態において、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、トラスツズマブである。
【0036】
本発明の第9側面では、上記何れか1項に記載のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片、又は上記何れか1項に記載の薬物組成物の、HER2過剰発現が確認された疾患を治療するための薬物を製造する用途を提供する。
【0037】
本発明の一好適な実施形態において、前記HER2過剰発現が確認された疾患は、乳がん、胃がん、卵巣がん等の癌である。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係るヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2に特異的に結合することができ、既知のパージェタに比較してハーセプチンと併用することでHER2過剰発現が確認された腫瘍細胞の増殖をより効果的に阻害することができ、かつ従来のヒトHER2に結合する抗体とは異なる抗原結合エピトープを有し、HER2過剰発現が確認された疾患(例えば、癌)を治療するための薬物の製造に適用可能であり、臨床での実用化が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】14株のマウス由来抗ヒトHER2モノクローナル抗体候補とハーセプチンをそれぞれ併用するときの乳がん細胞BT474の増殖に対する阻害効果を示す図であり、そのうち
図1Aは19H6、18B6、17D4、14F4および12D8とハーセプチンの併用組であり、
図1Bは33B5、30A1、27D1および25H10とハーセプチンの併用組であり、
図1Cは11D10、10C4、4A4、2C5および1H10とハーセプチンの併用組である。
【
図2】14株のマウス由来抗ヒトHER2モノクローナル抗体候補とハーセプチンをそれぞれ併用する場合の乳がん細胞SKBR3の増殖に対する阻害効果を示す図であり、そのうち
図2Aは19H6、18B6、17D4、14F4および12D8とハーセプチンの併用組であり、
図2Bは11D10、10C4、4A4、2C5および1H10とハーセプチンの併用組であり、
図2Cは33B5、30A1、27D1および25H10とハーセプチンの併用組である。
【
図3】ヒトHER2-ECDに対するマウス由来抗体19H6の結合性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図4】乳がん細胞BT474に対するマウス由来抗体19H6の結合性をFACS法で測定したときの結果を示す図である。
【
図5】マウス由来抗体19H6とハーセプチンを併用するときの乳がん細胞BT474の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図6】マウス由来抗体19H6とハーセプチンを併用するときの乳がん細胞SKBR3の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図7】マウス由来抗体19H6とハーセプチンを併用するときの胃がん細胞NCI-N87の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図8】ヒトHER2-ECDにおけるマウス由来抗体19H6、ハーセプチン及びパージェタの結合エピトープの競合関係を競合ELISA法で測定する結果を示す図であり、そのうち
図8Aは濃度勾配を形成した19H6、ハーセプチンおよびパージェタをそれぞれ10ng/mLのビオチン化19H6と1:1で混ぜ合わせた後、HER2-ECDとインキュベートした場合の測定結果であり、
図8Bは濃度勾配を形成した19H6、ハーセプチン及びパージェタをそれぞれ10ng/mLのビオチン化パージェタと1:1で混ぜ合わせた後、HER2-ECDとインキュベートした場合の測定結果であり、
図8Cは濃度勾配を形成した19H6、ハーセプチンをそれぞれ10ng/mLのビオチン化ハーセプチンと1:1で混ぜ合わせた後、HER2-ECDとインキュベートした場合の測定結果である。
【
図9】還元型ヒトHER2-ECDに対するマウス由来抗体19H6の結合性をウエスタンブロット法で測定したときの結果を示す図である。
【
図10】ヒトHER2-ECDの各機能ドメインに対するマウス由来抗体19H6の結合性をウエスタンブロット法およびELISA法で測定したときの結果を示す図であり、そのうち
図10Aはウエスタンブロット法による測定結果であり、
図10BはELISA法による測定結果である。
【
図11】HER2-ECDDIII領域内の6つのペプチド配列に対するマウス由来抗体19H6の結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図12】ペプチドHA-21領域内の4つのペプチド配列に対するマウス由来抗体19H6の結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図13】アラニン変異を網羅的に導入した(アラニンスキャニング)12個のペプチド配列に対するマウス由来抗体19H6の結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図14】部位特異的変異を導入したヒトHER2-ECDタンパク質に対する19H6の結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図15】キメラ抗体19H6-chをSDS-PAGE電気泳動法で検出したときの検出結果を示す図である。
【
図16】ヒトHER2-ECDタンパク質に対するキメラ抗体19H6-chの結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図17】乳がん細胞BT474に対するキメラ抗体19H6-chの結合活性をFACS法で測定したときの結果を示す図である。
【
図18】キメラ抗体19H6-chとハーセプチンを併用するときの乳がん細胞BT474の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図19】キメラ抗体19H6-chとハーセプチンを併用するときの乳がん細胞SKBR3の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図20】キメラ抗体19H6-chとハーセプチン併用するときの胃がん細胞NCI-N87の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図21】ヒト化抗体19H6-Huおよび19H6-graftをSDS-PAGE電気泳動法で検出した結果を示す図であり、そのうち
図21AはDTTを加える還元電気泳動の結果であり、
図21BはDTTを加えない非還元電気泳動の結果である。
【
図22】ヒトHER2-ECDに対するヒト化抗体19H6-Huおよび19H6-graftの結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図23】乳がん細胞BT474に対するヒト化抗体19H6-Huの結合活性をFACS法で測定したときの結果を示す図である。
【
図24】ヒト化抗体19H6-Huとハーセプチンを併用するときの乳がん細胞BT474の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図25】ヒト化抗体19H6-Huとハーセプチンを併用するときの乳がん細胞SKBR3の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図26】ヒト化抗体19H6-Huとハーセプチンを併用するときの胃がん細胞NCI-N87の増殖に対する阻害効果を示す図である。
【
図27】各種由来のHER2-ECDタンパク質に対するヒト化抗体19H6-Huの結合活性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図28】各ファミリーメンバーHER1、HER3およびHER4に対するヒト化抗体19H6-Huの選択性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図29】乳がん細胞BT474を用い、HER2下流シグナル伝達経路に対する19H6-Huの影響をウエスタンブロット法で測定したときの結果を示す図である。
【
図30】SKBR3細胞を用い、HER2下流シグナル伝達経路に対する19H6-Huの影響をウエスタンブロット法で測定したときの結果を示す図である。
【
図31】胃がん細胞NCI-N87を用い、HER2下流シグナル伝達経路に対する19H6-Huの影響をウエスタンブロット法で測定したときの結果を示す図である。
【
図32】BT474細胞を用い、HER2/HER3二量体化に対する19H6-Huの阻害効果を測定したときの結果を示す図である。
【
図33】SKBR3細胞を用い、HER2/HER3二量体化に対する19H6-Huの阻害効果を測定したときの結果を示す図である。
【
図34】NCI-N87移植腫瘍モデルを用い、19H6-Huとハーセプチンを併用するときの抗腫瘍効果を測定したときの結果を示す図である。
【
図35】HCC1954移植腫瘍モデルを用い、19H6-Huとハーセプチンを併用するときの抗腫瘍効果を測定したときの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明において、「抗体(Ab)」および「免疫グロブリンG(IgG)」とは、同じ構造特徴を有する約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同じ軽鎖(L)と2つの同じ重鎖(H)で構成される。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合を介して重鎖に結合し、異なる免疫グロブリンにおいて同型重鎖の間のジスルフィド結合数が異なる。各重鎖および軽鎖は規則的な間隔で鎖内ジスルフィド結合を有し、各重鎖の一端に可変領域(VH)を有し、可変領域に続いて定常領域を有する。各軽鎖の一端に可変領域(VL)を有し、他端に定常領域を有し、軽鎖の定常領域と重鎖の第1定常領域が対向し、かつ軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域が対向して構成される。本発明の抗体としては、マウス由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などが挙げられ、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2種類の抗体からなる多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体の抗原結合断片などを含む。
【0041】
本発明において、「モノクローナル抗体」とは、ほぼ均一な群から得られる抗体を指し、すなわち極一部が自然変異を形成する以外、該群に含まれる単一抗体が同じであることを意味する。モノクローナル抗体は、1つの抗原サイトを高い特異性で認識して結合する。そして、通常のポリクローナル抗体製剤(通常、異なる決定基を認識する複数の抗体を含む)と異なり、各モノクローナル抗体は抗原の単一決定基を認識して結合する。こうした特異性に加え、モノクローナル抗体の利点としてはハイブリドーマを培養することにより得られ、他の免疫グロブリンによって汚染されないことが挙げられる。また、「モノクローナル」とは抗体の特性を指し、すなわちほぼ均一な抗体群から得られ、何ら特別な方法で製造されるものと解釈してはいけない。
【0042】
本発明において、「マウス由来抗体」とはラット由来抗体又はモウス由来抗体を指し、その中でマウス由来抗体が好ましい。本発明に係るマウス由来抗体は、ヒトHER2細胞外領域を抗原としてマウスを免疫し、ハイブリドーマ細胞を選別して得られるものである。本発明のマウス由来抗体としては、1H10、2C5、4A4、10C4、11D10、12D8、14F4、17D4、18B6、19H6、25H10、27D1、30A1および33B5が挙げられ、その中でも19H6が好ましい。
【0043】
本発明において、「キメラ抗体」とは、ある種に由来の重鎖および軽鎖の可変領域配列と、別の種に由来の定常領域配列を含む抗体を指し、例えばヒト定常領域と連結したマウス重鎖および軽鎖の可変領域を有する抗体が挙げられる。好ましくは、本発明のキメラ抗体は、マウス由来抗体19H6の重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列とヒト定常領域を繋ぐことで得られる。より好ましくは、本発明のキメラ抗体としては、重鎖がマウス由来抗体19H6の重鎖可変領域配列とヒトIgG1定常領域を繋ぐことで得られ、軽鎖がマウス由来抗体19H6の軽鎖可変領域配列とヒトkappa鎖を繋ぐことで得られる。より好ましくは、本発明のキメラ抗体は19H6-chである。
【0044】
本発明において、「ヒト化抗体」とは、CDRがヒト以外の物種(例えば、マウス)の抗体から得られ、抗体分子においてCDR以外の部分(フレームワーク領域および定常領域を含む)がヒト抗体から得られるものを指す。なお、フレームワーク領域のアミノ酸残基については、結合性が維持できる限り種々の変更を加えることができる。好ましくは、本発明のヒト化抗体は、マウス由来抗体19H6のCDR領域とヒト由来抗体の非CDR領域を組み合せ、さらに埋込み残基、CDR領域に直接作用する残基、並びに19H6のVL及びVHの空間構造に対して重要な影響を与える残基に復帰変異を導入することで得られる。好ましくは、本発明のヒト化抗体は19H6-Huおよび19H6-graftであり、より好ましくは、本発明のヒト化抗体は19H6-Huである。
【0045】
本発明において、「抗原結合断片」とは、ヒトHER2のエピトープに特異的に結合しうる抗体断片を指す。本発明の抗原結合断片としは、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、一本鎖抗体(scFv)、シングルドメイン抗体(sdAb)などが挙げられる。Fab断片は、抗体をパパインで消化して得られ、F(ab’)2断片は、抗体をペプシンで消化して得られる。Fv断片は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が非共有結合を介して緊密に連結されたダイマーで形成される。一本鎖抗体(scFv)は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域をアミノ酸15~20個からなるペプチドリンカー(linker)で連結して得られる抗体である。シングルドメイン抗体(sdAb)は重鎖のみで形成され、ナノ抗体(nanobody)又は重鎖抗体とも呼ばれ、その抗原結合領域はヒンジ領域を介してFc領域に連結されたシングルドメインである。
【0046】
本発明において、「可変」とは、抗体可変領域の一部に配列差異があり、特定抗原に対する各抗体の結合性や特異性を決定する構成である。ところが、可変度は抗体可変領域全体に渡って均一に分布せず、軽鎖および重鎖の可変領域における相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と称される3つのフラグメントに集中して存在する。可変領域で保存性が比較的高い部分は、フレームワーク領域(以下、「FR領域」とも称する)と称される。天然重鎖および軽鎖の可変領域にそれぞれ4つのFR領域を含み、これらのFR領域はβ-折り畳み構造を形成し、接続リングを構成する3つのCDRによって互いに連結され、ある状況では部分的なβ-折り畳み構造を形成することができる。各鎖のCDRは、FR領域を介して緊密に隣接し、かつ他鎖のCDRと共同で抗体の抗原結合サイトを形成する[KABAT等、NIH Publ.No.91-3242、第I巻647-669頁(1991)]。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接に関与しないが、抗体依存性細胞介在性の細胞毒性(ADCC,antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)などの他の生体作用機序を示す。
【0047】
本発明において、「エピトープ」および「ヒトHER2エピトープ」とは、ヒトHER2に存在し且つ抗体に特異的に結合する領域を指す。好ましくは、本発明のヒトHER2エピトープはヒトHER2細胞外領域内に存在し、前記ヒトHER2細胞外領域は配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する。より好ましくは、本発明のヒトHER2エピトープはヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIII内に存在し、前記第3機能ドメインDIIIは配列番号1の第343位~第510位に示すアミノ酸配列を有する。より好ましくは、本発明のヒトHER2エピトープは、配列番号1のD502、V505、E507およびL509から選ばれるアミノ酸残基1個又は2個以上を含む。より好ましくは、本発明のヒトHER2エピトープは配列番号1の第499位~第510位に示すアミノ酸配列を有する。
【0048】
本発明において、「ヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片」および「抗ヒトHER2抗体又はその抗原結合断片」とは、ヒトHER2エピトープに特異的に結合しうる抗体又はその抗原結合断片であって、他のヒト上皮成長因子受容体ファミリーメンバー(HER1、HER3、HER4)と交叉反応を起こさないものを指す。好ましくは、本発明のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片は、HER2過剰発現が確認された腫瘍細胞(例えば、乳がん細胞BT474、SKBR3およびHCC1954、胃がん細胞NCI-N87等)の増殖を阻害しうるものである。
【0049】
本発明において、発現ベクターについては特に制限がなく、例えばpTT5、pSECtag系、pCGS3系、pCDNA系ベクター等、並びに他の哺乳動物発現系に用いるベクターを使用することができ、発現ベクターに適切な転写調節配列や翻訳調節配列が連結された融合DNA配列が含まれる。
【0050】
本発明に適用可能なホスト細胞として、上記発現ベクターを発現しうる細胞が挙げられ、例えば哺乳類動物や昆虫ホスト細胞培養系を利用して本発明の融合タンパク質を発現してもよく、CHO(Chinese Hamster Ovary)、HEK293、COS、BHK及びこれら由来の誘導細胞などを本発明に利用可能である。また、本発明において、「細胞」と「細胞系」は同じ意味を有し、互いに置き換えることができる。
【0051】
本発明において、「薬物組成物」とは、本発明のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片と薬学的に許容可能な担体とで構成される薬物製剤を指し、本発明に係る薬物組成物は、安定な治療効果を確保すると同時に本発明のヒトHER2に結合する抗体又はその抗原結合断片のアミノ酸コア配列の構造完全性を維持することができ、さらに、タンパク質の多官能基を分解(例えば、凝集、脱アミノ化や酸化)から免れるようにすることができる。
【0052】
好ましくは、本発明の薬物組成物は、ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片を更に含む。より好ましくは、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2細胞外領域の第3機能ドメインDIIIに結合せず、前記第3機能ドメインDIIIは、配列番号1の第343位~第510位に示すアミノ酸配列を有する。より好ましくは、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、ヒトHER2細胞外領域の第4機能ドメインDIVに結合し、前記第4機能ドメインDIVは配列番号1の第511位~第582位に示すアミノ酸配列を有する。より好ましくは、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号25で表され、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号26で表される。より好ましくは、前記ヒトHER2に結合するもう1つの抗体又はその抗原結合断片は、トラスツズマブである。
【0053】
本発明において、「HER2過剰発現が確認された疾患」とは、同一組織の正常細胞のHER2発現レベルに比べて疾患状態細胞のHER2発現レベルが異常上昇することを意味する。本発明のHER2過剰発現が確認された疾患については特に制限がなく、乳がん、胃がん、卵巣がん等のHER2過剰発現が確認された癌が挙げられる。
【0054】
以下、実施例や実験例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例や実験例に制限されない。以下においてベクターやプラスミドの構築方法、タンパク質をコードする遺伝子を前記ベクターやプラスミドに導入する方法、プラスミドをホスト細胞に導入する方法など、従来周知の操作については説明を省略する。これらの操作は当業者が熟知するものであり、例えばSambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniais,T.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd edition,Cold spring Harbor Laboratory Pressなどの出版物に詳細な説明がある。
【0055】
以下において、HER2高発現細胞系とは、乳がん細胞BT474、乳がん細胞SKBR3、胃がん細胞NCI-N87及び乳がん細胞HCC1954などを指し、そのうちHCC1954(カタログ番号:ATCC(登録商標)CRL-2338TM)及びSKBR3(カタログ番号:ATCC(登録商標)HTB-30TM)は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から購入し、BT474(カタログ番号:TCHu143)及びNCI-N87(カタログ番号:SCSP-534)は、中国科学院細胞バンクから購入し、細胞培養は各自関連のマニュアルに従って行った。
【0056】
また、以下において特に説明がない限り、陽性対照抗体としてハーセプチン(規格440mg/20mL、ロット番号N3723、Roche社製)及びパージェタ(規格420mg/14mL、ロット番号H0248B02、Roche社製)を使用した。
【0057】
また、ヒトHER2-ECDタンパク質については、特に説明がない限り、以下の手順に従って調製したものを使用した。つまり、ヒトHER2-ECD(NCBI登録番号:NP_004439.2の第1位~第652位アミノ酸配列からなり、アミノ酸配列が配列番号1で表され、ヌクレオチド配列が配列番号2で表される)のC-末端に6×Hisタグを付けた核酸配列をpTT5ベクター(NRC biotechnology Research Institute社製)に導入してHER2-ECD-His-pTT5を構築し、中国ハムスター卵巣細胞CHOに導入して発現させ、導入後の七日目に上澄み液を回収してタンパク質を精製し、後の使用に備えて低温で保存した。
【0058】
以下において、略語を用いて実施例で使われる試薬を表する場合があるが、各略語は、具体的に以下のものを指す。
HAT:ヒポキサンチン(hypoxantin)、アミノプテリン(aminopterin)及びチミジン(thymidin)
PBS:10mMのリン酸塩緩衝液(phosphate buffer saline)
PBST:Tween20を0.05%含む10mMのリン酸塩緩衝液
TBS:Tris-HCl緩衝液、pH=7.5
TBST:Tween20を0.1%含むTBS溶液
BSA:ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin)
TMB:3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine)
HRP:ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase)
DTT:ジチオトレイトール(DL-Dithiothreitol)
【0059】
実施例1:ヒトHER2に特異的に結合するマウス由来モノクローナル抗体の調製
1.1)マウス免疫
哺乳類動物細胞であるCHO細胞で発現したヒトHER2-ECDタンパク質(自ら調製したもの、純度>95%)を用い、通常の手順に従ってBalb/cマウス(上海霊暢バイオテック社製)を免疫した。1日目に、可溶性ヒトHER2-ECDタンパク質とフロイント完全アジュバントを混合して乳化した後、Balb/cマウス1匹当たりにヒトHER2-ECDを50μg/0.5mL、皮下数箇所に注射した。21日目に、可溶性ヒトHER2-ECDタンパク質とフロイント不完全アジュバントを混合して乳化した後、Balb/cマウス1匹当たりにヒトHER2-ECDを50μg/0.5mL、皮下数箇所に注射し、41日目に、Balb/cマウス1匹当たりに可溶性ヒトHER2-ECDタンパク質を50μg/0.2mL、腹腔内注射を行って免疫刺激を強化し、3日~4日後にマウス脾臓を採って融合実験を実施した。
【0060】
1.2)ハイブリドーマ細胞の調製と選別
マウスに対して最終免疫を行ってから3日~4日目に、通常のハイブリドーマ技術を利用してマウス脾細胞とマウス骨髄腫細胞SP2/0を電気融合装置(BTX社製)にて細胞融合を行った。融合が終わると、細胞を完全培地[すなわち、RPMI1640とDMEM F12培地を1:1で十分混ぜ合わせた後、1%のグルタミン(Glutamine)、1%のピルビン酸ナトリウム(Sodium pyruvate)、1%のMEM-NEAA(最小必須培地-非必須アミノ酸溶液)、1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Penicillin-streptomycin)、50μMのβ-メルカプトエタノールおよび20%のFBS(ウシ胎児血清)を加えたもの、試薬は全てGibco社製]に均一に懸濁させ、各ウェルに105個細胞/100μLにし、96ウェルプレート36枚に分注して一晩培養した。翌日に各ウェル2×HATを含む完全培地100μLを加え、96ウェルプレートの各ウェル内の培養液が200μL(1×HATを含む)になるようにした。7日~12日後に上澄み液を回収し、間接ELISA法でヒトHER2-ECDに対して結合活性を示すハイブリドーマ株を選別した結果、陽性ハイブリドーマを839株取得した。乳がん細胞BT474の増殖に対するハイブリドーマの阻害活性を測定することにより、さらに陽性ハイブリドーマを36株選別した。そして、ヒトHER2-ECDに対して結合活性を示すと同時にBT474細胞増殖に対して阻害活性を示す陽性ハイブリドーマを有限希釈法によってサブクローン化を2回行い、陽性ハイブリドーマを14株取得し、それぞれ1H10、2C5、4A4、10C4、11D10、12D8、14F4、17D4、18B6、19H6、25H10、27D1、30A1および33B5と名付けた。
【0061】
そのうち、間接ELISA法を利用し、以下の手順に従ってヒトHER2-ECDに対して結合活性を示す陽性ハイブリドーマ株を選別した。つまり、コーティング液(50mMの炭酸塩緩衝液、pH9.6)を用いて組換えヒトHER2-ECDタンパク質を濃度が1μg/mLになるように希釈し、ELISAプレートの各ウェルに100μLずつ加え、4℃で一晩静置してコーティングを行った。プレートをPBSTで3回洗い流し、各ウェルにブロッキング液(2%BSAを含むPBS)を200μL加え、37℃、1時間静置してからプレートをPBST1回洗い流して後に備えた。上記ブロッキングしたELISAプレートの各ウェルに、得られたハイブリドーマ上澄み液を100μLずつ順に加え、37℃、1時間静置した。プレートをPBSTで3回洗い流し、HRP標識のヒツジ抗マウスIgG二次抗体(Millipore社製、商品番号AP181P)を加え、37℃、30分間静置した。プレートをPBSTで5回洗い流し、吸水紙に軽く叩いて残液をほぼ完全に取り除き、各ウェルにTMB(BD社製、商品番号555214)を100μL加え、室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。各ウェルに2MのH2SO4終止液を50μL加えて反応を中止させ、プレートリーダーでOD450値を測定することにより試料抗体と標的抗原HER2-ECDの結合性を解析した。
【0062】
また、乳がん細胞BT474の増殖に対するハイブリドーマ株の阻害活性は、以下の通りにして測定した。つまり、対数増殖期の乳がん細胞BT474をトリプシンで消化し、細胞数を計測してからウシ胎児血清を10%含む完全培地に懸濁し、1ウェル当たりにBT474細胞5000個、150μLずつにして96ウェル培養プレートに播種し、37℃、5%のCO2インキュベータで16時間培養した。試料抗体を異なる濃度で加え、各濃度に平行ウェルを3つ設け、6日後に培養液を捨て、各ウェルにCCK-8(Dojindo社製の細胞計測キット-8、商品番号Cat#CK04)反応液を100μLずつ加え、所期の色になるまで37℃で反応させた。細胞を蒔いていないウェルをブランクウェルとし、かつ細胞を蒔いたが試料抗体を入れないウェルを対照ウェルとしてOD450値を測定して各組の細胞活性を確定し、下記式に従って細胞生存率と増殖阻害率を算出し、GraphPad Prism 6ソフトで整理、解析した。
【0063】
生存率=(OD投与-ODブランク)/(OD対照-ODブランク)×100%
増殖阻害率=1-生存率
【0064】
1.3)マウス由来抗ヒトHER2モノクローナル抗体の大量製造と評価
上記1.2で得られた14株のハイブリドーマ細胞を、血清を添加した完全培地で拡大培養した。遠心することにより培養液を血清フリーのSFM培地(life technologies社製、商品番号12045-076)に置き換え、細胞密度が1~2×107/mLになるようにして5%のCO2、37℃条件下で1週間培養し、遠心して上澄み液を回収し、Protein Gカラムで精製してマウス由来抗ヒトHER2モノクローナル抗体を14株取得した。
【0065】
上記14株のマウス由来抗ヒトHER2モノクローナル抗体候補については、以下の手順に従ってハーセプチンを併用するときの乳がん細胞BT474およびSKBR3の増殖に対する阻害活性を測定することで更に選別を行った。具体的には、各ウェルに150μLずつ、5000個細胞となるように9BT474又は3000个SKBR3細胞を96ウェル培養プレートに播種し、37℃、5%のCO2インキュベータで16時間インキュベートし、完全培地で3倍の濃度勾配に希釈した試料抗体とハーセプチンを加え、各抗体の最高作業濃度が20μg/mLとなるようにした。ハーセプチン併用組およびハーセプチン単独投与組をそれぞれ設け、上記実施例1.2と同様にしてデータ処理と解析を行った。
【0066】
図1A~
図1Cに示すように、3つのモノクローナル抗体27D1、25H10、4A4および19H64については、ハーセプチンと併用することでBT474細胞の増殖を著しく抑制し、かつBT474に対するハーセプチンの最大阻害率を大きく向上させ、最大阻害率を達したときのハーセプチン使用量を大きく減らすことのできることが確認でき、そのうち19H6の効果が特に顕著であった。
【0067】
図2A~
図2Cに示すように、モノクローナル抗体19H6とハーセプチンを併用することでSKBR3細胞の増殖を著しく抑制し、SKBR3細胞増殖に対する最大阻害率を大きく向上させることが確認でき、一方、モノクローナル抗体4A4、25H10、27D1の場合、ハーセプチンと併用することでBT474細胞の増殖を阻害することができるが、SKBR3細胞の増殖についてはハーセプチンとの併用でそれなりの効果が見られなかった。
【0068】
以上のことから、マウス由来抗ヒトHER2モノクローナル抗体19H6を選んで上記方法に従って大量製造し、体内活性やその他の評価を行うことにした。
【0069】
実施例2:モノクローナル抗体19H6の体外活性評価
2.1)標的抗原に対するマウス由来抗体19H6の結合性
本実施例では、ELISA法を用いてヒトHER2-ECDに対する19H6の結合性を測定した。具体的には、上記実施例1.2と同様にして測定した。
図3に示すように、19H6がヒトHER2に特異的に結合することのできることが確認でき、本発明の測定方法によって得られたに結合EC50は0.28nMであった。
【0070】
2.2)標的細胞に対するマウス由来抗体19H6の結合性
本実施例では、蛍光活性化セルソーティング(FACS)法で乳がん細胞BT474に対する19H6の結合性を測定した。具体的には、標的細胞として乳がん細胞BT474を用い、一次抗体として1000nMから3倍率で12個の濃度勾配に希釈した19H6号抗体100μLを、それぞれRPMI-1640無血清培地(Gibco社製、商品番号22400089)100μLに3×105個細胞の密度で分散したBT474細胞と混ぜ合わせ、4℃で1時間インキュベートした(19H6の最高作業濃度:500nM)。PBSで細胞を2回洗浄して結合しなかった遊離19H6を除去し、さらに、細胞を2μg/mLのFITC標識の抗マウスFc的二次抗体(BD Biosciences社製、商品番号554001)200μLと混ぜ合わせて4℃、30分間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄することで結合しなかった二次抗体を除去した後、200μLのPBSに懸濁させた。該細胞に対する19H6の結合性を測定し、測定データをGraphPad Prism 6ソフトで整理して解析した。
【0071】
図4に示すように、細胞表面においてHER2を高発現する乳がん細胞BT474に19H6が特異的に結合し、そのEC
50が1.1nMであることが確認できた。
【0072】
2.3)標的細胞増殖に対するマウス由来抗体19H6の阻害活性
本実施例では、上記実施例1.2と同様にしてHER2高発現の標的細胞(乳がん細胞BT474、乳がん細胞SKBR3、胃がん細胞NCI-N87)の増殖に対する19H6とハーセプチンを併用するときの阻害活性を測定した。具体的には、96ウェルプレートの各ウェルにBT474、NCI-N87又は3000のSKBR3細胞を5000個の細胞密度で播種し、同時に完全培地を用いて3倍率で試料抗体を希釈して濃度勾配を形成した。そのうち最高工作濃度10μg/mLを単独投与組とし、ハーセプチンを含む完全培地(ハーセプチンの終濃度:1μg/mL)で試料抗体を希釈して3倍率の濃度勾配を形成し、ハーセプチン併用組とした。
【0073】
図5に示すように、19H6と1μg/mLのハーセプチンを併用した場合、乳がん細胞BT474の増殖を効率よく阻害し、かつその阻害效果がパージェタとハーセプチンの併用やハーセプチン単独投与の場合を遥かに上回り、最大阻害效果がパージェタとハーセプチンノの併用時およびハーセプチン単独投与時に比べて2倍以上であることが確認できた。
【0074】
図6に示すように、19H6と1μg/mLのハーセプチンを併用した場合、乳がん細胞SKBR3の増殖を効率よく阻害し、かつその阻害效果がパージェタとハーセプチンの併用時やハーセプチン単独投与の場合を遥かに上回り、最大阻害效果がパージェタとハーセプチンの併用時およびハーセプチン単独投与時に比べて1.5倍以上であることが確認できた。
【0075】
図7に示すように、19H6と1μg/mLのハーセプチンを併用した場合、胃がん細胞NCI-N87の増殖を効率よく阻害し、かつその阻害效果がパージェタとハーセプチンの併用やハーセプチン単独投与の場合を遥かに上回り、最大阻害效果がパージェタとハーセプチンの併用時に比べて約4倍、ハーセプチン単独投与時に比べて約4.5倍であることが確認できた。
【0076】
実施例3:モノクローナル抗体19H6の抗原結合エピトープの同定
3.1)マウス由来抗体19H6とハーセプチンやパージェタの競合エピトープの同定
本実施例では、競合ELISA法を用いてヒトHER2-ECDに対する19H6、ハーセプチン及びパージェタのエピトープ関係を確定し、具体的には、以下の通りにして測定を行った。
【0077】
Sigma社製のNHS活性化ビオチン(商品番号Cat#H1759)を用い、製品マニュアルに従って19H6、パージェタ及びハーセプチンにそれぞれビオチン標識を付けた。具体的には、NHS活性化ビオチンを終濃度が10mg/mLになるようにDMSOに溶かし、19H6、パージェタ及びハーセプチンをそれぞれ1mg(1mL)取ってビオチン50μg(5μL)と十分混ぜ合わせ、室温で2時間静置してからTris緩衝液(1M、pH8.0)100μLを加えて4℃で一晩インキュベートし、大量のPBS(pH7.2)を用いて透析して後に備えた。
【0078】
標的抗原ヒトHER2-ECDをコーティング液で1μg/mLになるように希釈した後、ELISAプレートの各ウェルに100μL加えて4℃で一晩静置し、PBSTで33回洗い流した。そして、各ウェルに2%のBSA-PBSを200μL加え、37℃で1時間ブロッキングすることによりELISAプレートをコーティングした。19H6、パージェタ及びハーセプチンをそれぞれ希釈して濃度勾配を形成し、さらに、ビオチン化19H6、パージェタ及びハーセプチンをそれぞれ10ng/mLに希釈した。希釈して濃度勾配を形成した19H6、パージェタ及びハーセプチン試料を、それぞれ希釈したビオチン化的19H6、パージェタ及びハーセプチンと体積比1:1で混ぜ合わせ、同時に濃度勾配を形成した19H6、パージェタ及びハーセプチン試料をそれぞれ希釈液(1%BSA-PBST)と体積比1:1で混合してブランク対照とした。ELISAプレートの1ウェル当たりに上記混合液を100μL加え、37℃で1時間インキュベートした。ELISAプレートをPBSTで3回洗い流し、HRP標識のストレプトアビジン(Sigma社製、カタログ番号S4672-5MG)を添付のマニュアルに従って希釈して各ウェルに100μLずつ加え、37℃で30分間インキュベートした。ELISAプレートをPBST5回洗い流し、各ウェルにTMBを100μL加えて室温、暗所で5分間反応させた後、2MのH2SO4を50μL更に加え、プレートリーダーでOD450値を測定した。
【0079】
図8A~
図8Cに示すように、19H6は、ビオチン化19H6とヒトHER2-ECDの結合を効率よく阻害するが、ハーセプチン及びパージェタは、ビオチン化19H6とヒトHER2-ECDの結合を阻害しないことが確認できた。また、19H6は、ビオチン化ハーセプチン又はパージェタとヒトHER2-ECDの結合を阻害せず、つまり、19H6とハーセプチン又はパージェタのエピトープとはヒトHER2-ECDの結合エピトープからして相関性がなく、19H6がハーセプチン及びパージェタとは異なる結合エピトープに結合することが確認できた。
【0080】
3.2)19H6と還元型HER2-ECDの結合性
本実施例では、ウエスタンブロット法を利用して19H6と還元型ヒトHER2-ECDの結合性を測定した。具体的には、還元型ヒトHER2-ECDを含むサンプル(2ng/1ウェル)をSDS-PAGEで分離した後、PVDFメンブレンに電気的に転写し、3%のBSAを含むTBSにおいて37℃、2時間ブロッキングした。そして、それぞれ1μg/mlの19H6、ハーセプチン及びパージェタ溶液(1%のBSAを含むTBSTで希釈したもの)を加えて37℃、1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い流した後、1%のBSAを含むTBSTで5000倍希釈したHRP標識のヒツジ抗マウスIgG二次抗体(Millipore社製、商品番号Cat#AP181P)又は1%のBSAを含むTBSTで5000倍希釈したHRP標識のヒツジ抗ヒトIgG二次抗体(Millipore社製、商品番号AP101P)を加えて37℃で0.5時間インキュベートした。TBSTで5回洗い流し、PVDFメンブレンに適量のImmobilon Western Chemiluminescent HRP基質溶液(Millipore社製、商品番号Cat#WBKLS0500)を滴下し、室温、暗所で生体分子撮像装置(GE公司社製、型番Las400mini)を用いて自動撮像した。
【0081】
図9に示すように、95kD~130kDの目的区間で特異的な免疫バンドが現れ、19H6が還元型ヒトHER2-ECDに特異的に結合し、ヒトHER2タンパク質における19H6の結合エピトープが線状エピトープであることが確認できた。一方、ハーセプチン及びパージェタは19H6と異なり、同じ実験で還元型ヒトHER2-ECDへの結合を示さなかった。
【0082】
3.3)標的抗原における19H6結合領域の同定
本実施例では、通常のウエスタンブロット法およびELISA法を利用してヒトHER2-ECDにおける19H6の結合領域を同定した。具体的には、ヒトHER2における19H6の結合エピトープを確定するため、文献調査やNCBIからヒトHER2細胞外領域に関連する情報(アミノ酸配列がNCBI登録番号NP_004439.2の第1位~第652位に示される通りであり、本発明ではアミノ酸配列が配列番号1で表され、ヌクレオチド配列が配列番号2で表される)を取得し、そのうち配列番号1で表されるアミノ酸配列は、シグナルペプチド配列SP(第1位~第22位)、機能ドメインDI(第23位~第217位)、機能ドメインDII(第218位~第342位)、機能ドメインDIII(第343位~第510位)および機能ドメインDIV(第511位~第582位)を含む。次に、HER2-ECDの4つの機能ドメイン(DI~DIV)を組み合せて発現させ、すなわちHER2-ECD-DI(第1位~第217位)、HER2-ECD-DI-DII(第1位~第342位)、HER2-ECD-DI-DIII(第1位~第510位)及びHER2細胞外領域全長HER2-ECD-fl(第1位~第652位)をそれぞれ調製した。そして、通常のウエスタンブロット法およびELISA法を利用し、上記実施例3.2及び1.2と同様にしてヒトHER2-ECD各機能ドメインに対する19H6の識別結合性を測定した。
【0083】
図10Aおよび
図10Bに示すように、19H6の識別サイトがヒトHER2-ECDの第3機能ドメインDIII内に存在することがウエスタンブロット及びELISAの測定結果から確認され、これはハーセプチンの識別サイトが機能ドメインDIV内に存在し、又はパージェタの識別サイトが機能ドメインDII内に存在することとは違う状況であることが確認できた。
【0084】
3.4)標的抗原への19H6結合を影響しうる重要な識別サイトの同定
上記実施例3.2および3.3の結果から19H6が組換えHER2-ECDやHER2-ECD DIIIに結合し、19H6の結合エピトープが線状エピトープであることを確認したため、合成ペプチドとELISA法を用いて19H6の結合エピトープの位置を更に確定することができる。そこで、本実施例において、ELISA法で19H6とヒトHER2-ECDDIII領域内ペプチドとの結合性を測定することにより、ヒトHER2-ECDへの19H6結合を影響しうる重要な識別サイトを同定した。
【0085】
具体的には、まずヒトHER-ECD DIIIを互いに重なる部分がある6つのペプチド配列に分解し、下記の通り、各ペプチド配列のN末端にビオチン標識を付けたペプチド(bio-ペプチド)を合成した。
YC-25:bio-YGLGMEHLREVRAVTSANIQEFAG(第343位~第366位)
AA-26:bio-AGCKKIFGSLAFLPESFDGDPASNTA(第365位~第390位)
NC-38:bio-NTAPLQPEQLQVFETLEEITGYLYISAWPDSLPDLSV(第388位~第424位)
LC-41:bio-LSVFQNLQVIRGRILHNGAYSLTLQGLGISWLGLRSLREL(第422位~第461位)
EC-34:bio-ELGSGLALIHHNTHLCFVHTVPWDQLFRNPHQA(第460位~第492位)
HA-21:bio-HQALLHTANRPEDECVGEGLA(第490位~第510位)
【0086】
図11に示すように、19H6がHA-21ペプチドのみに、すなわちヒトHER2-ECDタンパク質のN末端第490位~第510位アミノ酸配列のみに結合することから、19H6の結合エピトープがヒトHER2タンパク質のアミノ酸残基H490~A510の間に存在することが確認できた。
【0087】
そして、HA-21ペプチドを更に細かく分解し、以下に示された通り、互いに重なる部分があるN末端ビオチン化のペプチド3-2~ペプチド3-5を合成した。
3-2:bio-DQLFRNPHQALL(第483位~第494位)
3-3:bio-QALLHTANRPED(第491位~第502位)
3-4:bio-RPEDECVGEGLA(第499位~第510位)
3-5:bio-EGLACHQLCARG(第507位~第518位)
【0088】
図12に示すように、19H6がペプチド3-4のみに、すなわちヒトHER2-ECDタンパク質のN末端第499位~第510位のアミノ酸配列のみに結合することから、19H6の結合エピトープがヒトHER2タンパク質のアミノ酸残基R499~A510の間に存在することが確認できた。
【0089】
そして、アラニンスキャニング(すなわち、アラニンでないアミノ酸残基をそれぞれアラニンに置き換える)法に則って、以下に示すようなN末端ビオチン化の第499位~第510位ペプチド4-1~4-12を合成した。
4-1:bio-ATANRPEDECVGEGLA
4-2:bio-HAANRPEDECVGEGLA
4-3:bio-HTAARPEDECVGEGLA
4-4:bio-HTANAPEDECVGEGLA
4-5:bio-HTANRAEDECVGEGLA
4-6:bio-HTANRPADECVGEGLA
4-7:bio-HTANRPEAECVGEGLA
4-8:bio-HTANRPEDACVGEGLA
4-9:bio-HTANRPEDEAVGEGLA
4-10:bio-HTANRPEDECAGEGLA
4-11:bio-HTANRPEDECVGAGLA
4-12:bio-HTANRPEDECVGEGAA
【0090】
図13に示すように、19H6は、ペプチド4-7(D502A)、ペプチド4-10(V505A)及びペプチド4-11(E507A)にはほぼ結合せず、ペプチド4-12(L509A)に結合するものの、他のペプチドの場合に比べて結合性が低下することから、D502、V505、E507がヒトHER2-ECDへの19H6結合を影響しうる一番重要なアミノ酸サイトであり、重要性からして次ぎのアミノ酸サイトがL509であることが確認できた。
【0091】
3.5)19H6識別サイトの精確同定
本実施例では、HER2-ECD部位特異的変異体を用い、ELISA法で各変異体と19H6との結合性を測定した。具体的には、PCR法を利用してHER2-ECD-His-pTT5発現ベクターに部位特異的変異を導入することにより、第502位アスパラギン酸残基をアラニン(HER2-ECD-D502A)、第505位バリン残基をアラニン(HER2-ECD-V505A)、第507位グルタミン酸残基をそれぞれアラニン(HER2-ECD-E507A)に変えた発現ベクターを構築し、同時に、第502位アスパラギン酸残基および第505位バリン残基をアラニンに変えた2点変異(HER2-ECD-D502A/V505A)、並びに第502位アスパラギン酸残基、第505位バリン残基及び第507位グルタミン酸残基をアラニンに変えた3点変異(HER2-ECD-D502A/V505A/E507A)を導入した発現ベクターを構築した。各ベクターについては配列測定を行って正確さを確認し、HEK293E(NRC biotechnology Research Institute社製)に導入して発現させ、5日後に上澄み液を回収して精製し、次に備えて保存した。精製済みのHER2-ECDタンパク質および上記各変異体を用い、実施例1.2と同様にして19H6との結合性を測定した。
【0092】
図14に示すように、19H6は、HER2-ECD、HER2-ECD-D502A、HER2-ECD-E505AおよびHER2-ECD-E507Aに結合する際のEC50がそれぞれ0.041nM、0.05nM、0.038nM及び0.867nMであり、一方、HER2-ECD-D502A/V505A及びHER2-ECD-D502A/V505A/E507Aに対してはほぼ結合性を示さないのが確認できた。この結果から、HER2-ECD第502位のアスパラギン酸、第505位のバリン及び第507位のグルタミン酸残基がHER2-ECDへの19H6結合に重要であり、そのうち第507位のグルタミン酸残基が特に重要であると確認でき、後にヒト化抗体19H6-Huの結合エピトープを同定、評価する際にも同じような結果が得られた。
【0093】
実施例4:19H6キメラ抗体(19H6-ch)の調製と生体活性評価
4.1)キメラ抗体19H6-chの調製
本実施例では、19H6の重鎖可変領域および軽鎖可変領域に修飾を加えてキメラ抗体19H6-chを構築した。具体的には、Trizolで19H6ハイブリドーマ細胞のRNAを抽出し、mRNAをcDNAに逆転写した。そして、cDNAをテンプレートとし、マウス由来抗体の重鎖および軽鎖の縮重プライマー(抗体工学第1巻、Roland Kontermann、Stefan Duebel編集、プライマーペアの配列は第323頁に記載された通りであった)を用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約700bp)について配列測定を行い、さらに、KABAT法則に従って解析することによりマウス由来抗体の可変領域配列であると確定した。その配列情報として、重鎖可変領域の遺伝子配列全長が351bpであり、117個のアミノ酸残基をコードし、アミノ酸配列が配列番号3で表され、ヌクレオチド配列が配列番号4で表され、また、軽鎖可変領域の遺伝子配列全長が336bpであり、112個のアミノ酸残基をコードし、アミノ酸配列が配列番号5で表され、ヌクレオチド配列が配列番号6で表される。
【0094】
得られた重鎖可変領域配列をヒトIgG1定常領域(アミノ酸配列が配列番号7で表され、ヌクレオチド配列が配列番号8で表される)と繋ぎ、軽鎖可変領域配列をヒトkappa鎖定常領域(アミノ酸配列を有する配列番号9で表され、ヌクレオチド配列如配列番号10所示)と繋いだ後、19H6-chの重鎖および軽鎖をそれぞれpTT5発現ベクターに導入した。そして、HEK-293E細胞に導入し、キメラ抗体19H6-chを精製してからSDS-PAGEで抗体の正確さ及び及純度を確定し、定量化して分注し、次に備えて-80℃で保存した。
【0095】
図15に示すように、得られた19H6-chが所期の分子量範囲内にあり、純度が95%以上であった。
【0096】
4.2)標的抗原に体するキメラ抗体19H6-chの結合性
本実施例では、ELISA法を用い、上記実施例1.2と同様にしてヒトHER2-ECDに対する19H6-chの結合性を測定した。
【0097】
図16に示すように、19H6-chは、ヒトHER2-ECDに対して19H6並みの結合性を示し、EC50が0.1nMであった。
【0098】
4.3)標的細胞に対するキメラ抗体19H6-chの結合性
本実施例では、FACS法を用い、上記実施例2.2と同様にして乳がん細胞BT474に対する19H6-chの結合性を測定した。
【0099】
図17に示すように、19H6-chが乳がん細胞BT474に特異的に結合し、19H6-ch、ハーセプチン及びパージェタのEC50がそれぞれ1.5nM、4.8nM及び2.4nMであること確認できた。つまり、乳がん細胞BT474に対する結合性からして、19H6-chがHER2を標的とする市販薬物ハーセプチン及びパージェタを上回ることが確認できた。
【0100】
4.4)キメラ抗体19H6-chの標的細胞増殖阻害活性の測定
本実施例では、上記実施例2.3と同様にして、キメラ抗体19H6-chとハーセプチンを併用するときのHER2過剰発現が確認された標的細胞(乳がん細胞BT474、乳がん細胞SKBR3および胃がん細胞NCI-N87)の増殖に対する阻害活性を測定した。
【0101】
図18、
図19および
図20に示すように、19H6-chと1μg/mLのハーセプチンを併用した場合、乳がん細胞BT474、SKBR3および胃がん細胞NCI-N87の増殖を効率よく阻害し、その阻害效果がパージェタとハーセプチンを併用する場合、又はハーセプチンを単独投与する場合を遥かに上回り、かつ上記3種類の腫瘍細胞の増殖に対する阻害活性が19H6と一致することが確認できた。
【0102】
実施例5:19H6ヒト化抗体の調製と生体活性評価
5.1)ヒト化抗体19H6-Huおよび19H6-graftの調製
軽鎖可変領域および重鎖可変領域のアミノ酸配列を解析し、KABAT法則に従ってマウス由来抗体19H6の3つの抗原相補性決定領域(CDR)および4つのフレームワーク領域(FR)を確定した。そのうち、重鎖相補性決定領域のアミノ酸配列としてHCDR1がDYAIH(配列番号11)、HCDR2がVFSIYYENINYNQKFKG(配列番号12)、HCDR3がRDGGTINY(配列番号13)であり、軽鎖相補性決定領域のアミノ酸配列としてLCDR1がRSSQSLVHSNGNTYLH(配列番号14)、LCDR2がKVSNRFS(配列番号15)、LCDR3がSQSTHIPWT(配列番号16)であった。
【0103】
生殖系配列(Germline)データバンクから19H6のCDR領域外と適合性が最も高いヒト化テンプレートを選出し、選んだヒト化テンプレートに19H6のCDR領域を移植することでヒト化テンプレートのCDR領域を置き換え、さらにIgG1定常領域と組換えを行った。同時に、該抗体の3次元構造に基づき埋込み残基、CDR領域に直接作用する残基、及び19H6のVLとVHの空間構造に対して重要な影響を与える残基に復帰変異を導入し、最後に2つのヒト化抗体候補19H6-Huおよび19H6-graftを選出した。そのうち19H6-graftの重鎖可変領域の遺伝子配列全長が351bpであり、117個のアミノ酸残基をコードし、アミノ酸配列が配列番号17で表され、ヌクレオチド配列が配列番号18で表され、軽鎖可変領域の遺伝子配列全長が336bpであり、112個のアミノ酸残基をコードし、アミノ酸配列が配列番号19で表され、ヌクレオチド配列が配列番号20で表される。また、19H6-Huの重鎖可変領域の遺伝子配列全長が351bpであり、117個のアミノ酸残基をコードし、アミノ酸配列が配列番号21で表され、ヌクレオチド配列が配列番号22で表され、軽鎖可変領域の遺伝子配列全長が336bpであり、112個のアミノ酸残基をコードし、アミノ酸配列が配列番号23で表され、ヌクレオチド配列が配列番号24で表される。さらに、19H6-chと同様の定常領域を用い、19H6-Huおよび19H6-graftの重鎖および軽鎖をそれぞれpTT5発現ベクターに導入した。得られた組換え発現ベクターをHEK-293E細胞に導入して発現させ、ヒト化抗体19H6-Hu及び19H6-graftを精製し、SDS-PAGEで得られた抗体の分子量及び純度を確定し、定量化して分注し、後に備えて-80℃で保存した。
【0104】
図21A及び
図21Bに示すように、以上のようにして得られた19H6-Hu及び19H6-graftは、分子量が所期の範囲内にあり且つ純度が95%以上であった。
【0105】
5.2)標的抗原に対するヒト化抗体19H6-Hu及び19H6-graftの結合性
本実施例では、上記実施例1.2と同様にして、ELISA法でヒトHER2-ECDに対するヒト化抗体19H6-Hu及び19H6-graftの結合性を測定した。
【0106】
図22に示すように、ヒト化抗体19H6-Huはキメラ抗体19H6-chと同等レベルの結合活性を示し、EC50がそれぞれ0.06nM及び0.05nMであった。一方、19H6-graftの結合活性が比較的低く、EC50が0.5nMであった。したがって、ヒト化抗体19H6-Huを選んで次の評価試験を行った。
【0107】
さらに、本実施例ではbiacore法を利用してHER2-ECDに対する19H6-Huの結合動態学を検討した。具体的には、Protein-Aチップ(GE社製、ロット番号10261132)を用い、接触時間(contact time)を75秒、流速(flow rate)を10μL/分間、再生化接触時間(regeneration contact time)を30秒に設定して0.5μg/mLの19H6-Hu抗体を捕捉した。また、分析対象である抗原HER2-ECDについては、接触時間(contact time)を180秒、解離時間(dissociation time)を900秒、流速(flow rate)を30μL/分間、再生化接触時間(regeneration contact time)を30秒に設定して測定を行った。各分析パラメーターは、下記表1に示される通りである。
【0108】
【0109】
5.3)標的細胞に対するヒト化抗体19H6-Huの結合性
本実施例では、FACS法を利用し、上記実施例2.2と同様にして乳がん細胞BT474に対するヒト化抗体19H6-Huの結合性を測定した。
【0110】
図23に示すように、19H6-Huは、乳がん細胞BT474に特異的に結合し、EC50が1.9nMであり、標的細胞に対する結合活性が19H6-chと同等のレベルであった。
【0111】
5.4)標的細胞増殖に対するヒト化抗体19H6-Huの阻害活性
本実施例では、上記実施例2.3と同様にして、HER2過剰発現が確認された標的細胞(乳がん細胞BT474、乳がん細胞SKBR3、胃がん細胞NCI-N87)の増殖に対するヒト化抗体19H6-Huとハーセプチンを併用するときの阻害活性を測定した。
【0112】
図24、
図25及び
図26に示すように、19H6-Huと1μg/mLのハーセプチンを併用した場合、乳がん細胞BT474、SKBR3及び胃がん細胞NCI-N87の増殖効率よく阻害し、その阻害效果がパージェと与ハーセプチンの併用及びハーセプチン単独投与の場合に比較して遥かに上回った。また、19H6-Huは、上記3種類の腫瘍細胞増殖に対して19H6-chに一致した阻害活性を示し、且つハーセプチン投与時の最大阻害效果を大きく向上させた。
【0113】
実施例6:ヒト化抗体19H6-Huの種間交叉反応性
本実施例では、ELISA法でヒト化抗体19H6-Huの種間交叉反応性を測定した。具体的には、カニクイザル及びラットのHER2-ECDタンパク質(何れもSino Biological社製であり、商品番号がそれぞれ90295-C08H-50及び80079-R08H-50であった)、すなわちCyno-HER2-ECD及びRat-HER2-ECDを1ウェル当たりにそれぞれ0.2μg用いて96ウェルプレートをコーティングした以外、上記実施例1.2と同様にして2品種のHER2に対する19H6-Huの交叉反応を測定した。
【0114】
図27に示すように、ヒト化抗体19H6-HuはカニクイザルのHER2タンパク質を識別して特異的に結合し、EC50が0.1nMであった。一方、ラットのHER2タンパク質に対しては識別結合性を示さなかった。
【0115】
実施例7:ファミリーメンバーHER1、HER3及びHER4に対するヒト化抗体19H6-Huの選択性
本実施例では、ELISA法を利用してファミリーメンバーHER1、HER3及びHER4に対するヒト化抗体19H6-Huの選択性を測定した。具体的には、ヒトHER1、HER3及びHER4タンパク質(何れもSino Biological社製であり、商品番号がそれぞれ10001-H08H-20、10201-H08H-20及び10363-H08H-50であった)を1ウェル当たりにそれぞれ0.2μg用いて96ウェルプレートをコーティングした以外、上記実施例1.2と同様にしてHER2のファミリーメンバーに対する19H6-Huの選択性を測定した。
【0116】
図28に示すように、19H6-Huは、HER1、HER3及びHER4に対して交叉反応性を示さなかった。つまり、19H6-HuがHER2を特異的に認識することによりHER2過剰発現が確認された腫瘍細胞の増殖を阻害することが確認できた。
【0117】
実施例8:腫瘍細胞におけるヒト化抗体19H6-Huの作用機序
本実施例では、ウエスタンブロット法を利用してHER2の下流シグナル伝達経路およびHER2/HER3二量体化に対する19H6-Huの影響と阻害効果を検討した。
【0118】
具体的には、対数増殖期の乳がん細胞BT474、SKBR3又は胃がん細胞NCI-N87をパンクレアチンで消化してから完全培地に懸濁させ、細胞密度が50%なるように12ウェルプレートに播種し、37℃、CO2インキュベータで一晩培養した。翌日、細胞がウェル壁に付着すると、12ウェルプレートを軽く叩いて各ウェルの培地を捨て、さらに室温の無菌PBSを2mL加えて培地が殆ど残らない程度までウェルを洗い流した。PBSを捨て、各ウェルに1%のウシ胎児血清を含む培地で19H6-Huを特定の濃度(下記表2に示された通り)に希釈したもの1mLをゆっくりと加え、12ウェルプレートを軽く揺すってからインキュベータに戻して引き続き培養した。24時間後に12ウェルプレートを氷上に置き、培地を捨て各ウェルに予め冷やした無菌PBSを2mL加えて1回洗浄した。PBSを捨て、各ウェルに1×LDS(Thermo Fisher社製のNuPAGE LDSサンプル緩衝液、カタログ番号NP0008)を200μL加えて十分混ぜ合わせ、数分間静置することにより溶解処理を行った。各ウェルのLDS細胞溶解液を回収して遠心チューブに入れ、体積百分率で5%のβ-メルカプトエタノールを加えて十分混ぜ合わせ、その直後に-80℃に保存した。サンプルを一部取って、通常のウエスタンブロット法で下記生体指標物の変化を検出し、そのうち検出用抗体としてGAPDH(Cell Signal Technology社製、カタログ番号5174)、p44/42 MAPK(t-ERK1/2)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号4695)、phospho p44/42 MAPK(p-ERK1/2)(Thr202/Tyr204)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号4376)、AKT(t-AKT)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号4691)、phosphoAKT(p-AKT S473)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号4060)、HER2(t-HER2)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号2165)、phospho-HER2(p-HER2 Y1248)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号2247)、HER3(t-HER3)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号12708)及びphospho-HER3(p-HER3 Y1289)(Cell Signal Technology社製、カタログ番号2842)を用い、HRP標識のヤギ抗ウサギIgGは、北京biodragon-immunotech社製であり、カタログ番号がBF03008であった。また、下記表2において、Trasとはトラスツズマブ(ハーセプチン)を指し、Pertとはペルツズマブ(パージェタ)を指し、NCは何の抗体処理もしなかった陰性対照であった。
【0119】
【0120】
図29、
図30および
図31に示すように、陰性対照NC対照に比較して、ハーセプチン単独投与でp-HER3(Y1289)を著しく阻害し、阻害活性が用量依存性を示した。また、ハーセプチン単独投与では用量依存的にp-AKT(S473)のリン酸化を阻害するが、p-HER2(Y1248)を阻害しないことが確認できた。また、19H6-Huとハーセプチンを併用した場合、p-HER3(Y1289)、p-HER2(Y1248)、p-AKT(S473)及びp-ERK1/2のリン酸化シグナルとt-HER2の発現を著しく阻害し、パージェタとハーセプチンを併用した場合にはp-HER3(Y1289)及びp-AKT(S473)のみに対して阻害活性を示した。さらに、19H6-HuとHeceptinを併用した場合、p-AKT(S473)及びp-ERK1/2に対する阻害効果がパージェタとHeceptinを併用した場合に比較して遥かに上回ることが確認できた。
【0121】
19H6-Huの作用機序を更に詳しく解明するため、BT474およびSKBR3細胞をそれぞれ用い、HER2/HER3二量体化に対する19H6-Huの阻害効果を細胞レベルで検討した。
【0122】
対数増殖期のBT474及びSKBR3細胞をパンクレアチンで消化して懸濁させ、細胞密度が50%となるように12ウェルプレートに播種し、インキュベータで一晩培養して細胞がウェル壁に付着するようにした。翌日、下記表3に示された通り、測定用抗体を無血清培地で段階的に希釈して特定濃度のものとした。12ウェルプレートの各ウェルの培地を取り除き、各ウェルに培地が殆ど残らない程度まで室温の无菌PBSを2mL加えて軽く洗浄を行った。PBSを捨て、下記表3に示された通り、各ウェルに調製済みの測定用抗体又は無血清培地をゆっくりと1mL加え、12ウェルプレートを軽く揺すってからインキュベータに置いて暫くインキュベートした。2時間後、NCウェルに無血清培地を1mL補充し、他のウェルにはそれぞれ予め無血清培地で調製した4nMのHRG(R&D社製のHeregulin、カタログ番号396-HB-050)を1mL加え、HRG最終作業濃度が2nMになるようにした。インキュベータで15分間インキュベートした後、12ウェルプレートを氷上に置き、培地を捨て各ウェルに予め冷やした無菌PBSを2mL加えて1回洗浄した。PBSを捨て、各ウェルに予め冷やしたIP細胞溶解液(Beyotime社製、カタログ番号P0013)を400μL加え、十分混ぜ合わせて氷上で5~10分間溶解した。細胞が完全に溶解した状況を顕微鏡で観察し、溶解液を回収して12000rmp、4℃で5分間遠心し、上澄み液を回収してEPチューブに入れてそれぞれ100mMのハーセプチンと混ぜ合わせてから4℃で1時間インキュベートした。その後、各チューブに5%のBSAで一晩ブロッキングしたProtein A/Gプラスアガロースビーズ(Santa cruz biotechnology社製、カタログ番号sc-2003)を加え、さらに最終体積が800μLになるようにIP細胞溶解液を補充し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、各サンプルを取って4℃、2000rmpで6分間遠心し、上澄み液を捨ててビーズを回収し、予め冷やしたPBSでビーズを2回洗浄した。各サンプルに1×LDS(Invitrogen社製、カタログ番号NP0008)を80μL加え、体積百分率が5%となるようにβ-メルカプトエタノールを加え、軽く叩いてから100℃で10分間加熱することによりビーズに結合したタンパク質を落とせ、温度が下がるまで暫く待ってから12000rmp、5分間遠心し、後に備えて保存した。各生体指標物については、通常のウエスタンブロット法を利用して測定した。
【0123】
【0124】
図32及び
図33に示すように、SKBR3及びBT474両細胞株において、19H6-Hu単独投与でHER2と共に免疫沈降したp-HER3(Y1289)及びt-HER3の量が陽性対照組(PC)の場合に比較してさほど変化がなく、一方、パージェタではp-HER3(Y1289)及びt-HER3の沈降量が著しく低下し、ハーセプチンでは沈降が僅かに確認できる程度であった。このことから、パージェタがHER2/HER3二量体化を著しく抑制するが、19H6-Huはパージェタと異なる作用機序で機能し、HER2/HER3二量体化に対して19H6-Huとハーセプチンを併用するときの阻害効果がパージェタ単独又はパージェタとハーセプチンの併用時と同等のレベルであることが確認できた。
【0125】
実施例9:ヒト化抗体19H6-Huの体内活性評価
本実施例では、移植腫瘍モデルとしてNCI-N87及びHCC1954をそれぞれ用い、19H6-Huとハーセプチンを併用するときの抗腫瘍効果を検討した。
【0126】
実験に使われるBALB/cヌードマウスは、メス、生後40~45日齢、体重18~20gであり、上海霊暢バイオテック社製であった。対数増殖期のNCI-N87及びHCC1954細胞を採集し、無血清培地に細胞濃度が16×107個/mLになるように懸濁させ、それぞれ基質ゲルと体積比1:1で混ぜ合わせ、無菌条件下で細胞懸濁液を100μL取ってヌードマウスの背中皮下に1匹当たり8×106個細胞になるように注射した。ノギスで移植腫瘍のサイズと体積を計測し、腫瘍が100~200mm
3まで成長すると動物をランダムに組分けした。
図34および
図35に示された通り、マウス1匹当たり(20g)に0.2mLの量で腹腔内投与を行い、週2回にして合わせて6回投与を行った。また、マウスに対して抗体アイソタイプ(Isotype)を同じ用量で投与し、対照組とした。
【0127】
週2回の頻度で移植腫瘍の体積を測定すると同時にマウス体重を秤量し、腫瘍体積(TV)は、算式1/2×長さ×幅2で算出し、腫瘍抑制率(TGI)は、算式(1-実験組腫瘍体積/対照組腫瘍体積)×100%で算出した。得られたデータを統計学方法で解析し、p≦0.05(*)を有意差があるとし、p≦0.001(***)を有意差が特に顕著であるとした。
【0128】
図34に示すように、NCI-N87はハーセプチン感受性であり、ハーセプチン単独で20mg/kgを投与した場合、TGIが63.14%、p<0.05であった。一方、ハーセプチン10mg/kgと共に19H6-Huを10mg/kg投与した場合、腫瘍阻害効果が特に顕著であり、TGIが86.31%、p<0.001であり、ハーセプチンとパージェタを同じ投与量で併用した場合(TGIが91.71%、p<0.001)と同等の阻害効果を示した。
【0129】
図35に示すように、HCC1954はハーセプチン非感受性であり、ハーセプチン単独で15mg/kgを投与した場合に殆ど阻害効果を示さず、TGIが4.67%、p>0.05であった。一方、ハーセプチン5mg/kgと共に19H6-Huを5mg/kg投与した場合、腫瘍阻害効果が見られ、TGIが59.74%、p<0.05であり、ハーセプチンとパージェタを同じ投与量で併用した場合(TGIが48.05%)と同等の阻害効果を示した。
【0130】
また、実験中においてモデル動物は何れも明らかな体重低下を示さず、他の毒性効果や副効果も見られなかった。このことから、ハーセプチンと19H6-Huを併用した場合、19H6-Huによってハーセプチンの最大腫瘍阻害效果が著しく向上することが確認できた。
【配列表】