(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】噴霧乾燥システム及び噴霧乾燥方法
(51)【国際特許分類】
F26B 17/10 20060101AFI20220912BHJP
F26B 3/12 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
F26B17/10 B
F26B3/12
(21)【出願番号】P 2017091458
(22)【出願日】2017-04-13
【審査請求日】2020-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0215515(US,A1)
【文献】特表2011-526836(JP,A)
【文献】特表2009-536020(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0154317(US,A1)
【文献】特開2006-232572(JP,A)
【文献】特表2003-501245(JP,A)
【文献】特開2003-200077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 17/10
F26B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料タンク、原料圧送ポンプ、超臨界二酸化炭素連続供給装置、熱風供給装置、
加圧ノズルである一流体ノズル及び乾燥チャンバーを含み(ただし、試料易溶化溶媒供給容器
及びキャピラリーリストリクターを含まない)、
原料液
100重量部に対して超臨界二酸化炭素
0.2~8重量部を混合した混合液が超臨界二酸化炭素含有液流路を通って、一流体ノズルに供給される、
平均粒子径が40~300μmである多孔質粉末製造用噴霧乾燥システム。
【請求項6】
一流体ノズル噴霧時の液体温度が31.1℃以上である、請求項
4又は5に記載の多孔質粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧乾燥システム及び噴霧乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧乾燥は、短時間かつ連続的に処理できる乾燥方法であり、各種粉末の製造に汎用されている。従来の噴霧乾燥方法によって製造された粉末は、水等の溶媒への分散性や溶解性が充分ではなく、水等の溶媒に添加した際に沈降して溶け残りが発生するという問題がある。そこで、分散性や溶解性を向上させることを目的として噴霧乾燥方法に関する種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、茶類エキスと平均重合度4~10の澱粉加水分解物よりなる水溶液において、その固形分濃度が20~55w/w%であり、且つその固形分中に占める澱粉加水分解物が20~70w/w%含有されるように調製し、これに炭酸ガスを水溶液中の水分量に対し0.25~2.5w/w%の範囲で溶存せしめた後、圧力ノズル型噴霧機で噴霧乾燥することを特徴とする優れた風味と溶解性を有するインスタント茶類の製造法(特許文献1)、ガスが吹き込まれた原料液体を高圧ポンプで圧送して噴霧ノズルより噴霧する泡沫噴霧乾燥法において、標準状態体積に換算されたガスの流量が原料液体の流量の2.5%(体積)を越える流量で原料液体中にガスを吹き込み、かつ微細気泡化して均一に分散させ、更に上記高圧ポンプの上流側の流路を昇圧することを特徴とする泡沫噴霧乾燥法(特許文献2)が開示されている。
【0004】
一方、超臨界二酸化炭素は、臨界点(31.1℃、7.38MPa)を超えた状態の二酸化炭素であり、高い拡散性と溶解性を有することが知られている。食品分野において超臨界二酸化炭素は、脱カフェインコーヒーの製造や機能性成分の抽出等に利用されている。また、非特許文献1で、3μm未満のナノ粒子の製造法として超臨界噴霧乾燥法が知られているが、特殊な装置が必要で、工場レベルでの大規模な粉末製造は不可能だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-210949号公報
【文献】特開平03-65136号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】R.E.Sievers et al.,Aerosol Science and Technology,1999,30(1),3-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のガスを水溶液中に添加して噴霧乾燥する方法では、気体を液体に溶解させる必要があるため、ガスを物理的剪断により微細化して混合する必要があり、炭酸ガスの場合は、さらに冷却工程も必要であり、設備が複雑で、操作が煩雑な上、非効率的だった。また、高圧ポンプの吸入前にガスを供給するため、高圧ポンプの吸入・吐出時に、キャビテーションが起こるリスクがあり、高圧ポンプの定量性が損なわれたり、高圧ポンプ及び周辺機器が損傷する問題があった。本発明は、原料液の冷却設備が不要で、通常の噴霧乾燥設備を利用でき、効率的で、キャビテーションのリスクも低い噴霧乾燥システムを提供するものである。また、多孔質で有ることに加え、粉末の直径を大きくすることで、溶解性を向上させた粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、二酸化炭素の臨界点以上の条件下にある原料液に、超臨界二酸化炭素を定量的に添加可能な、超臨界二酸化炭素連続供給装置を備えることによって、乾燥効率が向上し、溶解性の高い多孔質粉末が製造できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]の態様に関する。
[1]原料タンク、原料圧送ポンプ、超臨界二酸化炭素連続供給装置、熱風供給装置、一流体ノズル及び乾燥チャンバーを含み、原料液と超臨界二酸化炭素との混合液が超臨界二酸化炭素含有液流路を通って、一流体ノズルに供給される、噴霧乾燥システム。
[2]原料液100重量部に対し、超臨界二酸化炭素を0.2~10重量部添加することを特徴とする、[1]記載の噴霧乾燥システム。
[3]原料圧送ポンプの吐出圧力が7.4MPa以上である、[1]又は[2]記載の噴霧乾燥システム。
[4]一流体ノズル噴霧時の液体温度が31.1℃以上である、[1]~[3]の何れかに記載の噴霧乾燥システム。
[5]原料タンクから原料圧送ポンプによって圧送された原料液に、超臨界二酸化炭素を連続供給し、原料液と超臨界二酸化炭素との混合液を一流体ノズルによって乾燥チャンバー内に噴霧し、熱風供給装置によって乾燥することを特徴とする、多孔質粉末の製造方法。
[6]原料液100重量部に対し、超臨界二酸化炭素を0.2~10重量部添加することを特徴とする、[5]記載の多孔質粉末の製造方法。
[7]原料圧送ポンプの吐出圧力が7.4MPa以上である、[5]又は[6]記載の多孔質粉末の製造方法。
[8]一流体ノズル噴霧時の液体温度が31.1℃以上である、[5]~[7]の何れかに記載の多孔質粉末の製造方法。
[9]平均粒子径が40~300μmである、[5]~[8]の何れかに記載の多孔質粉末の製造方法
【発明の効果】
【0010】
本発明の噴霧乾燥システムは、原料液の冷却設備が不要で、通常の噴霧乾燥設備を利用でき、効率的で、キャビテーションのリスクが低い噴霧乾燥システムを提供するものである。また、超臨界二酸化炭素含有液を噴霧乾燥することで、乾燥効率が向上し、水分含量が低い粉末が得られると共に、超臨界二酸化炭素を含まないときに比べ、平均粒子径が大きく、多孔質で嵩密度の低い粉末を製造することができ、該粉末は、保存安定性に優れ、水等の溶媒への分散性及び溶解性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の噴霧乾燥システムの実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明の噴霧乾燥システムの実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、原料タンク、原料圧送ポンプ、超臨界二酸化炭素連続供給装置、熱風供給装置、一流体ノズル及び乾燥チャンバーを含む噴霧乾燥システムである。
【0013】
さらに本発明は、原料タンクから原料圧送ポンプによって圧送された原料液に、超臨界二酸化炭素を連続供給し、原料液と超臨界二酸化炭素との混合液を一流体ノズルによって乾燥チャンバー内に噴霧し、熱風供給装置によって乾燥することで、多孔質粉末を製造することができる。
【0014】
本発明で用いる原料タンクは、一流体ノズル噴霧時の液体温度が31.1℃以上になるように、原料液を保温又は加温できればよく、好ましくは31.1℃以上、より好ましくは32℃以上、さらに好ましくは35~100℃、特に好ましくは40~90℃に保温又は加熱できれば、一般的なタンクが利用でき、例えばスチームジャケット付きの撹拌タンクが例示できる。
【0015】
本発明で用いる原料圧送ポンプは、高圧ポンプであればよく、プランジャーポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ等の容積式ポンプを用いることができる。高圧ポンプの吐出圧力は、二酸化炭素の臨界圧力以上であればよく、7.4MPa以上が好ましく、7.5~30MPaがより好ましく、10~25MPaがさらに好ましい。
【0016】
本発明の超臨界二酸化炭素連続供給装置は、サイフォン式液化二酸化炭素ボンベ又はコールドエバポレータ付き液化二酸化炭素貯槽タンクと超臨界二酸化炭素供給ポンプを備えていればよく、原料液に超臨界二酸化炭素を連続供給できる。超臨界二酸化炭素連続供給装置は、原料液と超臨界二酸化炭素との混合液を超臨界二酸化炭素含有液流路を通って一流体ノズルに供給できるように接続すればよく、
図1のように原料圧送ポンプと一流体ノズルとの間の流路に接続してもよく、
図2のように原料圧送ポンプの流路の延長上に接続してもよい。超臨界二酸化炭素供給ポンプは高圧ポンプであればよく、プランジャーポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ等の容積式ポンプを用いることができる。超臨界二酸化炭素供給ポンプの吐出圧力は、二酸化炭素の臨界圧力以上であればよく、7.4MPa以上が好ましく、7.5~30MPaがより好ましく、10~25MPaがさらに好ましい。超臨界二酸化炭素添加量は、原料液100重量部に対して0.2~10重量部が好ましく、0.25~8重量部がより好ましく、0.3~5重量部がさらに好ましい。
【0017】
本発明で用いる熱風供給装置は、一般的に噴霧乾燥で用いるファン及びヒーターを備えていればよく、噴霧乾燥時の乾燥チャンバー内の温度が好ましくは60~120℃、より好ましくは70~100℃になればよい。
【0018】
本発明で用いる一流体ノズルは、二酸化炭素の臨界圧力以上で噴霧できれば、一般的に噴霧乾燥で用いる加圧ノズルでよく、好ましくは7.4MPa以上、より好ましくは7.5~30MPa、さらに好ましくは10~25MPaで噴霧できるノズルであればよい。原料液と超臨界二酸化炭素との混合液が超臨界二酸化炭素含有液流路を通って、一流体ノズルに供給され、乾燥チャンバー内に噴霧され、乾燥される。
【0019】
本発明では、前記方法で原料液を噴霧乾燥して多孔質粉末を製造できる。本発明に用いる原料液は、噴霧乾燥して粉末が得られるものであればよいが、固形分を10~80重量%含有するのが好ましく、20~70重量%含有するのがより好ましく、デキストリン、乳糖、食塩等の賦形剤を配合することが好ましい。該多孔質粉末は、平均粒子径が40~300μmが好ましく、50~200μmがより好ましい。水分含量は、8重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましく、6重量%以下がさらに好ましく、5重量%以下が特に好ましい。嵩密度は、0.50g/cm3以下が好ましく、0.48g/cm3以下がより好ましく、0.20~0.46g/cm3がさらに好ましい。該粉末は、多孔質で嵩密度が低く、保存安定性に優れ、水等の溶媒への分散性及び溶解性に優れている。
【0020】
本発明では、本方法で噴霧乾燥して多孔質粉末が得られれば特に限定はなく、任意の原料を用いて食品、化成品、化粧品、医薬部外品、医薬品、工業品、飼料、餌料、ペット用品、土木用品、水畜産用品、農林園芸用品等の粉末を製造できる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、各原料及び素材の%は別記がない限り全て重量%である。
【0022】
[試験例1]
澱粉分解物(パインデックス(登録商標)#2、松谷化学工業株式会社製)を用いて固形分40%に調整した水溶液を原料液として、オリフィス径3mmの一流体ノズルを用いて、表1に示した実施例1-1及び1-2(超臨界二酸化炭素供給有り)、又は比較例1(超臨界二酸化炭素供給無し)の噴霧乾燥条件で噴霧乾燥処理することにより、各澱粉分解物粉末を調製した。
【0023】
[試験例2]
澱粉分解物(グリスター(登録商標)、松谷化学工業株式会社製)を用いて固形分40%に調整した水溶液を原料液として、オリフィス径3mmの一流体ノズルを用いて、表1に示した実施例2-1及び2-2(超臨界二酸化炭素供給有り)、又は比較例2(超臨界二酸化炭素供給無し)の噴霧乾燥条件で噴霧乾燥処理することにより、各澱粉分解物粉末を調製した。
【0024】
[試験例3]
澱粉分解物(パインデックス(登録商標)#100、松谷化学工業株式会社製)を用いて固形分27%に調整した水溶液100重量部に、はちみつ(オレンジはちみつ、株式会社加藤美蜂園本舗製)34重量部を加えて混合したものを原料液として、オリフィス径3mmの一流体ノズルを用いて、表1に示した実施例3(超臨界二酸化炭素供給有り)又は比較例3(超臨界二酸化炭素供給無し)の噴霧乾燥条件で噴霧乾燥処理することにより、はちみつ粉末を調製した。
【0025】
[試験例4]
醤油(こいくちしょうゆ、キッコーマン食品株式会社製)100重量部に、難消化性デキストリン(ファイバーソル(登録商標)2、松谷化学工業株式会社製)8重量部を加えて溶解させたものを原料液として、オリフィス径3mmの一流体ノズルを用いて、表1に示した実施例4(超臨界二酸化炭素供給有り)又は比較例4(超臨界二酸化炭素供給無し)の噴霧乾燥条件で噴霧乾燥処理することにより、醤油粉末を調製した。
【0026】
[評価試験]
実施例1-1、1-2及び比較例1の澱粉分解物粉末、実施例2-1、2-2及び比較例2の澱粉分解物粉末、実施例3及び比較例3のはちみつ粉末、並びに実施例4及び比較例4の醤油粉末について、水分及び嵩密度を測定するとともに、粒度分布測定装置(SALD-2200、株式会社島津製作所製)を用いて粉末の平均粒子径を測定した。また、30℃の水100gにそれぞれの粉末5gを加えて静置することで溶解性を評価した。水への溶解性の評価は、溶解性が「◎:極めて良好」、「○:良好」、「△:やや不良」、「×:不良」によって表した。なお、水分については常圧過熱乾燥法(105℃、5時間)により測定し、嵩密度についてはメスシリンダーを用いてゆるみ嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0027】
【0028】
実施例1-1及び1-2の澱粉分解物粉末は、比較例1の澱粉分解物粉末に比べて、水分含量が低く、乾燥性が良好であった。また、嵩密度が低いとともに粉末の平均粒子径が大きく、水への溶解性が良好であった。
【0029】
実施例2-1及び2-2の澱粉分解物粉末は、比較例2の澱粉分解物粉末に比べて、水分含量が低く、乾燥性が良好であった。また、嵩密度が低く、水への溶解性が良好であった。
【0030】
実施例3のはちみつ粉末は、比較例3のはちみつ粉末に比べて、水分含量が低く、乾燥性が良好であった。また、嵩密度が低いとともに粉末の平均粒子径が大きく、水への溶解性が良好であった。
【0031】
実施例4の醤油粉末は、比較例4の醤油粉末に比べて、水分含量が低く、乾燥性が良好であった。また、嵩密度が低いとともに粉末の平均粒子径が大きく、水への溶解性が良好であった。
【0032】
以上より、原料液と超臨界二酸化炭素と混合液を噴霧して得られた粉末は、原料液のみを噴霧して得られた粉末に比べ、水分含量が低く、乾燥性が良好で、嵩密度が低いとともに粉末の平均粒子径が大きく、水への溶解性が良好であった。
【符号の説明】
【0033】
1 原料タンク
2 原料圧送ポンプ
3 超臨界二酸化炭素供給ポンプ
4 サイフォン式液化二酸化炭素ボンベ
5 超臨界二酸化炭素連続供給装置
6 ファン
7 ヒーター
8 熱風供給装置
9 一流体ノズル
10 乾燥チャンバー
11 原料液供給路
12 超臨界二酸化炭素含有液流路