(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】耐摩耗性皮膜、耐摩耗性部材及び耐摩耗性皮膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20220912BHJP
B32B 5/16 20060101ALI20220912BHJP
B32B 15/16 20060101ALI20220912BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20220912BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20220912BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220912BHJP
C25D 5/12 20060101ALN20220912BHJP
C25D 5/14 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
C23C28/02
B32B5/16
B32B15/16
C25D15/02 C
C25D15/02 J
C23C18/52 A
C25D7/00 C
C25D5/12
C25D5/14
(21)【出願番号】P 2018094130
(22)【出願日】2018-05-15
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】594014513
【氏名又は名称】帝国イオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北條 将史
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝司
(72)【発明者】
【氏名】川脇 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】中村 綾佑
(72)【発明者】
【氏名】日根野 実
(72)【発明者】
【氏名】蒲 隆弘
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-249647(JP,A)
【文献】特開2015-206460(JP,A)
【文献】特開2001-107860(JP,A)
【文献】特開2001-123292(JP,A)
【文献】特開平02-149685(JP,A)
【文献】特開2001-132754(JP,A)
【文献】特開2008-155362(JP,A)
【文献】特開2015-217580(JP,A)
【文献】特開2002-256449(JP,A)
【文献】国際公開第2010/075998(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第101113527(CN,A)
【文献】特開2017-002948(JP,A)
【文献】特開2017-044308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00-28/04
C23C 18/00-18/54
C25D 5/00-7/12
F16C 33/10-33/15
B32B 15/00-15/20
C25D 15/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション層と、めっき層と、複数の粒子と、コート層とを備え、
前記クッション層、前記めっき層及び前記コート層はこの順に積層され、
前記複数の粒子は、前記クッション層上に配置されており、
前記複数の粒子の一端は、前記クッション層及び前記めっき層によって保持されており、前記コート層は、前記複数の粒子及び前記めっき層表面を被覆するように形成されており、
前記クッション層は、前記めっき層及び前記コート層よりも柔らかい材料で形成され
、
前記クッション層の厚みは2μm~20μmである、耐摩耗性皮膜。
【請求項2】
前記複数の粒子は、ダイヤモンド粒子、カーボン粒子、二硫化モリブデン粒子及びポリテトラフルオロエチレン粒子からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の耐摩耗性皮膜。
【請求項3】
前記コート層は、クロム、銀、ポリテトラフルオロエチレン-ニッケル複合体、ニッケル、ニッケル-リン複合体、錫及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の耐摩耗性皮膜。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の耐摩耗性皮膜と、基材とを備え、
前記基材は前記耐摩耗性皮膜で被覆されており、
前記耐摩耗性皮膜は、前記クッション層側の面が前記基材に固着している、耐摩耗性部材。
【請求項5】
前記基材は、前記めっき層よりも柔らかい材料で形成されている、請求項4に記載の耐摩耗性部材。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の耐摩耗性皮膜の製造方法であって、
基材上に前記クッション層を形成する工程と、
前記クッション層上に前記複数の粒子を固着させる工程と、
前記クッション層上に第1のめっき処理を行って前記めっき層を形成する工程と、
前記めっき層上に第2のめっき処理を行って前記コート層を形成する工程と
をこの順に備える、耐摩耗性皮膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性皮膜、耐摩耗性部材及び耐摩耗性皮膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の機械部品、工具、金型等の部材に対して、優れた耐摩耗性を付与することが求められており、種々の技術が検討されている。特に近年では、部材表面に耐摩耗性に優れる皮膜をめっき等の方法で形成させることで、各種部材の耐摩耗性を高めることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、二硫化モリブデンを含む複合めっき液を用いて被めっき部材に皮膜を形成して耐摩耗性を高める技術が提案されている。また、特許文献2には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とNiとを含む皮膜を摺動部材に形成させることによって耐摩耗性を向上させ、摺動性能の維持を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-332454号公報
【文献】特開2015-092009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の耐摩耗性を有する皮膜では、確かに各種部材の耐摩耗性を向上させることができるものの、摩耗が長期間にわたって繰り返されると、皮膜が削れたり、劣化したりする等の現象が徐々に進行し、耐久性が劣ることが問題となっていた。近年、各種部材の耐摩耗性に関しては、摩耗が繰り返されても長期間にわたって優れた耐摩耗性を維持できる耐摩耗性皮膜が求められているところ、従来の技術では耐久性という点に問題があり、さらなる改善が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、摩耗が繰り返されても長期間にわたって優れた耐摩耗性を維持できる耐摩耗性皮膜及びその製造方法、並びに耐摩耗性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、耐摩耗性皮膜中に粒子を含有させると共に該粒子をクッション層上に配置させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
クッション層と、めっき層と、複数の粒子と、コート層とを備え、
前記クッション層、前記めっき層及び前記コート層はこの順に積層され、
前記複数の粒子は、前記クッション層上に配置されており、
前記複数の粒子の一端は、前記クッション層及び前記めっき層によって保持されており、
前記コート層は、前記複数の粒子及び前記めっき層表面を被覆するように形成されており、
前記クッション層は、前記めっき層及び前記コート層よりも柔らかい材料で形成されている、耐摩耗性皮膜。
項2
前記複数の粒子は、ダイヤモンド粒子、カーボン粒子、二硫化モリブデン粒子及びポリテトラフルオロエチレン粒子からなる群より選ばれる1種以上を含む、項1に記載の耐摩耗性皮膜。
項3
前記コート層は、クロム、銀、ポリテトラフルオロエチレン-ニッケル複合体、ニッケル、ニッケル-リン複合体、錫及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、項1又は2に記載の耐摩耗性皮膜。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の耐摩耗性皮膜と、基材とを備え、
前記基材は前記耐摩耗性皮膜で被覆されており、
前記耐摩耗性皮膜は、前記クッション層側の面が前記基材に固着している、耐摩耗性部材。
項5
前記基材は、前記めっき層よりも柔らかい材料で形成されている、項4に記載の耐摩耗性部材。
項6
項1~3のいずれか1項に記載の耐摩耗性皮膜の製造方法であって、
基材上に前記クッション層を形成する工程と、
前記クッション層上に前記複数の粒子を固着させる工程と、
前記クッション層上に第1のめっき処理を行って前記めっき層を形成する工程と、
前記めっき層上に第2のめっき処理を行って前記コート層を形成する工程と
をこの順に備える、耐摩耗性皮膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る耐摩耗性皮膜は、耐摩耗性に優れ、特に、摩耗が繰り返されても長期間にわたって優れた耐摩耗性を維持できる。
【0010】
本発明に係る耐摩耗性部材は、前記耐摩耗性皮膜を備えることで、長期間にわたって優れた耐摩耗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の耐摩耗性皮膜を備える耐摩耗性部材の一例を示す断面図である。
【
図2】耐摩耗性試験の結果を示し、(a)は摩耗深さの測定結果、(b)は摩擦係数の測定結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
1.耐摩耗性皮膜
図1は、本発明の耐摩耗性皮膜を備える耐摩耗性部材の一例を示す断面の概略図である。本実施形態の耐摩耗性皮膜10は、クッション層5と、めっき層11と、複数の粒子12と、コート層13とを備える。耐摩耗性皮膜10において、クッション層5、めっき層11及びコート層13はこの順に積層されている。複数の粒子12は、クッション層5上に配置され、複数の粒子12の一端は、クッション層5及びめっき層11によって保持されており、コート層13は、複数の粒子12及びめっき層11表面を被覆するように形成されている。クッション層5は、めっき層11及びコート層13よりも柔らかい材料で形成される。
【0014】
耐摩耗性皮膜10は、上記構造を有することで、耐摩耗性に優れ、特に、コート層13表面に対して摩耗が繰り返されても摩耗による削れ及び剥がれが起こりにくく、長期間にわたって優れた耐摩耗性を維持できる。
【0015】
図1の実施形態では、耐摩耗性皮膜10は基材20上に形成されており、耐摩耗性皮膜10のクッション層5側の面が基材20に固着することで、耐摩耗性部材30が形成されている。
【0016】
クッション層5は、粒子12及びめっき層11を保持するための層であり、特に、めっき層11及びコート層13よりも柔らかい材料で形成される層である。めっき層11及びコート層13よりも柔らかい材料で形成されているとは、例えば、クッション層5の弾性率が、めっき層11及びコート層13の弾性率よりも低いことを意味することができる。ここでいう弾性率は、例えば、ナノインデンテーション法によって測定された値をいう。
【0017】
クッション層5は、めっき層11及びコート層13よりも柔らかい材料で形成され、かつ、皮膜を形成しやすい材料で構成されている限りは、その種類は特に限定されない。従って、クッション層5を形成する材料としては、めっき層11及びコート層13を形成している材料に応じて適宜選定することができる。
【0018】
クッション層5は、各種金属のめっき層を含むことができる。クッション層5に含まれる金属のめっき層を形成する金属は、例えば、ニッケル、亜鉛、コバルト、錫、銅及び銀等を挙げることができる。また、クッション層5としては、金属のめっき層以外の層を含むこともでき、このような層としては、例えば、樹脂層を挙げることができる。クッション層5は、金属のめっき層と、樹脂層とを両方含むことができ、例えば、これらの層を備える積層構造を形成することができる。この場合において、金属のめっき層及び樹脂層はそれぞれ単層及び多層のいずれであってもよい。
【0019】
クッション層5は、各種金属のめっき層のみで形成されていてもよいし、樹脂層のみで形成されていてもよいし、前記積層構造のみで形成されていてもよい。
【0020】
樹脂層を形成する樹脂の種類は、公知の樹脂を広く挙げることができ、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。クッション層5を形成するための樹脂は、導電性物質を含むことができ、この場合、クッション層5は、金属のめっき層と、樹脂層との積層構造を形成しやすい。導電性物質としては、公知の金属粒子を広く採用することができ、例えば、パラジウム粒子等を挙げることができる。金属粒子の平均粒子径は特に限定されず、例えば、1~100nmとすることができる。ここでいう平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0021】
クッション層5が前記積層構造である場合は、金属のめっき層として軟質ニッケルめっき層及び/又はニッケル-リン複合めっき皮膜を、樹脂層として導電性物質を含有する樹脂層等を挙げることができる。ここで、軟質ニッケルめっき層は、例えば、Hv200~300であるニッケルめっき層を示す。
【0022】
クッション層5が積層構造である場合は、例えば、金属のめっき層がコート層13側に配置されることが好ましい。この場合、粒子12をより強固に保持することができる。
【0023】
クッション層5は、めっき層11及びコート層13よりも柔らかい材料(低い弾性率を有する材料)で形成されていることで、例えば、後記するように、耐摩耗性皮膜10に加わる応力を緩和させる作用を有し得る。これにより、耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性を向上させることができ、耐久性を高めることができる。
【0024】
クッション層5の形成方法は特に限定されない。例えば、電気めっきによってクッション層5を形成することができる。電気めっきは、連続式、バッチ式のいずれでもよい。クッション層5を電気めっきによって形成する場合、例えば、後記するように、導電性物質を含有する樹脂皮膜及び無電解めっき皮膜からなる積層膜をあらかじめ基材上に形成し、この積層膜上に電気めっきにより金属のめっき層を形成することで、クッション層5が得られる。このように形成されるクッション層5は、基材上に樹脂皮膜(樹脂層)、無電解めっき皮膜及び電気めっき層(金属のめっき層)がこの順に積層された積層膜となる。無電解めっき皮膜としては、例えば、ニッケル-リン複合めっき皮膜、無電解銅めっき皮膜等が挙げられる。
【0025】
クッション層5の厚みは特に限定されず、例えば、2μm~20μmとすることができ、5μm~10μmであることがより好ましい。
【0026】
耐摩耗性皮膜10において、めっき層11は、めっき処理によって形成された層である。めっき層11は、例えば、電解めっき、無電解めっき等の方法で形成された層である。
【0027】
めっき層11は、耐摩耗性皮膜10において、複数の粒子12を保持する役割を有する層である。
【0028】
めっき層11は、クッション層5の表面(ただし、粒子12が配置されている箇所は除く)を覆うように形成される。めっき層11は、粒子12を覆い隠していないことが好ましい。
【0029】
めっき層11としては、クッション層5よりも硬い材料で形成される。
【0030】
めっき層11としては、各種金属のめっき層を挙げることができる。めっき層11を形成する金属は、特に限定されない。金属の具体例としては、ニッケル、ニッケル-リン複合体、亜鉛、コバルト、錫、銅及び銀等を挙げることができる。ニッケル-リン複合体は、ニッケルとリンとの混合物であってもよいし、合金であってもよい。
【0031】
めっき層11を形成する金属は、1種のみ又は2種以上とすることができる。また、めっき層11を形成する金属は、合金とすることもできる。あるいは、めっき層11を形成する金属は、酸化物、窒化物、硫化物等とすることもできる。さらに、めっき層11は、金属に加えて又は金属に替えてその他の元素(例えば、リン、ホウ素等の非金属元素)を構成元素とすることもできる。
【0032】
めっき層11の例としては、無電解めっき処理により形成した硬質ニッケルめっき層(無電解ニッケルめっき層)、無電解ニッケル-リン複合めっき層が挙げられる。めっき層11が無電解ニッケル-リン複合めっき層である場合、共析されるPの効果によってめっき層11の硬度と耐食性が向上し得る。硬質ニッケルめっき層とは、例えば、Hv300~500(好ましくは、310~500)であるニッケルめっき層を示す。また、めっき層11の例としては、サッカリン、ブチンジオール等の添加剤を加えて電解めっきにより形成した硬質ニッケル層を挙げられこともできる。めっき層11として硬質ニッケルめっき層を適用する場合、例えば公知の光沢剤をめっき層11に含ませることにより、Hv300~550の硬質皮膜となり得る。
【0033】
めっき層11は、積層構造を有することができ、例えば、無電解めっきで形成される無電解めっき層と、電気めっきで形成される電気めっき層との積層構造が挙げられる。
【0034】
めっき層11の形成方法は特に限定されず、例えば、公知の各種方法でめっき層11を形成することができる。めっき層11の形成方法の具体例としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよい。
【0035】
めっき層11は、多層構造を有することもできる。例えば、めっき層11が第1の層及び第2の層で形成される2層構造である場合、第1の層が電気めっきで形成された層、第2の層を無電解めっきで形成された層とすることができる。この場合、例えば、第2の層はコート層13側に配置され、また、その逆とすることもできる。
【0036】
めっき層11の厚みは特に限定されず、粒子12を固定できる厚みとすることができる。例えば、めっき層11の厚みは、0.1μm~1mmとすることができ、1~100μmであることがより好ましく、1~10μmであることが特に好ましい。
【0037】
粒子12は、耐摩耗性皮膜10の厚み方向に対して支柱のような役割を果たし得るものであり、耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性を長期間にわたって持続させる機能を有し得る。
【0038】
粒子12の種類は特に限定されない。粒子12としては公知の材料を使用することができ、例えば、ダイヤモンド粒子、カーボン粒子、二硫化モリブデン粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子、cBN粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子、炭化珪素粒子、その他、例えば研磨材等の砥粒として使用され得る無機材料等を挙げることができる。これらの中でも、耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性がより向上しやすい観点から、粒子12は、ダイヤモンド粒子、カーボン粒子、二硫化モリブデン粒子、及びポリテトラフルオロエチレン粒子からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。粒子12は、1種のみであってもよいし、異なる2種以上からなるものであってもよい。粒子12は、市販の各種粒子を使用することもできる。
【0039】
粒子12は、孔を有していてもよい。この場合、例えば、耐摩耗性皮膜10を油中で含浸させた場合に、粒子12の孔中にも油が浸透するので、保油性が発揮され得る。
【0040】
粒子12は、耐摩耗性皮膜10中に複数個含まれる。
【0041】
複数の粒子12は、クッション層5上に配置されているとともに、複数の粒子12それぞれの一端は、クッション層5及びめっき層11によって保持されている。これにより、複数の粒子12は、クッション層5上で粒子1個ずつが間隔をあけて配置され得る。粒子12が例えば、ダイヤモンド等の尖った部分を有する場合は、
図1に示すように、尖った部分がめっき層11とは逆側方向、つまり、コート層13側に向くように規則的に配置されることがあるが、必ずしもこのような規則的に配置されるものではなく、一部の粒子12が異なる方向を向くように配置することもある。
【0042】
耐摩耗性皮膜10中に含まれる粒子12の量は特に限定されず、例えば、耐摩耗性皮膜10に対して10~90vol%の粒子12が含まれている場合は、本発明の効果が顕著に発揮され得る。
【0043】
粒子12は、その一部がめっき層11の表面よりも突出するように設けられている。例えば、粒子12の全厚みのうちの半分以上がめっき層11の表面よりもコート層13側に突出することができる。
【0044】
粒子12の大きさは特に限定されない。例えば、耐摩耗性皮膜10の膜厚に応じて粒子12の大きさを適宜選択することができる。例えば、粒子12を球状と見立てたときに、一次粒子径が最大30μmである場合、この粒子12を固定できる程度にめっき厚11の厚みを設定することができる。ここでいう一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡による直接観察によって粒子12を無作為に50個選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0045】
粒子12の形状も特に限定されない。クッション層5及びめっき層11によって保持されやすいという観点から、粒子12は、真球状ではない方が好ましく、例えば、表面に凸部を有するような歪んだ形状であることが好ましい。
【0046】
コート層13は、耐摩耗性皮膜10において、複数の粒子12及びめっき層11表面を被覆するように形成された層である。このコート層13は、耐摩耗性皮膜10の最表面に位置し、基材20等に耐摩耗性および摺動性を付与することができる層である。
【0047】
コート層13は、耐摩耗性を有する公知の材料で形成することができる。
【0048】
コート層13の具体例としては、樹脂、金属等の種々の材料で形成された皮膜を挙げることができる。
【0049】
樹脂としては、例えば、フッ素系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等を挙げることができる。フッ素系樹脂は、例えば、粒子状の形状であってもよい。フッ素系樹脂は、1種又は2種以上を含むことができる。
【0050】
金属としては、ニッケル、クロム、銅、錫、銀、チタン、鉄、モリブデン等を挙げることができる。金属は、1種又は2種以上を含むことができる。コート層13を形成する金属は、合金とすることもできる。あるいは、コート層13を形成する金属は、酸化物、窒化物、硫化物等とすることもできる。さらに、コート層13は、金属に加えて又は金属に替えてその他の元素(例えば、リン、ホウ素等の非金属元素)を構成元素とすることもできる。
【0051】
コート層13は、例えば、樹脂と金属の両方を含むこともできる。コート層13が樹脂と金属の両方を含む場合、両者の混合割合は特に限定されず、所望の耐摩耗性を発揮させるべく、適宜の混合割合とすることができる。
【0052】
コート層13は、クロム、銀、ポリテトラフルオロエチレン-ニッケル複合体、ニッケル、ニッケル-リン複合体、錫及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性がより向上しやすい。ポリテトラフルオロエチレン-ニッケル複合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン及びニッケルを含む混合物又はポリテトラフルオロエチレン及びニッケルからなる混合物を挙げることができる。ニッケル-リン複合体は、ニッケルとリンとの混合物であってもよいし、合金であってもよい。
【0053】
コート層13は、1種の材料のみで形成されていてもよいし、異なる2種以上からなる材料で形成されていてもよい。
【0054】
コート層13を形成する方法は特に限定されない。例えば、公知の皮膜を形成する方法を採用することができる。具体的には、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等によるめっき処理法、その他、塗布、スパッタリング等の各種方法によって、コート層13を形成できる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよい。コート層13は、無電解めっき処理によって形成されていることが好ましい。
【0055】
コート層13は、前述のように、複数の粒子12及びめっき層11表面を被覆するように形成される。コート層13は、複数の粒子12をすべて覆い隠すように形成することができる。摩耗初期のなじみ性を高めるという観点からは、コート層13は、複数の粒子12をすべて覆い隠すことが好ましい。
【0056】
コート層13の厚みは特に限定されない。例えば、コート層13の厚みは少なくとも1μm以上の膜厚とすることができる。コート層13の厚みの上限は、めっき層11の厚みに応じて適宜設定でき、例えば、粒子12の露出部分をコート層13ですべて被覆できる厚みに調整することができる。
【0057】
耐摩耗性皮膜10は、耐摩耗性を付与するための皮膜として、各種の部材に対して好適に使用することができ、
図1に示すように耐摩耗性部材30を形成することができる。耐摩耗性皮膜10で各種部材を被覆する場合、コート層13が表面側に位置するように耐摩耗性皮膜10が被覆される。
【0058】
本発明の耐摩耗性皮膜10は、耐摩耗性に優れるコート層13を備えることで、高い耐摩耗性及び摺動性を付与することができ、特に、耐摩耗性皮膜10中に粒子12が複数含まれていることで、摩耗が繰り返されたとしても耐摩耗性の効果が失われにくい。
【0059】
詳述すると、耐摩耗性皮膜10は、耐摩耗性に優れるコート層13を有しているといえども、摩耗が長期間にわたって繰り返されると、コート層13が削れたり、損傷したりすることがあり、これにより、コート層13の耐摩耗性及び摺動性は徐々に失われ得る場合がある。このようにコート層13が摩耗によって擦り減ると、やがて耐摩耗性皮膜10中に存在する粒子12の先端が耐摩耗性皮膜10の表面に露出する。コート層13が削れて、粒子12が一定の厚み分まで露出すると(例えば、
図1の破線部までコート層13が削れると)、この露出した粒子12によって、コート層13の削れ及び損傷が防止される。その結果、耐摩耗性皮膜10表面が引き続き摩耗されたとしてもコート層13の摩耗による擦り減りや損傷等が起こりにくくなる。
【0060】
従来の耐摩耗性皮膜は、摩耗され続けると皮膜も削れ続けて、次第にコート層が消失して耐摩耗性が消失し得るものであったが、本発明の耐摩耗性皮膜10は、前述の構成を具備することで、従来よりも長期間にわたって耐摩耗性の効果を持続することができる。また、研磨により粒子の先端部分をあらかじめ平坦にし、粒子の露出面積を増やすことで、初期摩耗量の増加を抑制することができる。
【0061】
その上、耐摩耗性皮膜10において、複数の粒子12はめっき層11よりも柔らかい材料で形成されたクッション層5上に配置されていることから、摩耗により、粒子12に応力が加わってもクッション層5によって、その応力が緩和されやすい。その結果、耐摩耗性皮膜10に摩耗が繰り返されたとしても耐摩耗性皮膜10への応力も緩和され、耐摩耗性皮膜10への負荷が低減し、耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性が向上する。また、耐摩耗性皮膜10に摩耗が繰り返されたとしても、粒子12の脱落及び粒子12の削れ等も起こりにくく、これによっても、耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性が向上し、耐久性に優れる。
【0062】
2.耐摩耗性部材
耐摩耗性部材30は、
図1に示すように、耐摩耗性皮膜10と、基材20とを備え、前記基材20は前記耐摩耗性皮膜10で被覆されており、前記耐摩耗性皮膜10は、前記クッション層5側の面が前記基材20に固着している。
【0063】
耐摩耗性皮膜10は、本明細書の「1.耐摩耗性部材」の項で説明した構成と同様である。
【0064】
基材20は、各種の固体材料を適用することができ、その種類は特に制限されない。例えば、金属(例えば、鉄)、合金、樹脂、セラミックス、等の各種材料を基材20とすることができる。樹脂は、特に限定されず、公知の光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂を広く採用することができる。
【0065】
基材20は、めっき層11よりも柔らかい材料で形成されていることが好ましく、この場合、耐摩耗性部材30の耐摩耗性が向上し、耐久性が特に優れる。基材20がめっき層11よりも柔らかい材料で形成されているとは、例えば、基材20の弾性率が、めっき層11の弾性率よりも低いことを意味することができる。ここでいう弾性率は、例えば、ナノインテンデーション法によって測定された値をいう。
【0066】
例えば、めっき層11が硬質ニッケルめっきで形成されている場合は、基材20は、樹脂等を使用することができる。
【0067】
基材20の形状は特に限定されない。例えば、基材20の形状は、基板状、フィルム状、棒状、ブロック状、球状、楕円球状、歪曲状等が挙げられる。また、基材20は、各種の機械部品、工具、金型、軸受け、スリーブ等であってもよい。基材20の耐摩耗性皮膜10で被覆される部分は、平坦状及び非平坦状(凹凸形状、粗面形状、波形状等)のいずれの形状でもよい。
【0068】
耐摩耗性部材30は、耐摩耗性皮膜10のクッション層5が基材20に直接固着されることで形成され得る。あるいは、耐摩耗性部材30は、耐摩耗性皮膜10と基材20との間に他の層を介在して形成されていてもよい。この場合、他の層としては、後記するように、クッション層5を形成するためにあらかじめ設ける導電性物質を含む樹脂皮膜及び該導電性樹脂上の無電解めっき皮膜(例えば、Ni-P皮膜)が挙げられる。例えば、耐摩耗性部材30は、基材20上に樹脂皮膜及び無電解めっき皮膜がこの順に備えられ、さらに無電解めっき皮膜の上に耐摩耗性皮膜10が設けられて耐摩耗性部材30が形成される。
【0069】
耐摩耗性部材30において、クッション層5は、基材20の全面に設けられていることが好ましい。
【0070】
本発明の耐摩耗性部材30は、耐摩耗性皮膜10を備えることで、摩耗が繰り返されても長期間にわたって優れた耐摩耗性を維持できる。
【0071】
本発明の耐摩耗性皮膜10及び耐摩耗性部材30は、各種の部材に好適に使用することができる。適用可能な部材としては、各種の機械部品、工具、金型等が例示され、その他、家庭用品、産業機械、輸送機又はレジャー用品等に使用されるような各種摺動部品も例示される。
【0072】
3.耐摩耗性皮膜の形成方法
耐摩耗性皮膜10の形成方法は、特に限定されず、前述した構成を備える限りは、各種の方法にて耐摩耗性皮膜10を製作することができる。以下、一例として、耐摩耗性皮膜10を基材20上に形成する方法を説明する。
【0073】
耐摩耗性皮膜10を製造する方法は、基材20上に前記クッション層5を形成する工程(以下、「工程1」と略記する)と、クッション層5上に複数の粒子12を固着させる工程(以下、「工程2」と略記する)と、クッション層5上に第1のめっき処理を行ってめっき層11を形成する工程(以下、「工程3」と略記する)と、めっき層11上に第2のめっき処理を行ってコート層13を形成する工程(以下、「工程4」と略記する)とをこの順に備えることができる。
【0074】
工程1において使用する基材20は、耐摩耗性部材30が備える基材20と同様の基材を挙げることができる。
【0075】
工程1でクッション層5を形成する方法は特に限定されない。例えば、クッション層5は電気めっきによって形成することができる。この場合、例えば、基材20上にあらかじめ導電性物質を含む樹脂皮膜を形成し、該樹脂皮膜上に無電解めっき皮膜を形成し、さらに該無電解めっき皮膜上に電気めっき皮膜を形成することで、樹脂皮膜、無電解めっき皮膜及び電気めっき皮膜がこの順に積層してなるクッション層5が形成される。樹脂皮膜が前記樹脂層に相当し、無電解めっき皮膜及び電気めっき皮膜が前記金属のめっき層に相当する。あるいは、基材20上に電気めっきを直接行うことで金属のめっき層を形成し、これをクッション層5とすることができる。この場合、基材20としては、鉄等の金属製の材料で形成されていることが好ましい。
【0076】
導電性物質を含む樹脂皮膜は、例えば、導電性物質を含む樹脂の溶液又は分散液から形成することができる。具体的に、導電性物質を含む樹脂の溶液又は分散液を基材20上に塗布し、乾燥することで導電性物質を含む樹脂皮膜を形成することができる。塗布及び乾燥条件は特に限定されず、公知の方法で樹脂皮膜を形成することができる。導電性物質を含む樹脂の溶液又は分散液は、基材20の全面に塗布することができる。
【0077】
導電性物質としては、公知の金属粒子を広く採用することができ、例えば、パラジウム粒子等が挙げられる。樹脂としては、公知の樹脂を広く挙げることができ、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。導電性物質を含む樹脂の溶液又は分散液の溶媒は特に限定されず、例えば、塗料を形成する公知の有機溶媒を広く採用することができる。有機溶媒としては、公知の塗膜形成に用いられている溶媒を広く使用することができ、例えば、メチルエチルケトン等のケトン化合物、エステル化合物、アルコール、エーテル化合物等が挙げられる。導電性物質を含む樹脂の溶液又は分散液は市販品を使用することもできる。
【0078】
導電性物質を含む樹脂皮膜の厚みは特に限定されず、例えば、0.1~10μmの厚みに形成することができる。
【0079】
導電性物質を含む樹脂皮膜上に無電解めっき皮膜を形成する方法としては、例えば、無電解めっき法を採用することができる。無電解めっきの方法は特に限定されず、公知の無電解めっきを広く適用することができる。
【0080】
無電解めっき皮膜としては、例えば、ニッケル-リン複合めっき皮膜、無電解銅めっき皮膜等が挙げられる。
【0081】
無電解めっき皮膜の厚みは特に限定されず、例えば、10~19.5μmの厚みに形成することができる。
【0082】
該無電解めっき皮膜上にめっき皮膜を形成する方法としては、例えば、電気めっき法を採用することができる。電気めっきの方法は特に限定されず、公知の電気めっきを広く適用することができる。この電気めっきでは、例えば、ニッケル、亜鉛、コバルト、錫、銅及び銀等のめっき皮膜を形成することができ、特に、軟質ニッケルめっき皮膜を形成することが好ましい。
【0083】
工程2では、工程1で形成したクッション層5上に複数の粒子12を固着させる。粒子12は、「1.耐摩耗性皮膜」の項で説明した粒子12と同様である。
【0084】
クッション層5上に複数の粒子12を固着させる方法は特に限定されない。例えば、クッション層5上に複数の粒子12を配置し、この状態で電気めっき処理して電気めっき皮膜を形成することで、複数の粒子12をクッション層5上に固着させることができる。複数の粒子12は、例えば、クッション層5上に配置した後、クッション層5上全体に応力を加えて、複数の粒子12をクッション層5に押し込んでから、電気めっき処理を行うことができる。
【0085】
複数の粒子12をクッション層5上に固着させるために形成させる電気めっき皮膜(電着層)の種類は特に限定されず、例えば、Hv200~550である電気めっき皮膜(例えば、Hv200~550であるニッケルめっき皮膜)を挙げることができる。
【0086】
上記工程2により、クッション層5上に複数の粒子12が保持されて配置される。この工程2により、複数の粒子12の各々は、例えば、クッション層5上に不規則に配置される。
【0087】
工程3では、クッション層5上に第1のめっき処理を行ってめっき層11を形成する。
【0088】
第1のめっき処理の方法は、特に制限されない。めっきの方法としては、従来公知の電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよい。
【0089】
第1のめっき処理では、各種金属のめっき層を形成することができる。金属の具体例としては、ニッケル、亜鉛、コバルト、錫、銅及び銀等を挙げることができる。第1のめっき処理としては、例えば、電気めっき及び/又は無電解ニッケルめっきを採用することができる。
【0090】
第1のめっき処理によって、前記めっき層11が形成され、複数の粒子12が基材20により強く保持され得る。このめっき層11は、前記電着層と、第1のめっき処理で形成される層で形成される2層構造を有する。なお、めっき層11は、このような2層構造に限定されず、例えば、第1のめっき処理によって形成される層のみとすることもできる。
【0091】
第1のめっき処理は、粒子12の一部が、第1のめっき処理で形成されためっき層11の表面よりも突出するように行う。例えば、粒子12の全厚みのうちの半分以上がめっき層11の表面よりも突出するように、第1のめっき処理を行うことができる。
【0092】
第1のめっき処理によって、クッション層5に固着されている複数の粒子12が、第1のめっき処理で形成されためっき層11により保持され、粒子12がより強固にクッション層5に保持される。第1のめっき処理で形成され得るめっき層11は、クッション層5上のみに形成され、粒子12を覆い隠していないことが好ましい。
【0093】
工程4では、工程3で形成しためっき層11上に第2のめっき処理を行ってコート層13を形成する。
【0094】
第2のめっき処理の方法も特に制限されない。めっきの方法としては、従来公知の電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよい。
【0095】
第2のめっき処理は、容易にコート層13を形成することができるという点で、無電解めっき処理であることが好ましい。
【0096】
第2のめっき処理では、例えば、樹脂、金属等の材料を用いて行うことができる。特に第2のめっき処理では、クロム、銀、ポリテトラフルオロエチレン-ニッケル複合体,ニッケル、錫及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むめっき層を形成することが好ましい。この場合、耐摩耗性がより向上した耐摩耗性皮膜10が得られやすい。第2のめっき処理は、無電解めっき処理であることが好ましい。
【0097】
第2のめっき処理により、複数の粒子12及び第1のめっき処理で形成されためっき層11がコート層13で被覆される。この第2のめっき処理では、めっき層11よりも突出している複数の粒子12の全てがコート層13で被覆されるように行うことが好ましい。この場合、得られた耐摩耗性皮膜10の耐摩耗性がより長期にわたって持続され得る。
【0098】
以上の工程1~工程4をこの順に備える製造方法により、基材20上に耐摩耗性皮膜10が形成され、例えば、
図1に示される耐摩耗性部材30を得ることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
基材としてABS樹脂を準備し、この基材に導電性物質であるパラジウム粒子を含むエポキシ樹脂の分散液を全面に塗布し、樹脂皮膜を形成した。この樹脂皮膜上に対し、無電解めっきによりニッケル-リンめっき皮膜を形成した。このように形成したニッケル-リンめっき皮膜上に対して電気めっきを行い、軟質ニッケルめっき層を形成し、これをクッション層として得た。このクッション層は、軟質ニッケルめっき層に加えて、樹脂皮膜及びニッケル-リンめっき皮膜が含まれていた。クッション層の厚みは、10μmであった。
【0101】
次いで、粒子として20μm(平均一次粒子径)のダイヤモンドをクッション層表面に押し当て、電気ニッケルめっき処理を行って2μmのニッケルめっき層によってダイヤモンドをクッション層上に固着させた。次いで、一般的なめっき条件で無電解ニッケルめっき処理を行い、厚み7μmの無電解ニッケルめっき層(硬質ニッケルめっき層)を形成した。これにより、クッション層上に複数の粒子がめっき層によって保持された。このめっき層は、前記2μmのニッケルめっき層と、無電解ニッケルめっき層(硬質ニッケルめっき層)との2層構造で形成された。
【0102】
上記のようにめっき層が形成された基材に対して、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を含む複合無電解ニッケルめっきを行った。これによって、すべての粒子及びめっき層が、厚みが15~20μmであるコート層により被覆され、これを耐摩耗性部材として得た。
【0103】
(実施例2)
基材として鉄を準備し、この基材に電気めっきを行い、銅めっき層を形成し、これをクッション層として得た。クッション層の厚みは、10μmであった。
【0104】
次いで、粒子として20μm(平均一次粒子径)のダイヤモンドをクッション層表面に押し当て、電気ニッケルめっき処理を行って2μmのニッケルめっき層によってダイヤモンドをクッション層上に固着させた。次いで、一般的なめっき条件で無電解ニッケルめっき処理を行い、厚み7μmの無電解ニッケルめっき層(硬質ニッケルめっき層)を形成した。これにより、クッション層上に複数の粒子がめっき層によって保持された。このめっき層は、前記2μmのニッケルめっき層と、無電解ニッケルめっき層(硬質ニッケルめっき層)との2層構造で形成された。
【0105】
上記のようにめっき層が形成された基材に対して、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を含む複合無電解ニッケルめっきを行った。これによって、すべての粒子及びめっき層が、厚みが15~20μmであるコート層により被覆され、これを耐摩耗性部材として得た。
【0106】
(比較例1)
基材として鉄を準備し、この基材に粒子として20μm(平均一次粒子径)のダイヤモンドを基材表面に押し当て、電気ニッケルめっき処理を行って2μmのニッケルめっき層によってダイヤモンドを基材上に固着させた。次いで、一般的なめっき条件で無電解ニッケルめっき処理を行い、厚み7μmの無電解ニッケルめっき層(硬質ニッケルめっき層)を形成した。これにより、基材上に複数の粒子がめっき層によって保持された。このめっき層は、前記2μmのニッケルめっき層と、無電解ニッケルめっき層(硬質ニッケルめっき層)との2層構造で形成された。
【0107】
上記のようにめっき層が形成された基材に対して、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を含む複合無電解ニッケルめっきを行った。これによって、すべての粒子及びめっき層が、厚みが15~20μmであるコート層により被覆され、これを耐摩耗性部材として得た。
【0108】
(耐摩耗性試験)
耐摩耗性部材の耐摩耗性試験は、次の条件で行った。
・耐摩耗性試験方法:ブロックオンリング方式
・荷重:20N
・相手材:鋳鉄FC250
・回転数:300rpm
・摩耗時間:1800sec
各実施例及び比較例で得られた耐摩耗性部材それぞれについて耐摩耗性試験を行い、測定開始から1800secまでの間の摩耗量(摩耗深さ)及び摩擦係数をそれぞれ測定した。
【0109】
図2は耐摩耗性試験の結果を示し、(a)は摩耗深さの測定結果、(b)は摩擦係数の測定結果を示している。
【0110】
図2の結果から、実施例1,2で得られた耐摩耗性部材は、摩耗量(摩耗深さ)及び摩擦係数が比較例1の耐摩耗性部材よりも小さいことがわかる。したがって、実施例1,2の耐摩耗性部材は、摩耗が繰り返されても長期間にわたって優れた耐摩耗性を維持できる耐摩耗性皮膜を備えていることがわかった。
【符号の説明】
【0111】
5:クッション層
10:耐摩耗性皮膜
11:めっき層
12:粒子
13:コート層
20:基材
30:耐摩耗性部材