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  • 特許-植栽受圧板及び斜面緑化工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】植栽受圧板及び斜面緑化工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
E02D17/20 102Z
E02D17/20 102A
E02D17/20 106
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018187439
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020056222
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】392010533
【氏名又は名称】株式会社水戸グリーンサービス
(73)【特許権者】
【識別番号】592141400
【氏名又は名称】株式会社高特
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】雨貝 洋
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-049854(JP,A)
【文献】特開平06-185066(JP,A)
【文献】特開平06-010355(JP,A)
【文献】特開平11-210005(JP,A)
【文献】特開平10-280417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面材と、前記面材の中央部を連通したボルト孔と、前記面材を連通した導根孔と、を有する受圧板と、
弧状の内面を有する殻構造のカバー本体と、前記カバー本体の上部を連通した植栽孔と、前記カバー本体の下部を連通した排水と、を有するカバー部と、を備え、
前記カバー本体の内面が遮水性を有し、
前記面材の周縁と前記カバー本体の開放部の周縁を係合することで、前記面材の表面と前記カバー部の内面との間に植栽空間を構成可能であることを特徴とする、
植栽受圧板。
【請求項2】
前記面材及び/又は前記カバー本体が繊維強化プラスチック(FRP)からなることを特徴とする、請求項1に記載の植栽受圧板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植栽受圧板を用いた、斜面緑化工法であって、
斜面にアンカー孔を削孔する工程と、
前記アンカー孔内にアンカー材を配置して固定する工程と、
前記受圧板のボルト孔に前記アンカー材の頭部を貫通させて前記受圧板を斜面に配置し、前記受圧板を前記アンカー材の頭部と連結する工程と、
前記受圧板の面材に前記カバー本体を係合して前記植栽空間内に植栽ユニットを配置する工程と、を備え、
前記植栽ユニットが、客土袋と、前記客土袋内に充填した植生基材を有することを特徴とする、
斜面緑化工法。
【請求項4】
前記植栽ユニットを配置する工程以前に、斜面から水平方向又は水平方向上方へ向けて斜面を削孔して内部に集水管を配置するか斜面へ集水管を打ち込む工程を備え、前記集水管の一端が、前記導根孔内に延在することを特徴とする、請求項3に記載の斜面緑化工法。
【請求項5】
複数の前記導根孔が、前記ボルト孔より上方及び下方に位置し、前記集水管の一端が、前記ボルト孔より上方の前記導根孔内に延在することを特徴とする、請求項4に記載の斜面緑化工法。
【請求項6】
前記植栽ユニットが、前記客土袋内に植栽した苗木又は前記客土袋内に埋設した種子を有することを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の斜面緑化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植栽受圧板及び斜面緑化工法に関し、特に斜面補強と斜面緑化を同時に達成でき、かつ根系の地山内への誘導機能を備え植栽効果が高い植栽受圧板及びこれを用いた斜面緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面緑化工法に係る従来技術として、引用文献1~5には、斜面に固定した植生基材入りの客土袋を吹付コンクリートで被覆する、共同出願人の開発による「グリーンポケット(登録商標)工法」が開示されている。
この技術によれば、修景美化の他、排水促進、風化抑制、吹付面の劣化防止等の複数の効果を奏することができる。
また、引用文献6には、斜面に切り出し木材を積み上げてアンカーで固定し、木材背面側の空間に植生基材を配置した斜面緑化工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-321545号公報
【文献】特開2000-199228号公報
【文献】特開平11-200372号公報
【文献】特開平10-311038号公報
【文献】特開平10-311037号公報
【文献】特開2002-363993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術には以下の課題が存在した。
<1>苗木への給水のタイミングと給水量を気候に依存するため、長期にわたって降雨がない場合には苗木が枯死する可能性がある。また、豪雨の場合には過剰な給水により根腐れを起こす可能性がある。
<2>苗木が斜面に設置されるのに対し根系は下方に放射状に成長するため、根系の斜面への定着に時間がかかる。特に根系を植生基材内から斜面へ侵入させることが難しい。
<3>外部環境の影響を受けやすく、日射による乾燥枯死、豪雨による流失、風雪による凍害、野生生物による食害等の可能性がある。
<4>根系が斜面に定着して初めて斜面安定化の効果を生じるため、効果の発現まで比較的長い期間がかかる。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の課題を解決する植栽受圧板及びこれを用いた斜面緑化工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するための本発明の植栽受圧板は、面材とボルト孔と導根孔を有する受圧板と、弧状の内面を呈する殻構造のカバー本体と植栽孔と排水を有するカバー部と、を備え、カバー本体の内面が遮水性を有し、面材とカバー本体を係合することで内部に植栽空間を構成可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明の植栽受圧板は、面材及び/又はカバー本体がFRP製であってもよい。
この構成によれば、軽量でありながら高い剛性を確保でき、搬送性と施工性を向上させることができる。
【0008】
本発明の斜面緑化工法は、アンカー孔を削孔する工程と、アンカー孔内にアンカー材を配置固定する工程と、受圧板を斜面に配置してアンカー材と連結する工程と、受圧板にカバー本体を係合して植栽空間内に植栽ユニットを配置する工程と、を備え、植栽ユニットが客土袋と植生基材を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の斜面緑化工法は、斜面を削孔して集水管を配置するか斜面に配水管を打ち込む工程を備え、集水管の一端を導根孔内に延在させてもよい。
この構成によれば、植栽ユニットへの地下水の安定供給と間隙水圧低下による斜面の安定化を同時に達成することができる。
【0010】
本発明の斜面緑化工法は、複数の導根孔がボルト孔より上方及び下方に位置し、集水管の一端を上方の導根孔内に延在させてもよい。
この構成によれば、根系を下方の導根孔から斜面の内部へ誘導することができる。
【0011】
本発明の斜面緑化工法は、植栽ユニットが客土袋内に植栽した苗木又は前記客土袋内に埋設した種子を有していてもよい。
この構成によれば、根張りが早いため斜面への定着を早期化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の植栽受圧板及びこれを用いた斜面緑化工法は、以上の構成を有するため、次の効果の少なくともひとつを備える。
<1>植栽ユニットの表面ではなく斜面を介して給水するため、気象の影響を受けにくい。すなわち長期にわたって降雨がない場合にも、斜面の地下水から安定して給水を受けることができる。また、豪雨等の場合にも、大量の雨水を直接吸収することなく斜面を介して給水を受けるため、根腐れを起こすおそれがない。
<2>植物の光屈性と水分屈性を利用した根系誘導機能によって、根系の斜面への侵入を促進し、早期に定着させることができる。
<3>殻構造のカバー部によって苗木を外部環境から保護することで、乾燥、流失、凍害、食害等の被害を防ぐことができる。
<4>斜面緑化工と鉄筋挿入工を同時に施工することができる。このため、根系の定着を待つことなく、植栽ユニットの設置と同時に斜面の安定化を図ることができる。
<5>植栽ユニットへの地下水の安定供給と、間隙水圧の低減による斜面の安定化を同時に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る植栽受圧板の説明図。
図2】本発明に係る植栽受圧板の説明図。
図3】本発明に係る斜面緑化工法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の植栽受圧板及びこれを用いた斜面緑化工法について詳細に説明する。
なお、植栽受圧板の構造の説明において「上」「下」とは植栽受圧板を斜面に設置した状態における上下方向を意味し、「前面」「背面」とは斜面谷側方向を前面とした前後方向を意味する。
【実施例1】
【0015】
[植栽受圧板]
<1>全体の構成(図1)。
本発明の植栽受圧板1は、植栽機能を備えるアンカー工用の受圧板である。
植栽受圧板1は、面状の受圧板10と、殻構造のカバー部20の組み合わせからなる。
本発明の植栽受圧板1は、カバー部20で受圧板10の上面を被覆することで、内部に植栽ユニット5を収容可能な植栽空間Sを構成可能な点に特徴を有する。
【0016】
<2>受圧板。
受圧板10は、反力板の機能を有する部材である。
受圧板10は、面材11と、面材11の中央部を連通したボルト孔12と、面材11を連通した導根孔13と、を備える。
本例では、面材11として略正方形状の繊維強化プラスチック(FRP)製受圧板を採用する。FRPは軽量でありながら高い剛性を備えるため、搬送性・施工性において至適である。
ただし面材11はこれに限らず、合成樹脂製や鋼製、円形や正方形以外の多角形状等であってもよい。
ボルト孔12は、アンカー材2及び締結材3を挿通・締結して面材11を斜面に固定するための孔である。
導根孔13は、苗木51の根系を斜面の内部へ誘導するための孔である。
本例では、面材11中央のボルト孔12の周囲に、ボルト孔12より大きい円形の導根孔13を4つ設ける。
ただしこれに限らず、導根孔13の数、大きさ、及び配置は適宜設定することができる。また、導根孔13は円形の孔に限らず、多角形状の窓であってもよい。
【0017】
<3>カバー部。
カバー部20は、受圧板10上に植栽空間Sを構成するための部材である。
カバー部20は、カバー本体21と、カバー本体21の上部を連通した植栽孔22と、カバー本体21の下部を連通した排水孔23と、を有する。
植栽孔22及び排水孔23は、カバー本体21の上部及び下部に独立した孔として設けるほか、カバー本体21の開口と連続した切欠き状の構造であってもよい。
【0018】
<3.1>カバー本体。
カバー本体21は、背面を開放した殻(シェル)構造のカバーである。
本例では、カバー本体21として弧状の内面を有する略椀形状の繊維強化プラスチック(FRP)製部材を採用する。FRPは透光性を備えるため、後述する根系誘導機能がより顕著となる。
ただしカバー本体21はこれに限らず、合成樹脂製等であってもよい。
カバー本体21の開口の縁部は受圧板10の面材11の外縁形状に対応し、ビス等によって両者を連結して内部に植栽空間Sを構成することができる。
カバー本体21は、少なくとも内面に遮水性を有する。この点は、本例のようにカバー本体21を遮水性の素材から成型してもよいし、カバー本体21の内面を遮水性の塗料でコーティングしてもよい。
【0019】
<4>植栽空間(図2)。
植栽空間Sは、植栽ユニット5の保護機能、植生基材53の乾燥防止機能、及び苗木51の根系の地山への誘導機能を兼備する空間である。
植栽空間Sは、受圧板10とカバー部20とを連結することによって、面材11の表面とカバー本体21の内面との間に袋状に構成される。
植栽空間Sは植栽孔22及び排水孔23を介して外部と連通する。また、導根孔13を介して斜面と接する。
受圧板10の前面側をカバー部20で被覆することにより、日射、豪雨、風雪、野生動物等の外部の影響を遮断して苗木51を保護し、乾燥による枯死、流失、凍害、食害等を防ぐことができる。
また、カバー部20の内面が遮水性を備えるため、客土袋52の表面から蒸発した水を植栽空間S内に還流させて、植生基材53を常に湿潤に保つことができる。
【0020】
<4.1>根系誘導機能(図2)。
本発明の植栽受圧板1は、植栽ユニット5の根系を地山内へ誘導する根系誘導機能を備える。
植物の根系は、負の光屈性、正の重力屈性、正の水分屈性等の性質に従って成長する。
本願の植栽受圧板1は、日照時、カバー部20の前面側に照射した太陽光の一部が、薄い殻構造からなるカバー本体21の層内を透過して内部の植栽ユニット5の前面側を照らす。このため、植栽ユニット5内の苗木51の根系は、負の後屈性から、植栽ユニット5の背面側即ち斜面方向へ成長するよう誘導される。
また、本願の植栽受圧板1は、地山に貫入した集水管6から上方の導根孔13を通して、植栽空間S内の植栽ユニット5に地下水を導入する。
地下水の一部は植生基材53内を浸透して根系に吸収され、過剰水は植生基材53内を下方へ移動して排水孔23から外部に排出される。
苗木51の根系は、水分屈性によりこの流水経路に従って植栽空間Sの下方へ成長するが、カバー本体21の内壁に遮られ、弧状の内壁に沿って下方の導根孔13へ誘導されて導根孔13から地山内へ侵入する。
以上2つの根系誘導機能によって苗木51の根系を効果的に地山方向に誘導し、苗木51を短期間で地山に定着させることができる。
【0021】
[斜面緑化工法]
引き続き本発明の植栽受圧板を用いた斜面緑化工法について詳細に説明する。
<1>全体の構成(図3)。
本発明の斜面緑化工法は、アンカー工による斜面補強と斜面緑化を同時に施工可能な工法である。本例では、アンカー工として鉄筋挿入工(ロックボルト工)を同時施工する事例について説明する。
【0022】
<1.1>植栽ユニット。
本発明の斜面緑化工法で使用する植栽ユニット5は、フェルトや不織布などの透水性の素材からなる客土袋52と、客土袋52内に充填した植生基材53と、植生基材53内に植設した苗木51と、からなる。
本例では、苗木51の根系を植生基材53内に配置し、主幹を客土袋52の上方から突出させる。なお、苗木51の替わりに植物の種子や根系を植生基材53内に埋設させてもよい。
【0023】
<2>アンカー材の固定。
斜面の設計位置に所定径、所定長のアンカー孔を削孔する。
アンカー孔内に異形鉄筋(アンカー材2)を挿入する。この他、アンカー材2として例えばFRPロッド等を採用してもよい。
アンカー材2の頭部はアンカー孔から突出させる。
アンカー孔内のアンカー材2の周囲に所定の配合で練り混ぜたセメントミルク(グラウト材4)を注入する。
グラウト材4が硬化することによってアンカー材2が地山に固定される。
【0024】
<3>集水管の挿入。
斜面におけるアンカー孔の上方であって、受圧板10配置時の導根孔13に対応する位置から、水平方向又は水平方向上方へ向けて集水孔を穿孔する。
集水孔の内部に、周囲に複数の水抜き穴を設けた集水管6を挿入する。
集水管6の頭部は集水孔から孔外へ突出させる。
この他、集水管6を斜面に直接打ち込んで設置してもよい。
なお、この工程はアンカー孔の削孔前又は受圧板10の配置後に行ってもよい。
【0025】
<4>受圧板の配置。
グラウト材4の強度確認を行った後、受圧板10のボルト孔12にアンカー材2の頭部を貫通させ、受圧板10を斜面に配置する。
この際、導根孔13の一部がボルト孔12より斜面上方に、一部が導根孔13より斜面下方に位置する向きに配し、集水管6の先端を上方の導根孔13内に挿通させる。
【0026】
<5>頭部処理。
アンカー材2頭部のネジ山に締結材3を螺着してトルクレンチで締め付け、頭部をフラットキャップで覆う。
【0027】
<6>植栽ユニットの配置。
面材11の面上に植栽ユニット5を設置した状態で面材11の周縁にカバー本体21の開放部の周縁を係合し、植栽空間S内に植栽ユニット5を保持する。
この際、苗木51の主幹を植栽孔22から上方へ延出させる。
カバー本体21の周縁外側から面材11の外周へビス等を螺入して受圧板10とカバー部20を固定する。
なお、以上は本発明の斜面緑化工法の基本構成であって、この他の工程を排除するものではない。必要に応じて吹付工やラス張り工等の公知の工程を組み合わせてもよい。
【0028】
<7>給水機能(図2)。
本発明の斜面緑化工法は、斜面に貫入した集水管6から植栽空間S内へ地下水を供給する、給水機能を有する。これによって、気候に依存せず苗木51に安定して水を供給できる。
例えば、夏季に長期にわたって降雨がない場合であっても、斜面から地下水を継続的に給水することができるため、乾燥による枯死を防ぐことができる。
また、豪雨の場合にも、植栽ユニット5が遮水性のカバー部で覆われているため、大量の雨水が直接植栽ユニット5に浸透することがなく、地山を介して穏やかに流入するため、過剰な給水による根腐れを防ぐことができる。
更に、集水管6からの排水によって斜面の間隙水圧を低減し、地すべりを防止することができ、斜面安定化工と斜面緑化工の相乗効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 植栽受圧板
10 受圧板
11 面材
12 ボルト孔
13 導根孔
20 カバー部
21 カバー本体
22 植栽孔
23 排水孔
2 アンカー材
3 締結材
4 グラウト材
5 植栽ユニット
51 苗木
52 客土袋
53 植生基材
6 集水管
S 植栽空間
図1
図2
図3