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特許7138861半導体メモリの放射線耐性補償装置及びその方法並びに電子回路
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  • 特許-半導体メモリの放射線耐性補償装置及びその方法並びに電子回路 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】半導体メモリの放射線耐性補償装置及びその方法並びに電子回路
(51)【国際特許分類】
   G11C 11/417 20060101AFI20220912BHJP
   G11C 5/00 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
G11C11/417 120
G11C5/00 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018197684
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020064698
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】毛利 伊晴
(72)【発明者】
【氏名】草野 将樹
(72)【発明者】
【氏名】松浦 大介
(72)【発明者】
【氏名】小林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和之
(72)【発明者】
【氏名】川崎 治
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-223581(JP,A)
【文献】特開2017-27637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0211527(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/135093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 11/417
G11C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッチ回路を有する半導体メモリの電源電圧を下げたときにデータが反転する最大の電圧値に相当するデータ保持電圧値を取得する電圧値取得部と、
前記データ保持電圧値と基準電圧値との差分に基づいて電圧補正値を決定する補正値決定部と、
前記電圧補正値を用いて、電源電圧及び基板バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する電圧調整部と
を備え、
前記基準電圧値は、要求される放射線耐性を満足する半導体メモリのデータ保持電圧値以下に設定されている半導体メモリの放射線耐性補償装置。
【請求項2】
前記電圧値取得部は、複数の前記半導体メモリの各々について前記データ保持電圧値を取得し、
前記補正値決定部は、前記半導体メモリ毎に取得された前記データ保持電圧値と、前記半導体メモリ間で共通の値とされた前記基準電圧値との差分に基づいて、前記半導体メモリ毎に前記電圧補正値を決定し、
前記電圧調整部は、前記半導体メモリ毎に決定された前記電圧補正値を用いて各前記半導体メモリの電源電圧及び基準バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する請求項1に記載の半導体メモリの放射線耐性補償装置。
【請求項3】
前記半導体メモリは複数の前記ラッチ回路を搭載しており、
前記電圧値取得部は、複数の前記ラッチ回路の一部または全部のデータ保持電圧値を取得し、
前記補正値決定部は、前記電圧値取得部によって取得された複数の前記データ保持電圧値を統計的に処理することによりデータ保持電圧値の特徴量を算出し、算出したデータ保持電圧値の特徴量と前記基準電圧値との差分に基づいて前記電圧補正値を決定する請求項1または2に記載の半導体メモリの放射線耐性補償装置。
【請求項4】
半導体メモリと、
請求項1から3のいずれかに記載の半導体メモリの放射線耐性補償装置と
を備える電子回路。
【請求項5】
ラッチ回路を有する半導体メモリの電源電圧を下げたときにデータが反転する最大の電圧値に相当するデータ保持電圧値を取得する電圧値取得工程と、
前記データ保持電圧値と基準電圧値との差分に基づいて電圧補正値を決定する補正値決定工程と、
前記電圧補正値を用いて、電源電圧及び基板バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する電圧調整工程と
を有し、
前記基準電圧値は、要求される放射線耐性を満足する半導体メモリのデータ保持電圧値以下に設定されている半導体メモリの放射線耐性補償方法。
【請求項6】
前記電圧値取得工程では、複数の前記半導体メモリの各々について前記データ保持電圧値を取得し、
前記補正値決定工程では、前記半導体メモリ毎に取得された前記データ保持電圧値と、前記半導体メモリ間で共通の値とされた前記基準電圧値との差分に基づいて、前記半導体メモリ毎に前記電圧補正値を決定し、
前記電圧調整工程では、前記半導体メモリ毎に決定された前記電圧補正値を用いて各前記半導体メモリの電源電圧及び基準バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する請求項5に記載の半導体メモリの放射線耐性補償方法。
【請求項7】
前記半導体メモリは複数の前記ラッチ回路を搭載しており、
前記電圧値取得工程では、複数の前記ラッチ回路の一部または全部のデータ保持電圧値を取得し、
前記補正値決定工程では、前記電圧値取得工程において取得された複数の前記データ保持電圧値を統計的に処理することによりデータ保持電圧値の特徴量を算出し、算出したデータ保持電圧値の特徴量と前記基準電圧値との差分に基づいて前記電圧補正値を決定する請求項5または6に記載の半導体メモリの放射線耐性補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体メモリの放射線耐性補償装置及びその方法並びに電子回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギーの宇宙線や中性子線等の放射線が半導体メモリに入射することにより、保持データの論理反転現象(SEU: Single Event Upset)が生じることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、この論理反転現象は、半導体メモリを用いているコンピュータの誤動作(ソフトエラー)につながることから、放射線耐性が一定の基準を満足しない半導体メモリを除外する放射線耐性検査を行う必要がある。
【0003】
半導体メモリの放射線耐性検査は、半導体メモリに対して所定強度の放射線を入射させて行う破壊検査であるから、全ての半導体メモリに対して検査を行うことができない。そのため、現状、同一設計の下で製造された複数の半導体メモリの中から代表とする半導体メモリを所定数選定し、これらに対して放射線耐性検査を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-152429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体メモリに用いられるトランジスタの微細化に伴い、トランジスタの特性ばらつきが大きくなってきており、これに起因して、半導体メモリのチップ間における放射線耐性のばらつきも大きくなっている。
このため、例えば、放射線耐性検査において抜き打ち検査された代表の半導体メモリが放射線耐性の基準を満たしていたとしても、その製品一群の中には放射線耐性の基準を満たさない半導体メモリが含まれるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、半導体メモリの放射線耐性を補償することのできる半導体メモリの放射線耐性補償装置及びその方法並びに電子回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様は、ラッチ回路を有する半導体メモリの電源電圧を下げたときにデータが反転する最大の電圧値に相当するデータ保持電圧値を取得する電圧値取得部と、前記データ保持電圧値と基準電圧値との差分に基づいて電圧補正値を決定する補正値決定部と、前記電圧補正値を用いて、電源電圧及び基板バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する電圧調整部とを備え、前記基準電圧値は、要求される放射線耐性を満足する半導体メモリのデータ保持電圧値以下に設定されている半導体メモリの放射線耐性補償装置である。
【0008】
上記半導体メモリの放射線耐性補償装置によれば、半導体メモリのデータ保持電圧値が電圧値取得部によって取得され、取得されたデータ保持電圧値と基準電圧値との差分に基づいて電圧補正値が補正値決定部によって決定される。そして、このようにして決定された電圧補正値を用いて半導体メモリの電源電圧または基板バイアス電圧の少なくともいずれか一方が調整される。この場合において、基準電圧値は、要求される放射線耐性を満足する半導体メモリのデータ保持電圧値以下に設定されている。これにより、補償対象である半導体メモリの電源電圧とデータ保持電圧との電圧差を要求された放射線耐性に対応する電圧差以上に維持することができる。この結果、要求基準以上の放射線耐性を保持することが可能となる。
【0009】
上記半導体メモリの放射線耐性補償装置において、前記電圧値取得部は、複数の前記半導体メモリの各々について前記データ保持電圧値を取得し、前記補正値決定部は、前記半導体メモリ毎に取得された前記データ保持電圧値と、前記半導体メモリ間で共通の値とされた前記基準電圧値との差分に基づいて、前記半導体メモリ毎に前記電圧補正値を決定し、前記電圧調整部は、前記半導体メモリ毎に決定された前記電圧補正値を用いて各前記半導体メモリの電源電圧及び基準バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整することとしてもよい。
【0010】
上記半導体メモリの放射線耐性補償装置によれば、複数の半導体メモリ間において、共通の基準電圧値を用いて各半導体メモリの電圧補正値をそれぞれ決定し、決定した電圧補正値を用いて各半導体メモリの電源電圧及び基準バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する。これにより、各半導体メモリの放射線耐性をほぼ同等の値にすることができ、半導体メモリ間における放射線耐性のばらつきを抑制することが可能となる。
【0011】
上記半導体メモリの放射線耐性補償装置において、前記半導体メモリは複数の前記ラッチ回路を搭載しており、前記電圧値取得部は、複数の前記ラッチ回路の一部または全部のデータ保持電圧値を取得し、前記補正値決定部は、前記電圧値取得部によって取得された複数の前記データ保持電圧値を統計的に処理することによりデータ保持電圧値の特徴量を算出し、算出したデータ保持電圧値の特徴量と前記基準電圧値との差分に基づいて前記電圧補正値を決定することとしてもよい。
【0012】
上記半導体メモリの放射線耐性補償装置によれば、半導体メモリが搭載する複数のラッチ回路の一部または全部のデータ保持電圧値を取得し、取得した複数のデータ保持電圧値から統計的に求められた特徴量を用いて電圧補正値を算出するので、半導体メモリの特性をより反映させたデータ保持電圧値を用いて電圧補正値を得ることができる。これにより、1つのラッチ回路に対するデータ保持電圧値を用いる場合と比較して、補償精度を向上させることが可能となる。
【0013】
本発明の第二態様は、半導体メモリと、上記半導体メモリの放射線耐性補償装置とを備える電子回路である。
【0014】
本発明の第三態様は、ラッチ回路を有する半導体メモリの電源電圧を下げたときにデータが反転する最大の電圧値に相当するデータ保持電圧値を取得する電圧値取得工程と、前記データ保持電圧値と基準電圧値との差分に基づいて電圧補正値を決定する補正値決定工程と、前記電圧補正値を用いて、電源電圧及び基板バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整する電圧調整工程とを有し、前記基準電圧値は、要求される放射線耐性を満足する半導体メモリのデータ保持電圧値以下に設定されている半導体メモリの放射線耐性補償方法である。
【0015】
上記半導体メモリの放射線耐性補償方法において、前記電圧値取得工程では、複数の前記半導体メモリの各々について前記データ保持電圧値を取得し、前記補正値決定工程では、前記半導体メモリ毎に取得された前記データ保持電圧値と、前記半導体メモリ間で共通の値とされた前記基準電圧値との差分に基づいて、前記半導体メモリ毎に前記電圧補正値を決定し、前記電圧調整工程では、前記半導体メモリ毎に決定された前記電圧補正値を用いて各前記半導体メモリの電源電圧及び基準バイアス電圧の少なくともいずれか一方を調整することとしてもよい。
【0016】
上記半導体メモリの放射線耐性補償方法において、前記半導体メモリは複数の前記ラッチ回路を搭載しており、前記電圧値取得工程では、複数の前記ラッチ回路の一部または全部のデータ保持電圧値を取得し、前記補正値決定工程では、前記電圧値取得工程において取得された複数の前記データ保持電圧値を統計的に処理することによりデータ保持電圧値の特徴量を算出し、算出したデータ保持電圧値の特徴量と前記基準電圧値との差分に基づいて前記電圧補正値を決定することとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の開示によれば、半導体メモリの放射線耐性を補償することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る電子回路の概略構成を示した概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係るSRAM内のメモリセルの一構成例を示した図である。
図3】本発明の一実施形態に係るデータ保持電圧の取得方法の手順の一例を示したフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る放射線耐性補償方法の手順の一例を示したフローチャートである。
図5】電源電圧を0.75Vで一定とし、試験体であるチップAに対して所定の強度の放射線量を入射させたときのデータ保持電圧値とエラー断面積との関係の一例を示した図である。
図6】電源電圧を0.75Vで一定とし、試験体であるチップBに対してチップAとは異なる強度の放射線量を入射させたときのデータ保持電圧値とエラー断面積との関係の一例を示した図である。
図7】電源電圧を1.5V~0.75Vの間で変化させながら試験体であるチップAに対して図5と同じ強度の放射線量を入射させたときの電源電圧とエラー断面積との関係の一例を示した図である。
図8】電源電圧を1.5V~0.75Vの間で変化させながら試験体であるチップBに対して図6と同じ強度の放射線量を入射させたときの電源電圧とエラー断面積との関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態に係る半導体メモリの放射線耐性補償装置及びその方法並びに電子回路について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子回路1の概略構成を示した図である。図1に示すように、本実施形態に係る電子回路1は、SRAM(Static RAM)2と、SRAM2の放射線耐性を補償するための放射線耐性補償装置10とを備えている。
SRAM2は、ラッチ回路によってメモリセル7(図2参照)を構成したRAMである。図2は、メモリセル7の一構成例を示した図である。SRAM2の内部には、例えば、図2に示すように、4~6個のトランジスタ(例えば、MOS型FET)によって構成される1ビットのメモリセル7が複数配列されている。なお、SRAM2の内部構成については公知であるので詳細な説明は省略する。
【0021】
放射線耐性補償装置10は、SRAM2の放射線耐性を補償するための装置であり、例えば、電圧値取得部11、補正値決定部12、及び電圧調整部13を主な構成として有している。
【0022】
電圧値取得部11は、SRAM2において電源電圧VDDを下げたときにメモリセル7に保持されているデータが反転する最大の電圧であるデータ保持電圧値VDRを取得する。換言すると、データ保持電圧値VDRとは、メモリセル7がビット情報を保持できる最小の電圧値を意味する。
【0023】
以下、電圧値取得部11によるデータ保持電圧値VDRの取得方法の手順の一例について、図3を参照して説明する。
【0024】
まず、電圧値取得部11は、前回値Vset(i-1)として通常の動作電圧(例えば、1.2V)を設定し、今回値Vset(i)として前回値から所定電圧値ΔVu低い電圧値(Vset(i-1)-ΔVu)を設定する(S1)。ここで、所定電圧値ΔVuは、任意に設定可能であるが、一例として、10mVが挙げられる。例えば、所定電圧値ΔVuを10mVとした場合、今回値Vset(i)として1.19Vが設定されることとなる。
続いて、電源電圧VDDに通常の動作電圧(例えば、1.2V)を印加し、SRAM2の全てのメモリセル7に初期値(例えば、全て「1」または全て「0」)を書き込む(S2)。
次に、電源電圧VDDを今回値Vset(i)まで低下させ、この状態を所定時間維持し(S3)、その後、電源電圧VDDを通常の動作電圧に戻す(S4)。
【0025】
次に、SRAM2のデータの読み出しを行い、初期値から反転しているか否かを判定する(S5)。読みだしたデータが初期値から反転していた場合には、そのメモリセル7のデータ保持電圧値VDRとして、前回値Vset(i-1)を取得する(S6)。
続いて、前回値Vset(i-1)に今回値Vset(i)を設定し、今回値Vset(i)に、前回値から所定電圧値低い電圧値(Vset(i-1)-ΔVu)を設定する(S7)。これにより、例えば、前回値Vset(i-1)には「1.19V」が設定され、今回値Vset(i)には「1.18V」が設定されることとなる。
続いて、前回値Vset(i-1)が最終電圧値(例えば、0V)であるか否かを判定する(S8)。
【0026】
この結果、前回値が最終電圧値でなければ(S8:NO)、ステップS3に戻り、上記処理を繰り返し行う。これにより、前回値と今回値とが所定電圧値ΔVu(例えば、10mV)単位で更新され、その都度、データ反転が生じたメモリセルのデータ保持電圧値VDRとしてその時に設定されている前回値Vset(i-1)が取得されることとなる。なお、既にデータ保持電圧値VDRが取得されているメモリセルについては、そのデータ保持電圧値VDRが更新されることはなく、最初に取得された値が保持されることとなる。
そして、上記ステップS3~S7を繰り返し行い、ステップS8において、前回値Vset(i-1)が最終電圧値であると判定されると(S8:YES)、処理を終了する。なお、最終電圧値は、データ保持電圧値VDRの最小値を定めたものであり、任意に設定可能な値である。
【0027】
上記処理を行うことにより、各メモリセルにおいて、データが反転したときの電源電圧VDDの最大電圧値をデータ保持電圧値VDRとして得ることができる。
なお、上記例では、ステップS8において否定判定の場合には、ステップS3に戻ることとしたが、これに代えて、例えば、ステップS2に戻ることとし、毎回、電源電圧に通常の動作電圧を印加し、全セルに対して初期値を書き込むこととしてもよい。
【0028】
電圧値取得部11の具体的な一構成例としては、例えば、図3に示した処理手順に従って電源電圧VDDを決められた電圧範囲及び決められた速さ順序で変化させる(例えば、電圧範囲1.2V~0Vまで、1秒刻みで10mV単位で減少させる)ための電圧制御プログラムを保有しており、この電圧制御プログラムを実行することにより電源電圧VDDを変化させるプログラマブル電源が挙げられる。そして、電源電圧VDDを変化させる度に各メモリセル7の出力データの反転状態を監視し、保持データが反転しているメモリセルがあれば、そのメモリセル7のデータ保持電圧値VDRとして現在の電源電圧VDDの値を取得する。また、電圧値取得部11は、メモリセル7のデータ保持電圧値VDRを格納する記憶装置(図示略)も有している。
【0029】
電圧値取得部11は、SRAM2が備える全てのメモリセル7についてデータ保持電圧値VDRを取得してもよいし、SRAM2が備える複数のメモリセル7のうち代表的な1つまたは一部のメモリセル7のデータ保持電圧値VDRを取得することとしてもよい。
【0030】
補正値決定部12は、電圧値取得部11によって取得されたデータ保持電圧値VDRと基準電圧値VDR(0)との差分に基づいて電圧補正値を決定する。ここで、電圧値取得部11によって代表的な1つのメモリセル7のデータ保持電圧値VDRが取得された場合には、そのデータ保持電圧値VDRを用いて電圧補正値を決定する。一方、電圧値取得部11によって複数のメモリセル7のデータ保持電圧値VDRが取得された場合には、補正値決定部12は、それらのデータ保持電圧値VDRを統計的に処理することによりデータ保持電圧値の特徴量を算出し、算出したデータ保持電圧値の特徴量を用いて電圧補正値を決定する。特徴量の一例として、例えば、平均値、最大値、最小値等が挙げられる。また、この例に限定されず、例えば、正規分布等の他の統計的手法によって特徴量を算出することとしてもよい。
【0031】
補正値決定部12は、上述したようなデータ保持電圧値VDRと基準電圧値VDR(0)との差分ΔVから電圧補正値を決定する。例えば、補正値決定部12は、差分ΔVと電圧補正値とが予め関連付けられた演算式またはテーブルなどを有しており、これらの情報を用いて差分ΔVに対応する電圧補正値を得る。なお、差分ΔVと電圧補正値とを関連付ける情報(演算式やテーブル等)は、例えば、後述するデータ保持電圧値VDRと電源電圧VDDとエラー断面積XSとの関係(例えば、図5図8参照)から導き出すことが可能である。
【0032】
ここで、補正値決定部12は、データ保持電圧値VDRが基準電圧値VDR(0)以上である場合には、電圧補正値をゼロに設定する。例えば、補正値決定部12が参照するテーブルや演算式において、データ保持電圧値VDRが基準電圧値VDR(0)以上の領域においてゼロに設定されている。また、この場合には電源電圧値の調整は必ずしも必要としない。
【0033】
また、基準電圧値VDR(0)は、例えば、予め設定されている電圧値を用いることができる。例えば、基準電圧値VDR(0)は、放射線耐性(例えば、SEU耐性)の要求基準値を満足するSRAM、換言すると、放射線耐性が保証されたSRAMを事前に用意し、このSRAMからデータ保持電圧値を事前に取得し、取得したデータ保持電圧値またはこのデータ保持電圧値よりも所定電圧値(例えば、数mV)低い電圧値を基準電圧値VDR(0)として設定することとしてもよい。
【0034】
補正値決定部12は、例えば、CPU、主記憶装置、補助記憶装置等を備えるコンピュータによって実現される。例えば、上記機能を実現するためのプログラムを補助記憶装置に格納しておき、CPUが補助記憶装置からプログラムを主記憶装置に読みだして情報の加工・演算処理を実行することにより、上記機能が実現される。
【0035】
電圧調整部13は、補正値決定部12によって決定された電圧補正値を所定の記憶領域に保有しており、この電圧補正値を用いてSRAM2の電源電圧VDDを調整する。電圧調整部13は、例えば、電源電圧VDDの仕様規格値(例えば、1.2V)に対して電圧補正値を加えた値を電源電圧VDDに印加する。
なお、電源電圧VDDに印加する電圧を変化させる構成については、例えば、可変電圧レギュレータを使う方法等が一例として挙げられる。
【0036】
次に、本発明の一実施形態に係る放射線耐性補償方法について図4を参照して簡単に説明する。図4は、本実施形態に係る放射線耐性補償方法の手順の一例を示したフローチャートである。なお、各ステップにおける詳細な内容は上述した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0037】
まず、SRAM2において、1または複数のメモリセル7についてのデータ保持電圧値VDRを取得する(SA1)。続いて、取得したデータ保持電圧値VDRまたはそれらの特徴量と予め設定されている基準電圧値VDR(0)との差分ΔVを算出する(SA2)。次に、算出した差分ΔVに基づいて電圧補正値を決定し(SA3)、決定した電圧補正値を所定の記憶領域に格納する(SA4)。ここで、記憶領域に格納された電圧補正値は、次回新たな電圧補正値が決定されるまで維持される。
【0038】
続いて、SRAM2の動作中において、記憶領域に格納された電圧補正値に基づいて調整された電源電圧VDDを印加する(SA5)。すなわち、SRAM2の電源電圧端子には、次回新たな電圧補正値が決定されるまで、今回得られた電圧補正値によって調整された電圧値の電圧が印加されることとなる。
【0039】
上述した電圧補正値の更新は、所定の時間間隔で行うとよい。すなわち、SRAM2における放射線耐性の特性は時間経過や放射線の入射量に応じて劣化する。したがって、放射線耐性の変化に応じて適切な時期に電圧補正値を決定しなおすことにより、時間経過に伴う放射線耐性の劣化を補償することが可能となる。
【0040】
以上説明してきたように、上述した本実施形態に係る半導体メモリの放射線耐性補償装置10及びその方法並びに電子回路1によれば、SRAM2のデータ保持電圧値VDRを取得し、取得したデータ保持電圧値VDRと基準電圧値VDR(0)との差分に応じた電圧補正値を決定し、決定した電圧補正値を電源電圧VDDに反映させる。この場合において、基準電圧値VDR(0)は、放射線耐性の要求基準を満足するSRAMのデータ保持電圧値VDR以下の値に予め設定されているので、SRAM2の放射線耐性を要求基準以上に保つことが可能となる。
【0041】
以下、上述のように、電源電圧VDDを電圧補正値を用いて調整することで、要求基準以上の放射線耐性を確保できることの根拠について詳しく説明する。
【0042】
まず、発明者らは、SRAMのデータ保持電圧値VDRとエラー断面積XSの間に相関関係があることを見出した。図5図6は、電源電圧VDDを0.75Vで一定とし、2つの試験体であるチップA、チップBに対してそれぞれ異なる強度(LET(MeV・cm2/mg))の放射線を一定量入射させたときのデータ保持電圧値VDRとエラー断面積XSとの関係の一例を示した図である。図5図6に示すように、いずれの場合もデータ保持電圧値VDRが小さいほどエラー断面積XSの値が小さくなり、またその特性も片対数プロットにおいて直線的な特性を示しており、両者が指数関数的な関係を示していることがわかる。
【0043】
ここで、エラー断面積XSとは、以下の(1)式で表されるパラメータであり、エラー断面積XSの値が小さいほど、放射線耐性が高いことを示している。
【0044】
XS(cm2/bit)=N/(f・M) (1)
M:SRAMのメモリセルのうち、あるデータ保持電圧値VDRを有するメモリセルの数
f:単位面積あたり入射した放射線量(cm-2
N:fで規定される放射線量を照射したときに、Mのメモリセルの中でビット反転が生じたセルの数
【0045】
また、電源電圧VDDとエラー断面積XSとの間にも相関関係があることが知られている。図7図8は、発明者らによる試験結果の一例を示した図であり、図7は電源電圧VDDを1.5V~0.75Vの間で変化させながら試験体であるチップAに対して図5と同じ強度の放射線量を入射させたときの電源電圧VDDとエラー断面積XSとの関係の一例を示した図、図8は、電源電圧VDDを1.5V~0.75Vの間で変化させながら試験体であるチップBに対して図6と同じ強度の放射線量を入射させたときの電源電圧VDDとエラー断面積XSとの関係の一例を示した図である。図7図8に示すように、いずれの試験体(チップA、チップB)においても、電源電圧VDDが大きいほどエラー断面積XSの値が小さくなり、またその特性も片対数プロットにおいて直線的な特性を示しており、両者が指数関数的な関係を示していることがわかる。
【0046】
そして、上記の結果から、発明者らは、図5の特性が示す傾きを「k1」とすると、図7の特性が示す傾きは「-k1」であり、また、図6の特性が示す傾きを「k2」とすると、図8の特性が示す傾きは「-k2」であることを見出した。このことから、エラー断面積XSは、以下の(2)式で表すことができ、電源電圧VDDとデータ保持電圧値VDRとの電圧差(VDD-VDR)に依存することが見いだされた。
【0047】
XS=Aexp{-k(VDD-VDR)} (2)
【0048】
上述した新たな知見に基づけば、電源電圧VDDとデータ保持電圧値VDRとの電圧差を適切な値に維持することができれば、エラー断面積XSを一定値以下に保持できることがわかる。このことから、上述した本実施形態に係る放射線耐性補償装置10のように、基準電圧値VDR(0)を放射線耐性の要求基準を満たすSRAMから得たデータ保持電圧値に応じて予め設定しておき、SRAM2のデータ保持電圧値VDRと基準電圧値VDR(0)との差分に応じた電圧補正値を用いて電源電圧VDDを調整することで、電源電圧VDDとデータ保持電圧値VDRとの電圧差を放射線耐性の要求基準に相当する電圧差以上にすることができる。これにより、仮に、電源電圧VDDを補正していない状態においてSRAM2が放射線耐性の要求基準を満たしていない場合であっても、上記のように電源電圧VDDを調整することで、放射線耐性の要求基準を満たすように補償することができる。
【0049】
さらに、複数のSRAM2間において、共通の基準電圧値VDR(0)を用いて各SRAM2の電源電圧VDDを調整することで、複数のSRAM間において、それぞれの電源電圧VDDとデータ保持電圧値VDRとの電圧差をほぼ同等の値にすることができる。これにより、SRAM2間(チップ間)におけるエラー断面積XSの値をほぼ均一化することができ、ひいては、SRAM間における放射線耐性のばらつきを抑制することが可能となる。
【0050】
なお、SRAM2における基板バイアス電圧を変化させることにより、各メモリセル7のデータ保持電圧値VDRを一様に変化させることができる。したがって、上述した電源電圧VDDに代えて、基板バイアス電圧の値を調整することとしてもよい。この場合、補正値決定部は、差分ΔVと基板バイアス電圧とを関連付けた情報(例えば、演算式やテーブル)を有しており、この情報を用いて差分ΔVから基板バイアス電圧の電圧補正値を取得する。このように基板バイアス電圧の値を調整することによっても上述した放射線耐性の補償やチップ間における放射線耐性のばらつきを抑制することが可能となる。
さらに、上記例に代えて、電圧調整部は、SRAM2の電源電圧VDD及びバイアス基板電圧の両方を補正することとしてもよい。
【0051】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、ラッチ構造を有する半導体メモリの具体例としてSRAM2を用いて説明したが、本発明の半導体メモリはこの例に限定されず、少なくとも一つのラッチ回路を有する半導体メモリであればよい。半導体メモリの一例として、フリップフロップ回路やラッチ回路等が挙げられる。
【0053】
また、基準電圧値VDR(0)は、所望の放射線耐性を有するSRAMから予め取得した値を用いていたが、これに代えて、例えば、SRAM2と同じ環境下(例えば、宇宙の衛星軌道上)において放射線による劣化を防ぐような遮蔽空間に、放射線耐性の要求基準を満たす他のSRAMを配置し、この状況下で他のSRAMのデータ保持電圧値をリアルタイムで取得し、そのデータ保持電圧値を基準電圧として随時設定することとしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 :電子回路
7 :メモリセル
10 :放射線耐性補償装置
11 :電圧値取得部
12 :補正値決定部
13 :電圧調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8