(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】情報表示装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 16/9032 20190101AFI20220912BHJP
G06F 16/9038 20190101ALI20220912BHJP
【FI】
G06F16/9032
G06F16/9038
(21)【出願番号】P 2019236868
(22)【出願日】2019-12-26
(62)【分割の表示】P 2018011767の分割
【原出願日】2018-01-26
【審査請求日】2021-01-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社シーエムシー出版,おいしさの科学とビジネス展開の最前線,2017年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】505474212
【氏名又は名称】株式会社カルチベイトジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】000204686
【氏名又は名称】大関株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087778
【氏名又は名称】丸山 明夫
(72)【発明者】
【氏名】神谷 豊明
(72)【発明者】
【氏名】菅野 洋一朗
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-256171(JP,A)
【文献】特開2016-194493(JP,A)
【文献】特表2009-503502(JP,A)
【文献】特開2002-117059(JP,A)
【文献】特開2015-162194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 16/00-16/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造酒の官能評価に関連する呈味名称を有する小領域の集まりとして構成される呈味領域と、醸造酒の2つの分析項目に基づく直交座標軸で規定される座標平面とを重ね、前記呈味領域を視認可能に表示パネルに表示する情報表示装置であって、
醸造酒の各分析項目の測定値を記憶装置にて醸造酒毎に保持する醸造酒保持手段と、
前記直交座標軸が基づく2つの分析項目の測定値から当該測定値を持つ醸造酒の前記座標平面内での位置を示す位置情報を生成する位置生成手段と、
前記座標平面の全象限に散らばる中から抽出した醸造酒についての官能評価語句を用いたクラスター分析により生成した各クラスターが前記座標平面内で占める領域を規定する情報を前記小領域の領域情報として保持するとともに、前記官能評価語句に基づいて各クラスターに付した呈味名称を保持する小領域保持手段と、
前記領域情報及び呈味名称を前記小領域保持手段から取得して前記各クラスターの小領域を呈味名称と併せて前記表示パネル上に表示する表示制御手段と、
を有することを特徴とする情報表示装置。
【請求項2】
請求項1に於いて、
さらに、
前記呈味領域内の任意の位置を選択する入力に応じて当該位置の位置情報を持つ醸造酒の各分析項目の測定値を前記醸造酒保持手段から取得して、基準酒のF検定配列値として設定する基準酒設定手段と、
前記基準酒と近い位置の位置情報を持つ醸造酒の各分析項目の測定値を前記醸造酒保持手段から取得して、比較酒のF検定配列値として設定する比較酒設定手段と、
前記基準酒と比較酒の各配列値を用いるF検定によりP値を求めて前記基準酒と比較酒の呈味の特性の類似度合を示す一致度とする一致度演算手段と、
を有することを特徴とする情報表示装置。
【請求項3】
表示パネルを備えたコンピュータを、請求項1又は請求項2の情報表示装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能評価が選択されると、当該選択された官能評価に対応付けられている分析値(客観的な分析値)を持つ醸造酒を検索する装置の基盤を成す情報表示装置と、方法と、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本酒の味わいを分かり易く表現するための二次元マップが、幾つかの団体から提供されている。しかし、何れのマップも、マップ上の表現と、実際に日本酒を飲んだときの官能評価との間に、乖離が生ずるという課題が指摘されている。言い換えれば、現状のマップでは、日本酒の味わいを、十分適切に表現できているとは言えない。
【0003】
日本酒等の醸造酒に関し、味わいを示すこと等に関連する文献としては、特開2008-102688号公報(特許文献1;日本酒と料理の相性判定方法,システム,プログラム,記録媒体)や、特開2004-242645号公報(特許文献2;日本酒と料理の相性判定システム)、或いは、特開平8-205850号公報(特許文献3;日本酒の香味特性の表示ラベル)等を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-102688号公報
【文献】特開2004-242645号公報
【文献】特開平8-205850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の手法では、醸造酒の味わいを適切に表現するには不十分である。
その一因は、機械装置を用いて行った分析に基づく味わいの評価と、人が試飲して行った官能評価とに、無視できないズレが生じていることにあると考えられる。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みたものであり、簡単な操作で、人による官能評価とも良好に合致する呈味の醸造酒を知り得るようにすることを目的とする。
また、人による官能評価とも良好に合致する呈味の醸造酒の検索に必要な操作を、的確に行い得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構成を、下記[1]、[2]、[4]に記す。[3]は参考である。なお、この項([課題を解決するための手段])と次項([発明の効果])に於いて、各符号は理解を容易にするために付したものであり、本発明は符号の構成に限定されない。
【0008】
[1]構成1
醸造酒の官能評価に関連する呈味名称を有する小領域の集まりとして構成される呈味領域と、醸造酒の2つの分析項目に基づく直交座標軸で規定される座標平面とを重ね、前記呈味領域を視認可能に表示パネルに表示する情報表示装置であって、
醸造酒の各分析項目の測定値を記憶装置にて醸造酒毎に保持する醸造酒保持手段と、
前記直交座標軸が基づく2つの分析項目の測定値から当該測定値を持つ醸造酒の前記座標平面内での位置を示す位置情報を生成する位置生成手段と、
前記座標平面の全象限に散らばる中から抽出した醸造酒についての官能評価語句を用いたクラスター分析により生成した各クラスターが前記座標平面内で占める領域を規定する情報を前記小領域の領域情報として保持するとともに、前記官能評価語句に基づいて各クラスターに付した呈味名称を保持する小領域保持手段と、
前記領域情報及び呈味名称を前記小領域保持手段から取得して前記各クラスターの小領域を呈味名称と併せて前記表示パネル上に表示する表示制御手段と、
を有することを特徴とする情報表示装置。
【0009】
呈味領域12a内の何れかの位置の選択は、例えば、タッチパネルであれば指先等での接触であるが、画面がタッチ入力機能を有しない場合は、公知の操作(例えば、マウス操作)による選択でもよい。
呈味領域12a内に表示される呈味としては、例えば、キレ、コク、ふくよか、すっきり、おだやか、を例示することができる。
記憶装置30は、タブレット等のコンピュータシステムと一体でもよいが、例えば、ネットワークを介して繋がるサーバ等に設けられていてもよい。
醸造酒としては、例えば、日本酒、ワイン、ビールを例示することができる。
分析項目としては、例えば、酸味、旨味、塩味、苦味、渋味、にが味(苦味雑味)、渋味刺激、うま味、旨味コク、NS(日本酒度)、甘味、コク、キレ、果実味を挙げることができる。
【0010】
[2]構成2
構成1に於いて、
さらに、
前記呈味領域内の任意の位置を選択する入力に応じて当該位置の位置情報を持つ醸造酒の各分析項目の測定値を前記醸造酒保持手段から取得して、基準酒のF検定配列値として設定する基準酒設定手段と、
前記基準酒と近い位置の位置情報を持つ醸造酒の各分析項目の測定値を前記醸造酒保持手段から取得して、比較酒のF検定配列値として設定する比較酒設定手段と、
前記基準酒と比較酒の各配列値を用いるF検定によりP値を求めて前記基準酒と比較酒の呈味の特性の類似度合を示す一致度とする一致度演算手段と、
を有することを特徴とする情報表示装置。
直交座標軸の縦軸としては、例えば、キレ(=日本酒度-3)を用い、横軸としてはコク(=塩味-日本酒度/10-1.5)を用いるように構成してもよい。
【0011】
[3]参考
醸造酒の官能評価に関連する呈味名称を有する小領域の集まりとして構成される呈味領域と、醸造酒の2つの分析項目に基づく直交座標軸で規定される座標平面とを重ね、前記呈味領域を視認可能に表示パネルに表示する情報表示方法であって、
前記直交座標軸が基づく2つの分析項目の測定値から当該測定値を持つ醸造酒の前記座標平面内での位置を示す位置情報を各醸造酒について生成し、
前記位置情報を用いて前記座標平面の全象限に散らばる中から抽出した醸造酒についての官能評価語句を用いたクラスター分析により複数のクラスターを生成し、
前記各クラスターに属する醸造酒の位置情報に基づいて各クラスターが前記座標平面内で占める領域を規定する情報を生成して前記小領域の領域情報とし、及び、各クラスターに前記官能評価語句に基づく呈味名称を付与し、
前記表示パネル上の呈味領域に前記領域情報及び呈味名称を用いて各クラスターに対応する小領域及び呈味名称を表示する、
ことを特徴とする情報表示方法。
【0012】
[4]構成4
表示パネルを備えたコンピュータを、構成1又は構成2の情報表示装置として機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の情報表示装置、方法、プログラムによると、所望の呈味の醸造酒を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】呈味領域と座標平面とを紐付けする様子を示す説明図。
【
図2】実施の形態の醸造酒検索装置のハード構成を示すブロック図。
【
図3】呈味領域内の位置が選択されると、選択位置に応じた醸造酒(日本酒)をレーダーチャートとともに表示する様子を示す説明図。
【
図4】座標平面上に呈味領域を重ねて成る味わいマップの作成に至る考え方の説明図。
【
図6】レーダーチャートの軸の原点と最大値とを決めるべく、データベースから取得したデータを処理して成るテーブルの説明図。
【
図7】醸造酒(日本酒)の一致度を求める(S19)べく、データベースから取得した2つの醸造酒のデータを処理する際に用いるテーブルの説明図。
【
図8】醸造酒(ワイン)の一致度を求めるべく、データベースから取得した2つの醸造酒のデータを処理する際に用いるテーブルの説明図。
【
図9】データベース31内の日本酒のテーブルを示す説明図(a)とワイン(スパークリング)のテーブルを示す説明図(b)。
【
図10】データベース31内の白ワインのテーブルを示す説明図(a)と、赤ワインのテーブルを示す説明図(b)。
【
図11】データベース31内のロゼワインのテーブルを示す説明図(a)と、ビールのテーブルを示す説明図(b)。
【
図12】料理と日本酒の相性を調べる処理に於ける呈味領域12a(味わいマップ)の表示態様を示す説明図。
【
図13】料理と日本酒の相性を調べる処理手順を示すフローチャート。
【
図14】料理と日本酒の相性を調べる処理で用いる、データベース31内のテーブルの説明図。
【
図15】料理とワインの相性を調べる処理で用いる、データベース31内のテーブルの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
実施の形態の醸造酒検索装置は、
図2に示すように、タッチパネル(表示装置兼入力装置)10を備えたコンピュータシステム20上で実現される。換言すれば、コンピュータシステム20には、該システム20を醸造酒検索装置として機能させるためのプログラムがインストールされており、適宜の操作入力により起動されて、
図5に例示する処理が実行される。記憶装置30は、図示の例ではコンピュータシステム20内に組み込まれているが、これは例示であり、例えば、通信装置60経由でネットワークを介して繋がるサーバ等に設けられていても良い。記憶装置30内のデータベース31には、日本酒、各種のワイン、ビール等の醸造酒の各種のデータ(
図9~
図11に例示)が個々の醸造酒別に保持されており、醸造酒検索機能に於いて適宜に読み出されて処理に供される。処理は、CPU41やメモリ43等を備えた制御装置40により実行される。その他、音声出力用のスピーカ50等も搭載されている。なお、コンピュータシステム20の構成は、図示の例に限定されず、醸造酒検索装置としての機能を実現できる構成であればよい。コンピュータシステム20の具体例としては、例えば、タブレット、スマートフォン、ノートパソコン、デスクトップパソコン等の公知の機器を挙げることができる。また、
図9~
図11に例示するデータベース31内のデータ項目は例示であり、図示の項目以外にも、各種の項目のデータが保持されている。例えば、醸造酒の画像、名称、容量、製造元、説明文、価格(改訂可能)等、である。当然ながら、新たな醸造酒を適宜に追加可能であり、既存の醸造酒を適宜に削除可能である。
【0016】
(1)醸造酒(日本酒)検索機能:
図1に示すように、タッチパネル10の画面領域(表示領域)12内に、醸造酒(日本酒)の呈味(例:キレ、コク、ふくよか、すっきり、おだやか)を表示するための呈味領域12aが設定される。この呈味領域12aは、タッチパネル10に於いてタッチ操作が検出される領域(検出領域)14内の座標平面14aの領域と合致されている。
【0017】
醸造酒検索機能が起動された状態で、換言すれば、
図5の醸造酒検索処理が実行されている状態で、タッチパネル10の呈味領域12a内の任意の位置がタッチされる(選択される)と、当該位置に対応付けられている醸造酒のデータがデータベース31から読み出されて、タッチパネル10の表示領域12内に表示される(S15)。例えば、
図3に例示するように、当該の醸造酒の画像及び名称や、当該の醸造酒の味の特徴を示すレーダーチャートが表示される。
図3の例では、呈味「キレ」内の或る位置が選択された場合(
図3(a))と、呈味「ふくよか」内の或る位置が選択された場合(
図3(b))とが示されている。なお、選択された醸造酒の表示態様は、
図3の例(画像と名称,レーダーチャート)に限定されない。例えば、当該醸造酒の説明文や販売価格等を表示するように、適宜に設定してよいことは勿論である。
【0018】
また、ユーザが所望の位置を的確に選択(タッチ)できるように、呈味領域12aの表示と併せて、呈味の強弱の方向性も表示される。例えば、
図3の例では、醇と淡の方向性や、先味と後味の方向性が、呈味領域12a内に表示されている。また、甘と辛の方向性が、呈味領域12aに沿って表示されている。
【0019】
なお、
図3の例では、呈味領域12a内の1つの位置の選択に応じて1種の醸造酒が表示されているが、選択された位置及びその近辺位置の複数種の醸造酒を同時に、又は、次候補を指示する入力操作等に応じて順番に、表示するようにしてもよい。
また、次候補を指示する入力操作に応じて(S17)表示する場合や、所定の時間間隔を空けて順番に表示する場合には、呈味の特性が、選択された位置の醸造酒と近い(類似する)順に表示されるように、表示の順番を決めてもよい。
【0020】
呈味の特性の近さ(類似する度合)を調べる手法を、
図7に示す。
醸造酒の味わいは複数種類の分析項目の値によって決まるのであるが、各分析項目の値が味わいに対して独立に作用するのではなく、分析項目間の相互作用もまた、味わいに寄与していると考えられる。このため、2種の醸造酒に関して呈味の特性の近さ(類似する度合)を調べる場合は、分析項目間の相互作用をも考慮する必要がある。
【0021】
本実施の形態では、2種の醸造酒間の呈味の近さ(類似度合)を、F検定によって調べている。また、このF検定では、各分析項目の「項目値」に適切な「重み値」を乗算した値(重み付き項目値)を、項目値に代えて用いている。この重み値は、F検定による判定結果が、多数(101名)のパネリストの官能による判定結果と合致するように、試行錯誤によって決定されたものである。なお、乗算する「重み値」は、F検定の対象とする全分析項目の「重み値」の和で除算した値である。例えば、
図7の例であれば、酸味の「重み値」は「1」であり、「全重み値の和」は「18」であるため、「1/18」を乗算して用いている。
図7は日本酒の場合であるが、
図8にはワインの場合を示す。ワインの場合も日本酒と同様にして、重み値を乗算した値を用いている。
【0022】
(2)レーダーチャート:
図3では、選択された醸造酒(日本酒)の画像や名称とともに、当該醸造酒の呈味の特性を分析項目別に図解するレーダーチャートを併せて表示している。
【0023】
このレーダーチャートでは、72°の等間隔で設けられている5本の各放射軸を、それぞれ長さ方向で4等分し、最外側位置に調整後の最大値を設定するとともに、チャート中心から1目盛目の位置に調整後の最小値を設定している。即ち、調整後の最小値は、チャート中心位置ではなく、チャート中心から1目盛目の位置に置いている。
【0024】
上記に於いて、調整後の最大値とは、データベース31に保持されている全日本酒の当該の分析項目に関し、項目値の最大値側から例えば20%のデータをカットした後の最大値であり、調整後の最小値とは、同様に最小値側から例えば20%のデータをカットした後の最小値である。なお、カットのレベルは醸造酒の種類(日本酒,スパークリングワイン,白ワイン,赤ワイン,ロゼワイン,ビール)に応じて、及び、分析項目に応じて、その分布度合を考慮して適切に決めている。
【0025】
例えば、日本酒では、分析項目「甘み」に関して、最大値側から20%のデータをカットした後のデータの最大値を調整後の最大値とし、最小値側から同じく20%のデータをカットした後のデータの最小値を調整後の最小値として採用しているのに対して、白ワインでは、分析項目「甘み」に関して、最大値側から12%のデータをカットした後のデータの最大値を調整後の最大値とし、最小値側から20%のデータをカットした後のデータの最小値を調整後の最小値として採用している。即ち、白ワインでは、分析項目「甘み」に関し、最大値側と最小値側とでカットのレベルを異ならせている。
【0026】
また、このレーダーチャートでは、調整後の最大値は、放射軸の最外側の位置に置いているが、調整後の最小値は、チャートの中心位置ではなく、中心から1目盛目の位置(中心から放射軸の外側方向へ1/4の位置)に置いている。このようにすることで、選択された醸造酒の各分析項目の項目値が、全体の中で、どのような位置に在るかを、視覚的に把握し易くしているのである。
【0027】
(3)味わいマップ(呈味領域12aと座標平面14a):
日本酒の味わいを分かり易く表現するための二次元マップが、幾つかの団体から提供されている。しかし、何れのマップも、マップ上の表現と、実際に日本酒を飲んだときの官能評価との間に、乖離が生ずるという課題が指摘されている。
そこで、塩味、酸味、旨味、苦味、渋味を測定可能な味覚センサに着目し、味覚センサによる検出結果と、実際に飲んだときの官能評価とを組み合わせることを試み、試験・検討を重ねて、良好な結果を得た。
前述の呈味領域12aと座標平面14aの構成は、この結果を利用している。
【0028】
味覚センサ(TS-5000Z:株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)の測定では、測定対象のサンプルを相対的に評価するための対照サンプルが必要である。このため、日本酒度(NS)、総酸度、アミノ酸度、アルコール度数が一般的な日本酒に近い値を示す合成清酒を調整し、これと、多数の日本酒サンプルを相対的に測定した。
【0029】
次に、測定結果から、二次元散布図を作成した。この二次元散布図の横軸-縦軸としては、散布図のバラツキが最も大きくなる分析項目(日本酒度,塩味)の組み合わせを採用した。詳しくは、横軸に「塩味-日本酒度/10-1.5」、縦軸に「日本酒度-3」を用い、この平面に、測定結果をプロットした。その結果を、
図4(a)に示す。横軸-縦軸を上述のように設定したことにより、測定対象とした多数の日本酒は、原点を中心として、各象限に偏り無く良好に分布している。また、各日本酒は、より一層、詳細にプロットされている。
【0030】
このように良好に分布している中からA~Jの10種のサンプルを選び、101名のパネリストの試飲により、官能評価を行った。具体的には、各サンプルについて、各パネリストに、「まるみのある」「ふくらみのある」「コクのある」「厚みのある」「先味しっかり」「後味しっかり」「おだやか」「ソフトな」「軽快な」「サラリとした」「すっきりとした」「爽やかな」「キレのよい」の中から適した評価語句を選択してもらい、各サンプルに於ける各語句の選択頻度を求めた。その結果を、
図4(b)に示す。
【0031】
次に、各評価言語の関連性を、クラスター解析により調べた。その結果、各評価言語は4個のクラスターに分かれた。その結果を、
図4(c)に示す。
即ち、図示のように、
(a)「コクのある」「後味しっかり」「厚みのある」「ふくらみのある」
(b)「まるみのある」「おだやか」
(c)「先味しっかり」「爽やかな」「ソフトな」「キレのよい」
(d)「すっきりとした」「軽快な」「サラリとした」
の、4個のクラスターに分かれた。
【0032】
また、A~Jのサンプルの中で同じクラスターに属するサンプルは、前述した二次元散布図中で近い位置に在ることが分かった。
そこで、上記(a)~(d)のクラスターに、
(a)コク
(b)ふくよか
(c)キレ
(d)すっきり
の語句を設定し、二次元散布図中で当該のクラスターが位置する領域の名称として付与した。さらに、専門のパネリストによる官能評価を行い、中心部の領域に、別途、
(d)おだやか
の名称を付与した。
このようにして、
図4(d)に示す領域図が得られ、これに基づき、前述の呈味領域12aと座標平面14aが構成された。
【0033】
この呈味領域12aと座標平面14aを備えた構成は、例えば、
所定の2つの分析項目に基づく直交座標軸で規定され、分析値保持手段31が持つ各醸造酒が対応付けて設定される座標平面14aと、
前記座標平面14a上に設定され、醸造酒の各呈味を表す小領域から成り、表示装置10の画面上に表示される呈味領域12aと、
前記呈味領域12a内の位置が選択されると、当該選択された位置に対応付けられている醸造酒の選択として処理する手段と、
を有する操作入力装置、
として、表現され得る。この操作入力装置は、所望の呈味の醸造酒を、直感的に選択したいというような用途に用いることができる。
【0034】
(4)醸造酒と料理の相性:
料理と醸造酒には、相性がある。
例えば、野菜の煮物は、純米大吟醸酒又は純米吟醸酒又は吟醸酒であって、且つ、
図12に示す呈味領域12a内のX軸方向「2」且つY軸方向「2」又は「3」の領域に位置する日本酒と相性が良い。つまり、「ふくよか」の中央付近の領域や、「おだやか」の領域に位置する日本酒との相性が良い(
図14・質問2の項目下「煮物」参照)。なお、
図14に於いて、JDは純米大吟醸酒、JGは純米吟醸酒、Jは純米酒、を意味する。
【0035】
このように、料理と日本酒には相性があり、且つ、相性の良さは、日本酒の種類(純米大吟醸酒/純米吟醸酒/純米酒/大吟醸酒/吟醸酒/本醸造酒/普通酒)と、呈味領域12a内の位置を用いて規定できる。このため、データベース31に保持されている日本酒が対応付けられる座標平面14a上に、日本酒の味わいを示す呈味領域12aを表示する前述の構成を用いると、料理に適した日本酒を比較的容易に示すことができ、また、日本酒に適した料理を比較的容易に示すことができる。
【0036】
料理と日本酒の相性を対応付けるテーブルを、
図14に示す。
図14に於いて、JDは純米大吟醸酒、JGは純米吟醸酒、Jは純米酒、Dは大吟醸酒、Gは吟醸酒、Hは本醸造酒、Fは普通酒である。また、味わいマップとは、呈味領域12aの表示を意味する。また、味わいマップX軸項目下の数値や、Y軸項目下の数値は、当該の軸方向での相性の良い範囲を示す(
図12参照)。
【0037】
図14内に示すように、例えば、「野菜のおかず」の一例である「サラダ又はおひたし又は和え物」は、「普通酒F又は本醸造酒H又は純米酒J」であって、且つ、呈味領域12a内の「X軸方向1又は2の範囲、且つ、Y軸方向2の範囲の領域(「すっきり」の中央部付近の領域、及び、「おだやか」の領域)に位置する日本酒が適している。この例からも分かるように、順を追って質問(階層構造の質問)を行い、回答に応じて料理(所望の料理)を特定すると、当該特定された料理との相性が良い日本酒の範囲(呈味領域12a内の位置の範囲)を特定することができる。また、当該特定された範囲内に位置する日本酒の位置を表示して選択を促し、選択された日本酒を表示することができる。
【0038】
図13に、そのような処理の一例を示す。
図13では、階層的な質問により料理を絞り込み、回答者の所望の料理を特定する(S61)。次に、当該絞り込まれた料理に対応する日本酒の種類(純米大吟醸酒/純米吟醸酒/純米酒/大吟醸酒/吟醸酒/本醸造酒/普通酒)と、呈味領域12a内での位置の範囲とを、
図14に示す「料理-日本酒テーブル」を参照して特定し(S63)、当該特定した種類・位置範囲の日本酒を、データベース31内の日本酒のテーブル(
図9(a)参照)から検索する(S65)。なお、
図9(a)には、日本酒の種類の項目や、呈味領域12a内での位置の項目は明示されていないが、当然に、これらのデータが、各日本酒にについて保持されているものとする。
【0039】
こうして、絞り込まれた料理に対応付けられる日本酒が特定されると、各日本酒の位置が、呈味領域12a上に表示される(S67)。
図12内の下方側の図に、その様子を示す。なお、このように各日本酒の位置を示す表示は一例を示すものであり、このような表示に代えて、例えば、特定された範囲(例:「X軸方向1又は2の範囲、且つ、Y軸方向2の範囲の領域)のみを表示し、他の領域を非表示にする等して、相性の良い領域を明示するようにしてもよい。
【0040】
この表示(S67での表示)に応じて、回答者が所望の日本酒を選択すると(S13;YES)、以下、
図5と同様に、当該選択された日本酒の情報を表示する処理(S15以降の処理)に移行する。
【0041】
上記は、日本酒に関して料理との相性を調べて表示するものであるが、他の醸造酒についても、同様に処理することができる。ワインに関して同様の処理を行う場合に用いられるテーブルの例を、
図15に示す。なお、ワインでは、日本酒での「純米大吟醸酒/純米吟醸酒/純米酒/大吟醸酒/吟醸酒/本醸造酒/普通酒」に代えて、色(スパークリングワイン及び白ワインG/スパークリングワイン及び白ワインW/スパークリングワイン及び白ワインY/スパークリングワイン及び赤ワインR/スパークリングワイン及び赤ワインB/スパークリングワイン及びロゼワインRo;(注)スパークリングワインは各色に該当するものがある)が、用いられる。
【0042】
このように、料理から相性の良い醸造酒を調べて、又は、醸造酒から相性の良い料理を調べて、その結果を、呈味領域12aに表示等する構成は、例えば、
表示装置10を備えたコンピュータシステム20上に構成され、料理と醸造酒との相性を調べる相性判別装置であって、
醸造酒の各分析項目の値を醸造酒毎に持つ分析値保持手段31、及び、料理と相性の良い醸造酒の属性を料理別に保持する相性保持手段、を有する記憶装置30と、
所定の2つの分析項目に基づく直交座標軸で規定される座標平面14a上に、前記分析値保持手段31が持つ各醸造酒を対応付けて設定する醸造酒配設手段S01と、
醸造酒の呈味を表す呈味領域12aを前記座標平面14a上に設定するとともに前記表示装置10の画面上に表示する呈味表示手段S11と、
調査対象の料理が選択されると、当該選択された料理と相性の良い属性を前記相性保持手段から取得するとともに、当該属性により特定される各醸造酒を前記分析値保持手段31から取得して、前記表示装置10の画面上に表示する醸造酒表示手段と、
を有することを特徴とする相性判別装置、
として、表現され得る。
醸造酒側から相性の良い料理を調べる場合も、略同様である。
【符号の説明】
【0043】
10 タッチパネル
12 タッチパネル10の画面領域(表示領域)
12a 呈味領域
14 タッチパネル10のタッチ操作の検出領域
14a 座標平面
20 タブレット
30 記憶装置
31 データベースDB
40 制御装置
41 CPU
43 メモリ
50 スピーカ
60 通信装置