(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】化学蓄熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/16 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
C09K5/16
(21)【出願番号】P 2020511675
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2019009873
(87)【国際公開番号】W WO2019193936
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018070795
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田近 正彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 之貴
(72)【発明者】
【氏名】内山 直人
(72)【発明者】
【氏名】高須 大輝
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514135(JP,A)
【文献】特開2018-123217(JP,A)
【文献】特開2018-059016(JP,A)
【文献】特開2009-133590(JP,A)
【文献】特開昭58-151321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/16
C01F11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ及
びケイ酸カルシウムからなる表面層と、前記表面層を有する酸化カルシウム粒子とからな
り、前記ケイ酸カルシウムは、前記シリカと前記酸化カルシウム粒子の間に形成されている、化学蓄熱材。
【請求項2】
ケイ素としての含有量が、0.1~10質量%である、請求項1に記載の化学蓄熱材。
【請求項3】
カルシウム原子としての含有量が、56~71質量%である、請求項1または2に記載の化学蓄熱材。
【請求項4】
表面にシリカ源となる被覆層を有する表面処理炭酸カルシウムを準備する工程と、
前記表面処理炭酸カルシウムを焼成して酸化カルシウムに変換する工程とを備える、化学蓄熱材の製造方法。
【請求項5】
前記被覆層が、シリカヒドロゾル、シランカップリング剤、シリカ粉末、及びアルコキシドシランからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて形成される、請求項4に記載の化学蓄熱材の製造方法。
【請求項6】
表面処理前の炭酸カルシウムの平均粒子径が10~300nmの範囲である、請求項4または5に記載の化学蓄熱材の製造方法。
【請求項7】
表面処理前の炭酸カルシウムのBET比表面積が5~120m
2/gの範囲である、請求項4~6のいずれか一項に記載の化学蓄熱材の製造方法。
【請求項8】
焼成温度が、600~1000℃の範囲内である、請求項4~7のいずれか一項に記載の化学蓄熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水和発熱反応と脱水吸熱反応との可逆反応を示す化学蓄熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未利用の熱エネルギーを回収・再利用するシステムとして、ケミカルヒートポンプは有効な手段である。化学蓄熱材を利用したケミカルヒートポンプは、水和発熱反応と脱水吸熱反応との可逆反応を利用して、蓄熱及び放熱を行うものである。例えば、酸化カルシウム/水系のケミカルヒートポンプの場合、化学蓄熱材中の酸化カルシウムが水和する際に発生する熱を放出することができ、酸化カルシウムが水和することで生成した水酸化カルシウムを加熱して脱水することにより化学蓄熱材に蓄熱することができる。
【0003】
特許文献1においては、ペレット状に成形された状態における強度及び熱伝導率が高い化学蓄熱材として、酸化カルシウム等と、ホウ素化合物と、シリコーンポリマーとを含有する化学蓄熱材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の化学蓄熱材では、脱水反応による蓄熱と水和反応による発熱を繰り返すと、徐々に蓄熱量及び発熱量が小さくなり、繰り返し耐久性に劣るという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、繰り返し耐久性に優れた化学蓄熱材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化学蓄熱材は、シリカ及び/またはケイ酸カルシウムからなる表面層と、前記表面層を有する酸化カルシウム粒子とからなることを特徴としている。
【0008】
本発明の化学蓄熱材においては、ケイ素としての含有量が、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0009】
本発明の化学蓄熱材においては、カルシウム原子としての含有量が、56~71質量%であることが好ましい。
【0010】
本発明の製造方法は、上記本発明の化学蓄熱材を製造することができる方法であり、表面にシリカ源となる被覆層を有する表面処理炭酸カルシウムを準備する工程と、前記表面処理炭酸カルシウムを焼成して酸化カルシウムに変換する工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
本発明の製造方法において、前記被覆層は、シリカヒドロゾル、シランカップリング剤、シリカ粉末、及びアルコキシドシランからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて形成されることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法においては、表面処理前の炭酸カルシウムの平均粒子径が10~300nmの範囲であることが好ましい。
【0013】
本発明の製造方法においては、表面処理前の炭酸カルシウムのBET比表面積が5~120m2/gの範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法においては、焼成温度が、600~1000℃の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、化学蓄熱材の繰り返し耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1の表面処理炭酸カルシウムを示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図2】
図2は、
図1に示す表面処理炭酸カルシウムを焼成して得られる実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図3】
図3は、
図2に示す実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)について20回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図4】
図4は、比較例の炭酸カルシウムを示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図5】
図5は、
図4に示す比較例の炭酸カルシウムを焼成して得られる比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図6】
図6は、
図5に示す比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)について20回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図7】
図7は、実施例1及び比較例において行った化学蓄熱材の性能評価実験の熱重量分析における温度プロファイルを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1の表面処理炭酸カルシウムを焼成して実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)を製造する際の熱重量分析データを示す図である。
【
図9】
図9は、比較例の炭酸カルシウムを焼成して比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)を製造する際の熱重量分析データを示す図である。
【
図10】
図10は、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)について20回繰り返し実験を行ったときの温度変化及び質量変化を示す図である。
【
図11】
図11は、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)について20回繰り返し実験を行ったときの温度変化及び質量変化を示す図である。
【
図12】
図12は、1サイクル目、3サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、及び20サイクル目における実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の水和反応の際の転化率の経時変化を示す図である。
【
図13】
図13は、1サイクル目、3サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、及び20サイクル目における比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の水和反応の際の転化率の経時変化を示す図である。
【
図14】
図14は、20回繰り返し実験の各サイクルにおける実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)及び比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の水和反応の際の最大転化率(x
Hy,max)を示す図である。
【
図15】
図15は、20回繰り返し実験の各サイクルにおける実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)及び比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の水和反応の際の最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例1の表面処理炭酸カルシウムのX線回折パターンを示す図である。
【
図17】
図17は、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)のX線回折パターンを示す図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施例2の化学蓄熱材について100回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【
図19】
図19は、実施例2の化学蓄熱材について100回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(200000倍)である。
【
図20】
図20は、実施例2の化学蓄熱材の100回繰り返し実験の各サイクルにおける水和反応の際の最大転化率(x
Hy,max)及び最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<化学蓄熱材>
本発明の化学蓄熱材は、シリカ及び/またはケイ酸カルシウムからなる表面層と、前記表面層を有する酸化カルシウム粒子とからなる。
【0019】
表面層は、シリカから形成されていてもよいし、ケイ酸カルシウムから形成されていてもよいし、シリカ及びケイ酸カルシウムから形成されていてもよい。シリカ及びケイ酸カルシウムから形成される場合、シリカ層と酸化カルシウム粒子の間に、ケイ酸カルシウムが形成されていることが好ましい。
【0020】
シリカ及びケイ酸カルシウムは、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよいが、一般には、結晶質であることが好ましい。
【0021】
本発明の化学蓄熱材において、ケイ素としての含有量は、0.1~10質量%の範囲であることが好ましく、0.3~7質量%の範囲であることがより好ましく、0.5~5質量%の範囲であることがさらに好ましい。ケイ素としての含有量が少なすぎると、良好な繰り返し耐久性が発揮されにくい場合がある。ケイ素としての含有量が多すぎると、化学蓄熱材である酸化カルシウムの有効な含有量が少なくなり、結果として蓄熱量が少なくなる場合がある。
【0022】
本発明の化学蓄熱材において、カルシウム原子としての含有量は、56~71質量%の範囲であることが好ましく、60~70.5質量%の範囲であることがより好ましく、63~70質量%の範囲であることがさらに好ましい。カルシウム原子としての含有量が少なすぎると、化学蓄熱量が小さくなる場合がある。カルシウム原子としての含有量が多すぎると、良好な繰り返し耐久性が発揮されにくい場合がある。
【0023】
<化学蓄熱材の製造方法>
本発明の化学蓄熱材は、例えば、表面にシリカ源となる被覆層を有する表面処理炭酸カルシウムを準備する工程と、前記表面処理炭酸カルシウムを焼成して酸化カルシウムに変換する工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0024】
(表面処理炭酸カルシウム)
本発明の表面処理炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの表面に、シリカ源となる被覆層を形成することにより製造することができる。
【0025】
被覆層は、炭酸カルシウムの表面にシリカ源を付着させることにより形成することができる。被覆層は、例えば、シリカヒドロゾル、シランカップリング剤、シリカ粉末、及びアルコキシドシランからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて形成することができる。
【0026】
シリカヒドロゾルは、公知の方法により製造されるものを用いることができる。例えば、酸分解法によるシリカヒドロゾルを用いることができる。また、ケイ酸ナトリウム溶液に、塩酸、硫酸などの無機酸、硫酸アルミニウム、或いは酢酸、アクリル酸などの有機酸、その他の炭酸ガス等の酸性物質などを加えることによって生成する非晶質シリカヒドロゾルを用いることができる。或いは、半透膜にケイ酸ナトリウムを通して生成せしめる透析法によって生成されるシリカヒドロゾルを用いることができる。また、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法によって生成されるシリカヒドロゾルを用いることもできる。
【0027】
シリカヒドロゾルによる炭酸カルシウムの処理方法としては、例えば、炭酸カルシウムスラリーに適当濃度のケイ酸ナトリウム水溶液を加え、攪拌しながら無機酸または有機酸などの酸性物質を滴下し、生成する活性なシリカヒドロゾルによって、炭酸カルシウム表面を処理する手法が挙げられる。
【0028】
予め調製したシリカヒドロゾルを用いる場合は、炭酸カルシウムスラリーに、シリカヒドロゾルを添加し、強力に攪拌することにより、処理することができる。
【0029】
炭酸カルシウムスラリーとしては、固形分濃度0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%程度のものが用いられる。ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度としては、1~40質量%程度のものが用いられる。炭酸カルシウムスラリーの固形分濃度に対するケイ酸ナトリウム濃度の割合は11.3質量%~200質量%程度である。
【0030】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス-(3-〔トリエトキシシリル〕-プロピル)-テトラサルファン(TESPT)、ビス-(3-〔トリエトキシシリル〕-プロピル)-ジサルファンなどを挙げることができる。
【0031】
特に、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス-(3-〔トリエトキシシリル〕-プロピル)-テトラサルファン、ビス-(3-〔トリエトキシシリル〕-プロピル)-ジサルファンを用いるのが好ましい。
【0032】
シランカップリング剤を用いて炭酸カルシウムを処理する方法は、特に限定されず、従来から知られている種々の表面処理方去を適用することができる。
【0033】
表面処理する炭酸カルシウムが、乾燥粉末である場合には、例えば、この炭酸カルシウム粉末をミキサー中で撹拌しながら、シランカップリング剤を滴下、或いはスプレーなどを用いて噴霧することによって、シランカップリング剤を炭酸カルシウムの表面に付与する方法などを適用することができる。この場合、必要に応じて表面処理後に加熱乾燥してもよい。
【0034】
また、表面処理する炭酸カルシウムが懸濁液の状態で得られる場合には、この懸濁液に水溶性シランカップリング剤を投入し、炭酸カルシウムの表面にシランカップリング剤を吸着させることにより表面処理を行い、次いで、処理物を濾別し、乾燥することにより、シランカップリング剤で表面処理した炭酸カルシウムを製造することができる。また、処理を均一に行わせるために、攪拌機、或いは、ビーズミル、サンドミルのような湿式磨砕機を使用してもよい。
【0035】
シリカ粉末としては、一般的には湿式シリカ、乾式シリカなどであり、乾式で混合する場合は、ミキサー中でシリカ粉末と炭酸カルシウム粉末を混合する。また、炭酸カルシウムが懸濁液の状態であれば、シリカ粉末を粉末のままあるいは懸濁液にした状態で混合し、その後ろ過乾燥することにより炭酸カルシウム表面にシリカ粉末を担持したものが得られる。
【0036】
アルコキシドシランとしては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランがあり、アルコキシシランのアルコキシ基のうち最も一般的なものはエチル基であるが、メトキシ基やプロポキシ基、ブトキシ基、その他の長鎖炭化水素アルコキシ基も用いることができる。一般的には水と反応して加水分解してシリカ相が形成される。したがって、上記アルコキシシランの溶液を炭酸カルシウム粉末に噴霧し、その後炭酸カルシウム粉末に含まれる水分により加水分解を起こさせて炭酸カルシウムの表面にシリカ相を生成させることができる。
【0037】
被覆層の形成量は、本発明の化学蓄熱材において、ケイ素として上記の含有量となるように設定されることが好ましい。
【0038】
本発明に用いる表面処理炭酸カルシウムとしては、シリカヒドロゾルからなるシリカ層を炭酸カルシウムの表面に形成した後、シランカップリング剤で表面処理したものであることが好ましい。この場合のシリカ層の量は、炭酸カルシウム100質量部に対し、0.1~10質量部の範囲であることが好ましく、0.3~7質量部の範囲であることがより好ましく、0.5~5質量部の範囲であることがさらに好ましい。また、シランカップリング剤の表面処理量は、炭酸カルシウム100質量部に対し、0.1~10質量部の範囲であることが好ましく0.2~7質量部の範囲であることがより好ましく、0.3~5質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明に用いる表面処理炭酸カルシウムにおいては、上記のシリカ層を形成した後、脂肪酸で処理し、その後にシランカップリング剤を表面処理してもよい。
【0040】
脂肪酸の処理は、例えば、脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩などの脂肪酸石鹸を用いて処理することができる。例えば、シリカ層を形成させた炭酸カルシウムの水懸濁液を、予め30~50℃に加熱しておき、この懸濁液に脂肪酸石鹸を添加し、攪拌させて、混合し、脂肪酸を表面処理することができる。炭酸カルシウムの水性懸濁液に対する脂肪酸石鹸の添加割合は10~70質量%程度、好ましくは10~50質量%程度である。
【0041】
脂肪酸の処理量は、炭酸カルシウム100質量部に対し、0.1~5質量部の範囲であることが好ましく、0.2~4質量部の範囲であることがより好ましく、0.3~3質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0042】
表面処理前、すなわち原料の炭酸カルシウムの平均粒子径は、10~300nmの範囲であることが好ましく、15~200nmの範囲であることがより好ましく、20~150nmの範囲であることがさらに好ましい。炭酸カルシウムの平均粒子径が小さすぎると、粉末が凝集して化学蓄熱材として良好な繰り返し耐久性を発揮できない場合がある。炭酸カルシウムの平均粒子径が大きすぎると、化学蓄熱材として良好な繰り返し耐久性が発揮できない場合がある。平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察で1000個の炭酸カルシウムの一次粒子径を測定することにより求めることができる。
【0043】
原料の炭酸カルシウムのBET比表面積は、5~120m2/gの範囲であることが好ましく、10~100m2/gの範囲であることがより好ましく、15~80m2/gの範囲であることがさらに好ましい。炭酸カルシウムのBET比表面積が大きすぎると、粉末が凝集して化学蓄熱材として良好な繰り返し耐久性を発揮できない場合がある。炭酸カルシウムのBET比表面積が小さすぎると、化学蓄熱材として良好な繰り返し耐久性が発揮できない場合がある。BET比表面積は、気体吸着法に基づいて、炭酸カルシウムへの窒素ガスの吸着量を検出することにより算出することができる。
【0044】
(表面処理炭酸カルシウムの焼成)
上記のようにして製造した表面処理炭酸カルシウムを焼成することにより、脱炭酸化して酸化カルシウムとし、本発明の化学蓄熱材を製造することができる。
【0045】
焼成温度は、炭酸カルシウムを脱炭酸化して酸化カルシウムにすることができる温度であればよく、600~1000℃の範囲内であることが好ましく、650~900℃の範囲内であることがより好ましく、700~850℃の範囲内であることがさらに好ましい。焼成時間は、炭酸カルシウムを脱炭酸化して酸化カルシウムにすることができる時間であればよく、特に限定されるものではない。焼成雰囲気は、炭酸カルシウムを脱炭酸化して酸化カルシウムにすることができる雰囲気であればよく、一般には、空気、または窒素やアルゴン等の不活性ガス中で焼成される。
【0046】
<化学蓄熱材の使用形態>
本発明の化学蓄熱材は、粉末状であり、粉末の形態のままで用いることができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、本発明の表面処理炭酸カルシウムを含む塗料を作製し、この塗料を塗布した後、焼成することにより、表面処理炭酸カルシウムを化学蓄熱材に転換して用いることができる。また、本発明の表面処理炭酸カルシウムの成形体を作製し、この成形体を焼成することにより、表面処理炭酸カルシウムを化学蓄熱材に転換して用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明に従う具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
(表面処理炭酸カルシウムの調製)
平均粒子径20nm、BET比表面積70m2/gの合成炭酸カルシウムスラリー(固形分濃度8質量%)を良く攪拌しながら40℃に加熱した。このスラリー中の合成炭酸カルシウム100質量部に対し、室温下、ケイ酸ナトリウム水溶液をシリカとして5質量部添加し、中和するに必要な量の炭酸ガスを導入して、炭酸カルシウム表面にシリカ層を生成させた。
【0049】
次に、水酸化ナトリウムを添加して90℃で加温攪拌させて鹸化した脂肪酸混合物を、原料炭酸カルシウム100質量部に対して、脂肪酸として2質量部添加した後、フィルタープレスにより脱水し、箱型乾燥機を用いて80℃の条件で乾燥し、得られた乾燥物をミクロンミル粉砕機(ホソカワミクロン社製、スーパーミクロンミル)を用いて粉砕し、シリカと脂肪酸で表面処理した炭酸カルシウム粉末を作製した。
【0050】
この炭酸カルシウム粉末を、ミキサーで撹拌しながら、原料炭酸カルシウム100質量部に対して0.5質量部となる量の3-アミノプロピルトリエトキシシランを噴霧し、10分間攪拌した後、100℃×60分間で加熱乾燥させて、表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0051】
以下、この表面処理炭酸カルシウム及びこの表面処理炭酸カルシウムを焼成して得られる化学蓄熱材を、「Si-PCC 20」として示す。
【0052】
(化学蓄熱材の製造)
上記の表面処理炭酸カルシウムを焼成して、炭酸カルシウムを酸化カルシウムに転換し、化学蓄熱材を製造した。ここでは、以下に説明する繰り返し実験に用いた熱重量分析装置(TG;Thermo-Gravimetric balance、ULVAC理工社製、TGD9600)の試料セル内で、繰り返し実験を行う前に炭酸カルシウムを焼成し、脱炭酸化して酸化カルシウムに転換した。具体的には、800℃まで昇温速度26.5℃ min-1で加熱し、30分間その温度を維持することで脱炭酸化した。
【0053】
(繰り返し実験)
上記の熱重量分析装置の試料セル内で、化学蓄熱材の水和反応と脱水反応の繰り返し実験を行った。試料セルは、直径7.5mm、高さ10mmの白金セルを用いた。セルを支える支柱は、直径1.5mm、長さ220mmで、支柱の先端部分は熱電対結線部となっている。その熱電対で反応器内の温度制御を行い、温度と反応物の重量を一定の時間間隔で測定した。
【0054】
水和反応の場合は反応ガスとしてアルゴンと水蒸気の混合ガスを目的の蒸気圧となるよう反応器内部に供給した。タイマーで弁の開閉を行い、反応ガスが反応器内部に供給される時間を制御した。反応ガスは微量定量ポンプ(日本精密科学社製、MINICHEMI PUMP NP-KX-105)を用いて一定量の精製水を蒸気発生部に供給し、発生した水蒸気をキャリアガスのアルゴンガスと混合し反応器に流通させた。また故障を避けるため反応器下部から、パージガスとしてアルゴンガスを常に流し続けた。
【0055】
図7に、熱重量分析における温度プロファイルを示す。
図7に示されているP
H及びP
Dは、水和反応及び脱水反応中の水蒸気圧である。t
Hは水和反応時間(=30分)でありt
Dは脱水反応時間(=25分)である。
図7において、縦軸は温度(℃)であり、横軸は時間(分)である。
【0056】
なお、57.8kPaは約85℃の飽和水蒸気圧に相当する水蒸気圧であり、水和反応中、試料部に水蒸気として供給した。ただし脱水反応中は水蒸気の供給を止めた。熱天秤の故障を防ぐため、測定中は、熱天秤内部の反応器に不活性なアルゴンガスを100ml min-1の流量で流し続けた。なお、水和反応時及び脱水反応時における温度及び水蒸気圧は以下の通りである。
【0057】
水和反応:温度 450℃(TH)、水蒸気圧 57.8kPa(PH)
脱水反応:温度 450℃(TD)、水蒸気圧 0kPa(PD)
上記の条件で、水和反応と脱水反応を20回繰り返し、繰り返し耐久性を評価した。
【0058】
<比較例>
比較の炭酸カルシウムとして、市販の炭酸カルシウム(平均粒子径2~3μm、純度99.99%)を用いた。この炭酸カルシウムを用いて、実施例1と同様にして、脱炭酸化し、比較の化学蓄熱材を調製し、この比較の化学蓄熱材について、実施例1と同様にして繰り返し実験を行った。
【0059】
以下、この比較例の炭酸カルシウム及びこの比較例の炭酸カルシウムを焼成して得られる化学蓄熱材を、「CaCO3 std」として示す。
【0060】
<脱炭酸化工程における比較>
図8は、実施例1の表面処理炭酸カルシウムを焼成し脱炭酸化して、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)を製造する際の熱重量分析データを示す図である。
図9は、比較例の炭酸カルシウムを焼成し脱炭酸化して、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)を製造する際の熱重量分析データを示す図である。
図8及び
図9において、左側縦軸は温度(℃)であり、右側縦軸は質量変化(mg)であり、横軸は時間(分)である。
【0061】
図9に示すように、比較例の炭酸カルシウムにおいては、約750℃から炭酸カルシウムの脱炭酸化による質量減少が認められる。これに対して、
図8に示すように、実施例1の表面処理炭酸カルシウムにおいては、2段階の質量減少が認められる。第1の質量減少は、約400~600℃で認められており、これはシランカップリング剤の分解及びシリカの変化に基づくものであると考えられる。第2の質量減少は、比較例の炭酸カルシウムと同様の炭酸カルシウムの脱炭酸化による質量減少であると考えられる。
【0062】
<繰り返し実験における比較>
図10は、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)について20回繰り返し実験を行ったときの温度変化及び質量変化を示す図である。
図11は、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)について20回繰り返し実験を行ったときの温度変化及び質量変化を示す図である。
図10及び
図11において、左側縦軸は温度(℃)であり、右側縦軸は質量変化(mg)であり、横軸は時間(分)である。
【0063】
図12は、1サイクル目、3サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、及び20サイクル目における実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の水和反応の際の転化率xの経時変化を示す図である。
図13は、1サイクル目、3サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、及び20サイクル目における比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の水和反応の際の転化率xの経時変化を示す図である。
図12及び
図13において、縦軸は転化率x(―)であり、横軸は水和反応時間t
H(分)である。
【0064】
転化率xは、以下の式から算出することができる。
【0065】
【0066】
Δm:水和反応中に見られる質量変化[g]
mCaO:試料に含まれていたと(計算から)導かれるCaOの質量[g]
MH2O:H2Oのモル質量[g mol-1]
MCaO:CaOのモル質量[g mol-1]
mCaOは、以下の式から算出することができる。
【0067】
【0068】
mCO2:反応前駆体である炭酸カルシウムの分解によって生じたCO2の質量[g]
MCO2:CO2のモル質量[g mol-1]
【0069】
図11及び
図13に示すように、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)においては、1サイクル目から10サイクル目にかけてサイクル毎に質量変化が徐々に減少しており、その後20サイクル目までは、僅かな質量変化になっていることがわかる。
【0070】
これに対し、
図10及び
図12に示すように、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)では、1サイクル目から10サイクル目にかけてサイクル毎に質量変化が増加しており、その後20サイクル目までは、質量変化は一定の大きな値で維持されていることがわかる。
【0071】
図14は、20回繰り返し実験の各サイクルにおける実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)及び比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の水和反応の際の最大転化率(x
Hy,max)を示す図である。
図15は、20回繰り返し実験の各サイクルにおける実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)及び比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の水和反応の際の最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)を示す図である。
図14において、縦軸は水和反応の際の最大転化率x
Hy,max(―)であり、横軸は水和反応のサイクル数(―)である。
図15において、縦軸は水和反応の際の最大転化率の変化速度(Δx/Δt)
Hy,max(S
-1)であり、横軸は水和反応のサイクル数(―)である。
【0072】
最大転化率の変化速度((Δx/Δt)Hy,max)は、以下の式で定義される。これは24秒間における転化率xの時間変化から導かれる。
【0073】
【0074】
Δx/Δt: 転化率変化速度[S-1]
x(t):ある時点tでの転化率[-]
【0075】
図14に示すように、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の最大転化率(x
Hy,max)は、最初の8サイクルの間、増加しており、その後約1.0に到達している。これに対し、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)は、最初の9サイクルの間、徐々に減少し、その後0.2以下になっている。20サイクル目の実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の最大転化率(x
Hy,max)は0.99であり、20サイクル目の比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の最大転化率(x
Hy,max)は0.12である。
【0076】
図15に示すように、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)は、1サイクル目を除き、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)よりも高くなっている。また、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)は、6サイクル目以降において、高い値を維持している。20サイクル目の実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)は12.2x10
-2S
-1であり、20サイクル目の比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)の最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)である2.4x10
-2S
-1の5倍の値を示している。
【0077】
<X線回折パターン>
図16は、実施例1の表面処理炭酸カルシウムのX線回折パターンを示す図である。
図17は、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)のX線回折パターンを示す図である。
図16及び
図17において、縦軸は強度(cps)であり、横軸は2θ(度)である。
【0078】
図16に示すように、実施例1の表面処理炭酸カルシウムのX線回折パターンにおいては、炭酸カルシウムであるカルサイトのピークのみが認められ、被覆層を構成するシリカ、脂肪酸、及びシランカップリング剤に基づくピークはほとんど認められていない。
【0079】
これに対し、
図17に示すように、脱炭酸化した後の実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)のX線回折パターンでは、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO
2)、及びケイ酸カルシウム(Ca
2SiO
4)のピークが検出されている。二酸化ケイ素(結晶質シリカ)及びケイ酸カルシウムは、表面処理炭酸カルシウムの被覆層を構成する非晶質シリカ及びシランカップリング剤が、脱炭酸化のための熱処理により転換して生成したものと思われる。ケイ酸カルシウムは、非晶質シリカ及び/またはシランカップリング剤が、炭酸カルシウムから転換した酸化カルシウムと反応することにより生成したものと思われる。したがって、ケイ酸カルシウムは、酸化カルシウムの近傍に存在しているものと思われる。
【0080】
以上のことから、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)は、シリカ(二酸化ケイ素)及びケイ酸カルシウムからなる表面層を有する酸化カルシウム粒子であることがわかる。また、シリカ及び/またはケイ酸カルシウムからなる表面層を有することにより、この表面層が水和反応の際の水蒸気の通路を確保するとともに、水和反応と脱水反応の繰り返しサイクルにおける原子の拡散を抑制し、酸化カルシウム粒子が凝集するのを抑制できることがわかる。
【0081】
<電子顕微鏡観察>
図1は、実施例1の表面処理炭酸カルシウムを示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図2は、
図1に示す表面処理炭酸カルシウムを焼成して得られる実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図3は、
図2に示す実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)について20回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【0082】
図4は、比較例の炭酸カルシウムを示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図5は、
図4に示す比較例の炭酸カルシウムを焼成して得られる比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図6は、
図5に示す比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)について20回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【0083】
図4に示すように、比較例の炭酸カルシウムは立方状であり、平均粒子径は約10μmである。
図5に示すように、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)は、炭酸カルシウムの比容積(0.37cm
3・g
-1)と酸化カルシウムの比容積(0.29cm
3・g
-1)の違いにより、脱炭酸化で、粒子が収縮しており、その表面にしわが寄っている。
図6に示すように、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)では、粒子が微粉化し、バルクの密度が増加するため、水蒸気の拡散性が低下する。この結果として、凝集していることが認められる。
【0084】
これに対して、
図1に示すように、実施例1の表面処理炭酸カルシウムは、微細な粒子であり、平均粒子径は約20nmであり、粒子の境界は明確に区別できる。
図2に示すように、脱炭酸化により粒子は結合するが、収縮を観察されず、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の表面は、比較例の化学蓄熱材(CaCO
3 std)より粗くなっている。
図3に示すように、繰り返し実験後において、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の粒子の形状は維持されており、凝集は観察されない。シリカ及び/またはケイ酸カルシウムからなる表面層を有することにより、実施例1の化学蓄熱材(Si-PCC 20)の水和反応の活性が高められていると考えられる。
【0085】
以上のように、本発明の化学蓄熱材は、優れた繰り返し耐久性を有している。これは、シリカ及び/またはケイ酸カルシウムからなる表面層を有することにより、酸化カルシウム粒子が凝集するのを抑制され、繰り返しサイクルの際の水蒸気の拡散性が高められることによるものと考えられる。
【0086】
<実施例2>
実施例1と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製し、この表面処理炭酸カルシウムを実施例1と同様にして脱炭酸化し、実施例2の化学蓄熱材を作製した。この実施例2の化学蓄熱材について、水和反応の時間を30分とし、脱水反応時間を26.5分とする以外は、実施例1と同様の条件で100回の繰り返し実験を行った。
【0087】
図20は、実施例2の化学蓄熱材の100回繰り返し実験の各サイクルにおける水和反応の際の最大転化率(x
Hy,max)及び最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)を示す図である。
図20において、左側縦軸は水和反応の際の最大転化率x
Hy,max(―)であり、右側縦軸は水和反応の際の最大転化率の変化速度(Δx/Δt)
Hy,max(S
-1)であり、横軸は水和反応のサイクル数(―)である。
【0088】
図20に示すように、初めの2サイクルを除いてほぼ全てのサイクルにおいて、最大転化率(x
Hy,max)は1の近傍を推移している。最大転化率の変化速度((Δx/Δt)
Hy,max)は、3~5サイクル目までは0.2×10
-2[s
-1]程度の高い値を示していたが、その後20サイクル目から100サイクル目では0.13×10
-2[s
-1]程度の値に収束していることが確認される。
【0089】
以上のことから、本発明の化学蓄熱材は、100回繰り返し実験においても、優れた繰り返し耐久性を有していることがわかる。
【0090】
<電子顕微鏡観察>
図18は、本発明の実施例2の化学蓄熱材について100回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図19は、実施例2の化学蓄熱材について100回繰り返し実験を行った後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(200000倍)である。
【0091】
図18及び
図19に示すように、100回繰り返し実験後においても、実施例2の化学蓄熱材の粒子における凝集は観察されておらず、高い水和反応の活性が維持されていると考えられる。