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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】無電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021129586
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2021-10-12
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591005394
【氏名又は名称】株式会社太洋工作所
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健太
(72)【発明者】
【氏名】有光 康
(72)【発明者】
【氏名】恒次 涼太
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】北 晃治
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-097680(JP,A)
【文献】特開平03-204992(JP,A)
【文献】特開2009-228083(JP,A)
【文献】特開2010-182925(JP,A)
【文献】特表2015-513003(JP,A)
【文献】特表2015-512985(JP,A)
【文献】特表2017-517626(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216714(WO,A1)
【文献】米国特許第08603352(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00 - 20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)表面調整液に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、
(2)前記工程1の後に、前処理用組成物に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程2、
(3)前記工程2の後に、無機酸を含有する後処理液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程3、
(4)前記工程3の後に、触媒付与液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程4、及び、
(5)前記工程4の後に、無電解めっき液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程5を有し、
前記表面調整液がエーテル結合を有する溶剤を含有し、
前記エーテル結合を有する溶剤は、グリコールエーテル系溶剤、環状エーテル系溶剤、及び、芳香族環含有エーテル系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記グリコールエーテル系溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、メトキシメチルブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及び、プロピレングリコールモノフェニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記前処理用組成物が10mg/L以上17093mg/L以下のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する、
ことを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項2】
前記マンガンイオンのマンガンの価数が3以上である、請求項1に記載の無電解めっき方法。
【請求項3】
前記無機酸が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の無電解めっき方法。
【請求項4】
前記触媒付与液が0.1mg/L以上のパラジウム化合物を含有し、スズ化合物を含有しない、請求項1~3のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項5】
前記樹脂材料は、スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂である、請求項1~4のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、樹脂成形体として、例えばABS樹脂、PC/ABS樹脂、PPE樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケルなどのめっきが施されている。更に、樹脂基板に対して導電性を付与して導体回路を形成する方法としても、樹脂基板上に銅などのめっき皮膜を形成する方法が行われている。
【0003】
樹脂基板、樹脂成形体等の樹脂材料にめっき皮膜を形成する一般的な方法として、クロム酸によるエッチング処理によって樹脂材料の表面を粗化した後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が行われている。
【0004】
しかしながら、上述の方法では、クロム酸を用いるため環境や人体に有害であるという問題がある。
【0005】
また、樹脂材料にめっき皮膜を形成する方法として、金属アクチベータ分子種を含む水性溶液をめっきしようとする部品と接触させてエッチングし、金属アクチベータ分子種を還元することが可能な還元剤の溶液と接触させ、部品を無電解メッキ溶液と接触させることにより金属めっきする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、アクチベータ分子種の成分については検討の余地があり、めっき皮膜の形成が十分でないという問題がある。上述の樹脂成形体、特に、PC/ABS樹脂はめっき皮膜を形成し難いため、めっき皮膜を十分に形成できず、且つ、樹脂成形体に対するめっき皮膜の密着性が十分でないという問題がある。
【0007】
従って、有害なクロム酸を使用することなく、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂成形体に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる無電解めっき方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4198799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、有害なクロム酸を使用することなく、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂成形体に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、樹脂材料の被処理面を、表面調整液、前処理用組成物、無機酸を含有する後処理液、触媒付与液、及び、無電解めっき液に接触させる工程を有し、表面調整液がエーテル結合を有する溶剤を含有し、前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する構成の無電解めっき方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の無電解めっき方法に関する。
1.樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)表面調整液に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、
(2)前記工程1の後に、前処理用組成物に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程2、
(3)前記工程2の後に、無機酸を含有する後処理液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程3、
(4)前記工程3の後に、触媒付与液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程4、及び、
(5)前記工程4の後に、無電解めっき液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程5を有し、
前記表面調整液がエーテル結合を有する溶剤を含有し、
前記前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する、
ことを特徴とする無電解めっき方法。
2.前記マンガンイオンのマンガンの価数が3以上である、項1に記載の無電解めっき方法。
3.前記無機酸が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の無電解めっき方法。
4.前記触媒付与液が0.1mg/L以上のパラジウム化合物を含有し、スズ化合物を含有しない、項1~3のいずれかに記載の無電解めっき方法。
5.前記樹脂材料は、スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂である、項1~4のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無電解めっき方法は、有害なクロム酸を使用することなく、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂成形体に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
1.無電解めっき方法
本発明の無電解めっき方法は、樹脂材料の無電解めっき方法であって、(1)表面調整液に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、(2)前記工程1の後に、前処理用組成物に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程2、(3)前記工程2の後に、無機酸を含有する後処理液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程3、(4)前記工程3の後に、触媒付与液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程4、及び(5)前記工程4の後に、無電解めっき液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程5を有し、前記表面調整液がエーテル結合を有する溶剤を含有し、前記前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の無電解めっき方法は、上記工程1~5を有し、工程1で用いられる表面調整液がエーテル結合を有する溶剤を含有するので、樹脂成形体、特に、PC/ABS樹脂等のめっき皮膜を形成し難い樹脂成形体であっても、めっき皮膜を十分に形成することができる。
【0016】
また、本発明の無電解めっき方法は、工程2で用いられる前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有するので、樹脂材料の被処理面に対して高いエッチング力を発揮することができ、銀触媒の付与が十分となる。
【0017】
例えば、マンガンイオンとパラジウムイオンとを含有する前処理用組成物では、パラジウムイオンを含有することにより、マンガンイオンのエッチング力が低下する。また、クロム酸と銀イオンを含有する前処理用組成物では、組成物中で不溶性の沈殿物であるクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成して、銀イオンが系外に排出されてしまい、触媒の付与が十分でない。
【0018】
これに対し、工程2で用いられる前処理用組成物は、マンガンイオンおよび1価の銀イオンを含有するので、樹脂材料の被処理面を前処理用組成物に接触させることで表面に銀を吸着させることができる。次いで、無機酸を含有する後処理液に浸漬することでマンガンの残渣が除去され、次いで、パラジウムイオンを含有する触媒液に浸漬することで銀とパラジウムの置換が起こる。次いで、当該被処理面を無電解めっき液に接触させることにより、被処理面にめっき皮膜を十分に形成することができ、且つ、密着性の良好なめっき皮膜を形成することができる。
【0019】
すなわち、本発明の無電解めっき方法によれば、有害なクロム酸を使用することなく、PC/ABS樹脂等のめっき皮膜を形成し難い樹脂成形体に対しても、高いめっきの析出性を示すことができ、密着性が高いめっき皮膜を形成することができる。
【0020】
本発明の無電解めっき方法において、被処理物となる樹脂材料を形成する樹脂については特に限定されず、従来からクロム酸-硫酸の混酸によってエッチング処理が行われている各種の樹脂材料を用いることができる。樹脂材料を形成する樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン-プロピレンゴム成分等に置き換わった樹脂(AES樹脂)等のスチレン系樹脂が挙げられる。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(例えば、PC樹脂の混合比率が30~70質量%程度のアロイ化樹脂)等も好適に使用できる。特に、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とのアロイ化樹脂(PC/ABS樹脂)、例えば、PC樹脂の混合比率が30~70質量%程度のアロイ化樹脂であるPC/ABS樹脂が好適に使用できる。更に、耐熱性、物性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリブチレンテレフタラート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミド樹脂等も用いることができる。本発明の無電解めっき方法は、これらのうち、特にめっき皮膜の形成が困難なPC/ABS樹脂であっても、高いめっきの析出性を示すことができ、密着性が高いめっき皮膜を形成することができる。
【0021】
樹脂材料の形状、大きさ等は特に限定されず、本発明の無電解めっき方法によれば、表面積の広い大型の樹脂材料に対しても、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成することができる。このような大型の樹脂材料としては、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドル等の自動車関連部品;電気・電子分野での外装品;水廻り等で使用されている水栓金具;パチンコ部品等の遊技機関係品等が挙げられる。
【0022】
(工程1)
工程1は、表面調整液に、樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。
【0023】
工程1において用いられる表面調整液は、エーテル結合を有する溶剤を含有する。本発明の無電解めっき方法は、工程1においてエーテル結合を有する溶剤を含有する表面調整液に、樹脂材料の被処理面を接触させることにより、樹脂成形体、特に、PC/ABS樹脂等のめっき皮膜を形成し難い樹脂成形体であっても、めっき皮膜を十分に形成することができる。
【0024】
エーテル結合を有する溶剤としては、分子内にエーテル結合を有しており、溶剤として用いることができれば特に限定されない。このようなエーテル結合を有する溶剤としては、例えば、グリコールエーテル系溶剤、環状エーテル系溶剤、芳香族環含有エーテル系溶剤等が挙げられる。
【0025】
グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME;別名1-メトキシ-2-プロパノール)、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシメチルブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0026】
環状エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0027】
芳香族環含有エーテル系溶剤としては、ジフェニルエーテル、アニソール(メチルフェニルエーテル)等が挙げられる。
【0028】
上記エーテル結合を有する溶剤の中でも、樹脂成形体に、よりめっき皮膜を十分に形成することができる点で、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレンカーボネートが好ましく、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレンカーボネートがより好ましい。
【0029】
上記エーテル結合を有する溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
表面調整液中のエーテル結合を有する溶剤の含有量は特に限定されない。上記含有量は、5g/L以上が好ましく、10g/L以上がより好ましく、50g/L以上が更に好ましく、100g/L以上が特に好ましい。また、上記含有量は、900g/L以下が好ましく、850g/L以下がより好ましく、500g/L以下が更に好ましく、300g/L以下が特に好ましい。上記溶剤の含有量の下限が上記範囲であることにより、樹脂成形体に、より密着性の高いめっき皮膜を十分に形成することができる。また、上記溶剤の含有量の上限が上記範囲であることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0031】
表面調整液は、上記溶剤が、水等の溶媒に溶解していることが好ましい。すなわち、表面調整液は、エーテル結合を有する溶剤が水に溶解している水溶液であることが好ましい。
【0032】
表面調整液は、上記エーテル結合を有する溶剤の他に、更に、他の添加剤を含有していてもよい。このような他の添加剤としては、界面活性剤等が挙げられる。
【0033】
表面調整液に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、樹脂材料を表面調整液に浸漬する方法、表面調整液を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を表面調整液に浸漬する方法が好ましい。
【0034】
工程1における表面調整液の温度は特に限定されず、20~100℃が好ましく、30~90℃がより好ましく、40~80℃が更に好ましい。表面調整液の温度の下限を上記範囲とすることにより、樹脂成形体に、密着性の高いめっき皮膜をより十分に形成することができる。また、表面調整液の温度の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0035】
工程1における表面調整液と樹脂材料の被処理面との接触時間は、10秒~60分が好ましく、30秒~30分がより好ましく、1~15分が更に好ましい。接触時間の下限を上記範囲とすることにより、樹脂成形体に、密着性の高いめっき皮膜をより十分に形成することができる。また、接触時間の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0036】
以上説明した工程1により、表面調整液に、樹脂材料の被処理面を接触させることができる。
【0037】
本発明の前処理方法は、樹脂材料の被処理面の汚れを除去するために、上記工程1の前に、脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理としては特に限定されず、無電解めっきの分野において行われる従来公知の方法により脱脂処理を行えばよい。
【0038】
(工程2)
工程2は、上記工程1の後に、前処理用組成物に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。
【0039】
工程2において用いられる前処理用組成物は、前記前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する。
【0040】
工程2で用いられる前処理用組成物が、特定量のマンガンイオン及び特定量の1価の銀イオンを含有するので、樹脂材料の被処理面に対して高いエッチング力を発揮することができ、銀触媒の付与が十分となる。
【0041】
例えば、マンガンイオンとパラジウムイオンとを含有する前処理用組成物では、パラジウムイオンを含有することにより、マンガンイオンのエッチング力が低下する。また、クロム酸と銀イオンを含有する前処理用組成物では、組成物中で不溶性の沈殿物であるクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成して、銀イオンが系外に排出されてしまい、触媒の付与が十分でない。
【0042】
これに対し、上記前処理用組成物は、マンガンイオンおよび1価の銀イオンを含有するので、樹脂材料の被処理面を接触させせることで表面に銀を吸着させることができる。次いで、無機酸を含有する後処理液に浸漬することでマンガンの残渣が除去され、次いで、パラジウムイオンを含有する触媒液に浸漬することで銀とパラジウムの置換が起こる。次いで、当該被処理面を無電解めっき液に接触させることにより、被処理面に密着性の良好なめっき皮膜を形成することができる。
【0043】
また、上記前処理用組成物は、マンガンイオンおよび1価の銀イオンを含有するので、樹脂基板の被処理面を接触させることで被処理面のエッチングと銀触媒付与とを同時に行なうことができる。
【0044】
(マンガンイオン)
マンガンイオンは、酸化力を有するものであれば特に限定されない。マンガンイオンのマンガンの価数は3以上が好ましく、4以上がより好ましく、7が更に好ましい。例えば、前処理用組成物に含まれるマンガンイオンは、3価のマンガンイオン、4価のマンガンイオン等の金属イオン単体のマンガンイオンの状態であってもよく、7価のマンガンのマンガンイオンである過マンガン酸イオン等のマンガンイオンの状態であってもよい。これらの中でも、よりエッチング力に優れる点で、4価のマンガンイオン、及び過マンガン酸イオンが好ましく、過マンガン酸イオンがより好ましい。また、2価のマンガンのマンガンイオンは酸化力を有しておらず、単独で使用しても樹脂材料の表面のエッチングは進行しないが、価数3以上のマンガンのマンガンイオンと併用して使用してもよい。
【0045】
マンガンイオンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前処理用組成物にマンガンイオンを付与するためのマンガン塩としては特に限定されず、硫酸マンガン(II)、リン酸マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、過マンガン酸ナトリウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)等が挙げられる。これらの中でも、よりエッチング力に優れたマンガンイオンを付与することができる点で、リン酸マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、過マンガン酸ナトリウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)が好ましく、過マンガン酸ナトリウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)がより好ましい。
【0047】
マンガン塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記前処理用組成物において、マンガンイオンの含有量は10mg/L以上である。マンガンイオンの含有量が10mg/L未満であると、樹脂材料を十分にエッチングできず、無電解めっきにより形成される皮膜の密着性が低下する。マンガンイオンの含有量は、10mg/L~100g/Lが好ましく、100mg/L~50g/Lがより好ましく、0.2g/L~30g/Lが更に好ましく、0.5g/L~15g/Lが特に好ましく、0.5g/L~10g/Lが最も好ましい。マンガンイオンの含有量の下限を上記範囲とすることにより、前処理用組成物のエッチング力がより一層向上する。また、マンガンイオンの含有量の上限を上記範囲とすることにより、前処理用組成物中の二酸化マンガンの沈殿の生成がより一層抑制され、浴安定性がより一層向上する。
【0049】
(銀イオン)
前処理用組成物が含有する銀イオンは、1価の銀イオンである。1価の銀イオンを付与するための銀塩としては、前処理用組成物中に溶解した際に浴中で安定した1価の銀イオンを付与することができ、銀塩を形成する対イオンがマンガンイオンに悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。具体的には硫酸銀(I)、硝酸銀(I)、酸化銀(I)が挙げられる。これらの中でも、溶解度が高く工業的に使用し易い点で、硝酸銀(I)が好ましい。また、スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂等のめっきが析出し難い樹脂により形成された樹脂材料に対してもより一層めっきの析出性が良好であり、且つ、めっき皮膜の密着性がより一層低下し難い点で、硫酸銀(I)が好ましい。
【0050】
銀塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前処理用組成物において、1価の銀イオンの含有量は10mg/L以上である。1価の銀イオンの含有量が10mg/L未満であると、無電解めっきが十分に析出できない。1価の銀イオンの含有量は、10mg/L~20g/Lが好ましく、50mg/L~15g/Lがより好ましく、100mg/L~10g/Lが更に好ましい。1価の銀イオンの含有量の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料の表面に十分な量の銀触媒が吸着して、無電解めっき皮膜がより一層十分に析出する。また、1価の銀イオンの含有量の上限が上記上限以上であっても悪影響を与えることはないが、上記上限とすることにより、銀塩の使用量を抑えることができ、コストを低減することができる。
【0052】
銀イオンとしては、また、金属銀を酸性マンガン浴中に添加して、溶解させて得られる1価銀を用いてもよい。酸性マンガン浴を形成するための酸としては特に限定されず、無機酸及び有機スルホン酸を使用することができる。
【0053】
無機酸としては硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、排水処理性により一層優れる点で、硫酸及びリン酸が好ましく、硫酸がより好ましい。
【0054】
有機スルホン酸としてはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ペンタンスルホン酸等の炭素数1~5の脂肪族スルホン酸;トルエンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、前処理用組成物の浴安定性が良好である点で、炭素数1~5の脂肪族スルホン酸が好ましい。
【0055】
上記酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
前処理用組成物中の酸濃度は特に限定されず、例えば、合計の酸濃度として100~1800g/Lが好ましく、800~1700g/Lがより好ましい。
【0057】
(他の成分)
前処理用組成物は、上記マンガンイオン及び上記銀イオンの他に、高分子化合物を含んでいてもよい。高分子化合物の種類としては特に限定的されず、めっき析出性を促進できる点で、カチオン性ポリマーを好適に用いることができる。高分子化合物の含有量は、0.01~100g/Lが好ましく、0.1~10g/Lがより好ましい。
【0058】
(溶媒)
前処理用組成物は、上記マンガンイオン、上記銀イオン、必要に応じて添加される他の成分が、溶媒に含有されることが好ましい。上記溶媒としては特に限定されず、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0059】
上記溶媒は、安全性に優れる点で、水が好ましく、即ち、本発明の前処理用組成物は、水溶液であることが好ましい。
【0060】
アルコールとしては特に限定されず、エタノール等の従来公知のアルコールを用いることができる。
【0061】
水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、アルコールの濃度は低いことが好ましく、具体的にはアルコール濃度が1~30質量%程度であることが好ましい。
【0062】
前処理用組成物は、酸性であることが好ましい。前処理用組成物が酸性であることにより、樹脂材料のエッチング処理がより一層十分となる。前処理用組成物のpHは、2以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0063】
前処理用組成物に樹脂材料の被処理面を接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、樹脂材料を前処理用組成物に浸漬する方法、前処理用組成物を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を前処理用組成物に浸漬する方法が好ましい。
【0064】
工程2における前処理用組成物の温度は特に限定されず、30~100℃が好ましく、40~90℃がより好ましく、50~80℃が更に好ましい。前処理用組成物の温度の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層十分となる。また、前処理用組成物の温度の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0065】
工程2における、前処理用組成物と樹脂材料の被処理面との接触時間は、3~60分が好ましく、5~50分がより好ましく、10~40分が更に好ましい。接触時間の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層十分となる。また、接触時間の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0066】
なお、従来技術であるクロム酸-硫酸混合液を用いた場合、浴中に1価の銀イオンを添加すると直ちにクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成するため銀が前処理用組成物中でイオンとして安定に存在できない。したがって、従来技術であるクロム酸-硫酸混合液を用いた場合は、本発明の無電解めっき方法における工程2のように銀イオンを含有する前処理用組成物を用いることが困難である。
【0067】
以上説明した工程2により、前処理用組成物に樹脂材料の被処理面が接触し、当該被処理面が処理される。
【0068】
(工程3)
工程3は、上記工程2の後に、無機酸を含有する後処理液に樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。無電解めっき方法が、工程2の後に、工程3を有することにより、樹脂材料の表面に付着したマンガンが除去される。
【0069】
無機酸については特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、マンガンの除去性に優れる点で、塩酸が好ましい。
【0070】
上記無機酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
後処理液中の無機酸の含有量は特に限定されず、1~1000g/Lが好ましく、5~750g/Lがより好ましく、10~500g/Lがより好ましい。
【0072】
後処理方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の後処理液中に、上記工程2により前処理された樹脂材料を1~10分程度浸漬すればよい。上記後処理により、形成されるめっき皮膜の析出性および外観をより一層向上させることができる。
【0073】
以上説明した工程3により、無機酸を含有する後処理液に樹脂材料の被処理面が接触する。
【0074】
(工程4)
工程4は、上記工程3の後に、触媒付与液に樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。工程4により、樹脂材料の表面に触媒を付与することができる。
【0075】
触媒付与液としては、一般に無電解めっきの触媒付与に用いられる公知の触媒付与液を用いることができる。このような触媒付与液としては、触媒金属含有化合物を含有する触媒付与液が挙げられる。
【0076】
触媒金属含有化合物としては、無電解めっきに用いられるものであれば特に限定されず、パラジウム化合物、白金化合物等が挙げられる。これらの中でも、樹脂材料に無電解めっき皮膜をより形成し易い点で、パラジウム化合物が好ましい。
【0077】
パラジウム化合物としては、水中で容易に解離してパラジウムイオンを放出し得るものが好ましく、塩化パラジウム(PdCl)、硫酸パラジウム(PdSO)等が挙げられる。
【0078】
触媒付与液中のパラジウムは、パラジウムイオンとして存在すること、すなわち、イオン状態であることが好ましく、その価数は+2であることがより好ましい。
【0079】
触媒付与液中のパラジウム化合物の含有量の下限値は、0.01mg/L以上が好ましく、0.1mg/L以上がより好ましく、1mg/L以上が更に好ましく、10mg/L以上が特に好ましい。また、パラジウム化合物の含有量の上限値は、2000mg/Lが好ましく、0.05~1500mg/Lがより好ましく、0.1~1000mg/L以下が好ましく、1500mg/L以下がより好ましく、1000mg/Lが更に好ましく、750mg/L以下が特に好ましい。
【0080】
触媒付与液は、スズ化合物を含んでいてもよい。スズ化合物としては、第一スズ化合物が好ましく、このような第一スズ化合物としては、水中で容易に解離して第一スズイオンを放出し得るものが挙げられる。上記第一スズ化合物としては、例えば、塩化第一スズ、硫酸第一スズ等を例示できる。
【0081】
本発明の無電解めっき方法では、工程4において、従来の触媒付与工程のようにパラジウム-スズコロイド溶液を使用することは必ずしも必要ではなく、触媒付与液は、スズ化合物を含まないことが好ましい。触媒付与液がスズ化合物を含まないことより、スズを除去するための活性化処理(アクセレーター処理)工程が省略可能となり、無電解めっきを行う際の工程を短縮することができる。また、パラジウムイオンが銀との置換反応により付与されることより、パラジウムースズコロイドのような金属状態のパラジウム触媒と比較して、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とを用いた2色成型品またはPC/ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とを用いた2色成型品においてポリカーボネート樹脂への触媒吸着が抑制されるため、これらの2色成型品への選択めっきに適している。また治具の表面への触媒吸着が抑制されて、治具の表面へのめっき皮膜の析出が抑制される。これにより、治具を繰り返し用いて無電解めっき皮膜を形成する際に、治具の表面に析出しためっき皮膜が粒状の形状で剥離して、各工程で樹脂材料表面の無電解めっき皮膜に取り込まれて生じる樹脂材料表面の無電解めっき皮膜の凹凸の発生が抑制される。上記観点から、触媒付与液は、触媒付与液が0.1mg/L以上のパラジウム化合物を含有し、スズ化合物を含有しない構成であることが好ましい。
【0082】
触媒付与液に樹脂材料の被処理面を接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、樹脂材料を触媒付与液に浸漬する方法、触媒付与液を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を触媒付与液に浸漬する方法が好ましい。
【0083】
工程4における触媒付与液の温度は特に限定されず、30~90℃が好ましく、40℃~80℃がより好ましく、50℃~70℃が更に好ましい。
【0084】
工程4における、触媒付与液と樹脂材料の被処理面との接触時間は特に限定されず、1~10分程度であればよい。
【0085】
以上説明した工程4により、触媒付与液に樹脂材料の被処理面が接触し、樹脂材料の被処理面に触媒が付与される。
【0086】
(工程5)
工程5は、上記工程4の後に、無電解めっき液に樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。
【0087】
上記樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に浸漬する方法が好ましい。
【0088】
無電解めっき液としては特に限定されず、従来公知の自己触媒型無電解めっき液を用いることができる。当該無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル-コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等が挙げられる。
【0089】
上記無電解ニッケルめっき液としては、硫酸ニッケル、又はその水和物等を含有するめっき液が挙げられる。また、上記無電解銅めっき液としては、硫酸銅、又はそのの水和物等を含有するめっき液が挙げられる。
【0090】
無電解めっき液は、めっきの析出性を向上させる観点から、還元剤を含有していてもよい。還元剤としては特に限定されず、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン、次亜リン酸塩、エリソルビン酸、アスコルビン酸、硫酸ヒドロキシルアミン、過酸化水素、グルコース等が挙げられる。これらの中でも、銀に対して触媒活性を示し、めっき析出性がより一層良好である点で、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジンが好ましい。
【0091】
上記還元剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0092】
無電解めっき液中の還元剤の含有量は特に限定的されず、0.01~100g/Lが好ましく、0.1~50g/Lがより好ましく、1~30g/Lが更に好ましく、5~20g/Lが特に好ましい。還元剤の含有量の下限を上記範囲とすることで、めっきの析出性がより一層向上し、還元剤の含有量の上限を上記範囲とすることで、無電解めっき浴の安定性がより一層向上する。
【0093】
無電解めっき液は、めっき液の析出性安定性を向上させる観点から、有機酸錯化剤を含有していてもよい。有機酸錯化剤としては特に限定されず、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、フマル酸、又はこれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、又はこれらの塩が好ましい。
【0094】
上記有機酸錯化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0095】
無電解めっき液中の有機酸錯化剤の濃度としては特に限定されず、0.1~500g/Lが好ましく、1~100g/L程度がより好ましく、2~50g/Lが更に好ましい。
【0096】
無電解めっき液は、めっきの析出性を向上させる観点から、アルカリ性化合物を含有していてもよい。アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0097】
上記アルカリ性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0098】
無電解めっき液中のアルカリ性化合物の濃度としては特に限定されず、1~50g/L程度が好ましく、5~15g/Lが更に好ましい。
【0099】
無電解めっき液は、めっきの析出性を向上させる観点から、錯化剤を含有していてもよい。
【0100】
錯化剤としては特に限定されず、無電解めっき液で用いられている公知の錯化剤を用いることができる。この様な錯化剤としては、エチレンジアミンジ酢酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0101】
上記錯化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0102】
無電解めっき液中の錯化剤の濃度としては特に限定されず、1~50g/L程度が好ましく、5~40g/Lがより好ましく、10~30g/Lが更に好ましい。
【0103】
樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させる条件としては特に限定されず、例えば、樹脂材料を無電解めっき液に浸漬する場合には、無電解めっき液の液温を20~70℃程度とし、浸漬時間を3~30分程度とすればよい。
【0104】
本発明の無電解めっき方法では、必要に応じて、工程5を2回以上繰り返して行ってもよい。工程5を2回以上繰り返すことで、無電解めっき皮膜が二層以上形成される。
【0105】
以上説明した工程5により、無電解めっき液に樹脂材料の被処理面が接触し、樹脂材料の被処理面に無電解めっきが形成される。
【0106】
本発明の無電解めっき方法では、工程5の後に、更に電気めっき工程を有していてもよい。
【0107】
電気めっき工程は、上記工程5の後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、電気めっき液に浸漬して、電気めっきを行えばよい。
【0108】
電気めっき液は特に限定されず、従来公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【0109】
電気めっき方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の活性化処理液中に、上記工程5により無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を電流密度0.1~10A/dm程度の条件で数秒~10分程度浸漬すればよい。
【実施例
【0110】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0111】
(無電解めっき皮膜の作製)
被めっき物である樹脂材料として、ABS樹脂(テクノUMG(株)製、商標名:ABS3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm2)、及び、PC/ABS樹脂(テクノUMG(株)製、商品名:TC25M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm2)を用意し、以下の方法で無電解めっき皮膜を形成した。
【0112】
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂材料を40℃で5分間浸漬し、水洗して試験片を調製した。
【0113】
次いで、表1に示す配合で、各実施例及び比較例で用いる表面調整液、前処理用組成物、後処理液、触媒付与液、及び、無電解めっき液を調製した。これらの液の調製は、溶媒としての水に、表1に示す配合で添加剤を添加して、撹拌することにより行った。
【0114】
上述のようにして調製した各液を用いて、下記条件により工程1から工程5まで順に、下記の条件により試験片に施して、無電解めっきを施した。なお、比較例1では工程1を施さず、比較例5では工程3を施さなかった。
【0115】
(工程1)
表面調整液への浸漬:浸漬温度55℃、浸漬時間3分
【0116】
(工程2)
前処理用組成物への浸漬:浸漬温度75℃、浸漬時間20分
【0117】
(工程3)
後処理液への浸漬:浸漬温度40℃、浸漬時間1分
【0118】
(工程4)
触媒付与液への浸漬:浸漬温度60℃、浸漬時間3分
【0119】
(工程5)
無電解めっき液への浸漬:浸漬温度35℃、浸漬時間5分
【0120】
上記方法により無電解めっき液を施した実施例及び比較例の樹脂材料を用いて、形成されためっき皮膜の被覆率及び密着性を下記の方法によって評価した。
【0121】
(1)被覆率
樹脂材料表面の無電解めっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率として評価した。樹脂材料表面の全面が被覆された場合を被覆率100%とした。
【0122】
(2)ピール強度測定
無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を硫酸銅めっき浴に浸漬し、電流密度3A/dm2、温度25℃の条件で電気めっき処理を120分間行い、銅めっき皮膜を形成し、試料を作製した。当該試料を、80℃で120分間乾燥させ、室温になるまで放置した。次いで、めっき皮膜に10mm幅の切り目を入れ、引っ張り試験器((株)島津製作所製、オートグラフAGS-J 1kN)を用いて、樹脂材料の表面に対して垂直方向にめっき皮膜を引っ張り、ピール強度を測定した。
【0123】
結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
なお、表1において、比較例4では、前処理用組成物を調製する際に、Ag(II)を溶解させるために、以下の方法により前処理用組成物を調製した。すなわち、Mn塩以外の添加剤を純水に溶解させた後、Pt電極を用いて1Ah/Lの条件で陽極電解を行い、Ag(II)を生成させた。次いで、Mn塩を所定の濃度添加した。
【要約】
【課題】本発明は、有害なクロム酸を使用することなく、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂成形体に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる無電解めっき方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)表面調整液に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、
(2)前記工程1の後に、前処理用組成物に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程2、
(3)前記工程2の後に、無機酸を含有する後処理液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程3、
(4)前記工程3の後に、触媒付与液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程4、及び
(5)前記工程4の後に、無電解めっき液に前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程5を有し、
前記表面調整液がエーテル結合を有する溶剤を含有し、
前記前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する、
ことを特徴とする無電解めっき方法。
【選択図】なし