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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】低包接率ポリロタキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/08 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
C08G65/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019551142
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039267
(87)【国際公開番号】W WO2019082869
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017205554
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝成
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/111353(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/081429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの製造方法であって、
(A)両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を準備する工程;及び
(B)前記直鎖状分子、環状分子、及び第1の塩基又は酸付加塩(前記直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には酸付加塩、前記直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には塩基付加塩)を混合する工程;
を有し、
前記環状分子がα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンからなるシクロデキストリン類から選ばれる少なくとも1種であり、
前記直鎖状分子がポリエチレングリコールであることにより、擬ポリロタキサンを形成する、上記方法。
【請求項2】
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンの製造方法であって、
(A)両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を準備する工程、
(B)前記直鎖状分子、環状分子、及び第1の塩基又は酸付加塩(前記直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には酸付加塩、前記直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には塩基付加塩)を混合する工程を有することにより、擬ポリロタキサンを形成する工程;
(C)得られた擬ポリロタキサン、及び封鎖基前駆体を混合する工程を有することにより、前記直鎖状分子の両末端に封鎖基を設ける工程;
を有し、
前記環状分子がα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンからなるシクロデキストリン類から選ばれる少なくとも1種であり、
前記直鎖状分子がポリエチレングリコールであることにより、ポリロタキサンを得る、上記方法。
【請求項3】
前記第1の塩基又は酸付加塩が、アダマンタンカルボン酸又はその酸誘導体の塩基付加塩、安息香酸又はその誘導体の塩基付加塩、アダマンタン酢酸又はその誘導体の塩基付加塩、アダマンタンアミン又はその誘導体の酸付加塩、アダマンチルエチレンジアミンの酸付加塩、トリチルアミンの酸付加塩、ジイソプロピルエチルアミンの酸付加塩、及びトリエチルアミンの酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記直鎖状分子が両末端に酸性官能基を有する請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記直鎖状分子が両末端に塩基性官能基を有する請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記工程(B)において、前記第1の塩基又は酸付加塩を、前記直鎖状分子の前記酸性官能基又は塩基性官能基の全モル当量に対して、2~50モル当量を混合する請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記工程(B)を水系溶媒で行う請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記工程(C)において、前記封鎖基前駆体が、第2の塩基又は酸付加塩である請求項~7のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状分子が直鎖状分子に包接される擬ポリロタキサンを製造する方法、及び擬ポリロタキサンの直鎖状分子の両末端に封鎖基を設けたポリロタキサンを製造する方法に関する。本発明は、特に、いわゆる包接率が低い擬ポリロタキサン又はポリロタキサンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリロタキサンは、軸分子に対して、環状分子が可動する特殊な構造で注目されており、研究・開発がなされている。
その製造方法についても、特許文献1での開示以降、さまざまなものが開示されている。その中で、直鎖状分子への環状分子の包接の度合い、即ち包接率に着目する製造方法もいくつかある。
【0003】
例えば、特許文献2は、包接工程において塩基性化合物を添加し、製造を安定化すること、具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)とα-シクロデキストリン(α-CD)との包接時間に関わらず、包接率が一定になる効果を開示する。
また、特許文献3は、修飾シクロデキストリンと数平均分子量が1500以上の直鎖状分子からなる修飾ポリロタキサンの製造方法であって、修飾シクロデキストリンの被覆率が80%以下である方法を開示する。なお、特許文献3における「被覆率」は、「包接率」と同義であるものと考えられる。
【0004】
さらに、特許文献4は、包接率が0.06~0.17であるポリロタキサンの製造方法を開示する。具体的には、直鎖状分子の分子量が1000~5000のPEG、環状分子はα-CDであり、末端封鎖工程にジメチルホルムアミド(DMF)とジメチルスルホキシド(DMSO)との体積比率が75:25~80:20である混合溶媒に溶解させることを特徴とする方法を開示する。
【0005】
しかしながら、包接率を制御した擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの製造方法は未だ確立されていない一方、包接率を制御することにより、従来とは異なる特性を備えた擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの開発が期待されている。
包接率は、ポリロタキサン同士の架橋体、ポリロタキサンと他の材料との架橋体の架橋の度合いに影響を及ぼすものと考えられている。したがって、例えば低い包接率を有するポリロタキサンを用いた架橋体は、架橋点が少なくなり、架橋体の特性に変化、特により柔軟性となるという変化をもたらすことが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3475252号公報。
【文献】WO2006/111353。
【文献】特開2010-159313号公報。
【文献】特許第5051491号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、直鎖状分子への環状分子の包接の度合い、即ち包接率を制御した擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、各条件下で制御された包接率を有する擬ポリロタキサン又はポリロタキサンを安定的に得ることができる製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、包接率が制御された擬ポリロタキサン及びポリロタキサンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、次の発明を見出した。
<1> 環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの製造方法であって、
(A)両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を準備する工程;及び
(B)前記直鎖状分子、環状分子、及び第1の塩基又は酸付加塩(前記直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には酸付加塩、前記直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には塩基付加塩)を混合する工程;
を有することにより、擬ポリロタキサンを形成する、上記方法。
【0009】
<2> 環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンの製造方法であって、
(A)両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を準備する工程、
(B)前記直鎖状分子、環状分子、及び第1の塩基又は酸付加塩(前記直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には酸付加塩、前記直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には塩基付加塩)を混合する工程を有することにより、擬ポリロタキサンを形成する工程;
(C)得られた擬ポリロタキサン、及び封鎖基前駆体を混合する工程を有することにより、前記直鎖状分子の両末端に封鎖基を設ける工程;
を有することにより、ポリロタキサンを得る、上記方法。
【0010】
<3> 上記<1>又は<2>において、第1の塩基付加塩の塩基成分が、トリエチルアミン、ピリジン、アンモニア、モルフォリン、t-ブチルアミン、エチレンジアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選択されるのがよい。
<4> 上記<1>又は<2>において、第1の酸付加塩の酸成分が、無機酸及び有機酸から選択されて得られ、該無機酸が、塩酸、臭化水素酸、よう化水素酸、硝酸、硫酸、及びリン酸から選択され、該有機酸が、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヒドロキシ酢酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、パモ酸、2-オキソプロピオン塩酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、桂皮酸、グリコール酸、ピルビン酸、オキシル酸、サリチル酸、N-アセチルシステイン、2-ブテン二酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びトルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酪酸、吉草酸、エナント酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、乳酸、ソルビン酸、マンデル酸から選択されるのがよい。
【0011】
<5> 上記<1>~<4>のいずれにおいて、第1の塩基又は酸付加塩が、アダマンタンカルボン酸又はその酸誘導体の塩基付加塩、安息香酸又はその誘導体の塩基付加塩、アダマンタン酢酸又はその誘導体の塩基付加塩、アダマンタンアミン又はその誘導体の酸付加塩、アダマンチルエチレンジアミンの酸付加塩、トリチルアミンの酸付加塩、ジイソプロピルエチルアミンの酸付加塩、及びトリエチルアミンの酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0012】
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、直鎖状分子が両末端に酸性官能基を有するのがよい。
<7> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、直鎖状分子が両末端に塩基性官能基を有するのがよい。
【0013】
<8> 上記<6>又は<7>の工程(B)において、第1の塩基又は酸付加塩を、直鎖状分子の酸性官能基又は塩基性官能基の全モル当量に対して、2~50モル当量、好ましくは5~40モル当量、より好ましくは10~20モル当量を混合するのがよい。
<9> 上記<1>~<8>のいずれかにおいて、工程(B)を水系溶媒で行うのがよい。
【0014】
<10> 上記<1>~<9>のいずれかの工程(C)において、封鎖基前駆体が、第2の塩基又は酸付加塩であるのがよい。該第2の塩基又は酸付加塩は、第1の塩基又は酸付加塩と同じであっても異なってもよい。
<11> 上記<1>~<10>のいずれかにおいて、環状分子が、シクロデキストリン類から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、直鎖状分子への環状分子の包接の度合い、即ち包接率を制御した擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの製造方法を提供することができる。
また、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、各条件下で制御された包接率を有する擬ポリロタキサン又はポリロタキサンを安定的に得ることができる製造方法を提供することができる。
さらに、本発明により、包接率が制御された擬ポリロタキサン及びポリロタキサンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1~実施例4に関して、「カルボン酸基に対する塩酸塩のモル当量」を横軸に、「包接率」を縦軸にしたグラフである。
図2】実施例4-3で得られたポリロタキサンP-4cのH-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願は、包接率を制御した擬ポリロタキサン又はポリロタキサンの製造方法を提供する。以下、本願の発明について詳細に説明する。
<擬ポリロタキサンの製造方法>
本願は、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの製造方法を提供する。
該方法は、
(A)両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を準備する工程;及び
(B)前記直鎖状分子、環状分子、及び第1の塩基又は酸付加塩(前記直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には酸付加塩、前記直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には塩基付加塩)を混合する工程;
を有することにより、擬ポリロタキサンを形成する。
【0018】
<<工程(A)>>
工程(A)は、両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を準備する工程である。
(直鎖状分子)
直鎖状分子は、用いる環状分子の開口部に串刺し状に包接され得るものであれば、特に限定されない。
例えば、直鎖状分子として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよい。例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれるのがよい。特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0019】
直鎖状分子は、その重量平均分子量が1,000以上、好ましくは3,000~100,000、より好ましくは6,000~50,000であるのがよい。
【0020】
また、直鎖状分子の両末端に設けられる酸性官能基又は塩基性官能基は、用いる直鎖状分子、用いる環状分子、用いる第1の塩基又は酸付加塩などに依存するが、安定であり、用いる環状分子の開口部を貫通できる構造であれば、特に限定されない。
例えば、酸性官能基として、カルボン酸基、スルフォン酸基、リン酸基などを挙げることができるが、これらに限定されない。酸性官能基として、カルボン酸基が好ましい。
また、塩基性官能基として、第一級アミン基、第二級アミン残基、第三級アミン残基、アニリン残基、ピリジン残基などを挙げることができるが、これらに限定されない。塩基性官能基として、第一級アミン基が好ましい。
【0021】
両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子が市販されている場合、該市販品を購入することによって、工程(A)の「準備」を行ってもよい。
両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子を「調製」することにより、工程(A)の「準備」を行ってもよい。
【0022】
「調製」する場合、用いる直鎖状分子、酸性又は塩基性官能基とすべき物質などに依存するが、例えば次のように調製することができる。
即ち、直鎖状分子の末端にある基を酸性又は塩基性官能基に変換する方法により調製することができる。具体的には、直鎖状分子の末端に存在する水酸基を既存の酸化剤により酸化し、カルボン酸基に変換することにより調製することができる。
また、直鎖状分子の末端にある基を酸性官能基残基又は塩基性官能基残基を有する化合物と反応させ、該酸性官能基又は塩基性官能基を遊離させる方法によっても調製することができる。具体的には、直鎖状分子の末端に存在する水酸基を酸無水物化合物と反応させ、遊離したカルボン酸基を末端に付与することにより調製することができる。
【0023】
<<工程(B)>>
工程(B)は、上記工程(A)で準備した直鎖状分子、環状分子、及び第1の塩基又は酸付加塩を混合する工程である。
ここで、直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には酸付加塩を用いるのがよく、直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には塩基付加塩を用いるのがよい。
【0024】
(環状分子)
環状分子は、用いる直鎖状分子、特に両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子、第1の塩基付加塩又は酸付加塩などに依存するが、環状であり、開口部を有し、直鎖状分子によって串刺し状に包接されるものであれば、特に限定されない。
環状分子は、所望とする擬ポリロタキサン、所望とするポリロタキサン、及びそれらを有する材料などの特性に依存するが、種々の官能基を有してもよい。
種々の官能基として、例えば、1)メトキシ基、エトキシ基、アセチル基、ブチルカルバモイル基のような疎水性修飾基;2)-OH、-NH、-COOH、及び-SH;からなる群から選ばれる基、3)アクリル基、メタクリル基、スチリル基、ビニル基、ビニリデン基、無水マレイン酸含有官能基の重合性基;からなる群から選ばれる基;などを挙げることができるがこれらに限定されない。
なお、種々の官能基は、環状分子の環状骨格に直接結合していても、スペーサ基を介して環状骨格と結合していてもよい。該スペーサ基として、アルキレン基、アリレン基、グラフト鎖、モノマーの重合体を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0025】
環状分子として、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンからなるシクロデキストリン類から選択されるのがよい。
【0026】
(第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩)
第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩は、用いる直鎖状分子、特に両末端に酸性又は塩基性官能基を有する直鎖状分子、用いる環状分子などに依存するが、後述する包接率の制御能を有する付加塩であれば特に限定されない。
なお、工程(B)において、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接される状態が形成される。完全なる理論によるものではないが、この工程(B)において、第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩は、直鎖状分子の両末端に存在する酸性又は塩基性官能基と弱い結合、例えば弱いイオン結合が形成され、該結合によって直鎖状分子の両末端近辺に第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩が存在することとなるものと考えられる。また、第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩が直鎖状分子の両末端近辺に存在すると、環状分子が直鎖状分子に包接される機会が阻害されることにより、包接率を制御することができるものと考えられる。
【0027】
したがって、直鎖状分子の両末端に存在する酸性又は塩基性官能基と第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩との組合せによって、包接率を制御することができる。
直鎖状分子が酸性官能基を有する場合には、第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩として第1の酸付加塩を、直鎖状分子が塩基性官能基を有する場合には、第1の塩基付加塩又は第1の酸付加塩として第1の塩基付加塩を用いるのがよい。
【0028】
第1の塩基付加塩の塩基成分として、例えばトリエチルアミン、ピリジン、アンモニア、モルフォリン、t-ブチルアミン、エチレンジアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0029】
第1の酸付加塩の酸成分として、無機酸及び有機酸から選択されて得られるものを挙げることができる。
該無機酸として、塩酸、臭化水素酸、よう化水素酸、硝酸、硫酸、及びリン酸などを挙げることができるがこれらに限定されない。
また、該有機酸として、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヒドロキシ酢酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、パモ酸、2-オキソプロピオン塩酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、桂皮酸、グリコール酸、ピルビン酸、オキシル酸、サリチル酸、N-アセチルシステイン、2-ブテン二酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びトルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酪酸、吉草酸、エナント酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、乳酸、ソルビン酸、マンデル酸などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0030】
第1の塩基又は酸付加塩として、例えば、アダマンタンカルボン酸又はその酸誘導体の塩基付加塩、安息香酸又はその誘導体の塩基付加塩、アダマンタン酢酸又はその誘導体の塩基付加塩、アダマンタンアミン又はその誘導体の酸付加塩、アダマンチルエチレンジアミンの酸付加塩、トリチルアミンの酸付加塩、ジイソプロピルエチルアミンの酸付加塩、及びトリエチルアミンの酸付加塩などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0031】
より具体的には、直鎖状分子の末端官能基がカルボン酸基のような酸性基の場合、アミン付加塩を使用できる。例えば、アルキルアミン塩酸塩、アリールアミン塩酸塩、アダマンタンアミン又はその誘導体の塩酸塩、アダマンチルエチレンジアミンの塩酸塩、トリチルアミンの塩酸塩、ジイソプロピルエチルアミンの塩酸塩、トリエチルアミンの塩酸塩、アニリン又はその誘導体の塩酸塩のような一級アミンの酸付加塩;ジアルキルアミン塩酸塩のような第二級アミン酸付加塩;トリエチルアミン塩酸塩、ジイソプロピルエチルアミン塩酸塩のような三級アミン付加塩;ピペリジン又はその誘導体の塩酸塩;モルフォリン又はその誘導体の塩酸塩;上記アミンのスルフォン酸塩;上記アミンのリン酸塩、などが挙げられる。
【0032】
また、直鎖状分子の末端官能基がアミン基のような塩基性基の場合、カルボン酸付加塩を使用できる。例えば、アダマンタンカルボン酸又はその酸誘導体のナトリウム塩、安息香酸又はその誘導体のナトリウム塩、アダマンタン酢酸又はその誘導体のナトリウム塩、上記カルボン酸化合物のカリウム塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アンモニウム塩、モルフォリン塩、t-ブチルアミン塩、エチレンジアミン塩などが挙げられる。
【0033】
工程(B)において、第1の塩基又は酸付加塩を、直鎖状分子の酸性官能基又は塩基性官能基の全モル当量に対して、2~50モル当量、好ましくは5~40モル当量、より好ましくは10~20モル当量を混合するのがよい。
なお、直鎖状分子の酸性官能基又は塩基性官能基の全モル当量は、酸塩基滴定の測定によって決定することができる。
【0034】
また、工程(B)において、直鎖状分子と環状分子との重量比は、1.0:1.0~1.0:5.0、好ましくは1.0:1.0~1.0:3.5、より好ましくは1.0:1.0~1.0:3.0であるのがよい。
【0035】
工程(B)は、溶媒を用いて行うのがよい。
溶媒として、上述の直鎖状分子及び環状分子を溶解できる溶媒又は分散できる溶媒を用いるのがよい。
溶媒の例として、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド及びこれらの溶媒の混合物が挙げられる。
特に水系溶媒を用いて行うのが好ましい。
水系溶媒とは、水のみからなる溶媒、及び水及び水と可溶な溶媒の混合溶媒をいう。ここで、水と可溶な溶媒として、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
工程(B)によって得られた擬ポリロタキサンを既存の方法で乾燥し溶媒を除去してもよく、溶媒を含んだ状態であってもよい。例えば溶媒を含んだ状態で、その後に、後述のポリロタキサンの製造を行ってもよい。
【0036】
上記工程(A)、及び工程(B)により、擬ポリロタキサン、特に包接率が制御された擬ポリロタキサンを得ることができる。
【0037】
<ポリロタキサンの製造方法>
本願は、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンの製造方法を提供する。
該方法は、
上記工程(A);
上記工程(B);及び
(C)上記工程(B)で得られた擬ポリロタキサン、及び封鎖基前駆体を混合する工程を有することにより、前記直鎖状分子の両末端に封鎖基を設ける工程;
を有することにより、ポリロタキサンを得る。
工程(A)及び工程(B)については上述したとおりであるので説明を省略する。
【0038】
<<工程(C)>>
工程(C)は、上記工程(B)で得られた擬ポリロタキサン、及び封鎖基前駆体を混合する工程を有することにより、前記直鎖状分子の両末端に封鎖基を設ける工程である。
(封鎖基前駆体)
封鎖基前駆体は、それを用いることにより封鎖基を形成し、直鎖状分子の両末端に配置することにより、擬ポリロタキサンから環状分子が脱離しないようにする作用を備えれば、特に限定されない。
【0039】
封鎖基として、例えば、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はシクロデキストリン類であるのがよい。
【0040】
封鎖基前駆体として、上述の封鎖基を形成しうる化合物であれば特に限定されない。
なお、封鎖基前駆体は、第1の塩基又は酸付加塩と同じであっても異なってもよい第2の塩基又は酸付加塩であってもよい。なお、第2の塩基又は酸付加塩は、第1の塩基又は酸付加塩として説明したものから選択することができる。
例えば、工程(B)で用いた第1の塩基又は酸付加塩が直鎖状分子の末端に配置される官能基の量に対して十分な量で存在し、且つ該第1の塩基又は酸付加塩が封鎖基前駆体としての作用を有する場合、該第1の塩基又は酸付加塩を工程(C)において封鎖基前駆体である第2の塩基又は酸付加塩として用いてもよい。
また、工程(B)で用いた第1の塩基又は酸付加塩が封鎖基前駆体としての作用がない場合、工程(C)において、別途、封鎖基前駆体を用いてもよい。
【0041】
上記工程(A)、工程(B)、及び工程(C)により、ポリロタキサン、特に包接率が制御されたポリロタキサンを得ることができる。
なお、擬ポリロタキサンの製造方法にあっては、工程(A)前、工程(A)と工程(B)との間、及び/又は工程(B)後に、さらなる工程を設けてもよい。
また、ポリロタキサンの製造方法にあっては、工程(A)前、工程(A)と工程(B)との間、工程(B)と工程(C)との間、及び/又は工程(C)後に、さらなる工程を設けてもよい。
例えば、さらなる工程として、溶媒を除去する乾燥工程、不純物を除去する精製工程などを挙げることができるがこれに限定されない。溶媒を除去する方法として、乾燥機による加熱乾燥、ロータリーエバポレーターによる乾燥、凍結乾燥、スプレイ(噴霧)乾燥、ドラム乾燥、混合溶媒の共沸点を利用する乾燥などが挙げられる。精製方法として、水洗、温水洗浄、再沈殿法、分離膜による精製、分液などが挙げられる。
【0042】
本願の方法により、擬ポリロタキサン、特に包接率が制御された擬ポリロタキサン、ポリロタキサン、特に包接率が制御されたポリロタキサンを得ることができる。
ここで、「包接率」は次のように求めることができる。
「包接率」は、擬ポリロタキサン又はポリロタキサンにおいて、環状分子(α-CD)が最密度で配置された場合の個数に対して、実際に配置された環状分子(α-CD)の割合を示す値である。ここで、環状分子(α-CD)の最密度(最大包接量)は、直鎖状分子の長さと環状分子の厚みにより決定される。
直鎖状分子がポリエチレングリコール(PEG)の場合、Macromolecules 1993, 26, 5698-5703に記載された方法で求められる。即ち、ポリエチレングリコールの-(O-CH-CH-の繰返し単位2個分がα-CDの分子厚みに相当する。例えば、数平均分子量35000のPEGの場合、α-CDの最大包接量は35000/88=398個となり、数平均分子量35000のPEGに398個のα-CDが包接される場合、包接率が100%となる。
「包接率」、特に「α-CDの包接率」は、上記のα-CDの最大包接量の場合のPEGのHを基準に、H-NMRからα-CD由来のHとPEGのHの積分値の比から求められる。
【0043】
本願の方法により得られた擬ポリロタキサン、特に包接率が制御された擬ポリロタキサン、ポリロタキサン、特に包接率が制御されたポリロタキサンは、それを有する材料、それを有して形成される架橋体、該架橋体を有する材料又は製品などに応用することができる。
例えば、応用として、粘着剤・接着剤、耐キズ性膜、防振・制振・免振材料、吸音・防音材料、塗料、コーティング剤、シール材、インク添加物・バインダー、電気絶縁材料、電気・電子部品材料、光学材料、摩擦制御剤、化粧品材料、ゴム添加剤、樹脂改質・強靭化剤、レオロジー制御剤、増粘剤、繊維、医療用生体材料、機械・自動車材料、建築材料、衣料・スポーツ用品などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【実施例
【0044】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
(合成例1)末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量2.0万)の合成
PEG(重量平均分子量2.0万)10g、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル)100mg、及び臭化ナトリウム1gを水100mlに溶解した。得られた溶液に市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度約5%)5mlを添加し、室温で攪拌しながら反応させた。反応が進行すると添加直後から系のpHは急激に減少するが、なるべくpH:10~11を保つように1N NaOHを添加して調製した。pHの低下は概ね3分以内に見られなくなったが、さらに10分間攪拌した。エタノールを5ml添加して反応を終了させた。塩化メチレン50mlでの抽出を3回繰返して無機塩以外の成分を抽出した後、エバポレータで塩化メチレンを留去した。温エタノール250mlに溶解させた後、-4℃の冷凍庫に一晩おいてPEG-カルボン酸、即ちPEGの両末端をカルボン酸(-COOH)に置換したもの、を析出させた。析出したPEG-カルボン酸を遠心分離で回収した。この温エタノール溶解-析出-遠心分離のサイクルを数回繰り返し、最後に真空乾燥で乾燥させてPEG-カルボン酸を得た。収率95%以上。カルボキシル化率99%。
【0045】
(実施例1-1)
α-シクロデキストリン(3.5g)に脱イオン水(10g)を加え、70℃で撹拌して溶解させた後、室温まで放冷した。この溶液を、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量Mw:2.0万)(1g)、アダマンタンアミン塩酸塩(93.9mg)を脱イオン水(11g)に溶解させた溶液に加えた後、室温下で30分間撹拌した。その後、5~10℃の冷蔵庫内で15時間静置した。得られたゲル状白色固形物を凍結乾燥して擬ポリロタキサンS-1を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩の当量は5.0モル当量であった。
【0046】
(実施例1-2)
実施例1-1で得られた擬ポリロタキサンS-1(1g)をサンプル管に入れ、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウム クロライド n水和物(DMT-MM)(120.5mg)、4-メチルモルホリン(44mg)、DMF(5ml)を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物にDMSOを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンP-1(0.465g)を得た。
【0047】
(実施例2-1)
実施例1-1において、アダマンタンアミン塩酸塩の量を93.9mgから187.7mgに代えた以外、実施例1-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-2を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩の当量は10モル当量であった。
【0048】
(実施例2-2)
実施例1-2において、擬ポリロタキサンS-1の代わりに擬ポリロタキサンS-2を用いた以外、実施例1-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-2(0.396g)を得た。
【0049】
(実施例3-1)
実施例1-1において、アダマンタンアミン塩酸塩の量を93.9mgから375.4mgに代えた以外、実施例1-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-3を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩の当量は20モル当量であった。
【0050】
(実施例3-2)
実施例1-2において、擬ポリロタキサンS-1の代わりに擬ポリロタキサンS-3を用いた以外、実施例1-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-3a(0.230g)を得た。
【0051】
(実施例3-3)
実施例3-2において、DMSO(5ml)の代わりにアセトニトリル(5ml)を用いた以外、実施例3-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-3b(0.436g)を得た。
【0052】
(実施例4-1)
実施例1-1において、アダマンタンアミン塩酸塩の量を93.9mgから750.8mgに代えた以外、実施例1-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-4を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩の当量は40モル当量であった。
【0053】
(実施例4-2)
実施例1-2において、擬ポリロタキサンS-1の代わりに擬ポリロタキサンS-4を用い且つDMSO(5ml)の代わりにアセトニトリル(5ml)を用いた以外、実施例1-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-4b(0.315g)を得た。
【0054】
(実施例4-3)
実施例4-2において、アセトニトリル(5ml)の代わりにヘキサン(15g)及びイソプロピルアルコール(5g)からなる混合溶媒を用い、且つ脱イオン水を用いた沈殿精製の代わりに減圧により溶媒を除去した後にDMSOを溶解するまで加えて透析した以外、実施例4-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-4c(0.368g)を得た。
【0055】
(実施例5-1)
実施例1-1において、アダマンタンアミン塩酸塩(93.9mg)の代わりにトリエチルアミン塩酸塩(137.7mg)を用いた以外、実施例1-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-5を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、トリエチルアミン塩酸塩の当量は20モル当量であった。
【0056】
(実施例5-2)
実施例5-1で得られた擬ポリロタキサンS-5(1g)をサンプル管に入れ、アダマンタンアミン塩酸塩(31.6mg)、DMT-MM(115.8mg)、4-メチルモルホリン(42.4mg)、アセトニトリル(5ml)を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物にジメチルスルホキシドを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンP-5(0.422g)を得た。
【0057】
(比較例1-1)
実施例1-1において、アダマンタンアミン塩酸塩(93.9mg)を用いない以外、実施例1-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンCS-1を得た。
(比較例1-2)
比較例1-1で得られた擬ポリロタキサンCS-1(1g)をサンプル管に入れ、アダマンタンアミン塩酸塩(25mg)、DMT-MM(73.8mg)、4-メチルモルホリン(45mg)、ジメチルホルムアミド(5ml)を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物にジメチルスルホキシドを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンCP-1(0.758g)を得た。
【0058】
(合成例2)末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量1.1万)の合成
合成例1のPEG(重量平均分子量2.0万)10gの代わりにPEG(重量平均分子量1.1万)10gを使用した以外、合成例1と同様の方法により、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量1.1万)を合成した。
【0059】
(実施例6-1)
実施例1-1において、合成例1で得られた末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量Mw:2.0万)の代わりに、合成例2で得られた末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量Mw:1.1万)を用い、アダマンタンアミン塩酸塩の量を93.5mgから170mgに代えた以外、実施例1-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-6を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩が5.0モル当量であった。
【0060】
(実施例6-2)
実施例6-1で得られた擬ポリロタキサンS-6(1g)をサンプル管に入れ、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウム クロライド n水和物(DMT-MM)(120.5mg)、4-メチルモルホリン(44mg)、ヘキサン(15g)及びイソプロピルアルコール(5g)からなる混合溶媒を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物をロータリーエバポレーターで溶媒除去した。得られた固形物にDMSOを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水を加えて透析精製を行い、凍結乾燥した固体を塩化メチレンでさらに洗浄し、ポリロタキサンP-6(0.030g)を得た。
【0061】
(実施例7-1)
実施例6-1において、アダマンタンアミン塩酸塩の量を170mgから680mgに代えた以外、実施例6-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-7を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩が20モル当量であった。
【0062】
(実施例7-2)
実施例6-2において、擬ポリロタキサンS-6の代わりに擬ポリロタキサンS-7を用いた以外、実施例6-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-7(0.021g)を得た。
【0063】
(実施例8-2)
実施例6-2において、ヘキサン(15g)及びイソプロピルアルコール(5g)からなる混合溶媒の代わりにアセトニトリル(5ml)を用いた以外、実施例6-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-8(0.354g)を得た。
【0064】
(実施例9-2)
実施例6-2において、擬ポリロタキサンS-6の代わりに擬ポリロタキサンS-7を、ヘキサン(15g)及びイソプロピルアルコール(5g)からなる混合溶媒の代わりにアセトニトリル(5ml)を用いた以外、実施例6-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-9(0.235g)を得た。
【0065】
(比較例2-1)
実施例6-1において、アダマンタンアミン塩酸塩(93.9mg)を用いない以外、実施例6-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンCS-2を得た。
(比較例2-2)
比較例2-1で得られた擬ポリロタキサンCS-2(1g)をサンプル管に入れ、アダマンタンアミン塩酸塩(25mg)、DMT-MM(73.8mg)、4-メチルモルホリン(45mg)、アセトニトリル(5ml)を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物にジメチルスルホキシドを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンCP-2(0.488g)を得た。
【0066】
(合成例3)末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量6.0千)の合成
合成例1のPEG(重量平均分子量2.0万)10gの代わりにPEG(重量平均分子量6.0千)10gを使用した以外、合成例1と同様の方法により、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量6.0千)を合成した。
【0067】
(実施例10-1)
α-シクロデキストリン(3.5g)に脱イオン水(10g)を加え、70℃で撹拌して溶解させた後、室温まで放冷した。この溶液を、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコール(重量平均分子量Mw:6000)(1g)、アダマンタンアミン塩酸塩(156.4mg)を脱イオン水(11g)に溶解させた溶液に加えた後、室温下で30分間撹拌した。その後、5~10℃の冷蔵庫内で15時間静置した。得られたゲル状白色固形物を凍結乾燥して擬ポリロタキサンS-10を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩が2.5モル当量であった
【0068】
(実施例10-2)
実施例10-1で得られた擬ポリロタキサンS-10(1g)をサンプル管に入れ、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウム クロライド n水和物(DMT-MM)(120.5mg)、4-メチルモルホリン(44mg)、ヘキサン(15g)及びイソプロピルアルコール(5g)からなる混合溶媒を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物をロータリーエバポレーターで溶媒除去した。得られた固形物にDMSOを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水を加えて透析精製を行い、凍結乾燥した固体を塩化メチレンでさらに洗浄し、ポリロタキサンP-10(0.038g)を得た。
【0069】
(実施例11-1)
実施例10-1において、アダマンタンアミン塩酸塩の量を156.4mgから312.8mgに代えた以外、実施例10-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンS-11を得た。
なお、末端カルボン酸変性ポリエチレングリコールのカルボン酸基の全モル当量に対して、アダマンタンアミン塩酸塩が5モル当量であった。
【0070】
(実施例11-2)
実施例10-2において、擬ポリロタキサンS-10の代わりに擬ポリロタキサンS-11を用いた以外、実施例10-2と同様な方法により、ポリロタキサンP-11(0.038g)を得た。
【0071】
(比較例3-1)
実施例10-1において、アダマンタンアミン塩酸塩(156.4mg)を用いない以外、実施例10-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンCS-3を得た。
【0072】
(比較例3-2)
比較例3-1で得られた擬ポリロタキサンCS-3(1g)をサンプル管に入れ、アダマンタンアミン塩酸塩(25mg)、DMT-MM(73.8mg)、4-メチルモルホリン(45mg)、ヘキサン(15g)及びイソプロピルアルコール(5g)からなる混合溶媒を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物をロータリーエバポレーターで溶媒除去した。得られた固形物にジメチルスルホキシドを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンCP-3(0.137g)を得た。
【0073】
(実施例12-1)
1-アダマンタンカルボン酸(東京化成、2g)に脱イオン水(20g)を加え、室温下で撹拌して溶解させた後、水酸化ナトリウム(和光純薬、444mg)を加えて更に1時間撹拌した。得られた溶液を減圧乾燥してアダマンタンカルボン酸ナトリウム塩(2.4g)を得た。
【0074】
(実施例12-2)
α-シクロデキストリン(0.7g)に脱イオン水(2g)を加え、70℃で撹拌して溶解させた後、室温まで放冷した。この溶液を、末端アミン変性ポリエチレングリコール(Aldrich製、重量平均分子量Mw:2.0万)(0.2g)、アダマンタンカルボン酸ナトリウム塩(40.7mg)を脱イオン水(2.22g)に溶解させた溶液に加えた後、室温下で30分間撹拌した。その後、5~10℃の冷蔵庫内で15時間静置した。得られたゲル状白色固形物を凍結乾燥して擬ポリロタキサンS-12を得た。
なお、末端アミン変性ポリエチレングリコールのアミン基の全モル当量に対して、アダマンタンカルボン酸ナトリウム塩が10モル当量であった。
【0075】
(実施例12-3)
実施例12-2で得られた擬ポリロタキサンS-12(0.5g)をサンプル管に入れ、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウム クロライド n水和物(DMT-MM)(58.8mg)、アセトニトリル(2.3ml)を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物にDMSOを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンP-12(53.3mg)を得た。
【0076】
(比較例4-1)
実施例12-1において、アダマンタンカルボン酸ナトリウム塩(40.7mg)を用いない以外、実施例12-1と同様な方法により、擬ポリロタキサンCS-4を得た。
(比較例4-2)
比較例4-1で得られた擬ポリロタキサンCS-4(0.5g)をサンプル管に入れ、アダマンタンカルボン酸(11.3mg)、DMT-MM(61.5mg)、4-メチルモルホリン(22.5mg)、アセトニトリル(5ml)を加えて室温下で24時間撹拌した。得られた半固体状物にジメチルスルホキシドを完全に溶解するまで加えた後、脱イオン水で沈殿精製を行った。得られた沈殿物を凍結乾燥してポリロタキサンCP-4(0.211g)を得た。
【0077】
上記実施例及び比較例で得られたポリロタキサンP-1~P-12及びCP-1~CP-4のH-NMR測定から包接率を求めた。その結果を表1~表4に示す。
包接率は、上述したとおり、H-NMR、具体的にはDMSO-dに溶解し、80℃で測定を行い、4.0から5.5ppmの積分値(α-シクロデキストリンの水酸基のH及びα-シクロデキストリンのC1のH)を24としたときの3.2から3.9ppmの積分値(エチレンオキシドのCH2及びα-シクロデキストリンの水酸基及びC1以外のH)を求めることにより測定した。具体的な例として、実施例4-3で得られたポリロタキサンP-4cのH-NMRスペクトルを図2に示す。図2中の4.0から5.5ppmの積分値を24としたとき、3.2から3.9ppmの積分値は75.8であって、これらの値と上述の包接率の定義により、包接率は(8×100)/(121.50-36)=9.4であると算出した。
【0078】
なお、表1~表4には、「カルボン酸基に対する酸付加塩のmol数」、「酸付加塩」又は「塩基付加塩」の種類、「工程(C)で用いた溶媒」(表中は、「工程(C)の溶媒」で示す)、「ポリロタキサンの分子量Mw」(Mw:重量平均分子量)についても示す。ここで、重量平均分子量は、GPC(東ソー社製HLC-8220GPC、TSK guard column Super AW-H、条件:DMSO/0.01M LiBr溶離液、50℃のカラムオーブン、0.5ml/minの流速)により測定した。
また、表1における「カルボン酸基に対する酸付加塩のmol数」を横軸に、「包接率」を縦軸にしたグラフを図1に示す。
【0079】
表1~表4から次のことがわかる。即ち、本願の発明の酸付加塩又は塩基付加塩を用いて包接工程を行って得られたポリロタキサンの包接率は、該酸付加塩又は塩基付加塩を用いないで包接工程を行って得られたポリロタキサンの包接率よりも低くなることがわかる。
具体的には、表1から、本願の発明の酸付加塩を用いないで包接工程を行った場合(比較例1-2)、包接率が30.9%であるのに対して、本願の発明の酸付加塩を用いて包接工程を行った場合(実施例1-2~実施例5-2)、包接率が9.4~24.7%と、低い包接率となることがわかる。
また、図1から明らかなように、酸付加塩の量を変化させることにより、包接率を変化・制御可能であることがわかる。さらに、同一条件下において、添加量につれて得られたポリロタキサンの包接率が低くなる傾向を有することがわかる。
【0080】
表2から、本願の発明の酸付加塩を用いないで包接工程を行った場合(比較例2-2)、包接率が31.1%であるのに対して、本願の発明の酸付加塩を用いて包接工程を行った場合(実施例6-2~実施例9-2)、包接率が9.06~19.9%と、低い包接率となることがわかる。また、添加量の傾向も表1と同様に、添加量につれて得られたポリロタキサンの包接率が低くなる傾向を有することがわかる。
【0081】
表3から、本願の発明の酸付加塩を用いないで包接工程を行った場合(比較例3-2)、包接率が18.7%であるのに対して、本願の発明の酸付加塩を用いて包接工程を行った場合(実施例10-2~実施例11-2)、包接率が12.8~15.0%と、低い包接率となることがわかる。また、添加量の傾向も表1と同様に、添加量につれて得られたポリロタキサンの包接率が低くなる傾向を有することがわかる。
【0082】
表4から、本願の発明の塩基付加塩を用いないで包接工程を行った場合(比較例4-2)、包接率が33.1%であるのに対して、本願の発明の塩基付加塩を用いて包接工程を行った場合(実施例12-3)、包接率が25.4%と、低い包接率となることがわかった。
したがって、本願の発明の酸付加塩又は塩基付加塩を用いる包接工程を有する製造方法により、包接率が低く制御されたポリロタキサン又は擬ポリロタキサンを提供でき、該包接率が低く制御されたポリロタキサンを用いる架橋体は、従来の相対的に高い包接率のポリロタキサンを用いた架橋体とは異なる特性を提供できる。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
図1
図2