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特許7138906セラミックス焼結体、ガラス成形品及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】セラミックス焼結体、ガラス成形品及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/16 20060101AFI20220912BHJP
   C04B 35/653 20060101ALI20220912BHJP
   C04B 41/80 20060101ALI20220912BHJP
   C03B 11/00 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
C04B35/16
C04B35/653
C04B41/80 A
C03B11/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018027803
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019142738
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 圭弘
(72)【発明者】
【氏名】福原 実
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-030384(JP,A)
【文献】特開昭58-009827(JP,A)
【文献】特開昭63-123818(JP,A)
【文献】特開2015-224166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/16
C04B 35/653
C04B 41/80
C03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の表面にガラス層及び酸化鉄層が形成されたセラミックス焼結体であって、
前記ガラス層の表面に前記酸化鉄層が形成されており、
前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0.05~0.2である。]
で表されるアルミニウム置換α-酸化鉄からなり、
前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するセラミックス焼結体。
【請求項2】
セラミックス基材の表面にガラス層酸化鉄層及び複合体層が形成されたセラミックス焼結体であって、
前記ガラス層の表面に前記酸化鉄層が形成され、前記酸化鉄層の表面に前記複合体層が形成されており、
前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、
前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行であり、
前記複合体層がガラスマトリックス中に上記式(1)で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなる板状体を含有し、
前記板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、かつ前記板状体におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するセラミックス焼結体。
【請求項3】
前記複合体層の厚みが10~500nmである、請求項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記ガラス層及び前記ガラスマトリックスがアルカリケイ酸塩ガラスからなるものである、請求項2又は3に記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記ガラス層の厚みが1~1000μmであり、かつ前記酸化鉄層の厚みが10~500nmである、請求項1~4のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のセラミックス焼結体からなる陶磁器。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のセラミックス焼結体からなる建材。
【請求項8】
セラミックス基材の表面にガラス層及び酸化鉄層が形成された セラミックス焼結体の製造方法であって、
アルカリ金属元素を含むガス雰囲気中で、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するセラミックス基材を1100℃以上に加熱することにより、該セラミックス基材の表面に鉄イオンとアルカリ金属イオンを含有する溶融ガラス層を形成させる第1工程、
還元雰囲気中で、前記ガラス層が形成された前記セラミックス基材を1100℃以上で熱処理することにより、前記ガラス層中の鉄イオンを還元させる第2工程、及び
酸化雰囲気中で、前記セラミックス基材を800~1000℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる第3工程を有し、
前記ガラス層の表面に前記酸化鉄層が形成されており、
前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe 2-x Al (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、
前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項9】
ガラス基材の表面に酸化鉄層が形成されたガラス成形品であって、
前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0.05~0.2である。]
で表されるアルミニウム置換α-酸化鉄からなり、
前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するガラス成形品。
【請求項10】
ガラス基材の表面に酸化鉄層及び複合体層が形成されたガラス成形品であって、
前記酸化鉄層の表面に前記複合体層が形成されており、
前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、
前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行であり、
前記複合体層がガラスマトリックス中に上記式(1)で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなる板状体を含有し、
前記板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、かつ前記板状体におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するガラス成形品。
【請求項11】
ガラス基材の表面に酸化鉄層が形成された ガラス成形品の製造方法であって、
鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するガラス原料を1100℃以上に加熱することにより、溶融ガラスを形成させる第1工程、
還元雰囲気中で、前記溶融ガラスを1100℃以上で熱処理することにより、前記溶融ガラス中の鉄イオンを還元させる第2工程、及び
酸化雰囲気中で、前記溶融ガラスを800~1100℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる第3工程を有し、
前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe 2-x Al (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、
前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するガラス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢を有するセラミックス焼結体及びガラス成形品、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
備前焼は日本の代表的な陶磁器の一つとして広く知られている。備前焼の特徴として、釉薬を使用しないことが挙げられる。備前焼の模様は、窯で焼成する際に成形品を載置する位置を変えたり、稲わらや灰を用いたりすることにより変化する。これらの特性を利用して様々な模様の焼物が作製されている。なかでも、黄金色の金属光沢を有する模様は「金彩」と呼ばれ、意匠性が高く珍重されている。このような「金彩」が現れるのは稀であり、当該模様を得るための正確な条件は不明であった。
【0003】
一方、釉薬を用いて「金彩」を付す方法(例えば、特許文献1)が知られている。しかしながら、金、銀、パラジウム等を含む高価な釉薬が必要であるため、コスト高になることが避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-119772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、金属光沢を有する意匠性に優れたセラミックス焼結体及びガラス成形品を提供することを目的とする。また、このようなセラミックス焼結体及びガラス成形品の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、セラミックス基材の表面にガラス層及び酸化鉄層が形成されたセラミックス焼結体であって、前記ガラス層の表面に前記酸化鉄層が形成されており、前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するセラミックス焼結体を提供することによって解決される。
【0007】
このとき、前記ガラス層の厚みが1~1000μmであり、かつ前記酸化鉄層の厚みが10~500nmであることが好ましい。xが0.05以上であることも好ましい。
【0008】
前記酸化鉄層の表面にさらに複合体層が形成されており、前記複合体層がガラスマトリックス中に上記式(1)で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなる板状体を含有し、前記板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、かつ前記板状体におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行であることも好ましい。このとき、前記複合体層の厚みが10~500nmであることがより好ましい。
【0009】
このとき、前記ガラス層及び前記ガラスマトリックスがアルカリケイ酸塩ガラスからなるものであることも好ましい。
【0010】
前記セラミックス焼結体からなる陶磁器及び建材が前記セラミックス焼結体の好適な実施態様である。
【0011】
前記セラミックス焼結体の製造方法であって、アルカリ金属元素を含むガス雰囲気中で、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するセラミックス基材を1100℃以上に加熱することにより、該セラミックス基材の表面に鉄イオンとアルカリ金属イオンを含有する溶融ガラス層を形成させる第1工程、還元雰囲気中で、前記ガラス層が形成された前記セラミックス基材を1100℃以上で熱処理することにより、前記ガラス層中の鉄イオンを還元させる第2工程、及び酸化雰囲気中で、前記セラミックス基材を800~1000℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる第3工程を有する、前記セラミックス焼結体の製造方法も前記セラミックス焼結体の好適な実施態様である。
【0012】
上記課題は、ガラス基材の表面に酸化鉄層が形成されたガラス成形品であって、前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するガラス成形品を提供することによっても解決される。
【0013】
前記ガラス成形品の製造方法であって、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するガラス原料を1100℃以上に加熱することにより、溶融ガラスを形成させる第1工程、還元雰囲気中で、前記溶融ガラスを1100℃以上で熱処理することにより、前記溶融ガラス中の鉄イオンを還元させる第2工程、及び酸化雰囲気中で、前記溶融ガラスを800~1100℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる第3工程を有する、ガラス成形品の製造方法が前記ガラス成形品の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセラミックス焼結体及びガラス成形品は、金属光沢、特に黄金色の金属光沢を有し、意匠性に優れるため、様々な用途に好適に用いられる。また、本発明の製造方法によれば、このようなセラミックス焼結体及びガラス成形品を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1及び比較例1における、セラミックス焼結体の外観写真である。
図2】実施例1及び比較例1における、セラミックス焼結体断面の電子顕微鏡写真及び元素マップ、並びに酸化鉄層の電子回折パターンである。
図3図2における電子顕微鏡写真gを拡大したものを示す。
図4】参考例1の備前焼における、断面の電子顕微鏡写真及び元素マップ、並びに複合体層の電子回折パターンである。
図5】実施例1のセラミックス焼結体における、酸化鉄層と複合体層とを含む部分と、参考例1の備前焼における、複合体層を含む部分の透過電子顕微鏡画像及び電子回折パターンである。
図6】実施例1のセラミックス焼結体における、酸化鉄層と複合体層とを含む部分の透過電子顕微鏡画像、並びに酸化鉄層及び複合体層の電子回折パターンである。
図7】実施例5における、熱処理前と熱処理後のセラミックス焼結体の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のセラミックス焼結体は、セラミックス基材の表面にガラス層及び酸化鉄層が形成されたものであって、前記ガラス層の表面に前記酸化鉄層が形成されており、前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するセラミックス焼結体である。
【0017】
このようなセラミックス焼結体は、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するセラミックス基材を所定の条件で焼結する方法等により得ることができる。前記セラミックス基材を所定の条件で焼結することによって、当該基材の表面にガラス層が形成され、当該ガラス層の表面に酸化鉄層が形成される。
【0018】
本発明のセラミックス焼結体におけるセラミックス基材は、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有することが好ましい。鉄元素の含有量が0.2質量%未満の場合、前記酸化鉄層が十分に形成されず、金属光沢が得られないおそれがある。鉄元素の含有量は0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。一方、鉄元素の含有量が5質量%を超える場合、セラミックス焼結体が赤みを帯びて外観が不良になるおそれがある。鉄元素の含有量は4質量%以下がより好ましい。前記セラミックス基材において、鉄元素は、Fe、Fe、FeO、Fe、FeOOH等として含有される。
【0019】
前記セラミックス基材に含まれる、鉄元素以外の元素としては、ケイ素元素、アルミニウム元素、カリウム元素、ナトリウム元素、チタン元素、カルシウム元素、マグネシウム元素等が挙げられる。これらの元素は酸化物として含まれていることが好ましい。なかでも、前記セラミックス基材がケイ素元素を主成分として含有することが好ましい。ここで、主成分とは、前記セラミックス基材中に最も多く含まれる成分を意味する。また、前記セラミックス基材がアルミニウム元素を含有することも好ましい。前記セラミックス基材中のケイ素元素の含有量はSiO換算で40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。一方、ケイ素元素の含有量は、通常、95質量%以下であり、85質量%以下が好ましい。前記セラミックス基材中のアルミニウム元素の含有量は、通常、Al換算で40質量%未満であり、25質量%以下が好ましい。一方、前記セラミックス基材中のアルミニウム元素の含有量は12質量%以上が好ましい。前記セラミックス基材に鉄元素、ケイ素元素及びアルミニウム元素以外の元素が含有される場合、それらの含有量は用途に合わせて適宜調整すればよいが、通常、カリウム元素の含有量はKO換算で4.0質量%以下であり、ナトリウム元素の含有量はNaO換算で4.0質量%以下であり、チタン元素の含有量はTiO換算で2.0質量%以下であり、カルシウム元素の含有量はCaO換算で2.0質量%以下であり、マグネシウム元素の含有量はMgO換算で2.0質量%以下である。
【0020】
前記セラミックス焼結体における前記セラミックス基材の形状は用途に応じて決定すればよく、特に限定されない。
【0021】
前記セラミックス焼結体において、セラミックス基材の表面には前記ガラス層が形成される。前記ガラス層は、前記セラミックス基材の表面の少なくとも一部に形成されていればよい。表面の一部をマスキングしてセラミックス基材の焼結を行った場合、マスキングされた部分には前記ガラス層及び前記酸化鉄層が形成されず、金属光沢が現れない。このようにマスキングを利用することにより、様々なデザインのセラミックス焼結体が得られる。
【0022】
前記ガラス層を形成するガラスの種類は特に限定されないが、前記ガラス層がアルカリケイ酸塩ガラスからなるものであることが好ましい。また、前記アルカリケイ酸塩ガラスがアルミニウム元素を含有することがより好ましい。アルカリケイ酸塩ガラスからなるガラス層は、後述するセラミックス焼結体の製造方法により、簡便に形成することができる。
【0023】
前記ガラス層の厚みは1~1000μmであることが好ましい。当該厚みが1μm未満の場合、金属光沢が得られず、セラミックス焼結体の外観が不良になるおそれがある。前記厚みは、3μm以上がより好ましい。一方、当該厚みが1000μmを超える場合、当該ガラス層の形成に長時間を要するため生産性が低下するおそれがある。当該厚みは、500μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。
【0024】
前記セラミックス焼結体において、前記ガラス層の表面には前記酸化鉄層が形成される。当該酸化鉄層は下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄を主成分として含有する。前記酸化鉄層が前記α-酸化鉄の結晶の隙間にガラス相を含んでいてもよい。
【0025】
前記式(1)中、xは0~0.2である。xがこのような範囲であることにより、良好な金属光沢が得られる。意匠性が極めて高い黄金色の金属光沢が得られる点からは、xが0.01以上であり、前記酸化鉄層がアルミニウム置換α-酸化鉄を主成分として含有することが好ましい。このとき、xが0.05以上であることがより好ましい。
【0026】
そして、前記セラミックス焼結体において、前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である。すなわち、前記酸化鉄層の厚み方向とα-酸化鉄のc軸とが直交する。α-酸化鉄のc軸の方向は電子回折測定により求めることができる。
【0027】
前記酸化鉄層の厚みは、本発明の効果が阻害されない範囲であれば特に限定されないが、10~500nmが好ましい。当該厚みが10nm未満の場合、金属光沢が得られないおそれがある。当該厚みは、20nm以上がより好ましい。一方、当該厚みが500nmを超える場合、セラミックス焼結体が赤みを帯びて外観が不良になるおそれがある。当該厚みは、300nm以下がより好ましい。
【0028】
本発明のセラミックス焼結体においては、このような酸化鉄層が前記ガラス層の表面に形成されることによって金属光沢が得られる。従来から、備前焼において、釉薬を用いることなく、稀に黄金色の金属光沢を有する「金彩」が現れる場合があることが知られていた。このような「金彩」は、これまで燃料の炭素が焼物の表面に付着して形成された薄膜の干渉色によるものであると考えられていた。しかしながら、このような機構が正しいかどうか確認されていなかったうえに、「金彩」が現れる正確な条件も不明であった。そこで、本発明者らは、備前焼に現れる「金彩」について分析した結果、「金彩」を有する備前焼の表面には、ガラス層とガラスマトリックス中にアルミニウム置換α-酸化鉄からなる板状体を有する複合体層が形成されていることを確認した。そして、備前焼に現れる「金彩」は、アルミニウム置換α-酸化鉄の黄金色と前記ガラス層の表面からの光の反射によるものであることが明らかになった。
【0029】
本発明者らは、備前焼に現れる「金彩」を再現すべくさらに検討を重ねたところ、後述する所定の熱処理を行うことにより、セラミックス基材の表面に、前記ガラス層と前記酸化鉄層とが形成されるとともに、このようなセラミックス焼結体は良好な金属光沢を有することを見出した。さらに驚くべきことには、作家によって作成された備前焼は、板状体を形成するα-酸化鉄のc軸はセラミックス基材の表面に対して直交するのに対して、本発明のセラミックス焼結体では、α-酸化鉄のc軸はセラミックス基材の表面に対して平行であり、この点で両者は異なるものであることが分かった。
【0030】
前記セラミックス焼結体において、前記酸化鉄層の表面にさらに複合体層が形成されており、前記複合体層がガラスマトリックス中に上記式(1)で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなる板状体を含有し、前記板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、かつ前記板状体におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行であることが好ましい。このような複合体層が形成されることにより、前記セラミックス焼結体の外観がさらに良好となる。
【0031】
前記複合体層において、前記ガラスマトリックス中には、上記式(1)で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなる板状体が含有される。そして、当該板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、かつ前記板状体におけるα-酸化鉄のc軸が前記セラミックス基材の表面に対して平行である。上記のとおり、ガラスマトリックス中にα-酸化鉄からなる板状体を有する複合体層は、作家によって作成された備前焼にも存在するが、このような備前焼では、板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、当該板状体におけるα-酸化鉄のc軸はセラミックス基材に対して直交する。このように、前記備前焼と本発明のセラミックス焼結体とは、板状体の厚み方向や当該板状体におけるα-酸化鉄のc軸の方向が異なる。板状体の厚み方向は電子顕微鏡観察により確認することができる。
【0032】
前記複合体中のガラスマトリックスを形成するガラスの種類は、通常、前記ガラス層を形成するガラスと同じである。
【0033】
前記複合体層の厚みが10~500nmであることが好ましい。前記厚みは300nm以下であることがより好ましい。なお、前記複合体層全域に渡って前記板状体が均一に存在する必要はなく、部分的に欠落していても構わない。
【0034】
前記セラミックス焼結体のCIE1976L色空間における明度指数Lが50~70であり、クロマティクネス指数aが0.5~10であり、かつクロマティクネス指数bが10~30であることが好ましい。明度指数L、並びにクロマティクネス指数a及びbが上記範囲であるセラミックス焼結体は意匠性に極めて優れている。各指数は、分光測色計を用いて前記酸化鉄層が形成された部分を測定することにより求められる。
【0035】
本発明のセラミックス焼結体の製造方法は特に限定されないが、アルカリ金属元素を含むガス雰囲気中で、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するセラミックス基材を1100℃以上に加熱することにより、該セラミックス基材の表面に鉄イオンとアルカリ金属イオンを含有する溶融ガラス層を形成させる第1工程、還元雰囲気中で、前記ガラス層が形成された前記セラミックス基材を1100℃以上で熱処理することにより、前記ガラス層中の鉄イオンを還元させる第2工程、及び酸化雰囲気中で、800~1000℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる第3工程を有する方法により得ることが好ましい。
【0036】
第1工程において、セラミックス基材を加熱することにより、該セラミックス基材の表面に鉄イオンとアルカリ金属イオンを含有する溶融ガラス層を形成させる。第1工程に供されるセラミックス基材は、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有する必要がある。このようなセラミックス基材に対して第1~3工程を行うことにより、前記酸化鉄層が形成される。第1工程に供されるセラミックス基材に含有される鉄元素以外の元素としては、前記セラミックス焼結体中のセラミックス基材に含有されるものと同様のものが挙げられる。
【0037】
前記セラミックス基材の製造に用いられるセラミックス原料粉末として、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有する無機粉末が用いられる。例えば、陶磁器の製造に一般的に用いられる天然の粘土やそれを精製して得られる粉末であって、鉄元素の含有量が上記範囲であるものが挙げられる。このような粉末は低コストであり好ましい。また、粘土以外の無機粉末を適宜混合したものを用いることもできる。セラミックス原料粉末に含有される鉄元素以外の元素としては、前記セラミックス焼結体中のセラミックス基材に含有されるものと同様のものが挙げられる。
【0038】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、セラミックス原料粉末に対して各種添加剤を添加しても構わない。これらの添加剤の含有量は、通常、セラミックス原料粉末100質量部に対して、50質量部以下であり、10質量部以下が好ましい。
【0039】
前記セラミックス原料粉末に必要に応じて添加剤を加えた後、当該粉末を所定の形状に成形することにより未焼結のセラミックス基材を得る。このときの粉末の成形方法としては、粉末をプレス成形する方法や粉末に水を適量添加して練った後に成形する方法等が挙げられる。予め、アルカリ金属元素を含まないガスの雰囲気中で焼結したものを原料のセラミックス基材として用いることもできる。例えば、備前焼を原料のセラミックス基材とすることもできる。
【0040】
こうして得られた未焼結のセラミックス基材をアルカリ金属元素を含むガス雰囲気中で1100℃以上に加熱することにより、該セラミックス基材の表面に鉄イオンとアルカリ金属イオンとを含有する溶融ガラス層を形成させる。アルカリ金属元素を含むガス雰囲気中で前記セラミックス基材を加熱することにより、当該基材の表面近傍にアルカリ金属元素が拡散することにより、ガラス転移点の低い溶融ガラス層が容易に形成されるものと考えられる。前記アルカリ金属元素としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられ、なかでも、カリウム及びナトリウムが好ましく、カリウムがより好ましい。
【0041】
アルカリ金属元素を含むガスを生成させる方法としては、セラミックス基材とともに、アルカリ金属塩を加熱する方法が挙げられ、具体的には、セラミックス基材の加熱に用いる炉の中に、アルカリ金属塩を配置する方法が挙げられる。セラミックス基材とともにアルカリ金属塩が加熱されることにより、アルカリ金属がセラミックス基材の周囲のガス中に含有され、それがセラミックス基材の表面から拡散浸透する。前記アルカリ金属塩としては、アルカリ金属の炭酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩等が挙げられ、中でも、アルカリ金属の炭酸塩が好ましい。第1工程におけるセラミックス基材の加熱は大気中で行ってもよいし、後述する第2工程と同様の還元雰囲気下で行ってもよいが、操作が簡便である点から前者が好ましい。
【0042】
第1工程において、セラミックス基材を1100℃以上に加熱する。加熱温度が1100℃未満の場合、溶融ガラス層が十分に形成されないおそれがある。加熱温度は、1150℃以上が好ましい。一方、加熱温度は、通常、1300℃以下である。第1工程における、セラミックス基材の加熱方法としては、0.1~10℃/分にてセラミックス基材を室温から1100℃以上に昇温させる方法等が挙げられる。
【0043】
第2工程において、溶融ガラス層が形成された前記セラミックス基材を、還元雰囲気中で1100℃以上に熱処理することにより、前記ガラス層中の鉄イオンを還元させる。具体的には、Fe3+を、Fe2+又はFeに還元させる。このようにFe3+を一旦還元させることにより、その後の第3工程において、前記酸化鉄層が形成される。還元雰囲気中で前記セラミックス基材を加熱する方法としては、一酸化炭素を含む混合ガス中で前記基材を加熱する方法等が挙げられる。このときの混合ガス中の一酸化炭素の含有量は特に限定されないが、5体積%以上が好ましい。
【0044】
第2工程における、前記セラミックス基材の処理温度は1100℃以上である。当該処理温度が1100℃未満の場合、ガラス中のFe3+が十分に還元されないおそれがある。一方、当該処理温度は、通常、1400℃以下であり、1300℃以下が好適である。前記セラミックス基材の処理時間は特に限定されないが、通常、0.5時間以上である。処理時間が0.5時間未満の場合、Fe3+が十分に還元されないおそれがある。一方、前記処理時間は、通常24時間以下である。
【0045】
第3工程において、酸化雰囲気中で、前記セラミックス基材を800~1000℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる。これにより、第2工程で一旦還元されたFe2+及びFeが再度酸化されて、溶融ガラスマトリックス中で、α-酸化鉄の結晶が析出し、前記酸化鉄層及び前記複合体層が形成されるものと考えられる。酸化雰囲気中で、前記セラミックス基材を熱処理する方法としては、大気中で前記基材を熱処理する方法等が挙げられる。大気中の酸素によって前記基材が酸化されることにより、前記酸化鉄層及び前記複合体層が形成される。
【0046】
第3工程における、前記セラミックス基材の処理温度は800~1000℃である。当該処理温度が800℃未満の場合、前記酸化層が十分に形成されないおそれがある。当該処理温度は、820℃以上が好ましく、870℃以上がより好ましい。一方、当該処理温度が1000℃を超える場合、形成されるα-酸化鉄の量が増えすぎることにより、得られるセラミックス焼結体が赤みを帯びて外観が不良になるおそれがある。前記処理温度は、980℃以下が好ましく、930℃以下がより好ましい。前記セラミックス基材の処理時間は特に限定されないが、0.1~4時間が好ましい。処理時間が0.1時間未満の場合、前記酸化層が十分に形成されないおそれがある。前記処理時間は、0.5時間以上がより好ましい。一方、前記処理時間が、4時間を超える場合、形成されるα-酸化鉄の量が増えすぎることにより、得られるセラミックス焼結体が赤みを帯びて外観が不良になるおそれがある。前記処理時間は、3時間以下がより好ましい。
【0047】
こうして得られるセラミックス焼結体は、金属光沢、特に黄金色の金属光沢を有していることから意匠性に優れる。しかも、このようなセラミックス焼結体は、高価な釉薬を使用することなく、簡便に製造することができる。したがって、当該セラミックス焼結体は、食器、美術工芸品、衛生陶器等の陶磁器、タイル等の建材等として好適に用いられる。前記セラミックス焼結体からなる陶磁器及び建材が本発明の好適な実施態様である。
【0048】
本発明のガラス成形品は、ガラス基材の表面に酸化鉄層が形成されたガラス成形品であって、前記酸化鉄層が下記式(1)
α-Fe2-xAl (1)
[式中、xは0~0.2である。]
で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなり、前記酸化鉄層におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行である、金属光沢を有するガラス成形品である。前記セラミックス焼結体と同様に当該ガラス成形品においても、前記ガラス基材の表面に前記酸化鉄層が形成されることによって、金属光沢が得られる。
【0049】
前記ガラス基材を形成するガラスが鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有することが好ましい。また、前記ガラス基材中のアルミニウム元素の含有量は、通常、Al換算で0~25質量%であり、0.1~25質量%が好ましい。前記ガラス基材を形成するガラスの種類は特に限定されないが、アルカリケイ酸塩ガラス及び鉛ガラスが好ましい。
【0050】
前記ガラス成形品における前記ガラス基材の形状は用途に応じて決定すればよく、特に限定されない。
【0051】
前記ガラス成形品において、前記ガラス基材の表面には、前記セラミックス焼結体において形成されるものと同様の酸化鉄層が形成される。前記酸化鉄層は、前記ガラス基材の表面の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0052】
前記ガラス成形品において、前記酸化鉄層の表面にさらに複合体層が形成されており、前記複合体層がガラスマトリックス中に上記式(1)で表されるアルミニウムで置換されていてもよいα-酸化鉄からなる板状体を含有し、前記板状体の厚み方向がα-酸化鉄のc軸であり、かつ前記板状体におけるα-酸化鉄のc軸が前記ガラス基材の表面に対して平行であることが好ましい。当該複合体層は、前記セラミックス焼結体に形成される複合体層と同様のものである。
【0053】
本発明のガラス成形品の製造方法は特に限定されないが、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有するガラス原料を1100℃以上に加熱することにより、溶融ガラスを形成させる第1工程、還元雰囲気中で、前記溶融ガラスを1100℃以上で熱処理することにより、前記溶融ガラス中の鉄イオンを還元させる第2工程、及び酸化雰囲気中で、前記溶融ガラスを800~1100℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる第3工程を有する方法により得ることが好ましい。
【0054】
第1工程において、ガラス原料を加熱することにより溶融ガラスを形成させる。第1工程に供されるガラス原料は、鉄元素をFe換算で0.2~5質量%含有する必要がある。このようなガラス原料に対して第1~3工程を行うことにより、前記酸化鉄層が形成される。また、前記ガラス原料中のアルミニウム元素の含有量は、通常、Al換算で0~25質量%であり、0.1~25質量%が好ましい。鉄元素はFe、Fe、FeO、Fe等として、アルミニウム元素はAl等としてガラス原料に含有される。前記ガラス原料に含有させる鉄元素及びアルミニウム元素以外の元素は、ガラス基材の種類に合わせて選択すればよい。ガラス原料として無機粉末を適宜混合したものを用いてもよいし、鉄元素を含有するガラスを用いてもよい。
【0055】
前記ガラス原料を1100℃以上に加熱することにより、溶融ガラスを形成させる。第1工程における、ガラス原料の加熱方法としては、0.1~10℃/分にてガラス原料を室温から1100℃以上に昇温させる方法等が挙げられる。
【0056】
第2工程において、前記溶融ガラスを還元雰囲気中で1100℃以上で熱処理することにより、前記溶融ガラス中の鉄イオン、特に表面近傍の鉄イオンを還元させる。当該工程は、上述した前記セラミックス焼結体の製造方法における第2工程と同様にして行うことができる。
【0057】
第3工程において、酸化雰囲気中で、前記溶融ガラスを800~1100℃で熱処理することにより前記酸化鉄層を形成させる。当該処理温度が800℃未満の場合、前記酸化層が十分に形成されないおそれがある。当該処理温度は、900℃以上が好ましい。一方、当該処理温度が1100℃を超える場合、形成されるα-酸化鉄の量が増えすぎることにより、得られるガラス成形品が赤みを帯びて外観が不良になるおそれがある。前記処理温度は、1050℃以下が好ましい。処理温度が異なること以外は、当該工程は、上述した前記セラミックス焼結体の製造方法における第3工程と同様にして行うことができる。
【0058】
こうして得られるガラス成形品も、金属光沢、特に黄金色の金属光沢を有していることから意匠性に優れるうえに、簡便に製造することができる。したがって、当該ガラス成形品は、食器、美術工芸品、タイル等の建材等として好適に用いられる。
【実施例
【0059】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0060】
実施例1
鉄元素をFe換算で2.77質量%、ケイ素元素をSiO換算で63.5質量%、アルミニウム元素をAl換算で21.6質量%、カリウム元素をKO換算で2.1質量%、チタン元素をTiO換算で0.7質量%、マグネシウム元素をMgO換算で0.7質量%含む粘土を乳鉢にて粉砕・混合した後、篩を用いて分級して、粒子径が100μm以下の粉を得た。これを加圧成形して直径20mm、厚み2mmの円盤形状の未焼結のセラミックス基材を得た。アルミナルツボ内に磁性ルツボを伏せてセットし、磁性ルツボの上に前記基材を載置した。磁性ルツボの周囲に0.03gの炭酸カリウム(KCO)の粉を配置した後、このアルミナルツボを電気炉中にセットして大気中で、毎分2.5℃の速度で1230℃まで昇温した(第1工程)。
【0061】
1230℃に到達したところで、アルゴン/一酸化炭素=90/10(vol%)の混合ガスで電気炉内を置換し、その後前記混合ガスの導入を継続しながら、1230℃にて6時間保持した(第2工程)。その後、引き続き混合ガスを導入しながら、毎分1.5℃の速度で900℃までアルミナルツボを冷却した。900℃に到達したところで、混合ガスの導入を中止して、大気を導入し、アルミナルツボを900℃にて2時間保持した(第3工程)。その後は電気炉の電源を切り室温まで冷却した。
【0062】
[外観観察]
得られたセラミックス焼結体の外観写真を図1(b)に示す。当該セラミックス焼結体は黄金色の金属光沢を有しており、外観が極めて良好であった。
【0063】
[電子顕微鏡観察、元素マッピング及び電子回折測定]
日本電子株式会社製電子顕微鏡「JEM-2800」を用いて得られたセラミックス焼結体断面の電子顕微鏡観察、元素マッピング及び電子回折測定を行った。図2の下段に、得られたセラミックス焼結体断面の電子顕微鏡写真(g)、当該断面の元素マップ(h:Fe、i:Al、j:Si、k:K、l:Fe+Al+Si)を示す。図3に、図2の電子顕微鏡写真gを拡大したものを示す。電子顕微鏡観察の結果から、基材の表面にガラス層1(厚み5μm)が形成され、ガラス層1の表面に酸化鉄層2(厚み100nm)が形成され、さらに酸化鉄層2の表面に複合体層3(厚み100nm)が形成されていることが確認された。そして、元素マップの結果から、ガラス層1の部分は、Si、Al、K等の元素が含まれていることが確認された。この結果から、ガラス層1はアルミニウム元素を含むアルカリケイ酸塩ガラスからなるものであると考えられる。図2及び3の電子顕微鏡写真g中の電子回折パターンは、酸化鉄層2の電子回折測定を行って得られたものである。当該電子回折パターン及び元素マッピングによる組成分析の結果から、酸化鉄層2は、下記式で示されるアルミニウム置換α-酸化鉄からなるものであることが確認された。さらに、電子回折測定の結果から、酸化鉄層2におけるα-酸化鉄のc軸がセラミックス基材に対して平行である(前記c軸が酸化鉄層2の厚み方向に対して直交する)ことが確認された。
α-Fe1.87Al0.13
【0064】
得られたセラミックス焼結体表面の透過電子顕微鏡観察及び電子回折測定を行った。セラミックス焼結体表面をそのまま測定した場合、複合体層3中のガラスマトリックスが存在することにより、複合体層3中の板状体4や酸化鉄層2の電子回折測定を行うことができなかった。したがって、47%のフッ化水素水溶液を用いてセラミックス焼結体からガラスマトリックスを除去した後、四塩化炭素が入ったサンプル管内にセラミックス焼結体を入れた。超音波により結晶を四塩化炭素中に分散させてから、当該四塩化炭素をマイクログリッドに滴下した。得られた酸化鉄層2と複合体層3とを含む試験片の透過電子顕微鏡観察及び電子回折測定を行った。その結果を図5(b)及び図6に示す。図5(b)及び図6に示されるとおり、酸化鉄層2の表面に板状体4が形成されていた。そして、板状体4の電子回折測定(図6の電子回折パターン5)と元素マッピングの結果から、板状体4は、酸化鉄層2を形成しているものと同じアルミニウム置換α-酸化鉄からなるものであることが確認された。さらに、電子回折測定の結果から、板状体4の厚み方向が板状体4におけるα-酸化鉄のc軸であり、かつ板状体4におけるα-酸化鉄のc軸がセラミックス基材の表面に対して平行であることが確認された。
【0065】
[色の測定]
コニカミノルタ社製分光測色計「CM-2600d」を用いて、得られたセラミックス焼結体(酸化鉄層2と複合体層3とが形成された部分)のCIE1976L色空間における明度指数L、並びにクロマティクネス指数a及びbを測定した。JIS Z8722-2000に準拠し、測定条件をSCI(正反射光込み)方式とし、光源をCIE標準光源D65、視野角を10°、測定範囲を3mmφとして測定した。得られたセラミックス焼結体の明度指数Lは61.4であり、クロマティクネス指数aは6.1であり、クロマティクネス指数bは20.1であった。
【0066】
参考例1
図4に、作家が作製した金彩備前焼における、断面の電子顕微鏡写真(a)、当該断面の元素マップ(b:Fe、c:Al、d:Si、e:K、f:Fe+Al+Si)を示す。電子顕微鏡観察の結果から、基材の表面にガラス層(厚み2μm)が形成され、ガラス層の表面に複合体層(厚み100nm)が形成されていることが確認された。図4の電子顕微鏡写真a中の電子回折パターンは、複合体層の電子回折測定を行って得られたものである。この電子回折測定の結果から、複合体層中の板状体を形成しているα-酸化鉄のc軸がセラミックス基材に対して直交する(前記c軸と複合体層の厚み方向が平行)ことが確認された。
【0067】
図5(a)に、作家が作製した金彩備前焼における、複合体層を含む部分の透過電子顕微鏡画像及び電子回折パターンを示す。この透過電子顕微鏡画像及び板状体の電子回折測定(図5(a)中の回折パターン)の結果から、前記備前焼における板状体の厚み方向が板状体におけるα-酸化鉄のc軸であり、かつ板状体におけるα-酸化鉄のc軸がセラミックス基材の表面に対して直交することが確認された。
【0068】
作家が作製した備前焼の金彩の部分の色の測定を実施例1と同様にして行った結果、明度指数Lは46~58であり、クロマティクネス指数aは0.4~3.5であり、クロマティクネス指数bは9~12であった。
【0069】
実施例2及び3
第3工程における処理温度を変更(実施例2:950℃、実施例3:850℃)したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス焼結体を得た。第3工程において950℃にて熱処理した場合(実施例2)、得られたセラミックス焼結体は赤味を帯びた金属光沢を有しており、外観が良好であった。また、色の測定を実施例1と同様にして行った結果、明度指数Lは59.7であり、クロマティクネス指数aは3.6であり、クロマティクネス指数bは11.3であった。850℃にて熱処理した場合(実施例3)、得られたセラミックス焼結体は黄褐色の金属光沢を有しており、外観が良好であった。また、色の測定を実施例1と同様にして行った結果、明度指数Lは54.7であり、クロマティクネス指数aは2.2であり、クロマティクネス指数bは10.5であった。このように、第3工程における処理温度を調整することにより、得られるセラミックス焼結体の色調をコントロールできることが確認された。
【0070】
実施例4
実施例1と同様にして、粒子径が100μm以下の粉(粘土)を得た。得られた粉1gと炭酸カリウム0.2gを混合して得られた粉末をルツボに入れて、電気炉中で1450℃にて1時間加熱した後、冷却することにより薄い緑色のガラスを得た。得られたガラスを粉砕して粉末を得た。得られた粉末をルツボに入れて、電気炉中にセットしたことと、炭酸カリウム(KCO)の粉を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、第1~3工程を行うことにより、ガラス成形品を得た。当該ガラス成形品は黄金色の金属光沢を有しており、外観が極めて良好であった。
【0071】
実施例5
実施例1と同様にして得られた未焼結のセラミックス基材を電気炉中にセットして大気中、1230℃にて1時間焼成を行った。こうして得られたセラミックス焼結体を未焼結のセラミックス基材の代わりに用いたこと以外は実施例1と同様にして、第1~3工程を行った。図7に、得られた熱処理(第1~3工程)後のセラミックス焼結体[図7(b)]と熱処理前のセラミックス焼結体[図7(a)]の外観写真を示す。熱処理後のセラミックス焼結体[図7(b)]は黄金色の金属光沢を有しており、外観が極めて良好であった。
【0072】
比較例1
第2工程を行ってからアルミナルツボを900℃まで冷却した後、900℃にて2時間保持する第3工程を行うことなく、電気炉の電源を切り室温まで冷却したこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス焼結体を得た。得られたセラミックス焼結体の外観写真を図1(a)に示す。当該セラミックス焼結体は光沢を有していたが、金属光沢ではなかった。色の測定を実施例1と同様にして行った結果、明度指数Lは60.9であり、クロマティクネス指数aは-0.7であり、クロマティクネス指数bは1.2であった。得られたセラミックス焼結体断面の電子顕微鏡観察、元素マッピング及び電子回折測定を実施例1と同様にして行った。図2の上段に、得られたセラミックス焼結体断面の電子顕微鏡写真(a)、当該断面の元素マップ(b:Fe、c:Al、d:Si、e:K、f:Fe+Al+Si)を示す。セラミックス焼結体の表面にはガラス層が形成されていたものの、ガラス層の表面には非常に薄いα-酸化鉄の層が形成されているのみであった。
【符号の説明】
【0073】
1 ガラス層
2 酸化鉄層
3 複合体層
4 板状体
5、6 電子回折パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7