(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】トーションビーム及びトーションビームの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
B60G9/04
(21)【出願番号】P 2018092724
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒谷 智久
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0077085(KR,A)
【文献】特開2017-171050(JP,A)
【文献】特開2009-132249(JP,A)
【文献】特開平07-186654(JP,A)
【文献】特開2013-035309(JP,A)
【文献】特開2010-247694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延び、車幅方向の両端部に、車体に対して揺動可能に連結される左アーム及び右アームがそれぞれ固定される閉断面構造の中空トーションビームにおいて、
前記トーションビームは、板材
の一端部と他端部とが該トーションビームの周方向の一部から径方向外方へ突出するように曲げ加工されて該トーションビームの周方向の一部で
互いに該板材の厚み方向に重ね合わされて溶接された閉断面の中空部材からなることを特徴とするトーションビーム。
【請求項2】
請求項1に記載のトーションビームにおいて、
前記トーションビームは、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有し、
前記板材の一端部と他端部とは、前記トーションビームの頂部に位置していることを特徴とするトーションビーム。
【請求項3】
請求項
1に記載のトーションビームにおいて、
前記板材の一端部は他端部よりも前記トーションビームの径方向外方へ突出していることを特徴とするトーションビーム。
【請求項4】
車幅方向に延び、車幅方向の両端部に、車体に対して揺動可能に連結される左アーム及び右アームがそれぞれ固定される閉断面構造の中空トーションビームの製造方法において、
板材
の一端部と他端部とを曲げ加工することにより、該板材の一端部と他端部と
を、前記トーションビームの周方向の一部において
該トーションビームの径方向外方へ突出させるとともに該板材の厚み方向に重なり合うようにしてから
、該板材の一端部と他端部とを溶接することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載のトーションビームの製造方法において、
板材の一端部及び他端部を折り曲げる端部折り曲げ工程と、
前記端部折り曲げ工程の後、前記板材の一端部と他端部とが前記トーションビームの周方向の一部において該板材の厚み方向に重なり合うように、該板材における一端部と他端部との間の部分を曲げる中間部折り曲げ工程と、
前記中間部折り曲げ工程の後、前記板材の一端部と他端部とを溶接する溶接工程とを備えていることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載のトーションビームの製造方法において、
前記端部折り曲げ工程では、前記板材における一端部と他端部との間に、略U字状または略V字状に近似した凹部を形成し、
前記中間部折り曲げ工程では、前記凹部が前記トーションビームの下に向けて開放するように前記板材を折り曲げることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のトーションビームの製造方法において、
前記中間部折り曲げ工程では、前記板材の一端部及び他端部が前記トーションビームの頂部に位置するように前記板材を折り曲げることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトーションビーム型サスペンション装置に使用されるトーションビーム及びトーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両に設けられているトーションビーム型サスペンション装置は、車幅方向に延びる金属製のトーションビームと、トーションビームの両端部に固定される2本のアームとを備えており、アームが揺動可能に車体に連結されるとともに、このアームには車輪が支持されるようになっている。
【0003】
近年では、燃費向上等の観点から車両の更なる軽量化が求められている。トーションビーム型サスペンション装置においては、パイプを所定の形状に成形することでトーションビームの軽量化を図ることができるが、素材となるパイプはかさばるため、パイプをトーションビームの製造工場まで輸送する際のコスト、即ち輸送コストが高くなる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1~3に開示されているように、素材を板材とし、この板材を造管工程でパイプ状に成形し、その後、所定の形状のトーションビームに成形する工程をトーションビームの製造工場で連続的に行うことが考えられている。素材を板材にすれば、積み重ねて輸送できるので輸送効率が高くなり、また、トーションビームの製造工場でコイル材から板材を切り出してもよく、いずれの方法であってもパイプを輸送するのに比べて輸送コストを低減することができる。
【0005】
また、特許文献4、5には、板材を複数回曲げ加工することにより、所定の形状のトーションビームに成形することが開示されている。これにより、特許文献1~3のように造管工程後に所定の形状のトーションビームに成形する場合に比べて、造管工程を省くことができる分、輸送コストだけでなく製造コストも低減することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-69674号公報
【文献】特開2007-237784号公報
【文献】特開2013-35309号公報
【文献】特開2000-158928号公報
【文献】特開平7-186654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両に搭載されたトーションビームの断面形状としては、例えば、特許文献1~4のように上方に凸を有する断面形状とされる場合が多い。このような断面形状の場合、車両走行中に捩り力や横力を受けた際に頂部には大きな応力が発生することになる。
【0008】
また、上方に凸を有する断面形状のトーションビームを板材から製造する際には、成形性の観点から頂部が板材の両端部の接合部となることが多い。そして、板材の両端部の接合部は、当該両端部が突き合わされた状態で溶接される、いわゆる突き合わせ溶接が一般的である。
【0009】
しかしながら、板材の両端部を突き合わせ溶接した場合には以下のような問題が発生する懸念がある。すなわち、板材は、せん断加工機やプレス機で所望の形状に切断されているのであるが、その切断面は、通常、せん断面と破断面とが混在していて平滑な面ではないため、板材の両端部を突き合わせたときに両端部の間に隙間ができてしまう。この隙間を無くすためには板材の切断面の不整を整えるための加工を施す等、追加工程が必要になり、コストが高騰する。よって、板材の両端部を突き合わせたときの隙間を無くすのは困難であり、このため、溶接品質が悪化しやすい。溶接品質が悪化すると、トーションビームの疲労強度の低下を招くおそれがある。
【0010】
また、レーザー光を使用して溶接しようとした場合には、溶融した母材金属が上記隙間に入り込むため、のど厚を十分に確保することができなくなる。また、上記隙間をレーザー光が通過することもあり、この場合、通過したレーザー光が裏側に位置する材料を加熱し、傷めてしまうこともある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストでかつ十分な疲労強度を持ったトーションビームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、板材の両端部を重ね溶接するようにした。
【0013】
第1の発明は、車幅方向に延び、車幅方向の両端部に、車体に対して揺動可能に連結される左アーム及び右アームがそれぞれ固定される閉断面構造の中空トーションビームにおいて、前記トーションビームは、板材の一端部と他端部とが該トーションビームの周方向の一部から径方向外方へ突出するように曲げ加工されて該トーションビームの周方向の一部で互いに該板材の厚み方向に重ね合わされて溶接された閉断面の中空部材からなることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、素材を板材とし、この板材を曲げ加工することにより、所定の形状の閉断面の中空部材を得て、それがトーションビームとなるので、素材をパイプとした場合に比べて素材の輸送コストの低減が可能になる。そして、トーションビームの両端部には車体に対して揺動可能に連結される左アーム及び右アームがそれぞれ固定されるので、車両の走行時にはトーションビームに対して捩り力が作用する。
【0015】
また、トーションビームを構成している板材の一端部と他端部とが該板材の厚み方向に重ね合わされて溶接されているので、突き合わせ溶接のように一端部と他端部との間に切断面の不整に起因した隙間が形成されることはなく、溶接品質が良好になる。また、レーザー光を使用して溶接しようとした場合には、突き合わせ溶接のような隙間がないので、溶融した母材金属が上記隙間に入り込むようなことはなく、のど厚が十分に確保される。さらに、レーザー光が隙間を通過するといったこともないので、裏側に位置する材料が熱によって傷むこともない。従って、十分な疲労強度を持ったトーションビームとなる。
【0016】
また、板材の一端部と他端部とがトーションビームの径方向外方へ突出していることで、リブのように作用することになるので、補強効果が得られる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記トーションビームは、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有し、前記板材の一端部と他端部とは、前記トーションビームの頂部に位置していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状とすることで、トーションビームの捩り剛性を最適化することが可能になる。このような断面形状とした場合には、車両走行中に捩り力や横力を受けた際にトーションビームの頂部には大きな応力が発生することになるが、本発明ではトーションビームの頂部で板材の一端部と他端部とを重ね合わせて溶接しているので、疲労強度が高まる。
【0019】
第3の発明は、第1の発明において、前記板材の一端部は他端部よりも前記トーションビームの径方向外方へ突出していることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、板材の一端部が他端部よりも突出していることにより、他端部を一端部の側面に対して溶接することが可能になり、のど厚が十分に確保される。
【0021】
第4の発明は、車幅方向に延び、車幅方向の両端部に、車体に対して揺動可能に連結される左アーム及び右アームがそれぞれ固定される閉断面構造の中空トーションビームの製造方法において、板材の一端部と他端部とを曲げ加工することにより、該板材の一端部と他端部とを、前記トーションビームの周方向の一部において該トーションビームの径方向外方へ突出させるとともに該板材の厚み方向に重なり合うようにしてから、該板材の一端部と他端部とを溶接することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、素材を板材とし、この板材を曲げ加工することによってトーションビームを得ることができるので、素材をパイプとした場合に比べて素材の輸送コストの低減が可能になる。
【0023】
そして、板材の一端部と他端部とが該板材の厚み方向に重ね合わされて溶接されているので、突き合わせ溶接のように一端部と他端部との間に切断面の不整に起因した隙間が形成されることはなく、溶接品質が良好になる。また、レーザー光を使用して溶接しようとした場合には、突き合わせ溶接のような隙間がないので、溶融した母材金属が上記隙間に入り込むようなことはなく、のど厚が十分に確保される。さらに、レーザー光が隙間を通過するといったこともないので、裏側に位置する材料が熱によって傷むこともない。従って、十分な疲労強度を持ったトーションビームとなる。
【0024】
第5の発明は、第4の発明において、板材の一端部及び他端部を折り曲げる端部折り曲げ工程と、前記端部折り曲げ工程の後、前記板材の一端部と他端部とが前記トーションビームの周方向の一部において該板材の厚み方向に重なり合うように、該板材における一端部と他端部との間の部分を曲げる中間部折り曲げ工程と、前記中間部折り曲げ工程の後、前記板材の一端部と他端部とを溶接する溶接工程とを備えていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、板材からパイプを作る造管工程を省きながら、所定の形状のトーションビームを得ることが可能になる。
【0026】
第6の発明は、第5の発明において、前記端部折り曲げ工程では、前記板材における一端部と他端部との間に、略U字状または略V字状に近似した凹部を形成し、前記中間部折り曲げ工程では、前記凹部が前記トーションビームの下に向けて開放するように前記板材を折り曲げることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有するトーションビームとすることができ、トーションビームの捩り剛性を最適化することが可能になる。
【0028】
第7の発明は、第6の発明において、前記中間部折り曲げ工程では、前記板材の一端部及び他端部が前記トーションビームの頂部に位置するように前記板材を折り曲げることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、トーションビームの頂部で板材の一端部と他端部とを重ね合わせて溶接することで疲労強度が高まる。
【発明の効果】
【0030】
第1、4の発明によれば、板材を曲げ加工して周方向の一部で一端部と他端部とを厚み方向に重ね合わせて溶接したので、低コストでかつ十分な疲労強度を持ったトーションビームを得ることができる。
【0031】
第2の発明によれば、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状として捩り剛性を最適化する場合に、トーションビームの頂部に発生する大きな応力に対応することができ、疲労強度をより一層高めることができる。
【0032】
また、板材の一端部と他端部とがトーションビームの径方向外方へ突出しているので、リブのように作用することになり、例えば突出高さの調整等によって任意の補強効果を得ることができる。
【0033】
第3の発明によれば、板材の一端部が他端部よりも径方向外方へ突出しているので、板材の他端部を一端部の側面に対して溶接することができ、のど厚を十分に確保して疲労強度を更に高めることができる。
【0034】
第5の発明によれば、造管工程を省くことができるので、製造コストを低減することができる。
【0035】
第6の発明によれば、造管工程を省きながら、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有するトーションビームとすることができる。
【0036】
第7の発明によれば、トーションビームの頂部に発生する大きな応力に対応することができ、疲労強度をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施形態に係るトーションビーム型サスペンション装置の一部を示す斜視図である。
【
図2】トーションビームを後方から見た斜視図である。
【
図6】実施形態の変形例に係るトーションビームの
図2相当図である。
【
図7】実施形態の変形例に係るトーションビームの
図3相当図である。
【
図8】実施形態の変形例に係るトーションビームの
図4相当図である。
【
図10】端部折り曲げ工程直後の板材の斜視図である。
【
図11】端部折り曲げ工程直後の板材の平面図である。
【
図13】膨らみ部形成工程直後の板材の斜視図である。
【
図14】膨らみ部形成工程直後の板材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。尚、この実施形態では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」というものとする。また、車幅方向を左右方向ともいい、「左」とは車両の左側であり、「右」とは車両の右側である。
【0039】
図1は、本発明の実施形態に係るトーションビーム1を有するトーションビーム型サスペンション装置20の一部を示すものである。このトーションビーム型サスペンション装置20は、車両としての自動車の後輪懸架装置に用いられるものであり、車幅方向に延びるトーションビーム1と、該トーションビーム1の車幅方向の両端部にそれぞれ固定され、車両前後方向に延びる左アーム2及び右アーム2とを備えている。各アーム2の車両前端部にはブッシュ3が設けられており、このブッシュ3を介して各アーム2が車体に対し上下方向に揺動可能に取り付けられるようになっている。一方、各アーム2の車両後端部には、車輪を支持する車輪支持部材4が取り付けられている。また、アーム2には、スプリング(図示せず)を受けるスプリングサポート5がそれぞれ設けられている。トーションビーム型サスペンション装置20の構造は、上述した構造に限られるものではなく、少なくともトーションビーム1と左右のアーム2、2とを備え、左右のアーム2、2の揺動によってトーションビーム1が捩り力を受ける構造のものであればよい。
【0040】
上記トーションビーム1は、閉断面構造の中空トーションビームであり、上述したように捩り力を受ける部材である。この実施形態では、トーションビーム1が中空部材で構成されている場合について説明する。トーションビーム1の素材は、例えば一般構造用炭素鋼の板材(金属製板材)とすることができるが、これに限られるものではなく、従来から中空トーションビームの素材として知られている板材を曲げ加工して中空部材とし、これをトーションビーム1として使用することができる。トーションビーム1の製造方法の詳細については後述する。
【0041】
トーションビーム1の車幅方向の両端部(左右両端部)1a、1aは、例えば
図2に示すように略全体が開放されている。これにより、トーションビーム1は、長手方向の両端部が開放された筒状部材と呼ぶこともできる。トーションビーム1の両端部1a、1aが、それぞれ左アーム2及び右アーム2の前後方向中間部の車幅方向内側壁部に対して溶接されている。
【0042】
図2~
図4に示すように、トーションビーム1の車幅方向中間部の所定領域は、略同一断面形状であり、この車幅方向中間部の所定領域は、同一断面部11とされている。一方、トーションビーム1の同一断面部11よりも左側は、トーションビーム1の左端部に向かって断面が徐々に拡大する徐辺部12とされ、また、トーションビーム1の同一断面部11よりも右側は、トーションビーム1の右端部に向かって断面が徐々に拡大する徐辺部12とされている。左側の徐辺部12は、同一断面部11の左端部に連続しており、また、右側の徐辺部12は、同一断面部11の右端部に連続している。徐辺部12の断面の拡大方向は、上下方向及び車両前後方向である。従って、トーションビーム1の同一断面部11の断面形状が、トーションビーム1の左端部及び右端部に比べて小さくなる。
【0043】
図5に示すように、トーションビーム1の下壁部は、上方へ窪み、かつ下方に開放する凹部10を有するように形成されている。凹部10は、トーションビーム1の少なくとも同一断面部11に、車幅方向に連続して形成されており、凹条部と呼ぶこともできる。凹部10の左側は左側の徐辺部12に達しており、また、凹部10の右側は右側の徐辺部12に達している。各徐辺部12では、同一断面部11に比べて凹部10の深さが徐々に浅くなり、両端部1a及びその近傍の下壁部には凹部10が形成されていない。凹部10の深さは、凹部10の上下方向の寸法である。下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状とすることで、トーションビーム1の捩り剛性を最適化することが可能になる。
【0044】
凹部10の幅は凹部10の前後方向の寸法である。この凹部10の幅は、凹部10の開放部(凹部10の下端部)に近づけば近づくほど広くなっている。よって、トーションビーム1の下壁部は、凹部10が形成された部分が下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有することになる。
【0045】
また、トーションビーム1の上壁部の前側部分1bは、前方へ向かって下降傾斜ないし前側へ行くほど下に位置するように湾曲しており、トーションビーム1の下壁部における凹部10が形成された部分に沿うように延びている。前側部分1bの内面と、トーションビーム1の下壁部における凹部10が形成された部分の内面との間には隙間が形成されている。また、トーションビーム1の上壁部の後側部分1cは、後方へ向かって下降傾斜ないし後側へ行くほど下に位置するように湾曲しており、トーションビーム1の下壁部における凹部10が形成された部分に沿うように延びている。後側部分1cの内面と、トーションビーム1の下壁部における凹部10が形成された部分の内面との間には隙間が形成されている。
【0046】
トーションビーム1の上壁部の前側部分1bと後側部分1cとは、凹部10の断面形状に対応するように、下端部に近づけば近づくほど前後方向の離間距離が長くなるように傾斜ないし湾曲している。このようにトーションビーム1の上壁部を形成することにより、トーションビーム1の凹部10が形成された部分の断面形状は、上壁部及び下壁部を合わせた全体として、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有することになる。
【0047】
トーションビーム1の上壁部の前側部分1bと、凹部10の前側との間には、前側膨らみ部1dが形成されている。また、トーションビーム1の上壁部の後側部分1cと、凹部10の後側との間には、後側膨らみ部1eが形成されている。前側膨らみ部1d及び後側膨らみ部1eは、共に下方へ膨らむ形状とされている。
【0048】
トーションビーム1の上壁部の前側部分1bの上端部には、前側接合部13が上方、即ちトーションビーム1の径方向外方へ向けて突出するように形成されている。また、トーションビーム1の上壁部の後側部分1cの上端部には、後側接合部14が上方、即ちトーションビーム1の径方向外方へ向けて突出するように形成されている。前側接合部13及び後側接合部14は、トーションビーム1の一方の端部1aから他方の端部1aまで連続して延びる凸条部である。前側接合部13は、トーションビーム1の素材となる板材の一端部によって構成された部分であり、また、後側接合部14は、トーションビーム1の素材となる板材の他端部によって構成された部分である。前側接合部13及び後側接合部14は、トーションビーム1の素材となる板材を折り曲げることによって形成されている。
【0049】
トーションビーム1の前側接合部13の後面に、後側接合部14の前面が接触するように配置されており、従って、前側接合部13と後側接合部14とが、トーションビーム1の素材となる板材の厚み方向に重なり合うことになる。そして、前側接合部13と後側接合部14とは、トーションビーム1の両端部1a、1aに亘って連続して重ね溶接されている。この実施形態では、前側接合部13及び後側接合部14がトーションビーム1の上端部、即ち、頂部に位置している。トーションビーム1の頂部はトーションビーム1の周方向の一部であり、前側接合部13及び後側接合部14が重なって溶接されていることにより、トーションビーム1は閉断面の中空部材となる。
【0050】
尚、図示しないが、トーションビーム1の前側接合部13及び後側接合部14の形成位置はトーションビーム1の頂部に限られるものではなく、トーションビーム1の前部や後部、下部、下壁部等であってもよく、この場合は、トーションビーム1の素材となる板材の一端部を第1接合部、板材の他端部を第2接合部と呼ぶことができる。つまり、トーションビーム1の第1接合部及び第2接合部は、トーションビーム1の周方向の任意の一部から径方向外方へ突出するように形成することができる。また、トーションビーム1の第1接合部及び第2接合部は、トーションビーム1の径方向外方へ突出させることなく、径方向内方へ突出する形状であってもよいし、トーションビーム1の周方向に延びる形状として互いに厚み方向に重ね合わせて溶接してもよい。
【0051】
図6~
図9は、実施形態の変形例に係るトーションビーム1を示している。この変形例では、トーションビーム1の前側接合部13が後側接合部14よりもトーションビーム1の径方向外方へ突出している。よって、前側接合部13の上端部が後側接合部14の上端部よりも上に位置することになり、前側接合部13の後面部と、後側接合部14とを溶接することができる。尚、図示しないが、トーションビーム1の後側接合部14が前側接合部13よりもトーションビーム1の径方向外方へ突出していてもよい。
【0052】
(トーションビーム1の製造方法)
トーションビーム1は、素材となる板材を複数回折り曲げた後、前側接合部13及び後側接合部14を重ね溶接することによって得られる。素材となる板材は、積み重ねて輸送できるので輸送する場合に比べて輸送効率が高くなる。また、トーションビーム1の製造工場でコイル材から板材を切り出してもよく、この場合もパイプを輸送する場合に比べて輸送効率が高くなる。素材となる板材は、図示しないせん断加工機やプレス機等のより所望の形状に切断されている。その切断面は、通常、せん断面と破断面とが混在していて平滑な面となっていない。よって、仮に板材の一端部と他端部とを突き合わせ溶接しようとすると、一端部と他端部との間に隙間ができてしまう。
【0053】
素材となる板材は平板である。まず、
図10~
図12に示すように、端部折り曲げ工程を経ることで、板材100の一端部及び他端部を折り曲げて、前側接合部13及び後側接合部14を形成する。
図10~
図12は、端部折り曲げ工程後の板材100の形状を示すものである。端部折り曲げ工程では、
図10に示すように、板材100における一端部と他端部との間(前側接合部13と後側接合部14との間)に、略U字状または略V字状に近似した凹部10を形成する。
【0054】
端部折り曲げ工程の後、
図13~
図15に示すように、膨らみ部形成工程を行う。膨らみ部形成工程では、板材100の前側接合部13と後側接合部14とが互いに接近するように、板材100における前側接合部13と後側接合部14との間の部分を曲げ、これにより、前側膨らみ部1d及び後側膨らみ部1eを形成する。
【0055】
膨らみ部形成工程の後、中間部折り曲げ工程を行う。中間部折り曲げ工程では、板材100の前側接合部13と後側接合部14とがトーションビーム1の周方向の一部において該板材100の厚み方向に重なるように、該板材100における前側接合部13と後側接合部14との間の部分を曲げる。また、この中間部折り曲げ工程では、凹部10がトーションビーム1の下に向けて開放するように板材100を折り曲げる。具体的には、トーションビーム1の頂部において前側接合部13と後側接合部14とが厚み方向に重なるように、
図15に示す前側接合部13と後側接合部14とが互いに接近する方向に板材100を曲げていく。最終的に、
図5に示すように、トーションビーム1の頂部において前側接合部13と後側接合部14とが厚み方向に重なった断面形状が得られる。
【0056】
中間部折り曲げ工程の後、板材100の前側接合部13と後側接合部14とを溶接する溶接工程を行う。溶接工程では、周知のレーザー溶接法を用いることができるが、レーザー溶接法以外の溶接法を使用してもよい。
【0057】
以上のように、板材100を曲げ加工することにより、該板材100の一端部と他端部とがトーションビーム1の周方向の一部において該板材100の厚み方向に重なり合うようにしてから該板材100の一端部と他端部とを溶接することで、トーションビーム1を得ることができる。また、板材からパイプを作る造管工程を省きながら、所定の形状のトーションビーム1を得ることが可能になる。
【0058】
尚、端部折り曲げ工程、膨らみ部形成工程及び中間部折り曲げ工程では、従来から周知の金型を用いたプレス成形を行う。また、工程数は特に限定されるものではなく、上述した形状を段階的に得ることができる工程数であればよい。
【0059】
(実施形態の作用効果)
この実施形態によれば、素材を板材100とし、この板材100を曲げ加工することにより、所定の形状の閉断面の中空部材を得て、それがトーションビーム1となるので、素材をパイプとした場合に比べて素材の輸送コストの低減が可能になる。
【0060】
そして、トーションビーム1の両端部1a、1aには車体に対して揺動可能に連結される左アーム2及び右アーム2がそれぞれ固定されるので、車両の走行時にはトーションビーム1に対して捩り力が作用する。このとき、板材100の前側接合部13及び後側接合部14が該板材100の厚み方向に重ね合わされて溶接されているので、突き合わせ溶接のように一端部と他端部との間に切断面の不整に起因した隙間が形成されることはなく、溶接品質が良好になる。
【0061】
また、レーザー光を使用して溶接しようとした場合には、突き合わせ溶接のような隙間がないので、溶融した母材金属が上記隙間に入り込むようなことはなく、のど厚が十分に確保される。さらに、レーザー光が隙間を通過するといったこともないので、裏側に位置する材料が熱によって傷むこともない。従って、十分な疲労強度を持ったトーションビーム1となる。
【0062】
また、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状とすることで、トーションビーム1の捩り剛性を最適化することが可能になるが、このような断面形状とした場合には、車両走行中に捩り力を受けた際にトーションビーム1の頂部には大きな応力が発生することになる。この実施形態では、トーションビーム1の頂部において板材100の前側接合部13及び後側接合部14を重ね合わせて溶接しているので、疲労強度が高まる。
【0063】
また、前側接合部13及び後側接合部14がトーションビーム1の径方向外方へ突出していることで、リブのように作用することになるので、補強効果が得られる。
【0064】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明は、例えば自動車のトーションビーム型サスペンション装置に使用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 トーションビーム
10 凹部
13 前側接合部(板材の一端部)
14 後側接合部(板材の他端部)
100 板材