(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 S
B23B51/00 J
(21)【出願番号】P 2018150381
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】594143271
【氏名又は名称】マコトロイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】東脇 啓文
(72)【発明者】
【氏名】藤井 茂則
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-198724(JP,A)
【文献】特開2004-090197(JP,A)
【文献】特開2004-090196(JP,A)
【文献】特開2003-048110(JP,A)
【文献】特開2001-121332(JP,A)
【文献】特開昭62-188614(JP,A)
【文献】特開昭63-245311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00 - 51/14
B23C 5/10
B23D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心として所定の回転方向に回転される本体と、
前記本体における前記回転軸方向の所定の領域である溝形成領域の外周面に形成された溝とを備え、
前記溝形成領域における前記本体の心厚は、前記回転軸に沿って前記本体の先端側から後端側に向かって増加し、
前記溝形成領域は、前記溝形成領域内の前記本体の先端に最も近い側に設けられた第1の溝形成領域を含み、
前記回転軸と直交する断面において、前記本体の外周面に沿った前記溝が形成されていない部分の幅に対する、前記本体の外周面に沿った前記溝の幅の比を溝幅比とした場合、前記第1の溝形成領域の前記溝幅比は、前記回転軸に沿って前記本体の先端側から後端側に向かって増加し、
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、前記溝の内周面と前記本体の外周面との前記回転方向の上流側の境界から前記溝の内周面に沿って前記溝の内周面と前記本体の外周面との前記回転方向の下流側の境界に向かう方向を一の方向としたとき、
前記溝の内周面は、
前記一の方向の最上流側の内周面である刃先面と、
前記一の方向の下流側で前記刃先面と隣接する第1の内周面と、
前記一の方向の下流側で前記第1の内周面と隣接する第2の内周面と、
前記一の方向の下流側で前記第2の内周面と隣接する第3の内周面とを含み、
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、前記第1の内周面の長さおよび前記第3の内周面の長さは、それぞれ第2の内周面の長さよりも長
く、
前記第1、第2、および第3の内周面の各々は、前記溝の内部に向かって凹形状の内周面である、ドリル。
【請求項2】
前記溝形成領域は、前記回転軸に沿った前記本体の先端の側とは反対側で前記第1の溝形成領域と隣接する第2の溝形成領域をさらに含み、
前記第2の溝形成領域における前記溝幅比は、前記回転軸に沿って前記本体の先端側から後端側に向かって減少する、請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記溝は2つであり、
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、2つの前記溝のうち一方の溝の内周面と前記本体の外周面との前記回転方向の上流側の境界を第1の境界とし、前記一方の溝の内周面と前記本体の外周面との前記回転方向の下流側の境界を第2の境界とし、前記2つの溝のうち他方の溝の内周面と前記本体の外周面との前記回転方向の上流側の境界を第3の境界とし、前記他方の溝の内周面と前記本体の外周面との前記回転方向の下流側の境界を第4の境界としたとき、
前記溝における前記本体の先端に最も近い位置において、前記第1、第2、第3、および第4の境界の各々は、前記回転軸を中心として89度以上91度以下の角度の間隔で設けられる、請求項1または2に記載のドリル。
【請求項4】
前記溝形成領域は、前記溝形成領域内の前記本体の先端に最も近い側に設けられた第1の心厚領域と、前記回転軸に沿った前記本体の先端の側とは反対側で前記第1の心厚領域と隣接する第2の心厚領域とをさらに含み、
前記第1の心厚領域における前記本体の心厚は、前記回転軸に沿って前記本体の先端側から後端側に向かって第1の増加率で増加し、
前記第2の心厚領域における前記本体の心厚は、前記回転軸に沿って前記本体の先端側から後端側に向かって前記第1の増加率よりも大きい第2の増加率で増加する、請求項1~3のいずれかに記載のドリル。
【請求項5】
前記本体に設けられ、被切削物に当接する切刃部をさらに備え、
前記切刃部は、前記回転方向の下流側を向いた前記溝の内周面であるすくい面を含み、
前記すくい面は、
前記すくい面の外径側端部に設けられた刃先面と、
前記刃先面よりも内径側に設けられた本体刃面とを含み、
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、前記刃先面および前記本体刃面の各々は曲面であり、
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、前記刃先面と前記本体刃面との境界点は、前記回転軸と前記すくい面の外径側端部とを結ぶ刃先中心線よりも前記回転方向の上流側に位置する、請求項1~4のいずれかに記載のドリル。
【請求項6】
前記すくい面と前記刃先中心線との交差位置から前記すくい面の外径側端部までの前記刃先中心線に沿った長さHと、前記ドリルの半径RAとは、0.55RA≦H≦0.65RAの関係を有する、請求項5に記載のドリル。
【請求項7】
前記刃先中心線に沿った前記刃先面の長さTは、0より大きく1.0mm以下である、請求項5または6に記載のドリル。
【請求項8】
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、前記刃先面および前記本体刃面の各々は円弧形状を有しており、
前記刃先面の曲率半径R1と前記本体刃面の曲率半径R2とは、0.9R2≦R1≦1.1R2の関係を有する、請求項5~7のいずれかに記載のドリル。
【請求項9】
前記切刃部は前記回転軸を中心として螺旋状に形成される、請求項5~8のいずれかに記載のドリル。
【請求項10】
前記切刃部は複数であり、
前記回転軸と直交する断面で見た場合に、複数の前記切刃部の各々は前記回転軸に対して等間隔に配置されている、請求項5~9のいずれかに記載のドリル。
【請求項11】
前記切刃部は複数であり、
前記本体の先端に最も近い位置を除く前記第1の溝形成領域内の位置での断面であって、前記回転軸と直交する断面で見た場合に、複数の前記切刃部の各々は前記回転軸に対して不等間隔に配置されている、請求項5~9のいずれかに記載のドリル。
【請求項12】
前記すくい面は被覆層で被覆されている、請求項5~11のいずれかに記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルに関する。より特定的には、本発明は、高精度の穴を被切削物に形成することのできるドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のドリルは、たとえば下記特許文献1~4などに開示されている。
【0003】
下記特許文献1には、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く内壁面とドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルが開示されている。このドリルにおいて、切刃の外周端側には、ドリル回転方向に凸となる曲線状をなす凸曲線状切刃部が形成されるとともに、この凸曲線状切刃部の内周側には、ドリル回転方向の後方側に凹となる曲線状をなして凸曲線状切刃部に滑らかに連なる凹曲線状切刃部が形成されている。
【0004】
下記特許文献2には、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成されるとともに、ドリル本体の先端には切刃が設けられたドリルが開示されている。このドリルにおいて、切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面は、軸線に直交する断面において第1の円弧に沿った凹曲線状とされるとともに、壁面に連なってドリル本体の外周側を向く切屑排出溝の底面は、軸線に直交する断面においてドリル本体先端部の心厚円に外接する第2の円弧に沿った凹曲線状とされている。第1の円弧は、第2の円弧よりも半径が大きく、第2の円弧と心厚円との接点よりもリーディングエッジ側で第2の円弧と接している。
【0005】
下記特許文献3には、軸線回りに回転されるドリル本体の切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面が、ドリル本体内周側に位置して外周側に向かうに従いドリル回転方向とは反対側に凹んでからドリル回転方向に延びる凹曲面状の第1壁面と、ドリル本体の外周から内周側に向けて延びて第1壁面と鈍角に交差する凹曲面状の第2壁面と、第1壁面と先端逃げ面との交差稜線部に形成される第1切刃と、第2壁面と先端逃げ面の交差稜線部に形成されて第1切刃と鈍角に交差する第2切刃を備えたドリルが開示されている。
【0006】
下記特許文献4には、溝幅比は、先端部からa位置まで0.4~1.0:1で形成され、a位置からb位置に向かって溝幅が連続的に大きくなり、b位置で0.8:1から1.5:1の範囲へ広くなる構成が開示されている。この構成では、ドリルの心厚は、刃部全体にわたって同一厚みで形成するか、又は刃部の後端側に向かってわずかに大きくなるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-025125号公報
【文献】特開2015-039745号公報
【文献】特開2017-124475号公報
【文献】実開昭64-012716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、ドリルは、本体と、本体に設けられ、被切削物に当接する複数の切刃部とを含んでいる。複数の切刃部は、本体に形成された溝によって隔てられている。複数の切刃部による切削の際に生じる切り屑は、溝を通じて本体の先端側から後端側に進行し、溝の外部に排出される。
【0009】
従来のドリルでは、剛性を確保するために、本体の心厚は本体の先端側から後端側に向かって徐々に増加しており、溝の深さは本体の先端側から後端側に向かって浅くなっていた。その結果、溝の容積が小さく、切り屑の排出性能が低く、高精度の穴を被切削物に形成することができないという問題があった。
【0010】
ここで、溝の容積を大きくし、切り屑の排出性能を向上し、高精度の穴を被切削物に形成するために、本体の心厚を本体の先端側から後端側に向かって徐々に減少させ、溝の深さを本体の先端側から後端側に向かって深くした構造も想定される。しかしこの構造では、後端側での本体の心厚が薄くなるため、剛性の低下を招くという問題が生じる。
【0011】
特許文献4の技術では、溝の内周面が単一の曲面により構成されているため、溝幅比およびドリルの心厚が刃部の後端側に向かって増加するように溝を加工することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、高精度の穴を被切削物に形成することのできるドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の局面に従うドリルは、回転軸を中心として所定の回転方向に回転される本体と、本体における回転軸方向の所定の領域である溝形成領域の外周面に形成された溝とを備え、溝形成領域における本体の心厚は、回転軸に沿って本体の先端側から後端側に向かって増加し、溝形成領域は、溝形成領域内の本体の先端に最も近い側に設けられた第1の溝形成領域を含み、回転軸と直交する断面において、本体の外周面に沿った溝が形成されていない部分の幅に対する、本体の外周面に沿った溝の幅の比を溝幅比とした場合、第1の溝形成領域の溝幅比は、回転軸に沿って本体の先端側から後端側に向かって増加し、回転軸と直交する断面で見た場合に、溝の内周面と本体の外周面との回転方向の上流側の境界から溝の内周面に沿って溝の内周面と本体の外周面との回転方向の下流側の境界に向かう方向を一の方向としたとき、溝の内周面は、一の方向の最上流側の内周面である刃先面と、一の方向の下流側で刃先面と隣接する第1の内周面と、一の方向の下流側で第1の内周面と隣接する第2の内周面と、一の方向の下流側で第2の内周面と隣接する第3の内周面とを含み、回転軸と直交する断面で見た場合に、第1の内周面の長さおよび第3の内周面の長さは、それぞれ第2の内周面の長さよりも長く、第1、第2、および第3の内周面の各々は、溝の内部に向かって凹形状の内周面である。
【0014】
上記ドリルにおいて好ましくは、溝形成領域は、回転軸に沿った本体の先端の側とは反対側で第1の溝形成領域と隣接する第2の溝形成領域をさらに含み、第2の溝形成領域における溝幅比は、回転軸に沿って本体の先端側から後端側に向かって減少する。
【0015】
上記ドリルにおいて好ましくは、溝は2つであり、回転軸と直交する断面で見た場合に、2つの溝のうち一方の溝の内周面と本体の外周面との回転方向の上流側の境界を第1の境界とし、一方の溝の内周面と本体の外周面との回転方向の下流側の境界を第2の境界とし、2つの溝のうち他方の溝の内周面と本体の外周面との回転方向の上流側の境界を第3の境界とし、他方の溝の内周面と本体の外周面との回転方向の下流側の境界を第4の境界としたとき、溝における本体の先端に最も近い位置において、第1、第2、第3、および第4の境界の各々は、回転軸を中心として89度以上91度以下の角度の間隔で設けられる。
【0016】
上記ドリルにおいて好ましくは、溝形成領域は、溝形成領域内の本体の先端に最も近い側に設けられた第1の心厚領域と、回転軸に沿った本体の先端の側とは反対側で第1の心厚領域と隣接する第2の心厚領域とをさらに含み、第1の心厚領域における本体の心厚は、回転軸に沿って本体の先端側から後端側に向かって第1の増加率で増加し、第2の心厚領域における本体の心厚は、回転軸に沿って本体の先端側から後端側に向かって第1の増加率よりも大きい第2の増加率で増加する。
【0017】
上記ドリルにおいて好ましくは、本体に設けられ、被切削物に当接する切刃部をさらに備え、切刃部は、回転方向の下流側を向いた溝の内周面であるすくい面を含み、すくい面は、すくい面の外径側端部に設けられた刃先面と、刃先面よりも内径側に設けられた本体刃面とを含み、回転軸と直交する断面で見た場合に、刃先面および本体刃面の各々は曲面であり、回転軸と直交する断面で見た場合に、刃先面と本体刃面との境界点は、回転軸とすくい面の外径側端部とを結ぶ刃先中心線よりも回転方向の上流側に位置する。
【0018】
上記ドリルにおいて好ましくは、すくい面と刃先中心線との交差位置からすくい面の外径側端部までの刃先中心線に沿った長さHと、ドリルの半径RAとは、0.55RA≦H≦0.65RAの関係を有する。
【0019】
上記ドリルにおいて好ましくは、刃先中心線に沿った刃先面の長さTは、0より大きく1.0mm以下である。
【0020】
上記ドリルにおいて好ましくは、回転軸と直交する断面で見た場合に、刃先面および本体刃面の各々は円弧形状を有しており、刃先面の曲率半径R1と本体刃面の曲率半径R2とは、0.9R2≦R1≦1.1R2の関係を有する。
【0021】
上記ドリルにおいて好ましくは、切刃部は回転軸を中心として螺旋状に形成される。
【0022】
上記ドリルにおいて好ましくは、切刃部は複数であり、回転軸と直交する断面で見た場合に、複数の切刃部の各々は回転軸に対して等間隔に配置されている。
【0023】
上記ドリルにおいて好ましくは、切刃部は複数であり、本体の先端に最も近い位置を除く第1の溝形成領域内の位置での断面であって、回転軸と直交する断面で見た場合に、複数の切刃部の各々は回転軸に対して不等間隔に配置されている。
【0024】
上記ドリルにおいて好ましくは、すくい面は被覆層で被覆されている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高精度の穴を被切削物に形成することのできるドリルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるドリル1の外観の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の位置P1におけるドリル1の断面図であり、回転軸AXと直交する平面で切った場合の断面図である。
【
図3】
図1の位置P2におけるドリル1の断面図であり、回転軸AXと直交する平面で切った場合の断面図である。
【
図4】
図1の位置P3におけるドリル1の断面図であり、回転軸AXと直交する平面で切った場合の断面図である。
【
図5】本発明の一実施の形態における回転軸AX方向の本体2の溝形成領域RGの心厚WBの変化を示す図である。
【
図6】回転軸AX方向の溝形成領域RGの溝幅比の変化を示す図である。
【
図8】従来のドリルにおけるすくい面112の一の構成を示す断面図である。
【
図9】従来のドリルにおけるすくい面112の他の構成を示す断面図である。
【
図10】本発明の一実施の形態におけるドリル1において、刃先面41が被切削物に当接する様子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0028】
[ドリルの概略的な構成]
【0029】
始めに、本実施の形態におけるドリル1の概略的な構成に付いて説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態におけるドリル1の外観の構成を模式的に示す斜視図である。
【0031】
図1を参照して、本実施の形態におけるドリル1(ドリルの一例)は、切削装置(図示無し)のチャックに取り付けられた状態で、切削装置により電動や手動などで回転駆動されることで被切削物を切削加工するものである。
【0032】
ドリル1は、たとえばドリルビットであり、本体2(本体の一例)と、刃部10と、溝31および32(溝の一例)と、シャンク50とを備えている。本体2は、円筒形状を有しており、先端2aおよび後端2bを有している。本体2は、切削加工を行う際に回転軸AXを中心として回転方向Dに回転駆動される
【0033】
刃部10は、本体2の先端2a側に設けられており、被切削物に対する切削加工を行う部分である。シャンク50は、本体2の後端2b側に設けられており、ドリル1の使用時にチャックに取り付けられる部分である。
【0034】
刃部10は、切刃部11および21(
図2)(切刃部の一例)を含んでいる。切刃部11および21は、本体2における溝形成領域RG(溝形成領域の一例)の外周面に形成されている。切刃部11および21は、被切削物に当接する部分であり、回転軸AXを中心として螺旋状に形成されている。切刃部11および21は、回転軸AXに対して点対称である。切刃部11および21は、溝31および32の各々によって隔てられている。切刃部11および21の各々は、溝31および32によって規定されている。
【0035】
溝31および32は、切削加工の際に被切削物から生じる切り屑をドリル1の外部に排出するための溝であり、本体2における溝形成領域RGの外周面に形成されている。溝形成領域RGは、本体2における回転軸AX方向の所定の領域(ここでは刃部10が形成された領域)である。溝31および32は、同一形状であり、回転軸AXに沿って螺旋状に形成されている。溝31および32の各々は、回転軸AXに対して互いに点対称である。
【0036】
切刃部11および21は、同一形状であり、回転軸AXに沿って螺旋状に形成されている。切刃部11および21の各々は、回転軸AXに対して互いに点対称である。
【0037】
図2は、
図1の位置P1におけるドリル1の断面図であり、回転軸AXと直交する平面で切った場合の断面図である。
図3は、
図1の位置P2におけるドリル1の断面図であり、回転軸AXと直交する平面で切った場合の断面図である。
図4は、
図1の位置P3におけるドリル1の断面図であり、回転軸AXと直交する平面で切った場合の断面図である。
【0038】
図1~
図4を参照して、切刃部11は、すくい面12(すくい面の一例)と、マージン部13aと、逃げ面13bと、マージン部13cと、壁面14と、軸方向端面15~17とを含んでいる。すくい面12は、溝31の内周面であり、回転方向Dの下流側を向いている。すくい面12は、被切削物に対して作用する面であり、外径側端部に刃先12aを有している。マージン部13aは、すくい面12と隣接している。マージン部13a、逃げ面13b、およびマージン部13cの各々は、回転方向Dの上流側に向かってこの順序で設けられており、本体2の円筒形状の外周面を構成している。マージン部13aおよび13cの各々は、逃げ面13bよりも外径方向に突出している。壁面14は、溝32内の面であり、回転方向Dの上流側を向いている。壁面14は、マージン部13cと隣接しており、溝32内において切刃部21のすくい面22へと連続している。
【0039】
軸方向端面15~17は、本体2の先端2a側の面である。軸方向端面15は、回転方向Dの下流側に位置しており、すくい面12と隣接している。軸方向端面17は、回転方向Dの上流側に位置しており、壁面14と隣接している。軸方向端面16は、軸方向端面15と軸方向端面17との間に位置している。軸方向端面16の面積は、軸方向端面15および17の各々の面積よりも広い。軸方向端面16には潤滑剤を供給するための供給穴18が設けられている。
【0040】
切刃部21は、すくい面22(すくい面の一例)と、マージン部23aと、逃げ面23bと、マージン部23cと、壁面24と、軸方向端面25~27とを含んでいる。すくい面22は、溝32の内周面であり、回転方向Dの下流側を向いている。すくい面22は、被切削物に対して作用する面であり、外径側端部に刃先22aを有している。マージン部23aは、すくい面22と隣接している。マージン部23a、逃げ面23b、およびマージン部23cの各々は、回転方向Dの上流側に向かってこの順序で設けられており、本体2の円筒形状の外周面を構成している。マージン部23aおよび23cの各々は、逃げ面23bよりも外径方向に突出している。壁面24は、溝31内の面であり、回転方向Dの上流側を向いている。壁面24は、マージン部23cと隣接しており、溝31内において切刃部11のすくい面12へと連続している。
【0041】
軸方向端面25~27は、ドリル1の先端側の面である。軸方向端面25は、回転方向Dの下流側に位置しており、すくい面22と隣接している。軸方向端面27は、回転方向Dの上流側に位置しており、壁面24と隣接している。軸方向端面26は、軸方向端面25と軸方向端面27との間に位置している。軸方向端面26の面積は、軸方向端面25および27の各々の面積よりも広い。軸方向端面26には潤滑剤を供給するための供給穴28が設けられている。
【0042】
軸方向端面15~17および25~27は、本体2の先端2aを中心とした錐体状を構成している。
【0043】
なお、軸方向端面15とマージン部13aとの境界線、および軸方向端面25とマージン部23aとの境界線の各々は、平面状や曲面状に面取りされていてもよい。マージン部13cおよび23cは設けられていなくてもよい。
【0044】
すくい面12および22は被覆層で被覆されていてもよい。この被覆層は、たとえばTiNやTiCNなどよりなり、PVD(Physical Vapor Deposition)法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて形成されてもよい。また、すくい面12および22の他、軸方向端面15および25、ならびにマージン部13aおよび23aなどもこの被覆層で被覆されていてもよいし、刃部10全体がこの被覆層で被覆されていてもよい。
【0045】
[溝の内周面の形状]
【0046】
次に、溝31および32の各々の内周面33の形状について説明する。
【0047】
図2~
図4を参照して、溝31の内周面33と本体2の外周面との回転方向Dの上流側の境界(言い換えれば刃先12a)を境界BD1(第1の境界の一例)とし、溝31の内周面33と本体2の外周面との回転方向Dの下流側の境界(言い換えればマージン部23cと壁面24との境界)を境界BD2(第2の境界の一例)とする。溝32の内周面33と本体2の外周面との回転方向Dの上流側の境界(言い換えれば刃先22a)を境界BD3(第3の境界の一例)とし、溝32の内周面33と本体2の外周面との回転方向Dの下流側の境界(言い換えればマージン部13cと壁面14との境界を境界BD4(第4の境界の一例)とする。また、回転軸AXと直交する断面で見た場合に、溝31に沿って境界BD1から境界BD2に向かう方向、および溝32に沿って境界BD3から境界BD4に向かう方向を方向Gとする。
【0048】
溝31および32の各々の内周面33は、刃先面41(刃先面の一例)と、内周面331(第1の内周面の一例)と、内周面332(第2の内周面の一例)と、内周面333(第3の内周面の一例)とを含んでいる。刃先面41は方向Gの最上流側の内周面である。内周面331は方向Gの下流側で刃先面41と隣接している。内周面332は、方向Gの下流側で内周面331と隣接している。内周面333は、方向Gの下流側で内周面332と隣接している。
【0049】
刃先面41、内周面331、内周面332、内周面333の各々は、砥石を用いて本体2の外周面を削ることにより形成されている。特に内周面332は、内周面331および内周面333が形成された後で、内周面331と内周面333との境界に生じる凸部を砥石により凹形状に削ることにより形成されている。このため、回転軸AXと直交する断面で見た場合に、内周面331の長さおよび第2の内周面333の長さは、それぞれ内周面332の長さよりも長い。
【0050】
図2を参照して、回転軸AX方向のランド部の始点となる位置である位置P1において、境界BD1、BD2、BD3、およびBD4の各々は、回転軸AXを中心として89度以上91度以下の角度の間隔で設けられている。これにより、境界BD1、BD2、BD3、およびBD4の各々が略等間隔となり、切削加工を行う際に本体2を安定して回転させることができる。
【0051】
[本体の心厚および溝幅比]
【0052】
次に、本体2の心厚および溝幅比について説明する。
【0053】
図5は、本発明の一実施の形態における回転軸AX方向の本体2の溝形成領域RGの心厚WBの変化を示す図である。
【0054】
図1および
図5を参照して、溝形成領域RGは、溝形成領域RG1(第1の溝形成領域および第1の心厚領域の一例)と、溝形成領域RG2(第2の溝形成領域および第2の心厚領域の一例)と、溝形成領域RG3とを含んでいる。溝形成領域RG1は、溝形成領域RG内の本体2の先端2aに最も近い側に設けられた領域である。溝形成領域RG2は、回転軸AXに沿った本体2の後端2b側(先端2aの側とは反対側、
図5中右側)で溝形成領域RG1と隣接する領域である。溝形成領域RG3は、回転軸AXに沿った本体2の後端2b側で溝形成領域RG2と隣接する領域であり、本体2の先端2a側から最も遠い側に設けられた領域である。溝形成領域RG3は、溝31および32の各々が切り上がっている領域である。
【0055】
溝形成領域RGにおける本体2の心厚WBは、回転軸AXに沿って本体2の先端2a側から後端2b側に向かって増加している。なお、本体2の心厚WBとは、本体2の回転軸AXを含む部分の最小の直径である。
【0056】
具体的には、溝形成領域RG1における本体2の心厚WBは、回転軸AXに沿って本体2の先端2a側から後端2b側に向かって(位置P1から位置P2に向かって)一定の増加率C1で増加している。溝形成領域RG2における本体2の心厚WBは、回転軸AXに沿って本体2の先端2a側から後端2b側に向かって(位置P2から位置P3に向かって)一定の増加率C2(>C1)で増加している。溝形成領域RG3における本体2の心厚WBは、回転軸AXに沿って本体2の先端2a側から後端2b側に向かって(位置P3から離れるに従って)増加率C2を超える急激な増加率で増加している。一例として、増加率C1は、回転軸AX方向の長さ100mm当たりの増加量が0mmより大きく3mm以下となる増加率であり、増加率C2は、回転軸AX方向の長さ100mm当たりの増加量が3mmより大きくなる増加率である。
【0057】
図6は、回転軸AX方向の溝形成領域RGの溝幅比の変化を示す図である。
【0058】
図2~
図4および
図6を参照して、回転軸AXと直交する断面において、本体2の外周面に沿った溝31および32が形成されていない部分(ランド部)の幅W2に対する、本体2の外周面に沿った溝31および32の幅W1の比(W1/W2)を溝幅比とする。溝形成領域RG1の溝幅比(W1/W2)は、回転軸AXに沿って本体2の先端2a側から後端2b側に向かって(位置P1から位置P2に向かって)増加している。一方、溝形成領域RG2における溝幅比(W1/W2)は、回転軸AXに沿って本体2の先端2a側から後端2b側に向かって(位置P2から位置P3に向かって)減少している。溝幅比(W1/W2)は、たとえば1.0以上1.5以下の範囲内で変動する。
【0059】
ここで、
図2に対応する位置P1は、溝形成領域RG1の端部の位置である。
図3の断面図に対応する位置P2は、溝形成領域RG1と溝形成領域RG2との境界の位置である。
図4の断面図に対応する位置P3は、溝形成領域RG2と溝形成領域RG3との境界の位置である。
図3に示す位置P2での溝幅比(W1/W2)は、
図2に示す位置P1での溝幅比(W1/W2)よりも大きくなっている。
【0060】
[切刃部の構成]
【0061】
続いて、切刃部11の構成について詳細に説明を行う。切刃部21の構成については、切刃部11の構成と同一であるため、その説明を繰り返さない。
【0062】
【0063】
図3および
図7を参照して、すくい面12は、刃先面41と、本体刃面としての内周面331(本体刃面の一例)とを含んでいる。刃先面41は、すくい面12の刃先12aに設けられており、マージン部13a(本体2の外周面)と隣接している。内周面331は、刃先面41と隣接しており、刃先面41よりも内径側に設けられている。位置PO1は、刃先面41と内周面331との境界点である。刃先面41は、
図7の断面で見た場合に円弧形状の曲面を有しており、曲率半径R1を有している。内周面331は、
図7の断面で見た場合に円弧形状の曲面を有しており、曲率半径R2を有している。刃先面41の曲率半径R1は、内周面331の曲率半径R2の0.9倍以上の大きさであり、内周面331の曲率半径R2の1.1倍以下の大きさである(0.9R2≦R1≦1.1R2)ことが好ましい。曲率半径R1およびR2の各々は、たとえば2.1mm以上2.5mm以下である。
【0064】
特に曲率半径R1と曲率半径R2との関係を上述のように設定した場合には、同一の砥石を用いて刃先面41および内周面331を形成することができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0065】
回転軸AXと刃先12a(すくい面12の外径側端部)とを結ぶ直線を刃先中心線LNとする。なお、刃先中心線LNは刃先22a(すくい面22の外径側端部)も通過する。刃先中心線LNは、ドリル1が被切削物を切削する際に被切削物に対して力を及ぼす中心線となる。
【0066】
以降、刃先中心線LNを基準として回転方向Dの下流側(すくい面12付近の刃先中心線LNにおける
図7中右側)をネガ(ネガティブ)側、回転方向Dの上流側(すくい面12付近の刃先中心線LNにおける
図7中左側)をポジ(ポジティブ)側と記すことがある。
【0067】
すくい面12における最内径側の部分(壁面24と隣接する部分)は、ネガ側に存在している。すくい面12は、回転方向Dの上流側に向かって窪んでいるため、すくい面12と刃先中心線LNとは位置PO2において交差する。すくい面12における位置PO2から刃先12aまでの部分(位置PO1および刃先面41全体を含む部分)は、ポジ側に存在している。
【0068】
刃先中心線LNに沿ったすくい面12における位置PO2から刃先12aまでの部分の長さ(幅)Hの、ドリル1の半径RAに対する比率(すくい比率)は、55%以上65%以下(0.55RA≦H≦0.65RA)であることが好ましい。長さHが上記範囲にある場合には、内周面331の曲がり具合が急になる(内周面331の曲率半径R2が小さくなる)ため、刃先12aが回転方向Dの下流側へ一層突出した構成となる。本実施の形態では、このような構成であっても刃先12aの欠けを防ぐことができる。
【0069】
刃先中心線LNに沿った刃先面41の長さ(幅)Tは、ドリル1の半径RAに関わらず0より大きく1.0mm以下(0<T≦1.0mm)、好ましくは0.2mm以上0.3mm以下(0.2mm≦T≦0.3mm)という一定の範囲に設定されてもよい。
【0070】
[実施の形態の効果]
【0071】
次に、本実施の形態におけるドリル1の効果について説明する。
【0072】
本実施の形態によれば、溝形成領域RGにおける本体2の心厚WBが回転軸AXに沿って位置P1から位置P3に向かって増加しているので、後端側での本体2の心厚を厚くすることができ、剛性の低下を抑止することができる。また、溝形成領域RG1の溝幅比(W1/W2)が回転軸AXに沿って位置P1から位置P2に向かって増加しているので、回転軸AXに沿って位置P1から位置P2に向かって本体2の心厚WBが増加することに伴う溝31および32の深さの減少を、溝31および32の幅W1の増加によって補うことができる。これにより、溝31および32の容積を確保することができ、切り屑の排出性能を向上することができる。その結果、高精度の穴を被切削物に形成することのできるドリルを実現することができる。
【0073】
また、位置P1から位置P3に向かって内周面331と内周面333との位置関係を徐々に変えることにより、溝形成領域RG1の溝幅比(W1/W2)を回転軸AXに沿って位置P1から位置P3に向かって連続的に変化させることが容易になる。内周面331と内周面333との間に内周面332を設けることにより、内周面331と内周面333との境界に発生する凸部をなだらかにすることができ、切り屑の排出性能を向上することができる。
【0074】
本実施の形態によれば、溝31および32の各々の内周面を3つの内周面331~333で構成することで、溝のネジレ角度に関係なく、溝幅比を自由自在に変化させることができる。その結果、ウェブテーパーを設けることで剛性を確保しつつ、切り屑を滑らかに排出することができ、切削時のトルクを従来よりも低くすることができる。
【0075】
溝形成領域RG2は、溝形成領域RG2よりも先端2a側に存在する溝形成領域RG1と比較して、被切削物と直接接触する可能性が低いので、切り屑が外部に比較的排出されやすく、切り屑の排出性能の低下の問題が生じにくい。本実施の形態では、溝形成領域RG2における本体2の心厚WBの増加率が溝形成領域RG1における本体2の心厚WBの増加率よりも大きく、溝形成領域RG2における溝幅比(W1/W2)が、回転軸AXに沿って位置P2から位置P3に向かって減少している。これにより、溝形成領域RG2において、本体2の剛性を向上することができる。
【0076】
加えて、本実施の形態の刃先面41によれば、以下の効果を得ることができる。
【0077】
図8および
図9は、従来のドリルにおけるすくい面112の構成を示す断面図である。なお、
図8および
図9は、すくい面112における
図7に対応する部分の断面図である。
【0078】
図8を参照して、従来のドリルにおけるすくい面112は、外径側端部の刃先112aに設けられた刃先面141と、刃先面141よりも内径側に設けられた内周面(本体刃面)142とを含んでいる。刃先112aの欠けを抑止し寿命を向上する目的で、刃先112aは面取りされている。刃先面141は、直線状の断面形状を有しており、刃先面141と内周面142との境界点である位置PO101から刃先112aに向かってポジ側に窪んでいる。その結果、すくい面112における位置PO101付近の部分はネガ側に突出する。
【0079】
図8に示すドリルの構成ではすくい角αが鈍角となるため、被切削物を切削する際に被切削物に対して刃先112aが鋭利な角度で当たらない。このため、被切削物に対して力が加わりにくく、切れ味が悪い。
【0080】
図9を参照して、一方、このドリルのすくい面112では、刃先112aはドリルの外周面に対して直角に面取りされている。刃先面141は、直線状の断面形状を有しており、刃先中心線LNに沿って延在している。
【0081】
図9に示すドリルの構成では、すくい角αが直角となるため、被切削物を切削する際に、
図8に示すドリルの場合よりも被切削物に対して力が加わり易くなる。一方で、刃先面141が刃先中心線LNに沿って延在しているので、被切削物を切削する際に、刃先面141全体が被切削物から一様に負荷を受ける。その結果、刃先112aが受ける荷重が大きくなり、刃先112aが欠けやすくなる。
【0082】
図10は、本発明の一実施の形態におけるドリル1において、刃先面41が被切削物に当接する様子を模式的に示す断面図である。
【0083】
図10を参照して、一方、本実施の形態のドリル1において、回転軸AXと直交する断面で見た場合に、刃先面41は曲面であり、位置PO1はポジ側に位置している。これにより、すくい角αが鋭角となり、被切削物を切削する際に被切削物に対して刃先12aが鋭利な角度で当たる。その結果、被切削物に対して力が加わり易くなり、切れ味を向上することができる。
【0084】
また、従来のドリルにおいては、切刃稜線部に欠け防止のための刃先処理が施されているために切味が低下し、ドリルを用いて被切削物を切削する際に必要なスラスト方向の力が大きくなっていた。このため、ドリルを用いて被切削物に貫通穴を形成した場合に、貫通穴におけるドリルの抜け側にバリが発生していた。本実施の形態のドリルによれば、切れ味が向上するため、被切削物に貫通穴を形成した場合に、貫通穴におけるドリルの抜け側に発生するバリを抑制することができる。
【0085】
また、刃先面41が曲面であるため、被切削物を切削する際に、刃先面41は矢印ARで示すように、刃先12aから位置PO1に向かって徐々に被切削物に当接する。刃先12aが被切削物から受ける負荷は、矢印ARで示す方向に沿って刃先面41全体に分散される。これにより、刃先12aが欠けにくくなり、ドリル1の寿命の低下を抑止することができる。
【0086】
[実施例]
【0087】
続いて、本発明の一実施例について説明する。
【0088】
本願発明者は、本発明例および比較例の2種類のドリルを用いて、被切削物に対して切削加工(貫通穴加工)を行い、切削性を評価した。被切削物としては、クロムモリブデン鋼(JIS(Japanese Industrial Standards)に規定されるSCM415)を用いた。
【0089】
本発明例:
図1~
図4に示す形状を有するドリルを準備した。
【0090】
比較例:溝幅比は一定であった。本体の心厚が回転軸に沿って先端側から後端側に向かって単調減少していた。溝の内周面が切刃部と単一の曲面とで構成され、切刃部が
図8の形状を有していた。
【0091】
本発明例および比較例のドリルの工具径は6.4mmであり、被切削物の加工深さは5D(Dは形成する穴の外径)であった。加工時のドリルの周速Vは120m/minであり、切削速度Fは895mm/minであった。加工時にはドリルの外部および内部から被切削物の加工部分に対して切削加工液(クーラント)を注入した。
【0092】
切削性の評価結果は次の通りであった。
【0093】
本発明例:切刃部が被切削物に進入する際にドリルを安定して保持することができ、安定した加工を行うことが容易であった。切り屑の排出性能は良好であり、本体の溝に切り屑詰まり、巻付きがなかった。加工後、被切削物におけるドリルの抜け側端面においてバリは従来ドリルより1/2以下と小さく抑制された。加工面の面粗さが従来ドリルより1/2以下と良く、穴公差はH7以下という値であった。1穴目の切削時のトルクは174.9(N・cm)という小さい値であった。このトルクの値は、比較例の1穴目の切削時のトルクと比較して10%以上小さい値であった。被切削物に対して1000個の穴を形成する切削加工を行った結果、1000穴目の切削時のトルクは191.7(N・cm)という小さい値であった。このトルクの値は、比較例の1穴目の切削時のトルクの値と同等以下の値であった。これにより、位置P1における切刃エッジ部の損傷を抑制することが可能であることが分かる。
【0094】
比較例:切刃部が被切削物に進入する際にドリルを安定して保持することが難しく、安定した加工を行うことが難しかった。切り屑の排出性能が悪く、本体の溝に切り屑の巻付きがあった。加工後には、被切削物におけるドリルの抜け側端面において、形成された穴の周囲に環状のバリが発生した。加工面の面粗さが悪く、穴公差はH7より大きい値であった。1穴目の切削時のトルクは194.4(N・cm)という大きい値であった。
【0095】
[その他]
【0096】
上述の実施の形態では、第1の溝形成領域と第1の心厚領域とが一致し、第2の溝形成領域と第2の心厚領域とが一致する場合について示した。第1の溝形成領域と第1の心厚領域とが互いに異なり、第2の溝形成領域と第2の心厚領域とが互いに異なっていてもよい。
【0097】
切刃部11および21、ならびに溝31および32の各々の形状は任意であり、上述のように回転軸AXを中心とする螺旋状である場合の他、回転軸AXに沿って直線状に延在していてもよい。また、回転軸AXと直交する断面で見た場合に、切刃部11および22の各々は回転軸AXに対して等間隔に配置されていてもよいし、回転軸AXに対して不等間隔に配置されていてもよい。
【0098】
切刃部21は、切刃部11と異なる構成を有していてもよい。
【0099】
刃先面41は、上述のように回転軸AXに沿ったすくい面12全体に設けられていてもよいし、すくい面12の一部のみに設けられていてもよい。刃先面41は、たとえば軸方向端面15の付近のすくい面12のみに設けられていてもよいし、2段ドリルにおいて先端側の切刃部には設けられず、後端側(シャンク部側)の切刃部のみに設けられていてもよい。
【0100】
上述の実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1 ドリル(ドリルの一例)
2 本体(本体の一例)
2a 本体の先端
2b 本体の後端
10 刃部
11,21 切刃部(切刃部の一例)
12,22,112 すくい面(すくい面の一例)
12a,22a,112a 刃先
13a,13c,23a,23c マージン部
13b,23b 逃げ面
14,24 壁面
15~17,25~27 軸方向端面
18,28 供給穴
31,32 溝(溝の一例)
33,142 溝の内周面
331,332,333 溝の内周面(第1、第2、および第3の内周面、ならびに本体刃面の一例)
41,141 刃先面(刃先面の一例)
50 シャンク
AX 回転軸
BD1,BD2,BD3,BD4 境界(第1、第2、第3、および第4の境界の一例)
D ドリルの回転方向
LN 刃先中心線
P1,P2,P3 回転軸方向の位置
PO1,PO101 刃先面と本体刃面との境界点
PO2 すくい面と刃先中心線との交差点
RG,RG1,RG2,RG3 溝形成領域(溝形成領域、第1および第2の溝形成領域、ならびに第1および第2の心厚領域の一例)
W1 本体の外周面に沿った溝の幅
W2 本体2の外周面に沿った溝が形成されていない部分の幅
WB 本体の心厚
α すくい角