(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】物体の少なくとも1つのパラメータを決定する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/41 20060101AFI20220912BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20220912BHJP
G01S 13/32 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
G01S7/41
G01S13/931
G01S13/32
(21)【出願番号】P 2020528203
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2018086198
(87)【国際公開番号】W WO2019122130
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】102017131114.9
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501476454
【氏名又は名称】エス・エム・エス・スマート・マイクロウェーブ・センサーズ・ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】In den Waashainen 1,38108 Braunschweig,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】メンデ、ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】バイラウフ、クリストフ
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517104(JP,A)
【文献】特開2016-003873(JP,A)
【文献】特開2018-205174(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0259037(US,A1)
【文献】特表2017-522548(JP,A)
【文献】特開2017-129410(JP,A)
【文献】Samuele Capobianco et al.,"Vehicle classification based on convolutional networks applied to FM-CW radar signals",arXiv,2017年10月,arXiv:1710.05718v3 [cs.CV] ,pp.1-13,https://arxiv.org/abs/1710.05718, DOI:10.48550/arXiv.1710.05718,< URL: https://arxiv.org/pdf/1710.05718.pdf >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の少なくとも1つのパラメータを決定する方法において、前記方法は次の各ステップを有し、
a.)レンジドップラーマトリクスが準備され、
ここで、前記準備は、次の各ステップを有し、
i.受信信号が受信され、
ii.前記受信信号が送信信号と混合されてベースバンド信号となり、
iii.ベースバンド信号からレンジドップラーマトリクスが算出され、前記送信信号は好ましくは前記受信信号の受信前に発信される、
b.)
前記レンジドップラーマトリクスから、少なくとも1つの局所的な最大値を含む、反射エネルギーを有する少なくとも1つのゾーンが選択されて、ニューラルネットワークに送られ、
c.)少なくとも1つのパラメータが、
前記少なくとも1つのゾーンの内部にある少なくとも1つの局所的な最大値を単一の物体に割り当てることにより、前記ニューラルネットワークによって判定され、
前記物体は交通関与者である、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの前記パラメータは、測定場所に対して相対的な距離および/またはラジアル速度、少なくとも1つの空間方向における物体の広がり、物体の物体速度、少なくとも1つの分類指標および/または物体の分類、および/または反射エネルギーを有するゾーンの物理的な物体への割り当てであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
送信信号の発信および/または受信信号の受信のために複数のアンテナが利用されることを特徴とする、請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記パラメータに加えて、判定されたパラメータの品質の見積りも決定されることを特徴とする、請求項1から
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法を実施する装置において、前記装置は前記方法を実施するためにセットアップされた少なくとも1つの電子データ処理装置を有している装置。
【請求項6】
前記装置はレーダ放射のための少なくとも1つの送信アンテナと少なくとも1つの受信アンテナとを有することを特徴とする、請求項
5に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の少なくとも1つのパラメータを決定する装置、特にレーダセンサ、および方法に関し、この方法ではレンジドップラーマトリクスが準備され、物体は交通関与者である。
【背景技術】
【0002】
このような種類の方法は、現在、特に交通監視のために従来技術から知られている。物体はたとえば交通関与者であり、特に歩行者、自転車走行者、自動車もしくは貨物自動車、またはバスである。このような種類の方法を実施するために利用できるセンサは、少なくとも1つの送信アンテナにより、レーダビームの形態の送信信号を発信する。少なくとも1つのパラメータが決定されるべき物体でレーダ放射が反射される。センサは追加的に少なくとも1つの受信アンテナを備えていて、物体で反射された送信信号の形態で受信信号を受信する。レーダ送信器と受信器は測定場所にある。変調された適当なレーダ信号を用いて、たとえば多数の周波数ランプの形態で、この測定場所に対して相対的な物体の距離とラジアル速度を、ただ1つの測定サイクルで決定することが知られている。このとき、たとえば2つまたはそれ以上の異なる種類の周波数ランプが利用される。異なる種類の周波数ランプは少なくとも1つのパラメータに関して、たとえば周波数偏移、スタート周波数、終了周波数、またはランプ勾配などに関して区別される。受信された受信信号が送信信号と混合されてベースバンド信号となり、これが引き続いて評価される。このとき、少なくとも1つのいわゆるレンジドップラーマトリクスが作成される。
【0003】
これ以外の変調方式も可能である。
【0004】
このような種類のセンサは定置式に、たとえば通行路に、あるいは移動式に、たとえば自動車に配置することができる。
【0005】
レンジドップラーマトリクスの計算にあたっては、通常、高速フーリエ変換(FFT)が実行される。第1のFFT(レンジFFT)はランプごとに行われ、それによりたとえば256個のランプの場合には第1のFFTの256個の周波数スペクトルが存在するのに対して、第2のFFT(ドップラーFFT)は、各々の距離値(「距離ゲート」)について実行されるのが好ましい。ただし、選択された距離値についてのみ第2のFFTを実行することも可能である。たとえば、反射がすでに検出されている距離ゲートを選択することができる。両方のFFTの結果を、レンジドップラーマトリクス(RDM)に表すことができる。このような種類のレンジドップラーマトリクスの計算は当業者に周知である。別の変調方式が利用される場合、レンジドップラーマトリクスの計算を別の仕方で行うことができる。
【0006】
レンジドップラーマトリクスは、これを元にして物体の距離を通常は一義的に認識可能かつ読取可能であるものの、反射されたレーダ放射のドップラー偏移を通じて判定される速度は、通常、一義的に割り当てることができないという欠点がある。ドップラー次元では、レンジドップラーマトリクスは通常多義的であり、制約された一義性範囲しか備えていない。
【0007】
従来技術より、利用可能なドップラー評価範囲を拡張することができる方法が知られている。たとえばドイツ特許出願公開第102012008350A1号明細書は、異なる種類の周波数ランプを送信放射として利用することを提案している。先公開されていないドイツ特許出願公開第102017105783A1号明細書は、このような異なる種類の周波数ランプを同時に送信することを提案している。これら両方の方法は、一義性インターバルが決定されることによって、ドップラー次元でレンジドップラーマトリクスの利用可能なドップラー評価範囲が拡張されるという帰結を有する。そのために、異なる種類の周波数ランプについて別々のマトリクスが形成されるか、または、異なる種類の周波数ランプの信号が共通のマトリクスで同時に評価される。このようにして利用可能なドップラー評価範囲を、それが適用ケースについて完全に一義的である程度にまで場合により拡張できるとしても、マトリクスは引き続き限られた一義性範囲しか備えていない。
【0008】
現代の用途では、物体の距離および/またはレーダ速度のみを決定するだけではしばしば十分でない。むしろ、上記のパラメータの追加または代替として、それ以外のパラメータもしばしば決定されなければならない。たとえば交通量カウントや交差点での信号切換のためには、物体を特定の分類に割り当てることが重要である。たとえば、乗用車を自転車走行者や貨物自動車から区別することが希望されることがあり得る。
【0009】
このような情報は、通常、レンジドップラーマトリクスから読み取ることができない。
【0010】
2017年10月31日付けarXiv:1710-05718v3の記事“Vehicle Classification based on convolutional networks applied to FM-CW radar Signals”より、測定信号をフーリエ変換によって周波数スペクトルへと移行させ、これをニューラルネットワークに送ることが知られている。当該ケースでは「畳み込みニューラルネットワーク」であるニューラルネットワークは、人工知能の分野のコンピュータテクノロジーでマシンラーニングの分野を革新した人工ネットワークである。人工脳に類似して、このような種類のコンピュータプログラムはこれに送られたデータから特定の数学的方法によって複雑かつ高価値な情報を読み取って認識し、これを基準情報に割り当てることができる。それにより、「学習したこと」を後の時点で応用し、後の時点で送られた測定値やデータから、所望の情報を読み取ることがネットワークに可能となる。ただしそのためには、ニューラルネットワークに送られる測定信号または測定データと、決定されるべき基準情報、たとえば物体の分類などとの間に、一義的な関係があることが必要である。送られたデータや情報によって2つのパラメータを互いに分けることができなければ、区別を学習することがニューラルネットワークにも可能でない。
【0011】
米国特許出願公開第2016/0019458A1号明細書より、レーダ画像(“synthetic aperture radar、SAR”)から、交通物体に関する、このケースでは飛行物体に関する情報を判定するために、このような種類のニューラルネットワークが利用される方法が公知である。その場合にも、レーダデータと、認識されるべき物体およびそのそれぞれの分類との間に一義的な関係があることが必要である。しかしこのような評価は、レンジドップラーマトリクスをベースとするものではない。
【0012】
たとえば「畳み込みニューラルネットワーク」や「ディープニューラルネットワーク」などの人工ニューラルネットワークの利用は、数多くの利点を有する。このような種類のネットワークがなければ、パラメータや規則を指定して、情報と測定データの評価を担当するコンピュータがこれらを参照してそれぞれ異なるパラメータを認識し、確実に割り当てることができるようにしなければならない。このことは、人工ニューラルネットワークを利用した場合、適用される数学的演算によって行われ、区別基準や規則を手作業で作成してコンピュータに入力する必要がない。評価されるべきレーダデータと、認識されるべき物体、パラメータ、および物体分類との間に一義的な関係が存在しなければならないので、レンジドップラーマトリクスは、ニューラルネットワークによって評価されるのにはあまり適さないように思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】ドイツ特許出願公開第102012008350A1号明細書
【文献】ドイツ特許出願公開第102017105783A1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0019458A1号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】2017年10月31日付けarXiv:1710-05718v3の記事“Vehicle Classification based on convolutional networks applied to FM-CW radar Signals”
【発明の概要】
【0015】
本発明の課題は、物体の少なくとも1つのパラメータを決定する方法をさらに改良して、簡単、迅速、かつ確実に実行できるようにすることである。
【0016】
本発明は、物体の少なくとも1つのパラメータを決定する方法によって課せられた課題を解決し、この方法は次の各ステップを有する:
a.)レンジドップラーマトリクスが準備され、
b.)レンジドップラーマトリクスの少なくとも1つの部分がニューラルネットワークに送られ、
c.)ニューラルネットワークによって少なくとも1つのパラメータが判定される。
【0017】
ニューラルネットワークはニューロナルネットワークとも呼ばれ、たとえば「畳み込みニューラルネットワーク」(CNN)または「ディープニューラルネットワーク」(DNN)または「リカレントニューラルネットワーク」(RNN)であってよい。
【0018】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのパラメータは、測定場所に対して相対的な距離および/またはラジアル速度、少なくとも1つの、好ましくは3つの空間方向における物体の広がり、物体の物体速度、少なくとも1つの分類指標および/または物体の少なくとも1つの分類、または反射エネルギーを有するゾーンの物理的な物体への割り当てである。したがって、たとえば物体の長さおよび高さを決定し、そこから分類指標に関する推定および/またはたとえば特に車両などの交通関与者の総合的分類を判定し、好ましくは出力することが可能となる。
【0019】
本発明が依拠する驚くべき知見は、ニューラルネットワークによってレンジドップラーマトリクスを評価可能であるということにある。たとえば、上に述べた方法により、レンジドップラーマトリクス(それ自体として多義的な距離情報および/または速度情報を含む)の利用可能なドップラー評価範囲を、それがたとえば観察されるべき物体のラジアル速度の関心の対象となる範囲全体をカバーする程度まで、すなわち適用ケースについて完全に一義的となる程度まで、拡張することが可能である。たとえば貨物自動車のラジアル速度の認識のためには、通常、0km/hから100km/hの間の速度を一義的に決定することを可能にする評価範囲をレンジドップラーマトリクスが有していれば十分である。通行路でこれ以上の速度を有する貨物自動車に出会う蓋然性はわずかであり、したがって、レンジドップラーマトリクスの利用可能なドップラー評価範囲は、関心の対象となるパラメータ空間全体をカバーしている。
【0020】
利用可能なドップラー評価範囲を拡張するためのすでに説明した方法の代替または追加として、別の方式を適用することもできる。そのために各々の物体に、単一のピークすなわち局所的な最大値が割り当てられるのではなく、レンジドップラーマトリクスの比較的広い区域または領域が割り当てられる。従来技術から知られる方法ではレンジドップラーマトリクスにおいて、送信信号を反射する物体がレンジドップラーマトリクスで1つの点またはピークとして、すなわち局所的な最大値として認識されることが前提とされるが、このことは、特に広がりのある物体の場合には必ずしも妥当でない。特に空間的に高い分解能をもつレーダセンサが使用される場合、物体のそれぞれ異なる部分が、それぞれ異なる局所的な最大値としてレンジドップラーマトリクスで認識されることがあり得る。発信された送信信号が、物体のそれぞれ異なる個所で反射されるからである。たとえば、貨物自動車の場合に送信信号の一部が牽引車のウィンドシールドガラスで反射されることが起こり得る。送信信号の他の部分がセミトレーラやコンテナの正面壁によって反射され、それに対して送信信号の第3の部分はたとえばセミトレーラの回転するホイールによって反射される。当然ながら、これ以外の追加の反射点も考えられる。
【0021】
同様に、発信された送信信号のそれぞれ異なる割合が、比較的小さな物体の場合にも、物体の異なる部分と位置で反射されることがあり得る。したがってレンジドップラーマトリクスでは、観察される物体がしばしば点状ではなく、距離および/またはドップラー周波数に関して広がっていて、反射エネルギーを有するゾーンを形成することがあり得る。
【0022】
興味深いことに、個々の局所的な最大値は、レンジドップラーマトリクスのレンジ軸に沿って互いに分離されない。当然ながら、たとえば貨物自動車のウィンドシールドガラスは、セミトレーラやコンテナの正面壁、あるいはセミトレーラのホイールなどとは異なる距離を測定場所に対して有している。しかし、貨物自動車が正確に測定場所に向かって接近してくるのでない限り、ドップラー周波数偏移は反射をする物体のラジアル速度を表す目安となるので、半径方向への物体速度の投影だけが測定される。ただしこのような投影には、半径方向と物体の進行方向との間の角度のコサインが入り込む。しかしこの角度は、特に広がりのある物体のそれぞれ異なる点について相違するので、広がりのある物体の異なる位置についてそれぞれ異なるラジアル速度が有効となり、そのため、個々の局所的な最大値も、レンジドップラーマトリクスのドップラー次元に沿って変位して広がる。
【0023】
そこから適切な解釈によって、ドップラー次元でのレンジドップラーマトリクス多義性の完全な除去がもたらされる。反射をする広がりのある物体のそれぞれの局所的な最大値の、またはその他の特徴的な特性の、レンジドップラーマトリクスにおける間隔と長さは物体の速度に依存するので、たとえレンジドップラーマトリクスが本来は多義的であるとしても、反射エネルギーを有するゾーンの間隔およびこれに伴って幅および/または形状から、一義的な速度を推定することができる。ただし、このような利点を利用できるようにするためには、反射をする広がりのある物体をレンジドップラーマトリクスにおける単一の最大値として認識するのでなく、「反射エネルギーを有するゾーン」を決定し、このような種類の反射エネルギーを有するゾーンの内部にある、レンジドップラーマトリクスのそれぞれ異なる局所的な最大値またはその他のセルを、単一の物体に割り当てるのが好ましい。このようにしても、レンジドップラーマトリクスの一義性範囲をドップラー方向に拡張し、最善のケースでは多義性を完全に除去することができ、それにより、レンジドップラーマトリクスがこのケースではニューラルネットワークの評価アルゴリズムにもアクセス可能である。1つの適切な解釈は、このケースでは、レンジドップラーに由来する反射エネルギーを有するゾーンをニューラルネットワークで分析することにある。
【0024】
反射エネルギーを有するレンジドップラーマトリクスのセルが含む、反射エネルギーを有するゾーンを用いて物体が識別されるこの方法は、広がりのあるレーダ放射の適切な変調によって利用可能なドップラー評価範囲が拡張される方法と組み合わせることができるのが好ましい。
【0025】
原則として、距離の多義性の解消もニューラルネットワークによって可能である。
【0026】
レンジドップラーマトリクスの準備は次の各ステップを有するのが好ましい:
i)受信信号が受信され、
ii)受信信号が送信信号と混合されてベースバンド信号となり、
iii)ベースバンド信号からレンジドップラーマトリクスが算出され、
送信信号は好ましくは受信信号の受信前に発信される。送信信号は、少なくとも1つの送信アンテナを備えるセンサから発信されるのが好ましい。ただし、これは必須ではない。本方法を「パッシブレーダ」として実施するという選択肢もある。このケースでは、もともと発信される送信信号が利用され、したがってセンサは送信信号を発信することができなくてよい。しかしながら、送信信号が既知であることが必要である。その場合、センサで基準信号を生成またはシミュレートできるのが好ましく、受信された受信信号がこの基準信号と混合される。こうして生成されたこのベースバンド信号から、引き続きレンジドップラーマトリクスが算出される。
【0027】
当然ながら、センサは送信信号を発信して受信信号を受信するようにセットアップされていてもよい。そのためにセンサは、少なくとも1つの送信アンテナと少なくとも1つの受信アンテナとを有する。
【0028】
レンジドップラーマトリクスの決定は従来技術から知られており、周知の方法に従って実行することができる。
【0029】
送信信号は、交互または同時に送信される、少なくとも2つの異なる種類の周波数ランプを有するのが好ましい。このとき異なる種類の周波数ランプは、それぞれの周波数ランプが始まるスタート周波数に関して区別される。周波数ランプの勾配と周波数ランプの長さは、両方の異なる種類の周波数ランプ種類について同じであるのが好ましい。しかし当然ながら、このような異なる種類の周波数ランプがパラメータ差を有することもできる。
【0030】
両方の周波数ランプ種類によって発生するベースバンド信号のドップラー周波数および/または位相情報は、ラジアル速度の決定にあたって多義性が除去されるように評価されるのが好ましい。このとき、従来技術の上掲の文献から知られている方法が援用されるのが好ましい。
【0031】
送信信号を発信するために、および/または受信信号を受信するために、複数のアンテナが利用されるのが好ましい。このようにして、センサの角度分解能を大幅に改善することができる。たとえば送信アンテナから信号が反射されて、それぞれ異なる受信アンテナへと戻るために要する相違する進行時間から、物体の位置に関する角度情報を得ることができるからである。それに伴い、測定場所からの物体の距離だけでなく、測定物体が存在している方向も決定することができる。このことも、特に広がりのある物体について好ましい。そのようにして、物体の向きおよび/または速度ベクトル、およびこれに伴って特に車両の場合には走行方向も決定することができるからである。
【0032】
このことは、単一の測定サイクルでも可能であり得る。レンジドップラーマトリクスの相違する局所的な最大値、または反射エネルギーを有するゾーンを、物体の相違する位置に、たとえば貨物自動車の相違する位置に割り当てることができれば、物体のこれらの相違する位置が検出された相違する方向から、物体の向きおよびこれに伴って物体の走行方向も決定することができる。こうして決定された情報を、さらなる評価のために、たとえば交差点の制御、統計的な把握、あるいは個々の交通関与者の違反行動の追跡のために援用することができる。このようにして、たとえばトラッキング情報すなわち交通物体や交通関与者の追跡を、複数の測定サイクルで構成される測定時間帯にわたって最適化することができる。
【0033】
少なくとも1つのパラメータに加えて、判定されたパラメータの品質の見積りも決定されるのが好ましい。たとえば、ある物体を特定の車両分類として特徴づけて分類することができる。それと同時に、こうして判定されたパラメータの結果がどの程度信頼できるかが確率の形態で表される。このことも、たとえばCNNやDNNなどのニューラルネットワークによって可能である。
【0034】
さらに本発明は、このような種類の方法を実施する装置によって、課せられた課題を解決し、この装置は、本方法を実施するためにセットアップされた少なくとも1つの電子データ処理装置を有する。さらにこの装置は、レーダビームのための少なくとも1つの送信アンテナと少なくとも1つの受信アンテナを備えているのが好ましい。当然ながら、これらの種々のコンポーネントが1つの場所に存在していなくてもよい。重要なのは、少なくとも1つの、ただし好ましくは複数の受信アンテナにより捕捉される受信信号と、発信された送信信号とが、電子データ処理装置および/またはミキサ装置に提供されて、以後の処理へと供給されることだけである。このことは、通信装置を通じて、たとえば伝送ケーブルやワイヤレス式の伝送、たとえば無線、WLAN、ブルートゥース(登録商標)などを通じて行うことができる。
【0035】
次に、添付の図面を用いて、本発明の実施例について詳しく説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】
図2は、レンジドップラーマトリクスを示す模式的な部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、レーダ放射を発信および受信するためのセンサ2、ならびに、運転台6とコンテナ領域8とトレーラ10とを有する牽引車を備えた貨物自動車4を、平面図として模式的に示している。
【0038】
図示した実施例では貨物自動車4全体が、運転台6にもコンテナ領域8にもトレーラ10にも図示されて矢印Vで表されている速度で進行している。センサ2がレーダ放射を発信する。貨物自動車4のそれぞれ異なる要素で終わる放射が、これにあたって反射される3つの方向12が示されている。方向12に沿ってセンサ2に戻ってくる反射されたレーダ放射の周波数は、ドップラー効果によって変化する。ただしその際に、貨物自動車4の速度Vは副次的な役割しか果たさない。それぞれの方向12への速度Vの投影は、ラジアル速度としてドップラー効果に取り込まれるからである。ここに見られるとおり、運転台6のフロントガラスから反射される放射のラジアル速度R1は、コンテナ領域8またはトレーラ10から反射される放射のラジアル速度R2およびR3よりも明らかに低い。
【0039】
図2は、レンジドップラーマトリクスの一部分を模式的に示している。反射エネルギーを有するゾーンによって取り囲まれた3つの局所的な最大値14を見ることができる。これらは、反射エネルギーおよびこれに伴って白とは異なる色を含む、レンジドップラーマトリクスの各セルによって形成される。
【0040】
垂直方向すなわちレンジ方向だけでなく水平方向すなわちドップラー方向でも互いに距離をおく、3つの局所的な最大値14を見ることができる。このことは、3つの局所的な最大値14が帰属する3つの反射個所が、センサ2からそれぞれ相違する距離を有するだけでなく、それぞれ相違するラジアル速度も有することを意味する。
【符号の説明】
【0041】
2 センサ
4 貨物自動車
6 運転台
8 コンテナ領域
10 トレーラ
12 方向
14 局所的な最大値
V 速度
R1,R2,R3 ラジアル速度
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 物体の少なくとも1つのパラメータを決定する方法において、前記方法は次の各ステップを有し、
a.)レンジドップラーマトリクスが準備され、
b.)前記レンジドップラーマトリクスの少なくとも1つの部分がニューラルネットワークに送られ、
c.)少なくとも1つのパラメータが前記ニューラルネットワークによって判定され、 前記物体は交通関与者である方法。
[2] 少なくとも1つの前記パラメータは、測定場所に対して相対的な距離および/またはラジアル速度、少なくとも1つの空間方向における物体の広がり、物体の物体速度、少なくとも1つの分類指標および/または物体の分類、および/または反射エネルギーを有するゾーンの物理的な物体への割り当てであることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3] 前記レンジドップラーマトリクスから、少なくとも1つの局所的な最大値を含む、反射エネルギーを有する少なくとも1つのゾーンが選択されて、ニューラルネットワークに送られることを特徴とする、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記レンジドップラーマトリクスの準備は次の各ステップを有し、
i.受信信号が受信され、
ii.前記受信信号が送信信号と混合されてベースバンド信号となり、
iii.ベースバンド信号からレンジドップラーマトリクスが算出され、前記送信信号は好ましくは前記受信信号の受信前に発信されることを特徴とする、[1]から[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 送信信号は交互または同時に送信される少なくとも2つの異なる種類の周波数ランプを有することを特徴とする、[1]から[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] ドップラー周波数および/またはベースバンド信号の位相情報が評価され、それによりラジアル速度の決定における多義性が除去されることを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7] 送信信号の発信および/または受信信号の受信のために複数のアンテナが利用されることを特徴とする、[4],[5]または[6]に記載の方法。
[8] 少なくとも1つの前記パラメータに加えて、判定されたパラメータの品質の見積りも決定されることを特徴とする、[1]から[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] [1]から[8]のいずれか1項に記載の方法を実施する装置において、前記装置は前記方法を実施するためにセットアップされた少なくとも1つの電子データ処理装置を有している装置。
[10] 前記装置はレーダ放射のための少なくとも1つの送信アンテナと少なくとも1つの受信アンテナとを有することを特徴とする、[9]に記載の装置。