(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】新生物障害及び神経性障害の診断、治療及び予防のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/22 20060101AFI20220912BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20220912BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220912BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220912BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C07D487/22 CSP
A61K31/409
A61K39/00 G
A61P25/00
A61P25/28
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020573391
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 US2019039481
(87)【国際公開番号】W WO2020006215
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-02-22
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520509801
【氏名又は名称】アセントジーン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲー,ホイ
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-246286(JP,A)
【文献】特開昭60-126291(JP,A)
【文献】Angewandte Chemie International Edition,2009年,Vol.48,pp.1271-1274
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry,2017年,Vol.25,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-(3,7,12,17-テトラメチル-18-{3-オキソ-3-[(3-フェニルプロピル)アミノ]プロピル)-8,13-ジビニルポルフィリン-2-イル}プロパン酸のL又はSアイソフォームである化合物であって、
式:
【化1】
で表される
、化合物。
【請求項2】
L対Sアイソマー比又はS対Lアイソマー比が
、1:1、1:2以上;1:5以上、1:10以上、1:20以上、1:50以上、又は1:100以上である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1又は2に記載の化合物を含有する医薬組成物。
【請求項4】
アジュバントをさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アジュバントは、アルミニウムを含まない、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アジュバントは、アルミニウムを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
水性又は凍結乾燥のものである、請求項3~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
障害を治療又は予防するための、有効量の請求項1に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項9】
前記有効量が、治療的に有効であるか又は予防的に有効である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記障害が、がん又は神経性障害である、請求項8又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記がんが、グリア細胞腫である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記神経性障害が、アルツハイマー病である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
静脈内投与されるか、筋肉内投与されるか、又は経口投与される、請求項8~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の化合物を含む、ワクチン。
【請求項15】
腫瘍形成を阻害するか、がん性細胞の増殖を阻害するか、転移性疾患を予防するか及び/又は神経変性を阻害するための、請求項14に記載のワクチン。
【請求項16】
神経性障害を治療又は予防するための、有効量の、
式:
【化2】
で表される、9-メチル及び/又は13-メチルトランス-(±)-18-エテニル-4,4a-ジヒドロ-3,4-ビス(メトキシカルボニル)4a,8,14,19-テトラメチル-23H,25H-ベンゾ[b]ポルフィン-9,13-ジプロパノエートのL又はSアイソフォームの化合物を含み、さらに、
3-(3,7,12,17-テトラメチル-18-{3-オキソ-3-[(3-フェニルプロピル)アミノ]プロピル)-8,13-ジビニルポルフィリン-2-イル}プロパン酸のL又はSアイソフォームである化合物であって、
式:
【化3】
で表される化合物を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の参照>
本出願は、2018年6月28日出願の米国仮特許出願第62/691,267号に対する優先権を主張し、当該出願は、その全体が参考として組み込まれる。
【0002】
<背景>
1.発明の分野
本発明は、種々の形態のがんの診断、治療及び予防のための組成物及び方法を指向する。特に、本発明は、PC4発現、活性及び/又は機能の阻害剤又はレギュレーターを含む、組成物及び方法を指向する。
【背景技術】
【0003】
<2.背景の記載>
低分子及び生物製剤を含む現行のがん療法は、細胞表面分子又は細胞質タンパク質のいずれかを標的とする。これらの標的の阻害は、細胞アポトーシスの開始をもたらし得る一方で、核DNAを無傷なままに留め、このことは、がん再発に事前に必要である。したがって、核たんぱく質、特にクロマチン構造及びDNA修復に関与するタンパク質を標的とする療法は、アポトーシスの反転を遮断し、再発率を反転しそして低減する可能性がある。
【0004】
肺がんは、米国において、乳がん、前立腺がん及び結腸直腸がんを合わせたよりも多くの死亡件数に寄与する、がん関連死亡率の主要な原因である。2015年には、158,040人の米国人が亡くなっていると推定されている。肺がんには、2つのタイプがある。肺がんの約85%~90%は、非小細胞肺がん(NSCLC)であり、残るは小細胞肺がん(SCLC)である。肺がんのこれらのタイプは、非常に異なった治療を受ける。
【0005】
NSCLCは、より早い調節経路に対しての、明らかな満たされない医学的需要を伴う奇病と分類されている。奇病状態にもかかわらず、NSCLCを有する患者集団の大きさは、かなりのものである。NSCLCについての現行の治療としては、初期ステージについて外科手術及び放射線照射及びステージIV転移性疾患(40%)又はステージIII限局性進行型疾患(30~40%)についての化学療法が、挙げられる。近年のパイプラインは、VEGFR、EGFR及びチロシンキナーゼファミリーのメンバーを含む腫瘍血管新生経路に関与する標的タンパク質因子に注目している。
【0006】
正のヒト転写補因子4(PC4、p14、p15、Sub1ホモログなどとしても知られる)は、N末端にセリンリッチな領域を有する、127アミノ酸残基の一本鎖DNA結合タンパク質である。この補因子は、多くの配列特異的及び細胞特異的なレギュレーター類と直接相互作用することによって、多くの遺伝子の転写活性を媒介することができる、一般的な正の補因子としてクローニングされそして同定されている[Ge and Roeder,(1994),Purification, cloning and characterization of a human coactivator,PC4,that mediates transcriptional activation of class II genes.Cell 78, 513-523;Kretzschmar,M.et al.,(1994)A novel mediator of class II gene transcription with homology to viral immediate-early transcriptional レギュレーターs.Cell 78,525-534]。PC4によって媒介されるレギュレーターは、多くの核ホルモンレセプター、腫瘍抑制因子、腫瘍性タンパク質、並びに腫瘍形成及び他のヒト疾患の病理学に必須である他の重要な因子を含む。
【0007】
PC4は、腫瘍性タンパク質として機能し、そして細胞分化、発生及び腫瘍の病理学において重要な役割を果たす(米国特許第8,076,061号)。PC4の発現は、転写レベルでPC4タンパク質自体と相互作用する、腫瘍抑制タンパク質p53によって制御される。さらに、PC4は、細胞周期、アポトーシス、DNA修復及び他の細胞応答に関与する、多くの遺伝子の転写を調節するp53の独自のアクティベーターとして機能する[Kishore A.H.et al.,(2007)p53 regulates its own activator-transcriptional coactivator PC4: a new p53 responsive gene.Biochem.J.406,437; Banerjee,S.et al.(2004)General transcriptional coactivator PC4 activates p53 function.Mol.Cell Biol.24,2052-2062]。PC4活性は、少なくともリン酸化及びアセチル化を含む転写後修飾によって、さらに制御される。PC4のリン酸化は、標的のアクティベーターと相互作用するその活性を阻害し、そしてそのコアクティベーター機能を下方制御する。質量分析によって、PC4のインビボ過剰リン酸化は、主にカゼインキナーゼIIによって媒介され、そしてN末端セリンリッチ領域に制限されることが示唆される[Ge,H.et al.,(1994)Phosphorylation negatively regulates the function of coactivator PC4.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,12691-12695]。PC4のアセチル化は、p300によって媒介され、そしてリン酸化によって阻害される[Kumor,P.B.R.et al.,(2001)p300-mediated acetylation of human transcriptional coactivator PC4 is inhibited by phosphorylation.J.Biol.Chem.276,16804-16809]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ge and Roeder,(1994),Purification, cloning and characterization of a human coactivator,PC4,that mediates transcriptional activation of class II genes.Cell 78, 513-523
【文献】Kretzschmar,M.et al.,(1994)A novel mediator of class II gene transcription with homology to viral immediate-early transcriptional レギュレーターs.Cell 78,525-534
【文献】Kishore A.H.et al.,(2007)p53 regulates its own activator-transcriptional coactivator PC4: a new p53 responsive gene.Biochem.J.406,437
【文献】Banerjee,S.et al.(2004)General transcriptional coactivator PC4 activates p53 function.Mol.Cell Biol.24,2052-2062
【文献】Ge,H.et al.,(1994)Phosphorylation negatively regulates the function of coactivator PC4.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,12691-12695
【文献】Kumor,P.B.R.et al.,(2001)p300-mediated acetylation of human transcriptional coactivator PC4 is inhibited by phosphorylation.J.Biol.Chem.276,16804-16809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
がん及び腫瘍形成に関連する遺伝子及びタンパク質を調節する低分子を同定し、悪性腫瘍の分子診断を改良する必要性が存在する。さらに、増大した腫瘍特異性、並びに正常細胞及び組織に対する低減された毒性を有する、がんを治療及び予防する改善された方法に対する必要性が、存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<要旨>
本発明は、がん、特に、腫瘍及び他の障害の発達を阻害及び/又は予防するように機能する薬剤、並びに、特に、PC4の発現、活性及び/又は機能の阻害剤又はレギュレーターを含む組成物及び方法に、関する。
【0012】
本発明の1つの実施形態は、AG-1031、AG-1503、AG-1601及び/又はこれらの組み合わせを含む組成物を指向する。好ましくは、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0013】
本発明の別の実施形態は、AG-1031、AG-1503及び/又はAG-1601を含む医薬組成物の有効量を患者に投与することを含む、障害を治療又は予防する方法を指向する。好ましくは、障害は、がん及び/又は神経性障害であり、好ましくは、がんは、非小細胞肺癌腫、脳腫瘍又はグリア細胞腫である。また、好ましくは、神経性障害は、アルツハイマー病である。好ましくは、医薬組成物の有効量は、治療的に有効又は予防的に有効であり、そして組成物は、静脈内投与されるか、筋肉内投与されるか又は経口投与される。
【0014】
本発明の別の実施形態は、AG-1031、AG-1503及び/又はAG-1601を含む、障害の予防のためのワクチンを指向する。好ましくは、本発明のワクチンは、腫瘍形成、がん性細胞の増殖を阻害し、転移性疾患の、予防、及び/又は神経変性を予防する。これらの化合物は、キラル分子であり、L及びSアイソマー形態を有するエナンチオマーとして存在する。本発明の化合物は、L及びSアイソフォームの両方を含んでもよく、あるいは、Lアイソフォームのみ又はSアイソフォームのみとして単離されていてもよい。
【0015】
本発明の別の実施形態は、本発明のワクチンを、それを必要とする患者に投与することを含む、腫瘍形成、がん性細胞の増殖、転移性疾患、及び/又は神経変性を阻害又は予防する方法を指向する。好ましくは、投与は、経口投与、静脈内投与又は筋肉内投与である。また、好ましくは、ワクチンは、例えば、アルミニウムを含む化合物などのアジュバントをさらに含んでもよい。あるいは、アジュバントは、アルミニウム非含有であってもよい。
【0016】
本発明の他の実施形態及び利点は、部分的には、詳細な記載に示され、そして部分的には、詳細な記載から明らかであってもよく、又は本発明の実施から理解されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】AG-1503の化学構造(ただ1つのアイソフォームのみを示す(Cas#:5522-63-4コプロポルフィリンIIIテトラメチルエステル;MW:710.83)。
【
図3】AG-1031の化学構造(9-メチル(I)及び13-メチル(II)トランス-(±)-18-エテニル-4,4a-ジヒドロ-3,4-ビス(メトキシカルボニル)4a,8,14,19-テトラメチル-23H,25H-ベンゾ[b]ポルフィン-9,13-ジプロパノエート)を、L及びSアイソフォームの両方で示す(Cas#:129497-78-5ベルテポルフィン/ビスダイン;MW:718.794)。
【
図4】AG-1601の化学構造、Lアイソフォーム(I及びIII;3-(2,8,13,18-テトラメチル-3-(3-オキソ-3-((3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)-12,17-ジビニルポルフィリン-7-イル)プロパン酸);並びにSアイソフォーム(II及びIV;3-(3,7,12,17-テトラメチル-18-{3-オキソ-3-[(3-フェニルプロピル)アミノ]プロピル)-8,13-ジビニルポルフィリン-2-イル}プロパン酸(WJUS01-241-1a;合成;MW:679.86)の両方で示す。
【
図5】PC4-DNA結合におけるAPI物質の干渉。
【
図6A】ラット神経膠芽腫細胞株C6のAG-1031及びAG-1503阻害を示すチャート。
【
図6B】ヒト非小細胞肺がん細胞株H841のAG-1031及びAG-1503阻害を示すチャート。
【
図7】NSCLC腫瘍の増殖のAG-1031阻害を示すヒストグラム。
【
図8】NSCLC腫瘍の増殖のAG-1031阻害を示すチャート。
【
図9】NSCLCに対するワクチンとしてのAG-1031の使用における進行ステップ。
【
図10】NSCLC形成の予防を示すAG-1031の投与後の増殖結果。
【
図11A】化合物897~902の1つによるワクチン接種後のA549異種移植マウスにおける腫瘍増殖に対するAG-1031効果の評価。
【
図11B】化合物903~908の1つによるワクチン接種後のA549異種移植マウスにおける腫瘍増殖に対するAG-1031効果の評価。
【
図12】A549異種移植マウスにおける腫瘍増殖に対するAG-1031のワクチン効果の評価(ワクチン群:上;対象群:下)。
【
図13】A549異種移植マウスにおける腫瘍増殖に対するAG-103効果の評価。
【
図14A】中心位置の距離によって測定したAG-1503によるグリア細胞腫を有するラットの不安及び活動のオープンフィールド研究。
【
図14B】位置の全体距離によって測定したAG-1503によるグリア細胞腫を有するラットの不安及び活動のオープンフィールド研究。
【
図15】新たな物体認識を改善するAG-1031及びAG-1503の効力。
【
図16A】ベースラインの百分率によって測定した、研究の電気生理学試験及び記憶能力。
【
図16B】実測百分率によって測定した、研究の電気生理学試験及び記憶能力。
【
図17A】腫瘍組織におけるアポトーシス関連タンパク質のウェスタンブロット。
【
図17B】カバ組織におけるアポトーシス関連タンパク質のウェスタンブロット。
【
図18A】NSCLC-A549細胞上における、同定された新規化合物AG-1601のスクリーニング。
【
図18B】NSCLC-14299細胞上における、同定された新規化合物AG-1601のスクリーニング。
【
図19A】NSCLC-H841細胞上における、同定された新規化合物AG-1601のスクリーニング。
【
図19B】グリア細胞腫C6細胞上における、同定された新規化合物AG-1601のスクリーニング。
【
図20A】オープンフィールドかつ新規物体認識(NOR)試験における、Aβ42によって誘発された、AG1601改善された認知障害。実験の時間チャート。B.オープンフィールド試験において中心領域に侵入した数;C.短期記憶の認識指数、並びにD.長期記憶試験の認識指数。
【
図20B】オープンフィールドかつ新規物体認識(NOR)試験における、Aβ42によって誘発された、AG1601改善された認知障害。中心領域に侵入した数。
【
図20C】オープンフィールドかつ新規物体認識(NOR)試験における、Aβ42によって誘発された、AG1601改善された認知障害。短期記憶の認識指数。
【
図20D】オープンフィールドかつ新規物体認識(NOR)試験における、Aβ42によって誘発された、AG1601改善された認知障害。長期記憶試験の認識指数。
【
図21A】AG1601は、Aβ42によって誘発された抑制された海馬のLTP及びDEPを反転した。TBSによって誘発されたLTP及びLFSによって誘発されたDEP。
【
図21B】AG1601は、Aβ42によって誘発された抑制された海馬のLTP及びDEPを反転した。LTPの平均fEPSP勾配。
【
図21C】AG1601は、Aβ42によって誘発された抑制された海馬のLTP及びDEPを反転した。DEPの平均fEPSP勾配。
【
図22A】AG1601は、Aβ42誘発型ADモデルにおける還元型シナプスタンパク質の発現を増大した。海馬組織のホモジネートを、ウェスタンブロットにより分析し、示した個々の抗体によって検出した。
【
図22B】AG1601は、Aβ42誘発型ADモデルにおける還元型シナプスタンパク質の発現を増大した。PSD95及びSYPタンパク質の定量分析。*P<0.05対偽e群、#P<0.05及び##P<0.01対Aβ42群;n=3/群。
【
図23A】AG1601は、Aβ42誘発型ADモデルにおける還元型SIRT1タンパク質の発現を増大した。海馬組織由来のホモジネートのウェスタンブロット分析。
【
図23B】AG1601は、Aβ42誘発型ADモデルにおける還元型SIRT1タンパク質の発現を増大した。ウェスタンブロット結果の定量分析。
【
図23C】AG1601は、Aβ42誘発型ADモデルにおける還元型p-CREBタンパク質の発現を増大した。海馬組織由来のホモジネートのウェスタンブロット分析。
【
図23D】AG1601は、Aβ42誘発型ADモデルにおける還元型p-CREBタンパク質の発現を増大した。ウェスタンブロット結果の定量分析。
【
図24A】ラット細胞におけるAG-1601の効力(実測値)。
【
図24B】ラット細胞におけるAG-1601の効力(チャート値)。
【
図25A】ヒトグリア細胞腫細胞におけるAG-1601の効力(実測値)。
【
図25B】ヒトグリア細胞腫細胞におけるAG-1601の効力(チャート値)。
【
図26A】C6及びU251グリア細胞腫細胞における異なるバッチのAG-1601の効力(実測値)。
【
図26B】C6及びU251グリア細胞腫細胞における異なるバッチのAG-1601の効力(チャート値)。
【
図27A】C6及びU87グリア細胞腫細胞におけるAG-1601の効力(実測値)。
【
図27B】C6及びU87グリア細胞腫細胞におけるAG-1601の効力(チャート値)。
【
図28A】U251細胞における、AG-1601、TMZ、及びカルムスチンの効力(実測値)。
【
図28B】U251細胞における、AG-1601、TMZ、及びカルムスチンの効力(チャート値)。
【
図29A】U87細胞における、AG-1601、TMZ、及びカルムスチンの効力(実測値)。
【
図29B】U87細胞における、AG-1601、TMZ、及びカルムスチンの効力(チャート値)。
【
図30】T98G細胞における、TMZ抵抗の効果のAG-1601克服。
【
図31A】AG-1601は、U251細胞におけるTMZの効果を増強した(実測値)。
【
図31B】AG-1601は、U251細胞におけるTMZの効果を増強した(チャート値)。
【
図32A】AG-1601は、U87細胞におけるTMZの効果を増強した(実測値)。
【
図32B】AG-1601は、U87細胞におけるTMZの効果を増強した(チャート値)。
【
図33A】SF295異種移植マウスモデルにおけるAG-1601の効力(n=6における処理)。
【
図33B】SF295異種移植マウスモデルにおけるAG-1601の効力(n=6における対照)。
【
図33C】SF295異種移植マウスモデルにおけるAG-1601の効力(n=6における処理)。
【
図33D】SF295異種移植マウスモデルにおけるAG-1601の効力(n=6における対照)。
【
図34A】AG-1601処理の間のU87/SF295異種移植腫瘍マウスの体重during(処理)。
【
図34B】AG-1601処理の間のU87/SF295異種移植腫瘍マウスの体重(対照)。
【
図35】安楽死後SF295異種移植マウスから単離した腫瘍(AG-1601臨床試験前)。
【
図36】偽、偽+AG-1601処理、C6グリア細胞腫、及びグリア細胞腫+AG-1601処理の体重。
【
図37】C6グリア細胞腫及びグリア細胞腫+AG-1601の腫瘍サイズの画像。
【
図38A】C6グリア細胞腫及びグリア細胞腫+AG-1601の腫瘍体積。
【
図38B】C6グリア細胞腫及びグリア細胞腫+AG-1601の腫瘍重量。
【
図39】偽、偽+AG-1601処理、C6グリア細胞腫、及びグリア細胞腫+AG-1601処理の生存率。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<発明の説明>
PC4は、広範な遺伝子特異的及び/又は組織特異的なレギュレーターを介して転写活性化を媒介する、一般的な転写補因子である。PC4の活性形態は、がん細胞株及び原発性腫瘍の大部分において上方制御されることが見いだされ、そしてPC4発現レベルは、悪性腫瘍の程度に相関することが見いだされている(米国特許第8,076,061号を参照されたい)。この調節分子は、アポトーシス、細胞周期進行、発生、リン酸化、増殖、クロマチン構築、DNA複製及び修復、並びにがん、神経変性及び他の障害に関連する他の経路に関与する。近年の研究は、PC4が、ヒトにおいて性質決定された48の共通のがんマーカーの1つであることを実証している。
【0019】
驚くべきことに、多くの分子が、インビボ及びインビトロの両方においてPC4活性を阻害することが、見出されている(
図1を参照されたい)。1つの驚くべき発見は、現在光力学治療に用いられており、以前より非腫瘍学兆候についてFDAに認可されている分子AG-1031が、その二本鎖DNA結合能力を遮断することにより、インビトロでPC4活性を特異的に阻害し、そしてインビボで非小細胞肺がん(NSCLC)細胞増殖を阻害したことであった。NSCLC細胞株A549に由来するマウス異種移植モデルにおける腫瘍増殖を腫瘍形成後に阻害することに加え、AG-1031の事前注入もまた、異種移植モデルにおける腫瘍形成を効果的に防いだ。さらに、AG-1031は、記憶欠失及び他の活性欠失の回復と組み合わせて、神経膠芽腫細胞株C6に由来する異種移植モデルにおけるグリア細胞腫増殖を、有意に阻害した。
【0020】
別の驚くべき発見は、AG-1031の類似体である分子AG-1503は、グリア細胞腫細胞株C6の増殖に対する特異的阻害活性を有するが、NSCLC細胞株の増殖に対して有意な阻害活性を有さないことであった。C6細胞株の異種移植モデルの研究は、AG-1503は、記憶欠失及び他の活性の欠失の回復に対し、より良好な活性を有することを示した。
【0021】
別の驚くべき発見は、新規に合成したAG-1031の類似体である分子AG-1601である。研究は、いくつかのNSCLC細胞株の増殖の阻害に加えて、この分子は、AG-1503と比較して、グリア細胞腫細胞の増殖に対しより良好な阻害活性さえも有することを示した。本発明の組成物及び方法は、新規な標的及び新規な免疫刺激メカニズムによって、がん、腫瘍及び他の医学的障害を治療及び/又は予防するための、これまで不可能であった個別化の医学的アプローチを提供する。
【0022】
<AG-1503>
AG-1503(
図2)は、AG-1031の類似体であり、強力なPC4阻害剤として同定され、NSCLC、神経膠芽腫及びアルツハイマー病に対して、将来性ある治療法として性質決定されている。AG-1503は、単独治療として単独で使用されるか又はAG-1031、AG-1601又は他の薬物と組み合わせて使用された場合、NSCLC、グリア細胞腫治療及び他のがんのために使用され得る。AG-1503は、NSCLC及びグリア細胞腫のための個別化医薬であってもよく、及び/又はNSCLC及び/又はグリア細胞腫の再発を防ぐための補助剤又はワクチンであってもよい。AG-1503は、例えば、水素、ヒドロキシル基、直鎖状若しくは分枝鎖状のカルボキシ基、酸素基、メチル基、若しくはエチル基の付加による置換によるか、又は類似分子に化学結合することによる1つ以上の改変により、機能活性を低減することなく、改変することができる。さらに、AG-1503は、キラルであり、L及びSのアイソマー形態を有するエナンチオマーとして存在する。本発明の化合物は、L及びSアイソフォームの両方を含んでも、又はLアイソフォームのみ若しくはSアイソフォームのみとして単離されていてもよい。種々の化学形態のすべてを、本明細書中でAG-1503と呼ぶ。
【0023】
<AG-1031>
AG-1031(
図3を参照されたい)は、非腫瘍学兆候のためにFDA認可された、光力学(PD)薬物である。ハイスループットスクリーニングプラットフォームを用いることにより、AG-1031を、強力なPC4阻害剤として同定し、そして非小細胞肺がん(NSCLC)に対する治療効力について性質決定した。特に、AG-1031は、単独で、NSCLC治療についての単独治療として使用されてもよく、又は、NSCLC及び他のがんについての第一選択治療において、AG-1503、AG-1601若しくは他の薬物と組み合わせて使用されてもよい。AG-1031は、NSCLCのための個別化医薬であっても、及び/又はNSCLCの再発を防ぐための補助剤又はワクチンであってもよい。AG-1301は、例えば、水素、ヒドロキシル基、直鎖状若しくは分枝鎖状のカルボキシ基、酸素基、メチル基、若しくはエチル基の付加による置換によるか、又は類似分子に化学結合することによる1つ以上の改変により、機能活性を低減することなく改変することができる。さらに、AG-1031は、キラルであり、L及びSのアイソマー形態を有するエナンチオマーとして存在する。本発明の化合物は、L及びSアイソフォームの両方を含んでも、又はLアイソフォームのみ若しくはSアイソフォームのみとして単離されていてもよい。種々の化学形態のすべてを、本明細書中でAG-1031と呼ぶ。
【0024】
<AG-1601>
AG-1601(
図4)は、新規に合成したAG-1031の別の類似体である。AG-1601は、強力なPC4阻害剤として同定され、NSCLC、神経膠芽腫及びアルツハイマー病のための治療として有用であるAG-1601の化学構造は、Lアイソフォーム(I及びIII;3-(2,8,13,18-テトラメチル-3-(3-オキソ-3-((3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)-12,17-ジビニルポルフィリン-7-イル)プロパン酸);及びSアイソフォーム(II及びIV;3-(3,7,12,17-テトラメチル-18-{3-オキソ-3-[(3-フェニルプロピル)アミノ]プロピル)-8,13-ジビニルポルフィリン-2-イル}プロパン酸(WJUS01-241-1a;合成;MW:679.86)の両方で存在する。NSCLC及び/又はグリア細胞腫治療のための単独治療としてのAG-1601は、単独で、又はAG-1031、AG-1503若しくは他の薬物と組み合わせて使用される。AG-1601は、NSCLC及び/又はグリア細胞腫のための個別化医薬として、PC4陽性の患者の診断とともに使用されてもよい。AG-1601は、NSCLC及び又はグリア細胞腫のための個別化医薬であっても、及び/又はNSCLC及び/又はグリア細胞腫の再発を防ぐための補助剤又はワクチンであってもよい。AG1601は、TMZ及びカルムスチンよりも、インビトロでグリア細胞腫細胞に対しより高い効力を有することを示し、SF295異種移植腫瘍マウスモデルに対する効力を示す;そしてC6異種移植腫瘍ラットモデルに対する効力を示す。AG-1601は、例えば、水素、ヒドロキシル基、直鎖状若しくは分枝鎖状のカルボキシ基、酸素基、メチル基、若しくはエチル基の付加による置換によるか、又は類似分子に化学結合することによる1つ以上の改変により、機能活性を低減することなく改変することができる。さらに、AG-1601は、キラルであり、L及びSのアイソマー形態を有するエナンチオマーとして存在する。本発明の化合物は、L及びSアイソフォームの両方を含んでも、又はLアイソフォームのみ若しくはSアイソフォームのみとして単離されていてもよい。種々の化学形態のすべてを、本明細書中でAG1601と呼ぶ。
【0025】
AG1601及び3,3’-(3,7,12,17-テトラメチル-8,13-ジビニルポルフィリン-2、18-ジイル)ビス(N-(3-フェニルプロピル)プロパンアミド)(本明細書中で化合物B1と呼ぶ)は、1’-カルボニルジイミダゾールを活性化のために用いて、開始物質Ph-IX(3,3’-(3,7,12,17-テトラメチル-8,13-ジビニルポルフィリン-2,18-ジイル)ジプロピオン酸を、3-フェニルプロピルアミンと結合させることにより調製する。AG1601及び化合物B1は、クロロホルム/メタノール系を用いたクロマトグラフィー法によって精製されて、固体AG1601及び化合物B1を高い化学的純度(95~97%以上)で得ることができる。
【0026】
調製方法は、以下の主要な工程を含み得る:
a) ジメチルホルムアミド/ジクロロメタン中の1,1’-カルボニルジイミダゾールにより、開始物質のカルボン酸を周囲温度で1~3時間活性化させることにより、カルボニルイミダゾール中間体Mを形成する。
b) アリールアルキルアミンを上記中間体M溶液へ滴下し、そして24~28時間撹拌し続ける。
c) 上記溶液に水を加え、生成物を沈殿させて、溶媒を濾別する。
d) 粗生成物を、クロロホルム/メタノール(又はエタノール)溶出液を用いてシリカゲルカラム上で分離し、AG1601(薄層クロマトグラフィー上でゆっくりと移動する)及び化合物B1(薄層クロマトグラフィー上でより速く移動する)を得る。
【0027】
任意の長さのアミンのアミドを、この方法を用いて合成することができる。本方法は、生物学的スクリーニングのための生物学的類似体の迅速な生成のために特に好適である。中間体Mが形成されると、異なる長さ及び形状の置換基のアミンの反応のために、多くの画分に分配され得る。
【0028】
本発明の方法は、周囲条件下で維持される一般に入手可能な溶媒で起こる反応を可能にする。モノアミド及びジアミド比は、アミン量によって制御され得、それによって生成混合物がシリカゲルカラム上で分離される。
【0029】
本方法は、モノアミド及びジアミドの混合物を生じ、これは、有効に分離され得る。クロマトグラフィー精製の後、純粋な(95%以上の)モノアミド及びジアミドを、インビトロ及び細胞スクリーニングのために使用することができる。
【0030】
記載の方法は、量を展開するための構造的多様性及びスケーラビリティを有する、化合物の迅速な生成を可能にする。例えば、アミドの化合物ライブラリーは、以下の手順で調製されてもよい。
【0031】
Ph-IX(3,3’-(3,7,12,17-テトラメチル-8,13-ジビニルポルフィリン-2,18-ジイル)ジプロピオン酸が、最初に活性化される。次いで、これが4等分量に分けられ、4つの異なるアミンと反応する。
【0032】
工程1:CDI(1,1’-カルボニルジイミダゾール、52mg、0.321mmol)を、3mL脱水DMF(ジメチルホルムアミド)中のPh-IX(60mg、0.107mmol)溶液に加えた。
工程2:1時間室温で撹拌した後、完了の指標として赤い色がわずかに退色していった。この赤い液体を、4本の試験管にシリンジを介して等分した。
工程3:以下の3.1~3.4で示す通り、0.321mmolのアミンを加え、24時間にわたって撹拌した。水を加え、粗生成物を沈殿させた。
工程4:粗生成物を、分取薄層クロマトグラフィープレートにロードし、混合溶媒(クロロホルム:メタノール=100:5)で溶出して、モノアミドアイソマーからジアミンを分離した。
【0033】
3.1:3-フェニルプロピルアミン(45μL、0.321mmol)を工程3において使用した場合、クロマトグラフィー分離の後にAG1601及び化合物B1を得、95%を超えて(TLCプレートを、UV光253nm下で視認することによって)いた。収量:28%(A、rf=0.4、モノアミド、5mg);33%(B、rf=0.8、ジアミド、7mg)。
【0034】
3.2 プロピルアミン(26μL、0.321mmol)を工程3において使用した場合、クロマトグラフィー分離後に化合物Cを得、95%を超える純度であった(TLCプレートを、UV光253nm下で視認することによって)。収量:17%(C、rf=0.5、ジアミド、3mg)
【0035】
3.3:イソプロピルアミン(28μL、0.321mmol)を工程3で使用した場合、クロマトグラフィー分離後に化合物D及びEを得、95%を超える純度であった(TLCプレートを、UV光253nm下で視認することによって)。収量:35%(D、rf=0.5、ジアミド、5.7mg)、29%(E、rf=0.8、モノアミド、5mg)。
【0036】
3.4.:N、N-ジメチルプロピルアミン(40μL、0.321mmol)を工程3で使用した場合、クロマトグラフィー分離後に化合物Fを得、90%を超える純度であった(TLCプレートを、UV光253nm下で視認することによって).収量:26%(F、rf=0.15、ジアミド、5mg)。
【0037】
メチルエステルの合成が、以下の手順によって行われた。
【0038】
DCC(N、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、104mg、0.447mmol)、DMAP(4-ジメチルアミノピリジン、12mg、0.1mmol)及びメタノール(200mL、4.95mmol、Ph-IXの酸の13.8等量)を、2mL脱水DMF(ジメチルホルムアミド)/2mL CH2CH2(ジクロロメタン)中のPh-IX(100mg、0.179mmol)溶液に加えた。この混合物を、3日間室温で撹拌した。生成混合物を、分液漏斗にあけ、CH2Cl2(25mL)/15% NaCl溶液(20mL)で抽出した。有機溶媒を蒸発させた。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(20gシリカゲル、溶出液:60mL CHCl3及び1.5mLメタノール)によって分離した。重なった部分を、分取TLCによって再度分離した。収量:化合物G、39%、rf=0.25、40mg;化合物H、57%、rf=0.6、60mg。
【0039】
化合物G、1H NMR(CDCl3):10.25(s、1H、C-H、ring)、10.20(s、1H、C-H、ring)、10.15(s、1H、C-H、ring)、10.11(s、1H、C-H、ring)、8.31(dd、2セット、2H、J1=12Hz、J2=16Hz、ビニル)、6.40(dd、2セット、2H、J=16Hz)、6.22(dd、2セット、2H、J=12Hz)、4.45(m、2セット、4H、CH2)、3.65-3.75(s、5xCH3)、3.30(m、2セット、4H)。
【0040】
化合物H、1H NMR(CDCl3):10.30(s、1H、C-H、ring)、10.28(s、1H、C-H、ring)、10.19(s、1H、C-H、ring)、10.11(s、1H、C-H、ring)、8.23(dd、2セット、2H、J1=12Hz、J2=16Hz、ビニル)、6.41(dd、2セット、2H、J=16Hz)、6.25(dd、2セット、2H、J=12Hz)、4.42(m、2セット、4H、CH2)、3.65-3.75(s、6xCH3)、3.30(m、2セット、4H)。
【0041】
大規模でのAG1601及び化合物B1の合成を、以下に概説する手順を用いて達成することができる。
【0042】
CDI(1,1’-カルボニルジイミダゾール、117.76mg、0.712mmol)を、10mL脱水DMF(ジメチルホルムアミド)/10mL CH2Cl2(ジクロロメタン)中のPh-IX(200mg、0.356mmol)溶液に加えた。室温で0.75時間撹拌した後、完了の指標として赤色がわずかに退色したら、CH2Cl2(15mL)中3-フェニルプロピルアミン(63mL、0.445mmol、1.25eq)を、30分間かけてゆっくりと加えた。44時間後、TLCは、モノアミドを主要なスポットと示した。水を加え、CDIを分解した。この手順を、330mg(0.587mmol)Ph-IXを用いて、もう一度繰り返した。
【0043】
上記2つの反応からの組合わせた粗生成物の混合物を、蒸発に供した。ジクロロメタンの除去後、残った液体に、150mLの水(ブライン:水=1:2)を加え、固体を砕いた。カラムクロマトグラフィー(62gシリカゲル)後、AG1601(モノアミド)(388mg、61%)及び化合物B1(ジアミド)(64mg、8.5%)が得られた。AG1601及び化合物B1(70mg、約9%)の両方を含む画分も得られた。
【0044】
AG1601、1H NMR(DMSO-d6):10.30-10.40(ms、4H、ring)、8.60(dd、2セット、2H、J1=12Hz、J2=16Hz、ビニル)、7.30(m、1H、NHCO)、6.70-6.90(m、5H、Ph)、6.50(dd、2セット、2H、J=16Hz)、6.25(dd、2セット、2H、J=12Hz)、4.43(m、2セット、4H、CH2)、3.80-3.78(s、2xCH3)、3.65-3.70(s、2xCH3)、3.30(m、2セット、4H)、3.01(m、4H、NCH2及びCH2Ph)、1.80(m、2H、C-CH2-C);MS:エレクトロスプレーイオン化ポジティブモード:[M+1]+=680.4;高解像度MSは、M+1=680.3601、式:C43H46N5O3を確認する。
【0045】
化合物B1、1H NMR(DMSO-d6):このスペクトルの解像度は低く、ここでは推定値のみを示す:10.10-10-30(s、4H、C-H、ring)、8.30(dd、2セット、2H、J1=12Hz、J2=16Hz、ビニル)、6.70-6.90(m、10H、Ph)、6.70(dd、2セット、2H、J=16Hz)、6.50(dd、2セット、2H、J=12Hz)、4.43(m、2セット、4H、CH2)、3.80-3.78(s、2xCH3)、3.65-3.70(s、2xCH3)、3.10(m、2セット、4H)、3.01(m、8H、NCH2andCH2Ph)、1.50-80(m、4H、C-CH2-C)。
【0046】
MS:エレクトロスプレーイオン化ポジティブモード:[M+1]+=797.5;高解像度MS確認:M+1=797.5453、式:C52H57N6O2。
【0047】
本発明の1つの実施形態は、PC4発現及び/又は活性を阻害又は調節する低分子を含む組成物を指向する。腫瘍性タンパク質として、PC4は、多くの種類のヒトがん及び腫瘍に関する腫瘍形成において重要な役割を果たし、PC4発現の調節は、がん細胞及び転移性疾患を含む細胞の増殖の抑制及び/又は阻害をもたらす。好ましくは、本発明の組成物は、細胞性PC4レベルを低減するか及び/又はPC4機能を阻害することにより、がんを直接的に又は間接的に治療又は予防するために処方される。本発明の好ましい組成物は、PC4発現及び/又は活性を阻害又は調節する化合物の類似体及び誘導体を含む。好ましいPC4阻害剤としては、例えば、AG-1031(ベルテポルフィン/ビスダイン)、AG-1503(コプロポルフィリンIIIテトラメチルエステル)、AG-1601及びこれらの組み合わせが挙げられる。本発明の組成物は、限定されないが、がん、悪性腫瘍、腫瘍、神経性障害及びアルツハイマー病を含む、種々の障害を治療又は予防する。本発明の組成物は、短期間又は長期間の投与について安全であるか又は有効であり、望ましくない副作用を最小限にしか有さないか又は全く有さないので、特定の魅力を供する。これらの低分子は、好ましくは、(化学療法剤とは異なり)変異原性がなく、そして細胞毒性もないが、1種以上の疾患及び障害の治療及び/又は予防のための高い効力を有する。同定された特定の低分子は、他の医学的兆候のために既にFDA認可されており、既知の安全性プロファイルを有し、一方、他の低分子は、そうでなければ、新規な、これまで未知であったものである。本発明の低分子を含む類似体及び誘導体は、保存的置換、付加又は欠失を有する。保存的置換、付加又は欠失としては、例えば、メチル基若しくはアルデヒド基、又は非官能性マーカー若しくは標識化合物の付加又は欠失が挙げられる。
【0048】
本発明の別の実施形態は、本発明の低分子を含む医薬組成物を指向する。医薬組成物は、本発明の低分子を、薬学的に許容される担体及び塩と組み合わせて含み、水性であっても凍結乾燥状態であってもよい。薬学的に許容される担体としては、例えば、水及び他の水性溶液、油、脂肪酸、糖類、炭水化物及び塩が挙げられ、例えば、患者への直接投与又は時間放出投与のための、散剤、カプセル剤又は丸剤のような、液体、ゲル又は固体であってもよい。
【0049】
本発明の別の実施形態は、本発明の組成物の治療有効量を患者に投与することを含む、疾患及び障害の治療のための方法を指向する。本発明の組成物によって治療される疾患及び障害としては、肺がん、膀胱がん、結腸がん、乳がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、小腸がん、卵巣がん、及び他の悪性腫瘍、並びにアルツハイマー病及び合併症などが挙げられるが、これらに限定されない。患者としては、ヒト(例えば、成人、青少年、児童、幼児)、類人猿及び飼育動物などの哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。投与は、非経口であっても、非経口でなくてもよいが、好ましくは経口、筋肉内又は静脈内投与である。治療は、短時間(例えば、パルスであっても又は連続的であっても)であってもよく、短期間又は長期間であってもよく、患者の終生を通じて連続的であってもよい。
【0050】
本発明の組成物は、単独で、又は1種以上の他の治療と組み合わせて、有効量で対象に投与され得、がんを効果的に治療する。有効量の本発明の組成物は、疾患を有する細胞の数を低減するか又はゼロにするために有効な量、及び/又は疾患の再発を予防する量である。好ましくは、有効量は、患者に対し有害ではない量、又は何らかの有害な副作用が最小であるか若しくはさもなければ組成物の患者への有益な効果が有害な副作用より勝る量である。投与される有効な投薬量は、典型的には、患者の年齢若しくは体重、及び/又は疾患の重症度に依存して変動する。
【0051】
本発明の別の実施形態は、患者に投与された際に、疾患又は障害の発病を防ぐ、本発明の医薬組成物を指向する。このような医薬組成物は、例えば、限定されないが、腫瘍及び転移性疾患、神経性疾患並びにこれらの組み合わせを含むがんなどの、疾患又は障害を予防する予防薬物、免疫刺激物質、及び/又はワクチンとして作用する。本発明の組成物の投与は、予防的に有効な単回のボーラス投与であっても、多数回の予防的に有効な投薬であってもよく、アジュバントを含んでもよい。アジュバントは、アルミニウムを含んでもよく、又は代替的に、アジュバントは、アルミニウム非含有であってもよい。投与は、非経口であっても非経口でなくてもよいが、好ましくは、経口投与、筋肉内投与又は静脈内投与である。
【0052】
さらなる局面において、本発明は、1種以上の組成物を含むキットを提供し、組成物それぞれが、治療有効量の本開示の化合物の1種以上の化合物、薬学的に許容されるその塩、その溶媒、又はそのプロドラッグ、これらの任意の組み合わせ、及び脳のがんを治療する1種以上の組成物を使用するための指示書を含む。
【0053】
本開示の化合物は、およそ1:1、1:2以上;1:5以上、1:10以上、1:20以上、1:50以上、又は1:100以上のL対Sアイソマー比、又はS対Lアイソマー比で組成物中に存在してもよく、及び/又は投与されてもよい。
【0054】
治療的に有効とは、本明細書中の症状又は疾患(例えば、脳のがん)を治療するために対象に投与された際に、このような治療を及ぼすのに十分である、本開示の化合物の量を含む。治療有効量は、化合物、疾患及びその重症度、並びに治療される哺乳動物の年齢、体重、健康状態及び応答性に依存して変動する。
【0055】
本開示の化合物は、例えば、好ましくは哺乳動物の対象に投与されてもよい。.好ましい哺乳動物としては、モルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスター及びヒトを含む霊長類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
薬学的に許容されるとは、物質又は組成物が、処方物を構成する他の成分及び/又はここで治療される哺乳動物と、化学的に及び/又は毒物学的に適合性であることを示す。
【0057】
薬学的に許容される塩としては、例えば、特定の化合物に対応する遊離酸又は塩基の生物学的な有効性を維持した塩、並びに生物学的又はその他の意味でも望ましくないものではない塩が挙げられる。薬学的に許容される塩の例としては、本開示の化合物を鉱酸若しくは有機酸又は無機塩基と反応させることによって調製される塩が挙げられる。このような塩としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-ジオエート、ヘキシン-1,6-ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、及びマンデル酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の1つの化合物は、1つ以上の酸部分又は塩基部分を含み得るので、本開示の化合物は、1つの化合物内に一塩、二塩又は三塩を含み得る。
【0058】
本開示のプロドラッグは、生理学的条件下で又は加溶媒分解によって、特定の化合物又はそのような化合物の塩に変換され得る化合物をいう。本開示の化合物及び/又は組成物は、種々の好適な経路で投与され得る。好適な経路としては、経口、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、皮内、髄腔内及び硬膜外を含む)、経皮、直腸内、経鼻、局所(経頬及び舌下を含む)、膣内、腹腔内、肺内及び鼻腔内が挙げられる。投与経路は、例えば、レシピエントの状態によって変動し得ることが、理解される。化合物が経口投与される場合、これは、薬学的に許容される担体又は賦形剤とともに、丸剤、カプセル剤、錠剤などとして処方されてもよい。化合物が非経口投与される場合、これは、以下に説明するように、薬学的に許容される非経口ビヒクルとともに、単位投薬注射可能形態で処方されてもよい。
【0059】
本開示の化合物を、ヒトを含む哺乳動物の治療処置に使用するために、これを医薬組成物として標準的な製薬理論に従って処方してもよい。本発明の医薬組成物は、すなわち、量、濃度、計画、経過、ビヒクル及び投与経路の様式で、良好な医薬理論にしたがって処方され、分封され、そして投与される。この文脈で検討される因子としては、治療される障害、治療される哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の病因、薬剤の送達部位、投与方法、投与の計画、及び臨床医に公知の他の因子が挙げられる。投与される化合物の治療有効量は、このような考慮と化合物の特性、及び投与される化合物の量とによって決定され、逆もまたしかりである。本開示の化合物は、薬物の容易に制御可能な薬物の用量を提供するための医薬投与形態に処方されて、患者が定められたレジメンに従うことを可能にするように処方され得る。
【0060】
本開示の化合物の医薬製剤は、種々の経路及び投与のタイプのために調製されてもよい。例えば、本発明の2以上の化合物は、凍結乾燥処方物、粉砕粉末、又は水溶液の形態で、薬学的に許容される希釈剤、担体、賦形剤又は安定化剤と任意選択的に混合されてもよい。処方は、周囲温度にて、適切なpHで、所望の純度で、生理学的に許容されるな担体すなわち、使用される投薬量及び濃度において、レシピエントにとって非毒性な担体と混合されることによって行われてもよい。処方物は、従来的な溶解手順及び混合手順を用いて、調製されてもよい。例えば、バルクの薬物材料(すなわち、本開示の化合物又は化合物の安定化形態)が、1種以上の賦形剤の存在下で、好適な溶媒に溶解されてもよい。
【0061】
使用される担体、希釈剤又は賦形剤は、本開示の化合物が適用される手段及び目的に依存する。溶媒は、一般に、哺乳動物へ投与されるために当業者に安全であると認識されている溶媒(GRAS)に基づいて選択されてもよい。一般に、安全な溶媒は、水中に溶解可能であるか又は混和可能な水及び他の非毒性溶媒などの、非毒性の水性溶媒である。好適な溶媒としては、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG 400、PEG300)など及びこれらの混合物が挙げられる。許容される希釈剤、担体、賦形剤及び安定化剤は、使用される投薬量及び濃度においてレシピエントにとって非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンなどの抗酸化剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール;メチル若しくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギルネ(argirune)、又はリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンなどの単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)又はポリエチレングリコールなどの(PEG)非毒性界面活性剤が挙げられる。処方物はまた、1種以上の安定化剤、界面活性剤、湿潤剤、潤滑剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、抗酸化剤、不透明化剤、滑剤、処理補助剤、着色剤、甘味料、香料、着香剤及び他の公知の添加剤を含み、薬物(すなわち、本開示の化合物又はその医薬組成物)に優れた体裁を与え又は医薬製品(すなわち、医薬)の製造における補助を与えてもよい。活性な医薬成分はまた、例えば、コロイド薬物送達系中で(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)、又はマクロエマルジョン中で、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルといった、コアセルベーション技術又は界面重合によって調製されるマイクロカプセルに封入されてもよい。このような技術は、Remington’s Phaemaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示される。「リポソーム」は、哺乳動物への薬物の送達のために有用な、種々のタイプの脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤で構成される小胞である。リポソームの構成成分は、生物膜の脂質編成と同様に、一般に、二重層形成で編成される。
【0062】
本開示の発明の化合物の、徐放性調製物が、調製されてもよい。徐放性放出の好適な例としては、本開示の化合物を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このようなマトリックスは、例えばフィルム又はマイクロカプセルに形成された物品の形態である。徐放性放出マトリックスとしては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸、L-グルタミン酸とガンマ-エチル-L-グルタメートとのコポリマー、非崩壊性酢酸エチレン-ビニル、崩壊性乳酸-グリコール酸コポリマーは挙げられる。
【0063】
本開示の医薬組成物は、滅菌注射可能調製物、例えば、滅菌注射可能水性懸濁液又は油性懸濁液の形態であってもよい。この懸濁液は、上述のような好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて公知技術にしたがって処方されてもよい。滅菌注射可能調製物はまた、非毒性の非経口的に許容できる希釈剤又は溶剤中、例えば、1,3-ブタンジオール中の滅菌注射可能溶液又は懸濁液であってもよく、又は凍結乾燥粉末として調製されてもよい。許容できるビヒクル及び溶剤の中でも、水、リンゲル液及び等張の塩化ナトリウム溶液が使用され得る。さらに、滅菌固定油は、溶剤又は懸濁媒体として従来使用され得る。この目的のために、合成のモノグリセリド又はジグリセリドを含む任意のブランドの固定油が使用され得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸が、注射可能調製物中で同様に使用され得る。
【0064】
非経口投与のために好適な本開示の医薬組成物としては、水性及び非水性の滅菌注射溶液が挙げられ、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬及び処方物を意図するレシピエントの血液と等張にするための溶質;並びに懸濁化剤及び増粘剤を含む水性及び非水性の滅菌懸濁液を含み得る。
【0065】
本発明の組成物はまた、経口用途(例えば、錠剤、ロゼンジ剤、硬質及び軟質カプセル、水性又は油性懸濁液、エマルジョン、分散可能散剤又は顆粒、シロップ又はエリキシル剤として)、局所用途(例えばクリーム剤、軟膏、ゲル剤、又は水性若しくは油性の溶液若しくは懸濁液として)、吸入による投与(例えば微粉末又は液体エアロゾルとして)、吹送法による投与(例えば微粉末として)のために、好適に処方されてもよい。
【0066】
錠剤処方物のための好適な薬学的に許容される賦形剤としては、例えば、ラクトース、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム又は炭酸カルシウムなどの希釈剤、顆粒化剤及びトウモロコシデンプンなどの崩壊剤、又はアルギン酸;デンプンなどの結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸若しくはタルクなどの滑沢剤;p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸プロピルなどの保存剤;並びにアスコルビン酸などの抗酸化剤が挙げられる。錠剤処方物は、その崩壊を調整するため又は活性成分の胃腸管におけるその後の吸着を調整するため、又はその安定性及び/又は外観を改善するためのいずれかの場合に、当該分野で周知の従来のコーティング剤及び手順を用いて、コーティングされていてもよく、又はされていなくてもよい。
【0067】
経口用途のための組成物は、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合されている硬質ゼラチンカプセル、あるいは活性成分が水若しくは油、例えばピーナツ油、液体パラフィン又はオリーブ油と混合されている軟質ゼラチンカプセルの形態で処方されてもよい。
【0068】
水性懸濁液は、一般的に、微細粉末形態の活性成分を、1種以上の懸濁化剤と共に含む:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム及びアカシアガム、分散剤又は湿潤剤、例えばレシチン又はアルキレンオキシドと脂肪酸との濃縮生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)又はエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの濃縮生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール由来の部分エステルとの濃縮生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、又はエチレンオキシドと脂肪酸及び無水ヘキシトール由来の部分エステルとの濃縮生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエート、を共に含む。水性懸濁液はまた、1種以上の保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸プロピル)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)、着色剤、着香剤、及び/又は甘味料(例えば、ショ糖、サッカリン又はアスパルテーム)を含んでもよい。
【0069】
油性懸濁液は、活性成分を、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油又はココナツ油)又は鉱物油(例えば、液体パラフィン)中に懸濁することによって処方され得る。油性懸濁液はまた、ミツロウ、硬質パラフィン又はセチルアルコールなどの増粘剤を含んでもよい。上で示された甘味料及び着香剤は、口当たりの良好な経口調製物を提供するために添加され得る。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加によって、保存されてもよい。
【0070】
水の添加による水性懸濁液の調製のために好適である、分散可能散剤及び顆粒は、活性成分を、分散剤又は湿潤剤、懸濁化剤及び1種以上の保存料と一緒に含む。好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、既に上で言及したように例示される。甘味料、着香剤及び着色料などのさらなる賦形剤もまた、存在してもよい。
【0071】
本開示の医薬組成物はまた、水中油エマルジョンの形態であってもよい。油相は、植物油、例えばオリーブ油又は落花生油、又は鉱物油、例えば液体パラフィン、又はこれらのいずれかの混合物であってもよい。好適な乳化剤としては、例えば、天然に存在するゴム、例えばアカシアゴム又はトラガカントゴム、天然に存在するリン脂質、例えば大豆、レシチン、脂肪酸及び無水ヘキシトール由来のエステル類又は部分エステル類(例えばソルビタンモノオレエート)及び上記の部分エステル類とエチレンオキシドとの濃縮生成物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。エマルジョンはまた、甘味料、着香剤及び保存料を含んでもよい。
【0072】
シロップ及びエリキシル剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、アスパルテーム又はショ糖などの甘味料とともに処方されてもよく、及び粘滑剤、保存料、着香剤及び/又は着色料をも含んでもよい。
【0073】
坐剤処方物は、活性成分を、常温では固体であるが直腸温度では液体であり、かくして直腸で溶解して薬物を放出する、好適な非刺激性賦形剤と混合することによって調製され得る。好適な賦形剤としては、例えば、カカオバター及びポリオキシエチレングリコールが挙げられる。膣投与のために好適な処方物は、活性成分に加えて当該分野で適切であることが公知の担体を含む、ペッサリー、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、泡又はスプレー処方物として存在してもよい。
【0074】
局所処方物、例えばクリーム剤、軟膏、ゲル剤及び水性又は油性の溶液又は懸濁液は、一般に、活性成分を、従来の局所的に許容できるビヒクル又は希釈剤と共に、当該分野で公知の従来手順を用いてしょほうすることによって、得られ得る。
【0075】
経皮投与のための組成物は、当業者に周知の経皮皮膚パッチの形態であってもよい。
【0076】
吹送による投与のための組成物は、例えば、30μm又はそれよりずっと小さい平均径の粒子を含む、微粉末の形態であってもよく、粉末それ自体が、活性成分を単独で含むか、又は1種以上の生理学的に許容できる担体、例えばラクトースで希釈されている。次いで、吸入のための粉末は、ターボ吸入器、例えば公知の薬剤であるクロモグリク酸ナトリウムの吹送法のために使用される吸入器と一緒に使用するために、例えば、活性成分を1~50mg含むカプセル中に都合よく保持される。
【0077】
吸入による投与のための組成物は、微粉固体を含むエアロゾル又は液滴のいずれかとして活性成分を投与するように構成された、従来の加圧エアロゾルの形態であってもよい。揮発性のフッ化炭化水素又は炭化水素などの従来のエアロゾル高圧ガスが使用されてもよく、エアロゾルデバイスは、測定された量の活性成分を投与するのに都合よく構成される。
【0078】
適用のための医薬組成物(又は処方物)は、薬物の投与のために使用される方法に依存して、種々の方法で梱包されてもよい。例えば、配給のための物品は、適切な形態の医薬組成物が中に入れられている容器が挙げられ得る。好適な容器は、当業者に周知であり、例えば、瓶(プラスチック又はガラス)、サシェ、アンプル、プラスチックバッグ、金属筒などのような材料が挙げられる。容器はまた、包装の内容物への無分別な接近を防ぐための、不正開封防止機構を含んでもよい。加えて、容器は、その表面に、容器の内容物を記載するラベルを張り付けられている。ラベルはまた、適切な注意書きを含んでもよい。処方物はまた、単位用量容器又は多回用量容器、例えば、封入アンプル及びバイアル中に入っていてもよく、使用直前に注射のために、無菌液体担体、例えば水の添加のみを必要とする、凍結乾燥の(freeze-dried)(凍結乾燥の(lyophilized))状態で保存されてもよい。即時調製注射溶液及び懸濁液は、上記の種類の無菌粉末、顆粒及び錠剤から調製される。好ましい単位投薬処方物は、本明細書中で上に挙げた通り、活性成分の、日用量を含むか又は単に部分日用量を含むものであり、又はその適切な画分を含む。
【0079】
本開示の化合物はまた、上で規定した少なくとも1種の活性成分を、したがって、獣医学的担体とともに含む、獣医学組成物を提供してもよい。獣医学的担体は、組成物の投与のために有用な物質であり、それ以外の点では獣医学分野で不活性若しくは許容できる物質である、固体、液体又は気体の物質であってよく、活性成分と適合性である。これらの獣医学的組成物は、非経口、経口又は任意の他の所望の経路で投与され得る。
【0080】
1種以上の賦形剤と組み合わせて単回投薬形態を生じる本開示の化合物の量は、必然的に、治療される患者、障害又は状態の重症度、投与の頻度、化合物の性質及び臨床医の指示に依存して変動する。本発明の化合物又は化合物の混合物の投与は、いくつかの実施形態において、一日に、約0.001mg/kg体重~約60mg/kg体重の間である。別の実施形態において、投与は、一日に0.5mg/kg体重~約40mg/kg体重の間の量である。いくつかの場合、上述の範囲の下限値を下回る投薬レベルが、適切量よりも多い場合があり、他方で、他の場合では、なおより多くの用量が、何ら有害な副作用を起こさずに使用される場合があるが、但し、このようなより多くの用量は、一日を通した投与のために、いくつかの小用量に最初に分割される。
【0081】
別の局面において、本明細書中で記載の治療のために有用な物質を含む製品又はキットが、提供される。1つの実施形態において、キットは、本開示の化合物を含む容器を含む。好適な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの、種々の材料から形成され得る。この容器は、治療のために有効な本発明の化合物又は処方物を保持し得、そして無菌のアクセスポートを有し得る。キットは、容器上に、又は容器と共に、ラベル又は包装封入物をさらに含む。包装封入物は、治療薬製品の市販の包装内に慣例上含まれる指示、例えば、このような治療薬製品の仕様を考慮した、指示、用途、投薬量、投与、禁忌、及び/又は注意書きについての情報を、含み得る。
【0082】
キットは、本開示の組成物及び第2の医薬製剤を含み得る。キットはまた、分割瓶又は分割ホイルパックなどの別個の組成物を含むための容器を含んでもよいが、別個の組成物はまた、1つの、分割されない容器内に含まれてもよい。キットは、別個の構成成分の投与のための手引きを含み得る。キット形態は、好ましくは、別個の構成成分が別個の投薬形態で投与される(例えば、経口及び非経口)か、異なる投薬間隔で投与されるか、又はこの組み合わせにおける個々の構成要素に対しての用量設定が臨床医によって望まれる場合、特に有益である。
【0083】
以下の実施例は、本発明の実施形態を説明するが、本発明の範囲を限定すると見なされるべきではない。
【実施例】
【0084】
<実施例1>
多くの低分子を、PC4タンパク質と共にインキュベートし、DNA結合を評価した。31(AG-1031)と同定した低分子のみが、PC4-DNA結合に対して有意な干渉を示した(
図5を参照されたい)。
【0085】
<実施例2>
ラット神経膠芽腫細胞株C6(A)及びヒト非小細胞肺がん細胞株H841(B)を、適切な培地で増殖させ、異なる濃度の薬物候補AG-1031(P)及びAG-1503(#3)で処理した。細胞増殖速度を、本発明の選択した低分子の濃度(μM)と比較した生細胞の数に基づいて計算した(
図6A及び6Bを参照されたい)。
【0086】
<実施例3>
SHOマウスへのA549接種後に、マウスを、IP注射を介してAG-1031(20-40μg/マウス)で1日おきに処理して、28日間フォローした。結果を
図7に示す。
【0087】
<実施例4>
腫瘍容積を、NSCLC細胞をAG-1031により処理する間、28日間にわたって測定した。この結果は、AG-1031が、NSCLC腫瘍細胞の増殖を阻害することを示す(
図8を参照されたい)。
【0088】
<実施例5>
腫瘍細胞を注射する2週間前に、AG-1031をマウスに注射した(
図9を参照されたい)。対照群と比較して、AG-1031処理群の腫瘍容積は、302.9mm
3から69.0mm
3に縮小した。このことは、AG-1031がインビボでNSCLC形成を防ぐことを実証する(
図10をされたい)。
【0089】
<実施例6>
腫瘍容積を、異種移植マウスへのAG-1031の投与後35日間にわたって測定した。
図11A及び11Bに示されるように、AG-1031は、処理マウスにおいて実質的に腫瘍容積を縮小する。
【0090】
<実施例7>
図12は、AG-1031ワクチン接種したマウスにおける実際の腫瘍サイズを、未処理対照群と比較して測定チャートとして示す。
【0091】
<実施例8>
SHOマウスに、AG-1031 40μg/マウスで週1回(×2)のIP注射を行い、及びその後に、A549細胞を接種した。A549異種移植マウスにおける腫瘍増殖に対するAG-1031効果を評価。結果を、
図13に示す。
【0092】
<実施例9>
オープンフィールド研究は、AG-1503で処理されている、グリア細胞腫を有するラットの不安及び活動の改善を示す(
図14A及び14Bを参照されたい)。
【0093】
<実施例10>
AG-1031及びAG-1503の両方が、新規の物体認識に対する改善された能力において効果を示した(
図15を参照されたい)。
【0094】
<実施例11>
電気生理学試験は、研究及び記憶能力の改善を示す(
図16A及び16Bを参照されたい)。
【0095】
<実施例12>
(A)腫瘍組織及び(B)カバ組織における、アポトーシス関連タンパク質のウェスタンブロット(
図17A及び17Bを参照されたい)。
【0096】
<実施例13>
新規な化合物のスクリーニングにより、AG-1601がNSCLC-A549細胞及びNSCLC-14299細胞上にて同定された(
図18A及び18Bを参照されたい)。
【0097】
<実施例14>
新規な化合物のスクリーニングにより、AG-1601及びAG-1610(AG-1601の活性の低いバリアントとして)が、NSCLC-H841細胞(
図19A)及びグリア細胞腫C6細胞(
図19B)上にて同定された。
【0098】
<実施例15>
AG-1601は、低分子であり、これをDMSO中に5mg/mlにて溶解し、4℃にて保存し、使用前に1mg/mLの最終濃度までPBSで希釈した。塩基性のTEVP緩衝液は、10mM Tris・HCl(pH7.5)、50mM NaF-50、5mM EDTA、5mM EGTA、1mM ベンゾアミジン、1mM PMSF、2μg/ml ロイペプチン及びペプスタチンを2μg/mlにて含んでいた。
【0099】
成体の雄Sprague-Dawley(SD)ラット(重量200~250g)が、the Laboratory Animal Center,Academy of Military Medical Science of People’s Liberation Armyより提供された。ラットを、the Medical School of Nankai Universityにおいて、制御条件下(25±2℃;12h明/暗周期)で収容し、餌及び水を自由に摂取可能にし、実験の前1週間順応させた。全ての実験手順は、「Nankai University」の認可を受け、the National Institutes of Healthにより出版されたthe Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsのガイドラインに沿って、実験のための動物の数及び苦痛を最小限にする努力をもって行った。
【0100】
Aβ1-42(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)を再蒸留水中に5μg/μlの濃度で溶解し、手術前の1週間37℃でインキュベートした。ラットを、偽(n=8)、偽+ AG-1601(n=8)、Aβ1-42(n=8)及びAβ1-42+AG-1601(n=8)の4つの群に無作為に分けた。アルツハイマー病ラットモデルを、Aβ1-42塊の側脳室内(i.c.v.)注射によって確立した。動物を、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔し、脳定位固定装置に置いた(Narishige、Japan)。ラットの頭皮を開き、頭蓋骨の両側に2つの小さな穴を、以下の位置においてドリルで開けた:ブレグマの0.8mm後方、矢状縫合の±1.4mm側方、脳表面の4.0mm下方。Aβ1-42(片側につき2.0μl)を、マイクロシリンジを介して、側脳室の両側に注射した。注射の5分間後に針を抜き、塊が完全に注入されたことを確認した。偽群のラットには、Aβ1-42の代わりに同量の再蒸留水を注射して、同様の手術を行った。手術後、全てのラットに対し、ペニシリン(100、000U)を後肢筋に注射して、感染症を予防した。手術後回復のための1週間の後に、14日間毎日、偽+AG-1601及びAβ1-42+AG-1601群の動物に、AG-1601(1mg/kg)の静脈内注射を与え、他の群には同容量のビヒクルをあてがった。
【0101】
オープンフィールド試験を実施し、運動量及び探索行動を評価した。この試験を、わずかな改変を用いて、以前に説明されている通りに(Sugita et al.、2015)実施した。オープンフィールド試験は、環状装置からなる(直径80cm、高さ30cm)。環状装置を、中央領域(装置の中心部である、直径30cm)及び同心外環領域に分けた。ラットを、装置の外環に別個に配置し、5分間自由に探索させた。各ラットの歩いた道のりを、カメラ駆動追跡システムによって追跡した(Ethovision2.0、Noldus、Wagenigen、Netherlands)。中央領域への侵入回数、全移動距離及び試験の間の移動速度を、分析した。
【0102】
動物の短間及び長期記憶機能を、オープンフィールド試験の後に実施したNOR試験を用いて評価した。実験を、以前に記載された通り(Sugita et al.、2015)、オープンフィールド試験で用いたのと同じ装置で実施した。この試験は、4つの異なる段階を含む:慣らし段階、訓練段階、短期記憶試験段階及び長期記憶試験段階。したがって、オープンフィールド試験を、本研究における慣らしの段階として用いた。オープンフィールド探索の24時間後、2つの同一のプラスチックボトル(物体A1及びA2)をオープンフィールドの径上に配置した。物体の間隔を、互い及び壁から等距離に置いた。訓練段階において、5分間にわたりラットに装置の中を自由に探索させた。1時間後、短期記憶試験を開始した。ラットは、見慣れた物体のうちの1つが新規な物体B(三角柱)と置き換わっている場を、5分間探索した。認識指数を、TB/(TA+TB)(TA:見慣れた物体Aを探すのに費やした時間;TB:新規な物体Bを探すのに費やした時間B)のパーセンテージにより計算した。長期記憶試験を、訓練の24時間後に行い、ラットに、物体A及び第3の物体C(金属管)の存在する場を、5分間探索させて、短期記憶試験と同様に認識指数を評価した。訓練段階におけるの50%の認識指数は、チャンスレベルを表し、試験段階における高い試験認識指数は、好ましい物体の認識記憶を反映する。この実験に使用した全ての物体は、ラットが動かすには重すぎ、各試験の間には70%エタノール溶液で洗浄された。動物の行動を、ビデオカメラで捕捉した。
【0103】
ラットを、30%ウレタン(0.4g/kg Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)の腹腔内注射後に脳定位固定装置に配置した。我々の以前のプロトコール(Gao et al.、2015)に従い、頭皮に適切に切開し、頭蓋を露出して、小さな穴をドリルで開けた。両極性刺激電極を、Schaffer側枝に配置し(ブレグマの後方4.2mm、3.8mml側方、硬膜の2~3.5mm下)、単極記録電極を、同側のCA1領域に埋植した(ブレグマの3.5mm後方、2.5mm側方、硬膜の1.5~2mm下)。両電極の深さを最適化して、適切な振幅の誘発電位を得た。その後、一種の単回刺激強度を、0.1mAから1mAに段階的に増大して、最大の興奮性シナプス後場電位(fEPSP)勾配を決定し、最大fEPSP勾配の70%を誘発した刺激強度を、シータバースト刺激(TBS)前後の誘発fEPSPとして選択した。試験刺激を30秒ごとに与え、ベースラインとして20分間にわたって記録した。次いで、LTPを、TBS(200Hzにて12回のパルスの30連)によって誘発し、60秒ごとに60分間にわたり記録した。その後、低頻度刺激(LFS、15分間にわたって1Hz)を行って、脱増強(DEP)を誘発し、同じ単回パルス記録を、60秒ごとに60分間にわたり続けた。LTPの最後の20分間に対するfEPSP勾配を平均化し、DEPのベースラインとして表した。
【0104】
以前に記載されたプロトコールに従い、Golgi-Cox染色法を使用し、本研究のCA1錐体細胞の尖端樹状突起棘の密度を決定するために使用した(Zhang et al.、2016)。簡潔にいうと、新鮮な脳組織サンプル(各群n=3)を麻酔したラットから摘出し、完全な海馬を含む冠状ブロックに切断した。次いで、組織を、Golgi-Cox溶液中(5%重クロム酸カリウム、5%クロム酸カリウム、及び塩化水銀の5%溶液)に直ちに入れて、室温で維持し、光を14日間遠ざけた。Golgi-Cox溶液を、その間、48時間ごとに3回交換した。その後、脳組織を、ビブラトーム(Leica-VT1000S、Germany)で切り出した。切片(150μm厚)を、20分間にわたり、6%炭酸水素ナトリウム溶液に移した。その後、これを蒸留水で洗浄し、アルコールの連続希釈で脱水し(70%、90%、100%)、最終的に、キシレン溶液で20分間にわたり維持した。最後に、切片を、樹脂媒体を用いてカバーガラスで覆った。スライドを、室温で乾燥させ、その後、顕微鏡下(100倍)で観察して、細胞形態学部分析を行った。動物1匹につき、海馬のCA1領域における6本のニューロンを、分析した。10μmの樹状細胞長あたり平均的な樹状棘密度を、各動物について計算した。
【0105】
各群につき3匹のラットを、無作為に選択して屠殺し、そしてその海馬組織を、0℃で直ちに摘出し、マイナス80℃で保存した。細胞内分画のために、100~200mgの重さのラット海馬組織を使用した。この手順は、記載されている(Yang et al.、2017)。この組織を、320mMショ糖を含む500μlのTEVP緩衝液中で30秒間にわたってホモジナイズし、ホモジネートを得た。ホモジネート(H)を、900×gで10分間にわたり4℃にて遠心分離し、上清(S1)を20分間にわたって10000×gで4℃にて遠心分離して、細胞質/明膜画分(S2)及び粗シナプトソーム画分ペレット(P2)を得た。ペレットを、35.6mMショ糖溶液を含むTEVP緩衝液中に再懸濁し、次いで、25、000×gにて20分間4℃にて遠心分離した。上清をマイナス80℃で保存し、シナプス小胞画分(LS1)と呼んだ。ペレット、シナプス細胞膜(LP1)を、1% Triton X-100を含むTEVP緩衝液中に再懸濁し、330、000×gにて30分間にわたり4℃にて遠心分離した。Triton X-100可溶性画分(TSF)と呼ばれる上清を、マイナス80℃で保存した。最終ペレットは、Triton X-100不溶性画分(TIF)であり、これを、1% SDS含有のTEVP緩衝液中にホモジナイズした。
【0106】
各構成成分の濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(Beyotime Biotechnology、China)によって測定した。構成成分を、最後に、4×ローディングバッファーで100℃にて15分間沸騰させ、ウェスタンブロットアッセイのためにマイナス80℃で保存した。
【0107】
ホモジネート全体(H)及びシナプトソーム画分を、分析した。各サンプルから20μgの等量を、10%又は13% SDS-PAGEゲルを介して各サンプルから分離し、その後、PVDF膜上に移した(Millipore、USA)。膜を、5%無脂肪乾燥乳で、1時間室温でブロッキングし、次いで、一次抗体(抗シナプトフィジン、1:1000、Abcam;抗NR 2A、1:2000、Abcam;抗NR2B、1:2000、Abcam;抗PSD-95、1:2000、Abcam;抗CREB、1:2000、Abcam;抗CREBリン酸化、1:2000、Abcam;抗SIRT1、1:2000、Santa Cruz Biotechnology;抗β-アクチン、1:5000、Santa Cruz Biotechnology)とともに、一晩4℃でインキュベートした。次いで、膜を、室温で1時間、ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(Promega)とともに、室温で1時間インキュベートした。TBST緩衝液で洗浄後、シグナルをHRP基質(Millipore、USA)で可視化し、化学発光キットで検出した(Tanon 5500、Tanon Science & Technology、China)。タンパク質バンドのグレースケール値を、NIH Image J programによって定量した。
【0108】
全てのデータを、平均±SEM(標準誤差平均)として表した。統計学的分析を、SPSS 19ソフトウェア(Chicago、IL、United States)によって処理した。LSD事後検定を用いた一元配置分散分析(ANOVA)を、群の間でデータを比較するために適用した。統計学的有意性をP<0.05で示した。
【0109】
実施例16
Aβ1-42誘発性認知障害に対するAG-1061の効果を、決定した。ラットの運動量を、オープンフィールド試験の間に観察した。偽群と比較して、Aβ1-42群は、中央領域への侵入回数の有意な低下を示した(P<0.01)。中央領域への侵入回数は、Aβ1-42群と比較したAβ1-42+AG-1061群(P<0.05)において、有意に増加した。この結果は、全移動距離及び移動速度において、これらの4つの群の間で有意差はなかったことを示した(P=0.954、P=0.127)。このことは、全てのラットが、運動欠損を示さなかったことを表す。
【0110】
NOR試験は、新たな物体を探すげっ歯類の自発的な傾向に基づいている(Ennaceur and Delacour、1989)。短期及び長期の両方の記憶能力を、この試験によって検出した。訓練段階において、4群のラットは、2つの同一の物体を探索するために相当する時間を過ごしており、各群の認識指数は、約50%であった(P=0.81)。短期記憶試験段階において、認識指数は、偽群において、約50%であったチャンスレベルよりも有意に高かった。しかし、Aβ1-42群のラットは、短期記憶試験において、見慣れた物体と新規な物体「とを区別することができず、認識指数は、偽群よりも有意に低かった(P<0.01)。さらに、Aβ1-42+AG-1061群は、Aβ1-42群と比較して、認識指数の有意な増大を示した(P<0.05)。長期記憶試験の結果は、同様の効果を示した(P<0.01、P<0.05)。ラットのCA1領域における海馬シナプスの可塑性を評価し、Aβ1-42誘発性認知障害に対するAG-1061の神経保護効果を説明した。20分間のベースラインfEPSPの安定的な記録後、TBSを、Schaffer側枝に送達し、LTPを誘発した。CA1領域において増強されたfEPSPを、60分間にわたり連続的に記録した。次いで、LFSを、15分間にわたって投与して、DEPを誘発した。LTP及びDEPの最後の20分間のデータを、分析した。この結果は、LTPのfEPSP勾配が、偽群と比較して、Aβ1-42群において低下していることを示した(P<0.001)。しかし、抑制されたLTPは、AG-1061によって有意に増強した(P<0.01)。また、DEPに対して、目に見える有意な効果があった。このデータは、Aβ1-42注射は、DEPのfEPSP勾配を有意に増大するが(P<0.001)、他方で、副作用は、AG-1061治療によって効果的に反転することを示した(P<0.001)。
【0111】
Aβ1-42誘発性のLTP及びDEPの抑制に対する、AG-1061の効果を決定するために、海馬シナプスを分画し、次いで、ウェスタンブロットアッセイによって評価した。シナプス位置及びシナプス外位置を、NR2A、NR2B、PSD-95及びSYPによってプローブ検出した。SYPは、最終的にTSF画分において増えた。SYPとは対照的に、NR2A、NR2B及びPSD-95の発現は、シナプス後膜肥厚(PSD)を含むTIF画分において増えた。Aβ1-42注射は、H画分(P<0.05、P<0.01、P<0.05)及び特にTIF画分(P<0.01、P<0.001、P<0.01)において、NR2A、NR2B及びPSD-95のレベルを低下させることが見いだされた。同時に、SYPの発現レベルは、TSF画分において劇的に低下した(P<0.05)。しかし、NR2A、NR2B及びPSD-95レベルは、Aβ1-42+AG-1061において、H画分(P<0.05、P<0.05、P<0.01)及びTIF画分において上昇した(P<0.01、P<0.01、P<0.001)。加えて、TSF画分におけるSYPのレベルもまた、Aβ1-42群と比較して上昇した(P<0.05)。これらの知見は、AG-1061は、シナプスタンパク質の発現レベルを上方制御することにより、LTP及びDEPを反転する可能性が高いことを示す。
【0112】
海馬におけるシナプスの欠損は、ADのひとつの主要な兆候である。これにより、海馬におけるAβ1-42誘発性のシナプス毒性(synaptotoxicity)に対してAG-1061が保護するかどうかを決定した。海馬切片のGolgi-Cox染色を行い、樹状細胞棘を可視化しそして定量した。Aβ1-42群のラットは、CA1領域における樹状細胞棘の密度において、偽群と比較して有意な低下を示した(P<0.001)。対照的に、樹状細胞棘欠損の顕著な反転が、Aβ1-42+AG-1061群において観察された(P<0.01)。
【0113】
Aβ1-42誘発性認知障害のAG-1061による予防を裏打ちする、考えられる分子メカニズムをさらに調査するために、SIRT1及びp-CREB海馬のレベルを、決定した。偽群と比較して、SIRT1タンパク質レベルは、Aβ1-42群において有意に低下し(P<0.01)、この減退は、AG-1061治療によって予防される(P<0.05)。p-CREBのレベルもまた調べた。Aβ1-42群は、偽群と比較してp-CREBレベルにおける低下を示したが、他方で、AG-1061治療は、p-CREBタンパク質の発現を有意に増大した(P<0.01、P<0.05)。
【0114】
ADのラットモデルにおける、Aβ1-42誘発性認知障害に対するAG-1061の効果及び考えられるメカニズムを、決定した。Aβ1-42注射は、ラットにおいて、学習及び記憶、並びに海馬シナプスの可塑性を損ない、AG-1061は、この障害を、Aβ1-42によって低下されるSIRT1及びp-CREBのレベルを増大にさせるよって、この障害をレスキューすることが見いだされた。AD患者における認知の低下は、Aβ1-42の脳レベルの上昇と関連する。Aβ1-42の脳室内注射の後、げっ歯類は、いくつかの行動試験において、学習障害及び記憶障害を含む行動不能性を示した(Zhang et al.、2015)。現在の研究において、オープンフィールド試験及び新規物体認識試験を行い、Aβ1-42ラットにおける認知機能障害に対する、AG-1061の有益な効果を調べた。認知行動試験のほとんどは、一般的運動量に依存するため、オープンフィールド試験が実施された。この試験において、動物は、新たな環境にさらされた場合、自発的にな運動性及び探索行動を示した。結果は、Aβ1-42による探索行動不能性を、AG-1061が改善したことを示した。さらに、この試験における運動量は、いずれの群の間でも異ならなかった。Aβ曝露されたラットは、海馬依存的学習及び記憶欠損を示していた。(Wang et al.、2016)。NOR試験は、ADラットモデルにおける認知欠損を研究するために、最も広範に使用されている試験の1つである。これらの結果は、NOR試験性能において、Aβ1-42は、短期及び長期の学習不全及び記憶不全を起こしたが、AG-1061治療は、これらの認知の変更を劇的に反転し得ることが示された。さらに、認知欠損は、ラットの運動量の差異に寄与していなかった。シナプス可塑性は、学習及び記憶機能を支持するメカニズムであると考えられ得る。多くの証拠により、シナプス可塑性欠損が、一般に、AD患者及びADモデル動物の脳にのみ見いだされることが示された。(Hemar and Mulle、2011;Ji and Strittmatter、2013)。海馬におけるシナプス可塑性の実験的形態であるLTPは、学習及び記憶の細胞的メカニズムであると考えられる。LTP後に誘発されたDEPは、LTPプロセスにおいて増強されたシナプスの強度を反転する現象であり、海馬の新規な情報の保存に関与する(Qi et al.、2013;Wagner and Alger、2015)。この研究は、Aβ1-42が、海馬におけるLTP及びDEPの両方を有意に損なうことを示し、これは、先行研究と一致する(Hu et al.、2014;Wang et al.、2016)。AG-1061は、ラットにおいてAβ1-42で誘発された、LTP及びDEP損傷を改善した。
【0115】
多くの研究が、N-メチルD-アスパルテートレセプター(NMDAR)に対する、Aβの神経毒性効果に注目しているが、これは、NMDAレセプター依存的可塑性が、シナプス記憶メカニズムの根底にある可能性が高い(Cullen et al.、1997;Kim et al.、2001)。NMDARは、興奮性シナプスのシナプス後膜にて、シナプス足場タンパク質、シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95)によって安定化する。精製された興奮性PSDをラット海馬から単離する、ための細胞内分画アプローチを用いて、NR2A、NR2B及びPSD-95のレベルが、全ホモジネート(H)及びTIF画分中において、Aβ1-42によって低下し、これは、シナプス可塑性に対する明らかな阻害効果をもたらし得ることが見出された。シナプス小胞膜上にあるシナプトフィジン(SYP)は、神経伝達物質の放出に関連する(Chi et al.、2003)。この研究における、Aβ1-42ラットのH及びTSF中における低下したSYPは、先行研究と一致する(Ghumatkar et al.、2018)。にもかかわらず、前及び後シナプスタンパク質の低下したレベルは、AG-1061によって上昇する。結果として、AG-1061は、これらのシナプスタンパク質を上方制御し、学習及び記憶に寄与するLTP及びDEPを増大すると結論づけられた。加えて、シナプス欠損は、ADの海馬における神経生理学的兆候であり、学習及び記憶欠損の基礎となり得る(Scheff et al.、2006)。Aβの堆積は、シナプスシグナル伝達経路を妨害し、樹状細胞棘を破壊することによって、認知欠損をもたらす(Pozueta et al.、2013)。証拠はまた、シナプスの形態及び機能の保護が、ADの動物モデルにおいて観察された認知障害を改善できることをも示す(Mcclean and Holscher、2014;Wei et al.、2015)。この研究において、樹状細胞棘の密度は、Aβ誘発性ラットにおいて有意に低下した;しかし、この欠損は、AG-1061治療によって減弱され、これは、シナプス可塑性及び認知障害の改善を支援した。さらに、SYP及びPSD-95の増強したレベルは、それぞれ、前及び後シナプスのマーカーであり、これもまた、AG-1061がAβ1-42誘発性シナプス欠損を改善したことを示した。SIRT1及びCREBの発現は、認知機能を制御することが、さらに評価された。Aβ1-42は、海馬においてSIRT1発現レベルを低下させ、他方で、AG-1061治療は、この抑制効果を反転することが見いだされた。SIRT1は、ADにおける学習及び記憶機能の調節において、正の効果を有する。Julienらは、AD患者の脳における海馬CA1及びCA3領域において観察された、SIRT1転写を低減する最初の直接的な証拠を提示した(Julien et al.、2009)。さらに、類似の結果は、RWangらによる研究においても観察され、この研究は、Aβ1-42が、脳において海馬SIRT1発現レベルを抑制し、ラットのシナプス可塑性及び空間学習記憶不全をもたらしたことを示した(Wang et al.、2016)。その上さらに、レスベラトロールからもたらされた、学習及び記憶形成並びにLTP誘発の増強効果は、SIRT1突然変異体マウスにおいて遮断された(Zhao et al.、2013)。まとめると、これらの研究は、SIRT1と学習及び記憶機能との間に、明らかな正の関係性があることを示していた。結果は、AG-1061が、SIRT1の低下を防ぎ、Aβ1-42によって誘発されたシナプス可塑性及び認知欠損を、緩和することを示した。近年の研究は、証明している。SIRT1が、転写レギュレーター並びに学習及び記憶のメディエーターであるCREBの翻訳後修飾を制御し、シナプス可塑性及び認知機能を維持することを実証している(Gao et al.、2010;Zhao et al.、2013;Herskovits and Guarente、2014)。CREB活性化が、培養した海馬ニューロンにおけるAβの曝露において低下したことが、実証されている(Matsuzaki et al.、2006)。したがって、我々の研究においては、CREB及びp-CREBの発現を、ラットの海馬において分析した。これらの結果は、Aβ1-42が、CREB及びp-CREBの発現を阻害し、そしてAG-1061処理が、その低下をレスキューしたことを示した。これえらの結果は、CREB活性化の下方制御が、Aβ1-42毒性によるものであり、それにより、ラットのシナプス可塑性及び認知欠損が調整されることを示した。同時に、CREB活性化の回復は、Aβ1-42によって誘発された損傷を予防する。結果はまた、p-CREBの低下が、SIRT1の下方制御された発現を伴うという、先行研究に沿ったものであった。海馬において、SIRT1は、転写因子Yin Yang 1(YY1)と共同してマイクロRNA-134の発現を抑制し、それにより、CREB及び脳由来神経栄養因子(BDNF)の過剰発現、それによるシナプス可塑性及び記憶形成の調節をもたらした(Gao et al.、2010)。さらに、レスベラトロールによるSIRT1及びp-CREBの上方制御レベルは、ADラットにおいて、学習及び記憶機能を改善し得た(Wang et al.、2016)。まとめると、AG-1061の神経保護効果は、SIRT1及びp-CREBの発現の上昇によるものであろう。
【0116】
これらの知見は、Aβ1-42が行動で見られる学習及び記憶を損ない、インビボで海馬CA12領域におけるシナプス可塑性及び樹状細胞棘の密度を損なうことを示す。AG-1061は、Aβ1-42によって低下したSIRT1及びp-CREBの発現レベルを上昇させることにより、欠損を反転させ、このことは、学習及び記憶並びにシナプス可塑性に対する、AG-1061の神経保護効果を明らかにし得る。
【0117】
<実施例17 AG-1601及びアルツハイマー病>
AG1601は、Aβ42誘発性の認知損傷を改善する。AG-1601は、Aβ
42誘発性ADラットモデルにおいて、新規物体認識(NOR)試験における認知損傷を有意に反転することが、決定されている(
図20A~Dを参照されたい)。実験の時間チャートを、
図20Aに示す。動物の運動量を、オープンフィールド試験の間観察した。偽群と比較して、Aβ42群は、中央領域への侵入回数の有意な低下を示した(
図20B、P<0.01)。しかし、中央領域への侵入回数は、AG1601処理群において劇的に増加した(Aβ42+AG1601、
図20B、P<0.05)。しかし、全移動距離及び移動速度の試験においては、有意な効果は観察されなかった。
【0118】
NOR試験は、新規な物体を探索するげっ歯類の自発的傾向に基づく。短期記憶試験において、認識指数は、偽群において、50%チャンスレベルよりも明らかに高かった。しかし、Aβ42群動物は、短期記憶試験において、見慣れた物体を新規な物体と区別することができず、偽群と比較して認識指数は有意に低下した(
図20B、P<0.01)。さらに、AG1601処理群は、Aβ42群と比較して、認識指数の有意な増大を示した(
図20C、P<0.05)。類似の効果が、長期記憶試験においても観察された(
図20D、P<0.05)。
【0119】
AG1601は、Aβ42で誘発された動物における、海馬の抑制されたLTP及びDEPを反転する。
図21Aに示すように、インビボ電気生理学を記録に使用して、この動物のCA1領域における海馬シナプス可塑性を評価した。記録したデータの最後の20分間に基づくと、LTP(長期記憶増強)の興奮性シナプス後場電位(fEPSP)勾配は、偽群と比較して、Aβ
42群において低下していた(p<0.001)。しかし、抑制されたLTPは、AG-1601によって有意に回復し(
図21B、p<0.01)、他方で、Aβ42によってもたらされたDEP(脱増強)の上昇は、AG-1061処理によって有効に反転した(
図21C、p<0.001)。
【0120】
AG1601は、Ab42誘発された動物における、海馬のシナプスタンパク質の発現を増強する。いかに、AG1601が、LTP及びDEPのAβ
42誘発型抑制に影響を及ぼすのかを調査するために、海馬シナプス組織を分画し、ウェスタンブロットによって、PSD-95及びSYPの発現を評価した(
図22A~B)。
図22Aで示されるように、PSD-95タンパク質及びSYPタンパク質の両方の発現は、Aβ42誘発された動物において劇的に阻害されたが(P<0.05、
図22B)、この効果は、AG1601処理群において克服された(PSD-95についてP<0.01及びSYPについてP<0.01、
図22Bを参照されたい)。これらの結果は、シナプスタンパク質の上方制御に起因し得る、LTP及びDEP反転の分子メカニズムを示す。
【0121】
AG1601は、SIRT1及びリン酸化CREBのレベルを上方制御する。SIRT1は、成人の脳内で広範に発現し、神経新生及び神経保護を含む多くの複合的生理学的プロセスに関与する。SIRT1は、シナプス可塑性及び認知機能に必須であることが報告されている。SIRT1の過剰発現は、ADに対して保護することができた。CREB(cAMP応答エレメント結合タンパク質)は、周知の核転写因子であり、CREBリン酸化(p-CREB)は、シナプス可塑性に重要な役割を果たす。シナプス強化の現象である長期増強(LTP)は、学習及び記憶の細胞性メカニズムであると考えられ、CREBノックアウトマウスは、LTP及び長期記憶の両方において欠損を示し、他方で、LTP及び記憶は、CREBの活性形態を発現することによって増強される。多くの研究が、AD患者の損傷した記憶機能は、CREB活性化の低減と密接に関連していると報告してきた。
【0122】
AG-1601はまた、ADラットモデルにおけるCA1領域において樹状細胞棘の密度において、Aβ
1-42誘発性であるSIRT1及びCREBの低減を防ぐことが可能である(
図23A~D)。STRT1は、Aβ
1-42群において有意に低下するが、この低下は、AG-1601処理によって妨げられる(
図23A及び4B);p-CREB発現もまた、AG-1601処理において、Aβ
1-42と比較して有意に増加する(
図23C及びD)。
【0123】
<実施例18 細胞培養及び細胞増殖アッセイ>
U251、SF539、SF295のヒトグリア細胞腫細胞株を、NCI/DTPから得、及びU87をATCCから得た。U251、SF539、及びSF295細胞を、RPMI(Gibco)培地中で増殖させ;U87細胞を、EMEM培地(ATCC)中で増殖させ、10% FBS及び100単位/mlのペニシリンーストレプトマイシンを含む全ての細胞培養培地、並びに細胞を、37℃/5%CO2湿潤フードにてインキュベートした。化学化合物処理の1日前に、4種の細胞U251、SF539、SF295、及びU87を、96ウェルプレート上に10、000細胞/ウェル(100μl)に3連で蒔いた。培養培地を除去し、細胞を一連の異なる濃度のAG1601(対応する新鮮な培地中)で処理した。37℃/5%CO2にて48時間のさらなるインキュベーションの後、細胞増殖アッセイを、細胞計数キット-8(Dojindo Laboratories、#CK04)を用いて実施し、100μlの新鮮培地で置き換えた後、10μlの試薬を各ウェルに加えて、ウェルを混ぜ、さらに2~3時間、37℃/5%CO2でインキュベートし、96ウェルプレートリーダーによりOD450nMの波長で読み取って(Victor 2、1420Multilabel counter)、データ分析をExcelで行い、相対平均OD450nM+/-平均の標準誤差で得た。
【0124】
<実施例19 GBM異種移植マウスモデル確立及びインビボ効力研究>
雌SHOマウス(Crl:SHO-PrkdcscidHrhr/6~8週齢)を、Charles Riverから購入した。ヒト神経膠芽腫細胞株SF295細胞を、8週齢雌SHOマウスの右側に皮下注射し(3×106/マウス1匹)、接種後約一週間で腫瘍が出現した(7日目)。腫瘍サイズが100mm3の容積に達成したら、全部で12匹のマウスを、無作為に2群(処理&ビヒクル)に分けた。1.5μg/μlのAG-1601(計150μg/マウス1匹あたり)を100μl、IPを介して処理群の各マウスに一日おきに計28日間にわたって注射して、同容量のH2Oをビヒクル群のマウスに注射した。腫瘍サイズ測定値を、デジタルノギスを用いて評価し、腫瘍サイズを、以下の式を用いて計算した[mm3=((L+W)/4)X((L+W)/4)X((L+W)/4)X4/3X3.14159]。データを、相対平均腫瘍容積+/-平均の標準誤差でプラット(platted)した。
【0125】
<実施例20>
細胞を、示した含量のAG-1601で48時間にわたって処理して、その後、細胞生存アッセイを実施した。ラット細胞におけるAG-1601の効力(
図24A及びBを参照されたい)、ヒトグリア細胞腫細胞におけるAG-1601の効力(
図25A及び25Bを参照されたい)、C6及びU251細胞におけるAG-1601の異なるバッチ(
図26A及び26Bを参照されたい)、C6及びU87細胞におけるAG-1601の効力(
図27A及び27Bを参照されたい)、U251細胞におけるAG-1601、TMZ、及びカルムスチンの効力(
図28A及び28Bを参照されたい)、並びにU87細胞におけるAG-1601、TMZ、及びカルムスチンの効力(
図29A及び29Bを参照されたい)。AG1601は、インビトロのグリア細胞腫細胞において、TMZ及びカルムスチンよりも良好な効力を示した。細胞生存率を、T98G細胞及びU251細胞において、DMSO、TMZ、AG-1601及びTMZ+AG-1601での処理後に決定した(
図30)。
【0126】
測定した通り、AG-1601は、U251細胞(
図31A及び31Bを参照されたい)、並びにU87細胞(
図32A及び32Bを参照されたい)におけるTMZの効果を増強する。
【0127】
<実施例21>
AG1601は、SF295異種移植腫瘍マウスモデルに対する効力を示す(
図33A~Dを参照されたい)。
【0128】
<実施例22>
AG1601は、C6異種移植腫瘍ラットモデルに対する効力を示した(
図34A(処理)及び
図34B(対照)を参照されたい)。
【0129】
<実施例23>
SD雄ラット(rate)を、DMEM培地10μl中(偽及び小+AG-1601)、及びC6細胞を10μl中1×106(グリア細胞腫及びグリア細胞腫+AG-1601)で、頭蓋内注射した。マウスグリア細胞腫細胞株の種類であるC6細胞を、ラットの右線条体内に注射し、グリア細胞腫形成を誘発した。C6細胞を、10% FBSを含むDMEM中で培養した。C6細胞を、DMEM中に懸濁し、ラットに移植した。10%FBS含有DMEMを注射したラットを、偽として群にした。腫瘍形成を7日間続け、その後、1日に1回6日間、AG1601を静脈内注射した。物理的知見:2日目の体重;シナプス可塑性の効果;LTP及びCA3-CA1の電気生理学試験;研究のメカニズム(BDNF/TrkBシグナル伝達経路);ウェスタンブロット;シナプス可塑性:BDNF/TrkB/PI3K/Akt/NMDA/PSD95/SYP;腫瘍抑制:BDNF/TrkB/RAS/ERK/Bcl-2/Bax;組織学及び免疫組織化学分析;HE染色及び免疫組織化学染色;脳種類の性質決定(位置、大きさ及び領域)を含めた。
【0130】
偽群及び偽+AG1601群における体重は、有意な相違なしで2週間増加した。Gloma及びグリア細胞腫+AG1601群における体重は、2週間の間に減少し、これらの間に有意差が認められた(
図35、36、37、38A、38B、及び39を参照されたい)。
図33~35に示した番号1604~1615は、動物番号である。
【0131】
グリア細胞腫及びグリア細胞腫+AG1601群における腫瘍を、脳から除去し、計量した。グリア細胞腫群と比較して、グリア細胞腫+AG1601群において、容量及び重量が相応して減少した。これらの結果は、AG1601が、グリア細胞腫増殖を抑制し得たことを示す。
【0132】
AG1601で処理したグリア細胞腫群におけるラットの生存時間は、処理なしのグリア細胞腫群における時間よりも長かった。
【0133】
偽及び偽+AG1601群における体重は、有意な相違なしで2週間増加した。Gloma及びグリア細胞腫+AG1601群における体重は、2週間の間に減少し、これらの間に有意差が認められた。グリア細胞腫及びグリア細胞腫+AG1601群における腫瘍を、脳から除去し、計量した。グリア細胞腫群と比較して、グリア細胞腫+AG1601群において、容量及び重量が相応して減少したことを示した。これらの結果は、AG1601が、グリア細胞腫増殖を抑制し得たことを示す。AG1601で処理したラットの生存時間は、処理なしの時間よりも長かった。
【0134】
本発明の他の実施形態及び使用は、明細書および本明細書中に開示される本発明の実施を考慮して、当業者に明らかである。本明細書中に挙げた全ての参考文献は、全ての刊行物、米国及び他国の特許及び特許出願を含めて、具体的かつ完全に参考として組み込まれる。使用された場合、用語含むは、からなる及びから本質的になるを含むことが意図される。さらに、含む(comprising)、含む(including)、及び含む(containing)は、限定を意図しない。明細書及び実施例は、例示のみと考えられるよう意図しており、本発明の真の範囲及び本旨は、以下の特許請求の範囲に示される。