(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】メソテリンに特異的に結合する抗メソテリンキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220912BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220912BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220912BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220912BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220912BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220912BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220912BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220912BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220912BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220912BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220912BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220912BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220912BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12P21/08
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K38/16
(21)【出願番号】P 2021560580
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 KR2021005527
(87)【国際公開番号】W WO2022030730
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0097546
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521443531
【氏名又は名称】セレンジーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アン, ジェ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ナ ギョン
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-534762(JP,A)
【文献】特表2018-538339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15
C07K 16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の重鎖CDRを含む重鎖可変領域、及び軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含む、抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片:
配列番号1からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、または
配列番号13からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号14からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号15からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号16からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号17からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号18からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【請求項2】
配列番号19または23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号20または24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号19からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号20からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項5】
配列番号23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含
む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の抗体、またはその抗原結合断片をコーディングする、分離された核酸。
【請求項7】
請求項6の分離された核酸を含む、ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターで形質転換された、
分離された宿主細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む、抗メソテリン抗体を製造する方法。
【請求項10】
抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメラ抗原受容体であり、
前記抗原結合ドメインは、次の重鎖CDRを含む重鎖可変領域、及び軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片である、キメラ抗原受容体:
配列番号1からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;または
配列番号13からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号14からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号15からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号16からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号17からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号18からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【請求項11】
前記抗原結合ドメインは、配列番号19からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号20からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片である、請求項10に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項12】
前記抗原結合ドメインは、配列番号23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片である、請求項10に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項13】
前記抗原結合断片は、scFv(single chain variable fragment)である、請求項10に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項14】
請求項10に記載のキメラ抗原受容体をコーディングする、ポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号26または27からなる塩基配列を含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項14に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項17】
請求項16に記載のベクターで形質転換された、
分離された細胞。
【請求項18】
前記
分離された細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはガンマデルタT細胞(γδTセル)である、請求項17に記載の
分離された細胞。
【請求項19】
請求項18に記載の
分離された細胞を含む、癌の予防用または治療用の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソテリンに特異的に結合する抗メソテリンキメラ抗原受容体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、免疫チェックポイント阻害剤、CAR-T細胞治療剤のような免疫抗癌剤が、多様な癌において、効果を立証しているが、固形癌は、そのような新たな形態の免疫抗癌剤にも、治療効率が大きく反応しないと報告される。それは、腫瘍を覆い包む繊維組織が、免疫治療反応を妨害し、薬物伝達が困難であるためであると推定される。従って、特異的であり、さらに効果的なCAR-T癌治療方法として、固形癌細胞表面に特異的に過発現される蛋白質を、癌抗原をもって標的とする抗体を開発し、それを利用し、効果的に固形癌を治療することができる方法に係わる研究の必要性が高まっている。
【0003】
一方、メソテリンとは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)ドメインにより、細胞表面にアンカリングされた糖蛋白質であり、人体の腔(cavity)と内部器官とを取り囲む中皮(mesothelium)に制限的に低く発現することが正常であるが、膵臓癌、中皮腫、卵巣癌、非小細胞性肺癌などの癌で多量に発現されると知られている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様は、抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片を提供するものである。
【0005】
他の態様は、前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片をコーディングする分離された核酸を提供するものである。
【0006】
さらに他の態様は、前記分離された核酸を含むベクターを提供するものである。
【0007】
さらに他の態様は、前記ベクターで形質転換された宿主細胞を提供するものである。
【0008】
さらに他の態様は、前記宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む抗メソテリン抗体を製造する方法を提供するものである。
【0009】
さらに他の態様は、抗原結合ドメイン、ヒンジ(hinge)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメラ抗原受容体を提供するものである。
【0010】
さらに他の態様は、前記キメラ抗原受容体をコーディングするポリヌクレオチドを提供するものである。
【0011】
さらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供するものである。
【0012】
さらに他の態様は、前記ベクターで形質転換された細胞を提供するものである。
【0013】
さらに他の態様は、前記細胞を含む薬学的組成物、前記細胞の医薬的用途、及び治療学的有効量の前記細胞を個体に投与する段階を含む、癌を予防または治療する方法を提供するものである。
【0014】
本出願の他の目的、及び利点は、添付された請求範囲及び図面と共に、下記の詳細な説明により、さらに明確になるであろう。本明細書に記載されてない内容は、本出願の技術分野、または類似した技術分野における当業者であるならば、十分に認識して類推することができるでものであるので、その説明を省略する。
【0015】
本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施例は、それぞれの他の説明及び実施例にも適用されうる。すなわち、本出願で開示された多様な要素の全ての組み合わせが、本出願の範疇に属する。また、下記の具体的な敍述により、本出願の範疇が制限されると見ることはできない。
【0016】
一態様は、抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片を提供する。
【0017】
前記「メソテリン(MSLN:mesothelin)」とは、総アミノ酸長が630aaである細胞表面糖蛋白質(NCBI Gene ID:10232)であり、一部細胞、特に、特定腫瘍細胞で選択的に発現されるが、以下に、メソテリン蛋白質のアミノ酸配列を示す。
【0018】
MALPTARPLLGSCGTPALGSLLFLLFSLGWVQPSRTLAGETGQEAAPLDGVLANPPNISSLSPRQLLGFPCAEVSGLSTERVRELAVALAQKNVKLSTEQLRCLAHRLSEPPEDLDALPLDLLLFLNPDAFSGPQACTRFFSRITKANVDLLPRGAPERQRLLPAALACWGVRGSLLSEADVRALGGLACDLPGRFVAESAEVLLPRLVSCPGPLDQDQQEAARAALQGGGPPYGPPSTWSVSTMDALRGLLPVLGQPIIRSIPQGIVAAWRQRSSRDPSWRQPERTILRPRFRREVEKTACPSGKKAREIDESLIFYKKWELEACVDAALLATQMDRVNAIPFTYEQLDVLKHKLDELYPQGYPESVIQHLGYLFLKMSPEDIRKWNVTSLETLKALLEVNKGHEMSPQAPRRPLPQVATLIDRFVKGRGQLDKDTLDTLTAFYPGYLCSLSPEELSSVPPSSIWAVRPQDLDTCDPRQLDVLYPKARLAFQNMNGSEYFVKIQSFLGGAPTEDLKALSQQNVSMDLATFMKLRTDAVLPLTVAEVQKLLGPHVEGLKAEERHRPVRDWILRQRQDDLDTLGLGLQGGIPNGYLVLDLSMQEALSGTPCLLGPGPVLTVLALLLASTLA(配列番号40)
【0019】
メソテリンは、正常中皮細胞(mesothelial cells)においては、低い発現を示すが、固形癌(固形腫瘍)において高く発現され、食道癌(esophageal cancer)、乳癌(breast cancer)、三重陰性乳癌(TNBC:triple-negative breast cancer)、胃癌(gastric cancer)、胆管癌(cholangiocarcinoma)、膵臓癌(pancreatic cancer)、大腸癌(colon cancer)、肺癌(lung cancer)、胸腺癌(thymic carcinoma)、中皮腫(mesothelioma)、卵巣癌(ovarian cancer)、子宮内膜癌(endometrial cancer)、子宮頸癌(cervical cancer)、子宮体部漿液性腺癌(USC:uterine serous carcinoma)及び小児急性骨髄性白血病(AML:acute myeloid leukemia)などで過発現が確認された(Cancer Discov. 2016 Feb; 6(2): 133-46; J Reprod Immunol. 2020, 139: 103115; Gynecol Oncol. 2007, 105(3): 563-570; Eur J Haematol. 2007, 79(4): 281-286)。
【0020】
一実施例においては、ファージディスプレイ抗体ライブラリーパニングを介し、標的抗原であるメソテリンに特異的に結合する抗体として、MSLN34、MSLN37及びMSLN38を製造した。
【0021】
本明細書において、用語「抗体」とは、抗原に選択的に作用し、生体免疫に関与する蛋白質の総称を言うものであり、その種類は、特別に制限されるものではない。抗体の重鎖と軽鎖は、可変領域を含むエピトープを認識する抗原結合部位を有しており、可変領域の配列変化により、抗原特異性がしめされることになる。抗原結合部位の可変領域は、可変性が少ない構造領域(FR:framework region)と、可変性が大きい相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)とに分けら、重鎖と軽鎖とのいずれも、CDR1,2,3に分けられる、3個のCDR部位と、4個のFR部位とを有する。それぞれの鎖のCDRは、典型的に、N末端から始め、順次にCDR1、CDR2、CDR3と命名され、また特定CDRが位置している鎖によって識別される。
【0022】
本明細書において、用語「相補性決定領域」とは、抗体の可変領域において、抗原との結合特異性を付与する部位を意味する。
【0023】
本明細書において、用語「エピトープ」とは、抗体が特異的に結合することができる抗原分子内の特定立体分子構造を意味する。
【0024】
前記抗体は、単一クローン抗体、多特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体(例えば、ヒト化ミュリン抗体)をいずれも含む。また、前記抗体は、ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディを含むものでもある。
【0025】
本明細書において、抗体とは、抗原結合能を保有した抗体の「抗原結合断片」または「抗体断片」を含む。前記抗原結合断片は、相補性決定領域を1以上含む抗体断片、例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’及びF(ab’)2からなる群のうちからも選択される。抗体断片においてFabは、軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の不変領域、及び重鎖の最初不変領域(CH1)を有する構造であり、1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に、1以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点において、Fabと違いがある。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基が、ジスルフィド結合をなしながら生成される。Fvは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域だけを有している最小の抗体切片である。二本鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合により、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが連結されている。一本鎖Fv(scFv:single-chain Fv)は、一般的に、ペプチドリンカを介し、重鎖の可変領域と、軽鎖の可変領域とが共有結合で連結されるか、あるいはC末端で直に連結されており、二本鎖Fvのように、ダイマーのような構造をなすことができる。
【0026】
一態様の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号1からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;または
【0027】
配列番号13からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号14からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号15からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号16からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号17からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号18からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含むことを特徴ともする。
【0028】
前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号19または23からなるアミノ酸配列と、80%以上の配列相同性(sequence homology)、望ましくは、90%以上の配列相同性、さらに望ましくは、95%以上の配列相同性、さらに一層望ましくは、100%の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域を含むことを特徴ともする。
【0029】
前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号20または24からなるアミノ酸配列と、80%以上の配列相同性、望ましくは、90%以上の配列相同性、さらに望ましくは、95%以上の配列相同性、さらに一層望ましくは、100%の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むことを特徴ともする。
【0030】
前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号19からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号20からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことを特徴ともする。
【0031】
前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことを特徴ともする。
【0032】
一具体例において、前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号19からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号20からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリンscFvでもある(抗MSLN34 scFv)。
【0033】
他の具体例において、前記抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリンscFvでもある(抗MSLN38 scFv)。
【0034】
前記一態様による抗体、またはその抗原結合断片は、メソテリンを特異的に認識することができる範囲内において、本明細書に記載された抗メソテリン特異的結合抗体の配列だけではなく、その生物学的均等物も含んでもよい。例えば、抗体の結合親和度及び/またはその他生物学的特性をさらに一層改善させるために、抗体のアミノ酸配列にさらなる変化を与えることができる。
【0035】
例えば、前記抗体は、保存的置換を介し、抗体のアミノ酸配列が置換されうる。ここで、「保存的置換」とは、1個以上のアミノ酸を、当該ポリペプチドの生物学的または生化学的な機能の損失を引き起こさない類似した生化学的特性を有するアミノ酸で置換されることを含むポリペプチドの変形を称する。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基を、類似した側鎖を有するアミノ酸残基で代替させる置換である。類似した側鎖を有するアミノ酸残基部類は、当業界に規定されている。それら部類は、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、帯電されていない極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝された側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。一態様による抗体が、保存的アミノ酸置換を介し、抗体の一部アミノ酸配列が置換されても、依然として本来の活性を保有することができるということを予想することができる。
【0036】
前述の生物学的均等活性を有する変異を考慮するならば、一態様の抗体、またはそれをコーディングする核酸分子は、配列番号に記載された配列と実質的な同一性(substantial identity)を示す配列も含むと解釈される。前述の実質的な同一性は、前述の配列と、任意の他の配列とを、最大限対応されるように整列させ、当業界で一般的に利用されるアルゴリズムを利用して整列された配列を分析した場合、最小61%の相同性、望ましくは、70%の相同性、さらに望ましくは、80%の相同性、さらに一層望ましくは、90%の相同性、さらに一層望ましくは、95%の相同性、最も望ましくは、98%の相同性を示す配列を意味する。配列比較のためのアラインメント方法は、当業界に公知されている。
【0037】
他の態様は、前記抗体、またはその抗原結合断片をコーディングする分離された核酸を提供する。
【0038】
本明細書において、用語「核酸」とは、DNA分子及びRNA分子を包括的に含む意味であり、核酸において基本構成単位であるヌクレオチドは、自然のヌクレオチドだけではなく、糖部位または塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む。一態様の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコーディングする核酸の配列は、変形されうる。前記変形は、ヌクレオチドの追加、欠失、または非保存的置換または保存的置換を含む。
【0039】
前記核酸は、前記核酸のヌクレオチド配列につき、実質的な同一性を示すヌクレオチド配列も含むと解釈される。実質的な同一性は、一態様のヌクレオチド配列と、任意の他の配列とを、最大限対応されるように整列させ、当業界で一般的に利用されるアルゴリズムを利用して整列された配列を分析した場合、最小80%の相同性、さらに望ましくは、最小90%の相同性、最も望ましくは、最小95%の相同性を示すヌクレオチド配列を意味する。
【0040】
さらに他の態様は、前記分離された核酸を含むベクターを提供する。前記ベクターは、適する宿主細胞(host cell)において、抗体、またはその抗体断片の発現のために、部分的であるか、または全長である軽鎖及び重鎖をコーディングするDNAを、標準分子生物学技術(例えばPCR増幅、または目的抗体を発現するハイブリドーマを使用したcDNAクローニング)によって得ることができ、DNA(遺伝子)挿入物が発現されうるように、作動可能に連結された必須な調節要素を含んでもよい。「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的機能を遂行するように、核酸発現調節配列と、目的とする蛋白質またはRNAをコーディングする核酸配列とが、機能的に連結(functional linkage)されていることであり、発現調節配列によって遺伝子が発現されうるように連結されたことを意味する。前記「発現調節配列(expression control sequence)」とは、特定の宿主細胞において、作動可能に連結されたDNA配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を実施するためのプローモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適するmRNAリボゾーム結合部位をコーディングする配列、転写及び解読の終結を調節する配列、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサなどを含む。当業者であるならば、形質転換させる宿主細胞の選択、蛋白質の発現レベルのような因子により、調節配列を異なって選択し、発現ベクターのデザインが異なりうるということを認識することができるであろう。
【0041】
前記ベクターは、クローニングと抗体製造との分野において、一般的に使用されるベクターであるならば、その種類が特別に制限されるものではなく、その例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクターなどを含むが、それらに制限されるものではない。前記プラスミドには、大腸菌由来プラスミド(pBR322、pBR325、pUC118及びpUC119、並びにpET-21b(+))、枯草菌(Bacillus subtilis)由来プラスミド(pUB110及びpTP5)並びに酵母由来プラスミド(YEp13、YEp24及びYCp50)などがあり、前記ウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルスまたはワクシニアウイルスのような動物ウイルス;バキュロウイルスのような昆虫ウイルスなどが使用されうる。ファージ表示などに一般的に使用されるpComb3系のベクターを使用することもでき、抗体を哺乳類細胞で発現させるために、哺乳類細胞において、蛋白質を発現するために一般的に使用されるベクター、例えば、pcDNAやpVITROのようなベクターを使用することができる。
【0042】
さらに他の態様は、前記ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0043】
本明細書において、用語「形質転換(transformation)」とは、本来の細胞が有していたところと異なる種類の外来遺伝子が存在するDNA鎖切片またはプラスミドが細胞間に浸透され、本来の細胞に存在したDNAと結合することにより、細胞の遺伝形質を変化させる分子生物学的技術を意味する。前記ベクターは、宿主細胞に形質注入またはトランスフェクション(transfection)される。形質注入またはトランスフェクションさせるために、原核または真核の宿主細胞内に、外因性核酸(DNAまたはRNA)を導入するのに、一般的に使用されるさまざまな種類の多様な技術、例えば、電気泳動法、リン酸カルシウム沈澱法、DEAE・デキストラントランスフェクションまたはリポフェクション(lipofection)などを使用することができる。一態様による抗体、またはその抗原結合断片は、バクテリア(E.coli)や酵母(yeast)のような微生物、または哺乳類細胞への適用可能性を考慮し、真核細胞、望ましくは、哺乳類宿主細胞においても発現される。前記哺乳類宿主細胞は、例えば、中国ハムスター卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)細胞、NSO骨髄腫細胞、COS細胞、SP2細胞、F2N細胞、HEK293細胞及び抗体生産ハイブリドーマ細胞からなる群のうちから選択されたいずれか一つでもあるが、それらに制限されるものではない。
【0044】
さらに他の態様は、前記宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む抗メソテリン抗体を製造する方法を提供する。
【0045】
前記方法は、一態様の抗体、またはその抗原結合断片を生産するための宿主細胞を、前記抗体、またはその抗原結合断片を暗号化するDNAが作動可能に連結されたベクターで形質転換する段階を含んでもよい。選択された宿主細胞と組み換え発現ベクターとの種類は、前述の通りであり、適切な形質転換方法を選択し、本段階を実施することができる。前記抗体遺伝子をコーディングする組み換え発現ベクターが哺乳類宿主細胞内に導入される場合、抗体は、宿主細胞において、抗体が発現させるのに十分な期間の間、またはさらに望ましくは、宿主細胞が培養される培養培地内に抗体を分泌させるのに十分な期間の間、宿主細胞を培養することによっても製造される。
【0046】
また、前記方法は、さらには、前記形質転換された宿主細胞を培養し、宿主細胞に導入された組み換え発現ベクターから、一態様による抗体、またはその抗原結合断片のポリペプチドが生産されるようにする段階を含んでもよい。選択された宿主細胞を培養するための培地組成、培養条件、培養時間などを適切に選択することができ、宿主細胞で生産される抗体分子は、細胞の細胞質内に蓄積されるか、あるいは適切な信号配列により、細胞外部または培養培地に分泌されるか、あるいはペリプラズムなどに標的化されるようにする。また、一態様による抗体が、メソテリンに対する結合特異性を維持するように、当業界に公知されている方法を利用し、蛋白質リフォールディングさせ、機能性構造を有するようにすることができる。また、IgG形態の抗体を生産する場合、重鎖と軽鎖は、別個の細胞で発現させ、別途の段階において、重鎖と軽鎖とを接触させ、完全な抗体を構成するように製造することもでき、重鎖と軽鎖とを、同一細胞で発現されるようにし、細胞内部において、完全な抗体を形成するようにすることもできる。
【0047】
また、前記方法は、宿主細胞で生産された抗体、またはその抗原結合断片を得る段階をさらに含んでもよい。宿主細胞で生産された抗体、またはその抗原結合断片のポリペプチドの特性、宿主細胞の特性、発現方式、またはポリペプチドの標的化いかんなどを考慮し、得る方法を適切に選択して調節することができる。例えば、培養培地に分泌された抗体、またはその抗原結合断片は、宿主細胞を培養した培地を得て、遠心分離して不純物を除去するような方法で抗体を回収することができ、必要によっては、細胞内特定小器官や、細胞質に存在する抗体を細胞外部に放出させて回収するために、抗体、またはその抗原結合断片の機能的構造に影響を及ぼさない範囲において、細胞を溶解させることもできる。
【0048】
得られた抗体は、クロマトグラフィ、フィルタなどによる濾過、透析などの方法を介し、不純物をさらに除去して濃縮する過程をさらに経ることができる。得られた抗体の分離または精製は、一般的な蛋白質で使用されている分離方法、精製方法、例えば、クロマトグラフィによっても遂行される。前記クロマトグラフィは、例えば、蛋白質Aカラム、蛋白質Gカラム、蛋白質Lカラムを含む親和性クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、または疎水性クロマトグラフィを含んでもよい。前記クロマトグラフィ以外に、さらには、濾過、超濾過、塩析、透析などを組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる。
【0049】
さらに他の態様は、抗原結合ドメイン、ヒンジ(hinge)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメラ抗原受容体を提供する。
【0050】
前記キメラ抗原受容体は、メソテリンに特異的に結合することを特徴とするので、メソテリンに特異的に結合する抗原結合ドメインを含む。
【0051】
前記抗原結合ドメインは、配列番号1からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;あるいは
【0052】
配列番号13からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号14からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号15からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号16からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号17からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号18からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含んでもよく、それらは、一態様による抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片と同一であるので、重複説明は省略する。
【0053】
本明細書において、用語「キメラ抗原受容体(CAR:chimeric antigen receptor)」とは、抗原結合(認識)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインが含まれ、キメラ抗原受容体の構造をなしているものを意味する。
【0054】
一具体例において、前記抗原結合断片は、scFv(single chain variable fragment)でもある。
【0055】
前記キメラ抗原受容体に含まれるヒンジドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインは、当該技術分野に周知されている。
【0056】
前記ヒンジドメインは、抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片と膜貫通ドメインとを連結するドメインであり、スペーサ(spacer)とも命名され、T細胞膜から、抗原結合ドメインを拡張させるための目的を有する。前記ヒンジドメインは、CD8ヒンジドメイン、IgG1ヒンジドメイン、Ig4ヒンジドメイン、CD28細胞外領域、KIR(killer immunoglobulin-like receptor)細胞外領域、及びその組み合わせでもあるが、それらに制限されるものではなく、本技術分野で一般的に使用するヒンジドメインを使用することができる。
【0057】
前記膜貫通ドメインは、キメラ抗原受容体分子の支持台役割を行うと共に、ヒンジドメインと細胞内信号伝逹ドメインとを連結することができる。該膜貫通ドメインは、キメラ抗原受容体の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片が細胞表面に位置し、細胞内信号伝逹ドメインが細胞内に位置するように、細胞の細胞膜を貫通することができる。前記膜貫通ドメインは、CD3ゼータ(CD3z)、CD4、CD8、CD28またはKIR蛋白質の膜貫通領域でもあり、望ましくは、CD8またはCD28の膜貫通ドメインを使用することができるが、キメラ抗原受容体製造に使用される一般的な膜貫通ドメインであるならば、制限なしに使用することができる。
【0058】
前記細胞内信号伝逹ドメインは、抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片によって伝達された信号を受け、キメラ抗原受容体が結合された細胞内にそれを伝達する役割を行う。前記細胞内信号伝逹ドメインは、細胞外に存在する抗原結合部位に抗体が結合すれば、T細胞活性化をもたらすことができる信号を伝達する部分であるならば、特別にその種類に制限がなく、多様な種類の細胞内信号伝逹ドメインが使用されうる。前記細胞内信号伝逹ドメインは、例えば、免疫受容活性化チロシンモチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)またはITAMでもあり、前記ITAMは、CD3ゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CDS、CD22、CD79a、CD79b、CD66dまたはFcεRIγに由来するものを含むが、それらに制限されるものではない。
【0059】
また、一態様によるキメラ抗原受容体は、細胞内信号伝逹ドメインと共に、共刺激ドメイン(costimulatory domain)をさらに含んでもよい。
【0060】
前記共刺激ドメインは、細胞内信号伝逹ドメインによる信号に加え、T細胞に信号を伝達する役割を行う部分であり、共刺激分子の細胞内ドメインを含む、キメラ抗原受容体の細胞内部分を意味する。
【0061】
前記共刺激分子は、細胞表面分子として、抗原に対するリンパ球の十分な反応をもたらすのに必要な分子を意味し、その例として、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、LFA-1(lymphocyte function-associated antigen-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2CまたはB7-H3でもあるが、それらに制限されるものではない。前記共刺激ドメインは、そのような共刺激分子、及びその組み合わせからなる群から選択された分子の細胞内部分でもある。
【0062】
前記膜通過ドメイン、細胞内信号伝逹ドメインを含むキメラ抗原受容体の各ドメインは、選択的に、短いオリゴペプチドまたはポリペプチドのリンカによっても連結される。前記リンカは、細胞外に位置した抗体に抗原が結合したとき、細胞内ドメインを介するT細胞活性化を誘導することができるものであるならば、特別にその長さに制限されるものではなく、当業界に知られたリンカを使用することができる。
【0063】
また、前記キメラ抗原受容体は、前述のような抗体及びドメインの変形された形態を含んでもよい。このとき、前記変形は、前記抗体及びドメインの機能を変形させず、野生型の抗体及びドメインのアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸を置換、欠失または追加しても遂行される。一般的に、前記置換は、アラニンや、全体蛋白質の電荷、極性または疎水性に影響を与えない保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)によっても遂行される。
【0064】
さらに他の態様は、前記キメラ抗原受容体をコーディングするポリヌクレオチドを提供する。
【0065】
前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)により、または前記抗原受容体を発現させようとする生物において選好されるコドンを考慮し、コーディング領域から発現される抗原受容体のアミノ酸配列を変化させない範囲内において、コーディング領域に多様な変形がなされ、コーディング領域を除いた部分においても、遺伝子の発現に影響を及ぼさない範囲内において、多様な変形または修飾がなされ、そのような変形遺伝子も、本発明の範囲に含まれるということは、当業者であるならば、十分に理解することができるであろう。すなわち、一態様によるポリヌクレオチドは、それと同等な活性を有する蛋白質をコーディングする限り、1以上の核酸塩基が、置換、欠失、挿入、またはそれらの組み合わせによって変異され、それらも、本発明の範囲に含まれる。
【0066】
さらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、及び前記ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0067】
前記ベクターは、当分野に公知されたベクターを多様に使用することができ、前記抗原受容体を生産する宿主細胞の種類により、プローモーター(promoter)、ターミネーター(terminator)、エンハンサ(enhancer)のような発現調節配列、膜標的化または分泌のための配列などを適切に選択し、目的によって多様に組み合わせることができる。本発明のベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクターなどを含むが、それらに制限されるものではない。適するベクターは、プローモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサのような発現調節エレメント以外にも、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列を含み、目的によって多様にも製造されえる。
【0068】
また、前記ベクターを細胞に導入し、細胞を形質転換させることができ、前記細胞は、以下のところに制限されるものではないが、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはガンマデルタT細胞(gamma delta(γδ) T cells)でもある。前記細胞は、骨髄、末梢血液、末梢血液単核細胞または臍帯血から得たり製造されたりもする。
【0069】
さらに他の態様は、前記細胞を含む薬学的組成物、前記細胞の医薬的用途、及び治療学的有効量の前記細胞を個体に投与する段階を含む癌を予防または治療する方法を提供する。
【0070】
前記薬学的組成物は、前述の細胞を利用するために、それらの間に共通する内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるために、その記載を省略する。
【0071】
前記薬学的組成物または医薬的用途は、癌の予防または治療のためのものでもある。
【0072】
本明細書において、用語「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、癌(腫瘍)を抑制させるか、あるいは発病を遅延させる全ての行為を意味する。
【0073】
本明細書において、用語「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、癌(腫瘍)に対する症状が好転したり、望ましく変更される全ての行為を意味する。
【0074】
本明細書において、用語「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、さらに具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、齧歯類(ラット、マウス、モルモットなど)、マウス(mouse)、犬、猫、馬、牛、羊、豚、山羊、らくだ、羚羊などの哺乳類を意味する。
【0075】
本明細書において、用語「癌」とは、細胞が、正常な成長限界を無視し、分裂及び成長する攻撃的(aggressive)特性、周囲組織に侵透する浸透的(invasive)特性、及び体内外の他部位に広がる転移的(metastatic)特性を有する細胞による疾病を総称する。本明細書において、前記癌は、悪性腫瘍(malignant tumor)と同一の意味で使用され、望ましくは、メソテリン陽性、またはメソテリンを過発現する癌でもある。
【0076】
前記癌は望ましくは、固形癌でもあり、例えば、さらに望ましくは、メソテリン陽性、またはメソテリンを過発現する固形癌でもある。例えば、前記固形癌は、食道癌(esophageal cancer)、乳癌(breast cancer)、三重陰性乳癌(TNBC:triple-negative breast cancer)、胃癌(gastric cancer)、胆管癌(cholangiocarcinoma)、膵臓癌(pancreatic cancer)、大腸癌(colon cancer)、肺癌(lung cancer)、胸腺癌(thymic carcinoma)、中皮腫(mesothelioma)、卵巣癌(ovarian cancer)、子宮内膜癌(endometrial cancer)、子宮頸癌(cervical cancer)、子宮体部漿液性腺癌(USC:uterine serous carcinoma)及び小児急性骨髄性白血病(AML:acute myeloid leukemia)からなる群から選択されるいずれか一つでもあるが、それらに制限されるものではない。
【0077】
一具体例としては、メソテリンを過発現する固形癌を対象に、一態様による抗MSLN-CAR-T細胞の投与による、卵巣癌、中皮腫及び膵臓癌に対する細胞死滅効果を確認した。
【0078】
前記薬学的組成物は、薬学的組成物全体重量につき、有効成分である一態様の細胞を、10ないし95重量%で含んでもよい。また、本発明の薬学的組成物は、前記有効成分以外に、さらに、同一であるか、あるいは類似した機能を示す有効成分を1種以上含んでもよい。
【0079】
前記細胞の投与量は、疾患の種類、疾患の重症度、薬学的組成物に含有された有効成分と、他の成分との種類及び含量、剤形の種類、患者の年齢・体重・一般健康状態・性別及び食餌、投与時間、投与経路、治療期間、並びに同時に使用される薬物を含めた多様な因子によっても調節される。しかし、望ましい効果のために、本発明による薬学的組成物に含まれる細胞の有効量は、1x105ないし1x1011セル/kgでもある。このとき、投与は、一日に1回投与することができ、数回に分けて投与することもできる。本願に提示された細胞または薬学的組成物の有効量は、過度な実験なしも、経験的にも決定される。
【0080】
前記薬学的組成物は、薬学的分野において通常の方法により、目的に適する剤形を有する製剤でもある。また、前記組成物は、薬学的分野において、通常の方法により、患者の身体内投与に適する単位投与型の製剤に剤形化させて投与することができる。前記薬学的製剤には、前記有効成分以外に、1またはそれ以上の薬学的に許容可能な一般的な不活性担体、一例として、注射剤の場合には、保存剤、無痛化剤、可溶化剤または安定化剤などを、局所投与用製剤の場合には、基剤(base)、賦形剤、潤滑剤または保存剤などをさらに含んでもよい。
【0081】
また、前記細胞、またはそれを含む薬学的組成物は、当業界に公知された多様な方法によっても個体に投与され、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与などによっても投与されるが、それらに制限されるものではない。
【発明の効果】
【0082】
一態様による抗メソテリンキメラ抗原受容体は、メソテリンに対する特異的結合能を示し、メソテリンが過発現される癌の予防または治療に有用に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】ファージディスプレイ抗体ライブラリーパニングを介する抗体スクリーニング過程を模式化した図である。
【0084】
【
図2A】固相パニング(solid phase panning)による結果として、パニング回数目によるファージ算出力価(output titer)を示した図である。
【0085】
【
図2B】固相パニング(solid phase panning)による結果として、パニング回数目によるファージ溶離力価比率(elution titer ratio)を示した図である。
【0086】
【
図3A】マグネチックビード媒介ソリューションパニング(magnetic bead-mediated solution panning)による結果であり、パニング回数目によるファージ算出力価(output titer)を示した図である。
【0087】
【
図3B】マグネチックビード媒介ソリューションパニング(magnetic bead-mediated solution panning)による結果であり、パニング回数目によるファージ溶離力価比率(elution titer ratio)を示した図である。
【0088】
【
図4】ファージELISAを介して得られたクローンの抗原MSLNに対する特異的結合を比較分析した結果を示した図である。
【0089】
【
図5】メソテリン過発現細胞株を利用して選別されたクローンが、実際の細胞膜に存在するメソテリンに結合するか否かということを、流細胞分析(flow cytometry)を介して確認した結果を示した図である。
【0090】
【
図6】メソテリン過発現細胞株を利用して選別されたクローンのメソテリンに対する結合特異性を、相対的ピーク移動(peak shift)値で示した図である。
【0091】
【
図7】精製された抗MSLN-scFv抗体を、SDS-PAGEで分析した結果を示した図である(各蛋白質当たり、2μgずつローディング);NR:非還元条件(non-reducing condition),R:還元条件(reducing condition)(100℃、10分)。
【0092】
【
図8A】ELISAを介し、抗MSLN-scFv抗体の抗原MSLNに対する親和度を分析した結果を示した図である(MSLN34クローン)。
【0093】
【
図8B】ELISAを介し、抗MSLN-scFv抗体の抗原MSLNに対する親和度を分析した結果を示した図である(MSLN37クローン)。
【0094】
【
図8C】ELISAを介し、抗MSLN-scFv抗体の抗原MSLNに対する親和度を分析した結果を示した図である(MSLN38クローン)。
【0095】
【
図9】MSLN特異的抗原結合ドメインを含む一態様による抗MSLN-CAR発現システムの模式図である。
【0096】
【
図10】形質導入1回目以後、抗MSLN-CARが導入されたT細胞におけるCARの発現確認、及びCD3陽性T細胞における、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の比率を測定した結果を示した図である。
【0097】
【
図11】形質導入2回目以後、抗MSLN-CARが導入されたT細胞における、CARの発現確認、及びCD3陽性T細胞における、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の比率を測定した結果を示した図である。
【0098】
【
図12】多様な癌細胞株を利用して抗MSLN-CARが導入されたT細胞の細胞死滅効果を確認した結果を示した図である。
【0099】
【
図13】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとのメソテリン特異的細胞死滅効果を確認した結果を示した図である。
【0100】
【
図14】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとのメソテリン特異的細胞死滅効果を確認した結果を示した図である。
【0101】
【
図15】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとのメソテリン特異的細胞死滅効果を確認した結果を示した図である。
【0102】
【
図16】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとのメソテリン特異的細胞死滅効果を確認した結果を示した図である。
【0103】
【
図17A】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの、中皮腫動物モデルにおける癌細胞殺傷効能、及び体重変化に対する結果を示した図である(腫瘍体積変化)。
【0104】
【
図17B】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの、中皮腫動物モデルにおける癌細胞殺傷効能、及び体重変化に対する結果を示した図である(体重変化)。
【0105】
【
図17C】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの、中皮腫動物モデルにおける癌細胞殺傷効能、及び体重変化に対する結果を示した図である(腫瘍重さ変化)。
【0106】
【
図18A】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの、膵臓癌動物モデルにおける癌細胞殺傷効能、及び体重変化に対する結果を示した図である(腫瘍体積変化)。
【0107】
【
図18B】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの、膵臓癌動物モデルにおける癌細胞殺傷効能、及び体重変化に対する結果を示した図である(体重変化)。
【0108】
【
図18C】抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの、膵臓癌動物モデルにおける癌細胞殺傷効能、及び体重変化に対する結果を示した図である(腫瘍重さ変化)。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下な態様を実施例を介し、さらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、一態様について例示的に説明するためのものであり、一態様の範囲は、それら実施例に限定されるものではなく、一態様の実施例は、当業界で当業者に、一態様についてさらに完全に説明するために提供されるものである。
【実施例】
【0110】
実施例1:ファージディスプレイ抗体ライブラリーパニング
標的抗原であるメソテリン(MSLN:mesothelin)に結合する抗体を選別するために、KBIOヒト合成scFvファージディスプレイライブラリーKscFv-Iを利用し、五松(Osong)尖端医療産業振興財団新薬開発支援センターで構築したファージパニングプロトコルにより、MSLN(Acro Biosystems)に対するファージパニングを4回目まで行った。ファージディスプレイ抗体ライブラリーパニング過程を
図1に模式化して示した。
【0111】
該パニングは、抗原を固定する方式により、2つの方法(solid、bead)で遂行した。固相パニング(solid phase panning)の場合、ヒトメソテリン蛋白質(PBSにおいて、1回目:10μg/mL、2回目:5μg/mL、3回目:2.5μg/mL、4回目:1.25μg/mL1mLを、免疫チューブ(immuunotube)に固定させ、前記免疫チューブに、5%脱脂乳(skim milk)が含まれたPBS(MPBS)5mLでブロッキングしたファージライブラリー1.3x10
13c.f.u.を混ぜた後、37℃で1.5時間結合させた。その後、PBS-Tween(登録商標)20(0.05%)(PBS-T)5mLで洗浄し、結合されていないファージを除去した(1回目:3回洗浄、2~4回目:5回洗浄)。そこに、100mMトリメチルアミン(TMA:trimethylamine)1mLをチューブに添加し、常温で10分間反応させて結合されたファージを溶出させ、溶出されたファージは、50mLファルコンチューブ(Falcon tube)に移し、1M Tris-HCl(pH7.4)0.5mLと十分に混ぜて中和させた。前記溶出されたファージを、中間ログ段階のE.coli TG1(OD600=0.5~0.8)8.5mLに感染させた。形質感染されたE.coli TG1の一部は、配列確認のために、プラスミドDNAを抽出し、一部は、ファージELISAを介し、抗体スクリーニングを進めた。マグネチックビード媒介ソリューションパニング(magnetic bead-mediated solution panning)の場合、固相パニングと同一プロトコルで遂行するが、メソテリン抗原を、免疫チューブの代わりに、マグネチックビード(magnetic bead)に処理して固定させた。共通して、パニング時、MSLN蛋白質が固定されていないPBS対照群パニングも共に並行して行い、それぞれの算出力価(output titer)を、回数目ごとに比較し、溶離力価比率(elution titer ratio)(算出力価を、対照群の算出力価で割った値)を介し、ファージの濃縮(enrichment)程度をモニタリングした。その結果を、
図2及び
図3に示した。
【0112】
固相パニングの場合、3回目から濃縮が始まり、抗原MSLNに係わる算出力価は、PBS対照群対比で、約53.4倍(3回目)、1,061.6倍(4回目)の大差を示した(
図2)。マグネチックビードを利用したパニングの場合、3回目及び4回目の濃縮程度が、抗原MSLNに対し、PBS対照群対比で、約2.0倍(3回目)、1.6倍(4回目)と、違いを示していない(
図3)。
実施例2:ファージELISA(phage-specific ELISA)を介する陽性クローンの選別
【0113】
前記実施例1のファージパニングによって得られたファージのうち、抗原MSLNに特異的に結合するクローン(clone)を選別するために、免疫チューブを利用したパニング2回目で得た282個(94コロニーx3プレート)クローンにつき、単一クローンファージELISAを遂行した。具体的には、96ハーフ(half)ウェルELISAプレートに、1μg/mLのヒトMSLN蛋白質(抗原)を、ウェル当たり30μLずつ入れ、4℃で一晩培養してコーティングした。陰性対照群として、他のプレートには、PBSを、ウェル当たり30μLずつ入れ、4℃で一晩培養した。翌日、プレート内容物を除去し、5% MPBS 150μLを使用し、プレートを室温で1時間ブロッキングした。その後、プレート内容物を除去し、ファージ(~1011c.f.u.)30μLを添加し、常温で1.5時間培養した。陰性対照群の場合、ファージの代わりに、PBS 30μLを添加した。PBS-T(PBS-0.05% Tween(登録商標)20)溶液で、プレートを4回洗浄し、抗M13-HRP(PBSで1:5,000に希釈)を添加し、37℃で1時間培養した。PBS-T溶液でプレートを4回洗浄し、各ウェル当たりTMB基質試薬(TMB substrate)を30μLずつ添加し、室温で8分間培養し、発色反応を誘導した。ウェル当たり、2N H2SO4 30μLを添加し、発色反応を停止させた後、450nmにおける吸光度(O.D.)を測定した。
【0114】
その結果、抗原MSLNにつき、吸光度カットオフ(cut-off)を、それぞれ0.4以上と定めて選別したとき、2回目で総56個の陽性クローンを確保した。さらには、免疫チューブを利用したパニングの3回目及び4回目で得たクローンについても、同一方法で、単一クローンファージELISAを遂行した。パニング3回目で得た752個(94コロニーx8プレート)クローンにつき、ファージELISAを遂行し、吸光度カットオフを、それぞれ0.7以上または0.4以上と定めて選別した結果、総173個の陽性クローンを確保した。また、パニング4回目で得た188個(94コロニーx2プレート)クローンにつき、ファージELISAを遂行し、吸光度カットオフを0.4以上と定めて選別した結果、総2個の陽性クローンを確保した(表1ないし表4)。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0115】
次に、前記実施例1のファージパニングによって得られたファージのうり、抗原MSLNに特異的に結合するクローンを追加してさらに選別するために、マグネチックビードを利用したパニングの3回目及び4回目で得たクローンについても、同一方法で、単一クローンファージELISAを遂行した。パニング3回目で得た188個(94コロニーx2プレート)クローンにつき、ファージELISAを遂行し、吸光度カットオフを、それぞれ0.4以上と定めて選別した結果、総4個の陽性クローンを確保した。また、パニング4回目で得た376個(94コロニーx4プレート)クローンにつき、ファージELISAを遂行し、吸光度カットオフを0.4以上と定めて選別した結果、総7個の陽性クローンを確保した(表5ないし表7)。
【表5】
【表6】
【表7】
実施例3:抗MSLN抗体断片候補選別のための配列分析及びELISA
【0116】
前記実施例2で選別した総415種の陽性クローンからファージを回収した後、DNA配列分析を進め、カバット(Kabat)ナンバリングシステムによって配列を整列させ、グルーピングした。その結果、CDR配列が異なる抗原MSLNに係わる16種の特異クローン(unique clone)を選別した。前記16種クローンの抗原MSLNに係わる特異的結合を確認するために、各ファージを精製し、ファージ力価(phage titer)を同一に合わせた後(1.2E+11pfu/ウェル)、ELISAを介して比較した。陰性対照群としては、MSLNと同一に、ヒスチジンタグ(His tag)に接合されたTLR4抗原を使用し、陽性対照群としては、以前研究において、メソテリンとのすぐれた結合能を確認したクローンMSLN3を使用した(下記表8参照)。その結果を、
図4に示した。
【表8】
【0117】
図4に示されているように、16種クローンのうち、MSLN26、MSLN30及びMSLN31を除いた13種クローンが、抗原MSLNに特異的に結合するということを確認した。
実施例4:メソテリン過発現細胞株を利用した結合能確認
【0118】
前記実施例3で選別した16種のファージクローンが、実際の細胞膜に存在するメソテリンに結合するか否かということを調べるために、メソテリン過発現細胞株である膵臓癌細胞株AsPC-1、及び対照群として、ヒト慢性骨髄白血病細胞株K562を使用し、流細胞分析(flow cytometry analysis)を行った。
【0119】
具体的には、K562細胞及びAsPC-1細胞を、10
6セル/ウェルになるように準備し、PBS 300μLで洗浄した。4% MPBS(脱脂乳が含まれたPBS) 300μLで、4℃で30分間細胞をブロッキングし、同時に、ファージクローン(10
12/ウェル)を、常温で1時間同一にブロッキングした後、ファージと細胞とを、4℃で2時間共に培養した。PBSで細胞を洗浄した後、抗M13-FITC1μg/mLで処理し、4℃で1時間培養した。PBSで細胞を洗浄した後、PBSに細胞を再懸濁させ、流細胞分析器(BD biosciences)を利用して結果を分析した。その結果を、
図5及び
図6に示した。
【0120】
図5に示されているように、MSLN34、MSLN37及びMSLN38が膵臓癌細胞株AsPC-1から、5.0%以上の相対的ピーク移動(peak shift)値を示すということを確認した。対照群であるK562細胞株においては、有意レベルのピーク移動が示されていない。前記結果を介し、16種のクローンのうち、MSLN34、MSLN37及びMSLN38が実際の細胞膜に存在するメソテリンに対し、高い結合親和性を示すということが分かった。
【0121】
また、
図6に示されているように、流細胞分析結果を定量化した結果、MSLN34、MSLN37及びMSLN38は、対照群であるK562細胞に比べ、それぞれ16.2%、5.9%及び30.8%の相対的ピーク移動値を示すということを確認した。前記結果を介し、3個クローンのいずれもが、メソテリンが過発現された細胞株に特異的に結合するということを確認し、抗MSLN抗体断片生産のためのクローンとして最終選別した。
実施例5:抗MSLN抗体断片の生産及び精製
【0122】
前記実施例4で選別した3種クローンを使用し、抗体断片発現菌株であるTop10F’ competent E.coliを形質転換(transformation)した。その後、3種クローンで形質転換されたE.coli菌株を、それぞれTB培地200mLで培養しながら、IPTG(最終濃度0.5mM)で蛋白質発現を誘導した後、30℃で一晩培養した。前記培養液を遠心分離して細胞を獲得し、細胞形質抽出(periplasmic extraction)を介し、水溶性蛋白質を確保した後、蛋白質Lレジン(protein L resin)を利用した親和度クロマトグラフィ(affinity chromatography)を介し、抗MSLN-scFv抗体を精製した。前記精製された抗体蛋白質をSDS-PAGEで分析し、その結果を
図7に示した。
【0123】
前記精製された3種抗体(MSLN34、MSLN37及びMSLN38)のアミノ酸配列を確認し、下記表9に示した。具体的には、MSLN34の重鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号1ないし3に、軽鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号4ないし6に示し、MSLN37の重鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号7ないし9に、軽鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号10ないし12に示し、MSLN38の重鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号13ないし15に、軽鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号16ないし18に示した。
【表9】
実施例6:抗MSLN抗体の抗原に対する親和度分析
【0124】
前記実施例5で製造した3種の抗MSLN抗体蛋白質を利用したELISAを介し、各抗体の抗原MSLNに対する親和度を比較分析した。具体的には、MaxiSorb ELISAプレート(Nunc)に、ヒトメソテリン蛋白質30μLを、ウェル当たり1μg/mLの濃度でコーティングし、4℃で一晩培養した。プレート内容物を除去し、5% MPBS 300μLを使用し、プレートを室温で1時間ブロッキングした。精製された抗体を、PBSで連続的に希釈し、各ウェルに30μLずつ添加し、室温で2時間培養した。陰性対照群としては、精製された抗体の代わりに、PBS 60μLを添加し、37℃で2時間培養した。
【0125】
PBS-T(PBS-0.05% Tween(登録商標)20)溶液でプレートを4回洗浄し、抗StrepMAB HRP(PBSで、1:5,000に希釈)30μLを添加し、室温で1時間培養した。PBS-T溶液でプレートを4回洗浄、て各ウェル当たりTMB基質試薬を30μLずつ添加し、室温で8分間培養し、発色反応を誘導した。ウェル当たり2N H
2SO
4 30μLを添加し、発色反応を停止させた後、450nmにおける吸光度(O.D.)を測定した。その結果を
図8(
図8A、
図8B、
図8C)に示した。
【0126】
図8に示されているように、3種抗体の中においては、MSLN34において、EC
50値が83nMと、最も高い結合親和度を示すということを確認した。
実施例7:抗MSLNキメラ抗原受容体構築
【0127】
前記実施例5で製造した抗MSLN抗体蛋白質において、メソテリンが過発現された細胞株と高い結合特異性を示したMSLN34及びMSLN38を基に、抗MSLNキメラ抗原受容体を構築した(抗MSLN-CAR)。
7-1:抗MSLN-CARレンチウイルスベクタークローニング
【0128】
ベクターとしては、新薬開発支援センターで保有した2世代CARレンチウイルス用ベクター(pLV lentiviral vector)システムに属するものであり、前記システムは、gag/polをコーディングするpMDLg/pRRE(addgene)、Rev蛋白質をコーディングする外被(envelope)プラスミドpRSV-Rev(addgene)、及びVSV-G蛋白質をコーディングする外被プラスミドpMD2.G(addgene)をいずれも含む。
【0129】
まず、実施例5で製造した抗MSLN scFv(抗原結合ドメイン)につき、遺伝子クローニングを実施した。MSLN34及びMSLN38それぞれの抗MSLN scFvと、レンチウイルスベクターとを、XhoI(R0146S、NEB)とEcoRI(R0101、NEB)とで、37℃で2時間切断(digestion)し、アガロースゲル電気泳動した後、確認された産物を、FavorPrep Gel/PCR purification Mini kit(Favorgen)を使用して精製した。精製されたそれぞれの抗MSLN scFv(100ng)とベクター(50ng)とを、2:1の比率で16℃で16時間反応させ、ライゲーション(ligation)を進めた後、Stbl3コンピテントセル(competent cell)で形質転換させ、コロニーを得た。前記コロニーを取り、LB培地(アンピシリン)5mLで育て、DNAプラスミドミニプレップ(mini-prep)法を利用し、プラスミドDNAを得た。前記プラスミドDNAを、XhoI、EcoRIで切断して挿入させたそれぞれの抗MSLN scFvが、ベクター内に好ましくクローニングされているか否かということを確認した。その後、シークエンシングを行い、最終的にDNA配列を確認した。
【0130】
前記抗MSLN scFvに、CD8ヒンジ及びCD8 TM(transmembrane)を、膜貫通領域に、4-1BBの細胞質領域を、信号伝逹ドメインに、CD3ゼータ(CD3z)の細胞内ドメインを、T細胞活性化ドメインに順次に連結し、抗MSLN-CARを構成した。具体的には、CD8信号配列(SP:signal peptide)(配列番号25)、抗MSLN34 scFv(配列番号26)または抗MSLN38 scFv(配列番号27)、CD8ヒンジ領域(配列番号28)、CD8膜貫通領域(配列番号29)、4-1BB信号伝逹ドメイン(配列番号30)、及びCD3ゼータ信号伝逹ドメイン(配列番号31)で構成される。前記各ドメインを、それぞれの制限酵素を利用して順次に連結し、各ドメインに対応する具体的な塩基配列情報を、下記表10に整理した。
【表10】
7-2:抗MSLN-CARが搭載されたレンチウイルス生産
【0131】
前記実施例7-1で作製した組み換えベクターをHEK293T細胞に導入し、抗MSLN-CARレンチウイルスを生産した。MSLN特異的抗原結合ドメインを含む一態様による抗MSLN-CAR発現システムの模式図を、
図9に示した。まず、DNA形質転換の前日、100mm組織培養ディッシュに、HEK293T細胞を6x10
6セル/ディッシュでシーディングした。翌日、細胞密度が70~80%に逹したとき、試薬マニュアルにより、リポフェクタミン3000(Lipofectamine(登録商標) 3000、Thermofisher)で、MSLN-CAR-pLV、pMDLg/pRRE(addgene)、pRSV-Rev(addgene)、pMD2.G(addgene)(5.5μg:3.5μg:1.5μg:2μg)の形質転換を進めた。対照群としては、CD19(FMC63)を使用した。形質転換遂行4時間後、3% FBS(Gibco)が含まれたDMEM培地に替え、48時間後、ウイルス培養液を収穫した。遠心分離用チューブに20%スクロース溶液10mLを入れ、その上に、収穫されたウイルス培養液20mLを慎重に載せた後、SW32Tロータに装着し、25,000rpmで4℃で90分間、超高速遠心分離を実施した。遠心分離が終わった後、チューブ底にあるウイルスペレットが落ちないように、注意して上澄み液を捨て、RPMI1640培地(Gibco)400μLを入れ、冷蔵庫で16時間培養した後、再浮遊させ、100μLずつ分注して-80℃で保管した。
7-3:レンチウイルス力価測定(titration)
【0132】
レンチウイルス感染の前日、HeLa細胞を6ウェルプレートに、1.5x10
5セル/ウェルでシーディングした。翌日、ウイルス感染培地500μLに、ウイルスを、1/100及び1/1,000に希釈して添加し、ポリブレン(polybrene)を、8μg/mLで共に添加し、細胞に感染させた。1つのウェルにおいて、細胞をトリプシン(trypsin)EDTA(0.05%)で処理して収穫した後、セルカウンティングした。4時間後、細胞培養液1mLを添加し、48時間後、FACS分析を介してウイルス力価を測定した。ウイルス力価は、下記数式で計算した。
【数1】
【0133】
その結果、ウイルス力価は、それぞれMSLN34-CAR scFv 9.6x107TU/mL、MSLN38-CAR scFv1 .6x108TU/mLと確認された。
実施例8:抗MSLN-CARが導入された細胞の作製
8-1:レンチウイルス形質導入(transduction)
【0134】
形質導入は、総2回にわたって進めた。DPBS 5mLに、抗CD3(1μg/mL)抗体、抗CD28(3μg/mL)抗体を、それぞれ指定された濃度になるように製造してボルテキシングした後、24ウェルプレートに、500μl/ウェルにコーティングし、4℃冷蔵庫で一晩保管した。翌日、T細胞培養液(10% FBS+RPMI1640+200IU IL-2)9mLに、PBMC(ヒト一次PBMC)を溶かし、1,500rpmで5分間遠心分離した。その後、上澄み液を除去し、培養液1mLに再浮遊させ、セルカウンティングし、1x106セル/mLに希釈し、抗体がコーティングされた24ウェルプレートにシーディングした後、37℃、CO2培養器に入れて培養した。3日後、PBMC細胞をいずれも収穫し、レンチウイルス感染のために、5x105セル/500μLに、レンチウイルスを、MOI(multiple of infection)5になるように合わせ、プロタミン硫酸塩(protamine sulfate)10μg/mLを添加し、新たな24ウェルプレートにシーディングした(a)。前記24ウェルプレートを、300g、32℃で90分間遠心分離した後、37℃、CO2培養器に入れて培養した(b)。翌日、T細胞をいずれも収穫し、前述の(a),(b)段階をさらに1回遂行した。その後、T細胞をいずれも収穫し、1,500rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を除去し、T細胞を培養液に再浮遊させ、さらに培養した。
8-2:抗MSLN-CARの発現確認
【0135】
前記実施例8-1で製造した抗MSLN-CARが導入されたT細胞において、CARの発現有無を確認した。T細胞のレンチウイルス形質導入完了5日後、一部抗MSLN-CAR-T細胞を収穫し、ビオチンMSLN(AcrobiosystemsまたはBiolegend)を入れ、20分間、氷上で培養した後、細胞を洗浄し、PE抗ビオチン1μLを添加し、20分間、氷上で培養した。細胞洗浄後、FACS Canto II(BD)を利用し、CAR発現率を確認した。また、抗MSLN-CAR-Tを14日間培養しながら、最終的に分化されたT細胞(CD3)の発現を、FACSを介して分析し、CD3陽性T細胞における、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の比率を測定した。その結果を、下記表11及び
図10、
図11に示した。
【表11】
【0136】
図10及び
図11に示されているように、形質導入1回目の結果、CD4+:CD8+のの比率は、平均して20%:70%であり、2回目の結果、CD4+:CD8+のの比率は、10%:80%と測定された。
実施例9:抗MSLN-CAR-T細胞の細胞死滅効果の確認
【0137】
前記実施例8で製造した抗MSLN-CAR-T細胞を利用し、癌細胞に対する細胞死滅効果をカルセインAM法を介して確認した。
【0138】
まず、多様な癌細胞株(AsPC-1、MIA PaCa-2、NCI-H2052、OVCAR-3)のMSLN発現程度を確認するために、培養中の細胞一部を取り、ビオチン抗MSLN抗体を利用して細胞と結合させ、FACS分析を行った。その結果、膵臓癌細胞株であるAsPC-1、卵巣癌細胞株であるOVCAR-3、及び悪性胸膜中皮腫細胞株であるNCI-H2052のいずれにもおいて、MSLNの発現を確認した。ただし、膵臓癌細胞株であるMIA PaCa-2は、他の癌細胞株に比べ、MSLN発現が顕著に低く測定された(
図12)。
【0139】
前記癌細胞株(AsPC-1、MIA PaCa-2、NCI-H2052、OVCAR-3)を各培養培地に、1x10
6セル/mLに再浮遊させ、カルセインAM(1mg/mL)5μLを添加し、十分に混ぜた後、37℃培養器で1時間培養した。エフェクタ細胞であるCD19-CAR-T細胞、抗MSLN-CAR-T細胞は、細胞培養液を添加しながら、多様なE:T(effector cell:target cell)比率で希釈して準備した。癌細胞株に、カルセインAM染色1時間後、1,200rpmで5分間遠心分離して洗浄し、培養培地10mLを添加し、再浮遊させた。その後、染色された癌細胞株を、96ウェルラウンドプレートに、100μL(1x10
4セル/100μL)でシーディングしてくれ、その上に、エフェクタ細胞を100μLずつシーディングした。対照群としては、カルセインAMが染色された癌細胞株に、培養培地100μLだけ処理した群(spontaneous value)と、2%トリトンX-100(maximum value)を処理した群とを使用した。96ウェルラウンドプレートを、100gで1分間遠心分離した後、37℃培養器で4時間培養した。4時間後、ウェルにある細胞を、ピペットで5回ほど混ぜ、100gで5分間遠心分離した後、上澄み液だけ100μLずつ取り、黒色96ウェルプレートに移した。前記上澄み液が入っている96ウェルプレートを使用し、蛍光マイクロプレートリーダで、励起波長(excitation wavelength)485nm及び放出波長(emission wavelength)535nmでカルセイン放出を測定した。測定値につき、下記数式2を使用して細胞死滅効果を計算した。その結果を
図13ないし
図15に示した。
【数2】
【0140】
図13ないし
図15に示されているように、抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとのいずれも、MSLNの高い発現を確認した卵巣癌細胞株OVCAR-3及び悪性胸膜中皮腫細胞株NCI-H2052において、陰性対照群CD19(FMC63)-CAR-Tに比べ、有意味に抗原特異的な細胞死滅効果があることを確認した。ただし、抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとのいずれも、MSLNを少なく発現する癌細胞株であるMIA PaCa-2においては、陰性対照群対比で、特異的な細胞死滅効果が観察されていない。前記結果を介し、一態様による抗MSLN-CAR-T細胞の細胞死滅効果は、癌細胞が発現するメソテリンに特異的であるということを確認した。
【0141】
また、前記実施例8で製造した抗MSLN-CAR-T細胞、及びGFP(green fluorescent protein)を発現する癌細胞株を利用し、癌細胞に対する細胞死滅効果を確認した。GFPを発現する膵臓癌細胞株AsPC-1を、各培養培地に、1x10
6セル/mLで再浮遊して培養した後、エフェクタ細胞であるCD19-CAR-T細胞、抗MSLN-CAR-T細胞は、細胞培養液を添加しながら、10:1のE:T比率で共培養した。Incucyte(登録商標)を利用し、48時間までGFPを、リアルタイム測定した結果を
図16に示した。
図16に示されているように、一態様による抗MSLN-CAR-T細胞の処理により、膵臓癌細胞株であるAsPC-1の細胞死滅効果が示されるということを確認した。
実施例10:腫瘍動物モデル基盤抗MSLN-CAR-T細胞の癌細胞死滅効果の確認
【0142】
前記実施例9で確認した抗MSLN-CAR-T細胞の癌細胞に対する細胞死滅効果を基に腫瘍動物モデルを構築し、腫瘍殺傷能を確認した。
【0143】
本試験において、5週齢の雄NOG(NOD/Shi-scid/IL-2Rγnull)マウスを使用し、該動物入手時、供給先から提供された試験システムのヘルスモニタリング成績書を参照し、入手動物の検疫検査を実施し、1週間の順化後、実験を進めた。飼育環境は、本試験は、温度22±2℃、相対湿度50±10%、換気回数10~20回/hr、照明時間12時間(午前8時点灯~午後8時消灯)及び照度150~300Luxであり、チップタイプ敷藁を、高圧蒸気滅菌(121℃、滅菌時間20分、乾燥時間5分)した後、適量の敷藁をポリカーボネート飼育箱(幅278(mm)x長さ420(mm)x高さ230(mm))に入れて飼育した。実験に供給された飼料は、放射線照射で滅菌した実験動物用固形飼料(+40 RMM-SP-10、U8239G10R、SAFE-DIETS、フランス)を利用し、水は、RO数を水ボトルに入れ、高圧滅菌器で滅菌した後、自由に摂取することができるようにした。
【0144】
膵臓癌動物モデル、中皮腫動物モデルに使用された細胞は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae),マウスコロナウイルス(Murine coronavirus)(MHV:mouse hepatitis virus),Murine respirovirus(SeV:Sendai virus)検査を進め、陰性と確認された後で使用した。移植された癌細胞及びCAR-T細胞と、試験群との構成を、下記表12に示した。
【表12】
【0145】
各細胞は、PBSを利用して細胞濃度を調節し、マウスに200μLずつ皮下移植し、腫瘍サイズにより、ランダム配分法により、群分離を実施し、個体識別は、試験期間の間、イヤーパンチ(ear-punch)法を使用し、飼育箱には、各群別識別カードを付着させた。
【0146】
実験群分離後、抗MSLN-CAR-T細胞を、尾静脈に単回投与し、試験群の体重と、腫瘍サイズは、投与開始日から週2回測定した。投与開始日の体重を基準にし、試験終了日まで体重変化を観察した。体重増減(%)は、下記数式3を使用して算出した。
【数3】
【0147】
腫瘍体積(mm
3)は、ノギス(calipers)を利用し、腫瘍の短軸(A)、長軸(B)を測定し、以下数式4を利用して算出した。
【数4】
【0148】
体重及び腫瘍体積は、最後の測定後、膵臓癌、中皮腫それぞれの、HBSS投与群と、抗MSLN-CAR-T投与群とを比較し、一元配置分散分析(one-way ANOVA)のpost-hoc Dunnett’s testを利用し、統計分析を進めた(*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001)。
【0149】
中皮腫腫瘍(NCI-H2052)モデルにおいて、抗MSLN-CAR-T細胞の腫瘍殺傷能有効性を評価した結果、抗MSLN34-CAR-T投与群と、抗MSLN38-CAR-T投与群とにおいて、1個体(G4-4)を除いた全ての動物において、腫瘍が観察されておらず、HBSS投与群と比較し、投与13日目から、抗MSLN34-CAR-T投与群と抗MSLN38-CAR-T投与群とにおいて、腫瘍サイズが顕著に小さくなった(p<0.05)。対照群(G1(HBSS投与群))と比較し、抗MSLN38-CAR-T投与群は、体重減少(p<0.05)、痙攣症状が観察され、投与後20日目に2匹が死亡した。前記結果を
図17に示した。
【0150】
膵臓癌腫瘍(AsPC-1)モデルにおいて、抗MSLN-CAR-T細胞の腫瘍殺傷能有効性を評価した結果、HBSS投与群と比較し、CAR-T投与後13日目から、抗MSLN34-CAR-T投与群と抗MSLN38-CAR-T投与群とにおいて、腫瘍サイズが顕著に小さくなり(p<0.05)、剖検時、同一に2つの群において、腫瘍重さが減少することを確認した(p<0.05)。対照群(G6(HBSS投与群))と比較し、抗MSLN38-CAR-T投与群は、体重が減少し(p<0.05)、痙攣症状が観察され、投与後34日目に1匹が死亡した。前記結果を
図18に示した。
【0151】
前述の結果を総合すれば、膵臓癌、中皮腫のいずれも癌細胞だけではなく、動物モデルにおいても、いずれも抗MSLN34-CAR-Tと抗MSLN38-CAR-Tとの癌細胞殺傷効能を確認することができた。
【0152】
前述の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の当業者であるならば、本発明の技術的思想や必須特徴を変更せずとも、他の具体的な形態に容易に変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、以上で記述された実施例は、全ての面において、例示的なものであり、限定的ではないと理解されなければならない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
次の重鎖CDRを含む重鎖可変領域、及び軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含む、抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片:
配列番号1からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、または
配列番号13からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号14からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号15からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号16からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号17からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号18からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
(項目2)
配列番号19または23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、項目1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
(項目3)
配列番号20または24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、項目1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
(項目4)
配列番号19からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号20からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、項目1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
(項目5)
配列番号23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことである、項目1に記載の抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片。
(項目6)
項目1ないし5のうちいずれか1項に記載の抗体、またはその抗原結合断片をコーディングする、分離された核酸。
(項目7)
項目6の分離された核酸を含む、ベクター。
(項目8)
項目7に記載のベクターで形質転換された、宿主細胞。
(項目9)
項目8に記載の宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む、抗メソテリン抗体を製造する方法。
(項目10)
抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメラ抗原受容体であり、
前記抗原結合ドメインは、次の重鎖CDRを含む重鎖可変領域、及び軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片である、キメラ抗原受容体:
配列番号1からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;または
配列番号13からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号14からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号15からなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号16からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号17からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号18からなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
(項目11)
前記抗原結合ドメインは、配列番号19からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号20からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片である、項目10に記載のキメラ抗原受容体。
(項目12)
前記抗原結合ドメインは、配列番号23からなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号24からなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体、またはその抗原結合断片である、項目10に記載のキメラ抗原受容体。
(項目13)
前記抗原結合断片は、scFv(single chain variable fragment)である、項目
10に記載のキメラ抗原受容体。
(項目14)
項目10に記載のキメラ抗原受容体をコーディングする、ポリヌクレオチド。
(項目15)
前記ポリヌクレオチドは、配列番号26または27からなる塩基配列を含む、項目14に記載のポリヌクレオチド。
(項目16)
項目14に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
(項目17)
項目16に記載のベクターで形質転換された、細胞。
(項目18)
前記細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはガンマデルタT細胞(γδTセル)である、項目17に記載の細胞。
(項目19)
項目18に記載の細胞を含む、癌の予防用または治療用の薬学的組成物。
【要約】
メソテリンに特異的に結合する抗メソテリンキメラ抗原受容体に係り、該抗メソテリンキメラ抗原受容体は、メソテリンに対する特異的結合能を示し、メソテリンが過発現される癌の予防または治療に有用に使用されうる。
【配列表】