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特許7138995脳から取得される波形データに対してバースト解析を行う方法、コンピュータシステム、プログラム、ならびに、バースト解析を用いて標的の状態を予測する方法、コンピュータシステム、プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】脳から取得される波形データに対してバースト解析を行う方法、コンピュータシステム、プログラム、ならびに、バースト解析を用いて標的の状態を予測する方法、コンピュータシステム、プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/372 20210101AFI20220912BHJP
【FI】
A61B5/372
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022500622
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028157
(87)【国際公開番号】W WO2022034802
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2020136762
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 勇人
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0333558(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0307079(US,A1)
【文献】特開2020-051968(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099600(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0245481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/0538
A61B 5/06 - 5/398
G01N 33/48 -33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳から取得された波形データに対して定量的な解析を行うために、前記波形データに対してバースト解析を行う方法であって、
前記波形データを複数の周波数帯に分割する工程と、
前記複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する工程と、
前記取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する工程であって、前記バーストを検出する工程は、
前記取得されたスパイクデータから平均スパイク間隔(平均ISI)を算出することと、
前記平均ISI以下のISIを有する連続する複数のスパイクの各々をバースト候補として特定することと、
前記バースト候補の末尾スパイクを先頭スパイク方向に変更しながら、それぞれバースト候補のPoisson surpriseを計算し、前記Poisson surpriseが最大となるスパイクを前記バーストの末尾として決定することと、
前記バースト候補の先頭スパイクを末尾スパイク方向に変更しながら、それぞれバースト候補のPoisson surpriseを計算し、前記Poisson surpriseが最大となるスパイクを前記バーストの先頭として決定することと
を含む、工程と、
前記検出されたバーストに基づいて各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の周波数に分割する工程は、前記波形データを約5~約8Hzのθ波帯、約8~約14Hzのα波帯、約15~約30Hzのβ波帯、約30~約50Hzのγ波帯、および、約70~約150Hzのhigh-γ波帯を含む少なくとも5つの帯域に分割することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スパイクを検出することは、所定時間幅を有するスパイクを検出することを含み、
前記所定時間幅は、前記分割された周波数帯の代表周波数の逆数である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バーストパラメータは、発火頻度、バースト頻度、バースト間隔、バースト期間、バースト内スパイク数、バースト内最大振幅、最大振幅間隔、バースト間隔のCV値、バースト期間のCV値、バースト内スパイク数のCV値、バースト内最大振幅のCV値、または、最大振幅間隔のCV値を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記バーストパラメータは、バースト内最大振幅のCV値、または、最大振幅間隔のCV値を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
標的の状態の予測方法であって、前記方法は、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記方法は、
前記プロセッサが、第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データを受信する工程と、
前記プロセッサが、第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを受信する工程と、
前記プロセッサが、請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って前記第1の波形データおよび前記第2の波形データから導出されるバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する工程と、
前記プロセッサが、前記標的の脳から取得された標的波形データから、前記予測パラメータセットに基づいて前記状態を予測する工程と
を包含する、方法。
【請求項7】
前記プロセッサが、第3の状態を有する対象の脳から取得された第3の波形データを得る工程をさらに備え、
前記予測パラメータセットを特定する工程は、前記第1の波形データ、前記第2の波形データ、および前記第3の波形データの多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する工程を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、
前記第2の状態は、前記所定の症状を有していない状態であり、
前記第3の状態は、前記所定の症状の前兆を有している状態であり、
前記予測パラメータセットは、前記第1の状態と前記第2の状態と前記第3の状態とを分離可能なパラメータの組み合わせを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の症状は、痙攣の症状である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
脳から取得された波形データに対して定量的な解析を行うために、前記波形データに対してバースト解析を行うためのコンピュータシステムであって、
前記波形データを複数の周波数帯に分割する分割手段と、
前記複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する取得手段と、
前記取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する検出手段であって、前記検出手段は、
前記取得されたスパイクデータから平均スパイク間隔(平均ISI)を算出することと、
前記平均ISI以下のISIを有する連続する複数のスパイクの各々をバースト候補として特定することと、
前記バースト候補の末尾スパイクを先頭スパイク方向に変更しながら、それぞれバースト候補のPoisson surpriseを計算し、前記Poisson surpriseが最大となるスパイクを前記バーストの末尾として決定することと、
前記バースト候補の先頭スパイクを末尾スパイク方向に変更しながら、それぞれバースト候補のPoisson surpriseを計算し、前記Poisson surpriseが最大となるスパイクを前記バーストの先頭として決定することと
を行うように構成されている、検出手段と、
前記検出されたバーストに基づいて各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出する導出手段と
を備えるコンピュータシステム。
【請求項11】
脳から取得された波形データに対して定量的な解析を行うために、前記波形データに対してバースト解析を行うためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
前記波形データを複数の周波数帯に分割する工程と、
前記複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する工程と、
前記取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する工程であって、前記バーストを検出する工程は、
前記取得されたスパイクデータから平均スパイク間隔(平均ISI)を算出することと、
前記平均ISI以下のISIを有する連続する複数のスパイクの各々をバースト候補として特定することと、
前記バースト候補の末尾スパイクを先頭スパイク方向に変更しながら、それぞれバースト候補のPoisson surpriseを計算し、前記Poisson surpriseが最大となるスパイクを前記バーストの末尾として決定することと、
前記バースト候補の先頭スパイクを末尾スパイク方向に変更しながら、それぞれバースト候補のPoisson surpriseを計算し、前記Poisson surpriseが最大となるスパイクを前記バーストの先頭として決定することと
を含む、工程と、
前記検出されたバーストに基づいて各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
【請求項12】
標的の状態を予測するためのコンピュータシステムであって、
第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データと第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データとを受信する受信手段と、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って前記第1の波形データおよび前記第2の波形データから導出されるバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する特定手段と、
前記標的の脳から取得された標的波形データから、前記予測パラメータセットに基づいて前記状態を予測する予測手段と
を備えるコンピュータシステム。
【請求項13】
標的の状態を予測するためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データを得る工程と、
第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを得る工程と、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って前記第1の波形データおよび前記第2の波形データから導出されるバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する工程と、
前記標的の脳から取得された標的波形データから、前記予測パラメータセットに基づいて前記状態を予測する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳から取得される波形データに対してバースト解析を行う方法、コンピュータシステム、プログラム、ならびに、バースト解析を用いて標的の状態を予測する方法、コンピュータシステム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非臨床試験において、ヒト由来神経細胞などの神経ネットワーク活動を微小電極アレイ(MEA:Micro-Eelectrode Array)等で取得し、医薬品の効果を調べる研究が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A. 0Odawara, H. Katoh, N. Matsuda & I. Suzuki, "Physiological maturation and drug responses of human induced pluripotent stem cell-derived cortical neuronal networks in long-term culture", Scientific Reports volume 6, Article number: 26181 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、対象化合物の未知の特性を予測するための新規な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態において、本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
脳から取得された波形データに対してバースト解析を行う方法であって、
前記波形データを複数の周波数帯に分割する工程と、
前記複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する工程と、
前記取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する工程と、
前記検出されたバーストに基づいて各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出する工程と
を含む方法。
(項目2)
前記複数の周波数に分割する工程は、前記波形データを約5~約8Hzのθ波帯、約8~約14Hzのα波帯、約15~約30Hzのβ波帯、約30~約50Hzのγ波帯、および、約70~約150Hzのhigh-γ波帯を含む少なくとも5つの帯域に分割することを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記スパイクを検出することは、所定時間幅を有するスパイクを検出することを含み、
前記所定時間幅は、前記分割された周波数帯の代表周波数の逆数である、項目1または項目2に記載の方法。
(項目4)
前記バーストパラメータは、発火頻度、バースト頻度、バースト間隔、バースト期間、バースト内スパイク数、バースト内最大振幅、最大振幅間隔、バースト間隔のCV値、バースト期間のCV値、バースト内スパイク数のCV値、バースト内最大振幅のCV値、最大振幅間隔のCV値を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
標的の状態の予測方法であって、
第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データを得る工程と、
第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを得る工程と、
項目1~4のいずれか一項に記載の方法に従って前記第1の波形データおよび前記第2の波形データから導出されるバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する工程と、
前記標的の脳から取得された標的波形データから、前記予測パラメータセットに基づいて前記状態を予測する工程と
を包含する、方法。
(項目6)
第3の対象の脳から取得された第3の波形データを得る工程をさらに備え、
前記予測パラメータセットを特定する工程は、前記第1の波形データ、前記第2の波形データ、および前記第3の波形データの多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する工程を含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、
前記第2の状態は、前記所定の症状を有していない状態であり、
前記第3の状態は、前記所定の症状の前兆を有している状態であり、
前記予測パラメータセットは、前記第1の状態と前記第2の状態と前記第3の状態とを分離可能なパラメータの組み合わせを含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記所定の症状は、痙攣の症状である、項目7に記載の方法。
(項目9)
脳から取得された波形データに対してバースト解析を行うためのコンピュータシステムであって、
前記波形データを複数の周波数帯に分割する分割手段と、
前記複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する取得手段と、
前記取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する検出手段と、
前記検出されたバーストに基づいて各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出する導出手段と
を備えるコンピュータシステム。
(項目9A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目9Aに記載のコンピュータシステム。
(項目10)
脳から取得された波形データに対してバースト解析を行うためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
前記波形データを複数の周波数帯に分割する工程と、
前記複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する工程と、
前記取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する工程と、
前記検出されたバーストに基づいて各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
(項目10A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目10に記載のプログラム。
(項目10B)
項目10または項目10Aに記載のプログラムを記憶する記憶媒体。
(項目11)
標的の状態を予測するためのコンピュータシステムであって、
第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データと第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データとを受信する受信手段と、
項目1~4のいずれか一項に記載の方法に従って前記第1の波形データおよび前記第2の波形データから導出されるバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する特定手段と、
前記標的の脳から取得された標的波形データから、前記予測パラメータセットに基づいて前記状態を予測する予測手段と
を備えるコンピュータシステム。
(項目11A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目11Aに記載のコンピュータシステム。
(項目12)
標的の状態を予測するためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データを得る工程と、
第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを得る工程と、
項目1~4のいずれか一項に記載の方法に従って前記第1の波形データおよび前記第2の波形データから導出されるバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する工程と、
前記標的の脳から取得された標的波形データから、前記予測パラメータセットに基づいて前記状態を予測する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
(項目12A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目12に記載のプログラム。
(項目12B)
項目12または項目12Aに記載のプログラムを記憶する記憶媒体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、標的の状態を予測することに利用可能なバースト解析を行う方法を提供することができる。また、本発明によれば、バースト解析を用いて標的の状態を予測する方法等も提供することができる。これにより、対象化合物の未知の特性を予測することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100の構成の一例を示す図
図2】プロセッサ120の構成の一例を示す図
図3A】スパイクデータ中のバーストを検出する手法を説明する図
図3B】スパイクデータ中のバーストを検出する手法を説明する図
図3C】スパイクデータ中のバーストを検出する手法を説明する図
図3D】スパイクデータ中のバーストを検出する手法を説明する図
図4】標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100における処理の一例を示すフローチャート
図5】複数の周波数帯に分割された脳波データの一例を示す図
図6】標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100における処理の一例を示すフローチャート
図7】ステップS604でプロセッサ120が標的の状態を予測する処理の一例を示すフローチャート
図8】標的波形データ、第1の波形データ、第2の波形データの主成分プロットの一例
図9】標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100における処理の一例を示すフローチャート
図10A】実施例1の結果を示す図
図10B】実施例2の結果を示す図
図10C】実施例3の結果を示す図
図10D】実施例4の結果を示す図
図11】実施例5の結果を示す図
図12A】実施例5の結果を示す図
図12B】実施例5の結果を示す図
図13A】実施例6の結果を示す図
図13B】実施例6の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0009】
1.定義
本明細書において、「標的」とは、状態を予測する対象となる生体のことをいう。標的は、ヒトであってもよいし、ヒトを除く動物であってもよいし、ヒトおよび動物であってもよい。
【0010】
本明細書において、「対象化合物」とは、特性を予測する対象の化合物のことをいう。対象化合物は、未知の化合物であってもよいし、既知の化合物であってもよい。対象化合物の特性は、例えば、薬効、毒性、作用機序を含むがこれらに限定されない。
【0011】
本明細書において、「対象」とは、対象化合物を投与する対象となる生体のことをいう。対象は、標的は、ヒトであってもよいし、ヒトを除く動物であってもよいし、ヒトおよび動物であってもよい。
【0012】
本明細書において、「薬効」とは、薬剤を対象に適用した場合に結果として生じる効果のことである。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、薬効は、X線観察下におけるがん面積の縮小、がんの進行の遅延、およびがん患者の生存期間の延長等の対象に生じる直接的効果であってもよいし、がんの進行と相関するバイオマーカーの減少などの間接的効果であってもよい。本明細書において、「薬効」とは、任意の適用条件下における効果が企図される。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、薬効は、特定の対象(例えば、80歳以上の男性)における効果であってもよいし、特定の適用条件(例えば、他の抗がん療法との併用下)における効果であってもよい。一つの実施形態では、薬剤は、単一の薬効を有してもよいし、複数の薬効を有してもよい。一つの実施形態では、薬剤は、異なる適用条件下において異なる薬効を有してもよい。一般的に、薬効は、達成を目的とする効果を指す。
【0013】
本明細書において、「毒性」とは、薬剤を対象に適用した場合に生じる好ましくない効果である。一般的に、毒性は、薬剤の目的とする効果とは異なる効果である。毒性は、薬効とは異なる作用機序で生じる場合もあるし、薬効と同じ作用機序で生じる場合もある。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、細胞増殖抑制の作用機序を介して、がん細胞殺傷の薬効と同時に正常な肝細胞の殺傷による肝毒性が生じる場合もあるし、細胞増殖抑制の作用機序を介したがん細胞殺傷の薬効と同時に膜安定化の作用機序を介した神経機能障害の毒性が生じる場合もある。
【0014】
本明細書において、「作用機序」とは、薬剤が生物的機構と相互作用する様式である。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、作用機序は、免疫系の活性化、増殖速度の速い細胞の殺傷、増殖性シグナル伝達の遮断、特定の受容体の遮断、特定の遺伝子の転写阻害など種々のレベルの事象であり得る。作用機序が特定されると、蓄積された情報に基づいて、薬効、毒性および/または適切な利用形態が予測され得る。
【0015】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0016】
2.標的の状態の予測
本発明の発明者は、対象化合物の未知の特性を予測するために、多変量解析を用いて標的の状態を予測する手法を開発した。本発明の方法においては、複数の候補パラメータを含むパラメータセット中の複数(好ましくは全て)の組み合わせに対して、多変量解析を用いることにより、既知の状態の分離に好適な予測パラメータセットを導出することができる。その予測パラメータセットを用いて、対象化合物を標的に投与したときに標的の脳から取得される波形データを解析することによって、標的の状態を予測することができる。この予測に基づいて、対象化合物の特性を予測することができる。
【0017】
例えば、所定の症状を有している対象の脳から取得された波形データおよび所定の症状を有していない対象の脳から取得された波形データを多変量解析することにより、所定の症状を有している状態と所定の症状を有していない状態とを分離可能な予測パラメータセットを導出する。この予測パラメータセットを用いて、未知の状態を有する標的の脳から取得された波形データを解析することによって、標的が、所定の症状を有している状態にあるか、所定の症状を有していない状態にあるのかを予測することができる。
【0018】
例えば、これは、対象化合物の薬効、毒性、作用機序を予測することに利用することができる。例えば、分離すべき特性をそれぞれ有する複数の既知化合物(例えば、「毒性の有無」の特性を分離する場合、「毒性有り」の特性を有する既知化合物Aおよび「毒性無し」の特性を有する既知化合物B)をそれぞれ別個の対象に投与したときにその脳から取得された波形データを多変量解析することにより、毒性が表れている状態および毒性が表れていない状態を分離可能な予測パラメータセットを導出する。この予測パラメータセットを用いて、対象化合物を標的に投与したときに標的の脳から取得された波形データを解析することによって、標的の状態が毒性が表れている状態であるか毒性が表れていない状態であるかを予測し、この予測に基づいて、対象化合物の特性が「毒性有り」であるのか、「毒性無し」であるのかを予測することができる。例えば、分離すべき状態に応じた予測パラメータセットを導出することによって、対象化合物が、どのような薬効を有するか、または、どのような毒性を有するか、または、どのような作用機序を有するかを予測することができるようになる。これにより、対象化合物の薬効、毒性、作用機序を予測することが可能になる。
【0019】
例えば、脳から取得されたデータは、培養神経細胞から直接的に取得されたデータに比べて、生体での対象化合物の特定をより精度よく予測することができる。培養神経細胞から直接的に取得されたデータは、対象化合物を神経細胞に直接的に暴露した際の情報であるのに対して、脳から取得されたデータは、生体での薬物動態を経て神経細胞に対象化合物が暴露された際の情報であるからである。
【0020】
このような多変量解析を用いて標的の状態を予測することは、例えば、以下に説明する標的の状態を予測するためのコンピュータシステムによって実現され得る。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
3.標的の状態を予測するためのコンピュータシステムの構成
図1は、本発明の一実施形態に従った、標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100の構成の一例を示す。
【0023】
コンピュータシステム100は、受信手段110と、プロセッサ120と、メモリ130と、出力手段140とを備える。コンピュータシステム100は、データベース部200に接続され得る。
【0024】
受信手段110は、コンピュータシステム100の外部からデータを受信することが可能であるように構成されている。受信手段110は、例えば、コンピュータシステム100の外部からネットワークを介してデータを受信してもよいし、コンピュータシステム100に接続された記憶媒体(例えば、USBメモリ、光ディスク等)またはデータベース部200からデータを受信してもよい。ネットワークを介してデータを受信する場合は、ネットワークの種類は問わない。受信手段110は、例えば、Wi-fi等の無線LANを利用してデータを受信してもよいし、インターネットを介してデータを受信してもよい。
【0025】
受信手段110は、対象の脳から取得された波形データを受信するように構成されている。例えば、受信手段110は、既知化合物を投与されたときの対象の脳から取得された波形データを受信することができる。例えば、受信手段110は、化合物を投与されていないときの対象の脳から取得された波形データを受信することができる。受信手段110は、標的の脳から取得された波形データを受信するようにさらに構成され得る。
【0026】
脳から取得された波形データは、脳の活動を表す時系列の電位データである。脳から取得された波形データは、脳波データ、脳スライスの波形データ、脳オルガノイドの波形データを含む。例えば、頭皮脳波(EEG)データは頭皮に貼付した電極を用いて測定された、神経活動による体表の電位時系列データである。皮質脳波(ECoG)データは頭蓋内の皮質上に留置した電極を用いて測定された、神経活動による皮質電位時系列データである。
【0027】
受信手段110が受信したデータは、後続の処理のために、プロセッサ120に渡される。
【0028】
プロセッサ120は、コンピュータシステム100全体の動作を制御する。プロセッサ120は、メモリ130に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、コンピュータシステム100を所望のステップを実行する装置として機能させることが可能である。プロセッサ120は、単一のプロセッサによって実装されてもよいし、複数のプロセッサによって実装されてもよい。プロセッサ120によって処理されたデータは、出力のために、出力手段140に渡される。
【0029】
メモリ130には、コンピュータシステム100における処理を実行するためのプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等が格納されている。メモリ130には、例えば、脳から取得された波形データに対してバースト解析を行うためのプログラム(例えば、後述する図4に示される処理を実現するプログラム)、対象の状態を予測するためのプログラム(例えば、後述する図6、7、9に示される処理を実現するプログラム)が格納されている。メモリ130には、任意の機能を実装するアプリケーションが格納されていてもよい。ここで、プログラムをどのようにしてメモリ130に格納するかは問わない。例えば、プログラムは、メモリ130にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、ネットワークを経由してダウンロードされることによってメモリ130にインストールされるようにしてもよい。あるいは、プログラムは、機械読み取り可能な非一過性記憶媒体に格納されていてもよい。メモリ130は、任意の記憶手段によって実装され得る。
【0030】
出力手段140は、コンピュータシステム100の外部にデータを出力することが可能であるように構成されている。出力手段140がどのような態様でコンピュータシステム100から情報を出力することを可能にするかは問わない。例えば、出力手段140が表示画面である場合、表示画面に情報を出力するようにしてもよい。あるいは、出力手段140がスピーカである場合には、スピーカからの音声によって情報を出力するようにしてもよい。あるいは、出力手段140がデータ書き込み装置である場合、コンピュータシステム100に接続された記憶媒体またはデータベース部200に情報を書き込むことによって情報を出力するようにしてもよい。あるいは、出力手段140が送信器である場合、送信器がネットワークを介してコンピュータシステム100の外部に情報を送信することにより出力してもよい。この場合、ネットワークの種類は問わない。例えば、送信器は、インターネットを介して情報を送信してもよいし、LANを介して情報を送信してもよい。例えば、出力手段140は、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な形式に変換して、または、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な応答速度に調整してデータを出力するようにしてもよい。
【0031】
コンピュータシステム100に接続されているデータベース部200には、例えば、対象の複数の既知の状態での脳から取得された波形データが格納され得る。対象の複数の既知の状態での脳から取得された波形データは、例えば、その状態を誘発する既知化合物と関連付けられてデータベース部200に格納されてもよい。データベース部200には、例えば、コンピュータシステム100によって出力されたデータ(例えば、予測された標的の状態)が格納されてもよい。
【0032】
図1に示される例では、データベース部200は、コンピュータシステム100の外部に設けられているが、本発明はこれに限定されない。データベース部200をコンピュータシステム100の内部に設けることも可能である。このとき、データベース部200は、メモリ130を実装する記憶手段と同一の記憶手段によって実装されてもよいし、メモリ130を実装する記憶手段とは別の記憶手段によって実装されてもよい。いずれにせよ、データベース部200は、コンピュータシステム100のための格納部として構成される。データベース部200の構成は、特定のハードウェア構成に限定されない。例えば、データベース部200は、単一のハードウェア部品で構成されてもよいし、複数のハードウェア部品で構成されてもよい。例えば、データベース部200は、コンピュータシステム100の外付けハードディスク装置として構成されてもよいし、ネットワークを介して接続されるクラウド上のストレージとして構成されてもよい。
【0033】
図2は、プロセッサ120の構成の一例を示す。
【0034】
プロセッサ120は、少なくとも、バースト解析手段121を備える。
【0035】
バースト解析手段121は、受信手段110によって受信された波形データに対してバースト解析を行うように構成されている。
【0036】
バースト解析手段121は、分割手段と、取得手段と、検出手段と、導出手段とを備える。
【0037】
分割手段は、波形データを複数の周波数帯に分割するように構成されている。分割手段は、公知の任意のフィルタリング処理により、波形データを複数の周波数帯に分割することができる。分割手段は、例えば、複数のバンドパスフィルタを用いて、波形データを複数の周波数帯に分割することができる。
【0038】
複数の周波数帯は、少なくとも5個の周波数帯を含む。少なくとも5個の周波数帯は、約5~約8Hzのθ波帯、約8~約14Hzのα波帯、約15~約30Hzのβ波帯、約30~約50Hzのγ波帯、および、約70~約150Hzのhigh-γ波帯を含む。これらの周波数帯を含めるように分割することにより、これらの周波数帯のうちの少なくとも1つに現れ得る特定の状態(または疾患)特有の特徴をとらえることができるようになる。複数の周波数帯は、上述した少なくとも5個の周波数帯に加えて、約150~約200Hzの帯域を含めるようにしてもよい。
【0039】
取得手段は、複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得するように構成されている。波形データ中のスパイクは、波形データの振幅(または振幅の偏差)が所定の閾値を超える発振として定義され、スパイクの始点は、振幅(または振幅の偏差)が所定の閾値を超えた時刻として定義され、スパイクの終点は、スパイクの始点からスパイク取得幅が経過した時刻として定義される。ここで、所定の閾値は、任意の値であり得る。例えば、所定の閾値は、振幅の中央値または振幅の平均値であってもよいし、振幅の中央値または振幅の平均値に係数を掛けた値であってもよい。スパイク取得幅は、任意の時間幅であり得る。スパイク取得幅は、一定であってもよいし、変動するようにしてもよい。スパイク取得幅は、例えば、複数の周波数帯のそれぞれに対して変動するようにすることが好ましい。波形データ中のスパイクのスパイク時間幅(またはスパイク持続時間)が周波数帯に応じて異なるため、スパイク取得幅を適切に設定することにより、スパイクの誤検出を低減または防止することができるからである。スパイク取得幅は、例えば、各周波数帯の代表周波数の逆数であり得る。ここで、各周波数帯の代表周波数は、例えば、周波数帯内の任意の周波数であり得、例えば、周波数帯内の最小値、最大値、平均値等であり得る。例えば、約70~約150Hzのhigh-γ波帯について、スパイク取得幅は、約1/70sec、約1/150sec、約1/105sec、または約1/100sec(10msec)であり得る。例えば、約70~約150Hzのhigh-γ波帯内のスパイクが10msecのスパイク幅を有するときに、スパイク取得幅を1000Hzの逆数である1msecに設定した場合(すなわち、スパイク取得幅が適切でない場合)、本来であれば1つのスパイクを検出すべき10msecの間、1msec毎に10個のスパイクを誤検出してしまうことになる。
【0040】
取得手段は、例えば、複数の周波数帯の各周波数帯の波形データから、波形データの振幅(または振幅の偏差)が所定の閾値を超える時刻およびスパイク取得幅経過後の時刻を検出することによって、スパイクを検出することができる。取得手段は、信号取得時間内に検出された複数のスパイクに基づいてスパイクデータを取得することができる。スパイクデータは、後述するように、総スパイク数Nおよび総スパイク時間Tを含み得る。
【0041】
検出手段は、取得手段によって取得されたスパイクデータ中のバーストを検出するように構成されている。検出手段は、例えば、図3A図3Dを参照して説明する手法によって、スパイクデータ中のバーストを検出することができる。図3A図3Dでは、横軸が時間軸を表し、スパイクが黒点でプロットされている。
【0042】
第一に、検出手段は、図3Aに示されるように、総スパイク数Nおよび総スパイク時間Tのスパイクデータから、平均ISI(Inter spike interval:スパイク間隔)を算出する。図3Aに示される例では、第1のスパイクがtで生じ、第Nのスパイクがtで生じており、総スパイク時間T=t-tである。平均ISIは、T/(N-1)で算出される。
【0043】
次いで、検出手段は、図3Bに示されるように、平均ISI以下のISIを有する連続する複数のスパイクをバースト候補として特定する。バースト候補は、開始時刻と終了時刻とを有している。図3Bに示される例では、2つのバースト候補(第1のバースト候補および第2のバースト候補)が特定されており、第1のバースト候補、第2のバースト候補はそれぞれ、開始時刻start、startおよび終了時刻end、endを有している。
【0044】
次いで、検出手段は、図3Cに示されるように、各バースト候補の末尾スパイクを先頭スパイク方向に変更しながら、それぞれのPoisson surpriseを計算し、Poisson surpriseが最大となるスパイクをそのバースト候補の末尾として決定する。ここで、Poisson surpriseとは、或る事象がポアソン分布においてどれだけ確率が低い事象であるかを表す指標であり、確率が低いほど大きな値となる。
【0045】
次いで、検出手段は、図3Dに示されるように、各バースト候補の先頭スパイクを末尾スパイク方向に偏光しながら、それぞれのPoisson surpriseを計算し、Poisson surpriseが最大となるスパイクをそのバースト候補の先頭として決定される。このようにして決定された先頭スパイクおよび末尾スパイクを有するバースト候補が、バーストとして検出される。
【0046】
導出手段は、検出手段によって検出されたバーストに基づいて、各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出するように構成されている。バーストパラメータは、例えば、
(1)発火頻度(Spike rate)、
(2)バースト頻度(Burst rate)、
(3)バースト間隔(IBI)、
(4)バースト期間(Duration)、
(5)バースト内スパイク数(Spikes in burst)、
(6)バースト内最大振幅(Peak amplitude)、
(7)最大振幅間隔(IPI)、
(8)バースト間隔のCV値(CV of IBI)(変動係数(CV)=標準偏差/平均値)、
(9)バースト期間のCV値(CV of Duration)、
(10)バースト内スパイク数のCV値(CV of Spikes in burst)、
(11)バースト内最大振幅のCV値(CV of Peak amplitude)、(12)最大振幅間隔のCV値(CV of IPI)
のうちの少なくとも1つを含む。
【0047】
(1)発火頻度は、スパイクの頻度を表し、(総スパイク数)/(信号取得時間)で表される。(2)バースト頻度は、バーストの頻度を表し、(総バースト数)/(信号取得時間)で表される。(3)バースト間隔は、バースト間の間隔を表し、前のバーストの末尾スパイクの時刻から次のバーストの先頭スパイクの時刻までの時間の全バーストでの平均値で表される。(4)バースト期間は、バーストが続く時間を表し、先頭スパイクの時刻から末尾スパイクの時刻までの時間の全バーストでの平均値で表される。(5)バースト内スパイク数は、バースト内のスパイクの数の全バーストでの平均値を表す。(6)バースト内最大振幅は、バースト期間内の最大振幅の全バーストでの平均値を表す。7)最大振幅間隔は、バースト内最大振幅間の間隔の全バーストでの平均値を表す。
【0048】
バーストパラメータは、好ましくは、(8)バースト間隔のCV値(CV of IBI)(変動係数(CV)=標準偏差/平均値)、(9)バースト期間のCV値(CV of Duration)、(10)バースト内スパイク数のCV値(CV of Spikes in burst)、(11)バースト内最大振幅のCV値(CV of Peak amplitude)、(12)最大振幅間隔のCV値(CV of IPI)のうちの少なくとも1つを含む、バーストパラメータは、さらに好ましくは、(8)バースト間隔のCV値(CV of IBI)(変動係数(CV)=標準偏差/平均値)、(9)バースト期間のCV値(CV of Duration)、(10)バースト内スパイク数のCV値(CV of Spikes in burst)、(11)バースト内最大振幅のCV値(CV of Peak amplitude)、および(12)最大振幅間隔のCV値(CV of IPI)を含む。これらのバーストパラメータは、他のバーストパラメータに比べて、対象の状態を分離可能なバーストパラメータとなる確率が高く、有効なパラメータとなり得るからである。
を含む。
【0049】
導出された各周波数帯のバーストパラメータに対するデータは、対象の状態を予測するために、プロセッサ120によって利用されることができる。脳から取得された波形データは、そのままでは、定性的な解析しか行うことができないが、バースト解析手段121によって、脳から取得された波形データから各周波数帯のバーストパラメータに対するデータを導出することにより、脳から取得された波形データに対して定量的な解析(例えば、多変量解析)を行うことができるようになる。定量的な解析の一例である多変量解析について、後述する。
【0050】
再び図2を参照すると、プロセッサ120は、さらに、多変量解析手段122と、予測パラメータ特定手段123と、予測手段124とを備え得る。
【0051】
多変量解析手段122は、入力されたデータに対して多変量解析を行うように構成されている。多変量解析手段122は、バースト解析手段121によって解析された、第1の対象の脳から取得された波形データおよび第2の対象の脳から取得された波形データに対して多変量解析を行う。第1の対象と第2の対象とは、互いに異なる状態を有している。多変量解析は、例えば、主成分解析である。主成分解析によって、データの少なくとも第1主成分および第2主成分を算出することができる。例えば、主成分解析によって、第3主成分、第4主成分・・・第n-1主成分を算出するようにしてもよい(ここで、nは入力されたデータの次元数)。多変量解析は、例えば、クラスター分析である。クラスター分析によって、データを複数のクラスターに分類することができる。クラスター分析のアルゴリズムとして、例えば、ward法(内部平方距離)を用いることができ、平均の距離、重心間の距離、最大距離、最短距離を用いることもできる。類似度を決定するための指標として、例えば、ユークリッド距離を用いることができ、マハラノビス距離、スピアマンの順位相関を用いることもできる。類似度を決定するための指標として、例えば、コサイン類似度を用いることもできる。類似度を決定するための指標として、例えば、ユークリッド距離とコサイン類似度との組み合わせを用いることもできる。類似度を決定するための指標の閾値は、データに応じて任意の値に設定することができる。
【0052】
多変量解析手段122に入力されるデータは、例えば、同一の化合物を異なる対象に投与した場合のそれぞれの脳から取得されたデータを含み得る。複数の異なる対象からのデータを多変量解析手段122で処理することにより、後述する予測パラメータ特定手段123によって、検体間差に依存しない予測パラメータセットを特定することができるようになる。
【0053】
多変量解析手段122は、例えば、第1の対象の脳から取得された波形データおよび第2の脳から取得された波形データからバースト解析手段121によって導出されたバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行う。多変量解析手段122は、例えば、3以上の対象の脳から取得された波形データから導出されたバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行ってもよい。多変量解析手段122は、例えば、バースト解析手段121によって導出された特定の周波数帯のバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行うようにしてもよいし、バースト解析手段121によって導出された全ての周波数帯のバーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行うようにしてもよい。
【0054】
多変量解析のためのパラメータ組は、2つ以下のパラメータでは多変量解析ができないため、3つ以上のパラメータを含む必要がある。例えば、バーストパラメータが上述した12個のバーストパラメータから成る場合、各バーストパラメータの全ての組み合わせは、4017個のパラメータ組となる(各パラメータ組は、3~12個のバーストパラメータを含む)。このとき、多変量解析手段122は、4017個のパラメータ組のそれぞれについて、第1の対象の脳から取得された波形データおよび第2の脳から取得された波形データに対して多変量解析を行う。
【0055】
予測パラメータ特定手段123は、多変量解析手段122による多変量解析の結果に基づいて予測パラメータセットを特定するように構成されている。予測パラメータ特定手段123は、例えば、多変量解析の結果に基づいて、第1の状態と第2の状態とを分離可能なバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定する。例えば、第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、第2の状態は、所定の症状を有していない状態であり得る。例えば、第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、第2の状態は、所定の症状の前兆を有している状態であり得る。例えば、第1の状態は、所定の症状を有していない状態であり、第2の状態は、所定の症状の前兆を有している状態であり得る。
【0056】
予測パラメータ特定手段123は、例えば、多変量解析の結果に基づいて、3以上の状態を分離可能なパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定するようにしてもよい。例えば、第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、第2の状態は、所定の症状を有していない状態であり、第3の状態は、所定の症状の前兆を有している状態であり得る。
【0057】
例えば、多変量解析が主成分解析である場合、或るバーストパラメータの組み合わせについての主成分解析の結果から、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データの第1主成分得点および第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データの第1主成分得点に対して有意差検定を行い、有意差が認められれば、そのバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定することができる。例えば、或るバーストパラメータの組み合わせについての主成分解析の結果から、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データの第1主成分得点、第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データの第1主成分得点、・・・第nの既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データの第1主成分得点に対して有意差検定を行い、有意差が認められれば、そのバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定することができる。このような有意差検定を、多変量解析を行ったバーストパラメータの全ての組み合わせについて行い、有意差が認められた1つまたは複数のバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定する。
【0058】
予測パラメータ特定手段123は、任意の有意差検定手法を用いて有意差検定を行うことができる。有意差検定は、例えば、ANOVA(分散分析)を用いて行うことができ、多変量の場合は、MANOVA(多変量分散分析)を用いて行うことができる。例えば、ANOVA(分散分析)またはMANOVA(多変量分散分析)を行い、得られたp値が0.05以下の場合に有意差が認められ得る。有意差が認められるp値の閾値は、0.05に限られず、任意の値とすることができる。
【0059】
例えば、多変量解析がクラスター分析である場合、或るバーストパラメータの組み合わせについてのクラスター分析の結果、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データおよび第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データがそれぞれ別のクラスターに分類された場合に、そのバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定することができる。例えば、或るバーストパラメータの組み合わせについてのクラスター分析の結果、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、・・・第nの既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データが全て別のクラスターに分類された場合に、そのバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定することができる。このように、クラスター分析をバーストパラメータの全ての組み合わせについて行い、全データがそれぞれ別のクラスターに分類された1つまたは複数のバーストパラメータの組み合わせを予測パラメータセットとして特定する。
【0060】
予測パラメータ特定手段123は、複数の組の状態をそれぞれ分離可能な複数の予測パラメータセットを特定することが好ましくあり得る。これにより、複数の状態を予測することが可能になるからである。予測パラメータ特定手段123は、関連する複数の組の状態をそれぞれ分離可能な複数の予測パラメータセットを特定することがさらに好ましくあり得る。関連する複数の組の状態を段階的に分離することにより、段階的な状態の予測が可能になり、高い精度の状態予測が可能になるからである。
【0061】
予測手段124は、入力されたデータから、予測パラメータ特定手段123によって特定された予測パラメータセットに基づいて、標的の状態を予測するように構成されている。予測手段124は、予測パラメータセット123から予測パラメータセットを受け取り、かつ、バースト解析手段121によって解析された、標的の脳から取得された波形データも受け取る。
【0062】
予測手段124は、例えば、標的の脳から取得された波形データが、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データのいずれと類似するかを決定し、決定された第1の既知の状態または第2の既知の状態を、標的の状態として予測する。
【0063】
予測手段124は、例えば、予測パラメータセットについて標的の脳から取得された波形データに対して多変量解析を行い、その結果に基づいて、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データのいずれと類似するかを決定するようにしてもよい。例えば、多変量解析が主成分解析である場合には、予測手段124は、予測パラメータセットについて標的の脳から取得された波形データの主成分得点を算出し、主成分得点をプロットした主成分プロットに基づいて類似するかを決定する。例えば、主成分プロット間のユークリッド距離、コサイン類似度、またはその組み合わせによって類似するかを決定する。例えば、多変量解析がクラスター分析である場合には、予測手段124は、予測パラメータセットについて、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、および、対象の脳から取得された波形データをクラスター分析し、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、および、対象の脳から取得された波形データそれぞれをクラスターに分類する。標的の脳から取得された波形データが第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データと同じクラスターに分類されるか否かに基づいて類似するかを決定する。このとき、標的の脳から取得された波形データが、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データが分類されたクラスターまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データが分類されたクラスターのいずれにも分類されなかった場合には、標的の脳から取得された波形データは、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データのいずれにも類似していないことになる。
【0064】
上述した例では、プロセッサが、多変量解析手段122および予測パラメータ特定手段123を備えることを説明したが、予測パラメータセットが予め決定されている場合には、プロセッサは、多変量解析手段122および予測パラメータ特定手段123を備えなくてもよい。この場合、プロセッサは、予め決定された予測パラメータセットを受信し、受信した予測パラメータセットに基づいて特性を予測する。
【0065】
例えば、プロセッサは、予め決定された予測パラメータセットについて、標的の脳から取得された波形データ、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、および第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データに対して多変量解析を行い、その結果に基づいて標的の脳から取得された波形データが、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データのいずれと類似するかを決定し、類似すると決定された第1の既知の状態または第2の既知の状態を、標的の状態として予測する。例えば、予め決定された予測パラメータセットについて、標的の脳から取得された波形データ、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、および第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データに対して主成分解析を行い、主成分プロットに基づいて(例えば、類似度Sに基づいて)、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データのいずれと類似するかを決定し、類似すると決定された第1の既知の状態または第2の既知の状態を、標的の状態として予測する。例えば、予め決定された予測パラメータセットについて、標的の脳から取得された波形データ、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データ、および第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データに対してクラスター分析を行い、標的の脳から取得された波形データが第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データと同じクラスターに分類されるか否かに基づいて、第1の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データまたは第2の既知の状態を有する対象の脳から取得された波形データのいずれと類似するかを決定し、類似すると決定された第1の既知の状態または第2の既知の状態を、標的の状態として予測する。
【0066】
上述した例では、コンピュータシステム100の各構成要素がコンピュータシステム100内に設けられているが、本発明はこれに限定されない。コンピュータシステム100の各構成要素のいずれかがコンピュータシステム100の外部に設けられることも可能である。例えば、プロセッサ120、メモリ130のそれぞれが別々のハードウェア部品で構成されている場合には、各ハードウェア部品が任意のネットワークを介して接続されてもよい。このとき、ネットワークの種類は問わない。各ハードウェア部品は、例えば、LANを介して接続されてもよいし、無線接続されてもよいし、有線接続されてもよい。コンピュータシステム100は、特定のハードウェア構成には限定されない。例えば、プロセッサ120をデジタル回路ではなくアナログ回路によって構成することも本発明の範囲内である。コンピュータシステム100の構成は、その機能を実現できる限りにおいて上述したものに限定されない。
【0067】
上述した例では、プロセッサ120の各構成要素が同一のプロセッサ120内に設けられているが、本発明はこれに限定されない。プロセッサ120の各構成要素が、複数のプロセッサ部に分散される構成も本発明の範囲内である。
【0068】
4.標的の状態を予測するためのコンピュータシステムによる処理
図4は、標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100における処理の一例を示す。図4に示される例では、脳から取得された波形データに対してバースト解析を行うための処理400を説明する。
【0069】
受信手段110が脳から取得された波形データを受信した後、ステップS401では、プロセッサ120のバースト解析手段121が、脳から取得された波形データを複数の周波数帯に分割する。バースト解析手段121は、例えば、公知の任意のフィルタリング処理により、波形データを複数の周波数帯に分割することができる。バースト解析手段121は、例えば、複数のバンドパスフィルタを用いて、波形データを複数の周波数帯に分割することができる。
【0070】
複数の周波数帯は、少なくとも5個の周波数帯を含む。少なくとも5個の周波数帯は、約5~約8Hzのθ波帯、約8~約14Hzのα波帯、約15~約30Hzのβ波帯、約30~約50Hzのγ波帯、および、約70~約150Hzのhigh-γ波帯、を含む。これらの周波数帯を含めるように分割することにより、これらの周波数帯のうちの少なくとも1つに現れ得る特定の状態(または疾患)特有の特徴をとらえることができるようになる。複数の周波数帯は、上述した少なくとも5個の周波数帯に加えて、約150~約200Hzの帯域を含めるようにしてもよい。
【0071】
図5は、複数の周波数帯に分割された脳波データの一例を示す。図5では、ビヒクルを投与した場合の対象の脳から取得された波形データ(図5の上側)および4-アミノピリジン(4-AP)6mg/kgを投与した場合の対象の脳から取得された波形データ(図5の下側)を6つの周波数帯に分割したときの分割された波形データを示す。6つの周波数帯は、約5~約8Hzのθ波帯、約8~約14Hzのα波帯、約15~約30Hzのβ波帯、約30~約50Hzのγ波帯、約70~約150Hzのhigh-γ波帯、および、約150~約200Hzの帯域である。波形データは、これらの周波数帯域に対応したバンドパスフィルタを用いて分割されている。
【0072】
図4を再び参照して、ステップS402では、バースト解析手段121が、ステップS401で分割された複数の周波数帯の各周波数帯の波形データ中のスパイクを検出することにより、各周波数帯のスパイクデータを取得する。例えば、バースト解析手段121は、複数の周波数帯の各周波数帯の波形データから、波形データの振幅(または振幅の偏差)が所定の閾値を超える時刻およびスパイク取得幅経過後の時刻を検出することによって、スパイクを検出し、信号取得時間内に検出された複数のスパイクに基づいてスパイクデータを取得することができる。ここで、スパイク取得幅は、一定であってもよいし、変動するようにしてもよい。スパイク取得幅は、例えば、複数の周波数帯のそれぞれに対して変動するようにすることが好ましい。波形データ中のスパイクのスパイク幅(またはスパイク持続時間)が周波数帯に応じて異なるため、スパイク取得幅を適切に設定することにより、スパイクの誤検出を低減または防止することができるからである。スパイク取得幅は、例えば、各周波数帯の代表周波数の逆数であり得る。
【0073】
ステップS403では、バースト解析手段121が、複数の周波数帯の各周波数帯について、ステップS402で取得されたスパイクデータ中のバーストを検出する。検出手段は、例えば、図3A図3Dを参照して上述した手法によって、スパイクデータ中のバーストを検出することができる。
【0074】
ステップS404では、バースト解析手段121が、複数の周波数帯の各周波数帯について、ステップS403で検出されたバーストに基づいて、バーストパラメータに対するデータを導出する。バーストパラメータは、例えば、
(1)発火頻度(Spike rate)、
(2)バースト頻度(Burst rate)、
(3)バースト間隔(IBI)、
(4)バースト期間(Duration)、
(5)バースト内スパイク数(Spikes in burst)、
(6)バースト内最大振幅(Peak amplitude)、
(7)最大振幅間隔(IPI)、
(8)バースト間隔のCV値(CV of IBI)(変動係数(CV)=標準偏差/平均値)、
(9)バースト期間のCV値(CV of Duration)、
(10)バースト内スパイク数のCV値(CV of Spikes in burst)、
(11)バースト内最大振幅のCV値(CV of Peak amplitude)、(12)最大振幅間隔のCV値(CV of IPI)
のうちの少なくとも1つを含む。
【0075】
導出された各周波数帯のバーストパラメータに対するデータは、対象の状態を予測するために、後述する処理600等において利用されることができる。
【0076】
図6は、標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100における処理の一例を示す。図6に示される例では、標的の状態を予測するための処理600を説明する。
【0077】
ステップS601では、コンピュータシステム100が受信手段110を介して、第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データを受信する。受信された第1の波形データは、プロセッサ120に渡される。
【0078】
ステップS602では、コンピュータシステム100が受信手段110を介して、第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを受信する。受信された第2の波形データは、プロセッサ120に渡される。
【0079】
第2の状態は第1の状態とは異なる状態である。例えば、第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、第2の状態は、所定の症状を有していない状態であり得る。例えば、第1の状態は、所定の症状を有している状態であり、第2の状態は、所定の症状の前兆を有している状態であり得る。例えば、第1の状態は、所定の症状を有していない状態であり、第2の状態は、所定の症状の前兆を有している状態であり得る。
【0080】
所定の症状は、例えば、神経疾患であり得る。神経疾患は、例えば、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病等を含むが、これらに限定されない。
【0081】
ステップS603では、プロセッサ120が、上述した処理400を行うことにより、第1の波形データおよび第2の波形データのそれぞれについてバーストパラメータに対するデータを取得し、これらのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、予測パラメータセットを特定する。例えば、プロセッサ120のバースト解析手段121が、第1の波形データおよび第2の波形データのそれぞれについてバーストパラメータに対するデータを取得し、プロセッサ120の多変量解析手段122が、バーストパラメータのデータの組み合わせに対して多変量解析を行い、プロセッサ120の予測パラメータ特定手段123が、多変量解析の結果に基づいて予測パラメータセットを特定する。
【0082】
予測パラメータセットが特定され、コンピュータシステム100が受信手段110を介して、標的の脳から取得された標的波形データを受信すると、ステップS604では、プロセッサ120が、標的波形データから、ステップS603で特定された予測パラメータセットに基づいて標的の状態を予測する。例えば、プロセッサ120の予測手段124が標的の状態を予測する。
【0083】
図7は、ステップS604でプロセッサ120が標的の状態を予測する処理の一例を示す。
【0084】
ステップS701では、プロセッサ120の予測手段124が、ステップS703で特定された予測パラメータセットについて標的の脳から取得された標的波形データの多変量解析を行う。これにより、標的波形データが、第1の波形データおよび第2の波形データに対して既に行われた予測パラメータセットについての多変量解析の結果と比較できるようになる。多変量解析は、例えば、主成分解析である。例えば、予測手段124は、主成分解析により、標的波形データの主成分得点を算出する。多変量解析は、例えば、クラスター分析である。例えば、予測手段124は、クラスター分析により、標的波形データをクラスターに分類する。
【0085】
ステップS701で行われる多変量解析は、ステップS603で行われた多変量解析と同じ手法であってもよいし、異なる手法であってもよい。例えば、ステップS603で主成分解析を行うことにより、予測パラメータセットを特定した場合、ステップS701では、同じく主成分解析を行ってもよいし、異なる多変量解析(例えば、クラスター分析)を行ってもよい。例えば、ステップS603でクラスター分析を行うことにより、予測パラメータセットを特定した場合、ステップS701では、同じくクラスター分析を行ってもよいし、異なる多変量解析(例えば、主成分解析)を行ってもよい。
【0086】
ステップS602では、プロセッサ120の予測手段124が、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定する。
【0087】
予測手段124は、例えば、ステップS701で算出された主成分得点に基づいて、類似するか否かを決定することができる。例えば、主成分得点に基づいて作成された主成分プロットに基づいて標的波形データと第1の波形データとの類似度および波形データと第2の波形データとの類似度を算出することができる。
【0088】
例えば、予測パラメータセットについて、第1の波形データの第1主成分得点および第2主成分得点をプロットし、第2の波形データの第1主成分得点および第2主成分得点をプロットし、標的波形データの第1主成分得点および第2主成分得点をプロットした後、標的波形データのプロットと第1の波形データのプロットとのユークリッド距離と、標的波形データのプロットと第2の波形データのプロットとのユークリッド距離とを比較することにより、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。例えば、標的波形データのプロットと第1の波形データのプロットとのコサイン類似度と、標的波形データのプロットと第2の波形データのプロットとのコサイン類似度とを比較することにより、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。例えば、標的波形データのプロットと第1の波形データのプロットとのユークリッド距離およびコサイン類似度と、標的波形データのプロットと第2の波形データのプロットとのユークリッド距離およびコサイン類似度とを比較することにより、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。なお、複数の第1の波形データまたは複数の第2の波形データによって複数の点がプロットされる場合には、全プロットの平均値を算出し、その点を代表点として標的波形データとのユークリッド距離またはコサイン類似度を求めるようにしてもよい。
【0089】
好ましくは、主成分プロットのユークリッド距離およびコサイン類似度の組み合わせによって類似度を決定する。例えば、図8に示されるように、標的(標的波形データ)のプロットと第1の状態を有する対象(第1の波形データ)のプロットとの間のユークリッド距離dと、標的(標的波形データ)のプロットと第2の状態を有する対象(第2の波形データ)のプロットとの間のユークリッド距離dとが等しい場合でも、コサイン類似度によって類似度を判別可能だからである。主成分プロットのユークリッド距離およびコサイン類似度の組み合わせを用いる場合、類似度Sは、
【数1】
で表される。
【0090】
予測手段124は、例えば、ステップS801で標的波形データがどのクラスターに分類されたかに基づいて、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。
【0091】
ステップS702で標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データに類似すると決定された場合、ステップS703に進み、第1の状態を標的の状態として特定する。例えば、第1の状態が「神経疾患の症状を有している状態」である場合には、標的の状態が「神経疾患の症状を有している状態」と特定される。例えば、第1の状態が「痙攣の症状を有している状態」である場合には、標的の状態が「痙攣の症状を有している状態」と特定される。
【0092】
ステップS702で標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データに類似しない、すなわち、標的波形データが第1の波形データよりも第2の波形データに類似していると決定された場合、ステップS704に進み、第2の状態を標的の状態として特定する。例えば、第2の状態が「神経疾患の症状を有していない状態」である場合には、標的の状態が「神経疾患の症状を有していない状態」と特定される。例えば、第2の状態が「痙攣の症状を有していない状態」である場合には、標的の状態が「痙攣の症状を有していない状態」と特定される。
【0093】
上述した例では、第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データおよび第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを用いて処理600を行ったが、これに加えて、第3の状態を有する対象の脳から取得された第3の波形データ、第4の状態を有する対象の脳から取得された第4の波形データ、・・・第nの状態を有する対象の脳から取得された第nの波形データ(ここで、nは3以上の整数)を用いて処理600を行うようにしてもよい。このとき、ステップS702では、標的波形データと、第1の波形データ、第2の波形データ、・・・第nの波形データそれぞれとの類似度を比較することになる。
【0094】
ステップS703またはステップS704で標的の状態が特定された後、第2の予測パラメータセットを用いてステップS604を繰り返すようにしてもよい。このとき、第2の予測パラメータセットは、例えば、第3の状態を有する対象の脳から取得された波形データおよび第4の状態を有する対象の脳から取得された波形データを用いてステップS601~ステップS603の処理を行うことによって特定された予測パラメータセットであってもよい。あるいは、第2の予測パラメータセットは、ステップS703で第1の状態を標的の状態として特定した場合には、第1の状態を有する対象の脳から取得された波形データおよび第3の状態を有する対象の脳から取得された波形データを用いてステップS601~ステップS603の処理を行うことによって特定された予測パラメータセットであってもよいし、ステップS704で第2の状態を標的の状態として特定した場合には、第2の状態を有する対象の脳から取得された波形データおよび第3の状態を有する対象の脳から取得された波形データを用いてステップS601~ステップS603の処理を行うことによって特定された予測パラメータセットであってもよい。これにより、第2の予測パラメータセットがステップS703またはステップS704で特定された状態に対応するようになる。これは、状態を段階的に特定できるようになるという点で好ましくあり得る。
【0095】
例えば、ステップS703またはステップS704で標的の状態が「神経疾患を有している状態」と特定された場合、「ADHD」の症状を有している対象の脳から取得された脳波データと「統合失調症」の症状を有している対象の脳から取得された波形データを用いてステップS601~ステップS603の処理を行うことによって特定された第2の予測パラメータセットを用いてステップS604を繰り返すことができる。これにより、「神経疾患を有している状態」が、「ADHD」の症状を有しているのか、「統合失調症」の症状を有しているのかという具体的な状態まで特定できる。これは、標的の診断のために、または標的の診断のための指標として利用されることができる。
【0096】
図9は、標的の状態を予測するためのコンピュータシステム100における処理の一例を示す。図9に示される例では、予測パラメータセットが予め決定されている場合の、標的の状態を予測するための処理900を説明する。予め決定されている予測パラメータセットは、上述したバーストパラメータのうちの少なくとも1つを含む。
【0097】
ステップS901では、コンピュータシステム100が受信手段110を介して、第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データ、第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データ、標的の脳から取得された標的波形データを受信する。受信された波形データは、プロセッサ120に渡される。
【0098】
ステップS902では、プロセッサ120のバースト解析手段121が、それぞれの波形データから、予測パラメータセットに含まれるバーストパラメータに対するデータを導出し、プロセッサ120の予測手段124が、それぞれのデータに対して多変量解析を行う。バースト解析手段121は、処理400によって、バーストパラメータに対するデータを導出することができる。多変量解析は、例えば、主成分解析である。例えば、予測手段124は、主成分解析により、第1の波形データの主成分得点、第2の波形データの主成分得点、および、標的波形データの主成分得点を算出する。多変量解析は、例えば、クラスター分析である。例えば、予測手段124は、クラスター分析により、標的波形データをクラスターに分類する。
【0099】
ステップS903では、プロセッサ120の予測手段124が、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定する。予測手段124は、例えば、ステップS902で算出された主成分得点に基づいて、類似するか否かを決定することができる。例えば、主成分得点に基づいて作成された主成分プロットに基づいて標的波形データと第1の波形データとの類似度および標的波形データと第2の波形データとの類似度を算出することができる。
【0100】
例えば、予測パラメータセットについて、第1の波形データの第1主成分得点および第2主成分得点をプロットし、第2の波形データの第1主成分得点および第2主成分得点をプロットし、標的波形データの第1主成分得点および第2主成分得点をプロットした後、標的波形データのプロットと第1の波形データのプロットとのユークリッド距離と、標的波形データのプロットと第2の波形データのプロットとのユークリッド距離とを比較することにより、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。例えば、標的波形データのプロットと第1の波形データのプロットとのコサイン類似度と、標的波形データのプロットと第2の波形データのプロットとのコサイン類似度とを比較することにより、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。例えば、標的波形データのプロットと第1の波形データのプロットとのユークリッド距離およびコサイン類似度と、標的波形データのプロットと第2の波形データのプロットとのユークリッド距離およびコサイン類似度とを比較することにより、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。なお、複数の第1の波形データまたは複数の第2の波形データによって複数の点がプロットされる場合には、全プロットの平均値を算出し、その点を代表点として標的波形データとのユークリッド距離またはコサイン類似度を求めるようにしてもよい。
【0101】
予測手段124は、例えば、ステップS902で標的波形データがどのクラスターに分類されたかに基づいて、標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データと類似するか否かを決定することができる。
【0102】
ステップS903で標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データに類似すると決定された場合、ステップS904に進み、第1の状態を標的の状態として特定する。第1の状態を標的の状態として特定する。例えば、第1の状態が「神経疾患の症状を有している状態」である場合には、標的の状態が「神経疾患の症状を有している状態」と特定される。例えば、第1の状態が「痙攣の症状を有している状態」である場合には、標的の状態が「痙攣の症状を有している状態」と特定される。
【0103】
ステップS903で標的波形データが第2の波形データよりも第1の波形データに類似しない、すなわち、標的波形データが第1の波形データよりも第2の波形データに類似していると決定された場合、ステップS905に進み、第2の状態を標的の状態として特定する。例えば、第2の状態が「神経疾患の症状を有していない状態」である場合には、標的の状態が「神経疾患の症状を有していない状態」と特定される。例えば、第2の状態が「痙攣の症状を有していない状態」である場合には、標的の状態が「痙攣の症状を有していない状態」と特定される。
【0104】
上述した例では、第1の状態を有する対象の脳から取得された第1の波形データおよび第2の状態を有する対象の脳から取得された第2の波形データを用いて処理900を行ったが、これに加えて、第3の状態を有する対象の脳から取得された第3の波形データ、第4の状態を有する対象の脳から取得された第4の波形データ、・・・第nの状態を有する対象の脳から取得された第nの波形データ(ここで、nは3以上の整数)を用いて処理900を行うようにしてもよい。このとき、ステップS903では、第1の波形データと、第2の波形データと、・・・第nの波形データとの類似度を比較することになる。
【0105】
上述した例では、特定の順序で処理が行われることを説明したが、各処理の順序は説明されたものに限定されず、論理的に可能な任意の順序で行われることに留意されたい。
【0106】
図4図6図7図9を参照して上述した例では、図4図6図7図9に示される各ステップの処理は、プロセッサ120およびメモリ130に格納されたプログラムによって実現することが説明されたが、本発明はこれに限定されない。図4図6図7図9に示される各ステップの処理のうちの少なくとも1つは、制御回路などのハードウェア構成によって実現されてもよい。
【0107】
上述した例では、コンピュータシステム100を用いて標的の状態を予測することを説明したが、本発明はこれに限定されない。コンピュータシステム100を用いることなく、人が手計算で標的の状態を予測することも本発明の範囲である。この場合、例えば、処理600および処理900は、データを受信するステップ(ステップS601、ステップS602、ステップS901)の代わりに、対象からデータを得るステップを含み得る。得られたデータをもとに、後続ステップを手計算で行うことができる。
【実施例
【0108】
(実施例1)
痙攣陽性薬剤4-アミノピリジン(4-AP)を検体に投与した際の皮質前頭葉の脳波を取得した。検体としてラットを用いた。n=5の検体にビヒクルを投与し、n=3の検体に3mg/kgの4-APを投与し、n=3の検体に6mg/kgの4-APを投与した。ビヒクルを投与した検体には、痙攣発作は見られなかった。3mg/kgの4-APを投与した検体には、痙攣発作は見られなかった。6mg/kgの4-APを投与した検体には、痙攣発作が見られた。
【0109】
取得された脳波を本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、high-γ波帯について、周波数帯域のバーストパラメータに対するデータを導出した。
【0110】
図10Aは、この結果を示す。ビヒクルを投与した検体の脳波から導出されたデータはvehicle_ipとラベルされ、3mg/kgの4-APを投与した検体の脳波から導出されたデータは、4AP-1とラベルされ、6mg/kgの4-APを投与した検体の脳波から導出されたデータは、4AP-2とラベルされている。
【0111】
この結果から、痙攣発作が見られなかった4AP-1では、Spike rate、Burst rate、IBI等のパラメータにおいて、同じく痙攣発作が見られなかったvehicle_ipと分離可能に区別されていることから、これらのパラメータの変化を捉えることで、痙攣前兆の指標とすることができることが分かる。すなわち、これらのパラメータは、high-γ波帯の周波数帯域において、痙攣前兆の状態にあるか否かを予測するための予測パラメータセットとなり得ることが示唆されている。これらのパラメータセットを予測に利用することで、前兆状態を早期に発見して、これを診断および早期治療、予防に役立てることができると考えられる。
【0112】
(実施例2)
痙攣陽性薬剤4-アミノピリジン(4-AP)を検体に投与した際の海馬の脳波を取得した。検体としてラットを用いた。n=5の検体にビヒクルを投与し、n=5の検体に3mg/kgの4-APを投与し、n=5の検体に6mg/kgの4-APを投与した。ビヒクルを投与した検体には、痙攣発作は見られなかった。3mg/kgの4-APを投与した検体には、痙攣発作は見られなかった。6mg/kgの4-APを投与した検体には、痙攣発作が見られた。
【0113】
取得された脳波を本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、high-γ波帯について、周波数帯域のバーストパラメータに対するデータを導出した。
【0114】
図10Bは、この結果を示す。ビヒクルを投与した検体の脳波から導出されたデータはvehicle_ipとラベルされ、3mg/kgの4-APを投与した検体の脳波から導出されたデータは、4AP-1とラベルされ、6mg/kgの4-APを投与した検体の脳波から導出されたデータは、4AP-2とラベルされている。
【0115】
この結果から、痙攣発作が見られなかった4AP-1では、Spike rate、Burst rate、IBI等のパラメータにおいて、同じく痙攣発作が見られなかったvehicle_ipと分離可能に区別されていることから、これらのパラメータの変化を捉えることで、痙攣前兆の指標とすることができることが分かる。すなわち、これらのパラメータは、high-γ波帯の周波数帯域において、痙攣前兆の状態にあるか否かを予測するための予測パラメータセットとなり得ることが示唆されている。これらのパラメータセットを予測に利用することで、前兆状態を早期に発見して、これを診断および早期治療、予防に役立てることができると考えられる。
【0116】
(実施例3)
痙攣陽性薬剤Isoniazidを検体に投与した際の皮質前頭葉の脳波を取得した。検体としてラットを用いた。n=5の検体にビヒクルを投与し、n=4の検体に150mg/kgのIsoniazidを投与し、n=5の検体に300mg/kgのIsoniazidを投与した。ビヒクルを投与した検体には、痙攣発作は見られなかった。150mg/kgのIsoniazidを投与した検体には、痙攣発作は見られなかった。300mg/kgのIsoniazidを投与した検体には、痙攣発作が見られた。
【0117】
取得された脳波を本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、high-γ波帯について、周波数帯域のバーストパラメータに対するデータを導出した。
【0118】
図10Cは、この結果を示す。ビヒクルを投与した検体の脳波から導出されたデータはvehicle_ipとラベルされ、150mg/kgのIsoniazidを投与した検体の脳波から導出されたデータは、Iso-1とラベルされ、300mg/kgのIsoniazidを投与した検体の脳波から導出されたデータは、Iso-2とラベルされている。
【0119】
この結果から、痙攣発作が見られなかったIso-1では、Spike rate、Burst rate、IBI等のパラメータにおいて、同じく痙攣発作が見られなかったvehicle_ipと分離可能に区別されていることから、これらのパラメータの変化を捉えることで、痙攣前兆の指標とすることができることが分かる。すなわち、これらのパラメータは、high-γ波帯の周波数帯域において、痙攣前兆の状態にあるか否かを予測するための予測パラメータセットとなり得ることが示唆されている。これらのパラメータセットを予測に利用することで、前兆状態を早期に発見して、これを診断および早期治療、予防に役立てることができると考えられる。
【0120】
(実施例4)
10種類の痙攣陽性化合物(4-AP、Isoniazid、Philocarpine、PTZ、Strychnine、Aminophylline、Picrotoxin、Tramadol、Bupropion、Venlafaxine)、3種類の痙攣陰性化合物(Acetaminophen、Amoxicillin、Aspirin)、およびビヒクルを検体に投与した際の皮質前頭葉の脳波を取得した。検体としてラットを用いた。化合物投与後、3時間の脳波を取得した。各化合物は、以下の用量で投与した。
・4-AP (3 mg/kg, ip)
・Isoniazid (150 mg/kg, ip)
・Pilocarpine (150 mg/kg, ip)
・PTZ (30 mg/kg, sc)
・Strychnine (1 mg/kg, sc)
・Aminophyline (100 mg/kg, ip)
・Picrotoxin (5 mg/kg, ip)
・Tramadol (50 mg/kg, ip)
・Bupropion (200 mg/kg, sc)
・Venlafaxine (400 mg/kg, po)
・Acetaminophen (1000, 3000 mg/kg, po)
・Amoxicillin (4000 mg/kg, po)
・Aspirin (3000 mg/kg, po)
痙攣陽性化合物については、潜在的な痙攣リスクを検出することができるかを検討するために、投与しても痙攣に至らない用量で実験を行った。
【0121】
取得された脳波を本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、γ波帯およびhigh-γ波帯について、周波数帯域のバーストパラメータに対するデータを導出した。
【0122】
図10Dは、この結果を示す。各パラメータの値を、ビヒクルを投与したときの値で正規化している。すなわち、各パラメータの値は、ビヒクルを投与したときの値を100%とする割合で示されている。図10Dでは、黒色に向かって濃くなるほどビヒクルを投与したときの値に比べて多いことを示し、白色に向かって薄くなるほどビヒクルを投与したときの値に比べて少ないことを示し、中間の灰色がビヒクルを投与したときの値と同程度であったことを示している。
【0123】
例えば、γ波帯におけるSpike rate、Burst rate等の単一のパラメータに着目すると、一部の痙攣陽性化合物(例えば、4-AP、Strychnine等)と一部の陰痙攣陰性化合物(Amoxicillin)とを分離可能に区別することができたが、他の痙攣陰性化合物とは区別できなかった。化合物の種類によって、バーストパラメータの変化傾向が異なっており、単一のパラメータに着目しただけでは、潜在的な痙攣リスクの検出が難しいことが示唆されている。
【0124】
これに対し、複数のバーストパラメータの組み合わせに着目することで、痙攣陽性化合物と痙攣陰性化合物とを分離可能に区別することができる。例えば、γ波帯におけるSpike rateとバースト間隔のCV値(CV of IBI)とを含むパラメータセットに着目すると、痙攣陽性化合物(4-AP)と全部の陰痙攣陰性化合物とを分離可能に区別することができる。すなわち、γ波帯におけるSpike rateとバースト間隔のCV値(CV of IBI)とが、4-APの痙攣毒性であるか、痙攣陰性であるかを予測するための予測パラメータセットとなり得ることが示唆されている。これらの結果から、その他の予測パラメータセットも導出可能であり得る。
【0125】
(実施例5:従来法との比較)
脳波解析において従来行われているFFTスペクトル強度を痙攣前兆および痙攣発作を検出するために利用する従来法と、本発明のバースト解析を用いて標的の状態を予測する方法とを比較した。
【0126】
ビヒクルおよび3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)を検体に投与した際の脳波を取得した。ここでは、検体としてラットを用いた。痙攣前兆状態を誘発するために、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ3mg/kg、150mg/kg、150mg/kg投与した。痙攣発作状態を誘発するために、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ6mg/kg、300mg/kg、400mg/kg投与した。薬剤投与前後の一般状態観察記録から、(1)投与前、(2)投与直後(薬剤の効果が表れる前)、(3)痙攣前兆状態、(4)痙攣発作状態に脳波データを分類した。
【0127】
従来法では、分類した脳波データのそれぞれに対して、FFT(高速フーリエ変換)を行い、周波数スペクトルを算出した。算出された周波数スペクトルのうち、4~200Hz帯の周波数スペクトルについて、スペクトル強度の合計値を算出した。薬剤投与前のデータから得られた周波数スペクトルのスペクトル強度の合計値を100%として、各スペクトル強度の合計値を正規化した。
【0128】
本発明のバースト解析を用いて標的の状態を予測する方法では、取得された脳波のそれぞれを本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、γ波帯(30~50Hz)について、周波数帯域のバーストパラメータに対するデータを導出した。具体的には、取得された脳波を複数の周波数帯に分割し、γ波帯(30~50Hz)について、波形データ中のスパイクを検出することによりスパイクデータを取得した。次いで、スパイクデータ中のバーストを検出し、検出されたバーストに基づいて、バーストパラメータに対するデータを導出した。本実施例では、複数のバーストパラメータのうち、バースト間隔(IBI)、最大振幅間隔(IPI)、バースト内スパイク数(Spikes in burst)に対するデータを導出した。
【0129】
導出されたデータを利用して、ビヒクル投与時、痙攣前兆状態、痙攣発作状態でのバーストパラメータに対するデータを比較することで、痙攣前兆状態および痙攣発作状態の検出を試みた(実験1)。
【0130】
さらに、ビヒクル投与直後のデータおよびビヒクル投与後60分のデータから導出されたバーストパラメータに対するデータを比較することで、ビヒクル投与によるバーストパラメータへの影響を調査した(実験2)。
【0131】
図11は、従来法による結果を示す図である。
【0132】
図11(a)は、ビヒクルの投与直後および投与後60分の結果、ならびに、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ3mg/kg、150mg/kg、150mg/kg投与したときの投与直後および痙攣前兆時の結果を示し、図11(b)は、ビヒクルの投与直後および投与後60分の結果、ならびに、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ6mg/kg、300mg/kg、400mg/kg投与したときの投与直後および痙攣発作時の結果を示す。図11(c)は、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ3mg/kg、150mg/kg、150mg/kg投与したときの痙攣前兆時の結果を示し、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ6mg/kg、300mg/kg、400mg/kg投与したときの痙攣発作時の結果を示す。各図において、縦軸が投与前のスペクトル強度で正規化されたスペクトル強度を示し、横軸がラベルを示している。図11(a)および図11(b)では、投与直後の結果と投与後60分の結果との間、および、投与直後の結果と痙攣前兆時の結果との間に有意差があったか否かが示されている。「*」は有意差があったことを示し、「N.S.」は有意差がなかったことを示している。図11(c)および図11(d)では、痙攣前兆時の結果とビヒクル投与直後の結果との間に有意差があったか否かが示されている。「*」は有意差があったことを示し、「N.S.」は有意差がなかったことを示している。
【0133】
図11(c)および図11(d)から見て取れるように、痙攣前兆時および痙攣発作時の両方において、ビヒクル投与直後の結果と有意差が認められない薬剤が存在した。有意差が認められない薬剤では、ビヒクル投与時と痙攣前兆時および痙攣発作時とを区別できなかった。従来法は、広範な薬剤に対して痙攣前兆状態および痙攣発作状態を検出するためには、不適であることが分かる。
【0134】
図11(a)および図11(b)から見て取れるように、ビヒクル投与直後の結果と、ビヒクル投与後60分の結果との間に有意差が認められている。従来法は、安定した評価系とはなっていないことが分かる。
【0135】
図12Aおよび図12Bは、本発明のバースト解析を用いて標的の状態を予測する方法による結果を示す。
【0136】
図12Aは、実験1についての結果を示す。図12A(a)は、4-APを投与した際のIBIをビヒクルを投与した際のIBIと比較したグラフであり、ビヒクルを投与した際のIBIを100%として正規化されている。縦軸がIBIを示し、横軸がラベルを示している。図12A(b)は、Isoniazidを投与した際のIPIをビヒクルを投与した際のIPIと比較したグラフであり、ビヒクルを投与した際のIPIを100%として正規化されている。縦軸がIPIを示し、横軸がラベルを示している。図12A(c)は、Pilocarpineを投与した際のバースト内スパイク数(Spikes in burst)をビヒクルを投与した際のバースト内スパイク数と比較したグラフであり、ビヒクルを投与した際のバースト内スパイク数を100%として正規化されている。縦軸がバースト内スパイク数を示し、横軸がラベルを示している。図12Aでは、痙攣前兆時の結果および痙攣発作時の結果とビヒクル投与時の結果との間に有意差があったことが示されている。「*」はp<0.05で有意差があったことを示し、「**」はp<0.01で有意差があったことを示している。
【0137】
図12Aから見て取れるように、4-AP、Isoniazid、Pilocarpineのそれぞれについて、ビヒクル投与時の結果と、痙攣前兆時の結果および痙攣発作時の結果との間に有意差が認められたことから、バースト解析によって得られたバーストパラメータによれば、3つの痙攣陽性薬剤のそれぞれにおいて、痙攣前兆状態および痙攣発作状態の検出が可能であった。すなわち、本発明のバースト解析を用いて標的の状態を予測する方法は、広範な薬剤に対して痙攣前兆状態および痙攣発作状態を検出することができる点で、従来法よりも有利であると言える。
【0138】
また、従来法ではパラメータがスペクトル強度のみであるのに対して、バースト解析では例えば12種類以上のバーストパラメータを例えば5種類以上の周波数帯について算出することが可能であることから、痙攣前兆状態および痙攣発作状態の検出感度が優れていると言える。さらに、本発明のバースト解析を用いて標的の状態を予測する方法では、多量のパラメータを用いた広範な対象化合物の作用機序推定、および、同一パラメータを用いた培養神経細胞との比較も可能である。これらの点においても、従来法よりも有利であると言える。
【0139】
図12Bは、実験2についての結果を示す。図12B(a)は、ビヒクル投与直後のデータから導出されたIBIとビヒクル投与後60分のデータから導出されたIBIとを比較したグラフである。縦軸がIPIを示し、横軸がラベルを示している。図12B(b)は、ビヒクル投与直後のデータから導出されたIPIとビヒクル投与後60分のデータから導出されたIPIとを比較したグラフである。縦軸がIPIを示し、横軸がラベルを示している。図12B(c)は、ビヒクル投与直後のデータから導出されたバースト内スパイク数とビヒクル投与後60分のデータから導出されたバースト内スパイク数とを比較したグラフである。縦軸がバースト内スパイク数を示し、横軸がラベルを示している。図12B(a)~図12B(c)では、ビヒクル投与直後の結果とビヒクル投与後60分の結果との間に有意差があったか否かが示されており、「N.S.」は有意差がなかったことを示している。図12B(a)~図12B(c)から見て取れるように、ビヒクル投与直後の結果と、ビヒクル投与後60分の結果との間に有意差は認められなかった。本発明のバースト解析を用いて標的の状態を予測する方法は、安定した評価系となっており、この点でも、従来法よりも有利であると言える。
【0140】
(実施例6)
5種類の痙攣陽性化合物(4-AP、Isoniazid、Philocarpine、PTZ、Strychnine)および3種類の痙攣陰性化合物(Acetaminophen、Amoxicillin、Aspirin)を検体に投与した際の皮質前頭葉の脳波を取得した。検体としてラットを用いた。化合物投与後、3時間の脳波を取得した。各化合物は、以下の用量で投与した。
・4-AP (3 mg/kg, ip)
・Isoniazid (150 mg/kg, ip)
・Pilocarpine (150 mg/kg, ip)
・PTZ (30 mg/kg, sc)
・Strychnine (1 mg/kg, sc)
・Acetaminophen (1000mg/kg, 3000 mg/kg, po)
・Amoxicillin (4000 mg/kg, po)
・Aspirin (3000 mg/kg, po)
痙攣陽性化合物については、潜在的な痙攣リスクを検出することができるかを検討するために、投与しても痙攣に至らない用量で実験を行った。上記のとおり、Acetaminophenは、2通りの用量で実験を行った。
【0141】
取得された脳波を本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、γ波帯の3つのバーストパラメータ(バースト期間(Duration)、バースト内最大振幅のCV値(CV of Peak amplitude)、最大振幅間隔のCV値(CV of IPI))およびhigh-γ波帯の2つのバーストパラメータ(発火頻度(Spike rate)、バースト頻度(Burst rate))の計5個のバーストパラメータに対するデータを導出した。導出されたデータを用いて、主成分分析を行った。
【0142】
主成分分析を行うことで、第1主成分(PC1)および第2主成分(PC2)の負荷量(Loading)が以下のとおり、得られた。
【表1】
【0143】
図13Aは、主成分分析で得られた負荷量に基づいて、第1主成分軸および第2主成分軸を有する2次元平面に各化合物のデータをプロットした結果を示す。
【0144】
図13Aに示されるように、5種類の痙攣陽性化合物は、第3象限および第4象限に分布した一方で、3種類の痙攣陰性化合物は、第1象限および第2象限に分布した。特に、3つの痙攣陰性化合物は、その平均値周りに1標準偏差分の範囲(SD範囲)および2標準偏差分の範囲(2SD範囲)を取ると、すべての痙攣陰性化合物が2SD範囲内に含まれた。このように、5つのバーストパラメータを用いた主成分分析を行うことで、痙攣陽性化合物と痙攣陰性化合物とを分離することができた。さらに、この結果から、プロットしたデータが2SD範囲内に含まれるか否かを判定することで、痙攣陰性化合物であるか否かを推定することができる可能性が示唆された。すなわち、痙攣に至っていない脳波波形を解析した結果から導出される基準を用いて、痙攣陽性化合物を予測することができる可能性が示唆された。
【0145】
この示唆を実証するために、追加の実験を行った。5種類の追加の化合物(Aminophyline、Picrotoxin、Tramadol、Venlafaxine、Bupropion)をラットに投与した。各化合物は、以下の用量で投与した。
・Aminophyline (100 mg/kg, ip)
・Picrotoxin (5 mg/kg, ip)
・Tramadol (50 mg/kg, ip)
・Venlafaxine (400 mg/kg, po)
・Bupropion (200 mg/kg, sc)
潜在的な痙攣リスクを検出することができるかを検討するために、投与しても痙攣に至らない用量で実験を行った。
【0146】
取得された脳波を本発明のコンピュータシステム100を用いて解析し、得られたバーストパラメータのデータのそれぞれを主成分解析して同一の平面状にプロットした。
【0147】
図13Bは、追加の実験の結果を示す。5種類の追加の化合物のうち4種類の化合物が、2SD範囲の外にプロットされた。この結果から、4種類の追加の化合物が痙攣陽性として判定された。実際には、これらの5種類の痙攣化合物は、すべて痙攣陽性化合物として知られており、4種類の化合物については、痙攣リスクを正しく判定することができたといえる。はじめの5種類の痙攣陽性化合物と追加の4種類の痙攣陽性化合物の計9種類の痙攣陽性化合物について、痙攣リスクを正しく判定することができた。
【0148】
この実験により、痙攣に至っていない脳波波形を解析した結果から導出される基準を用いて、概ね高い精度で、化合物を分離できたことが分かる。すなわち、痙攣発作に至らない脳波波形を用いて、潜在的な痙攣リスクを検出する新しい評価手法を確立できる可能性が示唆された。この手法は、被検体に与える負荷を少なくすることができる点で好ましいと考えられる。
【0149】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、標的の状態を予測することに利用可能なバースト解析を行う方法を提供し、また、バースト解析を用いて標的の状態を予測する方法等を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0151】
100 コンピュータシステム
110 受信手段
120 プロセッサ
130 メモリ
140 出力手段
200 データベース部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12A
図12B
図13A
図13B