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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】リッパシャンクおよびリッパ装置
(51)【国際特許分類】
   E02F 5/32 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
E02F5/32 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018033448
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019148113
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(72)【発明者】
【氏名】永田 貴則
(72)【発明者】
【氏名】田中 大次郎
(72)【発明者】
【氏名】湯本 段
(72)【発明者】
【氏名】王生 翔平
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-119101(JP,U)
【文献】特開2017-206852(JP,A)
【文献】実開平07-017852(JP,U)
【文献】特開平10-252106(JP,A)
【文献】実開平04-138453(JP,U)
【文献】特開2004-092208(JP,A)
【文献】米国特許第05144762(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 5/00-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リッパシャンクと、
凹部を有し、前記凹部に前記リッパシャンクの挿入部が挿入されるリッパポイントと、を備え、
前記リッパシャンクは、
本体部と、
前記本体部から連続して連なり、作業機械の前記リッパポイントに形成された前記凹部に挿入される前記挿入部と、を備え、
前記挿入部は、
ベース部と、
前記挿入部の表面を含む領域に形成され、前記ベース部よりも硬度が高い高硬度部と、を含み、
前記挿入部の表面のうち前記挿入部の先端とは反対側の端部は、前記ベース部に含まれる、リッパ装置
【請求項2】
前記高硬度部は、前記挿入部の表面のうち前記リッパポイントに接触する領域を含む、請求項1に記載のリッパ装置
【請求項3】
前記高硬度部は、前記挿入部の表面のうち前記リッパシャンクの先端を含む、請求項1または請求項2に記載のリッパ装置
【請求項4】
前記高硬度部は、高周波焼入硬化部である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリッパ装置
【請求項5】
前記高硬度部の硬度は57HRC以上65HRC以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリッパ装置
【請求項6】
前記ベース部の硬度は40HRC以上52HRC以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリッパ装置
【請求項7】
前記高硬度部の厚みは3mm以上10mm以下である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリッパ装置
【請求項8】
前記高硬度部と前記ベース部との硬度差は5HRC以上25HRC以下である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリッパ装置
【請求項9】
前記高硬度部の硬度は、前記リッパポイントにおいて前記リッパシャンクに接触する領域の硬度よりも高い、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリッパ装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リッパシャンクおよびリッパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブルドーザなどの作業機械には、土砂や岩盤を掻き起こすリッパ装置が設置される場合がある。リッパ装置としては、胴部であるリッパシャンクと、凹部を有し、当該凹部にリッパシャンクの先端部が挿入されることによりリッパシャンクの先端部を覆うリッパポイントとを含む構造を有するものを挙げることができる(たとえは、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-71783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構造が採用された場合、リッパシャンクとリッパポイントとの間に土砂が侵入し、リッパシャンクが摩耗する。リッパシャンクの摩耗が進行すると、リッパシャンクとリッパポイントとの間にがたつきが生じ、これに起因してリッパシャンクに割れが発生する場合もある。
【0005】
これに対し、リッパシャンクの硬度を上昇させ、耐摩耗性を向上させる対策が考えられる。しかし、リッパシャンクの硬度を上昇させると、リッパシャンクの靱性が低下し、かえって割れが発生しやすくなる恐れがある。そこで、割れの発生を抑制することが可能なリッパシャンク、および当該リッパシャンクを備えるリッパ装置を提供することを本発明の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従ったリッパシャンクは、本体部と、本体部から連続して連なり、作業機械のリッパポイントに形成された凹部に挿入される挿入部と、を備える。挿入部は、ベース部と、挿入部の表面を含む領域に形成され、ベース部よりも硬度が高い高硬度部と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
上記リッパシャンクによれば、割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リッパシャンクおよびリッパポイントを含むリッパ装置の構造を示す概略図である。
図2】リッパシャンクとリッパポイントとの接続状態を示す概略斜視図である。
図3】実施の形態1におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。
図4】実施の形態1におけるリッパシャンクの第1の変形例の構造を示す概略断面図である。
図5】実施の形態1におけるリッパシャンクの第2の変形例の構造を示す概略断面図である。
図6】実施の形態1のリッパシャンクの製造方法の概略手順を示すフローチャートである。
図7】実施の形態2におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。
図8】実施の形態2のリッパシャンクの製造方法の概略手順を示すフローチャートである。
図9】実施の形態3におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。
図10】リッパシャンクの先端付近の構造を示す概略断面図である。
図11】実施の形態3のリッパシャンクの製造方法の概略手順を示すフローチャートである。
図12】肉盛部の形成方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本願のリッパシャンクは、本体部と、本体部から連続して連なり、作業機械のリッパポイントに形成された凹部に挿入される挿入部と、を備える。挿入部は、ベース部と、挿入部の表面を含む領域に形成され、ベース部よりも硬度が高い高硬度部と、を含む。
【0010】
本願のリッパシャンクにおいては、挿入部の表面を含む領域にベース部よりも硬度が高い高硬度部が形成されている。この高硬度部の存在により、リッパシャンクの摩耗が抑制される。その結果、リッパシャンクとリッパポイントとの間のがたつきに起因した割れの発生を抑制することができる。また、高硬度部よりも硬度が低いベース部が存在することにより、リッパシャンクの靱性の低下が抑制される。その結果、靱性の不足による割れの発生を低減することができる。このように、本願のリッパシャンクによれば、割れの発生を抑制することができる。
【0011】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部は、挿入部の表面のうちリッパポイントに接触する領域を含んでいてもよい。このようにすることにより、リッパシャンクとリッパポイントとの間のがたつきに起因した割れの発生をより確実に抑制することができる。
【0012】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部は、挿入部の表面のうちリッパシャンクの先端を含んでいてもよい。このようにすることにより、リッパシャンクとリッパポイントとの間のがたつきに起因した割れの発生をより確実に抑制することができる。この構成は、リッパシャンクが先端においてリッパポイントと接触する構造において特に好適である。
【0013】
上記リッパシャンクにおいて、挿入部の表面のうち上記先端とは反対側の端部はベース部に含まれていてもよい。挿入部の表面のうち先端とは反対側の端部、すなわちリッパポイントの凹部の入り口付近に位置する挿入部の表面には、リッパポイントからの曲げ応力が強く作用する。そのため、この領域が靱性の高いベース部に含まれることにより、リッパポイントからの曲げ応力による割れの発生のリスクを低減することができる。
【0014】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部は、高周波焼入硬化部であってもよい。ベース部との間の硬度勾配が大きい高周波焼入硬化部は、本願の高硬度領域として好適である。
【0015】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部の硬度は57HRC以上65HRC以下であってもよい。高硬度部の硬度を57HRC以上とすることにより、十分な耐摩耗性を確保することが容易となる。高硬度部の硬度を65HRC以下とすることにより、高硬度部の靱性が必要以上に低下することを回避することができる。
【0016】
上記リッパシャンクにおいて、ベース部の硬度は40HRC以上52HRC以下であってもよい。ベース部の硬度を40HRC以上とすることにより、ベース部の強度が必要以上に低下することを回避することができる。ベース部の硬度を52HRC以下とすることにより、ベース部に十分な靱性を付与することが容易となる。
【0017】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部の厚みは3mm以上10mm以下であってもよい。高硬度部の厚みを3mm以上とすることにより、十分な耐摩耗性を確保することが容易となる。高硬度部の厚みを10mm以下とすることにより、リッパシャンクに十分な靱性を付与することが容易となる。
【0018】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部とベース部との硬度差は5HRC以上25HRC以下であってもよい。このようにすることにより、耐摩耗性と靱性とを両立することが容易となる。
【0019】
上記リッパシャンクにおいて、高硬度部の硬度は、リッパポイントにおいてリッパシャンクに接触する領域の硬度よりも高いことが好ましい。このようにすることにより、リッパシャンクとリッパポイントとの間のがたつきに起因した割れの発生をより確実に抑制することができる。
【0020】
本願のリッパ装置は、上記本願のリッパシャンクと、凹部を有し、当該凹部にリッパシャンクの挿入部が挿入されるリッパポイントと、を備える。
【0021】
本願のリッパ装置は、割れの発生が抑制された上記本願のリッパシャンクを含む。そのため、本願のリッパ装置によれば、耐久性に優れたリッパ装置を提供することができる。
【0022】
[実施形態の具体例]
次に、本発明のリッパシャンクおよびリッパ装置の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0023】
(実施の形態1)
まず、図1図3を参照して、実施の形態1におけるリッパシャンクおよびリッパ装置について説明する。図1は、リッパシャンクおよびリッパポイントを含むリッパ装置の構造を示す概略図である。図2は、リッパシャンクおよびリッパポイントの分解斜視図である。図3は、実施の形態1におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。
【0024】
図1を参照して、本実施の形態のリッパ装置1は、たとえばブルドーザに装着されるリッパ装置である。リッパ装置1は、ブルドーザの車体の後方(ブレード(排土板)が設置される側とは反対側)に装着される。リッパ装置1は、アーム31と、リフトシリンダ32と、チルトシリンダ33と、リッパ支持部材34と、リッパシャンク10と、リッパポイント20とを含む。
【0025】
アーム31は、棒状の形状を有する。アーム31の一方の端部はブルドーザの車体に設置されたブラケット(図示しない)に接続されている。アーム31の他方の端部はリッパ支持部材34に接続されている。リッパ支持部材34は、アーム31の他方の端部に対して回動可能に接続されている。
【0026】
リフトシリンダ32およびチルトシリンダ33の一方の端部はブルドーザの車体に設置されたブラケット(図示しない)に接続されている。リフトシリンダ32およびチルトシリンダ33の他方の端部はリッパ支持部材34に接続されている。リフトシリンダ32およびチルトシリンダ33は、長手方向に伸縮可能な油圧シリンダである。リッパ支持部材34は、リフトシリンダ32およびチルトシリンダ33の他方の端部に対して回動可能に接続されている。リッパ支持部材34においてアーム31に接続される領域と、チルトシリンダ33に接続される領域との間に、リフトシリンダ32に接続される領域が位置する。
【0027】
図1および図2を参照して、リッパシャンク10は、たとえば鋼からなる。リッパシャンク10は、長手方向の一方の端部である先端15と、他方の端部である基端14とを含む。リッパシャンク10の先端を含む領域は、ブルドーザの車体に近づく側に屈曲している。リッパシャンク10の先端15と基端14との間の領域がリッパ支持部材34により支持されている。リッパシャンク10の先端15には、リッパポイント20が取り付けられている。リッパ支持部材34においてアーム31に接続される領域が、チルトシリンダ33に接続される領域およびリフトシリンダ32に接続される領域に比べてリッパポイント20に近い位置に配置される。
【0028】
リッパ装置1において、リフトシリンダ32の伸縮により、リッパシャンク10が昇降する。チルトシリンダ33の伸縮により、リッパシャンク10が傾斜する。リッパシャンク10を降下させた状態においてリッパシャンク10を傾斜させてリッパポイント20を地面Gに貫入させ、ブルドーザの車体を進行させることにより、土砂や岩盤が掻き起される。
【0029】
図1図3を参照して、リッパシャンク10には、貫通孔であるリッパシャンク貫通孔11が形成されている。リッパポイント20には、貫通孔であるリッパポイント貫通孔25が形成されている。リッパシャンク10にリッパポイント20が取り付けられた状態において、リッパポイント貫通孔25とリッパシャンク貫通孔11とは連続した貫通孔を構成する。この連続した貫通孔にピン51が挿入されることにより、リッパポイント20はリッパシャンク10に対して固定されている。
【0030】
図3を参照して、リッパポイント20には、基端23側から先端21側に向けて凹む凹部22が形成されている。リッパシャンク10は、基端14を含む本体部12と、凹部22に挿入される側の端部である先端15を含む挿入部13とを備えている。挿入部13は、ベース部18と、挿入部13の表面を含む領域に形成され、ベース部18よりも硬度が高い高硬度部19とを含む。本実施の形態において、高硬度部19は高周波焼入硬化部である。すなわち、高硬度部19は、ベース部18の一部を高周波焼入により部分的に焼入硬化して形成された領域である。
【0031】
リッパポイント20に形成された凹部22の底領域22Aとリッパシャンク10の先端15とは、接触していない。凹部22の底領域22Aと先端15との間には、空間29が存在する。挿入部13の表面の先端15を取り囲む領域に高硬度部19が形成されている。高硬度部19は、挿入部13の表面のうちリッパポイント20に接触する領域を含むように配置されている。より詳細には、挿入部13の表面においてリッパポイント20と接触する部分のうち、最も先端15に近い領域を含むように高硬度部19が形成されている。先端15は、ベース部18に含まれる。
【0032】
本実施の形態のリッパシャンク10においては、挿入部13の表面を含む領域にベース部18よりも硬度が高い高硬度部19が形成されている。高硬度部19の存在により、リッパシャンク10の摩耗が抑制される。その結果、リッパシャンク10とリッパポイント20との間のがたつきに起因した割れの発生を抑制することができる。また、高硬度部19よりも硬度が低いベース部18が存在することにより、リッパシャンク10(特に挿入部13)の靱性の低下が抑制される。その結果、靱性の不足による割れの発生を低減することができる。このように、リッパシャンク10は、割れの発生が抑制されたリッパシャンクとなっている。
【0033】
また、リッパシャンク10においては、挿入部13の表面のうちリッパポイント20に接触する領域、より詳細には挿入部13の表面においてリッパポイント20と接触する部分のうち、最も先端15に近い領域を含むように高硬度部19が形成されている。この領域は、挿入部13において最も摩耗しやすい領域である。この領域に高硬度部19が形成されることにより、リッパシャンク10の摩耗がより有効に抑制される。
【0034】
一方、挿入部13の表面のうち先端とは反対側の端部16はベース部18に含まれる。つまり、リッパポイント20の凹部22の入り口付近に位置する挿入部13の表面は、ベース部18に含まれ、当該部分には高硬度部19が形成されていない。端部16付近は、リッパポイント20からの曲げ応力が強く作用する領域である。この領域が靱性の高いベース部18に含まれることにより、リッパポイント20からの曲げ応力による割れの発生のリスクが低減されている。
【0035】
リッパシャンク10は、たとえば鍛鋼からなっている。この鍛鋼の炭素含有量は、たとえば0.25質量%以上0.37質量%以下である。鍛鋼の成分組成は、たとえばJIS規格の機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼に対応するものとすることができる。より具体的には、鍛鋼の成分組成は、たとえばJIS規格のSNCM435等に対応するものを採用することができる。
【0036】
高硬度部19の硬度は57HRC以上65HRC以下とすることが好ましい。ベース部18の硬度は40HRC以上52HRC以下とすることが好ましい。高硬度部19の厚みは3mm以上10mm以下とすることが好ましい。高硬度部19とベース部18との硬度差は5HRC以上25HRC以下とすることが好ましい。また、高硬度部19の硬度は、リッパポイント20においてリッパシャンク10に接触する領域の硬度よりも高いことが好ましい。
【0037】
<第1の変形例>
図4は、実施の形態1の第1の変形例におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。図4は、上記図3に対応する図である。図4を参照して、第1の変形例におけるリッパシャンク10は、基本的には上記実施の形態のリッパシャンク10と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、第1の変形例におけるリッパシャンク10は、高硬度部19の形状において、上記実施の形態の場合とは異なっている。
【0038】
図4を参照して、本変形例におけるリッパシャンク10の高硬度部19は、挿入部13の表面のうち先端15を含むように配置されている。すなわち、上記実施の形態において高硬度部19が形成される領域に加えて、空間29に面する領域にも高硬度部19が形成されている。空間29には、土砂が侵入する場合がある。そして、当該土砂により挿入部13の表面のうち先端15を含む領域が摩耗する場合がある。このような場合、空間29に面する領域にも高硬度部19を形成することにより、リッパシャンク10の摩耗を抑制し、リッパシャンク10とリッパポイント20との間のがたつきに起因した割れの発生をより確実に抑制することができる。
【0039】
<第2の変形例>
図5は、実施の形態1の第2の変形例におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。図5は、上記図3に対応する図である。図5を参照して、第2の変形例におけるリッパシャンク10は、基本的には上記実施の形態のリッパシャンク10と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、第2の変形例におけるリッパシャンク10は、高硬度部19の形状およびリッパポイント20とリッパシャンク10との接触状態において、上記実施の形態の場合とは異なっている。
【0040】
図5を参照して、本変形例においては、挿入部13の先端15と凹部22の底領域22Aとが接触する。そして、本変形例おけるリッパシャンク10の高硬度部19は、挿入部13の表面のうち先端15を含むように配置されている。挿入部13の先端15と凹部22の底領域22Aとが接触する構造が採用された場合、先端15近傍において、摩耗が最も進行する。挿入部13の表面のうち先端15を含むように高硬度部19が配置されることにより、リッパシャンク10の摩耗を抑制し、リッパシャンク10とリッパポイント20との間のがたつきに起因した割れの発生をより確実に抑制することができる。
【0041】
次に、本実施の形態におけるリッパシャンク10の製造方法の概略を説明する。図6は、実施の形態1のリッパシャンクの製造方法の概略手順を示すフローチャートである。図6を参照して、本実施の形態のリッパシャンク10の製造方法においては、まず工程(S10)として鍛造工程が実施される。この工程(S10)では、たとえば棒鋼、鋼板などの圧延鋼が鍛造されてリッパシャンク10の形状に成形される。鍛造後に機械加工が実施されてもよい。
【0042】
次に、工程(S20)として全体焼入工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において得られたリッパシャンク10に対して、焼入処理が実施される。具体的には、リッパシャンク10が、たとえば炉内で加熱され、リッパシャンク10全体がA変態点以上の温度となった状態から、M点以下の温度に急冷される。これにより、リッパシャンク10全体がマルテンサイト組織を有する鍛鋼となる。
【0043】
次に、工程(S30)として第1低温焼戻工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において焼入処理が実施されたリッパシャンク10に対して、焼戻処理が実施される。具体的には、たとえば炉内においてリッパシャンク10全体の温度がA変態点未満の温度、たとえば150℃以上250℃以下の温度域に加熱され、その後、室温まで冷却される。これにより、リッパシャンク10全体が焼戻マルテンサイト組織を有する鍛鋼となる。工程(S20)および(S30)は、調質工程を構成する。この調質工程により、リッパシャンク10を構成する鍛鋼の組織が均質化されるとともに、所望のベース部18の硬度に鍛鋼の硬度が調整される。
【0044】
次に、工程(S40)として高周波焼入工程が実施される。この工程(S40)では、高周波焼入処理により、所望の領域に高周波焼入硬化部としての高硬度部19が形成される。具体的には、リッパシャンク10に隣接して配置されるコイルに高周波電流が流されることにより、リッパシャンク10の所望の領域に渦電流を発生させ、当該渦電流により高硬度部19を形成すべき部分をA変態点以上の温度に加熱する。このとき、ベース部18となるべき部分の温度はA変態点未満(A変態点未満)に維持される。この状態からリッパシャンク10をM点以下の温度域にまで冷却する。これにより、所望の領域に高硬度部19が形成される(図3図5参照)。
【0045】
次に、工程(S50)として第2低温焼戻工程が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)において高周波焼入硬化部としての高硬度部19が形成されたリッパシャンク10に対して、低温焼戻が実施される。具体的には、たとえば炉内においてリッパシャンク10全体の温度がA変態点未満の温度、たとえば150℃以上250℃以下の温度域に加熱され、その後、室温まで冷却される。これにより、高硬度部19の形成によりリッパシャンク10に導入された歪みが低減される等の効果が得られる。その後、必要に応じて仕上げ加工、防錆処理、塗装等のプロセスを経て、リッパシャンク10が完成する。なお、許容範囲内の靱性が確保できる場合、第2低温焼戻工程は省略してもよい。
【0046】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。図7は、上記図3に対応する図である。図7を参照して、実施の形態2におけるリッパシャンク10は、基本的には実施の形態1のリッパシャンク10と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2におけるリッパシャンク10は、高硬度部19の形状、構造および形成方法において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0047】
図7を参照して、本実施の形態におけるリッパシャンク10の高硬度部19は、挿入部13の表面の全域を含むように配置されている。また、本実施の形態の高硬度部19は、浸炭焼入硬化部である。すなわち、高硬度部19は、ベース部18に比べて炭素含有量が高い。このように、高硬度部19として高周波焼入硬化部に代えて浸炭焼入硬化部を採用しても、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。なお、本実施の形態においては、挿入部13の表面の全域を含むように高硬度部19が形成される場合について説明したが、実施の形態1の場合のように、挿入部13の表面の一部を含むように、浸炭焼入硬化部である高硬度部19が形成されてもよい。
【0048】
次に、本実施の形態におけるリッパシャンク10の製造方法の概略を説明する。図8は、実施の形態2のリッパシャンクの製造方法の概略手順を示すフローチャートである。図8を参照して、本実施の形態のリッパシャンク10の製造方法においては、まず工程(S10)~(S30)が実施の形態1の場合と同様に実施される。
【0049】
次に、実施の形態1の工程(S40)に代えて、工程(S41)として浸炭焼入工程が実施される。この工程(S41)では、浸炭焼入処理により、所望の領域に浸炭焼入硬化部としての高硬度部19が形成される。具体的には、工程(S20)~(S30)において調質処理されたリッパシャンク10が、リッパシャンク10を構成する鍛鋼の炭素含有量よりも高いカーボンポテンシャルを有する雰囲気中においてA変態点以上の温度に加熱される。この加熱に先立って、高硬度部19を形成しない領域に対応する表面には、炭素の浸入を阻害するコーティング層が形成される。これにより、コーティング層が形成されていない表面から、リッパシャンク10に炭素が浸入する。この状態からリッパシャンク10をM点以下の温度域にまで冷却する。これにより、炭素含有量が高くなった領域に対応して、高硬度部19が形成される。その後、工程(S50)が実施の形態1の場合と同様に実施され、さらに仕上げ加工、防錆処理、塗装等のプロセスなどのプロセスが必要に応じて実施されることにより、実施の形態2のリッパシャンク10が完成する。
【0050】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3におけるリッパシャンクの構造を示す概略断面図である。図9は、上記図3に対応する図である。図10は、リッパシャンクの先端付近を拡大して示す概略断面図である。図9および図10を参照して、実施の形態3におけるリッパシャンク10は、基本的には実施の形態1のリッパシャンク10と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3におけるリッパシャンク10は、高硬度部の構造および形成方法において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0051】
図9および図10を参照して、本実施の形態におけるリッパシャンク10の高硬度部は、肉盛部62である。肉盛部62は、図10に示すように、たとえば鉄または鋼からなる母相92と、母相92中に分散する硬質粒子91とを含む。硬質粒子91を構成する材料としては、たとえば超硬合金を採用することができる。リッパシャンク10には凹部であるアンダーカット領域17が形成されている。アンダーカット領域17を充填するように、肉盛部62が形成されている。このように、高周波焼入硬化部である高硬度部19に代えて、肉盛部62を採用しても、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。なお、本実施の形態においては、実施の形態1の高硬度部19と同様の領域に肉盛部62が形成される場合について説明したが、他の態様、たとえは第1の変形例または第2の変形例と同様の領域に肉盛部62が形成されてもよい。
【0052】
次に、本実施の形態におけるリッパシャンク10の製造方法の概略を説明する。図11は、実施の形態3のリッパシャンクの製造方法の概略手順を示すフローチャートである。図11を参照して、本実施の形態のリッパシャンク10の製造方法においては、まず工程(S10)~(S30)が実施の形態1の場合と同様に実施される。
【0053】
次に、実施の形態1の工程(S40)および工程(S50)に代えて、工程(S35)としてアンダーカット形成工程が実施される。この工程(S35)では、工程(S20)~(S30)において調質処理されたリッパシャンク10に対して、たとえば切削加工が実施されることによりアンダーカット領域17が形成される。アンダーカット領域17は、高硬度部としての肉盛部62を形成すべき領域に形成される。
【0054】
次に、工程(S42)として肉盛部形成工程が実施される。この工程(S42)では、工程(S35)において形成されたアンダーカット領域17を充填するように、肉盛部62が形成される。肉盛部62の形成は、たとえば以下のようにMIG(Metal Inert Gas)溶接法を利用した肉盛溶接により実施することができる。
【0055】
まず、肉盛部形成装置について説明する。図12を参照して、肉盛部形成装置は、溶接トーチ70と、硬質粒子供給ノズル80とを備えている。溶接トーチ70は、中空円筒形状を有する溶接ノズル71と、溶接ノズル71の内部に配置され、電源(図示しない)に接続されたコンタクトチップ72とを含む。コンタクトチップ72に接触しつつ、溶接ワイヤ73が溶接ノズル71の先端側へと連続的に供給される。溶接ワイヤとしては、たとえばJIS規格YGW12を採用することができる。溶接ノズル71とコンタクトチップ72との隙間は、シールドガスの流路となっている。当該流路を流れるシールドガスは、溶接ノズル71の先端から吐出される。硬質粒子供給ノズル80は、中空円筒状の形状を有している。硬質粒子供給ノズル80内には硬質粒子91が供給され、硬質粒子供給ノズル80の先端から硬質粒子91が吐出される。
【0056】
上記肉盛部形成装置を用いて肉盛部62を以下の手順で形成することができる。ベース部18を一方の電極とし、溶接ワイヤ73を他方の電極としてベース部18と溶接ワイヤ73との間に電圧を印加すると、溶接ワイヤ73とベース部18との間にアーク74が形成される。アーク74は、溶接ノズル71の先端から矢印βに沿って吐出されるシールドガスによって、周囲の空気から遮断される。シールドガスとしては、たとえばアルゴンを採用することができる。アーク74の熱により、ベース部18の一部および溶接ワイヤ73の先端が溶融する。溶接ワイヤ73の先端が溶融して形成された液滴は、ベース部18の溶融した領域へと移行する。これにより、溶融したベース部18と溶接ワイヤ73とが混ざり合った液体領域である溶融池92が形成される。溶融池92には、硬質粒子供給ノズル80から吐出された硬質粒子91が供給される。
【0057】
肉盛溶接装置を構成する溶接トーチ70および硬質粒子供給ノズル80がベース部18(アンダーカット領域17)に対して矢印αの向きに相対的に移動すると、溶融池92が形成される位置が順次移動し、先に形成された溶融池92は凝固して、肉盛部62となる。肉盛部62は、溶融池92が凝固して形成された母相92と、母相92中に分散する硬質粒子91とを含む。以上の手順により、アンダーカット領域17を充填する肉盛部62が形成される。その後、仕上げ加工、防錆処理、塗装等のプロセスなどのプロセスが必要に応じて実施されることにより、実施の形態3のリッパシャンク10が完成する。
【0058】
なお、上記実施の形態においては、本願のリッパ装置がブルドーザに設置される場合について説明したが、本願のリッパシャンクおよびリッパ装置は、他の作業機械に取り付けられるものであってもよい。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 リッパ装置、10 リッパシャンク、11 リッパシャンク貫通孔、12 本体部、13 挿入部、14 基端、15 先端、16 端部、17 アンダーカット領域、18 ベース部、19 高硬度部、20 リッパポイント、21 先端、22 凹部、22A 底領域、23 基端、25 リッパポイント貫通孔、31 アーム、32 リフトシリンダ、33 チルトシリンダ、34 リッパ支持部材、51 ピン、62 肉盛部、70 溶接トーチ、71 溶接ノズル、72 コンタクトチップ、73 溶接ワイヤ、74 アーク、80 硬質粒子供給ノズル、91 硬質粒子、92 母相(溶融池)。
図1
図2
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図4
図5
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図7
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図10
図11
図12