(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】トルクコンバータ
(51)【国際特許分類】
F16H 41/24 20060101AFI20220912BHJP
【FI】
F16H41/24 B
(21)【出願番号】P 2018169869
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】川島 一訓
(72)【発明者】
【氏名】橘 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】上谷 力
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-101741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0040550(US,A1)
【文献】特開平6-109097(JP,A)
【文献】特開2012-229719(JP,A)
【文献】実開平6-37568(JP,U)
【文献】特開2007-147034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 41/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトと一体に回転するドライブプレートと連結されたフロントカバーを有するトルクコンバータであって、
基端が前記ドライブプレート側に設けられ、先端が前記フロントカバーと当接するばね部材を備え、
前記ばね部材は、前記ドライブプレートと前記フロントカバーとの接続部よりも径方向内側に設けられ、前記ドライブプレート側から前記フロントカバーに対して前記クランクシャフトの回転軸線方向に初期荷重を付与
し、
前記フロントカバーは、アルミ系材料で形成され、前記ばね部材と当接するガード部材を有するトルクコンバータ。
【請求項2】
請求項1に記載のトルクコンバータであって、
前記ばね部材は、前記ドライブプレートとは別に形成されているトルクコンバータ。
【請求項3】
請求項1に記載のトルクコンバータであって、
前記ばね部材は、前記ドライブプレートに形成されているトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧力容器を構成するインペラシェルおよびフロントカバーがアルミ系材料で形成されたトルクコンバータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、鉄系材料で形成された圧力容器と比べて軽量化は図れるものの、剛性の低下により変形しやすくなるため、耐圧性が不足するという問題があった。
本発明の目的の一つは、圧力容器の軽量化と耐圧性の確保とを両立できるトルクコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のトルクコンバータは、基端がドライブプレート側に設けられ、先端がフロントカバーと当接するばね部材を備え、ばね部材は、ドライブプレートとフロントカバーとの接続部よりも径方向内側に設けられ、ドライブプレート側からフロントカバーに対してクランクシャフトの回転軸線方向に初期荷重を付与し、フロントカバーは、アルミ系材料で形成され、ばね部材と当接するガード部材を有する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、圧力容器の軽量化と耐圧性の確保とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1のトルクコンバータ1の部分断面図である。
【
図2】実施形態1のドライブプレート23をフロントカバー8側から見た斜視図である。
【
図3】実施形態2のドライブプレート23をフロントカバー8側から見た正面図である。
【
図4】実施形態3のトルクコンバータ1の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
[トルクコンバータの全体構成]
図1は、実施形態1のトルクコンバータ1の部分断面図である。
トルクコンバータ1は、エンジンの出力軸(クランクシャフト)および自動変速機の入力軸間に設けられている。以下の説明では、クランクシャフトの回転軸線Oに沿う方向を軸方向、回転軸線Oの放射方向を径方向、回転軸線O周りの方向を周方向という。
実施形態1のトルクコンバータ1は、ステータ2およびロックアップクラッチ1aを備える。ステータ2は、ポンプインペラ3、タービンランナ4およびワンウェイクラッチ5を有する。これら各要素は、圧力容器であるトルクコンバータ格納容器6の内部に収容されている。
【0009】
トルクコンバータ格納容器6は、インペラシェル7およびフロントカバー8を有する。インペラシェル7およびフロントカバー8は、アルミ系材料(アルミニウム合金)を用いて鋳造により成形されている。インペラシェル7のクランクシャフト側の開口部7aと、フロントカバー8の変速機入力軸側の開口部8aとは、コールドスプレー法により形成された金属層9によって一体に固定されている。
ポンプインペラ3は、インペラシェル7の内側壁に設けられた羽根状のインペラブレード10から構成されている。
タービンランナ4は、ポンプインペラ3と対向する位置に配置され、タービンシェル11とタービンシェル11の内側に設けられた羽根状のタービンブレード12から構成されている。
【0010】
ステータ2は、ポンプインペラ3とタービンランナ4との間に設けられており、基部13と基部13から径方向に延びる羽根状のステータブレード14から構成されている。基部13は、変速機ハウジングとの間にワンウェイクラッチ5を介して設けられている。ワンウェイクラッチ5は、インペラシェル7に固定されたインペラハブ15との間に配置されたニードルベアリング16と、タービンシェル11に固定されたタービンハブ17との間に配置されたニードルベアリング18とにより、軸方向に位置決めされている。
ロックアップクラッチ1aは、タービンハブ17に軸方向に摺動自在に保持されたロップアップピストン19と、タービンシェル11にリベット20によって固定されたトーションダンパ21とを有する。
【0011】
フロントカバー8は、ドライブプレート23を介して図外のクランクシャフトと連結されている。フロントカバー8のクランクシャフト側において、径方向外側には、スタッドボルト24が周方向に等間隔で4個設けられている。スタッドボルト24は、ドライブプレート23に形成されたボルト孔23aを貫通し、図外のナットと締結されている。フロントカバー8のドライブプレート23側において、径方向内側には、ドライブプレート23側に突出するパイロットボス25が設けられている。パイロットボス25は、トルクコンバータ1とクランクシャフトとを連結する際に、両者の軸心合わせに用いられるものであり、クランクシャフトの先端に設けられた嵌合孔に嵌入されている。
トルクコンバータ格納容器6の内部には、オイルが充填されており、ポンプインペラ3、タービンランナ4、ステータブレード14によるオイルの流れによってトルク増幅作用を発生させている。
【0012】
図2は、実施形態1のドライブプレート23をフロントカバー8側から見た斜視図である。
ドライブプレート23は、鉄系材料を用いて形成され、略円盤形状を有する。ボルト孔23aは、ドライブプレート23の外周寄りの位置に、周方向に等間隔で4個設けられている。ドライブプレート23は、その中心にクランクシャフトが貫通する貫通孔23bを有する。ドライブプレート23は、貫通孔23bの縁部に、8個のボルト孔23cを有する。各ボルト孔23cは、周方向に等間隔で配置されている。ボルト孔23cには、ドライブプレート23とクランクシャフトとをボルト締結するためのボルトが貫通する。ドライブプレート23の外周には、リングギア26が形成されている。リングギア26は、スタータモータギアと噛み合う。
【0013】
ドライブプレート23の径方向において、ボルト孔23aとボルト孔23cとの間の位置には、板ばね部(ばね部材)28が周方向に等間隔で8個設けられている。板ばね部28は、ドライブプレート23側からフロントカバー8に対して軸方向に初期荷重を付与する。板ばね部28は、基端28aがドライブプレート23側に設けられ、先端28bがフロントカバー8と当接する。板ばね部28は、ドライブプレート23の所定部位を舌片状に切り込み加工することにより形成されている。切り込み加工とは、全周を打ち抜かずに一部のみを打ち抜くことを特徴とする加工方法である。板ばね部28において、舌片状部の長さやドライブプレート23に対する立ち上がり角度(回転軸線Oと直交する平面に対する傾斜角度)を調整することにより、初期荷重や弾性力を任意に変更可能である。
フロントカバー8において、板ばね部28の先端28bとの当接箇所には、ガード部材29が設けられている。ガード部材29は、鉄系材料を用いて形成され、円環形状を有する。ガード部材29は、フロントカバー8と溶接により接合されている。溶接方法は、例えば、ろう接(ろう付け、はんだ付け)、CMT(コールド・メタル・トランスファー)、摩擦撹拌接合、レーザー溶接等である。
【0014】
次に、実施形態1の板ばね部28の作用を説明する。
近年、トルクコンバータの軽量化を狙いとし、トルクコンバータ格納容器を構成するインペラシェルおよびフロントカバーを、従来の鉄系材料よりも比重の低い材料、例えばアルミ系材料で形成したトルクコンバータが知られている。ところが、トルクコンバータ格納容器の素材を鉄系材料からアルミ系材料に置換した場合、軽量化は図れるものの、剛性が低下する。ここで、トルクコンバータ格納容器は、クランクシャフトの回転を受けて回転する際、内部に満たされているオイルにより遠心油圧を受け、インペラシェルとフロントカバーとの接合部分を支点に広がろうとする。このため、アルミ系材料で形成されたトルクコンバータ格納容器において、従来の鉄系材料と同等の耐圧性を確保するためには、肉厚を増大させる必要があり、軽量化効果の低下や軸長の増大を招く。
【0015】
これに対し、実施形態1のトルクコンバータ1では、フロントカバー8は、板ばね部28によって変形を抑制する方向に初期荷重を付与されているため、フロントカバー8の変形を抑制できる。この結果、トルクコンバータ格納容器6の軽量化を耐圧性の確保との両立を図れる。
板ばね部28は、ドライブプレート23に形成されている。ここで、仮にフロントカバー8に初期荷重を付与するばね部材を別に設けた場合、部品の追加により製造コスト増および重量増を招く。板ばね部28をドライブプレート23に形成することにより、部品の追加が不要となり、製造コスト増および重量増を抑制できる。
フロントカバー8は、板ばね部28と当接するガード部材29を有する。これにより、アルミ系材料で形成されたフロントカバー8が、鉄系材料で形成された板ばね部28と圧接することによるフロントカバー8の当たり摩耗を防止できる。
【0016】
実施形態1にあっては、以下の効果を奏する。
(1) クランクシャフトと一体に回転するドライブプレート23と連結されたフロントカバー8を有するトルクコンバータ1であって、基端28aがドライブプレート23側に設けられ、先端28bがフロントカバー8と当接する板ばね部28を備え、板ばね部28は、ドライブプレート23側からフロントカバー8に対してクランクシャフトの回転軸線O方向に初期荷重を付与する。これにより、トルクコンバータ格納容器6の軽量化と耐圧性の向上とを両立できる。
【0017】
(2) 板ばね部28は、ドライブプレート23に形成されている。これにより、製造コスト増および重量増を抑制できる。
【0018】
(3) フロントカバー8は、アルミ系材料で形成され、板ばね部28と当接するガード部材29を有する。これにより、板ばね部28との圧接に起因するフロントカバー8の当たり摩耗を防止できる。
【0019】
〔実施形態2〕
実施形態2の基本的な構成は実施形態1と同じであるため、実施形態1と相違する部分のみ説明する。
図3は、実施形態2のドライブプレート23をフロントカバー8側から見た正面図である。
実施形態2では、板ばね部30が貫通孔23bの縁部に4個設けられている点で実施形態1と相違する。実施形態2では、ボルト孔23cが4個であり、板ばね部30とボルト孔23cとが周方向に交互に配置されている。
【0020】
トルクコンバータ格納容器6は、内圧を受けるとインペラシェル7とフロントカバー8との接合部分(金属層9)を支点に広がろうとするため、変形量は、径方向外側から径方向内側へ進むほど大きくなる。よって、径方向中心付近に板ばね部30を配置することにより、フロントカバー8の変形を効果的に抑制できる。また、支点から離れた径方向中心付近は、モーメントも作用し小さい初期荷重でも必要な剛性や強度を確保できる。よって、実施形態1と比べて板ばね部30の個数を低減でき、製造コストを低減できる。
【0021】
〔実施形態3〕
実施形態3の基本的な構成は実施形態1と同じであるため、実施形態1と相違する部分のみ説明する。
図4は、実施形態3のトルクコンバータ1の部分断面図である。
実施形態3では、フロントカバー8とドライブプレート23との間に皿ばね(ばね部材)32が介装されている点で実施形態1と相違する。皿ばね32は、鉄系材料を用いて形成されている。皿ばね32は、ドライブプレート23側からフロントカバー8に対して軸方向に初期荷重を付与する。皿ばね32は、基端32aがドライブプレート23側に設けられ、先端32bがフロントカバー8のガード部材29と当接する。
【0022】
実施形態3にあっては、以下の効果を奏する。
(4) 皿ばね32は、ドライブプレート23とは別に形成されている。これにより、皿ばね32の形状および素材を、ドライブプレート23の形状および素材に依存することなく自由に設定できる。つまり、皿ばね32の形状および素材がドライブプレート23の制約を受けないため、皿ばね32の設計自由度を向上できる。
【0023】
〔他の実施形態〕
以上、本発明を実施するための形態を説明したが、本発明の具体的な構成は実施形態に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
ばね部材は、板ばねや皿ばねに限定されない。例えば、圧縮コイルスプリングでもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 トルクコンバータ
8 フロントカバー
23 ドライブプレート
28 板ばね部(ばね部材)
28a 基端
28b 先端
29 ガード部材