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特許7139056スピネル型チタン酸リチウム及びその製造方法
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  • 特許-スピネル型チタン酸リチウム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】スピネル型チタン酸リチウム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20220912BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220912BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220912BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20220912BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20220912BHJP
【FI】
C01G23/00 B
H01M4/485
H01M4/131
H01G11/46
H01G11/86
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018185443
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020055701
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 桂一
(72)【発明者】
【氏名】青山 慎
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239460(JP,A)
【文献】特開2013-166696(JP,A)
【文献】Feixiang Wu, et al,Preparation and characterization of spinel Li4Ti5O12 anode material from industrial titanyl sulfate solution,Journal of Alloys and Compounds,2010年10月08日,Vol.509,p.596-601
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
H01M 4/485
H01M 4/131
H01G 11/46
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO-TPDによる200~400℃におけるCO脱離量とNH-TPDによる200~400℃におけるNH脱離量との比(CO/NH)が1.0以上であり、比表面積が35~150m /gであることを特徴とするスピネル型チタン酸リチウム。
【請求項2】
前記CO脱離量が4μmol/g以上であり、前記NH脱離量が4μmol/g以上である請求項1に記載のスピネル型チタン酸リチウム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスピネル型チタン酸リチウムを含む電極。
【請求項4】
前記スピネル型チタン酸リチウムが負極活物質である請求項に記載の電極。
【請求項5】
請求項又はに記載の電極を含む蓄電デバイス。
【請求項6】
チタン原料とリチウム原料とを混合して焼成することにより得られるスピネル型チタン酸リチウムの製造方法であって、
前記チタン原料が、含水率18~40%の含水酸化チタンであり、かつ、CuのKa線でX線回折測定を行った際に、回折角2θ=24~26°においてピークが見られない、又は回折角2θ=24~26°におけるピークの半値幅が2以上である含水酸化チタンであり、
前記リチウム原料が、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、
Li/Ti(モル比)が0.80を超え0.88以下となるように前記チタン原料と前記リチウム原料とを混合してスラリーを調製する工程を行った後、乾燥して粉砕する工程を行ってから、500~700℃で焼成する工程を行う請求項1又は2に記載のスピネル型チタン酸リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO脱離量とNH脱離量との比(CO/NH)が一定以上のスピネル型チタン酸リチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピネル型チタン酸リチウム(LiTi12)は、リチウムイオンの挿入や脱離に伴う体積変化がわずかであり、容量劣化が小さく、かつ充放電電位が約1.5V(対Li/Li)であるため電解液の分解等の副反応が生じにくい、といった特徴から蓄電デバイス用電極材料として注目されている。また、LiTi12の充放電時の化学反応式としては下記式(1)であることが知られている。
【数1】
【0003】
上記式(1)において、LiTi12が生じる充電時には、LiTi12に電流を流してリチウムイオンを挿入する必要があるが、LiTi12が絶縁性であるため構造変化に必要なエネルギー障壁が高く、反応が進行しにくいという課題があった。このため、弱い電流で長時間かけて充電する必要があり、電気自動車など高速充電を行う蓄電デバイスの実用化への障壁となっていた。
【0004】
特許文献1には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび酸化リチウムのうち1種または2種以上のリチウム化合物と酸化チタンとの混合物を仮焼して、TiOとLiTiOで構成される組成物またはTiO、LiTiOおよびLiTi12で構成される組成物を調製し、その後、本焼成することを特徴とするチタン酸リチウムの製造方法が記載されている。これによれば、リチウム二次電池として優れた特性を有するチタン酸リチウムを製造することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、リチウム化合物からなる原料粉末とチタン酸化合物からなる原料粉末とを混合し、焼成することにより、チタン酸リチウム(LiTi12)を製造する方法において、前記リチウム化合物は炭酸リチウムであり、前記チタン酸化合物は、メタチタン酸またはオルトチタン酸であることを特徴とするチタン酸リチウムの製造方法が記載されている。これによれば、レート性能に優れ、且つ取り扱いやすいチタン酸リチウムが得られ、車載用バッテリーを代表とするリチウムイオン二次電池の高い要求特性を満たすことができるチタン酸リチウム及びその製造方法を提供することができるとされている。しかしながら、特許文献1及び2により得られるチタン酸リチウムは、必ずしも高速充電が可能になる訳ではなく、充電容量維持率に優れるチタン酸リチウムが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-302547号公報
【文献】WO2013/137381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、高速充電が可能になるとともに充電容量維持率に優れた蓄電デバイスとして好適に用いることのできる、CO脱離量とNH脱離量との比(CO/NH)が一定以上のスピネル型チタン酸リチウムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、CO-TPDによる200~400℃におけるCO脱離量とNH-TPDによる200~400℃におけるNH脱離量との比(CO/NH)が1.0以上であることを特徴とするスピネル型チタン酸リチウムを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、前記CO脱離量が4μmol/g以上であり、前記NH脱離量が4μmol/g以上であることが好適である。比表面積が10~150m/gであることが好適であり、前記スピネル型チタン酸リチウムを含む電極が好適な実施態様である。前記スピネル型チタン酸リチウムが負極活物質である電極が好適な実施態様であり、前記電極を含む蓄電デバイスも好適な実施態様である。
【0010】
また、上記課題は、チタン原料とリチウム原料とを混合して焼成することにより得られるスピネル型チタン酸リチウムの製造方法であって、前記チタン原料が、含水率18~40%の含水酸化チタンであり、前記リチウム原料が、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、Li/Ti(モル比)が0.80を超え0.88以下となるように前記チタン原料と前記リチウム原料とを混合してスラリーを調製する工程を行った後、500~900℃で焼成する工程を行うスピネル型チタン酸リチウムの製造方法を提供することによっても解決される。
【0011】
このとき、前記スラリーを調製する工程を行った後、乾燥して粉砕する工程を行ってから前記焼成する工程を行うことが好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、CO脱離量とNH脱離量との比(CO/NH)が一定以上のスピネル型チタン酸リチウムを提供することができる。こうして得られるスピネル型チタン酸リチウムは、カチオンであるリチウムイオンを引きつけて充電反応が促進されるため、高速充電が可能になるとともに充電容量維持率に優れた蓄電デバイスとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ラマン分光測定の結果を示した図である。
図2】X線回折測定の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスピネル型チタン酸リチウムは、CO-TPDによる200~400℃におけるCO脱離量とNH-TPDによる200~400℃におけるNH脱離量との比(CO/NH)が1.0以上であることを特徴とする。このように、前記比(CO/NH)が一定以上であることにより、高速充電が可能になるとともに充電容量維持率に優れた蓄電デバイスとして好適に用いることができる。
【0015】
TPD(昇温脱離法)は、固体にNHガス、あるいはCOガス(以下、両方を示す場合はガスと記載することがある)を吸着させた後、一定の昇温速度に制御して連続的に昇温させて脱離するガス量及びガスの脱離温度を測定する方法である。NH-TPDでは固体表面の酸点について、CO-TPDでは固体表面の塩基点について測定することができ、弱い酸点や塩基点に吸着しているガスは200℃以下の低温で脱離し、強い酸点や塩基点に吸着しているガスは200℃を超える高温で脱離する。また400℃を超える場合、固体酸・塩基性に関わる表面水酸基等が脱離することから、200~400℃間に脱離するNH及びCOの量を測定することで、固体表面の酸・塩基量や酸・塩基強度を評価することができる。
【0016】
後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、前記比(CO/NH)が1.0未満の場合には、充放電試験を、フルセルを用いて充放電レート300Cで行った際の充電容量(mAh)の値及びハーフセルを用いて充放電レート50Cで行った際の充電容量(mAh/g)の値が低く、充電容量維持率の値も低かったことを本発明者らは確認している。これに対し、前記比(CO/NH)が1.0以上であることにより、充電容量の値が高く、充電容量維持率の値も高くなることが明らかとなった。すなわち、固体塩基度を示すCO脱離量と、固体酸性度を示すNH脱離量との比(CO/NH)を一定以上とすることにより、スピネル型チタン酸リチウム表面にカチオンであるリチウムイオンを引きつけて充電反応が促進されることを本発明者らは見出したものである。こうして得られるスピネル型チタン酸リチウムは、高速充電が可能になるとともに充電容量維持率に優れた蓄電デバイスとして好適に用いることができるため本発明の意義が大きい。
【0017】
本発明のスピネル型チタン酸リチウムにおいて、前記CO脱離量が4μmol/g以上であることが好ましい。前記CO脱離量が4μmol/g未満の場合、充電反応を促進させることが困難となるおそれがあり、前記CO脱離量は6μmol/g以上であることがより好ましく、8μmol/g以上であることが更に好ましく、11μmol/g以上であることが特に好ましい。前記CO脱離量は、通常、60μmol/g以下である。
【0018】
本発明のスピネル型チタン酸リチウムにおいて、前記NH脱離量が4μmol/g以上であることが好ましい。前記NH脱離量が4μmol/g未満の場合、充電反応を促進させることが困難となるおそれがあり、前記NH脱離量は6μmol/g以上であることがより好ましく、8μmol/g以上であることが更に好ましく、11μmol/g以上であることが特に好ましい。前記NH脱離量は、通常、60μmol/g以下である。
【0019】
本発明のスピネル型チタン酸リチウムにおいて、比表面積が10~150m/gであることが好ましい。比表面積が10m/g未満の場合、充電反応を促進させることが困難となるおそれがあり、15m/g以上であることがより好ましく、20m/g以上であることが更に好ましく、35m/g以上であることが特に好ましく、50m/g以上であることが最も好ましい。一方、比表面積が150m/gを超える場合、充電容量が著しく低下するおそれがあり、135m/g以下であることがより好ましく、100m/g以下であることが特に好ましい。
【0020】
本発明のスピネル型チタン酸リチウムの製造方法としては特に限定されない。チタン原料とリチウム原料とを混合して焼成することによりスピネル型チタン酸リチウムを得ることができる。中でも、前記チタン原料が、含水率18~40%の含水酸化チタンであり、前記リチウム原料が、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、Li/Ti(モル比)が0.80を超え0.88以下となるように前記チタン原料と前記リチウム原料とを混合してスラリーを調製する工程(以下、「混合工程」と略記することがある)を行った後、500~900℃で焼成する工程(以下、「焼成工程」と略記することがある)を行うことによって、本発明のスピネル型チタン酸リチウムを好適に得ることができる。
【0021】
本発明で用いられるチタン原料としては特に限定されない。含水率18~40%の含水酸化チタンが好適に用いられる。本発明者らは、含水率18%未満の含水酸化チタンを使用した場合、充放電試験を、フルセルを用いて充放電レート300Cで行った際の充電容量(mAh)の値及びハーフセルを用いて充放電レート50Cで行った際の充電容量(mAh/g)の値が低く、充電容量維持率の値も低かったことを確認している。したがって、チタン原料としては、含水率18~40%の含水酸化チタンが好適に用いられ、含水率20%以上の含水酸化チタンがより好適に用いられ、含水率24%以上の含水酸化チタンが更に好適に用いられる。一方、含水酸化チタンの含水率が40%を超える場合、サイクル特性が低下するおそれがあり、含水率は38%以下であることがより好ましく、35%以下が更に好ましい。
【0022】
本発明で用いられるチタン原料としては、励起レーザー波長を532nm、グレーティングを1800l/mm、スリット幅100×1000μm、露光時間60秒、露光回数を2回としたときのラマン分光測定において、2800~3000cm-1にピークが見られない含水酸化チタンが好適に用いられる。本発明者らは、前記2800~3000cm-1にピークが見られる含水酸化チタンを使用した場合、充放電試験を、フルセルを用いて充放電レート300Cで行った際の充電容量(mAh)の値及びハーフセルを用いて充放電レート50Cで行った際の充電容量(mAh/g)の値が低く、充電容量維持率の値も低かったことを確認している。したがって、チタン原料としては、前記ラマン分光測定において、2800~3000cm-1にピークが見られない含水酸化チタンが好適に用いられる。
【0023】
本発明で用いられるチタン原料としては、CuのKa線でX線回折測定を行った際に、回折角2θ=24~26°においてピークが見られない、又は回折角2θ=24~26°におけるピークの半値幅が2以上である含水酸化チタンが好適に用いられる。後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、回折角2θ=24~26°におけるピークの半値幅が2未満の場合、充放電試験を、フルセルを用いて充放電レート300Cで行った際の充電容量(mAh)の値及びハーフセルを用いて充放電レート50Cで行った際の充電容量(mAh/g)の値が低く、充電容量維持率の値も低かったことが確認された。したがって、チタン原料としては、前記X線回折測定を行った際に、回折角2θ=24~26°においてピークが見られない、又は回折角2θ=24~26°におけるピークの半値幅が2以上である含水酸化チタンが好適に用いられる。前記半値幅としては、2.5以上がより好ましく、ピークが見られないことが最も好ましい。
【0024】
また、本発明で用いられるチタン原料としては、含水酸化チタン100重量部に対して、N含有量が0.75重量部以上であることが好ましい。後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、N含有量が0.75重量部未満の場合、充放電試験を、フルセルを用いて充放電レート300Cで行った際の充電容量(mAh)の値及びハーフセルを用いて充放電レート50Cで行った際の充電容量(mAh/g)の値が低く、充電容量維持率の値も低かったことが確認された。したがって、含水酸化チタン100重量部に対して、N含有量が0.75重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、1.2重量部以上であることが更に好ましい。一方、N含有量は、通常、10重量部以下である。
【0025】
本発明で用いられるリチウム原料としては特に限定されないが、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選択される少なくとも1種であることが好ましい。このようなリチウム原料を使用することにより、後述する混合工程においてチタン原料と混合されて、焼成工程を行うことにより本発明のスピネル型チタン酸リチウムが得られる。リチウム原料としては、水酸化リチウムであることがより好ましい。
【0026】
本発明における混合工程としては、Li/Ti(モル比)が0.80を超え0.88以下となるように前記チタン原料と前記リチウム原料とを混合してスラリーを調製する工程であることが好適な実施態様である。後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、Li/Ti(モル比)が0.80以下の場合、充放電試験を、フルセルを用いて充放電レート300Cで行った際の充電容量(mAh)の値及びハーフセルを用いて充放電レート50Cで行った際の充電容量(mAh/g)の値が低く、充電容量維持率の値も低かったことが確認された。したがって、Li/Ti(モル比)としては0.80を超えることが好ましく、0.81以上であることがより好ましく、0.82以上であることが更に好ましく、0.83以上であることが特に好ましい。一方、Li/Ti(モル比)が0.88を超える場合、充放電反応に寄与しないLiTiOが混在し、充電容量が低下するおそれがあり、0.87以下であることがより好ましく、0.86以下であることが更に好ましい。スラリーを調製する方法としては特に限定されず、前記チタン原料に水を加えてから前記リチウム原料と混合してもよいし、前記リチウム原料に水を加えてから前記チタン原料と混合してもよいし、前記チタン原料と前記リチウム原料とを混合する際に、水を加えてもよい。
【0027】
本発明において、前記混合工程を行った後に、500~900℃で焼成する焼成工程を行うことが好適な実施態様である。焼成温度が500℃未満の場合、充電容量が低下するおそれがあり、520℃以上であることがより好ましく、540℃以上であることが更に好ましい。一方、焼成温度が900℃を超える場合、充電反応を促進させることが困難となるおそれがあり、790℃以下であることがより好ましく、740℃以下であることが更に好ましく、690℃以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明において、前記スラリーを調製する工程を行った後、乾燥して粉砕する工程を行ってから前記焼成する工程を行うことが好適な実施態様である。乾燥して粉砕する工程を行うことにより、原料を均一に混合することができ、それにより高純度のチタン酸リチウムを得ることができる。乾燥する際の温度としては特に限定されず、80~200℃であることが好ましく、90~150℃であることがより好ましい。生産性及びハンドリングの観点から、水を蒸発乾固させる程度まで乾燥することが好ましい。
【0029】
上述のようにして得られる本発明のスピネル型チタン酸リチウムは、カチオンであるリチウムイオンを引きつけて充電反応が促進されて、高速充電が可能になるとともに充電容量維持率に優れる効果が奏される。したがって、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、等の蓄電デバイス用電極として好適に用いることができる。中でも、前記電極が負極であることがより好適な実施態様であり、本発明のスピネル型チタン酸リチウムが負極活物質であることが更に好適な実施態様である。特に、高速充電が可能になるとともに充電容量維持率に優れた蓄電デバイスとして好適に用いられ、中でも、電気自動車など高速充電を行う蓄電デバイスとして好適に用いられる。
【実施例
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
[含水酸化チタンの物性評価]
下記(1)測定用サンプルの調製後、実施例及び比較例で用いられる含水酸化チタンの含水率測定、ラマン分光測定、X線回折測定、及びN含有量測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0032】
(1)測定用サンプルの調製
原料に用いる含水酸化チタンの物性については、以下の方法で乾燥したものを用いて測定した。合成した含水チタン化合物スラリーをろ過してケーキを得た。得られたケーキをガラスビーカーに入れ、それを真空乾燥機に入れた後に、真空ポンプを用いて1hPa以下に調整し、60℃で20時間乾燥した。20時間経過後に常圧下に戻し、湿度20%未満に調整したデシケーター内に素早く入れて、室温まで降温させた。
【0033】
(2)含水率測定
株式会社日立ハイテクサイエンス社製「TG/DTA7300」を用いて、基準試料にアルミナを使用し、昇温速度10℃/分で30℃から400℃まで加熱した際の各サンプルの重量変化を測定した。サンプルは25~30mgをPt容器に計りとり、30℃の時の試料重量と400℃の時の試料重量から下記式により含水率を算出した。
含水率(%):[(30℃の時の試料重量(mg)-400℃の時の試料重量(mg)
)/30℃の時の試料重量(mg)]×100
【0034】
(3)ラマン分光測定
日本分光社製顕微ラマン装置「NRS-7100」を用い、励起レーザー波長を532nmとして、グレーティングを1800l/mm、スリット幅100×1000μm、露光時間60秒、露光回数を2回としたときに2800~3000cm-1にピークが見られない含水酸化チタンをピークなしと評価し、ピークが見られた含水酸化チタンをピークありと評価した。
【0035】
(4)X線回折測定
Philips社製XRD装置「X’pert-PRO」を用い、各粉体試料について、CuのKa線でX線回折測定を行い、その試料のピーク位置と強度を分析した。実施例1~6における含水酸化チタンとしては、結晶ピークが見られないまたはアナターゼ型TiOの結晶性が低いものを用いた。結晶性は、アナターゼ型TiOの(110)にあたる2θ=24~26°に見られるピークの半値幅を評価した。
【0036】
(5)N含有量測定
含水酸化チタンに含まれるN含有量は、有機元素分析装置(マクロコーダ-、JMA1000CN、株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製)を用いて、50mg±10mgの含水酸化チタンを測定した。また、標準試料としてN含有量が既知である馬尿酸5、10、15、20mgの測定結果から、N検出値とN含有量の検量線を作製し、含水酸化チタン測定時のN検出値を検量線に当てはめることでN含有量(wt%)を算出した。
【0037】
比較例7
チタン源として含水酸化チタン(含水率26.3%、製品名:IP499、テイカ株式会社製)、リチウム源として水酸化リチウム(FMC社製)を用いた。これらをLi/Ti(モル比)が0.83となるように計量したのち、媒質として水を用いて湿式混合することによってチタン酸リチウム前駆体スラリーを得た。次いで、得られたスラリーを大気中、120℃で保持することによって媒質である水を蒸発乾固させた。次いで、得られた乾燥体を粉砕機で粉砕したのち、焼成炉を用いて大気中、720℃、2時間焼成することによってチタン酸リチウムを得た。
【0038】
実施例2
比較例7において、焼成温度を700℃にした以外は、比較例7と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0039】
実施例3
比較例7において、焼成温度を670℃にした以外は、比較例7と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0040】
実施例4
比較例7において、焼成温度を620℃にした以外は、比較例7と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0041】
実施例5
比較例7において、焼成温度を550℃にした以外は、比較例7と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0042】
実施例6
チタン源として含水酸化チタン(含水率19.9%、製品名:IP459、テイカ株式会社製)、リチウム源として水酸化リチウム(FMC社製)を用いた。これらをLi/Ti(モル比)が0.83となるように計量したのち、媒質として水を用いて湿式混合することによってチタン酸リチウム前駆体スラリーを得た。次いで、得られたスラリーを大気中、120℃で保持することによって媒質である水を蒸発乾固させた。次いで、得られた乾燥体を粉砕機で粉砕したのち、焼成炉を用いて大気中、670℃、2時間焼成することによってチタン酸リチウムを得た。
【0043】
比較例1
チタン源として含水酸化チタン(含水率15.1%、製品名:IP448、テイカ株式会社製)、リチウム源として炭酸リチウム(FMC社製)を用いた。これらをLi/Ti(モル比)が0.80となるように計量し、ヘンシェルミキサーを用いて30分間混合したのち、焼成炉を用いて大気中、750℃、2時間焼成したのち、粉砕することによってチタン酸リチウムを得た。
【0044】
比較例2
チタン源として含水酸化チタン(含水率13.8%、製品名:IP308、テイカ株式会社製)、リチウム源として水酸化リチウム(FMC社製)を用いた。これらをLi/Ti(モル比)が0.80となるように計量し、ヘンシェルミキサーを用いて30分間混合したのち、焼成炉を用いて大気中、450℃、2時間仮焼成した。得られた仮焼成粉100重量部に対し、粒成長抑制剤として顆粒状ポリビニルアルコール(シグマアルドリッチ社製)を50重量部混合したのち、窒素雰囲気焼成炉を用いて、2L/分の流速で窒素ガスを流通させながら950℃、2時間本焼成した。さらに、得られた本焼成粉をロータリーキルンで大気中、550℃、1時間後焼成したのち、粉砕することによってチタン酸リチウムを得た。
【0045】
比較例3
比較例2において、仮焼成の温度を600℃とした以外は、比較例2と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0046】
比較例4
比較例2において、仮焼成の温度を500℃とした以外は、比較例2と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0047】
比較例5
比較例2において、仮焼成の温度を400℃とした以外は、比較例2と同様にしてチタン酸リチウムを得た。
【0048】
比較例6
チタン源として含水酸化チタン(含水率15.1%、製品名:IP448、テイカ株式会社製)、リチウム源として炭酸リチウム(FMC社製)を用いた。これらをLi/Ti(モル比)が0.80となるように計量したのち、媒質として水を用いて湿式混合することによってチタン酸リチウム前駆体スラリーを得た。次いで、得られたスラリーを大気中、120℃で保持することによって媒質である水を蒸発乾固させた。次いで、得られた乾燥体を粉砕機で粉砕したのち、焼成炉を用いて大気中、670℃、2時間焼成することによってチタン酸リチウムを得た。
【0049】
[NH脱離量及びCO脱離量の測定]
触媒分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELCAT-B」)を用いて、実施例~6、および比較例1~における固体酸性、固体塩基性を、NH-TPD測定、あるいはCO-TPD測定により求めた。具体的には、まず、実施例~6、および比較例1~の粉体を50±5mg秤量し、石英セルに充填した。次に、He中400℃まで40分で昇温し、1時間保持したのち、He中100℃まで10分で降温することによって吸着水分を除去した。さらに、100℃でNHあるいはCOガスを流速20mL/minで30分間流通することによってNHあるいはCOを吸着させたのち、ガスをHeに切り替え、流速30mL/minで流通させながら、昇温速度10℃/minで400℃まで昇温することによって、NHあるいはCOを脱離させた。このとき、濃度既知(各濃度5%)のNH/Heバランスガス、あるいは、CO/Heバランスガスを標準ガスとして検量線を作成し、この検量線を基にNHあるいはCOの脱離量および脱離温度を測定した。また、NH、COそれぞれのピーク検出は、質量スペクトルにおけるNH(m/e=17)、CO(m/e=44)のフラグメントで行った。
【0050】
以上で得られたTPD測定結果から、酸強度あるいは塩基強度に大きく影響する高温部(200~400℃)における1g辺りのガス脱離量をそれぞれ計算し、CO脱離量とNH脱離量との比であるCO/NHを算出した。この値が1を超える場合、酸強度に比べて塩基強度の方が大きいと言える。結果を表1に示す。
【0051】
[比表面積の測定]
比表面積は、窒素吸着測定装置(株式会社マウンテック製「Macsorb HM model-1208」)を用い、BET一点法で測定した。測定試料の予備乾燥条件として、150℃で20分間真空乾燥させた後、冷却を4分行った。結果を表1に示す。
【0052】
[蓄電デバイス評価(フルセル評価)]
(負極の作製)
負極活物質として実施例~6、および比較例1~のチタン酸リチウム、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状」)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製「KFポリマー」)を用い、これらを80:10:10の割合で混合し、さらに分散媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、電極合剤スラリーを調製した。この電極合剤スラリーを集電体であるエッチングアルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製「20CB」)上に塗工・乾燥したのち、ロールプレスすることにより、膜厚40μmの負極を作製した。
【0053】
(正極の作製)
正極活物質として活性炭(株式会社クラレ製「YP-50F」)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状」)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製「KFポリマー」)を用い、これらを77:9:14の割合で混合し、さらに分散媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、電極合剤スラリーを調製した。この電極合剤スラリーを集電体であるエッチングアルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製「20CB」)上に塗工・乾燥したのち、ロールプレスすることにより、膜厚101μmの正極を作製した。
【0054】
(蓄電デバイスの作製)
上記作製した正極と負極を、それぞれ3.0cm×4.0cm(12.0cm)、3.3cm×4.3cm(14.2cm)に打ち抜いたところ、正極に含まれる活性炭の重量は50.5mg、負極に含まれるチタン酸リチウムの重量は41.7mgであった。活性炭の実容量を40mAh/g、チタン酸リチウムの実容量を130mAh/gとして計算すると、正極の容量は2.02mAh、負極の容量は5.43mAhとなり、正負極の容量比(負極/正極)は2.69であった。上記の正極と負極を、セルロース製のセパレータを介して対向させ、電解液として1.0M LiBF/PCを注液したのち、ラミネート封止することで、蓄電デバイスを作製した。
【0055】
(充放電試験)
上記作製した蓄電デバイスを用いて、充放電レート1C、および300Cで充放電試験を行った。得られた結果から、以下の式を用いて、充電容量維持率(%)を算出した。なお、測定は充放電試験装置(北斗電工株式会社製HJ0610SD8Y)を用いて行った。結果を表1に示す。
300Cにおける充電容量(mAh)÷1Cにおける充電容量(mAh)×100=充電容量維持率(%)
【0056】
[蓄電デバイス評価(ハーフセル評価)]
(コインセルの作製)
上記作製した負極を電極打ち抜きで打ち抜き、対極であるリチウム金属、非水電解液である1.0M LiBF/PCとともに2032型のコインセルとした。
【0057】
(充放電試験)
上記作製したコインセルを用いて、充放電レート1C、および50Cで充放電試験を行った。得られた結果から、以下の式を用いて、充電容量維持率(%)を算出した。なお、測定は充放電試験装置(北斗電工株式会社製HJ1001SD8A)を用いて行った。結果を表1に示す。
50Cにおける充電容量(mAh/g)÷1Cにおける充電容量(mAh/g)×100=充電容量維持率(%)

【0058】
【表1】
図1
図2