(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】埋設物探査装置および埋設物探査用音速推定方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20220912BHJP
G01S 15/04 20060101ALN20220912BHJP
【FI】
G01V1/00 B
G01S15/04
(21)【出願番号】P 2018207021
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】秋池 孝則
(72)【発明者】
【氏名】後藤 貴宏
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-318607(JP,A)
【文献】特開2010-117294(JP,A)
【文献】特開昭62-34540(JP,A)
【文献】米国特許第4716765(US,A)
【文献】国際公開第00/52418(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00
G01S 15/00
G01H 1/00~17/00
G01N 29/00
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査装置であって、
ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、
探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、
前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、
超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、
前記媒質の既知である厚みと前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、
座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、ことを特徴とする埋設物探査装置。
【請求項2】
複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査装置であって、
ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、
探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、
前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、
超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、
前記媒質の厚みの仮定値と前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、という推定処理を所定数の仮定値に対して行い、
推定した複数の音速に基づいて最終的な音速を推定する、ことを特徴とする埋設物探査装置。
【請求項3】
複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査において、前記媒質中の音速を推定する埋設物探査用音速推定方法であって、
ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、
探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、
前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、
超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、
前記媒質の既知である厚みと前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、
座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、ことを特徴とする埋設物探査用音速推定方法。
【請求項4】
複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査において、前記媒質中の音速を推定する埋設物探査用音速推定方法であって、
ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、
探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、
前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、
超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、
前記媒質の厚みの仮定値と前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、という推定処理を所定数の仮定値に対して行い、
推定した複数の音速に基づいて最終的な音速を推定する、ことを特徴とする埋設物探査用音速推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波を用いて埋設物を探査する埋設物探査装置に関し、特に、コンクリートなどの媒質中の音速を推定する埋設物探査装置および埋設物探査用音速推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中や壁、床などの媒質に埋設されている鉄筋やガス管などの埋設物・ターゲットを探査するために、超音波・レーダを用いた埋設物探査装置が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。この埋設物探査装置は、送受信回路と送受信アンテナなどから構成されるセンサ部と、モニタ部(ディスプレイ)とが装置本体に備わり、装置本体には、前後方向に移動させるための4つの車輪が配設されている。そして、所定の繰り返し周期で発生されるパルス状のレーダ波を、送信アンテナから地中や壁に放射し、地中や壁から戻ってきた反射波を受信アンテナで受信し、反射波に基づいて解析処理を行い、地中や壁の内部情報をモニタ部に表示するものである。
【0003】
このような埋設物探査装置において明瞭な画像を得るためには、媒質中の音速(超音波伝搬速度)を知得する必要があり、音速を計測する機能を備えた超音波非破壊計測装置が知られている(例えば、特許文献2等参照。)。この装置は、第1の探触子からコンクリート構造物に超音波を放射し、コンクリート構造物の底面で反射した受信信号を第2の探触子で受信して、異なる探触子間隔にそれぞれ対応して算出した反射波到達時間から音速を決定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-019257号公報
【文献】特開2011-242332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に記載の装置では、探触子間隔が異なる一対の反射波到達時間のみから音速を算出、決定するため、音速値のバラツキを把握することができず、音速精度が低下するおそれがある。また、受信信号を周波数解析して単一周波数か否かを判断し、反射波到達時間を特定、知得するため、構成が複雑であるばかりでなく反射波到達時間の特定に誤差が生じるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、媒質中の音速をより正確に推定可能な埋設物探査装置および埋設物探査用音速推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査装置であって、ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、前記媒質の既知である厚みと前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、ことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査装置であって、ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、前記媒質の厚みの仮定値と前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、という推定処理を所定数の仮定値に対して行い、推定した複数の音速に基づいて最終的な音速を推定する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査において、前記媒質中の音速を推定する埋設物探査用音速推定方法であって、ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、前記媒質の既知である厚みと前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、複数の探触子から超音波を媒質に放射し、前記媒質からの反射波を前記複数の探触子で受信して解析処理することで、前記媒質中の埋設物を探査する埋設物探査において、前記媒質中の音速を推定する埋設物探査用音速推定方法であって、ある探触子から前記媒質に超音波を送信して前記媒質の底面からの反射波を別の探触子で受信する、という超音波送受信を前記複数の探触子間で行い、探触子間距離が同じ前記反射波同士を平均化して、前記探触子間距離ごとの平均波形を生成し、前記平均波形の山部の時間である極大値時間と前記平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、前記探触子間距離ごとに抽出し、前記探触子間距離ごとの前記極大値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフと、前記探触子間距離ごとの前記極小値時間を、探触子間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフとを作成し、超音波の送信処理を行ってから実際に超音波が前記媒質に入射されるまでの遅れ時間を、前記極小値時間グラフから割り出し、前記媒質の厚みの仮定値と前記遅れ時間とを組み入れた座標に、前記極大値時間グラフを座標変換し、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する、という推定処理を所定数の仮定値に対して行い、推定した複数の音速に基づいて最終的な音速を推定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および請求項3の発明によれば、複数の探触子間距離の平均波形に基づいて極大値時間グラフと極小値時間グラフとを作成し、遅れ時間を極小値時間グラフから割り出し、媒質の厚みと遅れ時間とを組み入れた座標である極大値時間グラフに基づいて音速を推定するため、骨材などの影響で底面反射波が見つけづらい場合においても極大値・極小値時間グラフから特徴的な曲線を見つけ出すことができて、媒質中の音速をより正確に推定することが可能となる。
【0012】
しかも、探触子間距離が同じ反射波同士を平均化して平均波形を生成するため、計算量を削減することができ、熱雑音の影響が削減されることが期待できて、極大値時間と極小値時間をより正確に抽出することが可能となり、その結果、媒質中の音速をより正確に推定することが可能となる。
【0013】
請求項2および請求項4の発明によれば、媒質の厚みによって曲線の特徴が変わるため、媒質の厚みが未知であっても、媒質中の音速をより正確に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の実施の形態に係る埋設物探査装置を示す概略構成ブロック図である。
【
図2】
図1の埋設物探査装置のプローブとコンクリート体との位置関係を示す平面図(a)と正面図(b)である。
【
図3】
図1の埋設物探査装置における音速推定方法を示す第1のフローチャートである。
【
図5】
図1の埋設物探査装置において受信波形を平均化した波形を示す図であり、(a)は第1のプローブ間距離の波形を示し、(b)は第2のプローブ間距離の波形を示す。
【
図6】
図1の埋設物探査装置において、プローブ間距離ごとの平均波形をグラフ化した図である。
【
図7】
図6のグラフに基づいて作成した極大値時間グラフを示す図である。
【
図8】
図1の埋設物探査装置において、あるプローブ間距離の平均波形から極大値時間を抽出する方法を示す図である。
【
図9】
図8の方法で抽出した極大値時間をプローブ間距離ごとに示す図(極大値時間グラフ)である。
【
図10】
図1の埋設物探査装置において、極小値時間グラフから遅れ時間を割り出す方法を示す図である。
【
図11】
図1の埋設物探査装置において、コンクリート体の厚みと遅れ時間とを組み入れた座標パラメータを説明する図である。
【
図12】
図1の埋設物探査装置において、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する方法を示す図である。
【
図13】
図1の埋設物探査装置において、適正な直線を取得する方法を示す図である。
【
図14】
図1の埋設物探査装置によるコンクリート体の厚みと二乗残差との関係を示す図である。
【
図15】
図1の埋設物探査装置によるコンクリート体の厚みと推定音速との関係を示す図である。
【
図16】この発明の実施の形態における音速の理論値(a)と、
図1の埋設物探査装置による推定値(b)とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
図1~
図16は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る埋設物探査装置1を示す概略構成ブロック図である。この埋設物探査装置1は、コンクリート製の壁や床、天井、あるいは地中などの媒質に埋設された、鉄筋やガス管などの埋設物・ターゲットを探査する装置であり、媒質中の音速(超音波伝搬速度)を推定する方法が従来と異なり、その他の構成、機能は従来と同等となっている。すなわち、複数のプローブ(探触子)2から超音波を媒質中に放射し、媒質からの反射波を複数のプローブ2で受信して測定部3で解析処理し、その結果をディスプレイに表示する。
【0017】
このような埋設物探査装置1において、媒質中の音速を推定する埋設物探査用音速推定方法について、以下に説明する。ここで、この実施の形態では、
図2に示すように、64個のプローブ2
1~2
64が等間隔に、横16列縦4列の格子状に配設され、厚みhのコンクリート体(媒質)101の表面101aに接するように埋設物探査装置1が配置されるものとする。そして、音速部4は、プローブ2
1~2
64を制御しながら次のようにしてコンクリート体中101の音速を推定する。ここで、コンクリート体101の厚みhが既知である場合と、未知である場合とを合わせて説明する。
【0018】
図3に示すように、まず、超音波送受信ステップとして、コンクリート体101の表面101aに埋設物探査装置1のプローブ2群を接触させて、すべてのプローブ2間で底面反射波を送受信する(ステップS1)。すなわち、あるプローブ2からコンクリート体中101に超音波を送信してコンクリート体101の底面101bからの反射波を別のプローブ2で受信する、という超音波送受信をすべてのプローブ2間で行う。具体的には、第1のプローブ2
1から超音波を送信して第2のプローブ2
2で受信し、第1のプローブ2
1から超音波を送信して第3のプローブ2
3で受信する、という超音波送受信を4032(=64×63)通りで行う。
【0019】
次に、波形平均化ステップとして、プローブ間距離が等しいすべての受信波形を平均化する(ステップS2)。すなわち、プローブ間距離が同じ反射波同士をすべて重ねて平均化して、プローブ間距離ごとの平均波形を生成する。ここで、この実施の形態では、56種類のプローブ間距離が存在し、56個のプローブ間距離ごとに平均化した反射波を生成する。例えば、プローブ間距離が最も小さい受信波形を平均化して、
図5(a)に示すような第1のプローブ間距離d1の平均波形を生成し、プローブ間距離が2番目に小さい受信波形を平均化して、
図5(b)に示すような第2のプローブ間距離d2の平均波形を生成する。このような平均波形の生成を56個のすべてのプローブ間距離に対して行う。
【0020】
続いて、グラフ作成ステップとして、各平均波形の極大値時間と極小値時間をグラフ化する(ステップS3)。すなわち、まず、
図6に示すように、横軸がプローブ間距離で縦軸が時間である座標上に、各プローブ間距離の平均波形を(
図5の波形を縦に配置したように)図示・グラフ化する。次に、平均波形の山部の時間である極大値時間と平均波形の谷部の時間である極小値時間とを、プローブ間距離の平均波形ごとに抽出する。そして、
図7に示すように、プローブ間距離ごとの極大値時間の列を、プローブ間距離と時間とを軸とする座標上に示す極大値時間グラフを作成し、同様に、プローブ間距離ごとの極小値時間の列を、プローブ間距離と時間とを軸とする座標上に示す極小値時間グラフを作成する。
【0021】
より具体的には、
図8に示すように、あるプローブ間距離の平均波形の山部Pの時間である極大値時間をすべて抽出し、
図9に示すように、横軸がプローブ間距離で縦軸が時間である座標上に、抽出した極大値時間の列を該当するプローブ間距離上にプロットする。このような極大値時間のプロットをすべてのプローブ間距離の平均波形に対して行うとともに、極小値時間についても行うことで、極大値時間グラフ(プローブ間距離vs極大値時間のグラフ)と極小値時間グラフ(プローブ間距離vs極小値時間のグラフ)を作成する。
【0022】
続いて、遅れ時間割り出しステップとして、極小値時間グラフから遅れ時間を取得する(ステップS4)。すなわち、遅れ時間とは、埋設物探査装置1において超音波の送信処理を行ってから実際に超音波がコンクリート体101に入射されるまでの時間であり(受信処理に要する時間を含む場合もある)、この遅れ時間だけ反射波の受信が遅れることになる。一方、コンクリート体101の表面101aから反射する直達波の到達時間は、プローブ間距離に比例し、各プローブ間距離の直達波による極小値時間を結ぶと、
図10に示すような直線L1(y=αx+β)となる。そして、この直線L1の時間軸に対する切片βが遅れ時間となる。このため、傾きαと切片βの2つのパラメータを変えながら、最もフィッティングする(二乗残差が小さい)直線L1を極小値時間グラフ上で探し、この直線L1から遅れ時間を割り出す。
【0023】
ここで、極小値時間グラフから遅れ時間を割り出すのは、反射波(極大値時間グラフ)はコンクリート体101の底面101b(空気との境)で反射するため振幅にマイナス(負号)が付くのに対して、直達波は反射を伴わないので振幅にマイナスが付かないためである。このため、直達波は極小値時間を適用し、反射波は極大値時間を適用する。また、
図7は極大値時間グラフであるが、直線L1と双曲線L2の違いを比較しやすいように極大値時間で線を結んでいる。しかし実際は、直線L1は極小値グラフから算出したほうがよい。
【0024】
次に、コンクリート体101の厚みhが既知の場合(ステップS5で「Y」の場合)には、ステップS6に進み、未知の場合(ステップS5で「N」の場合)には、ステップS8に進む。ここで、例えば、埋設物探査装置1の入力部でコンクリート体101の厚みhが入力されると、埋設物探査装置1の記憶部に厚みhが記憶されて既知となる。
【0025】
ステップS6では、座標変換ステップとして、コンクリート体101の厚みhと遅れ時間とを組み入れた座標に、極大値時間グラフを座標変換する。すなわち、
図11に示すように、あるプローブ2からコンクリート体中101に超音波を送信して別のプローブ2で受信するまでの時間tは、式1のように表される。ここで、dはプローブ間距離、δtは遅れ時間である。次に、時間パラメータTを式2にように定義し、距離パラメータDを式3のように定義する。そして、遅れ時間δtにステップS4で割り出した遅れ時間を代入し、厚みhに既知の厚みを代入して、
図12に示すように、横軸が距離パラメータDで縦軸が時間パラメータTの座標に、極大値時間グラフを座標変換する。
【0026】
続いて、音速推定ステップとして、ステップS6で座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する(ステップS7)。すなわち、上記のようにして座標変換した極大値時間グラフにおいて、厚みhのコンクリート体101の底面101bから反射する波の極大値時間(ピーク時刻)は、原点を通る直線(T=αD)で結べるはずであるため、極大値時間の列が最もフィッティングする原点からの直線を探し出す。そして、
図12に示すように、直線L11を探し出した場合に、この直線L11の傾きαの逆数(1/α)を音速として算出、推定するものである。
【0027】
ここで、フィッティングする直線を探し出すには、
図13に示すように、直線の傾きαを少しずつ変えながら、原点から延びる直線(T=αD)を作って二乗残差を算出する。そして、二乗残差が最も小さい直線を最もフィッティングする直線として選定する。例えば、
図13(a)は、傾きが最も小さい直線とその二乗残差Raを示し、
図13(b)は、傾きが2番目に小さい直線とその二乗残差Rbを示し、
図13(c)は、傾きが中程度の直線とその二乗残差Rcを示し、
図13(d)は、傾きが2番目に大きい直線とその二乗残差Rdを示し、
図13(e)は、傾きが最も大きい直線とその二乗残差Reを示す。この場合、二乗残差Rcが最も小さく、
図13(c)の直線を選定する。
【0028】
一方、コンクリート体101の厚みhが未知の場合、まず、厚みhを仮定し(ステップS8)、次に、座標変換ステップとして、上記のステップS6と同様にして、仮定した厚み(仮定値)hと遅れ時間とを組み入れた座標に、極大値時間グラフを座標変換する(ステップS9)。続いて、音速推定ステップとして、上記のステップS7と同様にして、座標変換した極大値時間グラフに基づいて音速を推定する(ステップS10)。
【0029】
その後、所定数の音速値が得られていない場合(ステップS11で「N」の場合)には、ステップS8に戻って厚みhを次の仮定値に設定し、同様の処理を行う。このように、厚みhを仮定して座標変換ステップと音速推定ステップとを行う、という推定処理を所定数の仮定値に対して行う。ここで、所定数は、次のステップS12で所望の精度の音速が得られるだけの十分大きな値に設定されている。
【0030】
そして、所定数の音速値が得られた場合(ステップS11で「Y」の場合)には、最終音速推定ステップとして、推定した複数の音速値に基づいて最終的な音速を推定する(ステップS12)。すなわち、厚みhの仮定値に対してステップS10で推定した各音速値(直線)の二乗残差を比較し、二乗残差が最も小さい音速値を最終的な音速として特定、推定する。例えば、ステップS10で推定した各音速値(厚みhの各仮定値)の二乗残差が
図14に示すように得られた場合、二乗残差が最も小さい厚みhである150mmを選定する。そして、例えば、厚みhの仮定値に対する音速値が
図15に示すように得られた場合、厚みhが150mmの音速値である4032m/sを最終的な音速として特定、推定する。
【0031】
このように、この埋設物探査装置1および埋設物探査用音速推定方法によれば、複数のプローブ間距離の平均波形に基づいて極大値時間グラフと極小値時間グラフとを作成し、遅れ時間δtを極小値時間グラフから割り出し、コンクリート体101の厚みhと遅れ時間δtとを組み入れた座標である極大値時間グラフに基づいて音速を推定するため、コンクリート体101中の音速をより正確に推定することが可能となる。
【0032】
しかも、プローブ間距離が同じ反射波同士を平均化して平均波形を生成するため、周波数解析を行う必要がなく構成が簡易となるばかりでなく、極大値時間と極小値時間をより正確に抽出することが可能となり、その結果、コンクリート体101中の音速をより正確に推定することが可能となる。さらに、骨材などの埋設物がある場合でも、埋設物からの反射を含む全平均波形の極大値時間と極小値時間とに基づいて音速を推定するため、音速をより正確に推定することが可能となる。
【0033】
また、コンクリート体101の厚みhを所定数仮定して音速を推定するため、コンクリート体101の厚みhが未知であっても、コンクリート体101中の音速をより正確に推定することが可能となる。
【0034】
ここで、この埋設物探査用音速推定方法で実際に推定した例を紹介する。
図16(a)は、骨材がなく厚みhが150mmのコンクリート体101と、骨材があり厚みhが150mmのコンクリート体101と、骨材があり厚みhが100mmのコンクリート体101の、遅れ時間(時間遅れ)δtと音速と厚みの理論値を示す。また、
図16(b)は、骨材がなく厚みhが150mmのコンクリート体101と、骨材があり厚みhが150mmのコンクリート体101と、骨材があり厚みhが100mmのコンクリート体101の、遅れ時間(時間遅れ)δtと音速と厚みの、本方法による推定値を示す。この結果から、本方法によれば、骨材がない場合でもある場合でも、理論値に近い音速を推定できることが確認された。
【0035】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、超音波送受信ステップをすべてのプローブ2間で行っているが、所定の規則に従って特定した(例えば、数個飛ばした毎の)プローブ2間に対して、超音波送受信ステップを行うようにしてもよい。さらに、波形平均化ステップで平均化された平均波形から熱雑音を除去した後に、グラフ作成ステップに移行するようにしてもよい。また、遅れ時間を極小値、音速を極大値から推定したが、極小値と極大値の役割が入れ替わっていてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 埋設物探査装置
2 プローブ(探触子)
3 測定部
4 音速部
101 コンクリート体(媒質)
101a 表面
101b 底面