(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】修飾セルロース製品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20220912BHJP
C08B 11/14 20060101ALI20220912BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20220912BHJP
C08B 15/08 20060101ALI20220912BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C08B11/12
C08B11/14
C08B15/04
C08B15/08
D21H11/18
(21)【出願番号】P 2016536586
(86)(22)【出願日】2014-12-04
(86)【国際出願番号】 FI2014050955
(87)【国際公開番号】W WO2015082774
(87)【国際公開日】2015-06-11
【審査請求日】2017-11-30
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-31
(32)【優先日】2013-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM-Kymmene Corporation
【住所又は居所原語表記】Alvar Aallon katu 1 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】カヤント,イスコ
(72)【発明者】
【氏名】タンペル,ユハ
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シンッコ,タルヤ
(72)【発明者】
【氏名】ティエンヴィエリ,タイスト
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】藤井 眞吾
【審判官】稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-037200(JP,A)
【文献】国際公開第2013/076376(WO,A1)
【文献】特開2013-104133(JP,A)
【文献】国際公開第2014/029909(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/009902(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/072559(WO,A1)
【文献】磯貝明,“ナノファイバー技術による新しい文化・産業の創生”,機能紙研究会誌,平成19年11月,No46,p.3-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00- 11/14
D21D 1/00- 99/00
D21F 1/00- 13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00- 27/42
D21J 1/00- 7/00
C08B 1/00- 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルセルロースを現地フィブリル化によって製造するための方法であって、
アニオン化またはカチオン化セルロースが得られる化学的修飾によって、セルロースパ
ルプを、製造場所において
、アニオン化されたセルロースの場合には、0.5~1.4meq/gのアニオン性を有し、カチオン化されたセルロースの場合には、0.05~0.8の置換度を有する修飾セルロースパルプに処理し、繊維の分解しやすさを増加させることと、
修飾セルロースパルプを洗浄することであって、洗浄後の修飾セルロースパル
プが、2.5重量%の濃度で脱イオン水に懸濁されたとき、
懸濁液の伝導度が200mS/m未満であ
り、洗浄後の修飾セルロースパルプのSRろ水度(ショッパー・リーグラろ水度)が20未満であるよう、修飾セルロースパルプを洗浄することと、
修飾セルロースパルプを、
洗浄水を機械的に除去して濃縮し、乾燥によって絶乾率を、適切な絶乾率であって、20~60重量%の絶乾率に調整することと、
修飾セルロースパルプを、修飾セルロースパルプが、ナノフィブリルセルロースに分解
される使用場所に、調整された絶乾率で運ぶこととを含み、
前記使用場所は、前記製造場所とは異なり、
前記修飾セルロースパルプは、堅い容器、またはバッグ、特に大型バッグ(フレキシブ
ルコンテナ型バッグ)で移送されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記化学的修飾は、セルロースの触媒酸化であり、カルボキシル基がセルロース中に生
じることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学的修飾は、セルロースのカルボキシメチル化、またはセルロースのカチオン化
であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記製造場所は、パルプミルであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記
載の方法。
【請求項5】
使用場所において、修飾セルロースパルプを、増加した絶乾率から分解濃度まで希釈す
ることと、
分解濃度で、修飾セルロースパルプをナノフィブリルセルロースに分解することとを含
むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
修飾セルロースパルプと水とをパルパにおいて混合することと、
修飾セルロースパルプをパルパから分解装置に供給することと、
修飾セルロースパルプをナノフィブリルセルロースに分解する前記分解装置において、
修飾セルロースパルプを処理することと、
前記分解装置に由来するナノフィブリルセルロースを集めることとを含むことを特徴と
する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノフィブリルセルロースは、連続方式で製造されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
連続方式の間、前記分解装置の排出物の一部は、前記分解装置に送り込まれて循環され
ることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノフィブリルセルロースは、バッチ方式で製造されることを特徴とする請求項6
に記載の方法。
【請求項10】
修飾セルロースパルプは、0.5%の濃度(水性媒体)における応力制御回転レオメー
タを用いて測定された、1000~100000Pa・sのゼロせん断粘度を有するナノ
フィブリルセルロースまで分解されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
修飾セルロースパルプは、前記製造場所から前記使用場所まで、道路車両、鉄道もしく
は船で運ばれるか、または空輸されることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
化学修飾セルロースパルプである修飾セルロース製品であって、セルロースは、アニオ
ン化またはカチオン化されたセルロースであり、
繊維は、修飾の結果として分解しやすさが増しており、
化学修飾セルロースパルプは
、2.5重量%の濃度で脱イオン水に懸濁されたとき、
懸濁液の測定伝導度が、200mS/m未満であり、
SRろ水度(ショッパー・リーグラろ水度)が20未満であって、
化学修飾セルロースパルプは、20~60重量%の絶乾率であり、
化学修飾セルロースパルプは、アニオン化されたセルロースの場合には、0.5~1.4meq/gのアニオン性を有し、カチオン化されたセルロースの場合には、0.05~0.8の置換度を有し、カルボキシメチル化されたセルロースの場合には、0.05~0.
3の置換度を有することを特徴とする修飾セルロース製品。
【請求項13】
アニオン化セルロースは、カルボキシル基、またはカルボキシメチル化セルロースを含
む酸化セルロースであることを特徴とする請求項12に記載の修飾セルロース製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾セルロース製品を製造するための方法に関する。また、本発明は、ナノフィブリルセルロースを製造するための装置、および修飾セルロース製品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、多くの化学的誘導体に変換することが可能である再生可能な天然ポリマーである。誘導体化は、ポリマーのβ-D-グルコピラノースユニットにおける水酸基の化学反応によって主に行われる。化学的誘導体化によって、セルロースの特性を、重合体構造を保持しながらも、本来の化学的形態から変えることが可能である。
【0003】
繊維中のセルロースは、適切な方法で誘導体化され、繊維は、小繊維間の弱い結合が原因で、小繊維、ナノフィブリルセルロースのレベルまで容易に分解される。この目的で、セルロースは、アニオン化、またはカチオン化することが可能である。たとえば、ヘテロ複素環ニトロキシル化合物(たとえば、「TEMPO」、すなわち2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル)によるセルロースの触媒酸化は、C-6水酸基の一部がアルデヒドおよびカルボン酸に酸化されるアニオン性セルロースを生じる。アニオン性セルロースを製造するための別の方法は、セルロース分子のカルボキシメチル化である。カチオン性セルロースは、第4級アンモニウム基をセルロース分子に加えることによって製造することが可能である。
【0004】
実際に、懸濁液中のセルロース繊維を含むパルプは、適切な置換度に到達するまで化学的修飾にさらされ、その後、繊維は、製品として、ナノフィブリルセルロースを有する小繊維まで分解される。
【0005】
ナノフィブリルセルロースは、様々な方法で製造することが可能であるが、共通の特徴は、修飾パルプが比較的低い濃度で処理されることである。その結果、得られるナノフィブリルセルロースは、同様に低濃度の分散液である。分散液中のナノフィブリルセルロースの濃度は通常5重量%未満であり、通常約1~4重量%である。
【0006】
ナノフィブリルセルロースの最も顕著な物理的特徴の1つは、ナノフィブリルセルロースは、1%を超える濃度において高粘度ゲルを形成することである。製造場所からの移送費用を減少させるために、この種のゲルの濃度を上昇させることが望まれている。ゲルの水分含有量を低下させるためにいくつかの方法が開発されてきたが、時間およびエネルギが必要であり、ナノフィブリルセルロースの価格を上昇させる。いくつかのグレードのナノフィブリルセルロースの場合、過剰の脱水または乾燥は、ナノフィブリルセルロースの特性を変える可能性もあり、使用場所において水に再分散させると、もはや同じレオロジー特性を有さない。
【発明の概要】
【0007】
より良好な製造と移送の一連の管理を可能にする、修飾されたセルロース製品を製造する方法を提供することが目的である。
【0008】
繊維状セルロース、つまりセルロースパルプは、まず第1に製造場所において修飾セルロースパルプに処理され、分解に対する繊維の感受性を増加させ、そして繊維状の修飾セルロースは、使用場所に適切な絶乾率で移送され、使用場所で繊維はナノフィブリルセルロースに分解される(「現地」フィブリル化)。製造場所は、セルロースパルプが修飾される場所であり、それは、たとえば、ミルによって製造された化学パルプを原料として使用する化学パルプミルであってもよい。
【0009】
繊維状の修飾セルロースは、修飾方法に依存して、セルロースが修飾セルロースに処理された後、懸濁液、またはほぼ乾燥物として存在する。修飾の結果として、パルプは、残留物質を含み、該残留物質は、修飾セルロースパルプから洗浄によって除去されなければならない。修飾セルロースパルプは、洗浄の間に水性懸濁液になり、発送のために適切な絶乾率まで製造場所で脱水され、その後、修飾セルロースは、この絶乾率で使用場所に移送される。
【0010】
洗浄において、修飾セルロースパルプは、洗浄水で希釈され、その後、洗浄水は、パルプから水によって運ばれることがある溶解物質および他の不純物と共に、たとえば押圧によってパルプから機械的に除去される。これは、必要な数だけ何回も繰り返すことが可能であり、したがって、洗浄された修飾セルロースパルプに含有される残留物質は、要求される限度未満である。また、洗浄効率は、伝導度によって表わすことも可能であり、このことは後述する。洗浄後には、修飾セルロースパルプの絶乾率が既に、移送に適切なものであることが可能であり、またはその絶乾率を、たとえば、水が蒸発によって除去される空気乾燥によってさらに上昇させることも可能である。
【0011】
繊維状の修飾セルロースの乾燥は、修飾セルロースグレードによって異なるが、適切な範囲まで乾燥されたときには、セルロースの特性に影響を与えない。また、乾燥度は、移送手段および移送距離に依存することがある。移送後、修飾セルロースパルプの繊維は、適切な濃度まで分散可能であり、使用場所においてナノフィブリルセルロースに処理される。
【0012】
従来のパルプ乾燥法を、修飾セルロースを、発送のために所望の絶乾率まで乾燥するときに使用可能である。水は、ベルトフィルタプレス、または圧力フィルタによって機械的に除去することができる。修飾セルロースパルプは、機械的脱水によって得られる乾燥物質で移送することが可能である。修飾パルプが移送される絶乾率は、最終的に蒸発によって達成されてもよい。
【0013】
分解に対する繊維の感受性を増加するセルロースの修飾は、アニオン化またはカチオン化などの誘導化セルロースを製造するための化学的修飾であってもよい。
【0014】
使用場所において、修飾セルロースは、その場所で分解装置および他の装置によって、それをナノフィブリルセルロースに処理するために適切な濃度まで懸濁される。製造されたナノフィブリルセルロースは、さらに、製造濃度から、最終使用のために適切な濃度までさらに希釈することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の方法は、添付の図面を参照して以下に説明される。
【
図3】修飾セルロースパルプの、塩濃度と伝導度との間の相関関係を示す。
【
図4】修飾セルロースパルプの伝導度と、修飾セルロースパルプから得られるナノフィブリルセルロースの粘度との間の相関関係を示す。
【
図5】修飾セルロースパルプの伝導度と、修飾セルロースパルプから得られるナノフィブリルセルロースの粘度との間の相関関係を示す。
【
図6】使用場所における、ナノフィブリルセルロースを製造するための装置の例を示す。
【
図7】使用場所における、ナノフィブリルセルロースを製造するための装置の例を示す。
【
図8】ナノフィブリルセルロースを製造するための移送可能な装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
セルロースパルプの修飾
セルロースの修飾のための繊維性原料は通常、植物起源のセルロース原料から得られる。原料は、任意の植物原料であって、セルロースのマイクロフィブリルを含むセルロース性繊維を含む植物原料に基づいてもよい。また、繊維は、いくらかのヘミセルロースを含んでもよく、その量は、植物源に依存する。植物材料は、木材であってもよい。木材は、トウヒ、マツ、銀モミ、カラマツ、ベイマツ、もしくはツガなどの軟材、カバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、もしくはアカシアなどの硬材、または軟材と硬材との混合材であってもよい。非木材原料は、農業廃棄物、草、または綿、トウモロコシ、コムギ、オートムギ、ライムギ、オオムギ、米、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ラミー、ケナフ麻、バガス、竹、もしくは葦から得られた、わら、葉、樹皮、種子、豆類、花、野菜、もしくは果物などの他の植物材料を含んでもよい。
【0017】
1つの好ましい選択肢は、繊維の小繊維が二次細胞壁に存在する非実質性植物材料に由来する繊維である。二次細胞壁に生じる小繊維は、本質的に、少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。供給源は、木または非木材の植物材料であってもよい。たとえば、木繊維は、繊維性原材料が豊富な供給源の1つである。原材料は、たとえば、化学パルプであってもよい。パルプは、たとえば、軟材パルプ、もしくは硬材パルプ、またはこれらの混合物であってもよい。
【0018】
全ての木由来、または非木由来繊維性原材料の共通の特徴は、ナノフィブリルセルロースが、繊維をマイクロフィブリルまたはマイクロフィブリル束のレベルまで分解することによって、それらから得られることである。
【0019】
修飾は、液体中の懸濁液として存在する繊維性原材料、すなわちパルプに行われる。
【0020】
繊維に対する修飾処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的修飾において、セルロース分子の化学構造は、化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変えられるので、好ましくは、セルロース分子の長さは、影響されないが、官能基は、重合体のβ-D-グルコピラノースユニットに加えられる。セルロースの化学的修飾は、特定の変換度で行われるが、その変換度は、反応物の使用量、および反応条件に依存しており、したがって、通常は、セルロースが小繊維として固体形態でとどまって、水には溶解しないようには完了しない。物理的修飾において、アニオン性、カチオン性、もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせは、セルロース表面上に物理的に吸着される。また、修飾処理は、酵素的であってもよい。
【0021】
繊維内のセルロースは、修飾後に特にイオン的に帯電させることが可能である。なぜなら、セルロースのイオン電荷は、繊維の内部結合を弱め、ナノフィブリルセルロースへの分解を後に促進するからである。イオン電荷は、セルロースの化学的または物理的修飾によって生み出すことが可能である。繊維は、修飾後、出発原材料に比べて高いアニオン性またはカチオン性電荷を有し得る。最も一般的に使用されるアニオン性電荷を生じる化学的修飾方法は、水酸基がアルデヒドおよびカルボキシル基に酸化される酸化、ならびにカルボキシメチル化である。次に、カチオン電荷は、4級アンモニウム基などのカチオン性基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に発生させることが可能である。
【0022】
1つの好ましい修飾方法は、セルロースの酸化である。セルロースの酸化において、セルロースの一次水酸基は、たとえば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル「TEMPO」のような複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化される。これらの水酸基は、アルデヒドおよびカルボキシル基に酸化される。したがって、酸化にさらされる水酸基の一部は、酸化されたセルロースにおいてアルデヒド基として存在するか、またはカルボキシル基への酸化が完了され得る。
【0023】
パルプの濃度は、修飾方法に従って変化してもよい。たとえば、セルロースの触媒酸化においては、濃度は、通常1~4重量%である。しかしながら、修飾においては、MC(中程度濃度)範囲(12重量%まで、好ましくは8~12%、または12%を超えるものでさえも)におけるより高い濃度を、必要な水の量を減少させるために使用してもよい。たとえば、セルロースは、良好な選択性で、8~12%のパルプ初期濃度において触媒的に酸化することが可能であることが見出された。上記の所定濃度値は、パルプの出発濃度を表している。パルプの濃度は、たとえば、処理の工程に添加される材料が原因で、修飾処理の間に変化してもよい。
【0024】
修飾の結果、パルプの繊維は、修飾前よりも容易にフィブリル化(小繊維に分解)されるセルロースを含み、つまり、製品は、「容易にフィブリル化されるパルプ」と称することが可能である。
【0025】
セルロースが化学的に修飾されるパルプは、置換度、または化学基含有量によって特徴付けることが可能である。触媒酸化によって修飾されるパルプについては、以下の値を挙げることが可能である。
0.5~1.4meq/g、好ましくは0.7~1.1meq/g(500~1400μmol/g、好ましくは700~1100μmol/gのカルボキシレート含有量に対応)のアニオン性
<0.5g/kg、好ましくは<0.15g/kgのパルプの低塩素含有量、これは、導電性を測定することによって最も好都合に測定することが可能である。
【0026】
全ての値は、乾燥パルプの量に基づく。
【0027】
カルボキシメチル化セルロースの場合、置換度は、0.05~0.3、好ましくは0.10~0.25の範囲内であればよい。カチオン化セルロースの場合、置換度は、0.05~0.8、好ましくは0.1~0.45であればよい。
【0028】
修飾されたパルプの2.5%濃度における伝導度測定は、洗浄効率、またはパルプの洗浄度を非常に良好に表しており、
図3に示される。また、
図4および5に示されるように、伝導度と
粘度との間には明確な相関関係がある。
【0029】
洗浄段階後の「TEMPO」酸化パルプの絶乾率は、典型的には、20~25%である。パルプは、フィブリル化段階前に、水道水を用いることによって2.5%濃度までパルパにおいて希釈される。伝導度は通常、フィブリル化濃度、この場合2.5%で測定される。試料は、伝導度測定前に注意深く混合される。側定は、HACH HQdラボラトリメータを用いて行われ、結果は、mS/m単位で与えられる(S=ジーメンス)。
【0030】
したがって、(触媒としての「TEMPO」などの複素環ニトロキシル化合物で)触媒酸化後の修飾セルロースパルプに含まれている塩が減少するとき、修飾セルロースパルプの繊維は、ナノフィブリルセルロースに一層容易に分解することが可能であることが見出された。ナノフィブリルセルロースの製造に使用される修飾セルロースの性質は、したがって伝導性によって特徴付けることが可能である。修飾セルロースパルプの測定伝導度は、脱イオン水に2.5重量%の濃度で懸濁されたとき、200mS/m未満、好ましくは150mS/m未満、および最も好ましくは100mS/m未満である。非常に高品質の修飾パルプが製造されるなら、50mS/m未満の伝導度値を、洗浄によって得ることすら可能である。また、上述の方法で測定された伝導度値は、カルボキシメチル化セルロースを特徴付けるために使用することが可能であり、該カルボキシメチル化セルロースは修飾後にも塩を含むが、伝導度は、カチオン化セルロースを含む、全ての修飾セルロースパルプグレードについての一般的な品質基準として使用することが可能である。
【0031】
伝導度は、固定された濃度において脱イオン水中で測定されるので、水のイオンは、結果に干渉せず、この値は、使用者に移送される修飾セルロースパルプだけのための特定基準をもたらす。フィブリル化前の懸濁液の伝導度は、セルロースパルプの濃度、およびその場所で使用される水に依存する。
【0032】
修飾セルロースの移送
修飾後、修飾セルロースを含む繊維は、製造場所から別の場所に移送される。修飾後に得られるパルプは、移送費用を減少させるために、洗浄とともに、または洗浄後に適切な絶乾率に調整される。パルプの絶乾率は、パルプのグレードに依存し、移送のためには、5~95重量%、より好ましくは10~95重量%、および最も好ましくは20~60重量%とすることが可能である。移送の最終絶乾率の調整に先立って、パルプは、修飾処理の化学的残留物を除去するために、および重要であることが明らかになった伝導度を減少させるために、1以上の工程において洗浄される。移送の最終絶乾率の調整は、したがって、溶解塩などの、洗浄水によって混入する残余物質とともに洗浄水を除去する脱水を含む。洗浄後、絶乾率は、蒸発によってさらに増加させることも可能である。
【0033】
20~60重量%の絶乾率が、移送に好適である。なぜなら、処理費用は、特に、より高い絶乾率においては、修飾パルプから除去されるべき水の量とともに増加するからである。20~60重量%の範囲は、特に、セルロースが触媒的に酸化された修飾セルロースパルプに好適である。
【0034】
一般的に、修飾セルロースパルプのセルロース性繊維は、修飾方法および修飾セルロースパルプのグレードに関わりなく、高い疎水性ナノフィブリルセルロースよりも容易に脱水することが可能である。
【0035】
パルプは、穏やかに修飾され、移送前には機械的に分解されない。そのようなパルプのSRろ水度(ショッパー・リーグラろ水度)は典型的には、20未満であり、これは、パルプの容易な脱水性能を特徴付けるものであり、砕かれていないパルプの典型的値である。
【0036】
修飾セルロースパルプの移送のために、パルプに従来使用される任意の移送手段を使用することが可能である。修飾セルロースパルプは、密閉された堅い容器、特に積み込みコンテナ、またはバッグ、特にいわゆる大型バッグ、(フレキシブルコンテナ/フレキシブル中間バルクコンテナとしても知られる)で運ぶことが可能である。乾率が60重量%以上である場合、修飾セルロースパルプは、貨物移送が可能である。移送は、道路車両、鉄道もしくは船、または空輸によって行われてもよい。
【0037】
ナノフィブリルセルロースの製造
繊維状の修飾セルロースは使用される場所に移送され、そこでナノフィブリルセルロースにされる。
【0038】
ナノフィブリルセルロース(NFC)とは、単離されたセルロースミクロフィブリルの集合体、またはセルロース原料に由来するミクロフィブリル束を意味する。ナノフィブリルセルロースは典型的には、高いアスペクト比を有し、長さは1マイクロメートルを超えてもよいが、数平均直径は典型的には200nm未満である。また、ナノフィブリル束の直径は、もっと大きいが、一般的に5μm未満である。最も小さなナノフィブリルは、いわゆる基本小繊維と同様であり、典型的には2~12nmの直径である。小繊維または小繊維束の直径は、原料および分解方法に依存する。また、ナノフィブリルセルロースは、いくらかのヘミセルロースを含んでもよく、その量は、植物源に依存している。修飾されたセルロース(容易にフィブリル化されるパルプ)の繊維からのナノフィブリルセルロースの機械的分解は、リファイナ、粉砕機、ホモジナイザ、コロイダ、摩耗粉砕機、超音波発生装置、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、またはフルイダイザ型ホモジナイザなどのフルイダイザなどの適切な装置を用いて行われる。分解方法は、セルロースの修飾方法および変換度にいくらか依存する。
【0039】
使用場所において、修飾セルロースの繊維は、適切な濃度まで希釈されるが、この濃度は分解方法に依存している。ほとんどの場合のパルプの出発濃度は、1~5%である。NFCは、出発パルプとほぼ同じ濃度における分解に由来する。したがって、使用場所では、分解に先立って、修飾セルロースの繊維は、好ましくは最終用途のNFCに対して所望される濃度まで希釈される。しかしながら、分解から得られるNFCの濃度は、最終用途のために調整することが可能である。たとえば、繊維は、NFCの最終使用濃度よりも高い濃度において分解され、分解から得られるNFCは、最終使用濃度に希釈することが可能である。
【0040】
フィブリル化の同じ目標レベルに達するための、容易にフィブリル化されるパルプの必要エネルギ(kWh/トン、または対応する変数として表わすことが可能)は、修飾パルプにおいて、同じバッチに由来し、同じ濃度において処理された未修飾パルプと比べて低い。いくつかの場合において、未修飾パルプは、ナノフィブリルセルロースに分解することすらできない。上述のように、修飾セルロースパルプの伝導度は、フィブリル化結果物に影響を与える。
【0041】
また、ナノフィブリルセルロースは、いくつかのレオロジー値によって特徴付けることが可能である。NFCは、比較的低濃度(1~2重量%)ですでに水中に分散されると粘性ゲル「ヒドロゲル」を形成する。NFC固有の特徴は、水性分散液中におけるそのせん断減粘性(shear thinning)挙動であり、せん断速度の増加に伴う粘度の減少として観察される。さらに、「閾値」せん断応力は、材料が容易に流れ始める前に越えられなければならない。この臨界的せん断応力は、多くの場合降伏応力と称される。NFCの粘度は、ゼロせん断粘度によって最もよく特徴付けることが可能であり、このゼロせん断粘度は、ゼロに近い小さいせん断応力における一定粘度の「プラトー」に相当する。
【0042】
0.5%の濃度(水性媒体)における応力制御回転レオメータを用いて測定されたNFCのゼロせん断粘度は、修飾方法および変換度に依存し、広い範囲において変動し得るものであり、典型的には、1000~100000Pa・s(パスカル秒)、好ましくは5000~50000Pa・sである。同一方法によって測定されるNFCの降伏応力は、1~50Pa、好ましくは3~15Paの範囲内である。
【0043】
実施例
図1は、NFCの別の使用方法を示している。製造場所は、パルプミルであり、パルプミルは、セルロース性原料のための化学パルプなどを製造する。公知の化学的パルプ化法を用いて製造される化学パルプは、様々な所に向けて発送される(矢印「繊維」)。また、化学パルプは、容易にフィブリル化されるパルプであって、繊維が修飾セルロースを含むパルプを作製するために、パルプミルで修飾される(処理「TEMPOまたはCM修飾」)。触媒酸化(TEMPO)およびカルボキシメチル化(CM)は、修飾の例であるが、任意の、化学的、物理的、または酵素的修飾方法は、容易にフィブリル化されるパルプを製造するために使用することが可能である。
【0044】
パルプは、行先、つまり使用場所に発送される前に、所望の絶乾率まで乾燥または濃縮される。矢印「乾燥または濃縮繊維」は、この乾燥または濃縮された容易にフィブリル化されるパルプの移送を示している。移送は、道路、線路、もしくは海、またはこれらの種類の移送の組み合わせによって行うことが可能である。この場合の使用場所は、ペーパミルであり、そこで、容易にフィブリル化されたパルプが、「現場」フィブリル化(処理「フィブリル化」)によってNFCに分解される。そのペーパミルで、NFCは、ペーパミルにおける最終用途に応じて、さらに処理することが可能である。紙製造のための完成紙料にウエットエンド添加をするために、NFCは、分解から得られた初期濃度(この実施例において1重量%)にとどまることができ、NFCを紙被覆組成物に添加するために、NFCを、初期濃度(この実施例において5重量%)から濃縮することが可能である。
【0045】
使用場所、つまりペーパミルにおいて、現場で製造されたNFCを使用することの他に、たとえば濃縮状態(10~95重量%)において、顧客までさらに送ることが可能である。これらの顧客は、NFCを紙製造以外の目的で使用することができ、および/またはそれらは、紙製造のためにNFCを用いるペーパミルであってもよい。
【0046】
図2は、パルプミルによって製造されるパルプが、容易にフィブリル化されるパルプの製造場所である別の場所で修飾される点で
図1とは異なる。この製造場所は、容易にフィブリル化されるパルプを使用場所、つまりペーパミルに
図1と同じ方法で送るが、さらに、製造場所は、容易にフィブリル化されるパルプを直接に他の顧客に送り、「現場」でフィブリル化されたNFCを紙製造以外の目的に使用することが可能である。
【0047】
製造場所は、
図1と同様にパルプミルであってもよく、容易にフィブリル化されるパルプを直接に顧客に送り、「現場」でフィブリル化されたNFCを紙製造以外の目的に使用してもよい。
【0048】
図1および2における発送は、適切な車両または船で、道路、線路、または海路によって行うことが可能である。
【0049】
図6および7は、ナノフィブリルセルロースを製造するための2つの代替方式について使用場所における製造装置の仕組みを示し、
図6は連続方式であり、
図7はバッチ方式である。
【0050】
使用場所に設置される製造装置は、パルパPPR、分解装置DIS、排出管DV、パルパを分解装置に接続する導管、分解装置を排出管に接続する導管、およびパルパPPRから分解装置DISまで修飾セルロースパルプを供給するポンプ(P-1)を備える。これらの構成要素は、連続方式およびバッチ方式共に共通である。
【0051】
また、装置は、供給容器FCであって、中間緩衝液容器として機能し、連続方式における分解装置DISへのパルプの連続的供給を確保する供給容器FCを有してもよい。この場合、装置は、供給容器を分解装置に接続する導管、および供給容器から分解装置に修飾セルロースパルプを供給するためのポンプ(P-10)を備える。パルパPPRにおいて、修飾セルロースパルプはパルプ化され、約6~7重量%の濃度まで希釈される。分解濃度までの最終希釈は、希釈水が添加される供給容器FC、またはパルパと分解装置との間の任意の場所において行うことが可能である。
【0052】
連続方式において、供給容器FCは、別のパルパによって置き換えられてもよい。パルパは、パルプを分解装置DISに交互に供給して、分解処理への供給すらも確保する。
【0053】
バッチ方式(
図7)においては、分解装置を通過したパルプを該分解装置に戻す循環システムも存在している。また、連続方式(
図6)は、分解装置DISを通過したパルプの一部を該分解装置に戻す循環システム(循環ラインCL)を有してもよい。この循環率(戻される部分/全流量)は、調整することが可能である。したがって、両方の方式において装置は、排出管DVの排出口を、分解装置DISの注入口(
図6、連続)、または供給容器FC(
図7、バッチ)に接続する循環導管を備える。
図7において、排出ポンプ(E-8)の後のバルブV-1は、排出方向に閉じられ、循環方向に開けられている。分解装置を通過する十分な回数に達した時、循環方向が閉じられ、排出方向が開けられ、ナノフィブリルセルロースNFCは、排出ポンプによって押し出されて分解処理から抜け出る。
図6においては、排出管DVの後、3方向の接続V-1が存在し、分解処理の出口に導く排出導管にポンプ(E-8)が存在し、排出管DVの排出口を分解管DISの注入口に接続する循環導管にポンプ(E-10)が存在する。循環率は、ポンプE-8およびE-10の排出量を調整することによって調整することが可能である。
【0054】
図6の連続方式において、循環率は、10~90%、好ましくは30~70%である。67%の循環率において、全流量の2/3は、戻され、このことは分解装置DISを3回通過することを意味している。しかしながら、連続方式は、特に、低伝導度の高品質修飾パルプで可能である、パルプ懸濁液が分解装置DISを一回通過する選択肢も含んでいる。
【0055】
図6および7双方における装置は、ナノフィブリルセルロースを使用濃度まで希釈するための、排出管DVの排出口に接続された希釈装置DILを含む。ナノフィブリルセルロースが使用濃度で分解処理から出る場合には、または後に使用直前に希釈される場合には、この装置は、必ず必要なものではない。
【0056】
図6または
図7に係る装置において、分解装置DISは、分散型装置であって、修飾セルロースパルプがいくつかの反転ロータを通って流れ、材料が、異なる反転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされる分散型装置であってもよく、または修飾セルロースパルプが圧力の効果によって均質化にさらされるホモジナイザであってもよい。
【0057】
また、装置は、フィブリル化の効率性と製品の品質とを特徴付ける修飾セルロースパルプ、および/またはナノフィブリルセルロースNFCのいくつかの変数を測定するための計測器を含んでもよい。この計測器は、分解装置DISの前に温度センサT1と、分解装置DISの後に温度センサT2とを備え、分解の間に上昇する温度に等しい温度の相違T2-T1を測定し、処理の制御にも使用することが可能である。ナノフィブリルセルロース自体の特性を測定するために、装置は、処理される、修飾されたセルロースパルプグレードに、そして結果的に製造される、ナノフィブリルセルロースグレードに調整することが可能であるオンライン濁度計TURを備える。また、装置は、圧力差に基づくオンライン粘度計VISを備えてもよい。これらの測定器は、分解装置DISの後の適切な位置に、好ましくは最終製品が流れる位置に置かれる。
図6において、これらのオンライン器具は、希釈装置DILの前に位置し、
図7において、前記器具は、希釈装置DILの後に位置する。オンライン器具のどちらも、必ず必要であるわけではない。顧客は、NFCの使用において重要なNFCの特性に応じて、オンライン濁度計TURと、オンライン粘度計VISとの間で選択が可能である。
【0058】
図8は、どのように本装置を使用場所に運ぶことが可能であるかの一例である。装置は修飾セルロースパルプと一緒に、または別々に使用者のもとに送ることが可能である。小型の移送コンテナが使用される。
図8は、横断面における、6m×2.4m×2.4mの、公称の 長さ×幅×高さ に相当する、20フィートの長さLと、幅Wと、高さ8フィートとを有する、標準DC(乾貨物)、積み込みコンテナCON(ISO積み込みコンテナ)を示している。これらの寸法のコンテナCONの内部に、パルパPPR、供給容器FC、分解装置DIS、および排出管DVを納めることが可能である。パルパPPRと供給容器FCとは、混合モータMも備える。装置が2つのパルパを備え、供給容器を備えない場合、連続方式の装置の1つの選択肢におけるように、パルパは、もっと小さくてもよい。また、希釈装置DILが、コンテナCONに納められてもよい。また、コンテナは、温度センサ、オンライン濁度計およびオンライン粘度計などの計器を含んでもよく、全て計器ボックスINSTに納められる。分解装置DISがいくつかの反転ロータを有する分散型装置である場合、その一般的な形状は、
図8に示されるように直径wおよび高さhを有するシリンダである。
【0059】
コンテナCONにおける種々の容器の容積は、1実施例として挙げられているだけである。
【0060】
したがって、
図8において示されるコンテナCONは、
図6もしくは
図7のレイアウト、または任意の他のレイアウトに装置を設置するための各構成要素を含んでいる。
【0061】
NFCを製紙以外の目的に使用する顧客としては、建設会社、複合材料製造業者、製薬会社、化粧品製造業者、食品会社、石油会社、または被覆材料製造業者があり得る。これらの顧客および関連する使用は、列挙された顧客に限定されるものではなく、修飾セルロースパルプは、ナノフィブリルセルロースを使用する必要があるところであればどこにでも送ることが可能である。